(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】鉄道車両の車輪とレール間の摩擦力向上装置
(51)【国際特許分類】
B61C 15/10 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
B61C15/10
(21)【出願番号】P 2019183469
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】山本 大輔
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-047223(JP,U)
【文献】特開2012-056427(JP,A)
【文献】特開2004-050960(JP,A)
【文献】特開2014-141257(JP,A)
【文献】特開2005-350042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61C 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪とレール間の摩擦力を向上させる摩擦力向上装置であって、
前記レール上の前記車輪の前方にマイクロバブルを含む水を噴射する噴射装置を有
し、
前記レールと前記車輪の接触面が水潤滑条件であるか否かを判定する接触面監視装置を有することを特徴とする摩擦力向上装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦力向上装置において、
前記マイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置と、前記水を加熱する加熱器を備えることを特徴とする摩擦力向上装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摩擦力向上装置において、
前
記接触面監視装置からの情報に応じて駆動することを特徴とする摩擦力向上装置。
【請求項4】
請求項
1から3の何れか1項に記載の摩擦力向上装置において、
前記接触面監視装置は、前記鉄道車両に取り付けられることを特徴とする摩擦力向上装置。
【請求項5】
請求項
1から3の何れか1項に記載の摩擦力向上装置において、
前記接触面監視装置は、地上に設置されることを特徴とする摩擦力向上装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の摩擦力向上装置において、
前記噴射装置は、前記鉄道車両の走行方向先頭に取り付けられることを特徴とする摩擦力向上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両が走行する際に、車輪とレールの間の摩擦力を向上させて鉄道車両の空転や滑走を緩和する摩擦力向上装置に関し、特に、降雨時などレール面が水潤滑条件時に鉄道車両の空転や滑走をより効果的に緩和する摩擦力向上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、車輪とレール間の摩擦力が小さいという特徴があり、環境条件が適切でない場合や急加速又は急制動の際など、車輪の回転速度が地面に対する絶対速度と比較して大きくなる空転・滑走が発生する場合がある。このような車輪の空転・滑走が発生すると、所定の運行計画(ダイヤ)通りの運行が困難となる場合があり、また、車輪とレールの接触部分に傷などの損傷が生じて保守作業が必要となるという問題がある。
【0003】
このような車輪の空転・滑走を防止するために種々の手段が知られている。例えば、特許文献1に示すように、動軸の空転を検出する空転検出手段と従軸の回転数から鉄道車両の走行速度を検出する速度検出手段とを備え、動軸の空転が検出された場合に鉄道車両の走行速度に応じて定めた一定の回転数を機関調速機に対して指令する回転数指令手段を備えた空転防止機能を備えた鉄道車両が知られている。このような空転防止機能を備えた鉄道車両によれば、極めて簡易な構成でありながら発生した空転を短時間に収束させ、あるいは空転を微小な範囲に抑えることができる。
【0004】
また、特許文献2に示すように、鉄道車両の車輪とレール間の摩擦係数を増大させる作用を有する粒子状又は粉末状のスリップ防止材を車輪とレールの接触部に高速で噴射可能な噴射装置を備えた鉄道車両用スリップ防止材噴射装置が知られている。このような鉄道車両用スリップ防止材噴射装置によれば、レールと車輪の間に必要に応じてスリップ防止材を噴射することで車輪とレールの間の摩擦係数を向上させて車輪の滑走を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-66171号公報
【文献】特許第2950641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の空転・滑走防止手段によると、鉄道車両側の空転・滑走制御を適切にすることで空転・滑走を可能な限り抑える手法が採用されており、いわば空転・滑走の発生をいち早く捉え、その対策を行うことに主眼が置かれている。このような従来の空転・滑走防止手段では、車輪とレール間の滑りやすい状態を改善することは考慮されていない。例えば雨天時など、レール上に水滴が残存する場合、車輪がレール上に残存した水滴を踏みつけながら走行するので、車輪とレールの間が水によって潤滑された状態となる。このとき、鉄道車両の速度に応じた厚さの水膜が車輪とレールの間に生成されるので、車輪とレールの摩擦力が低下して空転・滑走が発生する場合がある。
【0007】
このようにレール面が水潤滑条件の場合には、鉄道車両の走行速度が速いほど、車輪とレールの間に厚い水膜が生成され、空転・滑走が発生しやすくなるという問題があり、従来のように空転・滑走を可能な限り抑える手法では、本質的に空転・滑走の抑制を行うことが難しいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、レール面が水潤滑条件である場合に、鉄道車両の空転・滑走の緩和及び空転・滑走制御の性能向上を図ることができる摩擦力向上装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る摩擦力向上装置は、鉄道車両の車輪とレール間の摩擦力を向上させる摩擦力向上装置であって、前記レール上の前記車輪の前方にマイクロバブルを含む水を噴射する噴射装置を有し、前記レールと前記車輪の接触面が水潤滑条件であるか否かを判定する接触面監視装置を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る摩擦力向上装置において、前記マイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置と、前記水を加熱する加熱器を備えると好適である。
【0011】
また、本発明に係る摩擦力向上装置において、前記接触面監視装置からの情報に応じて駆動することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る摩擦力向上装置において、前記接触面監視装置は、前記鉄道車両に取り付けられると好適である。
【0013】
また、本発明に係る摩擦力向上装置において、前記接触面監視装置は、地上に設置されると好適である。
【0014】
また、本発明に係る摩擦力向上装置において、前記噴射装置は、前記鉄道車両の走行方向先頭に取り付けられると好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る摩擦力向上装置は、レールの車輪との接触面にマイクロバブルを含む水を噴射する噴射装置を有するので、レールの車輪との接触面(以下、「レール面」という)上の雨滴とマイクロバブルを有する噴射水が置き換わることで、レール面上に残存する水滴の体積が減少し、車輪とレール間の摩擦力が向上する。同時に、マイクロバブルを含む水の噴射時や車輪が噴射水を踏みつけたときの気泡の消滅による衝撃によってレール面の汚れを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る摩擦力向上装置を備えた鉄道車両の概念図。
【
図2】本発明の実施形態に係る摩擦力向上装置の動作を説明するための概念図。
【
図3】本発明の実施形態に係る摩擦力向上装置の噴射後のレールと車輪間の水膜の状態を説明するための概念図。
【
図4】降雨時のレールと車輪間の水膜の状態を説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦力向上装置を備えた鉄道車両の概念図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る摩擦力向上装置の動作を説明するための概念図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る摩擦力向上装置の噴射後のレールと車輪間の水膜の状態を説明するための概念図であり、
図4は、降雨時のレールと車輪間の水膜の状態を説明するための概念図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る摩擦力向上装置10は、鉄道車両1に取り付けられた噴射装置11、マイクロバブル発生装置12、加熱器13を備えている。鉄道車両1は、長手方向に沿って延設されたレール2上を走行し、レール2は、鉄道車両1の車輪3と接触している。
【0020】
噴射装置11は、鉄道車両1の走行方向の先頭車両に取り付けられると好適であり、後述するマイクロバブルを含む水20をレール2上の車輪3の前方に噴射する。噴射装置11のマイクロバブルを含む水の噴射量、噴射圧力並びに接触面に対する噴射角度は、接触面上の雨滴が適切に噴射水と置き換わることができれば、適宜変更可能である。
【0021】
マイクロバブル発生装置12は、直径が1~100μm程度の気泡を発生させる装置であり、エジェクタに加圧された液体を送り、該エジェクタ内部に発生する無数の剥離流により自吸されるガスを微粒化して気泡を生成する方法、キャビテーション構造を有する発生器に加圧された液体を送り、構造部で発生するキャビテーション現象を利用し液体に含まれる溶存ガスを析出させて気泡を生成する方法、筒状の構造を有する発生器に偏心方向から加圧された液体を送り、円筒中心部に形成される気柱により空気を自吸させ、吐出する際の速度差で生じるせん断力により気泡を生成する方法、並びに、圧力下で気体を強制的に溶解させ、大気開放などにより減圧させて気泡を析出させる方法など、種々の発生方法を採用することが可能である。
【0022】
加熱器13は、マイクロバブル発生装置12で生成したマイクロバブルを混合した水を所定の温度に加熱する。なお、当該水は、図示しない貯水タンクから適宜供給される。加熱方法は、種々の加熱方法を採用することができ、例えば電熱線を用いたヒータなどが好適に用いられる。
【0023】
このように構成された本実施形態に係る摩擦力向上装置10は、
図2に示すように、加熱器13によって加熱された水にマイクロバブル発生装置12で生成したマイクロバブルを混合し、当該マイクロバブルを含む水20を噴射装置11によってレール2上の車輪3前方に向けて噴射することで、降雨時における接触面上の雨滴によって形成された水膜22とマイクロバブルを含む水膜21が置き換わる。
【0024】
これにより、
図3に示すようにレール2と車輪3との接触面にマイクロバブルを含む水膜21で常に満たされる状態となる。このように、接触面にマイクロバブルを含む水膜21を形成することで、接触面の微小な凹凸に気泡が入り込み、乾燥状態に近い接線力特性が局所的に表れ、
図4に示すような、接触面に雨滴による水膜22が形成されている水潤滑条件よりも相対的に摩擦力が大きくなり、車輪3の空転や滑走を防止することが可能となる。
【0025】
また、接触面の水膜21がマイクロバブルを含むことで、車輪3とレール2の接触面での単位体積当たりの水分量を低下させることができ、摩擦力の向上を図ることができる。
【0026】
さらに、降雨時に
図4に示すような雨滴による水膜22が形成された接触面にマイクロバブルを含む水20を噴射することで、当該水20の噴射による噴射圧力と、マイクロバブルを含む水20が接触面に噴射されることによるマイクロバブルの破裂によって、レール2上と接触面の汚れ成分を除去することが可能となり、摩擦力の向上を図ることが可能となる。
【0027】
またさらに、マイクロバブルを含む水20は、加熱器13によって加熱された水を用いているため、加熱されたマイクロバブルを含む水20が噴射されることで、レール2上の冷たい水膜22がマイクロバブルを含む水膜21に置き換わるので、水の粘度が低下し、車輪3とレール2の接触面間の水膜21の厚さが薄くなり、摩擦力の向上を図ることができる。
【0028】
なお、本実施形態に係る摩擦力向上装置10は、降雨時になどに、運転手などが手動によって噴射の有無を設定しても構わないが、
図1に示すように、鉄道車両1に取り付けられた車上接触面監視装置14又は、線路近傍に設置された地上接触面監視装置15の少なくともいずれか一方を備えていると好適である。
【0029】
車上接触面監視装置14は、レール2と車輪3の接触面の状態を種々のセンサなどを用いて監視しており、接触面が水潤滑条件であると判断した場合に摩擦力向上装置10を起動する信号を送信すると好適である。
【0030】
線路近傍の地上接触面監視装置15は、上述した車上接触面監視装置14と同様に接触面の状態を監視するセンサ及び、鉄道車両1の走行状態の監視をするセンサを有すると好適である。このように、地上接触面監視装置15は、鉄道車両1の走行状態も監視しているので、接触面が水潤滑条件かつ鉄道車両1の加減速にのみ摩擦力向上装置10を起動する信号を送信することで、より適切な摩擦力向上装置10の運用を行うことが可能となる。
【0031】
また、上述した本実施形態に係る摩擦力向上装置10は、
図1において車上接触面監視装置14及び地上接触面監視装置15をそれぞれ有する形態について説明を行ったが、これらの接触面監視装置は、いずれか一方のみを有する形態としても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0032】
1 鉄道車両, 2 レール, 3 車輪, 10 摩擦力向上装置, 11 噴射装置, 12 マイクロバブル発生装置, 13 加熱器, 14 車上接触面監視装置, 15 地上接触面監視装置, 20 水, 21,22 水膜。