(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】熱処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/26 20060101AFI20221116BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20221116BHJP
B01D 8/00 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
H01L21/26 G
H01L21/265 601A
B01D8/00 Z
(21)【出願番号】P 2018144759
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】布施 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森 和也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 郁
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-535164(JP,A)
【文献】実開昭49-015132(JP,U)
【文献】特開平08-083773(JP,A)
【文献】特開2009-206167(JP,A)
【文献】特開平01-102924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/26
H01L 21/265
B01D 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を加熱する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内に収容された前記基板を加熱する加熱源と、
前記チャンバー内の雰囲気を排出する排気経路と、
前記排気経路に設けられ、前記雰囲気中に含まれる物質を捕獲するトラップ部と、
を備え、
前記トラップ部は、筐体の内部に当該筐体を通過する気流を冷却する冷却部を設け
、
前記トラップ部は、前記冷却部によって冷却された気流が衝突するトラップ板を前記筐体の内部にさらに備え、
前記トラップ部は、前記冷却部が前記気流を冷却することによって析出した前記物質を付着させる捕集基板を収容する収容部を前記筐体の内部にさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
請求項
1記載の熱処理装置において、
前記加熱源は、基板に光を照射して加熱するランプを備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の熱処理装置において、
前記物質はヒ素であることを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハー等の薄板状精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)を光照射等によって加熱する熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するフラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0003】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。
【0004】
このようなフラッシュランプアニールは、極短時間の加熱が必要とされる処理、例えば典型的には半導体ウェハーに注入された不純物の活性化に利用される。イオン注入法によって不純物が注入された半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射すれば、当該半導体ウェハーの表面を極短時間だけ活性化温度にまで昇温することができ、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
一方、半導体デバイスは典型的にはシリコンを用いて形成されるのであるが、微細化の限界を迎えつつある近年においては、シリコンに代わる材料にて半導体デバイスを形成する試みも盛んである。ゲルマニウムやガリウムヒ素(GaAs)等の半導体は、シリコンよりも移動度が高く、これらの材料を用いてトランジスタを形成すればシリコンよりも高い性能を有した半導体デバイスの製作が可能である。例えば、特許文献1には、ガリウムヒ素の半導体薄膜に錫、ゲルマニウム、鉛等を含有させたものにフラッシュランプアニールを行うことにより、高キャリア移動度および高品質の半導体薄膜を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガリウムヒ素の半導体を400℃以上に加熱するとヒ素(As)が外方拡散によって半導体薄膜から放出されることが判明している。フラッシュランプアニールにおいても、短時間ではあるものの半導体薄膜が400℃以上の温度域に到達するため、外方拡散によるヒ素の放出が懸念される。ヒ素は、微量でも有害であることが知られている。
【0008】
このため、加熱時に放出されたヒ素をフラッシュランプアニール装置から外部に排出しないようにすることが求められる。一般的には、ヒ素等の有害物質を大気中に放散させないための対策として、工場排気にスクラバや除外装置が接続されている。しかし、このようなスクラバや除外装置をフラッシュランプアニール装置に組み込むことは、コストパフォーマンスおよびフットプリントの観点から現実的ではない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成にて有害物質の外部への排出を防止することができる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内に収容された前記基板を加熱する加熱源と、前記チャンバー内の雰囲気を排出する排気経路と、前記排気経路に設けられ、前記雰囲気中に含まれる物質を捕獲するトラップ部と、を備え、前記トラップ部は、筐体の内部に当該筐体を通過する気流を冷却する冷却部を設け、前記トラップ部は、前記冷却部によって冷却された気流が衝突するトラップ板を前記筐体の内部にさらに備え、前記トラップ部は、前記冷却部が前記気流を冷却することによって析出した前記物質を付着させる捕集基板を収容する収容部を前記筐体の内部にさらに備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理装置において、前記加熱源は、基板に光を照射して加熱するランプを備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る熱処理装置において、前記物質はヒ素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1から請求項3の発明によれば、排気経路に設けられたトラップ部は、筐体の内部に当該筐体を通過する気流を冷却する冷却部を設けるため、雰囲気中に含まれる物質を固体として析出させて捕獲することができ、簡易な構成にて有害物質の外部への排出を防止することができる。また、トラップ部は、冷却部によって冷却された気流が衝突するトラップ板を備えるため、有害物質をより確実に捕獲することができる。また、トラップ部は、冷却部が気流を冷却することによって析出した物質を付着させる捕集基板を収容する収容部を備えるため、捕集基板を分析することによって有害物質の捕獲を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
【
図7】複数のハロゲンランプの配置を示す平面図である。
【
図8】トラップボックスの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。
図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである(本実施形態ではφ300mm)。熱処理装置1に搬入される前の半導体ウェハーWには、ガリウムヒ素の半導体薄膜が形成されており、熱処理装置1による加熱処理によってガリウムヒ素に注入された不純物の活性化が実行される。なお、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0021】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。また、熱処理装置1は、チャンバー6から排気される気体から有害物質であるヒ素を除去するトラップボックス90を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0022】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0023】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0024】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0025】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0026】
さらに、チャンバー側部61には、貫通孔61aが穿設されている。チャンバー側部61の外壁面の貫通孔61aが設けられている部位には放射温度計20が取り付けられている。貫通孔61aは、後述するサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を放射温度計20に導くための円筒状の孔である。貫通孔61aは、その貫通方向の軸がサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの主面と交わるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。貫通孔61aの熱処理空間65に臨む側の端部には、放射温度計20が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化バリウム材料からなる透明窓21が装着されている。
【0027】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は処理ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中には給気バルブ84が介挿されている。給気バルブ84が開放されると、処理ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。処理ガスとしては、例えば窒素(N2)等の不活性ガス、または、水素(H2)、アンモニア(NH3)等の反応性ガス、或いはそれらを混合した混合ガスを用いることができる(本実施形態では窒素ガス)。
【0028】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中には排気バルブ89およびトラップボックス90が介挿されている。排気バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。
【0029】
排気部190としては、真空ポンプや熱処理装置1が設置される工場の排気ユーティリティを用いることができる。排気部190として真空ポンプを採用し、給気バルブ84を閉止してガス供給孔81から何らのガス供給を行うことなく密閉空間である熱処理空間65の雰囲気を排気すると、チャンバー6内を真空雰囲気にまで減圧することができる。また、排気部190として真空ポンプを用いていない場合であっても、ガス供給孔81からガス供給を行うことなく排気を行うことにより、チャンバー6内を大気圧未満の気圧に減圧することができる。
【0030】
図8は、トラップボックス90の構成を示す斜視図である。また、
図9はトラップボックス90の正面図であり、
図10はトラップボックス90の平面図である。
図8~
図10の各図においては、それらの方向関係を明確にするためZ軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を付している。
【0031】
トラップボックス90は、ガス排気管88の経路途中に設けられている。トラップボックス90の設置位置は特に限定されるものではないが、ガス排気管88の経路途中において可能な限りチャンバー6のガス排気孔86の近くに設けるのが好ましい。
【0032】
トラップボックス90は、筐体91の内部に、主たる構成要素としてラジエーター92、トラッププレート95およびウェハー収容部96を備える。筐体91は、中空の直方体形状の箱である。筐体91には、内部に気体を取り入れる給気口97および内部の気体を排出する排気口98が設けられている。給気口97および排気口98は、チャンバー6から排出された気体を導くガス排気管88に接続される。
【0033】
ラジエーター92は、筐体91の内部空間を隔てるように、筐体91の断面(YZ断面)の全面に設けられている。ラジエーター92は、複数の冷却管93、図示を省略するタンクおよび循環ポンプを備える。複数の冷却管93は、所定の間隔を隔てて平行に並べて配置されている。複数の冷却管93のそれぞれは、熱伝導性に優れた材質、例えばアルミニウムによって形成されている。タンクに貯留されている所定温度に温調された冷却液(例えば、冷却水)が循環ポンプによって複数の冷却管93内を流れて循環されるように構成されている。複数の冷却管93の間を通る気体は冷却液が流れる冷却管93によって冷却されることとなる。ラジエーター92は、筐体91の断面全面に設けられているため、筐体91を通過する気流全体を冷却する。なお、ラジエーター92の冷却効率を高めるために、冷却管93は表面積の大きな蛇行形状とされていていても良いし、複数の冷却管93が格子状に配置されていても良い。
【0034】
トラッププレート95は、筐体91の内部にてラジエーター92と平行に設けられた板状部材である。
図8および
図9に示すように、トラッププレート95は、筐体91の断面(YZ断面)の上部を遮蔽するように設けられている。従って、トラッププレート95が設置された筐体91の断面において、トラッププレート95の下方は開放されている。トラッププレート95の材質は特に限定されるものではないが、例えば塩化ビニル樹脂を用いることができる。
【0035】
ラジエーター92およびトラッププレート95は、筐体91に対して着脱可能に設けられている。従って、必要に応じてラジエーター92およびトラッププレート95を交換することが可能である。
【0036】
ウェハー収容部96は、筐体91の内部にてトラッププレート95の下方に設置されている。ウェハー収容部96は、トラッププレート95の下方にて計測用ウェハーMWを水平姿勢に載置する。つまり、ウェハー収容部96は、トラッププレート95と垂直に計測用ウェハーMWを載置する。計測用ウェハーMWは、一般的な半導体ウェハーWと同じ形状およびサイズを有するシリコン基板である。但し、計測用ウェハーMWには、パターン形成や成膜処理はなされていない。
【0037】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0038】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(
図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0039】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。
図3は、サセプタ74の平面図である。また、
図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0040】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0041】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0042】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0043】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0044】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0045】
また、
図2および
図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、放射温度計20が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、放射温度計20が開口部78およびチャンバー側部61の貫通孔61aに装着された透明窓21を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して当該半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0046】
図5は、移載機構10の平面図である。また、
図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(
図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(
図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0047】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(
図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0048】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0049】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。複数のフラッシュランプFLが配列される領域は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きい。
【0050】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0051】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0052】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0053】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0054】
また、
図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0055】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0056】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0057】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(
図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0058】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0059】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0060】
次に、熱処理装置1における処理動作について説明する。まず、処理対象となる半導体ウェハーWに対する熱処理の手順について説明する。ここで処理対象となる半導体ウェハーWは、シリコンの基材上にガリウムヒ素の半導体薄膜が形成された半導体基板である。そのガリウムヒ素の半導体薄膜に注入された不純物の活性化が熱処理装置1によるフラッシュ光照射加熱処理(アニール)により実行される。以下に説明する半導体ウェハーWの処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0061】
まず、給気バルブ84が開放されるとともに、排気バルブ89が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される。給気バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、排気バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0062】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。このときには、半導体ウェハーWの搬入にともなって装置外部の雰囲気を巻き込むおそれがあるが、チャンバー6には窒素ガスが供給され続けているため、搬送開口部66から窒素ガスが流出して、そのような外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0063】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0064】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、ガリウムヒ素の半導体薄膜が形成された表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0065】
半導体ウェハーWが石英にて形成された保持部7のサセプタ74によって水平姿勢にて下方より保持された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの下面に照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0066】
ハロゲンランプHLによる予備加熱を行うときには、半導体ウェハーWの温度が放射温度計20によって測定されている。すなわち、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から開口部78を介して放射された赤外光を透明窓21を通して放射温度計20が受光して昇温中のウェハー温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。
【0067】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、放射温度計20によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0068】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、基板Wの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。
【0069】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時点にてフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0070】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに注入された不純物が活性化された後、表面温度が急速に下降する。このように、熱処理装置1では、半導体ウェハーWの表面温度を極めて短時間で昇降することができるため、半導体ウェハーWに注入された不純物の熱による拡散を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。なお、不純物の活性化に必要な時間はその熱拡散に必要な時間に比較して極めて短いため、0.1ミリセカンドないし100ミリセカンド程度の拡散が生じない短時間であっても活性化は完了する。
【0071】
フラッシュ加熱処理が終了した後、所定時間経過後にハロゲンランプHLが消灯する。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1から急速に降温する。降温中の半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計20の測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0072】
ところで、本実施形態においては、ガリウムヒ素の半導体薄膜が形成された半導体ウェハーWの加熱処理を行っている。ガリウムヒ素は400℃以上に加熱されるとヒ素が外方拡散によって半導体薄膜から放出されることが知られている。上記の予備加熱温度T1が400℃以上であると、ハロゲンランプHLによる予備加熱時に半導体ウェハーWからヒ素が放出されることとなる。また、処理温度T2が400℃以上であれば、短時間ではあるもののフラッシュランプFLによるフラッシュ加熱時にも半導体ウェハーWからヒ素が放出される。半導体ウェハーWから放出されたヒ素は気体としてチャンバー6内の熱処理空間65に存在している。ヒ素は微量でも有害であり、半導体ウェハーWから放出されたヒ素が熱処理装置1の外部に排出されないようにする必要がある。
【0073】
このため、熱処理装置1にはトラップボックス90を設けている。排気バルブ89が開放されると、ヒ素を含むチャンバー6内の雰囲気はガス排気孔86からガス排気管88へと排出される。ヒ素を含む気体はガス排気管88を流れて給気口97からトラップボックス90の内部に流入する。
図9に示すように、給気口97からトラップボックス90の内部に流入した気体は、ラジエーター92の複数の冷却管93の間を通り抜ける。ヒ素を含む気体が複数の冷却管93の間を通り抜けるときに室温にまで冷却され、これによって気体のヒ素が固体として析出する。
【0074】
続いて、ラジエーター92によって冷却された気体流がトラッププレート95に衝突する。
図9に示すように、トラッププレート95に衝突した気体流は、開放されているトラッププレート95の下方に向けて流れの向きを変える。このときに、冷却されて析出した固体のヒ素がトラッププレート95に付着することによって捕獲される。
【0075】
トラッププレート95の下方へと向かった気体流は、トラッププレート95下方の開放部分を超えてトラップボックス90の奥側へ流れる。このときに、気体流はウェハー収容部96に載置された計測用ウェハーMWの表面にも接触することとなり、析出した固体のヒ素の一部は計測用ウェハーMWの表面にも付着する。また、トラッププレート95に捕獲されたヒ素の一部は計測用ウェハーMWの表面に落下する。
【0076】
トラッププレート95の下方を超えた気体流は排気口98から再びガス排気管88に流出して排気部190へと排出される。トラップボックス90の給気口97から流入した気体に含まれていたヒ素はラジエーター92で冷却されることによって固体として析出し、その析出したヒ素はトラッププレート95および計測用ウェハーMWに付着して捕獲される。従って、トラップボックス90の排気口98から流出する気体には有害なヒ素が含まれておらず、無害な気体が排気部190から熱処理装置1の外部に排出されることとなる。
【0077】
このように、ヒ素は有害ではあるものの、室温程度にまで冷却されることによって固体として析出するという特性を有する。本発明は、このようなヒ素の特性を利用して完成されたものであり、チャンバー6から排出された気体をラジエーター92で冷却することによってヒ素を固体として析出させて捕獲することにより有害なヒ素を除去している。そして、本実施形態においては、筐体91の内部にラジエーター92およびトラッププレート95を設けるという簡易な構成のトラップボックス90によって加熱処理時に半導体ウェハーWから放出されたヒ素を回収して無害化している。よって、スクラバや特殊な除外装置等を組み込むことなく、簡易な構成にて有害物質であるヒ素の外部への排出を防止することができる。
【0078】
また、ウェハー収容部96に載置された計測用ウェハーMWを取り出し、その計測用ウェハーMWの表面に付着した粒子を分析することによって、ヒ素が析出して捕獲されているか否かを確認することができる。計測用ウェハーMWの表面からヒ素が検出されない、或いはヒ素の検出量が顕著に少ない場合には、トラップボックス90によって十分にヒ素が回収されていない可能性が疑われる。
【0079】
また、ラジエーター92およびトラッププレート95は着脱可能に設けられているため、析出したヒ素が付着することによって汚染されたラジエーター92およびトラッププレート95を適当なタイミングで交換することができる。ラジエーター92およびトラッププレート95は、定期的に交換するようにしても良いし、汚染状況に基づいて交換するようにしても良い。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、筐体91の内部にラジエーター92、トラッププレート95およびウェハー収容部96を備えていたが、トラッププレート95およびウェハー収容部96は必須の要素ではなく、少なくとも筐体91の内部にラジエーター92が設けられていれば良い。少なくともラジエーター92が設けられていれば、チャンバー6から排出された気体を冷却してヒ素を固体として析出させ、そのヒ素を筐体91の内壁面によって捕獲することができる。このようにしても、ヒ素の外部への排出を防止することができる。もっとも、上記実施形態のように、トラッププレート95を設けている方がより確実に析出したヒ素を捕獲して回収することができる。
【0081】
また、上記実施形態においては、複数の冷却管93を備えたラジエーター92によって気体流を冷却していたが、これに限定されるものではなく、例えばペルチェ素子等の他の冷却機構によって気体流を冷却するようにしても良い。
【0082】
また、チャンバー6内を減圧雰囲気として半導体ウェハーWの加熱処理を行うようにしても良い。この場合であっても、半導体ウェハーWから放出されたヒ素をトラップボックス90にて析出させて捕獲することにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。但し、チャンバー6内を減圧雰囲気としたときにはトラップボックス90の内部も大気圧未満の減圧状態となるため、トラッププレート95の材質は減圧下でも使用可能な金属材料が好ましい。
【0083】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0084】
また、上記実施形態においては、1秒以上連続して発光する連続点灯ランプとしてフィラメント方式のハロゲンランプHLを用いて半導体ウェハーWの予備加熱を行っていたが、これに限定されるものではなく、ハロゲンランプHLに代えて放電型のアークランプ(例えば、キセノンアークランプ)を連続点灯ランプとして用いて予備加熱を行うようにしても良い。
【0085】
また、半導体ウェハーWを加熱する加熱源はランプに限定されるものではなく、例えばヒータを備えたホットプレートによって半導体ウェハーWを加熱するようにしても良い。
【0086】
また、熱処理装置1によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。基板に形成される膜はガリウムヒ素に限定されるものではなく、ヒ素を含む膜であれば良い。さらには、ヒ素に限らず、冷却されることによって固体として析出する有害物質を放出する基板の熱処理に本発明に係る技術は好適である。
【符号の説明】
【0087】
1 熱処理装置
3 制御部
4 ハロゲン加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
63 上側チャンバー窓
64 下側チャンバー窓
65 熱処理空間
74 サセプタ
88 ガス排気管
90 トラップボックス
91 筐体
92 ラジエーター
93 冷却管
95 トラッププレート
96 ウェハー収容部
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
MW 計測用ウェハー
W 半導体ウェハー