(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】凍結乾燥方法およびこれによって得られるテベレリクス-TFA凍結乾燥物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/09 20060101AFI20221116BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20221116BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20221116BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20221116BHJP
A61P 5/08 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
A61K38/09
A61K47/12
A61K9/19
A61K9/10
A61P5/08
(21)【出願番号】P 2020570563
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2019067733
(87)【国際公開番号】W WO2020007860
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-06
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519275607
【氏名又は名称】アンテヴ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ポーランド, ガイ
(72)【発明者】
【氏名】ブティニョン, フランソワ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-504787(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104761632(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テベレリクス-TFA凍結乾燥物を調製するための凍結乾燥方法であって、前記方法が、以下の工程:
a)ゲルを形成することなく、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液を準備するのに十分なテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比で、テベレリクスとトリフルオロアセテートとを混合することによって、凍結乾燥懸濁液を準備する工程であって、組成物が、テベレリクス1mol当たり少なくとも2.1molのトリフルオロアセテートを含む、凍結乾燥懸濁液を準備する工程、
b)工程a)の凍結乾燥懸濁液を凍結乾燥させることによって、
微結晶テベレリクス-TFA懸濁液中のテベレリクス1mol当たりのトリフルオロアセテートのmol含有量よりも低い、テベレリクス1mol当たりのトリフルオロアセテートのmol含有量を有するテベレリクス-TFA凍結乾燥物を得る工程
を含み
、
工程a)が、以下の工程:
a’)微結晶テベレリクス-TFA懸濁液を、遠心分離または濾過することによって、それぞれ、
テベレリクス1mol当たり1:1.70から1:1.85のトリフルオロアセテートのmol含有量を有するテベレリクス-TFAペレットまたはテベレリクス-TFA濾過ケーキを準備する工程、および
a”)前記テベレリクス-TFAペレットまたは前記テベレリクス-TFA濾過ケーキを、水性懸濁溶液中に懸濁させる工程
をさらに含むことを特徴とする
、凍結乾燥方法。
【請求項2】
工程a)におけるテベレリクスとトリフルオロアセテートとを、組成物中のテベレリクス1molにつき、組成物が少なくとも2.2molのトリフルオロアセテートを含むように、少なくとも1:2.2のモル比で混合する、請求項1に記載の凍結乾燥方法。
【請求項3】
遠心分離後のペレット、または濾過後の濾過ケーキが、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液中のモル比よりも低い、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を有する、請求項1または2に記載の凍結乾燥方法。
【請求項4】
水性懸濁溶液が、水またはマンニトール溶液である、請求項1から3のいずれか一項に記載の凍結乾燥方法。
【請求項5】
微結晶テベレリクス-TFA懸濁液が、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が少なくとも1:2.2である場合、組成物中のテベレリクス1molにつき、組成物が少なくとも2.2molのトリフルオロアセテートを含むように、水中で作製される、請求項1から4のいずれか一項に記載の凍結乾燥方法。
【請求項6】
微結晶テベレリクス-TFA懸濁液が、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が1:2.2を下回る場合、組成物中のテベレリクス1molにつき、組成物が2.2molを下回るトリフルオロアセテートを含むように、トリフルオロ酢酸溶液中で作製される、請求項1から4のいずれか一項に記載の凍結乾燥方法。
【請求項7】
工程b)のテベレリクス-TFA凍結乾燥物が、ガンマ線滅菌によって滅菌される、請求項1から6のいずれか一項に記載の凍結乾燥方法。
【請求項8】
微結晶テベレリクス-TFA懸濁液中のテベレリクス-TFAの濃度が、少なくとも100mg/mlである、請求項1から7のいずれか一項に記載の凍結乾燥方法。
【請求項9】
得られるテベレリクス-TFA凍結乾燥物が、テベレリクス-TFA凍結乾燥物の総重量を基準として、0.3重量%と5重量%の間の量で水を含む程度に、再懸濁ペレットまたは再懸濁濾過ケーキが、凍結乾燥または噴霧乾燥される、請求項1から8のいずれか一項に記載の凍結乾燥方法。
【請求項10】
凍結乾燥が、テベレリクス-TFA凍結乾燥物の単位投与量で、かつ/または保管のための包装中で直接、実行される、請求項1から9のいずれか一項に記載の凍結乾燥方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれ
か一項の
凍結乾燥方法によって得たテベレリクス-TFA凍結乾燥物を復元する方法であって、水性復元溶液をテベレリクス-TFA凍結乾燥物に加えることを含み、トリフルオロアセテートを加えることによって、組成物中のテベレリクス1molにつき、組成物が少なくとも2.1molのトリフルオロアセテートを含むように、モル比を調節することをさらに含む、方法。
【請求項12】
テベレリクス1molにつき、組成物が少なくとも2.2molのトリフルオロアセテートを、
または少なくとも2.4
molのトリフルオロアセテートを含むように、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、少なくとも1:2.2に、
または少なくとも1:2.4に調節される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
テベレリクス1molにつき、組成物が2.8mol以下のトリフルオロアセテートを含むように、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、1:2.8以下に調節される、請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥方法、この方法によって得られるテベレリクス(teverelix)-TFA凍結乾燥物、およびこのテベレリクス-TFA凍結乾燥物を復元する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テベレリクスは、下垂体前葉で受容体に結合する内因性神経ホルモンGnRH(別名、黄体化ホルモン放出ホルモン、LHRHとして知られる)に競合する、合成ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニスト(GnRHアンタゴニスト)である。GnRHアンタゴニストは、GnRHの作用を低下させる、またはブロックすることによって、卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体化ホルモン(LH)が下垂体前葉から放出されることを抑制する。
【0003】
FSHおよびLHはいずれも、正常な生殖機能に関与する。女性においては、FSHは、未成熟なグラーフ卵胞の成長を刺激して成熟させ、LHレベルの変化は、排卵を制御する。一方、男性においては、FSHは、精子形成に重要な役割を果たし、LHは、精巣においてテストステロンの生成を刺激する。
【0004】
したがって、テベレリクスは、良性前立腺肥大、ホルモン依存性前立腺がん、子宮内膜症、および子宮横紋筋肉腫のような、ホルモン依存性症状の治療に好適である。
【0005】
持続放出製剤は通例、小体積の水またはいくつかの他の好適な溶媒中に溶解した、非常に高濃度の活性成分を必要とする。テベレリクス(Ac-D-Nal-D-pClPhe-D-Pal-Ser-Tyr-D-Hci-Leu-Lys(iPr)-Pro-D-Ala-NH2)は疎水性ペプチドであるため、水中または他の溶媒中に自由に溶解しない。テベレリクスはさらに、低濃度においてさえ、水性溶媒中または他の溶媒中でゲルを形成する傾向を有し、これによって、持続放出製剤における使用は大きく限定される。
【0006】
WO2003/022243は、この問題を解決することを目指し、テベレリクスペプチドを対イオン、例えばトリフルオロアセテート(TFA)と接触させることによって、ゲルの形成が防止されうることを開示している。WO2003/022243によれば、所望の微結晶懸濁液を確実に得るためには、少なくとも1:1.6というテベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートの比は必須であり、そうでなければ、ゲルが形成されることになる。しかしながら、本発明の発明者は、WO2003/022243に開示されているモル比は、望ましくないゲル形成と、均一でない懸濁液との両方を生じるであろうことを見出した。これは、このような懸濁液は注射が困難であろうためだけでなく、このペプチドの所望の持続作用にゲルが干渉するので、テベレリクスペプチドの生物学的利用能が損なわれるため、問題である。
【0007】
本発明の発明者はさらに、WO2003/022243の製造によって提供されるテベレリクスと対イオンTFAとのモル比には、適用される製造条件および方法が、バッチ同士で同一であるにもかかわらず、バッチによる差異が存在することを発見した。所望の微結晶懸濁液を得るためには、上記モル比が必須であるため、この比の差異は、薬学的製剤中のテベレリクスの生物学的利用能に影響を及ぼしうる。そのため、製造によって提供されるテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を頼りにできることは、医療従事者および他の使用者にとって必須である。
【0008】
WO2003/022243のテベレリクス組成物による別の問題は、この組成物が、例えば冷蔵および室温における保管中に安定ではなく、したがって、このような条件下では、テベレリクスが比較的短い貯蔵寿命を有することである。
【0009】
凍結乾燥(冷凍乾燥)は、医薬品の安定性を改善するために広く用いられる方法であり、WO2003/022243はテベレリクスの冷凍乾燥および凍結乾燥に言及しているが、この文書は、「材料を一晩、冷凍乾燥させる」のような一般的な方法における技法、および他の同様の記載の一般的な記述に言及しているに過ぎず、テベレリクス-TFAの凍結乾燥に必要な具体的要件を開示していない。
【発明の概要】
【0010】
テベレリクス-TFAは、水中では非常に低い溶解度を有し、凍結乾燥方法を行うことができる溶液を準備するためには、テベレリクス-TFAを溶解させなければならない。しかしながら、これは、強酸、例えば濃酸中でのみ達成することができる。溶媒としての強酸の使用は、冷凍乾燥方法へのさらなる注意が必要となるだけでなく、溶媒を冷凍および濃縮するために低温も必要となるが、この溶媒はコンデンサーを容易に回避することができ、例えば真空ポンプへの損害をもたらすことになる。したがって、装置への損害を防止するためには、専用の凍結乾燥装置が必要であり、凍結乾燥方法全体の費用に上乗せされる。
【0011】
さらに、不揮発性化合物は、関係する活性成分、すなわちテベレリクスとともに濃縮するであろうから、凍結乾燥を開始する前、試料のすべての不揮発性化合物を注意深く検討することは、非常に重要である。不揮発性の酸または塩基は、極端なpHを生じる場合があり、塩の存在は、試料を再可溶化した際に、非常に高いイオン強度をもたらす場合がある。そのため、得られる凍結乾燥物は、最後には残留酸を含み、意図する使用への有害作用を有するであろうから、テベレリクス組成物を凍結乾燥させる場合、特別な注意を払うことは必須である。復元されたテベレリクス-TFA凍結乾燥物を、例えば、皮下および/または筋肉内注射によって、安全に患者に投与できることを確実にするためには、凍結乾燥物中のすべての溶媒を除去することが重要であるため、このことは、凍結乾燥方法にさらなる複雑さを加える。
【0012】
最後に、テベレリクス-TFA溶液の粘性は、滅菌フィルターに目詰まりを生じ、さらには滅菌プロセスは労力を要し、費用がかさむものになる。
【0013】
したがって、長い貯蔵寿命を有する、安定な滅菌されたテベレリクス-TFA凍結乾燥物を製造する新しい方法を開発する需要が存在する。
【0014】
そのため、テベレリクス-TFAを溶解させるための強有機溶媒の使用が排除された、単純かつ効率的な、テベレリクス-TFA凍結乾燥物を提供するための新規凍結乾燥方法を提供することが、本発明の第1の態様であり、
滅菌テベレリクス-TFA凍結乾燥物を提供するための、濾過滅菌工程を必要としない凍結乾燥方法を提供することが、本発明による第2の態様であり、
従来公知のものよりも高いテベレリクス-TFA濃度を有するテベレリクス-TFA凍結乾燥物を提供することが、本発明による第3の態様であり、
水性再懸濁液体に容易に再懸濁させることができ、それによって、均一な(homogen)水性テベレリクス-TFA製剤を提供することができるテベレリクス-TFA凍結乾燥物を提供することが、本発明による第4の態様であり、
水性テベレリクス-TFA製剤中のペプチドと対イオンとのモル比を調節する方法を提供することが、本発明による第5の態様である。
【0015】
これらの態様およびさらなる態様は、テベレリクス-TFA凍結乾燥物を調製するための凍結乾燥方法であって、以下の工程:
a)ゲルを形成することなく、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液を準備するのに十分なモル比で、テベレリクスとトリフルオロアセテートとを混合することによって、凍結乾燥懸濁液を準備する工程、および
b)凍結乾燥懸濁液を凍結乾燥させることによって、テベレリクス-TFA凍結乾燥物を得る工程
を含む凍結乾燥方法を提供することにより、本発明によって達成される。
【0016】
本発明による凍結乾燥方法を用いることによって、複数の利点が得られる。まず第1に、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液においては、溶媒に溶解したテベレリクス-TFAの濃度(約10mg/ml)と比較して、高濃度のテベレリクス-TFA(約100mg/ml)が得られるため、同じ量のテベレリクス-TFAを得るために、有意に小さい凍結乾燥体積が必要となる。これによって、従来の凍結乾燥方法よりも高速で、より費用効率が良い凍結乾燥工程が実施されうることが確保される。
【0017】
第2に、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液が凍結乾燥されるため、テベレリクス-TFAを溶解させるために強酸を用いる必要性が排除される。したがって、本発明による凍結乾燥方法は、高速かつ単純な方法で、「純粋な」、すなわち、組成物中にいずれの望ましくない残留物も含まないテベレリクス-TFA凍結乾燥物を得ることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1a-1g】懸濁液A1~G1の顕微鏡写真である。
【
図2】異なるモル比における、可溶型および不溶型テベレリクスの濃度を示すグラフである。
【
図3】可溶型対不溶型テベレリクスの割合を示すグラフである。
【
図4】異なるTFA:テベレリクスのモル比における、1時間時点のテベレリクスの血漿濃度を示すグラフである。
【
図5】異なるTFAとテベレリクスとのモル比における、テベレリクスTFAの投与についての全選択平均PKプロファイルを示すグラフである。
【
図6】40℃で保管中の溶液において、異なるTFAとテベレリクスとのモル比における、溶液中のテベレリクスTFAの不純物の増加を示すグラフである。
【
図7】40℃で1箇月保管中の溶液において、TFAとテベレリクスとの異なるモル比における、10mg/mL溶液中のテベレリクスTFAの不純物の増加を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の発明者は、1:2.1を下回るモル比はゲルの形成を生じることになるので、ゲルを形成することなく、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液を得るためには、テベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートとのモル比が、少なくとも1:2.1でなければならないことを見出した。モル比が1:2.2を上回る場合も、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液は均一である。
【0020】
本発明の内容の範囲内で、「テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比」という用語は、テベレリクスとトリフルオロアセテートとの間のモルによる関係を指し、モル比の第1の数は、組成物中のテベレリクスのモル含有量であり、第2の数は、組成物中のTFAのモル含有量を指す。例えば、1:2.2のモル比とは、組成物中のテベレリクス1molにつき、この組成物が2.2molのTFAを含むことを意味し、少なくとも1:2.2のモル比とは、組成物中のテベレリクス1モルにつき、組成物が少なくとも2.2molのトリフルオロアセテート(TFA)を含むことを意味する。
【0021】
得られたテベレリクス-TFA凍結乾燥物は保管され、例えば注射可能な薬学的製剤として用いられうる、水性テベレリクス-TFA製剤を調製するために、水または別の好適な水溶液によって復元されうる。
【0022】
しかしながら、より安定なテベレリクス-TFA凍結乾燥物を得るために、または意図する使用に応じた特定の上記モル比を提供できるように、モル比を低下させること、すなわち、この組成物中のTFAの含有量を減少させることが望ましく、そのため、工程a)は、以下の追加の工程:
a’) 工程a)の微結晶テベレリクス-TFA懸濁液を遠心分離または濾過することによって、テベレリクス-TFAペレットまたはテベレリクス-TFA濾過ケーキを準備する工程、および
a”) このテベレリクス-TFAペレットまたはこのテベレリクス-TFA濾過ケーキを、水性懸濁溶液中に懸濁させる工程
を含む。
【0023】
凍結乾燥懸濁液は、遠心分離工程または濾過工程を伴わず、直接凍結乾燥させることができるが、懸濁させ、次いで、凍結乾燥工程に供するのは、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液を遠心分離または濾過した後に得られる、テベレリクス-TFAペレットまたはテベレリクス-TFA濾過ケーキであることが好ましい。
【0024】
本発明の発明者は、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液が1:2.1を上回るモル比(ゲルを得ないモル比である)を有する場合、遠心分離後のペレットまたは濾過ケーキにおけるモル比は、1:1.70と1:1.85との間のモル比に減少するであろうことを見出した。例えば、発明者は、テベレリクスとトリフルオロアセテートとを1:2.2のモル比で混合し、75mg/mlのペプチド濃度を有する場合、遠心分離後のペレットは、約1:1.77のモル比を有することを見出した。
【0025】
したがって、本発明による凍結乾燥方法の遠心分離/濾過および懸濁工程は、得られるテベレリクス-TFA凍結乾燥物が、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液のモル比よりも低い所定のモル比を有することになり、それによって、凍結乾燥物を復元する際に、モル比を任意の所望のモル比(初期モル比を上回る)に、確実に調節することができるという利点を提供する。さらに、凍結乾燥物は、含有量が減少した対イオンのトリフルオロアセテートを有するため、凍結乾燥物におけるpH値は、テベレリクスに起こりうるアミド分解の減少を確保する値に維持され、それによって、保管中のテベレリクスの安定性が上昇する。
【0026】
凍結乾燥が起こる体積を減少させると同時に、得られる凍結乾燥物中のテベレリクスを確実に高濃度にするため、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液は、一実施形態では、ペレットが確実に形成されるのに十分な条件下で、遠心分離を行う。次いで、ペレットを、比較的少量の水性懸濁溶液中に懸濁させるが、このとき、凍結乾燥懸濁液は懸濁ペレットである。
【0027】
しかしながら、本発明の発明者は、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液を濾過することによって、テベレリクス-TFA濾過ケーキを得る場合(この懸濁液を遠心分離して、テベレリクス-TFAペレットを準備する代わりに)、水性テベレリクスおよび過剰なTFAはフィルターを通過するであろうこと、ならびに固体テベレリクス(微結晶)のみが、低いモル比、すなわち、1:1.70と1:1.85との間のモル比で、フィルター上に補収されるであろうことを見出した。したがって、テベレリクス-TFAケーキを準備するための濾過工程の使用は、微結晶テベレリクス-TFA懸濁液由来の微結晶から本質的になる凍結乾燥生成物を提供し、ひいては、改善された最終的なテベレリクス-TFA凍結乾燥物を提供する。
【0028】
テベレリクス-TFA濾過ケーキを得るためには、任意の主な種類の濾過技法を用いてよいが、好適なフィルター、例えば0.45~0.8μmの膜フィルターを用いた、圧力フィルターまたは真空フィルター技法を用いることが好ましく、このようなフィルターは、粘性テベレリクス-TFA懸濁液を通過させることと、効率的に微結晶を引き止めることの両方ができる。
【0029】
発明者はさらに、まずペレットまたは濾過ケーキを準備し、次いで、このペレットまたはケーキを水性懸濁溶液中に懸濁させることによって、テベレリクス-TFAを溶解させるために強酸を用いる必要性が、驚くべきことに排除されることを見出した。ペレットまたは濾過ケーキを懸濁させるための水性懸濁溶液は、好ましい実施形態では、水またはマンニトール溶液、例えば5%マンニトール溶液のいずれかであってよく、したがって、少量の溶媒の残留物が凍結乾燥物中に残存している場合、残留物は、凍結乾燥物が薬学的製剤に用いられる能力に、影響を及ぼさないであろう。
【0030】
微結晶テベレリクス-TFA懸濁液を遠心分離または濾過工程に供することとは関係なく、工程a)における微結晶テベレリクス-TFA懸濁液は、水中、例えば生理的水中、またはトリフルオロ酢酸溶液中のいずれかで作製することが好ましい。しかしながら、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、少なくとも1:2.2である場合、テベレリクス-TFA懸濁液を水中で作製することが好ましく、このモル比が1:2.2を下回る場合、少なくとも1:2.2のモル比を得るため、トリフルオロ酢酸を懸濁液に加えるために、トリフルオロ酢酸溶液中で懸濁液を作製することが好ましい。
【0031】
トリフルオロアセテートおよびテベレリクスのモル質量は、M
TFA=114g/molおよびM
Tev=1459g/molと計算されており、したがって、懸濁液中のトリフルオロアセテートまたはテベレリクスのモル比および/または含有量は、次の式:
を用いて計算することができる。
【0032】
テベレリクス-TFA凍結乾燥物中に高いテベレリクス濃度を確保するため、工程a)における微結晶テベレリクス-TFA懸濁液中のテベレリクス-TFAの濃度は、少なくとも100mg/mlであることが好ましい。懸濁液をその後、遠心分離する場合、高いテベレリクス濃度ではさらに、より少ないペプチドが上清とともに廃棄されるであろうという利点を有する。
【0033】
凍結乾燥は、当技術分野において周知の方法であり、この方法は、本出願において詳細には論じない。しかしながら、簡単に述べれば、試料、すなわち凍結乾燥懸濁液(微結晶テベレリクス-TFA懸濁液、または懸濁ペレットもしくは濾過ケーキのいずれかでありうる)を、1つまたは複数のガラス容器に移し、例えば、容器の外側を液体窒素に浸漬させること、または電気を動力源とする冷凍機を用いることによって、可能な限り迅速に冷凍する。さらに、任意選択で、試料を大きな表面積に広げて冷凍するために、容器を回転させてもよい。次いで、試料を有するガラス容器を、好ましくは、冷却コイルも含有する、極端な低圧空間(真空)に配置する。冷却コイルは、コンデンサーとして機能する。通例、コイルの温度は-50℃よりも低い。冷凍試料の揮発化合物は、真空中でエバポレートされる(昇華する)ことになる。エバポレーション(この場合は昇華)のプロセスは、熱を吸収する。この効果によって、試料の冷凍が保たれる。エバポレートされた分子は、冷却コイルによって気相から捕獲され、冷却コイル上に冷凍層を形成する。このプロセスの終了時に、テベレリクス-TFAは、固体形態で容器内に残存する。この方法は、テベレリクスの劣化をもたらさないため、本発明による凍結乾燥方法は、テベレリクスを濃縮するためのみに用いられうるのではなく、長期保存の間、このペプチドを保存するためにも用いられうる。
【0034】
当業者は、本発明の観点において、工程a)の凍結乾燥懸濁液を凍結乾燥プロセスに供する代わりに、粉末生成物および/または粉末様生成物を得るため、本発明による修正された方法において、この懸濁液を、噴霧乾燥プロセスまたは同様の乾燥プロセスに供してもよいことを理解するであろう。
【0035】
凍結乾燥は、水中またはマンニトール中で作製した凍結乾燥懸濁液において行うため、この懸濁液は、いずれの有害な不揮発性化合物、例えば、極端なpH値を生じうる不揮発性の酸、および非常に高いイオン強度をもたらしうる塩も含まない。したがって、得られる凍結乾燥物は、いずれの望ましくない化合物も含有せず、再懸濁させた水性テベレリクス-TFA懸濁液を、そのような治療が必要な患者に、安全に投与することができる。
【0036】
大部分の従来の凍結乾燥では、初めに、冷凍乾燥させる溶液を無菌に濾過して、いずれの外部固体および微生物も除去する。しかしながら、テベレリクス-TFA溶液の粘性は、滅菌フィルターに目詰まりを生じるため、このような滅菌工程は、難儀であるとともに費用がかさむ。本発明の発明者は、本発明による方法によって得られるテベレリクス-TFA凍結乾燥物を、ガンマ線滅菌に供することによって、濾過滅菌の要件を排除してもよいことを見出した。さらに、無菌条件下、例えばクリーンルーム内で作業することの要件も排除される。
【0037】
通常、組成物の安定性を維持するため、凍結乾燥物は、実質的に乾燥状態で保管される。しかしながら、本発明の発明者は、本発明によるテベレリクス-TFA凍結乾燥物中に少量の水が、すなわち、テベレリクス-TFA凍結乾燥物の総重量を基準として、0.3重量%から5重量%の間、好ましくは1~2重量%前後の量で存在する場合、取り扱い、復元、ひいては使用がより容易な、改善されたテベレリクス-TFA凍結乾燥物が提供されることを見出した。
【0038】
理論に束縛されるものではないが、その水の含有量は、テベレリクスの粒子同士の間に高い静電気力をもたらす場合があり、これは、テベレリクス-TFA凍結乾燥物を取り扱うとき、例えば、凍結乾燥物を、バイアルまたはシリンジチャンバーに充填する場合に重要である。
【0039】
好ましい実施形態では、水は、テベレリクス-TFA凍結乾燥物の総重量を基準として、1重量%から2重量%の間、好ましくは1.5重量%の量で、テベレリクス-TFA凍結乾燥物中に存在し、これは、化学的完全性を保持し、安定な組成物を提供するテベレリクス-TFA凍結乾燥物を提供するであろう。
【0040】
本発明が提供する安定性は、室温におけるより長い貯蔵寿命を可能にし、テベレリクス-TFA凍結乾燥物は、例えば滅菌後にも保管されうる。復元可能なテベレリクス-TFA凍結乾燥物は、後の使用のために、包装して保管することができる(例えば、シリンジまたはバイアル中に)。
【0041】
テベレリクスの乾燥粒子同士の間の静電気力に起因して、粒子が装置等の表面に貼り付くことになるため、テベレリクス-TFA凍結乾燥物を、バイアル、容器、またはシリンジチャンバーに移すことが困難な場合がある。したがって、懸濁ペレットまたは懸濁濾過ケーキを凍結乾燥に供する前に、すなわち乾燥させる前に、この懸濁ペレット/濾過ケーキを、すなわち、水性状態にある時点で、懸濁ペレットまたは懸濁濾過ケーキが凍結乾燥に供されうるバイアルまたは容器に入れるか、または他の方法で移すかのいずれかが好ましい。このバイアルまたは容器も、得られるテベレリクス-TFA凍結乾燥物を保管するために用いてもよいことは、さらに好ましい。
【0042】
好ましい実施形態では、バイアルまたは容器は、単位投与量の凍結乾燥後のテベレリクス-TFA凍結乾燥物を含有するであろう。本発明の文脈の範囲内では、「単位投与量」という用語は、単回投与量において患者に投与されるテベレリクスの量である。
【0043】
本発明はまた、テベレリクス-TFA凍結乾燥物を復元する方法であって、水性復元溶液をテベレリクス-TFA凍結乾燥物に加えること、およびトリフルオロアセテートを加えることによって、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比のモル比を調節することを含む方法に関する。この方法は、ゲルを形成することなく、流動的で乳状のテベレリクス-TFAの微結晶水性懸濁液を得るための、正確な所望のモル比を、効果的かつ単純に達成するであろう。復元後のテベレリクスとTFAとのモル比は、直接用いてもよい水性薬学的製剤を提供するであろうため、すなわち、製剤をすぐに使用できるため、十分な量のトリフルオロアセテートを加えることによって、少なくとも1:2.1、好ましくは少なくとも1:2.2、さらにより好ましくは少なくとも1:2.4に調節することが好ましい。
【0044】
トリフルオロアセテート含有量は、凍結乾燥物を復元した後に加え/調節してもよいが、好ましい実施形態では、本発明によるテベレリクス-TFA凍結乾燥物を復元する高速で効率的な方法を、トリフルオロアセテートが確保するため、トリフルオロアセテートは、水性復元溶液の一部である。所望により、水性復元溶液は、マンニトールおよび/または薬学的に許容される添加物などの等張剤を含有してもよい。
【0045】
加えるトリフルオロアセテートの適正な量は、当業者には容易に計算されうる。例えば、テベレリクス-TFA凍結乾燥物が1:1.77のモル比を有する場合、かつ最終的な水性テベレリクス-TFA製剤に1:2.2のモル比を所望する場合、組成物中に存在するテベレリクス1mol当たり0.43molのTFAを、復元プロセス中に加えなければならない。
【0046】
本発明の発明者はさらに、最終的な水性薬学的製剤中のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、少なくとも1:2.1である場合、製剤は、可溶型テベレリクスと不溶型テベレリクスとの両方を含み、それによって、独特なテベレリクスの生物学的利用能を提供することを見出した。
【0047】
理論に束縛されるものではないが、可溶型テベレリクスは水溶液の形態であり、いくつかの状況ではゲルである。ゲルの存在によって、いずれの自由な水性テベレリクスも阻害されることとなり、そのため、即時の放出は防止されるか、少なくとも減少する。不溶型テベレリクスは、微結晶の形態である。この微結晶は、ゲル形成を防止することとなり、そのため、水性テベレリクスを「開放」する。時間が経つにつれて、本発明による組成物中のTFAは、体に吸収されて比率が低下することとなり、その後、微結晶がゲルとなって、徐放性デポを形成する。したがって、非ゲル-可溶型テベレリクスは直ちに利用可能であって、ほぼ即時の作用の発生を提供し、ゲル-可溶型および不溶型テベレリクス(微結晶)は、テベレリクスの持続放出を提供することを支援することとなる。
【0048】
したがって、本発明によるテベレリクス-TFA凍結乾燥物を用いる場合、テベレリクス-TFA凍結乾燥物に加えるトリフルオロアセテートの量を単純に調節することにより、注射製剤中の不溶型テベレリクスと可溶型テベレリクスとの比が変化することによって、テベレリクスの放出プロファイルを調節することができる。
【0049】
テベレリクスは、酸に接触して配置される場合、脱アミド化するため、保管中に、望ましくない分解生成物(不純物)が、組成物/製剤中に現れるであろう。この不純物は、テベレリクス組成物/製剤の品質、安全性、および有効性に影響を及ぼす場合があり、それによって、潜在的に深刻な健康への危険性を生じる。
【0050】
本発明の発明者は、テベレリクスとTFAとのモル比が1:2.8以下である場合、すなわち、テベレリクス1mol当たりのTFAのモル含有量が2.8以下である場合、不純物のレベルが、許容されるレベルに保たれることを見出した。したがって、本発明によるテベレリクス-TFA凍結乾燥物中の最適なモル比は、好ましくは、1:2.2(または1:2.4)から1:2.8の間である。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明はまた、単位投与量のテベレリクスを充填した第1の包装と、少なくとも1:2.1、好ましくは少なくとも1:2.2、さらにより好ましくは約1:2.4以上の所望のモル比であって、任意選択で1:2.8以下のモル比を得るのに十分な量のTFAを含む復元溶液を充填した第2の包装とを含むキットに関する。この第1の包装は、例えばシリンジであってもよく、テベレリクスとTFAとの適正なモル比を確実に得るために、第2の包装は、このシリンジと物理的に接続されていてもよい。互いに物理的に接続された第1および第2の包装の一例として、凍結乾燥生成物のための従来のデュアルチャンバーシリンジを挙げることができる。このようなデュアルチャンバーシリンジは、当技術分野において周知である。
【0052】
一実施形態では、このキットは、少なくとも1:2.1、好ましくは少なくとも1:2.2、さらにより好ましくは約1:2.4以上、かつ任意選択で、1:2.8以下のテベレリクスと対イオンとのモル比を有する、最終的な流動的で乳状の微結晶水性テベレリクス-TFAの懸濁液を提供するように手配される。好ましくは、テベレリクスの濃度は、30mg/mlから約100mg/mlの間、さらにより好ましくは45mg/mlから90mg/mlの間、例えば約75mg/mlである。テベレリクスの濃度は、いくつかの状況では、約100mg/mlよりも高くてもよい。体積は、0.4mlから1.6mlの間、例えば約1.2mlでありうる。この濃度および体積において、皮下および/または筋肉内に与えられる注射は、穏やかな注射部位反応のみを提供することが実証されている。
【0053】
本発明において提供する凍結乾燥物および製剤は、製造に費用がかさまず、使用の容易さに起因して、非常に単純な投与体制(regime)を提供する。
【実施例】
【0054】
テベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートとのモル比の影響を確かめるために、複数の試験を実行した。
【0055】
実施例1:異なるモル比を有するテベレリクス-TFA組成物の調製
低いTFA含有量を有するテベレリクスの特別製造バッチ、バッチAを入手した。このバッチの特性を、表1に示す。
【0056】
75mgのテベレリクスを含有する組成物Aを所望する場合、次のように計算して、88.28mgのバッチAを用いなければならない。
【0057】
次いで、組成物A中のテベレリクスとTFAとのモル比を計算することができる。
【0058】
88.28mgのバッチA中のTFA含有量は、88.28mg×10.9/100(%TFA含有量)=9.62mgと計算することができる。
【0059】
TFAのモル質量MTFAは114g/molであり、テベレリクスのモル質量MTEVは1459g/molであるため、75mgのテベレリクス組成物中のTFAのモル濃度は0.084mmol、テベレリクスのモル濃度は0.051mmolと計算することができる。したがって、組成物A中のテベレリクスとTFAとのモル比は、1:1.64である。
【0060】
異なるモル比を有する、複数の異なる水性テベレリクス-TFA組成物を調製するために、44.14mg+5%(41.93~46.35mg)の組成物Aを含有する21個の試料を、マイクロピペットによって水溶液を加えることができる蓋を有する、2mlガラスチューブに正確に秤量した。
【0061】
5%マンニトール中にTFAを含有する7種のTFA溶液を、Acros Organics(Geel,Belgium)から入手したTFA組成物を用いて調製した。このTFA組成物は、99%純粋であり、1.535g/mlの密度を有していた。各溶液を表2に示す。
【0062】
マイクロピペットを用いて、44.14mg+5%(41.93~46.35mg)の組成物Aを含有する21個のガラスチューブの蓋を通じて、0.5mlの上の溶液のそれぞれを加えることによって、各水性テベレリクス-TFA組成物を調製し、すなわち、同じモル比を有する3つの水性テベレリクス-TFA組成物を調製した。ボルテックスを用いて混合物を1分間撹拌し、所望されるテベレリクス-TFAの流動的で乳状の微結晶均一水性懸濁液を得たか、または代わりにゲルが形成されたかを確かめるために、溶液を10分間、視覚的に観察した。結果を下の表3にまとめる。
【0063】
第1の試験チューブ内の水性テベレリクス-TFA組成物の微結晶内容物を、Realux(France)によって供給された偏光顕微鏡でさらに観察した。それぞれのモル比についての結果を、
図1a~
図1gに示す。これらの観察から、1:1.85以下のモル比については、微結晶形成が観察されないことは明らかであり、したがって、所望の微結晶形成が開始されるためには、テベレリクスと対イオンのTFAとのモル比が、少なくとも1:2.1を上回らなければならない。
【0064】
さらに、表3から明白であるように、テベレリクス-TFAの均一懸濁液は、モル割り当て(ration)が1:2.1を上回るまで得られなかった。したがって、そのために、凍結乾燥懸濁液を準備するために用いる微結晶テベレリクス-TFA懸濁液と;復元水性テベレリクス-TFA懸濁液との両方におけるモル比は、1:2.1を上回り、好ましくは少なくとも1:2.2のようにさらに高く、さらにより好ましくは少なくとも1:2.4であることが好ましい。
【0065】
実施例2:モル比に対する可溶型テベレリクスおよび不溶型テベレリクスの含有量
各試験チューブにおける、不溶型テベレリクスに対する可溶型テベレリクスの含有量を決定するために、それぞれのモル比の第2および第3の試験チューブを、10~20分間、10,000rpmで遠心分離し、上清およびペレット中のテベレリクスの濃度を、HPLC分析を用いて測定した。
【0066】
HPLC分析についてのクロマトグラフィー条件を、表4に示す。
【0067】
59.9mgのテベレリクスアセテート(バッチ080113)を、メスフラスコに秤量し、水:アセトニトリル=65:35(v/v)により体積を100mlまで満たすことによって、2つの100%標準を調製した。10mlのこの溶液を、同じ溶媒によって50mlまで満たし、0.1mg/mlの濃度のテベレリクスペプチドを準備した。
【0068】
2mlの100%標準を、同じ溶媒によって200mlに希釈することによって、1%標準溶液を調製し、0.001mg/mlの濃度のテベレリクスペプチドを準備した。
【0069】
2つの100%標準を用いて、内部標準法を行った。1%標準を用いて、応答の直線性を確認した。100%標準による回収は、区間95%~105%になければならない。
【0070】
遠心分離後に得たペレットを、水:アセトニトリル=65:35(v/v)に可溶化し、同じ溶媒によって、体積を100mLまで満たした。この溶液を、5倍に希釈し(50mL中の10mL)、HPLCを実行した。
【0071】
上清をメスフラスコに移し、同じ溶媒、すなわち、水:アセトニトリル=65:35(v/v)によって、体積を100mLまで満たした。この溶液を、5倍に希釈し(50mL中の10mL)、HPLCを実行した。HPLC分析の結果を、表5に示す。
【0072】
それぞれのモル比の平均濃度を計算したので、表6を参照されたい。結果を
図2および3に図示する。
【0073】
表5および6、ならびに
図2および3から明白であるように、テベレリクスに対するトリフルオロアセテートの量が増加すると、不溶型テベレリクスの度合いが増加し、したがって、1:2.1のモル比においては、薬学的製剤の約50%は不溶型テベレリクスからなり、1:2.36(約1:2.4)のモル比においては、薬学的製剤中の不溶型テベレリクスの量は約82%である。
【0074】
実施例3:モル比に対する血漿濃度
テベレリクスの血漿濃度に対するモル比の関連性を評価するため、異なるモル比を含有する5つのガラスバイアルを、実施例1に論じたように調製し、表7に示す水性テベレリクス-TFA組成物を含む試験チューブを準備した。
【0075】
それぞれのモル比に対して、5匹のラットを試験した。25mm 21Gルアー6%レギュラーベベル針(Terumo(Leuven,Belgium)から入手可能)、および100μlルアースリップシリンジ(Hamilton Company(Reno,USA)から入手可能)を用いて、それぞれのラットに60μlの各溶液を注射した。投与の前、次いで、投与後1時間、6時間、24時間、48時間、7日目、10日目、14日目、21日目、および28日目に、血漿濃度を測定した。
【0076】
それぞれのラット個体への注射後のテベレリクスのピーク血漿濃度Cmaxを、表8に示し、
図4に図示する。
【0077】
これらの結果から明らかであるように、テベレリクスのCmaxは、1:2.1のモル比までは上昇し、その後、血漿濃度は実質的に安定する。
【0078】
定期的な間隔で血液試料を採取することによって、4週間の期間にわたる血漿濃度も測定した。
【0079】
4週間の期間における平均血漿レベルを
図5に示すが、テベレリクスの放出プロファイルが、モル比に依存することは明らかである。例えば、1:2.1のモル比を有する懸濁液によって、高いテベレリクスの血漿濃度が示される。したがって、復元の際にテベレリクス-TFA凍結乾燥物に加えるトリフルオロアセテートの量を単純に調節することにより、薬学的製剤中のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を変化させることによって、テベレリクスの放出プロファイルを調節することができる。
【0080】
臨床的には、これは、患者の個体群の要件、例えば、異なる適応症、年齢、および/または性別に関して、療法を最適化する可能性がある。ある患者群は、高濃度の可溶型テベレリクスが要求される、作用の即時発生を必要としうるが、別の群は、低濃度の可溶型テベレリクスが要求される、テベレリクスの持続放出を必要としうる。同様に、異なる段階の患者の治療においては、異なるモル比を有する、異なる薬学的製剤が投与されうる。さらに、異なる患者群の特定の必要性に合わせてモル比を調節できることによって、患者の受容および療法の適合性が上昇するであろう。
【0081】
実施例4:モル比に対するテベレリクスの安定性
テベレリクスの安定性に関するテベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートとのモル比の影響を確かめるために、次の試験を実行した。
【0082】
テベレリクスとTFAとの異なるモル比(低1:1.7;中位1:2.16;高1:2.8;および超高1:4.0)を有する、4種のバッチのテベレリクスTFA溶液を、2つの濃度、10mg/mL(ベーステベレリクスとして表す)および1mg/mL(ベーステベレリクスとして表す)において調製した。
【0083】
乾燥粉末として供給される、復元可能なテベレリクスTFA組成物を入手した。このバッチの特性を、表9に示す。
【0084】
【0085】
8つのバッチ:一方は、10mg/mlの4種のモル比のそれぞれ、一方は、1mg/mlの4種のモル比のそれぞれを、以下のように調製した。
【0086】
10mg/mLにおける低モル比(1:1.7)
1. 0.312gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、注射用水によって復元して、懸濁液を3.0mLに調合し、104mg/mLの均一ミルク懸濁液を形成した。この濃度では、テベレリクスの96%が固体テベレリクスを形成することを、先行調査が実証しており、そのため、遠心分離後、およそ300mgのテベレリクスが、固体テベレリクスとして回収されることになる。
2. 調製物を、4℃において、10,000rpm(8,500g)で10分間、直ちに遠心分離した。
3. 遠心分離された材料の上清を廃棄した。固体テベレリクスが、およそ1:1.7のテベレリクスとTFAとのモル比を有することを、先行調査が実証している。
4. 遠心分離ペレットを、注射用水によって再懸濁させて、30mLに調合し、およそ10mg/mLの、およそ1:1.7のモル比の溶液を形成した。
【0087】
10mg/mLにおける中位モル比(Mid-molar range ratio)(1:2.16)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で注射用水によって復元して、10.0mL体積の溶液を作製し、10mg/mLにおける、1:2.16のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0088】
10mg/mLにおける高モル比(1:2.8)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0097M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. 溶液を注射用水によって10.0mLに調合して、10mg/mLにおける、1:2.8のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0089】
10mg/mLにおける超高モル比(1:4.0)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0252M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. 溶液を注射用水によって10.0mLに調合して、10mg/mLにおける、1:4.0のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0090】
1mg/mLにおける低モル比(1:1.7)
1. 0.312gのテベレリクスTFA(正味テベレリクス)を、注射用水によって復元して、懸濁液を3.0mLに調合し、104mg/mLの均一ミルク懸濁液を形成した。
2. 調製物を、4℃において、10,000rpm(8,500g)で10分間、直ちに遠心分離した。
3. 遠心分離された材料の上清を廃棄した。
3. 遠心分離ペレットを、注射用水中に再懸濁させて(最終体積300mL)、およそ1mg/mLの、およそ1:1.7のテベレリクスとTFAとのモル比の溶液を調合した。
4. 10.0mLを、10mL三角フラスコに移した。
【0091】
1mg/mLにおける中位モル比(Mid-molar range ratio)(1:2.16)
1. 注射用水中テベレリクスTFAの1mg/mL溶液を調製した。
【0092】
1mg/mLにおける高モル比(1:2.8)
1. 0.010gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.001M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. WFIによって、体積を10mLまで満たした。
【0093】
1mg/mLにおける超高モル比(1:4.0)
1. 0.010gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0205M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. WFIによって、体積を10mLまで満たした。
【0094】
すべての溶液を、テベレリクス純度についての分析の前に、研究室温度(20℃)に保った。
【0095】
溶液それぞれから、試料を2回採取し、従来のRP-HPLC方法を用いて、テベレリクス純度について分析した。染色(chromatic)条件は、表10に示した通りである。
【0096】
調製後、すなわち時間0における溶液中のテベレリクスの純度を、表11に示す。
【0097】
経時的な安定性を評価するために、+40℃、75%の相対湿度のチャンバー内で、各溶液を共栓付きガラス三角フラスコに保管した。
【0098】
10mg/mL溶液については1箇月後、1mg/mL溶液については2週間後、既に記載した方法を用いて、テベレリクス純度分析を繰り返した。該当期間の後の溶液の純度を、下の表12に提示する。
【0099】
安定性の結果を
図6および7に示し、保管中の不純物のパーセンテージの増加を、懸濁液のモル比によって図示する。図は、1モルのテベレリクス当たりのTFAのmol含有量を示すことに留意されたい。
【0100】
これらの図から、溶媒中のより高濃度のトリフルオロアセテートは、有意により高濃度の不純物をもたらすことは明らかであり、したがって、テベレリクスが漸増濃度の酸(トリフルオロアセテート)と接触して配置される場合、望ましくない分解生成物(不純物)が少量現れ、製剤の品質、安全性、および有効性に潜在的に影響を及ぼす場合があり、それによって、潜在的に深刻な健康への危険性を生じることを、結果が証拠立てている。したがって、安定なテベレリクス-TFA凍結乾燥物を得るためには、低濃度/含有量のトリフルオロアセテートを有する組成物を準備すること、すなわち、テベレリクス1molについてのトリフルオロアセテートのモル含有量を、可能な限り低く保つことが重要である。
【0101】
図6および7から、懸濁液中のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が1:2.8を下回る(すなわち、1molのテベレリクス対2.8mol以下のTFA)場合、不純物、すなわち、例えば脱アミド化によって生じる、望ましくない分解生成物のレベルは、許容されるレベルに保たれることが見て取れる。
【0102】
これらの図から、テベレリクスの濃度もまた、不純物のレベルに関係することも明らかである。しかしながら、注射体積を減少させるためには、懸濁液が、少なくとも10mg/ml、好ましくは少なくとも30mg/mlのテベレリクスの濃度を含むことが関係し、したがって、最終的な流動的で乳状の水性懸濁液中のテベレリクスの濃度を単純に低下させることは、現実的には不可能である。しかしながら、低レベルの酸はより安定な生成物を提供することとなるため、この因子によって、凍結乾燥物中の酸(トリフルオロアセテート)の含有量は、保管中にはいっそうより重要となる。
【0103】
本発明において提供する組成物および製剤は、製造に費用がかさまず、使用の容易さに起因して、非常に単純な投与体制(regime)も提供する。
【0104】
上の原理の修正および組み合わせ、ならびにその組み合わせは、本発明の範囲内で予見される。