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特許7177840リン又はヒ素を吸着する吸着材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】リン又はヒ素を吸着する吸着材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/32 20060101AFI20221116BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B01J20/32 Z
B01J20/20 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020536366
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2019024319
(87)【国際公開番号】W WO2020031516
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2018151554
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】袋 昭太
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 響
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-047885(JP,A)
【文献】特開昭62-191040(JP,A)
【文献】特開昭53-118281(JP,A)
【文献】特開昭54-089994(JP,A)
【文献】特開平05-009015(JP,A)
【文献】特開2006-307373(JP,A)
【文献】特開平04-150940(JP,A)
【文献】特開2002-079015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/34
C02F 1/28
B01D 53/02 - 53/12
B09C 1/00
C05B 1/00 - 21/00
C05D 9/00 - 9/02
C01B 32/00 - 32/991
C01B 25/04 - 25/047
C22B 30/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を炭化して炭化物を形成し、
前記炭化物の孔の中に鉄を含む溶液を染みこませ、
前記鉄を含む溶液を染みこませた前記炭化物を乾燥させ、
前記溶液は、水酸化鉄を含む粒子を含むコロイド状である、リン又はヒ素を吸着する吸着材の製造方法。
【請求項2】
有機物を炭化して炭化物を形成し、
前記炭化物の孔の中に鉄を含む溶液を染みこませ、
前記鉄を含む溶液を染みこませた前記炭化物を乾燥させ、
前記溶液は、ヘム鉄を含む、リン又はヒ素を吸着する吸着材の製造方法。
【請求項3】
乾燥した前記炭化物の孔の中にアルカリ溶液を染みこませて水酸化鉄粒子を生成し、
前記アルカリ溶液を前記炭化物の孔の外へ排出し、
前記炭化物を乾燥する、請求項1または2に記載の吸着材の製造方法。
【請求項4】
有機物を炭化して炭化物を形成し、
前記炭化物の孔の中に、鉄イオン及び前記鉄イオンと対をなす陰イオンを含む溶液を染みこませ、
前記溶液を染み込ませた前記炭化物の孔の中にアルカリ溶液を染み込ませて水酸化鉄粒子を生成し、
前記陰イオン及び前記アルカリ溶液を孔の外へ排出し、
前記炭化物を乾燥し、
前記水酸化鉄粒子を還元する、リン又はヒ素を吸着する吸着材の製造方法。
【請求項5】
有機物を炭化して炭化物を形成し、
前記炭化物の孔の中に鉄を含む溶液を染みこませ、
前記鉄を含む溶液を染みこませた前記炭化物を乾燥させ、
乾燥した前記炭化物の孔の中にアルカリ溶液を染みこませて水酸化鉄粒子を生成し、
前記アルカリ溶液を前記炭化物の孔の外へ排出し、
前記炭化物を乾燥し、
前記水酸化鉄粒子を還元する、リン又はヒ素を吸着する吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記還元は、水素、一酸化炭素、又は炭化水素を含むガスを用いて行われる、請求項4又は5に記載の吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記還元は、一酸化炭素を含むガスを用いて500℃以上の温度で行われる、請求項4又は5に記載の吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記還元は、水素を含むガスを用いて100℃以上の温度で行われる、請求項4又は5に記載の吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着材の製造方法に関する。特に、本発明はリンおよびヒ素を吸着する吸着材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素の量を削減するために、二酸化炭素を人為的に回収し地中に貯留する技術が知られている。例えば、樹木や農作物等のバイオマスを利用して大気中の二酸化炭素を吸収させ、当該二酸化炭素を有機炭素として固定することができる。しかし、これらのバイオマスは有機物であることから、そのまま地中に貯留しても、腐敗や分解が起き、大気中に二酸化炭素を再放出することになる。一方、バイオマスは、酸素を遮断した状態で加熱すると、酸素原子や水素原子を脱離し、炭素分と灰分からなる炭化物を生成することができる。この炭化物は炭素の塊であることから、酸素の存在下において、高温で加熱しないかぎり燃焼されない。つまり、炭化物は環境中(地中)では非常に安定であり、ほとんど分解されることはない。このように、炭化させたバイオマスを農地等に埋めることで、二酸化炭素を炭素に変換して地中に隔離貯留することができる。つまり、バイオマスの炭化物を地中に埋めることは、大気中の二酸化炭素量の削減に繋がる。また、炭化物は土壌の土質を改善する効果を有する。しかしながら、炭化物の製造にかかるコストを考慮すると、単に炭化物を土壌の土質改善のためだけに利用することは、その製造コストに見合わない。
【0003】
他方、炭化物は多孔質であるため、表面積が非常に大きいことが知られている。この表面積の大きさを利用して、炭化物は多様な物質の吸着材として用いられている。例えば、特許文献1では、カルシウムを担持した炭化物を用いたリン回収材が記載されている。このようなリン回収材を用いてリンを吸着させることで、リンが自然水域に排出されることによる水質汚染を抑制することができる。さらに、リンを吸着したリン回収材を農地に埋めると、農作物が根から放出する有機酸により当該リン回収材に吸着したリンが溶解される。すなわち、このリンは農作物の肥料として機能するため、リン回収材が埋められた農地の収量を向上させる、又は良質な農作物を成長させることができる。
【0004】
このように、単に土壌の土質改善のためだけではなく、例えば、ある有害物質を吸着させることで、環境汚染を抑制することができる炭化物、又は、その有害物質を他の用途に適用することができる炭化物の需要が増加してきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-75706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のリン回収材では、籾殻又は珪藻土等のようにケイ素を多く含む材料を用いる必要がある。ケイ素を多く含む材料を用いる場合、リン回収材の製造量に限界がある。また、リンなどの物質を吸着することができる許容量に限界がある。
【0007】
本発明の一実施形態は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、多様な材料を用いて吸着材を製造することができる吸着材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態にかかる吸着材の製造方法は、有機物を炭化して炭化物を形成し、前記炭化物の孔の中に鉄を含む溶液を染みこませ、前記鉄を含む溶液を染みこませた前記炭化物を乾燥させる。
【0009】
前記溶液は、鉄イオンを含んでもよい。
【0010】
前記溶液は、水酸化鉄を含む粒子を含むコロイド状であってもよい。
【0011】
前記溶液は、ヘム鉄を含んでもよい。
【0012】
乾燥した前記炭化物の孔の中にアルカリ溶液を染みこませて水酸化鉄粒子を生成し、前記アルカリ溶液を前記炭化物の孔の外へ排出し、前記炭化物を乾燥してもよい。
【0013】
本発明の一実施形態にかかる吸着材の製造方法は、有機物を炭化して炭化物を形成し、前記炭化物の孔の中に、鉄イオン及び前記鉄イオンと対をなす陰イオンを含む溶液を染みこませ、前記溶液を染み込ませた前記炭化物の孔の中にアルカリ溶液を染み込ませて水酸化鉄粒子を生成し、前記陰イオン及び前記アルカリ溶液を孔の外へ排出し、前記炭化物を乾燥する。
【0014】
前記水酸化鉄粒子を還元してもよい。
【0015】
前記鉄を含む溶液を染みこませた前記炭化物を乾燥させ、鉄化合物を前記炭化物に付着させ、前記鉄化合物に含まれる鉄を還元してもよい。
【0016】
前記炭化物を前記溶液に浸漬させた状態で減圧してもよい。
【0017】
前記還元は、水素、一酸化炭素、又は炭化水素を含むガスを用いて行われてもよい。
【0018】
前記還元は、一酸化炭素を含むガスを用いて500℃以上の温度で行われてもよい。
【0019】
前記還元は、水素を含むガスを用いて100℃以上の温度で行われてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一実施形態によれば、多様な材料を用いて吸着材を製造することができる吸着材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係る吸着材に用いられる多孔質材の孔形状を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係る吸着材において、水酸化鉄を生成させる具体的な方法を示す概念図である。
図8】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態に係る吸着材において、水酸化鉄を生成させる具体的な方法を示す概念図である。
図10】本発明の一実施形態に係る鉄を含む溶液の製造方法を示すフローチャートである。
図11】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法において、溶液に浸漬した多孔質材を減圧する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態における吸着材及び吸着材の製造方法について説明する。但し、本発明の一実施形態における吸着材及び吸着材の製造方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号又は同一の符号の後にアルファベットを付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0023】
以下の実施形態では、吸着材に用いられる多孔質材として、木材が炭化した炭化物について例示するが、この構成に限定されない。例えば、炭化物は木材以外の有機物が炭化したものであってもよい。また、多孔質材は、炭化物以外の多孔質な部材であってもよい。また、特に技術的な矛盾が生じない限り、異なる実施形態間の技術を組み合わせることができる。
【0024】
〈第1実施形態〉
[吸着材10の製造方法]
図1図5を用いて、第1実施形態に係る吸着材10及び吸着材10の製造方法について説明する。本実施形態において、吸着材10(図5参照)に用いられる多孔質材100として、有機物が炭化された炭化物が用いられ、炭化物の孔の中に金属粒子を導入する方法として、鉄を含む溶液に炭化物を浸漬する方法が用いられ、炭化物の孔の中に付着した鉄化合物が還元されることで、ゼロ価の鉄粒子が炭化物の孔の中に配置される構成について説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示すフローチャートである。図2は、本発明の一実施形態に係る吸着材に用いられる多孔質材の孔形状を示す断面図である。図3図5は、それぞれ本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示す図である。
【0026】
図1に示すように、ステップS101で有機物が炭化される。本実施形態では、有機物として木材が用いられる。有機物の炭化は、大気雰囲気に比べて酸素比が小さい雰囲気での熱処理によって行われる。
【0027】
炭化炉には主に二種類あり、炭化に必要な熱を外部から供給する炭化炉を外熱式と呼び、材料から熱を確保するものを内燃式と呼ぶ。外熱式は酸素を遮断して炭化し、内燃式は炭化に必要な最低限の熱量を確保するために必要な燃焼のための酸素を供給する。つまり、基本的には還元条件下、高温で加熱するプロセスを炭化と呼ぶ。有機物を還元条件下で加熱すると、昇温途中(例えば、約280℃)で有機物中の組成分解が始まり、有機物内の酸素、水素が、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、炭化水素などのガスとして揮発し、炭素分の多い無定形炭素に変化していく。さらに高温で加熱し続けることで、有機物内の酸素、水素がさらに減少し、純度の高い固定炭素及び灰分から構成される炭化物を形成する。このような変化により、有機物は炭化物に変わる。有機物内の水分や構成成分が揮発性ガス等として脱離し、一定量の炭素が残存するため、有機物の炭化によって形成される炭化物には多数かつ大小様々な連続多孔が形成されることになる。炭化温度の上昇に伴い炭素化が進行して形成される炭化物は、耐熱性(耐火性)、吸着性、導電性の性質を有するようになる。有機物の炭化によって形成された炭化物は、多孔質材100の一例である。この場合、多孔質材100は導電性を有している。
【0028】
ここで、図2を用いて、多孔質材100として炭化物が用いられた場合における、多孔質材100の孔形状について説明する。図2に示すように、多孔質材100は、マクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220を有する。マクロ孔200は、多孔質材100の表面に繋がる孔である。多孔質材100の内部において、マクロ孔200が細分化されてメソ孔210が形成されており、メソ孔210が細分化されてミクロ孔220が形成されている。マクロ孔200のサイズは、おおよそ50nm~40μmである。メソ孔210のサイズは、おおよそ2nm~50nmである。ミクロ孔220のサイズは、おおよそ0.5nm~2nm以下である。
【0029】
図1に示すように、ステップS101の有機物の炭化とは別に、ステップS103で鉄又は鉄化合物を含む溶液120の準備が行われる。本実施形態では、溶液120として、鉄を含む水溶液が用いられる。具体的には、溶液120として、無機鉄又は無機鉄化合物が溶解された塩化第1鉄水溶液(FeCl)、塩化第2鉄水溶液(FeCl)、硝酸第1鉄水溶液(Fe(NO)、硝酸第2鉄水溶液(Fe(NO)、硫酸第1鉄水溶液(FeSO)、硫酸第2鉄水溶液(Fe(SO)、又はポリ硫酸第二鉄溶液([Fe(OH)(SO3-n/2、但し0<n≦2、m=f(n))が用いられる。又は、溶液120として、有機鉄化合物としてたんぱく質と結合したヘム鉄が溶解された溶液も使用できる。ヘム鉄が含まれる動物の血液などの廃棄物を利用してもよい。これらの溶液を特に区別しない場合、単に鉄溶液という場合がある。なお、溶液120は上記の鉄溶液に限定されず、上記以外の鉄を含む溶液であってもよい。また、溶液の溶媒は水だけでなく、メタノール、エタノール、フェノール、ベンゼン、ヘキサンなどの有機溶媒でも構わない。
【0030】
ステップS105で、ステップS101で形成された炭化物を、ステップS103で形成された溶液120に浸漬する。このときの状態を図3に示す。図3に示すように、溶液120が多孔質材100に供給されると、溶液120が多孔質材100の孔(マクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220(図2参照))に侵入する(染みこむ)。これに伴い、溶液120中の鉄イオン110も多孔質材100の孔に侵入する。つまり、多孔質材100を溶液120に浸漬することで、鉄イオン110を多孔質材100の孔の中に染みこませる。
【0031】
ここで、メソ孔210及びミクロ孔220は、マクロ孔200に比べてサイズが非常に小さく、その先端が多孔質材100の内部で行き止まりになっている。このため、溶液120が多孔質材100の孔の中に染みこんだときに、例えばミクロ孔220の先端に気泡130が生じてしまう場合がある。図3の例では、ミクロ孔220の先端にだけ気泡130が発生した状態を例示したが、気泡130はメソ孔210まで広がっている場合もあり、マクロ孔200まで広がっている場合もある。気泡130が存在する領域には溶液120が染みこむことができないため、この領域に鉄イオン110を供給することができない。
【0032】
このような現象を解消するために、図1のステップS107において、多孔質材100が溶液120中に浸漬した状態で、これらが配置された雰囲気を減圧する。このときの状態を図4に示す。図4に示すように、多孔質材100に溶液120が供給された状態で、これらが配置された雰囲気を減圧すると、図3に示すようなミクロ孔220の先端に存在していた気泡130が孔の外に拡散される。この処理を脱気という場合がある。図4に示すように気泡130が孔の外に拡散されると、図3で気泡130が存在していた位置に溶液120が侵入することができるため、気泡130が存在していた領域(この例では、ミクロ孔220)に鉄イオン110を供給することができる。なお、上記のように孔の内部に気泡が生じない場合、又は孔の内部に気泡が生じる場合であっても、その気泡の存在が吸着材10の特性に悪影響を及ぼさない程度であれば、このステップS107及び次のステップS109は省略してもよい。
【0033】
ステップS109で、ステップS107で減圧された雰囲気を大気圧に戻し、多孔質材100を溶液120から取り出し、ステップS111で溶液120を染みこませた多孔質材100の乾燥を行う。この乾燥によって溶液120に含まれる液体を除去する。この乾燥は、多孔質材100を加熱しながら行われる。また、多孔質材100を乾燥する際に、多孔質材100が配置された環境の湿度を調整してもよい。この乾燥は次のステップの還元プロセスの熱処理時に同時に行ってもよい。
【0034】
溶液120に浸漬した後に多孔質材100を乾燥した状態を図5に示す。図5に示すように、溶液120に含まれる溶媒を除去することで、溶液120に含まれていた鉄イオン110が析出し、鉄化合物111が形成される。そして、この鉄化合物111が、多孔質材100の孔の中及びその表面に付着する。具体的には、鉄化合物111はマクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220のうち少なくともいずれか一の孔の内壁に付着する。なお、図5では、鉄化合物111がこれら全ての孔の内壁に付着している。ステップS105~S109において、溶液120をメソ孔210及びミクロ孔220にも供給することができるため、ステップS111で鉄化合物111をこれらの孔の内壁に付着させることができる。
【0035】
図1のステップS113で、多孔質材100の孔の中及びその表面に付着した鉄化合物111の還元処理が行われる。言い換えると、鉄化合物111は、マクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220のうち少なくともいずれか一の孔の内壁に付着した状態で還元される。還元処理は、還元ガス雰囲気での熱処理によって行われる。この還元処理によって、二価もしくは三価の鉄化合物111が還元され、ゼロ価の鉄になる。このようにして、本実施形態に係る吸着材10が製造される。吸着材10に含まれるゼロ価の鉄が、リンやヒ素などを吸着する。
【0036】
なお、ステップS101において用いられる有機物として、生立木(広葉樹、針葉樹、竹などの間伐材、林地廃材を含む)、製材工場又は木材加工工場の廃材(鋸屑、樹皮屑、チップ屑、端切材を含む)、植物性の殻、建築解体材又は家具材の木質系廃材を用いることができる。ステップS101で生成される炭化物は、例えば木炭又は竹炭である。木炭は、竹炭の他に、白炭、黒炭、オガ炭、ヤシ殻炭、モミ殻炭、粉炭を含んでもよい。
【0037】
ステップS101における有機物の炭化温度は、400℃以上1200℃以下、500℃以上1100℃以下、600℃以上1000℃以下、又は700℃以上900℃以下である。有機物の炭化雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気、無酸素雰囲気、還元雰囲気、又は減圧雰囲気である。有機物の炭化を減圧雰囲気で行う場合、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で、-101200Pa以上-1300Pa以下の低真空状態、-101299.9Pa以上-101200Pa以下の中真空状態、-101299.99999Pa以上-101299.9Paの高真空状態、又は-101299.99999Pa以下の超高真空状態で行うことができる。有機物の炭化時間は10分以上10日以下、10分以上5時間以下である。また、有機物の炭化を低酸素雰囲気で行う場合、酸素濃度は0.01%以上3%以下、又は0.1%以上1%以下で行うことができる。有機物の炭化は、内燃式もしくは外熱式で、バッチ式の開放型や密閉型の炭窯炉、連続式のロータリーキルンや揺動式炭化炉、スクリュー炉、加熱チャンバ、蓋がされた耐熱容器(坩堝)を用いて行うことができる。
【0038】
本実施形態では、ステップS101において有機物を炭化することで多孔質材100を得る方法を例示したが、多孔質材100として市販された炭化物を用いてもよい。
【0039】
ステップS103で用いられる溶液120に含まれる鉄の質量パーセント濃度は0.1wt%以上50wt%以下、1wt%以上40wt%以下、又は5wt%以上15wt%以下である。ステップS103で多孔質材100が溶液120に浸けられる時間は、10秒以上24時間以下、1分以上5時間以下、又は5分以上1時間以下である。圧力容器に入れて炭化物を浸漬後に減圧する場合、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で-0.101MPa以上-0.02MPa以下、-0.101MPa以上-0.04MPa以下、又は-0.101MPa以上-0.08MPa以下とすることができる。この場合、減圧浸漬時間は、通常よりも短くて構わなく、所定のゲージ圧力に達してから1秒以上1時間以下、10秒以上10分以下、又は30秒以上5分以下から適宜選択すればよい。
【0040】
ステップS103で用いられる溶液120の溶媒として、水、メタノール、エタノール、フェノール、ベンゼン、ヘキサンなどの有機溶媒が用いられる。なお、本実施形態では、ステップS103において溶液120を作製する方法を例示したが、溶液120は市販品のものを用いてもよい。
【0041】
また、溶液120に、鉄イオン110の分散を促進する分散剤を追加してもよい。当該分散剤として、例えば界面活性剤を用いることができる。界面活性剤として、陰イオン(アニオン)界面活性剤、陽イオン(カチオン)界面活性剤、両性(双性)界面活性剤、非イオン(ノニオン)界面活性剤、及び高分子界面活性剤を用いることができる。陰イオン界面活性剤として、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、及びアルキルベンゼンスルホン酸塩を用いることができる。陽イオン界面活性剤として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩クロリド、アルキルピリジウムクロリド、及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩を用いることができる。両性界面活性剤として、アルキルジメチルアミンオキシド及びアルキルカルボキシベタインを用いることができる。非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、オクチルフェノールエトキシレート、及びアルキルモノグリセリルエーテルを用いることができる。高分子界面活性剤として、ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンイミンを用いることができる。分散剤の濃度は0.01%以上20%以下、または0.01%以上1%以下である。なお、炭化物は高温で炭化しないと疎水性(非親水性)を有するため、水が内部に入りにくい。このため、溶液120に界面活性剤を含ませることにより、溶液120を多孔質材100の内部に浸透しやすくさせることができる。
【0042】
ステップS105において、多孔質材100を溶液120に浸漬する前に、多孔質材100に上記の界面活性剤を供給してもいい。界面活性剤の供給は、多孔質材100の上面に塗布することで行われてもよく、界面活性剤を含む溶液に多孔質材100を浸漬することで行われてもよい。また、ステップS107と同様に、界面活性剤を多孔質材100に供給した状態で脱気を行ってもよい。
【0043】
また、多孔質材100は溶液120に浸漬しなくてもよい。例えば、多孔質材100の表面に溶液120を塗布することで、溶液120を多孔質材100の孔の中に染みこませてもよい。
【0044】
ステップS107において、より効率的に気泡130を孔の外に拡散させるために、脱気の際に振動を与えてもよい。この振動は超音波振動であってもよい。また、脱気の際に多孔質材100を加熱してもよい。また、脱気の際に、多孔質材100を溶液120中で傾ける又は回転させてもよい。脱気の際の圧力は、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で-0.101MPa以上-0.03Mpa以下で、脱気時間は10秒以上1時間以下、または30秒以上10分以下である。
【0045】
多孔質材100として炭化物が用いられる場合、炭化物は疎水性であるため、多孔質材100の孔の中に鉄イオン110を含んだ溶液120が染みこみ難い場合がある。このような場合、多孔質材100の孔(マクロ孔200、メソ孔210、ミクロ孔220)に存在する空気によって、多孔質材100の多くは液面に浮いてしまう。このような状態であっても、減圧することで、上記の孔に存在する空気を多孔質材100の外に引き出し、溶液120の外に排出することができる。これにより、多孔質材100の孔において、気泡130が存在していた領域に、鉄イオン110を含む溶液120を充填させることができる。
【0046】
なお、上記のように減圧すると、多孔質材100内の気泡130が大きくなり、多孔質材100の浮力が上昇し、多孔質材100が液面上に浮いてしまう場合がある。この現象を抑制するために、溶液120を入れた容器に、多孔質材100よりも小さな網目状の浮上防止板を設置してもよい。多孔質材100が液面上まで浮上してしまうと、液面上における気泡130と溶液120との置換効率が悪くなり、また大気圧に戻す際に、溶液120ではなく空気が多孔質材100内に入ってしまう可能性がある。しかし、上記のように浮上防止板を設置することで、このような現象を抑制することができる。
【0047】
上記のステップS105~S111の工程は、複数回繰り返し行われてもよい。また、ステップS107及びS109の工程が、複数回繰り返し行われてもよい。また、ステップS109の大気圧に戻す工程を経ずに、減圧された状態のままステップS111の乾燥を行ってもよい。その場合、当該乾燥の後に大気圧に戻してもよく、減圧のままステップS113の還元を行ってもよい。また、上記の乾燥及び還元を同一工程で行ってもよい。上記の工程を複数回繰り返すことで、多孔質材100に付着する鉄化合物111の量を増やすことができる。
【0048】
ステップS113における鉄化合物111の還元温度は、少なくとも500℃以上であればよい。還元温度の範囲は、例えば500℃以上1200℃以下、500℃以上1000℃以下、500℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下である。鉄化合物111の還元処理に用いられる還元ガスは、一酸化炭素ガス、水素ガス、硫化水素ガス、二酸化硫黄ガス又は炭化水素ガスである。また、一酸化炭素と水素を混ぜるなど、還元ガスを混合しても構わない。さらに還元ガスは爆発性や可燃性の観点から取り扱いが難しいガスも多いため、これらを不活性ガスで希釈しても構わない。例えば、一酸化炭素濃度を1%~20%になるように、窒素ガスで希釈することができる(つまり、窒素の濃度が99%~80%である)。還元時間は1分以上10時間以下、10分以上2時間以下である。当該還元は、バッチ式、連続式のどちらでも構わなく、加熱と還元ガス(不活性ガスとの混合でも構わない)の導入ができる構造であれば、管状炉、箱型炉を適宜用いることができる。還元性ガスとして一酸化炭素ガスを用いる場合、還元温度は、少なくとも500℃以上であればよい。この場合の還元温度の範囲は、例えば500℃以上1200℃以下、500℃以上1000℃以下、500℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下とすることができる。また、還元性ガスとして水素ガスが用いられる場合、還元温度は、少なくとも100℃以上であればよい。この場合の還元温度の範囲は、例えば100℃以上1200℃以下、100℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下とすることができる。
【0049】
なお、鉄化合物111を還元する際に、還元ガスに加えて、二酸化炭素ガス、酸素ガス、水蒸気を加え、賦活することで、還元と同時に多孔質材100に微細な孔を増やす(活性炭化する)ことができる。多孔質材100を活性炭化することで、多孔質材100の表面積をより大きくすることができる。
【0050】
従来、炭化物の内部に鉄化合物を形成する場合は、炭化する前の乾燥した有機物を、当該鉄化合物が溶解した溶液中に浸漬し、乾燥した後に、炭化を行っていた。上記のマクロ孔200は、木の仮道管孔に起因する孔であるため、マクロ孔200の内壁には還元されたゼロ価の鉄結晶が析出すると考えられる。また、生木等の乾燥前の生の有機物を、当該鉄化合物を溶解した溶液中に浸漬した場合、拡散浸透により、有機物の内部にまで鉄化合物を浸漬することができるが、炭化後の炭化物の孔表面にゼロ価の鉄結晶が十分に析出していない可能性がある。
【0051】
それに対して、本実施形態では、多孔質材100にメソ孔210及びミクロ孔220が形成された後に、鉄を含む溶液120を多孔質材100の孔の中に染みこませ、乾燥させるため、鉄化合物111をこれらの孔の内壁に付着させることができ、還元後には、これらの孔の内壁にゼロ価の鉄結晶を付着させることができる。
【0052】
また、従来は、有機物を炭化する熱処理で、炭化の際に発生する一酸化炭素や水素を利用して上記の鉄化合物の還元を行っていた。したがって、炭化の条件と還元処理の条件とを個別に制御することができなかった。例えば、鉄化合物の還元に必要な還元性ガスの量を調整することが難しかった。
【0053】
それに対して、本実施形態では、還元を炭化とは別の熱処理で行うため、還元に適した条件を適宜選択することができる。例えば、炭化と還元処理とを異なる装置で行うことができる。又は、炭化温度と還元温度とを異なる温度や時間で処理することができる。又は、炭化と還元処理とを異なる雰囲気で行うことができる。ここで、不活性ガス雰囲気あるいは無酸素雰囲気下で鉄の還元処理を行う場合、加熱によって炭化物中の金属化合物の金属の対イオンが炭化物を構成する炭素と反応して、一酸化炭素あるいは水素が生成される。例えば、硫酸鉄を含む炭化物の場合、加熱によって生じた亜硫酸ガスと炭化物中の炭素が反応し、一酸化炭素と二酸化硫黄が生成される。あるいは、炭化物中の酸素が炭化物を構成する炭素と反応して一酸化炭素が生成される。あるいは、炭化物に含まれる水素が熱分解し、メタンや水素が生成される。その一酸化炭素、メタン、あるいは水素は、鉄の還元によって消費される。したがって、炭化物中の炭素や水素の含有量が減少し、吸着材として用いられる炭化物の収量が減少すると考えられる。一方、還元ガス雰囲気で鉄の還元処理を行う場合、鉄の還元に利用される還元ガスが外部から供給されるため、炭化物中の金属化合物の金属の対イオンあるいは酸素及び水素と炭化物を構成する炭素との反応は抑制される。したがって、吸着材として用いられる炭化物の炭素量の減少が抑制されると考えられる。
【0054】
なお、本実施形態では、有機物を炭化した炭化物を多孔質材100として用いる構成を例示したが、多孔質材100として、炭化物以外の材料を用いてもよい。また、有機物として木材を炭化することで多孔質材100を得る構成を例示したが、木材以外の有機物を炭化してもよい。また、ステップS103において、溶液120として、硫酸第1鉄水溶液(FeSO)、硫酸第2鉄水溶液(Fe(SO)、又はポリ硫酸第二鉄溶液([Fe(OH)(SO3-n/2、但し0<n≦2、m=f(n))を用いる場合、ステップS113の還元処理によって得られる吸着材10に、酸化鉄及び/又は硫化鉄が付着されてもよい。酸化鉄及び/又は硫化鉄は、炭化物の表面または孔(マクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220のうち少なくともいずれか一の孔)の内部に存在してもよい。
【0055】
多孔質材100が炭化物の場合、炭化物は導電性が高いため、炭化物とその孔の中に付着したゼロ価の鉄の結晶粒子との間で電子交換が速やかに行われる。したがって、ゼロ価の鉄の結晶粒子を含む炭化物を水中に入れると、多孔質体表面でゼロ価の金属鉄が速やかにイオン化し、オキシ水酸化鉄(FeOOH)などの水酸化物を生成し、水中に存在するリン酸イオンと反応し、リン酸鉄を形成して炭化物に吸着固定することができる。上記と同様に、多孔質材100として、導電性を有する材料を用いることで、効率よくリンを吸着することができる。
【0056】
〈第2実施形態〉
[吸着材10Aの製造方法]
図6を用いて、第2実施形態に係る吸着材10Aの製造方法について説明する。吸着材10Aの製造方法は、図1に示す第1実施形態に係る吸着材10の製造方法と類似しているが、溶液120を浸漬し、乾燥させ、鉄化合物111Aが付着した多孔質材100Aを、さらにアルカリ溶液に浸漬する点において、第1実施形態の吸着材10の製造方法と相違する。以下の図6の説明において、図1と共通する部分については説明を省略し、主に図1と異なる点について説明する。なお、本実施形態に係る吸着材10Aの構成は、第1実施形態に係る吸着材10の構成と同様なので、ここでは図示を省略する。以下の説明において、吸着材10Aの構成の中で、吸着材10と同様の構成については、吸着材10で用いられる符号と同一の符号の後にアルファベット「A」を付し、その説明は省略する。
【0057】
図6に示すように、ステップS111Aで溶液120Aを染みこませた多孔質材100Aの乾燥を行った後に、ステップS115Aで当該多孔質材100Aをアルカリ溶液に浸漬する。このとき、多孔質材100Aの孔の内壁には、図5と同様に鉄化合物111Aが付着している。したがって、多孔質材100Aがアルカリ溶液に浸漬され、当該アルカリ溶液が多孔質材100Aの孔の中に染みこみ、鉄化合物111Aと接触すると、上記鉄化合物111Aの少なくとも一部が水酸化される。このようにして、多孔質材100Aの孔の内壁に水酸化鉄が生成される。
【0058】
この水酸化鉄の生成の後に、多孔質材100Aを水洗する(ステップS120A)。この水洗によって、多孔質材100Aの孔の中に生成されたアルカリ金属イオン、鉄化合物において鉄と結合していた陰イオン、及び当該孔の中に残ったアルカリ溶液を除去することができる。ここで、多孔質材100Aの孔の内壁に存在する水酸化鉄は、溶解度が低いため、上記の水洗を行っても多孔質材100Aの外に排出されにくい。また、多孔質材100Aの内部がアルカリ性に偏っていると、例えばリン等の吸着力が弱くなってしまうが、上記のように水洗によって多孔質材100A内のアルカリ金属イオン、陰イオン、及びアルカリ溶液を除去することで、多孔質材100Aの内部がアルカリ性に偏ることを抑制することができる。なお、ステップS120Aの水洗は省略しても構わない。また、ステップS121Aの乾燥の後に水洗を行ってもよい。
【0059】
上記のアルカリ溶液をメソ孔210A及びミクロ孔220Aまで染みこませるために、ステップS107Aと同様に脱気を行うことで、孔の中に存在する鉄化合物111Aを水酸化することができ、孔の内壁に水酸化鉄が付着した多孔質材100Aを得ることができる(ステップS117A、S119A、S120A、S121A)。ステップS121Aで乾燥した多孔質材100Aを水洗した後に、ステップS113Aの還元処理を行う。
【0060】
なお、ステップS115Aで用いられるアルカリ溶液として、水酸化ナトリウム(NaOH)、又は水酸化カリウム(KOH)などの溶液を用いることができる。
【0061】
上記のステップS115A~S121Aの工程は、複数回繰り返し行われてもよい。また、上記のステップS117A及びS119Aの工程が、複数回繰り返し行われてもよい。ステップS117A及びS119Aの工程が省略されてもよい。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る吸着材10Aの製造方法によると、鉄化合物111Aが水酸化された状態で還元処理を行うことができる。つまり、還元処理で発生するガスは、無害な水蒸気である。
【0063】
ここで、本実施形態のより具体的な例について、図7を用いて説明する。ここでは、溶液120Aとして塩化鉄溶液150Aが用いられ、アルカリ溶液として水酸化ナトリウム溶液140Aが用いられた場合について説明する。図7は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、水酸化鉄を生成させる具体的な方法を示す概念図である。図7では、多孔質材100Aの孔(マクロ孔200A、メソ孔210A、及びミクロ孔220A)の内壁101Aが示されており、内壁101Aに囲まれた領域における現象が例示されている。
【0064】
図7の(A)に示すように、塩化鉄溶液150A中には、鉄イオン151Aの他に鉄イオン151Aと対をなす陰イオン(塩化物イオン153A)が存在している。多孔質材100Aに上記の塩化鉄溶液150Aを染みこませ、乾燥によって塩化鉄溶液150Aに含まれる溶媒を除去することで、多孔質材100Aの孔の内壁101Aに、固体の塩化鉄155Aが析出する(図7の(B))。
【0065】
内壁101Aに塩化鉄155Aが析出した状態の多孔質材100Aに水酸化ナトリウム溶液140Aを染みこませると、多孔質材100A内では水酸化ナトリウム溶液中の水酸化物イオンが塩化鉄と反応し、水酸化鉄141A、塩化物イオン143A、及び水酸化ナトリウム溶液中のナトリウムイオン145Aが生成される(図7の(C))。つまり、内壁101Aに析出した塩化鉄155Aに水酸化ナトリウム溶液140Aが接することで、水酸化ナトリウム溶液155Aの水酸化物イオンが塩化鉄155Aの塩素と化学反応により置換され、水酸化鉄141A及び塩化物イオン143Aが生成される。水酸化鉄141Aは水への溶解度が低いため固体として内壁101Aに析出し、多孔質材100A内に保持される。一方で、塩化ナトリウムは水への溶解度が高いため、塩化物イオン143A及びナトリウムイオン145Aとして存在し、例えばステップS120Aの水洗によって多孔質材100Aの孔から除去することができる(図7の(D))。さらに、水洗によって、孔内で反応に使われなかった過剰な水酸化ナトリウム溶液140Aも多孔質材100Aから除去することができる(図7の(D))。つまり、塩化鉄溶液150A中の鉄化合物(塩化鉄)のうち、鉄と結合していた物質(塩素)は陰イオン化され、水酸化ナトリウム溶液140Aとともに多孔質材100Aの外へ排出される。
【0066】
その他の場合も上記と同様に、多孔質材100Aの孔の中では、化学反応により生成した水酸化鉄(固体)、水酸化鉄と反応前に鉄と結びついていた陰イオン及びアルカリ金属イオン(液体)、並びに、過剰なアルカリ溶液(液体)が存在するが、水酸化鉄以外は水洗で除去することができる。これにより、溶液120Aの陰イオン由来の元素(上記の例では「塩素」)を還元前に除去することができ、還元処理の際の酸性ガスの発生量を大幅に抑制することができる。なお、吸着材の製造工程において水酸化物を生成させない場合は、還元時に、溶液120Aが塩化鉄を含む溶液であれば塩化水素ガスが発生し、溶液120Aが硝酸鉄を含む溶液であれば硝酸ガスが発生し、溶液120Aが硫酸鉄を含む溶液であれば硫酸ガス等の酸性ガスが発生する。したがって、酸性ガスを除去するためのスクラバーが必要になる。一方で、本実施形態のように、吸着材の製造工程において水酸化物を生成させることで、上記のようなガスを除去するためのスクラバーを設ける必要がなく、吸着材の製造装置の簡易化が可能である。
【0067】
〈第2実施形態の変形例〉
図8及び図9を用いて、第2実施形態の変形例について説明する。図8は、本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示すフローチャートである。図9は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、水酸化鉄を生成させる具体的な方法を示す概念図である。
【0068】
図8に示す工程は、図6からステップS107A~S111Aのステップが省略された工程である。つまり、多孔質材100Aを溶液120Aに浸漬した後、乾燥せずにアルカリ溶液に浸漬する。図6では、多孔質材100Aの孔の内壁101Aに鉄化合物111Aを析出させた状態で、鉄化合物111Aを化学反応させて水酸化鉄141Aを生成する製造方法を示したが、図8では、溶液120A中の鉄イオン110Aとアルカリ溶液中の水酸化物イオン147Aとを化学反応させて、内壁101Aに水酸化鉄141Aを沈殿させる。
【0069】
ここで、本実施形態の変形例のより具体的な例について、図9を用いて説明する。図9図7と類似しているため、図9において図7と同様の特徴については、説明を省略する。なお、以下の説明では、溶液120Aとして塩化鉄溶液150Aが用いられ、アルカリ溶液として水酸化ナトリウム溶液140Aが用いられた場合について説明する。
【0070】
図9の(A)に示すように、多孔質材100Aを塩化鉄溶液150Aに浸漬した後に乾燥していない多孔質材100Aにおいて、塩化鉄溶液150A中には鉄イオン151A及び塩化物イオン153Aが存在している。この状態の多孔質材100Aに対して水酸化ナトリウム溶液140Aを供給すると、水酸化ナトリウム溶液140Aは拡散浸透で多孔質材100Aの孔の中に入り込む(図9の(B))。なお、図9の(B)に示すように、水酸化ナトリウム溶液140A中にはナトリウムイオン145A及び水酸化物イオン147Aが存在している。
【0071】
水酸化ナトリウム溶液140Aが多孔質材100Aの孔の中に入り込むことで、多孔質材100Aの孔の中は、鉄イオン151A、塩化物イオン153A、ナトリウムイオン145A、及び水酸化物イオン147Aが存在した状態になる(図9の(C))。なお、図9の(C)では、多孔質材100Aの孔の中が塩化鉄溶液150Aから水酸化ナトリウム溶液140Aに置換された構成を例示したが、これらの溶液が混在していてもよい。多孔質材100Aの孔の中で鉄イオン151Aと水酸化物イオン147Aとが化学反応することで水酸化鉄141Aが生成され、多孔質材100Aの孔の内壁101Aに沈殿する(図9の(D))。この状態で水洗を行うことで、水酸化鉄141A以外の塩化物イオン153A、ナトリウムイオン145A、及び水酸化ナトリウム溶液140Aを孔から除去することができる(図9の(D))。
【0072】
第2実施形態の変形例によると、多孔質材100Aを塩化鉄溶液150Aに浸漬させた後に乾燥する必要がないため、製造工程の簡易化を図ることができる。
【0073】
第2実施形態の変形例では、多孔質材100Aをアルカリ溶液に浸漬する製造方法を例示したが、アルカリ溶液は拡散浸透によって多孔質材100Aの孔の中に入り込むため、溶液120Aに浸漬した多孔質材100Aの表面にアルカリ溶液を供給する方法を採用してもよい。例えば、多孔質材100Aの表面にスプレーなどでアルカリ溶液を吹き付けてもよい。
【0074】
〈第3実施形態〉
[吸着材10Bの製造方法]
図10を用いて、第3実施形態に係る吸着材10Bの製造方法について説明する。吸着材10Bの製造方法は、図1に示す第1実施形態に係る吸着材10の製造方法と類似しているが、多孔質材100Bの孔の中に染みこませる溶液120Bが、鉄を含むコロイド状である、という点において、第1実施形態の吸着材10の製造方法と相違する。
【0075】
図10は、本発明の一実施形態に係る鉄を含む溶液の製造方法を示すフローチャートである。図10に示すように、本実施形態で用いられる溶液120Bは、以下に詳細を説明するようにステップS131B~S135によって調製される。なお、以下のステップS131B~S135Bは、図1に示すステップS103に対応する工程である。
【0076】
まず、ステップS131Bで、図1のステップS101で説明した鉄溶液を準備する。続いて、ステップS133Bで、この鉄溶液に、図6のステップS115Aで説明したアルカリ溶液を追加する。鉄溶液にアルカリ溶液が追加されると、鉄溶液は、水酸化鉄の粒子を含んだコロイド状になる。具体的には、上記のように例示された鉄水溶液(塩化第1鉄水溶液、塩化第2鉄水溶液、硝酸第1鉄水溶液、硝酸第2鉄水溶液、硫酸第1鉄水溶液、又は硫酸第2鉄水溶液)にアルカリ溶液(水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液)を追加した場合、上記の鉄水溶液は水酸化鉄の粒子を含むコロイド状になる。この状態の溶液をコロイド溶液ということもできる。続いて、ステップS135Bで、第1実施形態において例示したような分散剤を追加する。
【0077】
このコロイド溶液は、1nm以上100nm以下のサイズの水酸化鉄粒子を含む。したがって、コロイド溶液をメソ孔210B及びミクロ孔220Bに染みこませることで、水酸化鉄粒子をこれらの孔の中に侵入させることができる。
【0078】
多孔質材100Bを上記のコロイド溶液に浸漬し、水洗した後に乾燥することで、又は浸漬し、乾燥した後に水洗することで、多孔質材100Bの孔の内壁に水酸化鉄粒子を付着させるとともに、多孔質材100Bの孔から、未反応の鉄イオン、鉄溶液の鉄イオンと対をなす陰イオン、及びアルカリ金属イオンを除去することができる。この水酸化鉄粒子を還元処理することで、多孔質材100Bの孔の内壁に付着したゼロ価の鉄を得ることができる。
【0079】
なお、分散剤を用いなくてもコロイド溶液中の粒子を十分に分散させることができる場合、又はコロイド溶液中の粒子の分散が不十分であっても、吸着材10Bの特性に悪影響を及ぼさない程度であれば、分散剤を追加する工程(ステップS135B)を省略してもよい。
【0080】
以上のように、本実施形態に係る吸着材10Bの製造方法によると、水酸化鉄粒子を還元処理することで、ゼロ価の鉄を得ることができるので、例えば、溶液120Bとして塩化鉄溶液が用いられた場合であっても、多孔質材の孔の内部に固体の水酸化鉄を形成し、塩化ナトリウムは孔の外に除去されるため、還元処理の際の酸性ガスの発生量を抑制することができる。
【0081】
上記の実施形態において、多孔質材100(又は100A、100B)を溶液120(又は120A、120B)に浸漬した状態で、これらを減圧する方法の一例について、図11を用いて説明する。図11は、本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法において、溶液に浸漬した多孔質材を減圧する方法を説明する図である。
【0082】
図11に示すように、減圧容器400は容器部401及び蓋部403を有する。容器部401は、溶液120を貯めることが可能な形状を有する。蓋部403は、容器部401の上部に脱着可能に設けられる。蓋部403には、排気口405及び給気口407が設けられている。排気口405は第1バルブ410に接続されている。第1バルブ410は真空ポンプ430に接続されている。給気口407は第2バルブ420に接続されている。第2バルブ420は、外部から減圧容器400内に空気又は所望のガスを供給する配管435に接続されている。また、減圧容器400には真空圧力計440が接続されている。真空圧力計440は、減圧容器400内の圧力を測定することができる。なお、真空ポンプ430の代わりにアスピレータが用いられてもよい。
【0083】
また、図11に示すように、減圧容器400に溶液120が供給されており、その溶液120の中に多孔質材100が浸漬している。なお、内部に多孔質材100を格納したケース500が溶液120に沈められている。ケース500は、その内部空間を囲む形状であり、当該内部空間に多孔質材100が格納された状態で溶液120に沈められている。つまり、ケース500は、多孔質材100が浮き上がって溶液120の液面より上に出ることを抑制し、ケース500を減圧容器400から取り出す際に多孔質材100を持ち上げることができる。
【0084】
ケース500には、溶液120が通過可能な大きさ、かつ、多孔質材100が通過できない大きさの開口が設けられている。当該開口のサイズは、例えば0.1mm以上50mm以下である。ケース500として、例えばステンレスなどの金属製又は硬質プラスチックなどの樹脂製の網状の籠を用いることができる。なお、ここではケース500が多孔質材100の上下左右を囲んだ構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、ケース500は、多孔質材100が上方に浮き上がることを抑制するように多孔質材100の上方を覆い、下方が抜かれた形状であってもよい。又は、ケース500が多孔質材100の上方、かつ、ケース500を減圧容器400から取り出す際に多孔質材100を持ち上げることができるように、多孔質材100の下方に設けられた形状であってもよい。
【0085】
第1バルブ410を開いた状態、かつ、第2バルブ420を閉じた状態で真空ポンプ430を動作させることで、減圧容器400の中が減圧される。その後、第1バルブ410を閉じた状態、かつ、第2バルブ420を開いた状態で配管435に空気又は所望のガスを供給することで、減圧容器400の中を大気圧に戻すことができる。
【0086】
上記の処理が終了した後に、蓋部403を開けて、多孔質材100ごとケース500を取り出す。このとき、多孔質材100の下方に相当するケース500の一部に上記の開口が設けられていることで、過剰な溶液120を減圧容器400内に落としながら多孔質材100を取り出すことができる。
【0087】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本実施形態の吸着材を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。さらに、上述した各実施形態は、相互に矛盾がない限り適宜組み合わせが可能であり、各実施形態に共通する技術事項については、明示の記載がなくても各実施形態に含まれる。
【0088】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0089】
10:吸着材、 100:多孔質材、 101A:内壁、 110:鉄イオン、 111:鉄化合物、 120:溶液、 130:気泡、 140A:水酸化ナトリウム溶液、 141A:水酸化鉄、 143A:塩化物イオン、 145A:ナトリウムイオン、 147A:水酸化物イオン、 150A:塩化鉄溶液、 151A:鉄イオン、 153A:塩化物イオン、 155A:塩化鉄、 200:マクロ孔、 210:メソ孔、 220:ミクロ孔、 400:減圧容器、 410:容器部、 403:蓋部、 405:排気口、 407:給気口、 410:第1バルブ、 420:第2バルブ、 430:真空ポンプ、 435:配管、 440:真空圧力計、 500:ケース
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