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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】遊星歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
F16H1/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018232561
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020094630
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】303025663
【氏名又は名称】株式会社日立ニコトランスミッション
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒木 美穂
(72)【発明者】
【氏名】岩本 安弘
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 早貴
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-280853(JP,A)
【文献】特開平05-296760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽歯車と、該太陽歯車と同一位相で同時にかみ合うように配置された複数の遊星歯車と、該複数の遊星歯車とかみ合うように配置された内歯車と、を備える遊星歯車装置であって、
各遊星歯車の累積ピッチ誤差の偏差平方和の平均値が最大となるように組み立てたことを特徴とする遊星歯車装置。
【請求項2】
太陽歯車と、該太陽歯車と同一位相で同時にかみ合うように配置された複数の遊星歯車と、該複数の遊星歯車とかみ合うように配置された内歯車と、を備える遊星歯車装置であって、
各遊星歯車の累積ピッチ誤差の偏差平方和の平均値が最小となるように組み立てたことを特徴とする遊星歯車装置。
【請求項3】
太陽歯車と、該太陽歯車と次々にかみ合うように配置された複数の遊星歯車と、該複数の遊星歯車とかみ合うように配置された内歯車と、を備え
各かみ合い部が同一位相で同時にはかみ合わず、次々とかみ合う遊星歯車装置であって、
各遊星歯車の累積ピッチ誤差の偏差平方和の平均値が最小となるように組み立てたことを特徴とする遊星歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、図1を用いて、従来の遊星歯車装置を説明する。ここに例示する遊星歯車装置は、主に、太陽歯車21、複数の遊星歯車22(22a、22b、22c)、遊星キャリア23(23a、23b)、内歯車24から構成される、いわゆるスター型と定義される構造の遊星歯車装置20である。なお、遊星歯車22は、その回転中心を所定量偏心させて製造されたものであり、この偏心によって後述する累積ピッチ誤差(偏心誤差)が生じる。
【0003】
この遊星歯車装置20は、以下のように回転駆動力を伝達する。すなわち、例えば、ガスタービン用の遊星歯車装置の場合、動力源であるガスタービンと連結された入力軸25が回転駆動すると、これと一体となっている太陽歯車21も同時に回転し、これとかみ合う遊星歯車22が回転駆動される。さらに遊星歯車22とかみ合う内歯車24が回転駆動され、これと篏合している出力軸が発電機などの被動機に回転を伝達する。
【0004】
このようなガスタービン用の遊星歯車装置はピッチ円周速が大きいため、一般産業用の歯車装置と比較して、歯車のかみ合いに起因したねじり振動が大きい特徴がある。このねじり振動は、歯面に動荷重を発生させるため、低減が求められる。
【0005】
ねじり振動の原因となる起振力は、被動歯車の駆動歯車に対する進み遅れ、すなわち伝達誤差によって発生する。伝達誤差はかみ合いの進行に伴う歯の剛性変動と、歯車の製造誤差によって発生する。
【0006】
この伝達誤差を低減する遊星歯車装置としては、特許文献1に記載のものが知られており、特許文献1では、遊星歯車の偏心誤差方向が、装置軸直角断面で見た場合に、すべて所定の方向となるように組み立てることで伝達誤差を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-280853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の構成では、期待通りに伝達誤差を低減するには、各遊星歯車の1周分の累積ピッチ誤差(偏心誤差)を結ぶことで形成される波形を、同じくする必要があり、高精度・高額な製造技術が必要とされる。このため、コスト低減などの事情により、加工精度が悪く各遊星歯車によって累積ピッチ誤差の波形が異なり、更に各歯間にピッチ誤差のばらつきがある遊星歯車を使用せざるを得ない場合等には、期待通りに伝達誤差を低減できず、大きなねじり振動に起因する大きな動荷重が各遊星歯車に発生したり、各遊星歯車が負担する静荷重が著しく偏ったりするという問題が生じる場合がある。
【0009】
そこで、本発明では、仮に各遊星歯車によって累積ピッチ誤差の波形が異なり、更に各歯間にピッチ誤差のばらつきがある遊星歯車を使用する場合であっても、各遊星歯車に掛かる動荷重を抑制したり、静荷重を均等化したりすることができる遊星歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構造を採用する。
【0011】
その一例を挙るならば、太陽歯車と、該太陽歯車と同一位相で同時にかみ合うように配置された複数の遊星歯車と、該複数の遊星歯車とかみ合うように配置された内歯車と、を備える遊星歯車装置であって、各遊星歯車の累積ピッチ誤差が最大となる歯が、遊星歯車の歯数Zを遊星歯車の個数pで除した歯数ずつずれてかみ合いが始まるように組み立てる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遊星歯車装置によれば、仮に偏心誤差が大きい遊星歯車を使用する場合であっても、各遊星歯車に掛かる動荷重を抑制したり、静荷重を均等化したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来の遊星歯車装置の構造を説明する構造図である。
図2】実施例1の遊星歯車装置の要部を説明する平面図である。
図3】実施例1の各遊星歯車の累積ピッチ誤差を説明する図である。
図4】実施例2を説明する図である。
図5】実施例3を説明する図である。
図6】実施例4を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて、本発明の遊星歯車装置を説明する。なお、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1に係る遊星歯車装置20を、図2図3を用いて説明する。なお、図1との共通点は重複説明を省略する。
【0016】
図2は、図1に例示した構成のうち、本実施例の遊星歯車22の特徴を説明するために必要な構成を抜粋した平面図である。ここに示す遊星歯車22の各々は、Z個の歯を持つ歯車であり、各々の歯には、回転方向と逆方向に向かって、#1から#Zの歯番号を付けている。なお、本実施例では、太陽歯車21と遊星歯車22のすべてのかみ合い部において、同一位相で同時にかみ合うように、太陽歯車21、遊星歯車22、内歯車24等を設計しており、例えば、太陽歯車21の歯数を18、遊星歯車22の歯数を36、内歯車24の歯数を90、遊星歯車22の数を3、とするような組み合わせとする。
【0017】
ここで、遊星歯車22aの任意の歯#n(1≦n≦Z)が太陽歯車21の歯とピッチ点でかみ合っている状態を考える。上述したように本実施例の遊星歯車装置20では、すべてのかみ合い部において、同一位相で同時にかみ合うため、遊星歯車22aの歯#nが太陽歯車21とかみ合っている場合、遊星歯車22b、22cも太陽歯車21とかみ合っているため、以下ではそれらの遊星歯車の歯にも#nという歯番号を付ける。
【0018】
次に、遊星歯車22aの歯#1の決定方法を説明する。
【0019】
図3に示す3a、3b、3cは、遊星歯車22a、22b、22cの累積ピッチ誤差であり、本実施例では、最終的に図3に示す特性が得られるように遊星歯車装置20を組み立てる。横軸の下方に示す、歯#A、歯#B、歯#Cは、それぞれ、累積ピッチ誤差3aが最大値となる歯、累積ピッチ誤差3bが最大値となる歯、累積ピッチ誤差3cが最大値となる歯であり、累積ピッチ誤差3aが最大値となる歯#Aを、以降では歯#1と定義する。
【0020】
このように遊星歯車22aの歯#1を定義した場合、遊星歯車22bの歯#Bと遊星歯車22cの歯#Cは、次の式1、式2により決定することができる。
【0021】
【数1】
【0022】
【数2】
【0023】
ただし、Zは遊星歯車の歯数、pは遊星の個数(図2の例では「3」)である。Zがpの倍数でない場合は繰り上げまたは繰り下げによって整数に修正した値を#Bおよび#Cとする。
【0024】
このようにして遊星歯車22の歯#1、歯#B、歯#Cを決めた遊星歯車装置20は、以下のように製造されることが望ましい。
【0025】
まず、例えば、機械構造用炭素鋼や、機械構造用合金鋼などの柱管を焼準し、ギヤブランクを製作する。次に、例えばホブ切りなどの歯切り加工によって歯を形成する。これにより、遊星歯車22は凡そ完成するが、その後、熱処理を行っても良いし、最後に、研削などの仕上げ加工を施しても良い。
【0026】
遊星歯車装置20に組み込む遊星歯車22が全て完成すると、遊星歯車22の歯面のピッチ誤差をそれぞれ測定する。そして、測定したピッチ誤差に基づいて累積ピッチ誤差を算出し、累積ピッチ誤差が最大となる歯のそれぞれに何らかのマークを設ける。
【0027】
そして、遊星歯車22aとして選択した遊星歯車22は、マークのある歯が太陽歯車1とかみ合うように組み立てる。また、遊星歯車22bとして選択した遊星歯車22は、マークのある歯から回転逆方向に#B離れた歯が太陽歯車1とかみ合うように組み立て、遊星歯車22cとして選択した遊星歯車22は、マークのある歯から回転逆方向に#C離れた歯が太陽歯車1とかみ合うよう組み立てる。
【0028】
このようにして遊星歯車装置20を組み立てることで、遊星歯車22の累積ピッチ誤差が、遊星歯車22aにおいては歯#1で最大となり、遊星歯車22bにおいては歯#Bで最大となり、遊星歯車22cにおいては歯#Cで最大となるため、図3に示すような特性を得ることができる。
【0029】
この結果、本実施例の遊星歯車装置においては、累積ピッチ誤差起因で発生する伝達誤差が各遊星歯車間で異なるため、遊星歯車装置全体での伝達誤差が低減できる。ひいては起振力が低減でき、ねじり振動を低減することができる。
【実施例2】
【0030】
次に、本発明の実施例2に係る遊星歯車装置を、図4を用いて説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0031】
実施例1では、遊星歯車22の各歯間のピッチ誤差のばらつきを無視しており、故に、図3では、累積ピッチ誤差3a~3bを滑らかな正弦波状のものとして示した。しかしながら、実際には、遊星歯車22の各歯間のピッチ誤差にばらつきが存在するため、このばらつきを考慮する必要がある。
【0032】
そこで、本実施例では、各々の遊星歯車22に各歯間のピッチ誤差のばらつきが存在する場合であっても、実施例1と同様の効果を得ることを目的とする。
【0033】
図4に、各歯間のピッチ誤差がばらつく場合の、遊星歯車22a、22b、22cの累積ピッチ誤差4a、4b、4cを示す。なお、#1、#B、#Cの意味は実施例1と同様である。
【0034】
実施例2においては、歯#Bおよび歯#Cは以下のように決める。
【0035】
まず、遊星歯車22a、22b、22cの任意の歯#nにおける累積ピッチ誤差を、それぞれ、Fpa(n)、Fpb(n)、Fpc(n)とし、これらの偏差平方和をS(n)とすると、S(n)は以下の式3で求められる。
【0036】
【数3】
【0037】
なお、
【0038】
【数4】
【0039】
はFpa(n)、Fpb(n)、Fpc(n)の平均値である。ここで以下の式4のように偏差平方和の平均値Saveを定義する。
【0040】
【数5】
【0041】
そして、式4により求められる偏差平方和の平均値Saveが最大となる、#1、#B、#Cの組み合わせを採用し、実施例1と同様の手順で遊星歯車装置20を組み立てる。
【0042】
このように累積ピッチ誤差の偏差平方和を最大にする組み立て方を採用することで、実施例1では考慮していなかった各歯間のピッチ誤差のばらつきが存在する場合であっても、実施例1と同様にねじり振動の抑制を実現することができる。
【実施例3】
【0043】
次に、本発明の実施例3に係る遊星歯車装置を、図5を用いて説明する。なお、上述する実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0044】
実施例1、2では、各々の遊星歯車22における歯#1、歯#B、歯#Cが略等間隔で設定されるように遊星歯車装置20を組み立てることでねじり振動、すなわち、遊星歯車22に掛かる動荷重を抑制したが、本実施例では、各々の遊星歯車22に掛かる静荷重を均等化することを目的とする。
【0045】
図5に、遊星歯車22a、22b、22cの累積ピッチ誤差5a、5b、5cを示す。なお、本実施例においても、#1、#B、#Cの意味は実施例1と同様である。
【0046】
実施例3においては、歯#Bおよび歯#Cは以下のように決める。
【0047】
すなわち、上述した式3、式4から計算される偏差平方和の平均値Saveが最小となる、#1、#B、#Cの組み合わせを採用し、実施例1と同様の手順で遊星歯車装置20を組み立てる。
【0048】
このように、累積ピッチ誤差の偏差平方和を最小にする組み立て方を採用すると、図5に示すように、#B、#Cが#1に近接する。この場合、累積ピッチ誤差起因で発生する伝達誤差が各遊星歯車間で近似するため、遊星歯車装置全体での伝達誤差を低減できず、ねじり振動を低減することはできないが、遊星歯車間の荷重を等配させることができる。
【実施例4】
【0049】
次に、本発明の実施例4に係る遊星歯車装置を、図6を用いて説明する。なお、上述する実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0050】
実施例1~3の遊星歯車装置は、太陽歯車21と遊星歯車22のすべてのかみ合い部が同一位相で同時にかみ合うように設計されたものであったが、実施例4の遊星歯車装置は、各かみ合い部が同一位相で同時にはかみ合わず、次々とかみ合う遊星歯車装置である。例えば、太陽歯車21の歯数を19、遊星歯車22の歯数を37、内歯車の歯数を92、遊星歯車の数を3、とするような組み合わせとする。
【0051】
図6に、各かみ合い部が次々とかみ合う場合の、遊星歯車22a、22b、22cの累積ピッチ誤差6a、6b、6cを示す。なお、#1、#B、#Cの意味は実施例1と同様である。
【0052】
実施例4においては、#Bおよび#Cは以下のように決める。
【0053】
すなわち、上述した式3、式4から計算される偏差平方和の平均値Saveが最小となる、#1、#B、#Cの組み合わせを採用し、実施例1と同様の手順で遊星歯車装置20を組み立てる。
【0054】
このように、累積ピッチ誤差の偏差平方和を最小にする組み立て方を採用すると、かみ合い部が同一位相で同時にかみ合わない遊星歯車装置においても、遊星歯車間の荷重を等配させることができる。
【符号の説明】
【0055】
3a~3c、4a~4c、5a~5c、6a~6c…累積ピッチ誤差
20…遊星歯車装置、
21…太陽歯車、
22、22a、22b、22c…遊星歯車、
23、23a、23b…遊星キャリア、
24…内歯車、
25…入力軸、
図1
図2
図3
図4
図5
図6