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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】強誘電性ポリマー素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/193 20060101AFI20221116BHJP
   G01L 1/16 20060101ALI20221116BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20221116BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20221116BHJP
   H01L 41/29 20130101ALI20221116BHJP
   H01L 41/317 20130101ALI20221116BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20221116BHJP
【FI】
H01L41/193
G01L1/16 A
H01L41/047
H01L41/113
H01L41/29
H01L41/317
H01L41/43
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021501656
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051516
(87)【国際公開番号】W WO2020174875
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2019034039
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月5日発行 第65回応用物理学会春季学術講演会予稿集 〔刊行物等〕 平成30年3月13日発行 SCIENTIFIC REPORTS SCIENTIFIC REPORTS 8、ARTICLE NUMBER4442(2018) サイト:https://www.nature.com/articles/s41598-01822746-3
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関根 智仁
(72)【発明者】
【氏名】芝 健夫
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-017154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/317、41/43、
41/113、41/193、
G01L 1/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に一方の電極を配置し、
非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーが溶解されたポリマー溶液を有版印刷により前記一方の電極上に塗布し、
前記ポリフッ化ビニリデン系ポリマーが結晶化するように前記ポリマー溶液を焼成して強誘電層を形成し、
前記強誘電層上に他方の電極を配置する強誘電性ポリマー素子の製造方法。
【請求項2】
前記非プロトン性極性溶媒は、2.6D以上4.2D以下のダイポールモーメントを有する請求項1に記載の強誘電性ポリマー素子の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマー溶液は、0.5Pa・s以上13.8Pa・s以下の粘度を有する請求項1または2に記載の強誘電性ポリマー素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、強誘電性ポリマー素子の製造方法、強誘電性ポリマー素子および圧電センサに係り、特に、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーを用いた強誘電性ポリマー素子の製造方法、強誘電性ポリマー素子および圧電センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーを用いた強誘電性ポリマー素子が実用化されている。この強誘電性ポリマー素子は、P(VDF-TrFE)などのポリフッ化ビニリデン系ポリマーからなる強誘電層を一対の電極で挟むように構成されている。
一般的に、強誘電性ポリマー素子の強誘電層は、10μm~100μmの厚みで形成されている。このため、強誘電層を例えば約50μm以下に薄く形成することが求められている。
【0003】
そこで、強誘電層を薄く形成する技術として、例えば、特許文献1には、スピンコート法による形成において、ウエハーの外周縁部での薄膜圧電素子の厚膜化(エッジビード)、およびエッジ部の膜厚ムラに起因するクラックの発生を簡単な方法で防止する薄膜圧電素子の形成方法が提案されている。この薄膜圧電素子の形成方法は、薄膜形成剤をスピンコート法で塗布するため、強誘電層を薄く形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-58694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の薄膜圧電素子の形成方法は、スピンコート法で強誘電層を形成するものであり、例えばスクリーン印刷などの有版印刷と比較して、平坦な層を形成することが困難であった。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、強誘電層を平坦に形成する強誘電性ポリマー素子の製造方法、強誘電性ポリマー素子および圧電センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る強誘電性ポリマー素子の製造方法は、基板上に一方の電極を配置し、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーが溶解されたポリマー溶液を有版印刷により一方の電極上に塗布し、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーが結晶化するようにポリマー溶液を焼成して強誘電層を形成し、強誘電層上に他方の電極を配置するものである。
【0008】
ここで、非プロトン性極性溶媒は、2.6D以上4.2D以下のダイポールモーメントを有することが好ましい。
【0009】
また、ポリマー溶液は、0.5Pa・s以上13.8Pa・s以下の粘度を有することが好ましい。
【0010】
この発明に係る強誘電性ポリマー素子は、基板と、基板上に配置された一対の電極と、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーを溶解したポリマー溶液が有版印刷により一対の電極のうち一方の電極上に塗布され、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーが結晶化するようにポリマー溶液を焼成することにより、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの平均結晶子サイズが12.8nm以下に形成された強誘電層とを備えるものである。
【0011】
この発明に係る圧電センサは、上記の強誘電性ポリマー素子と、強誘電性ポリマー素子の一対の電極に接続され、一対の電極から受信される電気信号に基づいて強誘電層に加えられた圧力を算出する圧力算出部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、非プロトン性極性溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーが溶解されたポリマー溶液を有版印刷により一方の電極上に塗布し、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーが結晶化するようにポリマー溶液を焼成して強誘電層が形成されるので、強誘電層を平坦に形成する強誘電性ポリマー素子の製造方法、強誘電性ポリマー素子および圧電センサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施の形態1に係る強誘電性ポリマー素子の構成を示す図である。
図2】強誘電性ポリマー素子を製造する様子を示す図である。
図3】この発明の実施の形態2に係る圧電センサの構成を示す図である。
図4】強誘電層の厚みを測定した結果を示し、(a)は実施例1の厚みを示し、(b)は実施例2の厚みを示し、(c)は実施例3の厚みを示し、(d)は実施例4の厚みを示し、(e)は実施例5の厚みを示し、(f)は比較例1の厚みを示し、(g)は比較例2の厚みを示し、(h)は比較例3の厚みを示すグラフである。
図5】P(VDF-TrFE)の凝集を観察した結果を示し、(a)は実施例1の凝集を示し、(b)は実施例2の凝集を示し、(c)は実施例3の凝集を示し、(d)は実施例4の凝集を示し、(e)は実施例5の凝集を示す画像である。
図6】強誘電層の表面を観察した結果を示し、(a)は実施例1の強誘電層の表面を示し、(b)は実施例2の強誘電層の表面を示し、(c)は実施例3の強誘電層の表面を示し、(d)は実施例4の強誘電層の表面を示し、(e)は実施例5の強誘電層の表面を示す画像である。
図7】非プロトン性極性溶媒のダイポールモーメントに対するRMS値の分布を示すグラフである。
図8】非プロトン性極性溶媒のダイポールモーメントに対する平均結晶子サイズの分布を示すグラフである。
図9】強誘電層の厚みを測定した結果を示し、(a)は実施例6の厚みを示し、(b)は実施例7の厚みを示し、(c)は実施例8の厚みを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る強誘電性ポリマー素子の構成を示す。この強誘電性ポリマー素子は、基板1と、基板1の表面上に配置された下地層2と、下地層2の表面上に配置された一対の電極3aおよび3bと、一対の電極3aおよび3bの間に配置された強誘電層4とを有する。
【0015】
基板1は、強誘電性ポリマー素子の各部を支持するもので、平面状に拡がるように形成されている。基板1は、例えば、ガラスなどの高い剛性を有する材料から構成することもでき、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートおよびポリイミドなどの柔軟性を有する材料から構成することもできる。
【0016】
下地層2は、電極3aとの密着性を高めるためのもので、平坦性の高い材料から構成されている。下地層2は、例えばポリビニルピロリドンおよびポリメタクリル酸メチル樹脂などから構成することができる。
【0017】
電極3aおよび3bは、強誘電層4と電気的に接続されるもので、例えば金属材料および有機導電性材料などの導電性材料から構成される。金属材料としては、例えば銀および銅などが挙げられる。有機導電性材料としては、例えばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)などが挙げられる。また、電極3aおよび3bは、50μm以下の平均厚みで形成することが好ましく、25μm以下の平均厚みで形成することがより好ましい。電極3aおよび3bは、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびフレキソ印刷などの印刷版を用いた印刷、いわゆる有版印刷により形成することができる。
【0018】
強誘電層4は、強誘電性を有するもので、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーを含む材料から構成されている。具体的には、強誘電層4は、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーを溶解したポリマー溶液が有版印刷により電極3aの表面上に塗布され、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーが結晶化するようにポリマー溶液を焼成することにより、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの平均結晶子サイズが12.8nm以下に形成されたものである。ここで、強誘電層4は、50μm以下の平均厚みで形成することが好ましく、25μm以下の平均厚みで形成することがより好ましい。また、有版印刷としては、電極3aおよび3bと同様に、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびフレキソ印刷などを用いることができる。
【0019】
ポリフッ化ビニリデン系ポリマーとしては、フッ化ビニリデン重合体(PVDF)およびフッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体としては、ポリ(ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体(P(VDF-TrFE))などが挙げられる。
【0020】
非プロトン性極性溶媒は、酸性水素を有しない極性溶媒であり、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン(CHN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)およびテトラメチルピペリジン(TMP)などを含む溶媒が挙げられる。
【0021】
ここで、非プロトン性極性溶媒は、2.6D以上4.2D以下のダイポールモーメントを有することが好ましく、2.6D以上3.7D以下のダイポールモーメントを有することがより好ましい。
なお、複数種類の非プロトン性極性溶媒を混合してもよく、また非プロトン性極性溶媒とプロトン性極性溶媒をポリフッ化ビニリデン系ポリマーが溶解するように混合してもよい。このように、複数種類の極性溶媒を混合する場合には、それぞれのダイポールモーメントを合わせて算出される全体的なダイポールモーメントが上記の値を満たすように混合することが好ましい。
【0022】
次に、強誘電性ポリマー素子の製造方法について説明する。
まず、図2(a)に示すように、基板1上に下地層2を塗布した後、その下地層上にPEDOT:PSSを含む電極溶液が塗布される。下地層2は、例えばスピンコートにより塗布することができる。また、電極溶液は、例えばスクリーン印刷により塗布することができる。
【0023】
下地層2上に塗布された電極溶液は、約150℃で30分間焼成されて、下地層2上に電極3aが平均厚み約50μm以下で形成される。このように、電極3aが、有版印刷により形成されるため、電極3aを大面積に形成することができる。また、電極3aは、平坦性の高い下地層2上に形成されるため、その密着性を高めることができる。
【0024】
続いて、図2(b)に示すように、非プロトン性極性溶媒にP(VDF-TrFE)を溶解させてポリマー溶液5を調製し、このポリマー溶液5をスクリーン印刷により電極3a上に塗布する。具体的には、メッシュ形状を有するスクリーン版Bを電極3a上に配置し、そのスクリーン版Bの上側にポリマー溶液5を乗せる。そして、スキージSでポリマー溶液5をスクリーン版Bに押し付けることで、スクリーン版Sに形成されたメッシュを通ってポリマー溶液5が電極3a上に塗布される。
このように、ポリマー溶液5をスクリーン印刷で塗布することにより、例えばスピンコート法と比較して、ポリマー溶液5を平坦に塗布することができる。ここで、ポリマー溶液5は、0.5Pa・s以上13.8Pa・s以下の粘度を有することが好ましい。
【0025】
このようにして、電極3a上に塗布されたポリマー溶液5は、P(VDF-TrFE)が結晶化するように130℃~140℃で1時間焼成される。これにより、図2(c)に示すように、電極3a上に強誘電層4が形成される。
【0026】
ここで、スクリーン印刷などの有版印刷で用いられるポリマー溶液5は、メッシュを通して塗布されるため、スピンコート法で塗布される溶液と比べて、粘度などの様々な条件が制限される。このため、スピンコート法で塗布される溶液の条件を有版印刷に転用しても強誘電層4を平坦に形成することは困難であり、従来、有版印刷で強誘電層4を形成する方法は確立されていなかった。
そこで、本発明では、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にP(VDF-TrFE)を溶解させることにより、焼成時に非プロトン性極性溶媒を速やかに蒸発させることができ、強誘電層4の表面を平坦に形成することができる。すなわち、スクリーン印刷でポリマー溶液5を塗布した平坦性を維持したまま強誘電層4を形成することができる。
【0027】
具体的には、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にP(VDF-TrFE)を溶解させたポリマー溶液5を有版印刷で塗布して焼成することにより、P(VDF-TrFE)の平均結晶子サイズを12.8nm以下に小さく形成することができ、強誘電層4をRMS値が45nm以下の平坦な表面に形成することができる。
また、2.6D以上のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いることで、P(VDF-TrFE)の結晶化が促進して強誘電層4の電気的特性を向上させることができ、4.2D以下のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いることで、焼成時に非プロトン性極性溶媒が速やかに蒸発して強誘電層4の表面をより平坦に形成することができる。
【0028】
また、ポリマー溶液5が、0.5Pa・s以上の粘度を有することで、P(VDF-TrFE)をスムーズに凝集させることができ、13.8Pa・s以下の粘度を有することで、P(VDF-TrFE)の過剰な凝集を抑制することができる。これにより、強誘電層4の表面をさらに平坦に形成することができる。
また、ポリマー溶液5は、スクリーン印刷で塗布されるため、例えばスピンコート法と比較してポリマー溶液5を広範囲に塗布することができ、大面積の強誘電層4を形成することができる。
【0029】
続いて、電極3aと同様に、強誘電層4上にPEDOT:PSSを含む電極溶液が塗布される。電極溶液は、例えばスクリーン印刷により塗布することができる。強誘電層4上に塗布された電極溶液は、約150℃で30分間焼成されて、強誘電層4上に電極3bが平均厚み約50μm以下で形成される。このように、電極3bが、有版印刷により形成されるため、電極3bを大面積に形成することができる。
このとき、強誘電層4の表面が平坦に形成されているため、電極3bを確実に形成することができ、例えば電極3bを薄く形成した場合でも強誘電層4の一部が電極3bを貫通して電流がリークすることを抑制することができる。また、強誘電層4が平坦に形成されているため、その面方向に均一なヒステリシスループを形成することができ、電極3aと電極3bの間に一様な電圧を発生させることができる。
このようにして、図1に示すように、強誘電層4が電極3aおよび3bと共に大面積で且つ平坦に形成された強誘電性ポリマー素子を作製することができる。
【0030】
本実施の形態によれば、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーが溶解されたポリマー溶液を有版印刷により電極3a上に塗布するため、焼成時に非プロトン性極性溶媒が速やかに蒸発して強誘電層4を平坦に形成することができる。
【0031】
実施の形態2
実施の形態1の強誘電性ポリマー素子は、圧力を検出する圧電センサに用いることができる。
例えば、図3に示すように、実施の形態1において圧力算出部21を新たに配置することができる。
【0032】
圧力算出部21は、強誘電性ポリマー素子の一対の電極3aおよび3bに電気的に接続されている。具体的には、電極3aが圧力算出部21に接続され、電極3bは接地されている。圧力算出部21は、電極3aおよび3bから受信される電気信号に基づいて強誘電層4に加えられた圧力を算出する。
このような構成により、強誘電層4が外部からの圧力に応じた電気信号を発生させ、その電気信号が電極3aおよび3bを介して圧力算出部21に入力される。そして、圧力算出部21が、電極3aおよび3bから入力された電気信号に基づいて外部から加えられた圧力を算出する。
【0033】
本実施の形態によれば、電極3aおよび3bが平坦に形成された強誘電層4に対して配置されるため、強誘電層4で生じた電気信号を確実に出力することができ、強誘電層4に加えられた圧力を圧力算出部21において正確に算出することができる。
【0034】
なお、本実施の形態では、強誘電性ポリマー素子は、圧電センサに用いられたが、強誘電性を利用したものであればよく、圧電センサに限られるものではない。例えば、強誘電性ポリマー素子は、赤外線センサ、超音波トランスデューサ、メモリデバイスおよびアクチュエータなどに用いることができる。
また、本実施の形態では、電極3aが圧力算出部21に接続されると共に電極3bが接地されたが、電極3aが接地されると共に電極3bが圧力算出部21に接続されてもよい。
【実施例
【0035】
(実施例1)
縦100mm×横100mmのガラス担体にポリエチレンナフタレートからなる平均厚みが約50μmのPENフィルム(Q65HA、デュポン株式会社製)を固定して基板1とした。次に、架橋性ポリ(4-ビニルフェノール)(PVP)(436224、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を溶解させたPVP溶液と、メラミン樹脂(418560、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)とを1-メトキシ-2-プロピルアセテート(01948-00、関東化学株式会社製)に溶解し、この溶液を基板1のPENフィルム上にスピンコートで塗布して下地層2を形成した。下地層2上には、PEDOT:PSS(CLAVIOS SV4 STAB、ヘレウス株式会社製)をスクリーン印刷(MT320T、マイクロ・テック株式会社製)で塗布し、150℃で30分間焼成することで平均厚み約500nmの電極3aを形成した。続いて、10重量%でP(VDF-TrFE)(62-010、Piezotech社製、VDF:TrFEのモル比が75:25)を非プロトン性極性溶媒に溶解してポリマー溶液5とした。非プロトン性極性溶媒にはシクロヘキサノン(CHN)を用いた。このポリマー溶液5をスクリーン印刷で電極3a上に約2μmの平均厚みで塗布し、130℃~140℃で1時間焼成することで強誘電層4を形成した。そして、PEDOT:PSSをスクリーン印刷で強誘電層4上に塗布し、135℃で30分間焼成することで平均厚み約500nmの電極3bを形成した。電極3b上には、フッ素樹脂(サイトップ、CTX-809A、AGC株式会社製)をスピンコートにより200nmの厚みで塗布し、100℃で10分間焼成することで保護層を形成した。これにより、強誘電性ポリマー素子が作製された。
【0036】
(実施例2)
P(VDF-TrFE)を溶解する非プロトン性極性溶媒にメチルエチルケトン(MEK)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。
【0037】
(実施例3)
P(VDF-TrFE)を溶解する非プロトン性極性溶媒にジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。
【0038】
(実施例4)
P(VDF-TrFE)を溶解する非プロトン性極性溶媒にジメチルホルムアミド(DMF)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。なお、ポリマー溶液5は、約1Pa・sの粘度のものを用いた。
【0039】
(実施例5)
P(VDF-TrFE)を溶解する非プロトン性極性溶媒にテトラメチルピペリジン(TMP)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。
【0040】
(実施例6)
ポリマー溶液5の粘度をP(VDF-TrFE)の濃度を変えて0.5Pa・sとした以外は、実施例4と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。
【0041】
(実施例7)
ポリマー溶液5の粘度をP(VDF-TrFE)の濃度を変えて4.70Pa・sとした以外は、実施例4と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。
【0042】
(実施例8)
ポリマー溶液5の粘度をP(VDF-TrFE)の濃度を変えて13.8Pa・sとした以外は、実施例4と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。
【0043】
(比較例1)
非プロトン性極性溶媒に換えてプロトン性極性溶媒を用いてP(VDF-TrFE)を溶解した以外は、実施例1と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。プロトン性極性溶媒としては、ジエチルアミンを用いた。
【0044】
(比較例2)
非プロトン性極性溶媒に換えてプロトン性極性溶媒を用いてP(VDF-TrFE)を溶解した以外は、実施例1と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。プロトン性極性溶媒としては、トリエチルアミンを用いた。
【0045】
(比較例3)
非プロトン性極性溶媒であるシクロペンタノンに12重量%のP(VDF-TrFE)を溶解してポリマー溶液5を調製し、そのポリマー溶液5をスピンコート法で電極3a上に塗布した以外は、実施例1と同様の方法により、強誘電性ポリマー素子を作製した。スピンコート法は、基板1を500rpmで60秒間回転して行った。なお、基板1は、縦20mm×横25mmのものを用いた。
【0046】
(評価方法)
強誘電性ポリマー素子が強誘電層4まで作製された段階で、強誘電層4の断面形状を光学顕微鏡により観察し、得られた画像データから強誘電層4の厚みを算出した。その結果を図4(a)~(h)に示す。また、光学顕微鏡の画像データからP(VDF-TrFE)の凝集を観察した。その結果を図5(a)~(e)に示す。
【0047】
強誘電性ポリマー素子が強誘電層4まで作製された段階で、強誘電層4の表面を原子間力顕微鏡(5500、アジレント・テクノロジー株式会社製)により観察した。その結果を図6(a)~(e)に示す。また、原子間力顕微鏡の画像データから強誘電層4の表面の二乗平均平方根(RMS)値を算出し、非プロトン性極性溶媒のダイポールモーメントに対するRMS値の分布を求めた。その結果を図7に示す。
また、強誘電層4をX線回折装置(SmartLab、株式会社リガク製)で測定して、その回折データからシェラーの式を用いて強誘電層4の単位面積あたりの平均結晶子サイズを算出した。そして、非プロトン性極性溶媒のダイポールモーメントに対する平均結晶子サイズの分布を求めた。その結果を図8に示す。
【0048】
ポリマー溶液5の粘度を変えて作製された強誘電層4の断面形状を光学顕微鏡により観察し、得られた画像データから強誘電層4の厚みを算出した。その結果を図9(a)~(c)に示す。
【0049】
図4(a)~(g)に示す結果から、非プロトン性極性溶媒でP(VDF-TrFE)を溶解させた実施例1~5は、強誘電層4の厚みの変化が小さいのに対して、プロトン性極性溶媒でP(VDF-TrFE)を溶解させた比較例1および2は、厚みが部分的に0nmとなり、下地が露出するほど強誘電層4の厚みが大きく変化することがわかった。また、2.6D以上3.7D以下のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例1~3は、3.8D以上のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例4および5と比較して、厚みの変化が小さく、厚みの急激な変化も少ないことがわかった。さらに、3.0Dのダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例1は、2.6Dのダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例2と比較して、厚みの変化が小さく、厚みの急激な変化も少ないことがわかった。
【0050】
また、図4(h)に示す結果から、ポリマー溶液5をスピンコート法により塗布した比較例3は、ポリマー溶液5を有版印刷により塗布した実施例1~5と比較して、厚みの変化が約10μm程度と非常に大きく、強誘電層4を平坦に形成できないことがわかった。このため、スピンコート法で形成した強誘電層4上に電極3bを塗布すると、強誘電層4の一部が電極3bを貫通して電流がリークするおそれがある。また、強誘電層4において面方向に均一なヒステリシスループが得られないおそれもある。
【0051】
図5(a)~(e)に示す結果から、2.6D以上3.7D以下のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例1~3は、3.8D以上のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例4および5と比較して、P(VDF-TrFE)の凝集が小さく、全体に拡散されていることがわかった。また、3.7Dのダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例1は、2.6Dのダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例2と比較して、P(VDF-TrFE)の結晶化が促進されて適切な大きさの結晶が形成されることがわかった。
【0052】
このことから、非プロトン性極性溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーが溶解されたポリマー溶液5を有版印刷により塗布することにより、平坦な強誘電層4を形成できることがわかる。また、実施例1は実施例2~5と比較して強誘電層4の表面が適切な大きさの結晶で平坦に形成され、実施例2および3は実施例4および5と比較して強誘電層4の表面が平坦に形成されることがわかった。
【0053】
また、図6(a)~(e)に示す結果から、実施例1~5においてダイポールモーメントの値が高いものほど、強誘電層4の表面粗さが大きいことがわかった。また、図7に示す結果から、実施例1~5においてダイポールモーメントの値が高いものほど、強誘電層4の表面におけるRMS値が大きいことがわかった。
同様に、図8に示す結果から、実施例1~5においてダイポールモーメントの値が高いものほど、強誘電層4の平均結晶子サイズが大きいことがわかった。
このことから、実施例1~5においてダイポールモーメントの値が高いものほど、ヒステリシスループの観点から強誘電層4の電気的特性が向上することが示唆された。実際に、実施例1~5で作製された強誘電性ポリマー素子の電極3aおよび3bの間に交流電圧(1Hz、±100MV/m)を印可したときの残留分極値を測定したところ、ダイポールモーメントの値が高いものほど電気的特性が向上した。このため、2.6D以上4.2D以下のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いることで、強誘電層4を適切な大きさの結晶で形成することができ、強誘電層4の電気的特性を維持しつつ平坦化できることがわかる。
【0054】
ここで、図8に示すように、実施例1~5において強誘電層4の平均結晶子サイズが12.8nm以下に小さく形成されることがわかった。このことから、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーを溶解させたポリマー溶液5を有版印刷で塗布して焼成することにより、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの平均結晶子サイズが12.8nm以下に小さく形成され、強誘電層4を平坦化できることがわかった。
具体的には、強誘電層4の平均結晶子サイズは、実施例1が12nm、実施例2が11.8nm、実施例3が12.2nm、実施例4が12.3nmおよび実施例5が12.8nmであった。このことから、2.6D以上3.9D以下のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例1~4は、4.2Dのダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例5と比較して、強誘電層4の平均結晶子サイズが小さいことがわかった。また、2.6D以上3.0D以下のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例1および2は、3.8D以上のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例3および4と比較して、強誘電層4の平均結晶子サイズが小さく、さらに2.6Dのダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例2は、強誘電層4の平均結晶子サイズが最も小さいことがわかった。
【0055】
また、図7に示すように、実施例1~5において強誘電層4をRMS値が45nm以下の平坦な表面に形成できることがわかった。このことから、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒にポリフッ化ビニリデン系ポリマーを溶解させたポリマー溶液5を有版印刷で塗布して焼成することにより、強誘電層4をRMS値が45nm以下の平坦な表面に形成できることがわかった。
具体的には、強誘電層4をRMS値は、実施例1が20nm、実施例2が25nm、実施例3が45nm、実施例4が40nmおよび実施例5が38nmであった。このことから、2.6D以上3.0D以下のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例1および2は、3.8D以上4.2D以下のダイポールモーメントを有する非プロトン性極性溶媒を用いた実施例3~5と比較して、強誘電層4のRMS値が小さいことがわかった。
【0056】
図9に示す結果から、4.70Pa・sの粘度を有するポリマー溶液5を塗布した実施例7は、0.5Pa・sおよび13.8Pa・sの粘度を有するポリマー溶液5を塗布した実施例6および8と比較して、強誘電層4の厚みの変化が小さく、平坦な強誘電層4が形成されることがわかった。
なお、実施例6~8について強誘電層4の表面を原子間力顕微鏡で観察したところ表面粗さについて大きな差はなかった。このことから、ポリマー溶液5の粘度は、結晶子サイズなどの微視的な平坦化ではなく、強誘電層4の巨視的な平坦化に寄与することが示唆される。
【符号の説明】
【0057】
1 基板、2 下地層、3a,3b 電極、4 強誘電層、5 ポリマー溶液、B スクリーン版、S スキージ。
図1
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図7
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