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特許7177547多孔炭素構造体、その製造方法、それを用いた正極材及びそれを用いた電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】多孔炭素構造体、その製造方法、それを用いた正極材及びそれを用いた電池
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/08 20060101AFI20221116BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20221116BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20221116BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221116BHJP
   H01M 4/74 20060101ALI20221116BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20221116BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221116BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20221116BHJP
【FI】
C04B38/08 D
H01M12/06 F
H01M12/08 K
H01M4/66 A
H01M4/74 C
H01M4/96 B
H01M4/96 M
H01M4/88 C
C01B32/05
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021520848
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020143
(87)【国際公開番号】W WO2020235638
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2019096585
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020034769
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、空気電池統合化技術並びに要素技術開発、Li金属負極の試作研究委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安川 栄起
(72)【発明者】
【氏名】亀田 隆
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】木村 伸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 佳実
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133168(JP,A)
【文献】特開2012-252995(JP,A)
【文献】特開2015-026482(JP,A)
【文献】特表2016-532274(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104625(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104772(WO,A1)
【文献】Shoichi Matsuda et al. ,Carbon-black-based self-standing porous electrode for 500 Wh/kg rechargeable lithium-oxygen batteries,Cell Reports Physical Science 2,,2021年07月21日,100506,p.l-12,https://doi.org/10.1016/j.xcrp.2021.100506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,38/00-38/10
H01M 4/86,4/96,12/06
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含んでなる骨格と空孔とを有するリチウム空気電池の正極用多孔炭素構造体であって、次記(a)~(e)のすべての条件を満たす、多孔炭素構造体。
(a)t-プロット外部比表面積が、900m/g以上、1600m/g以下の範囲、
(b)直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、BJH法による測定で、2.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲、
(c)直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、BJH法による測定で、4.0cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲、
(d)空孔率が、全体で92%以上、99%以下の範囲、及び
(e)直径200nm以上、10000nm以下の細孔容積が、水銀圧入法による測定で、2.3cm/g以上、8.0cm/g以下の範囲。
【請求項2】
前記(b)の直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、BJH法による測定で、2.4cm/gより大きく、6.0cm/g以下の範囲である、請求項1に記載の多孔炭素構造体。
【請求項3】
前記(c)の直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、BJH法による測定で、4.1cm/g以上、9.0cm/g以下の範囲である、請求項1に記載の多孔炭素構造体。
【請求項4】
前記多孔炭素構造体の見かけ密度は、0.05g/cm以上、0.20g/cm以下の範囲である、請求項1から3のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
【請求項5】
前記骨格は炭素からなる、請求項1から4のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
【請求項6】
多孔質炭素粒子および結着用高分子材料を含有する合剤スラリーを調製することと、
前記合剤スラリーを成型することと、
前記成型することによって得られた試料を、前記結着用高分子材料に対して溶解度が低い溶媒に浸漬させることと、
前記浸漬させることによって得られた試料を乾燥させることと、
前記乾燥させることによって得られた試料を、酸化性ガスの雰囲気中で炭素化処理することと、
を包含する、請求項1から5のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
【請求項7】
前記酸化性ガス中の酸素濃度は、0.03%より多く、5%未満の範囲である、請求項6に記載の多孔炭素構造体の製造方法。
【請求項8】
前記炭素化処理の処理温度は、350℃以上、3000℃以下の範囲である、請求項6又は7に記載の多孔炭素構造体の製造方法。
【請求項9】
前記炭素化処理は、前記炭素化処理により得られる生成物の直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、前記多孔質炭素の細孔容積の細孔容積の1.02倍以上となるまで行う、請求項6から8のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
【請求項10】
前記合剤スラリーは、さらに炭素繊維を含有する、請求項6から9のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
【請求項11】
前記乾燥させることに続いて、かつ、前記炭素化処理することに先立って、前記乾燥させることによって得られた試料を不融化処理することをさらに包含する、請求項6から10のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
【請求項12】
前記炭素化処理することに続いて、前記炭素化処理することによって得られた試料を不活性ガス雰囲気下でさらなる炭素化処理することをさらに包含する、請求項6から11のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1から5のいずれかに記載の多孔炭素構造体を含有するリチウム空気電池の正極材。
【請求項14】
正極構造体、負極構造体、セパレータ、電解質部材を含むリチウム空気電池であって、
前記正極構造体は請求項1から5のいずれかに記載の多孔炭素構造体を有する、リチウム空気電池。
【請求項15】
前記多孔炭素構造体に空気又は酸素が通る流路が形成されている、請求項14に記載のリチウム空気電池。
【請求項16】
前記正極構造体は、空気又は酸素が通る流路が形成されている金属含有の正極基材を有し、前記正極基材は前記多孔炭素構造体と電気的に接触している、請求項14又は15に記載のリチウム空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔炭素構造体、その製造方法、それを用いた正極材及びそれを用いた電池に関する。
本発明は、特に自立性、高いイオン輸送効率、高い空気透過性、広い反応場性を両立して兼ね備えた空気電池の正極電極材(本願では、これを「正極材」又は「正極構造体」とも称することもある)に好適な多孔炭素構造体及びそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマート社会を支える原動力として電池が着目され、その需要が急激に高まっている。電池にはいろいろな種類のものがあるが、その中でも空気電池は、小型、軽量かつ大容量に適した構造のため、高い注目を集めている。
【0003】
空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質として金属を用いた電池で、金属空気電池とも呼ばれ、燃料電池の一種と位置づけられている電池である。
空気電池は、例えば、特許文献1及び2に開示があり、その代表例としては、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵放出可能な金属または化合物として用いるリチウム空気電池がある。
空気電池は、正極活物質が空気中の酸素で、正極活物質を電池外部から供給することが可能なため、電池の小型・軽量化が可能で、さらに大容量化に適する構造である。
【0004】
しかしながら、現状の空気電池は、その小型・軽量・大容量に対するポテンシャルを十分には引き出せてはいない。
その原因の一つが正極構造体にある。
【0005】
上述のように、空気電池では空気中の酸素が正極活物質になるため、正極構造体は、空気中から多量の酸素を取り込める構造であることが求められる。すなわち、正極構造体には高い空気又は酸素透過性が求められる。
加えて、正極構造体には、電池に一般的に求められる特性である高いイオン輸送効率と広い反応場が併せて求められる。
さらに、空気電池を小型・軽量にし、コストを下げるために、正極構造体は自立することが望まれている。
【0006】
ここで、正極構造体は、取扱いの容易さ、コスト、重量、グリーン環境、リサイクルの観点から、材料としては炭素が好まれ、そこに高い空気又は酸素透過性を付与するために多孔化したもの、すなわち多孔炭素構造体がよく用いられる。
【0007】
多孔質炭素の中で、ケッチェンブラック(登録商標)は、総比表面積(BET法比表面積)が大きく、2nm以上、50nm以下の孔径である、いわゆるメソ孔及び孔径50nm以上のマクロ孔の細孔容積、比表面積が大きい材料として知られており、空気電池正極に用いる多孔炭素構造体の原料として用いられている。しかしながら、ケッチェンブラック(登録商標)は粉末状で、自立しない。このため、ケッチェンブラック(登録商標)を正極構造体として使用するためにはバインダー等からなる組成物を溶媒中に分散しドクターブレード法等により組成物を金属箔などに塗布する方法や、金属メッシュなどに担持する必要があり、構造が複雑になって重量が嵩んだり、高コストになったり、空気又は酸素の流通性が阻害されたりする問題があった。
【0008】
今までの空気電池においては、正極の特性がまだ十分ではないことで、空気電池が本来持っている電池特性を十分には発現できていない問題がある。
このような問題に対し、特許文献1においては、メソ孔とこのメソ孔よりも孔径の小さなマイクロ孔とを含む細孔を備え、前記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造をなし、この炭素質壁に前記マイクロ孔が形成されており、前記メソ孔が開気孔であって、気孔部分が連続して連結孔を形成しており、前記細孔の細孔径分布の半値幅が2nm以下であり、前記連結孔の連結孔径分布の半値幅が50nm以上であり、孔径1nm以上の細孔が占める細孔容積が1.0ml/g以上、4.0ml/g以下である多孔質炭素を正極層の原料に用いることが提案されており、明細書中には、正極層の形成にあたり、多孔質炭素及びバインダー等からなる組成物を溶媒中に分散しドクターブレード法等により塗布する方法や、前記組成物を圧着プレスにより成型する方法を用いることができる旨の記載がある。
【0009】
特許文献2には、1nm以上、200nm以下の孔径を有する細孔の占める第1細孔容積が、200nmを超え、1000nm下の孔径を有する細孔の占める第2細孔容積よりも大きい正極層を用いるリチウム空気電池が提案されており、明細書中には、正極層の形成方法とし、例えば、正極集電体上に、導電性多孔質体及びバインダー等を含む組成物を溶媒中に分散した塗料をドクターブレード法等により塗布する方法、又は、上記組成物を圧着プレスにより成型する方法等を用いることができる旨が記載されている。
なお、ケッチェンブラック(登録商標)については、例えば非特許文献1及び2に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5852548号公報
【文献】特開2018-133168号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】日本印刷学会誌、第44巻、第3号、9-19頁(2007)
【文献】炭素、第222巻、140-146頁(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、小型・軽量で大容量化に適した電池、特に小型・軽量で大容量化に適した空気電池を提供することであり、そのために、高い空気又は酸素透過性、高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備えた、空気電池の正極構造体として好適な多孔炭素構造体であって、特に自立可能な多孔炭素構造体を提供することである。
しかし、特許文献1に記載されている、孔径1nm以上の細孔が占める細孔容積が1.0ml/g以上、4.0ml/g以下である多孔質炭素を正極層の原料に用いた場合、正極層の細孔容積は原料である多孔質炭素の細孔容積より増加することはなく、バインダーを使用して正極層とするため、多孔質炭素の細孔の一部がそのままバインダーで埋められてしまい、正極層細孔容積は原料の多孔質孔炭素の細孔容積よりも小さくなってしまう。そのため、必要とされている十分な電池性能を発現できているといえず、原料である多孔質炭素の細孔容積を踏襲する正極層、更には、原料である多孔質炭素の細孔容積超える大きな細孔容積を持つ正極層が望まれる。
【0013】
特許文献2に記載の1nm以上、200nm以下の孔径を有する細孔の占める第1細孔容積が、200nmを超え、10000nm以下の孔径を有する細孔の占める第2細孔容積よりも大きい正極層を用いるリチウム空気電池においても、バインダーを使用して正極層とするため、特許文献1と同様、原料である多孔質炭素の細孔の一部がそのままバインダーで埋められてしまうことで、正極層細孔容積は原料の多孔質孔炭素の細孔容積よりも小さくなってしまい、正極層の細孔容積の絶対量は大きいとはいえない。そのため、必要とされている十分な電池性能を発現できているといえず、やはり、原料である多孔質炭素の細孔容積を踏襲する正極層、更には、原料である多孔質炭素の細孔容積超える大きな細孔容積を持つ正極層が望まれる。なお、多孔質炭素材において、1nm以上、200nm以下の孔径を有する細孔の占める第1細孔容積が、200nmを超え、10000nm以下の孔径を有する細孔の占める第2細孔容積よりも大きいというのは一般的である。
【0014】
以上のことを踏まえ、本発明の課題は、高細孔容積を有し、自立可能な多孔炭素構造体、その製造方法、それを用いた正極材及びそれを用いた電池(特に、空気電池)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するため、具体的には以下の構成を有する。
[1] 炭素を含んでなる骨格と空孔とを有する空気電池の正極用多孔炭素構造体であって、次記(a)~(d)のすべての条件を満たす、多孔炭素構造体。
(a)t-プロット外部比表面積が、300m/g以上、1600m/g以下の範囲、
(b)直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲、
(c)直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲、及び
(d)空孔率が、全体で80%以上、99%以下の範囲。
[2] 次記(e)の条件を更に満たす、[1]記載の多孔炭素構造体。
(e)直径200nm以上、10000nm以下の細孔容積が2.3cm/g以上、8.0cm/g以下の範囲。
[3] 前記(b)の直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、2.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲である、[1]または[2]に記載の多孔炭素構造体。
[4] 前記(b)の直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、2.4cm/gより大きく、6.0cm/g以下の範囲である、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
[5] 前記(c)の直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、4.0cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲である、[1]~[4]のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
[6] 前記(c)の直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、4.1cm/g以上、9.0cm/g以下の範囲である、[5]に記載の多孔炭素構造体。
[7] 前記多孔炭素構造体の見かけ密度は、0.05g/cm以上、0.20g/cm以下の範囲である、[1]~[6]のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
[8] 前記(d)の空孔率が、全体で90%以上、99%以下の範囲である、[1]~[7]のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
[9] 前記骨格は炭素からなる、[1]~[8]のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
[10] 前記(a)のt-プロット外部比表面積が、900m/g以上、1600m/g以下の範囲である、[1]~[9]のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
[11] 前記多孔炭素構造体中のフッ素含有量が、0.0002質量%以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
[12] 前記多孔炭素構造体が、自立性を有する[1]~[11]のいずれかに記載の多孔炭素構造体。
[13] 多孔質炭素粒子及び結着用高分子材料を含有する合剤スラリーを調製することと、
前記合剤スラリーを成型することと、
前記成型することによって得られた試料を、前記結着用高分子材料に対して溶解度が低い溶媒に浸漬させることと、
前記浸漬させることによって得られた試料を乾燥させることと、
前記乾燥させることによって得られた試料を炭素化処理することと、
を包含する、[1]~[12]のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
[14] 前記炭素化処理が、酸化性ガス又は不活性ガスの雰囲気中で行われる、[13]に記載の多孔炭素構造体の製造方法。
[15] 前記炭素化処理が酸化性ガスの雰囲気中で行われる場合、前記酸化性ガス中の酸素濃度は、0.03%より多く、5%未満の範囲である、[14]に記載の多孔炭素構造体の製造方法。
[16] 前記炭素化処理の処理温度は、350℃以上、3000℃以下の範囲である、[13]~[15]のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
[17] 前記炭素化処理は、前記炭素化処理により得られる生成物の直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、前記多孔質炭素の細孔容積の細孔容積の1.02倍以上となるまで行う、[13]~[16]のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
[18] 前記合剤スラリーは、さらに炭素繊維を含有する、[13]~[17]のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
[19] 前記乾燥させることに続いて、かつ、前記炭素化処理することに先立って、前記乾燥させることによって得られた試料を不融化処理することをさらに包含する、[13]~[18]のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
[20] 前記炭素化処理が酸化性ガスの雰囲気中で行われる場合、前記炭素化処理することに続いて、前記炭素化処理することによって得られた試料を不活性ガス雰囲気下でさらなる炭素化処理することをさらに包含する、[14]~[19]のいずれかに記載の多孔炭素構造体の製造方法。
[21] [1]~[12]のいずれかに記載の多孔炭素構造体を含有する空気電池の正極材。
[22] 正極構造体、負極構造体、セパレータ、電解質部材を含む空気電池であって、前記正極構造体は[1]~[12]のいずれかに記載の多孔炭素構造体を有する、電池。
[23] 前記多孔炭素構造体に空気又は酸素が通る流路が形成されている、[22]に記載の空気電池。
[24] 前記正極構造体は、空気又は酸素が通る流路が形成されている金属含有の正極基材を有し、前記正極基材は前記多孔炭素構造体と電気的に接触している、[22]または[23]に記載の空気電池。
[25] 炭素を含んでなる骨格と空孔とを有し、自立性を有する空気電池の正極用多孔炭素構造体であって、次記(a)~(e)の少なくとも一つの条件を満たす、多孔炭素構造体。
(a)t-プロット外部比表面積が、300m/g以上、1600m/g以下の範囲、
(b)直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲、
(c)直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g
以上、10.0cm/g以下の範囲、
(d)空孔率が、全体で80%以上、99%以下の範囲、及び
(e)直径200nm以上、10000nm以下の細孔容積が2.3cm/g以上、8.0cm/g以下の範囲。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、小型・軽量で放電容量の大きな大容量化に適した電池、特に小型・軽量で大容量化に適した空気電池を提供することが可能になる。
この小型・軽量で大容量化に適した空気電池は、高い空気又は酸素透過性、高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備えた、自立可能な本発明の多孔炭素構造体により提供される。
本発明の多孔炭素構造体は、炭素を含んでなる骨格と多数の空孔とを有し、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすことができる。このような多孔炭素構造体は、今までにない高細孔容積を有し、かつ、自立可能である。このような多孔炭素構造体は、空気電池の正極材として使用され得る。このような多孔炭素構造体を正極構造体に使用すれば、それ自身自立可能であるため、金属メッシュ等の集電体が不要となり、空気電池の小型化、軽量化が可能になる。さらに、今までにない高細孔容量を持っているため、空気又は酸素透過性、イオン輸送効率、反応場が大きくなることにより、高容量、高負荷特性を持った空気電池を提供することができる。
【0017】
本発明の多孔炭素構造体の製造方法は、多孔質炭素粒子及び結着用高分子材料を含有する合剤スラリーを調製することと、合剤スラリーを成型することと、得られた試料を結着用高分子材料に対して溶解度が低い溶媒に浸漬させることと、得られた試料を乾燥させることと、得られた試料を炭素化処理することとを包含するので、上述の高細孔容量を有し、自立可能な多孔炭素構造体を提供することができる。この炭素化処理により、結着用高分子材料を焼失・除去し、さらに多孔質炭素粒子の一部を焼失・除去し、多孔質炭素粒子を結着させることができる。炭素化処理は、酸化性ガス又は不活性ガス雰囲気中で行うことができ、酸化性ガスの雰囲気中で行う場合、酸素濃度を0.03%より大きく5%未満の範囲にすることにより、上述の高細孔容量を有し、自立可能な多孔炭素構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の多孔炭素構造体の断面を模式的に示す図
図2図1のA部を拡大して示す図
図3図2のB部を拡大して示す図
図4】本発明の多孔炭素構造体の製造工程を示すフローチャート
図5】コインセルを示す模式図
図6】別のコインセルを示す模式図
図7】積層型金属電池(空気電池)を示す模式図
図8】多孔炭素構造体No.5の試料のSEM像(5000倍)を示す図
図9】多孔炭素構造体No.5の高倍率(50000倍)のSEM像を示す図
図10】作製した多孔炭素構造体(多孔炭素構造体No.11の試料)のSEM像
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。なお、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
本発明において、自立性を有する又は自立可能な多孔炭素構造体とは、支持体を用いなくとも自立した膜としての形状を保つことができる膜状構造体(本願では、これを「自立膜」と称することもある。)をいう。この多孔炭素構造体は、炭素を主体とした骨格からなり、厚さは20μm~800μmの範囲内、好ましくは、50μm~500μmの範囲内で用いられる。
具体的には、本発明の意味する多孔炭素構造体(すなわち、自立膜)とは、正極層内に銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ステンレス(SUS)などの金属単体、または、金属含有成分を含む合金からなる金属メッシュや、炭素繊維及びポリエステル繊維などの成分からなる不織布や織布などの支持体を含まないこと、または、アルミ箔、ニッケル箔、SUS箔などの金属箔を基板として基板上に正極層を形成しないことを意味する。また支持体や基板に付着させるための有機バインダー、特にフッ素を含有するバインダーを含まず、多孔炭素構造体中のフッ素含有量は0.0002質量%以下である。この多孔炭素構造体は、実用的な剛性や機械的強度を有し、またフレキシブル性を有する自立体であってもよい。
【0020】
<実施の形態1>
実施の形態1では、本発明の多孔炭素構造体について説明する。
図1は、本発明の多孔炭素構造体の断面を模式的に示す図である。
図2は、図1のA部を拡大して示す図である。
図3は、図2のB部を拡大して示す図である。
【0021】
本発明の多孔炭素構造体は、炭素を含んでなる骨格10と多数の空孔11、12とを有する。本発明の多孔炭素構造体は、さらに、次記(a)~(d)のすべての条件を満たす。
(a)t-プロット外部比表面積が、300m/g以上、1600m/g以下の範囲、
(b)直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲、
(c)直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲、及び
(d)空孔率が、全体で80%以上、99%以下の範囲。
【0022】
条件(a)~(d)についてそれぞれ詳述する。
条件(a)の「t-プロット外部比表面積」とは、窒素吸着測定より得られた吸着等温線をもとに、窒素の吸着層の厚みを横軸、吸着量を縦軸にプロットしたグラフから求められる。同じく窒素吸着測定より求めるBET(Brunauer-Emmett-Teller)法の比表面積からこのt-プロット外部比表面積を引いた数値がt-プロットミクロ孔比表面積と定義されている。t-プロットミクロ孔で表される細孔は、細孔が小さすぎてリチウムイオンや酸素が侵入困難で、放電反応にほとんど寄与できない。すなわち、t-プロット外部比表面積とは、放電反応、更には充電反応に有効な細孔の比表面積を表わしている。なお、細孔の定義はIUPACにより示されており、ミクロ孔は孔径2nm未満の細孔、メソ孔は孔径2nm以上、50nm未満の細孔、マクロ孔は50nm以上の細孔とされている。
【0023】
本発明の多孔炭素構造体は、t-プロット外部比表面積が条件(a)の範囲(すなわち、300m/g以上、1600m/g以下の範囲)にある。
t-プロット外部比表面積が300m/g以上であることにより、その値より小さいと、空気の透過性及びイオン輸送の効率が低下し、電池の正極構造体として用いたときの反応場が狭まってしまうという問題が回避される。
また、t-プロット外部比表面積が1600m/g以下の範囲であることにより、その値よりも大きいと、相対的にミクロ孔が増える傾向があるために、リチウムイオンや酸素の侵入が困難になり得るという問題が回避される。
t-プロット外部比表面積の下限値が900m/g以上であると、リチウムイオンと酸素との反応する場が少なくなり、放電容量が小さくなり得るという問題がより回避されやすい。そのため、t-プロット外部比表面積の下限値は、900m/g以上であることが好ましい。
t-プロット外部比表面積の範囲は、900m/g以上、1600m/g以下の範囲にあることが好ましい。t-プロット外部比表面積がこの範囲にあると、放電反応においてLiイオンと酸素とが反応して過酸化リチウムを生成する場合、正極から供給される電子を酸素が受け取るのに必要な反応場が多く、より多くの電子受け渡しを可能とすることができる。
【0024】
上記の条件(c)である「直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲」(好ましくは「直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が4.0cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲」、より好ましくは、「直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が4.1cm/g以上、9.0cm/g以下の範囲」)であることと相まって高い放電容量の電池を提供できる。
【0025】
これは、充電反応においても同様に、過酸化リチウムが正極に電子を渡して、Liイオンと酸素とになるための反応場が多く、より多くの電子受け渡しを可能とすることができる。上記の条件()である「直径200m以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲」(好ましくは「直径200m以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、8.0cm/g以下の範囲」)であることと相まって、高速での充電が可能となる。
【0026】
t-プロット外部比表面積は、より好ましくは930m/g以上、1500m/g以下の範囲である。これにより、高い放電容量及び高速充電を可能にする。t-プロット外部比表面積は、さらにより好ましくは950m/g以上、1400m/g以下である。これにより、さらに高い放電容量及び高速充電を可能にする。
【0027】
条件(b)の「直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲」であるとは、細孔径が比較的小さな範囲内にあるにも拘わらず細孔容積が大きく、細孔の数が多いことを表している。直径1nm以上、200nm以下の細孔とは、図2図3の空孔11に相当し得る。上記の細孔容積は、窒素吸着測定より得られた吸着等温線からBJH法を用いて得られる。
【0028】
このような本発明の多孔炭素構造体を空気電池の正極に用いた場合、放電でリチウムイオンと酸素とが反応する場をより多く与えることになり、高放電容量を示す電池を提供できる。
【0029】
直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が条件(b)の範囲(すなわち、1.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲)にあることにより、当該細孔容積がその範囲よりも小さい場合に生じ得る、放電容量が小さくなる傾向を示すという問題が回避され、また、当該細孔容積がその範囲よりも大きい場合に生じ得る、相対的に直径200nm以上の細孔容積が減少し、そのことにより酸素透過拡散性が低下し、高負荷での放電特性、すなわち高速での放電容量の低下が生じ得るという問題が回避される。細孔容積の下限は、好ましくは、2.2cm/g以上、より好ましくは2.4cm/g以上、細孔容積の上限は好ましくは7.0cm/g以下、より好ましくは6.0cm/g以下の範囲である。これにより、大きな放電容量を有し得る。これにより、さらに大きな放電容量を有し得る。
【0030】
条件(c)の「直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲」であるということは、本発明の多孔炭素構造体のこの細孔径範囲の細孔容積がかなり大きいということを表している。直径1nm以上、1000nm以下の細孔とは、図2図3の空孔11に相当し得る。上記の細孔容積は、窒素吸着測定より得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて得られる。
【0031】
このような本発明の多孔炭素構造体を空気電池の正極(正極構造体)として用いた場合、放電で生成する過酸化リチウムをより多く蓄えることができ、高い放電容量特性を持つ電池を提供できる。また、この細孔領域の細孔容量が大きいため、多孔炭素構造体内で空気又は酸素の透過拡散がしやすくなる。このため、電池外部から正極内へ導入された空気又は酸素は、炭素骨格を形成している炭素粒子の隅々まで、高速でいきわたることができる。さらにはこの細孔領域の細孔容量が大きいため、リチウム(Li)イオンの移動がスムーズとなり、空気や酸素透過拡散性の高さと相まって、高速放電特性、すなわち高負荷特性に優れた空気電池を提供できる。
【0032】
直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が条件(c)の範囲(すなわち、2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲)にあることにより、当該細孔容積がその範囲よりも小さい場合に生じ得る、放電容量や高負荷特性が小さくなる傾向を示すことが回避され、また、当該細孔容積がその範囲よりも大きい場合に生じ得る、より大きな放電容量、高負荷特性が期待できる一方で多孔炭素構造体の強度が低下し得るという問題が回避される。細孔容積の下限は、好ましくは4.0cm/g以上、より好ましくは4.1cm/g以上、細孔容積の上限は、好ましくは10.0cm/g以下、より好ましくは9.0cm/g以下の範囲である。これにより、より大きな放電容量及び高負荷特性が達成され得る。これにより、さらに大きな放電容量及び高負荷特性が達成され得、多孔炭素構造体が自立しやすい。
【0033】
条件(d)の「空孔率」は、多孔炭素構造体の見かけ密度と真密度とから、以下の計算式:(1-多孔炭素構造体の見かけ密度/多孔炭素構造体の構成材料の真密度)×100
により求められる。
本発明の多孔炭素構造体の「空孔率」が条件(d)の範囲(すなわち、全体で80%以上、99%以下の範囲)にあることは、十分に大きい空孔率を有することを意図する。このような多孔炭素構造体を空気電池の正極に用いた場合、放電で生成する過酸化リチウムを多く蓄えることができ、電池外部から正極内への空気や酸素の侵入が抵抗少なくスムーズに行われるため、高い放電容量を有し、かつ、高速での放電が可能な電池を提供できる。
【0034】
本発明の多孔炭素構造体では、空孔率が全体で80%以上であることにより、その値よりも小さい場合に生じ得る、空気の透過性及びイオン輸送の効率が低下し、電池の正極構造体として用いたときの反応場が狭まるという問題が回避される。
また、空孔率が全体で99%以下であることにより、その値よりも大きい場合に生じ得る、多孔炭素構造体としての剛性が低下し、脆くなり、自立性を有することが困難になり得るという問題が回避される。
空孔率の下限値が全体で90%以上であると、過酸化リチウムの生成場が減少し、空気や酸素の侵入が遅くなることにより、放電容量、高負荷特性が小さくなり得るという問題がより回避されやすい。そのため、空孔率の下限値は、全体で90%以上であることが好ましい。空孔率の下限値は、より好ましくは91%以上、さらに好ましくは92%以上である。
空孔率の上限値は特に制限されないが、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましい。
【0035】
本発明の多孔炭素構造体は、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たす限り、その他の要件は特に制限されない。
【0036】
本発明の多孔炭素構造体は、炭素繊維13を含んでもよい。炭素繊維13は、例示的には、繊維径0.1μm以上、20μm以下、長さが1mm以上、20mm以下の炭素繊維であり得る。これにより、多孔炭素構造体の強度を増強し得る。
【0037】
本発明の多孔炭素構造体は、条件(e)の「直径200nm以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、8.0cm/g以下の範囲」であることを満たすことが好ましい。
条件(e)の「直径200nm以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、8.0cm/g以下の範囲」であることを満たす細孔のイメージは、図2、図の空孔12に相当する。なお、この直径200m以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積は、水銀圧入法により測定した値を用いて得られる。
【0038】
この領域の細孔は主に、電池外部の酸素が正極である多孔炭素構造体の内部に侵入するために働く。この領域の細孔容積が十分に大きいということで、リチウムイオンが酸素と反応して過酸化リチウムを生成するにあたり、十分な量の酸素が侵入でき、しかも高速で侵入できる。これにより、本発明の多孔炭素構造体を正極に用いれば、高電流密度での放電容量が大きい、すなわち高負荷特性に優れた電池を提供できる。また、充電においては、過酸化リチウムが電極に電子を渡して、Liイオンと酸素になるが、直径200nm以上、10000nm以下の細孔容積がこの範囲にあることで、発生した酸素の多孔炭素構造体よりの抜けがよくなり、高速での充電が可能となる。
【0039】
直径200nm以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積が条件(e)の範囲(2.3cm/g以上、8.0cm/g以下の範囲)であることにより、当該細孔容積がその範囲よりも小さい場合に生じ得る、酸素の侵入速度が遅くなり、高負荷特性が低下し得るという問題が回避され、また、当該細孔容積がその範囲よりも大きい場合に生じ得る、多孔炭素構造体の強度が低下し得るという問題が回避される。当該細孔容積の下限値は、好ましくは、2.5cm/g以上、より好ましくは2.6cm/g以上、細孔容積の上限値は、好ましくは7.0cm/g以下、より好ましくは6.5cm/g以下の範囲である。これにより高負荷特性を有し得る。これにより、多孔炭素構造体の強度を維持しつつ、高負荷特性を有し得る。
条件(b)の直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積と、条件(e)の直径200nm以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積は、それぞれ上記の範囲にあれば他は特に限定されないが、条件(e)の直径200nm以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積が、条件(b)の直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積と同程度であればより好ましく、条件(e)の直径200nm以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積が、条件(b)の直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積よりも大きければ更に好ましい。条件(e)の直径200nm以上、10000nm以下の細孔は主に、放電過程で電池外部の酸素が正極である多孔炭素構造体の内部に侵入するため、また、充電過程で発生した酸素の多孔炭素構造体から抜けるために働くが、放電で生成する過酸化リチウムを蓄えるためにも働くため、条件(b)の直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積に対し、条件(e)の直径200nm以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積が同等か若しくはそれ以上であると、高速充放電特性と高容量特性を併せ持つ電池となり得る。
【0040】
本発明の多孔炭素構造体は、見かけ密度が0.05g/cm以上、0.20g/cm 以下の範囲であることが好ましい。多孔炭素構造体の見かけ密度がこの範囲に有れば、多孔炭素構造体は、酸素が透過拡散するのに必要な空孔を十分に有し、かつ、強度も十分である。このように本発明の多孔炭素構造体は、自立性を有するため、金属メッシュ等を使用することなく、空気電池の正極に供することができる。これにより、電池の軽量化、小型化、生産性の向上、低コスト化を可能にする。
【0041】
詳細には、見かけ密度が上記範囲(0.05g/cm以上、0.20g/cm 以下の範囲)であることにより、当該見かけ密度がその範囲よりも小さいと、多孔炭素構造体の強度が小さくなり得、金属メッシュ等の集電体に付着させて正極とする必要が生じ得るという問題が回避され、また、当該見かけ密度がその範囲よりも大きいと、多孔炭素構造体中の空孔量が相対的に少なり得、容量や負荷特性が低下し得るという問題が回避される。見かけ密度の下限は、好ましくは、0.07g/cm以上、より好ましくは、0.09g/cm以上、見掛け密度の上限は好ましくは0.18g/cm以下、より好ましくは0.17g/cm以下の範囲である。これにより、空孔を有し、高い強度を有することができる。本発明の多孔炭素構造体は、これにより、さらに空孔を有し、かつ、高い強度を有することができる。
【0042】
骨格は、炭素を主体とする。好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上の炭素を含むことがより好ましい。炭素の量が90重量%以上であると、イオン輸送の効率を上げやすく、また、電池の正極構造体として用いたときの反応場が拡がりやすい。 また骨格は、導電性炭素を含むことが好ましく、導電性炭素からなることがより好ましい。導電性炭素が含まれる、あるいは導電性炭素からなることにより、多孔炭素構造体の導電率が高まり、この多孔炭素構造体を電池の正極構造体として用いたときの導電率が高まる。このことにより、電池の内部抵抗が下がり、電池の出力が向上する。
【0043】
本発明の多孔炭素構造体に含まれるフッ素(F)含有量は、多孔炭素構造体1g中に0.002mg以下(0.0002質量%以下)となり得る。本発明の多孔炭素構造体では、結着高分子材料としてフッ素含有高分子結着材を使用する必要がないため、上述の含有量以下とすることができる。
【0044】
本発明の多孔炭素構造体では、BET法比表面積は、好ましくは、300m/g以上、1600m/g以下である。BET法比表面積が上記数値範囲にあることにより、当該BET法比表面積がその数値範囲より小さい場合に生じ得る、空気の透過性およびイオン輸送の効率が低下し、電池の正極構造体として用いたときの反応場が狭まるという問題が回避され、また、当該BET法比表面積がその数値範囲より大きい場合に生じ得る、構造体としての剛性が低下して脆くなり、自立性を有することが困難になるという問題が回避される。この問題が回避されると、正極構造体として利用したい場合、自立可能なため、粉体にして金属電極容器などの中に担持させる必要がなく、電池の軽量化、小型化、生産性の向上、低コスト化を図ることができる。
BET法比表面積の下限値は、より好ましくは400m/g以上、より好ましくは500m/g以上、BET法比表面積の上限値は、より好ましくは1500m/g以下、さらにより好ましくは1400m/g以下である。
本発明の多孔炭素構造体では、SA比(=[t-プロット外部比表面積/BET法比表面積(=t-プロット外部比表面積+t-プロットミクロ孔比表面積)]×100)が、30%以上となることが好ましい。
この値を満たすと、この値よりも小さい場合に生じ得る、電池の正極構造体として用いたときの反応場が低下し、空気の透過性およびイオン輸送の効率が低下するという問題が発生するという問題が回避される。
【0045】
<実施の形態2>
実施の形態2では、本発明の多孔炭素構造体の例示的な製造方法について説明する。
本発明の多孔炭素構造体は、多孔質炭素粒子及び結着用高分子材料を含有する合剤スラリーを調製することと、合剤スラリーを成型することと、得られた試料を結着用高分子材料に対して溶解度が低い溶媒に浸漬させることと、得られた試料を乾燥させることと、得られた試料を炭素化処理することとを包含する製造方法を実施することで達成できる。この製造工程中の炭素化処理工程では、例えば、その炭素化処理が酸化性ガス又は不活性ガスの雰囲気中で行われる。
図4は、本発明の多孔炭素構造体の製造工程を示すフローチャートである。
【0046】
最初に、合剤スラリーを調製する(工程S1)。
合剤は、50重量%以上、85重量%以下の多孔質炭素粒子、1重量%以上、15重量%以下の炭素繊維、5重量%以上、49重量%以下の結着用高分子材料及びそれらを均一に分散する溶媒からなるのが好ましい。
炭素繊維は必ずしも必要ではないが、炭素繊維を含むことで多孔炭素構造体の補強効果を示すので、炭素繊維を含むことがより好ましい。
【0047】
多孔質炭素粒子としては、ケッチェンブラック(登録商標)を含むカーボンブラック、その他テンプレート法にて形成された炭素粒子などを用いることができる。
多孔質炭素粒子は、好ましくは、BET法比表面積が1000m/g以上、1500m/g以下の範囲、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が3.0cm/g以上、4.0cm/g以下の範囲、及び直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.0cm/g以上、3.0cm/g以下の範囲の条件を満たす。このような多孔質炭素粒子を原料に用いれば、上述の条件(a)~(d)を満たす多孔炭素構造体がより得られやすい。
【0048】
炭素繊維としては、繊維径が0.1μm以上、20μm以下、長さが1mm以上、20mm以下の炭素繊維を用いることができる。
【0049】
結着用高分子材料としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルフォン、溶媒可溶型ポリイミド等の高分子材料を用いることができるが、環境問題等に鑑みて、フッ素(F)元素を含まない高分子材料を用いるのが好ましい。
【0050】
溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)などを挙げることができる。
【0051】
次に、成型(成形)を行う(工程S2)。
成型方法は特に問わないが、例えば、よく知られているドクターブレードなどを用いた湿式製膜法を挙げることができる。
このほか、ロールコーター法、ダイコーター法、スピンコート法、スプレーコーティング法などを挙げることもできる。
成型後の形は、目的に応じて様々な形とすることができる。例えば、均一な厚みのシート状とする。
【0052】
その後、溶媒浸漬を行う(工程S3)。
この溶媒浸漬工程では、非溶媒誘起相分離法にて、結着用高分子材料に対する溶解度が低い溶媒中に工程S2で成型した試料を浸漬する。この工程により、多孔膜化する。
【0053】
溶媒としては、例えば、水、及びエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、並びに、これらの混合溶媒などを挙げることができる。
この中でも水は、取扱い性に優れるという点で好ましく、また、アルコールは最終的に作製された多炭素構造体を用いて電池を作製したときの放電容量が高いという特徴を有する点で好ましい。
【0054】
次に、乾燥を行う(工程S4)。
この工程では工程S3で得られた成形体(多孔膜)から各種溶媒を揮発させる。乾燥方法としては、乾燥空気環境下に置く方法、減圧乾燥法、真空乾燥法などを挙げることができる。この乾燥工程では、乾燥速度を速めるために、溶媒の沸点を超える程度の温度で加温してもよい。
【0055】
次に、不融化処理を行う(工程S5)。
この処理は、結着用高分子材料が、次工程の炭素化処理工程で溶融分離し、成形体の形状が崩れるのを防止する目的で行う。具体的には、結着用高分子材料を酸化架橋することで、固体化することで達成できる。不融化処理は、空気流通下、オーブン炉や赤外線照射などで加熱することで行う。温度は250℃以上、350℃以下が好ましい。250℃以上とすることにより、結着用高分子材料の酸化架橋が不十分となり得、次工程の炭素化工程で溶融する虞があるという問題が回避される。350℃以下とすることにより、結着用高分子材料の分解が生じ得るという問題が回避される。この工程は、使用する結着用高分子材料の種類、または、次工程の炭素化処理工程の酸化性ガスの種類によっては、省略してもよい。
【0056】
次に、炭素化処理を行う(工程S6)。
この処理により結着用高分子が重縮合されて炭素に変化するとともに、この炭素が多孔質炭素粒子同士を強く結合する。この炭素化処理を経ることにより、自立性を有する多孔炭素構造体が製造される。
炭素化処理としては、この目的を達成できれば特に制限はないが、例えば、酸化性ガス又は不活性ガスの雰囲気中で行うことができる。この場合、酸化性ガスの雰囲気中で行うのが好ましい。また、酸化性ガスの雰囲気中で炭素化処理を行ってから不活性ガスの雰囲気中でさらに炭素化処理を行うのがより好ましい。酸化性ガスの雰囲気中で炭素化処理を行うことで、結着用高分子材料の一部を焼失・除去し、更には原料の多孔質炭素粒子の一部を焼失・除去するとともに、孔質炭素粒子間に残存している結着高分子が炭素化し、孔質炭素粒子同士を強固に結着させる。
【0057】
まず、炭素化処理を行う工程(炭素化処理工程)を酸化性ガスの雰囲気中で行う場合について述べる。
炭素化処理を行う工程(炭素化処理工程)を酸化性ガスの雰囲気中で行う場合、例えば、工程S4または工程S5で得られた試料を、0.03%より大きく、5%未満の範囲の酸素濃度を有する酸化性ガス中で熱処理すればよい。本願では、このような観点から酸化性ガスの雰囲気中の炭素化処理を単に酸化処理と呼ぶ場合がある。
【0058】
酸化性ガスの雰囲気は、好ましくは、酸素、空気、水、二酸化炭素(CO)を含有するガスであり得る。これらであれば、結着用高分子材料の大部分を焼失・除去し、更に多孔質炭素粒子の一部を焼失・除去できる。酸化性ガスの雰囲気は、より好ましくは、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガス等の不活性ガスをさらに含有する。
【0059】
炭素化処理を行う工程(炭素化処理工程)を酸化性ガスの雰囲気中で行う場合、酸素濃度は、上述したように、0.03%より大きく、5%未満の範囲とすればよい。酸素濃度が0.03%より大きく、5%未満の範囲であることは、酸素濃度が当該範囲よりも低い場合に生じ得る、酸化処理が進まない傾向があるという問題が回避され、また、酸素濃度が当該範囲よりも高い場合に生じ得る、多孔炭素構造体が酸化性ガスにより過剰に燃焼して分裂したり、強度が不十分になったりする虞があるという問題が回避されるので、炭素化処理の上記目的を達成する観点から好ましいからである。酸素濃度は、より好ましくは、0.04%以上、4%以下の範囲である。この範囲であれば、酸化処理がより効率的に進む。酸素濃度は、さらに好ましくは、0.05%以上、4%以下の範囲である。この範囲であれば、酸化処理がより一層効率的に進み、本発明の多孔炭素構造体が高効率で得られる。なおさらに好ましくは、0.2%以上、2%以下の範囲である。この範囲であれば、さらにより一層酸化処理が進み、より高効率且つ高収率で本発明の多孔炭素構造体が得られる。
【0060】
なお、酸化性ガスの雰囲気として水を用いた場合、酸素濃度は、水中に含有される酸素原子から換算した酸素量に基づく濃度とすればよい。
【0061】
炭素化処理は、炉に酸化性ガスを封入した状態で行ってもよいし、酸化性ガスをフローしながら行ってもよい。酸化性ガスをフローする場合、流量は特に限定されないが、ましくは0.1mL/min以上、100L/min以下の範囲である。流量がこの範囲を下回ると、酸化が進みにくくなる虞があり、流量がこの範囲を上回ると、コスト的に不利になり得る。流量は、より好ましくは、1mL/min以上、100L/min以下の範囲であり、さらに好ましくは、10mL/min以上、10L/min以下の範囲である。
【0062】
炭素化処理に使用する炉は、上記酸化性ガスを封入したり、フローしたりできる限り、特に制限はないが、オーブン炉、管状炉、ボックス炉、赤外線照射炉、黒鉛ヒーター炉、誘導加熱炉、リードハンマー炉、アチソン炉などを用いることができる。
【0063】
炭素化処理の温度は、好ましくは、350℃以上、3000℃以下の温度範囲である。炭素化処理の温度が350℃以上3000℃以下の温度範囲にあると、当該温度範囲よりも低い場合に生じ得る、十分な酸化効果が得られない虞があり得るという問題が回避され、また、当該温度範囲よりも高い場合に生じ得る、多孔炭素構造体の燃焼焼失が起こり得るという問題が回避される。炭素化処理の温度は、より好ましくは、400℃以上、2000℃以下の範囲であり、さらに好ましくは420℃以上、1500℃以下である。
【0064】
炭素化処理における昇温速度の上限は、好ましくは100℃/min以下、より好ましくは50℃/以下、更に好ましくは30℃/min以下である。炭素化処理における昇温速度の上限をこのようにすると、これよりも速い速度での昇温で生じ得る、多孔炭素構造体十分に酸化処理されない傾向にあるという問題が回避される。昇温速度の下限は特に定めないが、好ましくは0.01℃/min以上がコスト的に望ましい。
【0065】
炭素化処理工程は、炭素化処理工程によって得られる生成物(本発明の多孔炭素構造体)の直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、原料に用いた多孔質炭素の直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積より増加するまで行うことが好ましい。
【0066】
詳細には、この細孔容積の増加倍数が1.02倍以上、10.0倍以下の範囲となるまで炭素化処理工程を行うことが好ましい。細孔容積の増加倍数がこの範囲を下回ると十分な酸化効果が得られない虞があり、細孔容積の増加倍数がこの範囲を上回ると、十分な強度を有する多孔炭素構造体が得られない虞がある。細孔容積の増加倍数は、より好ましくは1.04倍以上、8.0倍以下の範囲であり、更に好ましくは1.05倍以上、5.0倍以下の範囲である。
【0067】
本発明の多孔炭素構造体は、上記のように酸化性ガスの雰囲気中で炭素化処理工程を行う工程(工程S6)を経て得られる(工程S7)が、酸化性ガスの雰囲気の代わりに不活性ガスの雰囲気中で行うことも可能である。
炭素化処理を行う工程(炭素化処理工程)を酸化性ガスの雰囲気の代わりに不活性ガスの雰囲気中で行う場合について述べる。
この場合、炭素化処理に使用する炉は、酸化性ガスの雰囲気中で炭素化処理工程を行う場合と同様、上記不活性ガスを封入したり、フローしたりできる限り、特に制限はないが、オーブン炉、管状炉、ボックス炉、赤外線照射炉、黒鉛ヒーター炉、誘導加熱炉、リードハンマー炉、アチソン炉などを用いることができる。
炭素化処理の温度は、好ましくは、800℃以上、3000℃以下の温度範囲である。この温度範囲にすると、十分な炭素化効果が得られない虞があり得るという問題が回避される。炭素化処理の温度は、より好ましくは、900℃以上、2500℃以下の範囲である。
炭素化処理における昇温速度の上限は、酸化性ガスの雰囲気中で炭素化処理工程を行う場合と同様、好ましくは100℃/min以下、より好ましくは50℃/以下、更に好ましくは30℃/min以下である。昇温速度の上限をこのようにすると、これよりも速い速度での昇温で生じ得る、多孔炭素構造体十分に炭素化されない傾向にあるという問題が回避される。昇温速度の下限は特に定めないが、好ましくは0.01℃/min以上がコスト的に望ましい。
不活性ガスの雰囲気とは、具体的には、アルゴン(Ar)等の希ガス、窒素(N)等である。
【0068】
また、本発明の多孔炭素構造体は、上記のように酸化性ガスの雰囲気下において炭素化処理工程を行う工程(工程S6)を経て得られる(工程S7)が、炭素化処理工程(工程S6)に続いて、本発明の多孔炭素構造体を得る工程(工程S7)前に不活性ガスの雰囲気下でさらなる炭素化処理を行ってもよい。これにより、多孔質炭素粒子同士の接触部分に残り、多孔質炭素粒子の結合に預かっている結着用高分子材料が炭素化することで、多孔炭素構造体の電子伝導性が増すと共に、多孔炭素構造体の強度がより強固になることを可能にする。
【0069】
不活性ガスの雰囲気は、アルゴン(Ar)等の希ガス、窒素(N)等である。特に、酸化性ガスの雰囲気での炭素化処理を800℃以下の温度で実施した場合は、それに続いて不活性ガスの雰囲気での炭素化処理工程を行うことが好ましい。これにより、多孔質炭素粒子同士の接触部分に残り、多孔質炭素粒子の結合に預かる結着用高分子材料が炭素化することで、多孔炭素構造体の電子伝導性が増すと共に、多孔炭素構造体の強度がより強固になることを可能にする。
【0070】
不活性ガスの雰囲気下の炭素化処理工程は、酸化性ガスの雰囲気下の炭素化処理(工程S6)の後そのまま不活性ガスに切り替えて所定の炭素化温度まで昇温してもよいし、酸化性ガスの雰囲気での炭素化処理(工程S6)の後、多孔炭素構造体を取り出してから、不活性ガスの雰囲気でのさらなる炭素化処理を実施してもよい。
【0071】
不活性ガスの雰囲気での炭素化処理の温度は、好ましくは800℃以上、より好ましくは900℃以上である。上限は特に制限しないが、3000℃以下がコスト的に好ましい。
【0072】
以上の工程により、自立性を有するために十分で実用的な機械的強度を有する多孔炭素構造体が製造される。上記熱処理により成形体全体が炭素化し、二次電池反応に直接関与しない樹脂バインダーや集電体メッシュを用いることなく、自ら電極として必要な自立性と電子伝導性を有し、耐酸化性に優れた多孔炭素構造体とすることができる。この構造体は、自立性を有するとともに、高い空気又は酸素透過性、高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備える。
特に工程S6における酸化性ガス雰囲気下の炭素化処理により、多孔炭素構造体を構成する原料である多孔質炭素粒子表面に被覆されている結着高分子材料は、焼失除去され、多孔質炭素粒子が本来持っていた細孔容積や細孔比表面積が表れてくる。さらには、多孔質炭素粒子そのものの一部も酸化されることで、得られる多孔炭素構造体の細孔容積や細孔比表面積は、原料である多孔質炭素粒子が本来持っていたものより増大する。結着高分子材料や多孔質炭素粒子の一部が焼失することで、その分粒子同士の空隙も増加することになる。しかも、製造した多孔炭素構造体は、自立性を有するために十分で実用的な機械的強度を有している。このことは、多孔質炭素粒子同士の結着に与っている多孔質炭素粒子間に存在している結着用高分子は、上記炭素化処理により、多孔質炭素粒子同士の結着に与ったまま炭素化されていることを示している。すなわち、多孔質炭素粒子同士の結着に与っている結着用高分子は、上記炭素化処理により、緻密に結着している粒子間に炭素化して存在するため、酸素が侵入できないためと考えることができる。一方で他の粒子との結合に与っていない多孔質炭素粒子表面の高分子には、多孔炭素構造体に構築されているメソ孔、マクロ孔を通って酸素が届き、酸化焼失が成されると考える。
【0073】
本発明の多孔炭素構造体は、上記炭素化工程を経るために水素(H)が脱離し環化が進むためにH/Cは小さくなる。また、原料として用いる多孔炭素粒子も炭素化により炭素網面が発達することでH量が減少する。本発明の炭素化工程により耐酸化性に優れた多孔炭素構造体とすることができる。
本発明の多孔炭素構造体に含まれるフッ素(F)量は、上述のとおり、多孔炭素構造体1g中に0.002mg以下(0.0002質量%以下)となり得る。本発明の多孔炭素構造体では、結着高分子材料としてフッ素含有高分子結着材を使用する必要がないため、上述の含有量以下とすることができる。
他方、通常リチウムイオン電池やこれまで発表されているリチウム空気電池では、正極電極材で使用されるバインダーとして、耐酸化性に優れたフッ素系高分子材料が用いられる。
しかし、本発明の多孔炭素構造体は、結着高分子材料として非フッ素系結着材を用いても、上記炭素化工程を経て得られることになるため、当該結着材成分は炭素化し、そのため、耐酸化性に優れた構造体が形成されることになる。
【0074】
<実施の形態3>
実施の形態3では、実施の形態1で説明した多孔炭素構造体を正極構造体として用いたコインセルについて、図5及び図6を参照しながら説明する。
図5は、コインセルを示す模式図である。
図6は、別のコインセルを示す模式図である。
【0075】
実施の形態3におけるコインセル600は、負極構造体610と正極構造体620とがセパレータ660を介して積層された積層構造体からなる。そして、この積層構造体はコインセル型拘束具630により拘束されている。尚、コインセル型拘束具630と金属メッシュ680の間には絶縁性のオーリングが配置され(図示なし)、拘束具630と正極構造体620との絶縁性が確保されている。
空気電池は空気中の酸素が正極活物質になるという意味で命名されたことからもわかるように最低限空気中の酸素濃度である21%以上の酸素が供給されればよいが、拡散律速の影響を減らすためにはより高濃度の方が好ましく、純酸素を供給できれば最高の特性を発揮させることができる。
【0076】
負極構造体610は、通常用いられる負極構造体で構わない。その例としては、集電体635と、その上に付与されたアルカリ金属、及び/又は、アルカリ土類金属を含有する金属層640からなる構造体を挙げることができる。ここで、金属層640は、代表的にはリチウム金属からなる層を挙げることができる。
【0077】
正極構造体620は、空気又は酸素が通る流路及び集電体機能を兼ねる金属含有のメッシュ(金属メッシュ)680に機械的にも電気的にも接触した実施の形態1で示した多孔炭素構造体690を備える。
【0078】
あるいは、図6のコインセル601に示すように、正極構造体621は、実施の形態1で示した多孔炭素構造体690のみを備える。ここで、コインセル600とコインセル601の差は、金属メッシュ680の有無のみである。尚、コインセル型拘束具630と多孔炭素構造体690の間には絶縁性のオーリングが配置され(図示なし)、拘束具630と正極構造体621との絶縁性が確保されている。
【0079】
ここで、金属メッシュ680を備えた正極構造体620は、導電性が高まり、空気又は酸素の流路も十二分に確保されるため、高出力に適した構造である。
【0080】
一方、多孔炭素構造体690のみからなる正極構造体621は、集電体の金属メッシュがないため電池の重量エネルギー密度が高く、構造が簡単で、その製造において工程数が少なくなり、効率よく製造できる構造である。このように、多孔炭素構造体690は、十分な剛性を有する自立体であるため、多孔炭素構造体690のみでも正極構造体621とすることが可能になる。
【0081】
なお、多孔炭素構造体690には、溝が形成されて(図示なし)、さらなる空気又は酸素の通る流路が確保されていることが好ましい。本発明の多孔炭素構造体690は十分な強度を有するため、空気又は酸素流通用の溝を設けることが可能である。溝の幅は、例えば0.1mm以上、3mm以下とすることができる。0.1mmを下回ると空気又は酸素の流通が少なくなる。3mmを上回っても空気又は酸素の流通に大差はなくなり、一方で強度が低下して破損しやすくなる。溝は複数形成されていることが好ましく、また、碁盤の目状に形成されていることも望ましい。
【0082】
負極構造体610と正極構造体620の間にはセパレータ660が配置される。金属層640を覆うセパレータ660との間にはスペーサ650が形成されており、さらに金属層640とスペーサ650とセパレータ660との間には空間670が形成されていて、空間670には電解液が充填された構造を有する。
【0083】
次に、コインセル600の製造方法について説明する。
最初に、負極構造体610を準備する。負極構造体610は、例えば、次のようにして製造、準備する。
【0084】
円盤状の集電体635の上に、集電体635と同心状で集電体635より径の小さな円盤状のリチウムなどによる金属層640を積層し、集電体635の上に柱状のスペーサ650を押し付けて、負極構造体610を得る。
【0085】
ここで、スペーサ650としては、絶縁性を有する金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物等を挙げることができる。例示的には、Al、Ta、TiO、ZnO、ZrO、SiO、B、P、GeO、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO、Si、AlN及びAlO1-x(0<x<1)からなる群から選択される無機材料を挙げることができる。この中でも、特にAlやSiOは、入手が容易であり、加工性に優れるという特徴がある。
【0086】
スペーサ650は、例示的には、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂からなる群から選択される有機材料からなってもよい。ポリオレフィン系樹脂は、好ましくは、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンである。ポリエステル系樹脂は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリトリブチレンテレフタレート(PTT)からなる群から選択される。これらの樹脂は、入手が容易であり、加工性に優れる。
【0087】
次に、セパレータ660を準備して、これをスペーサ650上に押し付ける。
セパレータ660としては、アルカリ金属イオン、及び/又はアルカリ土類金属イオンが通過可能であり、多孔質構造を有する絶縁性材料で、かつ、金属層640及び電解液との反応性を有さない任意の無機材料、有機材料、あるいは、金属材料が適用される。
【0088】
この条件を満たせば、特に制限はなく、既存の金属電池に使用されるセパレータを使用することができる。例示的には、セパレータ660は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン等の合成樹脂からなる多孔質膜、ガラス繊維及び不織布からなる群から選択される。
【0089】
なお、リチウム金属640とスペーサ650とセパレータ660との間に空間670を設けることが好ましい。
【0090】
その後、セパレータ660内に電解液を充填させる。このとき、併せて空間670も電解液で充填することが好ましい。
【0091】
非水系電解液において、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩としてリチウム塩を用いる場合は、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiSiF、LiAsF、LiN(SO、Li(FSON、LiCFSO(LiTfO)、Li(CFSON(LiTFSI)、LiCSO、LiClO、LiAlO、LiAlCl、LiB(C等のリチウム塩を挙げることができる。
【0092】
非水電解液において、非水溶媒は、グライム類(モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム)、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,2-ジメチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ジメチル、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、トリエチルホスフィンオキシド、1,3-ジオキソラン及びスルホランからなる群から選択される。
【0093】
しかる後、実施の形態1に示した製法で作製した多孔炭素構造体690上に金属メッシュを乗せた正極構造体620を準備する。
金属メッシュ680としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を有するメッシュを挙げることができる。すなわち、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、この群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)などとの化合物からなるメッシュを挙げることができる。メッシュは、例えば、厚さ0.2mm、目開き1mmとすることができる。
【0094】
その後、電解液で充填させた負極構造体610に正極構造体620を、セパレータ660を介して貼り合わせ、コインセル型拘束具630で拘束してコインセル600を得る。ここで、実装は乾燥空気下、例えば露点温度-50℃以下の乾燥空気下で行うことが好ましい。
【0095】
以上の工程により、空気電池として動作するコインセル600が製造される。
なお、コインセル601を製造する場合は、上述の工程において、準備する正極構造体620を多孔炭素構造体690のみとすればよい。
【0096】
コインセル600、601は、実施の形態1に示した多孔炭素構造体を使用した正極構造体690が、高い空気又は酸素透過性をもっていて多量の酸素を取り込むことが可能であり、さらに高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備えているおり、その上で、多孔炭素構造体あるいはその上に配置した金属メッシュという小型化が可能でシンプルな構造であるため、小型・軽量化が可能で大容量化に適した空気電池になる。
【0097】
<実施の形態4>
実施の形態4では、実施の形態1で説明した多孔炭素構造体を正極構造体として用いた積層型金属電池(空気電池)について、その空気電池の断面構造を示す模式図である図7を参照しながら説明する。
図7は、積層型金属電池(空気電池)を示す模式図である。
【0098】
実施の形態4における空気電池500は、正極構造体510と負極構造体100とがセパレータ540を介して積層した積層構造を備える。積層数は、正極構造体510と負極構造体100とが各々1からなる1対を単位として、1対以上複数対でよく、対数に特段の上限はない。
【0099】
ここで、負極構造体100は、実施の形態で説明した負極構造体610を、負極用集電体電極520を挟んで上下に配置された構成になっており、正極構造体510も、実施の形態で説明した多孔炭素構造体690を空気又は酸素の流路も兼ねた正極用集電体電極525を挟んで上下に配置された構成になっている。こういったシンプルな積層構造でより容量の大きな電池を構成できるのも自立性を有する多孔炭素構造体正極ならではの特徴である。
【0100】
負極用集電体電極520としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を有する電極を挙げることができる。正極用集電体電極525としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を有する電極を挙げることができる。すなわち、集電体電極520、525としては、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、この群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)などとの化合物からなる電極を挙げることができる。正極用集電体電極525は酸素の流路を兼ねるためメッシュ、グリッド、スポンジなどの多孔性を有する金属を用いる必要がある。なお、積層構造は、収納容器(図示せず)に収容される。
【0101】
空気電池500は、実施の形態1に示した多孔炭素構造体を使用した正極構造体510が、高い空気又は酸素透過性をもっていて多量の酸素を取り込むことが可能であり、さらに高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備えているおり、その上で、多孔炭素構造体あるいはその上に配置した金属メッシュという小型化が可能でシンプルな構造であるため、小型軽量化が可能で大容量化に適した空気電池になる。
【0102】
なお、実施の形態4では、図7を参照して、本発明の正極構造体510を用いた空気電池について詳述したが、本発明の正極構造体510は空気電池に限らず、任意の金属電池に適用できる。
【0103】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0104】
本発明の多孔炭素構造体の試料作製及び作製した多孔炭素構造体試料の性状について、比較用試料を参酌しながら述べる。
以下で、多孔炭素構造体No.1~8、10~16と称する試料は、実施例で作製した本発明の多孔炭素構造体試料のことであり、多孔炭素構造体No.9、17~25と称する試料は、比較用試料(比較例)のことである。
【0105】
[実施例1A:多孔炭素構造体]
実施例1Aでは、本発明の多孔炭素構造体試料(多孔炭素構造体No.1~8及び10)と比較用試料(多孔炭素構造体No.9)の作製及び作製した多孔炭素構造体試料と比較用試料の性状について述べる。
【0106】
(多孔炭素構造体の作製)
最初に、多孔質炭素粒子65重量%、炭素繊維(カーボンファイバー)12重量%、結着用高分子材料23重量%及びそれらを均一に分散するN-メチルピロリドンからなる溶媒を用いて合剤スラリーを調製した(図4の工程S1)。
【0107】
ここで、多孔質炭素粒子としてはケッチェンブラック(登録商標)(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、EC600J)を用いた。その性状を表1に示す。
炭素繊維としては繊維平均径6μm、平均長さ3mmの炭素繊維を用いた。
結着用高分子材料としてはポリアクリロニトリル(PAN)を用いた。
【0108】
【表1】

【0109】
合剤スラリーは、ドクターブレードを用いた湿式製膜法にて均一な厚みに成型してシート化した(図4の工程S2)。この時、成形シートは厚み300μm、500μm、600μmの3種類を作製した。
【0110】
成形後、非溶媒誘起相分離法にてメタノール(貧溶媒)中に浸漬して、成型試料を多孔質膜化した(図4の工程S3)。非溶媒誘起相分離法とは、高分子溶液を非溶媒に浸漬して高分子を相分離析出させる方法で、本実施例1Aでは、結着用高分子材料のポリアクリロニトリル(PAN)のN-メチルピロリドン溶液中に多孔質炭素粒子である上記ケッチェンブラック(登録商標)と上記炭素繊維が分散した状態の上記成形シートを、非溶媒(貧溶媒)であるメタノールに浸漬することで、ポリアクリロニトリル(PAN)が上記ケッチェンブラック(登録商標)と上記炭素繊維を結合した状態で相分離析出し、上記ケッチェンブラック(登録商標)を骨格とした多孔質膜が生成され、その多孔質膜の中には上記炭素繊維も含まれている。この時、N-メチルピロリドンは、ほとんどがメタノールに溶け込む。
【0111】
次に、試料から揮発性の溶媒を取り除く50~80℃で10時間以上の乾燥工程(図4の工程S4)を行い、引き続き大気中で320℃で3時間の不融化熱処理(図4の工程S5)を行った。
【0112】
次いで、不融化熱処理で得られた長さ90mm、幅80mmの炭素構造体の炭素化処理(図4の工程S6)及びさらなる炭素化処理を、表2の多孔炭素構造体No.1~10に示す10の条件で行い、10種類の多孔炭素構造体を得た(図4の工程S7)。
炭素化処理にはデンケンハイデンタル社のボックス型炉を用い、昇温速度は、酸化性ガスの雰囲気中で炭素化処理(酸化処理)を行う場合も不活性ガスの雰囲気中で炭素化処理を行う場合も、酸化性ガスの雰囲気に続いて不活性ガスの雰囲気中で炭素化処理を行う場合も10℃/minで行った。酸化性ガスは、酸素と窒素との混合ガスであった。不活性ガスは、窒素ガスであった。
孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の作製(製造)条件を表2にまとめて示す。
【0113】
【表2】

【0114】
表2の多孔炭素構造体No.1及び4は、酸化処理を行わず窒素を800mL/minで流しながら炭素化のみを実施した。表2の多孔炭素構造体No.2、5、6及び8は、表2に記載の酸素濃度のガスを800mL/minで流しながら表2中に記載の酸化温度まで昇温させ、その温度でガスを窒素に切り替えて引き続き窒素中で1050℃まで昇温させて3hr保持後室温まで放冷することで炭素化を実施した。表2の多孔炭素構造体No.3、7、9及び10は、表2中に記載の酸素濃度のガスを800mL/minで流しながら表2中の記載の酸化温度である1050℃まで昇温させて2hr保持後、ガスを窒素に切り替えて1hr保持後室温まで放冷することで、炭素化を行った。
【0115】
(多孔炭素構造体の性状)
これらの試料(多孔炭素構造体No.1~No.10)について、収率及び厚さを測定し、自立性を観察した。結果を表2にまとめて示す。
また、多孔炭素構造体No.5の試料の細部を走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL社製、JSM-7800F)を用いて観察した。これらの結果を図8図9に示す。
【0116】
図8は、多孔炭素構造体No.5の試料のSEM像を示す図である。
図9は、図8のSEM像を拡大して示す図である。
【0117】
図8及び図9によれば、本発明の方法(図4)を実施することにより、炭素を含んでなる骨格10と多数の空孔11、12とを有する多孔炭素構造体が得られることが分かった。
図8には「直径200nm以上、10000nm以下の細孔」に相当する空孔12が示され、図9によれば、「直径1nm以上、1000nm以下の細孔」に相当する空孔11が示される。
【0118】
多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状を、以下の(1)~(10)の方法で調べ、結果を表3に示す。
(1)直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
(2)直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
(3)直径1μm以上、200μm以下の細孔の占める細孔容積
AutoPoreIV(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いた水銀圧入法により、細孔径10nm~200000nm(0.01μm~200μm)の範囲の細孔容積を測定し、細孔直径1μmから200μmの細孔容積の値を用いた。
(4)BET法比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBET法に従って求めた。
(5)t-プロット外部比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線をもとに、窒素の吸着層の厚みを横軸、吸着量を縦軸にプロットしたグラフよりt-プロット法で求めた。
(6)t-プロットミクロ孔比表面積
上記BET法の比表面積から上記t-プロット外部比表面積を引いた値で定義される。
(7)見かけ密度
多孔炭素構造体の重量をその体積で割って求めた。
(8)空孔率(%)
次記の計算により求めた。
(1-多孔炭素構造体の見かけ密度/多孔炭素構造体構成材料の真密度)×100
(9)直径200nm以上、10000nm以下の細孔の占める細孔容積
AutoPoreIV(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いた水銀圧入法により、細孔径10nm~200000nm(0.01μm~200μm)の範囲の細孔容積を測定し、細孔直径200nmから10000nmの細孔容積の値を用いた。
(10)F含有量(%)
試料を秤量し、分析装置の燃焼管内でアルゴン・酸素混合ガス中で燃焼させ(AQF-2100H、GA-210(三菱化学製)使用)、発生したガスを過酸化水素水溶液に吸収後、吸収液の一部をDIONEX 製イオンクロマトグラフィーICS1600を用いて分析した。試料は秤量からn=2~3で測定し、測定値の平均値を求めて試料中のF含有量を計算した。
【0119】
【表3】

【0120】
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.1~8及び10の試料はいずれも、t-プロット外部比表面積が、300m/g以上、1600m/g以下の範囲にあり、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲にあり、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲にあり、そして、空孔率が、全体で80%以上、99%以下の範囲にあり、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすことが分かった。
これに対して、多孔炭素構造体No.9の試料は、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすものではないことが分かった。
【0121】
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.2、3、5~及び10の試料は、さらに、直径nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲内の4.0cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲を満たすこと、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が1.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲内の2.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲を満たすこと、多孔炭素構造体の見かけ密度が0.05g/cm以上、0.20g/cm 以下の範囲を満たすこと、そして、空孔率が、全体で80%以上、99%以下の範囲内の90%以上、99%以下の範囲を満たすことも確認した。
更に、多孔炭素構造体No.1~8及び10の試料は全て、その多孔炭素構造体に含まれるフッ素(F)含有量が0.0002質量%以下であることも確認した。
【0122】
また、多孔炭素構造体No.2、3、5~8及び10の試料においては、直径200nm以上、10000nm以下の細孔容積が2.3cm/g以上、8.0cm/g以下の範囲にあり、上述の条件(e)も満たすことが分かった。
【0123】
さらに、多孔炭素構造体No.2、3、5~8及び10の試料のいずれも、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積、及び、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積は、それぞれ、4.0cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲内の4.1cm/g以上、9.0cm/g以下の範囲、及び2.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲内の2.4cm/g以上、6.0cm/g以下の範囲を満たし、そのうえ、表1に示す、原料であるケッチェンブラック(登録商標)のそれらの値よりも大きくなったことが分かった。特に、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積に着目すると、多孔炭素構造体No.2、3、5~8及び10の各試料の細孔容積は、ケッチェンブラック(登録商標)の細孔容積の1.02倍以上であることが分かり、炭素化処理工程が十分に行われていることを確認した。
【0124】
これは、酸化処理により、ケッチェンブラック(登録商標)の粒子表面を覆っていたバインダーであるPAN(ポリアクリロニトリル)及びPANの炭素化物の大分部が焼失し、ケッチェンブラック(登録商標)の表面が露出できたこと、加えてケッチェンブラック(登録商標)の粒子表面の一部が酸化焼失したことで説明がつく。また、ケッチェンブラック(登録商標)同士を結合している部分のPANは、酸素が侵入し難いことで焼失せず、炭素化して残っており、そのことで多孔炭素構造体の自立性及び強度が確保されている。
しかしながら、酸素5%で酸化した多孔炭素構造体No.9の試料は、高濃度酸素によりケッチェンブラック(登録商標)粒子の酸化焼失量が増加し、そのことで粒子結合部分にあるPANも焼失が大きくなり、多孔炭素構造体強度が低下したと理解される。つまり、多孔炭素構造体No.9の試料では、本発明の多孔炭素構造体No.1~8及び10の試料のような炭素化処理がなされず、多孔炭素構造体の自立性を得ることができなかったと理解される。
【0125】
一方で、窒素のみで炭素化した多孔炭素構造体No.1及びの各試料の直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積、及び、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が、原料であるケッチェンブラック(登録商標)のそれらよりも小さくなった。これは、PAN由来の炭素化物がケッチェンブラック(登録商標)粒子表面を覆っていることによる。
【0126】
また、多孔炭素構造体No.2、3、5~8及び10の試料においては、t-プロット外部比表面積は、300m/g以上、1600m/g以下の範囲内の900m/g以上、1600m/g以下の範囲も満たすことを確認した。
【0127】
[実施例2A:コインセル(リチウム空気電池)]
実施例2Aでは、実施例1Aで製造(作製)した本発明の多孔炭素構造体No.1~8及び10の各試料を正極構造体690(図6)に用いたCR2032型のコインセル601(図6)を作製し、電池特性を評価した。
酸素濃度5%で1050℃まで酸化処理した多孔炭素構造体No.9の試料は、強度が弱く脆いため正極として電池評価に供する状態ではないため、実施しなかった。
【0128】
コインセルを次のようにして製造した。露点温度-50℃以下のドライルーム(乾燥空気内)で、各多孔炭素構造体No.1~8及び10を直径(φ)16mmに切り出した正極構造体、負極構造体として金属リチウム(直径(φ)16mm、厚さ0.2mm)、電解液としてLiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)の1M-テトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液を浸漬させたセパレータのガラス繊維ペーパ(Whatman(登録商標)、GF/A)を、コインセルケース(CR2032型)に実装した。
【0129】
このようにして得られた各コインセル(リチウム空気電池)について、純酸素雰囲気下で電池特性を評価した。
電池評価の条件は、電流密度0.4mA/cmに加え、より高速の電流密度0.6mA/cmと0.8mA/cmでも行い、電圧が2.3Vまで下がった時点を放電終点として、得られた放電容量を正極として用いた多孔炭素構造体重量で割ることで、正極重量当りの放電容量を算出した。
測定には、充放電試験機(北斗電工株式会社製、HJ1001SD8)を用いた。結果を表4に示す。
【0130】
【表4】

【0131】
表2及び4の結果によれば、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たす本発明の多孔炭素構造体No.1~8及び10の試料はいずれも、それら条件すべてを満たすものではない多孔炭素構造体No.9の比較用試料(比較例)とは異なり、自立可能な正極構造体として空気電池に用いることができ、金属メッシュ等の集電体を使用することなく、単独で空気電池の正極材として機能することが示された。そのうえ、放電容量も、後述する多孔炭素構造体No.17~22の比較用試料(比較例)を正極構造体と用いた場合と比較しても、全体的に遥かに高い値を示すことが分かった。
【0132】
また、表4によれば、炭素化処理工程(工程S4)の炭素化処理を酸化性ガスの雰囲気中で行う酸化処理を行った本発明の多孔炭素構造体No.2、3、5~8及び10の各試料を正極構造体に用いたコインセルは、酸化処理を行わず、窒素ガスのみで炭素化を行った本発明の多孔炭素構造体No.1及び4の各試料を正極構造体に用いたコインセルよりも、0.4mA/cmの電流密度での放電においてより高い放電容量を示すだけでなく、0.6mA/cmや0.8mA/cmの高速電流密度での放電においてもより高い放電容量を示すことが分かった。
【0133】
[実施例1B:多孔炭素構造体]
実施例1Bでは、本発明の多孔炭素構造体試料(多孔炭素構造体No.11~16)と比較用試料(多孔炭素構造体No.17~25)の作製及び作製した多孔炭素構造体試料と比較用試料の性状について述べる。
【0134】
(本発明の多孔炭素構造体No.11の試料の作製)
最初に、多孔質炭素粒子65重量%、炭素繊維10重量%、結着用高分子材料25重量%及びそれらを均一に分散するN-メチルピロリドンからなる溶媒を用いて合剤スラリーを調製した(図4の工程S1)。
ここで、多孔質炭素粒子としてはケッチェンブラック(登録商標)を65重量%含むカーボンブラックを用いた。
炭素繊維としては繊維平均径7μm、平均長さ3mmの炭素繊維を用いた。結着用高分子材料としてはポリアクリロニトリル(PAN)を用いた。
合剤スラリーは、ドクターブレードを用いた湿式製膜法にて均一な厚みに成型してシート化した(図4の工程S2)。成形後、非溶媒誘起相分離法にて水(貧溶媒)中に浸漬して、成型試料を多孔質膜化した。
次に、試料から揮発性の溶媒を取り除く50~80℃で10時間以上の乾燥工程(図4の工程S4)を行い、引き続き大気中で280℃で3時間の不融化熱処理(図4の工程S5)を行い、その後、炭素化処理工程(図4の工程S6)として、真空置換後の窒素ガス雰囲気下の焼成炉中で1000℃で3時間の焼成を行って、長さ140mm、幅100mm、厚さ510μmの多孔炭素構造体試料を作製した(図4の工程S7)。
本発明の多孔炭素構造体No.11の試料の作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0135】
(本発明の多孔炭素構造体No.11の試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.11の試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、厚みは、表2に示すとおり510μm、目付は10.8mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり646m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり540m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり84%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり89.9%であった。
得られた多孔炭素構造体の走査型2次電子顕微鏡像を図10に示す。空孔を有する海綿状であるにもかかわらず、自立する強度を有していた。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.11の試料は、t-プロット外部比表面積が540m/gであるから、300m/g以上、1600m/g以下の範囲(上述の条件(a))にあり、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が1.4cm/gであるから、1.2cm/g以上、7.0cm/g以下の範囲(上述の条件(b))にあり、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.4cm/gであるから、2.3cm/g以上、10.0cm/g以下の範囲(上述の条件(c))にあり、そして、空孔率が全体で89.9%であるから、全体で80%以上、99%以下の範囲(上述の条件(d))にあり、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすことが確認された。
【0136】
(本発明の多孔炭素構造体No.12の試料の作製)
多孔炭素構造体No.12の試料は、非溶媒誘起相分離法の貧溶媒としてメタノールを用いた以外は、多孔炭素構造体No.11と同様にして多孔炭素構造体を作製した。具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0137】
(本発明の多孔炭素構造体No.12の試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.12の試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、厚みは、表2に示すとおり470μm、目付は7.9mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり646m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり533m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり83%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり90%であった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.12の試料は、t-プロット外部比表面積が533m/gであるから上述の条件(a)を満たし、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が1.5cm/gであるから上述の条件(b)を満たし、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/gであるから上述の条件(c)を満たし、そして、空孔率が全体で90.0%であるから上述の条件(d)を満たし、そのため、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすことが確認された。
【0138】
(本発明の多孔炭素構造体No.13の試料の作製)
多孔炭素構造体No.13の試料は、非溶媒誘起相分離法の貧溶媒としてエタノールを用いた以外は、多孔炭素構造体No.11と同様にして多孔炭素構造体を作製した。具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0139】
(本発明の多孔炭素構造体No.13の試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.13の試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、厚みは、表2に示すとおり542μm、目付は9.4mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり709m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり567m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり80%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり91%であった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.13の試料は、t-プロット外部比表面積が567m/gであるから上述の条件(a)を満たし、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が1.5cm/gであるから上述の条件(b)を満たし、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/gであるから上述の条件(c)を満たし、そして、空孔率が全体で91.0%であるから上述の条件(d)を満たし、そのため、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすことが確認された。
【0140】
(本発明の多孔炭素構造体No.14、15の各試料の作製)
多孔炭素構造体No.14、15の各試料は、調製した合剤スラリーの組成(合剤組成)としてそれぞれ、ケッチェンブラックを70重量%、炭素繊維を10重量%、そしてPANを20重量%としたもの、ケッチェンブラックを85重量%、炭素繊維を10重量%、そしてPANを5重量%としたものを用いた以外は、多孔炭素構造体No.11と同様にして多孔炭素構造体を作製した。具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0141】
(本発明の多孔炭素構造体No.14、15の各試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.14、15の各試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、多孔炭素構造体No.14では、厚みは、表2に示すとおり220μm、目付は3.7mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり931m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり898m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり96%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり93%であった。
多孔炭素構造体No.15では、厚みは、表2に示すとおり245μm、目付は、4.0mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり1111m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり1072m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり96%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり93%であった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.14の試料は、t-プロット外部比表面積が898m/gであるから上述の条件(a)を満たし、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.4cm/gであるから上述の条件(b)を満たし、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が4.0cm/gであるから上述の条件(c)を満たし、そして、空孔率が全体で92.9%であるから上述の条件(d)を満たし、そのため、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすことが確認された。
また、表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.15の試料も、t-プロット外部比表面積が1072m/gであるから上述の条件(a)を満たし、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が3.0cm/gであるから上述の条件(b)を満たし、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が4.0cm/gであるから上述の条件(c)を満たし、そして、空孔率が全体で93.0%であるから上述の条件(d)を満たし、そのため、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすことが確認された。
【0142】
(本発明の多孔炭素構造体No.16の試料の作製)
多孔炭素構造体No.16の試料は、多孔質炭素粒子としてブラックパール(登録商標)2000(CABOT社製)を用い、調製した合剤スラリーの組成(合剤組成)として、ブラックパール(登録商標)を68重量%、炭素繊維を9重量%、PANを23重量%であるものを用いた以外は、多孔炭素構造体No.11と同様にして多孔炭素構造体を作製した。具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0143】
(本発明の多孔炭素構造体No.16の試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.16の試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、多孔炭素構造体No.16では、厚みは、表2に示すとおり170μm、目付は4.3mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり930m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり320m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり34%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり88%であった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.16の試料は、t-プロット外部比表面積が320m/gであるから上述の条件(a)を満たし、直径1nm以上、200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/gであるから上述の条件(b)を満たし、直径1nm以上、1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.8cm/gであるから上述の条件(c)を満たし、そして、空孔率が全体で88.0%であるから上述の条件(d)を満たし、そのため、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすことが確認された。
【0144】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.17の試料の作製)
多孔炭素構造体No.17の試料は、合剤スラリーからドクターブレードを用いた湿式製膜法にて均一な厚みに成型して得られるシートとして炭素繊維からなるガス拡散層シート(東レ株式会社製TGP-H-060)を用いた以外は、多孔炭素構造体No.11と同様にして多孔炭素構造体を作製した。具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0145】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.17の試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.17の試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、厚みは、表2に示すとおり190μm、目付は8.1mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり80m/gと小さく、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり80m/gと小さかった。また、空孔率は、表3に示すとおり78%と低かった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.17の試料は、上述の条件(a)~(d)のいずれも満たしておらず、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすものではないことが確認された。
【0146】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.18の試料の作製)
多孔炭素構造体No.18の試料は、合剤スラリーからドクターブレードを用いた湿式製膜法にて均一な厚みに成型して得られるシートとして活性炭繊維織布(フタムラ化学株式会社製CL1420)を用いた以外は、多孔炭素構造体No.11と同様にして多孔炭素構造体を作製した。具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0147】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.18の試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.18の試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
厚みは、表2に示すとおり283μm、目付は7.9mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり1994m/gと大きく、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり114m/gと小さく、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり5.7%と低かった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.18の試料は、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすものではないことが確認された。
【0148】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.19、20の試料の作製)
多孔炭素構造体No.19、20の各試料は、調製した合剤スラリーの組成(合剤組成)としてそれぞれ、ケッチェンブラックを20重量%、炭素繊維を10重量%、そしてPANを70重量%としたもの、ケッチェンブラックを30重量%、炭素繊維を10重量%、そしてPANを60重量%としたものを用いた以外は、多孔炭素構造体No.11と同様にして多孔炭素構造体を作製した。具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0149】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.19、20の各試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.19、20の各試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、多孔炭素構造体No.19では、厚みは、表2に示すとおり142μm、目付は2.8mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり34m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり22m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり65%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり91.4%であった。このように、BET法比表面積やt-プロット外部比表面積が小さかった。
多孔炭素構造体No.20では、厚みは、表2に示すとおり170μm、目付は3.8mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり79m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり39m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり49%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり90.1%であった。
このように、多孔炭素構造体No.19、20では、BET法比表面積やt-プロット外部比表面積が小さかった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.19、20のいずれの試料も、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすものではないことが確認された。
【0150】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.21の試料の作製)
多孔炭素構造体No.21の試料は、多孔質炭素粒子としてバルカン(登録商標)XC-72(CABOT社製)を用い、調製した合剤スラリーの組成(合剤組成)として、バルカン(登録商標)XC-72を68重量%、炭素繊維を9重量%、PANを23重量%であるものを用いた以外は、多孔炭素構造体No.11と同様にして多孔炭素構造体を作製した。具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0151】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.21の試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.21の試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、多孔炭素構造体No.21では、厚みは、表2に示すとおり216μm、目付は7.1mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり153m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり66m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり43%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり85%であった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.21の試料は、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすものではないことが確認された。
【0152】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.22の試料の作製)
多孔炭素構造体No.22の試料では、調製した合剤スラリーの組成(合剤組成)として、ケッチェンブラック(登録商標)を65重量%、バインダーとしてPTFE(ダイキン工業株式会社製)を35重量%としたものを用い、これを水溶媒に分散して合剤スラリー溶液とした。なお、PTFEとは、ポリテトラフルオロエチレンのことである。
次に、支持材として活性炭繊維織布(CL1420、フタムラ化学(株)製)を用いてこの基膜上に上述の水分散の合剤スラリーをドクターブレードの湿式製膜法で均一な厚みに成型して活性炭繊維支持材に一体化したシートを作製した。
次に、作製したシートから揮発性の溶媒を取り除き、乾燥して活性炭繊維織布の一体化した多孔炭素膜を作製した。これを多孔炭素構造体として用いた。
具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0153】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.22の試料の性状)
上記工程により作製した多孔炭素構造体No.22の試料の特性を、多孔炭素構造体No.1~No.10の各試料の性状と同じ方法で調べ、その結果を表3に示す。
具体的には、多孔炭素構造体No.22では、厚みは、表2に示すとおり354μm、目付は12.6mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり1434m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり291m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり20%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり81%であった。
多孔炭素構造体No.22では、厚みは、表2に示すとおり354μm、目付は、12.6mg/cm、BET法比表面積は、表3に示すとおり1434m/g、t-プロット外部比表面積は、表3に示すとおり1142m/gとなり、全体のt-プロット外部比表面積比(SA比)は、表3に示すとおり20%となった。また、空孔率は、表3に示すとおり81%であった。
表3に示すとおり、多孔炭素構造体No.22の試料は、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすものではないことが確認された。
【0154】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.23の試料の作製)
多孔炭素構造体No.23の試料では、調製した合剤スラリーの組成(合剤組成)として、ケッチェンブラック(登録商標)を90重量%、バインダーとしてPTFE(ダイキン工業株式会社製)を10重量%としたものを用い、これをエタノールに分散して合剤スラリーを調製した。
この合剤スラリーをドクターブレードの湿式製膜法にて均一な厚みに成型してシートを作製した。
次に、作製したシートから揮発性の溶媒を取り除き乾燥した結果、膜状物はひび割れ、自立膜にはならなかった。
具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0155】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.23の試料の性状)
多孔炭素構造体No.23の試料では、上述のとおり、自立膜は得られなかったため、表3に示すとおり、その試料の特性を調べることはできなかった。
【0156】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.24の試料の作製)
多孔炭素構造体No.24の試料では、合剤スラリーからシートを作製する際に10MPaでプレスして成形シートを作製した以外は、多孔炭素構造体No.23と同様にして行った。乾燥した膜状物はひび割れ、自立膜にはならなかった。
具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0157】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.24の試料の性状)
多孔炭素構造体No.24の試料では、上述のとおり、自立膜は得られなかったため、表3に示すとおり、その試料の特性を調べることはできなかった。
【0158】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.25の試料の作製)
多孔炭素構造体No.25の試料では、調製した合剤スラリーの組成(合剤組成)として、ケッチェンブラック(登録商標)を95重量%、バインダーとしてPTFE(ダイキン工業株式会社製)を5重量%としたものを用いたこと以外は、多孔炭素構造体No.23と同様にして行った。乾燥した膜状物はひび割れ、自立膜にはならなかった。
具体的な作製(製造)条件は表2に示すとおりである。
【0159】
(比較用試料の多孔炭素構造体No.25の試料の性状)
多孔炭素構造体No.25の試料では、上述のとおり、自立膜は得られなかったため、表3に示すとおり、その試料の特性を調べることはできなかった。
【0160】
[実施例2B:コインセル(リチウム空気電池)]
実施例2Bでは、実施例1Bで製造(作製)した本発明の多孔炭素構造体No.11~16の各試料を正極構造体690(図6)に用いたCR2032型のコインセル601(図6)を作製し、電池特性を評価した。また、比較のために、比較用試料の多孔炭素構造体No.17~22の各試料を正極構造体690(図6)に用いたCR2032型のコインセル601を同様に作製し、電池特性を評価した。
なお、本発明の多孔炭素構造体No.13の試料を正極構造体690として用いるにあたり、多孔炭素構造体の表面に空気流通用の溝を形成した。具体的には、上述のとおり、非溶媒誘起相分離法の貧溶媒としてエタノールを用いて多孔炭素構造体を作製し、その後、湿潤状態の多孔炭素構造体の表面に碁盤目状の溝を形成処理し、空気電池として必要な空気の流路を多孔炭素構造体の表面に形成した。この流路の溝の幅は約2mm、溝の深さは約0.05mmであった。
多孔炭素構造体No.23~25の比較用試料については、上述のとおり、自立膜にはならず、正極として電池評価に供する状態ではなかったため、実施していない。
【0161】
コインセルは、実施例2Aでのコインセルの製造と同様、次のようにして製造した。露点温度-50℃以下のドライルーム(乾燥空気内)で、各多孔炭素構造体No.1116を直径(φ)16mmに切り出した正極構造体、負極構造体として金属リチウム(直径(φ)16mm、厚さ0.2mm)、電解液としてLiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)の1M-テトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液を浸漬させたセパレータのガラス繊維ペーパ(Whatman(登録商標)、GF/A)を、コインセルケース(CR2032型)に実装した。このようにして空気電池(リチウム空気電池)を作製した。
【0162】
作製したリチウム空気電池の放電容量試験の評価条件は、純酸素雰囲気下で放電電流密度0.4mA/cmで行い、放電電圧が2.3Vまで下がった時点を放電終点として、得られた放電容量を正極として用いた多孔炭素構造体重量で割ることで、正極重量あたりの放電容量(mAh/g)を算出した。その試験結果を表4に、実施例2Aで製造(作製)した、本発明の多孔炭素構造体No.1~8と10を正極として用いた各コインセル(リチウム空気電池)の試験結果とともに示す。
また、実施例2Bで製造(作製)したリチウム空気電池の幾つかについては、実施例2Aで製造(作製)したコインセル(リチウム空気電池)と同様、放電電流密度0.4mA/cmに加え、より高速の放電電流密度0.6mA/cmと0.8mA/cmでも試験を行った。
【0163】
表2と4の結果によれば、実施例2Aでのコインセル(リチウム空気電池)と同様、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たす本発明の多孔炭素構造体No.11~16の試料はいずれも、それらすべてを満たすものではない多孔炭素構造体No.23~25の比較用試料(比較例)とは異なり、自立可能な正極構造体として空気電池に用いることができ、金属メッシュ等の集電体を使用することなく、単独で空気電池の正極材として機能することが確認された。また、その放電容量も、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすものではない多孔炭素構造体No.17~22の比較用試料(比較例)を正極構造体と用いた場合と比較しても、全体的に極めて高い値を示すことが分かった。
その結果、本発明の多孔炭素構造体No.11~16の試料を正極構造体として用いる空気電池によれば、空気が十分に正極構造体690に供給されていて、十分な出力容量をもつ軽量の空気電池となることが確認された。
また、活性炭繊維織布などを支持体とする自立性を有さない多孔炭素構造体No.22の比較用試料を正極構造体として用いた場合、表4の放電電流密度0.4mA/cmでの放電容量が、本発明の自立可能な多孔炭素構造体No.11~16の試料を用いた場合に比べて、はるかに小さい。この結果は、本発明の自立可能な多孔炭素構造体の有用性を示しているといえる。
【0164】
また、活物質の多孔質炭素粒子のケッチェンブラックの合剤比率が小さい合剤スラリーから作製された、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たすものではない多孔炭素構造体(具体的には、多孔炭素構造体No.19や20)を正極構造体として用いた場合、空気電池としての放電容量が低いことが確認された。
【0165】
以上から、上述の条件(a)~(d)のすべてを満たす本発明の多孔炭素構造体は、金属メッシュ等の集電体を不要とし、単独で空気電池の正極材として機能することが示され、これらを用いた空気電池は、多孔炭素構造体による高い空気又は酸素拡散性、高いイオン輸送効率及び広い反応場によって生まれる、高電池容量、高負荷特性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の多孔炭素構造体は上述のように、今までにない、高細孔容積を持つ多孔炭素構造体であり、空気電池の正極として用いることで、それの持つ高い空気又は酸素拡散性、高いイオン輸送効率及び広い反応場によって生まれる、高電池容量、高負荷特性を持った空気電池を提供することができる。更には、多孔炭素構造体が、金属メッシュ等の集電体用いずに、単独で正極材に供用可能な自立性を持っていることで、小型・軽量で大容量化に適した空気電池を提供することができる。このため、本発明は、今後需要が大幅に拡大すると見込まれる空気電池に好んで用いられることが期待される。
【符号の説明】
【0167】
10 本発明の多孔炭素構造体の骨格のイメージ
11 本発明の多孔炭素構造体の直径1nm以上、1000nm以下の細孔のイメージ
12 本発明の多孔炭素構造体の直径200nm以上、10000nm以下の細孔のイメージ
13 本発明の多孔炭素構造体の炭素繊維のイメージ
100、610 負極構造体
500 空気電池
510、620、621 正極構造体
520 負極用集電体電極
525 正極用集電体電極
540、660 セパレータ
600、601 コインセル
630 コインセル型拘束具
635 集電体
640 金属層
650 スペーサ
670 空間(電解質充填用空間)
680 金属メッシュ
690 多孔炭素構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10