(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】物体を操作するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/10 20060101AFI20221116BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20221116BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20221116BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B01J19/10
B01J19/00 321
B01J19/12 C
G01N1/28 F
(21)【出願番号】P 2019572801
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2018067585
(87)【国際公開番号】W WO2019002551
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-04-08
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509025832
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】519463617
【氏名又は名称】エコール シュペリウール ドゥ フィジーク エ ドゥ シミ アンデュストリエル ドゥ ラ ヴィル ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE SUPERIEURE DE PHYSIQUE ET DE CHIMIE INDUSTRIELLES DE LA VILLE DE PARIS
(73)【特許権者】
【識別番号】519463628
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ デカルト - パリ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES - PARIS V
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】519463639
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ ディドロ - パリ セット
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DIDEROT - PARIS 7
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】エデ,ジャン-リュック
(72)【発明者】
【氏名】オヨス,マウリシオ
(72)【発明者】
【氏名】デュミ,ガブリエル
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/006093(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0327130(US,A1)
【文献】特表2009-538731(JP,A)
【文献】国際公開第2008/122051(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0231223(US,A1)
【文献】特表2018-506710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0202237(US,A1)
【文献】特表2015-528707(JP,A)
【文献】特表2015-506181(JP,A)
【文献】特表2014-531303(JP,A)
【文献】Paul O'Mahoney,Hybrid optical and acoustic force based sorting,2015年11月03日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/32
G01N 29/00-29/52
G01N 1/00- 1/44
G01N 33/48-33/98
C12M 1/00
Science Direct
SCIENCE
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を含む空洞(2)において物体を操作する方法であって、
前記方法が、
a)前記空洞(2)の少なくとも1つの領域において物体を提供すること;
b)音場(8)に前記物体をさらすことによって、浮揚平面内において物体の凝集体を形成すること;
を含み;そして、
前記物体が、所定の波長範囲の光を吸収する物体であること、そして、
前記方法が、c)所定の波長範囲で放射する光線(7)に前記凝集体をさらすことによって、浮揚平面内で前記凝集体を破壊する工程を更に含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記光線(7)の出力が10μW~200mWの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記音場(8)の振幅が0.1V~50Vの範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体内の前記物体の体積分率が0.025%~65%の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記音場(8)がパルス音場である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記音場(8)の周波数が0.5f
0~1.5f
0の範囲であり、f
0が前記空洞(2)の共振周波数である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記物体が蛍光体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
液体を含む空洞(2)において物体を分離する方法であって、
前記方法が:
a)前記空洞(2)の少なくとも1つの領域において、第1の波長範囲の光を吸収することのできる複数の第1の物体とその第1の波長範囲の光を吸収することのできない複数の第2の物体とを含む物体を提供すること;
b)前記の複数の第1の物体及び前記の複数の第2の物体を音場(8)にさらすことによって、その複数の第1の物体及びその複数の第2の物体の浮揚面内に凝集体を形成すること;及び
c)複数の第1の物体と複数の第2の物体とを含む前記凝集体を前記第1の波長範囲で放射する光線(7)にさらすことによって、その凝集体から前記複数の第1物体を前記浮上平面内に吐き出すこと;
を含む、前記方法。
【請求項9】
d)前記空洞(2)内に前記液体を流す工程;及び
e)前記の吐き出された物体を第1の出口(10.1)において回収する工程;
を更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の第2の物体が、前記第1の波長範囲と重複しない第2の波長範囲の光を吸収する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の波長範囲で放射する光線(7)に前記凝集体をさらす工程を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記複数の第1の物体が、前記複数の第2の物体と同じ音響コントラスト因子を有する、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
液体を含む空洞において物体の少なくとも1つの画像を取得する方法であって、
前記方法が:
a)請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を使用して前記物体を操作又は分離すること;
b)前記空洞(2)の少なくとも1つの領域を照らすこと;及び
c)前記空洞の透明な壁を介して、前記照らされた物体についての少なくとも1つの画像を取得すること;
を含む、前記方法。
【請求項14】
液体中の物体を分離するための装置であって、
前記装置が、
‐第1の横断軸に沿って測定した幅(w)及びその第1の横断軸に垂直な第2の横断軸に沿って測定した高さ(h)で表される断面を有している、長手軸に沿って延びている、少なくとも1つの空洞(2)であって;前記空洞(2)が、前記第2の横断軸に沿っている第1及び第2の壁(3,4)と、前記空洞と液体連通している少なくとも第1の入口(9.1)と、前記空洞と液体連通している少なくとも第1、第2及び第3の出口(10.1、10.2、10.3)とを有しており、前記第1の出口(10.1)が、前記第2の出口と前記第3の出口(10.2,10.3)との間で前記第1の横断軸上に配置されている前記少なくとも1つの空洞(2);
‐前記壁(3,4)の1つから前記空洞(2)の第1の領域において音場(8)を生成する少なくとも1つの音響波発生器(5);及び
‐前記空洞(2)の前記第1の領域において光線(7)を前記音場に同時に放射する
ように配置された少なくとも1つの光源(6)であって;前記の少なくとも1つの光源(6)が、前記音場を生成する壁の反対側の壁又は同じ壁に配置されている前記少なくとも1つの光源(6);
を含む、前記装置。
【請求項15】
第2及び第3の入口(9.2、9.3)を更に含み、前記第1の入口(9.1)が、前記第2の入口と前記第3の入口(9.2、9.3)との間で前記第1の横断軸上に配置されている、請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を含む空洞において物体を操作する分野に関する。特に、本発明は、音場及び電磁場を使用して、そのような物体を操作、分離、回収、及び画像化する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の方法では、液体における物体は、膜、フィルター、遠心分離、磁場、電場、又は音場などの様々な技術によって処理及び分類することができる。
【0003】
物体の音響操作は、近年、集中的に研究されている。例えば、米国特許出願公開第2006/0096353号明細書は、液体中の物体を方向付けるために音響操作を使用する機具を開示しており、米国特許出願公開第2015/0037863号明細書は、音響力を使用して層の多層凝集体を形成する方法、特に、2次元及び3次元の細胞凝集体を形成する方法を開示しており、又は、米国特許出願公開第2015/0285719号明細書は、変調されたパルス音場を使用して凝集体を形成する方法を開示している。
【0004】
音響操作は、浮揚状態にある物体の凝集体を作り出す音響放射力に基づいている。λ=2×h(hは放射壁と反射壁との間の高さ)の条件が確認された音響定在波を適用する場合には、それは、放射壁と反射壁を含む空洞(これは音響共振器と呼ばれる)において発生する。物体は、その後、音響放射力F
acにさらされる。この音響放射力は、下記の式:
【数1】
(式中、<->は平均時間、dpiは粒子径、<E
ac>は音響波の1周期において平均化された空洞内の音響エネルギー密度、κ=2π/λは音響面の波数、F
yは音響コントラスト因子(acoustic contrast factor)、及び、zは放射壁と反射壁との間の粒子の軸方向の位置である。)
として定義されることがある。
【0005】
前記音響放射力は、浮揚状態にある物体を、音響コントラスト因子及び直径に応じて異なる速度で音波のノード又はアンチノードに向かって押す。音響放射力は、また、浮揚平面内において物体の集合に一度関与する横方向成分も含む。音響コントラスト因子は、下記の式:
【数2】
(式中、ρ
pは密度ρ
fの媒体における物体の密度、c
pは物体における音の速さ(celerity)、及び、c
fは液体における音の速さ(celerity)である。)
として記述することができる。
【0006】
上記を考慮すると、同じ音響コントラスト因子と同じ大きさを示す物体は、液体内で同じように振る舞うこととなり、効果的に分類することができない。したがって、物体(特に、同じ又は類似の音響コントラスト因子を有する物体)を操作又は分類することが可能な非接触技術が必要である。
【0007】
更に、物体を分類するために音場を使用すると、関連する装置の設計が決まる。米国特許出願公開第2008/0067128号明細書に開示されているような音響共振器は、少なくとも2つの部分を含むプレート内において収容された少なくとも3つのシートを含む。このような複雑な設計では、異なる高さで少なくとも2つの出口を有する装置を製造することが必要である。実際、先行技術での音響の分類は、波の伝播方向に平行な軸に沿って異なるレベルで物体を分離することに基づいている。
【0008】
したがって、本発明の根底にある別の目的は、高スループットな音響の分類を実施する装置を容易に製造し、更に容易に取り扱うことを提供することである。
【0009】
≪概要≫
本発明の必要性は、特許請求されている方法及び装置によって達成される。特に、本発明の方法は、音場によって形成された凝集体から物体(粒子とも呼ばれる)を吐き出すために光線を使用する。物体が浮揚状態の平面内で吐き出されるので、物体は、音響波の伝搬方向に平行な軸に沿って同じ高さに配置された出口を使用して、簡単に分類することができる。本発明内において記載される方法は、光音響泳動法(photoacoustophoresis methods)と呼ぶことができる。
【0010】
第1の観点では、本発明は、液体を含む空洞において物体を操作する方法に関し、前記方法が、
a)空洞の少なくとも1つの領域において、特定の波長範囲の光を吸収できる物体を提供すること;
b)音場に物体をさらすことによって、物体の凝集体を形成すること;及び
c)所定の波長範囲で放射する光線に凝集体をさらすことにより、凝集体を破壊することと;
を含む。
【0011】
一実施形態によれば、光線の出力は10μW~200mWの範囲である。一実施形態によれば、音場の振幅は0.1V~50Vの範囲である。一実施形態によれば、液体内の物体の体積分率は0.025%~65%の範囲である。一実施形態によれば、音場はパルス音場である。一実施形態によれば、音場の周波数は、0.5f0~1.5f0の範囲にあり、ここで、f0は空洞の共振周波数である。一実施形態によれば、物体は蛍光体である。
【0012】
第2の観点では、本発明は、液体を含む空洞内の物体を分離する方法に関し、前記方法が、
a)空洞の少なくとも1つの領域において、第1の波長範囲の光を吸収することができる複数の第1の物体と、第1の波長範囲の光を吸収できない複数の第2の物体とを含む物体を提供すること;
b)第1の物体及び複数の第2の物体を音場にかけることにより、第1の物体及び複数の第2の物体の凝集体を形成すること;及び
c)第1の波長範囲で放射する光線に凝集体をさらすことにより、凝集体から複数の第1の物体を吐き出すこと;を含む。
【0013】
一実施形態によれば、物体を分離する方法は、以下の工程を更に含む:
d)空洞内に液体を流す工程;及び
e)吐き出された物体を第1の出口で回収する工程。
【0014】
一実施形態によれば、複数の第2の物体は、第1の波長範囲と重複しない第2の波長範囲の光を吸収する。一実施形態によれば、物体を分離する方法は、凝集体を第2の波長範囲で放射する光線にさらす工程を更に含む。一実施形態によれば、複数の第1の物体は、複数の第2の物体と実質的に同じ音響コントラスト因子を有する。
【0015】
第3の観点では、本発明は、液体を含む空洞内の物体についての少なくとも1つの画像を取得する方法に関し、前記方法が、
a)本発明による方法を使用して物体を操作又は分離すること;
b)空洞の少なくとも1つの領域を照らすこと;及び
c)前記照らされた物体の少なくとも1つの画像を取得すること。
【0016】
第4の観点では、本発明は、液体中の物体を分離するための装置に関し、
前記装置が、
‐長手軸に沿って延びて、第1の横断軸に沿って測定された幅(w)及びその第1の横断軸に垂直な第2の横断軸に沿って測定された高さ(h)を表す断面を有する少なくとも1つの空洞;第2の横断軸に沿っている第1及び第2の壁と、前記空洞と液体連通している少なくとも第1の入口と、空洞2と液体連通している少なくとも第1、第2及び第3の出口とを有する空洞;ここで、第1の出口が、第2の出口と第3の出口との間の第1の横断軸上に配置されていること;
‐壁の1つから空洞の第1の領域において音場を生成する少なくとも1つの音響波発生器;及び
‐前記空洞の前記第1の領域において光線を放射する少なくとも1つの光源。
【0017】
一実施形態によれば、装置は、第2及び第3の入口を更に含み、第1の入口が、第2の入口と第3の入口との間の第1の横断軸上に配置される。
【0018】
≪定義≫
本発明において、次の用語は以下の意味を有する:
‐数字の前に置かれる「約」とは、数字の値のプラス又はマイナス10%、好ましくはプラス又はマイナス5%、好ましくはプラス又はマイナス1%を意味する。
‐「吸収」とは、電磁放射(特に、光)の吸収を意味する。
‐「物体の凝集体」とは、次の特徴のすべてを満たす物体の層を意味する:
前記層に含まれるオブジェクトの少なくとも2つ層(特には前記層に含まれる物体の少なくとも10%、より良くは25%、好ましくは50%)が接触しており、そして、前記層が、その横方向の寸法の少なくとも一つに沿って変位する場合に、その長さの少なくとも一部で、一連の物体を提供する。
‐本明細書で使用される「振幅」とは、頂点間振幅を意味する。音響波の振幅は、音響波発生器に印加される電圧に比例する。
‐「水溶液」とは、特有の相の溶液(この溶液では、前記水溶液に含まれる他の化学種に対するモル比及び/又は質量及び/又は体積の観点から水が主要な化学種である)を意味する。
‐「空洞」とは、閉じられている又は好ましくは少なくとも1つの入口と少なくとも1つの出口を備えており、長方形(これはチャネルとも呼ばれる)、正方形、円形、又は好ましくは3~10の辺を有する多角形から選択される内部形状を有する、経路、チャネル又は導管を意味する。
‐「光」とは、電磁放射線、好ましくは10nm~10000nmの範囲の波長(すなわち、赤外から紫外線)を有する電磁放射線、より好ましくは約400~約800nmの範囲の波長(すなわち、可視光)を有する電磁放射線を意味する。
‐「長手軸」とは、空洞の断面の重心を結ぶ線を意味する。長手軸は直線でも曲線とすることができる。
‐「物体」とは、粒子を意味し、この物体には、生体細胞、例えば、真核細胞及び原核細胞、古細菌細菌、モールド(mold)、植物細胞、微細藻類、酵母、原生動物、アメーバ、原生生物、動物細胞;細胞小器官;有機/無機元素又は分子;ミクロスフェア;水中の油などの不混和性液体の液滴が含まれる。
‐「物体の体積割合」とは、物体の体積を、物体と液体を含む混合物のすべての異なる物体の体積で割った比を意味する。
【詳細な説明】
【0019】
以下の詳細な説明は、図面と併せて読むとよりよく理解される。例示の目的で、好ましい実施形態として装置が示されている。ただし、本出願は、本出願において示されている、正確な配置、構造、特徴、実施形態、及び態様に限定されないことを理解されたい。図面は縮尺通りに描かれておらず、特許請求の範囲を図示の実施形態に限定することを意図していない。したがって、添付の特許請求の範囲で言及される特徴の後に参照符号が続く場合、このような符号は、特許請求の範囲の理解を高めるためだけに含まれており、特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0020】
第1の観点によれば、本発明は、液体を含む空洞内の物体を操作する方法に関する。本発明による方法は、以下の工程を含む:
‐その空洞の少なくとも1つの領域において、所定の波長範囲の光を吸収することができる物体を提供すること;
‐物体の凝集体を、音場にそれらをさらすことによって形成すること;及び
‐所定の波長範囲で放射される光線に前記凝集体をさらすことによって、その凝集体を破壊すること。
【0021】
凝集体は、同時に音場下において、光線にさらされる。
【0022】
本発明の方法は、音響集束を実行するために音場を使用して、凝集体とも呼ばれる物体の層を最初に形成することを可能にする。
図1及び
図3Aに示すように、音場発生器5によって生成された音場8のみが存在する場合には、物体は、放射壁4と反射壁3との間の空洞2における高さの中間地点において、凝集体を形成する。
【0023】
音圧の少なくとも1つの極値が、音場によって液体内に形成される。物体の層は、生成された音響波によって液体内に形成される音圧の極値(浮揚面と呼ばれるノード又はアンチノード)に集束されることが好ましい。例えば、別個の物体の複数の層が形成され、これらの層のそれぞれは別個の音圧極値に存在する。
【0024】
形成される物体の層は、細長い形状を有してもよく、例えば、平坦化の層の平面に対して垂直な方向に見た場合に楕円形又は長方形であってもよい。変形形態では、形成される物体の層は、その平坦化の平面に対して垂直な方向で見た場合に円形又は正方形の形状を有してもよい。
【0025】
次に凝集体の物体に光線が照射され、凝集体の物体は、浮揚平面に沿って移動し、凝集体自体から徐々に吐き出される。
【0026】
図2及び
図3Bに示すように、音場8と光源6から放射される光線7に物体を同時にさらした場合には、光源から放射される波長を吸収する物体(ここでは、白い玉)は凝集体から放出されるが、一方、非吸収の物体(ここでは、網目模様の玉)は変化しないままである。
【0027】
物体の吐き出しは、これらの物体が物体の吸収波長帯域に相当する波長の光線で照らされている場合にのみ観察することができる。物体は、浮揚状態のままで、凝集体から自由になる。出願人によると、これは、一次放射線力は影響を受けないが、横方向の力は釣り合うという事実に基づくものである。
【0028】
本発明は、有利には、浮揚平面内で損傷することなく物体を連続的に分離及び収集することを可能にし得る。本発明による方法で使用される装置は、標準的な超音波及び照明機器を備えてもよい。
【0029】
別の観点では、本発明は、液体を含む空洞において物体を分離する方法に関する。前記方法は、以下の工程を含む:
‐空洞の少なくとも1つの領域において、第1波長範囲の光を吸収することができる複数の第1の物体と、第1波長範囲の光を吸収できない複数の第2の物体とを備えること;
‐複数の第1の物体と複数の第2の物体の凝集体を、それらを音場にさらすことによって形成すること;及び
‐第1の波長範囲で放射する光線に凝集体をさらすことによって、凝集体から複数の第1の物体を吐き出すこと。
【0030】
前記方法は、実質的に同じ音響コントラスト因子を有する物体の分離を可能にする。本発明による方法は、更に、豊富な物体の集団の中から希少な物体(特には、小さく豊富な物体の集団の中から大きく希少な物体)を分類することを可能にする。実際、それらのサイズのせいで、大きく希少な物体は浮揚平面ですばやく集束されて、単なる音響泳動では豊富な物体の中から効果的に分類することができない。
【0031】
本発明による方法により集められて吐き出される物体は、空洞の第1の出口に向かって選択的に案内され得る。
したがって、一実施形態では、方法は更に以下の工程を含む:
‐空洞内において液体を流すこと;及び
‐最初の出口で吐き出された物体を回収すること。
【0032】
本発明による方法を
図4及び
図5に示す。
図4は、空洞2の高さを画定する第1の壁3及び第2の壁を含む、物体1を操作及び分離する装置を示す。第1の壁3は反射壁であり、第2の壁は、固定される送信器壁4及び音場8を生成するための音響波発生器5である。
図4は、キャビティ2内の照明領域7を照らす光源6を更に示している。前記空洞2は、液体と、光源の波長を吸収する複数の第1の物体(網目模様の玉)と吸収しない複数の第2の物体(白い玉)とを含む物体を含む。
図4に示すように、音場8にさらされると、物体は空洞2の高さの中間地点の浮揚平面で凝集体を形成する。空洞2の第1の領域において光線7及び音場8の下で同時にさらされると、吸収する物体が凝集体から放出される(
図5参照)。流れの状態では、非吸収物体用の第1中央出口10.1と、凝集体から放出された吸収物体用の第2及び第3出口(10.2、10.3)とを配置することにより、物体を分類することができる。分類を向上するために、装置は、複数の入口9.1を備えてもよい。物体を含む液体が供給される第1の入口9.1の各側において、緩衝液が供給される第2及び第3の入口9.2,9.3を使用することにより、流体力学的集束が、空洞の幅w内の中央に物体を配置する。
【0033】
一実施形態によれば、複数の第2の物体は光を吸収しない。代替の一実施形態によれば、複数の第2の物体は、第1の波長範囲と重複しない第2の波長範囲の光を吸収する。
【0034】
後者の実施形態では、物体を分離する方法は、第2の波長範囲で放射する光線に凝集体をさらす工程を更に含むことができる。
【0035】
一実施形態では、方法は、以下の工程を含む:
‐空洞の少なくとも1つの領域において、所定の第1の波長範囲の光を吸収可能な複数の第1の物体、所定の第2の波長範囲の光を吸収可能な複数の第2の物体、及び複数の第3の物体を提供すること;
‐複数の第1の物体、複数の第2の物体、及び複数の第3の物体の凝集体を、それらを音場にさらすことにより形成すること;
‐所定の第1の波長範囲で放射する光線に凝集体をさらすことにより、凝集体から複数の第1の物体を吐き出すこと;及び
‐所定の第2の波長範囲で放射する光線に凝集体をさらすことにより、凝集体から複数の第1の物体を吐き出すこと。
【0036】
一実施形態によれば、複数の第3の物体は光を吸収しない。代替の一実施形態によれば、複数の第3の物体は、第1及び第2の波長範囲と重複しない第3の波長範囲の光を吸収する。
【0037】
上記を考慮すると、以下のように本発明の方法を実施することができることが当業者には明らかである:
空洞の少なくとも1つの領域において、n個の複数の物体を含む物体を提供するものであり、各複数の物体は、ある波長範囲の光を吸収することができ、そしてn個の波長範囲のいずれも重複しないこと;
物体の凝集体を、音場にそれらをさらすことにより、形成すること;
i=l..nの場合には、i番目の波長範囲で放射する光線に凝集体をさらすすることにより、凝集体からi番目の複数の物体を吐き出すこと。
【0038】
図6及び
図7に示すように、本発明の方法は、1種類を超える複数の物体、更には2種類を超える複数の物体で実行することができる。
図6は、実際には、3種類の複数の物体を示している:光学的及び音響的にアクティブな物体(網目模様の玉)、音響的にアクティブな物体(黒い玉)、及び非アクティブな物体(白い玉)。音響的にアクティブな物体は、音響的な移動によって浮揚平面に集束されるが、一方、非アクティブな物体は移動しない。光線7が照射されると、光学的にアクティブな物体は、凝集体から吐き出され移動する。
【0039】
その結果、本発明の方法は、3種類以上の複数の物体を分類するために使用することができる。
図8に示すように、音響的にアクティブな種は、浮揚平面の中心に集めることができる(1)。一方、非アクティブな種は、音波の方向に対して垂直である幅wに沿って空洞の中心に集めることができる(2)。そして、音響的及び光学的種は、高さhに沿って、空洞の中心にある浮揚平面の側面に集めることができる(3)。
【0040】
図示されていない別の実施形態では、複数の物体の各々は光学的にはアクティブであるが、吸収スペクトルは重なっていない。したがって、順次、分類することが可能となる。
【0041】
本発明は、例示的な実施形態では、液体を含む空洞内における物体の少なくとも1つの画像を取得する方法に関する。前記方法は、以下を含む:
‐上述の方法を使用して物体を操作又は分離すること;
‐照明システムによって空洞の少なくとも1つの領域を照らすこと;及び
‐前記の照らされた物体についての少なくとも1つの画像を取得システムにより取得すること。
【0042】
一実施形態によれば、少なくとも1つの画像を照明及び取得する工程は、操作工程又は分離工程と同時に実行される。一実施形態によれば、少なくとも1つの画像を照明及び取得するステップは、操作工程又は分離工程に続いて実行される。
【0043】
一実施形態によれば、物体を撮像するために使用される照明工程は、操作方法又は分類方法で使用される光線に物体をさらすためにも使用される。
【0044】
独立して、又は前述と組み合わせて、本発明は、その別の観点における、液体中の物体を分離するための装置に関する。
【0045】
図6及び
図7に示すように、前記装置は、以下を含む:
‐長手軸に沿って延びて、第1の横断軸に沿って測定されている幅(w)及び第1の横断軸に垂直な第2の横断軸に沿って測定されている高さ(h)を表す断面を有する少なくとも1つの空洞2。第2の横断軸に沿っている第1及び第2の壁3、4と、空洞2と液体連通している少なくとも第1の入口9.1と、空洞2と液体連通している少なくとも第1、第2及び第3の出口10.1、10.2、10.3とを有する空洞2。ここで、第1の出口10.1は、第2の出口10.2と第3の出口10.3との間の第1の横断軸上に配置されていること;
‐壁の1つから空洞の第1の領域において音場8を生成する少なくとも1つの音響波発生器5;及び
‐空洞の第1の領域で光線7を放射する少なくとも1つの光源6。
【0046】
本発明において、第1の領域は、空洞が音場及び光線の両方にさらされる領域として定義される。当業者には明らかなように、音響波発生器は、第1の領域を包含する第2の領域内に音場を発生させることができ、光源は、第1の領域を包含する第3の領域において光線を発生させることができる。その場合、第1の領域は、第2の領域と第3の領域との交点である。
【0047】
一実施形態では、少なくとも第1、第2及び第3の出口10.1、10.2、10.3は、第2の横断軸上の同じ高さに配置される。一実施形態では、装置は、第2及び第3の入口9.2、9.3を更に備え、第1の入口9.1は、第2の入口9.2及び第3の入口9.3との間の第1の横断軸上に配置される。後者の実施形態は、空洞2の中心において物体の流体力学的集束を可能にする。
【0048】
上記の方法は、下記の用途の少なくとも1つにおいて使用することができる:種(たとえば、剛体又は変形可能な物体、多分散物体、生体細胞(特に、血液細胞、例えば、血液又は小球の標本に存在する癌細胞)、細菌、コロイド又は非コロイドエマルジョン、タンパク質又はリポソーム)を分類する方法;診断又は分析する方法; 種の精製、濃縮又は枯渇する方法;種の合成方法; 種の物理的又は化学的特性を変更する方法;医薬品の研究する方法;混合する方法又は拡散係数を測定する方法。
【0049】
本発明による方法は、特に、多分散物体の混合物に最初に含まれる物体を分離する目的に使用することができる。
【0050】
図2及び
図3Bに示されるように、本発明の方法は、豊富な興味のない細胞(白色の玉)から興味のある希少細胞(網目模様の玉)を単離するために使用することができる。特に、選択された波長において吸収されない希少細胞(例えば、循環腫瘍細胞)は、2つの母集団が類似する音響コントラスト因子の場合でも、選択された波長で吸収されるなどの豊富な細胞(例えば、赤血球)から特定することができる。興味のない吸収物体は照明領域7から吐き出され、一方、興味のない非吸収物体は、音響浮揚の下でその位置にとどまったままである。当業者には明らかであるように、興味のある細胞は、必要な変更を加えて、選択された波長で吸収され、豊富な細胞は、前記の選択された波長で非吸収性にすることができる。
【0051】
多分散性物体間での吸収の違いにより、物体を空洞の幅に沿って分離することができる。
【0052】
また、本発明による方法は、処理物体の選択的な音響集束及び選択的な光排除によってフィルターを用いない濾過を実行することが可能となる。
【0053】
液体が流動状態にある場合には、物体の位置の修正により、物体を空洞の所定の出口に向かって選択的に誘導することが可能となる。
【0054】
一実施形態によれば、液体は水溶液、有機溶液、又はそれらの混合物である。一実施形態によれば、液体はエマルジョンである。 一実施形態によれば、液体は、生物学的液体(例えば、血液、血漿、又は任意の細胞培養培地)である。
【0055】
一実施形態によれば、液体は、光(特に、可視光線)を通過させる。 装置の作動中において、液体を停止させることができる。別の実施形態では、装置の作動中において、液体が流れている。
【0056】
一実施形態によれば、物体は、所定の波長範囲の光を吸収することができる。一実施形態によれば、物体は、所定の波長範囲の光を吸収することのできる複数の第1の物体と、所定の波長範囲の光を吸収することのできない複数の第2の物体を含む。複数の第1の物体は、複数の第2の物体と実質的に同じ音響コントラスト因子を有することができる。一実施形態によれば、物体はn個の複数の物体を含み、nは1~10、100、又は1000の範囲である。
【0057】
一実施形態によれば、物体は蛍光性である。
【0058】
一実施形態によれば、物体は、剛体又は変形可能な物体、多分散又は単分散性物体である。
【0059】
一実施形態によれば、物体は、剛体、弾性、鉱物、又は生物学的物体から選択される。一実施形態によれば、物体は、藻類、微生物、細菌、ウイルス、DNA、タンパク質、又は発酵液から選択される。一実施形態によれば、物体は、コロイド物体から選択される。一実施形態によれば、物体は、細胞、細胞の一部(例えば、細胞破片)、又は細胞クラスター;例えば、血液細胞、海綿細胞、上皮細胞から選択される。一実施形態によれば、物体は、リン脂質、リポソーム、又は小胞から選択される。一実施形態によれば、物体は、マイクロ物体(例えば、金属マイクロファイバー)又はナノ物体(例えば、カーボンナノチューブ又はそれらの混合物)から選択される。一実施形態によれば、物体は、自走式物体(例えば、生物学的液体又はイオン液体中のバクテリア又はマイクロ/ナノロボット)である。
【0060】
物体は、例えば、生体細胞を吸収する単分散又は多分散であってもよい。後者の場合、本発明による方法は、例えば、前記生体細胞を分類する手順で使用することができる。変形形態では、物体は、蛍光色素分子でマークされた単分散又は多分散蛍光生物細胞であってもよい。
【0061】
空洞内に存在する物体の平均サイズは、例えば、50マイクロメートル以下とすることができる。用語「平均サイズ」とは、集団の半分である統計的物体サイズ(D50と呼ばれる)を意味する。
【0062】
一実施形態によれば、液体内の物体の体積分率は、0.025%を超えるか、特に0.025~65%、好ましくは0.025~35%、より好ましくは5~20%の範囲である。
【0063】
空洞の高さは、音響波が生成される少なくとも長手軸に沿った位置において、空洞内に存在する物体の平均サイズの10倍以上とすることができる。
【0064】
空洞は、長手軸に沿って延びており、第1の横断軸に沿って測定された幅と第1の横断軸に垂直な第2の横断軸に沿って測定された高さとを表す断面を有する。空洞は、第2の横断軸に沿って、第1及び第2の壁を有する。
【0065】
空洞は、その長手軸に沿った動きについて、実質的に一定の断面を有していてもよい。空洞は、その長さの少なくとも一部、特にその長さ全体にわたって、長方形の断面を有していてもよい。変形例では、空洞は、その長さの少なくとも一部、特にその長さ全体にわたって、正方形又は円形の断面を有していてもよい。
【0066】
空洞は、その長さの少なくとも一部、特にその長さ全体にわたって、20マイクロメートルから数ミリメートル、好ましくは100マイクロメートルから500マイクロメートルの範囲の高さを有することができる。空洞の幅は、空洞の長手軸に沿った動きについて、一定でも変わっていてもよい。空洞は、その長さの少なくとも一部にわたって、特にその長さ全体にわたって、1mmから30mm、好ましくは5mmから20mmの範囲の幅を有することができる。
【0067】
一実施形態によれば、空洞は、円筒型の空洞である。前記円筒の直径は、10から30ミリメートルの範囲(例えば、10、12、14、16、18、20、22、24、又は26ミリメートル)とすることができる。
【0068】
空洞の第1及び第2の壁の少なくとも1つは、など、空洞の内部に媒体(例えば、非限定的な例として、多数の物体を含む液体媒体)を挿入するために移動可能とすることができる。
【0069】
空洞の第1及び第2の壁のうちの少なくとも1つは、以下のうちから選択される材料を含むか、特にそれから構成することができる:鉱物又は有機ガラス、シリコンウェーハ、熱可塑性材料、ポリカーボネート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリジメチルシロキサン、金属(例えば、チタン)、又は、特に石英。より一般的には、高い音響インピーダンス(すなわち、液体の音響インピーダンスより少なくとも10倍大きい音響インピーダンス)を有する任意の材料を使用することができる。一実施形態によれば、第1及び第2の壁は、同じか又は異なる材料を含む。
【0070】
音波が生成される壁に面する壁は、液体の音響インピーダンスよりも少なくとも10倍大きい音響インピーダンスを有する材料を含むか、又は、特にそれから構成することができる。壁において高い音響インピーダンスを有する材料を使用することにより、顕著な圧力極値の形成を促進することにより物体の音響集束を向上することが有利に可能である。
【0071】
空洞の第1及び第2の壁は、例えば、プレートの形態であり、0.1mmから5mmの範囲の高さを有することができる。空洞の壁の1つは不透明でもよい。空洞の壁の1つは透明である。 変形例では、両方の壁が透明である。空洞の内容物を照らすには、少なくとも1つの透明領域を含む少なくとも1つの壁を使用することが必要である。
【0072】
空洞は、少なくとも1つの入口、好ましくは2つ又は3つの入口と液体連通していてもよい。空洞は、更に、少なくとも1つの出口、好ましくは2つ又は3つの出口と液体連通していてもよい。
【0073】
空洞の入口及び/又は出口は、シリンジポンプ及び/又は蠕動型ポンプ及び/又は流れを駆動できる任意の装置に接続することができる。それらが蠕動型ポンプに接続されている場合には、蠕動型ポンプと空洞の入口及び/又は出口との間に流体力学的ダンパーを追加することができる。従って、形成された多層凝集体を収集するために空洞を開く必要はないかもしれない。
【0074】
音場は、少なくとも1つの音場発生器によって生成される。
【0075】
音場発生器は、圧電材料(例えば、セラミック)であってもよい。
【0076】
一実施形態によれば、音場は、例えば、0.1Vから50V、好ましくは1から10Vの範囲の振幅を有する。
【0077】
音場は、例えば、20メガヘルツ以下、特に0.5~10メガヘルツの範囲の周波数を有することができる。これらの周波数範囲を使用することにより、有利には、生体細胞に損傷を与えることなくそれを処理することができる。
【0078】
一実施形態によれば、音場の周波数は、0.5f0~1.5f0の範囲にあり、f0は空洞の共振周波数である。共振周波数に近いこの周波数範囲を使用することにより、物体の満足できる集束を提供するために十分に大きな音響力を生成することが有利に可能となる。一実施形態によれば、音場の周波数は、空洞の共振周波数と同じであるか、略等しい。
【0079】
一実施形態によれば、音場は、連続型の音場である。一実施形態によれば、音場は、パルス音場である。音響波発生器には、正弦波電圧が供給されてもよい。変形例では、三角波又は方形波電圧を音波発生器に供給することができる。
【0080】
空洞の壁と接触する音場発生器の一部は、円形でも長方形でもよい。音響波発生器は、例えば、空洞の第1又は第2の壁に固定されてもよい。この固定は、当業者に知られている任意の方法(特に、接着による方法)で行うことができる。
【0081】
一実施形態によれば、空洞の壁(送信器の壁)と接触する音場発生器の一部は環状である。前記実施形態によれば、光線は、音場発生器を通過してもよい。一実施形態によれば、物体は、反射壁を介して第1の波長範囲で放射される第1の光線と、送信器の壁及び環状変換器の開口部を介して第2の波長範囲で放射される第2の光線とにさらされる。
【0082】
音響波の発生器と空洞の第1及び第2の壁の少なくとも1つとの間に音響整合材料の層を存在させることができる。音響整合は、この目的に適していると当業者に知られている任意の材料(例えば、接着剤、音響ジェル、オイル)を使用することによって提供される。
【0083】
複数の音響波発生器は、空洞の送信器の壁に沿って配置することができ、そして、第1及び第2の壁の少なくとも1つから音響波を生成することができる。前記音響波発生器は、空洞の同じ側に配置することができる。
【0084】
複数の音響波発生器の使用は、液体が高速で流れる場合であるか、又は、大きな物体の層を生成すべき場合において有利である。前者の場合には、液体速度が増加するにつれて、発生器の下でのフライトタイムは減少する。これには、集束を達成するために、より多くの変換器を使用する必要がある。後者の場合には、例えば流れがないときに、複数の音響波発生器を使用して、物体の大きな層を形成することが可能である。
【0085】
複数の音響波発生器が使用される場合には、それらのうちの少なくとも1つは、空洞の第1の横断軸に沿って(すなわち、空洞の幅に沿って)、音響波を生成することができる。後者の場合には、幅/高さの比は1~10、特に1~3の範囲になる。
【0086】
高さにわたって及び幅にわたって音響力場を与えることにより、有利には、一組の物体(例えば、物体の線)を、空洞の任意の領域において動かして、音響集束のために利用可能な多数の場所から利益を得ることができる。
【0087】
一実施形態によれば、少なくとも1つの光源は、空洞の領域又は空洞全体において光線を放射するように構成される。少なくとも1つの光源は、レーザーダイオード、レーザ、ダイオード、LED、又は当業者に知られている他の光源とすることができる。
【0088】
少なくとも1つの光源は、200nm~1000nm、好ましくは特に360nm~800nmの範囲の光を放射してもよい。
【0089】
一実施形態によれば、光源によって放射される光線の出力は、10μW~200mWの範囲である。
【0090】
一実施形態によれば、少なくとも1つの光源は、音場が生成される壁の反対側に配置することができる。
【0091】
一実施形態によれば、少なくとも1つの光源は、音場が生成される壁と同じ壁に配置することができる。一実施形態では、光源は、空洞の任意の透明な壁を介して放射することができる。
【0092】
空洞内に存在し照明システムによって照らされている物体の少なくとも一部の画像についての少なくとも1つは、画像取得システムによって取得することができる。
【0093】
一実施形態では、画像取得システムは、顕微鏡(例えば、倒立型顕微鏡又は反射型顕微鏡)を含む。一実施形態では、画像取得システムはカメラを更に備える。
【0094】
一実施形態では、画像取得システムは、センサ上の空洞内に存在する物体からの放射を集束するためのレンズを有し、このシステムは、前記物体の画像の生成を可能にする。
センサは、例えば、CCDカメラであってもよい。
【0095】
照明システムは、音響集束により形成された物体の層の一部又はすべてを照らすように構成することができる。照明システムは、光源(例えば、レーザ、ダイオード、又はLEDを含むことができる光源)を含む。
【0096】
少なくとも1つの画像は、処理装置によって処理することができる。処理装置を使用して、キャビティ内に存在し照明システムによって照らされている物体の少なくとも一部の速度ベクトルの基準及び/又は方向及び/又は感覚を測定することができる。本発明によるアセンブリは、特に、物体の画像速度の測定方法を実行するために使用することができる。
【0097】
少なくとも1つの画像を処理する装置は、例えば、コンピュータを含むことができる。
【0098】
画像処理装置は、例えば、画像取得システムによって生成された物体の少なくとも2つの画像に見られる光度の分布の相関係数を計算するように構成することができる。
【0099】
様々な実施形態が説明及び図示されているが、発明の詳細な説明は本明細書に限定されると解釈されるべきではない。特許請求の範囲によって定義される本開示の真の精神及び範囲から逸脱することなく、当業者によって実施形態に様々な修正を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1は、本発明による方法を実施するための装置の一実施形態の断面図を示しており、物体は、光線で物体を照らす前の2種類の複数の物体を含む。
図2は、本発明による方法を実施するための装置の一実施形態の断面図を示しており、物体は、光線によって物体が照らされている2種類の複数の物体を含む。
図3Aは、
図1による装置の上面図の一部を示している。
図3Bは、
図2による装置の上面図の一部を示している。
図4は、本発明による方法を実施するための装置の一実施形態の断面図を示しており、物体は、2種類の複数の物体を含む。
図5は、
図4による装置の上面図を示している。
図6は、本発明による方法を実施するための装置の一実施形態の断面図を示しており、物体は、3種類の複数の物体を含む。
図7は、
図6の装置の上面図を示している。
図8は、
図7で使用した空洞のA-Aにおける図である。
図9は、本発明の一実施形態による、物体を操作するための装置、照明システム、及び取得システムの概略図である。
図10は、1.6μmの物体の凝集体を示している:
‐(a)は、緑色の照明(λ
light=545nm)にさらしたものである;
‐(b)は、赤色の蛍光を発したものである;
‐(c)-(d)は、光音響相互作用下において、凝集体が破裂したものである(c)-(d);
‐(e)-(f)は、緑色光励起がなくなるとすぐに、集合工程が再び開始され、凝集体が元の形状に戻ったものである。
図11は、凝集体からの物体の放出速度を照明出力の関数として示している。
図12は、物体の放出速度を音場の振幅の関数として示している。
図13は、赤血球の凝集体を示している:
‐(a)は、青色の照明(λ
light=488nm)にさらしたものである;
‐(b)光音響相互作用下のものである;
‐(c)-(d)は、凝集体が破裂したものである;
‐(e)-(f)は、青色光励起がなくなるとすぐに、集合工程が再び開始され、凝集体が元の形状に戻ったものである。
図14は、1.62μmの赤色蛍光体と0.883μmの緑色蛍光体の2成分混合物の分離を示している。
図15a、15b、及び15cは、1.0μmの蛍光ポリスチレン粒子の破裂を示している。
図16は、藻類(phacodactylum)の浮揚凝集体に対する青色光の影響を示している。
図17は、照明下でのナノロッドの凝集体と分散の作成を示している。
図18は、光を吸収する多数の粒子に囲まれた大きな非感光性粒子の分離の実施例を示している。
【符号の説明】
【0101】
A-カメラ
B-コンピュータ
C-光源
D-顕微鏡
E-増幅器
F-波発生器
1-物体を操作するための装置
2-空洞
3-反射壁
4-送信器の壁
5-音波発生器
6-光源
7-照明領域
8-音場
9.1-第1の入口
9.2-第2の入口
9.3-第3の入口
10.1-第1の出口
10.2-第2の出口
10.3-第3の出口
【実施例】
【0102】
音響共振器
直径D=20mm、高さh=400μmの円形型アルミニウムの空洞を製造した。空洞は、反射壁として機能する高さ1.1mmの円形型の石英カバープレートによって閉じられ、底部は送信器の壁として機能する高さ0.30mmのシリカウェーハで作られている。正方形型の圧電変換器を空洞の底面に接触するように配置した。高さ1mm、側面10mmの圧電変換器を、水溶性接着剤を使用してシリカウェーハに直接接着した。
図9に示すように、圧電変換器は、印加電圧を数mVから10V以上に変化させることができるアンプE(Tabor Electronics 3222)に接続された波発生器F(Tabor Electronics 5200)から電力が供給される。正弦波信号の周波数は、共鳴条件に相当する音響放射力(すなわち、円筒型空洞の高さの2倍の波長(ここでは、1.85MHz))を最大にするように調整された。
【0103】
照明システム及び取得システム
照明システムは、画像化用の白色光と光線の波長の良好な制御との両方を可能にする光源Cを含む。取得システムは顕微鏡Dを備え、記録はコンピュータAに接続された高速カメラBを使用して行われた。
【0104】
蛍光体の凝集体の分解
緑色の光で励起され赤色の光で蛍光を発する(λ
abs=532nm及びλ
em=600nm)ことのできる直径d
p=1.62μmの蛍光ポリスチレン粒子を使用した。粒子は液体に分散した。実験は、1.849MHzの周波数、7Vの変換器供給電圧、20.4μWの照明電力で実行された。
図10に示すように、粒子の大きな凝集体が音響浮揚状態で作成される。音響浮揚状態で緑色の光線が凝集体を照らすと、凝集体は粒子を放出し始める。粒子は浮揚状態のままで凝集体から自由になる。出願人によると、これは、一次放射力は影響を受けないが、横方向の力は釣り合うという事実に基づくものである。光線がオフになると、集合工程が再び開始される。粒子の放出は、さまざまな電圧とさまざまな照明パワーで起こり、
図11と
図12に示すように、照明の増加及び振幅の増加に伴って放出速度が増加すると考えられる。
【0105】
実験が実施されており、そして。本発明による効果は、異なるサイズ(1~15μm)の粒子、異なる材料(ラテックス、ポリスチレン、シリコン)、異なる色(効果は非蛍光着色粒子で観察される)、及び異なる蛍光で検証されている。
【0106】
図15a、15b及び15cは、1.0μmの蛍光ポリスチレン粒子(Micromod)の破裂の経時的蛍光顕微鏡画像である。励起光は青色(GFPフィルター)であり、光電力は最大である(コントロールパネル及び開口絞りの最大開口部上で100%、つまり、Dumyで行った光電力計測定から約160mW/mm
2)。音波の周波数は1.91MHzである。発生器からの電気信号の振幅は300mVである。
【0107】
物体のサイズの影響
上記の「蛍光物体の凝集体の分解」で詳述した作動条件を、異なる直径の蛍光物体又は吸収物体に対して繰り返した。0.883μm~5μmの範囲の直径の蛍光物体、及び10μm~15μmの範囲の直径の吸収物体を使用した。物体の直径は、吐き出しの現象に影響がないように考えられた。しかし、他の実験条件と粒子又は細胞の性質とによれば、サイズは、吐き出し現象に影響を与える可能性がある。
【0108】
赤血球の凝集体の分解
実験は赤血球でも実施された。赤血球は、400~500nmの波長範囲で吸収する非蛍光粒子である。実験は、1.850MHzの周波数、6Vの変換器供給電圧、20.4mWの照明電力で行われた。
図13に示すように、赤血球の大きな凝集体が音響浮揚状態において生成される。青い光線が音響浮揚状態で凝集体を照らすと、凝集体は粒子を放出し始める。粒子は浮揚状態のままで凝集体から自由になる。光線がオフになると、集合工程が再び開始される。
【0109】
2種類のコロイド粒子の混合溶液の分離
蛍光コロイド粒子の混合溶液(それぞれのポリスチレンは、粒子直径d
pl=1.62μm及びd
p2=0.883μm;吸収波長λ
1=545nm及びλ
2=488nm;等しい体積分率(0.025%)である)を使用した。混合物は、10.5Vの供給電圧と1.903MHzの周波数を使用して、凝集体に集束した。次に、凝集体を、青色光(λ
light=488nm) を使用して、20μWの出力で10秒間、照らした。
図14a)、b)、c)に示すように、照明前は、音響力によって生成された凝集体は均質である(bは緑色蛍光粒子を示し、cは赤色蛍光粒子を示す)。写真の下は、粒子に照明を照らした後の凝集体を示している。緑色の蛍光粒子e)は、2種類の凝集体(赤色の粒子を含む凝集体、及び緑色の粒子を含む凝集体)を作り出す赤色の蛍光粒子f)から抽出される。
【0110】
微細藻類の凝集体の分解
微細藻類(Phacodactylum)の浮揚状態での凝集体の破裂は、2MHzの共振器で行われた。ポルフィリジウムと呼ばれる他の種類の藻類は、おそらく、それらが水の密度に非常に近いために凝集体を形成しなかった(それらは、非常にゆっくり沈降する)。
【0111】
微細藻類(Phacodactylum)の通常のサイズは、約2μmである。
図16は、2MHzの共振器での藻類(Phacodactylum)の浮揚凝集体の明視野画像を示している。凝集体が形成される(左側の最初の写真)と、GFP(緑色蛍光タンパク質)上にフィルターキューブを5秒間配置することにより、青色光で照らされる。フィルターキューブを明視野位置に戻すと、藻が移動した(中央の写真)。次に、音響力の作用下で、凝集体は音響力の作用下で元の形状を再形成して回復する(右側の写真)。緑色の光(DsREDフィルター)は凝集体に影響を与えないことに留意すること。この実施例は、青い光が微細藻類の凝集体を選択的に破裂させることができることを示している。
【0112】
微細藻類による他の試験が計画されている。ポルフィリジウム微細藻類を試験したが、音響浮揚状態であっても、効果が全く観察されなかった。ポルフィリジウムの密度は水の密度に近いため、音響力はゼロに近くなる。これは、この藻類には沈降が観察されないという事実によって裏付けされる。
【0113】
蛍光マーカーで標識された細胞の凝集体の分解
操作された幹細胞は、分光光度計を通過した後における、特定の光吸収ピークを明らかにしていません。これらの幹細胞が異なる波長で照らされ音響浮揚状態で維持された場合には、効果は観察されなかった。
【0114】
蛍光標識細胞を使用した場合には、効果が観察された(免疫蛍光)。この場合、蛍光マーカーの波長での選択的照明の影響下で細胞凝集体を移動させることができる。これによって、光音響流体効果が、蛍光マーカーで表面にラベル付けされたすべてのタイプの細胞に一般化できることが確認される。蛍光マーカー(蛍光標識抗体)が、存在する抗原に応じて細胞の膜に固定されるために、細胞の特定の特性に基づいて分類することができる。これは、特定の細胞分類(たとえば、細胞療法)に役立つ。また、特定のマーカーで細胞(例えば、蛍光マーカーで検出できるがん幹細胞)を分類及び分離するのにも非常に効果的である。
【0115】
ナノロッドの凝集体の分解
異なる形状のナノロッドは、フルオロフォアを含む又は自然に蛍光を発する異なる材料、金属、又はポリマーから作成された。ナノロッドは、直径が1ミクロン未満の棒である。音場の影響下で、ナノロッドが凝集体を形成する(
図17参照)。粒子凝集体とは異なり、ナノロッドは凝集体内で移動可能である。適切な波長で照らされると、凝集体が破裂する。すなわち、音響力と選択的照明を組み合わせて、1以上のナノロッドの動きを制御することができると考えられる。
【0116】
多数の感光性粒子の中央にある希少細胞の分離
特定の波長の光を吸収する粒子が音響集束平面で照らされると、粒子は照射領域から吐き出されるが、音響浮揚状態のままである。この原理は、希少細胞(例えば、循環腫瘍細胞(CTC:Circulating Tumor Cells))の分離に使用できる。
【0117】
図18は、光を吸収する多数の粒子に囲まれた大きな非感光性粒子の分離の例を示している。最初の工程は、両方のタイプの粒子を含む凝集体を形成することである(t=0)。次に、小さな粒子の吸収波長で照明が行われた。この粒子は、この後に、照らされた領域から排出される。数分後、大きな粒子のみが、凝集領域に残る。これらの条件は、赤血球(より小さく、非常に多く、光に敏感である)に囲まれた希少な細胞(大きく、光に敏感ではない)で観察される条件に似ている。
【0118】
実際、適切な波長(488nm)を使用すると、照らされた領域から赤血球(RBC:red blood cells)を吐き出すことができることが実証されている。血液中の希少細胞を見つけることの主な難しさは、まさに、それらが、希少であり、他のすべての細胞をマスクする非常に多くのRBCと混ざっているということである。488nmの血液懸濁液を照らすことにより、RBCは吐き出されて、その後、プラズマ及びこの波長を吸収しない他のすべての細胞を観察することが可能になる。CTCは、比較的大きな細胞(約30□m)であり、それが音圧ノードにすばやく移行するので、観察と回復が容易であるはずである。
【0119】
希少な細胞の迅速な検出についてのこの原理を検証するために、多くの小さな蛍光粒子(約3μm)といくつかの大きな非蛍光粒子(30μm)との混合物を使用して、類似性の実験が行われた。その結果は、予想どおりである。小さな粒子は照明領域から吐き出されて、大きな粒子は、音響集束領域における浮揚状態の凝集体に残り、照明には反応していない。数分後、音響浮揚状態の大きな粒子のみが照明領域に残る(
図18)。