(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】創傷修復促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/662 20060101AFI20221116BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20221116BHJP
A61K 9/68 20060101ALI20221116BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221116BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20221116BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221116BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221116BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221116BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
A61K31/662
A61K9/20
A61K9/68
A61K9/06
A61K9/70
A61K9/08
A61P17/02
A61P43/00 107
A61P1/02
(21)【出願番号】P 2019513617
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2018015607
(87)【国際公開番号】W WO2018194000
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2017081239
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512230513
【氏名又は名称】株式会社ナールスコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 龍藏
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽子
(72)【発明者】
【氏名】矢口 学
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴志
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-062266(JP,A)
【文献】特開2016-011262(JP,A)
【文献】特開2016-155762(JP,A)
【文献】国際公開第2010/123102(WO,A1)
【文献】特開2015-013828(JP,A)
【文献】MOLECULAR MEDICINE REPORTS,2016年,Vol.13, pp.3813-3820
【文献】THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY,2003年,Vol.120, No.6, pp.1023-1029
【文献】European Journal of Pharmacology,1994年,Vol.271, pp.489-495
【文献】住吉 秀明,コラーゲン分子種と線維症形成へのかかわり,医学のあゆみ,2013年,Vol.244,No.6,pp.515-520
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、
眼粘膜の創傷修復促進剤。
【化1】
[式中、R
1
はC
1-4
アルキル基置換フェニル基を示し、R
2
は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。前記C
1-4
アルキル基置換フェニル基
、及び炭素数1~3のアルキル基は、置換基として、ハロゲン原子、-COO
H、-SO
3
H、及び-SO
2N
HR
3
からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい
。前記R
3
は水素原子又は
炭素数1~3のアルキル基を示す。nは1
~6の整数を示す]
【請求項2】
下記式(1’)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、口腔粘膜の創傷修復促進剤。
【化2】
[式中、R
1
、R
2
は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。前記炭素数1~3のアルキル基は、置換基として、ハロゲン原子、-COOH、-SO
3
H、及び-SO
2
NHR
3
からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい。前記R
3
は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは1~6の整数を示す]
【請求項3】
下記式(1’)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、歯周病の予防又は治療用製剤。
【化3】
[式中、R
1
、R
2
は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。前記炭素数1~3のアルキル基は、置換基として、ハロゲン原子、-COOH、-SO
3
H、及び-SO
2
NHR
3
からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい。前記R
3
は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは1~6の整数を示す]
【請求項4】
下記式(1”)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、結膜の創傷修復促進剤。
【化4】
[式中、R
1
、R
2
は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又はC
1-4
アルキル基置換フェニル基を示す。前記炭素数1~3のアルキル基、及びC
1-4
アルキル基置換フェニル基は、置換基として、ハロゲン原子、-COOH、-SO
3
H、及び-SO
2
NHR
3
からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい。前記R
3
は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは1~6の整数を示す]
【請求項5】
下記式(1”)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、角膜の創傷修復促進剤。
【化5】
[式中、R
1
、R
2
は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又はC
1-4
アルキル基置換フェニル基を示す。前記炭素数1~3のアルキル基、及びC
1-4
アルキル基置換フェニル基は、置換基として、ハロゲン原子、-COOH、-SO
3
H、及び-SO
2
NHR
3
からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい。前記R
3
は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは1~6の整数を示す]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の創傷の修復促進効果を有する製剤に関する。本願は、2017年4月17日に日本に出願した、特願2017-081239号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進む社会において医療費の高騰をいかに抑制するかが、国家財政の大きな課題となっている。そして、前記課題を解決する手段として、先制医療(病気の発症を抑制、若しくは遅らせる医療)の必要性が高まっている。
【0003】
例えば、歯周病は歯周病菌の細胞外膜を構成するLPSによって引き起こされる歯周組織(歯と歯を支える組織)における様々な病態の総称であり、歯肉炎、歯周炎、歯槽骨の吸収を経て歯の喪失に至る疾患であり、食生活に不自由を来すばかりでなく、糖尿病、肝炎、心筋梗塞につながる動脈硬化、慢性腎臓病、誤嚥性肺炎との関連も指摘されている。そのため、歯周病を予防又は治療することが、前記のような疾患の発生を予防する上で非常に重要である。
【0004】
歯周病の予防には、歯面清掃によって歯周病の原因菌を除菌し、その温床となる歯垢、歯石を除去することが有効であることが知られている。しかし、加齢等により生体機能が低下している場合には、歯面清掃のみでは歯周病の発症を予防することは困難であった。また、外科的な手術以外に歯周組織を回復させる方法は知られていない。
【0005】
特許文献1にはLPS活性を阻害する特定の界面活性剤を含む組成物を歯磨剤として使用すれば歯周病を抑制できることが記載されている。しかし、一度喪失した歯周組織を修復することはできなかった。
【0006】
創傷とは、擦過傷、裂傷、切創、挫傷、潰瘍、褥瘡、糖尿病性潰瘍、熱傷、炎症、細胞壊死等、何らかの要因によって組織表面が欠損した状態である。創傷修復は、最も組織化された免疫又は炎症反応の1つであり、(1)炎症期(2)肉芽組織形成期(3)再構築期の3つの過程に大別される。炎症期においては、組織損傷に伴って局所の炎症反応が惹起され、好中球やマクロファージが創傷部位に遊走してくる。マクロファージは各種炎症性サイトカインやケモカインを分泌することにより炎症反応をさらに増強する。これに続く肉芽組織形成期においては、血管内皮細胞の増殖により血管新生が誘導されるとともに、創部に浸潤してきた線維芽細胞が増殖してコラーゲン等の細胞外マトリックスを産生することにより肉芽組織を形成し組織の再生を図る。さらに、肉芽組織内の線維芽細胞は、アクチンを多く含み収縮力に富む筋線維芽細胞へと分化する。この時期にみられる創収縮は、この筋線維芽細胞が主となっておこる現象で、効率よく創面積を縮小させるための有用な方法である。そして再構築期においては、肉芽組織の上部に上皮細胞の形成が誘導され、元の正常な構造が再構築される。
【0007】
これまでの研究により、創傷修復の進行においてTGF-βが最も重要なサイトカインであること、TGF-βが受容体に結合するとSmadを介してシグナル伝達がなされること、TGFβ/Smadシグナルによって創傷治癒関連遺伝子が厳密に調節されていることが示唆されている(非特許文献1)。しかしながら、「調節」には、促進と抑制の両方向の作用が包含され、実際には、単にTGF-β/Smadシグナルを促進すれば創傷修復の反応が上昇することは意味していない。例えば、創傷治癒におけるSmadの役割として、Smad3欠損により創傷治癒が促進されることが示され、TGF-βによるシグナル伝達がない方が創傷修復を促進する一面が知られている(非特許文献2、3)。更に、TGF-β1を過剰発現させたトランスジェニックマウスにおいて、創傷治癒が遅延したことから、TGF-β1が創傷治癒に対してネガティブな作用を有することを示した報告もある(非特許文献4)。
【0008】
PDLIM2(PDZ and LIM domain protein-2)は、LIMタンパク質ファミリーに属する核内ユビキチンリガーゼであり、PDZおよびLIMドメインを有する。PDLIM2は、T細胞におけるTh1細胞分化に必須の転写因子の1つであるSTAT4に核内で結合し、これをユビキチン化及び分解することによりSTAT4によるシグナル伝達を終息させる(非特許文献5)。また、特許文献2には、PDLIM2の発現抑制によって皮膚の欠損の修復が促進されることが記載されている。
【0009】
近年、各種の細胞増殖因子が創傷治癒過程に重要な役割を果たしていることが明らかになり、皮膚の創傷治療に対する有効性が期待されている。特に、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF)ファミリーのうち、FGF2(ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子-2、「bFGF」とも呼ばれる)は、線維芽細胞の増殖を著しく促進する効果及び血管新生を促進する効果を有するタンパク質として見出された。そのため、FGF2は褥瘡、皮膚潰瘍などの難治性の創傷の治療剤として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-1387号公報
【文献】特開2010-280651号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Ashcroft GS et al., Nat Cell Biol, 1, p260 (1999)
【文献】Falanga V et al., Wound repair and Regeneration, 12, p320 (2004)
【文献】Wang Y, et al., Experimental Neurology,203, p168 (2007)
【文献】Wang X et al., J Investig Dermatol Symp Proc, 11, p112 (2006)
【文献】Tanaka et al., Immunity, 22, p729 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、組織の創傷の修復促進効果を有する製剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、粘膜の創傷の修復促進効果を有する製剤を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、線維芽細胞を含む組織の創傷の修復促進効果を有する製剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、歯周病による歯周組織の喪失を予防し、歯周病により喪失した歯周組織を修復する作用を有する製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物を炎症反応が引き起こされた線維芽細胞に適用すると、
[1]好中球の走化性を高めることにより生体細胞自体の防御機能を向上させる効果を有するIL-8の産生を増大させること
[2]壊死組織タンパクを融解して創傷を清浄化するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の産生を増大させること
[3]線維芽細胞の増殖刺激を行って上皮の形成を促進する効果を有する上皮成長因子(EGF)の産生を増大させること
[4]創傷部位の収縮を抑制する効果を有するPDLIM2の産生を低下させ、それによって線維芽細胞の増殖を著しく促進する効果及び血管新生を促進する効果を有するFGF2の産生を増大させること
を見いだした。そして、上記[1]~[4]の効果が組み合わさることにより早期に炎症を終結させて、創傷の修復を促進し、治癒に要する時間を短縮する効果を発揮することを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、創傷修復促進剤を提供する。
【化1】
[式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基として、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい炭化水素基(前記R
3は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を示す)を示す。nは1以上の整数を示す]
【0015】
本発明は、また、粘膜の創傷修復促進剤である、前記の創傷修復促進剤を提供する。
【0016】
本発明は、また、線維芽細胞を含む組織の創傷修復促進剤である、前記の創傷修復促進剤を提供する。
【0017】
本発明は、また、歯周病の予防又は治療用製剤である、前記の創傷修復促進剤を提供する。
【0018】
本発明は、また、下記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、歯磨剤、洗口剤、マウススプレー、含嗽剤、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤、タブレット、キャンディ、チューイングガム、塗布剤、貼付剤、点鼻剤、又は点眼剤である、前記の創傷修復促進剤を提供する。
【化2】
[式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基として、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい炭化水素基(前記R
3は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を示す)を示す。nは1以上の整数を示す]
【発明の効果】
【0019】
上記式(1)で表される化合物は、細胞為害性を有さず安全性に優れる。そして、上記(1)で表される化合物を含有する製剤を創傷部位に適用すると、前記式(1)で表される化合物と、創傷部位における炎症反応を制御するために免疫担当細胞から分泌されたサイトカイン(例えば、TGF-β等の抗炎症性サイトカイン)とが協調して作用することで、一次的に、IL-8、MMP、FGF、及びEGFの産生を増大させ、また当該化合物によりPDLIM2の産生を抑制し、それによって線維芽細胞の増殖を著しく促進する効果及び血管新生を促進する効果を有するFGF2の産生を増大させることによって早期に炎症を終結させて創傷の修復を促進し、治癒に要する時間を短縮する効果を発揮することができる。
そのため、創傷部位に前記製剤を適用すると治癒を早めることができ、加齢や疾患によって生体機能が低下している場合には、生体のバリア機能を高めることができ、生体のバリア機能低下により引き起こされる種々の疾患を予防する効果が得られる。尚、前記製剤は、ヒトに限らず動物においても同様の効果を発揮することができる。
例えば、前記製剤を口腔粘膜へ適用すると、バリア機能を高められ、それによって歯周病の発症を抑制することができ、歯周病による歯周組織の喪失を予防することができる。また、一度喪失した歯周組織であっても、修復し、回復させることができる。そのため、前記製剤は、歯周病の予防又は治療用製剤として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例で得られた製剤の安全性評価結果を示す図である。
【
図2】実施例で得られた製剤の初期IL-8産生促進効果を示す図である。
【
図3】実施例で得られた製剤適用後のIL-8産生量の経時的変化を示す図である。
【
図4】実施例で得られた製剤適用後のIL-8遺伝子発現量の経時的変化を示す図である。
【
図5】実施例で得られた製剤及びTGF-βの一方又は両方を適用後のTGF-β、アンフィレグリン、及びMMP3の発現量を示す図である。縦軸は、TGF-β及びD-AP6非存在下における各遺伝子の発現量を1とした相対量を示す。
【
図6】D-AP6及びTGF-βの一方又は両方を適用後、若しくはNalsgen及びTGF-βの一方又は両方を適用後の、MMP9、MMP13、HAS2、及びPDLIM2の発現量を示す図である。縦軸は、TGF-β、D-AP6及びNalsgen非存在下における各遺伝子の発現量を1とした相対量を示す。
【
図7】Nalsgen及びTGF-βの一方又は両方を適用後の、FGF2の発現量を示す図である。縦軸は、TGF-β及びNalsgen非存在下におけるFGF2の発現量を1とした相対量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において「創傷」とは、擦過傷、裂傷、切創、挫傷、潰瘍、褥瘡、糖尿病性潰瘍、熱傷、炎症、細胞壊死等、何らかの要因によって組織表面が欠損した状態を示す。前記組織には、例えば、皮膚や粘膜が含まれる。また、前記皮膚には、表皮、真皮、及び皮下組織が含まれる。前記粘膜には、上皮(若しくは、粘膜上皮)、粘膜固有層、及び粘膜下層が含まれる。
【0022】
[創傷修復促進剤]
本発明の創傷修復促進剤は、下記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む。尚、下記式(1)で表される化合物は少なくとも1個の不斉原子を有する。そのため、下記式(1)で表される化合物には少なくとも2種の光学異性体が存在する。本発明の創傷修復促進剤は、下記式(1)で表される化合物として、光学異性体(若しくは、鏡像異性体)の等量混合物(=ラセミ体)を使用してもよく、又前記光学異性体の等量混合物を光学分割して得られる光学活性体(若しくは、片方の鏡像異性体)を使用しても良い。尚、ラセミ体の光学分割にはジアステレオマー塩法やキラルカラムを用いた分割法等、周知慣用の方法を採用することができる。
【0023】
【化3】
[式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基として、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい炭化水素基(前記R
3は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を示す)を示す。nは1以上の整数を示す]
【0024】
前記R1、R2における炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらが単結合を介して結合した基が含まれる。
【0025】
脂肪族炭化水素基としては、C1-20(=炭素数1~20)の脂肪族炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数C1-20(好ましくはC1-10、特に好ましくはC1-3)程度のアルキル基;ビニル基、アリル基、1-ブテニル基等のC2-20(好ましくはC2-10、特に好ましくはC2-3)程度のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のC2-20(好ましくはC2-10、特に好ましくはC2-3)程度のアルキニル基等が挙げられる。
【0026】
脂環式炭化水素基としては、C3-20脂環式炭化水素基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のC3-20(好ましくはC3-15、特に好ましくはC5-8)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等のC3-20(好ましくはC3-15、特に好ましくはC5-8)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基等の橋かけ環式炭化水素基等が挙げられる。
【0027】
芳香族炭化水素基としては、C6-14(特に、C6-10)芳香族炭化水素基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0028】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基には、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基等のシクロアルキル置換アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル置換C1-4アルキル基等)等が含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基等)、アルキル置換アリール基(例えば、1~4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基等)等が含まれる。
【0029】
前記R3における脂肪族炭化水素基としては、上記R1、R2における脂肪族炭化水素基と同様の例を挙げることができる。
【0030】
前記R3における脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、C1-4アルコキシ基、C6-10アリールオキシ基、C7-16アラルキルオキシ基、C1-4アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(例えば、C1-4アルコキシカルボニル基、C6-10アリールオキシカルボニル基、C7-16アラルキルオキシカルボニル基等)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル等のC1-4アルキル置換カルバモイル、フェニルカルバモイル基等のC6-10アリール置換カルバモイル基)、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基(例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ基等のモノ又はジC1-4アルキルアミノ基;1-ピロリジニル、ピペリジノ、モルホリノ基等の5~8員の環状アミノ基;アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ基等のC1-10アシルアミノ基;ベンゼンスルホニルアミノ、p-トルエンスルホニルアミノ基等のスルホニルアミノ基)、スルホ基、複素環式基等が挙げられる。また、前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。
【0031】
nは1以上の整数を示し、例えば1~10の整数である。
【0032】
式(1)で表される化合物としては、下記[I][II]が含まれる。
[I]式(1)中のOR1基とOR2基が何れもOH基である化合物(化合物(I))
[II]式(1)中のOR1基とOR2基の少なくとも一方が、OH基以外の基である化合物(化合物(II))
【0033】
化合物(I)におけるnとしては、好ましくは2~10の整数、特に好ましくは2~8の整数である。
【0034】
化合物(II)におけるnとしては、好ましくは1~8の整数、特に好ましくは2~6の整数である。
【0035】
化合物(II)におけるOR1基とOR2基の組みあわせとしては、下記[II-i]~[II-v]の組み合わせが好ましい。特に、式(1)中のnが1又は2の場合は下記[II-i]~[II-iv]の組み合わせが好ましく、式(1)中のnが3以上の整数の場合は下記[II-v]の組み合わせが好ましい。
【0036】
[II-i]下記式(i-1)で表される基と下記式(i-2)で表される基の組み合わせ
【化4】
[式(i-1)中、R
4は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環式基を示す]
[式(i-2)中、R
5~R
7は、同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、-COOR
8、-CONR
8
2、-COR
8、-OCOR
8、-CF
3、-CN、-SR
8、-SOR
8、-SO
2R
8、-SO
2NR
8
2、-PO(OR
8)
2、及び-NO
2からなる群より選択される基を示す。前記R
8は、水素原子、アルキル基、又はアルケニル基を示す。R
5~R
7から選択される2つの基は互いに結合して、式(i-2)で示される基において、これらの基が結合する炭素原子と共に、環を形成していてもよい]
【0037】
前記脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、上述のR1、R2における脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基と同様の例を挙げることができる。
【0038】
前記複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等)を有する3~10員環(好ましくは4~6員環)、及びこれらの縮合環を挙げることができる。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)等が挙げられる。複素環式基は前記複素環の構造式から1個の水素原子を除いた基である。
【0039】
前記R4~R7における脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及び複素環式基が有していてもよい置換基としては、前記R3における脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基と同様の例を挙げることができる。
【0040】
[II-ii]下記式(ii-1)で表される基と下記式(ii-2)で表される基の組み合わせ
【化5】
[式(ii-1)中、R
9は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し、R
10は水素原子又は下記式(r10)
【化6】
(式中、R
11は水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。n1は0~4の整数、n2は0又は1、n3は0~4の整数を示す。n1~n3から選択される2以上が同一であってもよい。X
1はアミド結合又はアルケニレン基を示し、X
2は-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基(前記R
3は、前記に同じ)を示す)
で表される基を示す]
[式(ii-2)中、Y
1は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ハロゲン原子、-COOR
8、-CONR
8
2、-COR
8、-OCOR
8、-CF
3、-CN、-SR
8、-SOR
8、-SO
2R
8、-SO
2NR
8
2、-PO(OR
8)
2、及び-NO
2からなる群より選択される基を示す。R
8は前記に同じ。Y
2は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基(前記R
3は、前記に同じ)を示す。Y
1とY
2は互いに結合して、式(ii-2)中のベンゼン環を構成する炭素原子と共に、環を形成していてもよい]
【0041】
[II-iii]置換基を有していてもよいアルコキシ基と、下記式(iii-1)~(iii-4)で表される基から選択される基の組み合わせ
【化7】
(式中、R
12は水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。Y
1、Y
2は前記に同じ。Y
1とY
2は互いに結合して、式中の芳香環を構成する炭素原子と共に、環を形成していてもよい)
【0042】
[II-iv]OR
1基とOR
2基が、同一又は異なって、下記式(iv-1)で表される基である組み合わせ
【化8】
(式中、Y
1、Y
2は前記に同じ。Y
1とY
2は互いに結合して、式中のベンゼン環を構成する炭素原子と共に、環を形成していてもよい)
【0043】
[II-v]ヒドロキシル基と置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素オキシ基(好ましくはC1-6アルコキシ基)との組み合わせ
【0044】
上記アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、及び脂肪族炭化水素オキシ基が有していてもよい置換基としては、前記R3における脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基と同様の例を挙げることができる。
【0045】
前記脂肪族炭化水素オキシ基を構成する脂肪族炭化水素基としては、上記R1、R2における脂肪族炭化水素基と同様の例を挙げることができる。
【0046】
前記化合物(I)としては、下記式(I-1)~(I-5)で表される化合物(光学異性体を含む)が好ましい。
【化9】
【0047】
前記化合物(II)としては、下記式(II-1)~(II-2)で表される化合物(光学異性体を含む)が好ましい。
【化10】
【0048】
式(1)で表される化合物は水和物であってもよく、又、式(1)で表される化合物やその水和物は塩を形成していてもよい。式(1)で表される化合物やその水和物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニアとの塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチル-D-グルカミン等の含窒素有機塩基との塩;リジン、アルギニン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との塩;遷移金属塩;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸との塩;シュウ酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
【0049】
上記式(1)で表される化合物のうち化合物(I)は、例えば下記工程[1]~[4]を経て製造することができる。また、化合物(II)は、例えば下記工程[1]~[10]を経て製造することができる。
【0050】
下記式中、nは前記に同じ。Xはハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子)を示し、R、R’は、同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基を示す。R”はアミノ基の保護基を示す。DPRは保護基で保護されたアミノ基の脱保護剤を示す。尚、アミノ基の保護基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基、炭素数7~18のアラルキル基、アシル基(RaC(=O)基;Raは炭素数1~10のアルキル基)、アルコキシカルボニル基(RbOC(=O)基;Rbは炭素数1~10のアルキル基)、置換基を有していても良いベンジルオキシカルボニル基、置換基を有していても良いフェニルメチリデン基、置換基を有していても良いジフェニルメチリデン基等が挙げられる。また、前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
工程[1]の反応は、式(2)で表されるジハロゲン化アルキレンに、式(3)で表される亜リン酸エステルを反応させて、式(4)で表されるホスホノアルカン酸を得る反応(ミカエリス・アルブゾフ反応;Michaelis-Arbuzov Reaction)である。前記式(3)で表される亜リン酸エステルの使用量は、式(2)で表されるジハロゲン化アルキレン1モルに対して、例えば0.1~1.0モル程度である。
【0055】
工程[1]の反応の反応温度は、例えば130~140℃程度が好ましい。反応時間は、例えば0.5~2時間程度である。
【0056】
工程[2]の反応は、工程[1]の反応を経て得られた式(4)で表されるホスホノアルカン酸に、式(5)で表される化合物を反応させて、式(6)で表される化合物を得る反応である。前記式(5)で表される化合物の使用量は、式(4)で表されるホスホノアルカン酸1モルに対して、例えば0.7~1.3モル程度である。
【0057】
工程[2]の反応は、塩基の存在下で行うことが、反応の進行を促進する効果が得られる点で好ましい。前記塩基としては、例えば、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩類(特にアルカリ金属の炭酸塩類);水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;リン酸二水素ナトリウムやリン酸二水素カリウム等のリン酸塩類(特にアルカリ金属のリン酸塩類);酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等のカルボン酸塩類(特にアルカリ金属のカルボン酸塩類);トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシド類(特にアルカリ金属のアルコキシ類);水素化ナトリウム等の金属水素化物類等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。塩基の使用量は、式(4)で表されるホスホノアルカン酸1モルに対して、例えば0.9~1.1モル程度である。
【0058】
工程[2]の反応は溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;酢酸エチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;メタノール、エタノール、t-ブタノール等のアルコール類;ペンタン、ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、ブロモホルム、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等の含ハロゲン化合物;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み併せて使用することができる。
【0059】
工程[2]の反応の反応温度は、例えば100~110℃程度が好ましい。反応時間は、例えば6~24時間程度である。
【0060】
工程[3]の反応は、工程[2]の反応を経て得られた式(6)で表される化合物の保護基で保護されたカルボキシ基(-COOR’)、及び保護基で保護されたアミノ基(-NHR")、及び保護基で保護されたホスホン酸基(-P(=O)(OR)2)を脱保護して、式(7)で表される化合物を得る反応である。保護基で保護された基の脱保護は、脱保護剤を反応させることにより行うことができる。前記脱保護剤(上記式中では、「DPR」で表される)としては、強塩基(例えば、水酸化ナトリウム)又は強酸(例えば、塩酸)を好適に使用することができる。
【0061】
工程[3]の反応の反応温度は、例えば90~100℃程度が好ましい。反応時間は、例えば20~24時間程度である。
【0062】
工程[4]の反応は、工程[3]の反応を経て得られた式(7)で表される化合物に、脱保護剤をトラップする作用を有する化合物を反応させて、化合物(I)を得る反応である。脱保護剤をトラップする作用を有する化合物としては、例えば脱保護剤が塩酸である場合は、プロピレンオキシドを使用することができる。脱保護剤をトラップする作用を有する化合物の使用量は、式(7)で表される化合物1モルに対して、例えば3.0~6.0モル程度である。
【0063】
工程[5]は、化合物(I)のカルボキシル基に保護基を導入する工程であり、例えば、化合物(I)とRCOH(RCは置換基を有していてもよいアリール基又はアラルキル基を示し、好ましくはベンジル、4-ニトロベンジル基である)を反応させることにより保護基を導入することができる。この反応は、酸触媒(例えば、塩酸等)の存在下、室温付近の温度環境下で行うことが好ましい。反応時間は、例えば12~24時間程度である。
【0064】
工程[6]は、化合物(I)のアミノ基に保護基を導入する工程であり、例えば、溶媒に溶解した化合物(I)中にR”Xを滴下して反応させることにより、保護基を導入することができる。この反応は、塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム等)の存在下で行うことが好ましい。
【0065】
前記溶媒としては、例えば、水、ハロゲン化炭化水素系溶媒、飽和又は不飽和炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒等を1種又は2種以上使用することができる。
【0066】
滴下時温度は、室温以下が好ましく、特に0℃付近が好ましい。反応時間は、例えば0.5~2時間程度である。また、滴下終了後は例えば25~30℃に保温した状態で、例えば10~24時間程度、撹拌しつつ熟成させることが好ましい。
【0067】
工程[7]は、リン酸基の2つのヒドロキシル基をハロゲン原子で置換する工程であり、例えば、工程[5][6]を経て得られた化合物に、触媒及び溶媒の存在下でハロゲン化剤を反応させることにより行うことができる。前記触媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド等を使用することができる。また、前記溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒等を1種又は2種以上使用することができる。前記ハロゲン化剤としては、例えば、塩酸オキサリル、塩化チオニル、五塩化リン、オキシ塩化リン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。この反応は、室温付近の温度で1時間程度行うことが好ましい。
【0068】
工程[8]は、R1OHを反応させて、工程[7]を経て得られたリン原子に結合するハロゲン原子の一方をOR1に置換する工程である。この反応は塩基の存在下で行うことが好ましく、塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルイソプロピルアミン、N-メチルイミダゾール、ピリジン等が挙げられる。また、この反応は溶媒の存在下で行うことが好ましく、溶媒としては乾燥ジクロロメタンを使用することが好ましい。反応は、-65℃付近で30分間程度撹拌した後、室温までゆっくり昇温し、その後室温を保持した状態で1~3時間程撹拌して行うことが好ましい。
【0069】
工程[9]は、R2OHを反応させて、リン原子に結合するハロゲン原子の他方をOR2に置換する工程である。工程[9]は、R1OHに代えてR2OHを使用する以外は工程[8]と同様の方法で行うことができる。
【0070】
工程[10]は、保護基で保護されたカルボキシル基とアミノ基を脱保護する工程であり、例えば、接触水素還元法、塩化アルミニウムを用いた脱保護法等により行うことができる。前記接触水素還元法は、パラジウムを活性炭や硫酸バリウム等の担体に担持させたパラジウム系触媒や白金系触媒の存在下で、工程[9]を経て得られた化合物中に水素ガスをバブリングする方法である。また、前記塩化アルミニウムを用いた脱保護法は、三塩化アルミニウムを加えた溶媒(例えば、乾燥ニトロメタン等の高極性溶媒)で、工程[9]を経て得られた化合物とアニソールとを反応させる方法である。
【0071】
各工程の反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。また、反応は常圧、減圧又は加圧下で行なうことができる。更に、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0072】
各工程終了後は、得られた反応生成物に、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段を施して精製してもよい。
【0073】
式(1)で表される化合物の水和物は、上記方法で得られた化合物(I)又は化合物(II)を、水と水溶性溶媒とを用いた晶析処理に付すことにより製造することができる。
【0074】
前記水溶性溶媒としては、室温(25℃)において水と任意の割合で溶解する有機溶媒が好ましく、水に対する溶解度が50%以上(好ましくは80%以上、特に好ましくは95以上)のものが好ましい。
【0075】
前記水溶性溶媒としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール等の炭素数1~5の低級アルコール)を使用することが好ましい。
【0076】
式(1)で表される化合物の塩は、上記方法で得られた化合物(I)又は化合物(II)に、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の塩基性化合物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチル-D-グルカミン等の含窒素有機塩基;リジン、アルギニン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸;シュウ酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸等を反応させることにより製造することができる。
【0077】
本発明の創傷修復促進剤は、有効成分として、上記式(1)で表される化合物(例えば、化合物(I)及び/又は化合物(II))、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種、好ましくは、上記式(I-1)~(I-5)(II-1)~(II-2)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種)(光学異性体を含む)を含む。
【0078】
本発明の創傷修復促進剤における、上記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、用途に応じて適宜調整することができる。例えば、本発明の創傷修復促進剤を歯周病の予防又は治療用に用いる場合は、例えば0.001~500μg/mL、好ましくは0.005~300μg/mL、より好ましくは0.01~200μg/mL、更に好ましくは0.01~100μg/mL、特に好ましくは0.01~10μg/mL、最も好ましくは0.01~1.0μg/mL、とりわけ好ましくは0.01~0.5μg/mLである。
【0079】
本発明の創傷修復促進剤は上記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物以外にも他の成分を含有していても良い。他の成分は用途に応じて適宜調整することができる。例えば、本発明の創傷修復促進剤を歯周病の予防又は治療用に用いる場合は、歯磨剤、洗口剤、マウススプレー、口腔塗布剤(例えば、口腔ジェル剤、口腔軟膏)、咽喉用スプレー、含嗽剤、パスタ剤、軟ペースト剤、咽喉用塗布剤、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤等に一般的に含有される成分が挙げられる。
【0080】
本発明の創傷修復促進剤を創傷部に適用すると、本発明の創傷修復促進剤を適用しない場合に比べて、抗炎症サイトカインの1つであるTGF-βの産生が促進される。尚、本発明の創傷修復促進剤を正常な上皮に適用しても、TGF-βの産生を増大させることはない。従って、本発明の創傷修復促進剤は細胞毒性を有さず、安全性に優れる。
【0081】
本発明の創傷修復促進剤を創傷部(例えば、LPS刺激等によって炎症反応が引き起こされた線維芽細胞)に適用すると、本発明の創傷修復促進剤を適用しない場合に比べて、初期(例えば、適用後0.5~60時間、好ましくは適用後1~48時間、特に好ましくは適用後2~36時間)にはIL-8産生が促進され、その後、IL-8産生は減少傾向となる。IL-8産生量は炎症の程度を示す指標でもあり、IL-8産生の減少は、炎症の程度が改善したことを示す。このことから、本発明の創傷修復促進剤は、IL-8産生促進により好中球の走化性を高め、それによって炎症を早期に終結させ、創傷の治癒を早める効果を有することがわかる。
【0082】
また、本発明の創傷修復促進剤を正常な上皮(若しくは、炎症反応を生じていない線維芽細胞)に適用しても、IL-8の産生を増大させることはない。従って、本発明の創傷修復促進剤は細胞毒性を有さず、安全性に優れる。
【0083】
本発明の創傷修復促進剤を創傷部に適用すると、本発明の創傷修復促進剤を適用しない場合に比べて、壊死組織タンパクを融解して創傷を清浄化するMMP(例えば、MMP3、MMP9、MMP13から選択される少なくとも1種)の産生が促進される。尚、本発明の創傷修復促進剤を、正常な上皮(若しくは、TGF-βが添加されていない線維芽細胞)に適用しても、MMPの産生を増大させることはない。
【0084】
また、本発明の創傷修復促進剤を創傷部に適応すると、本発明の創傷修復促進剤を適用しない場合に比べて、線維芽細胞および血管内皮細胞の増殖を促進して肉芽組織の形成を促進する効果を有するFGF(詳細には、FGF2)の産生が促進される。尚、本発明の創傷修復促進剤を、TGF-β非存在下の組織又は細胞に適用してもFGFの産生を増大させることはない。生体の創傷部においてはTGF-βが存在する生理的状態であるため、本発明の創傷修復促進剤を創傷部に適用することでFGF産生を促すことができる。
【0085】
また、本発明の創傷修復促進剤を創傷部に適用すると、本発明の創傷修復促進剤を適用しない場合に比べて、線維芽細胞の増殖刺激を行って上皮の形成を促進する効果を有するEGF(例えば、アンフィレグリン)の産生が促進される。尚、本発明の創傷修復促進剤を、正常な上皮に適用しても、EGFの産生を増大させることはない。
【0086】
また、本発明の創傷修復促進剤を創傷部に適用すると、本発明の創傷修復促進剤を適用しない場合に比べて、PDLIM2の産生が抑制される。そして、PDLIM2の産生抑制によりFGFの産生が誘導され、線維芽細胞の増殖が刺激される。
【0087】
更に、本発明の創傷修復促進剤を創傷部に適用すると、本発明の創傷修復促進剤を適用しない場合に比べて、ヒアルロン酸(例えば、HAS1、HAS2、HAS3から選択される少なくとも1種)の産生が促進される。尚、本発明の創傷修復促進剤を、正常な上皮に適用しても、ヒアルロン酸の産生を増大させることはない。
【0088】
本発明の創傷修復促進剤を創傷部位に適用すると、上記式(1)で表される化合物と、創傷部位の炎症反応を制御するために免疫担当細胞から分泌されたサイトカイン(例えば、TGF-β等の抗炎症性サイトカイン)とが協調して作用することで、一次的に、IL-8、MMP、FGF、EGF、及びヒアルロン酸の産生を増大させ、PDLIM2の産生を抑制することにより、早期に炎症を終結させて、創傷の修復を促進し、治癒に要する時間を短縮する効果を発揮することができる。
【0089】
本発明の創傷修復促進剤は、例えば、ペースト状、ゲル状、液状、乳液状、クリーム状の製剤として使用することができる。また、容器に封入してエアゾール状の製剤やスプレー状の製剤として使用することもできる。
【0090】
本発明の創傷修復促進剤は、創傷(例えば、擦過傷、裂傷、切創、挫傷、潰瘍、火傷、褥瘡、糖尿病性潰瘍、熱傷、炎症、細胞壊死等)の修復促進剤として有用であり、皮膚や粘膜[例えば、眼粘膜(角膜、角膜上皮、結膜等)、鼻粘膜、口腔粘膜、胃粘膜、腸管粘膜、子宮内膜、嗅上皮等]の創傷修復促進剤として好適に使用することができる。
【0091】
本発明の創傷修復促進剤は、また、線維芽細胞を含む組織の創傷修復促進剤として好適に使用することができる。
【0092】
本発明の創傷修復促進剤は、皮膚(表皮、真皮、及び皮下組織)の創傷修復に好適に使用することができ、創傷が表皮のみならず真皮の一部も欠損するような重度の場合であっても、優れた創傷修復促進効果を発揮することができる。すなわち、本発明の創傷修復促進剤は真皮の創傷修復促進剤としても好適に使用することができる。
【0093】
本発明の創傷修復促進剤を皮膚の創傷(好ましくは真皮の創傷)に用いる場合は、塗布剤(軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤等)、貼付剤(絆創膏、テープ剤等)、点鼻剤、点眼剤等として調製し、使用することができる。なお、これらは常法により調製することができる。
【0094】
本発明の創傷修復促進剤を特に口腔粘膜に用いる場合(例えば、歯周病の予防又は治療用として用いる場合)は、練歯磨、液体歯磨、液状歯磨、潤製歯磨等の歯磨剤、洗口剤、マウススプレー、口腔塗布剤(例えば、口腔ジェル剤、口腔軟膏)、咽喉用スプレー、含嗽剤、パスタ剤、軟ペースト剤、咽喉用塗布剤、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤、タブレット、キャンディ、チューイングガム等として調製し、使用することができる。尚、これらは常法により調製することができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0096】
調製例1(D-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・1水和物の調製)
1,4-ジブロモブタン(25g、116mmol)に亜リン酸トリエチル(5ml、29mmol)を加え、撹拌下に油浴で140℃まで昇温し、同温度で30分間加熱した後、放冷した。40℃付近まで冷却したところで、1mmHg付近まで減圧し、120℃付近まで加熱することによって、過剰のジブロモブタンを留去した。その残渣として、無色無臭の油状の4-ブロモブチルホスホン酸ジエチル(7.4g、収率:93%)を得た。
【0097】
4-ブロモブチルホスホン酸ジエチル(7.4g,27mmol)に、トルエン(20mL)、ジエチルカーボネート(10mL)、アセトアミドマロン酸ジエチル(4.4g、20mmol)、および60%水素化ナトリウム(1.1g、26mmol)をヘキサンで洗浄したものを仕込み、110℃で還流した。24時間還流した後、室温まで冷却し、セライトを用いて固体を濾去し、濾液を減圧濃縮することによって、褐色油状物の2-アセタミド-2-[4-(ジエトキシホスホリル)ブチル]マロン酸ジエチル(10.1g、収率:定量的)を得た。
【0098】
2-アセタミド-2-[4-(ジエトキシホスホリル)ブチル]マロン酸ジエチル(10.1g)を6N塩酸(50mL)に溶解し、24時間還流した。その後、減圧濃縮し、褐色油状物DL-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・塩酸塩(3.3g、収率;65%)を得た。
【0099】
DL-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・塩酸塩(3.3g、13mmol)を水(3.5mL)に溶解し、5~10℃に冷却下に激しく撹拌しながらプロピレンオキシド(3.5mL、50mmol)を滴下すると同時に、エタノール(18mL)を少しずつ滴下した後、室温下で3日間撹拌した。析出した結晶をろ取し、エタノールで洗浄した後、40℃で真空乾燥して、無色粉末状のDL-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・1水和物(1.6g、収率;55%)を得た。
【0100】
DL-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・1水和物(1.6g)とL-p-ヒドロキシフェニルグリシン(HPGM、1.4g)と水(18mL)を加熱溶解し、70℃でメタノール(30mL)を徐々に加えた後、徐冷し、25℃で3時間撹拌した。析出晶を濾過、洗浄、乾燥して、無色の粗結晶D-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・L-HPGM塩・1水和物(1g)を得た。
【0101】
この粗結晶D-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・L-HPGM塩・1水和物(1g)に水(6mL)を加え、75℃に加熱撹拌し、メタノール(26mL)を滴下した。徐冷し、15℃で3時間撹拌後、析出晶を濾過、洗浄、乾燥して、再結晶D-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・L-HPGM塩・1水和物(0.8g)を得た。
再結晶D-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・L-HPGM塩・1水和物(0.8g)を純水に溶解し、イオン交換樹脂(商品名「アンバーライトIR-120(H+)」、オルガノ(株)製)(5mL)にゆっくりと通液し、純水で十分に洗浄後、通液と洗液を合して濃縮した。残渣の固体にメタノール(5mL)を加え分散濾過し、メタノールで洗浄後、乾燥して、下記式(I-3')で表される無色結晶のD-2-アミノ-6-ホスホノヘキサン酸・1水和物(以後、「D-AP6」と称する場合がある)(0.4g)を得た。
【0102】
【0103】
実施例1~5
下記式(II-2)で表される化合物(商品名「GGsTop」、和光純薬工業(株)製、以後「Nalsgen」と称する場合がある)を水で希釈して、製剤(1)(濃度:0.01μg/mL)、製剤(2)(濃度:0.1μg/mL)、製剤(3)(濃度:1.0μg/mL)、製剤(4)(濃度:10.0μg/mL)、製剤(5)(濃度:100μg/mL)を得た。
【0104】
【0105】
(安全性評価)
実施例1~5で得られた製剤を歯肉線維芽細胞(臨床サンプル(健康歯肉)継代数7-10pass)へ適用して、為害性の有無をIL-8産生量を測定することで確認した。尚、実施例1~5で得られた製剤に代えて水を使用したものをコントロールとした。
その結果、実施例で得られた製剤は、何れも、コントロールのIL-8産生量を超えるものはなかったので、為害性を有さないことが確認された(
図1参照)。
【0106】
(治癒促進効果の評価)
Porphyromonas gingivalis (P.gingivalis)由来LPS(濃度:1.0μg/mL)と実施例1で得られた製剤の混合物(以後、「混合物(1)」と称する場合がある。尚、図中では「LPS+(0.01)」と示す)、又はP.gingivalis由来LPS(濃度:1.0μg/mL)と実施例2で得られた製剤の混合物(以後、「混合物(2)」と称する場合がある。尚、図中では「LPS+(0.1)」と示す)を歯肉線維芽細胞(臨床サンプル(健康歯肉)継代数7-10pass)へ適用して、24時間後のIL-8産生量を測定した。尚、P.gingivalis由来LPSと実施例で得られた製剤の混合物に代えて、P.gingivalis由来LPS(濃度:1.0μg/mL)のみ(以後、「LPSのみ」と称する場合がある。尚、図中では「LPS」と示す)を適用したものを比較例とした。また、水のみを適用したものをコントロールとした。
その結果、LPSのみを適用した場合に比べて、混合物(1)又は混合物(2)を適用した場合の方がIL-8産生量が上昇することが確認された(
図2参照)。IL-8産生上昇により、免疫担当細胞である好中球の走化性が高められ、治癒促進につながることから、混合物(1)、混合物(2)は治癒促進効果を有することが分かる。
【0107】
(IL-8産生量の経時的変化)
P.gingivalis由来LPS(濃度:1.0μg/mL)と実施例2で得られた製剤の混合物(=混合物(2))を歯肉線維芽細胞(臨床サンプル(健康歯肉)継代数7-10pass)へ適用して、適用後4時間後、24時間後、及び72時間後のIL-8産生量を測定した。また、混合物(2)に代えて、LPSのみを適用したものを比較例、実施例2で得られた製剤のみを適用したもの(
図3中においては(0.1)と称する)を参考例、水のみを適用したものをコントロールとした。尚、IL-8産生量の測定は、上澄みタンパク量をELISA法で測定することにより行った。
その結果、4時間後、及び24時間ではLPSのみを適用した場合に比べ、混合物(2)を適用した場合の方がIL-8産生量が高かったが、それ以降、混合物(2)を適用した場合のIL-8産生が減少傾向となり、72時間後にはLPSのみを適用した場合に比べ、混合物(2)を適用した場合の方がIL-8産生量が低くなった(
図3参照)。
【0108】
(IL-8遺伝子発現量の経時的変化)
P.gingivalis由来LPS(濃度:1.0μg/mL)と実施例2で得られた製剤の混合物(=混合物(2))を歯肉線維芽細胞(臨床サンプル(健康歯肉)継代数7-10pass)へ適用して、適用後4時間後、8時間後、及び24時間後のIL-8産生量を測定した。また、混合物(2)に代えて、LPSのみを適用したものを比較例、実施例2で得られた製剤のみを適用したもの(
図4中においては(0.1)と称する)を参考例、水のみを適用したものをコントロールとした。尚、IL-8遺伝子発現量の測定には、real time PCR 法を採用した。
その結果、4時間後、及び8時間ではLPSのみを適用した場合に比べ、混合物(2)を適用した場合の方がIL-8遺伝子発現量が高かったが、それ以降、混合物(2)を適用した場合のIL-8遺伝子発現量が減少傾向となり、24時間後にはLPSのみを適用した場合に比べ、混合物(2)を適用した場合の方がIL-8遺伝子発現量が低くなった(
図4参照)。
【0109】
以上より、本発明の創傷修復促進剤は、LPS刺激を受けた歯肉線維芽細胞において一時的にIL-8の産生量を増大させることにより早期に炎症を終結させ、創傷の治癒に要する時間を短縮する効果を有することがわかった。
【0110】
実施例6
マウス胎児由来線維芽細胞を10%FCS含有DMEM培地に撒き24時間培養を行った。その後、10%FCS含有DMEM培地を除去し、FCSを含まないDMEM培地を加えて更に24時間培養した。次に、Nalsgen、又は調製例1で得られたD-AP6を、10μg/mLとなるよう前記DMEM培地に添加して5時間培養し、その後、TGF-βをさらに加えて更に5時間培養を行った。培養後にRNA又はタンパク質を回収し、real time PCR 法を行いてMMP3、MMP9、MMP13、FGF、TGF-β、アンフィレグリン、PDLIM2、及びヒアルロン酸(HSA2)を定量した。
その結果、MMP3、MMP9、MMP13、FGF、TGF-β、アンフィレグリン、及びヒアルロン酸は、TGF-β単独添加で発現が増加したが、Nalsgen又はD-AP6単独添加では発現量に変化はなかった。ところが、TGF-βとNalsgen、又はTGF-βとD-AP6を添加した場合には、TGF-β単独で添加した場合に比べて、発現量が顕著に増大した(
図5、6、7参照)。
以上より、創傷が生じた場合、局所的にTGF-βが産生されるので、創傷部位に本発明の創傷修復促進剤を適用すると、TGF-βと創傷修復促進剤とが協調して創傷治癒速度を速める効果を有する遺伝子の発現を顕著に亢進させ、創傷治癒速度を速める効果を有する因子を増大させることにより、創傷の治癒速度を向上することが分かった。
また、PDLIM2は、Nalsgen又はD-AP6の添加で発現が抑制された(
図6参照)。
PDLIM2は線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化を抑制することで、創傷治癒速度の過剰な亢進を抑制し、創傷部位の収縮や線維化を抑制する。
従って、本発明の創傷治癒促進剤がPDLIM2を抑制することで、結果として、創傷治癒(線維芽細胞を含む組織の創傷修復、特に真皮の創傷修復)が促進されることが分かった。
【0111】
実施例7
「Nalsgen」を水で希釈して製剤(6)(濃度:0.005%)を得た。
結膜炎を発症した飼い犬に、得られた製剤(6)を点眼により投与し、30分後に抗生剤(セフメノキシム塩酸塩0.5%)の点眼を行うのを、1日2回で5日間行ったところ、眼の中央部表面が白濁していたのは透明になった。また、赤みが引き、膿みや目やには激減した。
尚、前記飼い犬はドライアイの症状を患い、しばしば、細菌感染による結膜炎を発症していた。製剤(6)の点眼を開始する前には、前記抗生剤の点眼を、1日2回で、1年以上継続して行っていたが治療効果が得られず、眼の中央部は白い膿みにより白濁し、目やにが大量に出ていた。
【0112】
この結果より、本発明の創傷修復促進剤がまず眼粘膜の創傷の修復を促進して、眼粘膜の状態を改善し、ここに抗生剤を添加することで、抗生剤による抗菌効果を顕著に発揮させることができ、高い治療効果が得られることが確認できた。
【0113】
以上のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記しておく。
[1] 式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、創傷修復促進剤。
[2] 式(1)で表される化合物が、式(I-1)~(I-5)で表される化合物(光学異性体を含む)から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の創傷修復促進剤。
[3] 式(1)で表される化合物が、式(II-1)~(II-2)で表される化合物(光学異性体を含む)から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の創傷修復促進剤。
[4] 粘膜の創傷修復促進剤である、[1]~[3]の何れか1つに記載の創傷修復促進剤。
[5] 線維芽細胞を含む組織の創傷修復促進剤である、[1]~[3]の何れか1つに記載の創傷修復促進剤。
[6] 歯周病の予防又は治療用製剤である、[1]~[5]の何れか1つに記載の創傷修復促進剤。
[7] 式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、歯磨剤、洗口剤、マウススプレー、含嗽剤、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤、タブレット、キャンディ、チューイングガム、塗布剤、貼付剤、点鼻剤、又は点眼剤である、[1]~[5]の何れか1つに記載の創傷修復促進剤。
[8] 式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物を含有する、歯磨剤、洗口剤、マウススプレー、含嗽剤、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤、タブレット、キャンディ、チューイングガム、塗布剤、貼付剤、点鼻剤、又は点眼剤。
[9] 式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物を0.001~500μg/mL含有する、歯磨剤、洗口剤、マウススプレー、含嗽剤、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤、タブレット、キャンディ、チューイングガム、塗布剤、貼付剤、点鼻剤、又は点眼剤。
[10] 式(I-1)~(I-5)(II-1)~(II-2)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種(光学異性体を含む)を含有する、歯磨剤、洗口剤、マウススプレー、含嗽剤、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤、タブレット、キャンディ、チューイングガム、塗布剤、貼付剤、点鼻剤、又は点眼剤。
[11] 式(I-1)~(I-5)(II-1)~(II-2)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種(光学異性体を含む)を0.001~500μg/mL含有する、歯磨剤、洗口剤、マウススプレー、含嗽剤、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤、タブレット、キャンディ、チューイングガム、塗布剤、貼付剤、点鼻剤、又は点眼剤。
[12] 式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物を含有する、ペースト状、ゲル状、液状、乳液状、クリーム状、エアゾール状、又はスプレー状製剤。
[13] 式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物を0.001~500μg/mL含有する、ペースト状、ゲル状、液状、乳液状、クリーム状、エアゾール状、又はスプレー状製剤。
[14] 式(I-1)~(I-5)(II-1)~(II-2)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種(光学異性体を含む)を含有する、ペースト状、ゲル状、液状、乳液状、クリーム状、エアゾール状、又はスプレー状製剤。
[15] 式(I-1)~(I-5)(II-1)~(II-2)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種(光学異性体を含む)を0.001~500μg/mL含有する、ペースト状、ゲル状、液状、乳液状、クリーム状、エアゾール状、又はスプレー状製剤。
[16] 眼粘膜の創傷修復促進剤である、[1]~[3]の何れか1つに記載の創傷修復促進剤。
[17] 結膜の創傷修復促進剤である、[1]~[3]の何れか1つに記載の創傷修復促進剤。
[18] 角膜の創傷修復促進剤である、[1]~[3]の何れか1つに記載の創傷修復促進剤。