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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20221116BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20221116BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221116BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K5/098
C08K3/22
C08J5/00 CEZ
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018243362
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020105281
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】井 俊一朗
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 泰和
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-208114(JP,A)
【文献】特開2015-034221(JP,A)
【文献】特開2015-040301(JP,A)
【文献】特開2010-265438(JP,A)
【文献】特開2014-148626(JP,A)
【文献】特表2008-520816(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103865229(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 59/00
C08K 5/098
C08K 3/22
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(B)脂肪酸金属塩0.01~1質量部、(C)酸化亜鉛0.1~3質量部、を少なくとも含み、メルトフローレート(ISO1133準拠、190℃、2.16kg荷重)が26~35g/10分であり、前記(B)脂肪酸金属塩の前記(C)酸化亜鉛に対する質量割合が0.250~0.667である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)脂肪酸金属塩がステアリン酸カルシウムおよびステアリン酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)酸化亜鉛の平均一次粒径が0.3~0.8μmである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)脂肪酸金属塩と前記(C)酸化亜鉛との合計量が、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.6~1.4質量部である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物及びそれを含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、バランスのとれた機械的性質と優れた摩擦摩耗性を有するエンジニアリング樹脂として、各種の機構部品をはじめ、OA機器などに広く用いられている。自動車用途では、耐熱性や耐酸性の向上が求められている。ポリアセタール樹脂の耐酸性向上に関しては、過去にいくつかの開示がなされている。例えば、靭性、耐燃料性の向上のため、ポリアセタール樹脂に酸化亜鉛、ポリアルキレングリコールを添加する方法が開示されている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-011284号公報
【文献】国際公開第2016-104255号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酸化亜鉛を添加したポリアセタール樹脂組成物は、摩耗係数を一定にできない問題を有している。さらに、近年において、グリスレス化や薄肉化が進みつつある。例えば、プリンターのギヤ等の機構部品においては、グリスを使用しない状態での安定した摺動性が求められている。また、薄肉化においては材料としての信頼性の観点において高い剛性が求められている。
そこで本発明は、摩擦係数の変動幅を抑制し剛性に優れたポリアセタール樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上述した従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアセタール樹脂と脂肪酸金属塩と酸化亜鉛からなる樹脂組成物において、ポリアセタール樹脂に脂肪酸金属塩と酸化亜鉛を併用し、樹脂組成物のMFRを特定することで上記従来課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本実施形態は以下の通りである。
〔1〕(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(B)脂肪酸金属塩0.01~1質量部、(C)酸化亜鉛0.1~3質量部、を少なくとも含み、メルトフローレート(ISO1133準拠、190℃、2.16kg荷重)が26~35g/10分であり、前記(B)脂肪酸金属塩の前記(C)酸化亜鉛に対する質量割合が0.250~0.667である、樹脂組成物
〔2〕前記(B)脂肪酸金属塩がステアリン酸カルシウムおよびステアリン酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔3〕前記(C)酸化亜鉛の平均一次粒径が0.3~0.8μmである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物。
〔4〕前記(B)脂肪酸金属塩と前記(C)酸化亜鉛との合計量が、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.6~1.4質量部である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
〔5〕前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物によれば、安定した摺動性を有し、成形安定性に優れたポリアセタール樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に制限するものではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変化して実施することができる。
【0009】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂、(B)脂肪酸金属塩、(C)酸化亜鉛を少なくとも含み、MFRが26~35g/10分の樹脂組成物である。
【0010】
<(A)ポリアセタール樹脂>
本実施形態に係る(A)ポリアセタール樹脂としては、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーが挙げられ、公知のものを用いてもよい。
ポリアセタールホモポリマーは、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)及び4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られるものである。したがって、ポリアセタールホモポリマーは、実質的にオキシメチレン単位からなる。
ポリアセタールコポリマーは、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)及び4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオールホルマールなどのグリコール又はジグリコールの環状ホルマール等の、環状エーテル又は環状ホルマールとを共重合させて得られるものである。また、ポリアセタールコポリマーとして、ホルムアルデヒドの単量体及び/又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマー、並びに、多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーを用いることもできる。
【0011】
さらには、(A)ポリアセタール樹脂は、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えばポリアルキレングリコール、の存在下、ホルムアルデヒドの単量体又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーを重合して得られるブロック成分を有するポリアセタールホモポリマーであってもよい。
【0012】
同じく、(A)ポリアセタール樹脂は、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えば水素添加ポリブタジエングリコール、の存在下、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)及び4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと環状エーテル又は環状ホルマールとを共重合させて得られるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーであってもよい。
【0013】
以上のように、本実施形態に係る(A)ポリアセタール樹脂として、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーのいずれも用いられ得る。また、これら(A)ポリアセタール樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。この場合、(A)ポリアセタール樹脂は、ポリアセタールコポリマーを50質量%以上含むものが好ましく、80質量%以上含むものがより好ましく、実質的にほぼすべて(95質量%以上)がポリアセタールコポリマーであることが最も好ましい。なお、ここでのパーセンテージは、(A)ポリアセタール樹脂の全体量を100質量%としたものに基づく。
【0014】
ポリアセタールコポリマーを得る方法について、以下に詳細に述べる。
【0015】
トリオキサンを用いてポリアセタールコポリマーを得る場合、上記1,3-ジオキソラン等のコモノマーは、一般的には、トリオキサン100mol%に対して0.1~60mol%、好ましくは0.1~20mol%、更に好ましくは0.13~10mol%用いられる。ポリアセタールコポリマーの重合に用いられる重合触媒としては、ルイス酸、プロトン酸及びそのエステル又は無水物等のカチオン活性触媒が好ましい。ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、より具体的には、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。また、プロトン酸、そのエステル又は無水物の具体例としては、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸-3級ブチルエステル、アセチルパークロラート及びトリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。これらの中でも、三フッ化ホウ素;三フッ化ホウ素水和物;及び、酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましく、具体的には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル及び三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテルが好適な例として挙げられる。
【0016】
また、ポリアセタールコポリマーを得る際には、重合触媒に加えて、メチラール等の重合連鎖剤(連鎖移動剤)を適宜用いてもよい。さらにメチラールを用いる際、含有水分量が100質量ppm以下で含有メタノール量が1質量%以下のもの、より好ましくは、含有水分量が50質量ppm以下で含有メタノール量が0.7質量%以下のメチラールが好ましい。
【0017】
ポリアセタールコポリマーは、従来公知の方法、例えば、米国特許第3027352号明細書、同第3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、同第1495228号明細書、同第1720358号明細書、同第3018898号明細書、特開昭58-98322号公報及び特開平7-70267号公報に記載の方法によって重合することができる。上記の重合により得られたポリアセタールコポリマーには、熱的に不安定な末端部(-(OCH2)n-OH基;以下、「不安定末端部」という。)が存在する場合がある。
【0018】
そのため、この不安定な末端部の分解除去処理(末端安定化)を、末端安定化剤を用いて実施することが好ましい。末端安定化剤としては特に制限されず、アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族アミン化合物、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カリシウム又はバリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩及びホウ酸塩等のような、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の無機弱酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩、パルミチン酸塩、プロピオン酸塩及びシュウ酸塩のような、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の有機酸塩、等の塩基性物質が挙げられ、これらの中でも、脂肪族アミン化合物が好ましく、トリエチルアミンがさらに好ましい。
【0019】
不安定な末端部の分解除去方法としては、特に制限はされず、例えばトリエチルアミン等の末端安定化剤の存在下でポリアセタールコポリマーの融点以上、260℃以下の温度で、ポリアセタールコポリマーを溶融させた状態で熱処理する方法が挙げられる。熱処理する方法としては、例えば、ベント減圧装置を備えた単軸、又は二軸の押出機が挙げられ、好ましくは二軸押出機である。
【0020】
また、本実施形態で用いる(A)ポリアセタール樹脂のメルトフローレート(ISO1133準拠、190℃、2.16kg荷重)は安定した摺動性の観点から、好ましくは25~35g/10分、より好ましくは26~33g/10分の範囲である。MFRが上記範囲内となる(A)ポリアセタール樹脂を得る方法として、具体的には、ポリアセタール樹脂の製造において、メチラール等に代表されるような連鎖移動剤の添加量を調節すること等が挙げられる。
【0021】
本実施形態において、樹脂組成物(100質量%)中における(A)ポリアセタール樹脂の含有量は、
80質量%以上としてよく、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
【0022】
<(B)脂肪酸金属塩>
本実施形態に係る(B)脂肪族金属塩としては、炭素数10~35の飽和若しくは不飽和の脂肪酸又は水酸基で置換されている脂肪酸と、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物又は塩化物から得られた脂肪酸金属塩である。
【0023】
脂肪酸金属塩の添加量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.01~1質量部であって、好ましくは0.25~0.7質量部、更に好ましくは0.3~0.5質量部、最も好ましくは0.3~0.4質量部である。
【0024】
脂肪酸金属塩の原料脂肪酸は、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグリセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、プロピオ-ル酸、ステアロ-ル酸、12-ヒドロキシドデカン酸、3-ヒドロキシデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、10-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-ヒドロキシオクタデカン酸、10-ヒドキシ-8-オクタデカン酸、dl-エリスロ-9・10-ジヒドロキシオクタデカン酸等であり、原料金属化合物としては、ナトリウム、リチウム、カリウム及びカルシウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、ストロンチウムのアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは塩化物である。
【0025】
中でも好ましくは、脂肪酸金属塩の原料脂肪酸がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸であり、原料金属化合物がカルシウムの水酸化物、酸化物及び塩化物である。
具体的な脂肪酸金属塩の例としては、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、(ミリスチン酸-パルミチン酸)カルシウム、(ミリスチン酸-ステアリン酸)カルシウム、(パルミチン酸-ステアリン酸)カルシウムである。中でも好ましくは、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムである。
【0026】
また好ましくは、脂肪酸金属塩の原料脂肪酸がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸であり、原料金属化合物が亜鉛の水酸化物、酸化物及び塩化物である。
具体的な脂肪酸金属塩の例としては、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛(ミリスチン酸-パルミチン酸)亜鉛、(ミリスチン酸-ステアリン酸)亜鉛、(パルミチン酸-ステアリン酸)亜鉛である。中でも好ましくは、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛である。
【0027】
本実施形態においては、2種以上の脂肪酸金属塩、例えば、ステアリン酸カルシウムとパルミチン酸カルシウムを同時に添加しても良く、また異なる炭素数の脂肪酸からなる金属塩、例えば、(パルミチン酸-ステアリン酸)カルシウムとが混在していても良く、また異なる金属からなる金属塩、例えば、ステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛とが混在していてもよい。
【0028】
上述の脂肪酸金属塩は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合せて用いてもよい。
【0029】
<(C)酸化亜鉛>
本実施形態における(C)酸化亜鉛は、製造方法に限定されないが、工業的には乾式法または湿式法で製造される白色粉末である。
【0030】
(C)酸化亜鉛の添加量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.1~3質量部であって、好ましくは0.2~0.9質量部、更に好ましくは0.5~0.8質量部である。(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対する(C)酸化亜鉛の含有量が0.1~3質量部であることにより、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において、優れた靭性が得られる。
【0031】
また、(C)酸化亜鉛としては、平均一次粒径が0.07~1.0μm、好ましくは0.3~0.8μm、より好ましくは0.4~0.7μmの範囲内の酸化亜鉛を用いる。前記範囲の平均一次粒径を有する(C)酸化亜鉛を用いることにより、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において安定した摺動性が得られる。(C)酸化亜鉛の平均一次粒径を上述した特定の数値範囲内とすることにより、優れた靭性と剛性のバランスが得られる理由については、ポリアセタール樹脂組成物中での分散性が向上しているためと考えられる(ただし、効果はこれに限らない)。
なお、(C)酸化亜鉛の平均一次粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津株式会社製、型番:SALD-2300)で測定できる。
【0032】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、上記した(A)~(C)成分を基本成分として構成される。
【0033】
本実施形態において、摺動係数の変動の観点から、ポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレート(ISO1133準拠、190℃、2.16kg荷重)は、26~35g/10分、より好ましくは27~34g/10分であり、特に好ましくは27~33g/10分である。
【0034】
本実施形態において、ポリアセタール樹脂組成物について、相手材料をSUS球(例えば、SUS304、直径5mm)とした場合の摺動開始から摺動終了までの期間の摩擦係数の変動比(摩擦係数変動値)は、1~3であることが好ましく、より好ましくは1~2である。
なお、摩擦係数変動値は、下記式で算出されてよい。
摩擦係数変動値=最大摩擦係数/最少摩擦係数
また、摩擦係数変動値は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0035】
本実施形態において、ポリアセタール樹脂組成物について、4mm厚みの試験片に50ショット成形した(例えば、射出及び保圧時間30秒、冷却時間15秒の条件下)際の可塑化時間安定性の標準偏差は、0.1~0.4であることが好ましく、より好ましくは0.2~0.3である。過疎化時間安定性の標準偏差が前記範囲であれば、物性ばらつきが少ない成形体を得ることができる。
また、可塑化時間安定性は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0036】
本実施形態において、(B)脂肪酸金属塩の(C)酸化亜鉛に対する質量割合は、靭性/剛性のバランス、摺動性の観点から、0.053~1.000、好ましくは0.250~1.000、より好ましくは0.429~0.818、最も好ましくは0.429~0.667の範囲より選ばれる。
【0037】
また、得られる樹脂組成物の剛性及び/又は成形安定性の観点で、(B)脂肪酸金属塩と(C)酸化亜鉛との合計量は、(A)ポリアセタール100質量部に対して、0.6~1.4質量部であることが好ましく、より好ましくは0.6~1.3質量部であり、最も好ましくは0.8~1.1質量部である。
【0038】
<安定剤>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、従来ポリアセタール樹脂組成物に使用されている各種安定剤を含むことができる。安定剤として、具体的には、下記の酸化防止剤、ホルムアルデヒド又はギ酸の捕捉剤等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
酸化防止剤としては、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0040】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、具体的には、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3’-メチル-5’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-テトラデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)、1,4-ブタンジオール-ビス-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)、トリエチレングリコール-ビス-(3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)等が挙げられる。
【0041】
また、上記以外のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、テトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン、3,9-ビス(2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、N,N’-ビス-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プリピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’-テトラメチレンビス-3-(3’-メチル-5’-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’-ビス-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオニル)ヒドラジン、N-サリチロイル-N’-サリチリデンヒドラジン、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、N,N’-ビス(2-(3-(3,5-ジ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)オキシアミド等も挙げられる。
【0042】
上述したヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、トリエチレングリコール-ビス-(3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)、テトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンが好ましい。
【0043】
ホルムアルデヒド又はギ酸の捕捉剤として、具体的には、ホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物及びその重合体、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、カルボン酸塩等が挙げられる。
【0044】
ホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物及びその重合体として、具体的には、ジシアンジアミド、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドとの共縮合物、ナイロン4-6、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン12、ナイロン6/6-6、ナイロン6/6-6/6-10、ナイロン6/6-12等のポリアミド樹脂、ポリ-β-アラニン、ポリアクリルアミド等が挙げられる。これらの中では、メラミンとホルムアルデヒドとの共縮合物、ポリアミド樹脂、ポリ-β-アラニン及びポリアクリルアミドが好ましく、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、ポリアミド樹脂及びポリ-β-アラニンがより好ましい。
【0045】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、及びカルボン酸塩として、具体的には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウム等の水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、カルボン酸塩等が挙げられる。ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、カルシウム塩が好ましい。カルシウム塩として、具体的には、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、硼酸カルシウム、及び脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)等が挙げられ、これら脂肪酸は、ヒドロキシル基で置換されていてもよい。これらの中では、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)がより好ましい。
【0046】
上述した各種安定剤の好ましい組み合わせは、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、トリエチレングリコール-ビス-(3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)又はテトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンに代表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ポリアミド樹脂及びポリ-β-アラニンに代表されるホルムアルデヒド反応性窒素を含む重合体と、脂肪酸カルシウム塩に代表されるアルカリ土類金属の脂肪酸塩との組合せである。
【0047】
上述したそれぞれの安定剤の含有量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、酸化防止剤として、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.1質量部以上2質量部以下、ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤として、例えば、ホルムアルデヒド反応性窒素を含む重合体が0.1質量部以上3質量部以下、アルカリ土類金属の脂肪酸塩が0.1質量部以上1質量部以下の範囲であると好ましい。
【0048】
<添加剤>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、かつ所望の特性に応じて、従来ポリアセタール樹脂組成物に使用されている各種添加剤を含むことができる。添加剤として、具体的には、下記の無機充填剤、結晶核剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、顔料等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
無機充填剤として、具体的には、繊維状、粉粒子状、板状、中空状等の充填剤が用いられる。
繊維状充填剤として、具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シリコーン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維;ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属繊維等の無機質繊維等が挙げられる。また、繊維長の短いチタン酸カリウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー類等;芳香族ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機繊維状物質等も挙げられる。
粉粒子状充填剤として、具体的には、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイトのような珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、アルミナのような金属酸化物、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのような金属硫酸塩、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、その他炭化珪素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
板状充填剤として、具体的には、マイカ、フレーク状ガラス、各種金属箔等が挙げられる。
中空状の充填剤として、具体的には、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、金属バルーン等が挙げられる。
これらの無機充填剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの無機充填剤は表面処理されたもの、未表面処理のもの、何れも使用可能であるが、ポリアセタール樹脂組成物を含む成形体の表面の平滑性、機械的特性の観点から、表面処理の施されたものが好ましい場合がある。
表面処理剤としては従来公知のものが使用可能であり、具体的には、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、ジルコニウム系等の各種カップリング処理剤等が挙げられる。カップリング処理剤として、具体的には、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリスステアロイルチタネート、ジイソプロポキシアンモニウムエチルアセテート、n-ブチルジルコネート等が挙げられる。
無機充填剤は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、0.1質量部以上200質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上50質量部以下であることがさらに好ましい。
【0050】
結晶核剤として、具体的には、窒化ホウ素等が挙げられる。結晶核剤は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、0.001質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.003質量部以上7質量部以下であることがより好ましく、0.005質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0051】
熱可塑性樹脂として、具体的には、上記(C)成分として挙げたもの以外のオレフィン樹脂等が挙げられ、より具体的には、上記一般式(3)により表されるオレフィン化合物を全体のモノマー単位に対して40mol%未満の範囲で含む共重合体、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。また、これらの変性物も挙げられる。熱可塑性樹脂は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、0.1質量部以上200質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以上150質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上100質量部以下であることがさらに好ましい。
【0052】
熱可塑性エラストマーとして、具体的には、スチレン系エラストマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレンープロピレンゴム、アクリルゴム、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。熱可塑性エラストマーは、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、0.1質量部以上200質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以上150質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上100質量部以下であることがさらに好ましい。
【0053】
顔料として、具体的には、無機系顔料、有機系顔料、メタリック系顔料、蛍光顔料等が挙げられる。無機系顔料とは、樹脂の着色用として一般的に使用されているものをいい、具体的には、硫化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等が挙げられる。有機系顔料として、具体的には、縮合ウゾ系、イノン系、フロタシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ベリレン系、ジオキサジン系、フタロシアニン系等の顔料が挙げられる。顔料は、所望の色調に応じてその量を選択できるが、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上5質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0054】
[ポリアセタール樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、上述した(A)ポリアセタール樹脂、(B)脂肪酸金属塩、(C)酸化亜鉛と、必要に応じてその他の成分とを溶融混練することにより製造できる。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を製造する装置としては、一般に実用されている混練機が適用できる。当該混練機として、具体的には、単軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等が挙げられる。これらの中でも、単軸押出機、2軸押出機が好ましい。
溶融混練の方法として、具体的には、すべての成分のブレンド物を押出機トップのフィーダー(以下、トップフィーダーと呼ぶ)から連続的にフィードして溶融混練させる方法、(C)酸化亜鉛以外の成分のブレンド物を押出機トップフィーダーから連続的にフィードして溶融混練させた後、押出機のサイドに設けられたフィーダー(以下、サイドフィーダーと呼ぶ)から(C)酸化亜鉛を連続的にフィードしてさらに溶融混練させる方法等が挙げられるが、これらはいずれも問題なく利用可能である。
【0055】
[成形体]
本実施形態の成形体は、上述のポリアセタール樹脂組成物を含む。そのためには、上述のポリアセタール樹脂組成物を成形することにより、本実施形態の成形体を得ることができる。ポリアセタール樹脂組成物を成形する方法については特に制限されるものではなく、公知の成形方法を適用できる。具体的には、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発泡射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法が挙げられる。
【0056】
[成形体の用途]
本実施形態の成形体の用途としては、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、ガイド等に代表される機構部品;アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー、側板、プリンター、複写機に代表されるオフィスオートメーション機器用部品;VTR(Video Tape Recorder)、ビデオムービー、デジタルビデオカメラ、カメラ、デジタルカメラに代表されるカメラ又はビデオ機器用部品;カセットプレイヤー、DAT、LD(Laser Disk)、MD(Mini Disk)、CD(Compact Disk)〔CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R(Recordable)、CD-RW(Rewritable)を含む〕、DVD(Digital Video Disk)〔DVD-ROM、DVD-R、DVD+R、DVD-RW、DVD+RW、DVD-R DL、DVD+R DL、DVD-RAM(Random Access Memory)、DVD-Audioを含む〕、Blu-ray(登録商標) Disc、HD-DVD、その他光デイスクのドライブ;MFD、MO、ナビゲーションシステム、モバイルパーソナルコンピュータに代表される音楽、映像又は情報機器、携帯電話及びファクシミリに代表される通信機器用部品;電気機器用部品;電子機器用部品、ハードディスク内部部品のランプ材等が挙げられる。さらに、本実施形態の成形体は、自動車用の部品として、ガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される燃料廻り部品;ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリル等に代表されるドア廻り部品;シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシートベルト周辺部品;コンビスイッチ部品、スイッチ類、クリップ類等の部品;シャープペンシルのペン先、シャープペンシルの芯を出し入れする機構部品;洗面台、排水口、排水栓開閉機構部品;自動販売機の開閉部ロック機構、商品排出機構部品;衣料用のコードストッパー、アジャスター、ボタン;散水用のノズル、散水ホース接続ジョイント;階段手すり部、床材の支持具である建築用品;使い捨てカメラ、玩具、ファスナー、チェーン、コンベア、バックル、スポーツ用品、自動販売機、家具、楽器、住宅設備機器に代表される工業部品等も好適に用いられる。
【実施例
【0057】
以下、実施例及び比較例により本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、後述する実施例及び比較例に限定されるものではない。実施例及び比較例のポリアセタール樹脂組成物及び成形体に対する各種測定方法と、実施例及び比較例に用いたポリアセタール樹脂組成物及び成形体の原料成分とを以下に示す。
なお、実施例3、5、8は、参考例として記載するものである。
【0058】
(1)MFR
ポリアセタール樹脂組成物ペレットのMFR(g/10分)を、ISO1133準拠して、190℃、2.16kg荷重で測定した。
【0059】
(2)摺動性の評価方法
ポリアセタール樹脂組成物ペレットを、東芝機械(株)製EC-75NII成形機を用いて、シリンダー温度205℃、金型温度120℃の射出成形条件で射出成形し、4mm厚みのISO試験片を得た。往復動摩擦摩耗試験機(東洋精密(株)製、商品名「AFT-15MS型」)により荷重500g、線速度30mm/sec、往復距離20mmの条件下、23℃、湿度50%環境下で5000回の往復試験を行った。相手材料としては、SUS球(SUS304、直径5mm)を用いた。摺動開始から摺動終了までの期間の摩擦係数の変動比(摩擦係数変動値)は、下記式で算出した。
摩擦係数変動値=最大摩擦係数/最少摩擦係数
【0060】
(3)剛性感
ポリアセタール樹脂組成物ペレットをシリンダー温度205℃、金型温度120℃の射出成形条件で射出成形し、長さ90mm×幅70mm×高さ35mmの箱型の成形品を成形した。当該成形品の両端を持ち、屈曲変形を加えたときの剛性感を評価した。評価は、屈曲変形を加えたとき、成形品中心部を基準とし両端の変位量(mm)より、次の判断基準で行った。
+++:変位量0以上5mm未満
++:変位量5以上10mm未満
+:変位量10mm以上
【0061】
(4)可塑化時間安定性
ポリアセタール樹脂組成物のペレットを、東芝機械(株)製EC-75NII成形機を用いて、シリンダー温度205℃、金型温度120℃の射出成形条件で射出成形し、4mm厚みのISO試験片に50ショット成形した。その際、射出及び保圧時間30秒、冷却時間15秒に設定し、可塑化時間安定性を標準偏差で評価した。可塑化時間安定性は、具体的には、金型内への射出が完了し、ISO試験片を冷却している間、次に射出する溶融樹脂が成形機シリンダー内で計量されるのが完了するまでの時間を計測し、その50ショット分の可塑化時間から標準偏差を算出して求めた。
【0062】
<(A)ポリアセタール樹脂>
(A-1)ポリアセタール樹脂
トリオキサン100mol%に対して、1,3-ジオキソラン1.5mol%を共重合成分として含む、MFR(条件:ISO1133準拠 190℃,2.16kg荷重)が30g/10分のポリアセタールコポリマー
(A-2)ポリアセタール樹脂
トリオキサン100mol%に対して、1,3-ジオキソラン1.5mol%を共重合成分として含む、MFR(条件:ISO1133準拠 190℃,2.16kg荷重)が20g/10分のポリアセタールコポリマー
(A-3)ポリアセタール樹脂
トリオキサン100mol%に対して、1,3-ジオキソラン1.5mol%を共重合成分として含む、MFR(条件:ISO1133準拠 190℃,2.16kg荷重)が25g/10分のポリアセタールコポリマー
(A-4)ポリアセタール樹脂
トリオキサン100mol%に対して、1,3-ジオキソラン1.5mol%を共重合成分として含む、MFR(条件:ISO1133準拠 190℃,2.16kg荷重)が40g/10分のポリアセタールコポリマー
(A-5)ポリアセタール樹脂
トリオキサン100mol%に対して、1,3-ジオキソラン1.5mol%を共重合成分として含む、MFR(条件:ISO1133準拠 190℃,2.16kg荷重)が27g/10分のポリアセタールコポリマー
(A-6)ポリアセタール樹脂
トリオキサン100mol%に対して、1,3-ジオキソラン1.5mol%を共重合成分として含む、MFR(条件:ISO1133準拠 190℃,2.16kg荷重)が34g/10分のポリアセタールコポリマー
【0063】
<(B)脂肪酸金属塩>
(B-1)ステアリン酸カルシウム
【0064】
<(C)酸化亜鉛>
(C-1)酸化亜鉛(平均一次粒径:0.53μm)
(C-2)酸化亜鉛(平均一次粒径:0.17μm)
【0065】
〔ポリアセタール樹脂組成物の製造〕
本実施例では、二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-26SS)を用いて、シリンダー温度を全て200℃に設定し、(A)~(C)成分を押出機メインスロート部より定量フィーダーより供給して、押出量15kg/時間、スクリュー回転数150rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断しペレットを得た。得られた樹脂組成物の各物性を評価した。これらの評価結果を表1に記載した。
【0066】
【表1-1】
【表1-2】
【0067】
〔実施例1~10、比較例1~9〕
各成分を表1に示す割合で配合し、上述の製造方法により溶融混練を行った。得られたペレットを用いて、上述の方法により評価を行った。測定及び評価結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るポリアセタール樹脂組成物によれば、ポリアセタール樹脂組成物が好適に使用されてきた種々分野において、特にコスト削減や軽量化のための金属代替として利用できるため、自動車、電機電子機器の精密部品、その他工業等の分野において産業上の利用可能性を有する。