(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】移動ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 5/02 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
B25J5/02 A
(21)【出願番号】P 2017182700
(22)【出願日】2017-09-22
【審査請求日】2020-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝典
(72)【発明者】
【氏名】白取 寛章
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-012948(JP,A)
【文献】特開平08-276385(JP,A)
【文献】特開平07-040266(JP,A)
【文献】特開2001-187606(JP,A)
【文献】特開2005-079409(JP,A)
【文献】特開2015-212001(JP,A)
【文献】特開2018-034256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J1/00-21/02
H01L21/67-21/687
B65G47/52-47/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工程エリアの並び方向に沿って延びるように設置される直動軸と、
前記直動軸に沿って水平方向に直線移動される移動体と、
前記移動体に対して
鉛直方向に移動可能に取り付けられたベースおよび前記ベースに垂直軸を中心に回転可能に連結されるアーム部を備えたロボットと、
前記ロボットを収容するものであり、前記工程エリア側に開口を有する
第1カバーと、
前記移動体を前記直線移動させるための搬送機構部と、
を備え、
前記ロボットは、前記工程エリア間を移動する際には前記
第1カバーに収容され、前記工程エリアの前では前記開口を通じて前記アーム部の先端であるアーム先端を前記工程エリアに向けて移動させる動作を伴う所定の作業を実施し、
前記直動軸は、垂直方向に並列に配置された2つのレールを備え、
前記移動体は、垂直方向の下側に設けられたスライダを介して前記レールに支持されており、
前記搬送機構部は、前記レール側に設けられたラックと前記移動体側に設けられたピニオンとを備えたラックアンドピニオンの駆動機構として構成され、
前記2つのレールのうち一方は、前記ラックおよび前記ピニオンの垂直方向の上側に設けられ、前記2つのレールのうち他方は、前記ラックおよび前記ピニオンの垂直方向の下側に設けられ、
前記レールの端部および前記ラックの端部は、前記鉛直方向に配されたレール固定部材の前記鉛直方向の同一平面上に固定されており、
前記2つのレール
の幅寸法が前記ラック
の幅寸法以上の寸法に設定されていることにより前記移動体と前記ラックとの間に隙間が設けられて
おり、
前記2つのレールの幅寸法および前記ラックの幅寸法は、前記鉛直方向に直交する方向且つ前記直動軸の延びる方向に直交する方向の寸法である移動ロボット。
【請求項2】
前記ラックおよび前記ピニオンは、垂直方向において互いの歯が噛み合うように配置されている請求項1に記載の移動ロボット。
【請求項3】
前記ラックは、その歯が垂直方向の下向きになるように配置されている請求項2に記載の移動ロボット。
【請求項4】
前記搬送機構部は、前記ラックの垂直方向の上側の部位から側面部を覆う
第2カバーを備えている請求項3に記載の移動ロボット。
【請求項5】
前記
第1カバーの前記工程エリア側の垂直方向で上側の少なくとも一部を覆う板部材を備え、
前記板部材の前記直線移動の方向における両側面には、その外側に向けて前記板部材の厚みが薄くなるような傾斜部が形成されている請求項1から4のいずれか一項に記載の移動ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場設備において、例えば自動車部品の生産(組立)を行うため、ロボットを用いた生産システムが考えられている。特許文献1、2には、このような生産システムにおいて、無人搬送車(Automated Guided Vehicle)上に垂直多関節型のロボットを搭載して構成される移動ロボット(モービルロボット)を用いた構成が開示されている。上記構成では、工場の床上に移動ロボットの走行路が設けられ、移動ロボットをその走行路に沿って自在に移動させながら、複数の工程エリア(作業設備)において作業工程を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-341450号公報
【文献】特開2003-341834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構成における無人搬送車に代えて、工場に敷設された直動軸であるレールに沿って走行する移動体を採用し、その移動体にロボットを取り付けることが考えられる。この場合、ロボットはレールによって支持されることになるため、レールの幅が広いほど安定した支持が実現されることになる。しかし、レールの幅は、搬送に関連する機構部分の高さなどによる制約があり、むやみに大きくすることはできない。また、このようなレールは、複数の工程エリアの全域にわたるように設置しなければならないため、その設置のし易さも非常に重要となる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、設置性を良好に維持しつつ、ロボットの安定した支持を実現することができる移動ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の移動ロボットは、複数の工程エリアの並び方向に沿って延びるように設置される直動軸と、その直動軸に沿って水平方向に直線移動される移動体と、移動体に対して鉛直方向に移動可能に取り付けられたベースおよびベースに垂直軸を中心に回転可能に連結されるアーム部を備えたロボットと、そのロボットを収容するものであって工程エリア側に開口を有する第1カバーと、ベースを直線移動させるための搬送機構部と、を備える。
【0007】
そして、ロボットは、工程エリア間を移動する際には第1カバーに収容され、工程エリアの前では開口を通じて、アーム部の先端であるアーム先端を工程エリアに向けて移動させる動作を伴う所定の作業を実施する。つまり、上記移動ロボットは、工程エリア間を移動中は無人搬送車と同様の形態となり、工程エリアの前では作業を行うロボットの形態となるように、その形態を変化させる構成となっている。
【0008】
上記構成において、直動軸は、垂直方向に並列に配置された2つのレールを備え、移動体は、垂直方向の下側に設けられたスライダを介して上記レールに支持されている。また、搬送機構部は、レール側に設けられたラックと移動体側に設けられたピニオンとを備えたラックアンドピニオンの駆動機構として構成されている。このように、2つのレールにより直動軸が構成されることにより、1つのレールあたりの重量を軽くすることが可能となるため、その設置作業が容易なものとなる。
【0009】
すなわち、上記構成では、直動軸を地面から離れた位置に設置するために作業者などが持ち上げることが必須となるため、持ち上げる部品である直動軸の重量が重くなるほど設置の際に必要な作業者の人数が多くなったり、可搬重量の大きな機器を使用して設置作業を行ったりしなければならず、作業工数および設置時間の増加を招いてしまう。
【0010】
上述したように、直動軸を2つのレールから構成する、つまり直動軸を2つのレールに分割すると、設置作業の際に持ち上げる部品、つまり1つのレールの重量が軽くなり、作業性が向上し、その作業に必要な作業者の人数を少なく抑えることが可能となる。なお、このような効果は、移動ロボットの移動距離(直動軸の長さ)が長くなるほど、つまり、より多くの工程エリア間を移動させるような構成にするほど、一層有益なものとなる。
【0011】
また、上記構成では、2つのレールのうち一方は、ラックおよびピニオンの垂直方向の上側に設けられ、2つのレールのうち他方は、ラックおよびピニオンの垂直方向の下側に設けられている。また、上記構成では、レールの端部およびラックの端部は、鉛直方向に配されたレール固定部材の鉛直方向の同一平面上に固定されている。さらに、上記構成では、2つのレールの幅寸法がラックの幅寸法以上の寸法に設定されていることにより移動体とラックとの間に隙間が設けられている。なお、2つのレールの幅寸法およびラックの幅寸法は、鉛直方向に直交する方向且つ直動軸の延びる方向に直交する方向の寸法である。このような配置によれば、これら2つのレールの幅を足し合わせた幅を持つ幅広の1つのレールによりロボットを支持する構成と同程度の安定した支持が実現され、その結果、移動ロボットの移動時における振動の発生を抑制することができる。
【0012】
すなわち、このような構成において、ロボットの支持の安定性は、直動軸を構成するレールの幅ではなく、レールに対してスライダが支持される2点間、つまりレールの垂直方向の上端部と下端部との間の距離に応じたものとなる。したがって、2つの比較的幅の狭いレールであっても、垂直方向の上側のレールの上端部から垂直方向の下側のレールの下端部までの距離が、1つの比較的幅の広いレールの幅と同様の長さとなるように配置すれば、同程度の安定した支持が実現される。さらに、2つのレールのそれぞれに対してスライダが支持される構成となることで、上側のレールの上端部および下端部と、下側のレールの上端部および下端部と、の4点での支持となり、支持の安定性が一層向上する効果が得られる。
【0013】
さらに、上述した配置によれば、次のような効果も得られる。すなわち、仮に、2つのレールの双方をラックおよびピニオンの上側または下側にまとめて配置した場合、スライダからピニオンまでの距離が長くなる。ロボットはスライダを介してレールに支持されているため、ロボットが振動した場合には、スライダを支点として揺れるため、その支点から離れた部位ほど、揺れ幅が大きくなる。そのため、スライダからピニオンまでの距離が長い場合、ロボットが振動した場合におけるピニオンの揺れが大きなものとなる。ピニオンの揺れが大きくなると、ピニオンとラックとの摩擦が大きくなり、最悪の場合には衝突が生じ、ピニオンおよびラックの消耗(摩耗)、破損などを招くおそれがある。
【0014】
これに対し、上述したように、2つのレールをラックおよびピニオンの垂直方向の上下に分けて配置すれば、2つのレールからピニオンまでの距離が2つのレールをまとめて配置した構成に比べて短くなるため、ロボットが振動した場合のピニオンの揺れ幅が小さく抑えられ、その結果、ピニオンおよびラックの消耗、破損などが生じる可能性を低く抑えることができる。
【0015】
この場合、2つのレールが2つの支点となることから、それらの間に存在するラックおよびピニオンは水平に近い形で振動する。斜めに振動するとラックおよびピニオンの歯にも斜めの力が加わり摩耗(偏摩耗)し易くなるが、水平に近い振動であれば、斜めの力が加わり難くなる。したがって、上記構成によれば、ピニオンおよびラックが摩耗(偏摩耗)し難くなるという効果が得られる。
【0016】
請求項2に記載の移動ロボットでは、搬送機構部のラックおよびピニオンは、垂直方向において互いの歯が噛み合うように配置されている。このような配置によれば、ロボットが振動した際には、その振動に伴い、ラックおよびピニオンは、互いの歯が擦れ合うように動くものの、互いの歯同士が衝突するような動作とはならない。したがって、上記構成によれば、ロボットの振動に伴ってラックおよびピニオンが破損する、といった搬送機構部の故障を確実に防止することができる。
【0017】
請求項3に記載の移動ロボットでは、搬送機構部のラックは、その歯が垂直方向の下向きになるように配置されている。このような配置によれば、ラックの歯に塵や埃などの異物が堆積することが防止される。したがって、上記構成によれば、ラックおよびピニオンの間における異物の噛み込みなどに起因する搬送機構部の故障を防止することができる。
【0018】
請求項4に記載の移動ロボットでは、搬送機構部は、ラックの垂直方向の上側の部位から側面部を覆う第2カバーを備えている。このような第2カバーが設けられていない場合、ラックの全面が露出した状態となっているため、作業者などの手がラックに触れている状態において、その手に移動ロボットが衝突することも考えられる。この場合、移動ロボットとラックの間に手が挟まれる形となり、ラック表面の凹凸で擦れることにより手に痛みが生じるおそれがある。これに対し、上述した構成のように第2カバーが設けられていれば、同様のケースが生じた場合でも、作業者などの手がラック表面の凹凸で擦れることがないため、安全性を一層高めることができる。
【0019】
請求項5に記載の移動ロボットは、第1カバーの工程エリア側の垂直方向で上側の少なくとも一部を覆う板部材を備えている。そして、その板部材の直線移動の方向における両側面には、その外側に向けて板部材の厚みが薄くなるような傾斜部が形成されている。このような構成によれば、仮に移動ロボットが工程エリア間を移動する際に揺れたとしても、工程エリアに設けられる設備や壁などには、移動ロボットの構成のうち最も工程エリア側に存在する板部材が接触する。このような板部材の接触によって移動ロボットは、工程エリアとは反対側へと押し戻されて揺れが増すことが抑えられる。
【0020】
また、板部材が設備や壁などに接触した際、板部材は、その両側面に形成された傾斜部の存在により、設備や壁などの隙間によって形成される段差に引っ掛からずに乗り越えていけることになる。このように、上記構成によれば、移動ロボットが工程エリア間を移動している際に揺れが生じたとしても、その揺れの影響を大きく受けることなく、スムーズに移動ロボットを移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態を示すもので、生産システムの構成を模式的に示す図
【
図2】移動ロボットおよび壁の位置関係を説明するための図
【
図3】直動軸の工程エリア側から見た移動ロボットの平面図であり、ベースが垂直方向の中間部に位置した状態を示す図
【
図4】直動軸の工程エリアとは反対側から見た移動ロボットの平面図であり、ベースが垂直方向の中間部に位置した状態を示す図
【
図5】直動軸の工程エリア側から見た移動ロボットの平面図であり、ベースが垂直方向の最上部に位置した状態を示す図
【
図6】直動軸の工程エリアとは反対側から見た移動ロボットの平面図であり、ベースが垂直方向の最上部に位置した状態を示す図
【
図7】直動軸の工程エリア側から見た移動ロボットの斜視図であり、アームを伸ばした状態を示す図
【
図8】直動軸の工程エリアとは反対側から見た移動ロボットの斜視図であり、アームが折り畳まれた状態を示す図
【
図11】移動ロボットの斜視図であり、垂直方向の上側の部位における移動体のプレートおよびカバーのフレームを拡大して示す図
【
図12】移動ロボットを垂直方向の上側から見た上面図
【
図14】一実施形態および第1比較例における各部の配置を模式的に示す図
【
図15】第2比較例における移動ロボットの斜視図であり、垂直方向の上側の部位における移動体のプレートおよびカバーのフレームを拡大して示す図
【
図16】第2比較例の構成において、アーム部を折り畳んだ状態から工程エリア側に伸ばした状態へと動作させた際におけるアーム先端の水平方向の変位量を示す図
【
図17】一実施形態の構成において、アーム部を折り畳んだ状態から工程エリア側に伸ばした状態へと動作させた際におけるアーム先端の水平方向の変位量を示す図
【
図18】第3比較例における搬送機構部の構成を模式的に示す平面図
【
図19】第3比較例における搬送機構部の構成を模式的に示す側面図
【
図20】第4比較例における搬送機構部の構成を模式的に示す平面図
【
図21】第4比較例における搬送機構部の構成を模式的に示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示す生産システム1は、工場設備に設けられている。生産システム1では、移動ロボット2を用いて例えば自動車部品の生産が行われる。
【0023】
生産システム1では、直動軸3に沿って、その片側(
図1における上側)に並ぶように、移動ロボット2が作業を行う複数の工程エリア4が配置されている。工程エリア4には、例えば移動ロボット2が作業を行う作業領域が設けられるとともに、作業を行うために必要な各種の設備が設けられる。
【0024】
直動軸3の片側(
図1における上側)において、工程エリア4が配置されない場所には、壁5が立設されている。壁5は、例えばプラスチックなどの透明な部材により構成されている。
図2にも示すように、壁5は、レール3ひいては移動ロボット2に接近した位置に配置されている。なお、接近した位置とは、壁5と移動ロボット2との間に人の手が入らない程度の隙間が形成される位置のことである。
【0025】
直動軸3は、複数の工程エリア4の並び方向(
図1における左右方向)に沿うように長く延び、例えば工場の床上に設けられている。なお、直動軸3の工程エリア4が配置される側とは反対の片側(
図1における下側)には、例えば作業者が通るための通路が設けられている。
【0026】
移動ロボット2は、直動軸3に沿って
図1における左右方向に直線移動されることにより、各工程エリア4の間を移動する。また、移動ロボット2は、工程エリア4の前では、所定の作業を実施する。所定の作業としては、例えばワークに対する部品の組み付け、ワークの加工、ワークの検査といった作業が挙げられる。
【0027】
続いて、移動ロボット2の構成について、その構成を模式的に示した
図3~
図13を参照して説明する。
移動ロボット2が備えるロボット6は、移動中には、カバー7に収容された状態となる。カバー7は、矩形箱状をなしており、その枠組みとなるフレーム7aに対し、図示しない板状の蓋部材を組み付けることにより構成されている。ただし、カバー7の前面(工程エリア4側の面)には、蓋部材は組み付けられておらず、そのために開口7bが存在する。ロボット6は、工程エリア4の前では、その開口7bを通じてアーム先端を工程エリア4側に向けて移動させる動作を伴う作業を実施する。
【0028】
カバー7内のロボット6の垂直方向(
図3などにおける上下方向)の上側の部位には、電気装置部8が配置されている。電気装置部8には、複数の電気部品として、例えば、移動時に音を発生するスピーカー9、移動時に点灯する表示灯10、図示しない各種のスイッチおよび端子台などが設けられている。カバー7は、電気装置部8が収容される第1収容空間11と、ロボット6が収容される第2収容空間12とを隔てる仕切り板7cを備えている。
【0029】
移動ロボット2は、衝突時の衝撃を和らげるためのバンパー13を備えている。バンパー13は、カバー7の両側面に取り付けられている。なお、ロボット6の動作を制御するコントローラ(制御装置)やロボット6などへの電源供給を行う電源などは、移動ロボット2の外部に設けられており、ケーブルなどを介して接続されている。
【0030】
移動ロボット2は、直動軸3に沿って直線移動する移動体14を備えている。この場合、移動体14は、例えばプレートなどから構成されている。移動体14は、その下端部に取り付けられたスライダ15を介して直動軸3に直線移動可能に支持されている。移動体14は、直動軸3に沿って
図3などにおける左右方向、つまり水平方向に自在に移動する。
図4、
図7、
図8などに示すように、直動軸3は、垂直方向に並列に配置された2つのレール3a、3bにより構成されている。
【0031】
移動ロボット2は、移動体14を直線移動させるための駆動機構である搬送機構部16を備えている。搬送機構部16は、ロボット6の垂直方向の下側に配置されている。搬送機構部16は、レール3a、3b側に設けられたラック17と、移動体14側に設けられたピニオン18と、ピニオン18を回転させるためのモータ19とを備えたラックアンドピニオンの駆動機構として構成されている。
【0032】
図9および
図10には、搬送機構部16およびそれに関連する構成の配置が模式的に示されている。なお、
図10には、レール3a、3bを例えば工場の床上に設置するためのレール固定部材20も図示されている。
図9および
図10に示すように、レール3aは、ラック17およびピニオン18の垂直方向の上側に設けられ、レール3bは、ラック17およびピニオン18の垂直方向の下側に設けられている。
【0033】
上記構成において、ラック17およびピニオン18は、垂直方向において互いの歯が噛み合うように配置されている。また、ラック17は、その歯が垂直方向の下向きになるように配置されている。この場合、搬送機構部16は、ラック17の垂直方向の上側の部位から側面部を覆うカバー31を備えている。
【0034】
ロボット6は、ベース21およびアーム部22を備えている。アーム部22は、2アームの構成であり、第1アーム23、第2アーム24などを備えている。ベース21は、移動体14を構成するプレートに対して垂直方向に移動可能に取り付けられている。つまり、ロボット6は、ベース21を介して移動体14に垂直方向に沿って移動(上下動)可能に取り付けられている。昇降機構部25は、ベース21を垂直方向に移動させる昇降動作を行うための駆動機構である。昇降機構部25は、移動体14を構成するプレートに支持されている。
【0035】
ベース21には、第1アーム23の基端部が垂直軸J1を中心に回転可能に連結されている。第1アーム23は、モータ26などからなる駆動機構により、垂直軸J1を中心に水平方向に旋回(回転)される。モータ26は、その回転軸の先端部が垂直方向で下向きとなるようにベース21の上方に配置されている。なお、モータの回転軸の先端部とは、モータ本体から突出している側の端部のことを言う。
【0036】
第1アーム23の垂直軸J1とは反対側の端部である先端部には、第2アーム24の基端部が垂直軸J2を中心に回転可能に連結されている。第2アーム24は、モータ27、図示しないプーリおよびベルトなどからなる駆動機構により、垂直軸J2を中心に水平方向に旋回(回転)される。モータ27は、その回転軸が垂直方向で下向きとなるように第1アーム23の上方に配置されている。
【0037】
第2アーム24の垂直軸J2とは反対側の端部である先端部は、ロボット6のアーム先端となり、例えばワークを把持するためのチャック(ハンド)などの作業用のツール(図示略)が着脱可能に取り付けられるようになっている。第2アーム24の先端部に取り付けられたツールは、モータ28などから構成される駆動機構により、垂直軸J3を中心に回転される。モータ28は、その回転軸が垂直方向で下向きとなるように第2アーム24の上方に配置されている。
【0038】
この場合、第2アーム24のアーム長は、第1アーム23のアーム長よりも短くなっている。
図3、
図8などに示すように、ロボット6は、第1アーム23および第2アーム24を垂直方向に重ねるように折り畳んだ状態でカバー7に収容されるように構成されている。第1アーム23の工程エリア4側の側面には、上述したような配置状態において、モータ28の一部が入り込むことが可能な切欠き部23aが設けられている。
【0039】
なお、上記構成において、垂直軸J1は第1垂直軸に相当し、モータ26は第1垂直軸を駆動する駆動力を発生する第1モータに相当する。また、垂直軸J2は第2垂直軸に相当し、モータ27は第2垂直軸を駆動する駆動力を発生する第2モータに相当する。また、垂直軸J3は第3垂直軸に相当し、モータ28はアーム先端に取り付けられるツールを、第3垂直軸を中心に回転させるための駆動力を発生する第3モータに相当する。
【0040】
図3~
図6に示すように、仕切り板7cは、カバー7に形成された第2収容空間12側から第1収容空間11側へと突出するカップ状の凸部7dを備えている。このような凸部7dによって、第2収容空間12には、モータ26の一部を収容可能なモータ収容領域が確保されている。これにより、
図5および
図6に示すように、ベース21が昇降動作により垂直方向の最上部まで移動した際、モータ26の一部が上記モータ収容領域に収容されるようになっている。なお、詳細な図示は省略されているが、上記モータ収容領域は、仕切り板7cによって第1収容空間11から隔離されており、第2収容空間12に連通している。
【0041】
また、詳細な図示は省略されているが、カバー7の外殻を構成するフレーム7aは、垂直方向の下側の部位において搬送機構部16に支持されている。昇降機構部25およびベース21を支持する移動体14のプレートは、垂直方向の下側の部位では搬送機構部16を介してフレーム7aに固定されている。ただし、
図11に示すように、移動体14のプレートは、垂直方向の上側の部位では、フレーム7aから切り離されている。つまり、移動体14のプレートとカバー7のフレーム7aとは、両者が固定されておらず、お互いにフリーな状態となっている。
【0042】
図12および
図13に示すように、移動ロボット2は、カバー7の工程エリア4側の垂直方向の上側の一部を覆う板部材29を備えている。
図13に示すように、板部材29は、ロボット6のアーム部22の動作を妨げることがないように、カバー7の開口7bよりも垂直方向の上側だけを覆うような大きさとなっている。
【0043】
また、
図12に示すように、板部材29の水平方向(移動体14の直線移動の方向)における両側面、つまり
図12における左右両側の側面にはテーパが付けられている。具体的には、板部材29の両側面には、その外側に向けて板部材29の厚みが薄くなるような傾斜部29aが形成されている。
【0044】
次に、上記構成の作用について説明する。
移動ロボット2が工程エリア4間を移動する際、ロボット6はカバー7に収容された状態となる。このとき、ロボット6は、
図8に示すような配置状態、つまり第1アーム23および第2アーム24を垂直方向に重ねるように折り畳んだ配置状態となっている。
【0045】
また、工程エリア4の前では、ロボット6は、アーム先端である第2アーム24の先端部を工程エリア4側に向けて移動させる動作を伴う作業を行う。具体的には、ロボット6は、第1アーム23を第1回転方向(例えば反時計回り)に回転させるとともに、第2アーム24を第1回転方向とは逆回りの第2回転方向(例えば時計回り)に回転させる。これにより、第2アーム24の先端部は、工程エリア4に向けて移動する。そして、本実施形態では、第2アーム24の先端部が辿る軌跡が直線状となるように、第1アーム23および第2アーム24の回転の角速度が制御されるようになっている。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果が得られる。
生産システム1では、移動ロボット2が工程エリア4間を移動する際、ロボット6はカバー7に収容されているため、周囲にいる人がロボット6に接触することがなくなる。そして、工程エリア4の前では、ロボット6はカバー7の開口7bを通じて所定の作業を実施することができる。また、この際、カバー7の前面(工程エリア4側)を除く周囲は蓋部材により覆われているため、工程エリア4側以外の方向(例えば、作業者が通るための通路側)からの人の接触を確実に防止することができる。
【0047】
ただし、カバー7には開口7bが存在するため、工程エリア4側にいる人が敢えて開口7bから手をカバー7無いに入れるといった行動をとった場合、ロボット6に接触する可能性はある。しかし、作業者などが、敢えて自らを危険にさらすような上記行動をとることは極めて稀なケースであり、通常はこのような行動をとることはほとんど考えられないため、ほとんどの場合には問題は生じない。ただし、このような起こる可能性が極めて低いケースに対しても対策を施すことで、より一層安全性を高めることが可能となる。
【0048】
そこで、生産システム1では、工程エリア4側の方向からの人の接触についても防止するため、次のような対策が施されている。すなわち、この場合、直動軸3の工程エリア4側において工程エリア4が配置されない場所には壁5が設置されている。このようにすれば、移動ロボット2の移動中、直動軸3の工程エリア4側から作業者などが、移動ロボット2の存在に気付かずに、または敢えて直動軸3側に向けて手を伸ばそうとしたとしても、壁5に阻まれて手を伸ばすことはできず、誤ってロボット6に接触することがない。
【0049】
なお、生産システム1では、壁5は、直動軸3の工程エリア4とは反対側(通路側)には設けられていない。なぜなら、通路側には工程エリア4が存在しないため、見通しが良くなっており、移動ロボット2が視認し易いことから、作業者などが誤ってロボット6に接触する可能性が低い。逆に、通路側に壁5を設けると、視認性が悪化して移動ロボット2への接触が生じる可能性が高まるおそれがある。そのため、本実施形態では、通路側には壁5を設けないようにしている。
【0050】
これに対し、工程エリア4側、特に連続する工程エリア4同士の間では、工程エリア4が死角となって、作業者などが移動ロボット2の存在に気付けない、といったことが起こり得る(見通しが悪い)。作業者などが、移動ロボット2の存在に気付かずに、移動ロボット2の進路に突然飛び出してしまうと、移動ロボット2に衝突するおそれがあり、さらには開口7bを通してロボット6に接触するおそれもある。このような事態の発生を未然に防止するために、本実施形態では、前述したとおり、直動軸3の工程エリア4側において工程エリア4が配置されない場所に壁5を設け、その壁5が上記飛び出しを抑制するための安全柵として機能するようにしている。
【0051】
さらに、この場合、壁5は、直動軸3に接近した位置に配置されており、壁5と移動ロボット2との間には、人の手が入らないような隙間しか形成されていない。したがって、作業者などが壁5と移動ロボット2(カバー7)の間に誤って手を入れてしまうことも防止できる。
【0052】
上述したように壁5を設置した場合、壁5が設置されていない場合に比べると、作業者などの視界が遮られて見通しが悪くなるおそれがある。そこで、本実施形態では、壁5をプラスチックなどの透明な部材により構成している。このようにすれば、作業者などの視界を良好に維持しつつ、安全性を向上させることができる。
【0053】
なお、壁5を設けることなく、カバー7の開口7bを開閉可能なシャッターを設けることで、安全性を高めるといった対策も考えられる。この場合、移動中にシャッターを閉じることで、作業者などがロボット6に接触することを防止できる。しかし、この場合、壁5が存在しないため、作業者などが、工程エリア4同士の間から移動ロボット2の進路へと手足を出すことは防げない。そのため、工程エリア4同士の間から出した手が移動ロボット2に衝突するおそれがある。一方、本実施形態のように壁5を設ければ、このような衝突についても確実に防止することができる。
【0054】
このように、本実施形態の移動ロボット2によれば、移動ロボット2の走行路の周囲に侵入禁止領域を大きく確保せずとも、作業者などの安全性を確保することができる。したがって、このような移動ロボット2を用いた生産システム1によれば、その小型化を図りつつ、人に対する安全性を高めることができるという優れた効果が得られる。
【0055】
上記構成において、搬送機構部16は、ロボット6の垂直方向の下側に配置されている。このようにすれば、搬送機構部16がロボット6の垂直方向の上側に配置される構成に比べて直動軸3の設置性が向上する。なぜなら、直動軸3は、複数の工程エリア4の並び方向に沿って延びるように設置されることから、その長さは比較的長く、また、その重量は比較的重い。搬送機構部16がロボット6の上側に配置される構成では、このような長く且つ重い直動軸をロボット6の上側の高さまで持ち上げる必要があるため、設置作業が困難なものとなる。これに対し、本実施形態のように、搬送機構部16がロボット6の下側に配置される構成によれば、長く且つ重い直動軸3をロボット6の上側の高さまで持ち上げる必要がないため、設置作業が容易になる、つまり、直動軸3の設置性が向上する。
【0056】
さらに、上記構成では、直動軸3以外の構成、つまり移動体14、ロボット6、カバー7などの総重量も比較的重い。上述したような搬送機構部16(直動軸3)が上側に配置される構成では、直動軸3以外の構成を持ち上げて架設する必要があるため、設置作業が困難なものとなる。また、搬送機構部16が上側に配置される構成の場合、直動軸3は、設備などのメンテナンス性を良好にするためには一層高い位置に配置することが望ましい。そのため、上記構成では、設置作業がさらに困難なものとなってしまう。これに対し、本実施形態のように搬送機構部16(直動軸3)が下側に配置される構成の場合、直動軸3は、設備などのメンテナンス性を良好にするためには一層低い位置に配置することが望ましい。そのため、本実施形態の構成によれば、設置作業がさらに容易なものとなる。
【0057】
上記構成において、モータ26~28は、いずれも、その回転軸の先端部が垂直方向で下向きとなるように配置されている。ロボット6が作業する環境では、切削油などが飛散する可能性があるが、モータ26~28を上記したように配置すれば、切削油などが回転軸を伝ってモータ26~28の内部に侵入するリスクを低減することができる。また、電気装置部8は、カバー7内のロボット6の垂直方向の上側に配置され、カバー7は、電気装置部8が収容される第1収容空間11とロボット6が収容される第2収容空間12とを隔てる仕切り板7cを備えている。このようにすれば、切削油などが電気装置部8に侵入し、電気部品の動作に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0058】
上記構成では、移動ロボット2の垂直方向の長さ、つまり高さ寸法を小さく抑えるため、次のような工夫が加えられている。すなわち、仕切り板7cは、第2収容空間12側から第1収容空間11側へと突出する凸部7dを備え、第2収容空間11には、凸部7dにより、モータ26の一部を収容可能なモータ収容領域が確保されている。そして、ベース21が昇降動作により垂直方向の最上部まで移動した際、モータ26の一部が上記モータ収容領域に収容されるように構成されている。また、ロボット6は、第1アーム23および第2アーム24を垂直方向に重ねるように折り畳んだ配置状態でカバー7に収容するように構成されており、第1アーム23には、上記した配置状態において、モータ28の一部が入り込むことが可能な切欠き部23aが設けられている。
【0059】
このような工夫が加えられた本実施形態の構成によれば、このような工夫が加えられていない構成(以下、第1比較例と呼ぶ)に比べ、移動ロボット2の奥行寸法を増やすことなく、その高さ寸法を小さく抑えることができる。以下、このような本実施形態による効果について、本実施形態および第1比較例における各部の配置を模式的に示す
図14を参照して説明する。
【0060】
なお、
図14に示すワークエリア部30は、ロボット6が作業を行うために確保される領域であり、その高さ寸法は、ユーザにより使用されるツールやワークの高さ寸法に応じて予め定められている。また、
図14に示す昇降ストロークは、ベース21の昇降動作の移動量であり、ロボット6の作業内容に応じて予め定められている。
【0061】
図14からも明らかなように、本実施形態によれば、第1比較例に対し、同様の昇降動作の移動量、つまり昇降ストロークおよび同様のワークエリア部30を確保しつつ、移動ロボット2の高さ寸法を小さく抑えることができる。このように、本実施形態の移動ロボット2によれば、防滴仕様を実現しつつ、高さ方向の寸法を小さく抑えることができる。
【0062】
したがって、このような移動ロボット2を用いて生産システム1を構成すれば、その小型化を図ることができる。また、上記構成の移動ロボット2は、防滴仕様が要求される環境、例えば加工ライン向けなど、切削油が付着する可能性のある環境において好適なものとなる。
【0063】
さらに、本実施形態では、移動ロボット2は、その高さ寸法が小さく抑えられた結果、例えば第1比較例の構成に対し、重心が低くなっている。このように移動ロボット2の重心が低くなることにより、例えば移動ロボット2の移動時などにおける揺れが小さく抑えられるという効果も得られる。
【0064】
本実施形態の構成によれば、上述したように、移動ロボット2の高さ寸法を小さく抑えることが可能であるが、高さ寸法を小さく抑える代わりに、ワークエリア部30を広く確保することや昇降ストロークを大きく確保することなども可能である。このようにすれば、比較的大きいワークへの対応が可能になるなど、実施可能な作業の幅が広がるといった効果が得られる。
【0065】
なお、本実施形態の構成では、第1収容空間11には複数の電気部品が設けられており、それら電気部品は、配置に関する制約があるような機構部品に比べると、その配置の自由度は極めて高い。そのため、本実施形態によれば、第1収容空間11に上述したモータ収容領域を容易に確保することができる。
【0066】
上記構成において、搬送機構部16は、ロボット6の垂直方向の下側に配置されている。そして、カバー7の外殻を構成するフレーム7aは、垂直方向の下側の部位において搬送機構部16に支持されている。また、昇降機構部25およびロボット6のベース21を支持する移動体14のプレートは、垂直方向の下側の部位ではフレーム7aに固定され、垂直方向の上側の部位ではフレーム7aから切り離されている。このような構成によれば、ロボット6が動作した際、その動作により生じる振動が減衰し易くなる。
【0067】
以下、このような本実施形態による効果について、本実施形態と第2比較例とを比較して説明する。第2比較例は、
図15に示すように、昇降機構部25およびロボット6のベース21を支持する移動体14のプレートが垂直方向の上側の部位でも、フレーム7aに例えばネジなどにより固定された構成となっている。ロボット6の動作により生じた振動は、昇降機構部25を介してフレーム7aの下側の部位へと伝わり、これによりフレーム7aひいてはカバー7が振動する。ここで、第2比較例のように、昇降機構部25などが垂直方向の上側の部位でもフレーム7aに接続されていたとすると、フレーム7aの振動が昇降機構部25を介して再びロボット6へと伝達されてしまい、その結果、ロボット6の振動が減衰し難くなり、逆に増幅されるおそれもある。
【0068】
これに対し、上記構成では、昇降機構部25などが垂直方向の上側の部位ではフレーム7aから切り離されているため、フレーム7aの振動が再びロボット6へと伝達されることがない。また、昇降機構部25などが垂直方向の上側の部位は、フリーな状態となっていることから、ロボット6の動作により生じた振動に伴って自由に揺れ動くことになり、その振動が増幅されることはない。そのため、上記構成では、ロボット6の動作により生じた振動は、増幅されることなく減衰し易くなる。このように、上記構成の移動ロボットによれば、振動を抑制することができる。
【0069】
図16および
図17は、それぞれ第2比較例および本実施形態の構成において、アーム部22を折り畳んだ状態から工程エリア4側に伸ばした状態へと動作させた際における第2アーム24の先端部の水平方向の変位量を示している。これら
図16および
図17から明らかなように、本実施形態の構成によれば、第2比較例の構成に比べ、ロボット6の動作により生じた振動がアーム先端に及ぼす影響が小さくなることが分かる。したがって、このような移動ロボット2を用いて生産システム1を構成すれば、例えばワークの投入動作時または排出動作時におけるロボット6の揺れに起因した作業ミスの発生を抑制することができ、その結果、作業時間の短縮を図ることができる。
【0070】
また、本実施形態の構成では、昇降機構部25は、垂直方向の下側の部位では、搬送機構部16を介してフレーム7aに固定されている。すなわち、この場合、フレーム7aおよび昇降機構部25は、いずれも垂直方向の下側の部位において搬送機構部16に支持されている。そして、この場合、フレーム7aおよび昇降機構部25は、垂直方向の上側の部位では、互いに切り離されている。第2比較例のように、フレーム7aおよび昇降機構部25が、垂直方向の上側の部位で互いに接続されていたとすると、フレーム7aおよび昇降機構部25が一体の構成物であると捉えることができる。そのため、この場合、ロボット6の動作により振動が生じると、フレーム7aおよび昇降機構部25は、その構成物の固有振動数でもって振動する。
【0071】
これに対し、本実施形態の構成では、フレーム7aおよび昇降機構部25は、垂直方向の上側の部位では互いに切り離されているため、ロボット6の動作により振動が生じた際、フレーム7aはフレーム7aの固有振動数でもって振動し、昇降機構部25は昇降機構部25の固有振動数でもって振動する。そのため、上記構成では、ロボット6の動作により振動が生じた際、フレーム7aの振動と、昇降機構部25の振動とが、搬送機構部16を介して互いに打ち消し合うような作用が得られ、その結果、ロボット6の動作により生じた振動が一層減衰し易くなる。
【0072】
上記構成では、昇降機構部25が、垂直方向の上側の部位でフレーム7aから完全に切り離された状態であるため、例えば工程エリア4間を移動する移動時などのロボット6が動作していないときに、昇降機構部25ひいてはロボット6が振動する可能性がある。そこで、昇降機構部25の垂直方向の上側の部位とフレーム7aとの間に、例えばダンパなどからなる緩衝部材を介在させてもよい。
【0073】
このように緩衝部材を設ければ、ロボット6の非動作時における振動を軽減することができる。そして、このように緩衝部材を設けた場合でも、昇降機構部25の上側の部位とフレーム7aとの間での振動の伝達は緩衝部材によって妨げられるため、ロボット6の非動作時における振動を抑えつつ、ロボット6が動作した際に揺れが増幅することを抑え、ロボット6の動作に起因して生じた揺れを素早く減衰させることができる。さらに、上記構成によれば、ロボット6の動作により振動が生じた際、フレーム7aの振動と、昇降機構部25の振動とが、緩衝部材を介して互いに打ち消し合うような作用が得られ、その結果、ロボット6の動作により生じた振動が一層減衰し易くなる。
【0074】
本実施形態の移動ロボット2は、カバー7の工程エリア4側の垂直方向で上側の一部を覆う板部材29を備えている。そして、その板部材29の両側面には、その外側に向けて板部材29の厚みが薄くなるような傾斜部29aが形成されている。このような構成によれば、移動ロボット2が工程エリア4間を移動する際に揺れたとしても、工程エリア4に設けられる設備や壁5などには、移動ロボット2の構成のうち最も工程エリア4側に存在する板部材29が接触する。そして、このような板部材29の接触によって移動ロボット2は、工程エリア4とは反対側へと押し戻されて揺れが増すことが抑えられる。
【0075】
また、板部材29が工程エリア4に設けられる設備や壁5などに接触した際、板部材29は、その両側面に形成された傾斜部29aの存在により、設備や壁5などの隙間によって形成される段差に引っ掛からずに乗り越えていけることになる。このように、本実施形態によれば、移動ロボット2が工程エリア4間を移動している際に揺れが生じたとしても、その揺れの影響を大きく受けることなく、スムーズに移動ロボット2を移動させることができる。
【0076】
上記構成において、直動軸3は、垂直方向に並列に配置された2つのレール3a、3bを備え、移動体14は、垂直方向の下側に設けられたスライダ15を介してレール3a、3bに支持されている。また、搬送機構部16は、レール3a、3b側に設けられたラック17と移動体14側に設けられたピニオン18とを備えたラックアンドピニオンの駆動機構として構成されている。
【0077】
このような構成によれば、レール3a、3bの1つあたりの重量を軽くすることが可能となるため、例えば
図18および
図19に示すように、レール3a、3bの幅を足し合わせた幅を持つ幅広の1つのレール40によりロボット6を支持するようにした第3比較例に比べ、直動軸3の設置作業を容易にすることができる。
【0078】
すなわち、本実施形態の構成では、直動軸3を地面から離れた位置に設置するために作業者などが持ち上げることが必須となるため、持ち上げる部品である直動軸3の重量が重くなるほど設置の際に必要な作業者の人数が多くなったり、可搬重量の大きな機器を使用して設置作業を行ったりしなければならず、作業工数および設置時間の増加を招いてしまう。
【0079】
本実施形態のように直動軸3を2つのレール3a、3bから構成する、つまり直動軸3を2つのレール3a、3bに分割すると、設置作業の際に持ち上げる部品、つまり1つのレール3aまたは3bの重量が軽くなり、作業性が向上し、その作業に必要な作業者の人数を少なく抑えることが可能となる。なお、このような効果は、移動ロボット2の移動距離(直動軸3の長さ)が長くなるほど、つまり、より多くの工程エリア4間を移動させるような構成にするほど、一層有益なものとなる。
【0080】
また、本実施形態では、レール3aは、ラック17およびピニオン18の垂直方向の上側に設けられ、レール3bは、ラック17およびピニオン18の垂直方向の下側に設けられている。本実施形態では、このような配置を採用することにより、第3比較例と同程度、あるいはそれ以上の安定した支持が実現され、その結果、移動ロボット2の移動時における振動の発生を抑制することができる。
【0081】
すなわち、このような構成において、ロボット6の支持の安定性は、直動軸を構成するレールの幅ではなく、レールに対してスライダが支持される2点間、つまりレールの垂直方向の上端部と下端部との間の距離に応じたものとなる。したがって、2つの比較的幅の狭いレール3a、3bであっても、垂直方向の上側に配置されるレール3aの上端部から垂直方向の下側に配置されるレール3bの下端部までの距離が、1つの比較的幅の広いレール40の幅と同様の長さとなるように配置すれば、同程度の安定した支持が実現される。さらに、2つのレール3a、3bのそれぞれに対してスライダ15が支持される構成となることで、上側のレール3aの上端部および下端部と、下側のレール3bの上端部および下端部と、の4点での支持となり、支持の安定性が一層向上する効果が得られる。
【0082】
さらに、上述した配置によれば、次のような効果も得られる。すなわち、
図20および
図21に示す第4比較例のように、2つのレール3a、3bの双方をラック17およびピニオン18の上側にまとめて配置した場合、本実施形態の構成に比べ、スライダ15からピニオン18までの距離が長くなる。ロボット6はスライダ15を介して直動軸3に支持されているため、ロボット6が振動した場合には、スライダ15を支点として揺れるため、その支点から離れた部位ほど、揺れ幅が大きくなる。そのため、スライダ15からピニオン18までの距離が長い場合、ロボット6が振動した場合におけるピニオン18の揺れが大きなものとなる。ピニオン18の揺れが大きくなると、ピニオン18とラック17との摩擦が大きくなり、最悪の場合には衝突が生じ、ピニオン18およびラック17の消耗(摩耗)、破損などを招くおそれがある。
【0083】
これに対し、本実施形態のように、2つのレール3a、3bをラック17およびピニオン18の垂直方向の上下に分けて配置すれば、2つのレール3a、3bからピニオン18までの距離が2つのレール3a、3bをまとめて配置した第4比較例の構成に比べて短くなるため、ロボット6が振動した場合のピニオン18の揺れ幅が小さく抑えられ、その結果、ピニオン18およびラック17の消耗、破損などが生じる可能性を低く抑えることができる。
【0084】
この場合、2つのレール3a、3bが2つの支点となることから、それらの間に存在するラック17およびピニオン18は水平に近い形で振動する。斜めに振動するとラック17およびピニオン18の歯にも斜めの力が加わり摩耗(偏摩耗)し易くなるが、水平に近い振動であれば、斜めの力が加わり難くなる。したがって、上記構成によれば、ピニオン18およびラック17が摩耗(偏摩耗)し難くなるという効果が得られる。
【0085】
本実施形態では、搬送機構部16のラック17およびピニオン18は、垂直方向において互いの歯が噛み合うように配置されている。このような配置によれば、ロボット6が振動した際には、その振動に伴い、ラック17およびピニオン18は、互いの歯が擦れ合うように動くものの、互いの歯同士が衝突するような動作とはならない。したがって、上記構成によれば、ロボット6の振動に伴ってラック17およびピニオン18が破損する、といった搬送機構部16の故障を確実に防止することができる。
【0086】
本実施形態では、搬送機構部16のラック17は、その歯が垂直方向の下向きになるように配置されている。このような配置によれば、ラック17の歯に塵や埃などの異物が堆積することが防止される。したがって、本実施形態によれば、ラック17およびピニオン18の間における異物の噛み込みなどに起因する搬送機構部16の故障を防止することができる。
【0087】
本実施形態では、搬送機構部16は、ラック17の垂直方向の上側の部位から側面部を覆うカバー31を備えている。このようなカバー31が設けられていない場合、ラック17の全面が露出した状態となっているため、作業者などの手がラック17に触れている状態において、その手に移動ロボット2が衝突することも考えられる。この場合、移動ロボット2とラック17の間に手が挟まれる形となり、ラック17表面の凹凸で擦れることにより手に痛みが生じるおそれがある。これに対し、本実施形態の構成のようにカバー31が設けられていれば、同様のケースが生じた場合でも、作業者などの手がラック17表面の凹凸で擦れることがないため、安全性を一層高めることができる。
【0088】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
【0089】
視認性の低下などが安全性に影響を及ぼさない範囲であれば、壁5は、例えば木材など不透明な部材で構成してもよい。
移動ロボット2が備えるロボットとしては、2つのアームを備えたロボット6に限らずともよく、一般的な水平多関節型ロボットや垂直多関節型ロボットなど様々なロボットを用いることができる。
移動ロボット2が備える各構成の配置などは、上記実施形態において示したものに限らずともよく、適宜変更可能である。
搬送機構部16の具体的な構成は、上記実施形態において示した構成に限らずともよく、適宜変更可能である。
搬送機構部16のラック17の垂直方向の上側の部位から側面部を覆うカバー31は、必要に応じて設ければよい。
【符号の説明】
【0090】
1…生産システム、2…移動ロボット、3…直動軸、3a、3b…レール、4…工程エリア、5…壁、6…ロボット、7…カバー、7a…フレーム、7b…開口、7c…仕切り板、7d…凸部、8…電気装置部、11…第1収容空間、12…第2収容空間、14…移動体、15…スライダ、16…搬送機構部、17…ラック、18…ピニオン、21…ベース、22…アーム部、23…第1アーム、23a…切欠き部、24…第2アーム、25…昇降機構部、26~28…モータ、29…板部材、29a…傾斜部。