(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】正極活物質粒子及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221116BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221116BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20221116BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20221116BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221116BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01G11/24
H01G11/46
C01G53/00 A
C01G51/00 A
(21)【出願番号】P 2019516737
(86)(22)【出願日】2018-05-01
(86)【国際出願番号】 IB2018053005
(87)【国際公開番号】W WO2018207049
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2017095476
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正弘
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 彩恵
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/069702(WO,A1)
【文献】特開2004-363097(JP,A)
【文献】特開2005-158612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 51/00
H01G 11/06
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の結晶粒と、第2の結晶粒と、前記第1の結晶粒及び前記第2の結晶粒の間に位置する結晶粒界と、を有し、
前記第1の結晶粒及び前記第2の結晶粒は、リチウムと、遷移金属と、酸素と、を有し、
前記結晶粒界は、酸化マグネシウムを有し、
前記結晶粒界は、前記第1の結晶粒及び前記第2の結晶粒よりマグネシウム濃度が高い領域を有する、正極活物質粒子。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の結晶粒における遷移金属の原子数に対する、前記結晶粒界におけるマグネシウムの原子数の比が、0.010以上0.50以下の領域を有する正極活物質粒子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記結晶粒界はさらにフッ素を有し、
前記結晶粒界は、前記第1の結晶粒及び前記第2の結晶粒よりフッ素濃度が高い領域を有する、正極活物質粒子。
【請求項4】
請求項3において、
前記第1の結晶粒における遷移金属の原子数に対する、前記結晶粒界におけるフッ素の原子数の比が、0.020以上1.00以下の領域を有する正極活物質粒子。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
前記遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、チタン、バナジウム及びニオブのいずれか一以上を有する、正極活物質粒子。
【請求項6】
請求項1乃至5
のいずれか一に記載された前記正極活物質粒子と、導電助剤と、を有する正極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明の一様態は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置または電子機器の製造方法に関する。特に、二次電池に用いることのできる正極活物質、二次電池、および二次電池を有する電子機器に関する。
【0002】
なお、本明細書中において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電池(二次電池ともいう)、リチウムイオンキャパシタ、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【0003】
また、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は、携帯電話、スマートフォン、もしくはノート型コンピュータ等の携帯情報端末、携帯音楽プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、又は、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、もしくはプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
そのため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上および高容量化のために、正極活物質の改良が検討されている(特許文献1および特許文献2)。
【0006】
また、蓄電装置に要求されている特性としては、様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-018914号公報
【文献】特開2016-076454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン二次電池およびそれに用いられる正極活物質には、容量、サイクル特性、充放電特性、信頼性、安全性、又はコストといった様々な面で、改善が望まれる。
【0009】
上記に鑑み、本発明の一態様は、劣化が少ない正極活物質粒子を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、新規な正極活物質粒子を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、劣化が少ない蓄電装置を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、安全性の高い蓄電装置を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、新規な蓄電装置を提供することを課題の一とする。
【0010】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、第1の結晶粒と、第2の結晶粒と、第1の結晶粒及び第2の結晶粒の間に位置する結晶粒界と、を有し、第1の結晶粒及び第2の結晶粒は、リチウムと、遷移金属と、酸素と、を有し、結晶粒界は、マグネシウムと、酸素と、を有する、正極活物質粒子である。
【0012】
前述の正極活物質粒子において、遷移金属の原子濃度に対する、マグネシウムの原子濃度の比が、0.010以上0.50以下の領域を有することが好ましい。
【0013】
前述の正極活物質粒子において、結晶粒界はさらにフッ素を有することが好ましい。
【0014】
前述の正極活物質粒子において、遷移金属の原子濃度に対する、フッ素の原子濃度の比が、0.020以上1.00以下の領域を有することが好ましい。
【0015】
前述の正極活物質粒子は、遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、チタン、バナジウム及びニオブのいずれか一以上を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様により、劣化が少ない正極活物質粒子を提供できる。また、新規な正極活物質粒子を提供できる。また、劣化が少ない蓄電装置を提供できる。また、安全性の高い蓄電装置を提供できる。また、新規な蓄電装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】正極活物質粒子の作製方法の一例を説明する図。
【
図4】導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図。
【
図17】曲げることのできる二次電池を説明する図。
【
図18】曲げることのできる二次電池を説明する図。
【
図23】実施例に係る正極活物質粒子の断面のTEM像とその模式図。
【
図24】実施例に係る正極活物質粒子の断面のSTEM像。
【
図25】実施例に係る正極活物質粒子のHAADF-STEM像及びEDXの点分析を説明する図。
【
図26】実施例に係る正極活物質粒子のEDXスペクトル及び定量結果を示す図。
【
図27】実施例に係る正極活物質粒子のEDXスペクトル及び定量結果を示す図。
【
図28】実施例に係る正極活物質粒子のEDXスペクトル及び定量結果を示す図。
【
図29】実施例に係る正極活物質粒子のEDXスペクトル及び定量結果を示す図。
【
図30】実施例に係る正極活物質粒子のEDXスペクトル及び定量結果を示す図。
【
図31】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの面分析におけるマッピング像。
【
図32】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの面分析におけるマッピング像。
【
図33】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析を説明する図。
【
図34】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子濃度を示す図。
【
図35】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子濃度を示す図。
【
図36】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子数の比を示す図。
【
図37】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの面分析におけるマッピング像。
【
図38】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの面分析におけるマッピング像。
【
図39】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子濃度を示す図。
【
図40】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子濃度を示す図。
【
図41】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子数の比を示す図。
【
図42】実施例に係る正極活物質粒子の断面のTEM像とその模式図。
【
図43】実施例に係る正極活物質粒子の断面のSTEM像。
【
図44】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの面分析におけるマッピング像。
【
図45】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの面分析におけるマッピング像。
【
図46】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析を説明する図。
【
図47】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子濃度を示す図。
【
図48】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子濃度を示す図。
【
図49】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子数の比を示す図。
【
図50】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの面分析におけるマッピング像。
【
図51】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの面分析におけるマッピング像。
【
図52】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子濃度を示す図。
【
図53】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子濃度を示す図。
【
図54】実施例に係る正極活物質粒子のEDXの線分析における原子数の比を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0019】
なお、本明細書で説明する各図において、正極、負極、活物質層、セパレータ、外装体などの各構成要素の大きさや厚さ等は、個々に説明の明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしも各構成要素はその大きさに限定されず、また各構成要素間での相対的な大きさに限定されない。
【0020】
また、本明細書等で説明する本発明の構成において、同一部分又は同様の機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、同様の機能を有する部分を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0021】
また、結晶面および方向の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等における結晶面および方向の表記は、出願表記の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞれ表現する。
【0022】
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(例えばA,B,C)を有する固体において、ある元素(例えばB)の濃度が不均一に分布する現象をいう。
【0023】
(実施の形態1)
[正極活物質の構造]
本発明の一態様である正極活物質粒子100について、
図1(A)乃至
図1(C)、
図2(A)乃至
図2(C)を用いて説明する。
【0024】
図1(A)に、正極活物質粒子100の外観を示す。正極活物質粒子100は、不定形の粒子である。なお、
図1(A)に示した正極活物質粒子100の形状は一例であり、これに限られない。
【0025】
正極活物質粒子100は、複数の結晶粒101及び複数の結晶粒界103を有する。
図1(B)に、正極活物質粒子100が有する結晶粒101及び結晶粒界103を示す。
図1(B)において、結晶粒界103を破線で示しているが、結晶粒101と結晶粒界103の境界が明確でない場合がある。なお、
図1(B)に示した結晶粒101及び結晶粒界103の形状及び数は一例であり、これに限られない。
【0026】
結晶粒101は結晶粒内の結晶方位が略一定の粒子である。隣り合う結晶粒101はそれぞれ異なる結晶方位を有し、隣り合う結晶粒と結晶粒の間に結晶粒界103を有する。つまり、正極活物質粒子100は、結晶粒界103を挟んで、複数の結晶粒101を有する。正極活物質粒子100は、多結晶であるとも言える。正極活物質粒子100は、結晶欠陥105を有してもよく、非晶質の領域を有してもよい。なお、本明細書等において、結晶欠陥とはTEM像等で観察可能な体欠陥、面欠陥、点欠陥又は結晶中に他の元素が入り込んだ構造等を指す。なお、結晶粒を結晶子と呼ぶ場合がある。
【0027】
正極活物質粒子100内の結晶粒101及び結晶粒界103の確認には、X線回折(XRD:X-ray Diffraction)、中性子線回折、電子線回折(ED:Electron Diffraction)、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)像、走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscopy)像、TEM像またはSTEM像で得られた格子像に対する高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)解析、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM:High-Angle Annular Dark Field Scanning TEM)像、環状明視野走査透過電子顕微鏡(ABF-STEM:Annular Bright-Field Scanning TEM)像、ラマン分光法(Raman Spectroscopy)、電子後方散乱回折法(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)等を用いることができる。なお、電子後方散乱回折法はEBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern)と呼ばれる場合がある。例えば、TEM像において、TEM像の濃度(輝度)が略均一であれば結晶方位は略一定である、つまり単結晶であると判断できる場合がある。また、結晶方位によりTEM像の濃度(輝度)が異なるため、濃度(輝度)が変化する領域が粒界であると判断できる場合がある。しかし、必ずしも各種分析によって、結晶粒101及び結晶粒界103の明確な境界を観察できなくてもよい。
【0028】
結晶粒101及び結晶粒界103は、異なる組成を有する。結晶粒101はリチウム、遷移金属及び酸素を有する。結晶粒界103はマグネシウム及び酸素を有する。また、結晶粒界103はさらにフッ素を有すると好ましい。
【0029】
結晶粒101及び結晶粒界103は、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、飛行時間型二次イオン質量分析(ToF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)、X線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、オージェ電子分光(AES:Auger Electron Spectroscopy)、電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)等によって、異なる組成を有することを確認できる。ただし、必ずしも各種分析によって、結晶粒101及び結晶粒界103の明確な境界を観察できなくてもよい。また、分析手法などによっては、所望の分析対象元素が検出されない場合がある。または、分析対象元素の濃度が極めて低い場合においても、当該分析対象元素が検出されない場合がある。
【0030】
<結晶粒界>
本発明の一態様である正極活物質粒子100が有する結晶粒界103は、マグネシウム及び酸素を有する。結晶粒界103は酸化マグネシウムを有する。また、結晶粒界103はさらにフッ素を有すると好ましい。酸化マグネシウムが有する一部の酸素がフッ素で置換されていてもよい。酸化マグネシウムが部分的にフッ素で置換されることにより、例えばリチウムの拡散性を高めることができ、充放電を妨げない。結晶粒界103はフッ素を有することで、フッ酸に溶けにくい場合がある。
【0031】
結晶粒101と比較して、結晶粒界103はマグネシウム濃度が高い領域を有する。結晶粒界103は、マグネシウムが偏析している領域を有するともいえる。
【0032】
結晶粒101と比較して、結晶粒界103はフッ素濃度が高い領域を有する。結晶粒界103は、フッ素が偏析している領域を有するともいえる。
【0033】
図2(A)に示す正極活物質粒子100の一点鎖線A1-A2間の、マグネシウム濃度分布の一例を
図2(B)、フッ素濃度分布の一例を
図2(C)に示す。
図2(B)及び
図2(C)において、横軸は
図2(A)における一点鎖線A1-A2間の距離を示し、縦軸はそれぞれマグネシウム濃度(Mg Concentration)及びフッ素濃度(F Concentration)を示す。
【0034】
結晶粒101と比較して、結晶粒界103及び結晶粒界103の近傍はマグネシウム及びフッ素の濃度が高い領域を有する。また、結晶欠陥105においても、マグネシウム及びフッ素の濃度が高い領域を有する場合がある。なお、
図2(B)及び
図2(C)において、結晶粒界103及び結晶欠陥105が同じ濃度である例を示しているが、これに限られない。また、マグネシウム及びフッ素の濃度分布の形状は、
図2(B)及び
図2(C)に示した形状に限られない。
【0035】
ここで、結晶粒101における遷移金属の原子数をTr-Metalと表す。結晶粒101の遷移金属の原子数(Tr-Metal)とは、結晶粒101が有する各遷移金属の原子数の総数を指す。
【0036】
正極活物質粒子100は、結晶粒101における遷移金属の原子数に対する、結晶粒界103におけるマグネシウムの原子数の比(Mg/Tr-Metal)が、0.010以上0.50以下の領域を有することが好ましい。さらには、正極活物質粒子100は、Mg/Tr-Metalが0.020以上0.30以下の領域を有することが好ましい。さらには、正極活物質粒子100は、Mg/Tr-Metalが0.030以上0.20以下の領域を有することが好ましい。前述のMg/Tr-Metalとすることで、正極活物質の劣化を低減できる。つまり、蓄電装置の劣化を抑制できる。また、安全性の高い蓄電装置とすることができる。
【0037】
なお、本明細書等において、遷移金属とは周期表の第3族乃至第12族に属する元素を指す。前述の族番号は、国際純正・応用化学連合(IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry)の無機化学命名法改訂版(1989年)において第1族乃至第18族に分類される周期表に基づく。
【0038】
一般的に、蓄電装置が充放電を繰り返すにつれ、蓄電装置が有する正極活物質粒子からコバルトやマンガン等の遷移金属が電解液に溶出する、酸素が脱離する、結晶構造が不安定になる、といった副反応が生じ、正極活物質粒子の劣化が進む場合がある。正極活物質粒子が劣化することで、蓄電装置の容量が低下する等の劣化が進む場合がある。なお、本明細書等において、正極活物質粒子の遷移金属が電解液に溶出する、酸素が脱離する、結晶構造が不安定になる等、正極活物質粒子が化学的、構造的に変化することを正極活物質粒子の劣化と呼ぶ場合がある。本明細書等において、蓄電装置の容量が低下することを蓄電装置の劣化と呼ぶ場合がある。
【0039】
正極活物質粒子から溶出した金属は、負極で還元されて析出し、負極の電極反応を妨げる場合がある。負極に金属が析出することで、容量低下などの劣化が進む場合がある。
【0040】
充放電に伴うリチウムの挿入、脱離によって、正極活物質粒子の結晶格子が膨張、収縮し、結晶格子の体積変化及びゆがみが生じる場合ある。結晶格子の体積変化及びゆがみは、正極活物質粒子が割れる原因となり、容量低下などの劣化が進む場合がある。また、正極活物質粒子の割れは、結晶粒界が起点となる場合がある。
【0041】
蓄電装置内部が高温になり、正極活物質粒子から酸素が脱離すると、蓄電装置の安全性が損なわれる可能性が考えられる。また、酸素の脱離により、正極活物質粒子の結晶構造が変化し、容量低下などの劣化が進む場合がある。なお、充放電に伴うリチウムの挿入、脱離によっても正極活物質粒子から酸素が脱離する場合がある。
【0042】
一方、酸化マグネシウムは化学的、構造的に安定な材料である。リチウムイオン二次電池などの蓄電装置において、正極活物質粒子が有する酸化マグネシウムは、それ自体は電池反応にほぼ関与しない。つまり、酸化マグネシウムでリチウムの挿入、脱離が起こりづらいため、酸化マグネシウム自体は充放電を経ても化学的、構造的に安定である。
【0043】
本発明の一態様である正極活物質粒子100は結晶粒界103に酸化マグネシウムを有することにより、正極活物質粒子100が化学的、構造的に安定し、充放電による構造変化、体積変化及びゆがみを抑制できる。つまり、正極活物質粒子100の結晶構造がより安定となり、充放電を繰り返しても結晶構造が変態するのを抑制できる。また、正極活物質粒子100の割れを抑制できる。つまり、容量低下などの劣化を抑制でき、好ましい。充電電圧が高く、充電時に正極に存在するリチウムの量がより少なくなる場合、結晶構造が不安定になり、劣化しやすくなる。本発明の一態様である正極活物質粒子100の結晶構造はより安定であるため、容量低下などの劣化を抑制でき、特に好ましい。
【0044】
本発明の一態様である正極活物質粒子100は、結晶構造が安定であることから、正極活物質粒子から遷移金属が溶出するのを抑制できる。つまり、容量低下などの劣化を抑制でき、好ましい。
【0045】
また、本発明の一態様である正極活物質粒子100が結晶粒界に沿って割れた場合、割れた後の正極活物質粒子の表面に酸化マグネシウムを有する。つまり、割れた後の正極活物質においても副反応を抑制でき、正極活物質の劣化を低減できる。つまり、蓄電装置の劣化を抑制できる。
【0046】
本発明の一態様である正極活物質粒子100は結晶粒界103に酸化マグネシウムを有することにより、正極活物質粒子100が有する酸素が結晶粒界を拡散するのが抑制され、正極活物質粒子100から酸素が脱離するのを抑制できる。正極活物質粒子100を用いることで、安全性の高い蓄電装置とすることができる。
【0047】
また、結晶欠陥105が酸化マグネシウムを有すると、正極活物質粒子100の結晶構造が安定化し、好ましい。
【0048】
正極活物質粒子100は、結晶粒101における遷移金属の原子数に対する、結晶粒界103におけるフッ素の原子数の比(F/Tr-Metal)が、0.020以上1.00以下の領域を有することが好ましい。さらには、正極活物質粒子100は、F/Tr-Metalが0.040以上0.60以下の領域を有することが好ましい。さらには、正極活物質粒子100は、F/Tr-Metalが0.060以上0.40以下の領域を有することが好ましい。前述のF/Tr-Metalとすることで、結晶粒界及びその近傍に効率良くマグネシウムを偏析させられる。つまり、正極活物質の劣化を低減できる。蓄電装置の劣化を抑制できる。また、安全性の高い蓄電装置とすることができる。
【0049】
<結晶粒>
本発明の一態様である正極活物質粒子100が有する結晶粒101は、リチウム、遷移金属及び酸素を含む。例えば、結晶粒101は、リチウム、遷移金属及び酸素を含む複合酸化物を有する。また、遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、チタン、バナジウム、ニオブ等の一以上を用いることができる。
【0050】
結晶粒101として例えば、層状岩塩型の結晶構造、またはスピネル型の結晶構造を有する複合酸化物等を用いることができる。また、結晶粒101として例えば、ポリアニオン系の正極材料を用いることができる。ポリアニオン系の正極材料として例えば、オリビン型の結晶構造を有する材料、ナシコン型の材料、等が挙げられる。また、結晶粒101として例えば、硫黄を有する正極材料を用いることができる。
【0051】
結晶粒101として、様々な複合酸化物を用いることができる。例えば、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、Li2MnO3、V2O5、Cr2O5、MnO2等の化合物を用いることができる。
【0052】
層状岩塩型の結晶構造を有する材料として例えば、LiMO2で表される複合酸化物を用いることができる。元素Mは、CoまたはNiより選ばれる一以上であることが好ましい。LiCoO2は、容量が大きいこと、大気中で安定であること、熱的に比較的安定であること等の利点があるため、好ましい。また、元素Mとして、CoおよびNiより選ばれる一以上に加えて、AlおよびMnより選ばれる一以上を有してもよい。
【0053】
例えば、LiNixMnyCozOw(x、y、zおよびwはそれぞれ例えばx=y=z=1/3またはその近傍、w=2またはその近傍)を用いることができる。また、例えば、LiNixMnyCozOw(x、y、zおよびwはそれぞれ例えばx=0.8またはその近傍、y=0.1またはその近傍、z=0.1またはその近傍、w=2またはその近傍)を用いることができる。また、例えば、LiNixMnyCozOw(x、y、zおよびwはそれぞれ例えばx=0.5またはその近傍、y=0.3またはその近傍、z=0.2またはその近傍、w=2またはその近傍)を用いることができる。また、例えば、LiNixMnyCozOw(x、y、zおよびwはそれぞれ例えばx=0.6またはその近傍、y=0.2またはその近傍、z=0.2またはその近傍、w=2またはその近傍)を用いることができる。また、例えば、LiNixMnyCozOw(x、y、zおよびwはそれぞれ例えばx=0.4またはその近傍、y=0、4またはその近傍、z=0.2またはその近傍、w=2またはその近傍)を用いることができる。
【0054】
近傍とは例えば、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値である。
【0055】
結晶粒101が有する遷移金属やリチウムの一部をFe、Co、Ni、Cr、Al、Mgなどから選ばれる一以上の元素で置換した材料や、結晶粒101にFe、Co、Ni、Cr、Al、Mgなどから選ばれる一以上の元素をドープした材料を結晶粒101として使用してもよい。
【0056】
スピネル型の結晶構造を有する材料として例えば、LiM2O4で表される複合酸化物を用いることができる。元素MとしてMnを有することが好ましい。例えば、LiMn2O4を用いることができる。また元素Mとして、Mnに加えてNiを有することにより、二次電池の放電電圧が向上し、エネルギー密度が向上する場合があり、好ましい。また、LiMn2O4等のマンガンを含むスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料に、少量のニッケル酸リチウム(LiNiO2やLiNi1-xMxO2(M=Co、Al等))を混合することにより、二次電池の特性を向上させることができ好ましい。
【0057】
正極活物質は例えば、一次粒子の平均粒子径が、1nm以上100μm以下であることが好ましく、50nm以上50μm以下であることがより好ましく、1μm以上30μm以下であることがより好ましい。また比表面積が1m2/g以上20m2/g以下であることが好ましい。また、二次粒子の平均粒子径は、5μm以上50μm以下であることが好ましい。なお平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)またはTEMによる観察、またはレーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計等によって測定することができる。また比表面積は、ガス吸着法により測定することができる。
【0058】
正極活物質の表面に炭素層などの導電性材料を設けてもよい。炭素層などの導電性材料を設けることで、電極の導電性を向上させることができる。例えば、正極活物質への炭素層の被覆は、正極活物質の焼成時にグルコース等の炭水化物を混合することで形成することができる。また、導電性材料として、グラフェン、マルチグラフェン、酸化グラフェン(GO:Graphene Oxide)又はRGO(Reduced Graphene Oxide)を用いることができる。ここで、RGOは例えば、酸化グラフェン(GO)を還元して得られる化合物を指す。
【0059】
正極活物質の表面に酸化物又はフッ化物の一以上を有する層を設けてもよい。酸化物は、結晶粒101と異なる組成を有してもよい。また、酸化物は、結晶粒101と同じ組成を有してもよい。
【0060】
ポリアニオン系の正極材料として例えば、酸素と、元素Xと、金属Aと、金属Mと、を有する複合酸化物を用いることができる。金属MはFe、Mn、Co、Ni、Ti、V、Nbの一以上であり、金属AはLi、Na、Mgの一以上であり、元素XはS、P、Mo、W、As、Siの一以上である。
【0061】
オリビン型の結晶構造を有する材料として例えば、複合材料(一般式LiMPO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上))を用いることができる。一般式LiMPO4の代表例としては、LiFePO4、LiNiPO4、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFeaNibPO4、LiFeaCobPO4、LiFeaMnbPO4、LiNiaCobPO4、LiNiaMnbPO4(a+bは1以下、0<a<1、0<b<1)、LiFecNidCoePO4、LiFecNidMnePO4、LiNicCodMnePO4(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0<e<1)、LiFefNigCohMniPO4(f+g+h+iは1以下、0<f<1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等のリチウム化合物を用いることができる。
【0062】
特にLiFePO4は、安全性、安定性、高容量密度、初期酸化(充電)時に引き抜けるリチウムイオンの存在等、正極活物質に求められる事項をバランスよく満たしているため、好ましい。
【0063】
オリビン型の結晶構造を有する正極活物質は例えば、一次粒子の平均粒子径が、1nm以上20μm以下であることが好ましく、10nm以上5μm以下であることがより好ましく、50nm以上2μm以下であることがより好ましい。また比表面積が1m2/g以上20m2/g以下であることが好ましい。また、二次粒子の平均粒子径は、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0064】
また、一般式Li(2-j)MSiO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上、0≦j≦2)等の複合材料を用いることができる。一般式Li(2-j)MSiO4の代表例としては、Li(2-j)FeSiO4、Li(2-j)NiSiO4、Li(2-j)CoSiO4、Li(2-j)MnSiO4、Li(2-j)FekNilSiO4、Li(2-j)FekColSiO4、Li(2-j)FekMnlSiO4、Li(2-j)NikColSiO4、Li(2-j)NikMnlSiO4(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、Li(2-j)FemNinCoqSiO4、Li(2-j)FemNinMnqSiO4、Li(2-j)NimConMnqSiO4(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1、0<q<1)、Li(2-j)FerNisCotMnuSiO4(r+s+t+uは1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等がある。
【0065】
また、AxM2(XO4)3(A=Li、Na、Mg、M=Fe、Mn、Ti、V、Nb、X=S、P、Mo、W、As、Si)の一般式で表されるナシコン型化合物を用いることができる。ナシコン型化合物としては、Fe2(MnO4)3、Fe2(SO4)3、Li3Fe2(PO4)3等がある。また、結晶粒101として、Li2MPO4F、Li2MP2O7、Li5MO4(M=Fe、Mn)の一般式で表される化合物を用いることができる。
【0066】
また、結晶粒101として、NaFeF3、FeF3等のペロブスカイト型フッ化物、TiS2、MoS2等の金属カルコゲナイド(硫化物、セレン化物、テルル化物)、LiMVO4等の逆スピネル型の結晶構造を有する酸化物、バナジウム酸化物(V2O5、V6O13、LiV3O8等)、マンガン酸化物、有機硫黄化合物等の材料を用いることができる。
【0067】
また、結晶粒101として、一般式LiMBO3(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)の一以上)で表されるホウ酸塩系正極材料を用いることができる。
【0068】
また、結晶粒101として例えば、複合酸化物を複数組み合わせた固溶体を用いることができる。LiMaO2とLi2MbO3の固溶体(Ma、Mbはそれぞれ独立に遷移金属から選ばれる一以上)はリチウム過剰酸化物と呼ばれる場合がある。例えば、LiNixMnyCozO2(x、y、z>0、x+y+z=1)とLi2MnO3の固溶体を結晶粒101として用いることができる。
【0069】
また、結晶粒101として、組成式LiaMnbMcOdで表すことがで寺るリチウムマンガン複合酸化物を用いることができる。ここで、元素Mは、リチウム、マンガン以外から選ばれた金属元素、またはシリコン、リンを用いることが好ましく、ニッケルであることがさらに好ましい。また、リチウムマンガン複合酸化物の粒子全体を測定する場合、放電時に0<a/(b+c)<2、かつc>0、かつ0.26≦(b+c)/d<0.5を満たすことが好ましい。なお、高容量を発現させるために、表層部と中心部で、結晶構造、結晶方位または酸素含有量が異なる領域を有するリチウムマンガン複合酸化物とすることが好ましい。このようなリチウムマンガン複合酸化物とするためには例えば、1.6≦a≦1.848、0.19≦c/b≦0.935、2.5≦d≦3とすることが好ましい。さらに、Li1.68Mn0.8062Ni0.318O3の組成式であらわされるリチウムマンガン複合酸化物を用いることが特に好ましい。本明細書等において、Li1.68Mn0.8062Ni0.318O3の組成式であらわされるリチウムマンガン複合酸化物とは、原料材料の量の割合(モル比)を、Li2CO3:MnCO3:NiO=0.84:0.8062:0.318とすることにより形成したリチウムマンガン複合酸化物をいう。そのため該リチウムマンガン複合酸化物は、組成式Li1.68Mn0.8062Ni0.318O3で表されるが、この組成からずれることもある。
【0070】
なお、リチウムマンガン複合酸化物の粒子全体の金属、シリコン、リン等の組成は、例えばICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いて測定することができる。またリチウムマンガン複合酸化物の粒子全体の酸素の組成は、例えばEDX(エネルギー分散型X線分析)を用いて測定することが可能である。また、ICP-MS分析と併用して、融解ガス分析、XAFS(X線吸収微細構造)分析の価数評価を用いることで求めることができる。なお、リチウムマンガン複合酸化物とは、少なくともリチウムとマンガンとを含む酸化物をいい、クロム、コバルト、アルミニウム、ニッケル、鉄、マグネシウム、モリブデン、亜鉛、インジウム、ガリウム、銅、チタン、ニオブ、シリコン、およびリンなどからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含んでいてもよい。
【0071】
なお、キャリアイオンとして、リチウムの代わりに、ナトリウム、カリウム、ストロンチウム、バリウム、ベリリウム等を用いてもよい。例えばナトリウム含有層状酸化物を用いることができる。
【0072】
ナトリウムを有する材料として例えば、NaFeO2や、Na2/3[Fe1/2Mn1/2]O2、Na2/3[Ni1/3Mn2/3]O2、Na2Fe2(SO4)3、Na3V2(PO4)3、Na2FePO4F、NaVPO4F、NaMPO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上)、Na2FePO4F、Na4Co3(PO4)2P2O7、などのナトリウム含有酸化物を正極活物質として用いることができる。
【0073】
また、正極活物質として、リチウム含有金属硫化物を用いることができる。例えば、Li2TiS3、Li3NbS4などが挙げられる。
【0074】
これまで、正極活物質粒子100が結晶粒101及び結晶粒界103を有する例について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。例えば
図1(C)に示すように、正極活物質粒子100は領域107を有していてもよい。領域107は、例えば、結晶粒101の少なくとも一部と接するように設けることができる。領域107は、グラフェン化合物をはじめとする炭素を有する被膜であってもよいし、リチウムまたは電解液の分解生成物を有する被膜であってもよい。領域107が炭素を有する被膜である場合、正極活物質粒子100同士、および正極活物質粒子100と集電体との導電性を高めることができる。また領域107がリチウムまたは電解液の分解生成物を有する被膜である場合、電解液との過剰な反応を抑制し、二次電池に用いた際サイクル特性を向上させることができる。
【0075】
正極活物質粒子100の粒子径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなる。一方、小さすぎると、電極のかさ密度が減少してしまう、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も生じる。そのため、粒子径は1μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上70μm以下であることがより好ましい。ここで、粒子径とは、例えば体積基準で累積50%の値(D50)を指す。
【0076】
[正極活物質の作製方法]
結晶粒101及び結晶粒界103を有する正極活物質粒子100の作製方法を、
図3を用いて説明する。結晶粒101は、リチウム、遷移金属(M)及び酸素を含む複合酸化物を有する。結晶粒界103はマグネシウム、フッ素及び酸素を有する。
【0077】
まず、出発原料を準備する(ステップS11)。具体的には、リチウム源、遷移金属(M)源、マグネシウム源およびフッ素源をそれぞれ秤量する。
【0078】
リチウム源として、例えば炭酸リチウム、フッ化リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム等を用いることができる。
【0079】
遷移金属(M)源として、例えばコバルト化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、チタン化合物、モリブデン化合物、亜鉛化合物、インジウム化合物、ガリウム化合物、銅化合物、ニオブ化合物等の一以上を用いることができる。
【0080】
コバルト化合物として、例えば酸化コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、炭酸コバルト、シュウ酸コバルト、硫酸コバルト等の一以上を用いることができる。
【0081】
ニッケル化合物として、例えば酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、ギ酸ニッケル等の一以上を用いることができる。
【0082】
マンガン化合物として、例えば酸化マンガン、水酸化マンガン、炭酸マンガン、塩化マンガン、ヨウ化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガンの一以上を用いることができる。
【0083】
鉄化合物として、例えばフッ化鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、シュウ酸鉄、酢酸鉄等の一以上を用いることができる。
【0084】
バナジウム化合物として、例えば酸化バナジウム、水酸化バナジウム、塩化バナジウム、硫酸バナジウムの一以上を用いることができる。
【0085】
チタン化合物として、例えばフッ化チタン、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、酸化チタン、硫化チタン、硫酸チタン等の一以上を用いることができる。
【0086】
モリブデン化合物として、例えば酸化モリブデン、モリブデン酸二アンモニウム、リンモリブデン酸等の一以上を用いることができる。
【0087】
亜鉛化合物として、例えば酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛等の一以上を用いることができる。
【0088】
インジウム化合物として、例えば塩化インジウム、硫酸インジウム、硝酸インジウム、酸化インジウム、水酸化インジウム等の一以上を用いることができる。
【0089】
ガリウム化合物として、例えば塩化ガリウム、フッ化ガリウム等の一以上を用いることができる。
【0090】
銅化合物として、例えば硫酸銅、塩化銅、硝酸銅等の一以上を用いることができる。
【0091】
ニオブ化合物として、例えば酸化ニオブ、塩化ニオブ、酸化硫酸ニオブ、フッ化ニオブ等の一以上を用いることができる。
【0092】
マグネシウム源としては、例えば酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の一以上を用いることができる。
【0093】
フッ素源としては、例えばフッ化リチウム、フッ化マグネシウム等の一以上を用いることができる。つまり、フッ化リチウムはリチウム源としてもフッ素源としても用いることができるし、フッ化マグネシウムはマグネシウム源としてもフッ素源としても用いることができる。
【0094】
また、結晶粒101が、遷移金属(M)に加えて遷移金属以外の金属を有する場合、その遷移金属以外の金属源を秤量する。遷移金属以外の金属としてアルミニウムを有する場合、金属源として例えばアルミニウム化合物を用いることができる。アルミニウム化合物として、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等の一以上を用いることができる。
【0095】
原料の遷移金属(M)とマグネシウムの原子数の比について説明する。原料の遷移金属の原子数M(r)に対する、原料のマグネシウムの原子数Mg(r)の比mは0.0050以上0.050以下、つまり遷移金属の原子数M(r):マグネシウムの原子数Mg(r)=1.0:mにおいて、0.0050≦m≦0.050が好ましい。さらには遷移金属の原子数に対する、マグネシウムの原子数の比mは0.010またはその近傍(1.0%またはその近傍)が好ましい。前述の原子数の比とすることで、結晶粒界103にマグネシウムを有する正極活物質を効率的に作製できる。なお、複数の種類の遷移金属を原料とする場合は、前述の遷移金属の原子数M(r)に、複数の種類の遷移金属原子の総数を用いて計算してもよい。
【0096】
近傍とは例えば、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値である。
【0097】
原料のマグネシウムとフッ素の原子数の比について説明する。原料のマグネシウムの原子数Mg(r)に対する、フッ素の原子数F(r)の比nは1.50以上4.0以下、つまりマグネシウムの原子数Mg(r):フッ素の原子数F(r)=1.0:nにおいて、1.50≦n≦4.0が好ましい。さらにはマグネシウムの原子数に対する、フッ素の原子数の比nは2.0またはその近傍、つまりマグネシウムの原子数Mg(r):フッ素の原子数F(r)=1.0:2.0またはその近傍であることがより好ましい。前述の原子数の比とすることで結晶粒界103にマグネシウム及びフッ素を効率的に偏析させることができる。
【0098】
原料の遷移金属、マグネシウム及びフッ素の原子数比は、数式1で示すことができる。ここで、mは遷移金属の原子数M(r)に対する、マグネシウムの原子数Mg(r)の比を示す。前述したように、0.0050≦m≦0.050が好ましく、さらにはm=0.010またはその近傍が好ましい。nはマグネシウムの原子数Mg(r)に対する、フッ素の原子数F(r)の比を示す。前述したように、1.50≦n≦4.0が好ましく、さらにはn=2.0またはその近傍が好ましい。
【0099】
【0100】
正極活物質粒子として、LiCoO2を作製する場合の、原料の比について一例を示す。コバルトの原子数に対するマグネシウムの原子数の比mを0.010とする。マグネシウムの原子数に対するフッ素の原子数の比nを2.0とする。数式1に基づいて、原料のコバルト、マグネシウム及びフッ素の原子数の比を、Co:Mg:F=1.0:0.010:0.020とすることができる。
【0101】
なお、前述した原料の原子数比と、合成して得られる正極活物質粒子100の組成は、一致しない場合がある。
【0102】
原料のリチウム化合物及び遷移金属(M)化合物のmol比については、想定する結晶粒の組成に対応する値を用いればよい。また、例えば、原料のリチウム化合物のmol比に対し、得られる結晶粒のリチウム組成が少ない場合は、原料のリチウム化合物のmol比を大きくしてもよい。
【0103】
次に、秤量した出発原料を混合する(ステップS12)。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。
【0104】
次に、ステップ812で混合した材料に、第1の加熱を行う(ステップS13)。第1の加熱は800℃以上1050℃以下で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましい。加熱時間は、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。第1の加熱は、酸素を有する雰囲気で行うことが好ましい。例えば、乾燥空気の雰囲気で行うことが好ましい。
【0105】
ステップS13の第1の加熱により、結晶粒101が有する、リチウムと遷移金属(M)を含む複合酸化物を合成することができる。また、この第1の加熱により、出発原料に含まれたマグネシウムとフッ素の一部がリチウムと遷移金属(M)を含む複合酸化物の表層部に偏析する。ただしこの時点では、マグネシウムとフッ素の他の一部はリチウムと遷移金属(M)を含む複合酸化物に固溶している状態である。
【0106】
次に、ステップS13で加熱した材料を室温まで冷却する(ステップS14)。冷却後、合成された材料に解砕処理を行うと、正極活物質粒子100の粒子径を小さくすることができ好ましい。
【0107】
次に、ステップS14で冷却した材料に、第2の加熱を行う(ステップS15)。第2の加熱は規定温度での保持時間を100時間以下で行うことが好ましく、1時間以上70時間以下で行うことがより好ましく、2時間以上50時間以下で行うことがより好ましく、2時間以上35時間以下で行うことがより好ましい。規定温度としては500℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上1000℃以下がより好ましく、800℃程度がさらに好ましい。第2の加熱は、酸素を有する雰囲気で行うことが好ましい。例えば、乾燥空気の雰囲気で行うことが好ましい。
【0108】
ステップS15の第2の加熱を行うことで、出発原料に含まれたマグネシウムとフッ素が、結晶粒界へ偏析することを促進できる。
【0109】
最後に、S15で加熱した材料を室温まで冷却し、回収して(ステップS16)、正極活物質粒子100を得ることができる。
【0110】
前述したように、マグネシウム源とフッ素源を出発材料として混合することで、結晶粒界103に酸化マグネシウムを有する正極活物質を効率的に作製できる。
【0111】
また、マグネシウム源とフッ素源を出発材料として混合することにより、結晶粒界103にマグネシウムが偏析しやすくなる場合がある。
【0112】
マグネシウムと結合する酸素がフッ素と置換されることにより、置換したフッ素の周辺においてマグネシウムが移動しやすくなる場合がある。
【0113】
また、酸化マグネシウムにフッ化マグネシウムを加えると、融点が下がる場合がある。融点が下がることにより、加熱処理において原子の移動がしやすくなる。
【0114】
また、フッ素は酸素と比べて電気陰性度が大きい。よって、酸化マグネシウムのような安定な化合物においても、フッ素を加えることにより、電荷の偏りが生じ、マグネシウムと酸素との結合を弱める場合がある。
【0115】
これらの理由により、マグネシウム源とフッ素源を出発材料として混合することにより、マグネシウムが移動しやすくなり、結晶粒界103にマグネシウムが偏析しやすくなる場合がある。
【0116】
本実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることで、劣化が少なく、安全性の高い二次電池とすることができる。本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0117】
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を有する二次電池に用いることのできる材料の例について説明する。本実施の形態では、正極、負極および電解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0118】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
【0119】
<正極活物質層>
正極活物質層は、正極活物質粒子を有する。また、正極活物質層は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
【0120】
正極活物質粒子としては、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることができる。先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることで、劣化が少なく、安全性の高い二次電池とすることができる。
【0121】
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いることができる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する導電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下がより好ましい。
【0122】
導電助剤により、電極中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助剤により、正極活物質粒子どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に導電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができる。
【0123】
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素繊維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノチューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、例えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒子、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を用いることができる。
【0124】
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
【0125】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能とする。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いることにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。また、電気的な抵抗を減少できる場合があるため好ましい。ここでグラフェン化合物として例えば、グラフェンまたはマルチグラフェンまたはReduced Graphene Oxide(以下、RGO)を用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化グラフェン(GO:Graphene Oxide)を還元して得られる化合物を指す。
【0126】
粒子径の小さい活物質粒子、例えば1μm以下の活物質粒子を用いる場合には、活物質粒子の比表面積が大きく、活物質粒子同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多くなり、相対的に活物質の担持量が減少する場合がある。活物質の担持量が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤としてグラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成できるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
【0127】
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合の断面構成例を説明する。
【0128】
図4(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物質粒子100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェンまたはマルチグラフェンを用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好ましい。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェン、または(および)複数のグラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい。
【0129】
活物質層200の縦断面においては、
図4(A)に示すように、活物質層200の内部において概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散する。
図4(A)においてはグラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極活物質粒子100を包むように、覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質粒子100の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触している。
【0130】
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくすることができる、又は使用する必要がないため、電極体積や電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。すなわち、蓄電装置の容量を増加させることができる。
【0131】
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成に、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン化合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行ってもよい。
【0132】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤よりも少量で粒状の正極活物質粒子100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させることができる。よって、正極活物質粒子100の活物質層200における比率を増加させることができる。これにより、蓄電装置の放電容量を増加させることができる。
【0133】
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0134】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉などを用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用いると、さらに好ましい。
【0135】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0136】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0137】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合することが好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよい。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉を用いることができる。
【0138】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書においては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、それらの塩も含むものとする。
【0139】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダとして組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいことが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0140】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜としての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電気の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することができる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できるとさらに望ましい。
【0141】
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0142】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
【0143】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0144】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
【0145】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOxと表すこともできる。ここでxは1またはその近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0146】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい。
【0147】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0148】
黒鉛はリチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li+)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0149】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム-黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
【0150】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
【0151】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0152】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物があげられる。
【0153】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0154】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0155】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0156】
また、電解液の溶媒として難燃性であるフッ素を有するリン酸エステル化合物、またはフッ素を有する炭酸エステル化合物を用いることで、蓄電装置の破裂や発火などを防ぐことができる。フッ素を有するリン酸エステル化合物としては、例えば、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスフェート(TFEP)などがある。フッ素を有する炭酸エステル化合物としては、例えば、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート(TFEC)などがある。
【0157】
また、電解液の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等がある。
【0158】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることで、蓄電装置の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、蓄電装置の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。
【0159】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0160】
蓄電装置に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0161】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物、トリイソプロポキシボロキシン(TiPBx)、スルホラン、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、酢酸ビニル(VA)などを添加してもよい。添加する材料の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1weight%以上5weight%以下とすればよい。
【0162】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0163】
ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。
【0164】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等を用いることができる。ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリマーは、多孔質形状を有してもよい。
【0165】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系の無機物材料等を有する固体電解質や、ポリエチレンオキシド(PEO)系の高分子材料等を有する固体電解質を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0166】
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙をはじめとするセルロースを有する繊維、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータは袋状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0167】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0168】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0169】
例えばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
【0170】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0171】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を有する二次電池の形状の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形態の記載を参酌することができる。
【0172】
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。
図5(A)はコイン型(単層偏平型)の二次電池の外観図であり、
図5(B)は、その断面図である。
【0173】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。
【0174】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0175】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
【0176】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、
図5(B)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0177】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることで、劣化が少なく、安全性の高いコイン型の二次電池300とすることができる。
【0178】
[円筒型二次電池]
円筒型の二次電池の例について
図6(A)乃至
図6(D)を参照して説明する。円筒型の二次電池600は、
図6(A)に示す円筒型の二次電池600は、
図6(B)の断面模式図に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0179】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0180】
円筒型の二次電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
【0181】
また、
図6(C)のように複数の二次電池600を、導電板613および導電板614の間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
【0182】
図6(D)はモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613を点線で示した。
図6(D)に示すようにモジュール615は、複数の二次電池600を電気的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板613を重畳して設けることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有していてもよい。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次電池600が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そのためモジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。
【0183】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることで、劣化が少なく、安全性の高い円筒型の二次電池600とすることができる。
【0184】
[蓄電装置の構造例]
蓄電装置の別の構造例について、
図7乃至
図11を用いて説明する。
【0185】
図7(A)及び
図7(B)は、蓄電装置の外観図を示す図である。蓄電装置は、回路基板900と、二次電池913と、を有する。二次電池913には、ラベル910が貼られている。さらに、
図7(B)に示すように、蓄電装置は、端子951と、端子952と、アンテナ914と、アンテナ915と、を有する。
【0186】
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子951、端子952、アンテナ914、アンテナ915、及び回路912に接続される。なお、端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子などとしてもよい。
【0187】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914及びアンテナ915は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914若しくはアンテナ915は、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能することができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アンテナ914若しくはアンテナ915を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけでなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0188】
アンテナ914の線幅は、アンテナ915の線幅よりも大きいことが好ましい。これにより、アンテナ914により受電する電力量を大きくできる。
【0189】
蓄電装置は、アンテナ914及びアンテナ915と、二次電池913との間に層916を有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽する機能を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0190】
【0191】
例えば、
図8(A-1)及び
図8(A-2)に示すように、
図7(A)及び
図7(B)に示す二次電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれにアンテナを設けてもよい。
図8(A-1)は、上記一対の面の一方側の外観図であり、
図8(A-2)は、上記一対の面の他方側の外観図である。なお、
図7(A)及び
図7(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、
図7(A)及び
図7(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0192】
図8(A-1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアンテナ914が設けられ、
図8(A-2)に示すように、二次電池913の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ915が設けられる。層917は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽する機能を有する。層917としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0193】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ915の両方のサイズを大きくすることができる。
【0194】
又は、
図8(B-1)及び
図8(B-2)に示すように、
図7(A)及び
図7(B)に示す二次電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれに別のアンテナを設けてもよい。
図8(B-1)は、上記一対の面の一方側の外観図であり、
図8(B-2)は、上記一対の面の他方側の外観図である。なお、
図7(A)及び
図7(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、
図7(A)及び
図7(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0195】
図8(B-1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアンテナ914及びアンテナ915が設けられ、
図8(B-2)に示すように、二次電池913の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。アンテナ918は、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ918には、例えばアンテナ914及びアンテナ915に適用可能な形状のアンテナを適用することができる。アンテナ918を介した蓄電装置と他の機器との通信方式としては、NFCなど、蓄電装置と他の機器との間で用いることができる応答方式などを適用することができる。
【0196】
又は、
図9(A)に示すように、
図7(A)及び
図7(B)に示す二次電池913に表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子919を介して端子911に電気的に接続される。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよい。なお、
図7(A)及び
図7(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、
図7(A)及び
図7(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0197】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペーパーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0198】
又は、
図9(B)に示すように、
図7(A)及び
図7(B)に示す二次電池913にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に電気的に接続される。なお、
図7(A)及び
図7(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、
図7(A)及び
図7(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0199】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい。センサ921を設けることにより、例えば、蓄電装置が置かれている環境を示すデータ(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0200】
さらに、二次電池913の構造例について
図10及び
図11を用いて説明する。
【0201】
図10(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、
図10(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0202】
なお、
図10(B)に示すように、
図10(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、
図10(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
【0203】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナ914やアンテナ915などのアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
【0204】
さらに、捲回体950の構造について
図11に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
【0205】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して
図7に示す端子911に接続される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して
図7に示す端子911に接続される。
【0206】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることで、劣化が少なく、安全性の高い二次電池913とすることができる。
【0207】
[ラミネート型二次電池]
次に、ラミネート型の二次電池の例について、
図12乃至
図17を参照して説明する。ラミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくとも一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることもできる。
【0208】
図12を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二次電池980は、
図12(A)に示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極994と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、
図11で説明した捲回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重なり合って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0209】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要な容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリード電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード電極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される。
【0210】
図12(B)に示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム982とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納することで、
図12(C)に示すように二次電池980を作製することができる。捲回体993は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有するフィルム982とに囲まれた空間の内部は電解液に含浸される。
【0211】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982の材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部を有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する二次電池を作製することができる。
【0212】
また、
図12(B)及び
図12(C)では2枚のフィルムを用いる例を示しているが、1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体993を収納してもよい。
【0213】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることで、劣化が少なく、安全性の高い二次電池980とすることができる。
【0214】
また
図12では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池980の例について説明したが、例えば
図13のように、外装体となるフィルムにより形成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としてもよい。
【0215】
図13(A)に示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されている。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実施の形態2で示した電解液を用いることができる。
【0216】
図13(A)に示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および負極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0217】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0218】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を
図13(B)に示す。
図13(A)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、複数の電極層で構成する。
【0219】
図13(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16としても二次電池500は、可撓性を有する。
図13(B)では負極集電体504が8層と、正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、
図13(B)は負極の取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない場合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0220】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を
図14及び
図15に示す。
図14及び
図15は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510及び負極リード電極511を有する。
【0221】
図16(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体501を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、
図16(A)に示す例に限られない。
【0222】
[ラミネート型二次電池の作製方法]
ここで、
図14に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図16(B)及び
図16(C)を用いて説明する。
【0223】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図16(B)に積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0224】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0225】
次に、
図16(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0226】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508を外装体509の内側へ導入する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池である二次電池500を作製することができる。
【0227】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることで、劣化が少なく、安全性の高い二次電池500とすることができる。
【0228】
[曲げることのできる二次電池]
次に、曲げることのできる二次電池の例について
図17及び
図18を参照して説明する。
【0229】
図17(A)に、曲げることのできる電池250の上面概略図を示す。
図17(B1)、
図17(B2)及び
図17(C)にはそれぞれ、
図17(A)中の切断線C1-C2、切断線C3-C4、切断線A1-A2における断面概略図である。電池250は、外装体251と、外装体251の内部に収容された正極211aおよび負極211bを有する。正極211aと電気的に接続されたリード212a、および負極211bと電気的に接続されたリード212bは、外装体251の外側に延在している。また外装体251で囲まれた領域には、正極211aおよび負極211bに加えて電解液(図示しない)が封入されている。
【0230】
電池250が有する正極211aおよび負極211bについて、
図18を用いて説明する。
図18(A)は、正極211a、負極211bおよびセパレータ214の積層順を説明する斜視図である。
図18(B)は正極211aおよび負極211bに加えて、リード212aおよびリード212bを示す斜視図である。
【0231】
図18(A)に示すように、電池250は、複数の短冊状の正極211a、複数の短冊状の負極211bおよび複数のセパレータ214を有する。正極211aおよび負極211bはそれぞれ突出したタブ部分と、タブ以外の部分を有する。正極211aの一方の面のタブ以外の部分に正極活物質層が形成され、負極211bの一方の面のタブ以外の部分に負極活物質層が形成される。
【0232】
正極211aの正極活物質層の形成されていない面同士、および負極211bの負極活物質層の形成されていない面同士が接するように、正極211aおよび負極211bは積層される。
【0233】
また、正極211aの正極活物質層が形成された面と、負極211bの負極活物質層が形成された面の間にはセパレータ214が設けられる。
図18では見やすくするためセパレータ214を点線で示す。
【0234】
また
図18(B)に示すように、複数の正極211aとリード212aは、接合部215aにおいて電気的に接続される。また複数の負極211bとリード212bは、接合部215bにおいて電気的に接続される。
【0235】
【0236】
外装体251は、フィルム状の形状を有し、正極211aおよび負極211bを挟むように2つに折り曲げられている。外装体251は、折り曲げ部261と、一対のシール部262と、シール部263と、を有する。一対のシール部262は、正極211aおよび負極211bを挟んで設けられ、サイドシールとも呼ぶことができる。また、シール部263は、リード212a及びリード212bと重なる部分を有し、トップシールとも呼ぶことができる。
【0237】
外装体251は、正極211aおよび負極211bと重なる部分に、稜線271と谷線272が交互に並んだ波形状を有することが好ましい。また、外装体251のシール部262及びシール部263は、平坦であることが好ましい。
【0238】
図17(B1)は、稜線271と重なる部分で切断した断面であり、
図17(B2)は、谷線272と重なる部分で切断した断面である。
図17(B1)及び
図17(B2)は共に、電池250及び正極211aおよび負極211bの幅方向の断面に対応する。
【0239】
ここで、負極211bの幅方向の端部、すなわち負極211bの端部と、シール部262との間の距離を距離Laとする。電池250に曲げるなどの変形を加えたとき、後述するように正極211aおよび負極211bが長さ方向に互いにずれるように変形する。その際、距離Laが短すぎると、外装体251と正極211aおよび負極211bとが強く擦れ、外装体251が破損してしまう場合がある。特に外装体251の金属フィルムが露出すると、当該金属フィルムが電解液により腐食されてしまう恐れがある。したがって、距離Laを出来るだけ長く設定することが好ましい。一方で、距離Laを大きくしすぎると、電池250の体積が増大してしまう。
【0240】
また、積層された正極211aおよび負極211bの合計の厚さが厚いほど、負極211bと、シール部262との間の距離Laを大きくすることが好ましい。
【0241】
より具体的には、積層された正極211aおよび負極211bの合計の厚さを厚さtとしたとき、距離Laは、厚さtの0.8倍以上3.0倍以下、好ましくは0.9倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.0倍以上2.0倍以下であることが好ましい。距離Laをこの範囲とすることで、コンパクトで、且つ曲げに対する信頼性の高い電池を実現できる。
【0242】
また、一対のシール部262の間の距離を距離Lbとしたとき、距離Lbを正極211aおよび負極211bの幅(ここでは、負極211bの幅Wb)よりも十分大きくすることが好ましい。これにより、電池250に繰り返し曲げるなどの変形を加えたときに、正極211aおよび負極211bと外装体251とが接触しても、正極211aおよび負極211bの一部が幅方向にずれることができるため、正極211aおよび負極211bと外装体251とが擦れてしまうことを効果的に防ぐことができる。
【0243】
例えば、一対のシール部262の間の距離Lbと、負極211bの幅Wbとの差が、正極211aおよび負極211bの厚さtの1.6倍以上6.0倍以下、好ましくは1.8倍以上5.0倍以下、より好ましくは、2.0倍以上4.0倍以下であることが好ましい。
【0244】
言い換えると、距離Lb、幅Wb、及び厚さtが、下記数式2の関係を満たすことが好ましい。
【0245】
【0246】
ここで、aは、0.8以上3.0以下、好ましくは0.9以上2.5以下、より好ましくは1.0以上2.0以下である。
【0247】
また、
図17(C)はリード212aを含む断面であり、電池250、正極211aおよび負極211bの長さ方向の断面に対応する。
図17(C)に示すように、折り曲げ部261において、正極211aおよび負極211bの長さ方向の端部と、外装体251との間に空間273を有することが好ましい。
【0248】
図17(D)に、電池250を曲げたときの断面概略図を示している。
図17(D)は、
図17(A)中の切断線B1-B2における断面に相当する。
【0249】
電池250を曲げると、曲げの外側に位置する外装体251の一部は伸び、内側に位置する他の一部は縮むように変形する。より具体的には、外装体251の外側に位置する部分は、波の振幅が小さく、且つ波の周期が大きくなるように変形する。一方、外装体251の内側に位置する部分は、波の振幅が大きく、且つ波の周期が小さくなるように変形する。このように、外装体251が変形することにより、曲げに伴って外装体251にかかる応力が緩和されるため、外装体251を構成する材料自体が伸縮する必要がない。その結果、外装体251は破損することなく、小さな力で電池250を曲げることができる。
【0250】
また、
図17(D)に示すように、電池250を曲げると、正極211aおよび負極211bとがそれぞれ相対的にずれる。このとき、複数の積層された正極211aおよび負極211bは、シール部263側の一端が固定部材217で固定されているため、折り曲げ部261に近いほどずれ量が大きくなるように、それぞれずれる。これにより、正極211aおよび負極211bにかかる応力が緩和され、正極211aおよび負極211b自体が伸縮する必要がない。その結果、正極211aおよび負極211bが破損することなく電池250を曲げることができる。
【0251】
また、正極211aおよび負極211bと外装体251との間に空間273を有していることにより、曲げた時、内側に位置する正極211aおよび負極211bが、外装体251に接触することなく、相対的にずれることができる。
【0252】
図17及び
図18で例示した電池250は、繰り返し曲げ伸ばしを行っても、外装体の破損、正極211aおよび負極211bの破損などが生じにくく、電池特性も劣化しにくい電池である。電池250が有する正極211aに、先の実施の形態で説明した正極活物質粒子100を用いることで、さらに劣化が少なく、安全性の高い二次電池とすることができる。
【0253】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明する。
【0254】
まず実施の形態3の一部で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装する例を
図19に示す。曲げることのできる二次電池を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0255】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0256】
図19(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次電池7407を有している。
【0257】
図19(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を
図19(C)に示す。二次電池7407は薄型の二次電池である。二次電池7407は曲げられた状態で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極を有している。
【0258】
図19(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。また、
図19(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の値で表したものを曲率半径と呼び、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部または全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。
【0259】
図19(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン7205、入出力端子7206などを備える。
【0260】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0261】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面に触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン7207に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0262】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0263】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0264】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0265】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。例えば、
図19(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0266】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0267】
図19(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させることもできる。
【0268】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状況を変更することができる。
【0269】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0270】
次に、
図20(A)及び
図20(B)に、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示す。
図20(A)及び
図20(B)に示すタブレット型端末9600は、筐体9630a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示部9631、表示モード切り替えスイッチ9626、電源スイッチ9627、省電力モード切り替えスイッチ9625、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示部9631には、可撓性を有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレット端末とすることができる。
図20(A)は、タブレット型端末9600を開いた状態を示し、
図20(B)は、タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
【0271】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体9630bに渡って設けられている。
【0272】
表示部9631は、一部をタッチパネルの領域とすることができ、表示された操作キーにふれることでデータ入力をすることができる。また、タッチパネルのキーボード表示切り替えボタンが表示されている位置に指やスタイラスなどでふれることで表示部9631にキーボードボタン表示することができる。
【0273】
また、表示モード切り替えスイッチ9626は、縦表示又は横表示などの表示の向きを切り替え、白黒表示やカラー表示の切り替えなどを選択できる。省電力モード切り替えスイッチ9625は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時の外光の光量に応じて表示の輝度を最適なものとすることができる。タブレット型端末は光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内蔵させてもよい。
【0274】
図20(B)は、閉じた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、太陽電池9633、DCDCコンバータ9636を含む充放電制御回路9634有する。また、蓄電体9635として、本発明の一態様に係る二次電池を用いる。
【0275】
なお、タブレット型端末9600は2つ折り可能なため、非使用時に筐体9630aおよび筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折りたたむことにより、表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐久性を高めることができる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレット型端末を提供できる。
【0276】
また、この他にも
図20(A)及び
図20(B)に示したタブレット型端末は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力によって操作又は編集する、タッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。
【0277】
タブレット型端末の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的に行う構成とすることができる。
【0278】
また、
図20(B)に示す充放電制御回路9634の構成、および動作について
図20(C)にブロック図を示し説明する。
図20(C)には、太陽電池9633、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、
図20(B)に示す充放電制御回路9634に対応する箇所となる。
【0279】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631での表示を行わない際には、スイッチSW1をオフにし、スイッチSW2をオンにして蓄電体9635の充電を行う構成とすればよい。
【0280】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成としてもよい。
【0281】
図21に、他の電子機器の例を示す。
図21において、表示装置8000は、本発明の一態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置8000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能となる。
【0282】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0283】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0284】
図21において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池8103を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光源8102、二次電池8103等を有する。
図21では、二次電池8103が、筐体8101及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いることで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0285】
なお、
図21では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示しているが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0286】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0287】
図21において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。
図21では、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池8203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0288】
なお、
図21では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0289】
図21において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。
図21では、二次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0290】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0291】
上述の電子機器の他、本発明の一態様の二次電池はあらゆる電子機器に搭載することができる。本発明の一態様により、劣化が少なく、安全性の高い二次電池とすることができる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した電子機器に搭載することで、より長寿命で、より安全性の高い電子機器とすることができる。本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0292】
(実施の形態5)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0293】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0294】
図22において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。
図22(A)に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様である二次電池を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0295】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0296】
図22(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池8024にプラグイン方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。
図22(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法やコネクター等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の規格を適宜採用すればよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0297】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0298】
また、
図22(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。
図22(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0299】
また、
図22(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。
【0300】
本発明の一態様によれば、劣化が少なく、安全性の高い二次電池とすることができる。そのため、車両に搭載することで、航続距離や加速性能などの低下を抑えることができる。また、安全性の高い車両とすることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源としても用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、劣化が少なく、安全性の高い二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
【0301】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0302】
本実施例では、結晶粒界及びその近傍にマグネシウム、フッ素及び酸素を有する正極活物質粒子を作製し、TEM観察及びSTEM-EDX分析により、活物質中の結晶粒及び結晶粒界の濃度分布を確認した。試料は、本発明の一態様である試料Aの1試料である。試料Aとして、結晶粒界及びその近傍にマグネシウム、フッ素及び酸素を有するニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムを作製した。ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムの組成は、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を想定した。LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2は、層状岩塩型の結晶構造を有する。
【0303】
<試料Aの作製>
試料Aの作製について説明する。
【0304】
図3のフローのステップS11に示すように、出発原料を準備した。リチウム源として炭酸リチウム(Li
2CO
3)、ニッケル源として酸化ニッケル(NiO)、マンガン源として二酸化マンガン(MnO
2)、コバルト源として四酸化三コバルト(Co
3O
4)、マグネシウム源として酸化マグネシウム(MgO)、フッ素源としてフッ化リチウム(LiF)を秤量した。具体的には、Li
2CO
3を3.1398g(42.49mmol)、NiOを2.1159g(28.33mmol)、MnO
2を2.4627g(28.33mmol)、Co
3O
4を2.2033g(9.15mmol)、MgOを0.0343g(0.85mmol)、LiFを0.0441g(1.70mmol)秤量した。これは、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子数の総数に対する、マグネシウムの原子数の比mが0.010(1.0%)となる量である。また、マグネシウムの原子数に対する、フッ素の原子数の比nが2.0となる量である。なお、Li
2CO
3は高純度化学研究所社製(カタログ番号:LIH06XB)を用いた。NiOは高純度化学研究所社製(カタログ番号:NIO04PB)を用いた。MnO
2は高純度化学研究所社製(カタログ番号:MNO03PB)を用いた。Co
3O
4は高純度化学研究所社製(カタログ番号:COO09PB)を用いた。MgOは高純度化学研究所社製(カタログ番号:MGO12PB)を用いた。LiFは高純度化学研究所社製(カタログ番号:LIH10XB)を用いた。
【0305】
次に、ステップS12に示すように、ステップS11で秤量した各出発原料を混合した。混合には湿式ボールミルを用いた。具体的には、3mmφのボール、溶媒としてアセトンを用い、回転数300rpmで2時間、粉砕、混合を行った。
【0306】
次に、ステップS13に示すように、ステップS12で混合した材料に第1の加熱を行った。第1の加熱は、マッフル炉を用い、室温から200℃/hrの昇温レートで1000℃まで昇温し、1000℃で10時間加熱を行った。加熱は乾燥空気雰囲気で行い、乾燥雰囲気の流量を10L/minとした。
【0307】
ステップS13の第1の加熱により、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムを合成することができる。なお、この時点では、マグネシウム及びフッ素の一部は、結晶粒界及び結晶粒に固溶している状態と考えられる。
【0308】
次に、ステップS14に示すように、ステップS13で加熱した材料を室温まで冷却し、合成物1を得た。冷却後、得られた合成物1の解砕処理を行い、合成物1の粒子径を小さくした。解砕処理には、53μmのメッシュを用いた。
【0309】
次に、ステップS15に示すように、ステップS14で得られた合成物1に第2の加熱を行った。第2の加熱は、マッフル炉を用い、室温から200℃/hrの昇温レートで800℃まで昇温し、800℃で2時間加熱を行った。加熱は乾燥空気雰囲気で行い、乾燥雰囲気の流量を10L/minとした。
【0310】
ステップS15の第2の加熱を行うことで、出発原料に含まれたマグネシウム及びフッ素が、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムの結晶粒界へ偏析することを促進できる。
【0311】
次に、ステップS16に示すように、ステップS15で加熱した合成物1を室温まで冷却、回収して試料Aを得た。
【0312】
<TEM観察、STEM観察、EDX測定>
次に、試料Aを集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)により薄片化し、試料Aの断面をTEM及びSTEMで観察した。また、試料Aの断面を、EDX測定で組成分析を行った。TEM、STEM観察及びEDX測定には、日本電子社製JEM-ARM200Fを用い、加速電圧は200kV、ビーム径は約0.1nmφとした。
【0313】
EDX測定において、元素分析装置は日本電子社製エネルギー分散型X線分析装置JED-2300Tを用い、X線の検出にはSiドリフト検出器を用いた。EDXの面分析において、検出下限は約1atomic%であった。なお、EDX測定は原子番号5のホウ素(B)から原子番号92のウラン(U)までの元素(Element)の検出が可能である。
【0314】
試料Aの断面のTEM像(明視野像)を
図23(A)に示す。
図23(A)の倍率は10万倍である。
図23(A)において、TEM像の濃度(輝度)が略均一の領域は結晶方位が略一定であり、単結晶と考えられる。また、TEM像の濃度(輝度)が変化する領域が粒界と考えられる。
図23(A)に対応する模式図を
図23(B)に示す。
図23(A)及び
図23(B)に示すように、正極活物質粒子は複数の結晶粒1101と、結晶粒の間に結晶粒界1103を有することを確認できた。
【0315】
試料Aの断面のSTEM像(明視野像)を
図24(A)、同じ箇所のHAADF-STEM像を
図24(B)に示す。
図24(A)及び
図24(B)の倍率は800万倍である。
図24(A)及び
図24(B)において、結晶粒の領域で結晶格子像を確認できた。
【0316】
次に、試料Aの断面のEDXスペクトルについて説明する。EDX測定では測定点に電子線照射を行い、これにより発生する特性X線のエネルギーと発生回数を測定し、EDXスペクトルを得た。試料Aの断面のHAADF-STEM像及びEDX測定箇所を
図25に示す。EDX測定箇所は、point1乃至point5の5か所である。point2乃至point4は結晶粒界及びその近傍、point1及びpoint5は結晶粒界から離れた位置、つまり結晶粒内とした。point1のEDXスペクトル及び定量結果を
図26、point2を
図27、point3を
図28、point4を
図29、point5を
図30に示す。
図26乃至
図30において、横軸は特性X線エネルギー(Energy)[keV]を示し、縦軸は特性X線強度[Counts]を示す。
【0317】
point1乃至point5において、炭素(C)、酸素(O)、フッ素(F)、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、リン(P)、硫黄(S)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、それぞれのK殻への電子遷移に由来するピークが観察された。得られたスペクトルをぞれぞれの元素に分離し、原子濃度を得た。
【0318】
次に、EDXの面分析について説明する。領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することを面分析と呼ぶ場合がある。本実施例において、EDX測定を、領域内の縦256点×横256点で行った。
【0319】
試料AのEDXの面分析を行った領域のHAADF-STEM像を
図31(A)に示す。EDXの面分析は、結晶粒及び結晶粒界を含む領域で行った。
図31(A)に示した領域のEDXの面分析における、炭素のマッピング像を
図31(B)、酸素を
図31(C)、フッ素を
図31(D)、マグネシウムを
図31(E)、シリコンを
図31(F)、リンを
図32(A)、硫黄を
図32(B)、カルシウムを
図32(C)、マンガンを
図32(D)、コバルトを
図32(E)、ニッケルを
図32(F)に示す。
【0320】
図31(B)乃至
図31(F)、
図32(A)乃至
図32(F)は、EDX測定による特性X線強度のマッピングを示しており、特性X線強度が低い測定点を淡色(白色)、特性X線強度が高い測定点ほど濃色(黒色)で示している。つまり、淡色(白色)の測定点は原子濃度が低く、濃色(黒色)の測定点は原子濃度が高いことを示している。なお、
図31(B)乃至
図31(F)、
図32(A)乃至
図32(F)は、領域内の分布が分かりやすいように、元素毎に特性X線強度のスケールを変えている。
【0321】
図31(B)乃至
図31(F)、
図32(A)乃至
図32(F)に示すように、結晶粒界及びその近傍で、フッ素、マグネシウム、シリコン及びカルシウムの濃度が高くなっていることを確認できた。なお、シリコン及びカルシウムは原料として用いた試薬に含まれていたと考えられる。
【0322】
図31(B)乃至
図31(F)、
図32(A)乃至
図32(F)に示したEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出し、原子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価した。このように、線状の領域を1次元に評価することを線分析と呼ぶ場合がある。
【0323】
試料AのEDXの線分析を行った領域のHAADF-STEM像を
図33(A)に示す。
図33(A)において、EDXの線分析を行った領域を矢印で示している。EDXの線分析は、結晶粒、結晶粒界、結晶粒をまたがる領域で行った。
【0324】
【0325】
図34(A)乃至
図34(F)、
図35(A)乃至
図35(E)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は原子濃度[atomic%]を示す。横軸の距離は、
図34(A)に示した矢印の一端の黒丸を始点(距離=0nm)とし、他方の端(終点)に向かって距離が大きくなるように示している。縦軸の原子濃度は、炭素、酸素、フッ素、マグネシウム、シリコン、リン、硫黄、カルシウム、マンガン、コバルト及びニッケルの原子数の総数を100atomic%とした場合の、それぞれの元素の原子数の比率を示している。
【0326】
図33(A)、
図34(A)乃至
図34(F)、
図35(A)乃至
図35(E)に示すように、結晶粒の領域と比較して、結晶粒界及びその近傍はフッ素、マグネシウム、シリコン及びカルシウムの濃度が高くなっていることを確認できた。また、結晶粒界及びその近傍は、幅が1nm以上10nm以下である領域を有することが分かった。
【0327】
結晶粒界及びその近傍は、酸素、マグネシウム及びフッ素を有することを確認できた。結晶粒界及びその近傍は酸化マグネシウムを有することが分かった。また、酸化マグネシウムが有する一部の酸素がフッ素で置換されていると考えられる。
【0328】
一方、結晶粒の領域で、フッ素、マグネシウム、シリコン及びカルシウムは検出下限レベルであった。
【0329】
リン及び硫黄は、結晶粒及び結晶粒界とも検出下限レベルであった。
【0330】
なお、炭素が結晶粒及び結晶粒界で検出されているが、保護膜としてカーボンコート膜を用いており、前述の炭素濃度にはカーボンコート膜に起因する炭素が含まれていると考えられる。したがって、結晶粒及び結晶粒界が有する真の炭素濃度は判断できなかった。
【0331】
結晶粒と比較して、結晶粒界及びその近傍は遷移金属であるマンガン、コバルト及びニッケルの原子濃度が低くなっていることを確認できた。
【0332】
遷移金属であるニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数を
図35(F)に示す。
図35(F)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)[atomic%]を示す。具体的にニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)とは、EDXの測定点毎に、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度を合計した値である。試料Aにおいて、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)は、遷移金属の原子濃度ともいえる。
図35(F)に示すように、結晶粒の領域と比較して、結晶粒界及びその近傍は遷移金属の原子濃度が低い傾向であることが分かった。また、結晶粒の領域においては、遷移金属の原子濃度に大きなばらつきは無く、略一様であることが分かった。
【0333】
結晶粒における遷移金属の原子濃度に対する、マグネシウム(Mg)の原子濃度の比を
図36(A)に示す。
図36(A)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Tr-Metal)(arb. unit)を示す。
【0334】
結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)について説明する。結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)として、結晶粒における遷移金属の原子濃度の平均値を採用した。具体的には、マグネシウム(Mg)の原子濃度が検出下限レベルの領域を結晶粒の領域とし、その領域で遷移金属の原子濃度の平均値を算出した。平均値の算出に用いた結晶粒の領域を
図35(F)中に矢印で示す。
【0335】
図36(A)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Tr-Metal)が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍は、マグネシウムが偏析していることが分かった。結晶粒界及びその近傍は、酸化マグネシウムを有すると考えられる。本発明の一態様である試料Aは、結晶粒界及びその近傍に酸化マグネシウムを有することで、正極活物質粒子が化学的、構造的に安定になり、遷移金属が電解液に溶出する、酸素が脱離する、結晶構造が不安定になるといった正極活物質の劣化を抑制できる。また、正極活物質粒子が割れるのを抑制できる。また、正極活物質粒子から酸素が脱離するのを抑制できる。このような正極活物質粒子を用いることで、蓄電装置の劣化を抑制できる。また、安全性の高い蓄電装置とすることができる。充電電圧を高くする場合、充電時に正極に含まれるリチウムの量が減少するため、正極活物質粒子の結晶構造が変態しやすくなることから、正極活物質粒子として試料Aは、特に好ましい。
【0336】
結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)に対する、フッ素の原子濃度の比を
図36(B)に示す。
図36(B)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するフッ素の原子濃度の比(F/Tr-Metalと記す)を示す。
【0337】
図36(B)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するフッ素の原子濃度の比(F/Tr-Metal)が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍にフッ素を有することで、結晶粒界及びその近傍に効率良くマグネシウムを偏析させられることが分かった。
【0338】
なお、本明細書等において、「原子濃度の比」と「原子数の比」は同義であり、「原子濃度の比」を「原子数の比」と置き換えることができる。つまり、Mg/Tr-Metalの値は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比であり、また、結晶粒における遷移金属の原子数に対するマグネシウムの原子数の比であるともいえる。
【0339】
EDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)に対する、マグネシウム(Mg)の原子濃度の比を
図36(C)に示す。
図36(C)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はEDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数に対する、マグネシウムの原子濃度の比(Mg/(Ni+Mn+Co))を示す。
【0340】
EDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)は、
図35(F)に示したデータと同じものである。
【0341】
図36(C)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒におけるニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/(Ni+Mn+Co))が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍は、マグネシウムが偏析していることが分かった。
【0342】
EDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)に対する、フッ素の原子濃度の比を
図36(D)に示す。
図36(D)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はEDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数に対する、フッ素の原子濃度の比(F/(Ni+Mn+Co))を示す。
【0343】
図36(D)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するフッ素の原子濃度の比(F/(Ni+Mn+Co))が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍にフッ素を有することで、結晶粒界及びその近傍に効率良くマグネシウムを偏析させられることが分かった。
【0344】
試料Aの別の箇所において、同様にEDX測定を行った。
【0345】
試料AのEDXの面分析を行った領域のHAADF-STEM像を
図37(A)に示す。EDXの面分析は、結晶粒及び結晶粒界を含む領域で行った。
図37(A)に示した領域のEDXの面分析における、炭素のマッピング像を
図37(B)、酸素を
図37(C)、フッ素を
図37(D)、マグネシウムを
図37(E)、シリコンを
図37(F)、リンを
図38(A)、硫黄を
図38(B)、カルシウムを
図38(C)、マンガンを
図38(D)、コバルトを
図38(E)、ニッケルを
図38(F)に示す。
【0346】
図37(B)乃至
図37(F)、
図38(A)乃至
図38(F)は、EDX測定による特性X線強度のマッピングを示しており、特性X線強度が低い測定点を淡色(白色)、特性X線強度が高い測定点ほど濃色(黒色)で示している。つまり、淡色(白色)の測定点は原子濃度が低く、濃色(黒色)の測定点は原子濃度が高いことを示している。なお、
図37(B)乃至
図37(F)、
図38(A)乃至
図38(F)は、領域内の分布が分かりやすいように、元素毎に特性X線強度のスケールを変えている。
【0347】
図37(B)乃至
図37(F)、
図38(A)乃至
図38(F)に示すように、結晶粒界及びその近傍で、フッ素、マグネシウム、シリコン及びカルシウムの濃度が高くなっていることを確認できた。なお、シリコン及びカルシウムは原料として用いた試薬に含まれていたと考えられる。
【0348】
図37(B)乃至
図37(F)、
図38(A)乃至
図38(F)に示したEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出し、原子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価した。
【0349】
試料AのEDXの線分析を行った領域のHAADF-STEM像を
図33(B)に示す。
図33(B)において、EDXの線分析を行った領域を矢印で示している。EDXの線分析は、結晶粒、結晶粒界、結晶粒をまたがる領域で行った。
【0350】
【0351】
図39(A)乃至
図39(F)、
図40(A)乃至
図40(E)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は原子濃度[atomic%]を示す。横軸の距離は、
図33(B)に示した矢印の一端の黒丸を始点(距離=0nm)とし、他方の端(終点)に向かって距離が大きくなるように示している。縦軸の原子濃度は、炭素、酸素、フッ素、マグネシウム、シリコン、リン、硫黄、カルシウム、マンガン、コバルト及びニッケルの原子数の総数を100atomic%とした場合の、それぞれの元素の原子数の比率を示している。
【0352】
図33(B)、
図39(A)乃至
図39(F)、
図40(A)乃至
図40(E)に示すように、結晶粒の領域と比較して、結晶粒界及びその近傍はフッ素、マグネシウム、シリコン及びカルシウムの濃度が高くなっていることを確認できた。また、結晶粒界及びその近傍は、幅が1nm以上10nm以下である領域を有することが分かった。
【0353】
結晶粒界及びその近傍は、酸素、マグネシウム及びフッ素を有することを確認できた。結晶粒界及びその近傍は酸化マグネシウムを有することが分かった。また、酸化マグネシウムが有する一部の酸素がフッ素で置換されていると考えられる。
【0354】
一方、結晶粒の領域で、フッ素、マグネシウム、シリコン及びカルシウムは検出下限レベルであった。
【0355】
リン及び硫黄は、結晶粒及び結晶粒界とも検出下限レベルであった。
【0356】
なお、炭素が結晶粒及び結晶粒界で検出されているが、保護膜としてカーボンコート膜を用いており、前述の炭素濃度にはカーボンコート膜に起因する炭素が含まれていると考えられる。したがって、結晶粒及び結晶粒界が有する真の炭素濃度は判断できなかった。
【0357】
結晶粒と比較して、結晶粒界及びその近傍は遷移金属であるマンガン、コバルト及びニッケルの原子濃度が低くなっていることを確認できた。
【0358】
遷移金属であるニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数を
図40(F)に示す。
図40(F)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)[atomic%]を示す。試料Aにおいて、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)は、遷移金属の原子濃度ともいえる。
図40(F)に示すように、結晶粒の領域と比較して、結晶粒界及びその近傍は遷移金属の原子濃度が低い傾向であることが分かった。また、結晶粒の領域においては、遷移金属の原子濃度に大きなばらつきは無く、略一様であることが分かった。
【0359】
結晶粒における遷移金属の原子濃度に対する、マグネシウム(Mg)の原子濃度の比を
図41(A)に示す。
図41(A)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Tr-Metal)を示す。
【0360】
結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)として、結晶粒における遷移金属の原子濃度の平均値を採用した。平均値の算出に用いた結晶粒の領域を
図40(F)中に矢印で示す。
【0361】
図41(A)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Tr-Metal)が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍はマグネシウムが偏析していることが分かった。結晶粒界及びその近傍は、酸化マグネシウムを有すると考えられる。本発明の一態様である試料Aは、結晶粒界及びその近傍に酸化マグネシウムを有することで、正極活物質粒子が化学的、構造的に安定になり、遷移金属が電解液に溶出する、酸素が脱離する、結晶構造が不安定になるといった正極活物質の劣化を抑制できる。また、正極活物質粒子が割れるのを抑制できる。また、正極活物質粒子から酸素が脱離するのを抑制できる。このような正極活物質粒子を用いることで、蓄電装置の劣化を抑制できる。また、安全性の高い蓄電装置とすることができる。充電電圧を高くする場合、充電時に正極に含まれるリチウムの量が減少するため、正極活物質粒子の結晶構造が変態しやすくなることから、正極活物質粒子として試料Aは、特に好ましい。
【0362】
結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)に対する、フッ素の原子濃度の比を
図41(B)に示す。
図41(B)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するフッ素の原子濃度の比(F/Tr-Metalと記す)を示す。
【0363】
図41(B)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するフッ素の原子濃度の比(F/Tr-Metal)が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍にフッ素を有することで、結晶粒界及びその近傍に効率良くマグネシウムを偏析させられることが分かった。
【0364】
EDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)に対する、マグネシウム(Mg)の原子濃度の比を
図41(C)に示す。
図41(C)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はEDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数に対する、マグネシウムの原子濃度の比(Mg/(Ni+Mn+Co))を示す。
【0365】
EDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)は、
図40(F)に示したデータと同じものである。
【0366】
図41(C)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒におけるニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/(Ni+Mn+Co))が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍は、マグネシウムが偏析していることが分かった。
【0367】
EDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数(Ni+Mn+Co)に対する、フッ素の原子濃度の比を
図41(D)に示す。
図41(D)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はEDX測定箇所毎の、ニッケル、マンガン及びコバルトの原子濃度の総数に対する、フッ素の原子濃度の比(F/(Ni+Mn+Co))を示す。
【0368】
図41(D)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するフッ素の原子濃度の比(F/(Ni+Mn+Co))が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍にフッ素を有することで、結晶粒界及びその近傍に効率良くマグネシウムを偏析させられることが分かった。
【0369】
本実施例より、正極活物質粒子の出発材料としてマグネシウム及びフッ素を添加することで、マグネシウムが正極活物質粒子の結晶粒界及びその近傍に偏析することが明らかとなった。本発明の一態様である正極活物質粒子は結晶粒界及びその近傍に酸化マグネシウムを有することにより、正極活物質粒子が化学的、構造的に安定し、充放電による構造変化、体積変化及びゆがみを抑制できる。つまり、正極活物質粒子の結晶構造がより安定となり、充放電を繰り返しても結晶構造が変態するのを抑制できる。また、正極活物質粒子の割れを抑制できる。つまり、容量低下などの劣化を抑制できる。
【0370】
このような正極活物質粒子を有する蓄電装置は劣化が少ないため、携帯電子機器に好適である。さらに自動車をはじめとする車両に適用すれば、電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することも可能であり、省エネルギーおよび二酸化炭素の排出の削減に寄与することもできる。また、安全性の高い蓄電装置となる。
【実施例2】
【0371】
本実施例では、結晶粒界及びその近傍にマグネシウム、フッ素及び酸素を有する正極活物質粒子を作製し、TEM観察及びSTEM-EDX分析により、活物質中の結晶粒及び結晶粒界の濃度分布を確認した。試料は、本発明の一態様である試料Bの1試料である。試料Bとして、結晶粒界及びその近傍にマグネシウム、フッ素及び酸素を有するコバルト酸リチウムを作製した。コバルト酸リチウムの組成は、LiCoO2を想定した。LiCoO2は、層状岩塩型の結晶構造を有する。
【0372】
<試料Bの作製>
試料Bの作製について説明する。
【0373】
図3のフローのステップS11に示すように、出発原料を準備した。リチウム源として炭酸リチウム(Li
2CO
3)、コバルト源として四酸化三コバルト(Co
3O
4)、マグネシウム源として酸化マグネシウム(MgO)、フッ素源としてフッ化リチウム(LiF)を秤量した。具体的には、Li
2CO
3を3.1489g(42.62mmol)、Co
3O
4を6.7726g(28.13mmol)、MgOを0.0344g(0.85mmol)、LiFを0.0442g(1.70mmol)秤量した。これは、コバルトの原子数に対する、マグネシウムの原子数の比mが0.010(1.0%)となる量である。また、マグネシウムの原子数に対する、フッ素の原子数の比nが2.0となる量である。なお、Li
2CO
3は高純度化学研究所社製(カタログ番号:LIH06XB)を用いた。MgOは高純度化学研究所社製(カタログ番号:MGO12PB)を用いた。LiFは高純度化学研究所社製(カタログ番号:LIH10XB)を用いた。
【0374】
次に、ステップS12に示すように、ステップS11で秤量した各出発原料を混合した。混合の詳細は試料Aの記載を参照できるため、説明を省略する。
【0375】
次に、ステップS13に示すように、ステップS12で混合した材料に第1の加熱を行った。第1の加熱の詳細は試料Aの記載を参照できるため、説明を省略する。
【0376】
次に、ステップS14に示すように、ステップS13で加熱した材料を室温まで冷却し、合成物2を得た。冷却後、得られた合成物2の解砕処理を行い、合成物2の粒子径を小さくした。解砕処理には、53μmのメッシュを用いた。
【0377】
次に、ステップS15に示すように、ステップS14で得られた合成物2に第2の加熱を行った。第2の加熱の詳細は試料Aの記載を参照できるため、説明を省略する。
【0378】
ステップS15の第2の加熱を行うことで、出発原料に含まれたマグネシウム及びフッ素が、コバルト酸リチウムの結晶粒界へ偏析することを促進できる。
【0379】
次に、ステップ816に示すように、ステップS15で加熱した合成物2を室温まで冷却、回収して試料Bを得た。
【0380】
<TEM観察、STEM観察、EDX測定>
次に、試料Bを集束イオンビーム(FIB)により薄片化し、試料Bの断面をTEM及びSTEMで観察した。また、試料Bの断面を、EDX測定で組成分析を行った。TEM、STEM観察及びEDX測定の詳細は試料Aの記載を参照できるため、説明を省略する。
【0381】
試料Bの断面のTEM像(明視野像)を
図42(A)に示す。
図42(A)の倍率は10万倍である。
図42(A)において、TEM像の濃度(輝度)が略均一の領域は結晶方位が略一定であり、単結晶と考えられる。また、TEM像の濃度(輝度)が変化する領域が粒界と考えられる。
図42(A)に対応する模式図を
図42(B)に示す。
図42(A)及び
図42(B)に示すように、正極活物質粒子は複数の結晶粒1201と、結晶粒の間に結晶粒界1203を有することを確認できた。
【0382】
試料Bの断面のSTEM像(明視野像)を
図43(A)、同じ箇所のHAADF-STEM像を
図43(B)に示す。
図43(A)及び
図43(B)の倍率は800万倍である。
図43(A)及び
図43(B)において、結晶粒の領域で結晶格子像を確認できた。
【0383】
試料BのEDXの面分析を行った領域のHAADF-STEM像を
図44(A)に示す。EDXの面分析は、結晶粒及び結晶粒界を含む領域で行った。本実施例において、EDX測定を、領域内の縦256点×横256点で行った。
【0384】
炭素、酸素、フッ素、マグネシウム、シリコン、リン、硫黄、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、それぞれのK殻への電子遷移に由来するピークが観察された。得られたスペクトルをぞれぞれの元素に分離し、原子濃度を得た。
【0385】
【0386】
図44(B)乃至
図44(F)、
図45(A)乃至
図45(D)は、EDX測定による特性X線強度のマッピングを示しており、特性X線強度が低い測定点を淡色(白色)、特性X線強度が高い測定点ほど濃色(黒色)で示している。つまり、淡色(白色)の測定点は原子濃度が低く、濃色(黒色)の測定点は原子濃度が高いことを示している。なお、
図44(B)乃至
図44(F)、
図45(A)乃至
図45(D)は、領域内の分布が分かりやすいように、元素毎に特性X線強度のスケールを変えている。
【0387】
図44(B)乃至
図44(F)、
図45(A)乃至
図45(D)に示すように、結晶粒界及びその近傍で、マグネシウム及びカルシウムの濃度が高くなっていることを確認できた。フッ素に関しては、EDXの面分析を行った領域ではほとんど観察されなかった。これは、EDXでは軽元素であるフッ素が検出されにくいためと考えられる。なお、カルシウムは原料として用いた試薬に含まれていたと考えられる。
【0388】
図44(B)乃至
図44(F)、
図45(A)乃至
図45(D)に示したEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出し、原子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価した。
【0389】
試料BのEDXの線分析を行った領域のHAADF-STEM像を
図46(A)に示す。
図46(A)において、EDXの線分析を行った領域を矢印で示している。EDXの線分析は、結晶粒、結晶粒界、結晶粒をまたがる領域で行った。
【0390】
【0391】
図47(A)乃至
図47(F)、
図48(A)乃至
図48(C)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は原子濃度[atomic%]を示す。横軸の距離は、
図46(A)に示した矢印の一端の黒丸を始点(距離=0nm)とし、他方の端(終点)に向かって距離が大きくなるように示している。縦軸の原子濃度は、炭素、酸素、フッ素、マグネシウム、シリコン、リン、硫黄、カルシウム及びコバルトの原子数の総数を100atomic%とした場合の、それぞれの元素の原子数の比率を示している。
【0392】
図46(A)、
図47(A)乃至
図47(F)、
図48(A)乃至
図48(C)に示すように、結晶粒の領域と比較して、結晶粒界及びその近傍はマグネシウム及びカルシウムの濃度が高くなっていることを確認できた。また、結晶粒界及びその近傍は、幅が1nm以上10nm以下である領域を有することが分かった。
【0393】
結晶粒界及びその近傍は、酸素及びマグネシウムを有することを確認できた。結晶粒界及びその近傍は酸化マグネシウムを有することが分かった。
【0394】
一方、結晶粒の領域で、フッ素、マグネシウム、シリコン及びカルシウムは検出下限レベルであった。
【0395】
リン及び硫黄は、結晶粒及び結晶粒界とも検出下限レベルであった。
【0396】
なお、炭素が結晶粒及び結晶粒界で検出されているが、保護膜としてカーボンコート膜を用いており、前述の炭素濃度にはカーボンコート膜に起因する炭素が含まれていると考えられる。したがって、結晶粒及び結晶粒界が有する真の炭素濃度は判断できなかった。
【0397】
結晶粒と比較して、結晶粒界及びその近傍は遷移金属であるコバルトの原子濃度が低くなっていることを確認できた。
【0398】
試料Bにおいて、コバルトの原子濃度は、遷移金属の原子濃度ともいえる。
図48(C)に示すように、結晶粒の領域と比較して、結晶粒界及びその近傍は遷移金属の原子濃度が低い傾向であることが分かった。また、結晶粒の領域においては、遷移金属の原子濃度に大きなばらつきは無く、略一様であることが分かった。
【0399】
結晶粒における遷移金属の原子濃度に対する、マグネシウム(Mg)の原子濃度の比を
図49(A)に示す。
図49(A)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Tr-Metal)を示す。
【0400】
結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)として、結晶粒における遷移金属の原子濃度の平均値を採用した。平均値の算出に用いた結晶粒の領域を
図48(D)中に矢印で示す。
【0401】
図49(A)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Tr-Metal)が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍はマグネシウムが偏析していることが分かった。結晶粒界及びその近傍は、酸化マグネシウムを有すると考えられる。本発明の一態様である試料Bは、結晶粒界及びその近傍に酸化マグネシウムを有することで、正極活物質粒子が化学的、構造的に安定になり、遷移金属が電解液に溶出する、酸素が脱離する、結晶構造が不安定になるといった正極活物質の劣化を抑制できる。また、正極活物質粒子が割れるのを抑制できる。また、正極活物質粒子から酸素が脱離するのを抑制できる。このような正極活物質粒子を用いることで、蓄電装置の劣化を抑制できる。また、安全性の高い蓄電装置とすることができる。充電電圧を高くする場合、充電時に正極に含まれるリチウムの量が減少するため、正極活物質粒子の結晶構造が変態しやすくなることから、正極活物質粒子として試料Bは、特に好ましい。
【0402】
結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)に対する、フッ素の原子濃度の比を
図49(B)に示す。
図49(B)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するフッ素の原子濃度の比(F/Tr-Metalと記す)を示す。
【0403】
図47(C)及び
図49(B)に示すように、試料Bにおいては、結晶粒及び結晶粒界のフッ素濃度は検出下限以下であった。EDXでは軽元素であるフッ素が検出されにくいためと考えられる。
【0404】
EDX測定箇所毎の、コバルトの原子濃度(Co)に対する、マグネシウム(Mg)の原子濃度の比を
図49(C)に示す。
図49(C)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はEDX測定箇所毎の、コバルトの原子濃度に対する、マグネシウムの原子濃度の比(Mg/Co)を示す。
【0405】
図49(C)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒におけるコバルトの原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Co)が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍は、マグネシウムが偏析していることが分かった。
【0406】
EDX測定箇所毎の、コバルトの原子濃度(Co)に対する、フッ素の原子濃度の比を
図49(D)に示す。
図49(D)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はEDX測定箇所毎の、コバルトの原子濃度に対する、フッ素の原子濃度の比(F/Co)を示す。試料Bにおいては、結晶粒及び結晶粒界のフッ素濃度は検出下限以下であった。
【0407】
試料Bの別の箇所において、同様にEDX測定を行った。
【0408】
試料BのEDXの面分析を行った領域のHAADF-STEM像を
図50(A)に示す。EDXの面分析は、結晶粒及び結晶粒界を含む領域で行った。
図50(A)に示した領域のEDXの面分析における、炭素のマッピング像を
図50(B)、酸素を
図50(C)、フッ素を
図50(D)、マグネシウムを
図50(E)、シリコンを
図50(F)、リンを
図51(A)、硫黄を
図51(B)、カルシウムを
図51(C)、コバルトを
図51(D)に示す。
【0409】
図50(B)乃至
図50(F)、
図51(A)乃至
図51(D)は、EDX測定による特性X線強度のマッピングを示しており、特性X線強度が低い測定点を淡色(白色)、特性X線強度が高い測定点ほど濃色(黒色)で示している。つまり、淡色(白色)の測定点は原子濃度が低く、濃色(黒色)の測定点は原子濃度が高いことを示している。なお、
図50(B)乃至
図50(F)、
図51(A)乃至
図51(D)は、領域内の分布が分かりやすいように、元素毎に特性X線強度のスケールを変えている。
【0410】
図50(B)乃至
図50(F)、
図51(A)乃至
図51(D)に示すように、結晶粒界及びその近傍で、マグネシウム及びカルシウムの濃度が高くなっていることを確認できた。フッ素に関しては、EDXの面分析を行った領域ではほとんど観察されなかった。これは、EDXでは軽元素であるフッ素が検出されにくいためと考えられる。なお、カルシウムは原料として用いた試薬に含まれていたと考えられる。
【0411】
図50(B)乃至
図50(F)、
図51(A)乃至
図51(D)に示したEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出し、原子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価した。
【0412】
試料BのEDXの線分析を行った領域のHAADF-STEM像を
図46(B)に示す。
図46(B)において、EDXの線分析を行った領域を矢印で示している。EDXの線分析は、結晶粒、結晶粒界、結晶粒をまたがる領域で行った。
【0413】
【0414】
図52(A)乃至
図52(F)、
図53(A)乃至
図53(C)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は原子濃度[atomic%]を示す。横軸の距離は、
図46(B)に示した矢印の一端の黒丸を始点(距離=0nm)とし、他方の端(終点)に向かって距離が大きくなるように示している。縦軸の原子濃度は、炭素、酸素、フッ素、マグネシウム、シリコン、リン、硫黄、カルシウム及びコバルトの原子数の総数を100atomic%とした場合の、それぞれの元素の原子数の比率を示している。
【0415】
図46(B)、
図52(A)乃至
図52(F)、
図53(A)乃至
図53(C)に示すように、結晶粒の領域と比較して、結晶粒界及びその近傍はマグネシウムの濃度が高くなっていることを確認できた。また、結晶粒界及びその近傍は、幅が1nm以上10nm以下である領域を有することが分かった。
【0416】
結晶粒界及びその近傍は、酸素及びマグネシウムを有することを確認できた。結晶粒界及びその近傍は酸化マグネシウムを有することが分かった。
【0417】
一方、結晶粒の領域で、フッ素、マグネシウム、シリコン及びカルシウムは検出下限レベルであった。
【0418】
リン及び硫黄は、結晶粒及び結晶粒界とも検出下限レベルであった。
【0419】
なお、炭素が結晶粒及び結晶粒界で検出されているが、保護膜としてカーボンコート膜を用いており、前述の炭素濃度にはカーボンコート膜に起因する炭素が含まれていると考えられる。したがって、結晶粒及び結晶粒界が有する真の炭素濃度は判断できなかった。
【0420】
結晶粒と比較して、結晶粒界及びその近傍は遷移金属であるコバルトの原子濃度が低くなっていることを確認できた。
【0421】
試料Bにおいて、コバルトの原子濃度は、遷移金属の原子濃度ともいえる。
図53(C)に示すように、結晶粒の領域と比較して、結晶粒界及びその近傍は遷移金属の原子濃度が低い傾向であることが分かった。また、結晶粒の領域においては、遷移金属の原子濃度に大きなばらつきは無く、略一様であることが分かった。
【0422】
結晶粒における遷移金属の原子濃度に対する、マグネシウム(Mg)の原子濃度の比を
図54(A)に示す。
図54(A)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Tr-Metal)を示す。
【0423】
結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)として、結晶粒における遷移金属の原子濃度の平均値を採用した。平均値の算出に用いた結晶粒の領域を
図53(D)中に矢印で示す。
【0424】
図54(A)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Tr-Metal)が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍はマグネシウムが偏析していることが分かった。結晶粒界及びその近傍は、酸化マグネシウムを有すると考えられる。本発明の一態様である試料Bは、結晶粒界及びその近傍に酸化マグネシウムを有することで、正極活物質粒子が化学的、構造的に安定になり、遷移金属が電解液に溶出する、酸素が脱離する、結晶構造が不安定になるといった正極活物質の劣化を抑制できる。また、正極活物質粒子が割れるのを抑制できる。また、正極活物質粒子から酸素が脱離するのを抑制できる。このような正極活物質粒子を用いることで、蓄電装置の劣化を抑制できる。また、安全性の高い蓄電装置とすることができる。充電電圧を高くする場合、正極活物質粒子の結晶構造が変態しやすくなることから、正極活物質粒子として試料Bは、特に好ましい。
【0425】
結晶粒における遷移金属の原子濃度(Tr-Metal)に対する、フッ素の原子濃度の比を
図54(B)に示す。
図54(B)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸は結晶粒における遷移金属の原子濃度に対するフッ素の原子濃度の比(F/Tr-Metalと記す)を示す。
【0426】
図52(C)及び
図54(B)に示すように、試料Bにおいては、結晶粒及び結晶粒界のフッ素濃度は検出下限以下であった。EDXでは軽元素であるフッ素が検出されにくいためと考えられる。
【0427】
EDX測定箇所毎の、コバルトの原子濃度(Co)に対する、マグネシウム(Mg)の原子濃度の比を
図54(C)に示す。
図54(C)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はEDX測定箇所毎の、コバルトの原子濃度に対する、マグネシウムの原子濃度の比(Mg/Co)を示す。
【0428】
図54(C)に示すように、結晶粒界及びその近傍は、結晶粒におけるコバルトの原子濃度に対するマグネシウムの原子濃度の比(Mg/Co)が0.030以上となる領域を有することが分かった。結晶粒界及びその近傍は、マグネシウムが偏析していることが分かった。
【0429】
EDX測定箇所毎の、コバルトの原子濃度(Co)に対する、フッ素の原子濃度の比を
図54(D)に示す。
図54(D)において、横軸は距離(Distance)[nm]を示し、縦軸はEDX測定箇所毎の、コバルトの原子濃度に対する、フッ素の原子濃度の比(F/Co)を示す。試料Bにおいては、結晶粒及び結晶粒界のフッ素濃度は検出下限以下であった。
【符号の説明】
【0430】
100:正極活物質粒子、101:結晶粒、103:結晶粒界、105:結晶欠陥、107:領域、200:活物質層、201:グラフェン化合物、211a:正極、211b:負極、212a:リード、212b:リード、214:セパレータ、215a:接合部、215b:接合部、217:固定部材、250:電池、251:外装体、261:折り曲げ部、262:シール部、263:シール部、271:稜線、272:谷線、273:空間、300:二次電池、301:正極缶、302:負極缶、303:ガスケット、304:正極、305:正極集電体、306:正極活物質層、307:負極、308:負極集電体、309:負極活物質層、310:セパレータ、500:二次電池、501:正極集電体、502:正極活物質層、503:正極、504:負極集電体、505:負極活物質層、506:負極、507:セパレータ、508:電解液、509:外装体、510:正極リード電極、511:負極リード電極、600:二次電池、601:正極キャップ、602:電池缶、603:正極端子、604:正極、605:セパレータ、606:負極、607:負極端子、608:絶縁板、609:絶縁板、611:PTC素子、612:安全弁機構、900:回路基板、910:ラベル、911:端子、912:回路、913:二次電池、914:アンテナ、915:アンテナ、916:層、917:層、918:アンテナ、919:端子、920:表示装置、921:センサ、922:端子、930:筐体、930a:筐体、930b:筐体、931:負極、932:正極、933:セパレータ、950:捲回体、951:端子、952:端子、980:二次電池、993:捲回体、994:負極、995:正極、996:セパレータ、997:リード電極、998:リード電極、1101:結晶粒、1103:結晶粒界、1201:結晶粒、1203:結晶粒界、7100:携帯表示装置、7101:筐体、7102:表示部、7103:操作ボタン、7104:二次電池、7200:携帯情報端末、7201:筐体、7202:表示部、7203:バンド、7204:バックル、7205:操作ボタン、7206:入出力端子、7207:アイコン、7300:表示装置、7304:表示部、7400:携帯電話機、7401:筐体、7402:表示部、7403:操作ボタン、7404:外部接続ポート、7405:スピーカ、7406:マイク、7407:二次電池、8000:表示装置、8001:筐体、8002:表示部、8003:スピーカ部、8004:二次電池、8021:充電装置、8022:ケーブル、8024:二次電池、8100:照明装置、8101:筐体、8102:光源、8103:二次電池、8104:天井、8105:側壁、8106:床、8107:窓、8200:室内機、8201:筐体、8202:送風口、8203:二次電池、8204:室外機、8300:電気冷凍冷蔵庫、8301:筐体、8302:冷蔵室用扉、8303:冷凍室用扉、8304:二次電池、8400:自動車、8401:ヘッドライト、8406:電気モーター、8500:自動車、8600:スクータ、8601:サイドミラー、8602:二次電池、8603:方向指示灯、8604:座席下収納、9600:タブレット型端末、9625:スイッチ、9626:スイッチ、9627:電源スイッチ、9628:操作スイッチ、9629:留め具、9630:筐体、9630a:筐体、9630b:筐体、9631:表示部、9633:太陽電池、9634:充放電制御回路、9635:蓄電体、9636:DCDCコンバータ、9637:コンバータ、9640:可動部