(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】防水性布帛、および該防水性布帛を用いて製造された防水シーツ
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20221116BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20221116BHJP
A47G 9/02 20060101ALI20221116BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20221116BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B27/40
A47G9/02 P
A47G9/02 R
A41D31/00 502C
(21)【出願番号】P 2018192721
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】西原 正勝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 香奈
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-353827(JP,A)
【文献】特開2000-154471(JP,A)
【文献】特開平02-234980(JP,A)
【文献】特開2014-233946(JP,A)
【文献】特開2002-142941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
A47G 9/00 - 11/00
A41D 31/00 - 31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも布帛層と、防水層とが積層されており、かつ該防水層の表面全面または一部に界面活性剤を含有する層が設けられており、
前記界面活性剤を含有する層の表面に対する水の初期接触角が135度以下であり、さらに耐水圧が500mmH
2O以上でありかつJIS L1099:2012 B-1法に基づく透湿度が3000g/m
2/24hr未満であることを特徴とする防水性布帛。
【請求項2】
前記布帛層が編物であることを特徴とする請求項1に記載の防水性布帛。
【請求項3】
前記防水層が前記防水性布帛を20%伸長させても破れ、亀裂および白化が発生しない柔軟性を有する樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防水性布帛。
【請求項4】
前記防水層がポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂層であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の防水性布帛。
【請求項5】
前記
界面活性剤を含有する層の表面に対する水の初期接触角が125度未満であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の防水性布帛。
【請求項6】
前記界面活性剤を含有する層の中に、界面活性剤が質量比率で15%~55%含有されていることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の防水性布帛。
【請求項7】
前記界面活性剤がアニオン系であることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の防水性布帛。
【請求項8】
前記界面活性剤を含有する層に架橋剤が添加されていることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の防水性布帛。
【請求項9】
前記架橋剤が2を超える架橋基を有する多官能イソシアネートであることを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の防水性布帛。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の防水性布帛を用いて製造された防水シーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維布帛層に防水性を有する防水層が積層された防水性布帛および該防水性布帛を用いて製造された防水シーツに関する。
【0002】
従来、防水性を有する繊維布帛が知られている(例えば、特許文献1を参照)。防水性を有する繊維布帛は、アウトドアウェアやカッパのような衣料分野、傘や介護用シーツ、マットレスカバーのような資材分野など様々な場面で使用されている。
【0003】
特に医療および介護の分野では、食事や排泄物、その他汗や涎といった体液での汚染を防ぎ、なおかつ雑巾やティッシュペーパーなどでふき取ることで清潔さを維持できる防水シーツが広く知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
繊維布帛に防水性を付与するために、防水性を有する層を布帛に積層する方法が知られている。該防水性を有する層は、例えば軟質の樹脂膜など布帛の持つ柔軟性を阻害しない柔軟性を有するものを、布帛上に直接製膜するか、または接着剤を介して貼り合せた積層体の様態で広く用いられている。
【0005】
しかし、単純な疎水性の膜を積層した場合、防水膜の水馴染みが悪いため、膜が水をはじいてしまい拭き掃除がやりにくかったり、膜の上にこぼれてしまった飲み物や尿などの水分を拭き掃除する際、水分が疎水膜の上を水玉となって転がっていき、シーツの端部からこぼれて関係のない場所を汚してしまう不具合があった。
【0006】
また、衣料分野で広く用いられている親水性の高いポリウレタン樹脂や多孔質のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの膜を積層した場合、水分が膜に浸透して膨潤したり、膜を透過して布帛層まで水分が達してしまったりなど、防水膜として用を足さなくなる不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-154070号公報
【文献】特開平11-309183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するものであり、改善された防水性を有しながら、膜面の水馴染み性が良いために、拭き掃除が容易でありかつ水滴が転がり漏れてしまうことを低減または防止できる防水性布帛、および該防水性布帛を用いて製造された防水シーツを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、疎水性の防水層を布帛と積層し、かつ該防水層の表面全面または一部に界面活性剤を含有する層を設けることによって、確実な防水性を有しながら、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する機能が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る防水性布帛は、少なくとも布帛層と、防水層とが積層されており、かつ該防水層の表面全面または一部に界面活性剤を含有する層が設けられており、さらに耐水圧が500mmH2O以上でありかつJIS L1099:2012 B-1に基づく透湿度が3000g/m2/24hr未満であることを特徴とする。
【0011】
また、前記布帛層は編物であることが好ましい。
【0012】
また、前記防水層が前記防水性布帛を20%伸長させても破れ、亀裂および白化が発生しない柔軟性を有する樹脂により形成されていることが好ましい。具体的には、ポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂層が挙げられる。なお、本発明において、「ポリウレタン樹脂を主成分とする樹脂層」とは、ポリウレタン樹脂を質量比率で50%超、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%含有する樹脂層を言うものである。
【0013】
また、前記界面活性剤を含有する層の表面に対する水の初期接触角が125度未満であることが好ましい。なお、本発明において、「水の初期接触角」とは、洗濯などの処理を行っていない初期の防水性布帛における界面活性剤を含有する層の表面に対する水の接触角を言うものである。
【0014】
また、前記界面活性剤を含有する層の中に、界面活性剤が質量比率で15%~55%含有されていると好ましく、界面活性剤がアニオン系であることがより好ましい。
【0015】
また、前記界面活性剤を含有する層に架橋剤が添加されていることが好ましく、該架橋剤が2を超える架橋基を有する多官能イソシアネートであるとより好ましい。なお、本発明において、「2を超える架橋基を有する多官能イソシアネート」とは、3官能イソシアネートだけでなく、例えば、2官能イソシアネートと3官能イソシアネートを併用する場合に、架橋剤全体としての見掛けの架橋基数が2と3の間の非整数値となるような多官能イソシアネートをも包含するものである。
【0016】
また、本発明による繊維製品は、上記のいずれかの防水性布帛を少なくとも一部に用いた繊維製品であって、防水シーツとして用いられる繊維製品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る防水性布帛は、防水膜の最表面部に親水性を付与されている。このため、確実な防水性を有すると同時に、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する機能を有する。したがって、本発明に係る防水性布帛により、確実な防水性を有すると同時に、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する機能を有する防水シーツを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<防水性布帛>
本実施の形態に係る防水性布帛は、少なくとも布帛層と、防水層とが積層されており、かつ該防水層の表面全面または一部に界面活性剤を含有する層、より具体的には界面活性剤を含有する最外層が設けられており、さらに耐水圧が500mmH2O以上でありかつJIS L1099:2012 B-1に基づく透湿度が3000g/m2/24hr未満であるものである。
【0019】
本実施の形態における布帛層を構成する有用な繊維の素材としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン、または、アセテートやビスコースなどのレーヨンなどがあり、さらに、これらの他に、ポリ乳酸、芳香族ポリアミド、ポリイミドまたはポリフェニレンサルファイドなどの化学繊維、綿、麻、絹または羊毛などの天然繊維、あるいは、これらの素材の混繊、混紡、交織または交編品を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0020】
また、布帛層を構成する繊維は、長繊維および短繊維のいずれであってもよい。また、この繊維を用いた糸は、生糸、撚糸、および加工糸のいずれであってもよい。加工糸についても、特に限定されるものではなく、仮撚加工糸(ウーリー加工糸、DTY、改良仮撚加工糸など)、押込加工糸、賦型加工糸、擦過加工糸、タスラン加工糸、糸長差引きそろえ加工糸、複合加工糸、毛羽加工糸、交絡集束糸、交絡混繊糸などを用いることができる。
【0021】
また、繊維の断面形状についても、特に限定されるものではなく、丸型、三角、星形、扁平、C型、中空、井形、ドックボーンなどが挙げられる。
【0022】
また、それらの素材からなる布帛層は、織物、不織布または編物など、いかなる形態であってもよいが、一般に防水シーツには伸縮性があれば、使用時の快適性や、交換時の作業性に優れているため、布帛に伸縮性を付与しやすい編物であることが好ましい。
【0023】
また、布帛層は、あらかじめ着色されていてもよいし、着色されていなくてもよい。布帛層をあらかじめ着色する場合には、分散染料、カチオン染料、酸性染料、直接染料、反応染料、建染染料、または、硫化染料などの染料、あるいは、蛍光増白剤、または、顔料などを用いて着色することができる。なお、布帛層を着色するために用いられる材料は、特に限定されるものではなく、布帛層の素材に合わせて適切なものを選択すればよい。
【0024】
また、着色方法は、原着、浸染、または、捺染などの方法があり、特に限定されるものではない。
【0025】
また、布帛層には、難燃加工、制電加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工、耐光向上加工、または、撥水加工などが施されていてもよい。
【0026】
布帛層に積層して防水層として用いられる素材は、得られる防水性布帛の耐水圧が500mmH2O以上でありかつJIS L1099:2012 B-1法に基づく透湿度が3000g/m2/24hr未満となるようなものであれば、特に限定されるものではない。
【0027】
具体的にはアルミニウムや金などの金属箔、ケイ素やチタンなどの酸化物、ポリジメチルシロキサンをはじめとするシリコーン樹脂、ポリエチレンをはじめとするポリオレフィン、ポリ塩化ビニルをはじめとするポリハロゲン化オレフィン、ポリブタジエンをはじめとするゴム、セロハン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0028】
防水性布帛の耐水圧は500mmH2O以上が好ましく、1000mmH2O以上がより好ましく、2000mmH2O以上が最も好ましい。防水性布帛の耐水圧が500mmH2O未満であると、防水層としての本来の役割を十分に果たせられず、被覆している物品が水に濡れてしまうおそれがある。なお、耐水圧の上限値は、特に限定されないが、例えば、100000mmH2O以下、80000mmH2O以下、50000mmH2O以下、又は20000mmH2O以下であってもよい。
【0029】
防水性布帛のJIS L1099:2012 B-1法に基づく透湿度は3000g/m2/24hr未満が好ましく、2500g/m2/24hr未満がより好ましく、2000g/m2/24hr未満が最も好ましい。透湿度が3000g/m2/24hr以上であると水分が膜に浸透して膨潤してしまうおそれがある。なお、透湿度の下限値は、特に限定されないが、例えば、10g/m2/24hr以上、30g/m2/24hr以上、50g/m2/24hr以上、又は100g/m2/24hr以上であってもよい。
【0030】
なお、一般に防水シーツには伸縮性があれば、使用時の快適性や、交換時の作業性に優れているため、防水層が防水性布帛を20%伸長させても破れや亀裂、白化などが発生しない柔軟性を有する樹脂により形成されていることが好ましい。特に、防水性布帛の伸縮に対し追随性が高く、塑性変形が発生しにくく、かつ製造の容易さの観点から防水層にはポリウレタン樹脂を主成分として用いることがさらに好ましい。
【0031】
布帛層と防水層とを積層する方法としては、ダイコーターやリップコーター、スリットコーター、ナイフコーター、グラビアコーターなどの一般的な塗工機を使用し、布帛層上に直接樹脂を塗工して乾燥ないし凝固させる方法、真空蒸着やスパッタリング、CVDなど素材を布帛層上に堆積させる方法、延伸や押し出し、キャスティング、スカイビング、インフレーションなどであらかじめ製膜したフィルムの全面もしくは一部に接着剤を塗布し、接着剤を介して布帛層に接着させるラミネートなどの方法があり、特に限定されるものではない。
【0032】
界面活性剤を含有する層の表面に対する水の接触角が小さければ、防水膜の水馴染み性が良くなるため、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する機能が強く発現される。具体的には、界面活性剤を含有する層の表面に対する水の接触角が135度超であると、十分な水馴染み性が得られない場合がある。したがって、界面活性剤を含有する層の表面に対する水の接触角、特には水の初期接触角は135度以下であることが好ましく、125度未満であることがより好ましく、100度未満であることが最も好ましい。本実施の形態に係る防水性布帛によれば、JIS L0217:1995 103法に準じた20回の洗濯処理後においても界面活性剤を含有する層の表面に対する水の接触角を135度以下、好ましくは130度以下、より好ましくは120度以下に維持することが可能であり、したがってより長い期間にわたって良好な水馴染み性を達成することが可能であり、ひいてはより長い期間にわたって容易な拭き掃除および水滴の転がり漏れ防止を達成することが可能となる。なお、本発明において、「JIS L0217:1995 103法に準じた20回の洗濯処理」とは、洗濯時間を25分、1回あたりのすすぎ時間を10分とし処理したものを5回の洗濯処理とし、この作業を4回繰り返し、次いで最後に吊り干しにて1回乾燥を行ったものを言うものである。
【0033】
界面活性剤を含有する層の中には、界面活性剤が質量比率で10%~65%含有されていることが好ましく、15%~55%がより好ましく、20%~50%がさらにより好ましく、25%~45%が最も好ましい。界面活性剤の質量比率が10%未満であると、界面活性剤を含有する層の表面に対する水の接触角を小さくする効果が弱く、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する機能が十分に発現されない場合がある。界面活性剤の質量比率が多くなると、肌に触れるとべたつきを感じたり、層の機械的強度が弱く使用している際に層が脱落して効果を発現できなくなったりしてしまう場合がある。このようなべたつきや層の脱落を確実に防止するためには、界面活性剤の質量比率は55%以下とすることが好ましい。
【0034】
界面活性剤としては、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムやカルボン酸塩をはじめとするアニオン系界面活性剤、4級アンモニウム塩をはじめとするカチオン系界面活性剤、ベタイン型をはじめとする両性界面活性剤、オキシエチレン基、オキシプロピレン基又はそれらの組み合わせを含むポリオキシアルキレングリコールやアルコールエトキシレートをはじめとするノニオン系界面活性剤などがある。特にアニオン系の界面活性剤を用いた場合、界面活性剤を含有する層の表面に対する水の接触角を小さくする効果が高く、防水膜の水馴染み性がより良くなるため、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する機能が強く発現させることができるため、好ましい。
【0035】
防水層の表面全面または一部に界面活性剤を含有する層を設ける方法としては、ポリウレタン樹脂やポリアクリル酸エステルなど適切に選択されたベース樹脂中に界面活性剤を混合または分散した塗工液を、ダイコーターやリップコーター、スリットコーター、ナイフコーター、グラビアコーターなどの一般的な塗工機を使用し、布帛層に積層された防水層の全面または一部に、直接、もしくはラミネートする前のフィルムに塗工し、乾燥ないし凝固するなどの方法があり、特に限定されるものではない。
【0036】
また、架橋剤によって界面活性剤と防水層、および界面活性剤と界面活性剤を含有する層のベース樹脂との間に化学結合を形成することにより、水拭きや洗濯等による界面活性剤の流出を防止する効果が得られるため、界面活性剤を含有する層には架橋剤が添加されていることが好ましい。
【0037】
架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、イソシアネート、エポキシ、ジアルデヒド、フェノール樹脂、メラミン樹脂、有機過酸化物、アリルアジド、ジアジリン、硫黄、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され、界面活性剤と防水層、および界面活性剤を含有する層のベース樹脂との相性により適切に選択される。特に、2を超える架橋基を有する多官能イソシアネート、例えば3官能イソシアネートを用いることが好ましい。2を超える架橋基を有する多官能イソシアネートは、防水層に好適に用いられるポリウレタン樹脂と、その柔軟性を損なうことなく3次元網目構造を形成することができるため、水拭きや洗濯等による界面活性剤の流出を防止する効果が高い。
【0038】
以上説明した本発明の一実施の形態に係る防水性布帛は、少なくとも布帛層と、防水層とが積層されており、かつ該防水層の表面全面または一部に界面活性剤を含有する層が設けられており、さらに耐水圧が500mmH2O以上でありかつJIS L1099:2012 B-1に基づく透湿度が3000g/m2/24hr未満であるがために、確実な防水性を有すると同時に、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する機能を有する。
【0039】
<防水シーツ>
本実施の形態における防水シーツは、上記防水性布帛を少なくとも一部に用いたものであり、例えば介護用の敷布団やマットレスなどである。
【0040】
本実施に形態における防水シーツは、上記防水性布帛を用いているため、確実な防水性を有すると同時に、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する機能を有する防水シーツである。
【実施例】
【0041】
以下、本実施の形態における防水性布帛の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例におけるA~Iの各評価項目における各種物性などの測定および評価は、次の方法によって行った。また、実施例および比較例における「%」、「部」は、「質量%」、「質量部」である。
[A:透湿度]
透湿度は、JIS L1099:2012 B-1法(酢酸カリウム法)により測定した。ただし、表示を24時間に換算して行った。
[B:耐水圧]
耐水圧は、JIS L1092:2009 耐水度試験(静水圧法)A法(低水圧法)により測定した。
[C:水接触角]
界面活性剤を含有する層の表面に対する水の接触角は、協和界面科学株式会社製 FACE CA-Dによって、初期と下記Dの洗濯処理後の両方について測定した。測定に使用した水はpH6~8、温度25℃のイオン交換水である。
[D:洗濯処理]
JIS L0217:1995 103法に準じて洗濯処理を20回行った。なお、洗濯時間を25分、1回あたりのすすぎ時間を10分とし処理したものを5回の洗濯処理とし、この作業を4回行い、20回の洗濯処理とした。乾燥は、20回の洗濯処理の後、吊り干しにて1回行った。
【0042】
[E:漏水]
防水性を漏水の観点から評価し、具体的には10cm四方の試料の防水膜面に2gの水を滴下し、膜面に押し込むように力を加えて塗り広げた後、裏面からの漏水の有無を確認することにより評価した。
[F:水膨潤]
防水性を水膨潤の観点からも評価し、具体的には10cm四方の試料の防水膜面に2gの水を滴下して塗り広げ、5分間静置したのちの外観を確認することにより評価した。
[G:水馴染み性]
水馴染み性は、10cm四方の試料の防水膜面に2gの水を滴下して塗り広げた後、乾いた雑巾でふき取った際のふき取り作業のしやすさを以下の4段階で評点付けすることにより、初期と上記Dの洗濯処理後の両方について評価した。以下の4段階のうち2~4の評価を合格とした。
1:ふき取りにくい
2:ふき取りやすい
3:かなりふき取りやすい
4:非常にふき取りやすい
[H:伸縮追随性]
伸縮追随性は、幅25mmの短冊状の試験片を、チャック間距離100mmでつかみ、引張試験機にて120mmまで20%伸長させ100mmまで復帰させる操作を5回行い、試験後の外観(破れ、亀裂及び白化の有無等)を確認することにより評価した。
[I:膜面のべたつき]
防水膜面を手で触って膜面のべたつきを確認した。
【0043】
(実施例1)
<織物を用いた布帛層>
ポリエステル繊維を用いた織物(糸使い:84デシテックス/72フィラメント、密度:経106本/吋、緯86本/吋の平織物)を分散染料で緑色に染色し、熱セットを行った。
【0044】
<PETフィルムによる防水層の積層>
次に、グラビアコーターを用いて湿気硬化型ホットメルトタイプウレタン樹脂接着剤 タイフォース NH-321(DIC株式会社製)を110℃に加熱し溶融させ、点状に、厚み38μmのPETフィルムの面に付与した。
次に、PETフィルムの接着剤を付与した面に上記ポリエステル繊維を用いた織物を重ね合せ、ニップロールを用いて100℃で熱圧着した。熱圧着したのち、70℃で72時間エージングすることで、ポリエステル繊維を用いた織物とPETフィルムが積層された防水性布帛を得た。
【0045】
<界面活性剤を含有する層の付与>
次に、ポリウレタン樹脂系塗料 ラックスキン U956(セイコー化成株式会社製、固形分濃度:18%)100部、ノニオン系界面活性剤であるポリオキシアルキレングリコール ニューポール 80-4000(三洋化成工業株式会社製、単一製品)2部を調合して撹拌した溶液を、ポリエステル繊維を用いた織物と積層したPETフィルムの表面全面にグラビアコーターにて塗工した後、120℃にて熱風乾燥させることにより、防水層の表面に界面活性剤を含有する層を有する防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表1に記載した。
【0046】
(比較例1)
防水層の表面への界面活性剤を含有する層の付与工程を省略した以外は、実施例1に記載した方法により防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表1に記載した。
【0047】
(比較例2)
<透湿性の高いポリウレタン樹脂フィルムによる防水層の積層>
離型紙上に有機溶剤で希釈したポリウレタン樹脂 クリスボン S-525CAT(DIC株式会社製)の溶液を塗布後乾燥させて厚さ20μmの透湿性の高いポリウレタン樹脂フィルムを製膜した。
次に、ポリウレタン樹脂 クリスボン TA-170(DIC株式会社製)100部、ポリイソシアネート溶液 コロネート L(東ソー株式会社製)12部、N-メチルジエタノールアミン0.2部を調合、有機溶剤で希釈し撹拌した溶剤を離型紙上に製膜したフィルム上に塗工した後、90℃にて熱風乾燥してフィルムに接着剤層を付与した。
次に、フィルムの接着剤層に実施例1に記載したポリエステル繊維を用いた織物を重ね合せ、ニップロールを用いて120℃で熱圧着した。熱圧着したのち、60℃で24時間エージング後に離型紙を剥離することで、ポリエステル繊維を用いた織物と透湿性の高いポリウレタン樹脂フィルムが積層された防水性布帛を得た。
【0048】
次に、実施例1に記載した方法により防水層の表面に界面活性剤を含有する層を付与し、透湿性の高い防水層が積層され、かつ防水層の表面に界面活性剤を含有する層を有する防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表1に記載した。
【0049】
(比較例3)
<耐水圧の低い防水層の積層>
有機溶剤で希釈したポリウレタン樹脂 クリスボン NY-393(DIC株式会社製)の溶液を、実施例1に記載したポリエステル繊維を用いた織物の片面に、ナイフコーターを用いフローティングにて塗布後乾燥してポリエステル繊維を用いた織物と耐水圧の低いポリウレタン樹脂層が積層された防水性布帛を得た。
【0050】
次に、実施例1に記載した方法により防水層の表面に界面活性剤を含有する層を付与し、耐水圧の低い防水層が積層され、かつ防水層の表面に界面活性剤を含有する層を有する防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表1に記載した。
【表1】
【0051】
(実施例2)
<編物を用いた布帛層>
ポリアミド繊維を用いた編物(糸使い:78デシテックス/24フィラメント、密度:コース40個/吋、ウェール28個/吋のハーフトリコット)を酸性染料で緑色に染色し、熱セットを行った。
【0052】
次に、ポリアミド繊維を用いた編物を布帛層に使用した以外は、実施例1に記載の方法により防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表2に記載した。
【0053】
(実施例3)
<透湿性の低いポリウレタン樹脂フィルムによる防水層の積層>
離型紙上に有機溶剤で希釈したポリウレタン樹脂 クリスボン NY-393(DIC株式会社製)の溶液を塗布後乾燥させて厚さ20μmのポリウレタン樹脂フィルムを製膜した。
次に、ポリウレタン樹脂 クリスボン TA-465(DIC株式会社製)100部、ポリイソシアネート溶液 コロネート L(東ソー株式会社製)12部、N-メチルジエタノールアミン0.2部を調合、有機溶剤で希釈し撹拌した溶剤を離型紙上に製膜したフィルム上に塗工した後、90℃にて熱風乾燥してフィルムに接着剤層を付与した。
次に、フィルムの接着剤層に実施例2に記載したポリアミド繊維を用いた編物を重ね合せ、ニップロールを用いて120℃で熱圧着した。熱圧着したのち、60℃で24時間エージング後に離型紙を剥離することで、ポリアミド繊維を用いた編物とポリウレタン樹脂フィルム(ポリウレタン樹脂を質量比率で100%含有)が積層された防水性布帛を得た。
【0054】
次に、実施例1に記載した方法により防水層の表面に界面活性剤を含有する層を付与し、透湿性の低い防水層が積層され、かつ防水層の表面に界面活性剤を含有する層を有する防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表2に記載した。
【0055】
(実施例4)
防水層の表面への界面活性剤を含有する層の付与工程において、ポリオキシアルキレングリコールの添加部数を4部とした以外は、実施例3に記載した方法により防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表2に記載した。
【0056】
(実施例5)
防水層の表面への界面活性剤を含有する層の付与工程において、ポリオキシアルキレングリコールの添加部数を30部とした以外は、実施例3に記載した方法により防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表2に記載した。
【0057】
(実施例6)
防水層の表面への界面活性剤を含有する層の付与工程において、ポリオキシアルキレングリコールの添加部数を10部とした以外は、実施例3に記載した方法により防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表2に記載した。
【0058】
(実施例7)
防水層の表面への界面活性剤を含有する層の付与工程において、ポリオキシアルキレングリコールの添加部数を20部とした以外は、実施例3に記載した方法により防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表2に記載した。
【0059】
(実施例8)
防水層の表面への界面活性剤を含有する層の付与工程において、ポリオキシアルキレングリコールに替えて、アニオン系界面活性剤であるジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム溶液 ぺレックス OT-P(花王株式会社製、不揮発成分濃度:86%)を10部添加した以外は、実施例3に記載した方法により防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表2に記載した。
【0060】
(実施例9)
防水層の表面への界面活性剤を含有する層の付与工程において、3官能イソシアネート溶液 コロネート L(東ソー株式会社製、不揮発成分濃度:75%)8部を添加した以外は、実施例3に記載した方法により防水性布帛を得た。得られた防水性布帛の性能を表2に記載した。
【表2】
【0061】
表1および2を参照すると、防水層の表面に界面活性剤を含有する層を設けなかった比較例1の防水性布帛では、水の接触角が初期および洗濯処理後の両方において高く、それゆえ水馴染みが悪くなり、結果として拭き掃除が容易ではなく、また水滴の転がり漏れが生じた。比較例2では、防水性布帛の透湿度が高かったために当該防水性布帛に水分が浸透して膨潤が生じてしまい、結果として十分な防水性が得られなかった。比較例3では、防水性布帛の耐水圧が低かったために漏水が生じてしまい、結果として十分な防水性が得られなかった。
【0062】
これとは対照的に、本発明に係る全ての実施例の防水性布帛において、防水層の表面に界面活性剤を含有する層を設け、当該防水性布帛の耐水圧および透湿度を所定の範囲内に制御することで、漏水および水膨潤の両方の観点で高い防水性を有し、かつ水馴染み性を改善することができた。その結果として、容易に拭き掃除をすることができ、水滴の転がり漏れの発生も防止することができた。とりわけ、防水層をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにより構成した実施例2の防水性布帛では、当該防水性布帛を20%伸長させた場合に白化が生じたものの、防水層をポリウレタン樹脂により構成した他の実施例の防水性布帛では、このような伸長によっても外観において特に変化はなく、破れ、亀裂及び白化等は生じなかった。また、界面活性剤を含有する層中の界面活性剤濃度を15%~55%の範囲内に制御した実施例4および6~9の防水性布帛では、水の初期接触角が125度未満の値まで低減され、結果としてより高い水馴染み性を達成することができた。加えて、アニオン系の界面活性剤を使用し、さらに当該界面活性剤を含有する層に架橋剤として3官能イソシアネートを添加した実施例9の防水性布帛では、洗濯処理後でさえ水の接触角を125度未満の値まで低減することができ、顕著により高い水馴染み性を達成することができた。
【0063】
以上のようにして得られた各防水性布帛は、疎水性の防水膜の最表面に界面活性剤を含有する層が設けられているため、確実な防水性を有しながら、拭き掃除を容易にし、水滴が転がり漏れてしまうことを防止する防水性布帛、および該防水性布帛を用いて製造された防水シーツを提供することができる。