(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤及び酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法
(51)【国際特許分類】
B01D 65/00 20060101AFI20221116BHJP
B01D 71/16 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B01D65/00
B01D71/16
(21)【出願番号】P 2021553448
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2020039353
(87)【国際公開番号】W WO2021079867
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019193701
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堀 孝義
(72)【発明者】
【氏名】松井 克憲
(72)【発明者】
【氏名】横川 翔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】上戸 龍
(72)【発明者】
【氏名】勝西 純久
(72)【発明者】
【氏名】植田 篤斉
(72)【発明者】
【氏名】桝井 貴裕
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-128760(JP,A)
【文献】特公昭52-032869(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒及び溶媒中に混在する変性ポリビニルアルコールを含み、
前記変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する、酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤。
【請求項2】
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は1%以上である、請求項1に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤。
【請求項3】
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は15%以上である、請求項2に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤。
【請求項4】
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は30%以下である、請求項2又は3に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤。
【請求項5】
前記脱塩性能回復剤のpHは3~8の範囲内である、請求項1乃至4の何れか1項に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤。
【請求項6】
有機酸及び該有機酸の塩を更に含む、請求項1乃至5の何れか1項に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤。
【請求項7】
無機塩を更に含む、請求項1乃至5の何れか1項に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤。
【請求項8】
ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールと溶媒とを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させるステップを含む、酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項9】
前記ステップでは、アセチル化度が1%以上である変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を、前記酢酸セルロース膜に接触させる、請求項8に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項10】
前記ステップでは、アセチル化度が15%以上である変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を、前記酢酸セルロース膜に接触させる、請求項9に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項11】
前記ステップにおいて、前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は、前記変性ポリビニルアルコールが前記脱塩性能回復剤の溶媒中で粗大化する温度である曇点が前記脱塩性能回復剤の温度よりも大きくなるようなアセチル化度である、請求項9又は10に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項12】
前記ステップにおいて、前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は、前記変性ポリビニルアルコールが前記脱塩性能回復剤の溶媒中で粗大化する温度である曇点が前記脱塩性能回復剤の温度Tと等しくなるアセチル化度を基準として下限値から上限値までの範囲であり、
前記曇点が(T-40)℃となるアセチル化度が前記上限値であり、前記曇点が(T+50)℃となるアセチル化度が前記下限値である、請求項9又は10に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項13】
前記ステップでは、アセチル化度が30%以下である変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を、前記酢酸セルロース膜に接触させる、請求項9乃至12の何れか1項に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項14】
前記ステップでは、pHが3~8の範囲内である前記脱塩性能回復剤を、前記酢酸セルロース膜に接触させる、請求項8乃至13の何れか1項に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項15】
前記ステップでは、有機酸及び該有機酸の塩を更に含む前記脱塩性能回復剤を前記酢酸セルロース膜に接触させる、請求項8乃至14の何れか1項に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項16】
前記ステップでは、無機塩を更に含む前記脱塩性能回復剤を前記酢酸セルロース膜に接触させる、請求項8乃至14の何れか1項に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法。
【請求項17】
ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールと溶媒とを含む脱塩性能回復剤を、未使用の酢酸セルロース膜に接触させるステップを含む、酢酸セルロース膜の脱塩性能向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤及び酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、劣化した逆浸透膜を修復して逆浸透膜の脱塩性能を回復させる方法として、ポリフェノールを含む水溶液を劣化した逆浸透膜に通水する方法が開示されている。この方法では、更に変性ポリビニルアルコール及びポリアミノ酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む水溶液を劣化した逆浸透膜に通水することにより、逆浸透膜の脱塩性能を回復させている。
【0003】
特許文献1に記載の脱塩性能を回復させる方法では、脱塩性能を回復させる対象である逆浸透膜の例として、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材などのポリアミド系素材、及び酢酸セルロースなどのセルロース系素材などが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
逆浸透膜を利用した造水にあたり、逆浸透膜には、ポリアミド膜によるものと、酢酸セルロース膜によるものがある。逆浸透膜には脱塩性能の低下が不可避であり、定期的な膜交換や廃棄処分でコストがかかるため、本コスト削減のために、脱塩性能回復剤の開発が行われている。近年、ポリアミド膜用の脱塩性能回復剤の開発実績は存在するものの、酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤の開発実績や実用化された技術は確認されていない。
【0006】
また、特許文献1には、脱塩性能回復方法の適用対象となる逆浸透膜としてポリアミド膜及び酢酸セルロース膜が同列に挙げられているものの、特許文献1に記載の脱塩性能回復方法では、酢酸セルロース膜を対象とした場合の脱塩性能回復効果が限定的であった。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本開示は、酢酸セルロース膜の脱塩性能を回復させる効果の高い酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤及び酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係る酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤は、
溶媒及び該溶媒中に混在する変性ポリビニルアルコールを含み、
前記変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する。
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係る酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法は、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールと溶媒とを含む脱塩性能回復剤を、酢酸セルロース膜に接触させるステップを含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、酢酸セルロース膜の脱塩性能を回復させる効果の高い酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤及び酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】酢酸セルロース膜を洗浄する洗浄装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の脱塩性能回復剤における変性ポリビニルアルコールのアセチル化度と脱塩性能回復効果との関係を示す図である。
【
図3】本開示の脱塩性能回復剤における脱塩性能回復効果と元の水質水準に戻るまでの期間との関係を示す図である。
【
図4】本開示の脱塩性能回復処理を実施しなかった場合の造水プラントの運転年数と規格化した水質との関係を示している。
【
図5】本開示の脱塩性能回復処理を実施した場合の造水プラントの運転年数と規格化した水質との関係を示している。
【
図6】本開示の脱塩性能回復剤のpHと脱塩性能回復効果との関係を示す図である。
【
図7】幾つかの実施例における脱塩性能回復効果の検証試験の結果を示す図である。
【
図8】さらに別の幾つかの実施例における脱塩性能回復効果の検証試験の結果を示す図である。
【
図9】本開示の脱塩性能回復処理を行った後の1週間の酢酸セルロース膜の塩透過係数の変化(効果維持確認試験の結果)を示す図である。
【
図10】変性ポリビニルアルコールへの塩の添加による変性ポリビニルアルコールの曇点の変化を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
逆浸透膜を備えた淡水化装置などの造水プラントは、被処理水を前処理装置で固体物など不純物を除外した後に、被処理水を高圧ポンプで昇圧して逆浸透膜に接触させて、逆浸透膜を透過する淡水と透過しない濃縮海水とに分離する。逆浸透膜の運用により、透過性能が低下する要因として、鉄・マンガン等の金属化合物、ならびに水中に含まれる微生物やその代謝産物を含む生物を含むスケールが付着することにより、目詰まりする場合があり、この場合は定期的に汚れを洗い落とす洗浄作業が必要である。また、逆浸透膜には、ポリアミド膜によるものと、酢酸セルロース膜によるものがあり、逆浸透膜の運用による脱塩性能の低下には、違う要因が影響している。発明者らは、酢酸セルロース膜において、膜表面のアセチル基が脱塩性能に寄与していて、運用とともに酢酸セルロース膜のアセチル基の減少と水酸基への変化(加水分解)によると推察して、各種の脱塩性能回復剤による試験を実施して、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールの効果を確認した。
なお、酢酸セルロース膜を用いた造水プラントとは、例えば海水を淡水化する海水淡水化プラントや、塩分を含んだ地下水を脱塩するプラント等である。
【0014】
本開示に係る脱塩性能回復剤は、酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤であり、逆浸透膜としての酢酸セルロース膜の脱塩性能を回復するために使用される。本開示に係る脱塩性能回復剤は、溶媒及び溶媒中に混在する変性ポリビニルアルコールを含む。脱塩性能回復剤に含まれる変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する。すなわち、本開示に係る脱塩性能回復剤は、ポリビニルアルコールの少なくとも一部の水酸基の水素原子をアセチル基に置換した構造を有する変性ポリビニルアルコールを含む。
【0015】
本開示に係る脱塩性能回復剤は、上記変性ポリビニルアルコールとともに、溶媒として例えば水を含む。この場合、溶媒(水)及び水に添加されて水中に分散した上記変性ポリビニルアルコールが脱塩性能回復剤を構成する。
【0016】
幾つかの実施形態では、脱塩性能回復剤による酢酸セルロース膜の脱塩性能回復処理は、例えば
図1に示す洗浄装置2を用いて実施される。
【0017】
図1に示す洗浄装置2は、タンク4、ポンプ6、フィルタ8及び循環ライン10を含む。タンク4に溜められた脱塩性能回復剤は、ポンプ6によって送液して循環ライン10を介して酢酸セルロース膜12に供給され、酢酸セルロース膜12全体に接触して酢酸セルロース膜12を通過した後、濃縮水用の配管14を通ってタンク4に戻される。タンク4に戻された脱塩性能回復剤は、ポンプ6によって送液して再び酢酸セルロース膜12に供給され、循環ライン10を循環する。このように、本開示における脱塩性能回復処理(脱塩性能回復方法)は、上記変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させるステップを少なくとも含む。具体的には、本開示における脱塩性能回復処理は、上記変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に通水して酢酸セルロース膜に接触させ、酢酸セルロース膜の表面を変性ポリビニルアルコールでコーティングすることで、酢酸セルロース膜の変質箇所を修復する。
【0018】
酢酸セルロース膜は、アセチル基を有しており、このアセチル基が酢酸セルロース膜の脱塩性能に寄与している。酢酸セルロース膜が逆浸透膜として使用されると、使用時間の経過とともに酢酸セルロース膜のアセチル基が加水分解により減少して水酸基が増加し(酢酸セルロース膜が変質し)、酢酸セルロース膜の脱塩性能が低下する。
【0019】
この点、本開示に係る脱塩性能回復剤は、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールを含むため、変質した酢酸セルロース膜に残っている疎水性のアセチル基と、脱塩性能回復剤中の変性ポリビニルアルコールの疎水性のアセチル基とが、疎水性同士であるために吸着しやすい。このため、変性ポリビニルアルコールによって酢酸セルロース膜を効果的にコーティングすることができる。そして、酢酸セルロース膜に吸着した変性ポリビニルアルコールのアセチル基が酢酸セルロース膜の脱塩性能に寄与するため、酢酸セルロース膜の脱塩性能を効果的に回復させることができる。
【0020】
図2は、脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールのアセチル化度と、酢酸セルロース膜の脱塩性能回復効果との関係を示す図である。
【0021】
ここで、本開示における「アセチル化度」とは、上記脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールの水酸基のモル量をA、該変性ポリビニルアルコールのアセチル基のモル量をBとした場合に、B/(A+B)を百分率で表した値を意味する。また、脱塩性能回復効果(%)とは、脱塩性能回復処理に伴う酢酸セルロース膜の塩透過量低下率(%)を意味し、酢酸セルロース膜の塩透過量低下率が高いほど脱塩性能回復効果が高いことを意味する。また、塩透過量低下率とは、脱塩性能回復処理の前後での一定運転条件下における塩素イオンの酢酸セルロース膜透過速度の低減率である。
【0022】
図2に示す実験値が得られた条件は、脱塩性能回復剤における変性ポリビニルアルコールの濃度・重合度、脱塩性能回復剤の温度・pH、脱塩性能回復剤の循環時間(酢酸セルロース膜に脱塩性能回復剤を通過させる時間)を全て一定としている。
【0023】
図2に示すように、脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールのアセチル化度と脱塩性能回復効果とは相関関係を有していることが判明した。
図2に示す例では、脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールのアセチル化度が0%~30%の範囲では、アセチル化度が大きくなるほど脱塩性能回復効果が高くなる。
【0024】
ところで、脱塩性能回復効果が小さいと、水質が元の水質水準に戻るまでの期間(脱塩性能回復処理を実施してから脱塩性能回復処理を実施する前の水質水準に水質が戻るまでの期間)が短くなる。また、脱塩性能回復処理を行うためには、酢酸セルロース膜を用いた造水プラントにおける造水(被処理水の脱塩)を停止する必要があり、脱塩性能回復処理の実施頻度が増えると、酢酸セルロース膜を用いた造水プラントの稼働率が低下してしまう。なお、ここでの造水プラントとは、例えば海水を淡水化する海水淡水化プラントや、塩分を含んだ地下水を脱塩するプラント等である。
【0025】
上記に鑑みて、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度の下限値は、酢酸セルロース膜を用いた造水プラントのメンテナンスの頻度を考慮して決定してもよい。例えば、一般に、酢酸セルロース膜を用いた造水プラントでは酢酸セルロース膜が目詰まりする場合があり、この場合は定期的に膜の汚れを洗い落とす洗浄作業が行われている。例えば、典型的な造水プラントにおける洗浄作業の頻度は、造水の採算に影響するプラント稼働率を出来るだけ確保するために、1年に4回以下の頻度(3カ月以上の間隔)で実施されるものがある。このため、元の水質水準に戻るまでの期間が3カ月以上であれば、従来からの洗浄作業の一環として脱塩性能回復処理を行うことで、従来の造水プラント稼働率を確保できるので、従来の脱塩性能回復処理に起因する造水プラントの稼働率の低下を抑制することができる。ここで、
図3に示すように、脱塩性能回復効果が上昇するに従い、元の水質水準に戻るまでの期間が長くすることができる。元の水質水準に戻るまでの期間を典型的な造水プラントにおける洗浄作業の頻度である3カ月として、3カ月毎の脱塩性能回復処理を行う場合には、このときに必要な脱塩性能回復効果は9%であり、
図2において、脱塩性能回復効果が9%以上となるアセチル化度は1%以上である。
【0026】
このため、脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は、1%以上とすることが好ましい。これにより、脱塩性能回復剤を用いた脱塩性能回復処理の頻度を3カ月以上(1年に4回以下)にすることができ、脱塩性能回復処理に起因する造水プラントの稼働率の低下を抑制することができる。
【0027】
また、
図3において、脱塩性能回復効果が50%の場合には、元の水質水準に戻るまでの期間が約2年である。すなわち、脱塩性能回復効果が50%の場合には、酢酸セルロース膜の次に脱塩性能回復処理が必要な期間が約2年となり寿命を約2年延長することができる。
【0028】
図4は、本開示の脱塩性能回復処理を実施しなかった場合の造水プラントの運転年数と規格化した水質との関係を示している。横軸は運転年数で、縦軸は規格化した水質であり、酢酸セルロース膜の性能が運転により低下して酢酸セルロース膜の交換が必要になる設計値(1.0に規格化)に至るまでの状況を示している。
図5は、本開示の脱塩性能回復処理を実施した場合の造水プラントの運転年数と規格化した水質との関係を示している。
【0029】
酢酸セルロース膜の性能は、指数関数的に低下して水質は交換が必要な値へ至ることが一般的に知られている。本開示での酢酸セルロース膜の寿命が例えば8年である場合には、
図4に示すように、酢酸セルロース膜の交換を8年に1回行う必要がある。
図4では、運転年数が8年に達すると、酢酸セルロース膜の性能が低下することで水質は交換が必要な設計値(1.0に規格化)に至り、この時点で酢酸セルロース膜の交換を行う。すると規格化した水質が0近くまで低下して性能を回復している状況を示している。これに対し、
図5に示すように、運転年数が8年に達すると、酢酸セルロース膜の性能は低下して水質は交換が必要な設計値(1.0に規格化)に至るが、脱塩性能回復処理を行い脱塩性能回復効果として50%を得ると、規格化した水質が0.5まで低下して性能を回復して運転を継続することができる。その後、酢酸セルロース膜の性能は、同様に指数関数的に低下して水質の値は上昇して規格化した水質が1.0近くまで至ると、この時点で酢酸セルロース膜の交換を行い、性能を初期状態に回復している状況を示している。すなわち、本開示の脱塩性能回復処理によって脱塩性能回復効果が40%~50%発揮されれば、酢酸セルロース膜の寿命を1.5年~2年延長させることができ、酢酸セルロース膜の交換を9.5年~10年に1回とすることができる。また、脱塩性能回復処理を複数回実施した際の回復効果にもよるが、酢酸セルロース膜の交換を行なわずに、脱塩性能回復処理を行い脱塩性能回復効果を得ることで、規格化した水質を1.0から低下させて性能を回復して、更に運転を継続して酢酸セルロース膜の寿命を延長することができる。ここで、
図2に示す例では、脱塩性能回復効果が約50%以上となるアセチル化度は約15%以上である。
【0030】
このため、脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は、15%以上とすることが、より好ましい。前述のように、造水プラントの稼働率の現状からの低減させないための脱塩性能回復効果が9%以上となるアセチル化度は1%以上であるが、アセチル化度を15%以上とすることにより、酢酸セルロース膜の脱塩性能回復効果をより効果的に高めて酢酸セルロース膜の寿命を年単位で延長することができる。また、酢酸セルロース膜の交換頻度を低減することができるため、酢酸セルロース膜を用いた造水プラントの稼働率を高めることができる。
【0031】
一方、脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールのアセチル化度を過度に大きくできない上限が存在する。変性ポリビニルアルコールの濃度・重合度が一定の条件下で、アセチル化度を大きくすると、変性ポリビニルアルコールを混在させた溶媒(水)内で変性ポリビニルアルコールが粗大化する温度である曇点が低くなる。脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールの曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度よりも低くなる(脱塩性能回復剤を混入した溶媒の温度>変性ポリビニルアルコールの曇点)と、変性ポリビニルアルコールが水中に分散できなくなって集合する。この場合、溶媒(通水)中の変性ポリビニルアルコールの酢酸セルロース膜への吸着性が低下し、酢酸セルロース膜全体への変性ポリビニルアルコールのコーティング性が低下することで、脱塩性能回復効果が低下する。このため、脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールのアセチル化度を、変性ポリビニルアルコールと溶媒(水)内で粗大化する温度である曇点が、脱塩性能回復剤を使用する温度よりも大きくなるようなアセチル化度(
図2に示す例では30%以下)とすることにより、上記粗大化を発生しにくくすることができる。すなわち、脱塩性能回復剤が含む変性ポリビニルアルコールのアセチル化度を、変性ポリビニルアルコールが水中で分散できるアセチル化度の上限値(
図2に示す例では30%)以下とすることにより、上記粗大化を発生しにくくすることができる。これにより、脱塩性能回復効果の低下を抑制することができる。従い、本開示での変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は、脱塩性能回復効果から1%以上で大きい値が望ましく、その上限は30%である。
【0032】
図6は、本開示の脱塩性能回復剤のpHと脱塩性能回復効果との関係を示す図である。
条件から得られた実験値から本試験条件に対応するよう案分して算出したものである。
図6に示す実験値の実験条件は、脱塩性能回復剤における変性ポリビニルアルコールの濃度・重合度・アセチル化度、脱塩性能回復剤の温度、脱塩性能回復剤の循環時間(酢酸セルロース膜に脱塩性能回復剤を通過させる時間)を全て一定としている。
【0033】
図3に示したように、酢酸セルロース膜の寿命を1.5年~2年延長することができる脱塩性能回復効果は約50%以上を得る必要があり、この脱塩性能回復効果の約50%以上を得る脱塩性能回復剤のpHは、
図6に示す試験結果からpHが3以上でpHが9以下であることが望ましく、pHが約6で脱塩性能回復効果が最大付近になる。すなわち、脱塩性能回復効果を高めるためには、上記変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤のpHは、3~9であることが好ましい。また、酢酸セルロース膜の加水分解に起因する脱塩性能低下を低減するという耐久性の観点から、上記変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤のpHは、3~8の範囲内であることがより好ましい。従い、脱塩性能回復剤のpHは3以上でpHは9以下が好ましく、pHは3以上でpHは8以下が更に好ましい。
【0034】
図7は、幾つかの実施例における脱塩性能回復効果の検証試験の結果を示す図である。
図7において、実施例1~5の各々は、本開示の脱塩性能回復剤の検証試験結果であり、各実施例において脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させて酢酸セルロース膜の脱塩性能回復処理を行っている。
【0035】
図7に示す実験値の共通する実験条件は、脱塩性能回復剤における変性ポリビニルアルコールの濃度・重合度、脱塩性能回復剤の循環時間(酢酸セルロース膜に脱塩性能回復剤を通過させる時間)であり、全て一定としている。各実施例の特異な試験条件として、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度と脱塩性能回復剤の温度は、実施例1の試験条件はアセチル化度が28%であり、脱塩性能回復剤の温度が30℃である。実施例2の試験条件はアセチル化度が12%であり、脱塩性能回復剤の温度が30℃である。実施例3、実施例4と実施例5の試験条件はアセチル化度が28%であり、脱塩性能回復剤の温度が50~60℃である。
【0036】
さらに、特異な試験条件として、実施例1、実施例2、実施例3の試験条件では脱塩性能回復剤は変性ポリビニルアルコールのみであり、実施例4の試験条件ではアセチル化度が28%の脱塩性能回復剤を用いた脱塩性能回復処理の前に、クエン酸(濃度1%)及びアンモニア水を用いて酢酸セルロース膜の洗浄を行っている。アンモニア水は洗浄液のpHが4になるまで添加されている。実施例5の試験条件は、アセチル化度が28%の脱塩性能回復剤には、変性ポリビニルアルコールの中にクエン酸(濃度1%)及びアンモニア水が添加されており、アンモニア水は脱塩性能回復剤のpHが4になるまで添加されている。
【0037】
図7に示されるように実施例1~3を比較すると、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度が12%の場合(実施例2)よりもアセチル化度が28%の場合(実施例1及び実施例3)の方が脱塩性能回復効果が高く、脱塩性能回復剤の温度が50~60℃の場合(実施例3)の方が30℃の場合(実施例1)よりも脱塩性能回復効果が若干高いことが明らかとなった。
【0038】
図7に示されるように、実施例3と実施例5を比較すると、脱塩性能回復剤として変性ポリビニルアルコールのみの場合(実施例3)よりも、クエン酸及びアンモニア水を添加(実施例5)の方が脱塩性能回復効果が高いことが明らかとなった。すなわち、実施例5に示すようにアセチル化度が28%とした上記変性ポリビニルアルコールと有機酸としてのクエン酸とを併用することにより(上記変性ポリビニルアルコールとクエン酸とを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させることにより)、上記変性ポリビニルアルコール単独の脱塩性能回復剤の使用の場合(実施例3)よりも脱塩性能回復効果を高めることができる。また、酢酸セルロース膜に対してクエン酸洗浄を行った後に上記変性ポリビニルアルコール単独の脱塩性能回復剤を用いて脱塩性能回復処理を行う場合(実施例4)には、クエン酸性洗浄を行わない場合(実施例3)よりも脱塩性能回復効果が低下するのに対し、上記変性ポリビニルアルコールとクエン酸とを併用した場合、すなわち上記変性ポリビニルアルコールとクエン酸とを含む脱塩性能回復剤を用いて脱塩性能回復処理を行う場合(実施例5)には、クエン酸性洗浄を行わない場合(実施例3)よりも脱塩性能回復効果が高まることが明らかとなった。なお、実施例5では、脱塩性能回復剤のpHがクエン酸添加により3未満になって、酢酸セルロース膜が加水分解により性能低下しないように(
図6参照)、アンモニア水を脱塩性能回復剤のpHが4になるまで添加されている。また、脱塩性能回復処理の副作用として想定される造水性能(一定運転条件下において水が酢酸セルロース膜を透過する速度)の低下は軽微であることも確認された。
【0039】
また、上記実施例5に使用したクエン酸に代えて、グリコール酸、酒石酸、EDTA及びエタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジスルホン酸を使用した場合においても、上記実施例5と同様に高い脱塩性能回復効果を得られることが確認された。このように、上記変性ポリビニルアルコールと有機酸(及び該有機酸の塩)とを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させることにより、有機酸の種類によらず、酢酸セルロース膜の高い脱塩性能回復効果を得ることができる。
【0040】
図8は、さらに別の幾つかの実施例における脱塩性能回復効果の検証試験の結果を示す図である。
図8において、実施例6~16の各々は、本開示の脱塩性能回復剤の検証試験結果であり、各実施例において脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させて酢酸セルロース膜の脱塩性能回復処理を行っている。
【0041】
図8に示す実験値の共通する実験条件は、脱塩性能回復剤における変性ポリビニルアルコールの濃度(100ppm)・重合度(500)・アセチル化度(28%)、脱塩性能回復剤の循環時間(6時間(酢酸セルロース膜に脱塩性能回復剤を通過させる時間))、脱塩性能回復剤の温度(30℃)であり、全て一定としている。各実施例の特異な試験条件として、下記表1に記載の通り、実施例7~15のそれぞれは、変性ポリビニルアルコールの中に各種無機が各濃度で添加されたものである。実施例16は、変性ポリビニルアルコールの中にクエン酸アンモニウムが0.5質量%の濃度となるように添加されたものである。実施例6は、変性ポリビニルアルコールの中に塩が添加されていないものである。
【0042】
【0043】
実施例6と実施例16との比較は、
図7における実施例3と実施例5との比較に対応し、
図8に示されるように、変性ポリビニルアルコールにクエン酸アンモニウムを添加することにより、変性ポリビニルアルコールにクエン酸アンモニウムを添加しない場合に比べて脱塩性能回復効果が高くなっており、
図7で示された結果と同じ結果が得られることを確認した。この比較を前提にして、実施例7~15のそれぞれと実施例6とを比較すると、添加された無機塩の種類及びその濃度の違いによって程度のばらつきはあるものの、いずれも実施例6よりも脱塩性能回復効果が高くなっていることから、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウムといった無機塩を添加することにより、脱塩性能回復効果が高くなることを確認した。
【0044】
この結果によれば、変性ポリビニルアルコールと有機酸(及び該有機酸の塩)とを含む脱塩性能回復剤だけでなく、変性ポリビニルアルコールと無機塩とを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させることによっても、酢酸セルロース膜の高い脱塩性能回復効果を得ることができる。
【0045】
図9は、本開示の脱塩性能回復処理を行った後の1週間の酢酸セルロース膜の塩透過係数の変化(効果維持確認試験の結果)を示す図である。
図9に示すように、酢酸セルロース膜の塩透過係数は1週間に亘って概ね維持されており、脱塩性能回復効果が一時的ではなく継続して維持できることが確認された。
【0046】
本開示の脱塩性能回復剤は、脱塩性能が低下した酢酸セルロース膜を対象としたが、脱塩性能が低下していない酢酸セルロース膜(例えば未使用の新膜)へ適用すれば、脱塩性能の向上が可能となる。例えば、従来よりも高造水・低脱塩性能の酢酸セルロース膜を製造し、これに脱塩性能回復剤による処理を行う事により、従来より高造水かつ従来と同等の脱塩性能を有する事が可能となる。
【0047】
図2によれば、曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度と等しくなるアセチル化度近傍の条件では、使用する脱塩性能回復剤の温度が曇点を超えていても脱塩性能回復効果は高いと考えらえれる。すなわち、曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度Tと等しくなるアセチル化度を基準として、ある下限値からある上限値までの範囲となるようなアセチル化度であれば、高い脱塩性能回復効果が得られると考えられる。そこで、この下限値及び上限値について検討する。この検討のために、各種濃度(100/500/1000ppm)かつアセチル化度28%の変性ポリビニルアルコールの水溶液に各種塩(硫酸ナトリウム/クエン酸アンモニウム)を各濃度(変性ポリビニルアルコールに対して0.1/0.5/1.0質量%)で添加したときの変性ポリビニルアルコールの曇点の変化を実験で測定した。その結果を
図10に示す。
【0048】
アセチル化度の上限値については、次のように考察した。酢酸セルロース膜の耐高温性を考慮すると、酢酸セルロース膜が使用される実機での温度は最高で60℃である。
図10によると、最も低い曇点を示す条件は、水溶液中の変性ポリビニルアルコールの濃度が1000ppm、1質量%の硫酸ナトリウム水溶液を添加した場合で、その曇点は23℃である。60℃と23℃との差に若干の余裕を持たせて-40℃とすることにより、曇点が(T-40)℃となるアセチル化度を上限値とする。
【0049】
下限値については、次のように考察した。
図2に示されるように、実用化される変性ポリビニルアルコールのアセチル化度を28%とすると、ばらつきを考慮してアセチル化度が18%まで実用化の範囲と想定される。アセチル化度が18%でも、30℃の条件で約70%程度の高い脱塩性能回復効果が得られることが確認されている。また、本発明者らの研究によれば、アセチル化度が18%であるポリビニルアルコールの曇点は80℃以上であることを確認した(すなわち、80℃までは曇点を確認できなかった)。この結果から、80℃と30℃との差である+50℃を用いて、曇点が(T+50)℃となるアセチル化度を下限値とする。
【0050】
曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度と等しくなるアセチル化度から下限値となるアセチル化度までの範囲については、既に述べたように、変性ポリビニルアルコールの曇点が脱塩性能回復剤の温度よりも大きくなるようなアセチル化度とすることにより脱塩性能回復効果の低下を抑制できるという作用効果が得られる。一方で、曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度と等しくなるアセチル化度から上限値となるアセチル化度までの範囲については、脱塩性能回復剤を使用する温度が曇点を超えてしまうので、変性ポリビニルアルコールが粗大化して濁りが生じてしまう。しかしながら、曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度と等しくなるアセチル化度近傍の条件では、使用する脱塩性能回復剤の温度が曇点を超えていても脱塩性能回復効果は高いので、変性ポリビニルアルコールの粗大化に起因する濁りを確認することにより、脱塩性能回復効果が高い条件であることを確認した上で、酢酸セルロース膜の脱塩性能を回復することができるようになる。
【0051】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0052】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0053】
(1)本開示に係る酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤は、
溶媒及び溶媒中に混在する変性ポリビニルアルコールを含み、
前記変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する。
【0054】
酢酸セルロース膜は、アセチル基を有しており、このアセチル基が酢酸セルロース膜の脱塩性能に寄与している。酢酸セルロース膜が脱塩性能の必要な逆浸透膜として使用されると、運用による使用時間の経過とともに酢酸セルロース膜のアセチル基が減少して水酸基が増加し(酢酸セルロース膜が変質し)、酢酸セルロース膜の脱塩性能が低下することが判明した。
【0055】
本開示に係る脱塩性能回復剤は、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールを含み、該変性ポリビニルアルコールが溶媒(例えば水など)中に混在しているため、変質した酢酸セルロース膜の全体に接触し、酢酸セルロース膜に残っている疎水性のアセチル基と、脱塩性能回復剤中の変性ポリビニルアルコールの疎水性のアセチル基とが、疎水性同士であるために吸着しやすくなっている。このため、変性ポリビニルアルコールによって酢酸セルロース膜の全体を効果的にコーティングすることができる。そして、酢酸セルロース膜に吸着した変性ポリビニルアルコールのアセチル基が酢酸セルロース膜の脱塩性能に寄与するため、酢酸セルロース膜の脱塩性能を効果的に回復させることができる。
【0056】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤において、
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は1%以上である。
【0057】
本願発明者の検討によれば、脱塩性能回復剤の温度が曇点以下である場合に、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度が高いほど脱塩性能回復効果が高まることが明らかとなった。このため、上記(2)に記載のように変性ポリビニルアルコールのアセチル化度を1%以上とすることにより、アセチル化度が1%未満である場合よりも、高い脱塩性能回復効果を発揮することができる。従来からの運用では、酢酸セルロース膜が目詰まりする場合は定期的に膜の汚れを洗い落とす洗浄作業が行われており、このときの造水プラントの稼働率に対して、脱塩性能回復処理を行うことによる稼働率の低下を抑制するには、脱塩性能回復効果が9%以上必要であり、このときのアセチル化度は1%以上である。これにより、酢酸セルロース膜の交換頻度を低減することができるため、酢酸セルロース膜が造水プラントで使用されている場合の造水プラントの稼働率を現状の洗浄作業を実施する際の稼働率より低下することを抑制することができる。
【0058】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤において、
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は15%以上である。
【0059】
上記(3)に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤によれば、アセチル化度が15%未満である場合よりも、高い脱塩性能回復効果を得ることができる。アセチル化度を15%以上とすることにより、酢酸セルロース膜の脱塩性能回復効果をより効果的に高めて酢酸セルロース膜の寿命を年単位で延長することができる。これにより、酢酸セルロース膜の交換頻度を低減することができる。
【0060】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤において、
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は30%以下である。
【0061】
脱塩性能回復剤の温度が曇点を超えると、変性ポリビニルアルコールが溶媒中で粗大化し、酢酸セルロース膜への変性ポリビニルアルコールの吸着性が低下し、酢酸セルロース膜全体への変性ポリビニルアルコールのコーティング性が低下することで、脱塩性能回復効果が得られにくくなる。このため、上記(4)に記載のように、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度を30%以下とすることにより、アセチル化度が30%を超える場合よりも、上記粗大化を発生しにくくすることができる。このため、脱塩性能回復効果の低下を抑制することができる。
【0062】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかに記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤において、
前記脱塩性能回復剤のpHは3~8の範囲内である。
【0063】
上記(5)に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤によれば、このpHの範囲では、脱塩性能回復効果に約30%以上を得て、酢酸セルロース膜の寿命を年単位で延長することができ、また酢酸セルロース膜の加水分解による脱塩性能低下を抑制して高い脱塩性能回復効果を得ることができる。
【0064】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかに記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤において、有機酸及び該有機酸の塩を更に含む。
【0065】
有機酸としては、例えばグリコール酸、ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、スベリン酸等のカルボン酸類及びこれらの塩、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、及びトリエチレンテトラミン六酢酸等のアミノカルボン酸類及びこれらの塩、並びにエタン―1,1―ジホスホン酸、エタン―1,1,2―トリホスホン酸、エタン―1―ヒドロキシ―1,1―ジホスホン酸、エタン―1―ヒドロキシ―1,2―ジホスホン酸、エタン―1―ヒドロキシ―1,1,2―トリホスホン酸、エタン―1―ジカルボキシ―1,2―ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸等のホスホン酸類及びこれらの塩などが利用できる。
【0066】
上記(6)に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤によれば、上記変性ポリビニルアルコールと有機酸及び該有機酸の塩とを併用することにより(上記変性ポリビニルアルコールと有機酸及び該有機酸の塩とを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させることにより)、上記変性ポリビニルアルコール単独の場合よりも脱塩性能回復効果を高めることができる。また、酢酸セルロース膜に対して有機酸及び該有機酸の塩洗浄を行った後に上記変性ポリビニルアルコール単独で脱塩性能回復処理を行う場合よりも、脱塩性能回復効果を高めることができる。
【0067】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかに記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤において、無機塩を更に含む。
【0068】
無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等が利用できる。その他の無機塩として、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸の塩等も利用できる。
【0069】
上記(7)に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復剤によれば、上記変性ポリビニルアルコールと無機塩とを併用することにより(上記変性ポリビニルアルコールと無機塩とを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させることにより)、上記変性ポリビニルアルコール単独の場合よりも脱塩性能回復効果を高めることができる。
【0070】
(8)本開示に係る酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法は、
ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールと溶媒とを含む脱塩性能回復剤を、酢酸セルロース膜に接触させるステップを含む。
【0071】
上記(8)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法によれば、溶媒(水など)に混入させた変性ポリビニルアルコールが、変質した酢酸セルロース膜の全体に接触し、変質した酢酸セルロース膜に残っている疎水性のアセチル基と、溶媒中に混在する脱塩性能回復剤中の変性ポリビニルアルコールの疎水性のアセチル基とが、疎水性同士であるために吸着しやすくなっている。このため、変性ポリビニルアルコールによって酢酸セルロース膜の全体を効果的にコーティングすることができる。そして、酢酸セルロース膜に吸着した変性ポリビニルアルコールのアセチル基が酢酸セルロース膜の脱塩性能に寄与するため、酢酸セルロース膜の脱塩性能を効果的に回復させることができる。
【0072】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法において、
前記ステップでは、アセチル化度が1%以上である変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を、前記酢酸セルロース膜に接触させる。
【0073】
本願発明者の検討によれば、脱塩性能回復剤の温度が曇点以上である場合に、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度が高いほど脱塩性能回復効果が高まることが明らかとなった。このため、上記(9)に記載のように、アセチル化度が1%以上である変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させることにより、アセチル化度が1%未満である場合よりも、高い脱塩性能回復効果を発揮することができる。従来からの運用では、定期的に酢酸セルロース膜の汚れを洗い落とす洗浄作業が行われており、このときの造水プラントの稼働率に対して、脱塩性能回復処理を行うことによる稼働率の低下を抑制するには、脱塩性能回復効果が9%以上必要であり、このときのアセチル化度は1%以上である。これにより、酢酸セルロース膜の交換頻度を低減することができるため、酢酸セルロース膜が造水プラントで使用されている場合の造水プラントの稼働率を現状の洗浄作業を実施する際の稼働率より低下することを抑制することができる。
【0074】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法において、
前記ステップでは、アセチル化度が15%以上である変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を、前記酢酸セルロース膜に接触させる。
【0075】
上記(10)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法によれば、アセチル化度が15%未満である場合よりも、高い脱塩性能回復効果を得て、酢酸セルロース膜の寿命を年単位で延長することができる。これにより、酢酸セルロース膜の交換頻度を低減することができる。
【0076】
(11)幾つかの実施形態では、上記(9)又は(10)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法において、
前記ステップにおいて、前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は、前記変性ポリビニルアルコールが前記脱塩性能回復剤の溶媒中で粗大化する温度である曇点が前記脱塩性能回復剤の温度よりも大きくなるようなアセチル化度である。
【0077】
アセチル化度を過度に大きくすると、上記曇点が脱塩性能回復剤の温度よりも低くなり、変性ポリビニルアルコールが溶媒中で粗大化するため、酢酸セルロース膜への変性ポリビニルアルコールの吸着性が小さくなり、酢酸セルロース膜全体への変性ポリビニルアルコールのコーティング性が低下することで、脱塩性能回復効果が得られにくくなる。このため、上記(11)に記載のように、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度を、変性ポリビニルアルコールが脱塩性能回復剤の溶媒中で粗大化する温度である曇点が脱塩性能回復剤の温度よりも大きくなるようなアセチル化度とすることにより、上記粗大化を発生しにくくすることができる。このため、脱塩性能回復効果の低下を抑制することができる。
【0078】
(12)幾つかの実施形態では、上記(9)又は(10)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法において、
前記ステップにおいて、前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は、前記変性ポリビニルアルコールが前記脱塩性能回復剤の溶媒中で粗大化する温度である曇点が前記脱塩性能回復剤の温度Tと等しくなるアセチル化度を基準として下限値から上限値までの範囲であり、
前記曇点が(T-40)℃となるアセチル化度が前記上限値であり、前記曇点が(T+50)℃となるアセチル化度が前記下限値である。
【0079】
曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度と等しくなるアセチル化度から下限値となるアセチル化度までの範囲については、上記(11)と同じ作用効果を得ることができる。一方で、曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度と等しくなるアセチル化度から上限値となるアセチル化度までの範囲については、脱塩性能回復剤を使用する温度が曇点を超えてしまうので、変性ポリビニルアルコールが粗大化して濁りが生じてしまう。しかしながら、曇点が脱塩性能回復剤を使用する温度と等しくなるアセチル化度近傍の条件では、使用する脱塩性能回復剤の温度が曇点を超えていても脱塩性能回復効果は高いので、変性ポリビニルアルコールの粗大化に起因する濁りを確認することにより、脱塩性能回復効果が高い条件であることを確認した上で、酢酸セルロース膜の脱塩性能を回復することができるようになる。
【0080】
(13)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(12)の何れかに記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法において、
前記ステップでは、アセチル化度が30%以下である変性ポリビニルアルコールを含む脱塩性能回復剤を、前記酢酸セルロース膜に接触させる。
【0081】
上記(13)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法によれば、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度を30%以下とすることにより、アセチル化度が30%を超える場合よりも、上記粗大化を発生しにくくすることができて、酢酸セルロース膜全体への変性ポリビニルアルコールのコーティング性を維持できる。このため、脱塩性能回復効果の低下を抑制することができる。
【0082】
(14)幾つかの実施形態では、上記(8)乃至(13)の何れかに記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法において、
前記ステップでは、pHが3~8の範囲内である前記脱塩性能回復剤を、前記酢酸セルロース膜に接触させる。
【0083】
上記(14)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法によれば、このpHの範囲では、脱塩性能回復効果に約30%以上を得て、酢酸セルロース膜の寿命を年単位で延長することができ、また酢酸セルロース膜の加水分解による脱塩性能低下を抑制して高い脱塩性能回復効果を得ることができる。
【0084】
(15)幾つかの実施形態では、上記(8)乃至(14)の何れかに記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法において、
前記ステップでは、有機酸及び該有機酸の塩を更に含む前記脱塩性能回復剤を前記酢酸セルロース膜に接触させる。
【0085】
上記(15)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法によれば、上記変性ポリビニルアルコールと有機酸及びこれらの塩とを併用することにより(上記変性ポリビニルアルコールと有機酸及びこれらの塩とを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させることにより)、上記変性ポリビニルアルコール単独の場合よりも脱塩性能回復効果を高めることができる。また、酢酸セルロース膜に対してクエン酸洗浄を行った後に上記変性ポリビニルアルコール単独で脱塩性能回復処理を行う場合よりも、脱塩性能回復効果を高めることができる。
【0086】
(16)幾つかの実施形態では、上記(8)乃至(14)の何れかに記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能回復方法において、
前記ステップでは、無機塩を更に含む前記脱塩性能回復剤を前記酢酸セルロース膜に接触させる。
【0087】
上記(16)に記載の酢酸セルロース膜用の脱塩性能回復方法によれば、上記変性ポリビニルアルコールと無機塩とを併用することにより(上記変性ポリビニルアルコールと無機塩とを含む脱塩性能回復剤を酢酸セルロース膜に接触させることにより)、上記変性ポリビニルアルコール単独の場合よりも脱塩性能回復効果を高めることができる。
【0088】
(17)本開示に係る酢酸セルロース膜の脱塩性能向上方法は、
ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールと溶媒とを含む脱塩性能回復剤を、未使用の酢酸セルロース膜に接触させるステップを含む。
【0089】
上記(17)に記載の酢酸セルロース膜の脱塩性能向上方法によれば、脱塩性能が低下していない未使用の酢酸セルロース膜の脱塩性能の向上が可能となる。例えば、従来よりも高造水・低脱塩性能の酢酸セルロース膜を製造し、これに脱塩性能回復剤による処理を行う事により、従来より高造水かつ従来と同等の脱塩性能を有する事が可能となる。なお、上記(9)~(16)に記載の脱塩性能回復方法は、上記(17)に記載のように未使用の酢酸セルロース膜に適用してもよい。
【符号の説明】
【0090】
2 洗浄装置
4 タンク
6 ポンプ
8 フィルタ
10 循環ライン
12 酢酸セルロース膜
14 配管