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特許7177459オーディオ用インシュレータ、オーディオ・システム、及び、オーディオ用インシュレータの設計方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】オーディオ用インシュレータ、オーディオ・システム、及び、オーディオ用インシュレータの設計方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 33/08 20060101AFI20221116BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20221116BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
G11B33/08 D
G10K11/16 160
F16F15/04 E
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2018056693
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019169224
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】丸山 照雄
(72)【発明者】
【氏名】岡本 興三
(72)【発明者】
【氏名】青山 豊
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏喜
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 章雄
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209398(JP,A)
【文献】特開2005-282705(JP,A)
【文献】実開昭47-003701(JP,U)
【文献】国際公開第2009/102833(WO,A2)
【文献】中国実用新案第202454272(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 33/08
G10K 11/16
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、
前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、
前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、
前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた点接触部材と、
前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に掛かり留める掛かり留まり手段と、を備え、
前記中間部材の前記荷重支持部側の端面は粘弾性材料と密着しており、
前記荷重支持部は、
粘弾性材料である粘弾性ゴムと、
前記粘弾性ゴム内部に埋設されたスプリングコイルと、から構成されることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項2】
前記掛かり留まり手段が、一端が前記中間部材と前記上部部材のいずれかに固定され、他端が前記上部部材と前記中間部材とのいずれかに掛かり留まるように構成された請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項3】
前記荷重支持部が、前記上部部材と床面との間に配置されており、
前記中間部材が、前記荷重支持部によって前記上部部材側へ押圧される請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項4】
前記掛かり留まり手段が、前記上部部材と前記中間部材との間で複数個設けられており、
前記掛かり留まり手段が前記上部部材の軸芯から離れた箇所で、かつ、前記軸芯に対して概略同心円上に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項5】
前記オーディオ機器の底面と前記上部部材を連結する連結部材のためのねじ部が前記上部部材の中央部に形成されることを特徴とする請求項4記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項6】
上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、
前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、
前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、
前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた点接触部材と、
前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に掛かり留める掛かり留まり手段と、を備え、
前記中間部材の前記荷重支持部側の端面は粘弾性材料と密着しており、
前記粘弾性材料が、概略円筒状に形成されており、
前記点接触部材は、前記中間部材の前記上部部材側の端面において前記粘弾性材料の上端面と半径方向で近接した位置に配置されていることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項7】
前記点接触部材の中心部と前記粘弾性材料の外表面の距離をrx
円板状に形成された前記中間部材の外周端と前記粘弾性材料の外表面の距離r0として、
rx<r0/2に設定したことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項8】
前記中間部材の平均厚みhb<3mmであることを特徴とする請求項6記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項9】
上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、
前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、
前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、
前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた点接触部材と、
前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に掛かり留める掛かり留まり手段と、を備え、
前記中間部材の前記荷重支持部側の端面は粘弾性材料と密着しており、
前記粘弾性材料の上端面の対向面である前記中間部材側の表面は円周方向、あるいは、半径方向で段付き形状をしており、前記粘弾性材料の上端面と前記中間部材側の表面は部分的に密着していることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項10】
上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、
前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、
前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、
前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた点接触部材と、
前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に掛かり留める掛かり留まり手段と、を備え、
前記中間部材の前記荷重支持部側の端面は粘弾性材料と密着しており、
前記荷重支持部は、
スプリングコイルと、
このスプリングコイルのサージング現象回避のための粘弾性材料により形成されたサージング防止部材と、から構成され、
前記スプリングコイルと前記サージング防止部材の上端面は前記中間部材の表面と密着して構成されていることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項11】
前記点接触部材は球状部材であり、前記上部部材及び前記中間部材に点接触することを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項12】
上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、
前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、
前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、
前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた点接触部材と、
前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に掛かり留める掛かり留まり手段と、を備え、
前記点接触部材は球状部材であり、前記上部部材及び前記中間部材に点接触し、
前記上部部材の前記中間部材側の面に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する上部窪み部と、前記中間部材の前記上部部材側の面に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する下部窪み部と、をさらに備え、
前記球状部材は前記上部窪み部と前記下部窪み部の間に回転可能に挿入されており、前記上部部材の上面に前記オーディオ機器が搭載された平衡状態において、前記上部部材と前記中間部材は相対的に水平方向に移動可能であることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項13】
前記上部部材に搭載される前記オーディオ機器は水平方向に加振力を有するスピーカーであることを特徴とする請求項12記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項14】
前記点接触部材、前記上部部材、及び、前記上部部材の下側に設けられる下部部材で構成されるスラストボール部の水平方向共振周波数をfX0
前記上部部材に搭載されるオーディオ機器の質量と前記荷重支持部単体の水平方向剛性で決まる共振周波数をf Hとして、
fX0<f Hとなるように構成したことを特徴とする請求項12記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項15】
前記上部窪み部の曲率半径をR2B、前記下部窪み部の曲率半径をR2A、前記球状部材の半径をR1、重力加速度をgとして、水平方向共振周波数を
【数1】
と定義し、前記上部部材に搭載されるオーディオ機器の質量をM、前記荷重支持部単体の水平方向ばね剛性をK Hとして
【数2】
とし、
fX0<f Hとなるように構成したことを特徴とする請求項14記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項16】
X0<15Hzとなるように構成したことを特徴とする請求項14記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項17】
fX0<8Hzとなるように構成したことを特徴とする請求項16記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項18】
上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、
前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、
前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、
前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた点接触部材と、
前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に掛かり留める掛かり留まり手段と、を備え、
前記中間部材が、厚み方向にそれぞれ離間させて設けられた複数枚の板状部材から構成されており、
前記上部部材と最上部にある板状部材との間と、各板状部材の間に前記点接触部材である球状部材が設けられ、多段のスラストボール部が構成されていることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項19】
前記スラストボール部が、前記荷重支持部に固定された一端が開口した筒状の固定部材をさらに備え、
前記固定部材内に前記上部部材と前記中間部材がそれらの側面が当該固定部材の内側面と対向するように収容されており、
前記スラストボール部を構成する前記球状部材への塵挨の侵入を防止するシール手段が、前記上部部材の側面と前記固定部材の内側面との間に設けられていることを特徴とする請求項18記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項20】
前記シール手段が、振動の減衰手段を兼ねる請求項19記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項21】
上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、
前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、
前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、
前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた点接触部材と、
前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に掛かり留める掛かり留まり手段と、を備え、
前記上部部材に固定され、前記中間部材を非接触で貫通して前記荷重支持部側に延びた軸と、
前記軸と前記荷重支持部の下側に設けられた下部部材の間に設けられた前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部、及び、前記軸と前記荷重支持部の下側に設けられた下部部材の間に設けられた前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部から構成されていることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項22】
上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた球状部材と、前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に連結し、前記球状部材が前記中間部材と前記上部部材の間から離脱するのを防止する掛かり留まり手段と、前記上部部材の前記中間部材側の面に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する上部窪み部と、前記中間部材の前記上部部材側の面に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する下部窪み部と、前記上部窪み部と前記下部窪み部の間に回転可能に挿入されており、前記上部部材の上面に前記オーディオ機器が搭載された平衡状態において、前記上部部材と前記中間部材は相対的に水平方向に移動可能である球状部材と、を備えたオーディオ用インシュレータの設計方法であって、
前記オーディオ機器の質量と、前記荷重支持部の剛性から前記オーディオ機器が要求される垂直方向共振周波数を設定する垂直方向共振周波数設定ステップと、
前記垂直方向共振周波数設定ステップの後に、前記上部窪み部と前記下部窪み部の曲率半径、及び、前記球状部材の半径から水平方向共振周波数を設定する水平方向共振周波数設定ステップと、を備えたことを特徴とするオーディオ用インシュレータの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音質向上を目的として、スピーカー、アンプ、CDプレイヤー、アナログプレイヤー等に用いられるオーディオ用インシュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオの分野においては、原音に限りなく近い音の追及が、オーディオ機器である、アンプ、スピーカー、CDプレイヤー、ケーブルなどの各コンポーネンツにおいてなされてきた。アナログからデジタルの時代に移行し、様々な革新的技術が投入されたにもかかわらず、録音から再生に至る過程の技術にはまだ限界があって、人間の聴覚が知覚する程には、原音を忠実に再現できないのが現状である。オーディオ機器が原音(たとえばオーケストラの生演奏の音)に追従できない要因の一つに、振動がオーディオ機器に与える影響がある。周知のように、オーディオ機器は自ら振動を発生するとともに、外部から様々な振動の影響を受けている。アンプの場合は電源トランスの交流基本信号とその高調波成分による「うなり」が発生する。CDプレイヤーの場合はディスクを回すモーターが振動源となる。スピーカーの場合、コーンを駆動するボイスコイルの反力がスピーカー・エンクロージャー(箱)本体を振動させる。この振動がスピーカーを設置した床面に伝達され、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。原音に複雑に重畳された外乱振動は、再びスピーカー本体を振動させる。この時発生する混変調歪(Inter-modulation distortion)がオーディオ機器の音質を劣化させるという仮説が提唱されているが、オーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動が、再生音の品位を低下させる重要な要因であるという点は、間違いのない事実であると思われる。
【0003】
オーディオ機器の音質を改善する手段のひとつとして、インシュレータがある。アナログ時代、ハウリングを抑止するために、インシュレータは主にアナログプレイヤーと床面との間に設置され、振動の伝達を遮断する手段として必須のものであった。アナログからCDプレイヤーに移行して、インシュレータはハウリング防止対策ではなく、オーディオ機器の音質を改善し、リスナーの好みの音に調整するチューニング手段として用いられるようになった。インシュレータの適用により、音質が変ることは良く知られているが、その効果をもたらすメカニズムについては、理論的に十分解明されているとは言えず、経験的、試行錯誤的に開発されたものが多い。過去、インシュレータとして用いられているものに、次の二つのタイプがある。
【0004】
(1)フローティング方式インシュレータ
このタイプのインシュレータは、振動の遮断(シャットアウト)を目的としたもので、剛性の小さい緩衝体が用いられる。緩衝体として、ゴム材を用いたもの、スプリングコイルを用いるもの、空気を封じ込めたエアーフローティング・ボード、磁力の反発力を利用したものなどがある。
【0005】
(2)硬質材料によるインシュレータ
インシュレータのもうひとつのタイプは硬質材を用いるものである。近年、前述した緩衝体に代わり、オーディオ機器が発生する振動を効果的に吸収し、外部へ逃すことを目的とした硬質材、たとえば、木材、樹脂、金属、セラミック、石英、珊瑚等を用いたものが考案され商品化されている。硬質式インシュレータの場合は、良質な音響素材のキャラクターを利用した再生音のチューニング手段として用いられる。たとえば、
(i)金属系材料
真鍮:キラリとした明るいブリリアントな響き
銅:重厚感があってパワフル
銀:芯のとおりが良く、音の立ち上がり・立ち下がりが素早い
金:ふくよかさで艶やか
(ii)木材系材料
アフリカ黒檀:固いが刺激的ではない音(楽器に使用される)
縞黒檀:アフリカ黒檀より柔らかい
桜:柔らかく芳純
上記(i) (ii)は、オーディオ機器の特性、あるいは再生する音楽ジャンルなどに合せて、リスナーの好みに合せて選択される。
【0006】
前述したフローティング方式と硬質材料式の両方の特徴(1)(2)を併せもつオーディオ用インシュレータが、本発明者らの提案によって、特許文献1に開示されている。
(1)低周波可聴域での振動の完全遮断効果
(2)従来硬質材料式インシュレータを超える高周波振動のアシスト効果
但し、上記提案は共振部材と密着する部材(スプリングコイル)から受ける振動減衰作用により、共振部材がもたらす音響特性向上効果が制約されるという課題があった。
【0007】
特許文献2において、この課題を解決するオーディオ用インシュレータの構造が、本発明者らの提案によって、開示されている。図31(a)は上面図、図31(b)は正面断面図、図32(a)は図31(b)のAA断面図、図32(b)は図31(b)のBB断面図である。511は上部スリーブ(共振部材)、512は下部スリーブ、513はサージング防止部材である。前記上部スリーブは共振部材の共振現象を利用して、オーディオ機器の高周波域での音響特性を調整することを目的に構成されたものである。上部スリーブ511と下部スリーブ512内部にスプリングコイル514が設けられている。515は中間スペーサ、516a、516b、516cは球状部材(点接触部材)である。517a、517b、517cは前記中間スペーサの上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部、518a、518b、518cは組み立て時の前記球状部材の離脱を防止するための外壁部である。519は上部スリーブ511の内面底部の形成されたテーパ部であり、常時前記球状部材と点接触している。520、521はスプリングコイル514の位置決め部、522は上部スリーブ511と下部スリーブ512の離脱を防止するための締結ボルト、523はこの締結ボルトの頭部、524は下部スリーブ512に形成された筒部、525は締結ボルト522の締結部、526は中間スペーサ515の中央部に形成された前記締結ボルトを貫通させる貫通部、527は前記上部スリーブの開口端である。528はオーディオ機器529を搭載する機器搭載部、530はインシュレータ設置面(床面)である。
【0008】
中間スペーサ515に前記締結ボルトの貫通部526を設けて、上部スリーブ511と下部スリーブ512を締結することによりにより、上部スリーブ511と下部スリーブ512の相対的な移動を規制することができる。すなわち、前記上部スリーブ内部は前記スプリングコイル、前記サージング防止部材、前記中間スペーサ、前記球状部材を収納する空洞を有し、一方の端部を密閉構造、もう一方の端部を大気解放端(自由端)とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。上部スリーブ511の上端部は完全固定ではなく、X軸、Y軸、Z軸方向は3個の前記球状部材と中間スペーサ515を介在して、スプリングコイル514により弾性支持されている。
【0009】
すなわち、上記インシュレータは前記共振部材と前記荷重支持部の間に、点接触、あるいは線接触で密着する部材を介在させる。その結果、スプリングコイルによる振動減衰作用が低減し、高周波域における音響特性を大幅に向上させることができる。同時に荷重支持部の剛性を高くすることができて、オーディオ機器の設置安定性を向上できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-48808号公報
【文献】特開2014-209398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した既提案インシュレータは、上部スリーブ511、下部スリーブ512、及び、中間部材515から構成される。共振部材511と中間スペーサ515の間に介在する球状部材516の「離脱防止」のために、次のように構成されている。すなわち、前記中間スペーサの上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部517a、517b、517c、及び、前記球状部材の離脱を防止するための外壁部518a、518b、518c等、いずれも高精度の3次元部品加工を必要とする。
【0012】
また、既提案インシュレータは、上部スリーブ511と下部スリーブ512間の「相対的な移動規制」のために、次のように構成されている。中間スペーサ515は締結ボルト522の貫通部526が形成され、また下部スリーブ512は上下動する締結ボルト522の頭部523を収納する筒形状に構成されている。締結ボルト522の上端が共振部材に固定され、ボルト頭部523が下部スリーブ512に掛かり留まりするように構成されている。既提案インシュレータに対して、高精度加工を必要としないシンプル・ローコストな構成で、より一層の音響特性を改善させる方策はないか、という要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
具体的に、第1の発明は、上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性支持部材で構成された荷重支持部と、前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に連結する掛かり留まり手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
すなわち、本発明においては、前記点接触部材が前記上部部材と前記中間部材との間に設けられていることにより、前記荷重支持部から受ける振動減衰作用の低減を図ることができる。同時に点接触部材を前記上部部材と前記中間部材の間に挟み込むと共に、この2つの部材を連結する掛かり留まり手段を前記2つの部材間に設けているので、上記のような振動減衰作用の低減効果を得られるようにしながら、前記上部部材、前記中間部材、及び、前記点接触部材を一体化し、構造の大幅簡素化が図れるインシュレータを実現できる。また、掛かり留まり手段は前記上部部材と前記中間部材との間の離間距離の変化を許容するので、定常状態においては床面からオーディオ機器への振動伝達経路を形成しないように上部部材又は中間部材のいずれかに接触させない事が可能となる。
【0015】
より具体的にはオーディオ機器が再生する楽音には多くの倍音成分が含まれているが、本発明によれば高周波の倍音を振動減衰の影響無く、正確に再現することで、再生音に生気を与えて、音楽的表現力を高めることができる。また、高音域における音響特性の向上は、ステレオ音像の定位感、分解能、奥域感を向上させる。
【0016】
一方、前記荷重支持部の剛性と前記オーディオ機器の質量で決まる低音域の振動遮断特性によって、床面との相互干渉による混変調歪の発生を回避できる。
【0017】
具体的に第2の発明は、前記掛かり留まり手段が、一端が前記中間部材と前記上部部材のいずれかに固定され、他端が前記上部部材と前記中間部材とのいずれかに掛かり留まるように構成されたものである。
【0018】
すなわち、本発明においては、簡易な構成で前記上部部材と前記中間部材との離間距離が変化するのを許容しつつ、前記点接触部材が各部材から離脱するのを防止する構造を実現できる。
【0019】
具体的に第3の発明は、前記荷重支持部が、前記上部部材と床面との間に配置されており、前記中間部材が、前記荷重支持部によって前記上部部材側へ押圧されるものである。
【0020】
すなわち、本発明においては、前記荷重支持部上に前記上部部材及び前記下部部材を載置した状態で前記点接触部材による点接触状態を保ちつづけることができる。
【0021】
具体的に、第4の発明は、前記掛かり留まり手段が、前記上部部材と前記中間部材との間で複数個設けられており、前記掛かり留まり手段が前記上部部材の軸芯から離れた箇所で、かつ、前記軸芯に対して概略同心円上に設けられているものである。
【0022】
すなわち、本発明においては、前記中間部材と前記上部部材の間に、複数個の掛かり留まりによる掛かり留まり手段を設けることで、下部ユニットに対して独立して取り扱える上部ユニットを構成できる。
【0023】
具体的に、第5の発明は、前記オーディオ機器の底面と前記上部部材を連結する連結部材のためのねじ部を前記上部部材の中央部に形成したものである。
【0024】
すなわち、本発明においては、前記中間部材と前記上部部材の離脱を防止する掛かり留まり手段を、軸芯から離れた箇所に複数個設けることで、前記上部部材中央部の空間を利用できる。この空間に前記オーディオ機器の底面と前記上部部材を連結する連結部材のためのねじ部を形成したものである。
【0025】
具体的に、第6の発明は、前記中間部材の前記荷重支持部側の端面は粘弾性材料と密着するように構成したものである。
【0026】
すなわち、本発明においては、前記中間部材の直下に密着配置された前記粘弾性ゴムの減衰作用により、前記点接触部材と点接触する前記上部部材又は前記中間部材の接触共振の影響を回避できる。
【0027】
具体的に、第7の発明は、前記荷重支持部は、粘弾性ゴムと、前記粘弾性ゴム内部に埋設されたスプリングコイルから構成されるものである。
【0028】
すなわち、本発明においては、粘弾性ゴム内部に埋設されたスプリングコイルから構成される制振材料を用いることで、前記点接触部材と点接触する前記上部部材又は前記中間部材の接触共振の回避と、オーディオ機器の荷重支持部材を兼ねることができる。
【0029】
具体的に、第8の発明は、前記粘弾性材料が、概略円筒状に形成されており、
前記点接触部材は、前記中間部材の前記上部部材側の端面において前記粘弾性材料の上端面と半径方向で近接した位置に配置したものである。
【0030】
すなわち、本発明においては、点接触部材の接触共振の影響を確実に回避できる。
【0031】
具体的に、第9の発明は、前記点接触部材の中心部と前記粘弾性材料の外表面の距離をrx、円板状に形成された前記中間部材の外周端と前記粘弾性材料の外表面の距離r0として、rx<r0/2に設定したものである。
【0032】
すなわち、本発明においては、前記点接触部材の中心部と、粘弾性材料から構成される前記荷重支持部の外表面の位置関係を上記条件、すなわち、rx<r0/2に設定することにより、確実に接触共振の影響を回避できる。
【0033】
具体的に、第10の発明は、前記中間部材の平均厚みhb<3mmの条件で構成したものである。
【0034】
すなわち、本発明においては、中間部材が薄板形状であるにもかかわらず、中間部材の共振現象は抑制されて、音響特性への影響は回避できる。その理由は、中間部材に密着している粘弾性材料の振動減衰作用を利用したからである。この減衰作用により共振現象(接触共振も含む)を回避できるために、前記中間部材の厚みはhb<3mmの薄肉構造にできる。そのため、プレス加工の適用が可能となり、大幅なコストダウンが図れる。
【0035】
具体的に、第11の発明は、前記粘弾性材料の上端面の対向面である前記中間部材側の表面は円周方向、あるいは、半径方向で段付き形状をしており、前記粘弾性材料の上端面と前記中間部材側の表面は部分的に密着するように構成したものである。
【0036】
すなわち、本発明においては、前記荷重支持部材が粘弾性ゴムとスプリングの複数部材で構成されている場合、前記中間部材と前記粘弾性ゴムの密着面積を小さくすれば、本インシュレータが前記粘弾性ゴムから受ける反力は低減することに注目したものである。すなわち、本発明により、粘弾性ゴムがインシュレータ全体の減衰に与える影響を調節できる。
【0037】
具体的に、第12の発明は、前記上部部材に形成された前記ねじ部が雌ねじであり、その底面に、オーディオ機器用スパイクの先端を収納する凹部を形成したものである。
【0038】
すなわち、本発明においては、本発明のインシュレータとスピーカーを連結部材で締結する前段階で、スピーカーにスパイクを装着したままの状態で、音質評価用として本インシュレータの音質向上効果を容易に体感できる。
【0039】
具体的に、第13の発明は、前記荷重支持部は、スプリングコイルとこのスプリングコイルのサージング現象回避のための粘弾性材料によるサージング防止部材から構成され、かつ前記スプリングコイルと前記サージング防止部材の上端面は前記中間部材の表面と密着させたものである。
【0040】
すなわち、本発明においては、スプリングコイル固有のサージング共振現象を回避する手段として用いられるサージング防止部材(粘弾性ゴム)をサージング防止部材の上端面を中間部材の下端面と密着させる。その結果、スプリングコイルと粘弾性ゴムが分離した弾性支持部材を用いた場合でも、前記点接触部材での接触共振を回避することができる。
【0041】
具体的に、第14の発明は、前記点接触部材は球状部材であり、前記上部部材及び前記中間部材に点接触するものである。
【0042】
すなわち、本発明においては、前記球状部材を前記上部部材及び前記中間部材の間に配置した構成により、前記中間部材に対して、前記上部部材は自動調芯作用が得られる。
【0043】
具体的に、第15の発明は、前記上部部材の前記中間部材側の面に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する上部窪み部と、前記中間部部材の前記上部部材側の面に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する下部窪み部と、前記球状部材は前記上部窪み部と前記下部窪み部の間に回転可能に挿入されており、前記上部部材上面に前記オーディオ機器が搭載された平衡状態において、前記上部部材と前記中間部材は相対的に水平方向に移動可能に構成したものである。
【0044】
すなわち、本発明においては、前記上部部材及び前記中間部材間で構成されるスラストボール部の水平方向共振周波数は、前記荷重支持部の垂直方向共振周波数に対して独立して設定できる。たとえば、前記荷重支持部の垂直方向剛性を高くして、インシュレータ本体の設置安定性を充分に高めた状態で、水平方向共振周波数だけを充分に低くできる。
【0045】
具体的に、第16の発明は、前記上部部材に搭載される前記オーディオ機器は水平方向に加振力を有するスピーカーであることを特徴とするものである。
【0046】
すなわち、本発明においては、スピーカーの振動源に注目したものである。スピーカーの場合、コーンを駆動するボイスコイルの水平方向反力がスピーカー・エンクロージャー(箱)本体を振動させる。この振動がスピーカーを設置した床面に伝達され、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。本インシュレータにおいて、スラストボール部の水平方向共振周波数fSX0は充分に小さくできる。その結果、床面に伝搬されるスピーカーの水平方向振動は、防振作用によって大きく遮断される。
【0047】
また、オーディオの場合は、ユーザーは同一のばね剛性を有する一種類のインシュレータを、所定の質量範囲にあるスピーカーに適用する。この場合、従来のフローティング式インシュレータを適用した場合は、スピーカーが軽量の場合には共振周波数は高くなってしまう。しかし、本発明では、スピーカーの質量に無関係に、スラストボール部の水平方向共振周波数fSX0は低く設定できる。すなわち、質量に無関係に得られる防振作用により、床面との相互干渉による混変調歪みの発生を低減できる。
【0048】
具体的に、第17の発明は、前記点接触部材、前記上部部材、及び、前記上部部材の下側に設けられる下部部材で構成されるスラストボール部の水平方向共振周波数をfX0、前記上部部材に搭載されるオーディオ機器の質量と前記荷重支持部単体の水平方向剛性で決まる共振周波数をf Hとして、fX0< f Hとなるように構成したものである。
【0049】
すなわち、本発明においては、前記荷重支持部単体の場合と比較して、インシュレータ本体の水平方向共振周波数を、搭載物の質量に依存しないで低く設定できる。
【0050】
具体的に、第18の発明は、前記上部窪み部の曲率半径をR2B、前記下部窪み部の曲率半径をR2A、前記球状部材の半径をR1、重力加速度をgとして、水平方向共振周波数を
【0051】
【数1】
と定義し、前記上部部材に搭載されるオーディオ機器の質量をM、前記荷重支持部単体の水平方向ばね剛性をK Hとして
【0052】
【数2】
とし、fX0<f Hとなるように構成したものである。
【0053】
すなわち、本発明においては、前記上部窪み部の曲率半径をR2A、前記上部窪み部の曲率半径をR2B、前記球状部材の半径をR1から決まる水平方向共振周波数fX0をオーディオ機器の質量をM、前記荷重支持部単体の水平方向ばね剛性をK Hから決まる水平方向共振周波数fHとして、前述したfX0< f Hとなるように設定できる。
【0054】
具体的に、第19の発明は、fX0<15Hzとなるように構成したものである。
【0055】
すなわち、本発明においては、スラストボール部の共振周波数fX0<15Hzに設定すれば、荷重支持部単体の共振周波数がfH>15Hzの場合でも、インシュレータ本体が床面振動の影響を回避できる必要条件f0SUM<15Hzを維持できる。
【0056】
具体的に、第20の発明は、fX0<8Hzとなるように構成したものである。
【0057】
すなわち、本発明においては、スラストボール部の共振周波数fX0<8Hzに設定すれば、荷重支持部単体の共振周波数を設置安定性の面から充分に高く設定しても、
従来は実用上困難だった低い水平方向共振周波数を有するインシュレータが実現できる。
【0058】
具体的に、第21の発明は、前記中間部材が、厚み方向にそれぞれ離間させて設けられた複数枚の板状部材から構成されており、前記上部部材と最上部にある板状部材との間と、各板状部材の間に前記点接触部材である球状部材が設けられ、多段のスラストボール部が構成されていることを特徴とする。
【0059】
すなわち、本発明においては複数段からなるスラストボール部によって、水平方向共振周波数をより細やかに設定することが可能となる。
【0060】
具体的に、第22の発明は、前記スラストボール部が、前記荷重支持部に固定された一端が開口した筒状の固定部材をさらに備え、前記固定部材内に前記上部部材と前記中間部材がそれらの側面が当該固定部材の内側面と対向するように収容されており、前記スラストボール部を構成する前記球状部材への塵挨の侵入を防止するシール手段が、前記上部部材の側面と前記固定部材の内側面との間に設けられていることを特徴とする。
【0061】
すなわち、本発明においては球状部材が収容されている部分に塵挨が侵入して点接触状態が変化し、水平方向共振周波数が変化するのを長期間にわたって防ぐ事が可能となる。
【0062】
具体的に、第23の発明は、前記シール手段が、振動の減衰手段を兼ねるものである。
【0063】
すなわち、本発明においては水平方向の減衰についてもスラストボール部において調節する事が可能となる。
【0064】
具体的に、第24の発明は、前記上部部材に固定され、前記中間部材を非接触で貫通して前記荷重支持部側に延びた軸と、前記軸と前記荷重支持部の下側に設けられた下部部材の間に設けられた前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部、及び、前記軸と前記荷重支持部の下側に設けられた下部部材の間に設けられた前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部から構成されていることを特徴とする。
【0065】
すなわち、本発明においては、地震等により大きな加振力が発生した場合でも、オーディオ用インシュレータの変位範囲を限定し、搭載されているオーディオ機器に大きなロッキング振動が発生するのを防ぐことができる。したがって、高さのあるオーディオ機器であったとしても地震発生時に転倒してしまうのを防ぐことができる。
【0066】
具体的に第25の発明は、上述してきたオーディオ用インシュレータと、前記オーディオ用インシュレータに搭載されたオーディオ機器と、を備えたオーディオ・システムであれば、シンプル・ローコストな構成で、より一層の音響特性を改善させたオーディオ・システムとすることができる。
【0067】
具体的に第26の発明は、上面側にオーディオ機器が配置される上部部材と、前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、前記荷重支持部と前記上部部材の間に介在する、又は、前記上部部材と床面との間に介在する中間部材と、前記上部部材と前記中間部材との間に介在し、前記上部部材、又は、前記中間部材に点接触させた球状部材と、前記中間部材と前記上部部材との間の距離を所定値内で変化可能に連結し、前記球状部材が前記中間部材と前記上部部材の間から離脱するのを防止する掛かり留まり手段と、前記上部部材の前記中間部材側の面に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する上部窪み部と、前記中間部材の前記上部部材側の面に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する下部窪み部と、前記上部窪み部と前記下部窪み部の間に回転可能に挿入されており、前記上部部材の上面に前記オーディオ機器が搭載された平衡状態において、前記上部部材と前記中間部材は相対的に水平方向に移動可能である球状部材と、を備えたオーディオ用インシュレータの設計方法であって、前記オーディオ機器の質量と、前記荷重支持部の剛性から前記オーディオ機器が要求される垂直方向共振周波数を設定する垂直方向共振周波数設定ステップと、前記垂直方向共振周波数設定ステップの後に、前記上部窪み部と前記下部窪み部の曲率半径、及び、前記球状部材の半径から水平方向共振周波数を設定する水平方向共振周波数設定ステップと、を備えたことを特徴とするオーディオ用インシュレータの設計方法である。
【0068】
すなわち、本発明によればオーディオ用インシュレータとして理想的な共振周波数を簡単に設定することが可能となる。
【発明の効果】
【0069】
本発明により、(1)低音域の振動遮断効果、(2)高音域の最適ダンピング(制動)特性、上記(1)(2)を併せ持つオーディオ用インシュレータが、複雑な部品加工を必要とせず、かつ極めてシンプルな構成で実現できる。上記(1)により、設置面との相互干渉による混変調歪を回避できる。また上記(2)により、オーディオ機器が再生する楽音に含まれる高周波の多くの倍音成分を、振動減衰の影響無く正確に再現することで、再生音に生気を与えて、音楽的表現力を高めることができる。また、高音域における音響特性の向上は、ステレオ音像の定位感、分解能、奥域感を向上させる。その効果は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】本発明の実施形態1に係るオーディオ用インシュレータであり、図1(a)は上面図、図1(b)は図1(a)のAA断面における正面断面図。
図2図2(a)は、図1(a)のAA断面から見た解体図、図2(b)は、各部品を局所的に合体してユニット化した図。
図3図3(a)は中間部材の上面図、図3(b)は図3(a)のBB断面図。
図4図4(a)は図4(b)のCC断面図、図4(b)は上部部材の上面図。
図5図1における球状部材近傍の拡大図。
図6】本ユニットのスラストボール部をモデル化した図。
図7】微振動・免震スライダー効果を説明する図で、図7(a)は弾性部材だけでスピーカーを支持した場合、図7(b)は弾性部材とスラストボール部でスピーカーを支持した場合を示す図。
図8】本発明の実施形態2に係るオーディオ用インシュレータを示し、図8(a)は上面図、図8(b)は搭載荷重が最小値の場合の正面断面図、図8(c)は搭載荷重が最大値の場合の正面断面図。
図9図9(a)は図9(b)のBB断面図、図9(b)は下面図。
図10】本発明の実施形態3に係るオーディオ用インシュレータを示し、図10(a)は上面図、図10(b)は図10(a)のAA断面図。
図11図11(a)は図11(b)のBB断面図、図11(b)は下面図。
図12図12は本発明の実施形態4に係るオーディオ用インシュレータを示し、図12(a)は上面図、図12(b)は図12(a)のAA断面図。
図13図13(a)は本発明の実施形態4に係るオーディオ用インシュレータの上面図、図13(b)は図13(a)のAA断面図。
図14図14は本発明の実施形態6に係るオーディオ用インシュレータであり、図14(a)は正面断面図、図14(b)は連結部材の上面図、図14(c)は正面図、図14(d)は下面図。
図15図15(a)はインシュレータをスピーカーにねじ固定した状態を示す図、図15(b)は2つのねじ締結無しの2個のインシュレータを、スピーカー底面下に追加配置した図。
図16】本発明の実施形態7に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図17】本発明の実施形態8に係るオーディオ用インシュレータを示し、図17(a)は正面断面図、図17(b)は図17(a)のAA断面図。
図18】本発明の実施形態9に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図19】本発明の実施形態10に係るオーディオ用インシュレータを示し、図19(a)はの上面図、図19(b)は図19(a)のAA断面図。
図20】本発明の実施形態11に係るオーディオ用インシュレータの正面断面。
図21】本発明の実施形態12に係るオーディオ用インシュレータであり、図21(a)は上面図、図21(b)は図21(a)のAA断面図。
図22図22は、本発明の実施形態13に係るオーディオ用インシュレータであり、図22(a)は上面図、図22(b)は図22(a)のAA断面図。
図23】本発明の実施形態14に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図24(a)は図23(b)BB矢視図、図23(b)は図23(a)のAA断面図。
図24】本発明の実施形態15に係るオーディオ用インシュレータであり、図24(a)は上面図、図24(b)は図24(a)のAA断面図、図24(c)は図24(a)のBB断面図。
図25】本発明の実施形態16に係るオーディオ用インシュレータを示す正面断面図であり、図24(a)のAA断面図。
図26】本発明の実施形態17に係るオーディオ用インシュレータを示す正面断面図。
図27】本発明の実施形態18に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図27(a)は上面図、図27(b)は図27(a)のAA断面図。
図28】本発明の実施形態19に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図28(a)は上面図、図28(b)は図28(a)のAA断面図。
図29】周波数に対する振動遮断性能を、固有振動数f 0=8Hz、f0=15Hzの場合について求めたグラフ。
図30】「掛かり留まり」の構造の別形態を示す図。
図31】既提案オーディオ用インシュレータを示すもので、図31(a)は上面図、図31(b)は正面断面図。
図32】既定案オーディオ用インシュレータを示すもので、図32(a)は図31(b)のAA断面図、図32(b)は図31(b)のBB断面図。
【発明を実施するための形態】
【0071】
[第1実施形態]
図1は、本発明の実施形態1に係るオーディオ用インシュレータであり、上部にスピーカーを設置した状態を示すものである。図1(a)は上面図、図1(b)は図1(a)のAA断面(点a、b、c、d、e、f、gを結ぶ一点鎖線による断面図)における正面断面図である。図2(a)は、図1(a)のAA断面から見た各部品の解体図、図2(b)は、各部品を局所的に合体してユニット化した図、図3(a)は、中間部材15の上面図、図3(b)は図3(a)のBB断面図、図4は上部部材11であり、図4(a)は図4(b)のCC断面図、図4(b)は上部部材11の上面図である。11は上部部材、12は下部部材、13はオーディオ機器の荷重を支持する円筒形状の荷重支持部材である。この荷重支持部材は粘弾性ゴム14aと、前記粘弾性ゴムの内部に一体化成型により植え込まれたスプリングコイル(バネ材)14bから構成される。15は中間部材、16は球状部材(点接触部材)であり、3つの球(16a、16b、16c)から構成される。17a、17b、17cは前記中間部材の上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部、18a、18b、18cは前記上部部材の下面に形成された前記球状部材を収納する窪み部である。19a、19b、19cは抜け止めピン(抜け止め部材)、20a、20b、20cは中間部材15に形成された前記抜け止めピンを貫通する貫通穴、21a、21b、21cは上部部材の下面に形成された前記抜け止めピンを固定する下穴である。この抜け止めピンにより、上部部材11と中間部材15の離脱を防止できて、上部部材11と中間部材15の間に前記球状部材を挟み込まれた状態を維持できる。前記抜け止めピンの外周部と前記貫通穴の内周面、及び、前記抜け止めピンの頭部と前記中間部材の底面は、常時は非接触状態を保つように隙間が設定された「掛かり留まり」の構成になっている。前記中間部材は前記荷重支持部によって前記上部部材側へ押圧されると共に、前記球状部材が前記中間部材により前記上部部材に対して押圧されるように構成されている。
【0072】
22は下部部材12の外周部に固定された固定スリーブ、23はこの固定スリーブの上部先端部24を覆うように、上部部材11の外周側下面で円周状に形成された溝部である。溝部23の深さは、本シンシュレータに搭載される全荷重範囲内で、前記固定スリーブの上部先端24が常時隠れるように設定される。
【0073】
25は本インシュレータに搭載されるスピーカー(想像線で記載)、26はこのスピーカーと本インシュレータの上部部材11を連結するための連結部材である。27aは前記連結部材のスピーカー側ねじ部、27bは前記連結部材のインシュレータ側ねじ部である。27cは前記連結部材の中間部であり、その外表面はターレット加工を施してしている。28は上部部材11の上端面である。
【0074】
下部部材12と中間部材15は、片側断面がL字形状に形成されている。円筒形状の荷重支持部材13の内周面が、下部部材12と中間部材15に上下で挟み込まれるように装着される。実施例では、下部部材12、中間部材15、荷重支持部材13の3部品は接着剤により固定した。また固定スリーブ22は下部部材12の外周面に焼きバメ工法により締結した。29は上部部材11の中心部を貫通して形成されたねじ部、30は前記下部部材中心の中空部に圧入装着された締結部材、31は締結部材30の内面に形成されたねじ部である。前記スプリングコイルと前記粘弾性ゴムと一体化した荷重支持部材13は、振動減衰パーツ(たとえば、商品名:スプリングパット)として、工業分野で実用化されているものである。
【0075】
この振動減衰パーツを構成する粘弾性ゴムの主材は、高減衰性エラストマ(低反発ゴム、ウレタンゴム、発泡性ゴム)等で構成された公知の制振材料であり、本体全長に亙ってスプリングコイルが埋設されている。この振動減衰パーツをオーディオ用インシュレータとして適用したとき、低周波領域の振動減衰作用は十分に得られるが、粘弾性ゴムの過剰な制振作用により、音に生気を与える高周波数成分まで減衰してしまうため、音の輪郭が曖昧となり、音質に混濁感が生じるという欠点があった。図2(a)は、図1(a)のAA断面から見た各部品の解体図、図2(b)は、各部品を局所的に合体してユニット化した図である。上部部材11、中間部材15、球状部材16、抜け止めピン19から構成される「上部ユニット」をスラストボール部32(鎖線で示す)と呼ぶことにする。前記スラストボール部の上部部材11と中間部材15は、静的平衡点を中心に、前記球状部材の回転を伴って、水平方向に障害物無く、少なくとも0.5~1.0mmのオーダーで、相対的に移動可能である。また、「下部ユニット」33は、下部部材12、荷重支持部材13、固定スリーブ22、締結部材30から構成される。実施例ではスラストボール部32と下部ユニット33は、それぞれ個別に組み立てた後、接着剤により一体化した。
【0076】
さて、本実施形態のオーディオ用インシュレータは、既提案インシュレータ(特許文献2)には無かった以下示すような特徴を併せ持っている。
【0077】
[1] インシュレータ構造の大幅な簡素化が図れる
本実施形態のインシュレータは、前述したように、「上部ユニット32」と「下部ユニット33」の2つの独立したユニットから構成される。前記「上部ユニット」は、上部部材11、中間部材15、球状部材16、抜け止めピン19から構成されている。抜け止めピン19が前記上部部材と前記中間部材の離脱を防止すると共に、前記抜け止めピンの頭部と前記中間部材の底面は、定常時は非接触状態を保つように隙間が設定された「掛かり留まり」の構成になっている。また、「下部ユニット」33は、下部部材12、荷重支持部材13、固定スリーブ22、締結部材30から構成される。この2つのユニットは、図2で前述したように、組み立て時には独立した取り扱いができる。ここで、前記「掛かり留まり」とは次のような条件を満足する掛かり留まり手段と定義する。
【0078】
(1)定常時には、部材A(前記上部部材)と部材B(前記中間部材)は、前記球状部材(点接触部材)を介する以外には接触しない。
(2)部材Aと部材Bを引き離す力が作用した非常時には、部材Aと部材Bの相対的な距離を一定に保つことで、部材Aと部材Bの離脱を防止する。
上記(1)を補足すれば、定常時において、スピーカーからの微振動は、「前記上部部材→前記球状部材→前記中間部材」の経路のみに伝播して、前記掛かり留まり手段はこの振動伝播経路に影響を与えない。
【0079】
本実施形態では、「掛かり留まり」の構造は、前記抜け止めピンを適用して、この抜け止めピンを前記上部部材側に固定した。かつ中間部材15に貫通穴を形成して、常時は前記中間部材に対して非接触状態を保つように構成した。この構成とは逆に、図30で後述するように、中間部材側に抜け止め部材を固定して、常時は抜け止め部材は前記上部部材に対して非接触状態を保つように構成してもよい。
【0080】
本実施形態の構成により、インシュレータ構造の大幅な簡素化とコストダウンが図れる。本実施形態において、下部部材12の形状を大幅に簡素化できた。特許文献2で開示されているオーディオ用インシュレータの場合、図29bに示すように、上部スリーブ511と中間スペーサ515の離脱を防止するために、上部スリーブ511と下部スリーブ512の間に、掛かり留まりの締結ボルト522が設けられている。この締結ボルト522の頭部523と下部スリーブ512の間には、図29bの鎖線円Aにおいて、大きな引き抜き力が発生する可能性がある。そのため、下部スリーブ512は強固な厚肉構造にする必要がある。本実施形態においては、「上部ユニット32」と「下部ユニット33」が独立した構成となっており、上部ユニット32に加わる引き抜き力は、下部ユニット33側に影響を与えない。そのため、下部ユニット33を構成する下部部材12は薄板のプレス加工部品、あるいは、樹脂成型部品などが適用できる。
【0081】
本実施形態において、中間部材15もプレス加工が可能な薄肉構造にできた。切削加工の代わりに、圧倒的に加工時間が短縮されるプレス加工を適用することで、大幅なコストダウンを図ることができる。例えば、ロット1000個程度の場合、プレス加工の数百円単位に対し、切削加工は数千円程度のコスト差となる。但し、プレス加工の場合、加工部品の板厚が制約される。スピーカーの下に設置されるインシュレータの共振特性は、フローティング式、硬質式に関わらず、音響特性に多大な影響を与える。上部部材の下に球状部材を介して、中間部材を設置した場合、中間部材の共振特性は音響特性に影響を与える。そのため、中間部材は可聴域を超えた高い共振周波数(通常は1万Hz以上)を持つように、板厚を厚く構成する必要がある。しかし本実施形態のインシュレータの場合は、薄板の中間部材15の共振現象は抑制されて、音響特性への影響は回避できた。その理由は、中間部材15に密着している粘弾性材料214aの振動減衰作用を利用したからである。この減衰作用により共振現象(前述した接触共振も含む)を回避できるために、前記中間部材の平均厚みはプレス加工が可能なhb<3mmの薄肉構造にできた。
【0082】
本実施形態において、荷重支持部を覆うスリーブは固定スリーブ22として、下部部材12の外周部に固定した。その理由はスリーブを上部部材11側に設けた場合、スリーブの形状と材質で決まる共振特性が音響特性に多大な影響を与えるからである。上記スリーブに良質な音響素材を用いれば、風鈴効果として実証されているように、音響特性を向上させることができる。但し、良質な音響素材は高価であるゆえに、構造の簡素化とコストダウンを目的とした本実施形態では、安価な素材(樹脂など)を用いて、かつ音響特性に影響を皆無にできる固定スリーブ構造とした。そのために、固定スリーブ22の上部先端部24を覆うように、上部部材11の外周側下面で円周状に形成された溝部を形成した。溝部23の深さは、本シンシュレータに搭載される全荷重範囲内で、前記固定スリーブの上部先端24が常時隠れるように構成した。
【0083】
[2] スラストボール部の接触共振を回避できる。
本実施形態で用いたスラストボール部は、球状部材を窪み部と前記下部窪み部の間に回転可能に挿入したものである。スラストボール部を本実施形態のような振動減衰パーツで支持するのではなく、剛体の床面に直接設置した極端な場合を想定する。この場合、原因不明の高周波(数百~数KHzのオーダー)の共振現象が発生する場合がある、ということがわかった。発生の頻度はスピーカーの重量、インシュレータを設置する床面状態などに依存するが、従来のスプリング式、エアー式などのフローティング式インシュレータでは、過去観測されない現象であった。この共振現象が発生した場合、高音域における再生音の音質を著しく低下させる。綿密な原因究明の結果、上下の部材に対して点接触で支持される点接触部材の「接触共振」であることが明らかとなった。
【0084】
接触共振は、たとえば計測機器の分野において、振動センサーを測定対象物に取り付ける際の課題として議論される。センサーと設置面間の接触面のばね剛性(接触剛性)で決まる共振周波数により、振動センサーの測定周波数範囲が制約を受ける。(1)振動センサーを設置面に人手で固定した場合、(2)ねじ締結した場合、を比較したとき、(2)の測定可能な周波数範囲は、(1)に対して10倍程度増加する、とされる。球状部材で支持されるオーディオ用インシュレータの場合、この接触共振が再生音の品質(音質)に少なからぬ影響を与えることがわかった。この点を鑑みて、本実施形態インシュレータは、プレス加工による粗い精度で各部品を構成して、かつ複数箇所(3個×4=12箇所)で搭載荷重を支持しているにも関わらず、接触共振を回避できる構成となっている。
【0085】
スラストボール部を剛性の高い部材で支持した場合、複数箇所(12箇所)で均一に搭載荷重を支持できる保障はなく、金属間接触に不具合の有る箇所(ガタ、遊び)が発生して、接触共振となる。本実施形態では、スラストボール部は3次元的な変形可能な粘弾性ゴムによって、柔らかく支持されており、かつ粘弾性ゴムの振動減衰作用によって、接触共振を回避している。
【0086】
図5は、図1における球状部材16a近傍の拡大図である。球状部材16aと下部窪み部17a、及び、球状部材16aと上部窪み部18aの接触剛性が小さく、接触共振(上下の矢印34)が発生した場合でも、球状部材16aの直下において、中間部材15を介して配置された吸振材料である粘弾性ゴム14aにより、この共振は速やかに減衰される。 球状部材16が粘弾性ゴム14aの上端面35に近接した位置に配置される程、接触共振の抑制には有利である。図5中に、球状部材の中心部が、荷重支持部材13の外表面から離れて配置された場合を鎖線36で示す。鎖線で示す球状部材36の中心部と、荷重支持部材13の外表面の距離をrx、中間部材15の外周端37と荷重支持部材13の外表面の距離r0とする。この場合、rx<r0/2に設定すれば、上記共振現象は実用上支障の無い範囲で抑制できることが分かった。また、接触共振を回避するためには、前記球状部材の下端部を収納する下部窪み部17aは、本実施例で示すように、中間部材15に別部材を介在することなく、直接形成するのが好ましい。
【0087】
[3]本インシュレータとオーディオ機器の一体化が容易
本実施形態では、上部部材11の中心部に形成されたねじ部29と連結部材26をねじ勘合することにより、オーディオ機器の一体化が容易にできる。オーディオ機器側を締結するねじ部は、たとえば、スピーカー底面に形成されているスパイク締結部を利用すればよい。本実施形態において、上部部材11の中心部に連結部材26をねじ勘合できる理由は、前記中間部材と前記上部部材の離脱を防止する掛かり留まりによる抜け止めピン19を、軸芯から離れた箇所に複数個設けたからである。すなわち、前記上部部材の軸芯部分の空間を利用して、上部部材11の中心部にねじ部を形成した。前記抜け止めピンに要求される機能は、上部部材11と中間部材15の相対位置を、球状部材16の離脱を防止できる範囲で維持できるならば、どの様な構成でもよい。たとえば、上部部材11と締結するねじ穴の深さが制約された段付きねじ構造でもよい(図示せず)。本実施形態では、抜け止めピン19は前記上部部材側に固定したが、前記中間部材側に固定してもよい。この場合は、前記上部部材に前記抜け止めピンの頭部と細径部を非接触で収納する貫通穴を形成すればよい(図示せず)。
前記下部部材の底面に設けたねじ部31は、たとえば、小型スピーカーをスピーカースタンドに設置固定する手段として用いてもよい。この場合、スピーカースタンドの設置面には貫通穴を形成しておき、この貫通穴を利用して、スピーカースタンドの底面からボルトにより本インシュレータを固定すればよい。
【0088】
[4] 水平方向の除振・防振性能を大幅に向上できる
さて、本実施形態におけるスラストボール部は、前述したように、前記上部部材に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する上部窪み部と、前記下部部材に形成された前記球状部材の一部を収納する曲面を有する下部窪み部と、前記球状部材は前記上部窪み部と前記下部窪み部の間に回転可能に挿入されており、前記上部部材上面に機器が搭載された平衡状態において、前記上部部材と前記中間部材は相対的に水平方向に移動可能に構成されている。搭載機器と、搭載機器の荷重を支持する弾性支持部材の間に、このスラストボール部を介在させることにより、従来インシュレータ(あるいは、除振装置、防振装置)では得られなかった様々な効果を得ることができる。まず、最初にスラストボール部の水平方向共振周波数を求める解析について説明する。
【0089】
(1)水平方向の共振周波数を求める解析
図6に本ユニットの原理モデルを、一個の球状部材と一個の弾性支持部材に単純化して示す。R1は球状部材16aのO1を中心とする球の半径、R2Aは下部窪み部17aのO2Aを中心とする仮想円の曲率半径、R2Bは上部窪み部18aのO2Bを中心とする仮想円の曲率半径である。前記上部部材には搭載物重量Mgが常時加わっている。同図は、前記上部部材に水平方向外力が作用して、前記球状部材が上下の窪み部17a、18a内面と接触しながら回転し、上部部材11は中間部材15に対して水平方向に変位した状態(相対変位x1)を想定している。
【0090】
【数3】
【0091】
球状部材16aと上部窪み部18aの接触点Aにおいて発生する垂直方向抗力をTとする。このTの垂直方向分力TYは搭載物重量Mgと平衡し、Tの水平方向分力TX(=Mg・tanθ)が復元力となる。したがって、水平方向剛性はKSX=TX/x1である。
【0092】
【数4】
【0093】
平衡状態θ=0における水平方向剛性は
【0094】
【数5】
【0095】
このときの水平方向運動方程式は
【0096】
【数6】
【0097】
したがって、共振周波数fSX0
【0098】
【数7】
【0099】
式(5)から、共振周波数fSX0は搭載物の質量Mに依存せず、球状部材16aの半径R1、上部窪み部18aの曲率半径R2B、下部窪み部17aの曲率半径R2Aだけで決まることが分かる。以下、R2=R2A=R2Bの場合について説明する。スラストボール部の変位をx1、荷重支持部の変位をx2とすれば、床面に対する上部部材11の変位x=x1+x2である。
(i)R2=R1のとき、前記上部部材と前記中間部材は相対的に移動しないため、スラストボール部の水平方向剛性と共振周波数はKSX0≒∞、fSX0→∞となる。
(ii)R2≫R1になると、式(3)、式(5)からスラストボール部の水平方向剛性と共振周波数はKSX0→0、fSX0→0に低減していく。
(iii)スラストボール部の垂直方向剛性は、水平方向剛性と比べて充分に高いため、荷重支持部の剛性に無関係に、本インシュレータの水平方向剛性を充分に小さく設定できる。
【0100】
スラストボール部を設けない従来技術の場合、荷重支持部(スプリングコイルと粘弾
性ゴム)の剛性を小さくしても、共振周波数は小さくできる。しかし、(1)床面に対する必要な振動遮断特性、(2)搭載物の設置安定性、上記(1)(2)の条件から、通常は垂直・水平方向共振周波数はf0=8~15Hzの範囲に制約される。本実施形態において、スラストボール部の垂直方向剛性は充分に高いため、垂直方向の共振周波数を上記範囲に維持した状態で、水平方向剛性だけを小さく設定できる。以下、球状部材の半径R1、上・下窪み部の曲率半径R2を4種類替えた場合について、水平方向共振周波数fSX0の計算結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示すように、球状部材半径R1、上・下窪み部3の曲率半径R2共、実用上、充分実現可能な範囲内で、スラストボール部の水平方向共振周波数fSX0を小さくできる。上記理由により、本インシュレータは次の効果が得られる。
【0103】
(2)「微振動・免震スライダー効果」 ・・・床面を振動させる作用を低減
前述したように、オーディオ機器は自ら振動を発生することで、機器自身の音響特性に影響を与え、また他のオーディオ機器にも影響を与えている。ここで、多くのオーディオ機器が発生する振動方向は水平方向であることに注目する。スピーカーの場合、コーンを駆動するボイスコイルの水平方向反力がスピーカー・エンクロージャー(箱)本体を振動させる。この振動がスピーカーを設置した床面に伝達され、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。本インシュレータにおいて、スラストボール部の水平方向共振周波数fSX0は充分に小さくできる。その結果、床面に伝搬されるスピーカーの水平方向振動は、防振作用によって大きく遮断される。さらに、床面の水平方向振動は、本インシュレータの除振作用によって、スピーカー側にフィードバックされない。ちなみに、搭載物の振動を床面側に伝達させないように振動遮断する作用が「防振」であり、逆に、床面からの振動を搭載物に伝達されないように振動遮断する作用が「除振」である。図7(a)、図7(b)は、本研究が見出した「微振動・免震スライダー効果」の概念図である。
【0104】
図7(a)は荷重支持部材が弾性支持部材(スプリングコイル、及び、実施例の振動減衰パーツ13も含む)だけの場合をモデル化して示す。851は搭載機器であるスピーカー、852は水平方向の駆動源となるボイスコイル、853は床面、854a、854bはフロント側、及び、リアー側弾性支持部材である。図7(a)において、ボイスコイル852に水平方向反力FXが加わった場合、スピーカーは想像線(2点鎖線)の示すように傾斜する。ボイスコイル852には交流信号が入力されるため、スピーカー851は、左右に揺れ動くロッキング振動となる。その結果、床面853には、前記弾性支持部材からの垂直方向反力Tz1、T z2が正負に入れ替わって作用する。前述したように、この振動がスピーカーを設置した床面に伝達され、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。原音に複雑に重畳された外乱振動は、再びスピーカー本体を振動させる。この時発生する混変調歪がオーディオ機器の音質を劣化させる。
【0105】
図7(b)は前記弾性支持部材にスラストボール部が装着された場合をモデル化して示す。855a、855bは上部部材、856a、856bは球状部材、857a、857bは下部部材である。スラストボール部の水平方向剛性が充分に小さい場合、ボイスコイル852に働く水平方向反力FXは、スピーカー本体の水平方向慣性力と平衡する。その結果、左右に揺れ動くロッキング振動による垂直方向反力Tz1、T z2は大幅に低減する。
垂直方向反力Tz1、T z2の低減により、床面が励起される振動も小さくなるため、混変調歪の発生も抑制できる。この効果は、微振動の範囲で、弾性支持部材の垂直方向剛性に対して、水平方向剛性が充分に小さいとき得られるもので、「微振動・免震スライダー効果」と呼ぶことにする。ちなみに、
(i)一般の弾性支持部材は垂直方向と水平方向の剛性は、独立して設計できない。水平方向剛性を低くすれば、垂直方向の剛性も低くなってしまう。
(ii)スラストボール部(球状部材+窪み部)は、パラメータ(R1、R2A、R2B)の設定により、水平方向剛性は任意の大きさに設定できる。但し、垂直方向剛性KSH0≒∞である。
【0106】
したがって、(i)+(ii)の組み合わせにより、弾性支持部材の剛性を、(1)床面に対する必要な振動遮断特性、(2)搭載物の設置安定性、上記(1)(2)の条件を維持したままで、水平方向だけ剛性と共振周波数の低いシステムが実現できる。かつ、水平方向共振周波数は搭載質量の影響を受けない。
【0107】
(4)スピーカーに適用時の効果
水平方向を低共振周波数にできて、かつ、その共振周波数は搭載質量の影響を受けないスラストボール部の振動遮断特性は、小型スピーカーに適用したとき、実用上極めて効果的である。以下、その理由について説明する。
【0108】
本実施形態のようなフローティング式インシュレータをオーディオ用スピーカーに適用する場合、スピーカーの質量範囲に対応して、インシュレータの種類を品揃えする。その理由は、同一のばね剛性Kの場合、スピーカーの質量mによって共振周波数f0 [式(11)参照]が変わるからである。前述したように、(1)床面に対する必要な振動遮断特性、(2)搭載物の設置安定性、上記(1)(2)の条件から、通常は垂直・水平方向共振周波数はf0=8~15Hzの範囲に設定するのが好ましい。オーディオ分野で、一般的に普及しているスピーカー質量は、大型用としてm=20~80Kg、小型用はm=3~20Kgである。ここで、スラストボール部を有しない従来インシュレータにおいて、小型用、大型用として2種類のばね剛性を持つインシュレータの種類を品揃した場合を想定する。小型スピーカーにおいて、質量m=20Kgで共振周波数f0=8Hzに設定した場合を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2から、質量m=3Kgで共振周波数f0=20.7Hzとなるため、共振周波数に要求される条件f0<15Hzから大きく逸脱してしまうことが分かる。しかし、スラストボール部と弾性支持部材を組み合わせた本発明インシュレータの場合、前述した「微振動・免震スライダー効果」により、スピーカーを駆動源として床面に励起される振動が小さくなる。その結果、小型スピーカーで垂直方向共振周波数の増大は、混変調歪の発生を抑制することができる。
【0111】
(5)高音域の最適なダンピング(制動)特性が得られる
本実施形態では、前記吸振部材の上端面に固定された中間部材15と前記上部部材間は、球状部材16が点接触で密着しているため、前記上部部材に働く前記粘弾性ゴム側からの垂直方向・振動減衰作用の影響を低減することができる。さらに、前記上部部材と前記粘弾性ゴム側間の水平方向・振動遮断特性が、上記点接触の効果に加わることにより、前記粘弾性ゴムから受ける高周波数成分の減衰の影響を一層大幅に抑制できる。オーディオ機器が再生する楽音には多くの倍音成分が含まれており、高周波の倍音を振動減衰の影響無く、正確に再現することで、再生音に生気を与えて、音楽的表現力を高めることができる。また、高音域における音響特性の向上は、ステレオ音像の定位感、分解能、奥域感を向上させることができる。
【0112】
[第2実施形態]
図8は、本発明の実施形態2に係るオーディオ用インシュレータを示し、粘弾性ゴム上端面と、中間部材間の接触面積を低減することにより、粘弾性ゴムがインシュレータ全体の減衰に与える影響を調節したものである。図8(a)は上面図、図8(b)はインシュレータの搭載荷重が最小値の場合の正面断面図、図8(c)はインシュレータの搭載荷重が最大値の場合の正面断面図、図9は中間部材を示し、図9(a)は図9(b)のBB断面図、図9(b)は下面図である。
【0113】
図8(a)、図8(b)において、211は上部部材、212は下部部材、213は荷重支持部材である。この荷重支持部材は粘弾性ゴム214aと、スプリングコイル(バネ材)214bから構成される。215は中間部材、216は球状部材(点接触部材)であり、3つの球(216a、216b、216c)から構成される。217a、217b、217cは前記中間部材の上面に形成された前記球状部材を収納する下部窪み部、218a、218b、218cは前記上部部材の下面に形成された前記球状部材を収納する上部窪み部である。219a、219b、219cは抜け止めピン、220a、220b、220cは中間部材215に形成された前記抜け止めピンを貫通する貫通穴、221a、221b、221cは上部部材の下面に形成された前記抜け止めピンの下穴である。222は固定スリーブ、223は溝部、224は前記固定スリーブの上部先端部、225はスピーカー(想像線で記載)、226は連結部材、227a、227bはそれぞれ前記連結部材のスピーカー側、インシュレータ側、中間部のねじ部、227cは中間部、228は上部部材211の上端面である。229は前記上部部材の中心部に形成されたねじ部、230は締結部材、231はこの締結部材内面に形成されたねじ部である。
【0114】
図9(a)、図9(b)において、232aは中間部材215底面の凸部、232bは中間部材215底面の凹部、233は前記粘弾性ゴムの上端面である。中間部材215底面は凸部232aと凹部232bが円周方向で交互に形成されており、凸部232aが粘弾性ゴムの上端面233と密着している。凸部232aが形成される角度をθ2、凸部232aと凹部232bが形成される角度をθ12とする。このとき、中間部材215底面が前記粘弾性ゴムの上端面と密着する角度は、本実施例では、θ2/(θ12)に低減する。
【0115】
さて、前述したように、本実施形態では前記荷重支持部材は粘弾性ゴム214aと、スプリングコイル214bの2つの部材から構成されている。そのため、前記中間部材が前記粘弾性ゴムから受ける反力の大きさは、前記中間部材と前記粘弾性ゴムの密着面積を小さくすることにより、低減することができる。その理由を簡易な理論解析により説明する。前記スプリングコイルのバネ剛性をKS、前記粘弾性ゴムのバネ剛性をKD、本インシュレータに加わる荷重をFとして、前記中間部材と前記粘弾性ゴムが全面密着の場合の変位X1
【0116】
【数8】
【0117】
前記中間部材と前記粘弾性ゴムの密着面積がn倍の場合、前記粘弾性ゴムのばね剛性はKD→n KDとなる。このとき変位X2
【0118】
【数9】
【0119】
前記中間部材が前記粘弾性ゴムから受ける反力の大きさは、変位×密着面積に比例する。全面密着のときの減衰の大きさをFD1とすれば、
【0120】
【数10】
【0121】
部分密着のときの反力の大きさFD2
【0122】
【数11】
【0123】
部分密着と全面密着の反力の大きさの比は
【0124】
【数12】
【0125】
密着面積を減少した場合はn<1のため、FD2<FD1となる。要約すれば、前記中間部材と前記粘弾性ゴムの密着面積を小さくすれば、本インシュレータが前記粘弾性ゴムから受ける反力は低減する。すなわち、同一の外力Fに対して、前記粘弾性ゴムから受ける反力の比率(前記粘弾性ゴムの荷重負担の比率)は、(FD2/F)<(FD1/F)のため、前記粘弾性ゴムの密着面積を小さい程小さくなる。たとえば、KS=5、KD=5、n=1/3と仮定すれば、FD2/FD1=1/2となることが分かる。
但し、前記荷重支持部材が粘弾性ゴムの単一部材だけで構成されている場合、KS=0のため、式(10)からFD2=FD1となり、反力の大きさは密着面積に依存しない。
粘弾性ゴムからの反力の大きさは、動的な振動状態における減衰の大きさにも対応しており、本実施形態により、粘弾性ゴムがインシュレータ全体の減衰に与える影響を調節できる。
【0126】
[第3実施形態]
図10は、本発明の実施形態3に係るオーディオ用インシュレータを示し、前述した実施形態同様に、粘弾性ゴム上端面と、中間部材間の接触面積を低減することにより、粘弾性ゴムがインシュレータ全体の減衰に与える影響を調節したものである。図10(a)は上面図、図10(b)は正面断面図、図11は中間部材を示し、図11(a)は図11(b)のBB断面図、図11(b)は下面図である。
【0127】
図10(a)、図10(b)において、250は中間部材、251はこの中間部材の底面、252は底面251に形成された断面凸形状のリングである。このリング底面は前記粘弾性ゴムの上端面233と全周で密着している。図11(a)において、前記粘弾性ゴムの上端面233の幅をd1、前記リングが上端面233と密着する幅をd2とすれば、前記中間部材の底面251が前記粘弾性ゴムの上端面233と密着する面積は、本実施例では、d2/d1に低減する。本実施形態により、前述した実施例同様に、粘弾性ゴムがインシュレータ全体の減衰に与える影響を調節できる。前述した実施形態における凸部232aと凹部232bが形成される角度の設定で減衰を調節する方法と組み合わせてもよい。
【0128】
[第4実施形態]
図12は、本発明の実施形態4に係るオーディオ用インシュレータであり、水平方向剛性が無限大のスラストボール構造を適用した場合を示すものである。図12(a)は上面図、図12(b)は図12(a)のAA断面(点a、b、c、d、e、f、gを結ぶ一点鎖線による断面図)における正面断面図である。551は上部部材、552は下部部材、553は荷重支持部材、554は中間部材、555は球状部材であり、3つの球(555a、555b、555c)から構成される。556a、556b、556cは前記中間部材の上面に形成された前記各球状部材を収納する窪み部、557は前記上部部材の下面に形成された球状部材収納部であり、前記3つの球状部材と点接触するテーパ部558が形成されている。
559a、559b、559cは抜け止めピン、560a、560b、560cは抜け止めピン貫通穴、561は固定スリーブ、562はオーディオ機器である。ここで球状部材555aに注目すると、搭載物の荷重によって、球状部材555aの上部には、テーパ部558との接触点において垂直抗力Tが作用する。この垂直抗力Tの半径方向分力Txに相当する反力が球状部材555aを中心に向かう力として作用する。球状部材555aの下部は窪み部556aに収納されて半径方向の移動は規制されている。また、前記窪み部が形成された中間部材554は、荷重支持部553と密着している。すなわち、前記中間部材は前記荷重支持部によって前記上部部材側へ押圧されると共に、前記点接触部材が前記中間部材により前記上部部材に対して押圧されるように構成されている。上記構成により、オーディオ機器が搭載された状態で、本実施形態インシュレータの前記上部部材と前記中間部材は相対的に移動しないため、スラストボール部の水平方向剛性と共振周波数はKSX0≒∞、fSX0→∞である。オーディオ機器から弾性支持部材に至る振動経路は、点接触の伝達経路を介在するために、高周波域における振動減衰作用は抑制することができる。また第1実施形態と同様に、(1)下部部材552は薄板のプレス加工部品、あるいは、樹脂成型部品などが適用できる。(2)スラストボール部の接触共振を回避できる、などの効果は同様に得ることができる。
【0129】
[第5実施形態] ボールの代わりにスパイク
前述した実施例は、上部部材と中間部材の間に介在する部材は、すべて球状部材を用いたものであった。本実施形態は、球状部材の代わりに、接触部が一点接触であるスパイクで構成したものである。 図13(a)は本発明の実施形態4に係るオーディオ用インシュレータの上面図、図13(b)はAA断面図である。図13(a)、図13(b)において、300は上部部材、301は下部部材、302は荷重支持部材、この荷重支持部材302は粘弾性ゴム302aスプリングコイル(バネ材)302bから構成される。303は中間部材、304aはボルトであり、ねじ部305aとスパイク部306aから構成される。308aは前記上部部材の下面に形成された前記スパイク先端を収納する窪み部である。前記ボルト、前記窪み部は円周方向で、3組が等分割で構成されている。309a、309b、309cは抜け止めピン、310a、310b、310cは前記中間部材に形成された前記抜け止めピンを貫通する貫通穴、311a、311b、311cは上部部材の下面に形成された前記抜け止めピンの下穴である(310b、311bは図示せず)。312は前記粘弾性ゴムの上端面、313は固定スリーブ、314はスピーカー(想像線で記載)、314は連結部材である。
【0130】
本実施形態では、スパイク部306aを中間部材303側に設けて、窪み部308aを上部部材300側に設けたが、この逆の配置でもよい。またスパイク部を単独の部品として取り付けるのではなく、前記中間部材が薄板のプレス加工部品が適用できることを利用して、この中間部材に突起を形成する。この突起の先端をスパイク先端として利用する構成でもよい。(図示せず)
【0131】
本実施形態も、前述した実施形態同様に、前記上部部材と前記中間部材は相対的に移動しないため、スラストボール部の水平方向剛性と共振周波数はKSX0≒∞、fSX0→∞である。オーディオ機器から弾性支持部材に至る振動経路は、点接触の伝達経路を介在するために、高周波域における振動減衰作用は抑制することができる。また第1実施形態と同様に、(1)下部部材552は薄板のプレス加工部品、あるいは、樹脂成型部品などが適用できる。(2)スラストボール部の接触共振を回避できる、などの効果は同様に得ることができる。
【0132】
[第6実施形態]
図14は、本発明の実施形態6に係るオーディオ用インシュレータであり、オーディオ機器とインシュレータを連結するために、ねじ外径が上下2段階で異なる連結部材を用いた場合を示す。図14(a)は正面断面図、図14(b)は前記連結部材の上面図、図14(c)は正面図、図14(d)は下面図である。実施形態1と共通部材は同一番号で表示する。50は連結部材、51aは上部ねじ部、51bは下部ねじ部、51cは上部平行部、51dは下部平行部、51eは中間部である。51fは下部平行部51dの下端面、51gは上部平行部51cの上端面である。上部平行部51(c)、下部平行部51(d)は、スパナなどの工具を用いて、連結部材50とオーディオ機器、あるいは、連結部材50と本インシュレータを締結するために利用する。52はスピーカー、53は上部部材、54はこの上部部材の中心部に形成されたねじ穴、55はこのねじ穴の底面、56はこのねじ穴底面の中心部に形成されたスパイク先端を受ける凹部である。57はスピーカー52の底面に形成されているスパイクねじ部57、58は上部部材53の上端面、59は前記スピーカー底面である。上部ねじ部51aの外径をφDa、下部ねじ部51bの外径をφDとすれば、φDa<φDbとなるように形成した。この構成により次ぎのことが可能である。
【0133】
(1)上部平行部51cを利用して、スパナ等の工具により、図中の矢印AA方向に回転させて上部部材53に連結部材50を締結する。連結部材50の下端面51fがねじ穴の底面55に到達するまで、連結部材50は上部部材53内に下降する。
(2)連結部材50と一体化した本インシュレータを、図中の矢印BB方向に回転させて、上部ねじ部51aをスピーカー52のスパイクねじ部57に締結する。この場合、前記下部ねじ部外径φD>前記上部ねじ部外径φDaのため、連結部材50のスパイクねじ部57への侵入は規制される。
(3)本インシュレータを前記スピーカーねじ部から取り外す場合でも、上部平行部51(c)、あるいは、下部平行部51(d)を利用して、スパナなどの工具により連結部材50の離脱は 容易である。
【0134】
さて、最初に本実施形態による締結方法を用いて、4個のインシュレータをスピーカーにねじ固定する。次に同一仕様の前記インシュレータを、ねじ締結無しでスピーカー底面下に追加配置して、ばね剛性並列和Kを調節することで、スピーカー質量mに合わせた最適な共振周波数f0を得ることができる。この場合の共振周波数f0
【0135】
【数13】
【0136】
図15(a)は4個のインシュレータをスピーカーにねじ固定した状態を示す図、図15(b)は2つのねじ締結無しの2個のインシュレータを、スピーカー底面下に追加配置した図である。図15(a)において、100はスピーカー、101a~101dは前記スピーカーに締結するインシュレータ、102a~102dは前記インシュレータの連結部材である。図14(b)において、スピーカー底面4隅にはインシュレータが完全固定されているため、追加配置したインシュレータが衝撃的な外乱によってスピーカー底面から離脱しても、スピーカー本体の設置安定性は失われることはない。追加配置するインシュレータの個数は、スピーカー底面中心部に1個だけでもよく、あるいは、3~4個でもよい。スピーカーを支持するインシュレータ全体のばね剛性が、各インシュレータのばね剛性K0の単純な並列和K(=n×K0)として調節できる理由は、連結部材50の構造に依存する。実施形態1における連結部材26の場合、インシュレータとスピーカー底面が完全締結された状態では、中間部27cの厚み分だけ、スピーカー底面は上部部材に対して浮上して設置される。本実施形態では、図15(b)に示すように、インシュレータとスピーカー底面が完全締結された状態では、前記上部部材の上端面58と、前記スピーカー底面59が密着状態になる。その結果、ねじ締結されたインシュレータと、ねじ締結無しのそれとでは、ばねの変形量を同一にできて、最適な共振周波数(式(11)の設定が容易となる。
【0137】
[第7実施形態]
図16は、本発明の実施形態7に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図であり、本発明インシュレータとスピーカーを連結部材で締結する前段階で、スピーカーにスパイクを装着したままの状態で、音質評価用として本インシュレータを適用した場合を示す。図16において、150はスピーカー、151はスパイクである。第6実施形態を適用して、フローティング式スパイク支持構造として、本インシュレータを適用している。スパイク151の先端部は、ねじ穴底面55の中心部に形成された凹部56に収納される。オーディオ用スピーカーは、標準装備されたスパイク支持で用いられている場合が多い。本実施形態の方法によれば、(1)スパイクをスピーカーから離脱する。(2)スピーカーの底面を持ち上げる。(3)本発明インシュレータとスピーカーを連結部材で締結する。上記(1)~(3)の作業を一気に省略して、本発明の音質向上効果を容易に体感できる。
【0138】
[第8実施形態]
前述した実施形態では、上下の部材間に矜持された球状部材の離脱を防止する抜け止め部材は、軸芯に対して円周方向に複数個設けた構成であった。本実施形態は、この抜け止め部材を上部・下部部材の中心軸上に配置したものである。
【0139】
図17(a)は、本発明の実施形態8に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図、図17(b)は図17(a)のAA断面図である。701は上部部材、702は下部部材、703は荷重支持部材、704は中間部材、実施例では、下部部材702、中間部材704、荷重支持部材703の3部品は接着剤により固定した。705a、705b、705cは球状部材である。706a、706b、706cは前記球状部材を収納する下部窪み部である。707は上部窪み部であり、上部部材701の底面にリング状に形成されている。前記上部窪み部と前記下部窪み部に介在する前記球状部材は、上部部材701が軸芯に対して回転しても離脱することは無い。708は抜け止め部材、709は前記中間部材に形成された前記抜け止め部材を貫通する貫通穴、710は前記上部部材における前記抜け止め部材の締結部である。この抜け止め部材により、上部部材701と中間部材704の離脱を防止できる点は、前述した実施例と同様である。前記抜け止め部材の外周部と前記貫通穴の内周面、及び、前記抜け止め部材の頭部と前記中間部材の底面は、常時は非接触状態を保つように隙間が設定されている。711は上部部材701の外周部に固定された円筒形状のスリーブである。本実施形態で、前記上部部材側に形成したリング状の窪み部707は、前記中間部材側に形成してもよい。
【0140】
[第9実施形態]
図18は、本発明の実施形態9の正面断面図であり、上部部材と中間部材の離脱防止を図る抜け止め部材を、上部部材と下部部材の間に設けたものである。750は上部部材、751は中間部材、752は下部部材、753は前記下部部材の中心部に形成された筒形形状の変位規制部、754はこの変位規制部の中央部に形成された前記中心軸の貫通穴である。755は抜け止め部材である締結ボルト、756は前記中間部部材に形成された前記抜け止め部材を貫通する貫通穴、757a、757b、757cは球状部材、758a、758b、758cは前記球状部材を収納する下部窪み部である。759は上部窪み部であり、上部部材750の底面にリング状に形成されている。前述した実施形態同様に、前記上部窪み部と前記下部窪み部に介在する前記球状部材は、前記上部部材が軸芯に対して回転しても離脱することは無い。前記球状部材、前記上部窪み部、前記上部窪み部により、水平方向が低剛性のスラストボール部を構成できる。この点を利用して、微振動の範囲で、弾性支持部材の垂直方向剛性に対して水平方向剛性が充分に小さいとき得られる「微振動・免震スライダー効果」を得ることができる点は、前述した実施形態と同様である。760は前記上部部材の外周部に固定された円筒形状のスリーブ、761は荷重支持部、762は搭載機器側と締結する締結部材であり、ボルト763a、763bにより、前記上部部材の上面に締結される。
【0141】
本実施形態では、締結ボルト755が前記上部部材と前記中間部材の離脱防止を図る構成となっている。変位規制部753の下端面764と前記締結ボルトの頭部765間の間隙により、上部部材750の上方向の移動量が規制されている。掛かり留まり手段を、上部部材と下部部材の間に設ける本実施形態の構造は、前述した他の実施形態にも適用できる。
【0142】
[第10実施形態]
前述した実施例に適用した荷重支持部材は、いずれも粘弾性ゴム内部にスプリングコイルが埋設された制振材料を適用した場合を示した。本実施形態は、スプリングコイル単体と、このスプリングコイルの金属部分に密着して配置されたサージング防止部材(粘弾性ゴム)から荷重支持部材を構成したものである。図19(a)は本発明の実施形態10に係るオーディオ用インシュレータの上面図、図19(b)は正面断面図である。前述した制振材料に限らず、スプリングコイル単体と上部部材を密着させた場合でも、振動減衰の影響を受ける。スプリングコイルの剛性が高い程、たとえば、外径と高さが同一の条件では、スプリングコイルの線径が大きい程、上部スリーブがスプリングコイルから受ける振動減衰作用が増加することが分っている。その理由は、スプリングコイルの剛性が高い程、上部スリーブとスプリングコイルの接触面の面積が増大するからである。350は上部部材、351は片側断面L字形状の下部部材、352はスプリングコイル、353は前記下部部材の中央筒部、354はこの中央筒部と前記スプリングコイルの間に装着されたサージング防止部材、355は中間部材、356は球状部材(点接触部材)であり、3つの球(356a、356b、356c)から構成される。357a、357b、357cは前記中間部材の上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部、358a、358b、358cは前記上部部材の下面に形成された前記球状部材を収納する窪み部である。359a、359b、359cは抜け止めピン、360a、360b、360cは前記中間部材に形成された前記抜け止めピンを貫通する貫通穴である(357b、358b、359b、360bは図示せず)。361は固定スリーブ、362は連結部材である(スピーカーは図示せず)。
【0143】
[第11実施形態]
本実施形態は、前述した第10実施形態で示したスプリングコイルと粘弾性ゴムが分離した荷重支持部材を用いた場合のさらなる改善を図るものである。すなわち、第1実施形態で説明したように、上下の部材に対して点接触で支持される球状部材の「接触共振」を回避する方策を示すものである。図20は本発明の実施形態11に係るオーディオ用インシュレータの正面断面であり、380はスプリングコイルに密着して配置されたサージング防止部材(粘弾性ゴム)である。本実施形態のインシュレータ構造は、サージング防止部材380の形状を除いて、第10実施形態と共通である。ちなみに、サージング防止部材は、スプリングコイル固有のサージング共振現象を回避する手段として用いられるものである。本実施形態では、スプリングコイル352とサージング防止部材380の軸方向長さを同一寸法、もしくは同レベルの寸法に設定することにより、サージング防止部材380の上端面381を中間部材355の下端面382と密着させて、球状部材の「接触共振」を回避している。本実施形態では、球状部材356の概略真下にサージング防止部材380の上端面381を配置している。また、サージング防止部材380の振動減衰作用により、中間部材355単体の共振現象を回避できる。そのために、前記中間部材をプレス加工が可能な薄板構造により製作できて、おおいにコストダウンを図ることができる。
【0144】
[第12実施形態]
図21は、本発明の実施形態12に係るもので、本インシュレータに搭載される保護対象機器(たとえば、スピーカー)の設置安定性を向上させるために、上限値と下限値を調節する箇所をスプリングの内部空間を利用して設けたものである。すなわち、後述するように、フローティング式の「擬似剛体化ユニット」を構成したものである。
【0145】
図21(a)は上面図、図21(b)は図21(a)のAA断面図である。450は上部部材、451は下部部材、452はスプリングコイル、453は中間部材、454a、454bはスプリングコイルの位置決め部、455は前記上部部材の上面凸部である。456は上面凸部455に固定されて、保護対象機器457(想像線で示す)と締結する連結部材である。458は前記上部部材に締結されて前記下部部材側に突出して設けられた中心軸、459aと459bは、前記中心軸に締結された下限値調整ナット及び上限値調整ナットである。460は前記下部部材の中心部に形成された筒形形状の変位規制部、461はこの変位規制部の中央部に形成された前記中心軸の貫通穴である。変位規制部460の下端面462と上限値調整ナット459bの間隙により、上部部材450の上方向の移動量(上限値隙間)δV2が設定されている。また変位規制部460の上端面463と下限値調整ナット459a間の間隙により、上部部材450の下方向の移動量(下限値隙間)δV1が設定されている。中心軸458の外周面と、変位規制部460における対向面の間隙により、水平方向移動量δHが規制されている(δHは図示せず)。 すなわち、スプリングコイル452の内部空間を有効に利用して、上記δV1、δV2、δHを設定される箇所が近接して設けられている。
【0146】
464はサージング共振防止部材、465は球状部材(点接触部材)であり、3つの球(465a、465b、465c)から構成される。466a、466b、466cは前記上部部材の下面に形成された前記球状部材を収納する窪み部、467a、467b、467cは前記中間部材の上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部である。468a、468b、468cは抜け止めピン、469a、469b、469cは前記中間部材に形成された前記抜け止めピンを貫通する貫通穴である(466b、467b、469bは図示せず)。470は固定スリーブ、471a、471b、471bは連結部材456を前記上部部材の上面凸部455に締結するボルトである。472は床面、473は本インシュレータと床面472間に設けられたボード、474a、474bはボード473と下部部材451を締結するボルト(他のボルトは図示せず)である。475は中間部材453に形成された貫通穴である。前記中心軸はこの貫通穴475に非接触で貫通して、前記上部部材の締結部476で締結される。保護対象機器457が、たとえば、スピーカーの場合は、スピーカー底面のスパイクねじ部を利用して、連結部材356を前記スパイクねじ部と締結する。
【0147】
ここで、(1)保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材(スプリングコイル)、(2)弾性支持部材の移動量を狭い隙間(δV1、δV2、δH)で規制する手段、上記(1)(2)を一個のユニットに内蔵した減震構造を、フローティング式の「擬似剛体化ユニット」と呼ぶ。保護対象機器に大きな外力が加わる非常時の場合でも、「擬似剛体化ユニット」の有する狭い隙間を規制する手段により、保護対象機器の転倒を防止できる。また、前記中心軸は前記中間部材の貫通穴475に非接触で貫通しているため、前記球状部材、前記窪み部を損傷するような衝撃的外力は加わらない。
【0148】
[第13実施形態]
図22は、本発明の実施形態13に係るオーディオ用インシュレータであり、第1実施形態インシュレータに適用した上部部材の代わりに、風鈴部材と呼ばれる上部スリーブを配置したものである。風鈴部材による高周波振動のアシスト効果を利用して、音響特性を向上させるオーディオ用インシュレータは、本発明者らの既提案によるもので、特許文献1、特許文献2により既に公知のものである。
【0149】
図22(a)は上面図、図22(b)は図22(a)のAA断面図である。実施形態1と共通部材は同一番号で表示する。801は上部スリーブ(共振部材である上部部材)、802は下部部材、803は前記上部スリーブの上端面でオーディオ機器25を搭載する機器搭載部、804はインシュレータ設置面(床面)である。本実施例では、上部スリーブ801は音響用材料として良好な特性を有する真鍮を用いた。前記上部スリーブは、オーディオ機器の高周波域での音響特性を調整(改善)することを目的に構成されたものである。すなわち、前記上部スリーブ内部は荷重支持部13、中間部材15、球状部材16を収納する空洞を有し、一方の端部を密閉構造、もう一方の端部を大気解放端(自由端)とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。風鈴が糸で吊り下げられて妙なる音色を奏でることができるように、上部スリーブ801の上端部は完全固定ではなく、X軸、Y軸、Z軸方向は3個の前記球状部材と前記中間部材を介在して、前記荷重支持部により弾性支持されている。
【0150】
上部スリーブ801の上面に設置されるスピーカーのボイスコイル反力は本インシュレータを加振する。前記球状部材と前記中間部材を介在して、荷重支持部13で支持された上部スリーブ801には、前記加振力Fによって、高周波数における様々な振動モードが励起される。これらの共振モードに加えて、余韻・ゆらぎなどを有する風鈴(上部スリーブ801)の音響振動特性が音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などの音響特性向上効果(風鈴効果)をもたらすのである。
【0151】
さて、図30に示す既提案インシュレータ(特許文献2)においては、「上部スリーブ511のテーパ部519→球状部材516」の振動伝達経路は点接触のため、前記上部スリーブが前記スプリングコイルから受ける振動減衰作用は大幅に低減する、としている。しかし、上記構造では前記球状部材の上部には、テーパ部519との接触面に加わる軸方向荷重によって、中心に向かう半径方向分力が働いている。また、前記球状部材の下部は窪み部518に収納されて半径方向の移動は規制されている。したがって、平衡状態において、前記上部スリーブの中間プレート515に対する水平方向剛性はK x=∞である。
【0152】
図22に示す本実施形態においては、前記上部スリーブの中間部材15に対する水平方向剛性Kxは、第1実施形態で詳細に説明したように、充分に小さくできる。すなわち、前記球状部材は前記上部スリーブを点接触で、かつ転動可能に支持しているため、前記上部スリーブが受ける拘束条件はさらに低減する。その結果、風鈴効果による、より一層の音響特性向上が図れる。
【0153】
[第14実施形態]
図23は、本発明の実施形態14に係るもので、荷重支持部にスプリングコイルの代わりに、粘弾性ゴムを用いたものである。本構成により、よりシンプルで薄型の振動遮断ユニットが実現できる。図23(a)は図23(b)BB矢視図、図23(b)は図23(a)のAA断面図である。821は上部部材、822は下部部材、823は中間部材、824は搭載機器の荷重を支持する円筒形状の粘弾性ゴムによる荷重支持部材である。825はスリーブ、826はスラストワッシャー、827はボルト、828は搭載機器である。
【0154】
図23(a)、図23(b)において、829aは中間部材823底面の凸部、829bは前記中間部材底面の凹部、830は前記粘弾性ゴムの上端面である。前記中間部材底面は前記凸部と前記凹部が円周方向で交互に形成されており、前記凸部が粘弾性ゴムの上端面830と密着している。前記凸部が形成される角度をθ2、前記凸部と前記凹部が形成される角度をθ12とする。このとき、前記中間部材の底面830が前記粘弾性ゴムの上端面と密着する角度は、本実施例では、Φ=θ2/(θ12)に低減する。このΦの値により、減衰作用の大きさを調節する。831は球状部材(点接触部材)であり、3つの球(831a、831b、831c)から構成される。832a、832b、832cは前記上部部材の下面に形成された前記球状部材を収納する上部窪み部、833a、833b、833cは前記中間部材の上面に形成された前記球状部材を収納する下部窪み部である(832a、832c、833a、833cは図示せず)。
【0155】
[第15実施形態]
図24は、本発明の実施形態15に係るもので、スラストボール部が水平方向に対して低剛性にできる特徴をさらに活かすものである。すなわち球状部材を2つの対向面のそれぞれに形成された窪み部に収納させて、一組のスラストボール部を構成する。さらに、このスラストボール部を多段に積層することにより、多段スラストボール・ユニットを構成する。その結果、水平方向のさらなる低剛性化とストローク増大が図れる点に注目したものである。本実施形態は2段ユニット構成である。
【0156】
図24(a)は多段スラストボール・ユニットの上面図、図24(b)は図24(a)のAA断面図、図24(c)は図24(a)のBB断面図である。601は第1部材、602は第2部材、603は第3部材、604a、604b、604cは前記第1部材と前記第2部材の間に挟持された球状部材、605a、605b、605cは前記第2部材と前記第3部材の間に挟持された球状部材である。606a、606b、606cは抜け止め部材、607は連結部材、608は荷重支持部である。すなわち、中間部材は、複数の板状部材である第1部材601、第2部材602、第3部材603で構成される。609a、609b、609cは第1部材601に形成された前記抜け止め部材を貫通する貫通穴、610a、610b、610cは第2部材602に形成された前記抜け止め部材を貫通する貫通穴である。前記抜け止め部材は第3部材603とねじ部611a、611b、611cで締結される。前記抜け止め部材と前記貫通穴の半径方向の間隙δrは、前記多段スラストボール・ユニットの半径方向ストロークの許容範囲内で設定する。前記抜け止め部材と第1部材601間の垂直方向間隙δzは、前記球状部材が離脱できない範囲内で設定する。
【0157】
本実施形態の2段スラストボール・ユニットは、一組だけのスラストボール部と比べて水平方向剛性は1/2に低減して、かつ、水平方向ストロークは2倍に増大できる。
【0158】
荷重支持部608には、適用する用途に合わせて、スプリングコイル、空気ばね、あるいはマグネットの反発力を利用したバネ、粘弾性ゴムなどの弾性支持部材が適用できる。あるいは、弾性変形しない剛体の上に設置してもよい。
【0159】
[第16実施形態]
図25は、本発明の実施形態17に係るもので、多段スラストボール・ユニットに水平方向減衰作用を与えたものである。図25は本実施形態である3段スラストボール・ユニットの正面断面図であり、図24(a)のAA断面図に相当する。図24(c)に相当する抜け止め部材が図示された図面は記載していない。651は第1部材、652は第2部材、653は第3部材、654は第4部材である。655a、655b、655cは前記第1部材と前記第2部材の間に挟持された球状部材、656a、656b、656cは前記第2部材と前記第3部材の間に挟持された球状部材、657a、657b、657cは前記第3部材と前記第4部材の間に挟持された球状部材である。なお、(655c、656c、657c)は図示せず。
【0160】
ここで、中間部材は複数の板状部材であり、それぞれが軸方向に対して所定距離離間させて設けられた第1部材651、第2部材652、第3部材653相当する。この実施形態では中間部材は一端が開口した円筒状の固定部材である第4部材654内に収容されている。第4部材654の内側面と、第1部材651、第2部材652、第3部材653のそれぞれの外側面とは対向するように配置されている。
【0161】
658は連結部材、659は保護対象機器(2点鎖線で示す)、660は荷重支持部、661は床面である。662は前記第1部材と前記第4部材の間に挟持された低剛性のOリングであり、前記第1部材の水平方向に緩やかな減衰作用を与える。またOリング662は、前記球状部材が収納された空隙に対して、粉塵などの侵入を防止する防塵シールも兼ねている。固定部材(前記第4部材に相当)と可動部材(前記第1部材に相当)の間に、減衰作用と防塵シールを設ける方策は、前述した各実施例にも有効である。
【0162】
[第17実施形態]
図26は、本発明の実施形態17を示すものである。前述した実施形態はすべて搭載機器側(上部部材の下)にスラストボール部を配置して、このスラストボール部の下側に弾性支持部材である荷重支持部を配置した構成を示した。スラストボール部の低剛性特性が、弾性支持部材の剛性に対して独立して選択できるという前述した実施形態の特徴を活かす用途ならば、スラストボール部と荷重支持部の位置は逆でもよい。
【0163】
すなわち、この実施形態では中間部材は上部部材と荷重支持部との間に設けられるのではなく、上部部材と床面との間に配置される。また、上部部材の上面に直接オーディオ機器が載置されるのでなく、荷重支持部を介して上部部材の上面側にオーディオ機器は配置される。
【0164】
以下、実施形態15と共通部材は同一番号で表示する。951は弾性支持部材である荷重支持部、952は搭載機器、953は前記荷重支持部側と前記搭載機器を連結する連結部材、954は床面である。スラストボール部と荷重支持部の位置を逆にする構成は、前述したどの実施形態にでも適用できて、かつ、ユニット全体の垂直方向剛性、水平方向剛性に影響は無い。
【0165】
[第18実施形態]
図27は、本発明の実施形態18に係るもので、スラストボール部が水平方向に対して低剛性にできる特徴と、複数個の径小スプリングコイルを組み合せることにより、座屈に対して安定で、かつ水平方向に対して一層の低剛性特性を有するインシュレータを示すものである。図27(a)は上面図、図27(b)は図27(a)のAA断面図である。400は上部部材、401は下部部材、402a、402b、402cはスプリングコイルで円周方向3箇所で等分割に配置されている。403a、403b、403cはベース部、404a、404b、404cは前記ベース部の上部に接着固定されて、前記スプリングコイルの内面に密着するように装着されたサージング防止部材である。前記スプリングコイルと前記サージング防止部材により、荷重支持部材を構成している。
【0166】
405は中間部材、406は球状部材(点接触部材)であり、3つの球(406a、406b、406c)から構成される。407a、407b、407cは前記中間部材の上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部、408a、408b、408cは前記上部部材の下面に形成された前記球状部材を収納する窪み部である。409a、409b、409cは抜け止めピン、410a、410b、410cは前記中間部材に形成された前記抜け止めピンを貫通する貫通穴である(407c、408c、410cは図示せず)。411は本インシュレータと搭載機器を繋ぐ連結部材である。
【0167】
さて、本実施形態の荷重支持部材を構成するスプリングコイルの垂直方向ばね定数K Vは次式で求められる。Nをスプリングコイルの有効巻数、Dをコイルの平均径、dをコイルの線径、Gを横弾性係数とすれば、垂直方向ばね定数K V
【0168】
【数14】
【0169】
また、水平方向ばね定数K Hとして、材料のせん断剛性率 G=11.510 psi(≒8000kg/mm)としたとき、K VとK Hの比はGredeの式により
【0170】
【数15】
【0171】
図26に示すように、Dはスプリングコイルの平均径、hsは使用時の高さである。
式(13)から、Dを充分に小さくすることで、K H≪K Vにできる。すなわち、平均径Dが十分に小さいスプリングコイルを円周方向に複数個配置した図27の構造により、座屈に対して安定で、水平方向に対して低剛性のスプリング・ユニットを構成できる。但し、スプリングコイル径Dは、式(12)から垂直方向剛性にも影響を与えるため、適用対象の要求に対して、垂直方向と水平方向の剛性の選択範囲は限界があった。
【0172】
本実施形態は、上記スプリング・ユニットとスラストボールを組み合わせることにより、上記スプリング・ユニットの垂直方向剛性に影響を与えることなく、適用対象が要求する最適な水平方向剛性を選択できる。
【0173】
[第19実施形態]
図28は、本発明の実施形態19に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、一個のスラストボールで各ユニットを構成したものである。図28(a)は上面図、図28(b)は図28(a)のAA断面図である。搭載機器902は3つのユニット901a、901b、901cにより支持されている。ユニット901aに注目して説明する。実施形態1と共通部材は同一番号で表示する。903は上部部材、904は中間部材、905は球状部材、906(a)、906(b)は抜け止め部材、907は連結部材である。前記球状部材は、前記上部部材と前記下部部材に形成された窪み部(番号は表示せず)によって矜持されている。本実施形態の各ユニットの球状部材は一個であるため、ユニット単体としては設置不安定である。しかし、図28(a)に示すように、搭載機器に複数個で設置すれば、システム全体として設置条件は安定化する。また、本実施形態に示すように、3箇所で設置すれば、システム全体として支持部の冗長性(不整合性)が完全に無くなるために、設置共振現象を完全に回避できる。
【0174】
[補足]
(1)スラストボール部の共振周波数の条件
前記上部部材と前記中間部材が相対的に水平方向に移動可能に構成されたスラストボール部を適用する場合について補足する。スピーカーが設置される民間住宅の床面は、通常20~100Hzを固有値とする分布振動モードを持っている。前述したように、スピーカーの振動が床面に伝達されると、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。この低周波の床面振動とスピーカー本体の振動の相互干渉がもたらす音質の劣化を回避するためには、フローティング式インシュレータの固有振動数の上限値を、床面振動の影響を受けない値に設定する必要がある。図29は、周波数に対する振動遮断性能を、固有振動数f 0=8Hz、f0=15Hzの場合について求めたものである。除振特性は共振点f 0を中心に、周波数に対して傾斜する特性(裾野)を有する。床面振動の影響から回避するためには、床面が分布振動モードを有する領域において、振動遮断性能<0が必要条件である。同図中のB点を含む固有振動数の許容される上限値はf0=fB=15Hzである。
【0175】
たとえば、実施形態1のインシュレータの場合、インシュレータ本体の水平方向ばね剛性KHSUMはスラストボール部16のばね剛性KX0と、荷重支持部13のばね剛性KHの並列和で決まる。すなわち、KHSUM=KX0×KH/(KX0+KH)である。インシュレータ本体の水平方向共振周波数f0SUMは、搭載物の質量Mとばね剛性の並列和KHSUMによって決定されて、f0SUM=(1/2π)×(M/KHSUM)-1である。したがって、前記スラストボール部の共振周波数fX0<15Hzに設定すれば、荷重支持部単体の共振周波数に値に依存せず、床面振動の影響を回避できる必要条件f0SUM<15Hzを維持できる。さらに、スラストボール部の共振周波数fX0<8Hzに設定すれば、設置安定性から従来は実用上困難だった低い水平方向共振周波数を有するインシュレータが実現できる。その理由は、前記スラストボール部が無い場合の共振周波数fH、搭載物の質量に依存しない前記スラストボール部の共振周波数fX0を比較したとき、fX0≪fHにできるため、インシュレータ本体の共振周波数f0SUMは上記fX0に支配されるからである。また、(1)スラストボールの水平方向移動量は制約されて、平衡点を中心に0.5~1.0mmのオーダーである。(2)スラストボールの垂直方向剛性はKXZ≒∞である。上記(1)(2)の理由により、スラストボールの存在は装置の設置安定性に影響を与えない。しかし、スプリングコイル単体で荷重を支持した場合、要求される設置安定性と振動遮断性能から、fH、fV共に、8~15Hzにせざるを得ない。
【0176】
(2)球状部材について
球状部材を収納する窪み部(たとえば、図1における17、18)は真円形状でなくてもよい。平衡点におけるスラストボール部の水平方向共振周波数fSX0は搭載物の質量Mに依存せず、球状部材16aの半径R1、上部窪み部18aの曲率半径R2A、下部窪み部17aの曲率半径R2Bだけで決まる。そのため、
(i)平衡点近傍θ≒0では、曲率半径R2A、R2Bは充分に大きく形成する
(ii)平衡点から離れた箇所では、曲率半径R2A、R2Bは小さく形成する
【0177】
上記(i)(ii)の組み合わせによる非真円形状でもよい。上記構成により、平衡点における共振周波数fSX0を充分に小さく設定できると共に、上部部材に大きな外力が加わったときに、平衡点に調芯するまでの整定時間を短くできる。
【0178】
球状部材(たとえば、図1における16)、及び、窪み部(図1における17、18)は、真鍮、鋼、セラミクス、石英、樹脂など様々な固有音響インピーダンスの異なる素材を選択できる。球状部材(点接触部材)は3つの球から構成されるが、この3個という数字はインシュレータを単体で取り扱う場合は、最低限必要でかつ最適な支持軸数である。その理由は、2個以下では安定して支持できず、4個以上になると支持条件が不整定となり、振動伝達経路における非接触支持部分(ガタ)の存在により、歪の発生をもたらす可能性が生じるからである。
【0179】
(3)「掛かり留まり」の構造について
スラストボール部における「掛かり留まり」の構造は、第1実施形態とは逆に、中間部材側に抜け止め部材を固定して、常時は抜け止め部材は前記上部部材に対して非接触状態を保つように構成してもよい。図30において、950は上部部材、951は中間部材、952は球状部材、953は上部窪み部、954は下部窪み部、955は荷重支持部である。956は抜け止め部材、957は抜け止め部材の頭部、958は中間部、959は中間部材951と前記抜け止め部材のねじ締結部、960は前記上部部材側に形成された前記抜け止め部材の頭部の収納部である。前記上部部材と前記中間部材が相対的に移動できる間隔(遊びの空隙範囲)は、抜け止め部材の頭部の位置と前記収納部の底面位置で決まりδnである。上部窪みの最大深さをδa、下部窪みの最大深さをδbとしたとき、
【0180】
【数16】
【0181】
上式を満足するように構成すれば、前記球状部材はスラストボール部から離脱しない。式(14)の条件は、実施形態1を含む他の実施例も同様である。
【0182】
(4)上部部材について
本発明をオーディオ用に適用する場合、上部部材は、真鍮、鋼、セラミクス、木材、樹脂など様々な材料から選択できる。上部部材に真鍮などの良質な音響素材を用いれば、その共振周波数が可聴域を超えた領域(1万Hz以上)でも、音響特性に多大な好影響を与える。
【0183】
たとえば、実施形態1における中間部材15が薄板のプレス加工部品が適用できることに注目して、概略同形状の薄板部品を上部部材の底面側に固定する構造でもよい。この薄板部品には窪み部、抜け止めピンの貫通穴などを形成しておく。すなわち、球状部材16を上下の薄板部品で挟み込む構成にする。上記構成にすれば、前記上部部材は窪み部の曲面加工などを必要としない構造に単純化できるため、前記上部部材を多くの材料から選択できて、また、おおいにコストダウンを図ることができる。
【0184】
スラストボール部の水平方向共振周波数fX0の選定は、同一の曲率半径を有する上下一対の窪み部を共通にして、外径の異なるボールの中から選択してもよい。玉軸受などに使用される鋼球の場合、外径の大きさが微小に異なる球体が、多くの段階に分けて標準化されており、簡易に入手可能である。この点を利用して、最適な水平方向共振周波数fX0を高い精度で選択できる。
【0185】
前述した実施形態では、本発明のインシュレータをスピーカーに適用する場合を示したが、オーディオ機器であるCDプレイヤー、アナログプレイヤー、プリアンプ、パワーアンプ、あるいは様々な楽器(たとえば、アコースティック楽器)、ピアノなどのいずれにでも適用でき、同様な効果が得られる。また、実施例では、インシュレータはすべて床面に垂直配置する場合を示したが、インシュレータの姿勢を水平にして、例えば壁面にオーディオ機器を水平配置する場合でも適用できる。
【0186】
前述した実施形態では、点接触部材と組み合わせた弾性支持部材(荷重支持部)には、振動減衰パーツ、あるいは、スプリングコイルを用いる場合を示した。本発明に適用できる弾性支持部材はこれに限定されるものではない。たとえば、円錐コイルばね、皿バネ、あるいはこの皿ばねを多段に積み重ねた構造、竹の子ばね、輪ばね、渦巻きばね、薄板ばね、重ね板ばね、U字型ばねなど、オーディオ用インシュレータとして要求される形状、寸法などを考慮して選択すればよい。スプリングコイル以外には、マグネットの反発力を利用したもの、ワイヤとU字状ばねによるもの、エアー式などのフローティング方式のインシュレータも適用できる。具体的には、たとえば、図2bの下部ユニット13を上述したフローティング方式を構成する部材に置き換えればよい。
【0187】
本発明を、たとえば、空気ばねで支持された除振装置に適用する場合を想定する。露光装置などの半導体製造装置、電子顕微鏡、三次元測定器などの精密機器は、設置床からの微振動が絶縁された状態で用いられる。空気ばねで支持された除振装置の性能を向上させるには、その固有振動数を低下させる必要がある。空気ばねの鉛直方向の固有振動数を低下させるには、空気ばねの空気室を大きくすればよいが、同じ手段によって水平方向の固有振動数を低下させることはできない。そこで、除振装置の水平方向の固有振動数を低下させるために、空気ばねの上又は下に水平方向の剛性が低い積層ゴムを配置することが行われている。しかし、積層ゴムはその載置荷重が変化すると固有振動数が変化してしまうという欠点と共に、剪断変形によって支持面積が減少してしまうために載置された物体の支持が不安定になるという欠点を有している。本発明のスラストボール・ユニットを空気ばね、あるいは、スプリングコイル等と組み合わせて適用することにより、水平方向の固有振動数が小さいにも拘わらず、載置荷重が変化しても固有振動数の変化が少なく、かつ載置物体の支持が安定な除振装置が実現できる。たとえば、電子顕微鏡の場合、水平方向の位置決め精度が重要であり、水平方向に優れた除振性能が得られるスラストボールと荷重支持手段の組み合わせた除振装置に有効である。
【0188】
本発明のユニット全体を伸縮自在の防塵皮膜(たとえば、蛇腹状に形成された外囲部)で覆うことにより、密閉構造にする。この密閉構造により、球状部材と窪み部から構成されるスラストボールを塵埃の影響から保護できる。また、圧縮コイルばね、サージング防止部材等を、風雨や紫外線によって劣化するのを恒久的に防止できる。
【符号の説明】
【0189】
11・・・上部部材
25・・・オーディオ機器
13・・・荷重支持部
15・・・中間部材
16・・・点接触部材
19・・・掛かり留まり手段
12・・・下部部材
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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