(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】バスキュラアクセス
(51)【国際特許分類】
A61M 39/06 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
A61M39/06 120
(21)【出願番号】P 2021038861
(22)【出願日】2021-03-11
(62)【分割の表示】P 2017518818の分割
【原出願日】2015-10-02
【審査請求日】2021-04-08
(32)【優先日】2014-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファントゥッツィ グレン
(72)【発明者】
【氏名】ムラーズ ディオン
(72)【発明者】
【氏名】ラエズ ダン
(72)【発明者】
【氏名】ブルゾー デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】マヨ スー
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特表平9-501594(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0097386(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-1337008(KR,A)
【文献】特表2005-534370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の弁を備えるシステムであって、
上記少なくとも2個の弁が、それぞれ患者身体内バスキュラアクセスを提供する
グラフトシステムで使用される
ように構成され、かつそれぞれ自膜を貫通する通路及び脆化エリアのうち少なくとも一方を有していてその膜を通し医用デバイスを挿入しうる可撓膜が備わるハウジングと、嵌合先デバイスの開放端に挿入しうるよう構成されたイントロデューサシースと、を備え
、
上記少なくとも2個の弁のうちの一方の弁の上記イントロデューサシースが、上記少なくとも2個の弁のうちの他方の弁に対し連結可能である、
システム。
【請求項2】
請求項1
に記載の
システムであって、上記嵌合先デバイスがバスキュラグラフトである
システム。
【請求項3】
請求項1または2
に記載の
システムであって、その挿入先である上記嵌合先デバイスからの弁の除去が抑止されるよう上記イントロデューサシースの外面に少なくとも1個の保持構造が備わる
システム。
【請求項4】
請求項3
に記載の
システムであって、上記保持構造が傾斜面として形成されて
いるシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムであって、上記ハウジングに近づく方向に上記イントロデューサシースの外面から退いていくテーパが付された少なくとも1個の掛かりをさらに備えるシステム。
【請求項6】
請求項1から
5のうちいずれか一項
に記載の
システムであって、上記膜に加え上記ハウジングの少なくとも一部分が可撓素材で形成されている
システム。
【請求項7】
請求項
6に記載の
システムであって、上記可撓素材が弾性素材である
システム。
【請求項8】
請求項
6または
7に記載の
システムであって、径方向圧迫力に関し、上記イントロデューサシースが上記ハウジングのうち上記膜が所在する部分より硬い
システム。
【請求項9】
請求項1から
8のうちいずれか一項
に記載の
システムであって、上記ハウジングが円筒状である
システム。
【請求項10】
請求項1から
9のうちいずれか一項
に記載の
システムであって、上記イントロデューサシースの内径がそのイントロデューサシースの基端で減らない
システム。
【請求項11】
請求項
10に記載の
システムであって、上記イントロデューサシースの上記内径が上記イントロデューサシースの全長に亘り一定である
システム。
【請求項12】
請求項1から
11のうちいずれか一項
に記載の
システムであって、上記通路が、少なくとも上記膜の直径の一部分に沿い延びる
システム。
【請求項13】
請求項
12に記載の
システムであって、上記通路が、その膜の全直径に沿い延びる
システム。
【請求項14】
請求項
12または
13に記載の
システムであって、上記膜にある上記通路が、その膜を通り直径方向に延び且つ互いに交差する少なくとも2本のスリットを有する
システム。
【請求項15】
請求項1から
14のうちいずれか一項
に記載の
システムであって、上記膜が、自膜を貫通する孔を有する
システム。
【請求項16】
請求項1から
15のうちいずれか一項
に記載の
システムであって、
上記少なくとも2個の弁のそれぞれが径方向に沿い逆側にある2個のシームを有し、
上記2個のシームは、上記弁が自弁の長手方向に沿い破断して2個の半部になりうるよう、
上記弁の長手方向に沿い延び且つ所定の破断線を形成する
システム。
【請求項17】
請求項1から
16のうちいずれか一項
に記載の
システムであって、上記ハウジングが少なくとも1個のハンドルを有する
システム。
【請求項18】
請求項
17に記載の
システムであって、上記ハウジングが径方向に沿い逆側にある2個のハンドルを有し、そのハンドルが上記ハウジングから径方向外方に延びている
システム。
【請求項19】
請求項1から
18のうちいずれか一項
に記載の
システムであって、
上記少なくとも2個の弁のそれぞれが上記嵌合先デバイスと一体形成されている
システム。
【請求項20】
請求項
1から19
のうちのいずれか一項に記載のシステムであって、バスキュラグラフトの先端に縦続装着しうるよう、
上記少なくとも2個の弁のうち上記
一方の弁のイントロデューサシースが
上記他
方の
弁の先端に連結可能であるシステム。
【請求項21】
請求項
1から20
のいずれか一項に記載のシステムであって、上記少なくとも2個の弁のうち上記
一方の弁のイントロデューサシースが、上記他
方の弁のハウジング内に挿入しうるよう構成されているシステム。
【請求項22】
請求項
1から21のうちいずれか一項
に記載のシステムであって、上記少なくとも2個の弁それぞれが、中央孔を伴う膜を有し、その中央孔の直径及び/又は上記通路の寸法が、上記嵌合先デバイスに近づく方向に沿い弁からその次の弁へと増していくシステム。
【請求項23】
請求項
1から22のうちいずれか一項
に記載のシステムであって、上記少なくとも2個の弁のうち少なくとも1個のイントロデューサシースが、そのイントロデューサシースの直径に比し少なくとも10倍の長さを有するシステム。
【請求項24】
請求項
1から23のうちいずれか一項
に記載のシステムであって、クランプを少なくとも2個備え、それらクランプのうち少なくとも1個が、上記弁のうち1個のハウジング周りに配置しうるよう構成され、
上記クランプのうちの他の1個のクランプがバスキュラグラフト周りに配置しうるよう構成されていて、上記バスキュラグラフト内に上記弁のイントロデューサシースを挿入しうる第1形態と、上記弁のイントロデューサシースが上記バスキュラグラフトに挿入されているときに、当該イントロデューサシースに対して上記バスキュラグラフトをクランプしうる第2形態と、を有するクランプであり、且つ、上記クランプそれぞれが、第1形態・第2形態間で環状体の内径の変化が許容されるよう重なり合う第1円周端及び第2円周端を有する少なくとも1個の環状体を備えるシステム。
【請求項25】
請求項24
に記載のシステムであって、上記環状体の第1及び第2円周端が、相俟ってラチェット機構を形成する可嵌合有歯構造を有するシステム。
【請求項26】
請求項24又は25
に記載のシステムであって、上記クランプそれぞれが、第1ハンドル及び第2ハンドルを備え、その第1ハンドルが、上記環状体のうち第1円周端付近から径方向外方に延びており、第2ハンドルが、上記環状体のうち第2円周端付近から径方向外方に延びており、それら第1及び第2ハンドルの互いに他に向かっていく動きにより上記環状体の内径に縮小が生じるシステム。
【請求項27】
請求項26
に記載のシステムであって、上記クランプそれぞれが更に、上記環状体のうち第1円周端に隣り合い且つ第1ハンドルから離隔しているところから径方向外方に延びる第3ハンドルを備え、それら第1及び第3ハンドルの互いに他に向かっていく動きにより第1円周端が径方向外方に撓み、ひいては上記ラチェット機構が解放されうるシステム。
【請求項28】
請求項24から27のうちいずれか一項
に記載のシステムであって、上記環状体が、第1及び第2円周端の中葉にて長手方向に沿い本クランプを破断可能とすべく所定の破断線を形成する長手ノッチを有するシステム。
【請求項29】
請求項28
に記載のシステムであって、上記ノッチが、上記環状体にて、上記ラチェット機構とは逆側に配置されているシステム。
【請求項30】
請求項24から29のうちいずれか一項
に記載のシステムであって、上記クランプそれぞれが、上記
環状体を少なくとも2個備え、それらが磁性力、機械力又は物理力により相互結合し単一の統合体を形成するシステム。
【請求項31】
請求項30
に記載のシステムであって、所定の破断線が形成されるよう、ひいてはそれら環状体を分離させうるよう、円周ノッチが上記少なくとも2個の環状体間に周沿い配置されているシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
長期型バスキュラアクセス(血管アクセス)は、頻繁な透析処置を必要とする患者向けの透析、化学療法処置、並びに補助人工心臓の使用を含め、幾つかの状況で使用される一般的な医療手順である。使用されるデバイス及び方法は患者の実情により異なる。長期型バスキュラアクセスのうち補助人工心臓を必要とする患者でのそれは開胸手術や直接心バスキュラアクセスで一般的である。
【背景技術】
【0002】
昨今、外傷性の高い開胸手術を避けることを目的に、末梢脈管を用いた対心血管系アクセスを志向する動きが現れてきた。中枢心血管に代え末梢脈管を利用するこの動きには、末梢利用向けに特化設計された多種類の個別的デバイス及び器具の開発がつきものであった。末梢バスキュラアクセスを可能にすべく開発されたデバイスのなかでも、バスキュライントロデューサ(血管内導入器)は最も一般的なデバイスである。脈管へのアクセスを可能とするイントロデューサは、通常、テーパ付きのチップ(頭部)を有していて、主に拡張器の助けを受けつつ脈管内に直接穿刺される。こうしたイントロデューサはその直径が小さく1~3mmの範囲内のものに限られていたし、また最大でも数時間しか使用されていなかった。24時間超に亘るイントロデューサの使用は、血流に内在する異物に対する長時間に亘る血液反応、という問題に直面する。
【0003】
長期型大径バスキュラアクセスの分野にあっては、開胸手術時に心血管系の大径脈管へのアクセスに使用されるデバイス及び器具の多くが、末梢バスキュラアクセスで使用されるものと同じである。末梢バスキュラアクセスにおける不適切なデバイス、器具及び手順の使用は、末梢バスキュラアクセスの発展可能性を貶め、最適な結果に遠く及ばない結果をもたらしてきた。
【0004】
長期型バスキュラアクセスではDacron(登録商標)グラフトが広く使用されている。それと同じDacron(登録商標)グラフトが、大径アクセスが必要で数日以上の長期に亘り患者体内に留置されることを想定した末梢アクセスにて、広く用いられている。こうしたグラフトは、基本的に、その一端が脈管に縫合され他端が様々な止血確実化方法を用い閉止される。このグラフトでは血液が入ると多孔質Dacron(登録商標)メッシュに血液が浸みて目詰まりが発生する。止血を確実化する手段としては、一般的な医用縫合糸で固定される標準的な医用シリコーンプラグが使用されることが多い。但し、他の素材例えばシリコーンで形成されたグラフトも使用しうる。これらのグラフトへのデバイス導入に当たっては、医師が様々な技術及び器具を刷新しそれに習熟していないと、不測の結果が生じまた合併症発生率が高くなる。これらの手順が主要血管のうちどれかを孕むことを踏まえれば出血が主たる懸念となる。即ち、止血はこれらの手順の重要側面である。デバイス挿入の最中か後かを問わず何らかの時点で止血に何らかの不備があると、顕著な血液ロス更には患者死亡につながりかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、大きな脈管又は腔へのアクセス、特にそのアクセスを通じた大径デバイス、組織又は流体の導入及び/又は除去を安全で制御された形態で且つ単純な手順により行えるアクセスを実現するデバイスを、提供することことである。
【0007】
本発明の他の目的は、脈管又は腔への固定が容易であり、止血に役立ち、且つ大きなデバイス又は道具の導入又は除去が可能な、バスキュラグラフト(血管グラフト)を提供することことである。
【0008】
本発明の他の目的は、大きなデバイス又は道具の導入又は除去が可能な止血弁がその先端に備わるバスキュラグラフトを提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、体内の脈管又は腔へのアクセスが必要とされる医療手順の最中及び後に迅速且つ実効的に止血を実行しうるよう、グラフトに一体化可能に構成された別体型止血弁を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、デバイス又は道具の体内導入又はそこからの除去中に止血を実行可能とすべく、また医療手順の最中及び終了後に長期間止血及び細菌障壁を実現するプラグをグラフト内に留置可能とすべく、バスキュラグラフトと連携するデバイスを提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、埋め込まれたバスキュラグラフトと連携し止血を実現しうるデバイスや、デバイス又は道具の体内導入又はそこからの除去中並びに医療手順の終了後にグラフトを容易に取り扱い固定する手段を、提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、バスキュラ又は医用グラフトの使用を孕む医療手順の最中又は後における止血及び細菌障壁を達成すべく、広く入手可能な又は専用のバスキュライントロデューサを用い標準的なバスキュラグラフトとの容易な連携を達成することである。
【0013】
本発明の他の目的は、その直径が1mm~12mmの範囲内の脈管又は体腔に対するデバイス又は道具の導入又は除去を迅速且つ安全に行えるデバイスを提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、同じ寸法又は寸法範囲を有する別々の止血弁が実装された連続的イントロデューサシース(鞘)であり、グラフトに一体化された一体化止血弁に連続して及び/又は組み合わせて使用しうるものを、提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、同じ寸法又は寸法範囲を有する別々の止血弁が実装された連続的イントロデューサシースであり、グラフトに一体化された個別的な止血弁に連続して及び/又は組み合わせて使用しうるものを、提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、グラフト及び/又は止血弁に対し速やかに連結しうるよう工夫された“クイックコネクト”コネクタを提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、グラフト並びにそのグラフト内を通るあらゆるカテーテル又はデバイスに速やかに連結しうるよう工夫された“クイックコネクト”コネクタを提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、止血弁をグラフト並びにそのグラフト内を通るあらゆるデバイスにクランプするクランプを提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、グラフト長を適切にサイジングしうる取り外し可能型止血弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明については別項の独立形式請求項にて記述し、好適な実施形態については従属形式請求項にて特定する。
【0021】
本発明の一実施形態で提供されるのは、患者身体内バスキュラアクセスを提供するシステムである。本システムは、基端及び先端を有する管状体が備わり、その基端が患者身体内の脈管に装着しうるよう構成されたバスキュラグラフトを備える。本システムは、更に、そのグラフトの管状体の先端に装着しうるよう構成されている弁、特に可撓膜を有するハウジングが備わる少なくとも1個の弁を備え、その可撓膜は、自膜を通しバスキュラグラフト内に医用デバイスを挿入しうるよう、自膜を貫通する通路及び脆化エリアのうち少なくとも一方を有する。この弁は、更に、グラフトの管状体の先端に挿入しうるよう構成されたイントロデューサシースを備える。
【0022】
ご理解頂けるように、語“基”は心臓に近づく方向、語“先”は心臓から遠ざかる方向を指している。以下、弁の機能のうち止血を実現する機能、換言すれば医用デバイス例えばカテーテルの挿入中に血液がその弁内を流れないようバスキュラグラフトの先端を封止する機能を強調する際には、弁のことを“止血弁”とも呼ぶ。本発明によれば、バスキュラグラフトへの挿入にひときわ適したイントロデューサシースを有する止血弁が提供される。言い換えれば、一般的なイントロデューサとは対照的に、本発明に係る止血弁のイントロデューサシースは脈管への直接挿入向けに構成されず、バスキュラグラフト内に導入される。バスキュラグラフトの先端内に導入された弁により、グラフトを単にクランプする、縫合糸でグラフトを縛る等といった一般的な技術に比べ、効率的な止血が実現される。膜は、可撓円盤として、或いは逆止弁例えばフラッタバルブの機能を提供する他の構成にて、構成することができる。
【0023】
本システムは、好ましくは更に、グラフトの管状体周りに配置しうるよう構成された少なくとも1個のクランプを備え、そのクランプは、弁のイントロデューサシースをグラフトの管状体の先端に挿入しうる第1形態、並びに弁のイントロデューサシースがグラフトの管状体に挿入されているときに、当該イントロデューサシースに対してグラフトをクランプしうる第2形態を有する。このクランプはバスキュラグラフトにおける弁固定の簡易手法を提供しうるものであり、また弁の膜を圧迫するのにも使用しうるものである。
【0024】
本発明の他の実施形態で提供されるのは、そうしたシステムでの使用向けに構成された弁である。これは可撓膜を有するハウジングを備えた弁であり、その可撓膜は、自膜を通し医用デバイスを挿入しうるよう、自膜を貫通する通路及び脆化エリアのうち少なくとも一方を有する。本弁は、更に、嵌合先デバイス好ましくはバスキュラグラフトの開放端に挿入しうるよう構成されたイントロデューサシースを備える。本弁はバスキュラグラフトと一体に形成することもできる。上述の通り、このイントロデューサシースは好ましくもバスキュラグラフトへの挿入にとりわけ適合している。脈管への直接挿入向けに構成されてはいない。
【0025】
好ましくは、その挿入先たる嵌合先デバイスからの弁の除去が抑止されるよう、イントロデューサシースの外面に少なくとも1個の保持構造を設ける。この保持構造は傾斜面として形成しうるものであり、好ましくは、ハウジングに近づく方向に沿いイントロデューサシースの外面から退いていくテーパが付された少なくとも1個の掛かりを備える。保持構造付きの面は、弁をバスキュラグラフトと併用する際、バスキュラグラフトにおける弁の固定具合を改善するのにとりわけ有用である。保持構造を1個又は複数個の掛かりを以て構成する場合は、好ましくは、弁をバスキュラグラフトに対しクランプしたときクランプがその掛かりから見て先寄りに位置しうるよう、掛かりをイントロデューサシースの外面上に配置する。対照的に、一般的な脈管内直接挿入用イントロデューサでは、保持構造のない円滑面を有していることから、その脈管を傷つける可能性があった。
【0026】
好ましくは、膜に加え、ハウジングの少なくとも一部分を可撓素材、好ましくは弾性素材で形成する。可撓素材の例は軟質ラバーその他の軟質プラスチック素材例えばシリコーン、ポリウレタン又はポリビニルクロライドである。イントロデューサシースは、径方向圧迫力に関しては、ハウジングのうち膜が所在する部分より硬くするとよい。この構成では、弁が所在する部位にて弁のハウジング周りにあるクランプを圧迫することにより、挿入された医用デバイスに抗し膜を圧迫及び封止することができる。イントロデューサシース及び潜在的には弁のハウジングの先端を硬めにすることで弁の安定性がもたらされる。
【0027】
好ましくはハウジングを円筒状とする。例えば円錐状のものに代え円筒状のものにすることにより、患者身体内に長期間、例えば数ヶ月に亘り埋め込んでおけるロープロファイル弁(小凹凸弁)が得られる。この円筒状ロープロファイル弁なら、その弁の周りにクランプを配置することで、挿入済の医用デバイス例えばカテーテルに抗し膜を締めること、血流を防ぐこと並びにデバイスを固定して長手方向に動かないようにすることができる。好ましいことに、イントロデューサシースの内径をそのイントロデューサシースの基端で減らさず、同イントロデューサシースの全長に亘り一定にすることができる。例えば、その直径を5~10mmの範囲内としうる。一般的なイントロデューサで、拡張器を用いた脈管内挿入を可能とすべく絞りテーパがチップ(頭部)に付されているのとは対照的である。
【0028】
好適な実施形態では、上記少なくとも1個の通路を、少なくとも膜の直径の一部分、好ましくはその膜の全直径に沿い延設する。膜にある上記少なくとも1個の通路は、その膜を通り直径方向に延び且つ互いに交差する、少なくとも2本のスリットを有するものにするとよい。これに加え又は代え、自膜を貫通する孔、好ましくはそれらスリットにつなげうる中央孔を、膜に設けるとよい。その孔の直径は、挿入される医用デバイス例えばカテーテルの直径に見合う直径にするとよい。より大きな部材、例えばカテーテルのチップ(頭部)に配置したカテーテルポンプの挿入を可能とするため、挿入中に膜の開口が暫時拡がるようスリットを設けるとよい。但し、例えば止血弁がカテーテル上に既に予実装されており且つ長時間に亘る埋込が想定されている場合等にあっては、それらのスリットは省略するとよい。そうした場合スリットが不要であるし、血液漏れのリスクにつながりかねないからである。
【0029】
弁が少なくとも1個のシーム、好ましくは径方向に沿い逆側にある2個のシームを有していること、特に本弁が自弁の長手方向に沿い破断して2個の半部になりうるよう、そのシームが弁の長手方向に沿い延び且つ所定の破断線を形成していることが望ましい。これにより、医用デバイス例えばカテーテルが弁に挿入されたときの弁の除去(“はぎ取り”)を容易化することができる。
【0030】
弁の取扱が容易になるよう、ハウジングが少なくとも1個のハンドル、好ましくは径方向に沿い逆側にある2個のハンドルを有し、そのハンドルがハウジングから径方向外方に延びているのが望ましい。それらのハンドルは弁を破断させ2個の半部にするのにも用いることができる。それらハンドルを通るようシームを延設してもよいし、シームをハンドルからずらしてもよい。ハンドルをも2個の半部に分断しうる構成にすれば、弁の除去に取扱時空間がほとんど必要なくなる。
【0031】
本発明の他の実施形態で提供されるクランプは、バスキュラグラフト周りに配置しうるよう構成されたクランプであり、バスキュラグラフト内に弁のイントロデューサシースを挿入しうる第1形態、並びに弁のイントロデューサシースがバスキュラグラフトに挿入されているときに、当該イントロデューサシースに対してバスキュラグラフトをクランプしうる第2形態を有する。本クランプは、第1円周端及び第2円周端を有する少なくとも1個の環状体、特に第1形態・第2形態間で環状体の内径の変化が許容されるようそれら第1及び第2円周端が重ね合わされた環状体を備える。
【0032】
好ましくは、環状体の第1及び第2円周端が、相俟ってラチェット機構を形成する可嵌合有歯構造を有する。第1及び第2形態間でクランプを作動させるべく本クランプを第1ハンドル及び第2ハンドル、特に環状体のうち第1円周端付近から径方向外方に延びる第1ハンドル並びに環状体のうち第2円周端付近から径方向外方に延びる第2ハンドルを有する構成とし、それら第1及び第2ハンドルの互いに他に向かっていく動きにより環状体の内径に縮小が生じるようにするとよい。本クランプは、更に、環状体のうち第1円周端に隣り合い且つ第1ハンドルから離隔しているところから径方向外方に延びる第3ハンドルを有し、それら第1及び第3ハンドルの互いに他に向かっていく動きにより第1円周端が径方向外方に撓みラチェット機構が解放される構成にするのが望ましい。
【0033】
クランプの除去を容易化すべく、所定の破断線を形成する長手ノッチを環状体が有し、第1及び第2円周端の中葉にて長手方向に沿いクランプを破断させうる構成にしてもよい。これは、とりわけ、医用デバイス例えばカテーテルをバスキュラグラフト内に挿入する場合のクランプの除去に役立つ。好ましくは、そのノッチを、環状体にてラチェット機構とは逆側に配置する。
【0034】
本クランプは、上述した管状体を少なくとも2個備え、それらが磁気的、機械的、物理的又は化学的に相互結合し単一の統合体を形成する構成とすることができる。これは、後に詳示する通り、複数個の弁を相連ねた積層体を用いる際にひときわ有用である。所定の破断線が形成されるよう、ひいてはそれら環状体を分離させうるよう、円周ノッチを上記少なくとも2個の環状体間に周沿い配置してもよい。
【0035】
本発明の他の実施形態で提供されるのは、バスキュラグラフトと併用されるキットである。このキットは、可撓膜を有するハウジングを備える少なくとも1個の弁であって、その可撓膜が自膜を貫通する通路及び脆化エリアのうち少なくとも一方を有していてその膜を通し医用デバイスを挿入することが可能な弁を備える。この弁は、更に、バスキュラグラフトの管状体の開放端に挿入しうるよう構成されたイントロデューサシースを備える。本キットは、更に、グラフトの管状体周りに配置しうるよう構成された少なくとも1個のクランプであって、弁のイントロデューサシースをグラフトの管状体の先端に挿入しうる第1形態、並びに弁のイントロデューサシースがグラフトの管状体に挿入されているときに、当該イントロデューサシースに対してグラフトをクランプしうる第2形態を有するクランプを備える。好ましくは、上記少なくとも1個の弁及び/又は上記少なくとも1個のクランプを上述の如く構成する。
【0036】
本発明の他の実施形態で提供されるのは、上述の弁を少なくとも2個備えるシステムであって、それら少なくとも2個の弁のうち1個のイントロデューサシースを同少なくとも2個の弁のうち他の1個に対し連結可能なもの、好ましくはバスキュラグラフトの先端に縦続装着しうるようそれら少なくとも2個の弁のうち他の1個の先端に連結可能なものである。好ましくは、少なくとも2個の弁のうち上記1個のイントロデューサシースを、同少なくとも2個の弁のうち上記他の1個のハウジング内に挿入しうるよう構成する。本システムは更にバスキュラグラフトを備えうる。複数個の弁が相連なる積層体により、血液漏れに対する二重又は多重の安全機構が提供されることで、止血性が更に改善される。
【0037】
好適な実施形態では、上記少なくとも2個の弁それぞれが中央孔を伴う膜を有し、その中央孔の直径及び/又は上記少なくとも1個の通路の寸法が、グラフトに近づく方向に沿い弁からその次の弁へと増すようにする。それら複数通りの寸法は、複数通りの挿入対象医用デバイス例えばガイドワイヤ(Kワイヤ)及びカテーテルに応じたものとしうる。
【0038】
上記少なくとも2個の弁のうち少なくとも1個のイントロデューサシースがそのイントロデューサシースの直径に比し少なくとも10倍の長さを有するシステムを、提供することができる。そうした長尺イントロデューサシースは、医用デバイス例えばカテーテルポンプをイントロデューサシース内に入れる場合、例えば予実装する場合にひときわ有用である。
【0039】
少なくとも2個の弁を備えるこのシステムは、更に、上述の如く構成されたクランプを少なくとも2個備え、それらクランプのうち少なくとも1個が然るべく構成されていて弁のうち1個のハウジング周りに配置しうる構成とすることができる。上記少なくとも1個のクランプを用い弁の膜を径方向に圧迫することでその弁を閉止させる構成にするとよい。上記少なくとも2個のクランプは磁性力、機械力又は物理力によって互いに結合させるとよい。本システムをグラフトにクランプするのに更に1個のクランプが必要になることもあれば、2個あるクランプのうち1個が、グラフトの周り及び弁のうち少なくとも1個の周りで同時的又は個別的形態でクランプしうるよう設計されることもあろう。
【0040】
好適な実施形態における医用デバイスはカテーテルである。医用デバイスが、そのカテーテルの端に配置された軸血液ポンプを備え、補助人工心臓を提供するものであってもよい。
【0041】
本発明の更に他の実施形態で提供されるのは患者身体内バスキュラアクセスを提供するシステムである。本システムは、基端及び先端を有し患者身体内の脈管に装着しうるようその基端が構成されている管状体が備わるバスキュラグラフトを備える。本システムは、更に、そのグラフトの管状体周りに配置しうるよう構成された少なくとも1個のクランプ、特に、弁のイントロデューサシースをグラフトの管状体の先端に挿入しうる第1形態、並びに弁のイントロデューサシースがグラフトの管状体に挿入されているときにイントロデューサシースに対してグラフトをクランプしうる第2形態を有するクランプを、備える。上記少なくとも1個のクランプは上述の如く構成することができる。本システムは、更に、上述の如く構成されうる少なくとも1個の弁を備える構成とすることができる。
【0042】
上掲の概要、並びに好適な実施形態についての後掲の詳細記述は、添付図面を併せ読むことでより好適に理解されよう。本願開示を描出すべくそれら図面を参照する。但し、本願開示の技術的範囲は、次に示す図面に記載のある具体的実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本願記載のグラフトシステムの全体図である。
【
図2】脈管に吻合された従来型バスキュラグラフトを示す図である。
【
図9】グラフトに装着された複数個の止血弁の断面図である。
【
図10】複数個の止血弁を伴うグラフトシステムの分解図である。
【
図11】複数個の止血弁を伴うグラフトシステムの組み上がり図である。
【
図12】カテーテル上に実装されたロープロファイル止血弁及び二連クランプを示す図である。
【
図13】二連クランプ、ロープロファイル止血弁、カテーテル及びグラフトの組み上がり図である。
【
図14】二連クランプ、ロープロファイル止血弁、カテーテル及びグラフトが脈管に吻合されている組み上がり図である。
【
図15】長尺デバイスと併用される長尺イントロデューサスリーブの分解図である。
【
図16】長尺デバイスと併用される長尺イントロデューサスリーブの断面図である。
【
図17】長尺デバイスと併用される長尺イントロデューサスリーブの組み上がり断面図である。
【
図18】スリットのない膜を有するロープロファイル止血弁を示す図である。
【
図19】カテーテル上に予実装されたロープロファイル止血弁を示す図である。
【
図22】本発明のシステムの他の用途を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1に本発明に係るグラフトシステム10を示す。このグラフトシステム10は、基端110A及び先端110Bを有するグラフト110と、クランプ210と、止血弁310とを備えている。グラフト110は、典型的には特許文献1に記載の多孔質軟質医用織布であり、血液及び生物組織に触れる導路としての使用が想定されている。グラフト110は広く用いられている医用製品であり、多様な形状、寸法及び素材のものを入手することができる。グラフト110は典型的には
図2に示す如く脈管に縫合されるものであり、この図ではグラフト110が外科縫合具111を用い脈管112に固定されている。縫合具111は一般的な医用製品であり、多様な形状、寸法及び素材のものを入手することができる。
【0045】
典型的には、グラフト110は脈管にアクセスすること、特に医用製品及び/又はデバイスを挿入及び/又は除去するため或いはグラフト110を通じ脈管構造の他部分又は外部へと血液又は体液を循環させうるようにするためにアクセスすること、が必要とされる医療手順で使用される。医用デバイス114を導入する目的でグラフト110を用いる場合、典型的には、
図2に示す如くそのグラフト110の周りに医用糸115を巻いて結ぶことでグラフトの基端110Bが塞がれる。しかしながら、医用糸115を用いた医用デバイス114の固定はあまり再現性がなく、またその実行時に血液ロスが生じかねない。
【0046】
翻って
図1に示すグラフトシステム10では、止血弁310及びクランプ210を用いることで、血液ロスのリスク無しで医用デバイスを導入しうるようにしている。クランプ210により、基本的には、医用糸115を用いる必要が排され且つ手順の主体依存性が排されるので、速やかな止血及びより再現性のよい結果がもたらされうる。
【0047】
図3に本発明の一実施形態に係る止血弁310を示す。この止血弁310はスリット膜314、イントロデューサシース(鞘)315及びハウジング311を備えている。ハウジング311は2個の個別半部311A,311Bを備えており、それらは止血弁310の全長に亘る2個のシーム312A,312Bにより結合されている。シーム312A,312Bの企図は止血弁310の壁を薄くすること、ひいては止血弁310が2個の半部に割れたときに2個の別体半部311A,312Bをもたらす優先破断線を提供することにある。ハンドル313の企図は、止血弁310の取扱に際しユーザを助けること、並びに2個の別体半部への止血弁310の分割に際し助けとなるハンドルを提供することにある。本実施形態では、シーム312A,312Bがハンドル313の中葉を走っているので、ハンドル313を破断させ2個の半部にすることができる。
【0048】
スリット膜314は典型的には軟質ラバー円盤であり、止血弁310内への各種デバイスの導入又はそこからの除去を容易化する膜スリット316及び中央孔317を有している。それらスリット316及び中央孔317のうち幾つか又は全てが、そのスリット316の全長又はその一部において、スリット膜314の全厚を貫き或いはそのスリット膜314を部分的に貫き延びているので、スリット膜314を通し各種デバイスを導入することが容易であり、或いはスリット膜314を複数個の分断片へと容易に分断することができる。その弁の想定用途に応じ、最少たる1個のスリットが設けられることもあれば、多数のスリットが設けられることもあろう。同様に、スリット316の長さも想定用途に従い変わりうる。例えば、大径デバイスとの連携使用が想定されている止血弁は、典型的には、長めの膜スリット316及びその直径が大きめの中央孔317を有することとなろう。
【0049】
イントロデューサシース315は、典型的には、グラフト110内に挿入されクランプ210によりその場に固定される薄壁管状部材である。
【0050】
図4は止血弁310の断面図であり、ここではイントロデューサシース315、止血弁半部311A及びスリット膜314がそれらの嵌合先半部から分離されている。
【0051】
図5のクランプ210は環状体を備えており、重なり合う第1,第2の円周端216,218並びに有歯構造211例えばラチェット機構がその環状体に備わっているので、クランプ210内に位置し内面212に接している任意の円形構造上で、内面212をクランプされた体勢に保つことができる。圧迫ハンドル213及び解放ハンドル214により内面212の直径を縮め有歯構造211を動かすこと、特に有歯構造211がロックされ且つクランプ210内を通る任意の円形構造上でより緊密な圧迫状態が保たれる方向へと動かすことができる。逆に、ロック解除ハンドル215及び解放ハンドル214を圧迫することで、有歯構造211の係合解除を引き起こし、内面212に接している任意の円形構造に働くあらゆる圧迫力を解放することができる。好ましいことに、第1円周端のうちロック解除ハンドル215・解放ハンドル214間に位置している解放バンド216が、有歯構造212の係合及び係合解除を行えるよう可重畳軟質素材で形成されている。加えて、解放バンド216が柔らかめなら、クランプ210内に位置する任意の円形構造に対する柔らかめなグリッピングが可能となろう。ノッチ217は、クランプ210の壁の長手方向沿い肉薄部分として設けられている。ノッチ217により、好ましくはクランプ210の全長に亘り脆弱エリアが生じるので、クランプ210を破断させ2個の分断片にすること、並びに以後は必要とされないクランプ210を容易に除去することができる。使用しているクランプ210を取り外すことが想定されていない場合は、クランプ210からノッチ217を省いてもよい。
【0052】
図6は本発明の他の実施形態に係る二連クランプ410を示す図であり、この二連クランプ410は二連クランプ機構、即ち個別的にも単一クランプとしても動作させうる基寄りクランプ411及び先寄りクランプ412を備えている。基寄りクランプ411及び先寄りクランプ412は、単一部材として構成してもよいし、或いは別体部材として構成しそれらをユーザが互いに結合させるようにしてもよい。二連クランプ410は複数個の個別クランプ、好ましくは全部で2~6個のクランプで構成することができる。多数のクランプを単一部材として構成してもよいし、或いは複数個の個別クランプとして構成しユーザが互いに結合させるようにしてもよい。複数個の個別クランプ(図示せず)を結合させる機構は、複数個のクランプの相互固定をもたらす磁気的、機械的、化学的又は物理的(例.接着剤的)性質のものにすることができる。基寄りクランプ411及び先寄りクランプ412は、止血性を維持しながら様々なデバイスを多目的に使用可能にすることを狙いとして、類似又は別様の特徴(例えば内径内を通過するデバイス群の軟又は硬クランプが可能となる別のクランプ内径、別の最大クランプ力、別の素材)を有し且つクランプ210に比し類似又は別様の構造を有するものとすることができる。ラジアルノッチ415が設けられているのは、基寄りクランプ411及び先寄りクランプ412の結合部分を脆化し、それら基寄りクランプ411及び先寄りクランプ412を所望時に破断分離させうるようにするためである。長手ノッチ413が設けられているのは、先寄りクランプ412を脆化し、先寄りクランプ412の長手方向沿い破断と先寄りクランプ412の除去を可能にするためである。基寄りクランプ411が同目的で類似ノッチ(図示せず)を有していてもよい。
【0053】
図7に、本発明の他の実施形態に係るクランプ機構として、三連クランプ機構基寄りクランプ511、三連クランプ機構先寄り中葉クランプ513及び三連クランプ機構先寄りクランプ512を備えそれらを個別的にも単一クランプとしても動作させうる多連クランプ510を示す。三連クランプ機構基寄りクランプ511、三連クランプ機構先寄り中葉クランプ513及び三連クランプ機構先寄りクランプ512は、単一部材として構成してもよいし、或いは別体部材として構成しユーザが互いに結合させるようにしてもよい。多連クランプ510は複数個の個別クランプ、好ましくは全部で2~6個のクランプを備える構成にすることができる。多数のクランプを単一部材として構成してもよいし、或いは複数個の個別クランプとして構成しユーザが互いに結合させるようにしてもよい。複数個の個別クランプ(図示せず)を結合させる機構は、多連クランプの相互固定をもたらす磁気的、機械的、化学的又は物理的(例.接着剤的)性質のものにすることができる。三連クランプ機構基寄りクランプ511、三連クランプ機構先寄り中葉クランプ513及び三連クランプ機構先寄りクランプ512は、止血を維持しながら様々なデバイスを多目的に使用可能にすることを目的として、類似又は別様の特徴(例えば内径内を通過するデバイス群の軟又は硬クランプが可能となる別のクランプ内径、別の最大クランプ力、別の素材)並びにクランプ210に比し類似又は別様の構造を有するものとすることができる。
【0054】
次に、
図8に、本発明の他の実施形態に係る止血弁として、スリット膜611、イントロデューサシース615及びハウジング616を備えるロープロファイル(小凹凸)止血弁610の断面を示す。ハウジング616は、好ましくはロープロファイル止血弁610の全長に亘り延びる2個のシーム617A,617Bによって結合された、2個の個別半部を備えており、ここではそれら半部のうち一方が614Aとして図示及び指示されている(他の半部614Bは図示せず)。シーム617A,617Bの企図はロープロファイル止血弁610の壁を薄くすること、ひいてはロープロファイル止血弁610が2個の半部に割れたときに2個の別体半部614A,614Bをもたらす優先破断線を提供することにある。好ましくは、クランプ例えばクランプ210でクランプすることでスリット膜611をクランプすることができるよう、ハウジング616の一部分又は全体を軟質ポリマで形成する。スリット膜611は典型的には軟質ラバー円盤であり、ロープロファイル止血弁610内への各種固形デバイスの導入又はそこからの除去を容易化する、膜スリット612及び中央孔613を有している。その弁の想定用途に応じ、最少たる1個のスリットが設けられることもあれば、多数のスリットが設けられることもあろう。同様に、スリット612の長さも想定用途に従い変わりうる。例えば、大径デバイスとの連携使用が想定されている止血弁は、典型的には、長めの膜スリット612及びその直径が大きめの中央孔613を有することとなろう。スリット612のうち1個又は数個のスリットをスリット膜611の全直径に沿い延ばし、その膜を数個の部分に分断可能且つ中央孔613内を通る任意のデバイス又はカテーテルから除去可能としてもよい。
【0055】
次に、
図9、
図10及び
図11は本発明の他の実施形態に係り複数個の止血弁を有するグラフトシステム710を示す図であり、
図9は断面図、
図10は分解図、そして
図11は組み上がり図である。複数個の止血弁を伴うこのグラフトシステム710は、グラフト110、基寄り止血弁711、先寄り止血弁712、基寄りクランプ713及び先寄りクランプ714を備えている。基寄り止血弁711はその構成及び機能の面でロープロファイル止血弁610と幾ばくか似ており、且つ基寄り止血弁スリット膜715、基寄り止血弁イントロデューサシース716及び基寄り止血弁ハウジング717を備えている。基寄り止血弁ハウジング717は、好ましくは基寄り止血弁711の全長に亘り延びる基寄り止血弁シーム719A及び基寄り止血弁シーム719Bによって結合された、2個の個別半部を備えている(ここではそれら半部のうち一方が718Aとして図示及び指示されており、他の半部718Bは
図9に示されていない)。基寄り止血弁シーム719A,719Bの企図は基寄り止血弁711の壁を薄くすること、ひいては基寄り止血弁711が2個の半部に割れたときに2個の別体半部719A,719Bをもたらす優先破断線を提供することにある。好ましくは、クランプ例えば基寄りクランプ713でクランプすることで基寄り止血弁スリット膜715をクランプすることができるよう、基寄り止血弁ハウジング717の一部分又は全体を軟質ポリマで形成する。基寄り止血弁スリット膜715は典型的には軟質ラバー円盤であり、基寄り止血弁711内への各種固形デバイスの導入又はそこからの除去を容易化する、基寄り止血弁膜スリット719及び基寄り止血弁中央孔720を有している。その弁の想定用途に応じ、最少たる1個のスリットが設けられることもあれば、多数のスリットが設けられることもあろう。同様に、基寄り止血弁スリット719の長さも想定用途に従い変わりうる。例えば、大径デバイスとの連携使用が想定されている止血弁は、典型的には、長めの基寄り止血弁膜スリット719及びその直径が大きめの基寄り止血弁中央孔720を有することとなろう。掛かり740は基寄り止血弁イントロデューサシース716上に所在する隆起面として設けられており、グラフト110が掛かり740・基寄りクランプ710間に捉えられているときそのグラフト110の内面と係合し堅いグリップを確保する。掛かり740により基寄り止血弁イントロデューサシース716の一部分をカバーしてもよいし全周をカバーしてもよい。掛かり740を単一の隆起面としてもよいし、或いはグラフト110に対しより大きな把持力をもたらすよう互いに放射方向整列配置又はオフセット配置されている複数個の隆起面としてもよい。掛かり740があるので、ユーザは、縫合糸、アンビリカルテープ、医用テープその他の手段を用い基寄り止血弁イントロデューサシース716をグラフト110に縛り付けることができる。基寄り止血弁イントロデューサシース716をグラフト110に縛り付けることで、デバイスの挿入又は除去中に連結外れやずれが置きにくい安定な連結が得られる。
【0056】
先寄り止血弁712はその構成及び機能の面でロープロファイル止血弁610と似ており、且つ先寄り止血弁スリット膜721、先寄り止血弁イントロデューサシース722及び先寄り止血弁ハウジング723を備えている。先寄り止血弁ハウジング723は、好ましくは先寄り止血弁712の全長に亘り延びる先寄り止血弁シーム725A及び先寄り止血弁シーム725Bによって結合された、2個の個別半部を備えている(ここではそれら半部のうち一方が724Aとして図示及び指示されており、他の半部724Bは
図9に示されていない)。先寄り止血弁シーム725A,725Bの企図は先寄り止血弁712の壁を薄くすること、ひいては先寄り止血弁711が2個の半部に割れたときに2個の別体半部725A,725Bをもたらす優先破断線を提供することにある。好ましくは、クランプ例えば先寄りクランプ713でクランプすることで先寄り止血弁スリット膜721をクランプすることができるよう、先寄り止血弁ハウジング723の一部分又は全体を軟質ポリマで形成する。先寄り止血弁スリット膜721は典型的には軟質ラバー円盤であり、先寄り止血弁711内への各種固形デバイスの導入又はそこからの除去を容易化する、先寄り止血弁膜スリット725及び先寄り止血弁中央孔726を有している。その弁の想定用途に応じ、最少たる1個のスリットが設けられることもあれば、多数のスリットが設けられることもあろう。同様に、先寄り止血弁スリット725の長さも想定用途に従い変わりうる。例えば、大径デバイスとの連携使用が想定されている止血弁は、典型的には、長めの先寄り止血弁膜スリット725及びその直径が大きめの先寄り止血弁中央孔720を有することとなろう。
【0057】
次に、
図10及び
図11に示すシステムは本発明の他の実施形態に係り複数個の止血弁を有するグラフトシステムであり、基寄り止血弁711、先寄り止血弁712及び中葉止血弁750を備えている。中葉止血弁750はその構成及び機能の面でロープロファイル止血弁610と幾ばくか似ており、且つ中葉止血弁スリット膜729、中葉止血弁イントロデューサシース730及び中葉止血弁ハウジング731を備えている。中葉止血弁ハウジング731は、好ましくは中葉止血弁750の全長に亘り延びる中葉止血弁シーム732A及び中葉止血弁シーム732Bによって結合された、2個の個別半部を備えている(
図10及び
図11には示さず)。中葉止血弁シーム732A,732Bの企図は中葉止血弁750の壁を薄くすること、ひいては中葉止血弁750が2個の半部に割れたときに2個の別体半部732A,732Bをもたらす優先破断線を提供することにある。好ましくは、クランプ例えば基寄りクランプ713でクランプすることで中葉止血弁スリット膜729をクランプすることができるよう、中葉止血弁ハウジング731の一部分又は全体を軟質ポリマで形成する。中葉止血弁スリット膜729は典型的には軟質ラバー円盤であり、中葉止血弁750内への各種固形デバイスの導入又はそこからの除去を容易化する、中葉止血弁膜スリット732及び中葉止血弁中央孔734を有している。その弁の想定用途に応じ、最少たる1個のスリットが設けられることもあれば、多数のスリットが設けられることもあろう。同様に、中葉止血弁スリット732の長さも想定用途に従い変わりうる。例えば、大径デバイスとの連携使用が想定されている止血弁は、典型的には、長めの中葉止血弁膜スリット732及びその直径が大きめの中葉止血弁中央孔734を有することとなろう。ご理解頂けるように、スリット719,732,725は、血液タイトな連結を常時提供しながらある程度の直径の医用デバイスを膜715,729,721を貫通させうるよう、同一長例えば最大長にすることができる。
【0058】
次に、
図12に、本発明に係りカテーテル810上に実装されているロープロファイル止血弁610及び二連クランプ410を示す。このカテーテル810は、人体の脈管内又は腔内への挿入が想定されている一般的な医用カテーテルである。カテーテル機能端811はカテーテルの機能的部分、即ち人体の内部で特定の機能を実行する部分であり、カテーテルシャフト812を人体又は脈管の内部に送ることによって人体の内部に送られる。カテーテル810がロープロファイル止血弁610内に送られるとき、二連クランプ410は解放されるのでロープロファイル止血弁610に何ら径方向力を及ぼさない。機能端811はシャフト812より大径にも小径にもすることができ、また、二連クランプ410は、カテーテル810の先端からカテーテル810に実装することも、カテーテル810の製造中にカテーテル810上に予実装することもできる。
【0059】
次に、
図13及び
図14に示すように、二連クランプ410、ロープロファイル止血弁610及びカテーテル810は、カテーテル810及びイントロデューサシース615をグラフト110内に挿入してグラフト110に結合させること及び基寄りクランプ411をクランプしてその場に固定することができ、それにより、グラフト110を基寄りクランプ411にしっかりと固定しグラフト110・イントロデューサシース615間に止血シールを発生させることができる。カテーテル810は、ロープロファイル止血弁610を通しカテーテルシャフト812を摺動させることで、グラフト110内へと前進させることができる。先寄りクランプ412をクランプすることで、カテーテル810がその場に固定されカテーテルシャフト812周りに止血シールが形成されることとなろう。その上で、外科縫合具111その他、体腔又は脈管にグラフトを吻合することを意図し医療手順で使用される任意の吻合器により、グラフト110を(
図14に示す如く)体腔又は脈管112に吻合することができる。
【0060】
次に、
図15、
図16及び
図17は本発明の他の実施形態に係り長尺イントロデューサを伴うグラフトシステム910を示す図であり、
図15は分解図、
図16は断面図、そして
図17は組み上がり断面図である。長尺イントロデューサを伴うこのグラフトシステム910は、グラフト110、基寄り止血弁711、長尺イントロデューサシースを伴う先寄り止血弁911、2個の基寄りクランプ713及び先寄りクランプ714を備えている。基寄り止血弁711は、その構成及び機能の面でロープロファイル止血弁610と幾ばくか似ており、且つ基寄り止血弁スリット膜715、基寄り止血弁イントロデューサシース716及び基寄り止血弁ハウジング717を備えている。基寄り止血弁ハウジング717は、好ましくは基寄り止血弁711の全長に亘り延びる基寄り止血弁シーム719A及び基寄り止血弁シーム719Bによって結合された、2個の個別半部を備えている(ここではそれら半部のうち一方が718Aとして図示及び指示されており、他の半部718Bは
図16に示されていない)。基寄り止血弁シーム719A,719Bの企図は基寄り止血弁711の壁を薄くすること、ひいては基寄り止血弁711が2個の半部に割れたときに2個の別体半部719A,719Bをもたらす優先破断線を提供することにある。好ましくは、クランプ例えば基寄りクランプ713でクランプすることで基寄り止血弁スリット膜715をクランプすることができるよう、基寄り止血弁ハウジング717の一部分又は全体を軟質ポリマで形成する。基寄り止血弁スリット膜715は典型的には軟質ラバー円盤であり、基寄り止血弁711内への各種固形デバイスの導入又はそこからの除去を容易化する、基寄り止血弁膜スリット719及び基寄り止血弁中央孔720を有している。その弁の想定用途に応じ、最少たる1個のスリットが設けられることもあれば、多数のスリットが設けられることもあろう。同様に、基寄り止血弁スリット719の長さも想定用途に従い変わりうる。例えば、大径デバイスとの連携使用が想定されている止血弁は、典型的には、長めの基寄り止血弁膜スリット719及びその直径が大きめの基寄り止血弁中央孔720を有することとなろう。
【0061】
掛かり740は基寄り止血弁イントロデューサシース716上に所在する隆起面として設けられており、グラフト110が掛かり740・基寄りクランプ713間に捉えられているときそのグラフト110の内面と係合して堅いグリップを確保する。掛かり740により基寄り止血弁イントロデューサシース716の一部分をカバーしてもよいし全周をカバーしてもよい。掛かり740を単一の隆起面としてもよいし、或いはグラフト110に対しより大きな把持力をもたらすよう互いに放射方向整列配置又はオフセット配置されている複数個の隆起面としてもよい。掛かり740があるので、ユーザは、縫合糸、アンビリカルテープ、医用テープその他の手段を用いグラフト110を基寄り止血弁イントロデューサシース716に縛り付けることができる。こうしたグラフト110・基寄り止血弁イントロデューサシース716間連結により、基寄り止血弁イントロデューサシース716をグラフト110に縛り付けることで、デバイス挿入又は除去用アクセス点の安定性を増すことができる。
【0062】
長尺イントロデューサシースを伴う先寄り止血弁911は、その構成及び機能の面でロープロファイル止血弁610と似ているが、先寄り止血弁911が長尺イントロデューサシーススリーブ922を有する点で相違している。先寄り止血弁911は先寄り止血弁スリット膜921、先寄り止血弁スリーブ922及び先寄り止血弁ハウジング923を備えている。先寄り止血弁ハウジング923は、好ましくは先寄り止血弁911の全長に亘り延びる先寄り止血弁シーム925A及び先寄り止血弁シーム925Bによって結合された、2個の個別半部を備えている(ここではそれら半部のうち一方が924Aとして図示及び指示されており、他の半部924Bは
図16及び
図17に示されていない)。先寄り止血弁シーム925A,925Bの企図は先寄り止血弁911の壁を薄くすること、ひいては先寄り止血弁911が2個の半部に割れたときに2個の別体半部925A,925Bをもたらす優先破断線を提供することにある。好ましくは、クランプ例えば先寄りクランプ714でクランプすることで先寄り止血弁スリット膜921をクランプすることができるよう、先寄り止血弁ハウジング923の一部分又は全体を軟質ポリマで形成する。先寄り止血弁スリット膜921は典型的には軟質ラバー円盤であり、長尺イントロデューサシースを伴う先寄り止血弁911内への各種固形デバイスの導入又はそこからの除去を容易化する、先寄り止血弁膜スリット925及び先寄り止血弁中央孔926を有している。その弁の想定用途に応じ、最少たる1個のスリットが設けられることもあれば、多数のスリットが設けられることもあろう。同様に、先寄り止血弁シーススリット925の長さも想定用途に従い変わりうる。例えば、大径デバイスとの連携使用が想定されている止血弁は、典型的には、長めの先寄り止血弁膜スリット925及びその直径が大きめの先寄り止血弁中央孔920を有することとなろう。
【0063】
長尺デバイス930の例は人体への挿入が想定されているカテーテルであり、これは、拡張チップ931と、典型的には拡張チップ931より小径である細カテーテル932と、を備えている。どのような止血弁、イントロデューサシース又はクランプの助力も受けず長尺デバイス930をグラフト110内に挿入するのが医療分野では通例であり、そのことが患者の安全を脅かす顕著な血液ロスにつながっている。長尺イントロデューサを伴うこのグラフトシステム910の企図は、グラフト110内を通し医用デバイスを導入することに係るリスクを軽減することである。これから示すのは長尺イントロデューサを伴うグラフトシステム910の一例であり、長尺イントロデューサを伴うグラフトシステムを医療分野で役立てうるただ一つの手法ではない。先寄り止血弁スリーブ922はどのような長さにもしうるが1cm~200cmの範囲内とするのが好ましく、その範囲内であれば先寄り止血弁911の基端及び先端にて幾ばくかの余剰長を残しつつ拡張チップ931を収容することができよう。
図16及び
図17に示すように、長尺デバイス930は長尺イントロデューサシースを伴う先寄り止血弁911の内部に位置しており、細カテーテル932は先寄り止血弁中央孔926内を通っており、そして拡張チップ931は完全に先寄り止血弁スリーブ922の内側に位置している。ある種の実施態様では、グラフト110、基寄りクランプ713及び基寄り止血弁シース716がキットで提供される。そのキットに、長さ目盛りとグラフト角傾斜マーキングとを有するルーラを組み込み、ユーザによるグラフトの準備及び正確な切断に役立ててもよい。長さ及び角度を示すマーキングを伴うルーラがあれば、ユーザは、患者及び状況に見合うようグラフト100を仕立てることができる。
【0064】
標準的な医療手順によってグラフトを血管又は体腔に吻合した後は、基寄り止血弁711をグラフト110の内部に挿入し基寄りクランプ713を用いてその場に固定すればよい。続いては、その先寄り止血弁スリーブ922を基寄り止血弁スリット膜715経由で挿入し、
図17に示す如くグラフト110内に所望深さまで送り込めばよい。血液ロスはこの時点に至るまで生じないはずである。続いては、長尺イントロデューサシース911を伴う止血弁内へと細カテーテル932を押し込むことで、長尺デバイス930を更にグラフト110内へ、吻合されている脈管(
図15,
図16,
図17には示さないが専ら参照のため
図2に示す)内へと送ればよい。拡張チップ931が脈管又は体腔内の狙いとする位置に到達したら、先寄りクランプ714でクランプして細カテーテル932を当該所望位置にロックすればよい。
【0065】
次に、
図18及び
図19に本発明の他の実施形態に係る止血弁610Aを示す。この止血弁610Aは、その構成及び機能の面でロープロファイル止血弁610と幾ばくか似ているが、膜611Aがスリットを全く有していない点及び止血弁610Aを2個の半部に分離できない点で相違している。止血弁610Aは止血弁膜611A、止血弁イントロデューサシース615A及び止血弁ハウジング616Aを備えている。好ましくは、クランプ例えばクランプ210でクランプすることで止血弁膜611Aをクランプすることができるよう、止血弁ハウジング616Aの一部分又は全体を軟質ポリマで形成する。止血弁膜611Aは典型的には軟質ラバー円盤であり、中葉止血弁610A内への各種固形デバイスの導入又はそこからの除去を容易化する止血弁中央孔613Aを有している。膜611Aにスリットが設けられていないので、とりわけ長期的利用に際し、止血性を改善し血液漏れを妨げることができる。医用デバイス例えばカテーテル810が(
図19に示す如く)止血弁610A内に予実装されている場合、この膜にスリットは必要ない。中央孔613Aの寸法はその弁の想定用途に従い変わりうる。例えば、大径デバイスとの連携使用が想定されている止血弁は、典型的には、その直径が大きめの止血弁中央孔613Aを有することとなろう。
【0066】
図20に本発明の一実施形態に係る分岐付き止血弁1110を示す。この止血弁1110はその構成及び機能の面でロープロファイル止血弁610と幾ばくか似ている。しかしながら、
図9~
図17に示す如く複数個の止血弁が縦列配置されている積層体とは対照的に、この分岐付き止血弁1110は、分岐付き或いはY字の形状に従い並列配置された2個の止血弁1111,1112を備えている。それらの構成及び機能については上掲の記述、とりわけロープロファイル止血弁に関するそれを参照されたい。止血弁1111はスリット膜1117を伴うハウジング1116を備えている。その膜1117はスリット1118及び中央孔1119を有している。これに倣い、止血弁1112はスリット膜1121を伴うハウジング1120を備えている。その膜1121はスリット1122及び中央孔1123を有している。分岐付き止血弁1110はイントロデューサシース1115を備えており、そのイントロデューサシース1115は掛かり740との関連で上述した如く機能する掛かり1140を有している。この分岐付き止血弁1110によれば、2個の医用デバイス例えばカテーテル及びガイドワイヤを並行的且つ独立に挿入及び操作することができる。この目的に鑑み、中央孔1119及び1123の寸法は、対応する医用デバイスに対するタイトな連結を実現すべく異なる寸法とされている。とりわけ、上掲の諸実施形態との関連で記述した通り、ハウジング1116及び1120に、膜1117及び1121のうち対応するものを例えばクランプ210によりクランプしうるよう軟質素材で形成された部分を設けることができる。
【0067】
ご認識頂けるように、記述してきた止血弁及びクランプの諸特徴は、記述されている組合せ以外の組合せでも組み合わせることができる。とりわけ、記述されている止血弁のいずれでも、保持構造例えば1個又は複数個の掛かりをイントロデューサシースの外面上に具備させることができる。更に、記述されている止血弁のいずれも、2個の半部に分断しうるようシームを有するものとすることができ、或いはシームのない単一片をかたちづくるものとすることができる。
【0068】
次に、
図21及び
図22に、グラフトシステム1010の用途を示す。このグラフトシステム1010は上述したシステムのいずれによるものでもありうる。これは、患者の大動脈を通しその患者の心臓内へとカテーテル1030により軸血液ポンプ1020を送り込み、人工心臓(ventricular assistant device)とするのに使用されている。バスキュラアクセス(血管アクセス)は患者の胸郭(
図21)又は患者の鼠径部(
図22)にある末梢脈管にて行いうる。
図21では、1個又は複数個のロープロファイル止血弁を上述の如く用いることで、グラフトシステム1010を完全に皮下埋込することができる。