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特許7177439炎症促進因子発現抑制剤、その有効成分のスクリーニング方法、該方法に有用な発現カセット、診断薬、及び診断方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】炎症促進因子発現抑制剤、その有効成分のスクリーニング方法、該方法に有用な発現カセット、診断薬、及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6897 20180101AFI20221116BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20221116BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221116BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221116BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221116BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221116BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221116BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20221116BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20221116BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221116BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C12Q1/6897 Z
C12Q1/02
C12N15/12 ZNA
C12N15/19
C12N15/24
C12N15/113 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P29/00 101
A61P37/02
A61P19/02
A61P25/00
A61K31/713
A61K31/7088
A61K48/00
G01N33/50 Z
G01N33/50 P
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018517048
(86)(22)【出願日】2017-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2017017640
(87)【国際公開番号】W WO2017195809
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2016094931
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016162120
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000231796
【氏名又は名称】日本臓器製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅原 弘嗣
(72)【発明者】
【氏名】千葉 朋希
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健太郎
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-236717(JP,A)
【文献】特表2015-522260(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0274128(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0099746(US,A1)
【文献】国際公開第2007/118149(WO,A2)
【文献】Journal of Interferon and Cytokine Research,2011年,Vol.31, No.8,p.629-637
【文献】伊藤義晃 ほか,RNA結合タンパク質遺伝子ライブラリーを用いた転写後制御因子スクリーニングシステムの開発,BMB2015(第38回日本分子生物学会年会, 第88回日本生化学大会 合同大会)講演要旨集,2015年11月16日,1P0844
【文献】浅原弘嗣 ほか,RNA階層における炎症シグナルの制御機構,BMB2015(第38回日本分子生物学会年会, 第88回日本生化学大会 合同大会)講演要旨集,2015年11月16日,1W4-p-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RBMS2遺伝子プロモーター及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセット、該発現カセットを含むベクター、並びに該ベクターを含む細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、IL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種の炎症促進因子の発現抑制剤の有効成分のスクリーニング用試薬であって、
該RBMS2遺伝子が、
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列からなるmRNA、及び
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNA
からなる群より選択される少なくとも1種を発現する遺伝子である、
スクリーニング用試薬
【請求項2】
被検物質の存在下における下記(i)~(iii)
(i)RBMS2遺伝子プロモーターによって発現制御される遺伝子発現量、
(ii)RBMS2とAU-rich elementを含むRNAとの結合量、及び
(iii)RBMS2過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量
からなる群より選択される少なくとも1種を指標とする、IL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種の炎症促進因子の発現抑制剤の有効成分のin vitroでのスクリーニング方法であって、
該RBMS2遺伝子が、
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列からなるmRNA、及び
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNA
からなる群より選択される少なくとも1種を発現する遺伝子であり、且つ
該RBMS2が、
配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種である、
スクリーニング方法
【請求項3】
被検物質存在下における前記指標の値が、被検物質非存在下における前記指標の値よりも低い場合に、該被検物質を前記炎症促進因子の発現抑制剤の有効成分として選択することを含む、請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記AU-rich elementが、IL-6 mRNA、COX-2 mRNA、IL-8 mRNA、IL-1β mRNA、TNF-α mRNA、MMP1 mRNA、IL-24 mRNA、及びc-Myc mRNAからなる群より選択される少なくとも1種のmRNA由来のAU-rich elementである、請求項2又は3に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
下記工程(a1)~(c1)を含む、請求項2~4のいずれかに記載のスクリーニング方法:(a1)前記RBMS2遺伝子プロモーター及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセットを含有する発現系と、被検物質とを接触させる工程、
(b1)被検物質を接触させた発現系における前記遺伝子の発現量を被検発現量として測定し、該被検発現量と、被検物質を接触させない発現系における前記遺伝子の発現量を対照発現量として比較する工程、並びに
(c1)被検発現量が対照発現量よりも低い場合に、該被検物質を、IL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種の炎症促進因子の発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【請求項6】
前記発現系が細胞である、請求項5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記遺伝子がレポーター遺伝子である、請求項5又は6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
下記工程(a2)~(c2)を含む、請求項2~4のいずれかに記載のスクリーニング方法:(a2)AU-rich elementを含むRNAと前記RBMS2とを、被検物質の存在下で接触させる工程、(b2)被検物質の存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を被検結合量として測定し、該被検結合量と、被検物質の非存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を対照結合量として比較する工程、並びに
(c2)被検結合量が対照結合量よりも低い場合に、該被検物質を、IL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種の炎症促進因子の発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【請求項9】
下記工程(a3)~(c3)を含む、請求項2~4のいずれかに記載のスクリーニング方法:(a3)3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAを含有し、且つ前記RBMS2が過剰発現している細胞と、被検物質とを接触させる工程、
(b3)被検物質と接触させた細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を被検量として測定し、被検物質と接触させない細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を対照量として、該被検量と該対照量を比較する工程、並びに
(c3)被検量が対照量よりも低い場合に、該被検物質を、IL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種の炎症促進因子の発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【請求項10】
前記mRNAがレポータータンパク質のORFを含む、請求項9に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
RBMS2発現抑制剤及びRBMS2機能抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、IL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種の炎症促進因子の発現抑制剤であって、
該RBMS2が、
配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種である、
炎症促進因子の発現抑制剤
【請求項12】
前記RBMS2発現抑制剤が、RBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、RBMS2特異的アンチセンス核酸、これらの発現ベクター、及びIL-10からなる群より選択される少なくとも1種のRBMS2発現抑制剤を含有する、請求項11に記載の炎症促進因子の発現抑制剤。
【請求項13】
自己免疫疾患、リウマチ性疾患、関節リウマチ、変性関節疾患、関節炎、敗血症、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、脊椎関節症、炎症性疼痛、術後疼痛、及びアレルギー性疾患からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は治療剤として用いられる、請求項11又は12に記載の炎症促進因子の発現抑制剤。
【請求項14】
RBMS2遺伝子発現産物検出剤を含有する、IL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種の炎症促進因子により発症又は増悪する疾患の診断薬であって、
該RBMS2遺伝子が、
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列からなるmRNA、及び
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNAからなる群より選択される少なくとも1種を発現する遺伝子であり、
該炎症促進因子により発症又は増悪する疾患が、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、関節リウマチ、変性関節疾患、関節炎、敗血症、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、脊椎関節症、炎症性疼痛、術後疼痛、及びアレルギー性疾患からなる群より選択される少なくとも1種である、診断薬
【請求項15】
前記疾患が免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患からなる群より選択される少なくとも1種である請求項14に記載の診断薬。
【請求項16】
(a1)被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b1)上記工程(a1)で測定された被検発現量を、免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患のいずれにも罹患していない対照被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c1)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体が免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患であるとの判断指標とする、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の検出方法であって、
該RBMS2遺伝子が、
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列からなるmRNA、及び
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNA
からなる群より選択される少なくとも1種を発現する遺伝子であり、前記免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患が、IL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種により発症又は増悪するものであり、且つ自己免疫疾患、リウマチ性疾患、関節リウマチ、変性関節疾患、関節炎、敗血症、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、脊椎関節症、炎症性疼痛、術後疼痛、及びアレルギー性疾患からなる群より選択される少なくとも1種である、方法
【請求項17】
(a2)免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患に罹患している被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b2)上記工程(a2)で測定された被検発現量を、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患に罹患している対照被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c3)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体の方が、対照被検体よりも免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の進行度が高いとの判断指標とする、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の進行度の判定方法であって、
該RBMS2遺伝子が、
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列からなるmRNA、及び
配列番号3、4、又は7に示される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNA
からなる群より選択される少なくとも1種を発現する遺伝子であり、
該免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患がIL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種により発症又は増悪するものであり、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、関節リウマチ、変性関節疾患、関節炎、敗血症、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、脊椎関節症、炎症性疼痛、術後疼痛、及びアレルギー性疾患からなる群より選択される少なくとも1種である、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症促進因子発現抑制剤、その有効成分のスクリーニング方法、及び該方法に有用な発現カセット、並びに免疫疾患、炎症性疾患、疼痛性疾患等の診断薬及び診断方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
IL-6、COX-2等の炎症促進因子によりその症状が発現あるいは増悪する疾患、例えば免疫疾患、炎症性疾患、疼痛性疾患等の疾患の患者数は非常に多い。例えば、代表的な免疫疾患である関節リウマチであれば、日本国内で約70万人、世界中では約7,000万人の患者がいるといわれている。また、炎症性疾患のひとつである関節症は、日本だけで約1,560万人の患者がおり、関節症の代表とも言える変形性膝関節症は、日本で約1,000万人の患者がいると推定されている。さらに、疼痛性疾患の代表である腰痛症は、日本国内だけで2,400万人の患者がいるとされている。そして、これらの疾患の患者数は、高齢化が進むことにより、年々増加傾向にある。このような現象は、高齢化率が世界一高い日本のみならず、今後生活環境や食生活・栄養状態の改善、医療技術の進歩等により高齢化が進む全ての国において同様に生起すると考えられる。より早期にこれらの疾患を発見することにより、適切な治療を開始し、疾患の重症化を抑え、ひいては患者のQOLをより高く保つことが可能となる。このため、これらの疾患の治療薬やその開発ツールに関する研究、さらにはこれらの疾患の診断薬や診断方法を開発することは、社会的に非常に重要な要請となっている。
【0003】
そのような中、近年、炎症促進因子mRNAの転写後調節と上記疾患との関連が明らかになってきている。炎症促進因子mRNAの分解制御は炎症応答の持続時間を決定する要因となることが示唆されており、炎症促進因子のmRNAレベルでの分解や安定化に関わる因子は、免疫疾患や炎症性疾患、疼痛性疾患の発症や慢性化に関与するといわれている。例えば、非特許文献1では、Tristetraprolin(TTP)やRegnase-1がIL-6 mRNAの分解に寄与することが記載されている。また、非特許文献2では、Arid5aがIL-6 mRNAの安定性を制御していることが示されている。これらの因子の異常は炎症の促進等により上記疾患の発症又は増悪メカニズムにおいて大きな役割を担っていることが解明されてきている。そのため、炎症促進因子の発現量に影響を与える因子は上記疾患治療薬の標的となるものであり、そのような因子の新たな発見が望まれている。また、患者の細胞や血液等の中の、炎症促進因子の発現量に影響を与える物質の量を測定することで、上記疾患の有無や進行度を診断することができる診断薬や診断方法は非常に有用であり、そのような因子の新たな発見が望まれている。
【0004】
RNA-binding motif, single-stranded-interacting protein 2(RBMS2)は、N末端側に2つのRNA結合ドメインを持つといわれているタンパク質であるが、実際にその機能を解析したという報告は未だに無く、その機能はこれまで明らかとなっていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Inflammation and Regeneration, Vol.33, No.1, January 2013, pp54-65.
【文献】PNAS, June 4, 2013, vol.110, no.23, pp9409-9414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、炎症促進因子の発現量に影響を与える新規因子を発見すること、及びこれに基づいた炎症促進因子発現抑制剤やその開発ツールを提供すること、並びに免疫疾患、炎症性疾患、疼痛性疾患等の診断薬及び診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に鑑みて鋭意研究をした結果、RBMS2が種々の炎症促進因子mRNAの転写後調節をしていることを見出した。さらに、炎症促進因子によりその症状が発現又は増悪する疾患においては、RBMS2の発現と炎症促進因子の発現に正の相関があることを見出した。これらの知見に基づいて、RBMS2の発現又は機能の抑制により、炎症促進因子を抑制することができ、ひいては上記疾患の予防又は治療が可能であること、並びにRBMS2の発現量を指標とすることによりこれらの疾患を診断できることを見出した。以上に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. RBMS2遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む、発現カセット.
項2. 前記遺伝子がレポーター遺伝子である、項1に記載の発現カセット.
項3. 項1又は2に記載の発現カセットを含む、ベクター.
項4. 項3に記載のベクターを含む、細胞.
項5. RBMS2遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセット、該発現カセットを含むベクター、並びに該ベクターを含む細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、炎症促進因子発現抑制剤の有効成分のスクリーニング用試薬。
項6. 被検物質の存在下における下記(i)~(iii)からなる群より選択される少なくとも1種を指標とする、RBMS2の発現又は機能を抑制する物質のスクリーニング方法:
(i)RBMS2遺伝子発現制御領域によって発現制御される遺伝子発現量、
(ii)RBMS2とAU-rich elementを含むRNAとの結合量、及び
(iii)RBMS2過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量.
項7. 被検物質存在下における前記指標の値が、被検物質非存在下における前記指標の値よりも低い場合に、該被検物質をRBMS2の発現又は機能を抑制する物質として選択することを含む、項6に記載のスクリーニング方法.
項8. 前記AU-rich elementが、IL-6 mRNA、COX-2 mRNA、IL-8 mRNA、IL-1β mRNA、TNF-α mRNA、MMP1 mRNA、IL-24 mRNA、及びc-Myc mRNAからなる群より選択される少なくとも1種のmRNA由来のAU-rich elementである、項6又は7に記載のスクリーニング方法.
項9. 前記RBMS2の発現又は機能を抑制する物質を、炎症促進因子発現抑制剤の有効成分又はその候補物質として選択する、項6~8のいずれかに記載のスクリーニング方法.
項10. 下記工程(a1)~(c1)を含む、項6~9のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a1)RBMS2遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセットを含有する発現系と、被検物質とを接触させる工程、
(b1)被検物質を接触させた発現系における前記遺伝子の発現量を被検発現量として測定し、該被検発現量と、被検物質を接触させない発現系における前記遺伝子の発現量を対照発現量として比較する工程、並びに
(c1)被検発現量が対照発現量よりも低い場合に、該被検物質をRBMS2の発現を抑制する物質として選択する工程.
項11. 前記発現系が細胞である、項10に記載のスクリーニング方法.
項12. 前記遺伝子がレポーター遺伝子である、項10又は11に記載のスクリーニング方法.
項13. 下記工程(a2)~(c2)を含む、項6~9のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a2)AU-rich elementを含むRNAとRBMS2とを、被検物質の存在下で接触させる工程、
(b2)被検物質の存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を被検結合量として測定し、該被検結合量と、被検物質の非存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を対照結合量として比較する工程、並びに
(c2)被検結合量が対照結合量よりも低い場合に、該被検物質をRBMS2の機能を抑制する物質として選択する工程.
項14. 前記結合量の測定方法が免疫沈降法又はゲルシフト法である、項13に記載のスクリーニング方法.
項15. 下記工程(a3)~(c3)を含む、項6~9のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a3)3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAを含有し、且つRBMS2が過剰発現している細胞と、被検物質とを接触させる工程、
(b3)被検物質と接触させた細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を被検量として測定し、被検物質と接触させない細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を対照量として、該被検量と該対照量を比較する工程、並びに
(c3)被検量が対照量よりも低い場合に、該被検物質をRBMS2の機能を抑制する物質として選択する工程.
項16. 前記mRNAがレポータータンパク質のORFを含む、項15に記載のスクリーニング方法.
項17. RBMS2発現抑制剤及びRBMS2機能抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、炎症促進因子発現抑制剤.
項18. RBMS2発現抑制剤を含有する、項17に記載の炎症促進因子発現抑制剤.
項19. 前記RBMS2発現抑制剤が、RBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、RBMS2特異的アンチセンス核酸、及びこれらの発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1種のRBMS2発現抑制を含有する、項18に記載の炎症促進因子発現抑制剤.
項20. 前記RBMS2発現抑制剤が、IL-10である、請求項18に記載の炎症促進因子発現抑制剤.
項21. 発現抑制対象である前記炎症促進因子が、IL-6、COX-2、IL-8、IL-1β、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種である、項17~20のいずれかに記載の炎症促進因子発現抑制剤.
項22. 免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は治療剤として用いられる、項17~21のいずれかに記載の炎症促進因子発現抑制剤.
項23. 自己免疫疾患、リウマチ性疾患、関節リウマチ、変性関節疾患、関節炎、敗血症、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、脊椎関節症、炎症性疼痛、術後疼痛、及びアレルギー性疾患からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は治療剤として用いられる、項17~22のいずれかに記載の炎症促進因子発現抑制剤.
項24. RBMS2遺伝子発現産物検出剤を含有する、炎症促進因子により発症又は増悪する疾患の診断薬.
項25. 前記疾患が炎症促進因子により発症又は増悪するものである項24に記載の診断薬.
項26. 前記疾患が免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患からなる群より選択される少なくとも1種である項24又は25に記載の診断薬.
項27. 炎症促進因子がIL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種である項25又は26に記載の診断薬.
項28. 前記RBMS2遺伝子発現産物検出剤が、RBMS2 mRNA若しくはそれに由来する核酸に対するプローブ若しくはプライマー、又はRBMS2タンパク質を認識する抗体である、項24~27のいずれかに記載の診断薬.
項29. 診断対象疾患である前記疾患が、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、関節リウマチ、変性関節疾患、関節炎、敗血症、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、脊椎関節症、炎症性疼痛、術後疼痛、及びアレルギー性疾患からなる群より選択される少なくとも1種の疾患である、項24~28のいずれかに記載の診断薬.
項30. 診断対象疾患である前記疾患が関節リウマチである、項29に記載の診断薬.
項31. 診断対象が前記疾患の有無である、項24~30のいずれかに記載の診断薬.
項32. 診断対象が前記疾患の進行度である、項24~30のいずれかに記載の診断薬.
項33. (a1)被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b1)上記工程(a1)で測定された被検発現量を、免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患のいずれにも罹患していない対照被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c1)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体が免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患であるとの判断指標とする、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の検出方法.
項34. (a2)免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患に罹患している被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b2)上記工程(a2)で測定された被検発現量を、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患に罹患している対照被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c3)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体の方が、対照被検体よりも免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の進行度が高いとの判断指標とする、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の進行度の判定方法.
項35. 前記工程(a1)及び工程(a2)における前記試料が血液試料である、項33又は34に記載の方法.
項36. 前記工程(a1)及び工程(a2)における前記試料が血液試料中の血球成分である、項33~35のいずれかに記載の方法.
項37. 前記免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患がIL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、及びc-Mycからなる群より選択される少なくとも1種により発症又は増悪するものである、項33~36のいずれかに記載の方法.
項38. RBMS2遺伝子発現産物の被検発現量及び対照発現量が、RBMS2 mRNA若しくはそれに由来する核酸に対するプローブ若しくはプライマー、又はRBMS2タンパク質を認識する抗体を用いて測定されるものである、項33~37のいずれかに記載の方法.
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炎症促進因子の発現量に影響を与える新規標的因子を利用した、新たな炎症促進因子発現抑制剤や、免疫疾患、炎症性疾患、疼痛性疾患等の新たな予防又は治療剤、さらにはこれら開発ツール(例えば有効成分のスクリーニング方法、該方法に有用な発現カセット等)を提供することができる。また、本発明によれば、新規メカニズムに基づいた、免疫疾患、炎症性疾患、疼痛性疾患等の診断薬及び診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】実施例1Aのスクリーニングの概要を示す。
図1B】実施例1Bの結果を示す。グラフ左側において、上方の模式図は用いたコントロールレポーターベクター(IL-6の3’UTR無し)の部分構造を示し、下方の模式図は用いたレポーターベクター(IL-6の3’UTR有り)の部分構造を示す。白カラムは、空ベクター(pcDNA3.1)を導入した場合を示し、黒カラムはRBMS2発現ベクター(pcDNA3.1 FLAG-RBMS2)を導入した場合を示す。横軸は測定されたルシフェラーゼ活性の相対値を示す。
図1C】実施例1Cの結果を示す。左側の図の縦軸はRBMS2 mRNA量のGAPDH mRNA量に対する相対値を示し、右側の図の縦軸はIL-6 mRNA量のGAPDH mRNA量に対する相対値を示す。横軸中、N.C.はコントロールsiRNAを導入した場合を示し、RBMS2-1及びRBMS2-2は、RBMS2の異なる領域に対するsiRNAを導入した場合を示す。白カラムはIL-1βを添加していない場合を示し、黒カラムはIL-1βを添加した場合を示す。
図1D】実施例1Dの結果を示す。縦軸は上清中のIL-6タンパク質濃度を示す。横軸中、N.C.はコントロールsiRNAを導入した場合を示し、RBMS2-1及びRBMS2-2は、RBMS2の異なる領域に対するsiRNAを導入した場合を示す。白カラムはIL-1βを添加していない場合を示し、黒カラムはIL-1βを添加した場合を示す。
図1E】実施例1Eの結果を示す。左側の図の縦軸はRBMS2 mRNA量のGAPDH mRNA量に対する相対値を示し、右側の図の縦軸はIL-6 mRNA量のGAPDH mRNA量に対する相対値を示す。横軸中、Emptyはコントロールレトロウィルスを感染させた場合を示し、RBMS2はRBMS2を発現するレトロウイルスを感染させた場合を示す。白カラムはIL-1βを添加していない場合を示し、黒カラムはIL-1βを添加した場合を示す。
図1F】実施例1Fの結果を示す。縦軸は測定されたルシフェラーゼ活性の相対値を示す。横軸中、Emptyは空ベクターを導入した場合を示し、RBMS2はRBMS2発現ベクターを導入した場合を示す。
図2A】実施例2Aの結果を示す。縦軸は、IL-6 mRNA量のアクチンβ(Actb)mRNA量に対する相対値を示す。横軸中、-は発現ベクター導入から48時間後に回収した細胞サンプル、LPSはLPS添加から5時間後に回収した細胞サンプル、ActDはアクチノマイシンD添加から3時間後に回収した細胞サンプルを示す。黒カラムは空ベクターを導入した場合を示し、●はRBMS2発現ベクターを導入した場合を示す。
図2B】実施例2Bの結果を示す。横軸中、0はベクター導入から24時間後(ドキシサイクリン未添加時)に回収した細胞サンプルを示し、2はドキシサイクリン添加から2時間後に回収した細胞サンプルを示す。縦軸は、ルシフェラーゼmRNA量の相対割合(0の場合が100%)を示す。黒カラムは空ベクターを導入した場合を示し、●はRBMS2発現ベクターを導入した場合を示す。
図2C】実施例2Cの結果を示す。グラフ左側における模式図は、用いた変異型3’UTRレポーターベクターの部分構造を示す。横軸は、ルシフェラーゼ活性の相対値を示す。白カラムは空ベクターを導入した場合を示し、黒カラムはRBMS2発現ベクターを導入した場合を示す。*は、t-testの結果、p値が0.05以下であったことを示す。
図3A】実施例3Aの結果を示す。縦軸は、免疫沈降前の細胞溶解液中のルシフェラーゼmRNA量を100%とした場合の、免疫沈降物中のルシフェラーゼmRNA量の相対値を示す。横軸中、ARE WTは、ルシフェラーゼORFの下流にIL-6の野生型3’UTRが連結されたレポーターベクター(実施例1A)を導入した場合を示し、ARE Mutは変異型3’UTRレポーターベクター(実施例2C:ARE mutant)を導入した場合を示す。黒カラムは抗FLAG抗体により免疫沈降した場合を示し、白カラムは非特異的IgGにより免疫沈降した場合を示す。
図3B】実施例3Bの結果を示す。縦軸は、免疫沈降前の細胞溶解液中のルシフェラーゼmRNA量を100%とした場合の、免疫沈降物中のルシフェラーゼmRNA量の相対値を示す。横軸中、RBMS2 WTは、FLAG標識された野生型RBMS2の発現ベクターを導入した場合を示し、RBMS2 ΔRRM1は、FLAG標識されたRRM1ドメイン欠損型RBMS2の発現ベクターを導入した場合を示す。黒カラムは抗FLAG抗体により免疫沈降した場合を示し、白カラムは非特異的IgGにより免疫沈降した場合を示す。
図3C】実施例3Cの結果を示す。グラフ左側における模式図は、用いた発現ベクターにより発現するRBMS2の構造を示す。横軸は、ルシフェラーゼ活性の相対値を示す。
図4A】実施例4Aの結果を示す。各図の縦軸は、各図の上部に記載される遺伝子のmRNA量のGAPDH mRNA量に対する相対値を示す。横軸中、N.C.はコントロールsiRNAを導入した場合を示し、RBMS2は、RBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示す。白カラムはIL-1βを添加していない場合を示し、黒カラムはIL-1βを添加した場合を示す。
図4B】実施例4Bの結果を示す。上段はLPSを用いた場合を示し、中段はPam3CSK4を用いた場合を示し、下段はIL-1βを用いた場合を示す。各図の縦軸は、各図の上部に記載される遺伝子のmRNA量のGAPDH mRNA量に対する相対値を示す。横軸中、N.C.はコントロールsiRNAを導入した場合を示し、RBMS2は、RBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示す。白カラムはLPS、Pam3CSK4及びIL-1βのいずれも添加していない場合を示し、黒カラムはLPS、Pam3CSK4又はIL-1βを添加した場合を示す。
図4C】実施例4Cの結果を示す。縦軸は、ルシフェラーゼORFの下流に各図の上部に記載される遺伝子の野生型3’UTR(又はそのARE変異型3’UTR)が配置されたレポーターベクターを用いた場合の、ルシフェラーゼ活性の相対値を示す。横軸中、WTは野生型3’UTRを採用した場合、MutはARE変異型3’UTRを採用した場合を示す。白カラムは空ベクターを導入した場合を示し、黒カラムはRBMS2発現ベクターを導入した場合を示す。
図5A】実施例5AにおけるRBMS2欠損マウス作製スキームを示す。
図5B】実施例5Bの結果を示す。各図の縦軸は、各図の上部に記載される因子を培地に添加した場合のIL-6の発現量(GAPDH mRNA量に対する相対値)を示す。横軸中、0は各図の上部に記載される因子の添加前であること示し、1、3、5、及び9は各図の上部に記載される因子添加後の経過時間を示す。白カラムは野生型マウス由来の細胞を用いた場合を示し、グレーカラムはRBMS2ヘテロ欠損マウス由来の細胞を用いた場合を示し、黒カラムはRBMS2ホモ欠損マウス由来の細胞を用いた場合を示す。
図5C】実施例5Cの結果を示す。各図の縦軸は、各図の上部に記載される遺伝子のmRNA発現量(GAPDH mRNA量に対する相対値)を示す。横軸中、0はPam3CSK4の添加前であること示し、1、3、5、及び9はPam3CSK4添加後の経過時間を示す。白カラムは野生型マウス由来の細胞を用いた場合を示し、グレーカラムはRBMS2ヘテロ欠損マウス由来の細胞を用いた場合を示し、黒カラムはRBMS2ホモ欠損マウス由来の細胞を用いた場合を示す。
図6A】実施例6の生存時間の計測結果を示す。縦軸は生存率を示し、横軸はLPS投与後の時間を示す。WTは野生型マウスの生存率を示し、KOはRBMS2ホモ欠損マウスの生存率を示す。
図6B】実施例6のIL-6濃度の測定結果を示す。縦軸は血清中のIL-6濃度を示し、横軸中、WTは野生型マウスを示し、KOはRBMS2ホモ欠損マウスを示す。グラフ中、各プロットは、各個体の血清におけるIL-6濃度を示し、バーは平均値を示す。
図7】実施例7の結果を示す。縦軸はRBMS2発現量の相対値を示す。横軸はIL-6発現量の相対値を示す。
図8】実施例8の結果を示す。縦軸は、HPRT mRNA発現量に対するRBMS2 mRNA発現量の相対値を示す。横軸は、IL-10タンパク質又はTGFβタンパク質添加後の経過時間を示す。白カラムはIL-10タンパク質を添加した場合を示し、黒カラムはTGFβタンパク質を添加した場合を示す。
図9】実施例9の結果を示す。左側の図の縦軸は、ルシフェラーゼORFの下流にIL-6 3’UTRを連結した場合のルシフェラーゼ活性を示し、右側の図の縦軸は、ルシフェラーゼORFの下流にPTGS2(COX2) 3’UTRを連結した場合のルシフェラーゼ活性を示す。横軸中、Emptyは空ベクターを導入した場合を示し、RBMS2はRBMS2発現ベクターを導入した場合を示し、HuRはHuR発現ベクターを導入した場合を示す。
図10A】実施例10Aの結果を示す。縦軸は、ルシフェラーゼ活性の相対値を示す。横軸中、Emptyは空ベクター、FLは野生型RBMS2発現ベクター、dR1はRRM1ドメイン欠失体発現ベクター、F101A F104AはF101A及びF104Aのダブル変異体の発現ベクターを導入した場合を示す。**はP値<0.01であることを示す。
図10B】実施例10Bの結果を示す。左側の図はIL-6 mRNA量の測定結果を示し、右側の図はIL-8 mRNA量の測定結果を示す。縦軸はIL-6 mRNA量又はIL-8 mRNA量のGAPDH mRNA量に対する相対値を示す。横軸中、emptyはコントロールレンチウィルスを感染させた場合を示し、FLは野生型RBMS2を発現するレンチウイルスを感染させた場合を示し、RRM1はRRM1ドメイン欠失体を発現するレンチウイルスを感染させた場合を示し、FFはF101A及びF104Aのダブル変異体を発現するレンチウイルスを感染させた場合を示す。
図10C】実施例10Cの結果を示す。縦軸は、免疫沈降前の細胞溶解液中のルシフェラーゼmRNA量を100%とした場合の、免疫沈降物中のルシフェラーゼmRNA量の相対値を示す。横軸中、WT FLは、FLAG標識された野生型RBMS2の発現ベクターを導入した場合を示し、WT dR1は、FLAG標識されたRRM1ドメイン欠損型RBMS2の発現ベクターを導入した場合を示し、WT F101/F104AはF101A及びF104Aのダブル変異体の発現ベクターを導入した場合を示す。黒カラムは抗FLAG抗体により免疫沈降した場合を示し、白カラムは非特異的IgGにより免疫沈降した場合を示す。
図11】実施例11の結果を示す。縦軸は、試験後の耳介の厚みから試験前の耳介の厚みを減じて得られた値(耳介の腫れの表す指標)を示す。横軸中、Hetは、RBMS2遺伝子ヘテロ欠損マウスを示し、KOはRBMS2遺伝子ホモ欠損マウスを示す。
図12】実施例12の結果を示す。縦軸は、RBMS2に対するsiRNAをトランスフェクションした場合のmRNA発現量を示し、横軸は、非特異的siRNA(ネガティブコントロール)をトランスフェクションした場合のmRNA発現量を示す。各プロットは、RBMS2ノックダウンにより発現量が2倍以上に増加または2分の1以下に低下した遺伝子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0012】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0013】
本明細書において、単に「RBMS2」と示す場合は、RBMS2タンパク質を意味する。
【0014】
本明細書において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
【0015】
2.発現カセット
本発明は、RBMS2遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む、発現カセット(本明細書において、「本発明の発現カセット」ということがある)に関する。以下、これについて説明する。
【0016】
本願において、「発現カセット」とは、細胞(例えば真核細胞、好ましくは動物細胞、より好ましくは哺乳動物細胞)内で、該発現カセットが含む遺伝子を発現させる機能を有するポリヌクレオチドを意味する。
【0017】
本願において「RBMS2遺伝子発現制御領域」とは、細胞内において内在性RBMS2遺伝子の発現を制御しているDNA領域、或いはそれと同等の発現制御能を有するDNA領域である限り特に制限されない。該領域としては、例えば、RBMS2遺伝子の転写開始点、その上流(5’側)の配列、及び必要に応じてその下流(3’側)の配列を含むプロモーターが挙げられる。該プロモーターの具体例としては、RBMS2遺伝子の転写開始点の塩基を+1、その下流(3’側)が正の値、その上流が0又は負の値とした場合、例えば-10000~+2000、好ましくは-5000~+1000、より好ましくは-2000~+500、さらに好ましくは-1000~+200、よりさらに好ましくは-500~+100、特に好ましくは-200~+50のDNA領域が挙げられる。該プロモーターは、細胞内において内在性RBMS2遺伝子の発現を制御しているプロモーターと同等程度の発現制御能を有する限りにおいて、変異を有していてもよい。この場合、変異を有するプロモーターの塩基配列は、細胞内において内在性RBMS2遺伝子の発現を制御しているプロモーターの塩基配列と、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する。変異の部位は、例えば公知の発現制御エレメント(例えば基本転写因子結合領域、各種アクチベーター結合領域等)以外の部位であることが望ましい。なお、発現制御エレメントのコンセンサス配列は既に公知であり、各種データベース上で容易に探索することができる。
【0018】
本願において「RBMS2遺伝子」とは、特に制限されず、動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類のものが挙げられる。
【0019】
種々の動物由来のRBMS2遺伝子は公知である。その発現産物であるRBMS2 mRNA及びRBMS2 タンパク質は次のように例示することができる。具体的には、例えばヒトRBMS2 mRNAとしては、配列番号3で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_002898.3)が挙げられ、マウスRBMS2 mRNAとしては、配列番号4で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_019711.2)が挙げられる。ヒトRBMS2 タンパク質としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_002889.1)が挙げられ、マウスRBMS2 タンパク質としては、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_062685.2)が挙げられる。また、RBMS2 タンパク質には、N末端が欠損したタイプのものも包含され、このようなタイプのものとしては、例えばマウスの場合であれば、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001034169.1)(mRNAは、配列番号7で示される塩基配列からなる(NCBI Reference Sequence:NM_001039080.1))が挙げられる。
【0020】
RBMS2遺伝子の発現産物であるRBMS2 タンパク質は、炎症促進因子mRNA(例えば、IL-6 mRNA、COX-2 mRNA、IL-8 mRNA、IL-1β mRNA、TNF-α mRNA、MMP1 mRNA、IL-24 mRNA, c-Myc mRNA等)由来の3’UTRを有するmRNA又は該mRNAから翻訳されるタンパク質の発現を促進できる活性(以下「炎症促進因子発現促進活性」という)を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等のアミノ酸変異を有していてもよい。変異としては、炎症促進因子発現促進活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0021】
また、RBMS2遺伝子の発現産物であるRBMS2 mRNAも、該mRNAから翻訳されるタンパク質が炎症促進因子発現促進活性を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等の塩基変異を有していてもよい。変異としては、該mRNAから翻訳されるタンパク質においてアミノ酸置換が生じない変異やアミノ酸の保存的置換が生じる変異が好ましい。
【0022】
炎症促進因子発現促進活性の有無は、公知の方法に従って又は準じて判定することができる。例えば、実施例に記載の方法に従って又は準じて判定することができる。具体例としては、実施例1Bにおいて、発現ベクターとして被検タンパク質の発現ベクターを用いた場合に、空ベクターを用いた場合よりもルシフェラーゼ活性が高ければ、該被検タンパク質は炎症促進因子発現促進活性を有すると判定することができる。
【0023】
RBMS2遺伝子の発現産物であるRBMS2 タンパク質の好ましい具体例としては、下記(a)に記載するタンパク質及び下記(b)に記載するタンパク質:
(a)配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(b)配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
上記(b)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0025】
上記(b)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(b’) 配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0026】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2~30個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0027】
RBMS2遺伝子の発現産物であるRBMS2 mRNAの好ましい具体例としては、下記(c)に記載するmRNA及び下記(d)に記載するmRNA:
(c)配列番号3、4、又は7に示される塩基配列からなるmRNA、及び
(d)配列番号3、4、又は7に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNAからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0028】
上記(d)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0029】
上記(d)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(d’) 配列番号3、4、又は7に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0030】
上記(d’)において、複数個とは、例えば2~500個であり、好ましくは2~100個であり、より好ましくは2~50個であり、よりさらに好ましくは2~10個である。
【0031】
本願において、RBMS2遺伝子発現制御領域によって発現が制御されるように配置された「遺伝子」とは、その発現産物を検出可能な遺伝子である限り特に制限されない。なお、ここでいう「遺伝子」とは、該遺伝子の発現産物であるタンパク質のコード配列を含むものであり、該遺伝子のその他の配列(例えばイントロン配列等)を含んでいてもよいが、プロモーターは含まない概念である。該遺伝子としては、例えば、レポーター遺伝子、薬剤耐性遺伝子、酵素遺伝子、構造遺伝子、輸送遺伝子、貯蔵遺伝子、収縮遺伝子、防御遺伝子、調節遺伝子等、これら遺伝子の改変遺伝子等が挙げられる。改変遺伝子の例としては、その発現産物であるタンパク質の一部において置換、欠失、付加、挿入等のアミノ酸変異が起こるように塩基が変異した上記遺伝子や、上記遺伝子の発現産物の複数種が融合したタンパク質を発現する遺伝子等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはレポーター遺伝子、薬剤耐性遺伝子等が挙げられ、より好ましくはレポーター遺伝子が挙げられる。
【0032】
本願において「レポーター遺伝子」とは、例えば特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質をコードする遺伝子である限り特に限定されない。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等が挙げられる。
【0033】
本願において「薬剤耐性遺伝子」とは、それを発現する細胞に抗菌薬などの薬剤に対する耐性を付与できる遺伝子である限り特に限定されない。具体的には、例えば、クロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0034】
上記「遺伝子」について「発現が制御されるように配置」とは、該遺伝子にコードされるタンパク質が発現するように、該遺伝子が配置されていることを意味する。具体的には、例えば、5’側から、該遺伝子発現制御領域、該遺伝子の順に配置されている態様が挙げられる。
【0035】
本発明の発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS))を含んでいてもよい。例えば、5’側から、RBMS2遺伝子発現制御領域、上記「遺伝子」の順に配置されている場合であれば、RBMS2遺伝子発現制御領域の5’側に(好ましくは、隣接して)、RBMS2遺伝子発現制御領域と上記「遺伝子」の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、上記「遺伝子」の3’側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2~50、好ましくは2~20、より好ましくは2~10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
【0036】
本発明の発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していてもよい。このようなベクター(以下「本発明のベクター」という)も、本発明に包含される。他の配列としては、特に制限されず、発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。また、薬剤耐性遺伝子の種類は上述のものを例示できる。ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター;レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター等が挙げられる。
【0037】
本発明のベクターは、細胞内に含まれていてもよい。このような細胞(以下「本発明の細胞」という)も、本発明に包含される。本発明の細胞において、本発明のベクターは、ゲノム外に存在していてもよいし、ゲノム内に組み込まれた状態で存在していてもよい。細胞の由来生物種としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類が挙げられる。また、該細胞の種類としても、特に制限されず、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0038】
本発明の発現カセット、本発明のベクター、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種は、後述の本発明のスクリーニング方法において好適に用いることができる。この観点から、本発明は、本発明の発現カセット、本発明のベクター、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、RBMS2の発現又は機能を抑制する物質(好ましくは炎症促進因子発現抑制剤の有効成分)のスクリーニング用試薬(本明細書において、「本発明の試薬」ということがある。)にも関する。
【0039】
本発明の試薬は、本発明の発現カセット、本発明のベクター、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものであれば特に限定されず、他に、例えば本発明の発現カセットからの発現産物の検出に必要なものを含んでいてもよい。このような物の具体例としては、ハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液、器具等が挙げられる。本発明の試薬は、これらを含んだスクリーニング用キットの形態であってもよい。
【0040】
3.スクリーニング方法
本発明は、被検物質の存在下における下記(i)~(iii)からなる群より選択される少なくとも1種を指標とする、RBMS2の発現又は機能を抑制する物質のスクリーニング方法:
(i)RBMS2遺伝子発現制御領域によって発現制御される遺伝子発現量、
(ii)RBMS2とAU-rich elementを含むRNAとの結合量、及び
(iii)RBMS2過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量(本明細書において、「本発明のスクリーニング方法」ということがある。)
に関する。以下、これについて説明する。
【0041】
本願における「被検物質」としては、天然に存在する化合物又は人工に作られた化合物を問わず広く使用することができる。また、精製された化合物に限らず、多種の化合物を混合した組成物や、動植物の抽出液も使用することができる。化合物には、低分子化合物に限らず、タンパク質、核酸、多糖類等の高分子化合物も包含される。
【0042】
本発明のスクリーニング方法は、より具体的には、被検物質存在下における前記指標の値が、被検物質非存在下における前記指標の値よりも低い場合に、該被検物質をRBMS2の発現又は機能を抑制する物質として選択することができる。
【0043】
スクリーニングされた「RBMS2の発現又は機能を抑制する物質」は、炎症促進因子発現抑制剤の有効成分或いはその候補物質として選択することが可能である。
【0044】
以下、指標(i)~(iii)のそれぞれを利用する態様別に、具体的なスクリーニング方法について説明する。
【0045】
3-1.指標(i)を利用するスクリーニング方法
指標(i)を利用するスクリーニング方法は、下記工程(a1)~(c1)を含む:
(a1)RBMS2遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセットを含有する発現系と、被検物質とを接触させる工程、
(b1)被検物質を接触させた発現系における前記遺伝子の発現量を被検発現量として測定し、該被検発現量と、被検物質を接触させない発現系における前記遺伝子の発現量を対照発現量として比較する工程、並びに
(c1)被検発現量が対照発現量よりも低い場合に、被検物質をRBMS2の発現を抑制する物質として選択する工程。
【0046】
工程(a1)において、「RBMS2遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセット」については、上記「2.発現カセット」と同様である。ただ、工程(a1)における該発現カセットは、細胞のゲノム内の内在性RBMS2遺伝子発現制御領域及びその下流のRBMS2遺伝子を含む発現カセットが包含される点で、上記「2.発現カセット」における発現カセットとは相違する。
【0047】
工程(a1)において、「発現系」とは、上記発現カセットから遺伝子が発現するために必要な成分が含まれている系である限り特に制限されない。該発現系としては、例えば無細胞タンパク質発現系、細胞が挙げられる。無細胞タンパク質発現系は、通常、転写及び翻訳に必要な因子(RNAポリメラーゼ、リボソーム、各種リボヌクレオチド等)を含む溶液(細胞抽出液等)から構成されており、各種市販されているものを使用することができる。細胞は、上記発現カセットから遺伝子発現可能な細胞である限り特に制限されず、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。発現系は、より簡便にスクリーニングを行うことができるという観点から、細胞が好ましい。
【0048】
工程(a1)において、上記発現カセットを含む発現系は、例えば発現系が無細胞タンパク質発現系である場合は、その系の溶液内に上記発現カセットが含まれている状態であればよい。また、発現系が細胞である場合は、上記発現カセットが、細胞のゲノム内に組み込まれた態様、ゲノム外に(例えばプラスミドの状態で)存在する態様等が挙げられる。
【0049】
工程(a1)において、被検物質を接触させる態様は、特に限定されない。発現系が無細胞タンパク質発現系である場合は、例えばその系の溶液に被検物質を添加すればよい。また、発現系が細胞である場合は、例えば細胞培養培地に被検物質を添加すればよい。
【0050】
工程(a1)において、被検物質の接触時間は、特に制限されず、被検物質の種類、発現系の種類等に応じて適宜設定される。該時間は、例えば5分間~72時間である。
【0051】
工程(b1)において、被検発現量及び対照発現量の測定は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。好適には、上述の本発明の診断薬を用いて行うことができる。測定対象が核酸(RBMS2 mRNA又はそれに由来する核酸(cDNA等))である場合であれば、例えば、プローブやプライマーとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法等により測定することができる。測定対象がタンパク質である場合であれば、例えば、特異的抗体を用いて、ウェスタンブロット法、ELISA法等により測定することができる。測定対象がレポータータンパク質である場合は、そのレポーターシグナル(蛍光、発色、発光等)を検出可能な方法(蛍光顕微鏡観察、ルシフェラーゼアッセイ等)により測定することができる。測定対象が薬剤耐性タンパク質である場合は、薬剤の存在下で生存している細胞数を測定することにより、間接的に測定することができる。
【0052】
ノーザンブロット法を利用する場合は、具体的には、プローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした上記発現系由来のmRNAとハイブリダイズさせた後、形成された診断薬と被検者の試料由来のmRNAとの二重鎖を、プローブの標識物(RI若しくは蛍光物質などの標識物質)に由来するシグナルを放射線検出器BAS-1800II(富士フィルム社製)又は蛍光検出器などで検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従ってプローブを標識し、上記発現系由来のmRNAとハイブリダイズさせた後、プローブ標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
【0053】
RT-PCR法を利用する場合は、具体的には、上記発現系由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的領域が増幅できるように、一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識プローブを使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0054】
DNAチップ解析を利用する場合は、DNAプローブ(1本鎖又は2本鎖)を貼り付けたDNAチップを用意し、これに上記発現系由来のRNAから常法によって調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。
【0055】
ウェスタンブロット法は、一次抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などの標識物質に由来するシグナルを放射線測定器BAS-1800II(富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定する方法が例示される。また、一次抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で測定することもできる。
【0056】
工程(c1)において、例えば被検発現量が対照発現量よりも低い場合、例えば、被検発現量が対照発現量の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、或いは1/100の場合に、被検物質をRBMS2の発現を抑制する物質として選択することができる。
【0057】
3-2.指標(ii)を利用するスクリーニング方法
指標(ii)を利用するスクリーニング方法は、下記工程(a2)~(c2)を含む:
(a2)AU-rich elementを含むRNAとRBMS2とを、被検物質の存在下で接触させる工程、
(b2)被検物質の存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を被検結合量として測定し、該被検結合量と、被検物質の非存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を対照結合量として比較する工程、並びに
(c2)被検結合量が対照結合量よりも低い場合に、被検物質をRBMS2の機能を抑制する物質として選択する工程。
【0058】
工程(a2)において、AU-rich elementとは、AUUUA等に代表される、一般式:(U)nW1(U)mW2(U)o[式中:Uはウラシルを示す。W1及びW2は同一又は異なって、アデニン又はウラシルを示す(但し、W1及びW2が両方ともウラシルである場合を除く)。nは0~3の整数を示す。oは0~3の整数を示す。mは3~5の整数(好ましくは3)を示す。]で表される塩基配列をコンセンサス配列とするエレメントである。該AU-rich elementは、好ましくは炎症促進因子のmRNA(例えば、IL-6 mRNA、COX-2 mRNA、IL-8 mRNA、IL-1β mRNA、TNF-α mRNA、MMP1 mRNA、IL-24 mRNA、及びc-Myc mRNAからなる群より選択される少なくとも1種のmRNA)由来のAU-rich elementである。ここで、「~由来のAU-rich element」とは、換言すれば、これらのmRNAに含まれるAU-rich elementを意味する。
【0059】
工程(a2)において、AU-rich elementを含むRNAは、このAU-rich elementを含むRNAである限り特に制限されない。該RNA中のAU-rich elementの数は、例えば1~20個、好ましくは2~15個、より好ましくは3~12個、さらに好ましくは4~10個、よりさらに好ましくは6~9個である。該RNA中のAU-rich elementの数が複数の場合、AU-rich elementは比較的狭い範囲内(例えば、20~400 bp、好ましくは40~200 bp、より好ましくは60~150 bp、さらに好ましくは80~120 bp)に存在することが望ましい。また、この範囲は、Uリッチであることが好ましい。Uリッチの程度としては、該範囲の全塩基数に対するUの数の割合が、例えば20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上である。この割合の上限は特に制限されないが、90%、80%、70%等を例示することができる。
【0060】
工程(a2)において、RBMS2については、上記「2.発現カセット」におけるRBMS2タンパク質と同様である。
【0061】
工程(a2)において、被検物質を接触させる態様は、AU-rich elementを含むRNA、RBMS2、及び被検物質の3成分が接触することができる態様である限り特に限定されない。例えば、これら3成分を適当な溶媒中で混合する態様、これら3成分を細胞内で共存させる態様等が挙げられる。
【0062】
工程(a2)において、被検物質の接触時間は、特に制限されず、被検物質の種類、接触が試験管内で行われているのか或いは細胞内で行われているのか等に応じて適宜設定される。該時間は、例えば5分間~72時間である。
【0063】
工程(b2)において、被検結合量及び対照結合量の測定は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。例えば、免疫沈降法やゲルシフト法等により測定することができる。
【0064】
免疫沈降法は、典型的には次のように行うことができる。AU-rich elementを含むRNAとRBMS2を含む(被検物質と接触した、或いは接触していない)細胞の細胞溶解液を調製し、該溶解液をRBMS2に対する抗体或いは該RBMS2にタグが付加されている場合はそのタグに対する抗体で免疫沈降し、沈降物に含まれる「AU-rich elementを含むRNA」の量をPCRにより測定する。該測定量がより多ければ、被検結合量又は対照結合量がより多いことを示す。
【0065】
ゲルシフト法は、典型的には次のように行うことができる。AU-rich elementを含むRNAとRBMS2を含む(さらに被検物質を含む、或いは含まない)溶液を、適当なゲル(アクリルアミドゲル等)等を用いて電気泳動し、AU-rich elementを含むRNAとRBMS2とが結合した複合体を示すバンドのシグナルを測定する。該測定量がより多ければ、被検結合量又は対照結合量がより多いことを示す。
【0066】
工程(c2)において、例えば被検結合量が対照結合量よりも低い場合、例えば、被検結合量が対照結合量の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、或いは1/100の場合に、被検物質をRBMS2の発現を抑制する物質として選択することができる。
【0067】
3-3.指標(iii)を利用するスクリーニング方法
指標(iii)を利用するスクリーニング方法は、下記工程(a3)~(c3)を含む:
(a3)3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAを含有し、且つRBMS2が過剰発現している細胞と、被検物質とを接触させる工程、
(b3)被検物質と接触させた細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を被検量として測定し、被検物質と接触させない細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を対照量として、該被検量と該対照量を比較する工程、並びに
(c3)被検量が対照量よりも低い場合に、被検物質をRBMS2の機能を抑制する物質として選択する工程。
【0068】
工程(a3)において、AU-rich elementについては、「3-2.指標(ii)を利用するスクリーニング方法」におけるAU-rich elementと同様である。
【0069】
工程(a3)において、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAは、3’-UTRにおいてこのAU-rich elementを含むmRNAである限り特に制限されない。該mRNAの3’-UTRにおけるAU-rich elementの数は、例えば1~20個、好ましくは2~15、より好ましくは3~12、さらに好ましくは4~10、よりさらに好ましくは6~9である。該mRNA中のAU-rich elementの数が複数の場合、AU-rich elementは比較的狭い範囲内 (例えば、20~400、好ましくは40~200、より好ましくは60~150、さらに好ましくは80~120)に存在することが望ましい。
【0070】
工程(a3)において、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAは、好ましくは、炎症促進因子のmRNA、より好ましくはIL-6 mRNA、COX-2 mRNA、IL-8 mRNA、IL-1β mRNA、TNF-α mRNA、MMP1 mRNA、IL-24 mRNA、c-Myc mRNA等、或いはこれらのmRNAの変異型が挙げられる。該変異型としては、好ましくはAU-rich element以外の配列、又は一部のAU-rich elementにおいて、1若しくは複数個(例えば、2~50個であり、好ましくは2~20個であり、より好ましくは2~10、さらに好ましくは2~5個、よりさらに好ましくは2又は3個)の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入されたmRNAが挙げられる。
【0071】
工程(a3)において、RBMS2については、上記「2.発現カセット」におけるRBMS2タンパク質と同様である。
【0072】
工程(a3)において、細胞については、上記「3-1.指標(i)を利用するスクリーニング方法」における細胞と同様である。
【0073】
工程(a3)において、被検物質を接触させる態様は、特に限定されない。例えば細胞培養培地に被検物質を添加する態様が挙げられる。
【0074】
工程(a3)において、被検物質の接触時間は、特に制限されず、被検物質の種類等に応じて適宜設定される。該時間は、例えば5分間~72時間である。
【0075】
工程(b3)において、被検量及び対照量の測定については、上記「3-1.指標(i)を利用するスクリーニング方法」における被検発現量及び対照発現量の測定と同様である。
【0076】
工程(c3)において、例えば被検量が対照量よりも低い場合、例えば、被検量が対照量の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、或いは1/100の場合に、被検物質をRBMS2の発現を抑制する物質として選択することができる。
【0077】
4.炎症促進因子発現抑制剤
本発明は、RBMS2発現抑制剤及びRBMS2機能抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、炎症促進因子発現抑制剤(本明細書において、「本発明の剤」ということがある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0078】
発現抑制対象及び機能抑制対象であるRBMS2については、上記「2.発現カセット」におけるRBMS2タンパク質と同様である。
【0079】
RBMS2発現抑制剤としては、RBMS2タンパク質の発現量を抑制し得るものである限り特に制限されず、例えばRBMS2特異的small interfering RNA(siRNA)、RBMS2特異的microRNA(miRNA)、RBMS2特異的アンチセンス核酸、これらの発現ベクター等が挙げられる。また、これらの他にも、IL-10タンパク質がRBMS2発現抑制剤として機能できることが、本実施例で示されている。
【0080】
RBMS2特異的siRNAは、RBMS2をコードする遺伝子の発現を特異的に抑制する二本鎖RNA分子である限り特に制限されない。一実施形態において、siRNAは、例えば、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、又は21塩基以上の長さであることが好ましい。また、siRNAは、例えば、25塩基以下、24塩基以下、23塩基以下、又は22塩基以下の長さであることが好ましい。ここに記載するsiRNAの長さの上限値及び下限値は任意に組み合わせることが想定される。例えば、下限が18塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ;下限が19塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ;下限が20塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ;下限が21塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さの組み合わせが想定される。
【0081】
siRNAは、shRNA(small hairpin RNA)であっても良い。shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、shRNAは、ある領域の配列を配列aとし、配列aに対する相補鎖を配列bとすると、配列a、スペーサー、配列bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で45~60塩基の長さとなるように設計することができる。配列aは、標的となるRBMS2をコードする塩基配列の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されず、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列aの長さは19~25塩基、好ましくは19~21塩基である。
【0082】
RBMS2特異的siRNAは、5’又は3’末端に、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、通常2~4塩基程度である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いると核酸の安定性を向上させることができる場合がある。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
siRNAは、3'末端に突出部配列(オーバーハング)を有していてもよく、具体的には、dTdT(dTはデオキシチミジンを表わす)を付加したものが挙げられる。また、末端付加がない平滑末端(ブラントエンド)であってもよい。siRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖が異なる塩基数であってもよく、例えば、アンチセンス鎖が3'末端及び5'末端に突出部配列(オーバーハング)を有している「asymmetrical interfering RNA(aiRNA)」を挙げることができる。典型的なaiRNAは、アンチセンス鎖が21塩基からなり、センス鎖が15塩基からなり、アンチセンス鎖の両端で各々3塩基のオーバーハング構造をとる。
【0084】
RBMS2特異的siRNAの標的配列の位置は特に制限されるわけではないが、一実施形態において、5’-UTR及び開始コドンから約50塩基まで、並びに3’-UTR以外の領域から標的配列を選択することが望ましい。選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16-17塩基の連続した配列に相同性がないかどうかを、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認することが好ましい。特異性が確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19-21塩基にTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19-21塩基に相補的な配列及びTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計してもよい。また、siRNAの前駆体であるshRNAは、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、5-25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
【0085】
siRNA及び/又はshRNAの配列は、種々のwebサイト上に無料で提供される検索ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、以下を挙げることができる。
Ambionが提供するsiRNA Target Finder(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/siRNA_finder.html)pSilencer(登録商標)Expression Vector用インサートデザインツール(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/psilencer_converter.html)RNAi Codexが提供するGeneSeer(http://codex.cshl.edu/scripts/newsearchhairpin.cgi)。
【0086】
siRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90~約95℃で約1分程度変性させた後、約30~約70℃で約1~約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、siRNAの前駆体となるshRNAを合成し、これを、RNA切断タンパク質ダイサー(dicer)を用いて切断することにより調製することもできる。
【0087】
RBMS2特異的miRNAは、RBMS2をコードする遺伝子の翻訳を阻害する限り任意である。例えば、miRNAは、siRNAのように標的mRNAを切断するのではなく、標的の3’非翻訳領域(UTR)に対合してその翻訳を阻害してもよい。miRNAは、pri-miRNA(primary miRNA)、pre-miRNA(precursor miRNA)、及び成熟miRNAのいずれでもよい。miRNAの長さは特に制限されず、pri-miRNAの長さは通常数百~数千塩基であり、pre-miRNAの長さは通常50~80塩基であり、成熟miRNAの長さは通常18~30塩基である。一実施形態において、RBMS2特異的miRNAは、好ましくはpre-miRNA又は成熟miRNAであり、より好ましくは成熟miRNAである。このようなRBMS2特異的miRNAは、公知の手法で合成してもよく、合成RNAを提供する会社から購入してもよい。
【0088】
RBMS2特異的アンチセンス核酸とは、RBMS2をコードする遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含む核酸であって、該mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、RBMS2タンパク質合成を抑制する機能を有する核酸である。アンチセンス核酸はDNA、RNA、DNA/RNAキメラのいずれでもよい。アンチセンス核酸がDNAの場合、標的RNAとアンチセンスDNAとによって形成されるRNA:DNAハイブリッドは、内在性リボヌクレアーゼH(RNase H)に認識されて標的RNAの選択的な分解を引き起こす。したがって、RNase Hによる分解を指向するアンチセンスDNAの場合、標的配列は、mRNA中の配列だけでなく、RBMS2遺伝子の初期翻訳産物におけるイントロン領域の配列であってもよい。イントロン配列は、ゲノム配列と、RBMS2遺伝子のcDNA塩基配列とをBLAST、FASTA等のホモロジー検索プログラムを用いて比較することにより、決定することができる。
【0089】
RBMS2特異的アンチセンス核酸の標的領域は、該アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてRBMS2タンパク質への翻訳が阻害されるものであればその長さは制限されない。RBMS2特異的アンチセンス核酸は、RBMS2をコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよい。合成の容易さや抗原性、細胞内移行性の問題等を考慮すれば、約10~約40塩基、特に約15~約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいが、これらに限定されるものではない。より具体的には、RBMS2遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域又は3’端ヘアピンループなどをアンチセンス核酸の好ましい標的領域として選択しうるが、それらに限定されるものではない。
【0090】
RBMS2特異的アンチセンス核酸は、RBMS2遺伝子のmRNAや初期転写産物とハイブリダイズしてタンパク質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるこれらの遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAへの転写を阻害し得るもの(アンチジーン(antigene))であってもよい。
【0091】
上記したRBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、及びRBMS2特異的アンチセンス核酸を構成するヌクレオチド分子は、安定性(化学的及び/又は対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含んでもよい。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンス核酸を構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(phosphorothioate; PS)、メチルホスホネート(methylphosphonate)、ホスホロジチオネート(phosphorodithioate)などの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(R=CH3(2’-O-Me)、CH2CH2OCH3(2’-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、又はCH2CH2CN等)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換等を施してもよい。また、siRNAやmiRNAを構成するヌクレオチド分子の一部は、天然型のDNAに置換されていてもよい。
【0092】
RBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、及びRBMS2特異的アンチセンス核酸等は、RBMS2遺伝子のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。また、上記した各種修飾を含むアンチセンス核酸も、いずれも公知の手法により、化学的に合成することができる。
【0093】
RBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、又はRBMS2特異的アンチセンス核酸の発現ベクターについては、RBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、又はRBMS2特異的アンチセンス核酸が発現可能な状態で組み込まれている限りにおいて特に限定されない。典型的には、該発現ベクターは、プロモーター配列、及びRBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、又はRBMS2特異的アンチセンス核酸のコード配列(必要に応じて、さらに転写終結シグナル配列)を含むポリヌクレオチド、必要に応じて他の配列を含む。プロモーターは、特に制限されず、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等のRNA polymerase II(polII)系プロモーター; マウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター等のRNA polymerase III(polIII)系プロモーター等が挙げられ、これらの中でも、短いRNAの転写を正確に行うことができるという観点から、polIII系プロモーターが好ましい。他の配列としては、特に制限されず、発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。また、薬剤耐性遺伝子の種類及びベクターの種類は上述のものを例示できる。
【0094】
RBMS2発現抑制剤の別の例としては、RBMS2特異的リボザイム等が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAを意味するが、本願では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものは、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないという利点を有する。RBMS2遺伝子のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0095】
RBMS2機能抑制剤は、RBMS2タンパク質の機能を抑制し得るものである限り特に制限されない。ここで、RBMS2タンパク質の機能を抑制とは、例えば(x)RBMS2とAU-rich elementを含むRNAとの結合量を減少させること、及び/又は(y)RBMS2過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を減少させることを意味する。RBMS2タンパク質の機能を抑制するか否かは、例えば、上記「3-2.指標(ii)を利用するスクリーニング方法」や「3-3.指標(iii)を利用するスクリーニング方法」に記載の方法により判定することができる。
【0096】
本発明の剤の発現抑制対象である炎症促進因子は、生体内における炎症反応の惹起又はその増悪に寄与する因子である限り特に制限されない。該因子としては、例えばIL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、c-Myc等が挙げられる。
【0097】
本発明の剤は、炎症促進因子(例えばIL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、c-Myc等)により発症又は増悪する疾患の予防又は治療剤として用いることができる。該疾患として、具体的には、例えば免疫疾患、炎症性疾患、疼痛性疾患等が挙げられる。診断対象疾患として、より具体的には、例えば自己免疫疾患、リウマチ性疾患、関節リウマチ、変性関節疾患、関節炎、敗血症、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、脊椎関節症、炎症性疼痛、術後疼痛、アレルギー性疾患等が挙げられ、好ましくは自己免疫疾患、関節リウマチ、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、術後疼痛、アレルギー性疾患等が挙げられ、より好ましくは関節リウマチが挙げられる。
【0098】
本願における自己免疫疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:ギラン・バレー症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、バセドウ病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、シェーグレン症候群。
【0099】
本願におけるリウマチ性疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:関節リウマチ、若年性特発性関節炎、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎、血管炎症候群、ベーチェット病、シェーグレン症候群、関節症性乾癬。
【0100】
本願における変性関節疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:変形性膝関節症、変形性股関節症、変形性肘関節症、変形性肩関節症、変形性手関節症、変形性足関節症。
【0101】
本願におけるリンパ増殖性疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:リンパ浮腫、リンパ節炎、悪性リンパ種、キャッスルマン病。
【0102】
本願における中枢性脱髄疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、炎症性広汎性硬化症。
【0103】
本願における脊椎関節症には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:強直性脊椎炎、反応性関節炎、乾癬性関節炎。
【0104】
本願における炎症性疼痛には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎、歯痛。
【0105】
本願におけるアレルギー性疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:接触性皮膚炎、湿疹、蕁麻疹、クインケ浮腫、結節性紅斑、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性皮膚疾患、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、薬物アレルギー、食物アレルギー。
【0106】
本発明の剤は、RBMS2発現抑制剤及びRBMS2機能抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種(本明細書において、単に「有効成分」ということがある。)を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0107】
本発明の剤の使用態様は、特に制限されず、その種類に応じて適切な使用態様を採ることができる。本発明の剤は、例えばin vitroで使用する(例えば、培養細胞の培地に添加する。)こともできるし、in vivoで使用する(例えば、動物に投与する。)こともできる。
【0108】
本発明の剤の適用対象は特に限定されず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類動物; 動物細胞等が挙げられる。細胞の種類も特に制限されず、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0109】
本発明の剤の剤形は特に制限されず、その使用態様に応じて適切な剤形を採ることができる。例えば、動物に投与する場合であれば、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、シロップ剤、腸溶剤、徐方性カプセル剤、咀嚼錠、ドロップ、丸剤、内用液剤、菓子錠剤、徐放剤、徐放性顆粒剤等の経口剤;点鼻剤、吸入剤、肛門坐剤、挿入剤、浣腸剤、ゼリー剤等の外用剤等が挙げられる。また、本発明の剤は、固形剤、半固形剤、液剤のいずれでもよい。
【0110】
本発明の剤中の有効成分の含有量は、使用態様、適用対象、適用対象の状態等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100重量%、好ましくは0.001~50重量%とすることができる。
【0111】
本発明の剤を動物に投与する場合の投与量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の重量として、一般に経口投与の場合には一日あたり0.1~1000 mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5~500 mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01~100 mg/kg体重、好ましくは0.05~50 mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2~3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0112】
5.診断薬
本発明は、RBMS2遺伝子発現産物検出剤を含有する、動物の疾患の診断薬(本明細書において、「本発明の診断薬」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0113】
RBMS2遺伝子発現産物検出剤の検出対象であるRBMS2遺伝子発現産物は、診断対象の生物の生体内で発現しているRBMS2遺伝子発現産物であれば特に限定されず、例えばRBMS2 mRNA又はそれに由来する核酸(cDNA等)、RBMS2タンパク質等が挙げられる。
【0114】
診断対象の動物は、RBMS2遺伝子を生体内で発現し得る動物であれば特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類が挙げられる。
【0115】
種々の動物由来のRBMS2 mRNA及びRBMS2 タンパク質の配列は公知である。具体的には、例えばヒトRBMS2 mRNAとしては、配列番号3で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_002898.3)が挙げられ、マウスRBMS2 mRNAとしては、配列番号4で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_019711.2)が挙げられる。ヒトRBMS2 タンパク質としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_002889.1)が挙げられ、マウスRBMS2 タンパク質としては、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_062685.2)が挙げられる。また、RBMS2 タンパク質には、N末端が欠損したタイプのものも包含され、このようなタイプのものとしては、例えばマウスの場合であれば、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001034169.1)(mRNAは、配列番号7で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_001039080.1))が挙げられる。
【0116】
検出対象であるRBMS2 タンパク質は、炎症促進因子mRNA(例えば、IL-6 mRNA、COX-2 mRNA、IL-8 mRNA、IL-1β mRNA、TNF-α mRNA、MMP1 mRNA、IL-24 mRNA、c-Myc mRNA等)由来の3’UTRを有するmRNA又は該mRNAにより翻訳されるタンパク質の発現を促進できる活性(炎症促進因子発現促進活性)を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等のアミノ酸変異を有していてもよい。変異としては、炎症促進因子発現促進活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0117】
また、検出対象であるRBMS2 mRNAも、該mRNAから翻訳されるタンパク質が炎症促進因子発現促進活性を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等の塩基変異を有していてもよい。変異としては、該mRNAから翻訳されるタンパク質においてアミノ酸置換が生じない変異やアミノ酸の保存的置換が生じる変異が好ましい。
【0118】
炎症促進因子発現促進活性の有無は、公知の方法に従って又は準じて判定することができる。例えば、実施例に記載の方法に従って又は準じて判定することができる。具体例としては、実施例1Bにおいて、発現ベクターとして被検タンパク質の発現ベクターを用いた場合に、空ベクターを用いた場合よりもルシフェラーゼ活性が高ければ、該被検タンパク質は炎症促進因子発現促進活性を有すると判定することができる。
【0119】
検出対象であるRBMS2 タンパク質の好ましい具体例としては、下記(a)に記載するタンパク質及び下記(b)に記載するタンパク質:
(a)配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(b)配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0120】
上記(b)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0121】
上記(b)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(b’) 配列番号2、5、又は6に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0122】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2~30個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0123】
検出対象であるRBMS2 mRNAの好ましい具体例としては、下記(c)に記載するタンパク質及び下記(d)に記載するmRNA:
(c)配列番号3、4、又は7に示される塩基配列からなるmRNA、及び
(d)配列番号3、4、又は7に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNA
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0124】
上記(d)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0125】
上記(d)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(d’) 配列番号3、4、又は7に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列からなり、且つ炎症促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNAが挙げられる。
【0126】
上記(d’)において、複数個とは、例えば2~500個であり、好ましくは2~100個であり、より好ましくは2~50個であり、よりさらに好ましくは2~10個である。
【0127】
RBMS2遺伝子発現産物検出剤は、上記したRBMS2遺伝子発現産物の検出及び定量が可能なものであれば特に限定されない。RBMS2遺伝子発現産物検出剤としては、RBMS2遺伝子発現産物が核酸(例えば、RBMS2 mRNA、それに由来する核酸(cDNA等)等)である場合は、例えばプライマー、プローブ等が挙げられ、RBMS2遺伝子発現産物がタンパク質である場合は、例えば抗体等が挙げられる。
【0128】
プライマーやプローブ等は、RBMS2 mRNAやそれに由来する核酸等を選択的に(特異的に)認識するものであれば、特に限定されない。ここで、「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、RBMS2 mRNAが特異的に検出できること、またRT-PCR法においてはRBMS2 mRNA若しくはそれに由来する核酸(cDNA等)が特異的に増幅されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または増幅物がRBMS2 mRNAに由来するものであると判断できるものであればよい。
【0129】
プライマーやプローブの具体例としては、下記(e)に記載するポリヌクレオチド並びに下記(f)に記載するポリヌクレオチド:
(e)RBMS2 mRNAの塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/若しくは当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、並びに
(f)RBMS2 mRNAの塩基配列若しくはそれに相補的な塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0130】
相補的なポリヌクレオチド又は相補的な塩基配列(相補鎖、逆鎖)とは、RBMS2 mRNAの塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチド又は塩基配列を意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0131】
プライマーやプローブ等は、例えば配列番号3、4、又は7に示されるRBMS2 mRNAの塩基配列をもとに、例えばベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記RBMS2 mRNAの塩基配列をベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列を、プライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0132】
プライマーやプローブ等の塩基長は、上述のように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであれば特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。塩基長としては、例えばプライマーとして用いる場合であれば、例えば15塩基~100塩基、好ましくは15塩基~50塩基、より好ましくは15塩基~35塩基が例示でき、例えばプローブとして用いる場合であれば、例えば15塩基~全配列の塩基数、好ましくは15塩基~1000塩基、より好ましくは100塩基~1000塩基が例示できる。
【0133】
プライマーやプローブ等は、その機能が著しく損なわれない限りにおいて、修飾が施されていてもよい。修飾としては、例えば、標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等の付加が挙げられる。
【0134】
本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6-FAM(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミン(TMR)〕を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる〔Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照〕。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製、オリゴヌクレオチドECL 3’-オリゴラベリングシステム等)。
【0135】
プライマーは、任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明の診断薬は、プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)を固定化プローブ(例えばプローブを固定化したDNAチップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等。以下「DNAチップ等」と総称する。)の形態として提供することができる。
【0136】
固定化に使用される固相は、オリゴまたはポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相へのオリゴまたはポリヌクレオチドの固定は、予め合成したオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上に載せる方法であっても、また目的とするオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製など)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である〔例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等〕。
【0137】
抗体等は、RBMS2タンパク質を選択的に(特異的に)認識するものであれば、特に限定されない。ここで、「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばウェスタンブロット法やELISA法において、RBMS2タンパク質が特異的に検出できることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物がRBMS2タンパク質に由来するものであると判断できるものであればよい。
【0138】
抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。RBMS2タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
【0139】
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology , Chapter 11.12~11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したRBMS2タンパク質を用いて、あるいは常法に従って当該RBMS2タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したRBMS2タンパク質、あるいはRBMS2タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4~11.11)。
【0140】
抗体の作製に免疫抗原として使用されるRBMS2タンパク質は、公知の遺伝子配列情報に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0141】
具体的には、RBMS2をコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としてのタンパク質を得ることができる。またRBMS2タンパク質の部分ペプチドは、公知の遺伝子配列情報に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0142】
また本発明の抗体は、RBMS2タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴ(ポリ)ペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、RBMS2タンパク質と同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つRBMS2タンパク質のアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴ(ポリ)ペプチドを例示することができる。
【0143】
かかるオリゴ(ポリ)ペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット-ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
【0144】
本発明の診断薬は、上記したRBMS2遺伝子発現産物検出剤を含有するものであれば特に限定されず、該検出剤のみからなるもの、該検出剤の他に、例えばRBMS2遺伝子発現産物の検出に必要なものを含んでいてもよい。このような物の具体例としては、ハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液、器具等が挙げられる。本発明の診断薬は、これらを含んだ診断薬キットの形態であってもよい。
【0145】
本発明の診断薬の診断対象疾患は、炎症促進因子(例えばIL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、c-Myc等)により発症又は増悪する疾患である限り特に制限されない。診断対象疾患として、具体的には、例えば免疫疾患、炎症性疾患、疼痛性疾患等が挙げられる。診断対象疾患として、より具体的には、例えば自己免疫疾患、リウマチ性疾患、関節リウマチ、変性関節疾患、関節炎、敗血症、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、脊椎関節症、炎症性疼痛、術後疼痛、アレルギー性疾患等が挙げられ、好ましくは自己免疫疾患、関節リウマチ、リンパ増殖性疾患、中枢性脱髄疾患、術後疼痛、アレルギー性疾患等が挙げられ、より好ましくは関節リウマチが挙げられる。
【0146】
本願における自己免疫疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:ギラン・バレー症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、バセドウ病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、シェーグレン症候群。
【0147】
本願におけるリウマチ性疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:関節リウマチ、若年性特発性関節炎、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎、血管炎症候群、ベーチェット病、シェーグレン症候群、関節症性乾癬。
【0148】
本願における変性関節疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:変形性膝関節症、変形性股関節症、変形性肘関節症、変形性肩関節症、変形性手関節症、変形性足関節症。
【0149】
本願におけるリンパ増殖性疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:リンパ浮腫、リンパ節炎、悪性リンパ種、キャッスルマン病。
【0150】
本願における中枢性脱髄疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、炎症性広汎性硬化症。
【0151】
本願における脊椎関節症には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:強直性脊椎炎、反応性関節炎、乾癬性関節炎。
【0152】
本願における炎症性疼痛には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎、歯痛。
【0153】
本願におけるアレルギー性疾患には次のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:接触性皮膚炎、湿疹、蕁麻疹、クインケ浮腫、結節性紅斑、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性皮膚疾患、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、薬物アレルギー、食物アレルギー。
【0154】
本発明の診断薬は、後述の「2.疾患の検出方法」及び「3.疾患の進行度の判定方法」に記載のとおり、上記診断対象疾患の有無(すなわち、被検体が疾患に罹患しているか否か)の診断、及び上記診断対象疾患の進行度の診断に用いることが可能である。
【0155】
2.疾患の検出方法
本発明は、RBMS2発現量を指標とした、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の検出方法(本明細書において、「本発明の疾患検出方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0156】
本発明の疾患検出方法の具体的態様としては、例えば次の態様が挙げられる:
(a1)被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b1)上記工程(a1)で測定された被検発現量を、免疫疾患、炎症性疾患及び疼痛性疾患のいずれにも罹患していない対照被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c1)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体が免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患であるとの判断指標とする、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の検出方法。
【0157】
被検体は、本発明の疾患検出方法の対象であり、その生物種は特に限定されない。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類が挙げられる。
【0158】
試料は、RBMS2遺伝子発現産物を含む試料であれば特に制限されず、検出対象疾患の種類等に応じて適宜選択される。試料としては、例えば血液試料、尿試料、その他各種組織片等が挙げられる。試料としては、生体から採取したそのままのものを用いてもよいが、検出対象のRBMS2遺伝子発現産物を常法に従って精製・濃縮したものが好ましい。また、検出対象のRBMS2遺伝子発現産物が核酸である場合は、RBMS2 mRNAから該mRNAの配列情報を反映する核酸(例えばcDNA等)を調製し、これを試料として用いることもできる。
【0159】
RBMS2遺伝子発現産物の被検発現量及び対照発現量の測定は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。好適には、上述の本発明の診断薬を用いて行うことができる。RBMS2遺伝子発現産物が核酸(RBMS2 mRNA又はそれに由来する核酸(cDNA等))である場合であれば、例えば、本発明の診断薬をプローブやプライマーとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法等により測定することができる。RBMS2遺伝子発現産物がタンパク質である場合であれば、例えば、本発明の診断薬を抗体として用いて、ウェスタンブロット法、ELISA法等により測定することができる。
【0160】
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の診断薬をプローブとして用いることによって、試料中のRBMS2 mRNA若しくはそれに由来する核酸の有無やその量を測定することができる。具体的には、本発明の診断薬(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被検者の試料由来のmRNAとハイブリダイズさせた後、形成された診断薬と被検者の試料由来のmRNAとの二重鎖を、診断薬の標識物(RI若しくは蛍光物質などの標識物質)に由来するシグナルを放射線検出器BAS-1800II(富士フィルム社製)または蛍光検出器などで検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って診断薬を標識し、被検者の試料由来のmRNAとハイブリダイズさせた後、診断薬の標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
【0161】
RT-PCR法を利用する場合は、本発明の診断薬をプライマーとして用いることによって、試料中のRBMS2 mRNA若しくはそれに由来する核酸の有無やその量を測定することができる。具体的には、被検者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的領域が増幅できるように、本発明の診断薬から調製した一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した診断薬をプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0162】
DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の診断薬をDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被検者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明の診断薬から調製される標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。
【0163】
ウェスタンブロット法は、本発明の診断薬を一次抗体として用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などの標識物質に由来するシグナルを放射線測定器BAS-1800II(富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定する方法が例示される。また、一次抗体として本発明の診断薬を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で測定することもできる。
【0164】
被検発現量との対比対象である対照発現量は、被検体1つの対照発現量であってもよいが、複数の被検体の対照発現量の平均値や中央値等の方が好ましい。
【0165】
被検体が免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患であるかどうかの判断は、対照発現量に比べて被検発現量が高いことを基準として判断される。具体的には、例えば対照発現量に比べて被検発現量が50%以上上昇、好ましくは100%以上上昇、より好ましくは200%以上上昇していることを指標として行うことができる。
【0166】
3.疾患の進行度の判定方法
本発明は、RBMS2発現量を指標とした、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の進行度の判定方法(本明細書において、「本発明の進行度判定方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0167】
本発明の進行度判定方法の具体的態様としては、例えば次の態様が挙げられる:
(a2)免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患に罹患している被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b2)上記工程(a2)で測定された被検発現量を、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患に罹患している対照被検体から採取された試料におけるRBMS2遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c3)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体の方が、対照被検体よりも免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の進行度が高いとの判断指標とする、免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の進行度の判定方法。
【0168】
被検体、試料、被検発現量及び対照発現量の測定、被検発現量との対比対象である対照発現量等については、上記「2.疾患の検出方法」に記載のとおりである。
【0169】
疾患の進行度とは、例えばIL-6、COX-2、IL-1β、IL-8、TNF-α、MMP1、IL-24、c-Myc等の炎症促進因子の発現と関連する症状の重篤度と定義することができる。
【0170】
被検体の方が、対照被検体よりも免疫疾患、炎症性疾患又は疼痛性疾患の進行度が高いかどうかの判断は、対照発現量に比べて被検発現量が高いことを基準として判断される。具体的には、例えば対照発現量に比べて被検発現量が50%以上上昇、好ましくは100%以上上昇、より好ましくは200%以上上昇していることを指標として行うことができる。
【実施例
【0171】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0172】
実施例1:IL-6転写後調節因子としてのRBMS2の同定
実施例1A
IL-6転写後調節因子を見出すべく、スクリーニングを行った。概要を図1Aに示す。具体的には、次のように行った。まず、SV40プロモーターの下流に、5’側からルシフェラーゼのORF、IL-6の3’UTR(配列番号1)が配置されてなるレポーターベクターを作製した。該レポーターベクター、及び種々の遺伝子の発現ベクターを、384ウェルプレート上で、トランスフェクション試薬(Fugene HD、プロメガ社製)を用いてHEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、各ウェルにおけるルシフェラーゼ活性を測定した。得られた測定値を、コントロール(発現ベクターとして空ベクターを導入したサンプル)の測定値と比較し、コントロールに対して変化のあった発現ベクターをスクリーニングした(1次スクリーニング)。選択された発現ベクターから、RNAに関連付けられた約100遺伝子の発現ベクターを抽出し、上記と同様にスクリーニングを行った(2次スクリーニング)。
【0173】
2次スクリーニングの結果、IL-6転写後調節因子としてのRBMS2(NP_002889.1、配列番号2)が同定された。
【0174】
実施例1B
実施例1Aで作製したレポーターベクター、又は該レポーターベクターからヒトIL-6の3’UTRが除かれてなるコントロールレポーターベクターを、RBMS2発現ベクター又は空ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図1Bに示す。
【0175】
図1Bに示されるように、RBMS2はIL-6の3’UTR依存的にルシフェラーゼ活性を上昇させた。
【0176】
実施例1C
RBMS2に対するsiRNA(Human RBMS2-1 (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select, siRNA ID No. s11867、配列番号8))、若しくはHuman RBMS2-2 (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select, siRNA ID No. s11868、配列番号9)、又はコントロールsiRNA(Negative control (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select Negative Control No. 1 siRNA, 製品番号: 4390843))を、MDA-MB-231細胞に導入した。導入から48時間後にIL-1βを培地に添加(終濃度:20ng/ml)し、該添加から3時間後に細胞を回収した。なお、MDA-MB-231細胞は恒常的にIL-6を産生し、IL-1β刺激によりさらに多くのIL-6を発現する。細胞からcDNAを調製し、定量PCRによりRBMS2 mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号12、Reverse配列番号13)及びIL-6 mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号14、Reverse配列番号15)の発現量を測定した。結果を図1Cに示す。
【0177】
図1Cに示されるように、MDA-MB-231細胞において、RBMS2発現抑制によりIL-6 mRNAの発現量が顕著に低下した。
【0178】
実施例1D
導入から36時間後にIL-1βを添加し、且つ該添加から16時間後に培養上清を回収して該上清中のIL-6タンパク質発現量をELISAにより測定する以外は、実施例1Cと同様に行った。結果を図1Dに示す。
【0179】
図1Dに示されるように、MDA-MB-231細胞において、RBMS2発現抑制によりIL-6タンパク質の発現量が顕著に低下した。
【0180】
実施例1E
RBMS2を発現するレトロウィルス又はコントロールレトロウィルスをMDA-MB-231細胞に感染させた後、ピューロマイシンの存在下で1週間培養し、RBMS2の強制発現細胞を得た。この細胞をIL-1βで3時間刺激した後に細胞を回収し、細胞からcDNAを調製した。細胞におけるIL-6 mRNAの発現量を定量PCRにより測定した。結果を図1Eに示す。
【0181】
図1Eに示されるように、RBMS2の強制発現によりIL-6 mRNAの発現量が上昇した。
【0182】
実施例1F
IL-6遺伝子のプロモーター(配列番号36)の下流に、ルシフェラーゼ遺伝子のORFが配置されてなるレポーターベクターを作製した。該レポーターベクターを、RBMS2発現ベクター又は空ベクターと共に、MDA-MB-231細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図1Fに示す。
【0183】
図1Fに示されるように、RBMS2の発現は、IL-6プロモーターにより誘導されるルシフェラーゼ活性には影響を与えなかった。
【0184】
実施例1の結果
以上より、RBMS2はIL-6 mRNAの転写調節ではなく転写後調節を介してIL-6の発現を正に制御することが強く示唆された。
【0185】
実施例2:RBMS2によるAREを介したIL-6 mRNA安定化
実施例2A
RBMS2発現ベクター又は空ベクターをTHP-1細胞に導入した。導入から48時間後にLPSを培地に添加(終濃度:1 ug/ml)することによりIL-6 mRNAの発現を誘導し、該添加から5時間後にアクチノマイシンDを培地に添加(終濃度:5 ug/ml)することによりmRNA合成を停止させた。発現ベクター導入から48時間後、LPS添加から5時間後、及びアクチノマイシンD添加から3時間後に細胞を回収し、定量PCRによりIL-6 mRNA量を測定した。結果を図2Aに示す。
【0186】
図2Aに示されるように、空ベクターを導入した場合、LPSによりIL-6 mRNAの発現が誘導されるが、アクチノマイシンD処理により転写を阻害すると、IL-6 mRNAは急速に分解され、その量は減少する。これに対して、RBMS2を強制発現させた場合、アクチノマイシンD処理後により多くのIL-6 mRNAの残存が確認された。このことから、RBMS2によりIL-6 mRNAの半減期が延長したことが示唆された。
【0187】
実施例2B
テトラサイクリン応答因子(TRE)及びプロモーターの下流に、5’側からルシフェラーゼのORF、IL-6の3’UTRが配置されてなるテトラサイクリン応答発現ベクターを作製した。このテトラサイクリン応答発現ベクターを、RBMS2発現ベクター又は空ベクターと共に、予めTet-off調節プラスミドが組み込まれたHEK293T細胞に導入した。導入から24時間後にドキシサイクリンを培地に添加(終濃度:10 ug/ml)した。ベクター導入から24時間後、及びドキシサイクリン添加から2時間後に細胞を回収し、定量PCRによりルシフェラーゼ mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号16、Reverse配列番号17)の量を測定した。結果を図2Bに示す。
【0188】
図2Bに示されるように、空ベクターを導入した場合、ドキシサイクリン添加(mRNA合成停止)によりIL-6 3’UTRを含むルシフェラーゼ mRNA量が低下する。これに対して、RBMS2を強制発現させた場合、ドキシサイクリン添加後により多くのIL-6 3’UTRを含むルシフェラーゼ mRNAの残存が確認された。このことから、RBMS2により、IL-6 3’UTRを含むルシフェラーゼ mRNAの半減期が延長したことが示唆された。
【0189】
実施例2C
プロモーターの下流に、5’側からルシフェラーゼのORF、IL-6の変異型3’UTR(97-267(塩基配列:配列番号37)、122-193(塩基配列:配列番号38)、ΔARE1(塩基配列:配列番号39)、ΔARE2(塩基配列:配列番号40)、又はARE mutant(塩基配列:配列番号41))が配置されてなる変異型3’UTRレポーターベクターを作製した。この変異型3’UTRレポーターベクターを、RBMS2発現ベクター又は空ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図2Cに示す。
【0190】
IL-6 mRNAの3’UTRには、mRNAの安定化に関わるステムループ構造と、AUに富んだAU-rich element(ARE)が存在する。ステムループ構造はRNaseであるRegnase-1(ZC3H12A)による認識及びそれに続く分解に重要なエレメントである。また、ARID5aはRegnase-1の機能と拮抗することでIL-6 mRNAの安定化に寄与することが報告されている。しかし、図2Cに示されるように、RBMS2は、3’UTRにおいてこのステムループ構造が欠損したレポーター(97-267及び122-193)の活性を上昇させた。
【0191】
IL-6 mRNAには2つの隣り合ったAREが2箇所近接して存在する。この領域を介してTTPなどのARE結合タンパク質がmRNAの分解に関与することが知られている。図2Cに示されるように、一方のARE領域を欠損すると、RBMS2によるレポーター活性の上昇が見られなかった(ΔARE1及びΔARE2)。また、AREの配列を変異(UをGに置換)させても、RBMS2によるレポーター活性の上昇が見られなかった(ARE mutant)。このことから、RBMS2はARE領域を介してmRNAの安定化に関与することが示唆された。
【0192】
実施例2の結果
以上より、RBMS2が、ARE領域を介したmRNA安定化機構により、IL-6の発現を転写後レベルで制御することが強く示唆された。
【0193】
実施例3:AREを介したRBMS2とIL-6 mRNAの結合
実施例3A
実施例1Aで作製したレポーターベクター(ルシフェラーゼORFの下流にIL-6の野生型3’UTR)、又は実施例2Cで作製したARE変異型3’UTRレポーターベクター(ARE mutant)を、FLAG標識したRBMS2の発現ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間後に細胞を回収し、細胞溶解液を調製した。該細胞溶解液を抗FLAG抗体又は非特異的IgGにより免疫沈降し、免疫沈降物に含まれるルシフェラーゼmRNA量を定量PCRにより測定した。結果を図3Aに示す。
【0194】
図3Aに示されるように、抗FLAG抗体の免疫沈降により、IL-6の野生型3’UTR を含むルシフェラーゼmRNAの強い濃縮が認められた。これに対して、ARE変異型3’UTR を含むルシフェラーゼmRNAは濃縮されなかった。以上より、RBMS2がAREを介して結合することが示唆された。
【0195】
実施例3B
実施例1Aで作製したレポーターベクター(ルシフェラーゼORFの下流にIL-6の野生型3’UTR)を、FLAG標識した野生型RBMS2又はRRM1ドメイン欠損型RBMS2(アミノ酸配列:配列番号46)の発現ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間後に細胞を回収し、細胞溶解液を調製した。該細胞溶解液を抗FLAG抗体又は非特異的IgGにより免疫沈降し、免疫沈降物に含まれるルシフェラーゼmRNA量を定量PCRにより測定した。結果を図3Bに示す。
【0196】
図3Bに示されるように、RBMS2のRRM1ドメイン欠損変異体を過剰発現させても、RNAの濃縮が見られないことから、AREへの結合にRRM1ドメインが重要であることが示唆された。
【0197】
実施例3C
実施例1Aで作製したレポーターベクター(ルシフェラーゼORFの下流にIL-6の野生型3’UTR)を、FLAG標識した野生型RBMS2又はRRMドメイン欠損型RBMS2(RBMS2 ΔRRM1(アミノ酸配列:配列番号46)、RBMS2 ΔRRM2(アミノ酸配列:配列番号47)、又はRBMS2 ΔRRM1/2(アミノ酸配列:配列番号48))の発現ベクター、或いは空ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図3Cに示す。
【0198】
図3Cに示されるように、RRM1ドメインを欠損するRBMS2変異体では、IL-6 3’UTR依存的なルシフェラーゼ活性の上昇が見られなかった。
【0199】
実施例3の結果
以上より、RBMS2は、IL-6 mRNAの3’UTRに存在するAREへ、RRM1ドメインを介して結合することにより、IL-6の発現を亢進することが示唆された。
【0200】
実施例4:RBMS2によるAREを含む遺伝子の発現制御
実施例4A
RBMS2に対するsiRNA(Human RBMS2-1 (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select, siRNA ID No. s11867、配列番号8))、若しくはHuman RBMS2-2 (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select, siRNA ID No. s11868、配列番号9)、又はコントロールsiRNA(Negative control (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select Negative Control No. 1 siRNA, 製品番号: 4390843))を、MDA-MB-231細胞に導入した。導入から48時間後にIL-1βを培地に添加(終濃度:20 ng/ml)し、該添加から3時間後に細胞を回収した。細胞からcDNAを調製し、定量PCRによりRBMS2 mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号12、Reverse配列番号13)、IL-6 mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号14、Reverse配列番号15)、PTGS2(COX-2)mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号20、Reverse配列番号21)、IL-8 mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号22、Reverse配列番号23)、IL-1β mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号18、Reverse配列番号19)、NFKBIA mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号24、Reverse配列番号25)、ZC3H12A mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号26、Reverse配列番号27)の発現量を測定した。結果を図4Aに示す。
【0201】
図4Aに示されるように、MDA-MB-231細胞において、RBMS2発現抑制により、3’UTRにARE領域を有するIL-1β、IL-8、及びCOX-2の発現が抑制された。一方で、3’UTRにARE領域を持たないNFKBIAやZC3H12Aの発現に差は見られなかった。
【0202】
実施例4B
RBMS2に対するsiRNA(Mouse RBMS2-1 (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select, siRNA ID No. s80716、配列番号10)、若しくはMouse RBMS2-2 (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select, siRNA ID No. s80717、配列番号11))、又はコントロールsiRNA(Negative control (Thermo Fisher Scientific (Ambion), Silencer Select Negative Control No. 1 siRNA, 製品番号: 4390843))を、MEF細胞に導入した。導入から48時間後にLPS、Pam3CSK4又はIL-1βを培地に添加(LPS終濃度:1 ug/ml、Pam3CSK4終濃度:1 ug/ml、又はIL-1β終濃度:20 ng/ml)し、該添加から3時間後に細胞を回収した。細胞からcDNAを調製し、定量PCRによりRBMS2 mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号28、Reverse配列番号29)、IL-6 mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号30、Reverse配列番号31)、IL-1β mRNA(PCRプライマー:Forward配列番号32、Reverse配列番号33)、TNF-αmRNA(PCRプライマー:Forward配列番号34、Reverse配列番号35)の発現量を測定した。結果を図4Bに示す。
【0203】
図4Bに示されるように、マウス胎児性線維芽細胞(MEF)において、LPS、Pam3CSK4、又はIL-1βの刺激によるTNF-α、IL-1β、及びIL-6の発現上昇が、RBMS2発現抑制により抑制された。
【0204】
実施例4C
プロモーターの下流に、5’側からルシフェラーゼのORF、3’UTR(IL-8の野生型3’UTR(塩基配列:配列番号42)、IL-8のARE変異型3’UTR(塩基配列:配列番号43)、IL-1βの野生型3’UTR(塩基配列:配列番号44)、IL-1βのARE変異型3’UTR(塩基配列:配列番号45))が配置されてなるレポーターベクターを作製した。作製したレポーターベクター、実施例1Aで作製したレポーターベクター(ルシフェラーゼORFの下流にIL-6の野生型3’UTR)、又は実施例2Cで作製したIL-6のARE変異型3’UTRレポーターベクター(ARE mutant)を、RBMS2発現ベクター又は空ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図4Cに示す。
【0205】
図4Cに示されるように、IL-6、IL-8、IL-1β等の3’UTRに含まれるAREに変異を加えると、RBMS2によるルシフェラーゼ活性の上昇が見られなかった。
【0206】
実施例4の結果
以上より、RBMS2が、IL-6 mRNAのみならず、AREを持つmRNAの制御に関わることが明らかになった。また、RBMS2を抑制することにより、IL-6 mRNA等の炎症促進因子の発現量を低下させることができることが明らかとなった。
【0207】
実施例5:RBMS2欠損マウスにおける炎症性サイトカインの発現低下
実施例5A
TALENを用いたゲノム編集により、RBMS2欠損マウスを作製した。その結果、第2エクソンを含む110塩基を欠損した変異マウスを得ることに成功した。作製スキームを図5Aに示す。
【0208】
実施例5B
RBMS2ホモ欠損マウス、RBMS2ヘテロ欠損マウス、又は野生型マウスの骨髄より得られた細胞をM-CSF存在下で7日間培養し、骨髄由来マクロファージ(BMDM)を得た。BMDMの培養培地に、LPS(終濃度:100ng/ml)、Pam3CSK4(終濃度:300ng/ml)、又はpoly I:C(終濃度:10ug/ml)を添加した。添加前、或いは添加から1時間、3時間、5時間、又は9時間経過後に細胞を回収し、IL-6の発現量を定量PCRにより測定した。結果を図5Bに示す。
【0209】
図5Bに示されるように、Pam3CSK4刺激で誘導されるIL-6の発現が、RBMS2欠損マウスにおいて顕著に減少していた。
【0210】
実施例5C
BMDM培養培地にPam3CSK4を添加し、且つIL-1β、COX-2及びTNF-αの発現量を測定する以外は、実施例5Bと同様に行った。
【0211】
図5Cに示されるように、IL-6以外の遺伝子についても、実施例5Bと同様の結果が得られた。
【0212】
実施例6:RBMS2欠損マウスの敗血症抵抗性
RBMS2ホモ欠損マウス(n=7)又は野生型マウス(n=5)の腹腔内に、LPSを投与(15mg/kg)した。投与後、5時間後に血清を採取し、さらに各マウスの生存時間を計測した。また、血清中のIL-6濃度を定量PCRにより測定した。生存時間の計測結果を図6Aに示し、IL-6濃度の測定結果を図6Bに示す。
【0213】
図6A及びBに示されるように、野生型マウスはLPSの腹腔内投与により81時間以内に60%マウスが死亡したが、RBMS2ノックアウトマウスは、炎症促進因子であるIL-6の発現量が抑制されており、80%以上が生き残った。以上の結果から、RBMS2がin vivoにおいて炎症応答の増悪化に関与することが明らかになった。
【0214】
実施例7:関節リウマチ患者におけるRBMS2発現量とIL-6発現量との相関
関節リウマチ患者(n=12)由来の末梢血単核球よりRNAを逆転写した後に、RBMS2及びIL-6の発現量を定量PCRにより測定した。結果を図7に示す。
【0215】
図7に示されるように、関節リウマチ患者由来の末梢血単核球においてRBMS2の発現とIL-6の発現量は正の相関を示した。
【0216】
非関節リウマチ患者の場合のIL-6の発現量は関節リウマチ患者に比べて低い点、及び関節リウマチ患者においてIL-6の発現量は疾患の進行度と相関する点を考慮すると、上記結果より、RBMS2の発現量を指標とすることにより、関節リウマチ(その有無、及び進行度)の診断が可能であることが示唆された。
【0217】
実施例8:RBMS2の発現を制御する因子の探索
ヒトT細胞株であるJurkat細胞の培養培地に、IL-10タンパク質又はTGFβタンパク質を添加した(終濃度:IL-10タンパク質→20 ng/mL、TGFβタンパク質→10 ng/mL)。添加前、添加から8時間及び24時間経過後の細胞からcDNAを調製し、定量PCRによりRBMS2 mRNA及びHPRT(コントロール)mRNAの発現量を測定した。結果を図8に示す。
【0218】
図8に示されるように、IL-10タンパク質の添加により、RBMS2 mRNAの発現量が低下した。このことから、IL-10タンパク質はRBMS2発現抑制作用を有することが見出された。
【0219】
実施例9:AREを含む遺伝子の発現制御活性の比較
実施例4Cの結果から、RBMS2の活性はIL-6 3’UTRに存在するステムループ構造ではなくAU-rich element(ARE)に依存することが明らかになった。一方、HuRは、AREを介した炎症性サイトカインの発現を正に制御しうることが報告されており、RBMS2と役割が類似していると考えられた。そこで、RBMS2とHuRとの活性を、ルシフェラーゼアッセイにより比較した。
【0220】
具体的には、まず、プロモーターの下流に、5’側からルシフェラーゼのORF、IL-6の3’UTR又はPTGS2(COX-2)の3’UTRが配置されてなるレポーターベクターを作製した。該レポーターベクターを、RBMS2発現ベクター、HuR発現ベクター、又は空ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図9に示す。
【0221】
その結果、IL-6 3’UTRを用いた場合、RBMS2によりルシフェラーゼ活性が亢進するのに対して、HuRではそのような亢進は見られなかった。また、HuRが作用すると報告されているPTGS2(COX-2)の3’UTRを用いた場合、HuRによりルシフェラーゼ活性の亢進が見られたが、RBMS2はHuRよりさらに強力にその活性を亢進させることが明らかになった。このことから、RBMS2は、HuRとは異なるmRNAを標的とすると共に、共通の標的mRNAについてもHuRより強い活性を有することが強く示唆された。
【0222】
実施例10:RRM1ドメインを介したRBMS2とAREの結合
実施例10A
これまで、RRMドメイン中のβシートがRNA結合活性に必須であり、そして芳香族アミノ酸がβシートの形成に必要であることが報告されている。そこで、タンパク質二次構造の予測プログラムを用いてRRM1ドメイン中のβシートを推定し、該βシート内のアミノ酸の変異体の発現ベクターを作製した。これらの発現ベクター、或いは空ベクターを、実施例1Aで作製したレポーターベクター(ルシフェラーゼORFの下流にIL-6の野生型3’UTR)と共に、MDA-MB-231細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図10Aに示す。
【0223】
その結果、RRM1ドメイン中の2つのフェニルアラニン残基(F101及びF104)が、RBMS2によるレポーター活性促進に必要であることが明らかになった。
【0224】
実施例10B
F101/F104A変異体を発現するレンチウイルスをMDA-MB-231細胞に導入し、5日間後に細胞からcDNAを調製し、定量PCRによりIL-6 mRNA及びIL-8 mRNAの発現量を測定した。結果を図10Bに示す。
【0225】
図10Bに示されるように、F101/F104A変異体を過剰発現しても、内在性IL-6及びIL-8の発現レベルを向上させることができなかった。
【0226】
実施例10C
実施例1Aで作製したレポーターベクター(ルシフェラーゼORFの下流にIL-6の野生型3’UTR)を、FLAG標識したF101/F104A変異体の発現ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間後に細胞を回収し、細胞溶解液を調製した。該細胞溶解液を抗FLAG抗体又は非特異的IgGにより免疫沈降し、免疫沈降物に含まれるルシフェラーゼmRNA量を定量PCRにより測定した。結果を図10Cに示す。
【0227】
図10Cに示されるように、F101A及びF104Aのダブル変異により、IL-6の3’UTRとの結合が著しく減弱した。
【0228】
実施例11
2,4-ジニトロフルオロベンゼン溶液(溶媒はアセトンとオリーブオイルの混合溶液(アセトン4:オリーブオイル1))をRBMS2ホモ欠損マウス(n=15)の腹部に塗布した。1週間後、2,4-ジニトロフルオロベンゼン溶液(溶媒はアセトンとオリーブオイルの混合溶液(アセトン4:オリーブオイル1))又は該混合溶媒のみを、マウスの耳に塗布した。6時間後に耳介の厚みを測定し、得られた測定値から、試験前の耳介の厚みの値を減じた値を、耳介の腫れの表す指標とした。結果を図11に示す。
【0229】
図11に示されるように、RBMS2ホモ欠損の方が耳介の腫れの程度が低かった。このことから、RBMS2が接触性皮膚炎などのアレルギー性疾患に関与していることが示唆された。
【0230】
実施例12
MDA-MB-231細胞に、ネガティブコントロールまたはRBMS2に対するsiRNAをトランスフェクションした(それぞれn=3)。48時間後にRNAを調整して、RNAシークエンス用のライブラリーをプロトコールに従って(イルミナ社)調製し、Next-seqによりRNAシークエンスを行なった。RBMS2ノックダウンにより発現量が2倍以上に増加または2分の1以下に低下した遺伝子を図12に示す。
【0231】
図12に示されるように、IL-6、IL-8、MMP1、c-myc、IL-24 mRNA等の、3’UTRにAREを有するmRNAの発現量が、RBMS2のノックダウンにより低下することが分かった。
【0232】
また、上記実施例1~12のとおり、RBMS2がIL-6のみならず他の炎症促進因子(IL-1β、IL-8、COX-2、TNF-α、MMP1、IL-24、c-Myc等の3’UTRにAREを有する遺伝子)の発現も制御していることから、これらの炎症促進因子が発症及び進行に関与している疾患(免疫疾患、炎症性疾患、疼痛性疾患等)についても、RBMS2の発現量を指標とすることにより疾患の有無及び進行度の診断が可能であることが示唆された。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
【配列表】
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