(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2017234906
(22)【出願日】2017-12-07
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】特許業務法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 歩夢
【審査官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-227648(JP,A)
【文献】特開2017-045031(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010251(WO,A1)
【文献】特開2006-188661(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0041734(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤液が入れられた膨潤槽中に配置されたガイドローラによってフィルムを搬送し膨潤させる膨潤工程、染色液が入れられた染色槽中に配置された2本以上のガイドローラによって
前記フィルムを搬送し、前記フィルムを染色液に浸漬する染色工程、
架橋液が入れられた架橋槽中に配置されたガイドローラによって前記フィルムを搬送し架橋する架橋工程、洗浄液が入れられた洗浄槽中に配置されたガイドローラによって前記フィルムを搬送し洗浄する洗浄工程、を順に有し、
前記染色槽のガイドローラのうち少なくとも1本のガイドローラが、JIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有
し、
前記膨潤槽、架橋槽、及び洗浄槽の各ガイドローラが、いずれもJIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μmを超える表面粗さを有する、偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記染色槽中の最も入口側に配置されたガイドローラ及び最も出口側に配置されたガイドローラが、いずれもJIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有する、請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記染色槽中に配置された全てのガイドローラが、算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有する、請求項1または2に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記染色液が、ヨウ素を含み、前記フィルムが、ポリビニルアルコール系フィルムを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
膨潤液が入れられ且つフィルムを搬送するガイドローラが配置されている膨潤槽と、染色液が入れられ
且つ前記フィルムを搬送する2本以上のガイドローラが配置されている染色槽と、
架橋液が入れられ且つ前記フィルムを搬送するガイドローラが配置されている架橋槽と、洗浄液が入れられ且つ前記フィルムを搬送するガイドローラが配置されている洗浄槽と、を備え、
前記染色槽のガイドローラのうち少なくとも1本のガイドローラが、JIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有
し、
前記膨潤槽、架橋槽、及び洗浄槽の各ガイドローラが、いずれもJIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μmを超える表面粗さを有する、偏光フィルムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置や偏光サングラスなどの構成材料として、偏光フィルムが使用されている。偏光フィルムとしては、例えば、ヨウ素などの二色性物質を配向させたフィルムが知られている。
このような偏光フィルムは、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムに膨潤処理、染色処理、及び架橋処理を施すことによって得られる。
特許文献1には、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理及び洗浄処理する間に2本のニップローラ間の周速差を利用して一軸延伸する偏光フィルムの製造方法において、ホウ酸処理工程の直前に、ホウ酸処理液に浸漬しつつ気中及び液中の順に配置された2本のニップローラによって一軸延伸を行う延伸工程において、浸漬直前のフィルム幅に対する浸漬後のフィルム幅の減少率を6%以下とする偏光フィルムの製造方法が開示されている。また、特許文献1には、前記延伸工程において、フィルムが浸漬してから液中ニップローラに搬送されるまでのガイドローラとして、JISショアC硬度で20~60度、密度0.4~0.6g/cm3、表面粗さ10~30Sのガイドローラを用いることが開示されている。
特許文献1には、前記製造方法によれば、吸収軸のバラツキが小さい偏光フィルムを製造できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、技術改良により、偏光フィルムの偏光度も随分と向上してきているが、市場では、より偏光度に優れた偏光フィルムが求められている。
また、偏光フィルムの光学特性としては、偏光度のみならず、色相も重要な要素である。しかしながら、y値(xy色度図)が比較的大きい偏光フィルムを製造することは困難である。
【0005】
本発明の第1の目的は、より優れた偏光度を有する偏光フィルムの製造方法及びその製造装置を提供することである。
本発明の第2の目的は、より優れた偏光度を有し、さらに、比較的大きいy値を有する偏光フィルムの製造方法及びその製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の偏光フィルムの製造方法は、膨潤液が入れられた膨潤槽中に配置されたガイドローラによってフィルムを搬送し膨潤させる膨潤工程、染色液が入れられた染色槽中に配置された2本以上のガイドローラによって前記フィルムを搬送し、前記フィルムを染色液に浸漬する染色工程、架橋液が入れられた架橋槽中に配置されたガイドローラによって前記フィルムを搬送し架橋する架橋工程、洗浄液が入れられた洗浄槽中に配置されたガイドローラによって前記フィルムを搬送し洗浄する洗浄工程、を順に有し、前記染色槽のガイドローラのうち少なくとも1本のガイドローラが、JIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有し、前記膨潤槽、架橋槽、及び洗浄槽の各ガイドローラが、いずれもJIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μmを超える表面粗さを有する。
【0007】
本発明の好ましい製造方法は、前記染色槽中の最も入口側に配置されたガイドローラ及び最も出口側に配置されたガイドローラが、いずれもJIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有する。
本発明の好ましい製造方法は、前記染色槽中に配置された全てのガイドローラが、算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有する。
本発明の好ましい製造方法は、前記染色液が、ヨウ素を含み、前記フィルムが、ポリビニルアルコール系フィルムを含む。
【0008】
本発明の別の局面によれば、偏光フィルムの製造装置を提供する。
本発明の偏光フィルムの製造装置は、膨潤液が入れられ且つフィルムを搬送するガイドローラが配置されている膨潤槽と、染色液が入れられ且つ前記フィルムを搬送する2本以上のガイドローラが配置されている染色槽と、架橋液が入れられ且つ前記フィルムを搬送するガイドローラが配置されている架橋槽と、洗浄液が入れられ且つ前記フィルムを搬送するガイドローラが配置されている洗浄槽と、を備え、前記染色槽のガイドローラのうち少なくとも1本のガイドローラが、JIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有し、前記膨潤槽、架橋槽、及び洗浄槽の各ガイドローラが、いずれもJIS B 0601;2013年に準じて測定される算術平均粗さRaで5.0μmを超える表面粗さを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の偏光フィルムの製造方法及び製造装置によれば、より偏光度に優れた偏光フィルムを製造できる。
また、本発明の好ましい偏光フィルムの製造方法及び製造装置によれば、より偏光度に優れ、比較的大きいy値を有する偏光フィルムを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の偏光フィルムの製造装置を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、用語の頭に、「第1」、「第2」を付す場合があるが、この第1などは、用語を区別するためだけに付加されたものであり、その順序や優劣などの特別な意味を持たない。また、「下限値X~上限値Y」で表される数値範囲は、下限値X以上上限値Y以下を意味する。前記数値範囲が別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値~任意の上限値」を設定できるものとする。
【0012】
偏光フィルムを製造するにあたって、任意のフィルムに有効成分を含む処理液を浸漬する。前記浸漬は、前記任意のフィルムに、処理液中の有効成分を、吸着、付着、含有、又は、結合させることを含む。本明細書において、有効成分とは、その処理液の使用目的のために必要な成分をいう。
本発明の偏光フィルムの製造方法は、通常、処理前のフィルムを膨潤させる膨潤工程、膨潤後の前記フィルムを染色する染色工程、染色後に架橋する架橋工程、架橋後に前記フィルムを洗浄する洗浄工程、を順に有し、さらに、前記フィルムを延伸する工程を有する。延伸工程は、前記各工程から選ばれる少なくとも1つの工程において行ってもよく、前記各工程から選ばれる2つの工程の間に行ってもよい。
また、本発明の偏光フィルムの製造方法は、前記各工程以外の工程を有していてもよい。
【0013】
[偏光フィルムの製造装置]
図1は、偏光フィルムの製造装置を示す参考図である。図中の矢印は、フィルムの進行方向(搬送方向)を示す。
製造装置1は、処理対象のフィルム2が巻かれた前ロール部31と、偏光フィルム9を巻き取る後ロール部32と、を有する。この製造装置1は、いわゆるロールツーロール方式で偏光フィルムを製造するものである。
前記前ロール部31と後ロール部32の間には、前ロール部31から順に、膨潤槽41を有する膨潤処理部、染色槽51を有する染色処理部、架橋槽61を有する架橋処理部、洗浄槽81を有する洗浄処理部が配置されている。図示例の製造装置1は、架橋処理部と洗浄処理部の間に、延伸槽71を有する延伸処理部が配置されている。
前ロール部31から繰り出され且つ搬送されるフィルム2は、膨潤処理部による膨潤工程、染色処理部による染色工程、架橋処理部による架橋工程、延伸処理部による延伸工程、洗浄処理部による洗浄工程を経て、後ロール部32に巻き取られる。
図中、符号11は、一対のニップローラを示す。フィルム2を搬送するために、幾つかのニップローラ11又は全てのニップローラ11には、駆動装置(モーターなど。図示せず)が具備されている。
また、製造装置の各処理部には、回転可能なガイドローラが具備されている。ガイドローラは、搬送されるフィルム2を誘導する機能を有する。ガイドローラは、膨潤処理部、染色処理部、架橋処理部、洗浄処理部などの各処理部の他、フィルム2の搬送経路中の適宜位置に配置されている。
前記各ガイドローラの直径及び軸方向長さは、フィルム2の幅に合わせて適宜設定される。例えば、各ガイドローラの直径は、100mm~1000mmであり、及び軸方向長さは、1m~5mである。
【0014】
<フィルム>
処理対象であるフィルム2は、長尺帯状である。長尺帯状は、長手方向の長さが短手方向(長手方向と直交する方向)の長さよりも十分に大きい長方形状をいう。長尺帯状のフィルム2の長手方向の長さは、例えば、10m以上であり、好ましくは50m以上である。
処理前のフィルム2は、前ロール部31に巻き付けられている。
フィルム2は、特に限定されないが、二色性物質による染色性に優れていることから、好ましくは、親水性ポリマーフィルム(例えば、ポリビニルアルコール系フィルムなど)を含むフィルムが用いられ、より好ましくは、親水性ポリマーフィルムが用いられる。前記親水性ポリマーフィルムを含むフィルムとしては、親水性ポリマーフィルムと非親水性ポリマーフィルムが積層されたフィルムが挙げられる。この場合、非親水性ポリマーフィルムの表面及び/又は裏面に前記親水性ポリマーフィルムが積層されていることが好ましい。
【0015】
前記親水性ポリマーフィルムとしては、特に限定されず、従来公知のフィルムが使用できる。具体的には、親水性ポリマーフィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系フィルム、これらの部分ケン化フィルムなどが挙げられる。また、これらの他にも、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物などのポリエン配向フィルム、延伸配向されたポリビニレン系フィルムなども使用できる。これらの中でも、特に二色性物質による染色性に優れることから、PVA系ポリマーフィルムが好ましい。
前記PVA系ポリマーフィルムの原料ポリマーとしては、例えば、酢酸ビニルを重合した後にケン化したポリマー、酢酸ビニルに対して少量の不飽和カルボン酸や不飽和スルホン酸等の共重合可能なモノマーを共重合したポリマー、などが挙げられる。前記PVA系ポリマーの重合度は、特に限定されないが、水に対する溶解度の点等から、500~10000が好ましく、より好ましくは、1000~6000である。また、前記PVA系ポリマーのケン化度は、75モル%以上が好ましく、より好ましくは、98モル%~100モル%である。前記フィルムの厚みは、特に限定されないが、例えば、15μm~110μmであり、好ましくは、38μm~110μmであり、より好ましくは、50μm~100μmである。
【0016】
<膨潤処理部>
膨潤処理部は、前記処理前のフィルム2を膨潤させるために設けられている。
膨潤処理部は、槽41(膨潤槽41)と、前記膨潤槽41に入れられた膨潤液42と、前記膨潤槽41中に配置されたガイドローラ43と、を有する。なお、後述する染色処理部で十分に膨潤するフィルムが用いられる場合には、膨潤処理部は、省略してもよい。
図示例では、膨潤処理部は1つだけ設置されているが、フィルムの進行方向に2つ以上の膨潤処理部(2つ以上の膨潤槽)を並設してもよい(図示せず)。
前記膨潤液42としては、例えば、水を使用することができる。更に、水に、グリセリンやヨウ化カリウムなどを適量加えた水を膨潤液としてもよい。グリセリンを添加する場合、その濃度は5重量%以下が好ましく、ヨウ化カリウムを添加する場合、その濃度は10重量%以下が好ましい。
【0017】
搬送されるフィルムを誘導するため、前記膨潤槽41内には、ガイドローラ43が配置されている。ガイドローラ43は、膨潤液42に浸かった状態で、膨潤槽41内に配置されている。
膨潤槽41のガイドローラ43は、少なくとも1本設けられる。好ましくは、膨潤槽41には、2本以上のガイドローラ43がフィルムの進行方向に間隔を開けて設けられている。
図示例では、膨潤槽41に2本のガイドローラ43が設けられている。
【0018】
前記膨潤槽41の1本又は2本以上のガイドローラ43の表面粗さは特に限定されない。
例えば、膨潤槽41には、算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有するガイドローラを配置してもよく、算術平均粗さRaで5.0μmを超える表面粗さを有するガイドローラを配置してもよい。例えば、膨潤槽41のガイドローラ43は、算術平均粗さRaで9.0μm以上の表面粗さを有し、さらに、算術平均粗さRaで11.0μm以上の表面粗さを有する。前記膨潤槽41のガイドローラ43の算術平均粗さRaの上限値は、特にないが、例えば、20μmである。
また、前記膨潤槽41には、最大高さ粗さRzで25.0μm以下の表面粗さを有するガイドローラを配置してもよく、最大高さ粗さRzで25.0μmを超える表面粗さを有するガイドローラを配置してもよい。例えば、膨潤槽41のガイドローラ43は、最大高さ粗さRzで40.0μm以上の表面粗さを有し、さらに、最大高さ粗さRzで50.0μm以上の表面粗さを有する。前記膨潤槽41のガイドローラ43の最大高さ粗さRzの上限値は、特にないが、例えば、100μmである。
前記のような表面粗さを有するガイドローラは、市販品を用いてもよく、或いは、個別に作製してもよい。
【0019】
<染色処理部>
染色処理部は、前記フィルムを染色するために設けられている。
染色処理部は、槽51(染色槽51)と、前記染色槽51に入れられた染色液52と、前記染色槽51中に配置されたガイドローラ53と、を有する。
図示例では、染色処理部は1つだけ設置されているが、フィルムの進行方向に2つ以上の染色処理部(2つ以上の染色槽)を並設してもよい(図示せず)。
前記染色液52は、フィルムを染色するための溶液であり、有効成分として二色性物質を含む。二色性物質としては、ヨウ素、有機染料などが挙げられる。
【0020】
好ましくは、前記染色液52は、ヨウ素を溶媒に溶解させた溶液を使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。染色液中のヨウ素の濃度としては、特に限定されないが、0.01重量%~10重量%であることが好ましく、0.02重量%~7重量%の範囲がより好ましく、0.025重量%~5重量%であることがさらに好ましい。
さらに、染色効率をより一層向上させるために、染色液にヨウ素化合物を添加することが好ましい。ヨウ素化合物は、分子内にヨウ素とヨウ素以外の元素を含む化合物である。前記ヨウ素化合物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられる。ヨウ素化合物を添加する場合、その濃度は0.01重量%~10重量%であることが好ましく、0.1重量%~5重量%であることがより好ましい。ヨウ素化合物の中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。
前記染色液がヨウ素とヨウ素化合物を含む場合、ヨウ素が染色液の主成分でもよく、或いは、ヨウ素化合物が染色液の主成分でもよい。通常、ヨウ素化合物の方がヨウ素よりも多く含まれている染色液が使用される。
【0021】
搬送されるフィルムを誘導するため、前記染色槽51内には、ガイドローラ53が配置されている。ガイドローラ53は、染色液52に浸かった状態で、染色槽51内に配置されている。
染色槽51には、2本以上のガイドローラがフィルムの進行方向に間隔を開けて設けられ、好ましくは3本以上のガイドローラがフィルムの進行方向に間隔を開けて設けられ、より好ましくは4本以上のガイドローラが設けられ、さらに好ましくは6本以上のガイドローラが設けられる。染色槽51のガイドローラの本数の上限は、特にないが、通常、20本であり、好ましくは16本である。
なお、上述のように、2つ以上の染色処理部を並設した場合には、その2つ以上の染色処理部に含まれる全てのガイドローラの本数が、前記範囲であることが好ましい。
【0022】
図示例では、1つの染色処理部(1つの染色槽51)に、10本のガイドローラ53(上下一対のガイドローラ53が5組)が配置されている。
フィルムの進行方向から順に、第1ガイドローラ531、第2ガイドローラ532、第3ガイドローラ533、第4ガイドローラ534、第5ガイドローラ535、第6ガイドローラ536、第7ガイドローラ537、第8ガイドローラ538、第9ガイドローラ539、第10ガイドローラ530という。
図1では、第1ガイドローラ531が染色槽51の中の最も入口側に配置されたガイドローラ(染色槽51の入口に最も近いところに配置されたガイドローラ)であり、第10ガイドローラ530が染色槽51の中の最も出口側に配置されたガイドローラ(染色槽51の出口に最も近いところに配置されたガイドローラ)である。
フィルムは、入口側の第1ガイドローラ531から第2ガイドローラ532、第3ガイドローラ533、…というように順に接しながら通過し、出口側の第10ガイドローラ530を通じて染色槽51外へと搬送される。
【0023】
前記染色槽51の複数のガイドローラ53のうち、少なくとも1本のガイドローラは、算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有する。本明細書において、「算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さ」を「特定Raの表面粗さ」という場合がある。
前記特定Raの表面粗さを有するガイドローラを、染色槽51に用いることにより、偏光度に優れた偏光フィルムを製造できる。
例えば、染色槽51の複数のガイドローラ53のうち、染色槽51の最も入口側に配置されたガイドローラ531又は/及び染色槽51の最も出口側に配置されたガイドローラ530が、特定Raの表面粗さを有する。また、染色槽51の複数のガイドローラ53のうち、染色槽51の最も入口側に配置されたガイドローラ531又は/及び染色槽51の最も出口側に配置されたガイドローラ530を含む半分以上のガイドローラ53が、特定Raの表面粗さを有する。
好ましくは、染色槽51の全てのガイドローラ53が、特定Raの表面粗さを有する。染色槽51の全てのガイドローラ53として特定Raの表面粗さを有するガイドローラを用いることにより、比較的大きいy値を有する偏光フィルムを製造できる。
【0024】
前記特定Raの表面粗さを有するガイドローラは、好ましくは、算術平均粗さRaで4.0μm以下であり、より好ましくは、算術平均粗さRaで3.0μm以下である。前記染色槽51のガイドローラ53の算術平均粗さRaの下限値は、理論上、零であるが、現実的な数値では、0.01μmであり、好ましくは、0.1μmである。
【0025】
特定Raの表面粗さを有するガイドローラの最大高さ粗さRzは、特に限定されないが、例えば、25.0μm以下であり、好ましくは、22.0μm以下であり、より好ましくは、20.0μm以下であり、さらに好ましくは、18.0μm以下である。前記最大高さ粗さRzの下限値は、理論上、零であるが、現実的な数値では、0.01μmであり、好ましくは、0.1μmである。本明細書において、「最大高さ粗さRzで25.0μm以下の表面粗さ」を「特定Rzの表面粗さ」という場合がある。算術平均粗さRaで5.0μm以下且つ最大高さ粗さRzで25.0μm以下の表面粗さ」を「特定Ra及びRzの表面粗さ」という場合がある。
前記特定Rzの表面粗さを有するガイドローラを、染色槽51に用いることにより、偏光度に優れた偏光フィルムを製造できる。
本明細書において、ガイドローラの算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRz(表面粗さ)は、それぞれJIS B 0601;2013年に準じて測定した値をいう。その測定機器としては、例えば、表面粗さ計((株)ミツトヨ製、商品名「SJ-310」)を用いることができる。
【0026】
特定Ra及びRzの表面粗さを有するガイドローラは、市販品を用いてもよく、或いは、個別に作製してもよい。また、前記表面粗さを満たさないガイドローラに対して、研磨などの鏡面加工処理を施すことによって、特定Ra及びRzの表面粗さを有するガイドローラを作製することもできる。
【0027】
<架橋処理部>
架橋処理部は、前記二色性物質を吸着させたフィルムを架橋するために設けられている。
架橋処理部は、槽61(架橋槽61)と、前記架橋槽61に入れられた架橋液62と、前記架橋槽中に配置されたガイドローラ63と、を有する。
図示例では、架橋処理部は1つだけ設置されているが、フィルムの進行方向に2つ以上の架橋処理部(2つ以上の架橋槽)を並設してもよい(図示せず)。
前記架橋液62は、フィルムを架橋するための溶液であり、有効成分としてホウ素化合物を含む溶液を使用できる。例えば、架橋液62としては、ホウ素化合物を溶媒に溶解させた溶液が使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ砂などが挙げられる。中でも、ホウ酸を用いることが好ましい。架橋液中のホウ素化合物の濃度としては、特に限定されないが、1重量%~10重量%であることが好ましく、2重量%~7重量%がより好ましく、2重量%~6重量%であることがさらに好ましい。また、必要に応じて、前記架橋液に、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどを添加してもよい。
【0028】
さらに、均一な光学特性を有する偏光フィルム9が得られることから、前記架橋液にヨウ素化合物を添加することが好ましい。このヨウ素化合物としては、特に限定されず、上記染色液52で例示したようなものが挙げられる。中でも、ヨウ化カリウムが好ましい。ヨウ素化合物の濃度は、特に限定されないが、0.05重量%~15重量%であることが好ましく、0.5重量%~8重量%であることがより好ましい。ヨウ素化合物を添加する場合、ホウ素化合物(好ましくはホウ酸)とヨウ素化合物(好ましくはヨウ化カリウム)の割合としては、重量比で、1:0.1~1:6の範囲であることが好ましく、1:0.5~1:3.5であることがより好ましく、1:1~1:2.5であることがさらに好ましい。
前記架橋液がホウ素化合物とヨウ素化合物を含む場合、ホウ素化合物が溶液の主成分でもよく、或いは、ヨウ素化合物が溶液の主成分でもよい。
【0029】
搬送されるフィルムを誘導するため、前記架橋槽61内には、ガイドローラ63が配置されている。ガイドローラ63は、架橋液62に浸かった状態で、架橋槽61内に配置されている。
架橋槽61のガイドローラ63は、少なくとも1本設けられる。好ましくは、架橋槽61には、2本以上のガイドローラ63がフィルムの進行方向に間隔を開けて設けられている。
図示例では、架橋槽61に2本のガイドローラ63が設けられている。
【0030】
前記架橋槽61の1本又は2本以上のガイドローラ63の表面粗さは特に限定されない。
例えば、架橋槽61には、算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有するガイドローラを配置してもよく、算術平均粗さRaで5.0μmを超える表面粗さを有するガイドローラを配置してもよい。例えば、架橋槽61のガイドローラは、算術平均粗さRaで5.5μm以上の表面粗さを有し、さらに、架橋槽61のガイドローラは、算術平均粗さRaで7.0μm以上の表面粗さを有する。前記架橋槽61のガイドローラの算術平均粗さRaの上限値は、特にないが、例えば、15μmである。
また、前記架橋槽61には、最大高さ粗さRzで25.0μm以下の表面粗さを有するガイドローラを配置してもよく、最大高さ粗さRzで25.0μmを超える表面粗さを有するガイドローラを配置してもよい。例えば、架橋槽61のガイドローラは、最大高さ粗さRzで26.0μm以上の表面粗さを有し、さらに、架橋槽61のガイドローラは、最大高さ粗さRzで40.0μm以上の表面粗さを有する。前記架橋槽61のガイドローラの最大高さ粗さRzの上限値は、特にないが、例えば、100μmである。
【0031】
<延伸処理部>
延伸処理部は、二色性物質を吸着させ且つ架橋させたフィルムを配向させるために設けられている。
延伸処理部は、槽71(延伸槽71)と、前記延伸槽71に入れられた延伸処理液72と、前記延伸槽71中に配置されたガイドローラ73と、を有する。
図示例では、延伸処理部は1つだけ設置されているが、フィルムの進行方向に2つ以上の延伸処理部(2つ以上の延伸槽)を並設してもよい(図示せず)。
なお、染色処理部や架橋処理部などでもフィルムを延伸できるので、延伸処理部を省略することもできる。
前記延伸処理液72は、特に限定されないが、例えば、有効成分としてホウ素化合物を含む溶液を使用できる。延伸処理液72としては、例えば、ホウ素化合物、及び必要に応じて、ヨウ化化合物、各種金属塩、亜鉛化合物などを溶媒に溶解させた溶液が使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ砂などが挙げられ、中でも、ホウ酸を用いることが好ましい。延伸処理液中のホウ素化合物の濃度としては、特に限定されないが、1重量%~10重量%であることが好ましく、2重量%~7重量%がより好ましい。
さらに、フィルムに吸着させたヨウ素の溶出を抑制する観点から、前記延伸処理液にヨウ素化合物を添加することが好ましい。このヨウ素化合物としては、特に限定されず、上記染色液52で例示したようなものが挙げられる。中でも、ヨウ化カリウムが好ましい。延伸処理液72中のヨウ素化合物の濃度は、特に限定されないが、0.05重量%~15重量%であることが好ましく、0.5重量%~8重量%がより好ましい。
前記延伸処理液がホウ素化合物とヨウ素化合物を含む場合、ホウ素化合物が溶液の主成分でもよく、或いは、ヨウ素化合物が溶液の主成分でもよい。通常、ヨウ素化合物の方がホウ素化合物よりも多く含まれている延伸処理液が使用される。
【0032】
搬送されるフィルムを誘導し且つ延伸するため、前記延伸槽71内には、ガイドローラ73が配置されている。ガイドローラ73は、延伸処理液72に浸かった状態で、延伸槽71内に配置されている。
延伸槽71には、2本以上のガイドローラ73がフィルムの進行方向に間隔を開けて設けられている。
図示例では、延伸槽71に2本のガイドローラ73が設けられている。
【0033】
前記延伸槽71の2本以上のガイドローラ73の表面粗さは特に限定されない。
例えば、延伸槽71には、算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有するガイドローラを配置してもよく、算術平均粗さRaで5.0μmを超える表面粗さを有するガイドローラを配置してもよい。例えば、延伸槽71のガイドローラは、算術平均粗さRaで5.5μm以上の表面粗さを有し、さらに、延伸槽71のガイドローラは、算術平均粗さRaで7.0μm以上の表面粗さを有する。前記延伸槽71のガイドローラの算術平均粗さRaの上限値は、特にないが、例えば、15μmである。
また、前記延伸槽71には、最大高さ粗さRzで25.0μm以下の表面粗さを有するガイドローラを配置してもよく、最大高さ粗さRzで25.0μmを超える表面粗さを有するガイドローラを配置してもよい。例えば、延伸槽71のガイドローラは、最大高さ粗さRzで26.0μm以上の表面粗さを有し、さらに、延伸槽71のガイドローラは、最大高さ粗さRzで40.0μm以上の表面粗さを有する。前記延伸槽71のガイドローラの最大高さ粗さRzの上限値は、特にないが、例えば、100μmである。
【0034】
<洗浄処理部>
洗浄処理部は、フィルムに付着した染色液52や架橋液62などの処理液を洗浄するために設けられている。
洗浄処理部は、槽81(洗浄槽81)と、前記洗浄槽81に入れられた洗浄液82と、前記洗浄槽81中に配置されたガイドローラ83と、を有する。
図示例では、洗浄処理部は1つだけ設置されているが、フィルムの進行方向に2つ以上の洗浄処理部(2つ以上の洗浄槽)を並設してもよい(図示せず)。
前記洗浄液82としては、代表的には、イオン交換水、蒸留水、純水などの水が用いられる。
【0035】
搬送されるフィルムを誘導するため、前記洗浄槽81内には、ガイドローラ83が配置されている。
洗浄槽81のガイドローラ83は、少なくとも1本設けられる。好ましくは、洗浄槽81には、2本以上のガイドローラ83がフィルムの進行方向に間隔を開けて設けられている。
図示例では、洗浄槽81に2本のガイドローラ83が設けられている。
【0036】
前記洗浄槽81の1本又は2本以上のガイドローラ83の表面粗さは特に限定されない。
例えば、洗浄槽には、算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有するガイドローラを配置してもよく、算術平均粗さRaで5.0μmを超える表面粗さを有するガイドローラを配置してもよい。例えば、洗浄槽のガイドローラは、算術平均粗さRaで9.0μm以上の表面粗さを有し、さらに、洗浄槽のガイドローラは、算術平均粗さRaで11.0μm以上の表面粗さを有する。前記洗浄槽のガイドローラの算術平均粗さRaの上限値は、特にないが、例えば、20μmである。
また、前記洗浄槽には、最大高さ粗さRzで25.0μm以下の表面粗さを有するガイドローラを配置してもよく、最大高さ粗さRzで25.0μmを超える表面粗さを有するガイドローラを配置してもよい。例えば、洗浄槽のガイドローラは、最大高さ粗さRzで40.0μm以上の表面粗さを有し、さらに、洗浄槽のガイドローラは、最大高さ粗さRzで50.0μm以上の表面粗さを有する。前記洗浄槽のガイドローラの最大高さ粗さRzの上限値は、特にないが、例えば、100μmである。
【0037】
<調整処理部>
調整処理部は、フィルムの色相を調整するために設けられている。この調整処理部は、
図1に不図示であるが、前記架橋処理部と延伸処理部の間、又は、延伸処理部と洗浄処理部の間に設けられる。
特に図示しない調整処理部は、槽(調整槽)と、前記調整槽に入れられた調整液と、前記調整槽中に配置されたガイドローラと、を有する。
前記調整液は、フィルムの色相調整などのための溶液であり、有効成分としてヨウ素化合物を含む溶液を使用できる。例えば、調整液としては、ヨウ素化合物を溶媒に溶解させた溶液が使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。このヨウ素化合物としては、特に限定されず、上記染色液52で例示したようなものが挙げられ、中でも、ヨウ化カリウムが好ましい。調整液中のヨウ素化合物の濃度は、特に限定されないが、0.5重量%~20重量%が好ましく、1重量%~15重量%がより好ましい。
【0038】
調整槽内には、ガイドローラが配置されている。
調整槽のガイドローラは、洗浄槽のガイドローラと同様であるので、ここでは記載を省略する。
なお、調整処理と洗浄処理を併用することもできる。この場合、別途の調整処理部を設けずに、洗浄処理部にて調整処理及び洗浄処理が行われる。
【0039】
[偏光フィルムの製造方法]
本発明の偏光フィルムの製造方法は、染色液が入れられた染色槽中に配置された2本以上のガイドローラによってフィルムを搬送し、前記フィルムを染色液に浸漬する染色工程を有し、少なくとも1本の前記ガイドローラが、算術平均粗さRaで5.0μm以下の表面粗さを有する。
偏光フィルムの製造は、上記製造装置1を用いて実施できる。
図1を参照して、処理前のフィルム2を前ロール部31から繰り出し、前記フィルム2を膨潤槽41に搬送する。
膨潤槽41のガイドローラ43でフィルムを搬送しながら、前記フィルム2を膨潤液42に浸漬することによって、フィルムが膨潤する。
前記膨潤液42の温度は、特に限定されないが、例えば、20℃~45℃であり、好ましくは25℃~40℃である。フィルムを膨潤液42に浸漬する時間は、特に限定されないが、例えば、5秒~300秒であり、好ましくは8秒~240秒である。
【0040】
前記膨潤工程後のフィルム2を膨潤槽41から引き出し、前記フィルム2を染色槽51に搬送する。
染色槽51のガイドローラ53でフィルムを搬送しながら、前記フィルムを染色液52に浸漬することによって、フィルムが二色性物質によって染色される。
前記染色液52の温度は、特に限定されないが、例えば、20℃~50℃であり、好ましくは25℃~40℃である。フィルムを染色液52に浸漬する時間は、特に限定されないが、例えば、5秒~300秒であり、好ましくは8秒~240秒である。
【0041】
前記染色工程後のフィルム2を染色槽51から引き出し、前記フィルムを架橋槽61に搬送する。
架橋槽61のガイドローラ63でフィルムを搬送しながら、前記フィルムを架橋液62に浸漬することによって、フィルムの二色性物質が架橋される。
前記架橋液62の温度は、特に限定されないが、例えば、25℃以上であり、好ましくは30℃~85℃である。フィルムを架橋液62に浸漬する時間は、特に限定されないが、例えば、5秒~800秒であり、好ましくは6秒~500秒である。
【0042】
前記架橋工程後のフィルム2を架橋槽61から引き出し、前記フィルム2を延伸槽71に搬送する。
延伸槽71のガイドローラ73でフィルムを搬送しながら延伸する。延伸倍率は目的に応じて適宜に設定できるが、総延伸倍率は、例えば、2倍~7倍であり、好ましくは4.5倍~6.8倍である。前記総延伸倍率は、フィルムの最終的な延伸倍率を意味する。
【0043】
前記延伸工程後のフィルム2は、必要に応じて、調整処理部に搬送され、調整液に浸漬される。調整液の温度は、特に限定されないが、例えば、15℃~40℃である。フィルムを調整液に浸漬する時間は、特に限定されないが、例えば、2秒~20秒である。
【0044】
前記延伸工程後又は調整工程後のフィルム2を洗浄槽81に搬送する。
洗浄槽81のガイドローラ83でフィルムを搬送しながら、前記フィルムを洗浄液82に浸漬することによって、フィルムが洗浄される。
前記洗浄液の温度は、例えば、5℃~50℃であり、好ましくは10℃~45℃である。洗浄時間は、例えば、1秒~300秒であり、好ましくは3秒~240秒である。
前記洗浄工程後のフィルムを、必要に応じて乾燥することによって、偏光フィルム9が得られる。製造された偏光フィルム9は、後ロール部32に巻き取られる。
【0045】
本発明の製造方法及び製造装置を用いることにより、より優れた偏光特性を有する偏光フィルムを製造できる。
本発明によって得られた偏光フィルムは、後述する実施例からも明らかなように、例えば99.992%以上という高い偏光度を有する。さらに、本発明によれば、xy色度図におけるy値も大きい偏光フィルムを得ることができる。このような偏光フィルムを製造できる理由は、明確ではないが、本発明者らは次のように推定している。
一般に、偏光フィルムの製造においては、ヨウ素などの二色性物質で染色したフィルムを延伸することにより、フィルムを構成するPVA系ポリマーなどのポリマーが配向し、その配向に従い二色性物質が配向し、偏光特性を発現する。
例えば、染色工程において、算術平均粗さRaが大きい表面を有するガイドローラを用いた場合には、フィルムを構成するPVA系ポリマーなどのポリマーが一部分で結晶化すると推定される。前記ポリマーが一部結晶化すると、染色工程後に延伸しても、その一部分のポリマーが十分に配向せず、その結果、二色性物質も一部分で十分に配向しなくなる。この点、本発明のように、染色槽中の少なくとも1本のガイドローラとして特定Raの表面粗さを有するガイドローラ(好ましくは特定Ra及びRzの表面粗さを有するガイドローラ)を用いることにより、染色工程において、PVA系ポリマーなどのポリマーが結晶化し難くなり、その結果、二色性物質も十分に配向するようになると推定される。よって、本発明の製造方法及び製造装置で得られた偏光フィルムは、偏光度に優れ、y値も大きくなる。
【0046】
[偏光フィルムの用途など]
本発明の偏光フィルムは、例えば、サングラスなどのレンズ、調光窓、液晶ディスプレイなどの画像表示装置などに使用できる。
本発明の偏光フィルムは、その一方面又は両面に保護フィルムを積層することにより、偏光板として使用することもできる。偏光板として使用する場合、さらに、位相差フィルムを積層してもよい。
前記保護フィルムとしては、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性などに優れたものを好適に採用し得る。保護フィルムを構成する材料の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、及びこれらの混合物が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳述する。ただし、本発明は、下記実施例に限定されるわけではない。
【0048】
[使用したガイドローラ]
・ガイドローラ(1)
ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(NBR)製表面層を有するガイドローラ((株)加貫ローラ製作所製の商品名「黒S45」)。
・ガイドローラ(2)
ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(NBR)製表面層を有するガイドローラ((株)加貫ローラ製作所製の商品名「ダイナローラ」)の表面をストレート研磨したもの。
・ガイドローラ(3)
ポリウレタン発泡製表面層を有するガイドローラ((株)加貫ローラ製作所製の商品名「スポンジローラ」)。
・ガイドローラ(4)
ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(NBR)製表面層を有するガイドローラ((株)加貫ローラ製作所製の商品名「タフセル」)。
・ガイドローラ(5)
ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(NBR)製表面層を有するガイドローラ((株)加貫ローラ製作所製の商品名「ダイナローラ」)。
・ガイドローラ(6)
ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(NBR)製表面層を有するガイドローラ((株)加貫ローラ製作所製の商品名「ダイナローラ」)の表面を若干研磨したもの。
なお、ガイドルール(1)乃至(6)は、いずれも、直径200mm、軸方向の長さが2.5mの円柱状である。
【0049】
[表面粗さの測定]
前記ガイドローラ(1)乃至(6)の表面粗さ(ガイドローラの算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRz)を、JIS B 0601;2013年に準じ、表面粗さ計((株)ミツトヨ製、商品名「SJ-310」)を用いてそれぞれ測定した。
その結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
[実施例1]
図1に示すような、2本のガイドローラを有する膨潤槽、10本のガイドローラを有する染色槽、2本のガイドローラを有する架橋槽、2本のガイドローラを有する延伸槽、及び、2本のガイドローラを有する洗浄槽が順に並んで設けられた製造装置を準備した。
表2も参照して、各槽のガイドローラとして次に示すものを選択し、製造装置に装着した。
【0052】
<各槽のガイドローラ>
膨潤槽の2本のガイドローラ:2本ともガイドローラ(4)を用いた。
染色槽の10本のガイドローラ:10本ともガイドローラ(1)を用いた。
架橋槽の2本のガイドローラ:2本ともガイドローラ(5)を用いた。
延伸槽の2本のガイドローラ:2本ともガイドローラ(5)を用いた。
洗浄槽の2本のガイドローラ:2本ともガイドローラ(4)を用いた。
【0053】
厚み60μmのポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする未延伸フィルム((株)クラレ製、商品名「VF-PE6000」)を、前記製造装置の前ロール部にセットした。前記フィルムを膨潤槽、染色槽、架橋槽、延伸槽、洗浄槽の順に導入し、膨潤、染色、架橋、延伸、洗浄の各工程を施した後、40℃の空気循環式乾燥オーブン内で15秒乾燥することにより、厚み30μmの偏光フィルムを作製した。
【0054】
<各槽の処理液及び処理時間>
膨潤工程:膨潤液は、25℃の純水。浸積時間は、約10秒。
染色工程:染色液は、1重量%のヨウ素と、7重量%のヨウ化カリウムとを含む、30℃の水溶液。浸積時間は、約10秒。
架橋工程:架橋液は、3重量%のヨウ化カリウムと、4.5重量%のホウ酸とを含む、40℃の水溶液。浸積時間は、約8秒。
延伸工程:延伸処理液は、5重量%のヨウ化カリウムと、4重量%のホウ酸とを含む、63℃の水溶液。浸積時間は、約12秒。
洗浄工程:洗浄液は、5重量%のヨウ化カリウムを含む、27℃の水溶液。浸積時間は、約3秒。
【0055】
【0056】
[実施例2]
染色槽のガイドローラとして10本ともガイドローラ(2)を用いたこと以外は(表2を参照)、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0057】
[実施例3]
染色槽の第1ガイドローラ531、第3ガイドローラ533、第5ガイドローラ535、第7ガイドローラ537及び第9ガイドローラ539としてそれぞれガイドローラ(1)を用い、第2ガイドローラ532、第4ガイドローラ534、第6ガイドローラ536、第8ガイドローラ538及び第10ガイドローラ530としてそれぞれガイドローラ(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0058】
[実施例4]
染色槽の第1ガイドローラ531、第2ガイドローラ532、第5ガイドローラ535、第6ガイドローラ536、第9ガイドローラ539及び第10ガイドローラ530としてそれぞれガイドローラ(1)を用い、第3ガイドローラ535、第4ガイドローラ534、第7ガイドローラ537及び第8ガイドローラ538としてそれぞれガイドローラ(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0059】
[実施例5]
染色槽の第1ガイドローラ531(最も入口側のガイドローラ)としてガイドローラ(1)を用い、第2乃至第10ガイドローラ532乃至530(残る9本のガイドローラ)としてそれぞれガイドローラ(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0060】
[実施例6]
染色槽の第10ガイドローラ530(最も出口側のガイドローラ)としてガイドローラ(1)を用い、第1乃第9ガイドローラ531乃至539(残る9本のガイドローラ)としてそれぞれガイドローラ(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0061】
[実施例7]
染色槽の第5ガイドローラ535としてガイドローラ(1)を用い、第1乃第4ガイドローラ531乃至534及び第6乃至第10ガイドローラ536乃至530(残る9本のガイドローラ)としてそれぞれガイドローラ(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0062】
[比較例1]
染色槽のガイドローラとして10本ともガイドローラ(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0063】
[比較例2]
染色槽のガイドローラとして10本ともガイドローラ(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0064】
[比較例3]
染色槽のガイドローラとして10本ともガイドローラ(5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0065】
[比較例4]
染色槽のガイドローラとして10本ともガイドローラ(6)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0066】
[比較例5]
染色槽のガイドローラとして10本ともガイドローラ(3)を用い、架橋槽のガイドローラとして2本ともガイドローラ(1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。
【0067】
[偏光フィルムの光学特性の評価]
各実施例及び比較例で得られた偏光フィルムの一方面に、接着剤を介して厚み40μmのアクリル樹脂フィルム((株)カネカ製、商品名「HTX」。Re=0nm,Rth=0nm)を積層し、偏光フィルムの他方面に、接着剤を介して厚み52μmのノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製、商品名「ゼオノア」。横延伸フィルム。Re=55nm,Rth=130nm)を積層することによって、厚み152μmの偏光板を作製した。それぞれの偏光板について単体透過率、偏光度などを測定した。その結果を表3に示す。
偏光板の単体透過率T、平行透過率Tp、直交透過率Tc、430nmにおける直交透過率Tc430は、紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、商品名「V7100」)を用いて測定した。これらのT、Tp、Tc、Tc430は、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。偏光度Pを上記の透過率を用い、次式により求めた。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0068】
また、2枚の偏光板を直交状(クロスニコル)に重ね合わせたものを測定対象とし、JIS Z 8722;2009年に準じ、xy色度図に従うx値及びy値を測定した。測定機器は、分光光度計(日本分光(株)製、商品名「V7100」)を使用した。その結果を表3に示す。
【0069】
【0070】
表3から、特定Ra及びRzの表面粗さを有するガイドローラを染色槽に用いた実施例1乃至7で得られた偏光フィルムを有する偏光板は、99.992%以上という高い偏光度を有していた。特に、染色槽中の全てのガイドローラが特定Ra及びRzの表面粗さを有する実施例1乃至4で得られた偏光フィルムを有する偏光板は、99.994%以上という極めて高い偏光度を有していた。さらに、実施例1乃至4で得られた偏光フィルムを有する偏光板は、色相を表す数値であるx値及びy値が大きかった。x値及びy値が大きい偏光板は、x値及びy値が大きい偏光フィルムを用いて作製できる。y値の大きい偏光フィルムを製造することは、一般に困難であるが、本発明によれば、y値の大きい偏光フィルムを製造できる。例えば、実施例1乃至4で得られた偏光フィルムを有する偏光板は、0.27以上のx値及び0.23以上のy値を有する。
一方、比較例1乃至4で得られた偏光フィルムを有する偏光板は、偏光度が低く、さらに、y値も小さかった。また、特定Ra及びRzの表面粗さを有するガイドローラを架橋槽に用いた比較例5で得られた偏光フィルムを有する偏光板も、偏光度が低く、さらに、y値も小さかった。このことから、染色槽に特定Ra及びRzの表面粗さを有するガイドローラを用いることにより、より優れた偏光度などを有する偏光フィルムを製造できることが判る。
【符号の説明】
【0071】
1 偏光フィルムの製造装置
2 処理前のフィルム
41 膨潤槽
51 染色槽
53,531,532,533,534,535,536,537,538,539,530 染色槽のガイドローラ
61 架橋槽
71 延伸槽
81 洗浄槽