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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】数値制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/416 20060101AFI20221116BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
G05B19/416 K
B23Q15/00 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018220621
(22)【出願日】2018-11-26
(65)【公開番号】P2020086948
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 勇治
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-134709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416,19/42-19/46;
B23Q 15/00-15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械の数値制御装置であって、
タップ加工プログラムを解釈し、前記主軸の位置指令値を出力する数値制御部と、
タップ加工時の前記主軸の指令加速度を算出して出力する加速度学習ブロックと、
前記加速度学習ブロックから入力された指令加速度に基づいて前記数値制御部から入力された位置指令値を加減速処理して加減速後位置指令値を算出する加減速処理部と、
前記加減速処理部から入力された加減速後位置指令値に基づいて速度指令値を算出する位置制御部と、
位置制御部から入力された前記速度指令値からモータトルク指令値を算出する速度・トルク制御部と、
前記速度・トルク制御部から入力された前記モータトルク指令値から主軸モータのモータ電流値を算出する電流制御部と、を備え、
前記加速度学習ブロックは、
主軸モータの1つ又は複数の状態量が条件を満たしている場合に、算出した次のタッピングのための指令加速度よりも小さい初期指令加速度を前記指令加速度として前記加減速処理部に出力し、
主軸モータの1つ又は複数の状態量のいずれもが条件を満たさない場合に、算出した次のタッピングのための指令加速度を前記指令加速度として前記加減速処理部に出力し、
次のタッピングのための指令加速度A[n+1]は、目標モータトルク指令値Tgと主軸モータのトルク指令値のピーク値|T|と、今回のタップ加工時の指令加速度A[n]と、収束係数αとにより以下の式(1)により算出すること、
A[n+1]=A[n]+A[n]×(Tg-|T|)×α --- (1)
収束係数αが0<α≦1の範囲にあること、
を特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の数値制御装置であって、
前記主軸モータの1つ又は複数の状態量が前記電流制御部で算出するモータ電流値であり、
前記加速度学習ブロックは、前記モータ電流値がゼロの場合に前記初期指令加速度を前記指令加速度として前記加減速処理部に出力すること、
を特徴とする数値制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の数値制御装置であって、
前記主軸モータの1つ又は複数の状態量が前記電流制御部で算出する前記主軸モータの二次抵抗同定値であり、
前記加速度学習ブロックは、前記二次抵抗同定値が所定の閾値以上の場合に前記初期指令加速度を前記指令加速度として前記加減速処理部に出力すること、
を特徴とする数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の数値制御装置、特に、主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械の数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械において、高速・高精度化のための方法が提案されている。例えば、特許文献1には、駆動源の最大能力まで利用して主軸を加減速させることで、加工時間を短縮する方法が提案されている。この方法では、駆動源の最大能力を利用する区間では速度制御、穴底での位置決めが必要となる区間では位置制御、に切り替える方法で実現している。また、特許文献2には、タップ工具径に基づいて求めた切削トルクを、主軸モータの最大トルクから引いたトルクにより加速度を決定し、さらに、加工中に監視する同期誤差が許容値以内となるように加速度学習することで、高速・高精度とすることが提案されている。
【0003】
また、特許文献3には、主軸を駆動する主軸モータの温度に応じて主軸の加速度を変更する割合を割合記憶部に格納しておき、検出した主軸モータの温度と割合記憶部に記憶した割合とを用いて主軸の加速度を算出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6001633号明細書
【文献】特許第5152443号明細書
【文献】特許第5118232号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タップ加工では、タップ加工時の往路と復路で加速度が異なるため、特許文献1に記載された従来技術の方法では、追従誤差による往復間誤差が生じやすく、JIS1級のような高精度を達成できない場合がある。
【0006】
この点に関し、特許文献2に記載された従来技術の方法は、タップ加工時の往路と復路で加速度が一致するため、追従誤差による往復間誤差は生じにくい。また、タップ径から決まる切削トルクをモータ仕様上の最大トルクから引いて加速トルクを求め、加速トルクから主軸を駆動する加速度を決めることで加工時間も短縮できる。しかし、主軸に一般的に採用する誘導モータは、駆動状態・駆動前歴・巻線温度等によって最大トルクが増減する特徴がある。特許文献2に記載された従来技術では、誘導モータの特徴を考慮しておらず、主軸モータの最大トルクが減少している状態では、決定した加速度で主軸を駆動できないため、主軸と送り軸との同期誤差が大きくなる。その結果、そのサイクルのタップ加工の精度は悪くなり、同期誤差過大のアラームにより主軸が停止する場合がある。
【0007】
例えば、特許文献2に記載された従来技術の方法では、無通電状態からの加工開始時等のように、誘導モータを無通電状態から駆動させる際で界磁電流が不十分で磁束が安定していない場合や、加工が終わり、しばらくたって、主軸モータ温度が下がった状態からの加工再開時の際のように誘導電動機の回路定数である二次抵抗同定値が最適値から大きくずれている場合に、出力可能な最大トルクが減少し、主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなってしまう場合がある。
【0008】
また、特許文献3に記載された従来技術の制御方法は、検出した主軸モータの温度に基づいて主軸の加速度を算出して主軸の回転制御を行うものであるが、界磁電流が不十分で磁束が不安定な状態、或いは、二次抵抗同定値が最適値から大きくずれている場合には、主軸モータの温度に基づいて主軸モータの加速度を選定しても、出力可能な最大トルクの減少により主軸モータが制御に追従できず、主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなってしまう場合がある。
【0009】
そこで、本発明は、主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械の加工誤差を低減可能な数値制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の数値制御装置は、主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械の数値制御装置であって、タップ加工プログラムを解釈し、前記主軸の位置指令値を出力する数値制御部と、タップ加工時の前記主軸の指令加速度を算出して出力する加速度学習ブロックと、前記加速度学習ブロックから入力された指令加速度に基づいて前記数値制御部から入力された位置指令値を加減速処理して加減速後位置指令値を算出する加減速処理部と、前記加減速処理部から入力された加減速後位置指令値に基づいて速度指令値を算出する位置制御部と、位置制御部から入力された前記速度指令値からモータトルク指令値を算出する速度・トルク制御部と、前記速度・トルク制御部から入力された前記モータトルク指令値から主軸モータのモータ電流値を算出する電流制御部と、を備え、前記加速度学習ブロックは、主軸モータの1つ又は複数の状態量が条件を満たしている場合に、算出した次のタッピングのための指令加速度よりも小さい初期指令加速度を前記指令加速度として前記加減速処理部に出力し、主軸モータの1つ又は複数の状態量のいずれもが条件を満たさない場合に、算出した次のタッピングのための指令加速度を前記指令加速度として前記加減速処理部に出力し、次のタッピングのための指令加速度A[n+1]は、目標モータトルク指令値Tgと主軸モータのトルク指令値のピーク値|T|と、今回のタップ加工時の指令加速度A[n]と、収束係数αとにより以下の式(1)により算出すること、
A[n+1]=A[n]+A[n]×(Tg-|T|)×α --- (1)
収束係数αが0<α≦1の範囲にあること、を特徴とする。
【0011】
このように、加速度学習ブロックが主軸モータの状態量に応じて、算出した指令加速度よりも小さい初期指令加速度を指令加速度として加減速処理部に出力するので、主軸モータの出力可能な最大トルクが減少している際に大きな指令加速度が加減速処理部に入力されることを抑制できる。これにより、主軸モータの最大トルクが減少している状態でも主軸モータが制御に追従できず、主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなることを抑制できる。
【0012】
本発明の数値制御装置において、前記主軸モータの1つ又は複数の状態量が前記電流制御部で算出するモータ電流値であり、前記加速度学習ブロックは、前記モータ電流値がゼロの場合に前記初期指令加速度を前記指令加速度として前記加減速処理部に出力してもよい。
【0013】
このように、加速度学習ブロックが、モータ電流値がゼロの場合に初期指令加速度を指令加速度として加減速処理部に出力するので、無通電状態からの加工開始時等のように、主軸モータを無通電状態から駆動させる際で界磁電流が不十分で磁束が安定しておらず、出力可能な最大トルクが減少している場合に、大きな指令加速度が加減速処理部に入力されることを抑制し、同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなることを抑制できる。
【0014】
本発明の数値制御装置において、前記主軸モータの1つ又は複数の状態量が前記電流制御部で算出する前記主軸モータの二次抵抗同定値であり、前記加速度学習ブロックは、前記二次抵抗同定値が所定の閾値以上の場合に前記初期指令加速度を前記指令加速度として前記加減速処理部に出力してもよい。
【0015】
このように、加速度学習ブロックが、二次抵抗同定値が所定の閾値以上の場合に初期指令加速度を指令加速度として加減速処理部に出力するので、主軸モータの温度が下がった状態からの加工再開時の際のように主軸モータの回路定数である二次抵抗同定値が最適値から大きくずれて、出力可能な最大トルクが減少している場合に、大きな指令加速度が加減速処理部に入力されることを抑制し、同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなることを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械の加工誤差を低減可能な数値制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態における工作機械の数値制御装置のブロック図である。
図2図1に示す数値制御装置の動作を示すフローチャートである。
図3】従来技術の工作機械の数値制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら実施形態の数値制御装置100の構成について説明する。数値制御装置100は、主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械に用いられるものである。
【0019】
図1に示すように、数値制御装置100は、数値制御部1と、加減速処理部4と、位置制御部5と、速度・トルク制御部6と、電流制御部7と、主軸モータ8と、加速度学習ブロック9と、加減速時ピークホールド部10とで構成される。ここで主軸モータ8は誘導モータである。
【0020】
数値制御部1は、タップ加工プログラムを解釈して加減速処理部4に位置指令値を出力する。また、同時に加速度学習ブロック9にタップ加工中であることを通知する。加減速処理部4は、加速度学習ブロック9から入力された主軸の指令加速度Aに基づいて数値制御部1から入力された位置指令値を加減速処理し、加減速後位置指令値を位置制御部5に出力する。位置制御部5は、加減速後位置指令値とモータ位置のフィードバック制御により、速度指令値を算出して速度・トルク制御部6に出力する。速度・トルク制御部6は、速度指令値とモータ速度のフィードバック制御によりモータトルク指令値を算出して電流制御部7に出力する。
【0021】
電流制御部7は、主軸モータ8の二次抵抗同定値を算出する二次抵抗同定部を含んでいる。電流制御部7は、算出した二次抵抗同定値を用いてすべり周波数を算出する。そして、算出したすべり周波数を主軸モータ8に出力すると共に、モータトルク指令値からモータ電流指令値を算出し、算出した電流指令値を主軸モータ8に電流を流す。これにより、電流制御部7は主軸モータ8を駆動し、主軸の位置を制御する。
【0022】
加減速時ピークホールド部10は、加減速処理部4から入力された加減速後位置指令値と速度・トルク制御部6から入力されたモータトルク指令値とに基づいて、加減速位置指令値から停止・加速・定速・減速を判定し、加速と減速の状態におけるモータトルク指令値のピーク値|T|を検出し、加速度学習ブロック9に出力する。
【0023】
加速度学習ブロック9は、加速度学習部2と、加速度記憶部3とで構成される。加速度学習部2は、目標モータトルク指令値Tgと加減速時ピークホールド部10から入力されるモータトルク指令値のピーク値|T|と、加速度記憶部3から入力される今回のタップ加工時の指令加速度A[n]とにより以下の式(1)を用いて次回のタップ加工時の指令加速度A[n+1]を算出し、加速度記憶部3に出力する。
A[n+1]=A[n]+A[n]×(Tg-|T|)×α --- (1)
【0024】
ここで、指令加速度A[n+1]は、加速度、減速度の絶対値である。また、モータトルク指令値のピーク値|T|も絶対値である。αは、収束係数で、0<α≦1、であり、ピーク値|T|が目標モータトルク指令値Tgを超えて同期誤差過大アラーム等がつかないようにするための調整パラメータである。αは、0.25(4回で収束)程度が望ましい。
【0025】
加速度記憶部3は、加速度学習部2が算出した次回のタップ加工時の指令加速度A[n+1]を格納し、次回のタップ加工時に主軸の指令加速度Aとして加減速処理部4へ出力する。
【0026】
また、加速度記憶部3は、加速度学習部2が式(1)で算出した指令加速度A[n+1]の他に算出した指令加速度A[n+1]よりも小さい初期指令加速度A[0]を格納している。
【0027】
主軸モータ8の巻線を切替えるタイミングや主軸モータ8を回転させていない時は、主軸モータ8への通電を切るため、モータ電流値がゼロとなる。モータ電流値がゼロの状態から主軸モータ8を回転させる時には界磁電流値はゼロの状態から増加していく。時刻ゼロから界磁電流を流し始めて数百msecまでの間は、界磁電流が不十分で磁束が安定していないため、主軸モータ8の出力可能な最大トルクが減少している。このため、主軸モータ8を高い指令加速度で加減速すると、主軸モータ8が制御に追従できずに主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなる。
【0028】
そこで、加速度記憶部3は、電流制御部7で算出するモータ電流値がゼロの場合には、加速度学習部2が算出した指令加速度A[n+1]よりも小さい初期指令加速度A[0]を指令加速度Aとして加減速処理部4に出力する。
【0029】
また、主軸モータ8の温度が下がった状態からの加工再開時の際のように主軸モータ8の回路定数である二次抵抗同定値が最適値から大きくずれると、出力可能な最大トルクが減少する場合がある。この場合にも、主軸モータ8を高い指令加速度で加減速すると、主軸モータ8が制御に追従できずに主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなる。
【0030】
そこで、加速度記憶部3は、二次抵抗同定値が所定の閾値以上の場合に加速度学習部2が算出した指令加速度A[n+1]よりも小さい初期指令加速度A[0]を指令加速度Aとして加減速処理部4に出力する。
【0031】
ここで、所定の閾値は、主軸モータ8が低温状態で主軸モータ8を駆動させた時に収束した二次抵抗同定値の結果でもよいし、試験等であらかじめ設定した値としてもよい。なお、所定の閾値は、主軸モータ8の評価時やサーボ調整時に決定するパラメータである。
【0032】
このように、加速度記憶部3は、主軸モータ8の状態量であるモータ電流値、二次抵抗同定値に基づいて、加速度学習部2が算出した指令加速度A[n+1]よりも小さい初期指令加速度A[0]を指令加速度Aとして加減速処理部4に出力するかどうかを判断する。
【0033】
次に、図2を参照しながら、実施形態の数値制御装置100の加速度学習ブロック9の動作について説明する。
【0034】
図2のステップS101~S102に示すように、加速度学習ブロック9は、数値制御部1からタップ加工中の信号が入力されるまで待機する。
【0035】
図2のステップS101でYESと判断した場合、加速度学習ブロック9は図2のステップS102に進んで、加速度記憶部3で電流制御部7が算出したモータ電流値と二次抵抗同定値とを取得して図2のステップS103に進む。そして、加速度学習ブロック9は、図2のステップS103でモータ電流値がゼロとなっているかどうか判断する。図2のステップS103でYESの場合、加速度学習ブロック9は図2のステップS105に進んで、加速度学習部2が算出した指令加速度A[n+1]よりも小さい初期指令加速度A[0]を指令加速度Aとして加減速処理部4に出力する。
【0036】
そして、加速度学習ブロック9は、図2のステップS106に進んで、工作機械が停止したかどうかを判断する。図2のステップS106でYESと判断した場合、加速度学習ブロック9は処理を終了する。また、図2のステップS106でNOと判断した場合には、図2のステップS101に戻る。
【0037】
一方、加速度学習ブロック9は、図2のステップS103でNOと判断した場合には、図2のステップS104に進み、二次抵抗同定値が所定の閾値以上かどうか判断する。加速度学習ブロック9は、図2のステップS104でYESと判断した場合には、図2のステップS105に進み、加速度学習部2が算出した指令加速度A[n+1]よりも小さい初期指令加速度A[0]を指令加速度Aとして加減速処理部4に出力する。そして、加速度学習ブロック9は、図2のステップS106に進み、先に説明したと同様、ステップS106でYESと判断した場合には処理を終了し、NOと判断した場合にはステップS101に戻る。
【0038】
また、加速度学習ブロック9は、図2のステップS104でNOと判断した場合には、図2のステップS107に進み、加速度学習部2で加減速時ピークホールド部10が算出したモータトルク指令値のピーク値|T|を取得してステップS108に進む。加速度学習ブロック9は、図2のステップS108において、目標モータトルク指令値Tgと加減速時ピークホールド部10から入力されるモータトルク指令値のピーク値|T|と、加速度記憶部3から入力される今回のタップ加工時の指令加速度A[n]とにより先に説明した式(1)を用いて次回のタップ加工時の指令加速度A[n+1]を算出し、加速度記憶部3に出力する。加速度学習ブロック9は、次回のタップ加工時の指令加速度A[n+1]を加速度記憶部3に格納し、図2のステップS109に進む。
【0039】
加速度学習ブロック9は、ステップS109で加速度記憶部3に格納した次回のタップ加工時の指令加速度A[n+1]を指令加速度Aとして加減速処理部4に出力し、ステップS106に進む。
【0040】
加速度学習ブロック9は、先に説明したと同様、ステップS106でYESと判断した場合には処理を終了し、NOと判断した場合にはステップS101に戻る。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の数値制御装置100は、モータ電流値がゼロからの起動で主軸モータ8の磁束が安定せず出力可能な最大トルクが減少している状態や、低温起動時のように主軸モータ8の二次抵抗同定値が所定の閾値以上で最適値から大きくずれている状態となり出力可能な最大トルクが減少している状態でタップ加工を開始する際の指令加速度Aを加速度学習部2が算出した指令加速度A[n+1]よりも小さくする。これにより、主軸モータ8の出力可能な最大トルクが減少している状態において、主軸モータ8が制御に追従できずに主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなることを抑制できる。
【0042】
また、タップ加工中は、今回の指令加速度A[n]に目標モータトルク指令値Tgとモータトルク指令値のピーク値|T|の差に収束係数α(0<α≦1)を掛けて今回の指令加速度A[n]に加算することで指令加速度Aを目標モータトルク指令値Tgに収束させていく。このため、ピーク値|T|が目標モータトルク指令値Tgを超えて主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなることを抑制できる。また、指令加速度Aを目標モータトルク指令値Tgに収束させて高速でタップ加工を行うことができる。
【0043】
このように、実施形態の数値制御装置100は、主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械において、同期誤差を低減し、加工誤差を低減することができる。また、実施形態の数値制御装置100は、高速、高精度でタップ加工を行うことができる。
【0044】
なお、実施形態の数値制御装置100では、モータ電流値がゼロであるかを判断し、ゼロでない場合には二次抵抗同定値を参照することとして説明したが、モータ電流値或いは二次抵抗同定値のいずれか一方で加速度学習部2が算出した指令加速度A[n+1]よりも小さい初期指令加速度A[0]を指令加速度Aとして加減速処理部4に出力するかどうかを判断してもよい。
【0045】
次に、図3を参照しながら実施形態の数値制御装置100の比較例として従来技術の数値制御装置200について説明する。先に図1,2を参照して説明した実施形態の数値制御装置100と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。
【0046】
図3に示すように、従来技術の数値制御装置200は、加速度テーブル11と加速度算出部12と加速度割合テーブル13とを備えている。加速度テーブル11は、タップ加工の種類、工具径などに応じた指令加速度をテーブルとして格納している。
【0047】
加速度テーブル11は、数値制御部1から入力されたタップ加工情報に基づいて、そのタップ加工に最適な指令加速度A1をテーブルから選択して加速度算出部12に出力する。加速度割合テーブル13は、入力された主軸モータ8の温度に対応する加速度の低減割合を規定した加速度割合A2をテーブルとして格納している。加速度割合テーブル13は、入力された主軸モータ8の温度に基づいてテーブルから対応する加速度割合A2を読み出して加速度算出部12に出力する。例えば、加速度割合A2は、主軸モータ8の温度が低いほど小さくなっている。
【0048】
加速度算出部12は、加速度テーブル11から入力された指令加速度A1に加速度割合テーブル13から入力された加速度割合A2を掛けて指令加速度Aを算出して加減速処理部4に出力する。
【0049】
加速度割合A2は、例えば、主軸モータ8の温度が低いほど小さくなっているので、主軸モータ8の温度が低くなるほど加減速処理部4に出力される指令加速度Aは小さくなる。
【0050】
このように、数値制御装置200は、主軸モータ8の温度が低いほど指令加速度Aを小さくする制御を行うものである。しかし、この制御方法では、主軸モータ8の磁束が安定せず出力可能な最大トルクが減少している状態、或いは、二次抵抗同定値が最適値から大きくずれて出力可能な最大トルクが減少している状態では、主軸モータ8の温度に基づいて指令加速度Aを小さくしても、主軸モータ8が制御に追従できず主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなってしまう場合がある。
【0051】
これに対して、実施形態の数値制御装置100は、モータ電流値によって主軸モータ8の磁束が安定せず出力可能な最大トルクが減少しているかどうかを判断し、主軸モータ8の二次抵抗同定値に基づいて二次抵抗同定値が最適値から大きくずれて出力可能な最大トルクが減少しているかどうかを判断する。そして、この判断に基づいて加速度学習部2が算出した指令加速度A[n+1]よりも小さい初期指令加速度A[0]を指令加速度Aとして加減速処理部4に出力する。このため、主軸モータ8の出力可能な最大トルクが減少している状態において、主軸モータ8が制御に追従できずに主軸と送り軸との同期誤差が大きくなり加工誤差が大きくなることを抑制できる。
【0052】
このように、実施形態の数値制御装置100は、主軸と送り軸とが同期をとってタップ加工を行う工作機械において、同期誤差を低減し、加工誤差を低減することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 数値制御部、2 加速度学習部、3 加速度記憶部、4 加減速処理部、5 位置制御部、6 速度・トルク制御部、7 電流制御部、8 主軸モータ、9 加速度学習ブロック、10 加減速時ピークホールド部、11 加速度テーブル、12 加速度算出部、13 加速度割合テーブル、100,200 数値制御装置。
図1
図2
図3