(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】大静脈の経皮的低侵襲カニュレーション用のカニューレ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20221116BHJP
A61M 25/14 20060101ALI20221116BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
A61M25/10
A61M25/14 512
A61M25/00 550
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020094602
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2020-06-24
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518405108
【氏名又は名称】メディニーツェ エス.アー.
【氏名又は名称原語表記】MEDINICE S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】サンジーブ チョウダリー
(72)【発明者】
【氏名】ピョートル スバルスキ
(72)【発明者】
【氏名】マルタ マクーチ
(72)【発明者】
【氏名】ヤツェク オルシェフスキ
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-161715(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0023332(US,A1)
【文献】特開2007-105240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
A61M 25/14
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大静脈の経皮的低侵襲カニュレーション用のカニューレであって、
先端部(2)および基端部(3)を有
するとともに、血液が内部に入ることを可能にする少なくとも1つの流入口(4)を備えるプラスチック製の管(1)であるカニューレにおいて、
前記管(1)は、主チャンバ(1a)、第1の側方チャンバ(1a1)および第2の側方チャンバ(1a2)を含む3つの長手方向のチャンバと、一定の内径を確保する少なくとも1つの補強部分とを有し、先端
部(2)は丸形
であり、丸形の
先端部(2)は
先端に向かって狭くなっており、
丸形の
先端部(2)には、静脈血の自由な流入を可能にする大きさの長手方向に延びる
前記流入口(4)と、バルーン(6)とが配置されており、バルーン(6)の下方には前記管の補強部分の一部が約90度の角度(α)で曲げられており、
前記管は、柔軟な円錐形の
基端部(3
)で終端し、カニューレをしっかりと密閉し、前記管の内部には、主チャンバ(1a)を閉じる弁(12)と、第1の側方チャンバ(1a1)に接続されたバルーン(6)を膨張させるためのポート(5)とが配置されており、
さらに、第2の側方チャンバ(1a2)の内側には、取り外し可能な補強材(8)が配置されており、前記補強材の先端が最も離れた位置でバルーン(6)の基部に達する一方で、前記補強材の基端が円錐形の
基端部(3)を通過して引き出され、前記補強材では、カニューレの管(1)が形状記憶を保持する、カニューレ。
【請求項2】
前記流入口(4)
のカニューレの軸線
方向における長さが、カニューレの周方向における幅よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載のカニューレ。
【請求項3】
前記流入口(4)が、カニューレの軸線に垂直な断面において、
前記丸形の
先端部(2)の円周に沿って均一に配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のカニューレ。
【請求項4】
前記丸形の
先端部(2)の周方向に配置された前記流入口(4)が、カニューレの軸線方向に2つの列をなすように配置され、隣り合う流入口(4)同士が周方向に均等に離間して配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のカニューレ。
【請求項5】
カニューレの前記管(1)が金属線ソレノイドで補強されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のカニューレ。
【請求項6】
カニューレの前記管(1)が金属バンドソレノイドで補強されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のカニューレ。
【請求項7】
カニューレの前記管(1)が、任意の織りの金属ワイヤメッシュで補強されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のカニューレ。
【請求項8】
カニューレの
前記丸形の
先端部(2)の内側には、二部品一体型の針(10)が取り付けられており、針(10)が、チャネル形状の鋭利な部分(14)と、鋭利な部分(14)の内側に位置するとともに複数の入口開口部を有する丸い部分(15)と、からなり、鋭利な部分(14)がバネ(17)を備え、丸い部分(15)が別のバネ(16)を備えており、鋭利な部分(14)および丸い部分(15)がカニューレに設けられたトリガーボタンに連結されていることを特徴とする、請求項1に記載のカニューレ。
【請求項9】
カニューレがスタイレット(7)を有し、スタイレット(7)がカニューレの管(1)の中央を通り、スタイレットの先端が
前記丸形の
先端部(2)の出口に達し、スタイレット(7)の基端が、
前記円錐形の
基端部(3)を通って前記管(1)の外側に延びるとともに
、ハンド
ルを備えることを特徴とする、請求項1に記載のカニューレ。
【請求項10】
前記円錐形の
基端部(3)がカニューレの前記管(1)に取り外し可能に接続されることを特徴とする、請求項1に記載のカニューレ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大静脈の経皮的低侵襲カニュレーション用のカニューレに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓外科手術では、血液を送り出す作業から心臓を解放し、それに伴い患者の血流を体外循環システムの人工心肺装置に接続する必要がある。この装置は、圧力を発生させて機械的作業を行い、末梢血管を通して血液を送り、静脈血に酸素を送り込む。体外循環システムは、心臓の主要な血管に接続されたカニューレを有する装置である。
【0003】
近年では、肋間腔の皮膚の小さな切開部を通して手術全体を行う低侵襲法がより頻繁に選択されている。
単離法はカニュレーションに不可欠である。すなわち、カニューレの周りの主静脈を閉じて、血液がカニューレ内部のみに流れ、血管の内腔を通らないようにすることである。いわゆる止血帯による外側からの閉鎖は、標準的な手術、つまり胸骨切開による典型的なものである。しかしながら、この方法は、特殊な長い器具を使用して内視鏡カメラの制御下で心臓と弁にアクセスする必要がある低侵襲手術では、非常に困難であり不可能ですらある。そのような手術は、体外循環装置を接続する別の方法や、別のカニュレーション部位(鼠径部の静脈と大腿動脈)を必要とし、したがって、全く異なるカニューレが必要となる。先端部にバルーンまたは特別なフランジを備えた低侵襲手術用の静脈カニューレは、外側から締め付けるのと同じくらい有効に静脈を閉鎖できることが知られている。通常、カニューレは2つあり、1つは大腿静脈から下大静脈に挿入され、もう1つは下大静脈から頸静脈に挿入されるものである。
【0004】
(特許文献1)の明細書からは、湾曲した先端部分、弾性の中心部分および基端部分からなるカニューレが知られている。膨張したバルーンが先端部分に取り付けられ、血管内でのカニューレの固定を容易にする。中央部分には、第2のほぼ円筒形のバルーンが周囲に配置されており、ポンピングによりカニューレの管腔の直径が増加する。両方のバルーンを膨らませる2つのポートが基端部分に設けられている。好ましくは、カニューレの先端部分の曲率は約90度である。
【0005】
心臓麻痺の結果として一時的な心停止が発生する手技で使用されるカニューレは、(特許文献2)から知られている。カニューレは、その先端部に位置する伸長可能な切断刃を使用して患者の大動脈に配置される。切開を行った後、切断刃はカニューレ内に後退し、カニューレの管腔から取り外される。同時に、カニューレの出口開口部の近くにある封止バルーンがポンピングされる。元の状態のカニューレは、前にとった湾曲した形状を利用して、引き出された後で、縦フランジに配置される。物質を大動脈に投与するため、または大動脈の内腔から閉塞物を取り除くために使用されるポートは、基端部に設けられる。
【0006】
カニューレを血管内に配置するための案内として剛性のトロカールを外部に備えたカニューレは、(特許文献3)から知られている。トロカールの先端部には、血管壁を切除するための刃と、刃側に保護カバーを備えた膨張可能な封止バルーンが配置されている。トロカールを選択した場所に配置した後で、カニューレを引き出すと、以前に設定された形状になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第00/07654号
【文献】国際公開第99/30766号
【文献】米国特許第6129713号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在使用されている解決手段において、カニューレと静脈を結び付けて、固定された機械的接続を確保する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
大静脈の経皮的低侵襲カニュレーション用のカニューレは、少なくとも1つの円錐形または丸形の端部を有し、血液が内部に入るのを可能にする少なくとも1つの流入開口部を備えたプラスチック製の管である。本発明の本質は、主チャンバ、第1の側方チャンバおよび第2の側方チャンバを含む3つの長手方向のチャンバと、一定の内径を確保する少なくとも1つの補強部分とを有する管が、先端側に丸形の端部を備えていることであり、丸形の端部は端に向かって狭くなる。管には、静脈血の自由な流入を可能にする大きさの長手方向の穴と、バルーンとが設けられている。バルーンの下には管の補強部分があり、その一部は約90度の角度αで曲げられている。管は柔軟な円錐体を有する基端側で終端し、カニューレを容易にしっかりと密閉する(light tightly)。管の内部には、主チャンバを閉じる弁と、第1の側方チャンバに接続されたバルーンを膨張させるポートがある。第2の側方チャンバの内側には、取り外し可能な補強材が配置されており、その先端が最も離れた位置でバルーンの基部に達する一方で、円錐体を通過する補強材の基端部が引き出される。補強部分では、カニューレの管が形状記憶を保持する。
【0010】
好ましくは、丸形の端部の穴の長いほうの端(edge)はカニューレの軸線と一致する。
好ましい実施形態では、穴は、丸形の端部の周囲に均一に配置している。
【0011】
好ましくは、穴は、丸形の端部の周囲で均等に2つの列状に配置され、列と列との間で位置がずれている。
好ましい実施形態では、カニューレの管は、金属線ソレノイドで補強される。
【0012】
好ましい実施形態では、カニューレの管は、金属バンドソレノイドで補強されている。
好ましくは、カニューレの管は、任意の織りの金属ワイヤメッシュで補強されている。
好ましくは、二部品一体型の針は、カニューレの丸形の端部の内側に取り付けられる。針は、チャネル形状の鋭利な部分と、鋭利な部分の内側にある丸い部分で構成されている。丸い部分には複数の入口開口部があり、両方の部分は個別のバネを備えているとともに、トリガーボタンに連結されてる。
【0013】
好ましくは、カニューレは、カニューレの管を中心に延在するスタイレットを有し、スタイレットの先端は、丸形の端部の出口に達し、基端は、円錐体を通って外側に延び、蝶の形状を有する人間工学的ハンドルを備える。
【0014】
好ましい実施形態では、円錐体はカニューレの管に取り外し可能に接続される。
本発明による解決手段の主な利点は、低侵襲性心臓手術中に十分な保護を提供することである。カニューレは、さまざまな操作技術において使用できる。操作者にとって便利であり、手術のために手術部位を準備する時間を大幅に短縮する。さらに、カニューレを使用すると、切開部の必要がまったくなくなるか、切開部を最小限にし、カニューレの直径よりもさらに小さくする。
【0015】
ニューレの円錐形の端部により、血管内にカニューレを容易に配置でき、次の切開部に容易に挿入できる。円錐体を取り外すと、バルーン膨張ポートが拡張され、このポートには短い注水管(hose)が備わっている。
【0016】
カニューレは、操作者が選択する操作技術に応じて、最も単純で安価なタイプから最も要求が高い場合での使用を目的とした最も装備されたタイプまで、さまざまなニーズに適合したいくつかのタイプを設計することができる。
【0017】
カニューレの重要な要素は、カニューレが血管に入るときに直線形状を可能にする補強材である。補強材を除去することにより、カニューレは、バルーンの下にある補強部分の一部が約90度の角度で湾曲した状態に戻る。
【0018】
本発明の主題は、図面によって示される実施形態において提示される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】1つの補強部分を有するカニューレを示す図であり、A-A線、B-B線およびC-C線における断面も示す。
【
図2a】1つの補強部分を有するカニューレの長手方向における断面を示す図。
【
図2b】2つの補強部分を有するカニューレの長手方向における断面を示す図。
【
図2c】カニューレの湾曲した部分の長手方向における断面を示す図。
【
図4a】ガイドとスタイレットを備えたカニューレを示す図。
【
図4b】ガイドとスタイレットを備えたカニューレを示す図。
【
図5】ガイドとスタイレットを備えたカニューレの丸形の端部の長手方向における断面を示す図。
【
図6】一体型の針を備えた丸形の端部の長手方向における断面を示す図。
【
図7】一体型の針の長手方向における断面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示す第1の実施形態では、カニューレは、3つの長手方向のチャンバ、すなわち、主チャンバ1a、第1の側方チャンバ1a1および第2の側方チャンバ1a2と、先端側に丸形の端部2とを有しており、丸形の端部2には、静脈血がカニューレの管1の内部を自由に流れることを可能にする長手方向の穴4がある。穴4は、丸形の端部2の周囲に均等に配置されている。これに代えて、穴4は、丸形の端部2の円周上に2つの列状に均一に配置され、列と列との間で位置をずらしてもよい。
【0021】
丸形の端部2の後(behind)には、基端側から境界付けられた軟質部分m1が位置しており、バルーン6を有している。バルーン6の後には補強部分が続き、その一部は約90度の角度で曲げられている。補強部分は、軟質部分m2を通り、円錐体3を有する基端側で終端し、カニューレを容易にしっかりと密閉する。円錐体3の内部には、バルーン6を膨張させるためのポート5と、主チャンバ1を閉鎖する弁12とがある。膨張ポート5は第1の側方チャンバ1a1に接続されており、第1の側方チャンバ1a1を通って充填流体がバルーン6に到達する。カニューレは金属線ソレノイドで補強されており、補強部分において形状記憶を保持する。金属線はテープやメッシュに置き換えることができる。カニューレを血管内に配置する前に、人間工学的ハンドル13を備えた補強材8が円錐体3を介して第2の側方チャンバ1a2に導入され、補強材8により管1が真っ直ぐな形状になる。補強材8を取り除いた後で、カニューレは解剖学的構造および胸部への進入角度の比率と一致する形状になる。
【0022】
円錐体3はカニューレの管1に取り外し可能に接続されているため、適切な時期に取り外してポート5にアクセスできる。
図2に示される第2の実施形態では、管1の補強部分は、クランプが適用される軟質部分m2によって分割される。一方、円錐体3は補強部分の基端に位置する。
【0023】
カニューレの第1の使用法は、外科医が肋間腔の切開部を通して大静脈の領域にアクセスし、丸形の端部2を静脈の切開部から内腔に挿入して、外科的方法を用いて取り付けることである。次のステップでは、補強材8を第2の側方チャンバ1a2から取り外す。次に、胸壁に別の切開部を形成し、手術用器具を胸部の手術部位の近くに挿入する。その後、円錐体3を手術用器具で把持して、胸壁の経皮的切開部へ導き、その切開部を介して円錐体3を体外に押し出すと、外科医が患者の体の外側で円錐形の端部を有する柔らかいカニューレを使用できる。次に、円錐体3が取り除かれるとポート5が解放され、次いで、シリンジを使用してバルーン6が液体で満たされる。カニューレの軟質部分m2に対して、クランプが挿入され、体外循環装置がカニューレの端部に接続される。次に、クランプが取り外されると、血液はすでに閉じた体外循環装置を循環している。処置の最後に、カニューレの軟質部分にクランプが適用され、体外循環装置が分離され、流体がバルーン6から除去されて、すべての操作が実行された後で、カニューレが除去される。
【0024】
古典的なセルディンガー法を使用したカニューレの使用では、長いセルディンガー針が大静脈に挿入され、ガイドワイヤが挿入される。次に、可撓性ワイヤの形態のガイド11は、カニューレの丸形の端部2からピン7に通され、カニューレがガイド11に沿って静脈に挿入されることを可能にする。丸形の端部2が正常に静脈に配置されると、カニューレに血液が流れる。カニューレの適切な部分が挿入された後で、スタイレット7とガイドワイヤ11が円錐体3から取り外される。スタイレット7を取り外した後、血液はカニューレ内にある。この段階の後の次のステップは、第1の方法と同じである。
【0025】
カニューレを使用する別の方法は、ガイドまたは外科的切開を必要とせずに、カニューレを血管の内腔に挿入することである。この目的のために、
図6に示されるように、丸形の端部2の内側に取り付けられた一体型の針10を備えたカニューレが使用される。この針は、丸い部分15が配置されるチャネル形状の鋭利な部分14からなり、これら両方の部分は別個のバネ16、17からなり、トリガーボタン18に結合される。丸い部分には複数の入口開口部があり、血液をカニューレにすばやく流すことができる。一体型の針10を用いて適切な角度で静脈に穴を開ける。十分な力を作用させて、圧力をかけて針の丸い針部分15を血管壁に突き刺す。血管壁を突き刺した後、バネ17の作用により丸い針部分15が延びて、鋭利な部分14の刃を固定する。正しい迎角では、針10は静脈の内腔にあり、両方の壁に穴を開けない。血液がカニューレに流れ込み、次にトリガーボタン18が丸形の端部2において押されると、針10が丸形の端部2の内側に移動し、カニューレを適切な深さまでさらに安全に挿入しながら、補強材8を第2の側方チャンバ1a2から外へスライドさせて、解剖学的構造に従ってカニューレを曲げる。ピンを取り外した後の手順は、第1の方法および第2の方法と同じである。