(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】耐候性に優れる印刷基材
(51)【国際特許分類】
G03G 7/00 20060101AFI20221116BHJP
G09F 3/10 20060101ALI20221116BHJP
G09F 3/02 20060101ALI20221116BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20221116BHJP
D04H 3/011 20120101ALI20221116BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20221116BHJP
D21H 13/24 20060101ALI20221116BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20221116BHJP
G09F 3/00 20060101ALN20221116BHJP
【FI】
G03G7/00 M
G03G7/00 B
G03G7/00 L
G03G7/00 J
G09F3/10 A
G09F3/02 A
D04H1/435
D04H3/011
D04H3/16
D21H13/24
D21H19/20 B
G09F3/00 E
(21)【出願番号】P 2020558356
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2019044947
(87)【国際公開番号】W WO2020110784
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2018220087
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019165358
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515162442
【氏名又は名称】旭化成アドバンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502166189
【氏名又は名称】株式会社ミック化工
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】津野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 茂
(72)【発明者】
【氏名】松本 翔太
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-000844(JP,A)
【文献】特開2010-125799(JP,A)
【文献】特表2010-521592(JP,A)
【文献】特開平05-331768(JP,A)
【文献】特開2005-220475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 7/00
G09F 3/00
D04H 1/435
D04H 3/011
D04H 3/10
D21H 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m
2~200g/m
2の、部分熱接着率10~35%のポリエステル系スパンボンド不織布であるポリエステル系不織布の片側全面に、印刷面となるバインダー層が1.4g/m
2~18g/m
2で均一に配され、該バインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配されていてもよい、レーザープリンターで印刷可能な総厚み90μm
~300μmの印刷基材。
【請求項2】
表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m
2~200g/m
2の、抄紙されたポリエステル系短繊維不織布であるポリエステル系不織布の片側全面に、印刷面となるバインダー層が1.4g/m
2~18g/m
2で均一に配され、該バインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配されていてもよい、レーザープリンターで印刷可能な総厚み90μm
~300μmの印刷基材。
【請求項3】
扁平率が1.2以上の扁平断面繊維を含む、請求項1に記載の印刷基材。
【請求項4】
前記バインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配されている、請求項1又は2に記載の印刷基材。
【請求項5】
前記バインダー層は、トナー定着剤として塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン系樹脂、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を1g/m
2~10g/m
2で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の印刷基材。
【請求項6】
前記バインダー層は、UV吸収剤を0.05g/m
2~0.4g/m
2で含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の印刷基材。
【請求項7】
前記バインダー層は、白色微粉末を0.25g/m
2~5g/m
2で含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の印刷基材。
【請求項8】
前記バインダー層は、静電防止剤を0.1g/m
2~0.5g/m
2で含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の印刷基材。
【請求項9】
プリントシート又は表示ラベル用の、請求項1~8のいずれか1項に記載の印刷基材。
【請求項10】
以下の工程:
部分熱接着率10~35%のポリエステル系スパンボンド不織布、及び抄紙されたポリエステル系短繊維不織布から成る群から選ばれるポリエステル系不織布を、線圧900~1800N/cmでカレンダー加工して、表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m
2~200g/m
2の平坦加工されたポリエステル系不織布を得る工程;
得られたポリエステル系不織布の片側全面に、溶剤中にトナー定着剤、UV吸収剤、白色微粉末、及び静電防止剤を含む樹脂溶液を塗布し、次いで、該溶剤を乾燥させ及び/又は該樹脂を架橋させて、印刷面となるバインダー層を、1.4g/m
2~18g/m
2で均一に配する工程;及び
必要により、前記ポリエステル系不織布の、該バインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配して、総厚み90μm
~300μmとする工程;
を含む、レーザープリンターで印刷可能な総厚み90μm
~300μmの印刷基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザープリンターで印刷でき、印字性・印刷性が良好(鮮明)であり、屋外で3~6月以上耐久性(耐候性)があり、生産性が高く、かつ、低コストな、ポリエステル系不織布から構成される印刷基材に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は最も広く使用されている印刷用の媒体(基材)であるが、強度、耐水性、耐候性などの観点から、使用できない多くの用途がある。そこで、紙に代わる印刷基材として、例えば、屋外の看板や旗用として、フィルム、不織布、織物などが開発されている。
【0003】
以下の特許文献1には、不織布の片面又は両面に、アンダーコート層を介し、合成樹脂を3~20g/m2塗布した印刷用媒体が提案されているが、塗工時の樹脂の染み込み、表面の凹凸などに問題がある。
【0004】
以下の特許文献2には、熱圧着によって表面の凹凸が改善された、未延伸繊維からなる平滑なシートが提案されているが、透明であり隠蔽性が低い、通気性に斑があるなどの問題がある。
【0005】
以下の特許文献3には、ポリエチレン樹脂をフラッシュ紡糸した不織布、及び表面粗さ(SMD)が0.3~0.9であるポリエステル不織布、その片面に、表面の平滑度が50秒以上かつ表面粗さが0.7以下の塗工感熱記録層を被着した感熱記録体が記載されている。該不織布は、表面の凹凸は満足できるものであるが、110℃以上の温度での耐熱性がない、穴あけ加工性が低い、インキの馴染み性が不十分であるなどの問題がある。
【0006】
以下の特許文献4には、ポリエステル繊維基材に水溶性ポリエステル樹脂を塗布してから、ナイロン湿式塗料を塗布する印刷ラベルが提案されているが、ポリエステル繊維とナイロン樹脂との接着性、水中で凝固させる工程における生産性などに問題がある。
【0007】
以下の特許文献5には、レーザープリンター及び熱溶融転写プリンター用の印字適性や通過適性の好適なフィルム塗被シートが開示されているが、この塗被シートはフィルムライクとなり、通気性や柔軟性に欠ける、布ライクの触感が無いなどの問題がある。
【0008】
以下の特許文献6には、外面が10μm以下の表面粗さを有する平滑なカレンダー処理面を有し、熱可塑性ポリマー連続マトリックスフィラメントが互いに接着され、特定の気孔率を有するポリエステルスパンポンド積層不織布印刷媒体が記載されているが、該熱可塑性ポリマー連続マトリックスフィラメントは三裂葉断面を有するものであり、また、2.0μm以下の表面粗さは達成されていない。
【0009】
以下の特許文献7には、実質的に連続のポリマーシース-コアスパンボンド繊維を含み、特定の目付、引張強度、引裂抵抗を有する不織布印刷媒体が記載されているが、不織布を構成する繊維は、特殊なシース-コアスパンボンド繊維であり、高コストであり、また、表面平滑度が記載されているものの、2.0μm以下の表面粗さは達成されていない。
【0010】
以下の特許文献8には、ポリエステル系不織布に2種の樹脂塗布層を設けた印刷性機能紙が記載されているが、2.0μm以下の表面粗さは達成されておらず、また、2種の樹脂塗布層を設けるため高コストである。
【0011】
以下の特許文献9には、平坦加工されたポリエステル系不織布に樹脂層を設け、表面凹凸度を15~18μmにした印刷基材が記載されているものの、2.0μm以下の表面粗さは達成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許2619404号公報
【文献】特公平1-47588号公報
【文献】特開平8―199467号公報
【文献】特許3151671号公報
【文献】特開平5-11486号公報
【文献】国際公開第2005/000595号
【文献】国際公開第2008/112271号
【文献】特開2010-125799号公報
【文献】特開2011-230499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記した従来技術に鑑み、本発明が解決しょうとする課題は、レーザープリンターで印刷でき、印字性・印刷性が良好(鮮明)であり、屋外で3~6月以上耐久性(耐候性)があり、生産性が高く、かつ、低コストな、ポリエステル系不織布から構成される印刷基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、印刷面となるポリエステル系不織布の表面に設けるバインダー層を厚くするのではなく、該不織布表面の表面粗さ(SMD)を極めて小さくし、該表面の全面にバインダー層を極めて薄く設け、また、バインダー層の組成を最適化することにより、前記課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m2~200g/m2のポリエステル系不織布の片側全面に、印刷面となるバインダー層が1.4g/m2~18g/m2で均一に配され、該バインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配されていてもよい、レーザープリンターで印刷可能な総厚み90μm~約300μmの印刷基材。
[2]前記平坦加工されたポリエステル系不織布は、部分熱接着率10~35%のポリエステル系スパンボンド不織布である、前記[1]に記載の印刷基材。
[3]前記平坦加工されたポリエステル系不織布は、抄紙されたポリエステル系短繊維不織布である、前記[1]に記載の印刷基材。
[4]前記バインダー層は、トナー定着剤として塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン系樹脂、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を1g/m2~10g/m2で含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の印刷基材。
[5]前記バインダー層は、UV吸収剤を0.05g/m2~0.4g/m2で含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の印刷基材。
[6]前記バインダー層は、白色微粉末を0.25g/m2~5g/m2で含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の印刷基材。
[7]前記バインダー層は、静電防止剤を0.1g/m2~0.5g/m2で含む、前記[1]~[6]のいずれかに記載の印刷基材。
[8]プリントシート又は表示ラベル用の、前記[1]~[7]のいずれかに記載の印刷基材。
[9]以下の工程:
部分熱接着率10~35%のポリエステル系スパンボンド不織布、及び抄紙されたポリエステル系短繊維不織布から成る群から選ばれるポリエステル系不織布をカレンダー加工して、表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m2~200g/m2の平坦加工されたポリエステル系不織布を得る工程;
得られたポリエステル系不織布の片側全面に、溶剤中にトナー定着剤、UV吸収剤、白色微粉末、及び静電防止剤を含む樹脂溶液を塗布し、次いで、該溶剤を乾燥させ及び/又は該樹脂を架橋させて、印刷面となるバインダー層を、1.4g/m2~18g/m2で均一に配する工程;及び
必要により、前記ポリエステル系不織布の、該バインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配して、総厚み90μm~約300μmとする工程;
を含む、レーザープリンターで印刷可能な総厚み90μm~約300μmの印刷基材の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る印刷基材は、不織布表面の表面粗さが極めて小さく、該表面の全面にバインダー層が極めて薄く設けられ、また、バインダー層の組成が最適化されているため、レーザープリンターで印刷でき、印字性・印刷性が良好(鮮明)であり、屋外で3~6月以上耐久性(耐候性)があり、生産性が高く、かつ、低コストな、ポリエステル系不織布から構成される印刷基材であるため、各種表示ラベル、各種包装資材、看板、旗、感圧紙などの印刷基材、特に屋外耐久性が要求される印刷基材に好適に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の1の態様は、表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m2~200g/m2のポリエステル系不織布の片側全面に、印刷面となるバインダー層が1.4g/m2~18g/m2で均一に配され、該バインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配されていてもよい、レーザープリンターで印刷可能な総厚み90μm~約300μmの印刷基材である。
【0018】
本実施形態における「平坦加工されたポリエステル系不織布」は、特に制限されず、部分熱接着率10~35%のポリエステル系スパンボンド不織布であっても、抄紙されたポリエステル系短繊維不織布のいずれでも構わない。但し、「平坦加工されたポリエステル系不織布」は、以下に述べるように、表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m2~200g/m2である必要がある。
【0019】
ポリエステル系不織布は、不織布を構成する繊維の繊維配列が長手方向(機戒方向、タテ方向)と、長手方向に直交する方向(ヨコ方向)との間で均等化されているものが好ましい。例えば、タテ方向の引張強力と、ヨコ方向の引張強力の比(タテ方向/ヨコ方向)がは0.5~8.0であることが好ましく、より好ましくは2.0~7.0、さらに好ましくは3.0~5.0である。引張強力の比が0.5未満又は8.0超であると、構成繊維の配列の偏りのため、繊維配列の低い方向が弱くなり、破れ易い印刷基材となる。
【0020】
ポリエステル系不織布は、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、スパンレース法、抄造法などにより製造されたものであることができる。特に、スパンボンド法の不織布は、生産性が高く、低コストであり、耐熱性に優れ、薄く、高い強度が得られることから好ましい。また、抄造法は、一般的に表面粗さが小さい不織布を製造することができる観点からは好ましいが、スパンボンド法に比べると、生産性が低い。
【0021】
ポリエステル系不織布は、積層不織布であってもよく、メルトブロー法の極細繊維層(M)とスパンボンド法繊維層(S)とが積層されたSMS、SMMS、SMSMSなどの多層構成のものであってもよい。
不織布を多層構成とすると、繊維同士の接合を強固にでき、繊維の分散性が高くなるため、不透明度(隠蔽性)が向上できる。メルトブロー法の繊維径(平均繊維径)としては、1~7μmが好ましく、より好ましくは1.5~5μmであり、スパンボンド法の繊維径(平均繊維径)は、10~30μmが好ましく、より好ましくは12~25μmである。
【0022】
ポリエステル系不織布を構成するポリエステル系繊維を構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。ポリエステル系繊維は、エステルを形成する酸成分としてイソフタル酸やフタル酸などが重合又は共重合されたポリエステル系繊維であってもよい。更には、ポリエステル系繊維は、生分解性を有する繊維、例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸のようなポリ(α-ヒドロキシ酸)の重合体からなる繊維、又はこれらを主たる繰り返し単位とする共重合体からなる繊維であってもよい。また、ポリエステル樹脂主成分に対して、0.5~10質量%のポリオレフイン系ポリマー、ポリアミド系ポリマーなどの他のポリマーをポリマーブレンドしてなるポリエステルブレンド繊維であってもよい。さらに、複数の異なるポリマーが一本の繊維を構成する、多成分繊維であってもよいが、印刷基材の平滑性、印刷性、耐久性等の面から、単一のポリマーからなる繊維であることが好ましい。
尚、ポリエステル系繊維には、所望の効果を損なわない範囲で、繊維の白度を向上させるための酸化チタンなどの添加物、紫外線の耐候剤、顔料などが、0.1~3質量%樹脂に練り込まれて、含有されることができる。
【0023】
[繊維径]
印刷面となる表面に在る、ポリエステル系不織布を構成するポリエステル系繊維の平均繊維径は、1~30μmであることが好ましく、より好ましくは2~25μm、さらに好ましくは3~20μmである。繊維の平均径が1μm未満では、隠蔽性、白度が向上するが、強度、生産性が低下する。他方、30μmを超えると、強度、生産性は向上できるが、隠蔽性、白度が低下し、また、表面粗さが所定の範囲に収まらないおそれがある。不織布全体が略同一の繊維径を有する繊維で構成されていてもよいし、細い繊維と太い繊維などの異なる繊維径の長繊維又は短繊維が積層又は混繊されていてもよい。
尚、平均繊維径(μm)とは、顕微鏡で500倍の拡大写真を撮り、任意の100本の直径を測定し、平均値としたものである。
また、上述した平均繊維径の測定において、測定した繊維の総数に対する、繊維径5μm以下の繊維の数の比率(以下、繊維比率ともいう。)が5%以下であることが好ましい。5μm以下の繊維比率が5%以下であれば、耐熱性、耐久性の面で好適である。より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。積層不織布の場合、メルトブロー法の極細繊維層を含まない積層不織布が好ましく、メルトブロー法の極細繊維層を含む積層不織布であれば、内層の極細繊維層が表面に出にくい組成とすることが好ましい。
【0024】
繊維の断面形状は特に限定されず、丸断面、扁平断面、異型断面等のいずれでもよいが、扁平率が1.2以上の扁平断面繊維であると、平滑処理後の不織布の強度が確保できて好ましい。より好ましくは扁平率2.0以上、特に好ましくは扁平率3.0以上5.0以下である。尚、扁平率は繊維断面観察によって長軸と短軸の長さを測定し、以下の式:
扁平率=長軸の長さ/短軸の長さ
で求められる。
繊維の断面形状は、印刷基材の強度、印刷性、耐候性等の面から、丸型、楕円型、I型のような、明確な凹凸を有さない形状が好ましい。
【0025】
[表面粗さ(SMD)]
印刷面となるバインダー層が配される、ポリエステル系不織布の表面粗さ(SMD)は、0.5μm~2μmである必要がある。スパンボンド不織布の場合、カレンダー加工により表面粗さを0.5μm未満とすることは、事実上困難である。また、表面粗さが0.5μm未満では、得られる印刷基材のバーコード・文字の印刷適正が良くなるが、平坦過ぎて、給紙時に摩擦による静電気の発生で2枚重ねになり易い。
他方、表面粗さが2μmを超えると、表面の凹凸が大きくなり、例えば、グラビア印刷加工においてバインダー層が、凸部にのみ付着・形成され、薄いバインダー層が全面に均一に形成されない結果、印字性・印刷性が不良となる。すなわち、得られる印刷基材のバーコード・文字の印字性・印刷性が低下し、不鮮明になり易い。また、表面の凹凸が大きくなると、印字性・印刷性を向上させるためにバインダー層の量を多くする必要があるが、そうすると、不織布基材が過度に湿り、乾燥に長時間を要するため生産性が低下し、高コストとなる。他方、バインダー層の量が少ないと、印字性・印刷性が悪化するだけでなく、プリンターの搬送性、制電性、耐候性も低下する。
表面粗さが0.5μm~2μmの範囲内であれば、表面が平坦化され、印刷加工時に、文字のかすれ、飛びがなく、バーコードなどの誤報を少なくすることができる。
【0026】
[厚み]
バインダー層が配されるポリエステル系不織布の厚みは、40μm~300μmである必要がある。
また、本実施形態の印刷基材の厚みは、総厚み90μm~約300μmである必要がある。離型紙を含め印刷基材の総厚みがこの範囲にあれば、プリンター内での搬送性が良好となり、基材の巻き込み等のトラブルを回避することができる。総厚みが90μm未満では剛性が小さくなり、他方、300μmを超えると剛性が大きくなり過ぎてしまう。印刷面となるポリエステル系不織布のバインダー層と反対側の面には、粘着層を介して剥離紙を配してもよい。剥離紙を配した印刷基材であれば、使用時に剥離紙を隔離することにより、所定の場所に簡単に貼付して印刷物を掲示することが可能となる。剥離紙を配さない印刷基材の場合、ポリエステル系不織布自体の厚みは、90μm以上300μm以下であることができる。剥離紙を配した印刷基材の場合には、ポリエステル系不織布自体の厚みは、40μm以上、剥離紙と粘着層との厚みを加えて90μm以上である必要がある。ポリエステル系不織布自体の厚みが、40μm未満であると、不織布の厚みが薄く、目付も低くなるため、樹脂溶液の塗布が困難となり、生産性が低下する。好ましくは80μm以上である。また、印刷基材の厚みが90μm未満となると、印刷基材の耐久性も低下し、印刷特性試験ができないレベルとなり、プリンターの搬送性、印字性・印刷性、制電性、耐候性が悪化する。印刷基材の厚みは、総厚みで、好ましくは95~230μm、より好ましくは110~200μmである。
【0027】
[目付]
バインダー層が配されるポリエステル系不織布の目付は、30g/m2~200g/m2である必要がある。ポリエステル系不織布の目付けは40~150g/m2が好ましく、より好ましくは40~120g/m2、さらに好ましくは45~120g/m2、よりさらに好ましくは50~100g/m2である。
ポリエステル系不織布の目付けが30g/m2未満では、剥離紙が配されていない印刷基材の場合、剛性、隠蔽性、強度が低下する。他方、200g/m2を超えると、剛性、隠蔽性、強度が高くなるが、厚みが大きくなり過ぎる。
【0028】
本実施形態の他の態様は、以下の工程:
部分熱接着率10~35%のポリエステル系スパンボンド不織布、及び抄紙されたポリエステル系短繊維不織布から成る群から選ばれるポリエステル系不織布をカレンダー加工して、表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m2~200g/m2の平坦加工されたポリエステル系不織布を得る工程;
得られたポリエステル系不織布の片側全面に、溶剤中にトナー定着剤、UV吸収剤、白色微粉末、及び静電防止剤を含む樹脂溶液を塗布し、次いで、該溶剤を乾燥させ及び/又は該樹脂を架橋させて、印刷面となるバインダー層を、1.4g/m2~18g/m2で均一に配する工程;及び
必要により、前記ポリエステル系不織布の、該バインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配して、総厚み90μm~約300μmとする工程;
を含む、レーザープリンターで印刷可能な総厚み90μm~約300μmの印刷基材の製造方法である。
【0029】
本実施形態の印刷基材は、例えば、以下のようにして製造することができる。
ポリエステル系スパンボンド不織布、及び抄紙されたポリエステル系短繊維不織布から成る群から選ばれるポリエステル系不織布の原反(マザーロール)を用意し、所定の幅にカットし(スリットを入れ)、カンンダー加工し、平坦加工された片側表面の全面に、溶剤中にトナー定着剤、UV吸収剤、白色微粉末、及び静電防止剤を含む樹脂溶液を、グラビア印刷加工により塗布し、次いで、剥離紙を設けない場合、粘着剤を塗布せずに、規格サイズ(主にA3、A4版)にカットし、包装、梱包、出荷し、剥離紙を設ける場合には、粘着剤を塗布した後に、剥離紙を貼り合わせ、その後、規格サイズ(主にA3、A4版)にカットし、包装、梱包、出荷する。
【0030】
[平坦加工]
本実施形態の印刷基材の印刷面となり、バインダー層が配されるポリエステル系不織布は、部分熱接着率10~35%のポリエステル系スパンボンド不織布、及び抄紙されたポリエステル系短繊維不織布から成る群から選ばれるポリエステル系不織布をカレンダー加工して得られる、表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み40μm~300μm、及び目付30g/m2~200g/m2の平坦加工されたポリエステル系不織布であることができる。
そして印刷面となるバインダー層は該平坦加工された表面に、溶媒乾燥後1.4g/m2~18g/m2で均一に配される必要がある。
【0031】
カレンダー加工に供されるポリエステル系スパンボンド不織布の部分熱圧着率(不織布全体の面積に対する圧着部の比率)は、10~35%が好ましく、より好ましくは12~30%、さらに好ましくは15~30%である。部分熱圧着率が10%未満では、繊維の接合部分が少なく、表面の摩擦強度、剛性が低下する。他方、部分熱圧着率が35%を超えると、繊維の接合部分が多くなり、表面摩擦強度、剛性は高くなるものの、引裂強度が低下し、裂けて破れ易くなる。
部分熱圧着の加工条件としては、例えば、熱圧着温度が融点より20~60℃低い温度で、圧力が10~700N/cmが好ましく、より好ましい圧力は50~500N/cmである。
【0032】
部分熱圧着はエンボスロールと平滑ロールを用いて行なわれるが、エンボスロールのエンボス模様は、丸状、楕円状、菱形状、円柱状、四角状などで、平行均等配置、千鳥状配置などの均等配置とすることが好ましい。エンボス模様一個の面積は0.3~5mm2が好ましく、より好ましくは0.5~2mm2である。エンボス模様の深さは0.01~0.6mmが好ましく、より好ましくは0.03~0.4mmである。エンボス模様の間隔は0.5~10mmが好ましく、より好ましくは0.8~6mmで、均等配置していることが好ましい。特にエンボス模様1個の面積及び深さが小さく、表面の凹凸が小さいことが好ましい。このような部分熱圧着とすることで、引張強度、引裂強度などの強靭性を付与し、構成繊維同士の接着がなされ、高い表面摩擦強度を有する不織布を得ることができる。
【0033】
平坦化加工は、一般にカレンダー加工、シュライナー加工などといわれ、例えば、一対の金属ロール、金属ロール/弾性ロール、金属ロール/ペーパーロール、金属ロール/樹脂ロールなどを1種、又は2種以上用いて、行なわれる。丸断面の繊維からなり、予め部分熱圧着された不織布を、均一な印刷基材とするためには、従来の平坦化加工より高度の加工が好ましい。具体的な高度の平坦化加工条件としては、例えば、装置の加圧幅が120cm、基材の幅が100cmのときに、表面温度が120~240℃、好ましくは150~220℃、線圧が400~2100N/cm、好ましくは900~1800N/cmの範囲での加工が挙げられる。上述した扁平断面繊維からなる不織布では、高度の平坦化加工を必要とせず、通常の平坦化加工条件、例えば表面温度が120~240℃、線圧が200~400N/cmの範囲での加工によって所望の不織布を得ることができる。
【0034】
抄紙されたポリエステル系短繊維不織布をカレンダー加工して平坦加工されたポリエステル系不織布を得る場合にも、前記同様の高度のカレンダー加工条件とすることができる。抄紙繊維不織布は、製法の制約があって厚みを大きくできにくいが、複数枚の抄紙短繊維不織布を重ねてカレンダー加工することで、厚みが適切で均一な印刷基材とすることができる。
【0035】
[バインダー層]
本実施形態の印刷基材においては、印刷面となるバインダー層が乾燥後質量として1.4g/m2~18g/m2で、表面粗さ(SMD)0.5μm~2μm、厚み70μm~300μm、及び目付30g/m2~200g/m2のポリエステル系不織布の片側全面に、均一に配されるように、樹脂組成物を塗布することができる。
印刷面に所定量の薄い特定のバインダー層を設けることで、レーザープリンターでの印刷において、トナーの定着性、バーコード・文字の鮮明性などの印刷適正、不透明度(隠蔽性)、剛性、耐水性、耐久性(耐候性)などを向上させることができる。
尚、本実施形態の印刷基材においては、バインダー層の厚みは、極めて薄く、バインダー層を配した後の印刷面の表面粗さは、樹脂層を塗布する前の平坦加工されたポリエステル系不織布の表面粗さ(SMD)0.5μm~2.0μmとほぼ同じであることを確認している。
【0036】
レーザープリンターでは、ドラムという黒い筒の上に静電気の力でトナー(粉末インク)を載せ、そのトナーを紙に押し付けることで印刷する。レーザープリンターでの印刷は、帯電、露光、現像、転写、及び定着という以下の5つのプロセスで行われる。
ドラムの上にトナーを載せるため、ドラム全体に静電気を帯びさせるプロセスを「帯電」という。この時、ドラムは数百ボルトになる。
帯電したドラムに向かって、絵や文字になる部分だけにレーザービーム(光)を照射するプロセスを「露光」という。このプロセスではレーザービームを使用するため、「レーザープリンター」と呼ばれる。レーザービームを照射するときは、ポリゴンミラーと呼ばれる六角形の鏡が使用される。ポリゴンミラーが高速回転することで、光源から放たれたレーザービームを様々な方向へ照射することができる。
ドラムにレーザービームを照射すると、レーザービームが照射された部分の電圧が下がる(絵や文字になる部分だけ電圧が低く、それ以外の部分の電圧が高い状態になる)。
このドラムに、帯電させたトナーを近づけると、ドラム上の電圧の低い部分(絵や文字になる部分)にトナーが移動する。このプロセスを「現像」という。実際には、トナーが載っているローラーとドラムが接触していて、ローラーとドラムの電位差によりトナーが移動する。
ドラムに移動したトナーを用紙(印刷基材)に移し変える。ドラムに帯電させておいた静電気とは逆の静電気を用紙に帯電させると、静電気の力でドラムから用紙へとトナーが吸い寄せられていく。このプロセスを「転写」という。実際には、転写させるためのローラーがあり、用紙の裏から電気的な力を与えて転写る。
用紙に移動したトナーは未だ用紙に「載っているだけ」の状態なので、このトナーが用紙から落ちないように、圧力と熱をかけて用紙に密着させるプロセスを「定着」という。
【0037】
本実施形態の印刷基材においては、目付30g/m2~200g/m2のポリエステル系不織布の片側全面に均一に配されるように印刷面となるバインダー層が乾燥後質量(固形分換算)として1.4g/m2~18g/m2となるように、樹脂組成物が塗布される必要がある。
バインダー層が乾燥後質量として1.4g/m2未満であると、プリンターの搬送性、印字性・印刷性、耐候性が不良となる。他方、バインダー層が乾燥後質量として18g/m2を超えると、バインダー層が厚いため、印刷基材の表面粗さは小さくなり、耐久性、プリンターの搬送性、制電性、耐候性は良好となるものの、バインダー剤の塗布量が多すぎるため、塗布後に長い乾燥時間を要し、生産性が低下し、高コストとなり、また、塗布後にベタつきを生じ、粉をふいた状態(塗布された固体成分が多すぎて手で触れたときにざらつく状態)となり、印刷性・印字性は安定しなくなる。
【0038】
乾燥後質量として、前記バインダー層は、トナー定着剤として塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン系樹脂、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を1g/m2~10g/m2(印刷基材単位面積当たりの質量)で含むことが好ましい。
塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン系樹脂などのトナー定着剤は、以下に述べる白色微粉末をポリエステル繊維に接着させる機能や、溶剤系であるため、雨などの耐水性を向上させる機能をも併せ持つ。
トナー定着剤が1g/m2未満であると、トナーが定着しにくいため、耐候性が不良となり、また、印字性・印刷性が低下し、他方、10g/m2を超えると、印刷機を痛め、生産性が低下し、高いコストとなる。
【0039】
乾燥後質量として、バインダー層は、UV吸収剤を0.05g/m2~0.4g/m2で含むことが好ましい。
UV吸収剤が0.05g/m2未満であると、耐候性が不良となる。他方、UV吸収剤が0.4g/m2を超えると、印刷機を痛め、印刷性・印字性が不良となり、また、過度な添加量となり、高いコストとなる。
【0040】
乾燥後質量として、バインダー層は、白色微粉末を0.25g/m2~5g/m2で含むことが好ましい。
白色微粉末は、不織布に不透明度(隠蔽性)を付与させることができ、且つ、構成する繊維の間隙や部分熱圧着で生じた薄部などの目止めとなり、更に、耐水性、剛性、耐久性を付与することができる。白色微粉末としては、平均粒子径が0.1~2.0μm、好ましくは0.3~1.5μm、より好ましくは0.3~0.5μmの酸化チタン、炭酸カルシュウム、炭酸マグネシューム、クレーなどが挙げられる。
白色微粉末が0.25g/m2未満であると、印刷面の白度が低くなり、印字性・印刷性が不良となり、鮮やかさに欠ける印刷となる。他方、白色微粉末が5g/m2を超えると、グラビア印刷機の印刷ロールが目詰まりして、生産性が低下する。
【0041】
乾燥後質量として、バインダー層は、静電防止剤を0.1g/m2~0.5g/m2で含むことが好ましい。
帯電防止剤を用いれば、静電気によって給紙・排紙時に2枚重なってしまうなどのトラブルを防止することができる。
レーザープリンターによる印刷・印字には適切な静電量が必要であるが、静電防止剤が0.1g/m2未満であると、プリンターの搬送性、印字性・印刷性、静電気の抑制が不良となり、他方、0.5g/m2を超えると、必要以上に静電気を抑制し、印字性・印刷性が不良となり、また、高コストとなる。
【0042】
バインダー層は、所望の効果を損なわない範囲で、他の添加剤、例えば、浸透剤、平滑剤、架橋剤、撥水剤などを含有してもよい。
【0043】
バインダー層を構成するトナー定着剤、各種添加剤を含む加工剤(樹脂溶液)は、加工方式に応じて溶剤中に上記成分を溶解又は分散させた状態で加工剤の粘度を調整した後に、グラビア方式、グラビアオフセット方式、ロールコーテング方式、コンマコーテング方式、ナイフコーテング方式などの方法で、平坦加工されたポリエステル系不織布の表面に塗布される。本実施形態では、他の方式より生産性が良く、品質も安定し、低コストであり、加えて製品が硬くなり過ぎない点から、グラビア方式が好ましい。但し、グラビア方式は、平坦性の低い不織布には均一に塗布されにくいため、特に部分熱圧着された不織布の場合には、前述した高度の平坦化加工が施された不織布を用いることが好ましい。
例えば、加工剤の濃度、粘度を、希釈溶剤、添加剤、増粘剤などで調整することができ、具体的な粘度としては、50~10000mPa/s/25℃が好ましく、より好ましくは100~5000mPa/s/25℃である。また、乾燥温度、架橋温度、加工速度などの加工条件は、加工方式に応じて適宜決められる。例えば、温度は80~200℃が好ましく、より好ましくは100~180℃であり、加工速度は10~200m/分が好ましく、より好ましくは15~150m/分であり、シリンダー乾燥機、クリップテンター機、ピンテンター機などで乾燥(希釈溶剤の除去)、架橋処理を行うことができる。尚、加工剤の塗布は、各種添加剤の種類等に応じて、数回に分けて行っても構わない。
【0044】
[印刷基材の厚み]
前記したように、本実施形態の印刷基材の厚みは、総厚み90μm~約300μmである必要がある。離型紙を含め印刷基材の総厚みがこの範囲にあれば、プリンター内での搬送性が良好となり、基材の巻き込み等のトラブルを回避することができる。総厚みが90μm未満では剛性が小さくなり、プリンター内での巻き込み等に因るプリンターの搬送性、印字性・印刷性が不良となる。他方、総厚みが300μmを超えると剛性が大きくなり過ぎてしまう。印刷面となるポリエステル系不織布のバインダー層と反対側の面には、粘着層を介して剥離紙を配してもよい。剥離紙を配した印刷基材であれば、使用時に剥離紙を隔離することにより、所定の場所に簡単に貼付して印刷物を掲示することが可能となる。剥離紙を配さない印刷基材の場合、ポリエステル系不織布自体の厚みは、90μm以上300μm以下であることができる。
本実施形態の印刷基材の総厚みは、好ましくは100~300μm、より好ましくは100~250μm、さらに好ましくは120~250μm、よりさらに好ましくは120~230μmmである。
【0045】
本実施形態の印刷基材の単位面積当たり質量は45~200g/m2が好ましく、より好ましくは50~180g/m2、さらに好ましくは50~150g/m2、よりさらに好ましくは60~150g/m2である。
総厚みが90μm未満又は単位面積当たり質量45g/m2未満では、隠蔽性、強度、剛性が低下して、印刷機での給紙性や排紙性が低下する。他方、総厚みが300μm超又は単位面積当たり質量200g/m2超では、隠蔽性、強度、剛性が高くなるが、印刷機での給紙性や排紙性が低下する。
【0046】
[印刷基材の引張強力]
本実施形態の印刷基材は、例えば、屋外での取り付け穴の開いた製品ラベルの使用に際し、止め具で取り付け、例えば、製品ラベルを手で引っ張る時に破れないことが必要である。それゆえ、本実施形態の印刷基材は、長手方向(タテ方向)、及び長手方向に直交する方向(ヨコ方向)の両方向の引張強力が100N/5cm以上、より好ましくは120N/5cm以上、さらに好ましくは300N/5cm以上である。引張強力が100N/5cm未満では、針金、紐などの取り付け具により破れ易くなる。
【0047】
[印刷基材の引裂強力]
本実施形態の印刷基材の引裂強力は、JIS-L-1906(ペンジュラム法)で測定した値で1N以上であることが好ましく、より好ましくは2~40N、さらに好ましくは3~35Nである。引裂強力が1N未満では、破れ易くなり、耐久性の低下したものとなる。
【0048】
[印刷基材の不透明度(隠蔽性)]
本実施形態の印刷基材の不透明度(隠蔽性)は、不織布の繊維構成(繊維量、繊維径など)及び樹脂加工の方法(樹脂の種類、塗布量、塗布方法など)により、70%以上とすることが好ましく、より好ましくは75~100%、さらに好ましくは80~100%である。不透明度(隠蔽性)は分光光度計を用いて測定される。測定器としてはサカタインク製クレタグマクベス分光光度計を用い、白板と黒板の色差(ΔL0)と試料の白色度と黒色度の色差(ΔL)から、下記式:
不透明度(%)={1-ΔL/ΔL0}×100
により求められる。
不透明度が70%以上であれば、バーコードおよびQRコード(登録商標)などを印刷した場合に、読み取り誤差が生じないが、70%未満では、印刷基材の裏面の影響を受け誤作動が生じやすくなる。
【0049】
[印刷基材の耐熱性]
本実施形態の印刷基材は、レーザープリンターの加熱ドラムとの接触で、変形、収縮などが生じない耐熱性が必要である。例えば、200℃の温度での寸法変化率は5%以下が好ましく、より好ましくは0~3%未満である。寸法変化が5%を超えると、加熱ロールで熱収縮、変形、変色、シワなどが生じ易くなり、更に、給紙又は排紙時に、加熱ドラムの巻き付き、カールなどが生じやすくなる。
【0050】
[印刷基材の耐水性]
本実施形態の印刷基材は、屋外の製品ラベルに使用しても、変色、劣化、変形、破れなどが生じないことが必要である。従って、屋外で使用した時に、雨にぬれ難いことが好ましい。そこで、本実施形態の印刷基材の吸水性は、JIS-L-1907(滴下法)の吸水速度において、3分以上が好ましく、より好ましくは5分以上、さらに好ましくは10~120分である。吸水速度が3分未満では、水に濡れ易いことで、耐久性が低下する。
【0051】
[印刷基材の剥離紙、粘着層]
本実施形態の印刷基材は、前記したうように、印刷面となるポリエステル系不織布のバインダー層と反対側の面に、粘着層を介して剥離紙を配してもよい。剥離紙を配した印刷基材であれば、使用時に剥離紙を隔離することにより、所定の場所に簡単に貼付して印刷物を掲示することが可能となる。
剥離紙、粘着層に、特に制限はなく、公知のものを適宜使用することができる。
剥離紙の厚みは、例えば、90μm、剥離紙+粘着層の厚みとして、例えば、110μmであることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例、比較例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例、比較例に用いた各特性値の測定方法は以下のとおりのものであった。
【0053】
(1)目付(g/m2):縦20cm×横25cmの試料を3カ所切り取り、重量を測定し、その平均値を単位当たりの質量に換算して求めた(JIS-L-1906)。
【0054】
(2)厚み(mm):荷重10kPa下で任意に10箇所測定し、その平均で示した。
【0055】
(3)表面粗さ(SMD)
基材から20cm×20cmの大きさに試料として準備する。試験機はカトーテック製KES-FB4表面試験機(自動計算機能付き)を用いる。試料を試験機に400gの荷重をかけてセットし、10gの荷重をかけた表面粗さ検出用接触子を試料に接触させ、機器をスタートさせる。試料の経緯をそれぞれ3回測定し、それらの平均をもって表面粗さとする。
【0056】
(4)平均繊維径、繊維径5μm以下の繊維の繊維比率
不織布の任意の位置からサンプリングした試験片の厚み方向5か所について、光学顕微鏡で倍率500倍の拡大写真を撮影し、繊維軸を横切る方向にほぼ直角に切断された任意の繊維20本について、繊維断面の長軸と短軸の長さを測定し、各繊維の断面積を求め、同じ面積となる円の直径を繊維径とする。全100本の平均値を平均繊維径とする。
繊維径5μm以下の繊維比率について、断面写真から観察が困難な場合には、不織布の表面写真から、太さが識別できる任意の100本の繊維を選択し、繊維径5μm以下の繊維の比率を求める。
【0057】
(5)繊維扁平率
上記(4)の平均繊維径の測定の際に求めた長軸と短軸の長さの値を用いて、以下の式:
扁平度=長軸の長さ/短軸の長さ
により扁平率を算出する。
【0058】
(6)印刷基材の生産性
印刷基材の製造における塗布加工の生産性を、以下の評価基準で評価した。
「◎」:収率が90%以上である。
「○」:収率が70%以上90%未満である。
「△」:収率が50%以上70%未満である。
「×」:収率が50%未満である。
【0059】
(7)印刷基材の耐久性
タテ方向の引張強力(N/5cm)により印刷基材の耐久性を以下の評価基準で評価した。タテ方向の引張強力(N/5cm)は、定長引張試験機を用いて測定した。幅5cm長さ30cmの試料を長手方向(タテ)および長手方向に直交する方向(ヨコ)にそれぞれ3枚採取し、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minで、引張強力を測定し、長手方向と長手方向に直交する方向の破断強度を求め、平均値で示した(JIS-L-1913に準じる)。尚、本明細書では生産機械の流れ方向を長手方向(タテ)とした。
「◎」:タテ方向の引張強力(N/5cm)が300以上である。
「〇」:タテ方向の引張強力(N/5cm)が200以上300未満である。
「△」:タテ方向の引張強力(N/5cm)が100以上200未満である。
「×」:タテ方向の引張強力(N/5cm)が100未満である。
【0060】
(8)プリンターの搬送性
レーザープリンターとしてRICOH、「MP C8002」を用い、印刷条件として、給紙トレイ:手差しトレイ、用紙種類:ラベル紙又は厚紙として、印刷基材の搬送性を、印刷成功率により以下の評価基準で評価した。
「◎」:印刷成功率が90%以上である。
「〇」:印刷成功率が70%以上90%未満である。
「△」:印刷成功率が50%以上70%未満である。
「×」:印刷成功率が50%未満である。
【0061】
(9)印刷基材の耐熱性
上記印刷-搬送された印刷基材の状態を目視観察し、以下の評価基準で評価した。
「◎」熱収縮、変形、変色、シワのいずれも観察されなかった。
「○」熱収縮、変形、変色、シワのいずれか1項目が僅かに観察された。
「△」熱収縮、変形、変色、シワのいずれか1~2項目が観察されたがその度合いは小さい。
「×」熱収縮、変形、変色、シワのいずれか2態様以上が顕在化した。
【0062】
(10)印字性・印刷性
活字・写真をレーザープリンターで印刷して、滲み・かすれ・インク飛び(散り)の状態を目視で観察することにより、以下の評価基準で、印字性・印刷性を評価した。
「◎」:滲み・かすれ・インク飛び(散り)、及び、ベタつき、粉ふきがほとんどなく明確に読み取りができる。
「○」:滲み・かすれ・インク飛び(散り)、またはベタつき、粉ふきが少しあるが読み取りができる。
「△」:滲み・かすれ・インク飛び(散り)、またはベタつき、粉ふきがあるが読み取りができる。
「×」:滲み・かすれ・インク飛び(散り)によって活字・写真の読み取りが困難であるか、又は、ベタつき、粉ふきによって印刷物の取り扱いが困難である。
「-」:基材のプリンター内搬送不可により印刷品が得られない。
【0063】
(11)制電性(静電気抑制性)
印刷後の静電気による接着性により以下の評価基準で制電性を評価した。
「◎」:接着性がない。
「○」:接着性が少しある。
「△」:接着性がある。
「×」:印刷できない。
【0064】
(12)耐候性
活字・写真をレーザープリンターで印刷した印刷物を、屋外で6か月放置した条件に相当する条件(キセノンウェザーメーターで、温度65℃100時間照射)で試験し、目視観察により、以下の評価基準で耐候性を評価した。
「◎」:変色がない。
「○」:変色が僅かにあるが目立たない。
「△」:変色が甚だしい。
「×」:活字・写真が読めない。
【0065】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET、融点265℃)をスパンボンド用紡糸口金から紡糸温度300℃で紡糸し、扁平度が1.0の丸断面で、平均繊径が12μm(繊維径5μm以下の繊維比率0%)、目付けが70g/m2の熱可塑性繊維ウェブを得た。得られたウェブを、一対の凹凸エンボスロールと平滑金属ロール間で、線圧が350N/cm、上下温度が225℃/220℃の条件下で熱圧着し、部分熱圧着率が15%のポリエステルスパンボンド不織布を得た。
得られたスパンボンドポリエステル不織布を、線圧1620N/cm、表面温度165℃でカレンダー加工して、表面粗さ(SMD)1.520、厚み171μm、及び目付70g/m2の平坦加工されたポリエステルスパンボンド不織布を得た。得られたポリエステルスパンボンド不織布の片側全面に、メチルエチルケトンとトルエンの混合溶剤(混合比1:1)中に、トナー定着剤として塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、白色微粉末、UV吸収剤、及び静電防止剤を含む樹脂溶液(固形分濃度42重量%)を、不織布m2当たり14.8mlで、グラビアコータで塗布し、次いで、該溶剤を80℃で乾燥させ及び/又は該樹脂を架橋させて、印刷面となるバインダー層を、固形分換算で6.22g/m2で均一に配された印刷基材を作製した。
得られた不織布、印刷基材の物性、印刷特性等を以下の表1に示す。
【0066】
[実施例2]
ポリエステルスパンボンド不織布に代えて、天間特殊製紙(株)製ポリエステル100%、目付75g/m2のカレンダー加工が施されている抄紙を用いた以外は、実施例1と同様に、印刷基材を作製した。抄紙、印刷基材の物性、印刷特性等を以下の表1に示す。
【0067】
[実施例3]
扁平度が3.3(長辺23μm-短辺7μm)の扁平糸からなり、厚みが薄く、目付が低く、表面粗さが小さいポリエステルスパンボンド不織布に代え、カレンダー加工条件を線圧245N/cm、表面温度230℃とし、さらに離型紙を貼り付けた以外は、実施例1と同様に、印刷基材を作製した。不織布、印刷基材の物性、印刷特性等を以下の表1に示す。厚みが薄く、目付が低い為、加工中にシワが発生し、その抑制を図ることで生産性がやや低下したが、離型紙を貼り付けたため印刷基材の厚みが適正範囲となり、印刷性能は良好であった。
【0068】
[比較例1]
カレンダー加工条件を、線圧500N/cm、表面温度165℃として、表面粗さが大きいポリエステルスパンボンド不織布に代えた以外は、実施例1と同様に、印刷基材を作製した。不織布、印刷基材の物性、印刷特性等を以下の表1に示す。
不織布の表面粗さが大きく、表面に凹凸が残り、フラット性に欠け、バインダー層が凸部のみに配されていたため、印字性・印刷性が悪化し、制電性、耐候性も低下した。
【0069】
[比較例2]
離型紙を貼り付けない以外は、実施例3と同様に、印刷基材を作製した。不織布、印刷基材の物性、印刷特性等を以下の表1に示す。不織布の目付が低く、厚みも薄いため、生産性が低下し、また、印刷基材の厚みが90μm未満となり印刷基材の耐久性も低下し、印刷特性試験ができないレベルとなり、プリンターの搬送性、印字性・印刷性、制電性、耐候性が悪化した。
【0070】
[比較例3]
目付が高く、厚みが厚いポリエステルスパンボンド不織布に代えた以外は、実施例1と同様に、印刷基材を作製した。不織布、印刷基材の物性、印刷特性等を以下の表1に示す。印刷基材の厚みが300μmを超えたため、生産性、耐久性は良好であったが、プリンターの搬送性、印字性・印刷性、制電性、耐候性が悪化した。
【0071】
[比較例4]
バインダー層を、固形分換算として18g/m2超えとした以外は、実施例1と同様に、印刷基材を作製した。不織布、印刷基材の物性、印刷特性等を以下の表1に示す。バインダー層が厚いため、印刷基材の表面粗さは小さくなり、耐久性、プリンターの搬送性、制電性、耐候性は良好であったが、バインダー剤の塗布量が多すぎるため、塗布後に長い乾燥時間を要し、また、塗布後にベタつき、粉ふきが生じ、印刷性・印字性は安定しなかった。
【0072】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る印刷基材は、不織布表面の表面粗さが極めて小さく、該表面の全面にバインダー層が極めて薄く設けられ、また、バインダー層の組成が最適化されているため、レーザープリンターで印刷でき、印字性・印刷性が良好(鮮明)であり、屋外で3~6月以上耐久性(耐候性)があり、生産性が高く、かつ、低コストな、ポリエステル系不織布から構成される印刷基材であるため、各種表示ラベル、各種包装資材、看板、旗、感圧紙などの印刷基材、特に屋外耐久性が要求される印刷基材に好適に利用可能である。