(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】X線トモシンセシス装置、および、画像生成装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/02 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
A61B6/02 300M
A61B6/02 301D
(21)【出願番号】P 2018231435
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 恵介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓子
(72)【発明者】
【氏名】中村 正
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046844(WO,A1)
【文献】特開2015-066344(JP,A)
【文献】特許第6317511(JP,B2)
【文献】特開2014-236810(JP,A)
【文献】特開平05-242243(JP,A)
【文献】特開2017-143940(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203940(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0168522(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00~6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体にX線を照射するX線発生部と、前記被写体を透過後の前記X線を検出して2次元の測定投影データを得るX線検出部と、前記X線発生部及びX線検出部の少なくとも一方を前記被写体に対して相対的に所定の範囲で移動させる駆動部と、前記測定投影データを用いてトモシンセシス画像を生成する画像生成部とを有し、
前記画像生成部は、第1再構成部と第2再構成部と画像合成部とを含み、
前記第1再構成部は、前記測定投影データの高周波成分よりも低周波成分を大きな割合で低減する第1フィルタを前記測定投影データに適用した後、逆投影することにより第1トモシンセシス画像を再構成し、
前記第2再構成部は、前記測定投影データの
周波数成分の割合を変化させる処理を行っていない前記測定投影データ、を逆投影することにより、第2トモシンセシス画像を再構成し、
前記画像合成部は、前記第1トモシンセシス画像と第2トモシンセシス画像を合成することを特徴とするX線トモシンセシス装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線トモシンセシス装置であって、前記画像合成部は、前記X線発生部、前記X線検出部および前記駆動部の少なくとも一つに設定される撮影条件、前記画像生成部の画像の再構成条件、および、前記被写体の撮影部位および対象組織のうち少なくとも一つに設定された条件または値、のうちの少なくとも一つに応じて、第1トモシンセシス画像と第2トモシンセシス画像の合成に用いる重み付け係数を決定し、合成することを特徴とするX線トモシンセシス装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線トモシンセシス装置であって、前記画像合成部は、第1および第2トモシンセシス画像にそれぞれ設定された範囲の画素値から、前記範囲のコントラストを算出し、算出したコントラストに応じて、前記第1および第2トモシンセシス画像の重み付けに用いる前記重み係数を決定することを特徴とするX線トモシンセシス装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線トモシンセシス装置であって、前記画像生成部は、前記X線発生部、前記X線検出部および前記駆動部の少なくとも一つに設定される撮影条件、前記画像生成部の画像の再構成条件、および、前記被写体の撮影部位および対象組織のうち少なくとも一つに設定された条件または値、のうちの少なくとも一つに応じて、前記
第1フィルタを変更することを特徴とするX線トモシンセシス装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線トモシンセシス装置であって、前記画像生成部は、高吸収体処理部をさらに有し、
前記高吸収体処理部は、複数の投影角度ごとの前記測定投影データに含まれるX線の高吸収体の領域をそれぞれ抽出し、前記領域の測定投影データ値を変換処理し、
前記第1および第2再構成部は、前記高吸収体処理部が変換処理後の測定投影データから前記第1および第2トモシンセシス画像をそれぞれ再構成することを特徴とするX線トモシンセシス装置。
【請求項6】
請求項
5に記載のX線トモシンセシス装置であって、
前記画像生成部は、前記高吸収体処理部が変換処理した測定投影データを、前記トモシンセシス画像上で前記高吸収体処理部が変換処理前の前記測定投影データ値に対応する画素値に復元する処理を行うことを特徴とするX線トモシンセシス装置。
【請求項7】
請求項
6に記載のX線トモシンセシス装置であって、
前記画像生成部は、前記画像合成部が合成後のトモシンセシス画像上で、前記復元する処理を行うことを特徴とするX線トモシンセシス装置。
【請求項8】
請求項
6に記載のX線トモシンセシス装置であって、
前記第1再構成部は、前記高吸収体処理部が変換処理した後の前記測定投影データから第1トモシンセシス画像を生成し、
前記第2再構成部は、前記高吸収体処理部が変換処理する前の前記測定投影データから前記第2トモシンセシス画像を再構成し、
前記画像生成部は、前記第1トモシンセシス画像上で、前記復元する処理を行い、
前記画像合成部は、前記復元する処理をされた第1トモシンセシス画像と、前記第2トモシンセシス画像とを合成することを特徴とするX線トモシンセシス装置。
【請求項9】
被写体にX線を照射し、前記被写体を透過後の前記X線を検出して得た2次元の測定投影データを受け取って、トモシンセシス画像を生成する画像生成装置であって、
第1再構成部と第2再構成部と画像合成部とを含み、
前記第1再構成部は、前記測定投影データの高周波成分よりも低周波成分を大きな割合で低減する第1フィルタを前記測定投影データに適用した後、逆投影することにより第1トモシンセシス画像を再構成し、
前記第2再構成部は、前記測定投影データの
周波数成分の割合を変化させる処理を行っていない前記測定投影データ、を逆投影することにより、第2トモシンセシス画像を再構成し、
前記画像合成部は、前記第1トモシンセシス画像と第2トモシンセシス画像を合成することを特徴とする画像生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トモシンセシス機能を搭載したX線撮影装置に係り、特に組織間の境界部で発生するアーチファクト成分を低減しつつ、被写体内の組織間のX線吸収度合いの差(以下、コントラストと呼ぶ)を表したトモシンセシス画像を取得する信号処理ならびに再構成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線トモシンセシス装置は、被写体を多方向から撮影して得た測定投影データから被写体内の各点のX線吸収係数を算出し、X線吸収係数分布画像を得る装置である。通常、X線吸収係数は、空気と水で規格化したHounsfield Unit値(空気を-1000、水を0)に置き換えて診断に利用される。
【0003】
X線トモシンセシス装置は、体軸方向と体の左右方向とを含む冠状面(Coronal面)に平行な複数の面について、被写体の断層面を生成することができる。医療現場において、トモシンセシス画像の利用は、異なる位置の断層面をもとに即時に患者の病状を診断できるため、臨床上有用である。しかし、X線トモシンセシス装置は、撮影する投影角度範囲が約20度から40度と小さいため、最低180度の投影角度範囲について撮影するX線CT装置と比較していくつかの課題がある。例えば一つは、金属と骨、骨と筋肉との間のようにX線吸収係数の異なる組織間の境界部においてアーチファクトが発生するという課題であり、もう一つは、被写体が位置する断層面との隣接面に残像が発生するという課題である。本明細書では、これらのアーチファクトや残像を総称して「アーチファクト」と呼ぶ。アーチファクトは、臨床上の診断能を低下させる原因となる。
【0004】
アーチファクトの発生理由を詳細に説明する。X線トモシンセシス装置は、トモシンセシス画像を取得するために、X線CT装置における画像再構成でも用いられる公知のFeldkamp法等のFiltered Back Projection(以下、FBPと呼ぶ)法をベースとする解析的な再構成法を用いる。このFBP法では、逆投影演算時に被写体の形状および吸収値を復元できるようするため、測定投影データに高周波強調の再構成フィルタを適用する。再構成フィルタは、X線CT装置のように最低180度の撮影角度範囲で収集した測定投影データについて逆投影演算を行った場合に再構成画像上で高周波情報が相殺されるように設計されている。そのため、撮影角度範囲が小さいX線トモシンセシス装置の測定投影データに高周波強調の再構成フィルタを適用すると、例えば金属と骨のように周辺組織との測定投影データ値の差が急峻になる被写体の形状や吸収値を完全に復元できず、FBP法により強調された高周波成分を原因とするアーチファクトが発生する。このアーチファクトは、トモシンセシス画像の3次元方向に存在する各組織に伝播するため、例えば骨、金属、筋肉等の組織間や空気とのコントラストを正確に表すことができない、という問題を生じる。
【0005】
これまでアーチファクトを低減するため、周辺組織の吸収値を用いて、アーチファクトの発生対象の領域の値を置換し周辺組織との差を小さくする方法や、測定投影データから対象の領域を分別する方法が提案されている。
【0006】
特許文献1には、トモシンセシス撮影により取得された投影データから放射線の高吸収体領域を抽出し、抽出した高吸収体領域の大きさおよび/または形状の特徴量を算出する技術が開示されている。この技術は、算出した特徴量に基づいて、投影データにおける高吸収体領域の画素を補間する際の補間方法を決定し、この補間方法を用いて投影データの高吸収体領域の補間を行う。高吸収体領域の抽出方法として、二値化処理やグラフカット処理を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、抽出した高吸収体領域の大きさおよび/または形状の特徴量を算出し、投影データにおける高吸収体領域の画素を補間する際の補間方法を決定する。このため、高吸収体領域を精度よく抽出することが、アーチファクトが低減された画像を得るために重要である。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の高吸収体領域を抽出する方法は、高吸収体のX線吸収率が金属等のように大きく、かつ高吸収体の領域が限定されていることが前提となっている。そのため、骨と筋肉や、筋肉と空気との境界等のように、測定投影データ値の差が急峻になる組織の境界で生じるアーチファクトを特許文献1の方法で抑制しようとすると、骨や筋肉のように該当組織が膨大な領域を抽出する必要があり、処理時間がかかる。また、アーチファクトを抑制したい対象組織が増えるほど抽出結果の精度が課題となる。
【0010】
本発明は、アーチファクトを低減し、組織間のコントラストを反映したトモシンセシス画像を生成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明のX線トモシンセシス装置は、被写体にX線を照射するX線発生部と、被写体を透過後のX線を検出して2次元の測定投影データを得るX線検出部と、X線発生部及びX線検出部の少なくとも一方を被写体に対して相対的に所定の範囲で移動させる駆動部と、測定投影データを用いてトモシンセシス画像を生成する画像生成部とを有する。画像生成部は、第1再構成部と第2再構成部と画像合成部とを含む。第1再構成部は、測定投影データの高周波成分よりも低周波成分を大きな割合で低減する第1フィルタを測定投影データに適用した後、逆投影することにより第1トモシンセシス画像を再構成する。第2再構成部は、測定投影データの高周波成分に対して低周波成分を低減する割合が、第1フィルタよりも小さいか、もしくは、測定投影データの低周波成分よりも高周波成分を大きな割合で低減する第2フィルタを適用した測定投影データ、または、低周波成分と高周波成分の割合を変化させる処理を行っていない測定投影データ、を逆投影することにより、第2トモシンセシス画像を再構成する。画像合成部は、第1トモシンセシス画像と第2トモシンセシス画像を合成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高吸収体の抽出の有無に関わらず、アーチファクトを低減し、被写体内の組織間のコントラストを反映したトモシンセシス画像を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1のX線トモシンセシス装置各部の構成を説明するブロック図である。
【
図2】(a)実施形態1のX線トモシンセシス装置で用いる第1フィルタの周波数空間における波形の一例を示すグラフ、(b)第2フィルタの周波数空間における波形の一例を示すグラフ。
【
図3】(a-1)実空間の測定投影データの一例を示すグラフ、(a-2)実空間における第1フィルタの波形の一例を示すグラフ、(a-3)第1フィルタを適用後の測定投影データの波形の一例を示すグラフ、(b-1)実空間の測定投影データの一例を示すグラフ、(b-2)実空間における第2フィルタの波形の一例を示すグラフ、(b-3)第2フィルタを適用後の測定投影データの波形の一例を示すグラフ。
【
図4】実施形態1の画像生成部103の画像再構成部136と画像合成部137の構成を示すブロック図。
【
図5】実施形態1の画像生成部103の画像再構成部136と画像合成部137の別の構成を示すブロック図。
【
図6】実施形態1の画像生成部103の画像再構成部136と画像合成部137のさらに別の構成を示すブロック図。
【
図7】実施形態2の画像生成部103の構成を示すブロック図。
【
図8】実施形態2の画像生成部103の具体的な構成例を示すブロック図。
【
図9】(a)実施形態2のX線トモシンセシス装置で用いるフィルタの周波数空間における波形の一例を示すグラフ、(b)実施形態2のフィルタの実空間における波形の一例を示すグラフ。
【
図10】実施形態2の画像生成部103の別の構成例を示すブロック図。
【
図11】実施形態3のX線トモシンセシス装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図12】実施形態3のX線トモシンセシス装置の機能ブロック図である。
【
図13】実施形態3における、撮影条件受付画面を説明するための図である。
【
図14】(a)比較例のトモシンセシス画像であり、(b)実施形態3で得られたトモシンセシス画像である。
【
図15】実施形態4の画像生成部103の画像再構成部136と画像合成部137の構成を示すブロック図である。
【
図16】実施形態5の画像生成部103の画像再構成部136と画像合成部137の構成を示すブロック図である。
【
図17】実施形態6のX線トモシンセシス装置の機能ブロック図である。
【
図18】実施形態6における、撮影条件受付画面を説明するための図である。
【
図19】実施形態6における、画像生成部103の処理手順と、処理で得られる投影データとトモシンセシス画像を説明するための図である。
【
図20】実施形態6の変形例1における、画像生成部103の処理手順と、処理で得られる投影データとトモシンセシス画像を説明するための図である。
【
図21】実施形態6の変形例2における、画像生成部103の処理手順と、処理で得られる投影データとトモシンセシス画像を説明するための図である。
【
図22】実施形態6の変形例3における、画像生成部103の処理手順と、処理で得られる投影データとトモシンセシス画像を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に従い、本発明の複数の実施形態のX線トモシンセシス装置について順次説明する。
【0015】
<<実施形態1>>
まず、本実施形態1に係るX線トモシンセシス装置の概要について説明する。
【0016】
本実施形態1のX線トモシンセシス装置は、
図1に示すように、撮影部102と画像生成部103とを備えて構成される。撮影部は、被写体3にX線を照射するX線発生部1と、被写体を透過後のX線を検出して2次元の測定投影データを得るX線検出部2と、駆動部5とを含む。駆動部5は、X線発生部1及びX線検出部2の少なくとも一方を被写体3に対して相対的に所定の範囲で移動させる。
【0017】
画像生成部103は、
図1に示すように、第1再構成部151と第2再構成部152を備えた画像再構成部136と、画像合成部137とを含み、画測定投影データを用いてトモシンセシス画像を生成する。
第1再構成部151は、測定投影データの高周波成分よりも低周波成分を大きな割合で低減する第1フィルタを測定投影データに適用した後、逆投影することにより第1トモシンセシス画像を再構成し、処理を行った後、逆投影することにより第1トモシンセシス画像を再構成する。
【0018】
第1フィルタの一例を
図2(a)に示す。
図2(a)のフィルタは、公知のRampフィルタであり、空間周波数が小さいほど(低周波であるほど)フィルタ通過強度が小さくなっており、低周波成分が低減される。
【0019】
一方、第2再構成部152は、測定投影データの高周波成分に対して低周波成分を低減する割合が、第1フィルタよりも小さいか、もしくは、測定投影データの低周波成分よりも高周波成分を大きな割合で低減する第2フィルタを、測定投影データに適用した測定投影データを逆投影する。もしくは、第2再構成部152は、低周波成分と高周波成分の割合を変化させる処理を行っていない測定投影データを逆投影する。上記いずれかの逆投影により、第2再構成部152は、第2トモシンセシス画像を再構成する。
【0020】
図2(b)に第2フィルタの一例を示す。
図2(b)から、第2フィルタは、
図2(a)の第1フィルタより、高周波成分に対して低周波成分の割合を低減する度合が小さいか、または、低周波成分に対して高周波成分を低減するフィルタであることがわかる。
【0021】
画像合成部137は、前記第1トモシンセシス画像と第2トモシンセシス画像を合成することにより、トモシンセシス画像を得る。
【0022】
図2(a)、(b)は、第1および第2フィルタの信号通過強度分布を周波数空間で示している。これを逆フーリエ変換し、実空間で第1および第2フィルタの信号通過強度分布を示すと
図3(a-2),(b-2)のようになる。
【0023】
第1および第2フィルタを、
図3(a-1)および(b-1)に示したような波形の測定投影データに対して適用(畳み込み演算)すると、
図3(a-3),(b-3)のような波形の測定投影データとなる。すなわち、第1フィルタを適用後の測定投影データは、
図3(a-3)に示したように、FBP法と同様に、波形の立ち上がりと立下りを急峻にすることができるが、第1フィルタを適用する前にはなかった負のデータが
図3(a-3)のように生じ、しかも、正のピーク値が、処理前とは異なる値となっている。このため、
図3(a-3)のデータを逆投影して得た第1トモシンセシス画像はした場合、被写体3の組織の境界の形状を精度よく復元できるが、組織の境界の近傍においてアーチファクトが生じやすく、しかも、組織内の画素値が、被写体の各組織のX線吸収係数に対応していないという現象が生じやすい。
【0024】
これに対し、第2フィルタを適用後の測定投影データは、
図3(b-3)に示したように、波形の立ち上がりと立下りの急峻さはないが、データの値は処理前の測定投影データと近い値を維持することができる。よって、これを逆投影して得た第2トモシンセシス画像は、被写体内の組織の境界の形状の精度は第1トモシンセシス画像よりも低いが、組織の境界の近傍にアーチファクトは生じにくく、しかも、組織内の画素値は、被写体の各組織のX線吸収係数を、第1トモシンセシス画像よりも正確に表している。
【0025】
したがって、画像合成部137が、第1トモシンセシス画像と第2トモシンセシス画像を合成することにより、トモシンセシス画像の組織境界で生じるアーチファクトを低減し、組織内の画素の画素値が被写体のX線吸収係数との対応精度を向上させることができる。
【0026】
言い換えるならば、第1トモシンセシス画像は、骨梁等の高周波成分の構造を主に表している。一方、第2トモシンセシス画像は、低周波成分の構造を主と表しているため、画像の各組織内の画素値はその組織のX線吸収係数の平均値に相当し、しかも、アーチファクトが小さい。第1トモシンセシス画像に、第2トモシンセシス画像を合成することにより、第2トモシンセシス画像の画素値が表す各組織のX線吸収係数の平均値相当をバイアス成分として、第1トモシンセシス画像の画素値に加算することができ、被写体の形状と、被写体内の組織間のコントラストとを両立させたトモシンセシス画像を取得することができる。
【0027】
第1再構成部151の構成例としては、
図4に示すように、高周波成分を強調する第1フィルタを測定投影データに適用する第1フィルタ適用部161と、第1逆投影部152を有する構成とすることができる。
【0028】
第2再構成部152の構成例としては、第2フィルタを測定投影データに適用する第2フィルタ適用部163と、第2逆投影部164を有する構成とすることができる。また、第2再構成部152の別の構成としては、
図5に示すように、低周波成分と高周波成分の割合を変化させる処理を行っていない測定投影データを逆投影する第3逆投影部165を備える構成としてもよい。
【0029】
図5の構成の場合には、第2再構成部152が画像再構成フィルタを用いずに、第3逆投影部165において単純逆投影法により第2トモシンセシス画像を生成する。このため、合成されたトモシンセシス画像は、アーチファクトを低減し、被写体内の組織間のコントラストを反映した画像であるという効果の他に、第2再構成部152が再構成フィルタの演算を必要とせず、計算時間を短縮可能であるというメリットがある。また、第2再構成部152が、単純逆投影法により生成した第2トモシンセシス画像は、高周波が強調されず、負のアーチファクトを全く生じないというメリットもある。
【0030】
第1フィルタ適用部161および第1フィルタ適用部163は、
図2に示したように周波数空間でフィルタ処理を行う場合は、乗算処理を実施すればよい。また、
図3に示したように実空間でフィルタ処理を行う場合は、畳み込み演算処理を適用すればよい。また、第1逆投影部162と第1フィルタ適用部161、または第2フィルタ適用部163と第2逆投影部164の順番を逆転しても数学的に等価である。例えば、始めに第1逆投影部162において単純逆投影法により第1トモシンセシス画像を生成する。その後、前記第1トモシンセシス画像に対して、実空間の場合、第1フィルタ適用部161に用いる第1フィルタの信号通過強度分布を逆投影した結果を畳み込み演算処理する。同様にフーリエ空間の場合、フーリエ空間上の第1トモシンセシス画像に対して、第1フィルタの信号通過強度分布を逆投影した結果を乗算処理する。
【0031】
画像合成部137は、第1および第2トモシンセシス画像を合成する合成処理部165を有し、合成処理部165は、第1および第2トモシンセシス画像をそれぞれ重み付けした後合成することが望ましい。ここでいう合成とは、重み付き加算(符号の反転による減算含む)、重み付き乗算(符号の反転による除算含む)、どちらか一方の画像の値で置換等、を含む。また、重み付けに用いる重みは、予め定めた値を用いてもよいし、操作者が選択した条件に応じて変更する構成としてもよいし、再構成された第1トモシンセシス画像および第2トモシンセス画像の少なくとも一方の画像に基づいて重みを計算により設定する構成としてもよい。
【0032】
また、画像合成部137は、
図6に示すように、画像上の組織間のコントラストを、操作者が指定した値に調整するダイナミックレンジ調整部166をさらに備えていてもよい。ダイナミックレンジ調整部166は、例えば、合成後の再構成画像に対して、公知のガンマ補正等の非線形処理を施すことにより組織間のコントラストを広げる等の調整を実施する。
【0033】
なお、画像上の組織間のコントラストは、数値として評価することができる。例えば、公知のFBP法を用いて再構成したトモシンセシス画像(通常FBP画像と呼ぶ)のコントラストを基準として、本実施形態の装置が生成したトモシンセシス画像(合成FBP画像と呼ぶ)のコントラストを下式(1)に示すように百分率で示すことにより、数値として評価することができる。
【0034】
【0035】
本実施形態のX線トモシンセシス装置において、被写体とは撮影対象を意味し、被検体3と、被検体3を支える寝台4とを包含する。被検体3は、人体に限らず、ファントムや機械等の検査対象の物体であってもよい。
【0036】
<<実施形態2>>
実施形態2のX線トモシンセシス装置について説明する。
【0037】
実施形態2のX線トモシンセシス装置は、実施形態1の装置と同様の構成の撮影部102と、画像生成部103とを備えている。画像生成部103は、
図7の構成であり、実施形態1とは構成が異なる。
図7のように、画像生成部103は、フィルタ設定部171と再構成部176とを含む。フィルタ設定部171は、フィルタを再構成部176に設定する。このフィルタは、測定投影データを周波数成分ごとに設定された割合で低減するフィルタであって、周波数成分ごとに低減する割合が、撮影条件によって異なるものである。再構成部176は、フィルタ適用部177と逆投影部178とを備えている。フィルタ適用部177は、フィルタ設定部171が設定したフィルタを測定投影データに適用し、逆投影部178は、フィルタ適用後の測定投影データを逆投影することによりトモシンセシス画像を再構成する。
【0038】
撮影条件としては、トモシンセシス画像の所定の領域間のコントラストを少なくとも含むことが望ましい。この場合、再構成部176は、コントラストに応じて、フィルタを設定することにより、再構成する画像の所定の領域間のコントラストを所望のコントラスト値にすることができる。
【0039】
また、フィルタは、測定投影データを周波数成分ごとに設定された割合で低減するフィルタであることから、周波数成分ごとの低減割合を適切に設定されたものを用いることにより、実施形態1と同様にアーチファクトを低減することが可能である。
【0040】
以下、フィルタ設定部171が設定するフィルタについて説明する。
【0041】
実施形態1では、第1フィルタと第2フィルタをそれぞれ測定投影データに適用して第1トモシンセシス画像と第2トモシンセシス画像を再構成した後、第1および第2トモシンセシス画像を合成する構成であったが、実施形態2では、フィルタ設定部171が実施形態1の第1フィルタと第2フィルタとを予め合成したフィルタを再構成部176に設定する。
【0042】
例えば、
図8に示すように、画像生成部103のフィルタ設定部171は、フィルタ格納部172と、フィルタ合成部173とを含む。フィルタ格納部172には、測定投影データを周波数成分ごとに設定された割合で低減するフィルタであって、周波数成分ごとに低減する割合の変化が相互に異なる2以上のフィルタが予め格納されている。フィルタ合成部173は、フィルタ合成部は、予め用意しておいた複数のフィルタから、撮影条件に応じて第1フィルタと第2フィルタとを選択し、選択した2以上のフィルタを合成することにより、周波数成分ごとに低減する割合が撮影条件によって異なる合成フィルタ合成フィルタを生成する。
【0043】
第1フィルタと第2フィルタは、実施形態1の第1フィルタおよび第2フィルタと同様の周波数成分ごとの低減割合を有するものを撮影条件に応じて選択すればよい。具体的には、フィルタ合成部173は、第1フィルタとして、
図2(a)のように、測定投影データの高周波成分よりも低周波成分を大きな割合で低減するフィルタを選択する。また、第2フィルタとして、
図2(b)に示したように、撮影条件(コントラスト)ごとに予め用意しておいた複数のフィルタから撮影条件に対応するものを選択する。第2フィルタは、測定投影データの高周波成分に対して低周波成分を低減する割合が、第1フィルタよりも小さいか、もしくは、測定投影データの低周波成分よりも高周波成分を大きな割合で低減するフィルタである。
【0044】
フィルタ合成部173が、
図2(a)の第1フィルタと
図2(b)の第2フィルタを合成した合成フィルタを
図9(a)に示す。
図9(a)のように、撮影条件(コントラスト)ごとに、合成フィルタが得られる。また、
図9(b)は
図9(a)のフィルタを、逆フーリエ変換して得た実空間における波形を示す。
【0045】
フィルタ合成部173は、設定されているコントラストごとに、
図9(a)、(b)のような合成フィルタを生成し、フィルタ適用部177に設定する。フィルタ適用部177は、これら合成フィルタを測定投影データに適用し、逆投影部178が逆投影することによりトモシンセシス画像を再構成する。
【0046】
これにより、所定の組織間が所望のコントラストに設定され、組織境界でのアーチファクトが抑制されたトモシンセシス画像を生成することができる。
【0047】
なお、
図8の構成では、撮影条件に応じて、第1および第2フィルタをフィルタ合成部173が選択して合成する構成であったが、設定可能な撮影条件ごとに予め合成フィルタを生成してフィルタ設定部内の格納部に格納しておき、フィルタ設定部171が撮影条件に応じた合成フィルタを読み出して、再構成部176に設定する構成にしてもよい。
【0048】
なお、画像生成部103は、操作者からコントラスト設定したい領域の位置と、コントラストの所望値を受け付けるコントラスト受付部を備える構成としてもよい。この場合、フィルタ設定部171は、コントラスト受付部が受け付けたコントラスト値に対応した、合成フィルタを選択して再構成部176に設定する。
【0049】
また、
図10に示すように、実施形態2の画像生成部は、第2再構成部182と、画像合成部187とをさらに含む構成としてもよい。第3再構成部182は、第3フィルタ適用部183と第3逆投影部184とを備えている。第3フィルタ適用部183は、フィルタ設定部171が設定した合成フィルタが測定投影データの高周波成分に対して低周波成分を低減する割合とは異なる割合で、高周波成分に対して低周波成分を低減する第3フィルタ、または、低周波成分に対して高周波成分を低減させる第3フィルタを測定投影データに適用する。第3逆投影部は、第2フィルタが適用された測定投影データを逆投影して第3トモシンセス画像を生成する。なお、第3逆投影部184は、低周波成分と高周波成分の割合を変化させる処理を行っていない測定投影データ、を逆投影することにより、第3トモシンセシス画像を再構成してもよい。
【0050】
画像合成部187は、合成フィルタを適用した測定投影データを逆投影部178が逆投影して再構成したトモシンセシス画像と、第3再構成部182が再構成した第3トモシンセシス画像を合成する。
【0051】
図10の構成によって得られる合成画像は、組織境界のアーチファクトが低減され、しかも、組織間のコントラストを反映することができる。
【0052】
<<実施形態3>>
以下、実施形態3のトモシンセシス撮影装置について
図11および
図12等を用いて説明する。実施形態3のトモシンセシス撮影装置は、実施形態1と同様に、第1および第2トモシンセシス画像を生成してから合成する構成である。
【0053】
図11に、実施形態3に係るX線トモシンセシス装置のハードウェア構成を、
図12に実施形態3に係るX線トモシンセシス装置の機能を示す機能ブロック図を示す。
【0054】
このX線トモシンセシス装置は、実施形態1と同様に、撮影部102と、画像生成部103とを備え、さらに、X線照射条件等の撮影条件や画像再構成の条件を入力する入力部101を備えている。
【0055】
なお、入力部101および画像生成部103は、撮影部102を備える本体装置と必ずしも一体に構成する必要はなく、撮影部102とは離れた場所に配置し、ネットワークを介して接続してもよい。その場合、画像生成部103は、測定投影データを処理する処理装置として、独立した構成にすることができる。
【0056】
<装置のハードウェア構成>
まず、
図11を用いて、本実施形態のX線トモシンセシス装置のハードウェア構成について説明する。
【0057】
本実施形態3では、入力部101は、汎用のコンピュータと同様のハードウェア構成であり、入出力部であるキーボード111やマウス112、記憶部であるメモリ113や、HDD(Hard Disk Drive)装置115、処理部である中央処理装置(CPU;Central Processing Unit)114、図示を省略したモニタ等を備えている。図示していないが、ペンタブレットやタッチパネル等の他の入力手段を備えていてもよい。各構成要素はデータバス101aによって接続されている。
【0058】
画像生成部103は、データ収集システム(Data Acquisition System、以下、DAS)118、記憶部であるメモリ119、処理部である中央処理装置120、記憶部であるHDD装置121、表示部であるモニタ122等を備えている。
【0059】
入力部101と画像生成部103は、独立したハードウェアとしても良いし、これらのハードウェアを共用した構成としても良い。
【0060】
撮影部102は、X線発生部1およびX線検出部2と、X線発生部1を移動させる駆動部5とを備えている。撮影部102は、一般的なX線トモシンセシス装置と同様、被検体3へのX線の照射および検出を実現する。X線発生部1のX線発生点とX線検出部2のX線入力面との距離の代表例は1200[mm]である。
【0061】
X線発生部1は、X線管を含む。X線検出部2は、シンチレータ及びフォトダイオード等から構成される公知のX線検出素子を複数含む。複数のX線検出素子は、寝台4と平行な面内(X方向、Y方向)に2次元方向に配列されている。例えば、X方向およびY方向に2000×2000個のX線検出素子を配列した構成とする。各X線検出素子のサイズの代表例は0.2[mm]である。なお、各仕様は、上記の値に限定されるものはなく、X線トモシンセシス装置の構成に応じて種々変更可能である。
【0062】
駆動部5は、X線発生部1を、被写体3およびX線検出部2に対して移動させる。トモシンセシス撮影を行う際のX線発生部1のX線検出部2に対する角度を、投影角度と呼ぶ。X線発生部1とX線検出部2が正対する位置を0度とすると、投影角度の範囲の代表例は±20度である。1回のトモシンセシス撮影において撮影部102が撮影する投影枚数の代表例は60である。この場合、X線発生部1が0.67度分移動する毎に1回の撮影が行われる。投影角度±20度の範囲でのトモシンセシス撮影に要する時間の代表例は10.0[s]である。
【0063】
画像生成部103は、DAS118、CPU120で構成される処理部、メモリ119やHDD装置121等の記憶部、液晶ディスプレイやCRT等のモニタ122を備えて構成される。これらはデータバス103aによって接続される。DAS118は、
図2の信号収集部134として機能する。
【0064】
<各部の機能>
図12に示すように、入力部101は、撮影条件を入力する撮影条件入力部131として機能する。キーボード111等により入力されたデータは、CPU114に受け渡される。CPU114は、メモリ113、HDD装置115等に予め格納されている所定のプログラムを展開・起動することにより、撮影条件入力部131として機能を実現する。また、CPU114は、別のプログラムを展開・起動することにより、撮影部102に制御信号を送り、
図12の撮影制御部132の一部としても機能する。
【0065】
撮影部102は、撮影条件入力部131で入力された撮影条件に基づき撮影を制御する撮影制御部132と、X線の照射および検出を行う撮影稼動部133として機能する。
【0066】
画像生成部103のDAS118は、撮影部102のX線検出部2で検出された信号を収集し、ディジタル信号に変換することにより、
図12の信号収集部134として機能する。
【0067】
画像生成部103のCPU120は、メモリ119やHDD装置121等に予め格納されている所定のプログラムを展開・起動することにより、DAS118によって収集されたディジタル信号を補正する補正処理部135、FBP処理を用いて画像再構成部136、画像合成部137の機能をソフトウエアにより実現する。
【0068】
画像再構成部136は、実施形態1の
図4、
図5および
図6のいずれかの構成と同様に第1再構成部151と第2再構成部152とを備えている。
【0069】
画像生成部103の機能のうち、少なくとも画像再構成部136および画像合成部137の一部または全部をハードウェアによって実現することも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて画像再構成部136および画像合成部137の一部または全部を構成し、画像再構成部136および画像合成部137の動作を実現するように回路設計を行えばよい。
【0070】
なお、信号収集部134を撮影部102に設置し、撮影部102は、ディジタル信号としての測定投影データを出力することも可能であり、ネットワークを介して画像生成部103を接続する場合には、その様に構成すると好適である。
【0071】
画像生成部103のモニタ122は、画像表示部138として機能する。また、HDD装置121等にデータは保存され、必要に応じて、データは外部へ入出力される。画像再構成したトモシンセシス画像は、画像表示部138として機能するモニタ122に表示される。上述のようにCPU120やメモリ121やモニタ122等は入力部101と共用できる。
【0072】
<撮影動作の流れ>
次に、実施形態3のX線トモシンセシス装置の撮影動作の流れを
図12の機能ブロック図を中心に、
図11のハードウェア構成および
図13の画面例を用いて説明する。
図13は、撮影条件入力部131のモニタ122に表示される撮影条件受付画面141の一例を示す図である。
【0073】
(撮影条件の受け付け)
まず、
図12の撮影条件入力部131は、
図13の撮影条件受付画面141をモニタ122に表示し、操作者の入力を受け付ける。
【0074】
図3の撮影条件受付画面141は、照射するX線のエネルギー及び出力量に対応する管電圧、管電流時間積、および、1回のトモシンセシス撮影における投影枚数を操作者が設定するためのX線条件設定用領域142と、対象組織設定用領域143と、コントラスト設定用領域144と、合成方法設定用領域145を含む。
【0075】
対象組織設定用領域143は、トモシンセシス画像において精度よくコントラストを表したい2つの対象組織を操作者から受け付けるための画面領域である。コントラスト設定領域144は、対象組織設定用領域143で設定された2つの対象組織をトモシンセシス画像上でどれくらいのコントラストで表すか、目標とするコントラスト値を操作者から受け付ける画面領域である。合成方法設定用領域145は、複数の再構成画像を合成する際の加算方法や重み等の条件を設定するための画面領域である。
【0076】
操作者は、撮影条件受付画面141を見ながら、マウス112やキーボード111等を操作して必要な撮影条件を設定する。具体的には、操作者は、X線条件設定用領域142にX線条件を設定し、対象組織設定用領域143においてコントラストを設定したい対象組織を設定し、コントラスト設定用領域144に被写体内の組織間の目標とするコントラストを設定し、合成方法設定用領域145に合成方法を設定する。
【0077】
以下、X線条件、対象組織、コントラスト、合成方法の設定について、
図13を用いて、さらに詳しく説明する。
【0078】
図13では一例として、操作者によってX線条件設定用領域142に、管電圧値80[kV]、管電流時間積20[mAs]、投影枚数60が設定されている。なお、
図13では、1種類のエネルギースペクトルを有するX線を用いる例について示しているが、2種類以上のX線を用いるマルチエネルギー撮影の場合には、操作者は、管電圧、管電流時間積、及び撮影回数の項目をX線条件設定用領域142に追加し、X線の種類ごとに同様に設定する。
【0079】
また、
図13の対象組織設定用領域143には、撮影部位を選択する領域143aと、撮影組織を選択する領域143bと、範囲を選択する領域143とが用意されている。操作者は、いずれかの領域に入力することにより、精度よくコントラストを設定したい2つの組織を設定する。
【0080】
例えば、領域143aにおいて、操作者が撮影部位(頭部、胸部、腹部、肺野等)のいずれかを選択した場合、選択された撮影部位ごとに予め定めておいた代表的な2つの組織(例えば、胸部であれば肺と骨等)を設定することができる。また、領域143bにおいて、操作者が撮影組織(骨、筋肉、金属、空気等)のうちの2つを選択することで組織を設定することができる。また、領域143cに表示された再構成画像上146で操作者が2つの範囲(例えば、正方形で囲った範囲147,148)を所望の位置に配置することにより、2種類の組織(
図13では、骨の組織:147、筋肉の組織:148)を設定することもできる。なお、範囲は、正方形に限られず、円形、長方形、立方体、直方体、球等の任意の形状に設定することも可能である。
【0081】
また、操作者は、コントラスト設定用領域144において、対象組織設定領域143で設定した組織間を、トモシンセシス画像上でどれくらいのコントラスト値で表すかの目標コントラスト値として、500が設定されている。これにより、500の組織間のコントラストを達成されるように、画像合成部137によって合成処理が行われる。
【0082】
また、
図13の例では、合成方法設定用領域145において、操作者は、加算方法として、重み値自動設定の重み加算または重み乗算、自動で行う置換、再構成フィルタの自動変更、重み値手動設定の重み加算または重み乗算、手動で行う置換、および、再構成フィルタの手動変更のいずれかを選択することができる。ここでいう重み加算または重み乗算は、2種類の再構成画像を重み付けして加算または乗算する方法である。置換は、2種類の再構成画像の一部を置換する方法である。再構成フィルタの変更は、実施形態1で説明した第1フィルタおよび第2フィルタを異なるフィルタに変更する方法である。また、自動は、対象組織設定用領域143やコントラスト設定用領域144で設定された2つの対象組織やコントラスト値に基づき、予め定めた数式に基づいて自動的に重み係数や再構成フィルタが算出される。手動は、設定された対象組織やコントラスト値によらず、操作者が手動で重み係数や再構成フィルタを決定する。
【0083】
なお、撮影条件受付画面141は、
図13の画面構成に限定されるものではない。また、X線条件、対象組織、コントラスト、および合成方法の設定値の組み合わせを、HDD装置115に予め保存しておき、撮影条件入力部131がHDD装置115から設定値の組み合わせを読み出す構成にすることも可能である。この場合、操作者が、毎回X線条件等を入力する必要がない。また、上記設定値の組み合わせを、予め複数種類保存しておき、操作者が複数種類の中から選択する構成にすることも可能である。
【0084】
(トモシンセシス撮影)
次に、
図12の撮影部102は、撮影条件入力部131が操作者から受け付けた撮影条件に応じたトモシンセシス撮影を行う。
【0085】
具体的には、操作者は、被検体3の撮影開始位置への配置が完了すると、マウス112やキーボード111等を用いて撮影開始を指示する。CPU114は、撮影制御部132の検出器制御器116、X線制御器117に制御信号を出力する。X線制御器117は、CPU114から撮影開始が指示されると同時に駆動部5に、X線発生部1の体軸方向への移動を開始させる。X線発生部1の移動が定速状態に入り、かつ、被検体3の撮影位置への配置が終了した時点で、CPU114は、X線制御器117にX線発生部1のX線照射タイミング、及び、X線検出部2の撮影タイミングを指示する。X線制御器117は、この指示に従ってX線発生部1からX線を照射させ、X線検出部2は、X線を検出して撮影を開始する。また、X線制御器117は、例えば操作者が設定したX線発生部1の管電圧および管電流時間積により、照射するX線のエネルギースペクトルと出力量を決定する。
【0086】
なお、ここでは1種類のエネルギースペクトルを有するX線を使用する例について説明したが、本実施形態の構成はマルチエネルギー撮影のトモシンセシスにも適用できる。その場合には、例えば、1回の移動毎または1回の移動中に管電圧を高速に切り替えて2種類以上のエネルギースペクトルを有するX線を照射し、撮影データを取得するように制御する。
【0087】
画像生成部103の信号収集部134は、X線検出部2の出力信号を受け取ってディジタル信号に変換し、メモリ119に保存する。このデータに対し、補正処理部135では、X線の検出信号のゼロ値を較正するオフセット補正や、検出素子間の感度を補正する公知のエアキャリブレーション処理等の補正を行い、被検体3の測定投影データを取得する。測定投影データは、画像再構成部136、画像合成部137に送られる。
【0088】
画像再構成部136および画像合成部137は、実施形態1の
図4と同様の構成である。すなわち、画像再構成部136は、第1再構成部151と第2再構成部152とを備えている。第1再構成部151は、第1フィルタ適用部161および第1逆投影部162を備えて、第1トモシンセシス画像を再構成する。第2再構成部152は、第2フィルタ適用部163および第2逆投影部164を備え、第2トモシンセシス画像を再構成する。これらの再構成処理については、実施形態1で説明したので、ここでは説明を省略する。
【0089】
画像合成部137の合成処理部165は、第1トモシンセシス画像I1と第2トモシンセシス画像I2を合成(例えば重み付け加算)する際の重み係数α、βをまず算出する。ここでは、
図13のように、受付画面の対象組織設定用領域143の領域143cに、コントラストを設定した範囲147、148としてRb(骨:範囲147)、Rm(筋肉:範囲148)が設定され、コントラスト設定用領域144において、骨と筋肉間のコントラスト(Contrast)の値として500が設定されている場合を例に説明する。
【0090】
具体的には、まず、画像合成部137は、第1トモシンセシス画像I1と第2トモシンセシス画像I2に範囲147、148をそれぞれ設定し、第1トモシンセス画像の骨の範囲147の画素値の平均値I1Rbおよび筋肉の範囲148の画素値の平均値I1Rm、ならびに、第2トモシンセシス画像の骨の範囲147の画素値の平均値I2Rbおよび筋肉の範囲148の画素値の平均値I2Rmをそれぞれ算出する。
【0091】
次に、第1トモシンセシス画像および第2トモシンセシス画像の重み加算の係数をそれぞれα,βとすると、重み加算後の合成トモシンセシス画像における骨の範囲147と筋肉の範囲148との間のコントラスト値(Contrast)は、重み加算前の第1および第2トモシンセシス画像の範囲147,148の画素値の平均値I1Rb、I1Rm、I2Rb、I2Rmを用いて式(2)により表される。ここで、第1トモシンセシス画像(FBP画像)I1の周波数成分、特に高周波成分の振幅を維持するため、α=1とすると、画像合成部137は、βを式(3)により算出できる。
【0092】
なお、式(3)のΔI1およびΔI2は、式(4)に示すように、第1トモシンセシス画像における骨の範囲147の画素値の平均値I1Rbと筋肉の範囲148の画素値の平均値I1Rmとの差と、第2トモシンセシス画像の骨の範囲147の画素値の平均値I2Rbおよび筋肉の範囲148の画素値の平均値I2Rmとの差である。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
画像合成部137の合成処理部165は、求めた重み係数α(=1)とβの値により、第1トモシンセシス画像I1と第2トモシンセシス画像I2の画素値をそれぞれ重み付けした後加算することにより合成トモシンセシス画像を生成する。
【0097】
画像合成部137は、画像表示部に合成トモシンセシス画像を出力し、表示させる。
【0098】
これにより、実施形態1で説明したように、組織境界のアーチファクトが抑制され、しかも、所望の2つの組織のコントラストが所定値で表された合成トモシンセシス画像を生成し、操作者に表示することができるという効果を達成できる。
【0099】
なお、合成処理部165は、重み付き加算法以外に、重み付き乗算法や置換処理等、他の手法で合成することももちろん可能である。その場合、式(2)を重み付き乗算法や置換処理等に対応した式に変更する。また、重みα、βを
図13の設定画面の領域145において操作者が設定した値を用いることも可能である。その場合、画像合成部137は、αとβは算出せず、操作者が設定したαおよびβの値を用いる。
【0100】
また、画像生成部103の構成を、
図5の構成にすることも可能である。この場合も、上記した効果を達成することができる。
【0101】
<ダイナミックレンジ調整部166を追加した例>
画像合成部137の構成を実施形態1で説明した
図6の構成にすることも可能である。
図6の画像合成部137は、ダイナミックレンジ調整部166を備えている。ダイナミックレンズ調整部166は、合成処理部165が生成した合成トモシンセシス画像に対して公知のガンマ補正等の非線形処理を施し、操作者が指定した組織間のコントラストを広げる。
【0102】
ダイナミックレンジ調整部166が非線形処理を施した後のトモシンセシス画像の所定の組織のコントラスト値(Contrast)は、式(5)に示すように、合成処理部165の生成した合成トモシンセシス画像のコントラスト値(Contrast’)に対して、ガンマ補正の係数γを乗算した値となる。
【0103】
よって、合成処理部165は、第1トモシンセシス画像I1と第2トモシンセシス画像I2を合成する際の重み係数α、βを算出する際に、画像合成部137がダイナミックレンジ調整部166を備える
図6の構成である場合、非線形処理により拡大したコントラスト値および係数γに基づいて、式(6)により重みα,βを算出する。
【0104】
【0105】
【0106】
<有効性の検証>
本実施形態のX線トモシンセシス装置の有効性を検証するため、プラスチック製容器の内部に横方向に細長い形状をもつ動物の骨を挿入したものをファントムとして用い、トモシンセシス画像を撮影する実験を実施した。なお、プラスチック製容器は内外ともに空気で満たされている。撮影されたCoronal面のトモシンセシス画像(合成FBP画像)182を
図14(b)に示す。また、比較例として、通常のX線トモシンセシス装置において、公知のFBP法を用いて再構成したトモシンセシス画像(通常FBP画像)181を
図14(a)に示す。
【0107】
図14(b)を
図14(a)と比較すると明らかなように、本実施形態の合成FBP画像182は、通常FBP画像181よりも空気と空気以外の領域の画素値(X線吸収係数)の差が大きい。また、通常FBP画像181は、空気の領域の画素値(X線吸収係数)が骨内部の領域の画素値より大きくなっており、空気が骨よりX線を吸収するという誤った撮影結果を表示している。これに対し、本実施形態の合成FBP画像182では、被写体の組織間のコントラストを反映したトモシンセシス画像を撮影できることが示された。
【0108】
<実施形態3の変形例>
本実施形態3のX線では、X線検出部2を移動させない構成を示したが、X線発生部1の移動と同期して、X線検出部2が移動しながら撮影する方式にすることも可能である。
【0109】
本実施形態では、1回のトモシンセシス撮影から取得した測定投影データを用いて、トモシンセシス画像を再構成したが、1回に限定されるものではなく、例えば2回以上の撮影による異なる時間の測定投影データを用いて再構成する場合であっても適用可能である。
【0110】
更に本実施形態では、一例として生体用のX線トモシンセシス装置を示したが、爆発物検査や製品検査等の非破壊検査を目的としたX線トモシンセシス装置またはラミノグラフィ装置に本実施形態の構成を適用することももちろん可能である。
【0111】
<<実施形態4>>
次に、実施形態4を説明する。本実施形態4のX線トモシンセシス装置は、
図15に示すように、基本的に実施形態1および実施形態3のX線トモシンセシス装置の
図6の構成と同様であるが、画像合成部137にさらにテーブル部168を備えている点で実施形態1、3とは異なっている。テーブル部168には、トモシンセシス装置に設定可能な、撮影条件、再構成条件、撮影部位および対象組織の組み合わせと、予め求めておいた、トモシンセシス画像の合成に用いる重みパラメータ(α、β)の適切な値との関係が、例えばテーブルの形式で予め格納されている。テーブル部168は、例えばHDD装置115に予め保存されている。以下、本実施形態について、実施形態1と異なる構成を中心に説明する。
【0112】
合成処理部165は、実施形態3で説明したように、第1トモシンセシス画像I1と第2トモシンセシス画像I2を合成(例えば重み付け加算)する前に、重み係数α、βを算出する。このとき、実施形態3では、式(2)~(6)のように第1および第2トモシンセシス画像の一部の領域(範囲147,148)の画素値から、重み係数α、βを計算した。これに対し、本実施形態4では、
図13の受付画面において設定された撮影条件、再構成条件、撮影部位や対象組織に対応する重みパラメータを、テーブル部168のテーブルを参照することにより決定する。これにより、画素値から重み係数α、βを計算する必要がなく、演算時間を短縮することができる。
【0113】
テーブルの内容について説明する。例えば、撮影条件において管電圧により組織の吸収値が異なる為、代表的な管電圧ごとに重みパラメータα、βがテーブルに保存されている。再構成条件においてトモシンセシス画像に適用する第1および第2フィルタに応じて、組織の吸収値が異なる為、設定可能なフィルタごとに重みパラメータα、βがテーブルに保存されている。撮影部位や対象組織については、部位を構成する組織に応じてX線吸収係数値が異なるため、代表的な組織ごとにそのX線吸収係数値に対応する重みパラメータα、βがテーブルに保存されている。
【0114】
このように、本実施形態4では、
図15のように、第1再構成部151が再構成した第1トモシンセシス画像と、第2再構成部152が再構成した第2トモシンセシス画像とを、事前に作成したテーブル部を参照して求めた重みパラメータα、βを用いて合成することにより、少ない計算時間でアーチファクトを低減し、被写体内の組織間のコントラストを表す合成トモシンセシス画像を得ることができる。
【0115】
なお、本実施形態4では、テーブル部には、撮影条件等と重み係数との関係がテーブルとして格納されている例を示したが、両者の対応関係がわかればよく、テーブル形式に限定されない。
【0116】
<<実施形態5>>
次に、実施形態5のX線トモシンセシス装置について
図16を用いて説明する。実施形態5のX線トモシンセシス装置は、目標コントラスト値が得られるトモシンセス画像を生成するために、第1および第2のフィルタを設定する構成であり、設定された撮影条件、再構成条件、撮影部位や対象組織に基づいて、予め定められたテーブルを参照して第1および第2のフィルタの組み合わせを決定する。
【0117】
具体的には、実施形態5の画像生成部103は、
図16に示したように、テーブル部169を備えている。テーブル部169には、設定可能な撮影条件、再構成条件、撮影部位および対象組織の組み合わせごとに、予め求めておいた適切な第1フィルタおよび第2フィルタの組み合わせを対応させたテーブルが格納されている。
【0118】
画像生成部103は、
図13の受付画面において設定された撮影条件、再構成条件、撮影部位や対象組織の組み合わせに対応する重み第1および第2フィルタの組み合わせを、上記テーブル部169のテーブルを参照することにより決定する。
【0119】
例えば、撮影条件において管電圧により組織の吸収値が異なる為、代表的な管電圧ごとに第1および第2フィルタの組合せが予め定められテーブル部169に保存されている。撮影部位や対象組織については、部位を構成する組織に応じてX線吸収係数値が異なるため、代表的な組織ごとにそのX線吸収係数値に対応する第1および第2フィルタの組合せが予め定められテーブル部169に保存されている。目標コントラスト値ごとに、第1および第2フィルタを予め定めてテーブル部169に保存してもよい。
【0120】
本実施形態5のX線トモシンセシス装置は、撮影条件等に応じてテーブルを参照して第1および第2フィルタを設定することにより目標コントラストを取得できるため、短時間で適切な第1および第2フィルタを設定して、アーチファクトを低減でき、被写体内の組織間のコントラストを表すトモシンセシス画像を生成できるという効果が得られる。
【0121】
なお、上述の実施形態5の説明では、第1フィルタおよび第2フィルタの両方を撮影条件等に応じてテーブルを参照して設定する構成について説明したが、一方のフィルタ(例えば第1フィルタ)は固定とし、他方のフィルタ(例えば第2フィルタ)のみを撮影条件等に応じてテーブルを参照して設定する構成としてもよい。
【0122】
<<実施形態6>>
次に、実施形態6のX線トモシンセシス装置を説明する。本実施形態6のX線トモシンセシス装置は、
図17に機能ブロック図を示すように、基本的に実施形態3のX線トモシンセシス装置の
図12の構成と同様であるが、高吸収体処理部139をさらに備えている点で実施形態3とは異なっている。以下、本実施形態6について、実施形態3と異なる構成を中心に説明する。
【0123】
高吸収体処理部139は、複数の投影角度ごとの測定投影データに含まれるX線高吸収体の領域をそれぞれ抽出し、X線高吸収体領域の測定投影データ値を変換処理する。例えば、高吸収体処理部139は、投影角度ごとの2次元の測定投影データ405(後述の
図19参照)上にそれぞれ設定された開始点を用いて、投影角度ごとの測定投影データ405について、それぞれ高吸収体の領域404の抽出を行う。
【0124】
なお、ここでいう開始点とは、高吸収体の領域404の抽出を開始する点、または、領域404の抽出を開始する領域(形状)に含まれる点を言う。高吸収体処理部139は、この開始点または開始点を含む微小領域(形状)を拡張(または縮小)していくことにより領域を抽出する方法を用いて、高吸収体領域を抽出する。
【0125】
また、高吸収体処理部139は、抽出領域変換処理を実施する。抽出領域変換処理は、2次元の測定投影データ405の抽出した高吸収体領域404の測定投影データ値を高吸収体よりも低い値に変換処理する(
図19参照)。
【0126】
そして、画像再構成部136は、変換処理後の測定投影データを用いて、実施形態1~5のいずれかの画像再構成部136と同様に、画像再構成を行う。本実施形態6では、高吸収体処理領域404のX線吸収率が低い値に変換処理されているため、第1および第2のフィルタ等によりフィルタ処理した場合であっても高周波成分が強調され過ぎるのを防止でき、高吸収体とその周囲組織との境界でアーチファクトが発生するのを抑制することができる。
【0127】
以下、図面を参照して、実施形態6のX線トモシンセシス装置についてさらに具体的に説明する。実施形態6のX線トモシンセシス装置では、実施形態3の
図11に示したようなX線トモシンセシス装置のハードウェア構成を有し、ソフトウェアにより高吸収体処理部139の機能を実現する。なお、ASICやFPGA等のハードウェアにより高吸収体処理部139の機能の一部または全部を実現することができることもできる。
【0128】
次に、実施形態6のX線トモシンセシス装置の撮影動作の流れを
図17の機能ブロック図を中心に、
図11のハードウェア構成および
図18の画面例を用いて説明する。
図18は、撮影条件入力部131がモニタ122に表示する撮影条件受付画面191の一例を示す図である。
【0129】
図2の撮影条件入力部131は、
図18の撮影条件受付画面191と
図13の撮影条件受付画面141とをモニタ122に表示し、操作者の入力を受け付ける。
図11の撮影条件受付画面191は、
図13の撮影条件受付画面141で受け付ける撮影条件に加えて、どのような高吸収体を抽出するかを操作者が選択する高吸収体設定用領域201と、撮影部位を操作者が設定するための撮影部位設定用領域202と、高吸収体の抽出方法を操作者が選択するための抽出方法設定用領域203を含んでいる。
【0130】
操作者は、撮影条件受付画面191を見ながら、マウス112やキーボード111等を操作して、抽出する高吸収体の条件を高吸収体設定用領域201に設定し、撮影部位を撮影部位設定用領域202に設定し、高吸収体の抽出方法を抽出方法設定用領域203に設定する。これをさらに詳しく説明する。
【0131】
図18の撮影条件受付画面191の高吸収体設定用領域201において、操作者は、領域抽出の開始点41を設定する。設定方法としては、3種類用意されている。1番目は、操作者が測定投影データ値の閾値を入力し、入力された閾値以下の測定投影データの点を開始点41として設定する方法である。2番目は、取得した2次元の測定投影データ205を画面上に表示し、操作者が表示された測定投影データ205の中の高吸収体の所望の点をポインタ204で選択し、開始点41として設定する方法である。3番目は、高吸収体の情報(例えば、ボルト、ねじ、プレート、X,Y、Z軸方向のサイズを指定した金属)を操作者が選択し、選択された情報に予め対応づけておいた形状や材質(高吸収体値)に基づいて、高吸収体処理部139が測定投影データ205内の高吸収体領域を探索し、その内部の点を開始点41として設定する方法である。
【0132】
図18の例では、測定投影データ値の閾値として100以下が操作者によって設定されている。よって、この閾値100以下の測定投影データを示す点が開始点41として設定される。
【0133】
また、
図18の撮影部位設定用領域202では、撮影部位として、X線照射対象(頭部、胸部、肺野等の部位や組織)を操作者が選択する。
図18の例では、頭部が選択されている。
【0134】
抽出方法設定用領域203では、開始点41から高吸収体の領域全体を抽出していく方法が操作者によって選択される。抽出方法は、開始点や微小領域から領域を拡張(または縮小)していくことにより領域を抽出する方法であればどのような方法を用いてもよい。
図18の抽出方法設定用領域203では、いずれも公知の、領域拡張法、初期形状に基づいて領域を抽出するスネークス法、初期値に基づいて領域を抽出するレベルセット法や、初期シード(seed)に基づいて領域を抽出するグラフカット法等から操作者が選択できる。なお、領域抽出法として、スネークス法のように、開始点ではなく開始領域(開始形状)から領域抽出を行う方法が選択された場合には、撮影条件入力部131は、上述の
図18の高吸収体設定用領域201において、開始領域(開始形状)の入力を操作者から受け付けてもよい。また、撮影条件入力部131は、高吸収体設定用領域201において開始点41の設定を操作者から受け付け、開始点41を含むように所定形状の開始領域(開始形状)を設定してもよい。
【0135】
高吸収体処理部139は、撮影条件受付画面191に設定された条件にしたがって、複数の投影角度ごとの測定投影データに含まれるX線高吸収体の領域をそれぞれ抽出する。
【0136】
つぎに、高吸収体処理部139は、測定投影データ内で抽出した高吸収体領域のデータ値を特定値へ変換処理する。これを、
図19を用いて詳細に説明する。
【0137】
図19は、投影データ401と、再構成したトモシンセシス画像402を示している。
図19において、白色の領域は、投影データ値が大きく、黒色の領域は投影データ値が小さく、その中間の領域はグレーの濃淡で表されている。
図19の測定投影データ405は、球体403の内部に高吸収体404を挿入したファントムを撮影して得たものである。
【0138】
高吸収体処理部139は、測定投影データ405から高吸収体404の投影データの領域を抽出し、高吸収体404の投影データ406を得る。次に、高吸収体処理部139は、投影データ406に示される高吸収体404の投影データの値を特定値へ変換し、測定投影データ405の高吸収体404の領域の投影データと置換することにより高吸収体変換投影データ407を得る。
【0139】
次に、画像再構成部136の第1再構成部151は、高吸収体変換投影データ407に対して、公知であるLog変換処理した後、第1フィルタを適用し、画像再構成を実施することにより、第1トモシンセシス画像409を取得する。この時、Log変換処理により値の大小が反転する。高吸収体404の領域の投影データの値を特定値への変換処理により値を圧縮しているため、第1トモシンセシス画像409は高吸収体404の領域の画素値が低下しており、アーチファクト成分が生じにくい。
【0140】
また、画像再構成部136の第2再構成部152は、高吸収体変換投影データ407に対して、第2フィルタを適用し、画像再構成を実施することにより、第2トモシンセシス画像411を取得する。この時、高吸収体404の領域を含めて第2トモシンセシス画像411の各組織の画素値は、第1トモシンセシス画像409と比較して、被写体内の組織間のコントラストをよく表している。
【0141】
画像合成部137は、これらの第1および第2トモシンセシス画像409、411を合成し、合成後のトモシンセシス画像413を取得する。合成後のトモシンセシス画像413は、アーチファクトを低減しつつ、被写体内の組織間のコントラストを表すことができる。
【0142】
なお、高吸収体抽出のための撮影条件受付画面191は、
図18の画面構成に限定されるものではない。また、撮影条件受付画面191で設定を受け付ける高吸収体設定条件、撮影部位の設定条件、および抽出方法の組み合わせをHDD装置115に予め保存しておき、撮影条件入力部131がHDD装置115から設定条件等を読み出す構成にすることも可能である。この場合、毎回操作者が、X線条件等を入力する必要はない。また、上記設定条件等の組み合わせを予め複数種類HDD装置115に保存しておき、操作者が複数種類の中から選択する構成にすることも可能である。
【0143】
(実施形態6の変形例1)
また、画像再構成部136は、
図20に示した手順により、トモシンセシス画像を生成してもよい。
図20の手順では、画像生成部103は、高吸収体処理部139が変換処理した測定投影データ値から生成されたトモシンセシス画像上で、高吸収体の画素値を、変換処理前の測定投影データ値に対応する画素値に復元する処理を行う。本変形例1では、画像合成部137が、合成後のトモシンセシス画像上で、上記復元する処理を行う。
【0144】
図20の手順では、画像再構成部136は、高吸収体処理部139が抽出した高吸収体404の投影データ406に対して公知であるLog変換処理ならびに画像再構成を実施し、高吸収体404の再構成画像415を取得する。この時、高吸収体404の投影データ値が小さいため、高吸収体404の再構成画像415には、
図20に示したようなライン状のアーチファクト417が生じやすい。画像再構成部136は、形状または画素値が異なる性質を利用して、公知の閾値処理や特徴抽出アルゴリズム等によりアーチファクト417を除去し、高吸収体404の再構成画像415のみを抽出する。
【0145】
次に、画像再構成部136は、抽出した高吸収体404の再構成画像415の画素値に対して、高吸収体処理部139が特定値への変換処理に用いた係数dの逆数を乗算することで、高吸収体404の画素値を高精度に復元する。
【0146】
一方、第1および第2の再構成部151、152は、変換投影データ407に対し、第1および第2トモシンセシス画像409、411を生成した後、画像合成部137が、これらを合成したトモシンセシス画像418を
図19の手順と同様に生成する。
【0147】
画像再構成部136は、合成したトモシンセシス画像418の高吸収体404の画素値を、高吸収体404の再構成画像415であって画素値に係数dの逆数を乗算した再構成画像415の画素値で置き換える。
【0148】
これにより、トモシンセシス画像418として、高吸収体404の領域を含めて被写体内の組織間のコントラストを精度よく表した画像を得ることができる。トモシンセシス画像418は、アーチファクトを低減することができる。
【0149】
また、
図20の処理手順では、高吸収体404の領域を限定した再構成画像415により、アーチファクト417を除去し、さらに、画素値を復元しているため、高吸収体404の再構成画像415のデータサイズ削減や、画素値の2値化等による表示バイトの縮小することができる。よって、全領域を再構成して加算処理する方法等と比較して、低メモリ化を実現できる。
【0150】
(実施形態6の変形例2)
画像再構成部136および画像合成部137は、
図21に示した手順により、トモシンセシス画像を生成してもよい。
図21の手順は、変形例1と同様に、画像生成部103は、高吸収体処理部139が変換処理した測定投影データから生成されたトモシンセシス画像上で、高吸収体の画素値を、変換処理前の測定投影データ値に対応する画素値に復元する処理を行うが、本変形例2では、画像合成部137が、第1トモシンセシス画像上で、上記復元する処理を行う。
【0151】
上述した
図20の手順では、画像再構成部136は、第1および第2トモシンセシス画像409、411を合成し、合成したトモシンセシス画像内の高吸収体404の画素値を、高吸収体404の再構成画像415であって画素値に係数dの逆数を乗算した再構成画像415の画素値で置き換えたのに対して、
図21の手順では、第1トモシンセシス画像409の高吸収体404の画素値を、高吸収体404の再構成画像415の画素値であって画素値に係数dの逆数を乗算した再構成画像415の画素値で置き換えた後、画像合成部137が第2トモシンセシス画像411を合成し、合成後のトモシンセシス画像418を生成する。この処理手順では、
図20の処理手順と比較して、組織間のコントラストが取得される合成処理の前に、高吸収体404の画素値を復元(置換)する処理を行うため、組織間のコントラスト処理(合成処理)に依存せず、復元(置換)処理を実施可能である。
【0152】
(実施形態6の変形例3)
さらに別の変形例として、画像再構成部136および画像合成部137は、
図22に示した手順により、トモシンセシス画像を生成してもよい。
図22に示した手順では、第1再構成部151は、高吸収体処理部139が変換処理した後の測定投影データ値から第1トモシンセシス画像を生成する。一方、第2再構成部152は、高吸収体処理部139が変換処理する前の測定投影データから第2トモシンセシス画像を再構成する。画像再構成部136は、第1トモシンセシス画像上で、高吸収体の画素値を、変換処理前の測定投影データ値に対応する画素値に復元する処理を行う。画像合成部137は、復元処理された第1トモシンセシス画像と、第2トモシンセシス画像とを合成する。
【0153】
具体的には、
図22の手順では、第2トモシンセシス画像を、測定投影データ405から生成する。第1トモシンセシス画像は、
図21と同様に高吸収体変換投影データ407から生成した後、係数dの逆数を乗算した再構成画像415によって置換して復元する。画像合成部137は、第1および第2トモシンセシス画像を合成して合成トモシンセシス画像を生成する。
【0154】
これにより、
図21に示した手順と比較して、高吸収体復元後の第1トモシンセシス画像409および第2トモシンセシス画像411ともに高吸収体404の値(X線吸収係数)を精度よく反映している為、合成されたトモシンセシス画像418は、組織間のコントラストを高精度に表している。
【0155】
以上、ある投影角度(z番目)の測定投影データに含まれる高吸収体の投影データ値の変換を説明したが、他の投影角度の測定投影データについても、同様に変換処理を実施する。
【0156】
本実施形態6では、抽出した高吸収体の画素値を、アーチファクトの影響が小さい特定値に変換したが、測定投影データから高吸収体のみの測定投影データを分離した後、それぞれ画像再構成部136により画像再構成してもよい。この時、画像再構成部136では、高吸収体と高吸収体以外の再構成画像を加算する処理が必要となる。
【0157】
一般に、X線トモシンセシス装置のように撮影角度範囲が小さい場合、高吸収体のように周辺組織との測定投影データ値の差が急峻になる被写体の形状や吸収値を完全に復元できず、FBP法により強調された高周波成分によりアーチファクトが発生する。本実施形態6では、
図17に示したように、高吸収体処理部139を備えているため、高吸収体領域を特定値に置換し、周辺組織との差を小さくすることで、アーチファクトを低減し、被写体内の組織間のコントラストを表すことが可能になる。
【符号の説明】
【0158】
1…X線発生部、2…X線検出部、3…被検体、4…寝台、5…駆動部、101…入力部、102…撮影部、103…画像生成部、103a…データバス、111…キーボード、112…マウス、113…メモリ、114…中央処理装置、115…HDD装置、116…検出器制御器、117…X線制御器、118…DAS、119…メモリ、120…中央処理装置、121…HDD装置、122…モニタ、131…撮影条件入力部、132…撮影制御部、133…撮影稼働部、134…信号収集部、135…補正処理部、136…画像再構成部、137…画像合成部、138…画像表示部、139…高吸収体処理部、141…撮影条件受付画面、142…X線条件設定用領域、143…対象組織設定用領域、144…コントラスト設定用領域、145…合成方法設定用領域、146…再構成画像画面、147…指定骨領域、148…指定筋肉領域、161…第1フィルタ適用部、162…第2逆投影部、163…第2再構成フィルタ適用部、164…第2逆投影部、165…合成処理部、166…ダイナミックレンジ調整部、167…第3逆投影部、168…テーブル部、181…通常FBP画像、182…合成FBP画像、191…撮影条件受付画面、201…高吸収体設定用領域、202…撮影部位設定用領域、203…抽出方法設定用領域、204…測定投影データ画面、205…ポインタ