IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アンテヴ リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-復元可能なテベレリクス-TFA組成物 図1a-1g
  • 特許-復元可能なテベレリクス-TFA組成物 図2
  • 特許-復元可能なテベレリクス-TFA組成物 図3
  • 特許-復元可能なテベレリクス-TFA組成物 図4
  • 特許-復元可能なテベレリクス-TFA組成物 図5
  • 特許-復元可能なテベレリクス-TFA組成物 図6
  • 特許-復元可能なテベレリクス-TFA組成物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】復元可能なテベレリクス-TFA組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/09 20060101AFI20221116BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221116BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20221116BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20221116BHJP
   A61P 5/08 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
A61K38/09
A61K47/12
A61K9/19
A61K9/10
A61P5/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020570511
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 EP2019067718
(87)【国際公開番号】W WO2020007852
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】18181931.9
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519275607
【氏名又は名称】アンテヴ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラーセン, フィン
(72)【発明者】
【氏名】ブティニョン, フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ポーランド, ガイ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-504787(JP,A)
【文献】米国特許第03985723(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微結晶形成に必要なモル比を下回る、テベレリクス(Ac-D-Nal-D-pClPhe-D-Pal-Ser-Tyr-D-Hci-Leu-Lys(iPr)-Pro-D-Ala-NH)とトリフルオロアセテートとのモル比を有する、復元可能なテベレリクス-TFA組成物であって、組成物が、テベレリクス1molにつき、1molを上回るトリフルオロアセテート、かつ1.6molを下回るトリフルオロアセテートを含み、復元可能な組成物が粉末であり、復元可能なテベレリクス-TFA組成物中に、復元可能なテベレリクス-TFA組成物の総重量を基準として、0.3重量%から5重量%の間の量で水が存在する、復元可能なテベレリクス-TFA組成物。
【請求項2】
組成物中のテベレリクス1モルにつき、組成物が、1.3molを上回るトリフルオロアセテート、かつ1.6molを下回るトリフルオロアセテートを含むように、テベレリクスとトリフルオロアセテート(TFA)とのモル比が、1:1.3を上回り、かつ1:1.6を下回る、請求項1に記載の復元可能な組成物。
【請求項3】
復元可能なテベレリクス-TFA組成物中に、復元可能なテベレリクス-TFA組成物の総重量を基準として、1重量%から2重量%の間、または1.5重量%の量で水が存在する、請求項1または2に記載の復元可能な組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の復元可能な組成物の粉末を調製する方法であってテベレリクスとトリフルオロアセテートとを、微結晶形成に必要なモル比を下回るモル比で混合することによって、水性テベレリクス-TFA溶液を提供することであり、組成物が、テベレリクス1mol当たり、1molを上回るトリフルオロアセテート、かつ1.6molを下回るトリフルオロアセテートを含む、テベレリクスとトリフルオロアセテートとを混合することと;水性テベレリクス-TFA溶液を凍結乾燥もしくは噴霧乾燥させることと、を含む、方法
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の復元可能なテベレリクス-TFA組成物を調製する方法であって、
・テベレリクスとトリフルオロアセテートとを、微結晶形成に必要なモル比を下回るモル比で混合することによって、水性テベレリクス-TFA溶液を提供することであり、組成物が、テベレリクス1mol当たり、1molを上回るトリフルオロアセテート、かつ1.6molを下回るトリフルオロアセテートを含む、テベレリクスとトリフルオロアセテートとを混合すること
・水性テベレリクス-TFA溶液を乾燥させること
を含み、
提供される復元可能なテベレリクス-TFA組成物が、復元可能なテベレリクス-TFA組成物の総重量を基準として、0.3重量%と5重量%の間の量で水を含む程度に、水性テベレリクス-TFA溶液を乾燥させる、方法。
【請求項6】
組成物中のテベレリクス1モルにつき、組成物が、1.3molを上回るトリフルオロアセテート、かつ1.6molを下回るトリフルオロアセテートを含むように、水性テベレリクス-TFA溶液中のテベレリクスとトリフルオロアセテート(TFA)とのモル比が、1:1.3を上回り、かつ1:1.6を下回る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
乾燥させる前の水性テベレリクス-TFA溶液中のモル比を分析する工程、および任意選択で、前記溶液を乾燥させる前に、テベレリクスとトリフルオロアセテート(TFA)とのモル比を、組成物が、テベレリクス1モル当たり、1molのトリフルオロアセテートから1.85molのトリフルオロアセテートを含むように、特定の所定のモル比に調節する工程を含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の復元可能なテベレリクス-TFA組成物を復元する方法であって、水性復元溶液を復元可能なテベレリクス-TFA組成物に加えること、およびトリフルオロアセテートを加えることによって、組成物中のテベレリクス1モルにつき、組成物が少なくとも2.1molのトリフルオロアセテートを含むように、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を調節することを含む、方法。
【請求項9】
水性復元溶液が、少なくとも1:2.1、少なくとも1:2.2、または少なくとも1:2.4のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を提供するのに十分な量で、トリフルオロアセテートを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の復元可能なテベレリクス-TFA組成物を充填した包装。
【請求項11】
単位投与量の、請求項1からのいずれか一項に記載の復元可能なテベレリクス-TFA組成物を含む、請求項10に記載の包装。
【請求項12】
包装が、皮下および/または筋肉内注射を提供するのに好適なシリンジである、請求項10または11に記載の包装。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか一項に記載の第1の包装、および水性復元溶液を充填した第2の包装を含むキットであって、復元後、組成物中のテベレリクス1モルにつき、組成物が少なくとも2.1molのトリフルオロアセテート、かつ2.8molを下回るトリフルオロアセテートを含むように、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を提供するのに十分な量のトリフルオロアセテートを含む、キット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、復元可能なテベレリクス-TFA組成物、この組成物を調製する方法、およびこの組成物を復元する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テベレリクスは、下垂体前葉で受容体に結合する内因性神経ホルモンGnRH(別名、黄体化ホルモン放出ホルモン、LHRHとして知られる)に競合する、合成ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニスト(GnRHアンタゴニスト)である。GnRHアンタゴニストは、GnRHの作用を低下させる、またはブロックすることによって、卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体化ホルモン(LH)が下垂体前葉から放出されることを抑制する。
【0003】
FSHおよびLHはいずれも、正常な生殖機能に関与する。女性においては、FSHは、未成熟なグラーフ卵胞の成長を刺激して成熟させ、LHレベルの変化は、排卵を制御する。一方、男性においては、FSHは、精子形成に重要な役割を果たし、LHは、精巣においてテストステロンの生成を刺激する。
【0004】
したがって、テベレリクスは、良性前立腺肥大、ホルモン依存性前立腺がん、子宮内膜症、および子宮横紋筋肉腫のような、ホルモン依存性症状の治療に好適である。
【0005】
テベレリクス(Ac-D-Nal-D-pClPhe-D-Pal-Ser-Tyr-D-Hci-Leu-Lys(iPr)-Pro-D-Ala-NH)は疎水性ペプチドであるため、多くの対イオンの存在下で、ゲルを形成する傾向がある。この問題は、ゲルの形成は、テベレリクスペプチドを対イオン、例えばトリフルオロアセテート(TFA)と、少なくとも1:1.6のペプチドと対イオンとのモル比で接触させることによって防止することができ、それにより、流動的で乳状のテベレリクス塩(例えば、テベレリクス-TFA)の微結晶水性懸濁液を提供することを開示している、WO2003/022243によって解決されている。
【0006】
WO2003/022243によれば、所望の微結晶懸濁液を確実に得るためには、少なくとも1:1.6というテベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテート(TFA)の比は必須であり、そうでなければ、ゲルが形成されることになる。しかしながら、本発明の発明者は、WO2003/022243に開示されているモル比は、望ましくないゲル形成と、均一でない懸濁液との両方を生じるであろうことを見出した。これは、このような懸濁液は注射が困難であろうためだけでなく、このペプチドの所望の持続作用にゲルが干渉するので、テベレリクスペプチドの生物学的利用能が損なわれるため、問題である。
【0007】
テベレリクスは、水および酸と接触して配置されると脱アミド化するため、WO2003/022243のテベレリクス-TFA組成物は、例えば冷蔵および室温における保管中に安定ではなく、したがって、このような条件下では、テベレリクス組成物は、比較的短い貯蔵寿命を有する。
【0008】
脱アミド化は、テベレリクスペプチドの加水分解によって生じる。しかしながら、水含有量の減少は、例えば組成物における低pH値に起因して、脱アミド化の速度上昇に寄与しうるため、貯蔵寿命を増加させるために組成物中の水含有量を減少させることは、明らかではないであろう。
【0009】
WO2003/022243に開示されているテベレリクス-TFA組成物による別の問題は、適用される製造条件および方法が同一であっても、この製造によって提供されるテベレリクスと対イオンTFAとのモル比には、バッチによる差異が存在することを、本発明の発明者が発見したことである。
【0010】
所望の微結晶懸濁液を得るためには、上記モル比が必須であるため、この比の差異は、薬学的製剤中のテベレリクスの生物学的利用能に影響を及ぼしうる。そのため、製造によって提供されるテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を頼りにできることは、医療従事者および他の使用者にとって必須である。
【発明の概要】
【0011】
したがって、長い貯蔵寿命を有する安定な組成物を開発することと、所定のペプチドと対イオンとのモル比が得られ、モル比が予想に対応する、テベレリクス-TFAを製造する新しい方法を提供することとの両方に、需要が存在する。
【0012】
したがって、冷蔵および室温において、延長された貯蔵寿命を有するテベレリクス-TFA組成物を提供することが、本発明の第1の態様である。
【0013】
所望のペプチドと対イオンとのモル比を得ることを確保する方法を提供することが、本発明の第2の態様である。
【0014】
溶液中のペプチドと対イオンとのモル比を調節する方法を提供することが、本発明の第3の態様である。
【0015】
小さい注射体積によって、作用の長い継続時間を呈するテベレリクス-TFA組成物を提供し、さらにより頻度の低い投与を可能にすることが、本発明の第4の態様である。
【0016】
これらの態様およびさらなる態様は、微結晶形成に必要なモル比を下回るテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を有する、復元可能なテベレリクス-TFA組成物を提供することによって、本発明により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1a-1g】懸濁液A1~G1の顕微鏡写真である。
図2】異なるモル比における、可溶型および不溶型テベレリクスの濃度を示すグラフである。
図3】可溶型対不溶型テベレリクスの割合を示すグラフである。
図4】異なるTFA:テベレリクスのモル比における、1時間時点のテベレリクスの血漿濃度を示すグラフである。
図5】異なるTFAとテベレリクスとのモル比における、テベレリクスTFAの投与についての全選択平均PKプロファイルを示すグラフである。
図6】40℃で保管中の溶液において、異なるTFAとテベレリクスとのモル比における、溶液中のテベレリクスTFAの不純物の増加を示すグラフである。
図7】40℃で1箇月保管中の溶液において、TFAとテベレリクスとの異なるモル比における、10mg/mL溶液中のテベレリクスTFAの不純物の増加を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による復元可能な組成物は、対イオンのトリフルオロアセテートの低い含有量を有するため、復元可能な組成物におけるpH値は、テベレリクスの脱アミド化が、許容されるレベルまで確実に減少する値に維持され、すなわち、起こりうる脱アミド化が、テベレリクスの安定性をもたらさないであろうレベルまで減少することによって、テベレリクスは、例えば2~8℃前後における保管中、安定なままである。
【0019】
この点において、復元可能な組成物中のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比は、安定な復元可能なテベレリクス-TFA組成物をもたらすことになるため、1:1から1:1.85の間、好ましくは1.16前後またはそれ未満であることが好ましい。
【0020】
本発明の内容の範囲内で、「テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比」という用語は、テベレリクスとトリフルオロアセテートとの間のモルによる関係を指し、モル比の第1の数は、組成物中のテベレリクスのモル含有量であり、第2の数は、組成物中のTFAのモル含有量を指す。例えば、1:1.85のモル比は、組成物中のテベレリクス1molにつき、この組成物が1.85molのTFAを含むことを意味する。同様に、少なくとも1:2.2のモル比は、組成物中のテベレリクス1モルにつき、組成物が少なくとも2.2molのトリフルオロアセテート(TFA)を含むことを意味することになる。
【0021】
好ましい実施形態では、テベレリクスとトリフルオロアセテート(TFA)とのモル比は、1:1.3を上回り、かつ1:1.6を下回る、すなわち、組成物が1molのテベレリクスを含む場合、TFAの含有量は1.3molから1.6molの間であるが、これは、この範囲内のモル比が、復元可能なテベレリクス-TFA組成物の最適な安定性をもたらすことを、本発明の発明者が見出したためである。
【0022】
「復元可能なテベレリクス-TFA組成物」という用語は、実質的に乾燥したテベレリクス-TFA組成物、好ましくは、粉末、凍結乾燥物、ケーキ、またはこれらの組み合わせを指し、この組成物は、復元液体を加えた後、この液体に溶解および/または懸濁する。
【0023】
復元可能な組成物は、製薬産業において周知であり、投与の直前に、乾燥組成物に水または別の希釈剤を加える。このような従来の復元可能な組成物は、組成物の安定性を維持するため、実質的に乾燥状態で保管される。しかしながら、本発明の発明者は、復元可能な組成物中に少量の水が、すなわち、復元可能なテベレリクス-TFA組成物の総重量を基準として、0.3重量%から5重量%の間、好ましくは1~2重量%前後の量で存在する場合、取り扱い、復元、ひいては使用がより容易な、改善されたテベレリクス-TFA組成物が提供されることを見出した。
【0024】
理論に束縛されるものではないが、その水の含有量は、テベレリクスの粒子同士の間に高い静電気力をもたらす場合があり、これは、復元可能な組成物を取り扱うとき、例えば、組成物をバイアルまたはシリンジチャンバーに充填する場合に重要である。
【0025】
好ましい実施形態では、水は、復元可能なテベレリクス-TFA組成物の総重量を基準として、1重量%から2重量%の間、好ましくは1.5重量%の量で、復元可能なテベレリクス-TFA組成物中に存在し、これは、化学的完全性を保持し、安定な組成物を提供する復元可能なテベレリクス-TFA組成物を提供するためである。
【0026】
本発明が提供する安定性は、室温におけるより長い貯蔵寿命を可能にし、復元可能なテベレリクス-TFA組成物は、例えば滅菌後に保管してもよい。復元可能な組成物は、後の使用のために、包装して保管することができる(例えば、シリンジまたはバイアル中に)。
【0027】
本発明による復元可能な組成物は、任意の好適な方法で調製/製造してよいが、一実施形態では、テベレリクスとトリフルオロアセテートとを水溶液中で接触させて水性テベレリクス-TFA溶液を得、次いで、例えば冷凍乾燥(凍結乾燥)または噴霧乾燥によって、例えば粉末に乾燥させて本発明による復元可能な組成物を得る。したがって、好ましい実施形態では、復元可能な組成物は、凍結乾燥(冷凍乾燥)もしくは噴霧乾燥によって得られる粉末、および/または凍結乾燥によって得られるケーキである。一実施形態では、テベレリクスとトリフルオロアセテートとを、微結晶形成に必要なモル比を下回る、好ましくは1:1.3を上回り、かつ1:1.6を下回る、所定のモル比で接触させる。
【0028】
好ましい実施形態では、復元可能な組成物、例えば粉末が、復元可能なテベレリクス-TFA組成物の総重量を基準として、0.3重量%から5重量%の間の量で水を含有する時点で、乾燥工程を停止させる。好ましくは、復元可能なテベレリクス-TFA組成物中に、1重量%から2重量%の間、例えば1.5重量%の量で水が存在するように、溶液を乾燥させる。この組成物中の水の量は、例えば、従来の測定方法および装置を用いて、乾燥期間の終了時に評価されうる。
【0029】
以前に論じたように、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比のバッチによる差異は、未知の理由のために、製造中に発生しうるが、しかしながら、具体的な復元可能なテベレリクス-TFA組成物における、テベレリクスとトリフルオロアセテートとの正確なモル比がわかることが好ましい。したがって、復元可能なテベレリクス-TFA組成物を製造する方法は、具体的なモル比がわかるように、乾燥させる前に、溶液中のモル比を分析する工程をさらに含んでもよい。この工程は、溶液を乾燥させる前にトリフルオロアセテートを加えることにより、このモル比を特定の所定のモル比に調節することも可能にし、それによって、存在しうるモル比のいずれの差異も効果的に相殺するであろう。したがって、溶液中のモル比が、例えば1:1.2であることが見出された場合、トリフルオロアセテートを加えることによって、このモル比を、1:1.4に調節してもよい。唯一の必要条件は、乾燥させる前に得られるモル比が、微結晶形成に必要なモル比を下回らなければならないことである。
【0030】
溶液のモル比は、まず、従来のHPLC方法を用いて、試料中のトリフルオロアセテートとテベレリクスとの含有量を測定し、次いで、次の式を用いて、モル比を計算することによって決定されうる。
【0031】
トリフルオロアセテートとテベレリクスとのモル比は、MTFA=114g/mol、およびMTev=1459g/molと計算されている。
【0032】
乾燥させた後、このようにして得た復元可能なテベレリクス-TFA組成物は、保管され、注射可能な薬学的製剤を調製するとき、水または別の好適な溶液によって復元されうる。
【0033】
本発明による復元可能なテベレリクス-TFA組成物に、特定の所定のモル比を提供することによって、復元の際に、この組成物に、固定量のトリフルオロアセテートを加えられることが確保されるであろうが、それによって、ゲルを形成することなく、テベレリクス塩:テベレリクス-TFAの流動的で乳状の微結晶水性懸濁液を得るための正確な所望のモル比を、効果的かつ単純に達成する。この点において、復元後のテベレリクスとTFAとのモル比を、少なくとも1:2.1に調節することが好ましく、発明者は、それによって、ゲルを形成することなく、テベレリクス-TFA微結晶懸濁液が得られることを示した。比が1:2.2を上回る場合も、懸濁液は均一である。
【0034】
したがって、本発明による復元可能な組成物中のテベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートとのモル比が低いことによって、テベレリクスペプチドの安定性が最適化されることに加えて、復元プロセス中に、ペプチドとトリフルオロアセテートとのモル比を調節できることも確保され、それによって、復元中またはその後に、十分な量のトリフルオロアセテートを単純に加えることにより、(復元した組成物の意図する使用に応じた)ペプチドと対イオンとの最適なモル比が得られうることが確保される。
【0035】
例えば、製造プロセス中に、復元可能なテベレリクス-TFA組成物が1:1.4のモル比を有することが確かめられている場合、かつ最終的な水性テベレリクス-TFA製剤に1:2.2のモル比を所望する場合、組成物中に存在するテベレリクス1mol当たり0.8molのTFAを、復元プロセス中に加えなければならない。この量は、当業者が容易に計算することができる。
【0036】
当業者はさらに、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、微結晶形成に必要なモル比を下回る限り、復元プロセス中に用いるTFAの適正な量を、当業者が確実に計算できるようにするためには、このモル比が、例えば1:1.4または1:1.36であるかどうかは、この比率を知っている、または計算することができる限り、関係ないことを理解するであろう。
【0037】
トリフルオロアセテート含有量は、組成物を復元した後に加え/調節してもよいが、好ましい実施形態では、本発明による組成物を復元する迅速で効果的な方法を、トリフルオロアセテートが提供するであろうため、トリフルオロアセテートは、水性復元溶液の一部である。所望により、水性復元溶液は、マンニトールおよび/または薬学的に許容される添加物などの等張剤を含有してもよい。
【0038】
当業者は本出願に基づいて、復元可能なテベレリクス-TFA組成物を得るために、テベレリクス-TFA溶液を乾燥させる代わりに、正確なモル比を評価した後、十分な量のトリフルオロアセテートを加えることによって、溶液中のモル比を、微結晶形成に必要なモル比を上回るテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比に、すなわち、1:2.1を上回る比に、好ましくは少なくとも1:2.2、さらにより好ましくは少なくとも1:2.4に、直接調節することができることを理解するであろう。これは、直接用いてもよい水性薬学的製剤を提供するであろう。すなわち、この製剤はすぐに使用することができる。
【0039】
本発明の発明者はさらに、最終的な水性薬学的製剤中のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、少なくとも1:2.1、好ましくは少なくとも1:2.2である場合、製剤は、可溶型テベレリクスと不溶型テベレリクスとの両方を含み、それによって、独特なテベレリクスの生物学的利用能を提供することを見出した。
【0040】
理論に束縛されるものではないが、可溶型テベレリクスは水溶液の形態であり、いくつかの状況ではゲルである。ゲルの存在によって、いずれの自由な水性テベレリクスも阻害されることとなり、そのため、即時の放出は防止されるか、少なくとも減少する。不溶型テベレリクスは、微結晶の形態である。この微結晶は、ゲル形成を防止することとなり、そのため、水性テベレリクスを「開放」する。時間が経つにつれて、本発明による組成物中のTFAは、体に吸収されて比率が低下することとなり、その後、微結晶がゲルとなって、徐放性デポを形成する。したがって、非ゲル-可溶型テベレリクスは直ちに利用可能であって、ほぼ即時の作用の発生を提供し、ゲル-可溶型および不溶型テベレリクス(微結晶)は、テベレリクスの持続放出を提供することを支援することとなる。
【0041】
したがって、本発明によるテベレリクス-TFA組成物を用いる場合、復元可能な組成物に加えるトリフルオロアセテートの量を単純に調節することにより、注射組成物中の不溶型テベレリクスと可溶型テベレリクスとの比が変化することによって、テベレリクスの放出プロファイルを調節することができる。
【0042】
テベレリクスTFA組成物は、例えば、凍結乾燥または噴霧乾燥によって得た粉末として、乾燥状態で保管することが好ましいが、最終的な水性薬学的製剤を一定期間、保管できることが必要でありうる。しかしながら、テベレリクスは、水および高濃度の酸と接触して配置されると脱アミド化するため、望ましくない分解生成物(不純物)が製剤内に少量現れ、この製剤の品質、安全性、および有効性に潜在的な影響を及ぼす場合があり、それによって、潜在的に深刻な健康への危険性を生じうる。
【0043】
本発明の発明者は、最終的な微結晶水性懸濁液中のテベレリクスとTFAとのモル比が1:2.8を下回る場合、不純物のレベルが、許容されるレベルに保たれることを見出した。したがって、流動的で乳状の微結晶水性懸濁液における最適なモル比は、好ましくは、1:2.2(または1:2.4)から1:2.8の間である。
【0044】
本発明による単純かつ好ましい実施形態では、復元可能なテベレリクス-TFA組成物は、単位投与量として、例えば粉末の形態で提供され、微結晶形成に必要なモル比を下回る、好ましくは1:1から1:1.85の間、さらにより好ましくは1:1.3を上回り、かつ1:1.6を下回る、所定のモル比のテベレリクスと対イオンTFAとを有し、この単位投与量は、十分な量のトリフルオロアセテートを含有する固定量の水性復元溶液を加えることによって、使用の直前に復元され、提供される薬学的製剤中に、既定のモル比のテベレリクスとトリフルオロアセテートとが達成される。この既定のモル比が、好ましくは少なくとも1:2.1、好ましくは少なくとも1:2.2、さらにより好ましくは約1:2.4であることによって、提供される復元懸濁液が、実質的にゲルを含有しない、または復元された懸濁液を注射に用いることができるほど少なくとも低濃度のゲルを含有することが確保される。
【0045】
したがって、本発明の別の態様は、単位投与量の復元可能なテベレリクス-TFA組成物を充填した包装、例えばシリンジまたはバイアルを特徴とする。本発明の文脈の範囲内では、「単位投与量」という用語は、単回投与量において患者に投与される活性成分(テベレリクス)の量である。この単位投与量は、容易な投与を提供するために、例えば、好適なシリンジ内に配置される。
【0046】
異なる患者におけるテベレリクスの血漿濃度は、患者の体重とは実質的に独立することが見出されており、したがって、テベレリクスの単位投与量は、すべての対象(男性/女性)について汎用的とみなされると考えられる。そのため、懸濁液中のテベレリクスの投与量は、治療する症状に依存する。
【0047】
好ましくは、この単位投与量におけるテベレリクスの濃度は、30mg/mlから100mg/mlの間、さらにより好ましくは45mg/mlから90mg/mlの間、例えば約75mg/mlである。テベレリクスの濃度は、いくつかの状況では、約100mg/mlよりも高くてもよい。単位投与量の体積は、0.4mlから1.6mlの間、例えば約1.2mlでありうる。この濃度および体積において、皮下および/または筋肉内に与えられる注射は、穏やかな注射部位反応のみを提供することが実証されている。
【0048】
本発明による最終的な流動的で乳状の微結晶水性懸濁液は、例えば、薬学的組成物中に含まれる場合、テストステロンおよびジヒドロテストステロン(DHT)のようなゴナドトロピンの抑制を通じて前立腺がんを治療するのに、とりわけ好適である。しかしながら、懸濁液は同様に、ゴナドトロピンホルモンの放出に関する他の疾患または症状を、少なくとも部分的に改善するために、よく用いられうる。このような疾患または症状は、良性前立腺過形成;急性閉尿;子宮内膜症;乳がんもしくは子宮頸がん;ホルモン不均衡;アンドロゲン感受性症状;エストロゲン感受性症状;またはこれらの組み合わせでありうる。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明はまた、単位投与量のテベレリクス-TFA組成物を充填した第1の包装と、少なくとも1:2.1、好ましくは少なくとも1:2.2、さらにより好ましくは約1:2.4以上の所望のモル比を得るのに十分な量のTFAを含む復元溶液を充填した第2の包装とを含むキットに関する。好ましくは、モル比は1:2.8を上回らず、すなわち、テベレリクス1molにつき、TFAのモル含有量は2.8以下である。この第1の包装は、例えばシリンジであってもよく、テベレリクスとTFAとの適正なモル比を確実に得るために、第2の包装は、このシリンジと物理的に接続されていてもよい。互いに物理的に接続された第1および第2の包装の一例として、凍結乾燥生成物のための従来のデュアルチャンバーシリンジを挙げることができる。このようなデュアルチャンバーシリンジは、当技術分野において周知である。
【0050】
一実施形態では、このキットは、1:2.4のテベレリクスと対イオンとのモル比を有し、約75mg/mlのテベレリクス濃度を有する、最終的なテベレリクス-TFA製剤を提供するように手配される。
【0051】
本発明において提供する組成物および製剤は、製造に費用がかさまず、使用の容易さに起因して、非常に単純な投与体制を提供する。
【0052】
上の原理の修正および組み合わせ、ならびにその組み合わせは、本発明の範囲内で予見される。
【実施例
【0053】
テベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートとのモル比の影響を確かめるために、複数の試験を実行した。
【0054】
実施例1:異なるモル比を有するテベレリクス-TFA組成物の調製
低いTFA含有量を有するテベレリクスの特別製造バッチ(バッチA)を入手した。バッチAの特性を、表1に示す。
【0055】
75mgのテベレリクスを含有する組成物、組成物Aを所望する場合、次のように計算して、88.28mgのバッチAを用いなければならない。
【0056】
次いで、組成物A中のテベレリクスとTFAとのモル比を計算することができる。
【0057】
88.28mgのバッチA中のTFA含有量は、88.28mg×10.9/100(%TFA含有量)=9.62mgと計算することができる。
【0058】
TFAのモル質量MTFAは114g/molであり、テベレリクスのモル質量MTEVは1459g/molであるため、75mgのテベレリクス組成物中のTFAのモル濃度は0.084mmol、テベレリクスのモル濃度は0.051mmolと計算することができる。したがって、復元可能な組成物A中のテベレリクスとTFAとのモル比は、1:1.64、すなわち、1molのテベレリクス対1.64molのTFAである。
【0059】
異なるモル比を有する、複数の異なる水性テベレリクス-TFA組成物を調製するために、44.14mg+5%(41.93~46.35mg)の組成物Aを含有する21個の試料を、マイクロピペットによって復元溶液を加えることができる蓋を有する、2mlガラスチューブに正確に秤量した。
【0060】
5%マンニトール中にTFAを含有する7種のTFA復元溶液を、Acros Organics(Geel,Belgium)から入手したTFA組成物を用いて調製した。このTFA組成物は、99%純粋であり、1.535g/mlの密度を有していた。各復元溶液を表2に示す。
【0061】
マイクロピペットを用いて、44.14mg+5%(41.93~46.35mg)の組成物Aを含有する21個のガラスチューブの蓋を通じて、0.5mlの上の復元溶液のそれぞれを加えることによって、各水性テベレリクス-TFA組成物を調製し、すなわち、同じモル比を有する3つの水性テベレリクス-TFA組成物を調製した。ボルテックスを用いて混合物を1分間撹拌し、所望されるテベレリクス-TFAの流動的で乳状の微結晶均一水性懸濁液を得たか、または代わりにゲルが形成されたかを確かめるために、溶液を10分間、視覚的に観察した。結果を表3にまとめる。
【0062】
第1の試験チューブ内の水性テベレリクス-TFA組成物の微結晶内容物を、Realux(France)によって供給された偏光顕微鏡でさらに観察した。それぞれのモル比についての結果を、図1a~図1gに示す。これらの観察から、1:1.85以下のモル比については、微結晶形成が観察されないことは明らかであり、したがって、所望の微結晶形成が開始されるためには、テベレリクスと対イオンのTFAとのモル比が、少なくとも1:1.85を上回らなければならない。
【0063】
したがって、本発明による復元可能な組成物中のテベレリクスとトリフルオロアセテート(TFA)とのモル比は、1:1.85を下回り、好ましくは1:1.6を下回ることが好ましい。
【0064】
さらに、表3から明白であるように、テベレリクス-TFAの均一懸濁液は、モル割り当て(ration)が1:2.1を上回るまで得られず、したがって、そのために、復元水性テベレリクス-TFA懸濁液におけるモル比は、1:2.1を上回り、好ましくは少なくとも1:2.2のようにさらに高く、さらにより好ましくは少なくとも1:2.4であることが好ましい。
【0065】
実施例2:モル比に対する可溶型テベレリクスおよび不溶型テベレリクスの含有量
各試験チューブにおける、不溶型テベレリクスに対する可溶型テベレリクスの含有量を決定するために、それぞれのモル比の第2および第3の試験チューブを、10~20分間、10,000rpmで遠心分離し、上清およびペレット中のテベレリクスの濃度を、HPLC分析を用いて測定した。
【0066】
HPLC分析についてのクロマトグラフィー条件を、表4に示す。
【0067】
59.9mgのテベレリクスアセテート(バッチ080113)を、メスフラスコに秤量し、水:アセトニトリル=65:35(v/v)により体積を100mlまで満たすことによって、2つの100%標準を調製した。10mlのこの溶液を、同じ溶媒によって50mlまで満たし、0.1mg/mlの濃度のテベレリクスペプチドを準備した。
【0068】
2mlの100%標準を、同じ溶媒によって200mlに希釈することによって、1%標準溶液を調製し、0.001mg/mlの濃度のテベレリクスペプチドを準備した。
【0069】
2つの100%標準を用いて、内部標準法を行った。1%標準を用いて、応答の直線性を確認した。100%標準による回収は、区間95%~105%になければならない。
【0070】
遠心分離後に得たペレットを、水:アセトニトリル=65:35(v/v)に可溶化し、同じ溶媒によって、体積を100mLまで満たした。この溶液を、5倍に希釈し(50mL中の10mL)、HPLCを実行した。
【0071】
上清をメスフラスコに移し、同じ溶媒、すなわち、水:アセトニトリル=65:35(v/v)によって、体積を100mLまで満たした。この溶液を、5倍に希釈し(50mL中の10mL)、HPLCを実行した。HPLC分析の結果を、表5に示す。
【0072】
それぞれのモル比の平均濃度を計算したので、表6を参照されたい。結果を図2および3に図示する。
【0073】
表5および6、ならびに図2および3から明白であるように、テベレリクスに対するトリフルオロアセテートの量が増加すると、不溶型テベレリクスの度合いが増加し、したがって、1:2.1のモル比(1molのテベレリクス対2.1molのTFA)においては、薬学的製剤の約50%は不溶型テベレリクスからなり、1:2.36(約1:2.4)のモル比においては、薬学的製剤中の不溶型テベレリクスの量は約82%である。
【0074】
実施例3:モル比に対する血漿濃度
テベレリクスの血漿濃度に対するモル比の関連性を評価するため、異なるモル比を含有する5つのガラスバイアルを、実施例1に論じたように調製し、表7に示す水性テベレリクス-TFA組成物を含む試験チューブを準備した。
【0075】
それぞれのモル比に対して、5匹のラットを試験した。25mm 21Gルアー6%レギュラーベベル針(Terumo(Leuven,Belgium)から入手可能)、および100μlルアースリップシリンジ(Hamilton Company(Reno,USA)から入手可能)を用いて、それぞれのラットに60μlの各溶液を注射した。投与の前、次いで、投与後1時間、6時間、24時間、48時間、7日目、10日目、14日目、21日目、および28日目に、血漿濃度を測定した。
【0076】
それぞれのラット個体への注射後のテベレリクスのピーク血漿濃度Cmaxを、表8に示し、図4に図示する。
【0077】
これらの結果から明らかであるように、テベレリクスのCmaxは、1:2.1のモル比までは上昇し、その後、血漿濃度は実質的に安定する。
【0078】
定期的な間隔で血液試料を採取することによって、4週間の期間にわたる血漿濃度も測定した。
【0079】
4週間の期間における平均血漿レベルを図5に示すが、テベレリクスの放出プロファイルが、モル比に依存することは明らかである。例えば、1:2.1のモル比を有する懸濁液によって、高いテベレリクスの血漿濃度が示される。したがって、本発明による復元可能な組成物に加えるトリフルオロアセテートの量を単純に調節することにより、薬学的製剤中のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を変化させることによって、テベレリクスの放出プロファイルを調節することができる。
【0080】
臨床的には、これは、患者の個体群の要件、例えば、異なる適応症、年齢、および/または性別に関して、療法を最適化する可能性がある。ある患者群は、高濃度の可溶型テベレリクスが要求される、作用の即時発生を必要としうるが、別の群は、低濃度の可溶型テベレリクスが要求される、テベレリクスの持続放出を必要としうる。同様に、異なる段階の患者の治療においては、異なるモル比を有する、異なる薬学的製剤が投与されうる。さらに、異なる患者群の特定の必要性に合わせてモル比を調節できることによって、患者の受容および療法の適合性が上昇するであろう。
【0081】
実施例4:モル比に対するテベレリクスの安定性
テベレリクスの安定性に関するテベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートとのモル比の影響を確かめるために、次の試験を実行した。
【0082】
テベレリクスとTFAとの異なるモル比(低1:1.7;中位1:2.16;高1:2.8;および超高1:4.0)を有する、4種のバッチのテベレリクスTFA溶液を、2つの濃度、10mg/mL(ベーステベレリクスとして表す)および1mg/mL(ベーステベレリクスとして表す)において調製した。
【0083】
乾燥粉末として供給される、復元可能なテベレリクスTFA組成物を入手した。このバッチの特性を、表9に示す。
【0084】
出発材料のモル比を、次の計算を用いて決定した。
【0085】
8つのバッチ:一方は、10mg/mlの4種のモル比のそれぞれ、一方は、1mg/mlの4種のモル比のそれぞれを、以下のように調製した。
【0086】
10mg/mLにおける低モル比(1:1.7)
1. 0.312gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、注射用水によって復元して、懸濁液を3.0mLに調合し、104mg/mLの均一ミルク懸濁液を形成した。この濃度では、テベレリクスの96%が固体テベレリクスを形成することを、先行調査が実証しており、そのため、遠心分離後、およそ300mgのテベレリクスが、固体テベレリクスとして回収されることになる。
2. 調製物を、4℃において、10,000rpm(8,500g)で10分間、直ちに遠心分離した。
3. 遠心分離された材料の上清を廃棄した。固体テベレリクスが、およそ1:1.7のテベレリクスとTFAとのモル比を有することを、先行調査が実証している。
4. 遠心分離ペレットを、注射用水によって再懸濁させて、30mLに調合し、およそ10mg/mLの、およそ1:1.7のモル比の溶液を形成した。
【0087】
10mg/mLにおける中位モル比(Mid-molar range ratio)(1:2.16)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で注射用水によって復元して、10.0mL体積の溶液を作製し、10mg/mLにおける、1:2.16のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0088】
10mg/mLにおける高モル比(1:2.8)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0097M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. 溶液を注射用水によって10.0mLに調合して、10mg/mLにおける、1:2.8のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0089】
10mg/mLにおける超高モル比(1:4.0)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0252M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. 溶液を注射用水によって10.0mLに調合して、10mg/mLにおける、1:4.0のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0090】
1mg/mLにおける低モル比(1:1.7)
1. 0.312gのテベレリクスTFA(正味テベレリクス)を、注射用水によって復元して、懸濁液を3.0mLに調合し、104mg/mLの均一ミルク懸濁液を形成した。
2. 調製物を、4℃において、10,000rpm(8,500g)で10分間、直ちに遠心分離した。
3. 遠心分離された材料の上清を廃棄した。
3. 遠心分離ペレットを、注射用水中に再懸濁させて(最終体積300mL)、およそ1mg/mLの、およそ1:1.7のテベレリクスとTFAとのモル比の溶液を調合した。
4. 10.0mLを、10mL三角フラスコに移した。
【0091】
1mg/mLにおける中位モル比(Mid-molar range ratio)(1:2.16)
1. 注射用水中テベレリクスTFAの1mg/mL溶液を調製した。
【0092】
1mg/mLにおける高モル比(1:2.8)
1. 0.010gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.001M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. WFIによって、体積を10mLまで満たした。
【0093】
1mg/mLにおける超高モル比(1:4.0)
1. 0.010gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0205M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. WFIによって、体積を10mLまで満たした。
【0094】
すべての溶液を、テベレリクス純度についての分析の前に、研究室温度(20℃)に保った。
【0095】
溶液それぞれから、試料を2回採取し、従来のRP-HPLC方法を用いて、テベレリクス純度について分析した。染色(chromatic)条件は、表10に示した通りである。
【0096】
調製後、すなわち時間0における溶液中のテベレリクスの純度を、表11に示す。
【0097】
経時的な安定性を評価するために、+40℃、75%の相対湿度のチャンバー内で、各溶液を共栓付きガラス三角フラスコに保管した。
【0098】
10mg/mL溶液については1箇月後、1mg/mL溶液については2週間後、既に記載した方法を用いて、テベレリクス純度分析を繰り返した。該当期間の後の溶液の純度を、下の表12に提示する。
【0099】
安定性の結果を図6および7に示し、保管中の不純物のパーセンテージの増加を、懸濁液のモル比によって図示する。
【0100】
これらの図から、懸濁液中のより高濃度のトリフルオロアセテートが、有意により高濃度の不純物をもたらすことは明らかであり、したがって、テベレリクスが高濃度の酸(トリフルオロアセテート)と接触して配置される場合、望ましくない分解生成物(不純物)が少量現れ、製剤の品質、安全性、および有効性に潜在的な影響を及ぼす場合があり、それによって、潜在的に深刻な健康への危険性を生じることを、結果が証拠立てている。したがって、乾燥粉末として、および懸濁液/溶液としての両方で、安定なテベレリクス-TFA組成物を得るためには、低濃度/含有量のトリフルオロアセテートを有する組成物を提供することが重要であり、すなわち、1molのテベレリクスについてのトリフルオロアセテートのモル含有量は、可能な限り低く保つべきである。
【0101】
図6および7から、懸濁液中のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が1:2.8を下回る(すなわち、1molのテベレリクス対2.8mol以下のTFA)場合、不純物、すなわち、例えば脱アミド化によって生じる、望ましくない分解生成物のレベルは、許容されるレベルに保たれることが見て取れる。
【0102】
これらの図から、テベレリクスの濃度もまた、不純物のレベルに関係することも明らかである。しかしながら、注射体積を減少させるためには、懸濁液が、少なくとも10mg/ml、好ましくは少なくとも30mg/mlのテベレリクスの濃度を含むことが関係し、したがって、最終的な流動的で乳状の水性懸濁液中のテベレリクスの濃度を単純に低下させることは、現実的には不可能である。しかしながら、この因子のみによって、乾燥状態と液体状態の両方において、保管中の組成物中の酸(トリフルオロアセテート)の濃度が、安定な生成物を提供するためにはさらにより重要となる。
図1a-1g】
図2
図3
図4
図5
図6
図7