(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】微生物農薬の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 63/27 20200101AFI20221116BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20221116BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221116BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20221116BHJP
【FI】
A01N63/27
A01P1/00
A01P3/00
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2018083585
(22)【出願日】2018-04-25
【審査請求日】2021-03-12
【微生物の受託番号】NITE BP-02371
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】前田 光紀
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-514805(JP,A)
【文献】特開2001-139599(JP,A)
【文献】食品と低温,Vol. 11, No. 1,1985年,pp. 11-18,ISSN 2186-1250
【文献】大阪府立環境農林水産総合研究所 研究報告,2009年,No. 2,pp. 21-23,ISSN 1882-7659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造方法において、該シュードモナス属細菌を、第1の培養として、
20~40℃で培養し、次いで、第2の培養として、5~15℃の低温下で、培養し、該培養微生物を用いて、乾燥、製剤化することを特徴と
し、前記乾燥が、凍結真空乾燥又はパルス燃焼式乾燥である、有効微生物の生菌数の確保と保存安定性を確保した、微生物農薬の製造方法。
【請求項2】
第1の培養の培養時間が1~50時間であり、第2の培養の培養時間が1~50時間であることを特徴とする請求項
1に記載の微生物農薬の製造方法。
【請求項3】
農薬の防除能を有する微生物であるシュードモナス属
細菌が、シュードモナス アゾトフォルマンス W-14-1株(シュードモナス アゾトフォルマンス NITE BP-02371)であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の微生物農薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬に関し、具体的には、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物として用いる微生物農薬において、該シュードモナス属細菌を、通常の培養温度で培養する第1の培養と、次いで、5~15℃の低温下で培養する第2の培養によって培養し、該培養微生物を用いて、乾燥することによって、微生物農薬の乾燥処理や、保存に対して、有効微生物の生菌数の確保と保存安定性を確保した、微生物農薬の製造方法に関する。本発明の微生物農薬の製造方法において、農薬の防除能を有する微生物として用いる、シュードモナス属細菌としては、シュードモナス アゾトフォルマンス W-14-1株(シュードモナス アゾトフォルマンス NITE BP-02371)を挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
植物病原菌を防除するための農薬においては、耐性菌や薬害の問題を克服するために、従来の合成殺菌剤に代えて、或いは、合成殺菌剤の弊害を軽減するための、併用する手段として、従来より、微生物農薬への関心が高まり、該微生物農薬の利用への各種検討が行われてきた。微生物農薬は、従来の合成殺菌剤に比べて、環境汚染が極めて少なく、生態系に調和し、かつ防除効果も優れているなどの利点を有している。しかしながら、微生物農薬は、生物を農薬の防除能を有する成分とすることから、微生物農薬施用時の農薬としての効果を示すに必要な菌の活性の確保や、保存に対する安定性の確保が問題になり、従来より、活性のある新規菌株の開発や、微生物農薬の製剤化時や、微生物農薬の流通、保存時の安定性についての対応が検討されてきた。
【0003】
微生物農薬に関連して、微生物の保存安定性については、古くからの研究報告があり、例えば、保存保護剤として、アミノ酸、有機酸、糖類のような低分子物質や、蛋白質、多糖類、合成ポリマー等の高分子物質を添加して、凍結乾燥法により、保存の改善を図る方法が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
微生物農薬において、該農薬の病原菌を防除する成分として利用される微生物の代表的なものとしては、シュードモナス属細菌が挙げられるが、該微生物等を用いた、微生物農薬の製剤化に際して、微生物農薬施用時の農薬としての有効性を確保するために、活性のある有効微生物の探索とともに、該微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存における、活性の低下や、安定性の低下化に対する対応として、各種の方法が開示されている。例えば、特許文献1には、微生物菌体をゼオライトの基材に吸着させ、自然乾燥し、生菌としての活性と、安定性を備えた微生物農薬を製造する方法が、特許文献2には、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とするイネ苗の立枯性病害の微生物農薬において、該微生物農薬の製剤化に際して、菌株をサッカロース、フルクトース、グルコース、ソルビトールなどの糖類と混合し、真空凍結乾燥若しくは真空乾燥することにより、菌株を高い菌生存性を維持したまま、安定に固定化する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、微生物農薬製剤に、ゼオライト、モレキュラーシ-ブ、シリカゲルのようなアンモニア吸着能を有する吸着材を入れた袋を添加して、流通、輸送、保管の段階において、農薬としての効果を示すに必要な微生物の生存率、活性を保って、製剤を保存する方法が、特許文献4には、シュードモナス属細菌に、トレハロースを混合し、凍結後真空乾燥することにより、良好な粉砕可能な物性を有し、かつ、生菌回収率や保存安定性が良好な固定化物を大量に提供することが可能な微生物農薬を製造する方法が、特許文献5には、微生物農薬の製剤化に際して、農薬の防除能を有する微生物の菌体懸濁液中に、(A)塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び/又は(B)トレハロース、ショ糖を混合し、該混合物を凍結乾燥することにより、微生物農薬中の生菌数を、長期間安定に維持する方法が開示されている。
【0006】
更に、特許文献6には、微生物農薬の製剤化において、該製剤を、植物病害を防除する効果を有する微生物と硫酸カルシウムからなる微生物農薬組成物として調製することにより、保存安定性と、農作物に散布した場合の汚れ防止効果を有する微生物農薬組成物を製造する方法について、特許文献7には、微生物農薬等における、凍結乾燥菌体の製造方法において、トレハロースとそれ以外の糖の水溶液、或いは、スクロースとそれ以外の糖の水溶液に、微生物を懸濁させ、凍結乾燥することにより、長期間保存しても微生物の生存率が高い凍結乾燥菌体を製造する方法が、開示されている。
【0007】
以上のとおり、微生物農薬の製剤化に際して、微生物農薬施用時の農薬としての有効性を確保するために、活性のある有効微生物の探索とともに、該微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存における、活性の低下や、安定性の低下に対する対応として、各種の方法が開示されているが、微生物農薬の有効成分は、微生物であることから、微生物農薬施用時の農薬としての有効性を確保した微生物農薬を提供するためには、製剤中に、農薬としての有効性を発揮し得る、活性のある微生物を、有効量保持した、微生物農薬を提供する必要があり、そのためには微生物農薬の製造に際して、活性維持に優れ、かつ、保存に対しても、生存性や、安定性のある優れた特性の培養微生物を用意する必要がある。
【0008】
すなわち、微生物農薬に用いる微生物は、通常、培養によって製造を行うが、この培養による微生物農薬の製造においては、それぞれの微生物にあった培養条件にする必要があり、該培養条件によって、培養された微生物の活性や、生存性、安定性に、少なからず、影響を受ける。特に、微生物農薬の製造のために、微生物を大量に培養する場合には、培養微生物の特性への影響が大きく、その培養条件を綿密に設計する必要が生じる。例えば、培養条件によっては、その後の保存安定性にまで影響が生じて、生菌減少の原因になることもある。微生物農薬において問題となる、生菌減少は、培養時間、培養温度、雑菌の混入状況、種微生物の生育状況等によって影響を受けると考えられている。
【0009】
以上のとおり、微生物農薬の製造に際して、微生物農薬施用時の農薬としての有効性を確保するためには、有効な生菌数の確保とともに、微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存における、生菌数の低下や、保存安定性の低下を防止する必要性があり、そのためには、生菌生存性や、保存安定性に優れた特性の培養微生物の培養、調製が重要となる。したがって、該ニーズを満足する微生物の培養方法の開発が、農薬施用時の農薬としての有効性を確保した微生物農薬を提供するための重要な課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭63-227507号公報
【文献】特開平11-276166号公報
【文献】特開2000-264807号公報
【文献】特開2005-325077号公報
【文献】特開2009-196920号公報
【文献】特開2011-184370号公報
【文献】特開2011-223990号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】根井外喜男編集、「微生物の保存法」、(東京大学出版会)、1977年。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造において、該微生物農薬の製造に用いる微生物の培養方法として、培養した微生物が、微生物農薬施用時の農薬としての有効性を確保するために有効な生菌数の確保とともに、微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存における、生菌数の低下や、保存安定性の低下を防止し、微生物農薬の製造のための培養微生物として、すぐれた特性を有する微生物農薬用微生物の培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造において、培養した微生物が、微生物農薬施用時の農薬としての有効性を確保するために有効な生菌数の確保とともに、微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存における、生菌数の低下や、保存安定性の低下を防止することが可能な特性を有する微生物の培養方法について、鋭意検討する中で、微生物農薬の製造のための培養微生物を、第1の培養として、通常の培養温度で培養し、次いで、第2の培養として、5~15℃の低温下で、培養するという、二つの培養温度条件を採用した、培養方法を採用することにより、微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存に対して、生菌生存性や、保存安定性に優れた培養微生物を提供することできることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造方法において、該シュードモナス属細菌を、第1の培養として、通常の培養温度で培養し、次いで、第2の培養として、5~15℃の低温下で、培養し、該培養微生物を用いて、乾燥、製剤化することを特徴とする、有効微生物の生菌数の確保と保存安定性を確保した、微生物農薬の製造方法からなる。本発明の培養微生物は、上記のとおり、微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存に対して、生菌生存性や、保存安定性に優れた特性の培養微生物となり、該培養微生物を用いることにより、微生物農薬施用時の農薬としての有効性に優れた微生物活性を有する、微生物農薬を提供する。
【0015】
本発明のシュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造方法において、該シュードモナス属細菌の第1の培養における、通常の培養温度としては、20~40℃の温度を用いることができる。また、第1の培養及び第2の培養における培養時間としては、第1の培養の培養時間が1~50時間であり、第2の培養の培養時間が1~50時間である、培養時間を採用することができる。
【0016】
本発明の微生物農薬の製造方法において、培養微生物を用いて、乾燥する際の培養微生物の乾燥方法としては、凍結真空乾燥又はパルス燃焼式乾燥を用いることができる。
【0017】
本発明の微生物農薬の製造方法は、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造方法に適用することができる。また、該シュードモナス属細菌の一種である、W-14-1株(シュードモナス アゾトフォルマンス NITE BP-02371)の場合は、培養条件が微生物の凍結乾燥品の保存安定性にまで影響を及ぼす恐れがある性状を有しているが、本発明の微生物農薬の製造方法は、該菌株に適用して、有効微生物の生菌数の確保と保存安定性を確保した、微生物農薬を製造することができる。
【0018】
すなわち、本発明は、具体的には、以下の発明からなる。
[1]シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造方法において、該シュードモナス属細菌を、第1の培養として、通常の培養温度で培養し、次いで、第2の培養として、5~15℃の低温下で、培養し、該培養微生物を用いて、乾燥、製剤化することを特徴とする、有効微生物の生菌数の確保と保存安定性を確保した、微生物農薬の製造方法。
[2]第1の培養における、通常の培養温度が、20~40℃であることを特徴とする上記[1]に記載の微生物農薬の製造方法。
[3]第1の培養の培養時間が1~50時間であり、第2の培養の培養時間が1~50時間であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の微生物農薬の製造方法。
[4]培養微生物の乾燥が、凍結真空乾燥又はパルス燃焼式乾燥であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれかに記載の微生物農薬の製造方法。
[5]農薬の防除能を有する微生物であるシュードモナス属菌が、シュードモナス アゾトフォルマンス W-14-1株(シュードモナス アゾトフォルマンス NITE BP-02371)であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の微生物農薬の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造において、該微生物農薬の製造に用いる微生物を、本発明の培養方法により、培養した微生物が、微生物農薬施用時の農薬としての有効性を確保するために有効な生菌数の確保とともに、微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存に対して、生菌数の低下や、保存安定性の低下を防止した、優れた特性の培養微生物として調製し、該微生物を用いて、微生物農薬を製剤化することにより、生菌生存性や、保存安定性に優れた、農薬施用時の農薬としての有効性に優れた微生物活性を有する、微生物農薬を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造方法において、該シュードモナス属細菌を、第1の培養として、通常の培養温度で培養し、次いで、第2の培養として、5~15℃の低温下で、培養し、該培養微生物を用いて、乾燥、製剤化することを特徴とする、有効微生物の生菌数の確保と保存安定性を確保した、微生物農薬の製造方法からなる。
【0021】
(本発明に用いられる微生物)
本発明の微生物農薬の製造方法においては、農薬の防除能を有する微生物として、シュードモナス属細菌が用いられる。微生物は、栄養源である炭素源が有機炭素か、二酸化炭素のみかで分類することができ、また、エネルギー源が化合物の酸化か、光かでも分類することができる。本発明に用いられる微生物は、栄養源が有機炭素で、エネルギー源が化合物の酸化に分類されるもの(化学合成従属栄養生物)である。一般的な藻類等は、栄養源が二酸化炭素のみで、エネルギー源が光であるもの(光合成独立栄養生物)であり、本発明の微生物の培養方法に該当する微生物ではない。
【0022】
これらの微生物として、シュードモナス属菌等が知られている。また、シュードモナス属菌としては、アゾトフォルマンス種菌等が知られている。また、アゾトフォルマンス種菌としては、シュードモナス アゾトフォルマンス W-14-1株(以下、単に「W-14-1株」と呼ぶことができる)を用いることができる。シュードモナス アゾトフォルマンス W-14-1株は、2016年10月12日付で、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に国際受託番号NITE BP-02371として国際寄託されている。
【0023】
(生菌数)
本発明において、生菌数とは、ある一定条件で生育した菌の数を示し、標準寒天培地を用いた集落形成法等で測定することができる。また、cfuは、Colony Forming Unitの略称で、コロニーを形成する能力のある単位数を示す。
【0024】
(培養法)
本発明において、培養とは、基質を与えて増殖させることであり、発酵とは微生物が作り出す酵素によって有機物を変化させることであり、培養と発酵は異なる。本発明の培養法としては、回分培養法が用いられる。回分培養法は、培養槽に微生物、培地を入れ、温度、pH、酸素濃度、水分等の微生物の生育に影響を与える因子を制御し、微生物を増殖させ、培養液として排出する方法からなる。
【0025】
回分培養は、経時的に微生物の細胞濃度が変化するが、細胞数は増加しないが細胞の大きさは増大する誘導期、細胞数が一定の時間おきに2倍になる対数期、世代時間が長くなり始めてから細胞分裂が完全停止するまでの増殖減衰期、培地の栄養源が枯渇し細胞分裂が完全に停止する静止期、細胞数が減少し始める死滅期によって、細胞濃度が変化する。本発明の培養法においては、増殖減衰期までを「第1の培養」、それ以降を「第2の培養」と便宜上区別する。
【0026】
本発明の微生物農薬の製造方法において、用いる微生物の培養において、温度は、第1の培養温度(前記第1の培養の温度)と第2の培養温度(前記第2の培養の温度)で異なり、第2の培養温度が第1の培養温度より低く設定される。本発明においては、第1の培養温度より第2の培養温度が低く設定されるが、第1の培養の温度としては、通常、シュードモナス属細菌の培養に用いられている温度が採用され、具体的には、第1の培養温度20~40℃、好ましくは、第1の培養温度25~35℃の温度が採用され、第2の培養温度5~15℃、好ましくは、第2の培養温度5~13℃の温度が採用される。
【0027】
本発明の微生物農薬の製造方法において、用いる微生物の培養に用いられる培養液のpHは、6.0~8.0の範囲に調整され、好ましくは、6.5~7.5の範囲、更に好ましくは6.8~7.2の範囲に調整される。培養液のpHは、使用する微生物の至適pHを適用することができる。
【0028】
(基質、培地)
基質とは微生物の栄養源であり、培地とは基質を含むものであるが、特に基質と培地を区別せず、微生物の生育可能な炭素源、窒素源、無機物等の含有するものを指し示す。
【0029】
本発明の微生物農薬の製造方法において、用いる微生物の培養において、培地は、固体培地、又は液体培地を用いることができる。固体培地としては、微生物の培養に用いられる培地であれば特に限定されるものではなく、米類、麦類等の主穀類、トウモロコシ、栗、稗、コーリャン、蕎麦等の雑穀類、オガ粉、バガス、籾殻、フスマ、莢、藁、コーンコブ、綿実粕、オカラ、寒天、ゼラチン等を例示することができる。
【0030】
液体培地としては、微生物の培養に用いられる培地であれば特に限定されるものではなく、液体培地に含有する成分としては、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)ガラクトース等の単糖類、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)等の二糖類、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、キシログルカン、グルコマンナン、デキストリン等の多糖類、肉エキス、麦芽エキス、酵母エキス、ペプトン、ポリペプトン、乾燥酵母、大豆粉、塩化ナトリウム、クエン酸カリウム等を例示することができる。
【0031】
また、培地として2%マルトエキス液体培地、オートミール液体培地、ポテトデキストロース液体培地、サブロー液体培地及びL-broth液体培地等を例示することができる。
【0032】
(培養液)
培養液とは培養後の液のことであり、培養された微生物、基質、培地、及び、微生物によって産出された化合物等を含有する液のことである。
【0033】
(培養槽)
培養槽は培養に用いられる装置であれば特に限定されるものではないが、三角フラスコ、ジャーファーメンター、生物反応器等を例示することができ、製造規模によって適切な装置を使用することができる。培養中は、撹拌、通気、温度制御、pH制御等を行うことができる。
【0034】
(乾燥方法)
本発明の微生物農薬の製造方法において、培養した微生物の培養液を乾燥させることで、乾燥細胞にすることができる。乾燥させることで、保存性が向上したり、製剤する時に操作性が向上したりする。乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、通常行う培養液の乾燥方法を用いることができ、凍結真空乾燥法やパルス燃焼式乾燥法などが挙げられるが、特に、好ましい乾燥方法としては、凍結真空乾燥法を挙げることができる。また、本願において、凍結乾燥で乾燥した乾燥細胞を凍結乾燥品、又は、単に乾燥品と呼ぶことができる。
【0035】
(培養された微生物)
本発明の培養法で培養された微生物は、微生物農薬の製造方法において、農薬の防除能を有する微生物として用いて、防除機能に優れた微生物農薬を提供することができる。また、本発明の培養方法で培養された微生物を凍結乾燥等で乾燥した乾燥細胞は、活性の高い培養微生物を含有する凍結乾燥品、又は、単に乾燥品として、各種、用途に用いることができる。
【0036】
(製剤化)
本発明の微生物農薬の製造方法においては、本発明の培養法で培養した微生物を、農薬の防除能を有する微生物として用いる他は、公知の微生物農薬の製造方法を用いることができる。該微生物農薬の製剤化において、その製剤化のために用いられている公知の材料、成分を用いることができる。すなわち、微生物農薬の製剤化に用いられている、担体、乾燥剤、補助剤、界面活性剤若しくは分散剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、防腐剤などの農薬製剤化に用いられる材料、成分、及び、一般的に農薬製剤化において使用される任意成分を用いることができる。
【0037】
担体としては、炭酸カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム等の無機塩類;クエン酸、リンゴ酸、ステアリン酸等の有機酸及びそれらの塩;グルコース、ラクトース、スクロース等の糖類;アルミナ粉、シリカゲル、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、酸化チタン、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、クレー、珪藻土、ベントナイト、ホワイトカーボン、カオリン、バーミキュライト等の固体担体を挙げることができる。
【0038】
乾燥剤としては、生石灰、III型無水石膏、塩化カルシウム、五酸化二リン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸ナトリウム無水塩、硫酸銅無水塩、過塩素酸マグネシウムなどの化学的乾燥剤;シリカゲル、酸化アルミニウム、モレキュラーシーブ、アロフェン、ゼオライトなどの物理的乾燥剤などが挙げられる。
【0039】
補助剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、アラビアゴム、澱粉等を挙げることができる。また、界面活性剤若しくは分散剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0040】
本発明の微生物農薬の製造方法において、製剤化のための任意成分として、微生物農薬の製剤化処理や、流通、保存における微生物活性の安定化のために用いられる、トレハロース、サッカロース、フルクトース、グルコース、ソルビトールのような糖類や、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カルシウムのような無機塩類、或いはゼオライト、モレキュラーシーブ、シリカゲルのような吸着剤等の成分は、適宜、用いることができる。
【0041】
本発明の微生物農薬の製造方法で製造される微生物農薬、又は本発明の微生物農薬を含有する製剤は、微生物農薬として、各種、植物病害の防除に用いることができる。該植物病害としては、例えば、かいよう病、穿せん孔細菌病、軟腐病、斑点細菌病、黒斑細菌病、青枯病、褐斑細菌病、茎えそ細菌病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、白葉枯病、腐敗病、及び黒腐病等の細菌病の他、灰色かび病、うどんこ病、葉かび病、すすかび病、黒あざ病、そうか病等の糸状菌病が挙げられる。
【0042】
本発明の微生物農薬の製造方法で製造される微生物農薬、又は本発明の微生物農薬を含有する製剤は、微生物農薬として、単独で、施用することができるが、該微生物農薬、又は本発明の微生物農薬を含有する製剤に、更に、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、成長調整剤等の化学農薬を混合した農薬として、施用することもできる。
【0043】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
[実施培養例1]
酵母エキス2.5g、ポリペプトン5.0g、グルコース1.0gを加えて、培地1Lを作製し、これを1N水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に調整した。この培地にW-14-1株を植菌して、30℃、24時間振とう培養し、前培養液を作製した。
【0045】
次に、Bacterio-N KN(株式会社マルハニチロ食品社製)300g、Bacterio-N SS(株式会社マルハニチロ食品社製)150g、グルコース75gを加えて、培地5Lを作製し、これを1N水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に調整した。この培地に前記前培養液20mlを接種して、30℃、通気量1VVM(単位体積あたりのガス通気量、volume per volume per minute)、24時間培養した。その後、5℃/時間で、10℃まで4時間かけて冷却し、さらに10℃で20時間培養した。培養後の生菌数は、3.3×1010cfu/mlであった。
【0046】
培養液800mlを遠心分離し、分離されたペレットを1%塩化ナトリウム水溶液で希釈し、OD600値(600nmでのOD値、OD値は透過率の対数を正数化)が250となるように調製した。この希釈液100mlにトレハロース2水和物25gを添加し、厚み1cm程度になるようにトレーに流し込み、その後、-60℃で凍結し、棚温30℃で減圧乾燥(凍結乾燥)した。その結果、実施培養例1の凍結乾燥品の生菌数は、3.6×1011cfu/gであった。
【0047】
[比較培養例1]
実施培養例1の「30℃、通気量1VVM、24時間培養した。その後、5℃/時間で、10℃まで4時間かけて冷却し、10℃で20時間培養」を「30℃、通気量1VVM、33時間培養」に代えた以外は実施培養例1と同じ方法で培養した。培養後の生菌数は、2.8×1010cfu/mlであった。また、凍結乾燥品の生菌数は、5.1×1011cfu/gであった。
【0048】
[加速試験]
実施培養例1及び比較培養例1の凍結乾燥品をそれぞれ、モイストキャッチ包材に入れ、37℃、7日間、保存した。その後、生菌数を測定した結果、実施培養例1および比較培養例1の凍結乾燥品の生菌数は、2.5×1011cfu/g、6.5×108cfu/gであった。この値は、加速試験前と比較して、それぞれ、69%、0.1%に相当する。
【0049】
(結果)
加速試験の結果、W-14-1株の培養方法は、30℃で24時間培養した後、10℃まで冷却することで、その後の加速試験においての生存率が大幅に改善し、保存安定性に優れる乾燥品を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、シュードモナス属細菌を農薬の防除能を有する微生物とする微生物農薬の製造において、該微生物農薬の製造に用いる微生物を、本発明の培養方法により、培養した微生物が、微生物農薬施用時の農薬としての有効性を確保するために有効な生菌数の確保とともに、微生物農薬の微生物の製剤化時の処理や、流通、保存に対して、生菌数の低下や、保存安定性の低下を防止した、優れた特性の培養微生物として調製し、該微生物を用いて、微生物農薬を製剤化することにより、生菌生存性や、保存安定性に優れた、農薬施用時の農薬としての有効性に優れた微生物活性を有する、微生物農薬を提供する。