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特許7177564金属切削屑の油除去方法、油除去システム及び金属スクラップの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】金属切削屑の油除去方法、油除去システム及び金属スクラップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/00 20060101AFI20221116BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20221116BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20221116BHJP
【FI】
C22B1/00 601
B09B5/00 C
B09B3/35 ZAB
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022106022
(22)【出願日】2022-06-30
【審査請求日】2022-07-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年5月12日に日刊産業新聞の取材を受けた。 〔刊行物等〕 令和3年7月1日に第2回事業再構築補助金に申請した。 〔刊行物等〕 令和3年8月17日に第7次ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(一般型)に申請した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506308493
【氏名又は名称】株式会社メタルドゥ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 こころ
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一美
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】野村 真吾
(72)【発明者】
【氏名】木津 寿夫
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203146(JP,A)
【文献】特開2016-196671(JP,A)
【文献】特開2011-021863(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112518414(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00-5/00
C22B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油が付着した金属切削屑の油除去方法であって、
前記金属切削屑を粗破砕して破砕物とする第1破砕工程と、
前記金属切削屑又は前記破砕物における前記油を除去する第1脱脂工程と、
前記第1破砕工程及び前記第1脱脂工程の後に、得られた破砕物を更に破砕する第2破砕工程と、
前記第2破砕工程で得られた前記破砕物を、過熱された水蒸気を用いて洗浄して、脱脂する第2脱脂工程と、
前記第2脱脂工程で得られた洗浄済の前記破砕物を、粒度及び磁性に応じて選別する選別工程と
を備える、金属切削屑の油除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属切削屑の油除去方法において、
前記第2脱脂工程では、前記破砕物を連続的に供給し、単位時間当たりに前記第2脱脂工程に供給する前記破砕物の供給量を一定量となるように制御する、
金属切削屑の油除去方法。
【請求項3】
油が付着した金属切削屑から金属スクラップを製造する製造方法であって、
前記金属切削屑を粗破砕して破砕物とする第1破砕工程と、
前記金属切削屑又は前記破砕物における前記油を除去する第1脱脂工程と、
前記第1破砕工程及び前記第1脱脂工程の後に、得られた破砕物を更に破砕する第2破砕工程と、
前記第2破砕工程で得られた前記破砕物を、過熱された水蒸気を用いて洗浄して、脱脂する第2脱脂工程と、
前記第2脱脂工程で得られた洗浄済の前記破砕物を、粒度及び磁性に応じて選別して、前記金属スクラップを得る、選別工程と
を備える、金属スクラップの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属切削屑の油除去方法又は請求項3に記載の金属スクラップの製造方法を実行するための油除去システムであって、
前記第1脱脂工程を実行するために、前記金属切削屑から遠心力により前記油を除去する遠心分離機と、
前記第1破砕工程において前記金属切削屑を粗破砕する第1破砕機と、
前記第2破砕工程において前記破砕物を更に破砕する第2破砕機と、
100℃以上に過熱された水蒸気を発生させ、その水蒸気を前記第2破砕機で更に破砕された前記破砕物に当て、更に当該破砕物を乾燥させ、当該破砕物に付着した油を水分とともに除去することにより、前記第2脱脂工程を実行する過熱水蒸気機と、
前記選別工程を実行する選別システムと
を備える、油除去システム。
【請求項5】
請求項4に記載の油除去システムにおいて、
前記第2破砕工程で得られた前記破砕物を貯蔵する第1タンクと、
前記第1タンクから、前記破砕物を前記過熱水蒸気機に連続的に供給する供給手段と、
前記供給手段で単位時間当たりに前記過熱水蒸気機に供給する前記破砕物の供給量を、一定量となるように制御する制御手段と、
前記第2脱脂工程で得られた前記破砕物、又は前記選別工程で選別された前記破砕物を貯蔵する第2タンクと
を更に備える、油除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属切削屑の油除去方法、油除去システム及び金属スクラップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複合材料や鉄系廃棄物原料等の廃棄物を破砕して分級することによりリサイクルする方法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3369234号公報
【文献】特許第4907284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属製の廃棄物をリサイクルする場合、まず、それらの廃棄物を切削して切削屑とする。リサイクルの用途によっては、その切削屑が高品質であることが求められる。具体的には、廃棄物の切削に用いられる切削機に由来する油などにより、切削屑には油が付着していることが多いが、この油の付着量をできるだけ少なくしたいという要請がある。また、切削屑の大きさを均一にしたいという要請がある。
【0005】
そこで本発明では、金属切削屑に付着した油を少なくし、且つ金属切削屑の大きさの均一性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する第1の技術は、油が付着した金属切削屑の油除去方法であって、前記金属切削屑を粗破砕して破砕物とする第1破砕工程と、前記金属切削屑又は前記破砕物における前記油を除去する油除去工程(第1脱脂工程)と、前記第1破砕工程及び前記油除去工程の後に、得られた破砕物を更に破砕する第2破砕工程と、前記第2破砕工程で得られた前記破砕物を、過熱された水蒸気を用いて洗浄して、脱脂する洗浄工程(第2脱脂工程)と、前記洗浄工程で得られた洗浄済の前記破砕物を、粒度及び磁性に応じて選別する選別工程とを備える。
【0007】
なお、本明細書では、「破砕物」とは破砕された金属切削屑のことをという。「金属切削屑」を単に「切削屑」という場合がある。「油を除去する」とは、油を完全に除去することのみを意味するのではなく、油の量を少なくするという意味も含む。「脱脂する」とは、油を完全に除去すること又は油の量を極めて少なくすることを意味する。
【0008】
第1の技術によれば、切削屑を粗破砕する第1破砕工程と、破砕物を更に破砕する第2破砕工程との2段階で破砕するので、得られる破砕物の大きさの均一性が高くなる。また、洗浄工程で破砕物を洗浄するので、破砕物に付着した油の量を極めて少なくできる。
【0009】
ところで、洗浄工程を効率よく行うために、少なくしたい破砕物の油の量に応じて、洗浄工程における水蒸気温度、回転率(一定時間に洗浄を実施できる破砕物の量)等の実施条件を最適化したい。しかし、洗浄工程に供給される破砕物に付着した油の量が多いほど、また洗浄工程に供給される破砕物の大きさの均一性が低いほど、実施条件を最適化するのが難しいことが分かった。
【0010】
ここで、第1の技術によれば、洗浄工程よりも先に実行する、油除去工程、第1破砕工程及び第2破砕工程を経て、洗浄工程に供給される破砕物は、油の付着量が少なくなり且つ大きさの均一性が高くなっている。このため、洗浄工程の実施条件を最適化して、洗浄工程を効率よく行い、洗浄工程Sの効果を高めることができる。このように、油除去工程、第1破砕工程及び第2破砕工程は、洗浄工程よりも先に行うことにより、単に切削屑の油を除去し且つ大きさの均一性を高めるだけでなく、洗浄工程の効果を高めるという相乗効果をも奏するものである。その結果、第1の技術により、切削屑に付着した油の量を極めて少なくできる。
【0011】
第2の技術は、第1の技術において、前記洗浄工程では、単位時間当たりに前記洗浄工程に供給する前記破砕物の供給量を一定量となるように制御する。
【0012】
第2の技術によれば、洗浄工程に供給する単位時間当たりの前記破砕物の供給量が一定量となるので、その供給量に応じた最適な実施条件は、洗浄工程を実行する間、不変である。したがって、供給量に応じた最適な実施条件を一度決めれば、洗浄工程を実行する間、実施条件を変更せずに、自動的に、洗浄工程を効率よく、実行できる。
【0013】
第3の技術は、油が付着した金属切削屑から金属スクラップを製造する製造方法であって、前記金属切削屑を粗破砕して破砕物とする第1破砕工程と、前記金属切削屑又は前記破砕物における前記油を除去する油除去工程(第1脱脂工程)と、前記第1破砕工程及び前記油除去工程の後に、得られた破砕物を更に破砕する第2破砕工程と、前記第2破砕工程で得られた前記破砕物を、過熱された水蒸気を用いて洗浄して、脱脂する洗浄工程(第2脱脂工程)と、前記洗浄工程で得られた洗浄済の前記破砕物を、粒度及び磁性に応じて選別して、前記金属スクラップを得る、選別工程とを備える。
【0014】
なお、本明細書では、「金属スクラップ」とは、「金属切削屑」を破砕した前記「破砕物」と同じものを意味する。
【0015】
第3の技術によれば、第1の技術と同様の効果を奏することができ、しかも油の付着量が極めて少なくなった金属スクラップを新たに製造できる。
【0016】
第4の技術は、第1の技術に係る金属切削屑の油除去方法又は第3の技術に係る金属スクラップの製造方法を実行するための油除去システムであって、前記油除去工程を実行するために、前記金属切削屑から遠心力により前記油を除去する遠心分離機と、前記第1破砕工程において前記金属切削屑を粗破砕する第1破砕機と、前記第2破砕工程において前記破砕物を更に破砕する第2破砕機と、前記洗浄工程を実行する過熱水蒸気機と、前記選別工程を実行する選別システムとを備える。
【0017】
なお、本明細書では、複数の装置の組み合わせた構成を「システム」というが、複数の機能を備える1つの装置も「システム」という場合がある。
【0018】
第4の技術に係る油除去システムにより、第2の技術に係る切削屑の油除去方法を実行できる。また、一般に、破砕する対象の大きさに応じて使用に適した破砕機の種類は異なるが、第4の技術では、大きな切削屑を、第1破砕機で粗破砕した上で、第2破砕機で更に細かくする。これにより、大きさの均一な破砕物を歩留まりよく大量に得ることができ、且つ破砕機の損傷を抑制できる。
【0019】
第5の技術は、第4の技術において、前記第2破砕工程で得られた前記破砕物を貯蔵する第1タンクと、前記第1タンクから、前記破砕物を前記過熱水蒸気機に供給する供給手段と、前記供給手段で単位時間当たりに前記過熱水蒸気機に供給する前記破砕物の供給量を、一定量となるように制御する制御手段と、前記洗浄工程で得られた前記破砕物、又は前記選別工程で選別された前記破砕物を貯蔵する第2タンクとを更に備える。
【0020】
第5の技術によれば、第2破砕工程で得られた破砕物を第1タンクに貯蔵しておき、制御手段及び供給手段により、第1タンクから単位時間当たりに一定量の破砕物を過熱水蒸気機に供給できるので、第3の技術と同様の効果を奏するシステムが具体的に得られる。
【0021】
ところで、洗浄工程で用いる過熱水蒸気機は、稼働と停止とを繰り返すよりも、一度稼働させてからノンストップで稼働させた方が、装置の損傷の抑制及び装置の起動に必要な時間の削減という観点から好ましい。
【0022】
ここで、第5の技術によれば、第1タンクから単位時間当たりに一定量の破砕物を過熱水蒸気機に供給できるので、過熱水蒸気機を一度稼働させてから、ノンストップで長時間稼働させやすい。その結果、過熱水蒸気機の損傷を抑制でき、装置の起動に必要な時間を削減して効率的に油除去方法を実行できる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によると、金属切削屑に付着した油を少なくし、且つ金属切削屑の大きさの均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係る切削屑の油除去方法を示すフローチャートである。
図2】油除去システムの一部を示す概略図である。
図3】第2実施形態の図1相当図である。
図4】参考例1で用いた破砕物を示す写真である。
図5】参考例2で用いた破砕物を示す写真である。
図6】参考例3で用いた破砕物を示す写真である。
図7】参考例4で用いた破砕物を示す写真である。
図8】参考例5で用いた破砕物を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物又はその用途を制限することを意図しない。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る切削屑Mt1の油除去方法M1を示す。切削屑Mt1は、廃棄物を切削機により切削して得られるものである。切削屑Mt1は、廃棄物を構成していた金属部材であり、例えば、板材、チューブ材、サイドトリミング材、打ち抜き材、穴抜き材、コイル材、ボルト等が挙げられる。切削屑Mt1を構成する金属は、限定されないが、例えば、ニッケル、コバルト、チタン、アルミニウム、鉄、これらの混合物等が挙げられる。
【0027】
切削屑Mt1には、例えば切削機に由来する油や、廃棄物に元々付着していた油が付着している。油除去方法M1は、そのような油が付着した切削屑Mt1の油を完全に除去する又は油の付着量を極めて少なくする方法である。油除去方法M1は、第1破砕工程S1-1と、油除去工程S1-2(第1脱脂工程)と、第2破砕工程S1-3と、洗浄工程S1-4(第2脱脂工程)と、選別工程S1-5とを備える。
【0028】
図2は、油除去方法M1を実行するための油除去システムの一部を概略的に示す。なお、図2は概念図にすぎず、各装置や切削屑Mt1等の構成、形状等を正確に示すものではない。
【0029】
油除去システムは、第1破砕工程S1-1を実行するための第1破砕機1と、油除去工程S1-2を実行するための遠心分離機2と、第2破砕工程S1-3を実行するための第2破砕機3と、洗浄工程S1-4を実行するための過熱水蒸気機(図示しない)と、選別工程S1-5を実行するための選別システム(図示しない)とを備える。
【0030】
以下、各工程について説明するとともに、各工程で用いる装置又はシステムについても説明する。
【0031】
―第1破砕工程―
第1破砕工程S1-1は、切削屑Mt1を粗破砕して破砕物Mt2とする工程である。この工程で粗破砕する切削屑Mt1は、廃棄物を構成していた金属部材の形状を保持している物(以下「有形物」という。)が多い。「粗破砕する」とは、例えばこれら有形物の形状を壊すことである。
【0032】
第1破砕工程S1-1は、第1破砕機1を用いて実行する。第1破砕機1は、切削屑Mt1を粗破砕するものであれば限定されないが、具体例としては、ダライ粉粗破砕機が挙げられる。第1破砕機1は、例えば、図2に概略的に示すように、切削屑Mt1が投入される略逆円錐状の収容部1aと、収容部1aの底部に設けられた、切削屑Mt1を回転させるアーム1bとを有する。収容部1aの内側面には、複数の突起又はブレード(図示しない)が設けられている。アーム1bの回転によって、収容部1a内側面に沿って回転する切削屑Mt1は、前記突起又はブレードに当たることで粗破砕され、破砕物Mt2とされる。
【0033】
―油除去工程―
油除去工程S1-2は、第1破砕工程S1-1の後に実行し、第1破砕工程S1-1で得られた破砕物Mt2の油を除去する工程である。油除去工程S1-2では、破砕物Mt2の油を少なくできればよいが、洗浄工程S1-4を効率よく実行するという観点から、油の付着量を、破砕物Mt2の全重量の2%以下にすることが好ましい。
【0034】
油除去工程S1-2は、遠心分離機2を用いて実行する。遠心分離機2は、第1破砕工程S1-1で得られた破砕物Mt2に遠心力をかけ、その遠心力により付着した油を除去する。遠心分離機2の具体例としては、エアー式脱油機が挙げられる。
【0035】
―第2破砕工程―
第2破砕工程S1-3は、油除去工程S1-2の後に実行し、油除去工程S1-2で得られた破砕物Mt2を更に細かく破砕する工程である。
【0036】
第2破砕工程S1-3は、第2破砕機3を用いて実行する。第2破砕機3は、粗破砕された破砕物Mt2を更に細かく破砕するものであれば限定されないが、具体例としては、一軸破砕機が挙げられる。なお、図2では、符号Mt3は、第2破砕機3で細かく破砕された破砕物を指す。
【0037】
油除去システムは、第1タンク(図示しない)を更に備える。第2破砕工程S1-3で得られた破砕物Mt3は、第1タンクに貯蔵する。
【0038】
―洗浄工程―
洗浄工程S1-4は、第2破砕工程S1-3で更に破砕された破砕物Mt3を、過熱(加熱)された水蒸気を用いて洗浄して、脱脂する工程である。過熱された水蒸気による洗浄は、高温炉内で行う。洗浄工程S1-4で用いる水蒸気の温度及び高温炉内の温度は、破砕物Mt3を構成する金属の種類によって決定することが好ましい。例えば、破砕物Mt3が、ニッケル等で構成されるスーパーアロイ(超合金)である場合、時間及びエネルギーを効率的に消費して洗浄を実行するという観点から、高温炉の温度を300℃以上450℃以下とし、水蒸気の温度を350℃以上500℃以下とすることが好ましい。この場合、洗浄工程S1-4で得られる破砕物Mt3は、破砕物Mt3全体の重量に対して、油の付着量が、例えば0.1重量%以下となり、油の付着量が極めて少なくなる。
【0039】
洗浄工程S1-4は、過熱水蒸気機を用いて実行する。過熱水蒸気機は、100℃以上に過熱された水蒸気を発生させ、その水蒸気を破砕物Mt3に当て、更に破砕物Mt3を乾燥させることにより、破砕物Mt3に付着した残りの油を、水分とともに除去する。過熱水蒸気機は、そのようなものであれば限定されないが、具体例としては、過熱水蒸気式連続ロータリーキルンが挙げられる。過熱水蒸気式連続ロータリーキルンでは、900℃以下の高温の水蒸気を発生させることができる。
【0040】
また、洗浄工程S1-4では、単位時間当たりに供給される破砕物Mt3の供給量を一定量となるように制御する。このため、油除去システムは、第1タンクから、破砕物Mt3を過熱水蒸気機に供給する供給手段(図示しない)を備える。供給手段は、例えばスクリューコンベアである。油除去システムは、制御手段(図示しない)を更に備える。制御手段は、供給手段で、単位時間当たりに過熱水蒸気機に供給する破砕物Mt3の供給量を一定量となるように制御する。
【0041】
―選別工程―
選別工程S1-5は、洗浄工程S1-4で得られた洗浄済の破砕物Mt3を、粒度及び磁性に応じて選別する工程である。選別工程S1-5は、詳細には、磁選工程S1-5-1と、これに続く分級工程S1-5-2と、これに続くサンプリング工程S1-5-3と、これに続く分析工程S1-5-4とを含む。
【0042】
磁選工程S1-5-1では、磁選機を用いて、破砕物Mt3の中から鉄などの磁性を帯びたものを取り除く。磁選機は、特に限定されるものではなく、例えばドラム型、対極式ドラム型、吊り下げ式、コンベア式等一般的な磁選機を採用することができる。
【0043】
分級工程S1-5-2では、ふるい機を用いて、破砕物Mt3を少なくとも2種類の大きさのものに分け、基準の大きさを満たないものを除く。ふるい機は、特に限定されるものではなく、例えば孔径1種類のメッシュ材を備えた一段式振動ふるい機、異なる孔径の2種類のメッシュ材を上下2段に備えた二段式振動ふるい機等、一般的なふるい機を採用することができる。
【0044】
サンプリング工程S1-5-3では、自動サンプリング機を用いて、破砕物Mt3の一定量を一定時間毎に自動的に採取する。採取した破砕物Mt3は、アークボタン溶解機により溶解し、一定の大きさのボタン状のサンプルに加工する。分析工程S1-5-4では、このサンプルの成分等を分析し、第1破砕工程S1-1から分級工程S1-5-2を経て得られた破砕物Mt3の品質を評価する。分析工程S1-5-4での分析には、限定されないが、例えば蛍光エックス線分析計、プラズマ発行分析計、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光装置等を用いる。
【0045】
油除去システムは、選別工程S1-5で選別された破砕物Mt3を貯蔵する第2タンク(図示しない)を更に備える。
【0046】
―金属スクラップの製造方法―
以上、切削屑Mt1の油除去方法M1について説明したが、同様の工程により、金属スクラップを製造してもよい。本実施形態に係る金属スクラップの製造方法は、油が付着した切削屑Mt1から金属スクラップを製造する製造方法であって、切削屑Mt1を粗破砕して破砕物Mt2とする第1破砕工程S1-1と、金属切削屑Mt1又は破砕物Mt2における油を除去する油除去工程S1-2と、第1破砕工程S1-1及び油除去工程S1-2の後に、得られた破砕物Mt2を更に破砕する第2破砕工程S1-3と、第2破砕工程S1-3で得られた破砕物Mt3を、過熱された水蒸気を用いて洗浄して、脱脂する洗浄工程S1-4と、洗浄工程S1-4で得られた洗浄済の破砕物Mt3を、粒度及び磁性に応じて選別して、金属スクラップを得る、選別工程S1-5とを備える。
【0047】
この金属スクラップの製造方法を実行するためには、前記油除去システムを用いることができる。
【0048】
―第1実施形態の作用・効果―
本実施形態によれば、切削屑Mt1を粗破砕する第1破砕工程S1-1と、破砕物Mt2を更に破砕する第2破砕工程S1-3との2段階で破砕するので、得られる破砕物Mt3の大きさの均一性が高くなる。また、洗浄工程S1-4で破砕物Mt3を洗浄するので、破砕物Mt3に付着した油の量を極めて少なくできる。
【0049】
ところで、洗浄工程S1-4を効率よく行うために、少なくしたい破砕物Mt3の油の量に応じて、洗浄工程S1-4における高温炉の温度、水蒸気温度、回転率(一定時間に洗浄を実施できる破砕物Mt3の量)等の実施条件を最適化したい。しかし、洗浄工程S1-4に供給される破砕物Mt3に付着した油の量が多いほど、また洗浄工程S1-4に供給される破砕物Mt3の大きさの均一性が低いほど、実施条件を最適化するのが難しいことが分かった。
【0050】
ここで、本実施形態によれば、洗浄工程S1-4よりも先に実行する、油除去工程S1-2、第1破砕工程S1-1及び第2破砕工程S1-3を経て、洗浄工程S1-4に供給される破砕物Mt3は、油の付着量が少なくなり且つ大きさの均一性が高くなっている。このため、洗浄工程S1-4の実施条件を最適化して、洗浄工程S1-4を効率よく行い、洗浄工程S1-4の効果を高めることができる。このように、油除去工程S1-2、第1破砕工程S1-1及び第2破砕工程S1-3は、洗浄工程S1-4よりも先に行うことにより、単に切削屑Mt1~Mt3の油を除去し且つ大きさの均一性を高めるだけでなく、洗浄工程S1-4の効果を高めるという相乗効果をも奏するものである。その結果、本実施形態により、切削屑Mt1に付着した油の量を極めて少なくできる。
【0051】
例えば、油除去工程S1-2で、油の付着量を破砕物Mt2全重量に対して2重量%以下にすることにより、洗浄工程S1-4後に得られる洗浄済の破砕物Mt3の油の付着量を0.1重量%以下にできることが分かった。
【0052】
また、本実施形態によれば、洗浄工程S1-4に供給する単位時間当たりの破砕物Mt3の供給量が一定量となるので、その供給量に応じた最適な実施条件は、洗浄工程S1-4を実行する間、不変である。したがって、供給量に応じた最適な実施条件を一度決めれば、洗浄工程S1-4を実行する間、実施条件を変更せずに、自動的に、洗浄工程S1-4を効率よく、実行できる。
【0053】
また、本実施形態の油除去システムによれば、第2破砕工程S1-3で得られた破砕物Mt3を第1タンクに貯蔵しておき、制御手段及び供給手段により、第1タンクから単位時間当たりに一定量の破砕物Mt3を過熱水蒸気機に供給できる。
【0054】
ところで、洗浄工程S1-4で用いる過熱水蒸気機は、稼働と停止とを繰り返すよりも、一度稼働させてからノンストップで稼働させた方が、過熱水蒸気機の損傷(例えば装置の構成部品の熱収縮、劣化等)の抑制及び過熱水蒸気機の起動に必要な時間(例えば2~3時間)の削減という観点から好ましい。また、過熱水蒸気機をノンストップで稼働させることは、過熱された水蒸気の対流・幅射・凝縮の複合伝熱によって、高温炉内の温度維持のためにエネルギーを効率よく利用できるという観点からも好ましい。
【0055】
ここで、本実施形態の油除去システムによれば、第1タンクから単位時間当たりに一定量の破砕物Mt3を過熱水蒸気機に供給できるので、過熱水蒸気機を一度稼働させてから、ノンストップで長時間稼働させやすい。その結果、過熱水蒸気機の損傷を抑制でき、起動に必要な時間を削減し、更にエネルギーも節約し、効率的に油除去方法M1を実行できる。
【0056】
しかも、過熱水蒸気機をノンストップで稼働させることは、高温炉内を低酸素状態に維持できるので、金属製の破砕物Mt3の酸化防止という観点から、また、火災防止という観点からも、好ましい。
【0057】
本実施形態の油除去システムの具体的な使用方法として、例えば、ユーザが過熱水蒸気機を起動させて、長時間(例えば、24時間)稼働させた後、過熱水蒸気機を停止させることが考えられる。このような方法によれば、ユーザは、過熱水蒸気機が稼働している長時間、過熱水蒸気機の設定条件等を変更する必要がないので、過熱水蒸気機の稼働状況を特に気にする必要がなく、極めて便利である。
【0058】
また、本実施形態の金属スクラップの製造方法によれば、油の付着量が少なくなった金属スクラップを新たに製造できる。このよう金属スクラップは、油の付着量が極めて少ないことから、例えば真空溶解を行ってスーパーアロイ(超合金)のインゴットを製造するための原料として、非常に有用である。一般に、真空溶解では、原料を溶解した後に構成成分の調整や不純物の除去が不可能又は極めて困難である。そして、油は、一般に炭素や硫黄などの不純物を含むことから、油が多く付着した金属スクラップを真空溶解の原料として用いると、真空溶解により製造されるインゴットも、不純物を多く含むこととなる。この点について、本実施形態の製造方法で製造される金属スクラップは、油の付着量が極めて少ないので、不純物が極めて少ない高品質なインゴットを原料として製造される、精密機器、部品等の製造にとって非常に有用である。そのような機器、部品等の例としては、医療機器、鉱業機器、自動車エンジン部品、発電タービン、航空機等が挙げられる。
【0059】
なお、本実施形態の金属スクラップの製造方法で製造される金属スクラップは、スーパーアロイのインゴットの原料用以外のものであってもよく、例えばステンレス合金であってもよい。
【0060】
また、本実施形態の油除去システムにより、前記油除去方法M1又は金属スクラップの製造方法を実行できる。また、一般に、破砕する対象の大きさに応じて使用に適した破砕機の種類は異なるが、本実施形態の油除去システムでは、大きな切削屑Mt1を、第1破砕機1で粗破砕した上で、第2破砕機3で更に細かくする。これにより、大きさの均一な破砕物Mt3を歩留まりよく大量に得ることができ、且つ第2破砕機3の損傷を抑制できる。
【0061】
(第1実施形態の変形例)
前記第1実施形態では、第1破砕工程S1-1の後に油除去工程S1-2を実行するが、これに代えて油除去工程S1-2を第1破砕工程S1-1の先に実行してもよい。また、第1破砕工程S1-1と油除去工程S1-2とを同時に実行してもよい。
【0062】
前記第1実施形態では、選別工程S1-5で選別された破砕物Mt3を第2タンクに貯蔵するが、これに代えて、洗浄工程S1-4で得られた破砕物Mt3を第2タンクに貯蔵してもよい。
【0063】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る油除去方法M2を示す。この油除去方法M2は、第1破砕工程S2-1(S1-1)と、油除去工程S2-2(S1-2)と、小型有形物除去工程S2-3と、第1磁選工程S2-4と、第1サンプリング工程S2-5と、第2破砕工程S2-6(S1-3)と、洗浄工程S2-7(S1-4)と、第2選別工程S2-8(S1-5)とを備え、記載したこの順序で実行する。なお、前記第1実施形態と共通する工程については、前記第1実施形態と同じ符号を括弧書きで付し、以下では説明を省略する。
【0064】
小型有形物除去工程S2-3は、第1破砕工程S2-1(S1-1)で十分に破壊できなかった小型の有形物を除去する工程である。小型有形物除去工程S2-3の具体的な方法は限定されないが、例えば、油除去システムのユーザが、第1破砕工程S2-1(S1-1)で十分に破壊できなかった有形物を目視で確認し、その有形物をユーザが手で除去してもよく、または油除去システムが、小型有形物除去工程S2-3を実行するための、以下に説明する小型有形物選別機(図示しない)を備えていてもよい。
【0065】
小型有形物選別機は、例えば、図2に示す第1破砕機1と同様に、破砕物Mt2が投入される略逆円錐状の収容部と、収容部の底部に設けられた、回転可能なアームとを有する。収容部の底部には、複数の小径孔と1つの大径孔とが形成されている。アームにより底部上で回転させられた破砕物Mt2は、重力により、サイズの小さなものは複数の小径孔内部に落下し、サイズの大きな小型有形物は、1つの大径孔内部に落下する。複数の小径孔に落下したサイズの小さな破砕物Mt2は、後続の第1磁選工程S2-4に供給される。1つの大径孔に落下した小型有形物は、そのまま取り除かれてもよく、あるいは再度、前記第1破砕工程S2-1(S1-1)に供給されてもよい。
【0066】
第1磁選工程S2-4は、例えばドラム式磁選機を用いて、破砕物Mt2の中から鉄などの磁性を帯びたものを取り除く工程である。第1サンプリング工程S2-5では、自動サンプリング機を用いて、破砕物Mt2の一定量を一定時間毎に自動的に採取する。採取した破砕物Mt2は、アークボタン溶解機により溶解し、一定の大きさのボタン状サンプルに加工する。このサンプルは、例えば成分等が分析され、その分析結果により、後続の第2破砕工程S2-6(S1-3)に進むか否かが判断される。
【0067】
―第2実施形態の作用・効果―
本実施形態によっても、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0068】
ところで、第1破砕工程S2-1(S1-1)では、供給された切削屑Mt1が粗破砕されるが、この工程で有形物が十分に破壊されずに小型有形物として残ってしまう場合がある。第2破砕工程S2-6(S1-3)では、第1破砕工程S2-1(S1-1)で粗破砕された破砕物Mt2を更に細かく破砕するが、第2破砕工程S2-6(S1-3)で用いる装置(例えば、一軸破砕機)は、供給される破砕物Mt2に、そのような小型有形物が残っていると、装置に設けられた刃、スクリーン、軸等が破損を受けやすい。
【0069】
ここで、本実施形態では、第1破砕工程S2-1(S1-1)で破壊できなかった小型有形物を除去する小型有形物除去工程S2-3を備えるので、第2破砕工程S2-6(S1-3)で用いる装置に損傷を与えにくくなる。
【0070】
また、本実施形態では、洗浄工程S2-7(S1-4)に進む前に、第1磁選工程S2-4を実行するので、破砕物Mt3に含まれる鉄などの磁性を帯びたものは、予め取り除かれている。そして、後続の各工程S2-5~S2-7において、万が一、磁性を帯びたものが混入したとしても、第2磁選工程S2-8-1(S1-5-1)によりそれらは取り除かれるので、磁性を帯びたものを確実に除去できる。
【0071】
(第2実施形態の変形例)
前記第2実施形態では、第1破砕工程S2-1(S1-1)と、油除去工程S2-2(S1-2)と、小型有形物除去工程S2-3とを、この順序で実行するが、順序はこれに限られない。第1破砕工程S2-1(S1-1)と、油除去工程S2-2(S1-2)と、小型有形物除去工程S2-3とを同時に行ってもよい。
【0072】
また、前記第2実施形態において、小型有形物除去工程S2-3、第1磁選工程S2-4及び第1サンプリング工程S2-5は、前記第1実施形態にはない工程であるが、これら3つの工程S2-3~S2-5のうち、いずれかを1つ又は2つの工程を行わなくてもよい。
【0073】
(その他の実施形態)
第2破砕機3としては、一軸破砕機のほかに、二軸破砕機、四軸破砕機等が挙げられる。
【実施例
【0074】
以下に、遠心分離機により油除去工程の結果を確認した、参考例1~5を示す。参考例1~5では、図4~8にそれぞれ示すインコネル系素材に対して、遠心分離機により油除去工程を実行した。
【0075】
油除去工程前における各インコネル系素材には油が付着しており、各インコネル系素材の全重量及び付着していた油の重量%は、表1に示すとおりである。
【0076】
【表1】
【0077】
すなわち、各インコネル系素材には、全重量に対して3.54重量%(参考例1)、4.03重量%(参考例2)、5.11重量%(参考例3)、8.14重量%(参考例4)及び10.08重量%(参考例5)の油が付着していた。
【0078】
油除去工程後の各インコネル系素材の全重量及び、付着していた油の重量%は、表1に示すとおりである。すなわち、油除去工程後の各インコネル系素材の油の付着量は、全重量に対して1.48重量%(参考例1)、1.52重量%(参考例2)、1.27重量%(参考例3)、1.19重量%(参考例4)及び1.36重量%(参考例5)である。
【0079】
以上より、油除去工程で、各インコネル系素材の油の付着量を、2重量%以下となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、切削屑の油除去方法、油除去システム及び金属スクラップの製造方法に有用である。
【符号の説明】
【0081】
M1 油除去方法
S1-1 第1破砕工程
S1-2 油除去工程(第1脱脂工程)
S1-3 第2破砕工程
S1-4 洗浄工程(第2脱脂工程)
S1-5 選別工程
Mt1 切削屑
Mt2,Mt3 破砕物
1 第1破砕機
2 遠心分離機
3 第2破砕機
【要約】
【課題】金属切削屑に付着した油を少なくし、且つ金属切削屑の大きさの均一性を向上させる。
【解決手段】油が付着した金属切削屑Mt1の油除去方法M1であって、金属切削屑Mt1を粗破砕して破砕物Mt2とする第1破砕工程S1-1と、金属切削屑Mt1又は破砕物Mt2における油を除去する油除去工程S1-2と、第1破砕工程S1-1及び油除去工程S1-2の後に、得られた破砕物Mt2を更に破砕する第2破砕工程S1-3と、第2破砕工程S1-3で得られた破砕物Mt3を、過熱された水蒸気を用いて洗浄して、脱脂する洗浄工程S1-4と、洗浄工程S1-4で得られた洗浄済の破砕物Mt3を、粒度及び磁性に応じて選別する選別工程S1-5とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8