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特許7177557液体混合方法およびエマルジョンの調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】液体混合方法およびエマルジョンの調製方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/41 20220101AFI20221116BHJP
   B01F 25/10 20220101ALI20221116BHJP
   B01F 25/40 20220101ALI20221116BHJP
   B01F 25/50 20220101ALI20221116BHJP
【FI】
B01F23/41
B01F25/10
B01F25/40
B01F25/50
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022030193
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2022005223
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518208521
【氏名又は名称】株式会社OKUTEC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】奥田 伸二
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-282180(JP,A)
【文献】特開2020-081986(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239833(WO,A1)
【文献】特開2019-214012(JP,A)
【文献】特開2011-020096(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0085185(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00-25/90
B01F 27/00-27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの液体を混合する方法であって、
鉛直方向の軸(44)の周りに同心的に配置された内側円筒壁(53a)と外側円筒壁(37a)の間に形成され、第1の旋回流(101)を流通する第1の旋回流路(54)と、
前記内側円筒壁(53a)の内側に前記軸(44)を中心に形成された円筒壁(45a)に囲まれ、第2の旋回流(102)を流通する第2の旋回流路(45)と、
前記軸(44)から放射方向に延びる線と斜めに交差する方向に延在し、前記第1の旋回流路(54)の前記内側円筒壁(53a)および前記第2の旋回流路(45)の前記円筒壁(45a)を貫通して、前記第1の旋回流路(54)と前記第2の旋回流路(45)とを連通する少なくとも1つの連絡流路(55)と、
前記少なくとも2つの液体の混合液の供給流(42a)を流通する供給流路(42)と、
前記第1の旋回流路(54)の外側円筒壁(37a)に形成された連通路(43)と、
を備え、前記第2の旋回流路(45)は、下から上に向かって順番に形成された、一定の内径を有する円筒部(46)と、該円筒部(46)の上に隣接して形成された半球状部(47)と、半球状部(47)の上に隣接して形成された横断面の小さな絞り部(48)と、絞り部(48)の上に隣接して形成された上方に向けて広がる逆テーパ部(49)を有し、
前記連通路(43)は前記外側円筒壁(37a)の全高さ範囲に亘って形成され、前記供給流路(42)の部分が前記連通路(43)の全高さ範囲に亘って重なっている、装置を準備し、
前記供給流路(42)から前記連通路(43)を介して第1の旋回流路(54)に前記少なくとも2つの液体を含む混合液を流し、
前記第1の旋回流路(54)から前記少なくとも1つの連絡流路(55)を介して前記第2の旋回流路(45)に前記少なくとも2つの液体を含む混合液を流し、
前記第1の旋回流(101)の前記少なくとも2つの液体を含む混合液前記外側円筒壁(37a)との接触により前記少なくとも2つの液体を含む混合液を一次せん断し、
次に、前記第2の旋回流(102)の前記少なくとも2つの液体を含む混合液前記第2の円筒壁(45a)との接触により前記少なくとも2つの液体を含む混合液を二次せん断し、
次に、前記二次せん断された液体を前記絞り部(48)を通過させ、前記絞り部(48)から前記逆テーパ部(49)に噴射する、ことを特徴とする液体混合方法。
【請求項2】
前記斜め方向が前記第2の円筒壁(45a)の接線方向である、ことを特徴とする請求項1に記載の液体混合方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つの液体は、水と油を含むことを特徴とする請求項1又は2のいずれか一つに記載の液体混合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の液体(分散質および分散媒)の混合を行うための気液せん断方式の液体混合方法に関する。本発明は、詳しくは、複数の液体の混合液の中にファインバブルを発生させながら前記複数の液体をせん断することにより、サブミクロンレベルまで微細化され且つ均質化されたエマルジョンを生成する乳化方法として利用可能な液体混合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品、医療品、食料品などの分野では、種々の材料を混合することにより、また、それらの分量を変えることにより、需要者の好みに応じた各種製品を提供する試みがなされている。例えば、家庭では健康志向から各種オイル(例えば、アマニ油、MCTオイル、ココナッツオイル等)を料理や飲料に混ぜてサプリメント的に摂取する人や、様々な風味を楽しむ人が増えてきている。また、飲食店においてもこのような新たな消費者ニーズ対応したオイルを使った様々な風味の飲料や料理が提供されている。
【0003】
このような新たな製品を市場に提供するためには、製品の開発段階で、油性、非油性を問わず、種々の材料を混合して得られた製品を評価しなければならない。しかし、従来の特許文献1等に開示されている混合装置(乳化装置)は極めて大型であるため、家庭や小型店舗等の小規模施設では容易に利用できない。また、混合する材料を変える際には液体の流路を洗浄する必要があるが、従来の装置は非常に多くのデバイスや部品を組み合わせて構成されているため、簡単に分解し、洗浄し、組み立てることができない。このような事情から、従来、家庭や小規模施設では、新しい食品、食材又は飲料等を開発し試食するが難しかった。
【0004】
もちろん、ジューサ、ミキサー、ハンドブレンダ及び泡立て器等の家庭用混合装置が提供されており、これを使って複数の材料を混合して新たな味を体験することは可能である。しかし、これらの家庭用混合装置はいずれも、回転羽根等の回転体を採用しており、回転体の回転によって材料を粉砕することを目的とするものであって、例えば水と油を均一に混合してエマルジョンにする程のものではない。また、家庭用混合装置の多くは、果物等を粉砕することができるように回転刃を備えており、洗浄時は回転刃によって怪我をしないように注意する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-195769号公報
【文献】特開2014-004534号公報
【文献】特許第5380545号明細書
【文献】特開2009-203323号公報
【文献】特開2016-165716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の技術は、スタティックミキサーのように混合流体の1回の通過により混合する手法であり、得られたエマルジョンは、均質性や微細性、高濃度の乳化において十分なレベルではない。
特許文献3の実施例5の結果を見ると、気体を入れない乳化の方が良い結果を示すことが分かる。すなわち、この技術では、大きな気泡がポンプ内に入り、ポンプ効率を低下させてしまう課題があり、気体を用いた乳化に効果が出せていない。
特許文献4の装置で製造されるエマルジョン燃料は分散時間が数十秒程度であり、長時間安定なエマルジョンを提供することは想定していない。
特許文献5の技術は、乳化剤(界面活性剤)を使用しないものの、エマルジョンの分散安定性を向上するために、塩、水素結合性分子、アルコール類のいずれか一種類を添加する必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、簡単且つ容易に組立と分解を行うことができ、結果、新しい味の食品等の開発を容易に行うことができる、新たな気液せん断方式の混合装置又は乳化装置を用いて、水と油を効率良く混合してエマルジョンを得ることができる新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本発明の実施形態に係る混合装置は、
少なくとも2つの成分を混合して乳化させる液体混合装置(1)であって、
前記液体混合装置(1)は、
平行に配置された吸入筒(26)及び吐出筒(27)を有するポンプユニット(13)と、
上端開口(22)と下端開口(23)を有する円筒壁(21)を備えた容器(12)と、
前記ポンプユニット(13)と前記容器(12)を連結する流路ブロック(14)とを有し、
前記ポンプユニット(13)は、ポンプ室を囲むケーシング(25)と、前記ポンプ室に接続された吸入筒(26)と吐出筒(27)を備え、前記吸入筒(26)と前記吐出筒(27)は平行に配置されて前記ケーシング(25)に一体的に固定されており、
前記流路ブロック(14)は、
前記容器(12)の下端開口(23)に外嵌又は内嵌できる大きさと形状を備えた容器連結構造(34)と、
前記ポンプユニット(13)の前記吸入筒(26)及び前記吐出筒(27)が内嵌できる大きさと形状を備えたポンプ連結構造(35)を有し、
前記容器連結構造(34)は、前記流路ブロック(14)の第1の外面部分(31)であって、前記容器連結構造(34)を前記容器(12)の下端開口(23)に連結した状態で前記容器(12)の内部に対向する領域(31)に形成され、前記容器連結構造(34)を前記容器(12)の下端開口(23)に連結した状態で前記容器(12)の中心軸(20)に平行な方向に向かって延在する第1の孔(36)と第2の孔(37)を含み、
前記ポンプ連結構造(35)はまた、前記流路ブロック(14)の第2の外面部分(32)であって、前記容器連結構造(35)を前記容器(12)の下端開口(23)に連結した状態で前記容器(12)の外部に位置する領域(32)に形成され、前記ポンプユニット(13)の前記吸入筒(26)と前記吐出筒(27)がそれぞれ内嵌可能な第3の孔(41)と第4の孔(42)を含み、前記ポンプユニットの前記吸入筒(26)と前記吐出筒(27)がそれぞれ前記第3の孔(41)と前記第4の孔(42)に嵌め込まれることにより前記ポンプユニット(13)と前記流路ブロック(14)が連結され、
前記流路ブロック(14)の内部で、前記第1の孔(36)と前記第3の孔(41)が連通し、前記第2の孔(37)と前記第4の孔(42)が連通しており、
前記液体混合装置(1)はさらにノズルブロック(16)を有し、
前記ノズルブロック(16)は、前記ノズルブロック(16)が前記第2の孔(37)に内嵌された状態で前記第2の孔(37)の中心軸(44)に平行な方向に向けて延在する円筒状の渦流形成流路(45)と、前記第2の孔(37)と前記渦流形成流路(45)とを連絡する連絡流路(54)を備えている。
【0009】
本発明に係る液体混合方法は、少なくとも2つの液体を混合する方法であって、
鉛直方向の軸(44)の周りに同心的に配置された内側円筒壁(53a)と外側円筒壁(37a)の間に形成され、第1の旋回流(101)を流通する第1の旋回流路(54)と、
前記内側円筒壁(53a)の内側に前記軸(44)を中心に形成された円筒壁(45a)に囲まれ、第2の旋回流(102)を流通する第2の旋回流路(45)と、
前記軸(44)から放射方向に延びる線と斜めに交差する方向に延在し、前記第1の旋回流路(54)の前記内側円筒壁(53a)および前記第2の旋回流路(45)の前記円筒壁(45a)を貫通して、前記第1の旋回流路(54)と前記第2の旋回流路(45)とを連通する少なくとも1つの連絡流路(55)と、
前記第1の旋回流路(54)の外側円筒壁(37a)に形成された連通路(43)と、
を備えた装置を準備し、
前記第1の旋回流路(54)から前記少なくとも1つの連絡流路(55)を介して前記第2の旋回流路(45)に前記少なくとも2つの液体を含む混合液を流し、
前記第1の旋回流(101)の前記少なくとも2つの液体を含む混合液と前記外側円筒壁(37a)との接触により前記少なくとも2つの液体を含む混合液を一次せん断し、
次に、前記第2の旋回流(102)の前記少なくとも2つの液体を含む混合液と前記第2の円筒壁(45a)との接触により前記少なくとも2つの液体を含む混合液を二次せん断する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明において、気液せん断のために導入する気体として、空気、酸素、オゾン、窒素、アルゴン、水素などが挙げられ、エマルジョンの作製目的や混合する物質の有効性に鑑み、適時選択することができるが、簡便性の観点から、空気が好ましい。
【0011】
本明細書において用いられる用語の定義を以下に示す。
「流体」は、静止状態においてせん断応力が発生しない連続体の総称である。概略、固体でない連続体のことであり、物質の形態としては液体と気体およびプラズマが流体に該当する。
「エマルジョン」または「エマルション」は、分散質および分散媒が共に液体である分散系溶液のことである。乳濁液あるいは乳剤ともいう。分離している2つの液体をエマルジョンにすることを乳化といい、乳化する作用をもつ物質を乳化剤という。本発明においてはエマルジョンと呼称する。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された実施形態の液体混合装置は、概ね3つの部品(容器、ポンプユニット及び流路ブロック)によって構成されており、容器とポンプユニットの間を流体接続する流路が一つの流路ブロックの中に形成されているため、簡単に組立できるし、簡単に分解して個々の部品を洗浄できる。したがって、複数の飲料や調味料の中から選択されたものを適宜混合し乳化し、その味等を容易に確認することができる。したがって、新製品の開発が簡単に行える。
【0013】
また、実施形態の方法によれば、少なくとも2つの液体は、第1の旋回流の液体と第1の円筒壁との接触により液体が一次せん断され、その後、第2の旋回流の液体と第2の円筒壁との接触により液体が二次せん断され、これらのせん断によって2つの液体が細かく粉砕されて分散される。したがって、水と油を含む液体の場合、両者が程よく乳化される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る液体混合装置の概略構成を示す縦断面図。
図2図1に示す液体混合装置を構成する流路ブロックを上方から見た斜視図。
図3図1に示す液体混合装置の一部を分解した斜視図。
図4図1に示す液体混合装置を構成するノズルブロックの縦断面図[図4(a)]と、図4(a)の4(b)-4(b)線に沿った部分断面図[図4(b)]。
図5図1に示す液体混合装置を構成するノズルブロックの断面斜視図。
図6】ノズルブロックにおける液体の流れを説明する断面図。
図7】本発明のひとつの具体例に係る液体混合装置A(左)、従来の液体混合装置B(中央)および従来の液体混合装置C(右)の外観図。
図8】2種類の液体混合装置を用いて調製した、配合1~3のエマルジョンの静置経時観察:本発明に係る液体混合装置Aでの調製直後(左上)および10日静置(左下);従来の液体混合装置での調製直後(右上)および10日静置(右下)。
図9】配合1のエマルジョンのマイクロスコープ像:本発明に係る液体混合装置Aで調製したエマルジョンの1,000ズーム像(左上)および2,000ズーム像(左下);従来の液体混合装置Bで調製したエマルジョンの1,000ズーム像(右上)および2,000ズーム像(右下)。
図10】本発明に係る液体混合装置Aで調製した配合1のエマルジョンの粒度分布測定結果:体積分布(上)および個数分布(下)。
図11】従来の液体混合装置Bで調製した配合1のエマルジョンの粒度分布測定結果:体積分布(上)および個数分布(下)。
図12】配合2のエマルジョンのマイクロスコープ像:本発明に係る液体混合装置Aで調製したエマルジョンの1,000ズーム像(左上)および2,000ズーム像(左下);従来の液体混合装置Bで調製したエマルジョンの1,000ズーム像(右上)および2,000ズーム像(右下)。
図13】本発明に係る液体混合装置Aで調製した配合2のエマルジョンの粒度分布測定結果:体積分布(上)および個数分布(下)。
図14】従来の液体混合装置Bで調製した配合2のエマルジョンの粒度分布測定結果:体積分布(上)および個数分布(下)。
図15】配合3のエマルジョンのマイクロスコープ像:本発明に係る液体混合装置Aで調製したエマルジョンの1,000ズーム像(左上)および2,000ズーム像(左下);従来の液体混合装置Bで調製したエマルジョンの1,000ズーム像(右上)および2,000ズーム像(右下)。
図16】本発明に係る液体混合装置Aで調製した配合3のエマルジョンの粒度分布測定結果:体積分布(上)および個数分布(下)。
図17】従来の液体混合装置Bで調製した配合3のエマルジョンの粒度分布測定の結果:体積分布(上)および個数分布(下)。
図18】撹拌手段の違いによるMCTオイル添加ブラックコーヒーの色:手による震盪(左)、従来の液体混合装置C(中央)、本発明に係る液体混合装置(右)。
図19】撹拌手段の違いによるMCTオイル添加ブラックコーヒーの分散状態:手による震盪(左)、従来の液体混合装置C(中央)、本発明に係る液体混合装置(右)。
図20】撹拌手段の違いによるMCTオイル添加ブラックコーヒーの静置経時変化観察:シェイク(左)、従来の液体混合装置C(中央)、本発明に係る液体混合装置(右)。
図21】本発明に係る液体混合装置Aを用いて調理した、MCTオイル添加した食品の味覚官能評価結果:ドレッシング(上)およびコーヒー(下)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明に係る液体混合装置の実施形態について説明する。
【0016】
[1.全体構成]
図1を参照すると、実施形態の液体混合装置1又は乳化装置は、概略、混合又は乳化する液体(混合液)11を収容する容器12と、容器12に収容されている液体11を容器12の底部から吸入するとともに吸入した液体を再び容器12にその底部から供給するポンプユニット13と、容器12とポンプユニット13を連結する流路ブロック14を有する。
【0017】
液体混合装置1はまた、ポンプユニット13を囲むハウジング15を有する。図示しないが、ハウジング15の表面には、ポンプユニット13の駆動を制御するスイッチや必要な表示装置が設けてある。据え置き型の液体混合装置の場合、ハウジング15の内部には、ポンプユニット13を商用電源に接続する回路基板が設けられる。可搬型の液体混合装置の場合、ハウジング15の内部には、電池収容部、電池とポンプを電気的に接続する回路基板が設けられる。したがって、ハウジング15の大きさや形状は、据え置き型と可搬型の種類に応じて適宜設計される。
【0018】
[2.詳細な構成]
(a)容器12
図示する実施形態の液体混合装置1において、容器12は、使用状態で上下方向に向けられる中心軸(容器中心軸)20を中心とする円周に沿って該中心軸20と平行に延在する円筒壁21を有する。図示するように、円筒壁21の上端と下端は開放されており、そこには上端開口22と下端開口23が形成されている。容器12は、内部に収容されている液体11の混合状態又は乳化状態等を目視で確認できるように、透明のプラスチック又はガラスで作ることが好ましい。
【0019】
(b)ポンプユニット13
実施形態において、ポンプユニット13は、例えば、マイクロギヤポンプが好適に利用できる。詳細な説明は省略するが、図3(a)に示すように、マイクロギヤポンプは、概略、モータ24と、一対のギヤを収容したポンプ室(図示せず)を囲むケーシング25を備えている。ケーシング25には、ポンプ室に液体を吸い込む吸入筒(吸入口)26と、ポンプ室から液体を吐出する吐出筒(吐出口)27が、ケーシング25から吐出した状態で一体的に設けられている。図示するように、吸入筒26と吐出筒27は同じ方向に向けて平行に配置されている。吸入筒26の中心軸と吐出筒27の中心軸との距離はd1である。
【0020】
実施形態では、吸入筒26と吐出筒27はポンプユニット13の長軸13aに平行に配置されている。しかし、吸入筒26と吐出筒27は、ポンプユニット13の長軸13aと直交する方向に向けて、ケーシング25の側面から突出させてもよい。
【0021】
(c)流路ブロック14
図2図3(b)、(c)に示すように、流路ブロック14は、概略、中心軸30(図2参照)を有する円柱状の塊で、中心軸30を中心とする円形の上端面(第1の外面部分)31及び下端面(第2の外面部分)32と、上端面31と下端面32の外周縁を連結する外周円筒面(第2の外面部分)33によって輪郭が形成されている。
【0022】
実施形態において、流路ブロック14の上部と下部にはそれぞれ、流路ブロック14を容器12とポンプユニット13に連結する容器連結構造34とポンプ連結構造35が形成されている。
【0023】
実施形態において、容器連結構造34は、容器12の下端開口23の内側に丁度嵌めこむ(内嵌する)ことができる大きさと形状に作られた流路ブロック14の上部構造、具体的には流路ブロック14の上端面31と、上端面31の外周縁に隣接する外周円筒面上端部分によって実現されている。したがって、流路ブロック14の容器連結構造34を容器下端開口23に内嵌した状態(図1に示すように、流路ブロック14の上端部分を容器12の下端開口内側に嵌め込んだ状態)で、流路ブロック14の上端面31が容器12の内部空間に対向する。
【0024】
実施形態において、ポンプ連結構造35は、流路ブロック14の下端面32に形成された複数の孔(後述する第3の孔41と第4の孔42)によって実現されている。
【0025】
例えば、流路ブロック14の上端面31には、流路ブロック14の中心軸30に平行な方向に向けて、第1の孔(吸入口)36と第2の孔37が形成されている。第1の孔36は、後述するように下端面32に形成された第3の孔41と同軸に配置され、第3の孔41と共に、流路ブロック14の上端面31と下端面32を中心軸30に平行に真っすぐに貫通する一つの孔を構成している。一方、第2の孔37は、円筒壁と底壁を有する有底円筒孔である。
【0026】
実施形態において、第1の孔36の中心軸と第2の孔37の中心軸はいずれも、流路ブロック14の中心軸30(図2)からオフセットしている(偏心している)。また、第1の孔36の中心軸と第2の孔37の中心軸との距離d3は、上述した吸入筒26の中心軸と吐出筒27の中心軸との距離d1よりも大きい。
【0027】
第1の孔36は、上述のように貫通孔の上部分を形成する円筒形の孔である。第2の孔37は、円筒内壁と底壁によって定義される有底円筒孔で、流路ブロック14の上端面31に隣接する上部孔部分38と底壁に隣接する下部孔部分39を有する。上部孔部分38と下部孔部分39は実質的に同じ内径を有するが、上部孔部分38には内ねじ40が形成されている。下部孔部分39は、内ねじの無い円筒面である。
【0028】
流路ブロック14の下端面32には、流路ブロック14の中心軸30に平行な方向に向けて、第3の孔41と第4の孔42が形成されている。第3の孔41の中心軸と第4の孔の中心軸との距離d2は、吸入筒26の中心軸と吐出筒27の中心軸との距離d1と同じである。また、第3の孔41と第4の孔42のそれぞれの内径は、吸入筒26と吐出筒27の外径にほぼ等しく、第3の孔41と第4の孔42に吸入筒26と吐出筒27に丁度はめ込まれるように構成されている。
【0029】
第3の孔41は、上述のように、第1の孔36と同軸に形成されており、第1の孔36と共に、流路ブロック14の上端面31と下端面32を真っすぐに貫通する一つの孔を形成している。
【0030】
第4の孔42は、第2の孔37と同様に円筒壁と底壁を有する有底円筒孔である。特に図3(c)に示すように、第4の孔42の中心軸は、第2の孔37の中心軸からオフセット(偏心)している。また、第4の孔42の底壁(天井面)は第2の孔37の底壁(底面)よりも上に位置している。そして、第4の孔42の上端側の円筒壁部分が第2の孔37の下部孔部分39の円筒壁に部分に重なり、第2の孔37と第4の孔42を連通する連通路43(図3(a)、(b)、図4(b)、図5参照)が形成されている。実施形態において、第4の孔42の底壁(天井面)の位置は、後述する小径円筒部53の上端付近に位置するように決められている。
【0031】
(d)ノズルブロック16
流路ブロック14の第2の孔37にはノズルブロック16が着脱可能に内嵌される(すなわち、ノズルブロック16が第2の孔37の内側に嵌め込まれる。)。図4に示すように、ノズルブロック16は、略円筒状の部材で、第2の孔37に内嵌された状態で、流路ブロック14の中心軸30に一致する中心軸44と、中心軸44に沿ってノズルブロック16の上端面から下端面に延在する貫通孔からなる渦流形成流路(第2の旋回流路)45を有する。
【0032】
渦流形成流路45は、概略4つの形状部分、すなわち、下から上に向かって順番に形成された、一定の内径を有する円筒部46と、該円筒部46の上に隣接して形成された半球状部47と、半球状部47の上に隣接して形成された横断面の小さな絞り部48と、絞り部48の上に隣接して形成された上方に向けて広がる逆テーパ部49を有する。
【0033】
図4に示すように、ノズルブロック16の下部分、さらに具体的には、第2の孔37に内嵌される下部領域50は、流路ブロック14の第2の孔37の深さと同じ又はそれよりも若干大きな高さを有する。したがって、ノズルブロック16を第2の孔37に内嵌した状態で、ノズルブロック16の底面51が第2の孔37の底壁に当たり、それらの間がシールされる。
【0034】
ノズルブロック下部領域50は、上部ブロック部分56と下部ブロック部分57に分かれる。上部ブロック部分56の外周面には外ねじ52が形成されている。下部ブロック部分57の外周面には、中心軸44を中心として、外ねじ52よりも小径の段部(すなわち、小径円筒部53)が形成されている。外ねじ52は、第2の孔37に形成された内ねじ40に対応している。したがって、ノズルブロック16は、ノズルブロック16の外ねじ52を第2の孔37の内ねじ40に螺合することによって、流路ブロック14に着脱可能に内嵌される。また、ノズルブロック16が第2の孔37に内嵌された状態で、図4(b)に示すように、第2の孔37の下部孔部分の内周壁部分(外側円筒壁)37aとノズルブロック16の段部53の外周壁部分(内側円筒壁)53aとの間には、小径円筒部53に対応する環状の周方向流路(第1の旋回流路)54が形成される。
【0035】
小径円筒部53が形成されたノズルブロック16の下部ブロック部分57には、外周面(周方向流路54を形成する外周面部分(内側円筒壁)53a)と内周面(渦流形成流路45を形成する内側円筒壁45a)を貫通する一つ又は複数の径方向流路(連絡流路)55が形成されている。実施形態では、4つの径方向流路55が周方向に等間隔に形成されている。各径方向流路55は、中心軸44から径方向外側(放射方向)に延びる線(仮想線)と斜めに交差する方向、例えば渦流形成流路45の内周面の接線方向に向けられている。したがって、連通路43から周方向流路54に入った液体は、径方向流路55を流れる液体の流れに沿うように、周方向流路54を図4(b)に示す反時計周り方向(順方向)に流れる旋回流(第1の旋回流)101を形成し、その後、渦流形成流路45に入った液体は、径方向流路55を流れる液体の流れに沿うように、渦流形成流路55を図4(b)に示す反時計周り方向(順方向)に流れる旋回流(第2の旋回流)102を形成する。
【0036】
[3.組立]
以上の構成を備えた液体混合装置1を組み立てる場合、流路ブロック14の第2の孔37にノズルブロック16を内嵌して、流路ブロック14にノズルブロック16を組み付ける。この状態で、流路ブロック14の底面51が第2の孔37の底面に当たり、両者の間がシールされる。また、図5に示すように、ノズルブロック16の下部外周面に形成された第1の旋回流路54が連通路43を介して第4の孔42に連通する。
【0037】
ハウジング15から露出しているポンプユニット13の吸入筒26と吐出筒27は、流路ブロック14の第3の孔41と第4の孔42にそれぞれ内嵌され、ハウジング15とポンプユニット13に対して流路ブロック14が固定される。容器12は、流路ブロック14の上端部分に外嵌される。
【0038】
組立の順序は任意で、流路ブロック14と容器12を連結した後で流路ブロック14をポンプユニット13に連結してもよいし、流路ブロック14をポンプユニット13に連結した後で流路ブロック14に容器12を連結してもよい。
【0039】
流路ブロック14とポンプユニット13の接続部(すなわち、吸入筒26及び吐出筒27の外周面とそれらが内嵌される第3の孔41及び第4の孔42の内周面)、また、流路ブロック14と容器12の接続部(すなわち、流路ブロック14の上部外周面部分とそれが内嵌される容器下内周面)には、適宜Oリング等のシール材を配置することが好ましい。その場合、それら接続部を形成する少なくとも一方の部材の面部分にはOリングを収容する環状溝を形成し、そこにOリングを収容することが好ましい。
【0040】
[4.動作]
以上のようにして組み立てた液体混合装置1を用いて複数の液体を混合又は乳化する場合、容器12に混合液を入れた後、ハウジング15に設けたスイッチをオンする。これにより、ポンプユニット13が起動する。混合液は二つ又はそれ以上の異なる材料(液体)を含む。異なる材料は、すべてが油性材料又は非油性材料であってもよいし、油性材料と非油性材料を混ぜたものであってもよい。
【0041】
ポンプユニット13が起動すると、容器12の底部から、流路ブロック14の第1の孔36及び第3の孔41、ポンプユニット13の吸入筒26を介して、ポンプユニット13に混合液が吸引される。吸引された混合液は、ポンプ室25で加圧された後、吐出筒27を経由して、流路ブロック14の第4の孔42に入る。次に、混合液は、供給流42aとして第4の孔42を上方に移動し、第4の孔42と第2の孔37を連通する連通路43を介して、第2の孔37の底部に形成された環状の周方向流路54に入る。
【0042】
後述するように、周方向流路54と渦流形成流路45の間を連通する径方向流路55は接線方向に形成されている。そのため、周方向流路54に入った混合液は図4(b)に示す反時計回り方向(順方向)の旋回流(第1の旋回流)101を形成する。また、周方向流路54と第4の孔42を接続する連通路43は、その大部分が周方向流路54の外周部分に形成されている。したがって、第4の孔42を上昇する混合液の供給流42aは、第4の孔42の上部で横方向に切り替わり、小径円筒部53の外周面に向かって、周方向流路54に入る。また、第4の孔42の上端は周方向流路54の上端付近にあるため、周方向流路54の全高さ範囲に亘って一様に、第4の孔42から混合液が供給される。したがって、第4の孔42から周方向流路54に入る混合液は、周方向流路54に形成されている旋回流に、全高さ方向に関して一様に取り込まれる。
【0043】
次に、混合液は、周方向流路54を旋回しながら、複数の径方向流路55を介して、周方向流路54と同心的に形成された渦流形成流路45の円筒部46に噴射される。図示するように、複数の径方向流路55の総横断面積は周方向流路54の横断面よりも小さい。したがって、径方向流路55に入った混合液は流速を増す。結果、渦流形成流路45に噴射される混合液の流速は非常に大きい。また、径方向流路55が円筒部46の接線方向(すなわち、第1の旋回流101に沿った方向)に形成されているため、径方向流路55から円筒部46に噴射された混合液は、円筒部46の壁面(外側円筒壁)37aに沿って高速の旋回流(第2の旋回流)102を形成する。また、円筒部46の中には、壁面に沿って高速で移動する混合液によって形成される高圧領域と、中心軸付近を低速で移動する混合液によって低圧領域(例えば、0.08MPa以下の真空)が形成される。
【0044】
円筒部46の混合液は、旋回流102を形成しながら半球状部47に沿って上昇する。ここで、半球状部47は上方に進むにしたがって横断面が小さくなっている。したがって、半球状部47を上昇する混合液はさらに流速を増す。
【0045】
半球状部47の頂上部に到達した混合液はそこから絞り部48に入る。絞り部48は最も断面の小さい部分である。したがって、絞り部48を通過する混合液には、絞り部48の壁面に沿って高速で移動する混合液によって形成される高圧領域と、中心軸付近を低速で移動する混合液によって低圧(減圧、真空)領域が形成される。
【0046】
このように、渦流形成流路45を移動する混合液には、中心軸に沿った低圧領域において、混合液に含まれる溶存空気が気相化して、中心軸に沿った気体柱(真空柱)58を発生する。また、渦流形成流路45を移動する混合液は、遠心力によって渦流形成流路45の周壁に強く押し付けられた状態で移動する。これにより、混合液には大きなせん断力が作用する。
【0047】
次に、混合液は、絞り部48から逆テーパ部49に噴射される。図示するように、逆テーパ部49は上方に向かうにしたがって横断面積が大きくなっている。したがって、絞り部48から逆テーパ部49に移動した混合液の圧力が解放され、その時の衝撃によって気体柱58が破裂し、ファインバブル(微小気泡)が発生する。
【0048】
発生したファインバブルは、混合液と共に容器12内に噴射され、対流し、再び容器12の底部からポンプユニット13に吸引される。
【0049】
このように、容器12内の混合液は、容器12、ポンプユニット13、流路ブロック14及びノズルブロック16を循環し、その過程で大量のファインバブルを発生する。また、ファインバブルを含む混合液は、周方向流路54を移動する過程でファインバブルと一緒に、周方向流路54の周壁(外側円筒壁)37aに強く押し付けられてせん断(一次せん断)され、渦流形成流路45を移動する過程でファインバブルと一緒に、渦流形成流路45の周壁(円筒壁)45aに強く押し付けられてせん断(二次せん断)される。その結果、混合液を構成する複数の材料は、それぞれが短時間で効率良く非常に細かい乳化粒子まで乳化される。特に、混合し難い水と油も、ファインバブルの存在の下で、サブミクロンレベルまで効率良く乳化される。
【0050】
また、渦流形成流路45に形成された気体柱58は、容器12内に形成される旋回流と相まって、液面上の空気を時折吸い込む。混合液に吸い込まれた空気は、容器12、ポンプユニット13、流路ブロック14及びノズルブロック16を循環する間に細かく粉砕されてファインバブルを形成する。このファインバブルは、溶存空気から発生したファインバブルと共に混合液の乳化を促進する。
【0051】
[4.効果]
このように、本発明の実施形態に係る液体混合装置1は、概ね3つの部品(容器12、ポンプユニット13及び流路ブロック14)によって構成されており、容器12とポンプユニット13の間を流体接続する流路が一つの流路ブロック14の中に形成されているため、簡単に組立できるし、簡単に分解して個々の部品を洗浄できる。特に、上述の実施形態に係る液体混合装置1によれば、ポンプユニット13に一体的に設けた吸入筒26と吐出筒27を、対応する流路ブロック14の第3の孔41と第4の孔42にそれぞれ差し込む又は取り外すだけで、ポンプユニット13に対して流路ブロック14を簡単に着脱できる。したがって、複数の飲料や調味料の中から選択されたものを適宜混合し乳化し、その味等を容易に確認することができる。したがって、新製品の開発が簡単に行えるようになるとともに、家庭や小規模店舗においても界面化製剤などを使わず各種オイルを混ぜ、容易に好みに応じた味を作り出すことができる。
【0052】
特に、上述の実施形態に係る液体混合装置1によれば、周方向流路54と渦流形成流路45において高速渦流が形成され、混合液が遠心力によって円筒壁37a、45aに強く押し付けられた状態で移動する。その結果、混合液には大きなせん断力が作用する。特に、上述の実施形態に係る液体混合装置1によれば、周方向流路54には、その全高さ範囲に亘って一様に、第4の孔42から混合液が供給される。混合液を供給する観点から、第4の孔42を供給流路と呼ぶことがある。例えば、周方向流路に対してその底部のみから混合液が供給される装置では、周方向流路に対してその下方から流れ込む混合液の流れが、周方向流路を周方向に移動しようと流れに干渉して旋回流の発展を阻害する結果、連絡流路近傍の限られた領域にしか旋回流が発生し得ないのに対し、上述の実施形態では、周方向流路54の外周からその全高さ範囲に亘って混合液が周方向流路に流れ込むため、旋回流の乱れがなく又は少なく、そのために必要なせん断力が得られる。
【0053】
また、渦流形成流路45の中心には気体柱58が形成される。気体柱58は、その後圧力が解放されて破裂し、細かいファインバブルを発生する。発生したファインバブルは、混合液と共に容器12、ポンプユニット13、流路ブロック14及びノズルブロック16を繰り返し循環される。また、循環される過程で、渦流形成流路において混合液と一緒にせん断される。結果、混合液は、高度に分散されて乳化される。
【0054】
上述の実施形態に係る液体混合装置1では、第2の孔37の中心軸44を容器12の中心軸20から偏心させているが、第2の孔37を流路ブロック14の中央に形成し、第2の孔37の中心軸44を容器12の中心軸20に一致させてもよい。ただし、上述の実施形態のように、第2の孔37の中心軸44をノズルブロック16の中心軸からオフセットさせることにより、ノズルブロック16の下部の周囲に周方向流路54を形成し、そこに第1の旋回流101を形成することが好ましい。これにより、渦流形成流路45の上流側で、周方向流路54の周壁に混合液が押し付けられてせん断(一次せん断)される。その結果、渦流形成流路45内におけるせん断(二次せん断)と相まって、混合液の乳化をさらに促進することができる。
【0055】
その他、上述の実施形態に係る液体混合装置1では、流路ブロック14の上端部分を容器12の下端開口23の形状に合わせることによって、流路ブロック14の上端部分を容器12の下端開口23に内嵌したが、流路ブロック14の上端部分に容器下端部の外周形状に対応する円形の窪みを形成し、この窪みに容器下端部を嵌め込むようにしてもよい。
【0056】
また、上述の実施形態の液体混合装置1では、流路ブロック14の下端面32に第3の孔41および第4の孔42を形成したが、流路ブロック14の外周側面に第3の孔41’および第4の孔42’を形成してもよい。この場合も、第3の孔41’と第4の孔42’との間隔は、吸入筒と吐出筒との間隔に等しく設定される。また、第1の孔36と第3の孔41’とはそれらの中心軸を直角に交差させ、第2の孔37と第4の孔42’とはそれらの中心軸が交差せず、第4の孔42’の内周面を第2の孔37の下部内周面と交差させて、そこに第4の孔42’と第2の孔37とを連通する連通孔43’を形成する。
このとき、ポンプユニット13から吐出される混合液は、供給流42b’として第4の孔42’を横方向に移動し、第4の孔42’と第2の孔37とを連通する連通路43’を介して、第2の孔37の底部に形成された環状の周方向流路54に入る。この場合も、第4の孔42’の上端(内周面の上部)は周方向流路54の上端付近にあるため、周方向流路54の全高さ範囲に亘って一様に、第4の孔42’から混合液が供給される。したがって、第4の孔42’から周方向流路54に入る混合液は、周方向流路54に形成されている旋回流に、全高さ方向に関して一様に取り込まれる。
【実施例
【0057】
各種の液体混合装置を用いて調製したエマルジョンを観察して、それらの特性について確認した。
【0058】
[観察例1]
(1)エマルジョンの調製
精製水に、シリコーン油(配合1:信越シリコーンKF-56A、メチルフェニルポリシロキサン)、イソステアリン酸(配合2:高級アルコール工業株式会社イソステアリン酸EX)またはオレイン酸(配合3:林純薬工業株式会社)を1.0重量%になるように添加して、本発明に係る液体混合装置A(株式会社OKUTEC製CLOSER Herbal;外観:図7左、構成:図1~6を参照)および、従来の液体混合装置B(X社製ミキサー(市販調理家電);外観:図7中央を参照)を用いて、2分間撹拌混合した。
各装置の容量を考慮して、本発明に係る液体混合装置Aのためには、99gの精製水に1gの各成分を添加して100gの配合物を調製し、従来の液体混合装置Bのためには、495gの精製水に5gの各成分を添加して500gの配合物を調製した。
【0059】
(2)エマルジョンの観察
撹拌混合直後、いずれの配合物も全体が白濁し、均一にエマルジョンが分散したことが確認された。撹拌混合から10日間後、配合物により、白濁状態に違いが生じた。本発明に係る液体混合装置Aを用いて調製したエマルジョンは、配合1~3のいずれも全体の白濁が維持されていた。一方、従来の液体混合装置Bを用いて調製したエマルジョンは、配合1では全体の白濁が維持されたが、配合2ではほぼ白濁が解消され、配合3では底部から約20%の高さまで白濁が解消されていた(図8)。
【0060】
配合1~3の各々につき、撹拌混合直後のエマルジョンの状態を顕微鏡(株式会社ハイロックス製ACSレボズームレンズ(35~2500x)MXG-2500REZを取り付けたデジタルマイクロスコープKH-7700)で観察した(図9、12および15)。さらに、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製A-910)を用いてエマルジョンの粒度分布測定を行った(図10、11、13、14、16および17)。
【0061】
(a)配合1について
マイクロスコープによる観察から、液体混合装置Bを用いた場合、非常に不均質なエマルジョンしか得られず、一方、液体混合装置Aを用いた場合、均質なエマルジョンが得られることが確認された(図9)。
粒度分布測定から、液体混合装置Bを用いた場合、二峰分布が示され(図10、表1)、一方、液体混合装置Aを用いた場合、単峰分布が示されることが確認された(図11、表1)。
【0062】
(b)配合2について
マイクロスコープによる観察から、液体混合装置Bを用いた場合、非常に不均質なエマルジョンしか得られず、一方、液体混合装置Aを用いた場合、均質なエマルジョンが得られることが確認された(図12)。
粒度分布測定から、液体混合装置Bを用いた場合、二峰分布が示され(図13、表1)、一方、液体混合装置Aを用いた場合、単峰分布が示されることが確認された(図14、表1)。
【0063】
(c)配合3について
マイクロスコープによる観察から、液体混合装置Bを用いた場合、非常に不均質なエマルジョンしか得られず、一方、液体混合装置Aを用いた場合、均質なエマルジョンが得られることが確認された(図15)。
粒度分布測定から、液体混合装置Bを用いた場合、三峰分布が示され(図16、表1)、一方、液体混合装置Aを用いた場合、単峰分布が示されることが確認された(図17、表1)。
【0064】
(3)まとめ
本発明に係る液体混合装置Aを用いれば、短時間で非常に均質なエマルジョンを得ることができる。
【0065】
【表1】
【0066】
[観察例2]
観察例1において、本発明に係る液体混合装置を用いる均質なエマルジョン調製を食品に応用して、その実力を確認した。
【0067】
(1)MCTオイル添加ブラックコーヒーの調製
缶入りブラックコーヒー(サントリー食品インターナショナル株式会社製プレミアムボスブラック)に、パーム核油由来中鎖脂肪酸油(勝山ネクステージ株式会社製MCTオイル、カプリル酸(C8)60%、カプリン酸(C10)40%)を5.0重量%になるように添加して、本発明に係る液体混合装置A(株式会社OKUTEC製CLOSER Herbal;外観:図7左、構成:図1~6を参照)および従来の液体混合装置C(Y株式会社製ミルク泡立て器(市販調理家電);外観:図7右を参照)を用いて、それぞれ1分間撹拌混合した。
各装置の容量を考慮して、95gのブラックコーヒーに5gのMCTオイルを添加して100gの配合物を調製した。
比較のため、配合物を入れた容器を手で震盪することによって1分間撹拌混合した。
【0068】
(2)MCTオイル添加ブラックコーヒーの外観観察
【0069】
JIS Z8102:2001物体色の色名JIS慣用色名に準拠して、MCTオイル添加ブラックコーヒーの色を決定した。
MCTオイル無添加のブラックコーヒーの色は、「黒」であった。
手による震盪の場合、撹拌混合直後、MCTオイル添加ブラックコーヒーの色は黒であり、液面には非常に大量の油分が浮いていた(図18および19左)。また、24時間静置後も同じ状態であった(図20左)。このことから、手による震盪では全くエマルジョンが調製できないことが確認された。
従来の液体混合装置Cの場合、撹拌混合直後、MCTオイル添加ブラックコーヒーの色は鉄黒であり、液面には大量の油分が浮いていた(図18および19中央)。また、24時間静置後、鉄黒からMCTオイル無添加のブラックコーヒーと同様の黒に戻った(図20中央)。このことから、従来の液体混合装置Cでは、エマルジョンを調製できるが、不安定であることが確認された。
本発明に係る液体混合装置Aの場合、撹拌混合直後、MCTオイル添加ブラックコーヒーの色は朽葉色であり、液面には全く油分が浮いていなかった(図18および19右)。また、24時間静置後、容器の底部の色が黒に戻ってきたが、ほとんどの部分では煙草色になったが、液面に油分が浮くこともなかった(図20右)。このことから、本発明に係る液体混合装置Aでは、非常に安定なエマルジョンを調製できることが確認された。
【0070】
(3)味覚官能評価
本発明に係る液体混合装置Aを用いて、MCTオイル添加したドレッシング(評価品1)およびコーヒー(評価品2)を撹拌混合して得られた食品につき、官能評価資格者6名(株式会社ハウス食品分析テクノサービス)による味覚官能評価を、評価品1、評価品2の順で行った。
【0071】
[MCTオイル添加ドレッシングの調製]
評価品1の調製:液体混合装置Aに、トマトジュース20cc、米酢20ccおよびオリーブオイル20ccを入れ、1分間撹拌混合した。
基準品1の調製:ガラス瓶に、トマトジュース20cc、米酢20ccおよびオリーブオイル20ccを入れ、手で1分間震盪した。
マイクロスコープにより観察したところ、基準品1と比較して、評価品1にはより細かく小さい油滴が存在した。この観察結果は、観察例1と整合している。
【0072】
[味覚官能評価の結果]
表2に示す評価基準に基づき、基準品1を0として、評価品1を7段階(-3~3)で相対評価した。味覚官能評価結果を表3および図21上に示す。
評価品1は基準品1に比べて、飲みやすく(美味しく)、まろやかさが強い特徴があった。また、甘味、旨味がやや強く、苦みがやや弱い特徴があった。
また、6名の官能評価資格者による個別のコメントは以下の通りである。
(a)評価品1は酸味が弱く、まろやかで野菜の甘味や旨味も強く感じられた。一方、基準品1は酸味が強すぎて飲みづらく、油分が分離していた。
(b)評価品1は酸味が弱まっているように感じたが、苦みは強く感じられた。なお、基準品1の方がトマト感を強く感じた。
(c)評価品1は乳化度合いが良く、酸味をストレートに感じないため、味がマイルドになった。
(d)評価品1は酢の感じ方がかなりまろやかになり、飲みやすかった。酸味が弱くなり、甘味や苦みが感じとりやすくなった。また、評価品1の方がオイルのベタついた感じがなくなっていた。
(e)評価品1はまろやかで甘味を感じ、刺すような酸味も抑えられ、飲みやすく感じた。また、評価品1の方が色も明るく、綺麗に見えた。
(f)評価品1は酸味が弱く、油っぽさを感じなかった。一方、基準品1は酸味を強く感じた。
【0073】
[MCTオイル添加コーヒーの味覚官能評価]
評価品2の調製:液体混合装置Aに、ブラックコーヒー100ccおよびMCTオイル5ccを入れ、1分間撹拌混合した。
基準品2の調製:ガラス瓶に、ブラックコーヒー100ccおよびMCTオイル5ccを入れ、手で1分間震盪した。
マイクロスコープにより観察したところ、基準品2と比較して、評価品2にはより細かく小さい油滴が存在した。この観察結果は、観察例1と整合している。
【0074】
[味覚官能評価の結果]
表2に示す評価基準に基づき、基準品2を0として、評価品2を7段階(-3~3)で相対評価した。味覚官能評価結果を表3および図21下に示す。
評価品2は基準品2に比べて、飲みやすく(美味しく)、まろやかさが強い特徴があった。また、甘味、旨味がやや強く、苦みがやや弱い特徴があった。
また、6名の官能評価資格者による個別のコメントは以下の通りである。
(a)評価品2はミルク感が強く、まろやかでミルクのような甘味があり、苦みを感じにくかった。一方、基準品2は薄いコーヒーのように感じ、苦みを感じた。
(b)評価品2はミルク感があり、苦みなどがマスキングされているように感じた。また、評価品2の方が、口に味が残っている時間が長かった。
(c)評価品2は苦みが隠れマイルドになり、甘いフレーバーのようなものを感じた。なお、個人的には苦いコーヒーが好みなので、評価品2はミルク感があり、あまり好みではなかった。
(d)評価品2はオイル感が消えているので、基準品2より少し甘く感じた。また、評価品2はまろやかになって、ブラックコーヒーのような切れ味はなくなっており、カフェオレのような飲み口に変わったように感じた。
(e)評価品2は苦みがかなり抑えられているので飲みやすいが、コーヒー感が薄くなったと感じた。また、評価品2の方が少し油っぽい印象があった。
(f)評価品2は、基準品2とそれほど変わりはないように感じたが、少し渋み、苦みがあった。
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
(4)まとめ
ドレッシングおよびコーヒーのいずれも、基準品と比較して飲みやすさ(美味しさ)、まろやかさ、甘味および旨味の項目が上昇し、かつ、苦みの項目が下降した。
これらの結果から、本発明に係る液体混合装置Aを用いれば、MCTオイル添加食品を美味しく、かつ、簡便に作ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る液体混合装置を用いて調製した水中油エマルジョンは非常に安定であり、食品の調理に応用したとき食品を美味しくすることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
1:液体混合装置(乳化装置)
11:液体
12:容器
13:ポンプユニット
14:流路ブロック
15:ハウジング
16:ノズルブロック
20:中心軸
21:円筒壁
22:上端開口
23:下端開口
24:モータ
25:ケーシング
26:吸入口(吸引筒)
27:吐出口(吐出筒)
30:中心軸
31:上端面(第1の外面部分)
32:下端面(第2の外面部分)
33:外周円筒面
34:容器連結構造
35:ポンプ連結構造
36:第1の孔
37:第2の孔
38:上部孔部分
39:下部孔部分
40:内ねじ
41:第3の孔
42:第4の孔
43:連通路
44:中心軸
45:渦流形成流路(第2の旋回流路)
46:円筒部
47:半球状部
48:絞り部
49:テーパ部
50:下部領域
52:外ねじ
53:段部(小径部)
54:周方向流路(第1の旋回流路)
55:径方向流路(連絡流路)
56:上部ブロック部分
57:下部ブロック部分
【要約】      (修正有)
【課題】新たな気液せん断方式の混合装置又は乳化装置を用いて、水と油を効率良く混合してエマルジョンを得ることができる新たな方法を提供する。
【解決手段】鉛直方向の軸の周りに配置された第1の円筒壁37aを含む第1の旋回流路54と、第1の円筒壁37aの外側に第1の円筒壁37aと同心的に配置された第2の円筒壁45aを含む第2の旋回流路45と、前記軸から放射方向に延びる線と斜めに交差する斜め方向に延在し、第1の旋回流路54と第2の旋回流路45を連通する少なくとも1つの連絡流路55とを備えた、気液せん断方式の液体混合装置を用いる、流体混合方法およびエマルジョンの調製方法を提供する。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
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