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特許7177670皮付きアーモンド粉砕品を含む飲料、食品及び調味料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】皮付きアーモンド粉砕品を含む飲料、食品及び調味料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20221116BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20221116BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20221116BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20221116BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20221116BHJP
   A23L 25/00 20160101ALI20221116BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/38 C
A23L2/00 B
A23L5/00 K
A23L27/00 D
A23L25/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018216215
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020080672
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 裕之
(72)【発明者】
【氏名】吉村 真
(72)【発明者】
【氏名】河端 弘
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-085386(JP,A)
【文献】特開2004-159606(JP,A)
【文献】特開平08-243426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1~20μmのアーモンド粒子から構成される皮付きアーモンド粉砕品、及び平均粒径が1~20μmの皮無しアーモンドペーストを含み、
(皮付きアーモンド粉砕品の質量):(皮無しアーモンドペーストの質量)=1:10~1:2である、飲料。
【請求項2】
平均粒径が1~20μmのアーモンド粒子から構成される皮付きアーモンド粉砕品、及び平均粒径が1~20μmの皮無しアーモンドペーストを含み、
(皮付きアーモンド粉砕品の質量):(皮無しアーモンドペーストの質量)=1:10~1:2である、食品。
【請求項3】
平均粒径が1~20μmのアーモンド粒子から構成される皮付きアーモンド粉砕品、及び平均粒径が1~20μmの皮無しアーモンドペーストを含み、(皮付きアーモンド粉砕品の質量):(皮無しアーモンドペーストの質量)=1:10~1:2である、調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮付きアーモンド粉砕品を含む飲料、食品及び調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
アーモンドなどの種実類を原料とした食品を製造する場合、原料特有の食感(硬さ)を有さない食品とするためにはロールリファイナー等を用いペースト状にして使用する方法が挙げられる。しかしアーモンドを皮付きのままペーストにすると皮が十分微細化されておらず、飲料においてざらつきを感じるものになる。
【0003】
非特許文献1は、食品素材を凍結粉砕する方法を記載し、凍結粉砕される食品素材として魚体、香辛料、調味料、コーヒー豆やナッツを含む嗜好品、穀類、野菜などを例示しているが、実際に凍結粉砕されているのは鯖、鰯、鮪などの魚に限られ、魚体の凍結粉砕物の粒径はmmオーダー又は数百μmオーダーであることが開示されている。
【0004】
非特許文献2は、表7において食品類の凍結磨砕例にアーモンドを記載しているが、凍結磨砕のグラインダー間隙は0.021mm×2=0.042mm(42μm)であるので、凍結粉砕されたアーモンドの粒子径は少なくとも42μm前後になる。
【0005】
しかしながら、非特許文献2に記載されるような粒子径42μm前後の凍結粉砕された皮付きアーモンドペーストは、アーモンド皮に由来する苦味、渋味があり、例えば飲料とした場合には、ざらつきだけでなく香味の点で改良の余地があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「日本食品工学会誌」, Vol. 10, No. 4, pp. 199 - 206, Dec. 2009
【文献】「日本食品低温保蔵学会誌」, Vol. 14 No. 3, pp. 101-112, 1988(総説)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮付きアーモンドから得られる香味に優れた飲食品及び調味料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の皮付きアーモンド粉砕品を含む飲料、食品及び調味料を提供するものである。
項1. 平均粒径が1~20μmのアーモンド粒子から構成される皮付きアーモンド粉砕品を含む、飲料。
項2. さらに、平均粒径が1~20μmの皮無しアーモンドペーストを含む、項1に記載の飲料。
項3. 平均粒径が1~20μmのアーモンド粒子から構成される皮付きアーモンド粉砕品を含む、食品。
項4. 平均粒径が1~20μmのアーモンド粒子から構成される皮付きアーモンド粉砕品を含む、調味料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、皮付きアーモンドを効率よく、ざらつきを感じない粒度まで微細化することが可能となり、それを原料とする食品(飲料)を喫食した際に、原料の皮付きアーモンドから予測されるよりも優れた香味を得ることができ、特に、飲料において優れた香味を有する。また、本発明のアーモンド粉砕品を含む食品、調味料は、皮付きアーモンドが原料であるが、皮付きアーモンドから予測できるものを超えた香味を備えたものになる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で使用するアーモンド粉砕品は、皮付きアーモンドを凍結粉砕することにより得ることができる。凍結粉砕は、例えば皮付きアーモンドを液体窒素等の冷却媒体で凍結し、衝撃粉砕によって微粒子化させることにより実施される。凍結粉砕の原料となる皮付きアーモンドはロースト(浅煎りもしくは深煎り)したものが好ましい。本発明のアーモンド粉砕品は、凍結状態ではさらさらの粉末状であるが、室温ではアーモンドに含まれる油脂によりペースト状になり得る。したがって、本発明で使用するアーモンド粉砕品はアーモンドペーストを包含する。
【0011】
本発明で使用するアーモンド粉砕品のアーモンド粒子の平均粒径は1~20μm程度、好ましくは1~15μm程度、より好ましくは1~10μm程度である。なお、アーモンド粉砕品の平均粒径は、簡易的には歯厚マイクロメーター(MDC-25MXなど、ミツトヨ製)を用いて測定可能であるが、より正確な粒径の測定には、アーモンド粉砕品を攪拌した湯に分散させダマの無い状態とした懸濁液を作製し、レーザー解析式粒度分布測定装置(SALD-2200、島津製作所製)を用いて測定する方法が挙げられる。
【0012】
本発明で使用するアーモンド粉砕品のレーザー解析式粒度分布測定における体積基準累積10%径(D10)は、好ましくは0.5~5.0μm、より好ましくは0.5~2.5μmである。
【0013】
本発明で使用するアーモンド粉砕品のレーザー解析式粒度分布測定における体積基準累積50%径(D50)は、好ましくは6.0~12.0μm、より好ましくは7.0~10.0μmである。
【0014】
本発明で使用するアーモンド粉砕品のレーザー解析式粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)は、好ましくは15.0~50.0μm、より好ましくは15.0~35.0μmである。
【0015】
本発明で使用するアーモンド粉砕品のレーザー解析式粒度分布測定における体積基準累積10%径(D10)と体積基準累積90%径(D90)の比(D90/D10)は、好ましくは1:30~1:10、より好ましくは1:30~1:14である。
【0016】
本発明の1つの好ましい実施形態において、アーモンド粉砕品のアーモンド粒子の平均粒径が1~20μm程度であり、かつ、粒径が20μmを超えるアーモンド粒子の割合が30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0017】
本発明の他の1つの好ましい実施形態において、アーモンド粉砕品のアーモンド粒子の平均粒径が1~15μm程度であり、かつ、粒径が15μmを超えるアーモンド粒子の割合が30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0018】
本発明の他の1つの好ましい実施形態において、アーモンド粉砕品のアーモンド粒子の平均粒径が1~10μm程度であり、かつ、粒径が10μmを超えるアーモンド粒子の割合が30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0019】
アーモンド粒子の平均粒径が40μm程度の場合、アーモンド皮の苦味、渋味が強く感じられ、さらに脂っぽさが感じられるが、アーモンド粒子の平均粒径は1~20μm程度、好ましくは1~15μm程度、より好ましくは1~10μm程度であればアーモンド皮の不快な苦味、渋味、脂っぽさが感じられず、アーモンドの旨味、コク、甘味、香りが増強され、凍結粉砕前の皮付きアーモンドからは予測できない優れた香味を有する飲食品、調味料を提供することができる。このように、アーモンドの皮を含む粉砕品の場合、アーモンド粒子の平均粒径が非常に重要になる。また、上記平均粒径の皮付きアーモンドは、他の食品に添加したときにコク、甘味、旨味、香りなどを向上させることができるので、調味料としても有用である。アーモンド粉砕品を添加してコク、甘味、旨味、香りなどを向上させるのに適した飲食品としては、ビスケット、チョコレート、キャラメル、アイスクリーム、プリン、カレー、レトルト食品などの食品、並びに、飲料が挙げられる。したがって、本発明は、「平均粒径が1~20μmのアーモンド粒子から構成される皮付きアーモンド粉砕品を配合したことを特徴とする、ビスケット、チョコレート、キャラメル、アイスクリーム、プリン、飲料、カレー、レトルト食品からなる群から選ばれる飲食品」を提供する。
【0020】
本発明の飲料は、アーモンド粉砕品を好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.1~2質量%、特に好ましくは0.1~0.8質量%の濃度で含む。本発明の飲料は、アーモンド粉砕品の他に、水、さらにアーモンドペースト、砂糖、食物繊維、ビタミン、カルシウム、安定剤、香料などを含んでいてもよい。本発明の飲料としては、アーモンド飲料、炭酸飲料、オレンジ、レモン、ブドウ、リンゴなどの天然果汁を含有する飲料;トマト、ニンジンなどの野菜汁を含有する飲料、乳飲料、豆乳飲料、乳酸菌飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、清涼飲料;ビール類、チューハイなどのアルコール飲料;ビールテイスト飲料などのノンアルコール飲料などが挙げられる。
【0021】
本発明の1つの好ましい実施形態において、飲食品特に飲料は皮付きアーモンド粉砕品と皮無しアーモンドペーストを併用することが好ましい。これらの併用比率は質量で、好ましくは(皮付アーモンド粉砕品の質量)(皮無しアーモンドペーストの質量)=1:10~1:2、より好ましくは1:9~1:3である。
【0022】
本発明のアーモンド粉砕品は、皮付きアーモンドの常温粉砕によっても得ることはできるが、常温粉砕の場合には、皮を20μm以下、特に15μm以下もしくは10μm以下に均一に粉砕することが難しいので、好ましくは皮付きアーモンドの凍結粉砕により得ることができる。凍結粉砕の場合、アーモンドの皮と実が分離することなく粉砕されるので、皮を20μm以下、特に15μm以下もしくは10μm以下に均一かつ容易に粉砕することができる。粉砕にはローストした皮付きアーモンドを使用するのが好ましい。
【実施例
【0023】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
製造例1
ローストされた皮付きアーモンドをmmオーダーで粗粉砕し、液体窒素で凍結し、衝撃式の粉砕機で粉砕して、凍結粉砕アーモンド粉末を得た。得られた本発明のアーモンド粉砕品の平均粒径は、レーザー解析・散乱法によりレーザー解析式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、9.3μmであった。また、得られた凍結粉砕アーモンド粉末のレーザー解析式粒度分布測定における体積基準累積10%径(D10)、体積基準累積50%径(D50)、体積基準累積90%径(D90)は、D10=1.6μm、D50=9.0μm、D90=26.1μmであった。
【0025】
製造例2
ローストされた皮付きアーモンドをフードプロセッサーにより常温で粉砕し、常温粉砕アーモンドペーストを得た。得られた常温粉砕アーモンドの平均粒径は、レーザー解析・散乱法によりレーザー解析式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、40.3μmであった。
【0026】
実施例1
製造例1で得られた平均粒径9.3μmの皮付き凍結粉砕アーモンドをパネラー10人が20mg口中に含み、咀嚼及び嚥下し、評価基準Iに従い評価した。
【0027】
さらに、製造例2で得られた平均粒径40.3μmの皮付き常温粉砕アーモンドをパネラー10人が20mg口中に含み、咀嚼及び嚥下し、評価基準Iに従い評価した。
【0028】
結果を表1に示す。
評価基準I
「5」アーモンドの皮由来の苦味・渋味無し、咀嚼嚥下時に強いロースト香(戻り香)あり
「4」アーモンドの皮由来の苦味・渋味ほぼ無し、咀嚼嚥下時のロースト香(戻り香)弱い
「3」アーモンドの皮由来の苦味・渋味やや有り、咀嚼嚥下時のロースト香(戻り香)無し
「2」アーモンドの皮由来の苦味・渋味有り、咀嚼嚥下時のロースト香(戻り香)無し
「1」アーモンドの皮由来の苦味・渋味強い、咀嚼嚥下時のロースト香(戻り香)無し
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、皮付きアーモンド粉砕品の場合、平均粒径40.3μmと平均粒径9.3μmで、旨味、甘味、コク、油脂感(脂っぽさ)、ロースト香において大きな違いがある。したがって、好ましくは凍結粉砕法で製造した平均粒径20μm以下(より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下)のアーモンド粉砕品を使用した飲食品、調味料は旨味、甘味、コク、ロースト香に優れ、脂っぽさが抑制された好ましいものになる。
【0031】
製造例3
製造例1と同様にしてローストされた皮付きアーモンドをmmオーダーで粗粉砕し、液体窒素で凍結し、衝撃式の粉砕機で粉砕して、凍結粉砕アーモンド粉末を得た。得られた本発明のアーモンド粉砕品の平均粒径は、レーザー解析・散乱法によりレーザー解析式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、7.2μmであった。
【0032】
製造例4
ローストされ、皮を取り除いたアーモンドをロールリファイナーで粉砕、ペースト化し、皮無しアーモンドペーストを得た。得られたアーモンドペーストの平均粒径は、レーザー解析・散乱法によりレーザー解析式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、14μmであった。
【0033】
実施例2
製造例3で得られた平均粒径7.2μmの凍結粉砕アーモンドと、製造例4で得られた平均粒径14μmの皮無しアーモンドペーストを表2に示す割合で配合し(残量は水)、飲料を調製した。得られたアーモンド飲料について、パネラー10人で、以下の評価基準に従い官能評価試験を行った。結果を表2に示す。
<評価基準>
「浅煎り凍結粉砕アーモンドによるアーモンドの甘味、旨味、ロースト香が感じられ、後味まで残るか」
7段階評価(-1.0~+1.5)において0点以上を「○」、0点未満を「×」として評価した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2からわかるように、本発明の皮付きの凍結粉砕アーモンド(平均粒径7.2μm)は、飲料に配合することで旨味、甘味、ロースト香、後味などを改善し、かつ、ローストされたアーモンドの皮に由来する苦味、渋味は感じない。一方、皮無しアーモンド粒の粉砕物は、平均粒径が14μmであっても旨味、甘味、ロースト香、後味などの改善効果は見られなかった。
【0036】
さらに、皮無しアーモンドペーストと皮付き凍結粉砕アーモンドを含む飲料について、レーザー解析式粒度分布測定装置を用いてD10、D50、D90を測定した。結果を表3に示す。
【0037】
【表3】