(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】膜形成用液組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/08 20060101AFI20221116BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20221116BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20221116BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C09D183/08
C09D5/16
C09D7/20
C09K3/18 103
C09K3/18 104
(21)【出願番号】P 2021104564
(22)【出願日】2021-06-24
(62)【分割の表示】P 2017191255の分割
【原出願日】2017-09-29
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159854(WO,A1)
【文献】特開2011-195806(JP,A)
【文献】特開2010-163584(JP,A)
【文献】特開2016-060816(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152265(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0145039(US,A1)
【文献】特開平01-095181(JP,A)
【文献】特開2016-153221(JP,A)
【文献】特開2000-053950(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104845523(CN,A)
【文献】国際公開第01/019587(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/08
C09D 5/16
C09D 7/20
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカゾル加水分解物を主とする成分並びに溶媒を含み、
前記シリカゾル加水分解物がケイ素アルコキシド(A)、フェニル基含有シラン(B)及び
ペルフルオロアミン構造を有するフッ素含有シラン(C)のシラン化合物の加水分解物であって、
下記の一般式(1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分を含む単位を有し、
前記フェニル基含有シラン(B)から得られるフェニル基成分は前記シリカゾル加水分解物100質量%とするときに前記シリカゾル加水分解物に10~50質量%含まれ、
前記フッ素含有シラン(C)から得られ
るペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分は前記シリカゾル加水分解物100質量%とするときに前記シリカゾル加水分解物に0.1~10質量%含まれ、
前記溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする膜形成用液組成物。
【化1】
上記式(1)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。またRfは、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。またX
1は、フェニル
基を含む官能基であり、X
2、X
3は、フェニル基を含む官能基、又は
前記シリカゾル加水分解物の主骨格であるO-Siとの結合基であり、X
4,X
5は、
前記シリカゾル加水分解物の主骨格であるO-Siとの結合基であり、X
6は、RfとSiを結合する基であって、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合及びO-CO-NH結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。
【請求項2】
請求項1記載の膜形成用液組成物を基材に塗布した後に、室温若しくは室温~130℃の温度で乾燥させて防汚性膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚の機能を付与し得る膜を形成するための液組成物に関する。更に詳しくは、撥水性及び撥油性(以下、撥水撥油性という。)を有する防汚性膜を形成するための液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防汚の機能を付与し得る膜を形成するための液組成物として、下記一般式(α)で示されるペルフルオロアミン構造を有する含フッ素シラン化合物と、ケイ素アルコキシドの加水分解物と、有機溶媒と、を含む、被膜形成用組成物が開示されている(例えば特許文献1参照。)。この被膜形成用組成物によれば、生体蓄積性や環境適応性の点で問題となる炭素数8以上の直鎖状ペルフルオロアルキル基を含有することなく、高い撥水性及び優れた防汚性を有する被膜を形成することができる。
【0003】
【0004】
上記式(α)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。また、Rf1は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。また、上記式(α)中、Xは2価の有機基であり、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、エステル結合、アミド結合およびウレタン結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。さらに、上記式(α)中、R1は低級アルキル基又はフェニル基、Zは加水分解性基である(ただし、aは0~3の整数)。
【0005】
特許文献1には、その実施形態の被膜が、成分中に硬化に寄与するケイ素アルコキシドの加水分解物を含むため、高い耐擦傷性、高い硬度を有するとともに、ペルフルオロアミン構造を有する含フッ素シラン化合物単体から得られた被膜よりも基材との密着性、耐久性に優れることが記載され、またその実施形態の被膜形成用組成物には、含窒素ペルフルオロアルキル基として、ペルフルオロアミン構造を有する含フッ素シラン化合物が含まれ、このペルフルオロアミン構造は嵩高いため、短鎖長構造のペルフルオロアルキル基しか有しないにもかかわらず、炭素数が8以上の直鎖状ペルフルオロアルキル構造を有する含フッ素シラン化合物と比べても、高い撥水撥油性などのフッ素基に起因する高い特性を付与することが可能となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-060816号公報(要約、請求項1、段落[0157]、段落[0171])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示される被膜形成用組成物に含まれる含フッ素シラン化合物では、上記式(α)から明らかなように、Si基は2価の有機基Xを介して炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基Rf1と結合する一方、低級アルキル基又はフェニル基であるR1と結合している。このようにSi基がペルフルオロアルキレン基とフェニル基の両方に結合する場合には、この組成物を製造するために、上記含フッ素シラン化合物とケイ素アルコキシドを混合したときに、ペルフルオロアルキル基((C
m
F
2m+1
(C
n
F
2n+1
)N-Rf
1
)(以下、含窒素ペルフルオロアルキル基ということもある。)とフェニル基が作用してフッ素含有シランが固まりとなって重合が起こって、前記ペルフルオロアルキル基の片寄りが生じることがあった。こうした場合、膜を形成したときのケイ素アルコキシドの加水分解物が担っている膜の基材への密着性と、含フッ素シラン化合物が担っている撥水撥油性のそれぞれの特性が十分に発現しない未だ改善すべき点があった。
【0008】
本発明の目的は、形成した膜に撥水撥油性の防汚機能を付与するとともに、成膜性に優れ、基材への密着性が良好な膜を形成可能な膜形成用液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、シリカゾル加水分解物を主とする成分並びに溶媒を含み、
前記シリカゾル加水分解物がケイ素アルコキシド(A)、フェニル基含有シラン(B)及びペルフルオロアミン構造を有するフッ素含有シラン(C)のシラン化合物の加水分解物であって、
下記の一般式(1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分を含む単位を有し、
前記フェニル基含有シラン(B)から得られるフェニル基成分は前記シリカゾル加水分解物100質量%とするときに前記シリカゾル加水分解物に10~50質量%含まれ、
前記フッ素含有シラン(C)から得られるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分は前記シリカゾル加水分解物100質量%とするときに前記シリカゾル加水分解物に0.1~10質量%含まれ、
前記溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする膜形成用液組成物。
【0010】
【0011】
上記式(1)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。またRfは、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。またX1は、フェニル基を含む官能基であり、X2、X3は、フェニル基を含む官能基、又は前記シリカゾル加水分解物の主骨格であるO-Siとの結合基であり、X4,X5は、前記シリカゾル加水分解物の主骨格であるO-Siとの結合基であり、X6は、RfとSiを結合する基であって、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合及びO-CO-NH結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の第2の観点は、第1の観点の膜形成用液組成物を基材に塗布した後に、室温若しくは室温~130℃の温度で乾燥させて防汚性膜を形成する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点の膜形成用液組成物では、ペルフルオロアミン構造が前述した特許文献1の式(α)に示すようなSi基が2価の有機基Xを介してペルフルオロアルキレン基とフェニル基の両方に結合する(-Rf-X-Si-Ph)ではなく、上記一般式(1)に示すように、-Rf-X
6
-Si-O-Si-Phの化学構造を形成し、Rf基(ペルフルオロアルキレン基)がX
6
を介して結合しているSi基は、Ph基(フェニル基)と直接結合していない。このため、含フッ素シラン化合物とケイ素アルコキシドを混合したときに、含窒素ペルフルオロアルキル基とフェニル基が作用しにくく、フッ素含有シランが固まりとならず、含窒素ペルフルオロアルキル基の片寄りが生じることはない。第1の観点の膜形成用液組成物では、前記シリカゾル加水分解物が式(1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分を0.1~10質量%含むため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。また溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であるため、塗膜を成膜性良く形成することができる。更に前記シリカゾル加水分解物がフェニル基成分を10~50質量%含むため、液組成物を塗布して形成される塗膜の基材への密着性が良好となる。
【0014】
本発明の第2の観点の防汚性膜の形成方法では、比較的低温で基材に高い密着性で撥水撥油性のある防汚性膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
〔混合液の調製〕
先ず、ケイ素アルコキシド(A)としてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、フェニル基含有シラン(B)と、下記の一般式(2)で示されるフッ素含有シラン(C)と、炭素数1~4の範囲にあるアルコールと水との混合溶媒とを混合して混合液を調製する。このケイ素アルコキシド(A)としては、具体的には、テトラメトキシシラン、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、硬度の高い膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0017】
上記フェニル基含有シラン(B)としては、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、メチル基と組み合わせたオリゴマー、多官能フェニルシランが挙げられる。フェニル基含有シラン(B)から得られるフェニル基成分はシリカゾル加水分解物100質量%に対して10~50質量%含まれることが好ましい。更に好ましくは20~40質量%含まれる。フェニル基成分(B)が下限値の10質量%未満では、液組成物を塗布して形成される塗膜の基材への密着性が発現されにくく、上限値の50質量%を超えると、膜を形成するときの成膜性が損なわれ易い。
【0018】
フッ素含有シラン(C)から得られるフッ素含有基はシリカゾル加水分解物100質量%に対して0.1~10質量%含まれる。好ましい含有割合は0.2~5質量%である。フッ素含有シラン(C)から得られるフッ素含有基が下限値の0.1質量%未満では、形成した膜に撥水撥油性の防汚性及び離型性が生じにくく、上限値の10質量%を超えると、成膜性に劣り、防汚性の機能が発現しにくい。
【0019】
【0020】
上記式(2)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。またRfは、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。またRは、アルキル基であり、X6は、RfとSiを結合する基であって、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合及びO-CO-NH結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。
【0021】
上記式(2)中の含窒素ペルフルオロアルキル基としては、より具体的には、下記式(3)~(14)で示されるペルフルオロアミン構造を挙げることができる。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
また、上記式(2)中のX6としては、下記式(15)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(15)はエーテル結合、下記式(16)はエステル結合、下記式(17)はアミド結合、下記式(18)はウレタン結合を含む例を示している。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
ここで、上記式(15)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基、ビニル基等も挙げられる。
【0040】
また、上記式(2)中、R-Oは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0041】
ここで、上記式(2)で表されるペルフルオロアミン構造を有するフッ素含有シランの具体例としては、例えば、下記式(19)~(29)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(29)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
式(1)中のX4,X5は、膜成分の主骨格であるO-Siとの結合基であり、Si-Oからなる基である。一方、X
1
は、フェニル基が含まれる官能基であり、例としては、下記式(30)~(33)で表される構造が挙げられる。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
式(33)中のX7は、アルキル基若しくは式(15)~(19)の化合物又はシロキサン骨格にフェニル基が含有したもの等が挙げられる。Rはメチル基、エチル基等のアルキル基である。
【0059】
式(1)中の式X2,X3は、式(30)に示されるフェニル基が含まれる官能基又は主骨格であるO-Siとの結合基である。
【0060】
本発明において、ケイ素アルコキシド(A)とフェニル基含有シラン(B)と、上記一般式で示されるフッ素含有シラン(C)を組み合わせることにより、式(1)で表される化合物が得られる。
【0061】
上述したように、本実施の形態のシリカゾル加水分解物は、上記一般式(1)に示すように、-Rf-X
6
-Si-O-Si-Phの化学構造を形成し、Rf基(ペルフルオロアルキレン基)がX
6
を介して結合しているSi基は、Ph基(フェニル基)と直接結合することなく、含窒素ペルフルオロアルキル基とフェニル基とを有する構造となっていて、窒素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基が複数結合した含窒素ペルフルオロアルキル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性と基材への密着性を付与することができる。
【0062】
炭素数1~4の範囲にあるアルコールは、この範囲にある1種又は2種以上のアルコールが挙げられる。このアルコールとしては、例えば、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点約78.3℃)、プロパノール(n-プロパノール(沸点97-98℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃))が挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ケイ素アルコキシド(A)、フェニル基含有シラン(B)及びフッ素含有シラン(C)に炭素数1~4の範囲にあるアルコールと水を添加して、好ましくは10~30℃の温度で5~20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0063】
〔シリカゾル加水分解物を含む液の調製〕
上記調製された混合液と有機酸、無機酸又はチタン化合物からなる触媒とを混合する。このとき液温を好ましくは30~80℃の温度に保持して好ましくは1~24時間撹拌する。これにより、ケイ素アルコキシド(A)とフェニル基含有シラン(B)とフッ素含有シラン(C)のシリカゾル加水分解物を含む液が調製される。シリカゾル加水分解物を含む液は、ケイ素アルコキシドを2~50質量%(好ましくは12~40質量%)、フェニル基含有シランを1~30質量%(好ましくは2~14質量%)、フッ素含有シランを0.01~3質量%(好ましくは0.02~2.5質量%)、炭素数1~4の範囲にあるアルコールを20~98質量%(好ましくは50~65質量%)、水を0.1~40質量%(好ましくは5~11質量%)、有機酸、無機酸又はチタン化合物を触媒として0.01~5質量%(好ましくは0.07~0.2質量%)の割合で混合してケイ素アルコキシドと、フェニル基含有シランと、フッ素含有シランとの加水分解反応を進行させることで得られる。
【0064】
炭素数1~4の範囲にあるアルコールの割合を上記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離してしまうこと、加水分解反応中に反応液がゲル化しやすく、一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進まず、膜の密着性が低下するためである。水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では加水分解速度が遅くなるために、重合が進まず、塗布膜の密着性並びに成膜性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し、水が多過ぎるためケイ素アルコキシド化合物がアルコール水溶液に溶解せず、分離する不具合を生じるからである。
【0065】
加水分解物中のSiO2濃度(SiO2分)は1~40質量%であるものが好ましい。加水分解物のSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こりやすく、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。
【0066】
有機酸、無機酸又はチタン化合物は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では反応性に乏しく重合が不十分になるため、膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸による基材の腐食等の不具合を生じる。
【0067】
〔膜形成用液組成物(塗料)の製造〕
上記調製されたシリカゾル加水分解物を含む液に、上述した炭素数1~4のアルコール又は炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒とを混合して、膜形成用液組成物を製造する。
【0068】
炭素数1~4のアルコールとともに用いられるアルコール以外の有機溶媒としては、沸点が120℃以上160℃未満の第1溶媒と、沸点が160℃以上220℃以下の第2溶媒が挙げられる。第1溶媒は沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールと第2溶媒の中間の沸点を有することから、塗膜の乾燥時に前記アルコールと第2溶媒の沸点差に伴う塗膜の乾燥速度の大きな差を緩和する作用があり、第2溶媒は第1溶媒よりも高沸点であり、塗膜の乾燥速度が遅いことから塗膜の急激な乾燥を防止して急激な乾燥に伴う膜の不均一性を防止する作用があり、前記アルコールは沸点が最も低いことから塗膜の乾燥を速くする作用がある。このように沸点の異なる3種類の溶媒を用いることにより溶媒の乾燥速度を調整して、より的確にかつ効率的に塗膜を成膜性良く形成することができる。
【0069】
第1溶媒を例示すれば、2-メトキシエタノール(沸点125℃)、2-エトキシエタノール(沸点136℃)、2-イソプロポキシエタノール(沸点142℃)、1-メトキシ-2-プロパノール(沸点120℃)及び1-エトキシ-2-プロパノール(沸点132℃)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒が挙げられる。また第2溶媒を例示すれば、ジアセトンアルコール(沸点169℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、N-メチルピロリドン(沸点202℃)及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点173℃)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒が挙げられる。
【0070】
〔膜形成用液組成物〕
本実施の形態の膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、シリカゾル加水分解物を主とする成分並びに溶媒を含み、このシリカゾル加水分解物を100質量%とするときに、シリカゾル加水分解物が上記一般式(1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基を0.1~10質量%とフェニル基を10~50質量%含み、上記溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと上記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする。
【0071】
上記シリカゾル加水分解物は、上記一般式(1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分とフェニル基成分を含む。より具体的には、上述した式(19)~(29)で示されるペルフルオロアミン構造を挙げることができる。
【0072】
本実施の形態の膜形成用液組成物がシリカゾル加水分解物を主成分として含むため、塗膜の基材への密着性に優れた塗膜が得られる。またシリカゾル加水分解物が上記一般式(1)で示されるペルフルオロアミン構造であるため、撥水並びに撥油の効果がある。シリカゾル加水分解物中のフッ素含有官能基成分の含有割合が0.1質量%未満では形成した膜に撥水撥油性の防汚機能を付与できず、10質量%を超えると塗膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。好ましいフッ素含有官能基成分の含有割合は0.2~5質量%である。またシリカゾル加水分解物中のフェニル基成分の含有割合が10質量%未満では、ポリプロピレン基材への密着性が不十分であり、50質量%を超えると膜強度が不足する不具合がある。好ましいフェニル基成分の含有割合は20~40質量%である。
【0073】
〔防汚性膜の形成方法〕
本実施の形態の防汚性膜は、例えば、基材であるポリプロピレン(PP)、ステンレス鋼(SUS)、鉄、アルミニウム等の金属板上、窓ガラス、鏡等のガラス上、タイル上、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック上、又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム上に、上記液組成物を、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法等により塗布した後に、室温乾燥若しくは乾燥機等により室温~130℃の温度で乾燥させることにより、形成される。
【実施例】
【0074】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0075】
〔9種類のシリカゾル加水分解物の調製〕
本発明の実施例1~5及び比較例1~4に用いられる9種類のシリカゾル加水分解物を調製した。表1及び表2に9種類のシリカゾル加水分解物を調製する条件i~ixを示す。表1には各原料の質量(g)を、表2には全原料を100質量%としたときの各原料の質量(%)をそれぞれ示す。
【0076】
<調製条件i>
ケイ素アルコキシド(A)としてのテトラメトキシシラン(TMOS)の3~5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)10.47g(34.90質量%)と、フェニル基含有シラン(B)のオリゴマータイプ(信越化学工業社製、商品名:KR-510)0.75g(2.50質量%)と、フッ素含有シランとして化合物式(22)(Rはエチル基である。)0.07g(0.23質量%)に、エタノール(EtOH)(沸点78.3℃)15.6g(52.00質量%)を有機溶媒として添加し、更にイオン交換水3.07g(10.23質量%)を添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。またこの混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.04g(0.13質量%)を添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより、シリカゾル加水分解物Iを調製した。
【0077】
【0078】
【0079】
<調製条件ii~ix>
表1及び表2に示すように、調製条件ii~ixにおける調製は、調製条件iにおける調製
と同様の手順で行った。調製条件ii~viiでは、フェニル基含有シランのオリゴマーとして、信越化学工業社製、商品名:KR-213をそれぞれ用いた。調製条件iiでは、触媒として濃度60質量%の硝酸を用い、加水分解の重合条件である撹拌は40℃で2時間行った。これにより、シリカゾル加水分解物IIを調製した。調製条件iiiでは、触媒としてテトライソプロポキシチタンを用い、加水分解の重合条件である撹拌は40℃で2時間行った。これにより、シリカゾル加水分解物IIIを調製した。調製条件ivでは、触媒として酢酸を用い、加水分解の重合条件である撹拌は40℃で2時間行った。これにより、シリカゾル加水分解物IVを調製した。
【0080】
調製条件vでは、触媒として濃度85質量%のリン酸を用い、加水分解の重合条件である撹拌は60℃で2時間行った。これにより、シリカゾル加水分解物Vを調製した。調製条件vi及びviiでは、調製条件iiと同じ化合物を用い、表1に示す配合比にて加水分解物をそれぞれ調製し、加水分解の重合条件である撹拌は40℃で2時間行った。これにより、シリカゾル加水分解物VI及びVIIを調製した。調製条件viii及びixでは、後述する式(34)で示されるフェニル基を有する含フッ素系化合物を用い、フェニル基含有シラン(B)は用いなかった。加水分解の重合条件である撹拌は40℃で3時間行った。上記調製条件i~ixにより得られた加水分解物をシリカゾル加水分解物I~IXとして、表3に各
成分の組成割合を示す。
【0081】
【0082】
<実施例1>
以下の表4に示すように、上記シリカゾル加水分解物Iを生成した液1.5gに、炭素数1~4のアルコールとしての混合溶媒である工業アルコール(日本アルコール産業社製、AP-7:エタノール85質量%と2-プロパノール5質量%と1-プロパノール10質量%の混合溶媒)8.5gを添加し、25℃で10分間撹拌して、液組成物を得た。
【0083】
【0084】
<実施例2~5及び比較例1、2>
表4に示すシリカゾル加水分解物II~VII、炭素数1~4のアルコール(日本アルコール産業社製、AP-7)をそれぞれ用い、実施例1と同様にして、実施例2~5及び比較例1、2の液組成物を得た。
【0085】
<比較例3>
含フッ素系化合物として、特許文献1に示される式(α)の化学構造においてSi基がO-CO-NH結合を含む炭化水素基を介してペルフルオロアルキレン基とフェニル基の両方に結合する下記式(34)で示される含フッ素系化合物(-Rf-X
6
-Si-Ph)を準備し、この含フッ素系化合物を用いて、調製条件viiiでシリカゾル加水分解物VIIIを調製し、この加水分解物から液組成物を得た。式(34)中、Rはメチル基である。
【0086】
【0087】
<比較例4>
含フッ素系化合物として、比較例3と同じ上記式(34)で示される含フッ素系化合物を準備し、この含フッ素系化合物を用いて、調製条件ixの条件でシリカゾル加水分解物IXを調製し、この加水分解物から液組成物を得た。
【0088】
<比較試験及び評価>
実施例1~5及び比較例1~4で得られた9種類の液組成物を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.3)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのポリプロピレン基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが0.5~1μmとなるように塗布し、9種類の塗膜を形成した。ここで、先ずバーコーターによる塗布時の成膜性を評価した。続いてすべての塗膜を室温にて、3時間乾燥して9種類の防汚性が付与された膜を得た。これらの膜について、成膜性、膜表面の撥水性、撥油性、n-ヘキサデカン(表中ではHDと記載)の転落性、膜の基材への密着性を評価した。これらの結果を表5に示す。
【0089】
(1) 成膜性
成膜性は、膜を目視にて評価した。膜全体に弾き、筋等の発生がなく、液組成物を均一に塗布できたものは「良好」とし、膜の一部に僅かに弾き、筋等が生じたものは「可」とし、膜全体に弾き、筋等が生じたものは「不良」とした。
【0090】
(2) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するポリプロピレン基材上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の撥水性を評価した。
【0091】
(3) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn-ヘキサデカンを準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するポリプロピレン基材上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。膜の表面状態が凸凹になって荒れていると通常よりも高い値を示すため、接触角が高過ぎる場合には、成膜性が不良であるとの判断基準となる。
【0092】
(4) n-ヘキサデカンの転落性試験
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに25±1℃のn-ヘキサデカンを準備し、水平に置いたポリプロピレン基材上にシリンジからn-ヘキサデカンを9μLの液滴を滴下し、基材を2度/分の速度で傾斜させ、n-ヘキサデカンの液滴が移動開始するときの基材の傾けた角度を測定した。(3)の接触角が低くてもこの転落角度が小さい方が防汚性に優れていることを意味する。
【0093】
(5) 膜の基材への密着性
75mm×150mm×厚さ2mmのポリプロピレン基材上に塗膜を形成した。塗膜の上に、セロファンテープを貼り付けた後、テープを剥がしたときに、塗膜がテープ側に全く付かなかった場合を「密着良好」とし、塗膜の大部分がテープ側に貼り付き、ポリプロピレン基材界面で塗膜が剥がれてしまった場合を「不良」とした。
【0094】
【0095】
表3~表5から明らかなように、比較例1では、膜を形成する成分であるフェニル基含有率が8.0%と低いことから、ポリプロピレン基材への密着性が発現できず、セロテープ(登録商標)剥離試験にて膜が剥離した。また、フッ素基含有率も0.05%と低いことから、撥油性が悪く、ヘキサデカンの転落角も悪かった。
【0096】
比較例2では、フェニル基の含有率が55.0%であり、フッ素基の含有率が12.0%と両官能基の含有率が高すぎるため、膜自体に白さが生じ、きれいに成膜ができなかった。
【0097】
比較例3では、式(34)で示される含フッ素系化合物を1.0%用いたため、「発明が解決しようとする課題」で述べたように含窒素ペルフルオロアルキル基の片寄りが生じたこと、及びフェニル基の含有量が0%であったことから、成膜性、ヘキサデカンの転落性等は問題なかったが、膜の密着性が発現できなかった。
【0098】
比較例4では、フェニル基の含有量を増やすために、式(34)で示される含フッ素系化合物を20.0質量%用いたため、比較例3と同様に含窒素ペルフルオロアルキル基の片寄りが生じたこと、また同時にこの20.0質量%がフッ素の含有量の本発明の上限値の10質量%を超えたことから、成膜性が悪くなり、全ての項目にて評価が悪かった。
【0099】
これに対して、表3~表5から明らかなように、実施例1~5の液組成物では、一般式(1)に示すように、-Rf-X
6
-Si-O-Si-Phの化学構造に基づいた成分を含み、フッ素含有シランが固まりとならず、含窒素ペルフルオロアルキル基の片寄りが生じないこと、及びフッ素含有官能基成分及びフェニル基成分が所定の範囲にあることから、成膜性、塗膜の撥水撥油性、ヘキサデカンの転落角、膜のポリプロピレン基材への密着性はすべて良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の膜形成用液組成物は、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、換気扇等において、油汚れを防止する分野に用いられる。