(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】作業爪の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01B 33/10 20060101AFI20221116BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20221116BHJP
C23C 4/10 20160101ALI20221116BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20221116BHJP
【FI】
A01B33/10 A
C23C4/06
C23C4/10
B23K26/342
(21)【出願番号】P 2018116340
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390010836
【氏名又は名称】小橋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公紀
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】海田 健児
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201915(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0014458(US,A1)
【文献】特開2016-155155(JP,A)
【文献】特開昭62-183988(JP,A)
【文献】特開昭59-223166(JP,A)
【文献】米国特許第05813475(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 33/00-33/16
C23C 4/06- 4/11
B23K 26/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機に備えられた
回転軸に対して取り付け可能であり、前記
回転軸を中心として回動することで圃場に作用する作業爪の母材に対して、前記母材よりも硬い第1硬質層をレーザークラッディング法によって帯状に形成し、
前記第1硬質層に沿って、前記第1硬質層の一部と重なるように、前記母材よりも硬い第2硬質層をレーザークラッディング法によって形成する作業爪の製造方法であって、
前記第1硬質層及び前記第2硬質層の各々が延びる方向に直交する幅方向において、前記母材を基準とした前記第1硬質層の頂点及び前記第2硬質層の頂点の各々の位置が、前記第1硬質層と前記第2硬質層との重畳領域に重ならないように、前記第1硬質層及び前記第2硬質層を形成する作業爪の製造方法。
【請求項2】
前記母材を基準とした前記第1硬質層の頂点の厚さT1に対する、前記幅方向における前記重畳領
域における前記第1硬質層
及び前記第2硬質層の合計の厚さT2の割合が50%以上120%以下になるように前記第1硬質層及び前記第2硬質層を形成する、請求項1に記載の作業爪の製造方法。
【請求項3】
前記幅方向において、前記重畳領域の幅が前記第1硬質層又は前記第2硬質層の幅の5%以上20%以下になるように、前記第1硬質層及び前記第2硬質層を形成する、請求項1又は2に記載の作業爪の製造方法。
【請求項4】
前記第1硬質層及び前記第2硬質層は、前記母材の刃縁部に沿って形成される、請求項1乃至3のいずれか一に記載の作業爪の製造方法。
【請求項5】
前記第1硬質層は前記母材の刃縁部側に沿って形成され、
前記第2硬質層は、前記第1硬質層を形成した後に形成される、請求項1乃至4のいずれか一に記載の作業爪の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業爪及び作業爪の製造方法に関する。特に、本発明は耐摩耗性を有する硬質層が表面にコーティングされた作業爪及び作業爪の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作業用のロータリー作業機などに装備する作業爪の耐摩耗性を向上させるため、刃縁部に耐摩耗性コーティング層が形成された作業爪に関する技術が知られている。耐摩耗性コーティング層としては、一般的に、作業爪の母材よりも硬度の高いクロム炭化物を含む合金層が用いられる。このような耐摩耗性コーティング層が設けられることにより、作業爪の耐久性を向上させることができる。
【0003】
作業爪に耐摩耗性コーティング層を形成する方法としては、高周波溶着、肉盛溶接、肉盛溶射等の技術が知られている。特に、近年、熱集中性の良いプラズマアークを熱源として用い、プラズマアーク中に合金粉末を供給することにより所望の合金層を形成するPPW(プラズマパウダウェルディング)法が注目されている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-235162号公報
【文献】実用新案登録第3117466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PPW法の熱源として用いられるプラズマアークは、10,000℃を超える熱量をもち、しかも母材と電極間にアークが発生する移行型アークであるため、母材自体が溶融して発熱する。つまり、母材への入熱が大きく、母材への溶け込みが大きい(母材の希釈率が高い)。したがって、作業爪に対してPPW法を用いて耐摩耗性コーティング層を形成した場合、強度や靭性が低下するという問題があった。また、この場合、熱歪みが大きくなり、作業爪が変形したりコーティング層の密着性が低下したりする問題があった。
【0006】
本発明は、作業爪の母材への負担を軽減しつつ、作業爪の耐摩耗性を向上させることを課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による作業爪の製造方法は、作業爪(作業爪10)の母材(母材100)に対して、前記母材よりも硬い第1硬質層(第1硬質層210)をレーザークラッディング法によって帯状に形成し、前記第1硬質層に沿って、前記第1硬質層の一部と重なるように、前記母材よりも硬い第2硬質層(第2硬質層220)をレーザークラッディング法によって形成する。
【0008】
前記第1硬質層及び前記第2硬質層は、前記母材の刃縁部(刃縁部150)に沿って形成されてもよい。
【0009】
前記第1硬質層は前記母材の刃縁部側に沿って形成され、前記第2硬質層は、前記第1硬質層を形成した後に形成されてもよい。
【0010】
本発明の一実施形態による作業爪は、母材(母材100)と、前記母材よりも硬く、帯状に設けられた第1硬質層(第1硬質層210)と、前記母材よりも硬く、前記第1硬質層に沿って設けられ、前記第1硬質層の一部と重なるように設けられた第2硬質層(第2硬質層220)と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業爪の母材への負担を軽減しつつ、作業爪の耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る作業爪の構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る作業爪の製造方法を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る作業爪の製造方法を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態の変形例に係る作業爪の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る作業爪及び作業爪の製造方法について説明する。但し、本発明の一実施形態に係る作業爪及び作業爪の製造方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は同一の符号の後にアルファベットを付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
以下の実施形態では、作業爪として耕耘機に装着される耕耘爪について例示するが、この構成に限定されない。例えば、以下の実施形態に示す作業爪は、耕耘機以外に、代かき機、砕土機、畦塗り機などに用いられる作業爪であってもよい。また、以下の実施形態では、作業爪を回転させる回転軸に取り付けられたフランジに装着されるフランジタイプの作業爪について例示するが、この構成に限定されない。例えば、以下の実施形態に示す作業爪は、上記回転軸に取り付けられた爪ホルダに装着されるホルダタイプの作業爪であってもよい。以下の実施形態において、特に技術的な矛盾が生じない限り、異なる実施形態間の技術を組み合わせることができる。また、本発明の一実施形態に記載された硬質層は、農作業用の作業爪に限らず、農作業機を構成する部品のうち耐摩耗性を要求される部品全般に適用することができる。
【0015】
[耕耘爪の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る作業爪の構成を示す図である。
図1に示すように、作業爪10は母材100及び硬質部材200を有する。母材100は、図面に向かって左から順に、取付基部110、縦刃部120、及び横刃部130を有する。取付基部110は平板状であり、D1方向に延びている。縦刃部120及び横刃部130は、取付基部110から連続してD1方向に延びながらD2方向及びD3方向(紙面の手前側から奥側に向かう方向)に湾曲しながら延びている。なお、横刃部130は、D3方向に略一定の曲率半径で湾曲している。ただし、横刃部130のD3方向への曲率は一定の曲率半径でなくてもよい。
【0016】
横刃部130のD2方向の先端領域が頭頂部140である。頭頂部140は、後述する刃縁部150から峰縁部160まで曲線状に滑らかに延びている。縦刃部120及び横刃部130の下方の端部が刃縁部150である。詳細は後述するが、刃面170(
図2参照)は、縦刃部120及び横刃部130の下端(つまり、刃縁部150)に向かって徐々に母材100の厚さが小さくなる形状を有している。刃縁部150の反対側、つまり縦刃部120及び横刃部130の上方の端部が峰縁部160である。峰縁部160は、母材100の2つの主面(第1面105及び第2面107)の間の側面に該当する部分であり、刃縁部150とは異なり、母材100の厚さが略等間隔の形状を有している。第1面105は、湾曲した横刃部130の外側の面(外側湾曲面)である。第2面107は、湾曲した横刃部130の内側の面(内側湾曲面)である。なお、
図1では、横刃部130がD3方向に湾曲しているため、横刃部130の先端付近の峰縁部160が見えている。
【0017】
取付基部110には、母材100の2つの主面の間を貫通する貫通孔101、103が設けられている。取付基部110をフランジの取り付け位置に合わせて、ボルトなどの締結具を貫通孔101、103に通してフランジに固定することで、作業爪10がフランジに固定される。
【0018】
硬質部材200は、第1硬質層210及び第2硬質層220を有する。硬質部材200は、母材100よりも硬い。第1硬質層210及び第2硬質層220は、縦刃部120から横刃部130に亘って設けられている。第1硬質層210及び第2硬質層220は、それぞれ刃縁部150に沿って帯状(又は、線状)に設けられている。具体的には、第1硬質層210は刃縁部150に沿って湾曲した帯状に設けられており、第2硬質層220は第1硬質層210に沿って湾曲した帯状に設けられている。つまり、第1硬質層210は第2硬質層220よりも刃縁部150側に設けられている。なお、詳細は後述するが、第2硬質層220は、第1硬質層210の一部と重なるように設けられている。なお、本実施形態では、硬質部材200が2つの硬質層で構成された例を示したが、硬質部材200が3つ以上の硬質層で構成されていてもよい。硬質部材200が3つ以上の硬質層で構成される場合は、全ての隣接する硬質層が互いに重なるように設けられてもよく、少なくとも2つの硬質層が互いに重なるように設けられてもよい。
【0019】
第1硬質層210及び第2硬質層220として、母材100(例えば、SUP6などのバネ鋼、ボロン鋼)よりも硬い合金層、例えばタングステン炭化物、クロム炭化物、又はニオブ炭化物等を含む合金層や自溶性合金層(例えばコルモノイ合金を含む合金層)を用いることができる。なお、ここで例示した合金層は一例に過ぎず、母材100よりも硬い合金層を用いることができる。ここで、硬さは、母材100と合金層との相対的な硬さの指標であればよく、例えば、ロックウェル硬さ、ビッカース硬さ、ブリネル硬さ等を用いて測定した硬さである。
【0020】
第1硬質層210及び第2硬質層220は、同一材料であってもよく、異なる材料であってもよい。両者が異なる材料である場合、第1硬質層210が第2硬質層220より硬くてもよい。作業爪10は、摩耗する前の状態(新品の状態)で、その性能が最も発揮されるように設計されている。上記のように、第1硬質層210に、より硬い材料を設けることで、作業爪10の高い性能が発揮される状態を長く維持することができる。本実施形態では、レーザークラッディング法を用いて第1硬質層210及び第2硬質層220を形成している。レーザークラッディング法は、母材への入熱が少ないため、母材へのダメージを抑制しつつ、上記の硬質層を形成することができる。
【0021】
耕耘作業時において、作業爪10が
図1の矢印Rの方向に向かって回転することで、作業爪10は、圃場に対して、縦刃部120側の刃縁部150から横刃部130側の刃縁部150に向けて切り込まれる。この耕耘作業によって、作業爪10の刃縁部150は、圃場の土、小石、及び藁等との摩擦によって大きな負荷を受けるが、刃縁部150に硬質部材200が設けられていることで、当該摩擦を受けて作業爪10が摩耗することを抑制することができる。
【0022】
図2は、
図1のA-A’断面図である。第1硬質層210及び第2硬質層220は、母材100の第1面105側に設けられている。刃面170は母材100の第2面107側に設けられている。刃面170は一定の傾斜角のテーパ形状である。第1硬質層210及び第2硬質層220は、重畳領域Lで重なっている。重畳領域Lにおいて、第1硬質層210は第2硬質層220と母材100との間にある。
図1では、第1硬質層210と第2硬質層220との間に明確な境界が存在するように図示されているが、このような境界が視認されない場合もある。
図1において第1硬質層210が延びる方向に対して直交する方向において、第1硬質層210の厚さ分布は、中央部2101が第1硬質層210の端部2103、2105よりも厚い分布である。第2硬質層220の厚さ分布も第1硬質層210と同様の分布であるが、第2硬質層220の一部が第1硬質層210と重なっているため、第2硬質層220の形状は第1硬質層の形状とは異なる。重畳領域Lにおいて、第1硬質層210の端部2103と第2硬質層220の端部2205とが重なっているため、重畳領域Lにおける硬質部材200の厚さは、端部2103及び端部2205の各々の厚さよりも大きい。
【0023】
ここで、第1硬質層210又は第2硬質層220の頂点の厚さ(例えば、第1硬質層210の頂点の厚さT1)に対する、重畳領域L及びその付近における第1硬質層210及び第2硬質層220の合計の厚さT2の割合は、50%以上120%以下であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましい。上記の厚さT1、T2は、硬質部材200を任意の断面で切った場合における厚さとすることができる。厚さT1は、硬質部材200の断面視において、第1硬質層210が最も厚い位置の厚さとすることができる。厚さT2は、重畳領域L及びその付近における硬質部材200の断面視において、硬質部材200が最も薄い位置の厚さとすることができる。仮に、
図2のように、硬質部材200の最も薄い位置が第2硬質層220の下端に相当する場合は、その位置における第1硬質層210の厚さをT2とすることができる。また、重畳領域L及びその付近における硬質部材200の最も薄い位置が明確ではない場合、厚さT2を、上記断面視において、重畳領域Lの中央位置の硬質部材200の厚さとすることができる。
【0024】
このように、それぞれの硬質層の厚さが小さい領域同士を重ねることで、硬質部材200の厚さ分布の均一性を高めることができる。硬質部材200の厚さの均一性が高くなることで、作業爪10が圃場に作用したときに、土、泥、又は藁などが作業爪10に付きにくくなる、作業爪10にかかる抵抗が小さくなる、又は作業爪10の場所によって耐久性に差が生じることが抑制される、という効果が得られる。また、硬質部材200の厚さ分布の均一性が高くなることで、作業爪10の外観の美化が損なわれない、という効果が得られる。
【0025】
図1では、第1硬質層210及び第2硬質層220が、それぞれ刃縁部150に沿って湾曲した帯状である構成を示したが、この構成に限定されない。例えば、第1硬質層210及び第2硬質層220が刃縁部150に沿わない直線状に延びる帯状であってもよい。又は、第1硬質層210及び第2硬質層220が、複数の直線状に延びる帯状が屈曲しながら連結されることで、刃縁部150に沿うように屈曲した形状であってもよい。また、
図1では、第1硬質層210が刃縁部150まで形成された構成を例示したが、第1硬質層210は、刃縁部150よりも母材100の内側に設けられてもよい。つまり、第1硬質層210と刃縁部150との間にスペースが設けられていてもよい。
【0026】
具体的な構成は後述するが、硬質部材200が第2面107側に設けられてもよい。つまり、硬質部材200が刃面170の傾斜部分に設けられてもよい。硬質部材200が第1面105側及び第2面107側の両方に設けられてもよい。また、刃面170の傾斜角は一定でなくてもよい。また、母材100は、第1面105側に傾斜が設けられた片刃でもよく、第1面105側及び第2面107側の両方に傾斜が設けられた両刃であってもよい。母材100が両刃である場合、両面の刃の角度を等しくしてもよく、異なるものとしてもよい。
【0027】
[耕耘爪の製造方法]
図3及び
図4は、本発明の一実施形態に係る作業爪の製造方法を示す図である。本実施形態では、レーザークラッディング法を用いて硬質層を形成する方法について説明する。
【0028】
レーザークラッディング法とは、微細な合金粉末をレーザー光の照射領域に吹き付けることで、レーザー光のエネルギーを利用してワーク(処理対象)の母材及び合金粉末を溶解し、ワークの表面に合金層を形成する技術である。ワーク表面への合金層の形成を「肉盛り」と称することもあるため、ワーク表面に形成された合金層を「肉盛り層」と呼ぶ場合もある。
【0029】
通常、硬度の高い肉盛り層を形成する際に、ニッケル系やコバルト系の基合金にタングステン炭化物、クロム炭化物、又はニオブ炭化物などを含有させる。したがって、肉盛り層としては、通常は合金層が利用される。本実施形態においても、肉盛り層として合金層を形成する場合を例示して説明するが、肉盛り層として単一の金属元素からなる純金属層を用いてもよい。
【0030】
レーザークラッディング法は、レーザー光のエネルギーを利用するため、ワークの表面付近にしか熱的影響が及ばない(つまり、母材への入熱が少ない)という利点を有する。つまり、ワークに発生する熱歪みや熱影響部を低減することができるという利点を有する。また、レーザークラッディング法は、肉盛りの厚さの制御が容易であり、肉盛り層の表面も滑らかであるという利点がある。
【0031】
以降、レーザークラッディング法を用いてワークである作業爪10に硬質部材200を形成する方法について説明する。
【0032】
図3にレーザークラッディング装置30を示す。
図3において、ワーク300は作業爪の母材である。本実施形態では、ワーク300として、母材がSUP6などのバネ鋼である作業爪を用いる。ワーク300は、作業台としての2軸ポジショナー(図示せず)の上に載置され、水平面内で自由に移動可能である。また、レーザークラッディング法は、ワーク300の形状に依らず合金層を形成することができる。そのため、2軸ポジショナーは、その作業台上に様々な形状のワーク300を固定可能な治具を備えている。
【0033】
ワーク300の表面には、肉盛り層310が形成される。本実施形態では、肉盛り層310の原材料としてタングステン炭化物を含む合金粉末を用いるため、肉盛り層310としてはタングステン炭化物を含む合金層が形成される。なお、肉盛り層310が、
図1及び
図2に示した第1硬質層210及び第2硬質層220に相当する。
【0034】
レーザー装置320は、筐体321の内部にレーザー光路323と、材料供給路325、327とを有する。レーザー光路323は、その内側に光学レンズ329を備え、レーザー光330をワーク300の表面へと誘導する経路である。レーザー光330として、例えば、HPDDL(高出力ダイレクトダイオードレーザー)、Nd:YAGレーザー、CO2レーザーなどを用いることができる。また、レーザー光330の断面形状は、光学レンズ329によって円形状にすることもできるし、矩形状(例えば線状)にすることもできる。
【0035】
レーザー光路323の内側には、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで構成されるシールドガス331が充填されている。このシールドガス331は、レーザー光330の出射口からワーク300の表面に吹き付けられ、被処理部301を不活性雰囲気にする。このシールドガス331によって被処理部301は外気から保護される。これにより、肉盛り層310に不要な酸化物が不純物として混入されることを防ぐことができる。
【0036】
材料供給路325、327は、内部がノズル状になっており、肉盛り層310の原材料としての合金粉末340をワーク300の表面へと噴射可能になっている。レーザークラッディング法の場合、レーザー光330のエネルギーで瞬間的に合金粉末340を溶融することができる。そのため、原材料として使用可能な合金粉末340の選択の幅が広がり、従来よりも硬度の高い肉盛り層310を形成することができる。
【0037】
上記のレーザー装置320を用いて、ワーク300の表面に対してレーザー光330を照射しつつ合金粉末340を供給することで、ワーク300の被処理部301には、溶融層(メルティングプール)311が形成される。そして、レーザー装置320を3次元的に移動させることにより、ワーク300の表面に沿って溶融層311を移動させ、ワーク300の表面の所望の位置に肉盛り層310を形成することができる。
【0038】
溶融層311の形成は瞬間的に行われ、ただちに冷却されて肉盛り層310が形成されるため、ワーク300の母材に対する入熱が少なく、さらに母材への合金の溶け込みも少ない。したがって、レーザークラッディング法を作業爪の肉盛りに適用した場合においても、従来に比べて母材の熱歪みや熱的影響が小さく、作業爪の強度や靭性の低下を抑えることができる。
【0039】
さらに、レーザー光330による瞬間的な高温加熱によりワーク300の母材と合金粉末340とが強固に結合するため、合金層が薄い場合であっても、母材に対する密着性の高い肉盛り層310を形成することができる。つまり、従来よりも少ない肉盛り量で従来と同等の密着性を確保できるため、製造コストの低減が可能である。
【0040】
また、一般的に、焼入れ処理が施されている鋼に対して熱が付加されると焼き戻し現象により鋼が軟化する。したがって、従来のPPW法のようにワークに対する熱影響がある方法により肉盛りを行った場合、焼き戻し現象によりワークの軟化も無視できなくなる。
【0041】
これに対し、レーザークラッディング法を用いた場合、ワークに対して局所的に高温部分が形成されるため、その周囲のワーク自体が冷却媒体として機能する。つまり、ワーク300において、レーザー光330が照射された領域(溶融層311の直下の領域)は、瞬間的に高温になり、すぐに急冷される。したがって、ワーク300のうち急冷された領域は、焼入れ処理が施された場合と同様に、母材が硬化する。そのため、従来のPPW法のように、熱影響により母材が軟化するといった問題を回避することができる。また、レーザークラッディング法を用いた場合、ワーク300への入熱時間が少ないため、ワーク300の歪みを抑制することができる。
【0042】
以上のように、本実施形態では、作業爪に対して耐摩耗性コーティング層を形成する際の肉盛り作業にレーザークラッディング法を用いる。これにより、作業爪の母材に対する負担(特に、熱的負担)を軽減することができ、耐摩耗性が高く、信頼性の高い作業爪を製造することが可能となる。
【0043】
図3に示したレーザー装置320は非常にコンパクトな装置であるため、複数の可動軸を有する多関節ロボットのアーム部の先端に取り付けることができ、三次元空間を自由に移動させることが可能である。特に、本実施形態のように、湾曲面を有する作業爪に肉盛り作業を行うにあたり、作業爪の表面に沿って細やかにレーザー装置320の位置を制御することができるという特長は、加工精度の向上という観点からも有利である。
【0044】
次に、
図4を用いて、レーザークラッディング装置30を用いた母材100への硬質部材200の形成方法について説明する。
図4(A)に示すように、まずは、母材100の刃縁部150に第1硬質層210を形成する。第1硬質層210は、
図1に示すように、刃縁部150の曲線に沿って帯状に形成される。続いて、
図4(B)に示すように、第1硬質層210よりも母材100の内側の領域に、第1硬質層210の一部と重なるように第2硬質層220を形成する。第2硬質層220は、
図1に示すように、第1硬質層210の曲線に沿って帯状に形成される。このようにして、
図2に示すような硬質部材200を形成する。
【0045】
なお、第1硬質層210を形成した直後は、第1硬質層210が形成された付近の母材100が高温になる。その状態で、第2硬質層220を形成すると、第1硬質層210が形成された付近の母材100はさらに高温になり、母材100が溶けてしまう場合がある。特に、母材100の厚さが小さい場合、このような問題が起きてしまう可能性が高くなる。刃縁部150の母材100は、他の領域の母材100よりも薄い。さらに、刃縁部150の母材100は熱の逃げ場がないため、高温状態なったときに放熱されにくい。しかし、本実施形態のように、先に刃縁部150側の母材100に第1硬質層210を形成し、その後に第2硬質層220を形成することで、刃縁部150の母材100が高温になって溶けてしまうことを抑制することができる。
【0046】
本実施形態では、レーザークラッディング装置30によって形成される第1硬質層210及び第2硬質層220の幅(形成幅W)は約15mmである。また、第1硬質層210及び第2硬質層220の重なり幅(重畳幅OV)は約2mmである。ただし、形成幅W及び重畳幅OVは上記の数値に限定されない。例えば、重畳幅OVは形成幅Wの5%以上20%以下であることが好ましく、10%以上18%以下であることがより好ましい。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る作業爪10によると、第1硬質層210と第2硬質層220とが一部重なることで、両者の頂点間の段差が小さくなるため、硬質部材200の厚さの均一性を高くすることができる。これによって、作業爪10が圃場に作用したときに、土、泥、又は藁などが作業爪10に付きにくくなるという効果が得られる。又は、作業爪10が圃場に作用したときの作業爪10にかかる抵抗が小さくなるという効果が得られる。又は、作業爪10の場所によって耐久性に差が生じることが抑制されるという効果が得られる。又は、作業爪10の外観の美化が損なわれないという効果が得られる。
【0048】
〈変形例〉
図5は、本発明の一実施形態の変形例に係る作業爪の断面図である。
【0049】
図5(A)に示す作業爪10Aは、母材100Aの第2面107A側に硬質部材200Aが設けられた構成を有している。刃面170Aの根元部171Aは、重畳領域Lの範囲内に位置している。換言すると、根元部171Aに対応する位置に設けられた硬質部材200Aは、第1硬質層210A及び第2硬質層220Aが重畳した構造である。根元部171Aにおける硬質部材200Aの厚さが小さい場合、早い段階で母材100Aが削れてしまう問題が起きてしまう場合があるが、上記の構造によって、根元部171Aにおける硬質部材200Aの厚さを確保することで、母材100Aが削れてしまうことを抑制することができる。
【0050】
図5(B)に示す作業爪10Bは、母材100Bの第1面105B及び第2面107Bの両側に硬質部材200Bが設けられた構成を有している。具体的には、第2面107B側に第1硬質層210B及び第2硬質層220Bが互いに重なるように設けられており、第1面105B側に第3硬質層230Bが設けられている。第3硬質層230Bは、刃縁部150Bに対応する領域に設けられている。
【0051】
図5(C)に示す作業爪10Cは、母材100Cの第2面107C側に、
図5(A)の硬質部材200Aと同様の硬質部材200Cが設けられており、第1面105C側に、硬質部材200Cとは異なる第4硬質層240Cが設けられている。第4硬質層240Cは、第2硬質層220Cの上端を越えて設けられており、硬質部材200Cよりも広い範囲に設けられている。第4硬質層240Cは、第1硬質層210C及び第2硬質層220Cとは異なる材料及び異なる方法で形成された硬質層である。例えば、第4硬質層240Cは、PPW法を用いて形成された硬質層である。このように、従来の方法とレーザークラッディング法とを併用して母材100Cの両面側に硬質層を形成することができる。
【0052】
図5(D)に示す作業爪10Dは、
図5(C)の作業爪10Cの第4硬質層240Cの上に第3硬質層230Dが設けられた構成を有している。第3硬質層230Dは、刃縁部150Dに対応する領域に設けられている。
【0053】
図5(B)及び
図5(D)において、第1面105B、105D側に設けられた第3硬質層230B、230Dに隣接して、第3硬質層230B、230Dの一部と重畳するように、第2硬質層220B、220Dと同様の硬質層が設けられていてもよい。また、
図5(C)及び
図5(D)において、第4硬質層240C、240Dは第2面107C、107D側に設けられていてもよく、第1面105C、105D及び第2面107C、107Dの両側に設けられていてもよい。
【0054】
上記の実施形態では、第2面107(内側湾曲面)に刃面170が設けられた構成を例示したが、刃面170は第1面105(外側湾曲面)に設けられていてもよい。また、刃面170が第1面105及び第2面107の両方に設けられていてもよい。
【0055】
以上、本発明について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
10:作業爪、 30:レーザークラッディング装置、 100:母材、 101:貫通孔、 103:貫通孔、 105:第1面、 107:第2面、 110:取付基部、 120:縦刃部、 130:横刃部、 140:頭頂部、 150:刃縁部、 151A:根元部、 160:峰縁部、 170:刃面、 200:硬質部材、 210:第1硬質層、 220:第2硬質層、 230B:第3硬質層、 240C:第4硬質層、 300:ワーク、 301:被処理部、 310:層、 311:溶融層、 320:レーザー装置、 321:筐体、 323:レーザー光路、 325:材料供給路、 327:材料供給路、 329:光学レンズ、 330:レーザー光、 331:シールドガス、 340:合金粉末、 2101:中央部、 2103:端部、 2105:端部、 2205:端部、 L:重畳領域、 OV:重畳幅、 W:形成幅