(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】ガラス建材
(51)【国際特許分類】
H01L 31/054 20140101AFI20221116BHJP
【FI】
H01L31/04 620
(21)【出願番号】P 2018541081
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2017033822
(87)【国際公開番号】W WO2018056286
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2016182812
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 信郷
(72)【発明者】
【氏名】木下 清一
(72)【発明者】
【氏名】門田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 司
(72)【発明者】
【氏名】太田 信久
(72)【発明者】
【氏名】中島 昭彦
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-062569(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073806(WO,A1)
【文献】特開2010-160502(JP,A)
【文献】特開2005-259952(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103128(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/056
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延伸する形状を有する両面受光型の第1の太陽電池と、
前記第1の太陽電池の幅方向に、当該第1の太陽電池と間隔をあけて並ぶように配置され、前記一方向に延伸する形状を有する両面受光型の第2の太陽電池と、
前記第1の太陽電池と前記第2の太陽電池の一方の面側を覆う第1のガラス基板と、
前記第1の太陽電池と前記第2の太陽電池の他方の面側において少なくとも部分的に配置され、可視光領域において透過率が反射率よりも高く、近赤外領域において反射率が透過率よりも高い反射膜と、
前記第1の太陽電池の前記他方の面に対向し、前記一方向に延伸する形状を有する第1の反射板と、を含み、
前記第1の太陽電池及び前記第2の太陽電池は、前記第1のガラス基板の対向する二辺の一方側から他方側にわたって設けられている、
ガラス建材。
【請求項2】
前記反射膜と前記第1の太陽電池との距離が、前記第1の太陽電池の幅の0.1倍以上である、
請求項1に記載のガラス建材。
【請求項3】
前記第1の反射板の幅は、前記第1の太陽電池の幅以上である、
請求項
1又は2に記載のガラス建材。
【請求項4】
前記第1の反射板は、前記反射膜における前記第1の太陽電池と対向しない面側に配置された、
請求項
1又は2に記載のガラス建材。
【請求項5】
前記反射膜における前記第1の太陽電池と対向しない面側には第2のガラス基板が設けられた、
請求項1乃至
4のいずれかに記載のガラス建材。
【請求項6】
前記第1の太陽電池と前記反射膜との間には封止材が介在する、
請求項1乃至
5のいずれかに記載のガラス建材。
【請求項7】
前記第1の太陽電池と前記反射膜との間には第3のガラス基板が介在する、
請求項1乃至
5のいずれかに記載のガラス建材。
【請求項8】
前記第1の太陽電池は、少なくとも300nm~1200nmの波長範囲に分光感度を有する、
請求項1乃至
7のいずれか一つに記載のガラス建材。
【請求項9】
前記第1の太陽電池は、ヘテロ接合型太陽電池である、
請求項
8に記載のガラス建材。
【請求項10】
前記反射膜は、前記第1の太陽電池の一方の面側から入射する太陽光における少なくとも近赤外光を反射し、前記第1の太陽電池の他方の面に入射させる、
請求項1乃至
9のいずれか一つに記載のガラス建材。
【請求項11】
前記反射膜は、前記第2の太陽電池の一方の面側から入射する太陽光における少なくとも近赤外光を反射し、前記第2の太陽電池の他方の面に入射させる、
請求項
10に記載のガラス建材。
【請求項12】
前記反射膜が、その表面に凹凸を有し、前記近赤外光を乱反射させて前記第1の太陽電池の他方の面に入射させる、
請求項
10又は
11に記載のガラス建材。
【請求項13】
前記反射膜が、その表面に凹凸を有し、前記近赤外光を乱反射させて前記第1の太陽電池の他方の面及び前記第2の太陽電池の他方の面に入射させる、
請求項
11に記載のガラス建材。
【請求項14】
前記第1の反射板は、前記第1の太陽電池の一方の面側から入射する太陽光における少なくとも近赤外成分と可視光成分とを反射し、前記第1の太陽電池の他方の面に入射させる、
請求項
1乃至4のいずれか一つに記載のガラス建材。
【請求項15】
前記反射膜と前記第2のガラス基板との間には、空気層が介在する、
請求項
5に記載のガラス建材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス建材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、地面に対して垂直に設置された両面受光型の太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】上下利男等著「両面受光型太陽電池の基本応用技術の開発」電学論B、123巻8号、2003年、p.947-955
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の両面受光型の太陽電池を建物の窓などに設置した場合、室内側の受光面における発電量が少なかった。即ち、室内側の受光面、特にその中央部分は、室外からの太陽光を効率よく受光することができないため、その結果として発電量が少なくなってしまっていた。
【0005】
一方、従来の採光型太陽電池モジュールは、発電量増大を目的として日射透過率の高いガラスを用いる結果、建物の冷房負荷を増大させている課題がある。
【0006】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、太陽電池を含むガラス建材を建物の窓などに設置した場合における、室内側の受光面での発電量を増加させることにある。
【0007】
さらに、冷房負荷を削減して建物の省エネを図ることと共に、圧迫感のない眺望の確保と採光性能の向上にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示に係るガラス建材は、一方向に延伸する形状を有する両面受光型の第1の太陽電池と、前記第1の太陽電池の幅方向に並ぶように配置され、前記一方向に延伸する形状を有する両面受光型の第2の太陽電池と、前記第1の太陽電池と前記第2の太陽電池の一方の面側を覆う第1のガラス基板と、前記第1の太陽電池と前記第2の太陽電池の他方の面側において全面的又は部分的に配置され、可視光領域において透過率が反射率よりも高く、近赤外領域において反射率が透過率よりも高い反射膜と、を含む。
【0009】
(2)上記(1)におけるガラス建材は、前記反射膜と前記第1の太陽電池との距離が、前記第1の太陽電池の幅の0.2倍以上であってもよい。
【0010】
(3)上記(1)~(2)におけるガラス建材は、前記第1の太陽電池の前記他方の面に対向し、前記一方向に延伸する形状を有する第1の反射板を更に含んでもよい。
【0011】
(4)上記(3)におけるガラス建材に含まれる、前記第1の反射板の幅は、前記第1の太陽電池の幅以上であってもよい。
【0012】
(5)上記(3)におけるガラス建材に含まれる、前記第1の反射板は、前記反射膜における前記第1の太陽電池と対向しない面側に配置されてもよい。
【0013】
(6)上記(1)~(5)におけるガラス建材に含まれる、前記反射膜における前記第1の太陽電池と対向しない面側には第2のガラス基板が設けられてもよい。
【0014】
(7)上記(1)~(6)におけるガラス建材は、前記第1の太陽電池と前記反射膜との間には封止材が介在してもよい。
【0015】
(8)上記(1)~(6)におけるガラス建材は、前記第1の太陽電池と前記反射膜との間には第3のガラス基板が介在してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本実施形態に係るガラス建材の概略を示す平面図である。
【
図2】
図2は本実施形態に係るガラス建材の概略を示す断面図である。
【
図3】
図3は本実施形態に係るガラス建材における第1の太陽電池の分光感度と反射膜の反射率の波長依存性を示す図である。
【
図4】
図4は本実施形態に係る第1の太陽電池と反射膜との間隔と、出力上昇率との関係を示す図である。
【
図5】
図5は本実施形態に係るガラス建材の他の実施例を示す断面図である。
【
図6】
図6は本実施形態に係るガラス建材の他の実施例を示す断面図である。
【
図7】
図7は本実施形態に係るガラス建材の他の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の実施形態について、図面を用いて以下に説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係るガラス建材の概略を示す平面図である。
図2は、
図1のII‐II線における断面を示す断面図である。
【0019】
図1に示すように、ガラス建材100は、間隔を隔てて配置された複数の太陽電池13と、この複数の太陽電池13の一方の面側を覆うように設けられた第1のガラス基板21とを有する。なお、太陽電池には、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、ヘテロ接合型太陽電池などが含まれる。本実施形態においては、複数の太陽電池13として、ヘテロ接合型太陽電池を用いて説明する。
【0020】
ここで、第1のガラス基板21とは、例えば建物の窓として取り付けられるようなガラス基板であり、室内及び太陽電池の表面に太陽光を入射させるよう、透過率の高い材料により構成されている。
【0021】
図1、
図2に示すように、複数の太陽電池13は、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12を含む。第1の太陽電池11、第2の太陽電池12は、複数の太陽電池セルを直線状に配置、接続することによって構成され、一方向に延伸する形状をしており、第1の太陽電池11は、幅W1を有している。第2の太陽電池12は、第1の太陽電池11の幅方向に並ぶように配置されており、第1の太陽電池11と第2の太陽電池12とは、第1の間隔W2をあけて配置されている。なお、
図1から明らかなように、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12の幅方向と、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12の延伸方向とは、交差する関係にある。
【0022】
第1の太陽電池11の相対分光感度は、
図3に示すように、およそ300nm~1200nmに感度を有し、近赤外領域である1000nm付近で高い値を有する。第1の太陽電池11と、第2の太陽電池12は両面受光型であり、室外側である一方の面11A、12Aと、室内側である他方の面11B、12Bから受光した光を発電に寄与させることができる。
【0023】
図2に示すように、第1の太陽電池11の一方の面11Aと、第2の太陽電池12の一方の面12Aとは、室外からの太陽光40を第1のガラス基板21を介して受光する。
【0024】
第1の太陽電池11の他方の面11B側、及び第2の太陽電池12の他方の面12B側には、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12と第2の間隔dをあけて配置された反射膜31を有する。本実施の形態においては、反射膜31は、第2のガラス基板22の表面に設けられている。この反射膜31は例えばLow-E(Low Emissivity)膜であり、本実施形態においては、可視光線の多くを透過し、近赤外線の多くを反射する遮熱型Low-E膜を用いて説明する。
【0025】
図3は本実施形態に係るガラス建材における第1の太陽電池11、及び第2の太陽電池12の分光感度と反射膜31(反射膜31A、反射膜31B、反射膜31C)の反射率の波長依存性を示す図である。本実施形態においては、第1の太陽電池11及び第2の太陽電池12には同種のヘテロ接合型太陽電池を用いているため、同じ分光感度特性を有しており、
図3において「ヘテロ分光感度」として表示している。また、
図3に示すように、反射膜31A、反射膜31B、反射膜31Cのそれぞれは、750~2500nmといった近赤外領域に高い反射率を有しており、この近赤外領域においては、透過率よりも反射率が高くなっている。一方、反射膜31A、反射膜31B、反射膜31Cのそれぞれは、380~750nmといった可視光領域においては低い反射率を有しており、この可視光領域においては、透過率が反射率よりも高くなっている。
【0026】
このような反射膜31を第1の太陽電池11の他方の面11B側に設けているため、室外から入射する太陽光における近赤外成分41の一部は、この反射膜31により反射され、第1の太陽電池11の他方の面11B、及び第2の太陽電池12の他方の面12Bにおいて受光される。
図3を用いて上述したとおり、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12は、近赤外領域において高い分光感度特性を有しており、反射膜31により反射された近赤外成分41を効率よく発電に寄与させることができる。
【0027】
一方、室外から入射する太陽光における可視光成分42の一部は、この可視光領域においては低い反射率を有する反射膜31を通過して、室内へと入射する。そのため、このガラス建材100を介して、眺望と採光性を確保することができる。
【0028】
また、日射の近赤外成分を反射膜31で削減するため、冷房負荷が削減し建物の省エネ化が可能になる。
【0029】
このような構成により、眺望と採光性を確保することができるガラス建材100としての機能を失わずに、室内側の受光面における発電量を増加させることと建物の冷房負荷削減が可能になる。
【0030】
なお、第1の太陽電池11と反射膜31との間隔である第2の間隔dは、第1の太陽電池11が有する幅W1の0.1倍以上であることが望ましい。
図4は、各開口率おける、第2の間隔dと、第1の太陽電池11の出力上昇率との関係を示している。ここで、開口率とは、第1の太陽電池11と第2の太陽電池12との間隔である第1の間隔W2を、第1の太陽電池11の幅W1と第1の間隔W2の和で割った値である。横軸は、第2の間隔dを、第1の太陽電池の幅W1で割った値を示している。縦軸は、室外側の受光面のみの発電量を100%として、室内側の受光面での発電による出力上昇が全体の発電量の何%であるのかを示している。
【0031】
この
図4が示すように、横軸が0.1より小さくなると、急激に出力上昇率が低下することがわかる。これは、第2の間隔dが非常に小さくなると、反射膜31からの反射光を効果的に第1の太陽電池11の他方の面11Bに受光させることが難しくなっていることを示している。従って、第1の太陽電池11と反射膜31との間隔である第2の間隔dは、第1の太陽電池11が有する幅W1の0.1倍以上であることが望ましい。
【0032】
なお、
図2に示した反射膜31の表面に凹凸を設けることにより、近赤外成分41を乱反射させ、太陽光の入射角によらず、第1の太陽電池11の他方の面11B、第2の太陽電池12の他方の面12Bに近赤外成分41を受光させる構成としてもよい。
【0033】
なお、本実施形態においては、
図2に示すように、反射膜31における第1の太陽電池11との対向面側に、第1の太陽電池11の他方の面11Bに対向する第1の反射板51と、第2の太陽電池12の他方の面12Bに対向する第2の反射板52とを設けている。
【0034】
この第1の反射板51、第2の反射板52は、例えば金属板や白色反射板であり、室外から入射した近赤外成分41と可視光成分42を他方の面11B、12Bに受光させることができる。
【0035】
第1の反射板51、第2の反射板52は、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12と同様に、一方向に延伸する形状を有している。そのため、第1の太陽電池11と第2の太陽電池12との間に入射してきた太陽光における可視光成分42の一部は、この第1の反射板51と第2の反射板52との間を通過して上述した反射膜31に入射する。従って、室内にいる人が、このガラス建材100を介して、室外の景色を見ることができる。
【0036】
なお、第1の反射板51の幅W3を、第1の太陽電池の幅W1よりも大きい構成とすることにより、第1の反射板51に入射した近赤外成分41と可視光成分42を、より効率よく第1の太陽電池11の他方の面11Bに受光させることができ、また、ガラス建材100の遮光性を高めることができる。更に、第1の太陽電池11の他方の面11B側を第1の反射板51で隠すことができ、室内側から見たデザイン上のメリットがある。
【0037】
なお、本実施形態においては、
図2に示すように、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12と、反射膜31との間に封止材61を設けている。封止材61はEVA(Ethylene Vinyl Acetate Copolymer)樹脂などの熱硬化性樹脂であり、複数の太陽電池13を保護するとともに、ガラス建材100における複数の太陽電池13の位置を固定している。
【0038】
なお、
図2に示す構成においては、第1の反射板51が、反射膜31における複数の太陽電池13と対向する面側に配置されているが、
図5に示すように、反射膜31における複数の太陽電池13と対向しない面側に配置してもかまわない。
図5においては、第1の反射板51、第2の反射板52が、第2のガラス基板22を介して、反射膜31における第1の太陽電池11と対向しない面側に配置されている。このような構成とすることにより、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12に対する、第1の反射板51と第2の反射板52の相対的な位置関係を、精度よく合わせることができる。即ち、第1のガラス基板21と第2のガラス基板22との位置が、封止材61により固定された後に、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12の位置を確認しながら第1の反射板51、第2の反射板52を配置することができるため、精度よく所望の位置に配置することができる。
【0039】
なお、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12と、反射膜31との間には、
図6に示すように、封止材61の代わりに第3のガラス基板23を設ける構成としてもよい。この場合、封止材61は、第1のガラス基板21、第3のガラス基板23、第1の太陽電池11、第2の太陽電池12の間に介在し、それぞれの位置を固定する。
【0040】
なお、反射膜31と第2のガラス基板22との間には、
図7に示すように、空気層71が介在するなど、可視光成分42に対する透過率の高い層が介在してもよい。
【0041】
なお、本実施形態においては、反射膜31の例としてLow-E膜を挙げたが、可視光領域の透過率が反射率よりも高く、近赤外領域の反射率が透過率よりも高い膜であれば他の膜でもよい。例えば、反射膜31は、酸化スズ成分の調整で近赤外域の反射率を高める工夫を施された透明導電膜TCOでもよい。また反射膜31を波長別に反射ピークが異なる複数の反射膜により構成してもかまわない。