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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】ランプユニット、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/64 20180101AFI20221116BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20221116BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20221116BHJP
   F21V 9/14 20060101ALI20221116BHJP
   F21V 9/40 20180101ALI20221116BHJP
   F21S 41/25 20180101ALI20221116BHJP
   F21S 41/125 20180101ALI20221116BHJP
   F21S 41/143 20180101ALI20221116BHJP
   F21S 41/135 20180101ALI20221116BHJP
   B60Q 1/14 20060101ALI20221116BHJP
   F21W 102/10 20180101ALN20221116BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20221116BHJP
【FI】
F21S41/64
G02F1/13 505
G02F1/1333
F21V9/14
F21V9/40 400
F21S41/25
F21S41/125
F21S41/143
F21S41/135
B60Q1/14 E
F21W102:10
F21Y115:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018138256
(22)【出願日】2018-07-24
(65)【公開番号】P2020017367
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-244934(JP,A)
【文献】特開2016-191900(JP,A)
【文献】特開2009-086160(JP,A)
【文献】特開2018-084648(JP,A)
【文献】特開2016-149305(JP,A)
【文献】特開2007-133167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
G02F 1/13
G02F 1/1333
F21V 9/00
B60Q 1/14
F21W 102/10
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲に対して選択的な光照射を行う車両用灯具システムに用いられるランプユニットであって、
光源と、
前記光源から出射される光を変調する光シャッター部と、
前記光シャッター部を透過した光を投影する光学系と、
を含み、
前記光シャッター部は、
一対の偏光板と、
前記一対の偏光板の相互間に配置されており、液晶分子の初期配向が水平配向であって電界印加によって面内方向で配向変化を生じるように構成されたインプレーンスイッチング型の第1液晶素子と、
前記一対の偏光板の相互間であって前記第1液晶素子よりも前記光源に近い側に配置されており、液晶分子の初期配向が垂直配向若しくは略垂直配向である第2液晶素子と、
正のAプレート、負のAプレート、正の二軸プレート若しくは負の二軸プレートの何れかであり、前記一対の偏光板のうち前記光源に近い側の偏光板と前記第2液晶素子の間に配置された第1光学板と、
負のCプレートであり、前記第1光学板と前記第2液晶素子の間に配置された第2光学板と、
を有する、
ランプユニット。
【請求項2】
前記一対の偏光板は、互いの吸収軸が略直交するように配置され、
前記第1液晶素子は、前記初期配向の配向方向が前記一対の偏光板の何れかの吸収軸と略平行に配置され、
前記第1光学板は、前記正のAプレートであってその遅相軸が前記液晶素子の前記初期
配向の配向方向と略平行に配置されている、
請求項に記載のランプユニット。
【請求項3】
前記第2液晶素子の電圧印加による複屈折の変化に伴うECB効果を用いて前記光シャッター部を透過する光の色味を可変に設定する、
請求項又はに記載のランプユニット。
【請求項4】
前記第1液晶素子は、複数の第1光変調領域を有し、
前記第2液晶素子は、複数の第2光変調領域を有しており、
前記複数の第1光変調領域と前記複数の第2光変調領域とが平面視において相補的に並ぶように前記第1液晶素子と前記第2液晶素子が配置されている、
請求項の何れか1項に記載のランプユニット。
【請求項5】
請求項1~の何れかに記載のランプユニットと、
前記車両の周囲に存在する対象体を検出する検出部と、
前記検出部によって検出される前記対象体の位置に応じて配光パターンを設定して前記ランプユニットを駆動する駆動部と、
を含む、車両用灯具システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の周辺(例えば前方)に対する光照射を行う技術に関し、特に、対向車両や先行車両などの対象物体の有無に応じて選択的な光照射を行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-183327号公報(特許文献1)には、複数の配光パターンを形成可能な車両前照灯が記載されている。この車両前照灯は、LEDを用いた発光部と、発光部から前方に向かって照射される光の一部を遮断して配光パターンに適したカットオフを形成する遮光部を備える。遮光部は、調光機能を備えた電気光学素子とこの電気光学素子を調光制御する制御部を備える。そして、電気光学素子としては、例えば液晶素子が用いられる
【0003】
ところで、上記のような構成を用いて車両の前方に照射される光の制御を行う場合、発光部のLEDから出射する光が広角に進むため、レンズ等を用いて集光し、なるべく狭角で液晶素子へ光が入射するように設計したとしても光の入射角が上下、左右それぞれに比較的大きい角度(例えば±20~±30°程度)になる。このため、液晶素子を透過する光は視角依存性が大きくなり、その光を用いて形成される投射像(配光パターン)のコントラストが低下するという点で改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-183327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、車両前方へ選択的な光照射を行う際にコントラストの高い投射像を得られる技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係る一態様のランプユニットは、(a)車両の周囲に対して選択的な光照射を行う車両用灯具システムに用いられるランプユニットであって、(b)光源と、(c)前記光源から出射される光を変調する光シャッター部と、(d)前記光シャッター部を透過した光を投影する光学系と、を含み、(e)前記光シャッター部は、(e1)一対の偏光板と、(e2)前記一対の偏光板の相互間に配置されており、液晶分子の初期配向が水平配向であって電界印加によって面内方向で配向変化を生じるように構成されたインプレーンスイッチング型の第1液晶素子と、(e3)前記一対の偏光板の相互間であって前記第1液晶素子よりも前記光源に近い側に配置されており、液晶分子の初期配向が垂直配向若しくは略垂直配向である第2液晶素子と、(e4)正のAプレート、負のAプレート、正の二軸プレート若しくは負の二軸プレートの何れかであり、前記一対の偏光板のうち前記光源に近い側の偏光板と前記第2液晶素子の間に配置された第1光学板と、(e5)負のCプレートであり、前記第1光学板と前記第2液晶素子の間に配置された第2光学板と、を有する、ランプユニットである。
]本発明に係る一態様の車両用灯具システムは、(a)前記ランプユニットと、(b)前記車両の周囲に存在する対象体を検出する検出部と、(c)前記検出部によって検出される前記対象体の位置に応じて配光パターンを設定して前記ランプユニットを駆動する駆動部と、を含む、車両用灯具システムである。
【0007】
上記構成によれば、車両前方へ選択的な光照射を行う際にコントラストの高い投射像(配光パターン)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図2図2は、液晶素子、各光学板および各偏光板の光学軸の配置について説明するための図である。
図3図3は、液晶素子の構成例を示す模式的な断面図である。
図4図4は、等透過率曲線のシミュレーション解析の結果を示す図である。
図5図5は、第2実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図6図6は、液晶素子、各光学板および各偏光板の光学軸の配置について説明するための図である。
図7図7は、液晶素子の構成例を示す模式的な断面図である。
図8図8は、光変調領域を相補的に配置する構成を説明するための概念図である。
図9図9は、等透過率曲線のシミュレーション解析の結果を示す図である。
図10図10は、等透過率曲線のシミュレーション解析の結果を示す図である。
図11図11は、等透過率曲線のシミュレーション解析の結果を示す図である。
図12図12は、等透過率曲線のシミュレーション解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図1に示す車両用灯具システムは、カメラ1によって撮影される自車両周辺(例えば前方)の画像に基づいて、制御部2により画像認識処理を行って対象体(例えば対向車両、先行車両、歩行者等)の有無を検出し、その対象体の位置に応じて液晶駆動部3によりランプユニット4の液晶素子14を制御して選択的な光照射を行うものである。なお、本実施形態ではカメラ1と制御部2が「検出部」に対応し、制御部2と液晶駆動部3が「駆動部」に対応する。
【0010】
カメラ1は、自車両内の所定位置(例えばフロントガラス上部)に配置され、自車両の前方空間を撮影する。制御部2は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作ブログラムを実行させることによって実現される。液晶駆動部3は、制御部2から供給される制御信号に基づいて液晶素子14を駆動するための駆動電圧を生成し、液晶素子14へ供給する。
【0011】
ランプユニット4は、自車両の前部に配置されて光照射を行うためのものであり、光源11、集光レンズ(集光光学系)12、一対の偏光板13a、13b、液晶素子14、光学板15、光学板16、投影レンズ(結像投影光学系)17を含んで構成される。なお、本実施形態では一対の偏光板13a、13b、液晶素子14、光学板15および光学板16が「光シャッター部」に対応する。
【0012】
光源11は、例えばLED等の発光素子とドライバを含み、制御部2による制御信号に応じてドライバから発光素子へ駆動電流を供給し、発光素子から光を出射する。
【0013】
集光レンズ12は、光源11から出射する比較的広角な光を集光して液晶素子14へ入射させる。なお、集光レンズに代えて反射板(リフレクタ)を用いて集光光学系を構成してもよいし、集光レンズと反射板を組み合わせて集光光学系を構成してもよい。
【0014】
一対の偏光板13a、13bは、液晶素子14等を挟んで対向配置されている。これらの偏光板13a、13bとしては、例えば有機材料を用いた吸収型偏光板(ヨウ素系、染料系など)を用いてもよいし、金属細線を透明基板上に形成してなるワイヤーグリッド偏光板を用いてもよいし、これらを重ねて用いてもよい。ワイヤーグリッド偏光板としては、光学多層膜などにより表面反射を抑えたものが望ましい。
【0015】
液晶素子14は、液晶駆動部3から供給される駆動電圧によって駆動されて、光源11から集光レンズ12等を介して入射する光に変調を与えるものである。この液晶素子14は、複数の光変調領域(画素領域)を有しており、それぞれの光変調領域ごとに光に対して変調を与えることができる。本実施形態では、液晶素子14として液晶分子の配向方向が印加電圧に応じて面内(基板表面に平行な面内)で変化するインプレーンスイッチング型の液晶素子が用いられる。液晶素子14の詳細な構成については後述する(図3参照)。
【0016】
光学板15は、正のAプレートであり、偏光板13aと液晶素子14の間であって偏光板13aに近い側に配置されている。ここで、光学板の三方位の屈折率をnx、ny、nzと定義する。nxは光学板の面内の遅相軸方向における屈折率であり、nyはnxに直交する進相軸方向の屈折率であり、nzはnxおよびnyと直交する光学板の厚さ方向の屈折率である。また、Nz=(nx-nz)/(nx-ny)と定義する。これらの定義を用いて表すと、正のAプレートはNz=1の光学板である。
【0017】
光学板16は、正のCプレートであり、偏光板13aと液晶素子14の間であって液晶素子14に近い側に配置されている。ここで、上記した光学板の定義を用いて表すと、正のCプレートはNz=-∞の光学板である。
【0018】
ここで、Nz(Nzファクタ)が∞である視角補償板(nx≒ny>nz)を負のCプレート(ネガティブCプレート)と呼ぶ。Nzが1よりも大きい視角補償板(nx>ny>nz)を、負の二軸光学異方性を有する二軸プレート、ないし、単に負の二軸プレートと呼ぶ。Nzがほぼ1である視角補償板(nx>ny≒nz)を正のAプレート(ポジティブAプレート)と呼ぶ。さらに、Nzが1よりも小さい視角補償板を主に、正の二軸光学異方性を有する二軸プレート、ないし、単に正の二軸プレートと呼ぶ。ただし、Nzがほぼ0である視角補償板(nz≒nx>ny)を、負のAプレート(ネガティブAプレート)と呼び、Nzが-∞である視角補償板(nz>nx≒ny)を、正のCプレート(ポジティブCプレート)と呼ぶ。また、本明細書では、面内位相差Re=(nx-ny)×d(d:視角補償板の厚み)が7nm以下であれば、負のCプレートとみなして取り扱う。また、厚さ方向位相差RthをRth=((nx+ny)/2-nz)×dと定義する。
【0019】
投影レンズ17は、液晶素子14によって変調されて偏光板13bを透過する光が入射し得るように配置されている。この投影レンズ17としては、例えば特定の距離に焦点を有する反転投影型のプロジェクターレンズが好適に用いられる。この場合、レンズのN/Aについては入射する光の角度に応じて設計されているものとする。投影レンズ17の中心線に対して最も傾斜して入射する光の角度をθとすると、N/A=sinθとなるように設計される。上記した液晶素子14は、この投影レンズ17の焦点付近に配置されることが望ましい。
【0020】
このランプユニット4は、液晶素子14の各光変調領域において光が変調され、その光が偏光板13bを通して出射して投影レンズ17によって投影されることにより、自車両の前方に種々の配光パターン(投影像)を形成することができる。例えば、先行車両や対向車両の存在する領域は遮光ないし減光し、それ以外の領域には光を照射するような配光パターンを形成することができる。
【0021】
図2は、液晶素子、各光学板および各偏光板の光学軸の配置について説明するための図である。なお、図中に示すように、液晶素子の左右方向を0°-180°、上下方向を90°-270°と表すものとする。一対の偏光板13a、13bは、互いの吸収軸a1、a2が略直交するように配置されている。本実施形態では、光入射側(光源11に近い側)に配置されている偏光板13aは、吸収軸a1が90°-270°方向となるように配置されている。また、光出射側(投影レンズ17に近い側)に配置されている偏光板13bは、吸収軸a2が0°-180°方向となるように配置されている。液晶素子14は、初期配向方向、すなわち電圧無印加時の液晶分子の配向方向a3が180°方向となるように配置されている。この配向方向a3は、図中に示すように電圧印加時にはその電圧の大きさに応じて90°方向へ近づくように変化する。光学板15は、上記の通り正のAプレートであり、その遅相軸a4が液晶分子の配向方向a3と平行になるように0°-180°方向に配置されている。光学板16は、上記の通り正のCプレートであり、その光軸が厚さ方向(光進行方位)となるように配置されている。
【0022】
図3は、液晶素子の構成例を示す模式的な断面図である。液晶素子14は、対向配置された第1基板21および第2基板22と、それぞれ第2基板22に設けられた第1電極23および第2電極24と、第1基板21と第2基板22のそれぞれに設けられた第1配向膜25および第2配向膜26と、第1基板21と第2基板22の間に配置された液晶層27と、絶縁膜28を含んで構成されている。なお、図示を省略しているが、第1基板21または第2基板22にカラーフィルタが設けられていてもよい。
【0023】
第1基板21および第2基板22は、それぞれ、平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。各基板としては、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板を用いることができる。第1基板21と第2基板22の間には、例えば多数のスペーサーが均一に分散配置されており、それらスペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。
【0024】
第1電極23、第2電極24は、ともに第2基板22の一面側に設けられている。本実施形態の第1電極23は、複数の電極枝を有する櫛歯状電極である。また、第2電極24は、第2基板24の一面のほぼ全体に設けられた対向電極である。図示のように第2電極24と第1電極23の間には絶縁膜28が設けられている。この絶縁膜28は、例えばSiO膜などの無機絶縁膜、あるいは有機絶縁膜である。第1電極23と第2電極24の間に電圧を与えることにより、両者間にフリンジ電界を発生させることができ、それにより第2基板22の一面と平行な面内において液晶層27の液晶分子の配向方向を変化させることができる。各電極は、それぞれ例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0025】
なお、第1電極23と第2電極24への電圧印加方法、すなわち液晶素子14の駆動方法としては、スタティック駆動、デューティ駆動、TFT駆動など適宜採用することが可能であり、特にスタティック駆動が望ましい。また、図示の例ではFFS(Fringe Field Switching)モードに適した電極構造を例示していたが、IPS(In Plane Switching)モードに適した電極構造を採用してもよい。その場合、例えば第1電極23と第2電極24を共に櫛歯状電極として、同一の基板面上に配置すればよい。
【0026】
第1配向膜25は、第1基板21の一面側に設けられている。第2配向膜26は、第2基板22の一面側に設けられている。各配向膜としては、液晶層27の配向状態を水平配向に規制する配向膜が用いられている。各配向膜にはラビング処理等の一軸配向処理が施されており、一方向への配向規制力を有している。各配向膜への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。
【0027】
液晶層27は、第1基板21と第2基板22の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが正でありカイラル材を含まず、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層27が構成される。なお、誘電率異方性Δεが負のネマティック液晶材料を用いてもよい。本実施形態の液晶層27は、それぞれ、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が一方向に傾斜した状態となり、各基板面に対して僅かなプレティルト角を有する略水平配向となるように設定されている。
【0028】
この液晶素子14においては、第1電極23と第2電極24によって生じる電界により液晶分子の配向方向に変化を生じ得る領域のそれぞれが光変調領域29となる。これら光変調領域29ごとに個別に透過光の状態を制御することにより、所望の配光パターンを得ることができる。
【0029】
図1に示した第1実施形態の液晶素子14におけるリタデーション(液晶材料複屈折Δnと液晶層厚dの積)を略300nmに設定した場合における電圧無印加時の視角特性の最適化をシミュレーション解析した。その結果、例えば、正のCプレートのRthを-91nm、正のAプレートのReを140nmとしたときに図4に示す等透過率曲線が得られた。図4において示される等透過率曲線の等高線は内側から0.01%、0.02%、0.03%、0.05%、0.1%である。以下、同様なシミュレーション解析結果でも同様に定義する。図示のように、全方位において光抜けが抑制された優れた視角特性を示していることがわかる。
【0030】
以上のような実施形態によれば、主に第2光学板(正のCプレート)による視角補償効果により、入射光が広角であっても、車両前方へ照射される投射像(配光パターン)のコントラストを向上させることができる。
【0031】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図5に示す車両用灯具システムは、カメラ1によって撮影される自車両周辺(例えば前方)の画像に基づいて、制御部2により画像認識処理を行って対象体(例えば対向車両、先行車両、歩行者等)の有無を検出し、その対象物体の位置に応じて液晶駆動部3、3aによりランプユニット4aの液晶素子14、18を制御して選択的な光照射を行うものである。第1実施形態との主な違いはランプユニットの構成であるので、以下では相違する構成について詳細に説明し、共通する構成については説明を省略する。
【0032】
ランプユニット4aは、自車両の前部に配置されて光照射を行うためのものであり、光源11、集光レンズ(集光光学系)12、一対の偏光板13a、13b、液晶素子14、光学板15、投影レンズ(結像投影光学系)17、液晶素子18および光学板19を含んで構成される。第1実施形態のランプユニット4との違いは、光学板16(正のCプレート)が垂直配向型である液晶素子18と負のCプレートである光学板19に置き換えられた点である。なお、本実施形態では一対の偏光板13a、13b、液晶素子14、光学板15、液晶素子18および光学板19が「光シャッター部」に対応する。
【0033】
液晶素子18は、液晶駆動部3aから供給される駆動電圧によって駆動されて、光源11から集光レンズ12等を介して入射する光に変調を与えるものである。この液晶素子18は、複数の光変調領域(画素)を有しており、それぞれの光変調領域ごとに光に対して変調を与えることができる。本実施形態では、液晶素子18として電圧無印加時の配向状態が垂直配向(または略垂直配向)である垂直配向型の液晶素子が用いられる。液晶素子18は、液晶素子14と光学板19の間に配置されている。液晶素子18の詳細な構成については後述する(図7参照)。
【0034】
光学板19は、負のCプレートであり、光学板15と液晶素子18の間に配置されている。ここで、上記した光学板の定義を用いて表すと、負のCプレートはNz=+∞の光学板である。この光学板19と液晶素子18の組み合わせにより、第1実施形態における光学板16の機能を代替することができる。なお、面内位相差Re(=(nx-ny)×d)が数nm以下である負の二軸光学異方性を有する光学板も実質的には負のCプレートと同等であるので、本明細書ではこのような二軸光学異方性を有する光学板についても負のCプレートに含むものとする。
【0035】
正のCプレートである光学板16と同じΔn・d(リターデーション)を得ようとすると液晶素子18のセル厚dや屈折率異方性Δnを小さくする必要があり、実現が難しいので、実用的な範囲でなるべくΔn・dを小さく設定したうえで、負のCプレートである光学板19によりΔn・dを差し引くことで、全体として光学補償を得ることができる。
【0036】
ここで、負のCプレートを用いる場合、その素材としてCOP樹脂、TAC樹脂、無機材料等を用いることができる。このうち、COP樹脂、無機材料は比較的に耐熱性に優れているため、強い光を用いる車両用灯具においては好ましい。それらの材料を用いた負のCプレートを光学板19として用いることでランプユニット4aの耐熱性を高めることができる。
【0037】
本実施形態のランプユニット4aは、液晶素子14および液晶素子18の何れかあるいは両方の各光変調領域において光が変調され、その光が偏光板13bを通して出射して投影レンズ17によって投影されることにより、自車両の前方に種々の配光パターンを形成することができる。例えば、先行車両や対向車両の存在する領域は遮光ないし減光し、それ以外の領域には光を照射するような配光パターンを形成することができる。
【0038】
例えば、通常動作時には液晶素子14と液晶素子18の何れか一方だけを駆動し、他方は駆動電圧を与えないようにしても、配光パターンを形成することが可能である。この場合、例えば通常動作時に用いる液晶素子が故障した場合には他方の液晶素子を駆動するようにすれば、故障時のバックアップを行うことができる。また、両方の液晶素子14、18を駆動することで、ECB(Electrically Controlled Birefringence)効果を利用して配光パターンの色調を変化させることもできる。また、液晶素子14、液晶素子18でそれぞれ別々の画像形成を行うことで2画面表示を実現できる。
【0039】
図6は、液晶素子、各光学板および各偏光板の光学軸の配置について説明するための図である。なお、第1実施形態との変更点は液晶素子18および光学板19であるので、それら以外については説明を省略する。液晶素子18は、電界印加時に液晶層の液晶分子の配向方向が2つに分かれるマルチドメイン配向を用いるものであり、電界印加時の1つのドメインの配向方向a6が225°方向、他の1つの配向方向a7が45°方向となるように設定されている。なお、マルチドメイン配向の実現方法については、スリットやリブを用いた斜め電界による方法や、配向膜に対する配向処理方向を領域ごとに異ならせる方法など種々の公知技術を用いることができる。また、光学板19は、負のCプレートであるので、液晶素子18と光学板15の間に配置されていればよい。
【0040】
図7は、液晶素子の構成例を示す模式的な断面図である。液晶素子18は、対向配置された第1基板31および第2基板32と、第1基板31に設けられた第1電極33と、第2基板32に設けられた第2電極34と、第1基板31と第2基板32のそれぞれに設けられた第1配向膜35および第2配向膜36と、第1基板31と第2基板32の間に配置された液晶層37を含んで構成されている。なお、液晶素子14の構成は上記した第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0041】
第1基板31および第2基板32は、上記した第1基板21および第2基板22と同様のものであり、それぞれ、平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。
【0042】
第1電極33は、第1基板32の一面側に設けられている。同様に、第2電極34は、第2基板32の一面側に設けられている。各電極は、それぞれ例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0043】
なお、第1電極23と第2電極24への電圧印加方法、すなわち駆動方法としては、スタティック駆動、デューティ駆動、TFT駆動など適宜採用することが可能であり、特にスタティック駆動が望ましい。
【0044】
第1配向膜35は、第1基板31の一面側に設けられている。第2配向膜36は、第2基板32の一面側に設けられている。各配向膜としては、液晶層37の配向状態を垂直配向に規制する配向膜が用いられている。各配向膜にはラビング処理等の一軸配向処理が施されていてもよい。その場合、各配向膜への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。なお、図示を省略しているが、各電極にスリットやリブなどを設けて斜め電界を発生させる場合には、各配向膜へのラビング処理は不要である。
【0045】
液晶層37は、第1基板31と第2基板32の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負でありカイラル材を含まず、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層37が構成される。本実施形態の液晶層37は、それぞれ、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が垂直配向(または略垂直配向)となるように設定されている。ここで、垂直配向とは液晶分子の配向方向と基板面とのなす角であるプレティルト角が90°の場合をいい、略垂直配向とは当該プレティルト角が90°未満であって90°に近い値(例えば89°)である場合をいう。
【0046】
この液晶素子18においては、第1電極33と第2電極34によって生じる電界により液晶分子の配向方向に変化を生じ得る領域のそれぞれが光変調領域39となる。これら光変調領域39ごとに個別に透過光の状態を制御することにより、所望の配光パターンを得ることができる。また、図8において概念図で示すように、液晶素子14の光変調領域29と液晶素子18の光変調領域39を平面視において相補的な関係となるようにして相互間に隙間なく配置することにより、全体としては光変調領域の相互間に隙間をなくすことができるので、配光パターンに暗線(ダークグリッド)が生じないようにすることができる。それにより、配光パターンの品位がより高まる。なお、ここでは図中の左右方向に各光変調領域が並ぶ場合について示したが上下方向に並んでいてもよい。
【0047】
図5に示した第2実施形態の液晶素子18のリタデーションが略320nmである場合における電圧無印加時の視角特性の最適化をシミュレーション解析した。その結果、例えば、負のCプレートのRthを220nm、正のAプレートのReを140nmとしたときに図9に示すような等透過率曲線が得られた。従来技術に比べるとわずかに光抜けは大きくなっているが良好な視角特性が得られることが分かった。
【0048】
なお、正のAプレートを他の光学板に置き換えることもできる。例えば、正のAプレートをNz=1.5である負の二軸光学異方性を有する二軸フィルム(負の二軸プレート)と置き換えた場合について説明する。この光学フィルムは、例えばノルボルネン系環状オレフィンポリマーフィルムを延伸加工するにあたり、横一軸延伸のみで得られる。近接する偏光板の吸収軸に対して略直交する遅相軸を有していれば光学フィルムを偏光板に対してロールトゥロールで貼り合わせることや接着することができる利点がある。この置き換えを行い、図5に示した第2実施形態の液晶素子18のリタデーションが略360nmである場合における電圧無印加時の視角特性の最適化をシミュレーション解析した。その結果、例えば、負のCプレートのRthを220nm、負の二軸光学異方性を有する二軸フィルムのReを100nm、Rthを100nmとしたときに図10に示すような等透過率曲線が得られた。従来技術に比べるとわずかに光抜けは大きくなっているが良好な視角特性が得られることが分かった。
【0049】
次に、正のAプレートをNz=0.5である正の二軸光学異方性を有する二軸フィルム(正の二軸プレート)と置き換えた場合についても説明する。この置き換えを行い、図5に示した第2実施形態の液晶素子18のリタデーションが略275nmである場合における電圧無印加時の視角特性の最適化をシミュレーション解析した。その結果、負のCプレートのRthを220nm、正の二軸光学異方性を有する二軸フィルムのReを227nm、Rthを0nmとしたときに図11に示すような等透過率曲線が得られた。従来技術に比べるとわずかに光抜けは大きくなっているが良好な視角特性が得られることが分かった。
【0050】
次に、正のAプレートをNz=0である負のAプレートと置き換えた場合についても説明する。この置き換えを行い、図5に示した第2実施形態の液晶素子18のリタデーションが略230nmである場合における電圧無印加時の視角特性の最適化をシミュレーション解析した。その結果、負のCプレートのRthを330nm、負のAプレートのReを125nmとしたときに図12に示す様な等透過率曲線が得られた。従来技術に比べるとわずかに光抜けは大きくなっているが良好な視角特性が得られることが分かった。
【0051】
以上のような実施形態によれば、主に液晶素子と第2光学板(負のCプレート)による視角補償効果により、入射光が広角であっても、車両前方へ照射される投射像(配光パターン)のコントラストを向上させることができる。
【0052】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、第2実施形態における液晶素子18としてマルチドメイン配向の垂直配向型液晶素子を例示していたがモノドメイン配向の垂直配向型液晶素子を用いてもよい。また、上記各実施形態では、カメラにより撮影した画像に基づいて対象体を検出していたが他の手段(例えばLiDARなど)によって対象体が検出されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1:カメラ、2:制御部、3、3a:液晶駆動部、4、4a:ランプユニット、11:光源、12:集光レンズ(集光光学系)、13a、13b:偏光板、14、18:液晶素子、15:第1光学板、16:第2光学板、17:投影レンズ(結像投影光学系)、19:第3光学板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12