(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両
(51)【国際特許分類】
B62D 7/08 20060101AFI20221116BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20221116BHJP
B62D 7/18 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B62D7/08 Z
B62D5/04
B62D7/18 Z
(21)【出願番号】P 2018235317
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】大畑 佑介
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩量
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 聡
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-179316(JP,A)
【文献】実開昭63-096909(JP,U)
【文献】特開2014-061744(JP,A)
【文献】特開2016-040141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/00-7/22
B62D 5/00-5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を支持するハブベアリングおよびこのハブベアリングの固定輪の外周面に設けられたアウターリングを有するハブユニット本体と、
懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
このユニット支持部材に対し、前記ハブユニット本体の前記転舵軸心回りの回転を許容する回転許容支持部品と、
前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、
前記アウターリングと前記ユニット支持部材との間に配置された第1の密封手段と、
前記回転許容支持部品を覆う第2の密封手段と、を備
え、
前記アウターリングは、前記固定輪である外輪の外周面に固定された円環部と、この円環部の外周から上下に突出して前記回転許容支持部品をそれぞれ取付けるトラニオン軸状の転舵軸部とを有し、
前記円環部のうち前記転舵軸心に垂直な平面部と、この平面部に隙間を介して互いに対向する前記ユニット支持部材の平面部との間に、前記第1の密封手段が配置されている操舵機能付ハブユニット。
【請求項2】
車輪を支持するハブベアリングおよびこのハブベアリングの固定輪の外周面に設けられたアウターリングを有するハブユニット本体と、
懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
このユニット支持部材に対し、前記ハブユニット本体の前記転舵軸心回りの回転を許容する回転許容支持部品と、
前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、
前記アウターリングと前記ユニット支持部材との間に配置された第1の密封手段と、
前記回転許容支持部品を覆う第2の密封手段と、を備え、
前記アウターリングは、前
記固定輪である外輪の外周面に固定された円環部と、この円環部の外周から上下に突出して前記回転許容支持部品をそれぞれ取付け
るトラニオン軸状の転舵軸部とを有し、
前記上下の前記転舵軸部の外周面と、この転舵軸部の外周面に隙間を介して対向する前記ユニット支持部材の一部の内周面との間に、前記第1の密封手段が配置されている操舵機能付ハブユニット。
【請求項3】
請求項
1または請求項2に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記回転許容支持部品は、前記転舵軸心と同軸に配置される転がり軸受であり、この転がり軸受の外輪が前記ユニット支持部材に形成された嵌合孔に設置され、内輪が前記アウターリングに支持され、
前記第2の密封手段は、前記ユニット支持部材の前記嵌合孔に固定される円筒部と、この円筒部の軸方向基端部に繋がり前記転がり軸受を覆う底面部とを有する操舵機能付ハブユニット。
【請求項4】
請求項1ないし
請求項3のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記第1の密封手段として、摺動可能な弾性部材が用いられた操舵機能付ハブユニット。
【請求項5】
請求項1ないし
請求項4のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記車輪のホイール内に前記回転許容支持部品が配置された操舵機能付ハブユニット。
【請求項6】
請求項1ないし
請求項5のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する操舵システム。
【請求項7】
請求項1ないし
請求項5のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持された車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両に関し、走行状況に合わせ左右の車輪を適切な操舵角に制御することで、燃費の改善および走行性の安定と安全性の向上を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車等の車両は、ハンドルとステアリング装置が機械的に接続され、また、ステアリング装置の両端はタイロッドによってそれぞれの左右輪につながっている。そのため、ハンドルの動きによる左右輪の切れ角度は初期の設定によって決まる。
車両のジオメトリには、(1) 左右輪の切れ角度が同じである「パラレルジオメトリ」、(2) 旋回中心を1か所にするために旋回内輪車輪角度を旋回外輪車輪角度よりも大きく切る「アッカーマンジオメトリ」が知られている。
【0003】
アッカーマンジオメトリは、車両に作用する遠心力を無視できるような低速域での旋回において、車両をスムーズに旋回させるために、各輪が共通の一点を中心として旋回するように左右輪の舵角差を設定している。しかし、遠心力を無視できない高速域の旋回においては、車輪は遠心力とつり合う方向にコーナリングフォースを発生させることが望ましいため、アッカーマンジオメトリよりもパラレルジオメトリとすることが好ましい。
【0004】
前述したように一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているため、一般的には固定された単一のステアリングジオメトリしか取ることができず、アッカーマンジオメトリとパラレルジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかし、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このように内外輪の車輪横力配分に不要な偏りがあると、走行抵抗の悪化による燃費悪化及びタイヤの早期摩耗の原因となり、また内外輪を効率的に利用できないので、コーナリングのスムーズさが損なわれるといった課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開第102012206337号明細書
【文献】特開2014-061744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、モータを2個使っているため、モータ個数の増大によるコスト増が生じるだけでなく、制御が複雑になる。
特許文献2は、転舵軸に対しハブベアリングを片持ち支持しているため、剛性が低下し、過大な走行Gの発生によってステアリングジオメトリが変化してしまう可能性がある。
また転舵軸上に減速機を設けた場合、モータを含めてサイズが大きくなる。全体のサイズが大きくなると、車輪の内周部に全体を配置することが困難となる。また、減速比の大きい減速機を設けた場合、応答性が悪化する。
【0007】
上記のように従来の補助的な操舵機能を備えた機構は、車両において車輪のトー角またはキャンバー角を任意に変更することを目的としているため、モータおよび減速機構が複数必要になり複雑な構成となっている。また、剛性を確保することが困難となり、剛性を確保するためには大型化する必要があり重くなる。
まあ、これらの機構は、操舵機能をもたせた機構をホイール内に設けるため、水および泥の浸入対策が重要な課題となるが、この点に関する示唆または提案はなされていない。
【0008】
車両において、車輪のトー角またはキャンバー角を任意に変更するためには、複雑な構成が必要であり、構成部品が多くなり、全体サイズが大きくなり重くなる。ばね下重量の増加は、乗り心地の悪化など車両運転性能への悪影響が懸念される。
【0009】
上記したサイズと重量増の課題を解決するため、本件出願人は補助転舵機能付ハブユニット(特願2017-122995、特願2017-122996など)を出願している。
これら補助転舵機能付ハブユニットの転舵軸周辺部の剛性および耐久性を低下させることなく水および泥などの浸入を防止するためには、操舵機能を備えた機構に用いられる転舵軸支持軸受の内部を密閉する必要がある。
【0010】
この密封手段として複雑な構造を採用した場合、全体のサイズが増加し、転舵軸が車輪のホイールの中心部から離れた位置に構成され、転舵軸の中心から車輪の接地面までの距離が長く転舵させる力が過剰に必要となる。その場合、操舵用アクチュエータが大きくなるなどハブユニット全体の重量が増加してしまう。
【0011】
この発明の目的は、操舵輪の通常の操舵に加えて、操舵輪または非操舵輪に微小な角度の操舵が行えて、燃費の改善および走行安定性の向上等が図れると共に、転舵軸部の剛性を確保しつつ転舵軸周辺部に水および異物等が侵入することを防止することができ、且つハブユニット全体のサイズの小型化およびハブユニット全体の重量の低減を図ることができる操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の操舵機能付ハブユニットは、車輪を支持するハブベアリングおよびこのハブベアリングの固定輪の外周面に設けられたアウターリングを有するハブユニット本体と、
懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
このユニット支持部材に対し、前記ハブユニット本体の前記転舵軸心回りの回転を許容する回転許容支持部品と、
前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、
前記アウターリングと前記ユニット支持部材との間に配置された第1の密封手段と、
前記回転許容支持部品を覆う第2の密封手段と、を備えたものである。
【0013】
この構成によると、車輪を支持するハブベアリングを含むハブユニット本体を、操舵用アクチュエータの駆動により、転舵軸心回りに自由に回転させることができる。これにより操舵輪の通常の操舵に加えて、操舵輪または非操舵輪に微小な角度の操舵が行える。旋回走行時にステアリングジオメトリを変化させることができるため、車両の走行安定性の向上を図れる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角度の量を調整することで、低速時には走行抵抗を下げ燃費を悪化させることなく、高速時には走行安定性を確保するなど調整が可能である。
【0014】
ハブユニット本体のアウターリングとユニット支持部材との間に、第1の密封手段を配置すると共に回転許容支持部品を覆う第2の密封手段を備えたため、回転許容支持部品に水および異物等が浸入するのを防止し、回転許容支持部品の寿命および信頼性を改善することができる。第1の密封手段として、例えば、Oリング等を採用し得る。第2の密封手段は、回転許容支持部品を覆うだけで足りることから、例えば、薄い蓋状の密封手段とすることで、コンパクトな密封手段とすることができる。これにより転舵軸部の剛性を確保しつつ転舵軸周辺部に水および異物等が侵入することを防止することができる。また第1,第2の密封手段の構造をそれぞれ簡単化することができるため、ハブユニット全体のサイズの小型化およびハブユニット全体の重量の低減を図ることができる。
【0015】
前記回転許容支持部品は、前記転舵軸心と同軸に配置される転がり軸受であり、この転がり軸受の外輪が前記ユニット支持部材に形成された嵌合孔に設置され、内輪が前記アウターリングに支持され、
前記第2の密封手段は、前記ユニット支持部材の前記嵌合孔に固定される円筒部と、この円筒部の軸方向基端部に繋がり前記転がり軸受を覆う底面部とを有するものであってもよい。この場合、第2の密封手段を金型等により容易に量産することができてコスト低減を図れるうえ、回転許容支持部品の上部または下部から水および異物等が侵入することをより確実に防止することができる。
【0016】
前記アウターリングは、前記固定輪である外輪の外周面に固定された円環部と、この円環部の外周から上下に突出して前記回転許容支持部品をそれぞれ取付ける転舵軸部とを有し、
前記円環部のうち前記転舵軸心に垂直な平面部と、この平面部に隙間を介して互いに対向する前記ユニット支持部材の平面部との間に、前記第1の密封手段が配置されてもよい。
この場合、第1の密封手段として簡単でコンパクトな構造を採用できるため、転舵軸部、回転許容支持部品の各断面を所望の大きさにすることができ、これら転舵軸部および回転許容支持部品の剛性を容易に確保することができる。
【0017】
前記アウターリングは、前記前記固定輪である外輪の外周面に固定された円環部と、この円環部の外周から上下に突出して前記回転許容支持部品をそれぞれ取付ける転舵軸部とを有し、
前記上下の前記転舵軸部の外周面と、この転舵軸部の外周面に隙間を介して対向する前記ユニット支持部材の一部の内周面との間に、前記第1の密封手段が配置されてもよい。
この場合、第1の密封手段として簡単でコンパクトな構造を採用できるため、転舵軸部、回転許容支持部品の断面を所望の大きさにすることができ、これら転舵軸部および回転許容支持部品の剛性を容易に確保することができる。
【0018】
前記第1の密封手段として、摺動可能な弾性部材が用いられてもよい。この場合、第1の密封手段の構造をコンパクト化でき、またハブユニット全体のコスト低減を図ることができる。
【0019】
前記車輪のホイール内に前記回転許容支持部品が配置されてもよい。この場合、転舵軸心と車輪の接地面との距離を短縮または零にすることができるため、ハブユニット本体を回転駆動させる力を過剰に必要とせず、操舵用アクチュエータの小型化を図ることが可能となる。したがって、ハブユニット全体の重量を確実に低減することができる。
【0020】
この発明の操舵システムは、この発明の上記いずれかの構成の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する。
【0021】
この構成によると、操舵制御部は、与えられた転舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する。アクチュエータ駆動制御部は、操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータを駆動制御する。したがって、運転者のハンドル操作による操舵に付加して車輪角度を任意に変更することができる。
【0022】
この発明の車両は、この発明の上記いずれかの構成の操舵機能付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持される。
そのため、この発明の操舵機能付ハブユニットにつき前述した各効果が得られる。前輪は一般的に操舵輪とされるが、操舵輪にこの発明の操舵機能付ハブユニットを適用した場合は、走行中におけるトー角調整に効果的である。また、後輪は一般的に非操舵輪とされるが、非操舵輪に適用した場合は、非操舵輪の若干の転舵によって低速走行時における最小回転半径の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明の操舵機能付ハブユニットは、車輪を支持するハブベアリングおよびこのハブベアリングの固定輪の外周面に設けられたアウターリングを有するハブユニット本体と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、このユニット支持部材に対し、前記ハブユニット本体の前記転舵軸心回りの回転を許容する回転許容支持部品と、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、前記アウターリングと前記ユニット支持部材との間に配置された第1の密封手段と、前記回転許容支持部品を覆う第2の密封手段と、を備えたため、操舵輪の通常の操舵に加えて、操舵輪または非操舵輪に微小な角度の操舵が行えて、燃費の改善および走行安定性の向上等が図れると共に、転舵軸部の剛性を確保しつつ転舵軸周辺部に水および異物等が侵入することを防止することができ、且つハブユニット全体のサイズの小型化およびハブユニット全体の重量の低減を図ることができる。
【0024】
この発明の操舵システムは、この発明の上記いずれかの構成のこの発明の上記いずれかの構成の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有するため、操舵輪の通常の操舵に加えて、操舵輪または非操舵輪に微小な角度の操舵が行えて、燃費の改善および走行安定性の向上等が図れると共に、転舵軸部の剛性を確保しつつ転舵軸周辺部に水および異物等が侵入することを防止することができ、且つハブユニット全体のサイズの小型化およびハブユニット全体の重量の低減を図ることができる。
【0025】
この発明の車両は、この発明におけるいずれかの構成の操舵機能付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持されたため、操舵輪の通常の操舵に加えて、操舵輪または非操舵輪に微小な角度の操舵が行えて、燃費の改善および走行安定性の向上等が図れると共に、転舵軸部の剛性を確保しつつ転舵軸周辺部に水および異物等が侵入することを防止することができ、且つハブユニット全体のサイズの小型化およびハブユニット全体の重量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットおよびその周辺の構成を示す縦断面図である。
【
図2】同操舵機能付ハブユニットおよびその周辺の構成を示す水平断面図である。
【
図3】同操舵機能付ハブユニットの外観を示す斜視図である。
【
図7】同操舵機能付ハブユニットの回転許容支持部品の周辺部の拡大断面図である。
【
図8】この発明の第2の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットにおける回転許容支持部品の周辺部の拡大断面図である。
【
図9】この発明の第3の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットにおける回転許容支持部品の周辺部の拡大断面図である。
【
図10】いずれかの操舵機能付ハブユニットを備えた車両の模式平面図である。
【
図11】いずれかの操舵機能付ハブユニットを備えた車両の他の例の模式平面図である。
【
図12】いずれかの操舵機能付ハブユニットを備えた車両のその他の例の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1の実施形態]
この発明の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットを
図1ないし
図7と共に説明する。
<操舵機能付ハブユニットの概略構造>
図1に示すように、この操舵機能付ハブユニット1は、ハブユニット本体2と、ユニット支持部材3と、回転許容支持部品4と、第1,第2の密封手段33,34(
図7)と、操舵用アクチュエータ5とを備える。足回りフレーム部品であるナックル6に一体にユニット支持部材3が設けられている。このユニット支持部材3のインボード側に、操舵用アクチュエータ5のアクチュエータ本体7が設けられ、ユニット支持部材3のアウトボード側に、ハブユニット本体2が設けられる。操舵機能付ハブユニット1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0028】
図2および
図3に示すように、ハブユニット本体2とアクチュエータ本体7とはジョイント部8により連結されている。通常、このジョイント部8は、防水、防塵のために図示外のブーツが取り付けられている。
【0029】
図1に示すように、ハブユニット本体2は、上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。転舵軸心Aは、車輪9の回転軸心Oとは異なる軸心であり、主な操舵を行うキングピン軸とも異なっている。通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン角度が10~20度で設定されているが、この実施形態の操舵機能付ハブユニット1は、前記キングピン角度とは別の角度(軸)の転舵軸を有する。車輪9は、ホイール9aとタイヤ9bとを備える。
【0030】
<操舵機能付ハブユニット1の設置箇所>
この操舵機能付ハブユニット1は、この実施形態では操舵輪、具体的には
図10に示すように、車両10の前輪9Fのステアリング装置11による操舵に付加して左右輪個別に微小な角度(約±5deg)を操舵させる機構として、懸架装置12のナックル6に一体に設けられる。
【0031】
図2および
図10に示すように、ステアリング装置11は、車体に取り付けられ、運転者のハンドル11aの操作、または図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって動作し、その進退するタイロッド14が、ユニット支持部材3のステアリング結合部6d(後述する)に連結されている。ステアリング装置11は、ラック・ピニオン式等とされるが、どのタイプのステアリング装置でも構わない。懸架装置12は、例えば、ショックアブソーバーをナックル6に直接固定するストラット式サスペンション機構を適用しているが、ダブルウィッシュボーン式サスペンション機構、マルチリンク式サスペンション機構、その他のサスペンション機構を適用してもよい。
【0032】
<ハブユニット本体2について>
図1に示すように、ハブユニット本体2は、車輪9の支持用のハブベアリング15と、アウターリング16と、後述の操舵力受け部であるアーム部17(
図3)とを備える。
図6に示すように、ハブベアリング15は、内輪18と、外輪19と、これら内外輪18,19間に介在したボール等の転動体20とを有し、車体側の部材と車輪9(
図1)とを繋ぐ役目をしている。
【0033】
このハブベアリング15は、図示の例では、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪となり、転動体20が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内輪18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。
図1に示すように、ハブフランジ18aaに、車輪9のホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内輪18は、回転軸心O回りに回転する。
【0034】
図6および
図7に示すように、アウターリング16は、ハブベアリング15の外輪19の外周面に設けられ外輪19と一体に動作するものであり、後述する回転許容支持部品4で支持される。この例では、アウターリング16は、外輪19の外周面に圧入または溶接によってこの外輪19に固定されている。なおアウターリング16は、外輪19と同一材料から成る一体構造であってもよい。
アウターリング16は、外輪に外周面に固定された円環部16aと、この円環部16aの外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の転舵軸部16b,16bとを有する。略鉛直方向に延びる各転舵軸部16bは、転舵軸心Aに同軸に設けられる。
【0035】
図2に示すように、ブレーキ21は、ブレーキロータ21aと、ブレーキキャリパ21bとを有する。ブレーキキャリパ21bは、外輪19に一体にアーム状に突出して形成された上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22(
図4)に取付けられる。
【0036】
<回転許容支持部品およびユニット支持部材について>
図6および
図7に示すように、各回転許容支持部品4は転がり軸受から成る。この例では、転がり軸受として、円すいころ軸受が適用されている。転がり軸受は、転舵軸部16bに嵌合された内輪4aと、ユニット支持部材3に嵌合された外輪4bと、内外輪4a,4b間に介在する複数の転動体4cと、これら転動体4cを保持する保持器とを有する。
【0037】
ユニット支持部材3は、ユニット支持部材本体3Aと、ユニット支持部材結合体3Bとを有する。例えば、上下の転舵軸部16b,16bのうち上側の転舵軸部16bがユニット支持部材本体3Aに支持され、下側の転舵軸部16bがユニット支持部材結合体3Bに支持されている。この場合、ユニット支持部材本体3Aの上側のアウトボード側端に、上側の転舵軸部16bを支持する支持部3Abが一体に設けられている。この支持部3Abに、上側の回転許容支持部品4の外輪外周面を嵌合する嵌合孔3Acが形成されている。
【0038】
ユニット支持部材結合体3Bは略円筒状の筒状部材から成り、ユニット支持部材本体3Aの下側のアウトボード側端には、前記筒状部材の外周面の一部が嵌め込まれる部分的な凹球面状の被結合部(図示せず)が形成されている。前記被結合部に前記筒状部材の外周面の一部が嵌め込まれてユニット支持部材本体3Aに対しユニット支持部材結合体3Bが固定される。このユニット支持部材結合体3Bの嵌合孔に、下側の回転許容支持部品4の外輪外周面が嵌合される。よって、上側の転舵軸部16bがユニット支持部材本体3Aに支持され、下側の転舵軸部16bがユニット支持部材結合体3Bに支持される。なお
図3において、ユニット支持部材3を一点鎖線で表す。
【0039】
なお、ユニット支持部材本体3Aの上下のアウトボード側端に、略リング形状のユニット支持部材結合体3Bが着脱自在に固定される構造であってもよい。この場合、ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端のうち上下の部分には、部分的な凹球面状の嵌合孔形成部がそれぞれ形成されている。またユニット支持部材結合体3Bのインボード側側面のうち上下の部分には、部分的な凹球面状の嵌合孔形成部がそれぞれ形成されている。ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端にユニット支持部材結合体3Bが固定され、各上下の部分につき、嵌合孔形成部が互いに組み合わされることにより、全周に連なる嵌合孔が形成される。この嵌合孔に外輪4b(
図6)が嵌合されている。
【0040】
図6および
図7に示すように、各取付軸部16bには、雌ねじ部が径方向に延びるように形成され、この雌ねじ部に螺合するボルト23が設けられている。内輪4aの端面に円板状の押圧部材24を介在させ、前記雌ねじ部に螺合するボルト23により、内輪4aの端面に押圧力を付与することで、各回転許容支持部品4にそれぞれ予圧を与えている。これにより各回転許容支持部品4の剛性を高め得る。なお、回転許容支持部品4の転がり軸受は、円すいころ軸受に代えてアンギュラ玉軸受または四点接触玉軸受を用いてもよい。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。
【0041】
図1に示すように、上下の転舵軸部16b,16bは、それぞれ回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持され、各回転許容支持部品4が車輪9のホイール9a内に位置する。この例では、各回転許容支持部品4が、ホイール9a内でこのホイール9aの幅方向中間付近に配置される。
【0042】
図2に示すように、アーム部17は、ハブベアリング15の外輪19に補助的な操舵力を与える作用点となる部位であり、アウターリング16の外周の一部に一体に突出する。アーム部17は、ジョイント部8を介して、操舵用アクチュエータ5の直動出力部25aに回転自在に連結されている。これにより、操舵用アクチュエータ5の直動出力部25aが進退することで、ハブユニット本体2が転舵軸心A(
図1)回りに回転、つまり補助操舵させられる。
【0043】
<密封手段について>
図7(a)は操舵機能付ハブユニット1の回転許容支持部品4の周辺部の拡大断面図であり、
図7(b)は
図7(a)のVII(b)部の部分拡大図である。
<第1の密封手段33>
第1の密封手段33は、アウターリング16とユニット支持部材3との間に配置され、後述する第2の密封手段34は上下の回転許容支持部品4,4を覆う。アウターリング16における円環部16aのうち、上下の転舵軸部16b,16bがある位相つまり円周方向の上下の部分には、転舵軸心Aに垂直な平面部35がそれぞれ形成されている。換言すれば、各平面部35は、各転舵軸部16bの基端部周辺で転舵軸心Aに垂直に形成されている。
【0044】
円環部16aのうち転舵軸心Aに垂直な平面部35と、この平面部35に隙間δ1を介して互いに対向するユニット支持部材3の平面部36との間に、第1の密封手段33がそれぞれ配置されている。円環部16aの各平面部35には、転舵軸心A回りの環状溝35aがそれぞれ形成され、各環状溝35aに第1の密封手段33がそれぞれ嵌め込まれている。第1の密封手段33として、摺動可能なOリング等の弾性部材が用いられている。環状溝35aに嵌め込まれた前記弾性部材に、潤滑剤が塗布されて使用される。環状溝35aに嵌め込まれた前記弾性部材がユニット支持部材3の平面部36に潰されて弾性変形することで、前記隙間δ1を密封し得る。円環部16aの平面部35に環状溝35aが形成される構成に代えて、ユニット支持部材3の平面部36に環状溝が形成されて、このユニット支持部材3の平面部36の環状溝に第1の密封手段33が嵌め込まれてもよい。
【0045】
<第2の密封手段>
第2の密封手段34は、薄い蓋状の密封手段であり、ユニット支持部材3に固定されている。具体的には、第2の密封手段34は、有底略円筒状に形成され、ユニット支持部材3に固定される大径の円筒部34aと、この円筒部34aの軸方向基端部に繋がる底面部34bとを有する。底面部34bは、円筒部34aの軸方向基端部から半径方向に延びる円板部分34baと、この円板部分34baの中央付近から軸方向に突出し大径の円筒部34aに同心に形成された小径の円筒部分34bbと、この小径の円筒部分34bbの軸方向基端部を覆う底部分34bcとを有する。
【0046】
図7(a)に示す上側の第2の密封手段34については、大径の円筒部34aが、例えば、ユニット支持部材本体3Aの嵌合孔3Acに嵌まり込み固定される。下側の第2の密封手段34(
図1)については、大径の円筒部34aが、例えば、筒状部材のユニット支持部材結合体3B(
図1)の内周面に嵌まり込み固定される。小径の円筒部分34bbは、大径の円筒部34aよりも小径に形成されている。ボルト23の頭部が小径の円筒部分34bbおよび底部分34bcで覆われ、押圧部材24および回転許容支持部品4が主に円板部分34baおよび大径の円筒部34aで覆われている。また第2の密封手段34は、小径の円筒部分34bbおよび円板部分34baを設けたことでブレーキロータ21aとの干渉を防いでいる。
【0047】
<操舵用アクチュエータ5>
図3に示すように、操舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A(
図1)回りに回転駆動させるアクチュエータ本体7を有する。
図2に示すように、アクチュエータ本体7は、モータ26と、モータ26の回転を減速する減速機27と、この減速機27の正逆の回転出力を直動出力部25aの往復直線動作に変換する直動機構25とを備える。モータ26は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。
【0048】
減速機27は、ベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構またはギヤ列等を用いることができ、
図2の例ではベルト伝達機構が用いられている。減速機27は、ドライブプーリ27a,ドリブンプーリ27bと、ベルト27cとを有する。モータ26のモータ軸にドライブプーリ27aが結合され、直動機構25にドリブンプーリ27bが設けられている。このドリブンプーリ27bは、前記モータ軸に平行に配置されている。モータ26の駆動力は、ドライブプーリ27aからベルト27cを介してドリブンプーリ27bに伝達される。前記各ドライブプーリ27a,ドリブンプーリ27bとベルト27cとで、巻き掛け式の減速機27が構成される。
【0049】
直動機構25は、滑りねじまたはボールねじ等の送りねじ機構、またはラック・ピニオン機構等を用いることができ、この例では台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構が用いられている。直動機構25は、前記台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構を備えるため、タイヤ9bからの逆入力の防止効果を高め得る。モータ26、減速機27および直動機構25を備えたアクチュエータ本体7は、準組立品として組み立てられてケース6bにボルト等により着脱自在に取り付けられる。なおモータ26の駆動力を、減速機を介さず直接直動機構25へ伝達する機構も可能である。
【0050】
ケース6bは、ユニット支持部材3の一部として、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ケース6bは、有底筒状に形成され、モータ26を支持するモータ収容部と、直動機構25を支持する直動機構収容部が設けられている。前記モータ収容部には、モータ26をケース内所定位置に支持する嵌合孔が形成されている。前記直動機構収容部には、直動機構25をケース内所定位置に支持する嵌合孔、および、直動出力部25aの進退を許す貫通孔等が形成されている。
【0051】
図3に示すように、ユニット支持部材本体3Aは、前記ケース6b、ショックアブソーバの取り付け部となるショックアブソーバ取り付け部6c、およびステアリング装置11(
図2)の結合部となるステアリング装置結合部6dを有する。これらショックアブソーバ取り付け部6cおよびステアリング装置結合部6dも、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における上部に、ショックアブソーバ取り付け部6cが突出するように形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における側面部には、ステアリング装置結合部6dが突出するように形成されている。
【0052】
<作用効果>
以上説明した操舵機能付ハブユニット1によれば、車輪9を支持するハブベアリング15を含むハブユニット本体2を、アクチュエータ本体7の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。この回転は、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、すなわちステアリング装置11によるキングピン軸回りのナックル6の回転に付加して、補助的な操舵として行われ、また1輪の独立操舵が行える。左右の車輪9,9の補助操舵の角度を異ならせることで、左右の車輪9,9間のトー角を任意に変更することができる。
【0053】
そのため、操舵機能付ハブユニット1を前輪等の操舵輪および後輪等の非操舵輪のいずれに用いてもよい。操舵輪に用いる場合は、ステアリング装置11により方向が変化させられる部材に設置されることにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、左右の車輪個別の、または左右輪に連動した車輪9の微小な角度変化を行わせる機構となる。補助操舵の角度については、車両の運動性能の向上、走行の安定・安全性向上を図るにつき、僅かな角度で足り、補助操舵可能角度が±5度以下であっても十分に足りる。補助操舵の角度は操舵用アクチュエータ5の制御により行う。
【0054】
また、旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば高速域の旋回においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとするなど、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定・安全に走行することが可能となる。旋回走行時における左右の操舵輪の操舵角度を適切に変えることで、車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。
さらに直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角度の量を調整することで、低速時には走行抵抗を下げ燃費を悪化させることなく、高速時には走行安定性を確保するなど調整が可能である。
【0055】
操舵機能付ハブユニット1を後輪9Rである非操舵輪に適用した場合は、旋回走行時に、舵角を前輪9Fと同じ位相にすると、操舵時に発生するヨーを抑え、車両の安定性を高めることができる。直線走行時にも左右独立でトー角度を調整することで、走行安定性を確保することができる。
但し、ホイール9a内にある転舵軸心A回りで操舵するための機構は、防水性、防塵性の確保が必要である。
【0056】
この操舵機能付ハブユニット1では、特に、ハブユニット本体2のアウターリング16とユニット支持部材3との間に、第1の密封手段33を配置すると共に回転許容支持部品4を覆う第2の密封手段34を備えたため、回転許容支持部品4に水および異物等が浸入するのを防止し、回転許容支持部品4の寿命および信頼性を改善することができる。第1の密封手段33として、Oリング等を採用し得る。第2の密封手段34は、回転許容支持部品4を覆うだけで足りることから、薄い蓋状の密封手段とすることで、コンパクトな密封手段とすることができる。これにより転舵軸部16bの剛性を確保しつつ転舵軸周辺部に水および異物等が侵入することを防止することができる。また第1,第2の密封手段33,34の構造をそれぞれ簡単化することができるため、ハブユニット全体のサイズの小型化およびハブユニット全体の重量の低減を図ることができる。
【0057】
第2の密封手段34は、有底略円筒状に形成され、ユニット支持部材3に固定される円筒部34aと、この円筒部34aの軸方向基端部に繋がる底面部34bとを有するものである。このため、第2の密封手段34を金型等により容易に量産することができてコスト低減を図れるうえ、回転許容支持部品4の上部または下部から水および異物等が侵入することをより確実に防止することができる。
【0058】
円環部16aのうち転舵軸心Aに垂直な平面部35と、この平面部35に隙間δ1を介して互いに対向するユニット支持部材3の平面部36との間に、第1の密封手段33が配置されているため、第1の密封手段33として簡単でコンパクトな構造を採用できる。これにより、転舵軸部16b、回転許容支持部品4の各断面を所望の大きさにすることができ、これら転舵軸部16bおよび回転許容支持部品4の剛性を容易に確保することができる。また円環部16aの平面部35と、ユニット支持部材3の平面部36との間に、第1の密封手段33が配置されているため、転舵軸部16bの外周面とユニット支持部材3の一部の内周面との間に第1の密封手段33が配置されている後述の構成(
図8)よりも、転舵軸部16bの上下方向寸法を短縮でき、コンパクトな設計が可能となる。
【0059】
回転許容支持部品4が車輪9のホイール9a内に位置するため、転舵軸心Aと車輪9の接地面との距離を短縮または零にすることができる。これにより、ハブユニット本体2を回転駆動させる力を過剰に必要とせず、操舵用アクチュエータ5の小型化を図ることが可能となる。したがって、ハブユニット全体の重量を確実に低減することができる。
【0060】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0061】
[第2の実施形態]
図8(a)は、この発明の第2の実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1における回転許容支持部品4の周辺部の拡大断面図であり、
図8(b)は
図8(a)のVIII(b)部の部分拡大図である。第2の実施形態は、第1の実施形態に対し第1の密封手段33のみ構成が異なり、第2の密封手段34は第1の実施形態と同様の構成となっている。
【0062】
この操舵機能付ハブユニット1では、上下の転舵軸部16bにおける基端側の外周面と、各転舵軸部16bの外周面に隙間δ2を介して対向するユニット支持部材3の一部の内周面との間に、第1の密封手段33が配置されている。上側の第1の密封手段33については、ユニット支持部材本体3Aの上側の支持部3Abが「ユニット支持部材3の一部」に相当し、図示外の下側の第1の密封手段については、ユニット支持部材結合体3B(
図1)が「ユニット支持部材3の一部」に相当する。
【0063】
各転舵軸部16bにおける基端側の外周面には、環状溝37がそれぞれ形成され、各環状溝37に、Oリング等の弾性部材である第1の密封手段33がそれぞれ嵌め込まれている。環状溝37に嵌め込まれた弾性部材がユニット支持部材3の一部に潰されて弾性変形することで、前記隙間δ2を密封し得る。
【0064】
この構成においても、第1の密封手段33として簡単でコンパクトな構造を採用できるため、転舵軸部16b、回転許容支持部品4の断面を所望の大きさにすることができ、これら転舵軸部16bおよび回転許容支持部品4の剛性を容易に確保することができる。
なお転舵軸部16bの外周面に環状溝37が形成される構成に代えて、ユニット支持部材3の一部に環状溝が形成されて、このユニット支持部材3に形成された環状溝に第1の密封手段33が嵌め込まれてもよい。
【0065】
[第3の実施形態]
図9に示すように、上下の転舵軸部16bにおける基端側の外周面と、各転舵軸部16bの外周面に隙間を介して対向するユニット支持部材3の一部の内周面との間に、オイルシールから成る第1の密封手段33が配置されてもよい。
【0066】
<非操舵輪への適用について>
操舵機能付ハブユニット1は、非操舵輪に対して用いてもよい。例えば、
図11に示すように、前輪操舵の車両において、後輪9Rを支持する懸架装置12Rの車輪用軸受設置部となる足回りフレーム部品6Rに設定し、後輪操舵に用いてもよい。
その他
図12に示すように、操舵機能付ハブユニット1を、操舵輪である左右の前輪9F,9Fおよび非操舵輪である左右の後輪9R,9Rにそれぞれ用いてもよい。
【0067】
<操舵システムについて>
図3に示すように、この操舵システムは、いずれかの実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1と、この操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備える。制御装置29は、操舵制御部30と、アクチュエータ駆動制御部31とを有する。操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた補助操舵角指令信号(操舵角指令信号)に応じた電流指令信号を出力する。
【0068】
上位制御部32は操舵制御部30の上位の制御手段であり、この上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU)が適用される。アクチュエータ駆動制御部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。このアクチュエータ駆動制御部31は、例えば、図示外のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、車輪を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整し得る。
【0069】
操舵システムは、運転者のハンドル操作に代えて、図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって操舵用アクチュエータ5,5を動作させてもよい。
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
2…ハブユニット本体、3…ユニット支持部材、4…回転許容支持部品、4b…外輪、5…操舵用アクチュエータ、6…ナックル(足回りフレーム部品)、9…車輪、10…車両、12,12R…懸架装置、15…ハブベアリング、16…アウターリング、16a…円環部、16b…転舵軸部、29…制御装置、30…操舵制御部、31…アクチュエータ駆動制御部、33…第1の密封手段、34…第2の密封手段、34a…円筒部、34b…底面部