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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速機およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20221116BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/662
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021501563
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043816
(87)【国際公開番号】W WO2020170512
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2019026252
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡原 謙
(72)【発明者】
【氏名】平井 淳一
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-097301(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151661(WO,A1)
【文献】特開2010-071355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、両プーリに巻回されたベルトと、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに制御油圧を供給する油圧制御ユニットと、
走行状態または運転者の変速意図に基づいて到達すべき到達変速比を設定し、前記到達変速比に向けて変速するための目標変速比を演算し、実変速比と前記目標変速比との偏差に基づいて前記油圧制御ユニットを制御するコントローラと、
を備えたベルト式無段変速機であって、
前記コントローラは、前記到達変速比と現在の前記目標変速比に基づいて二階微分した暫定第1変速加速度を所定の第1加速度上下限規制値で規制した第1変速加速度を目標変速加速度とし、該目標変速加速度を積分して目標変速速度を設定し、前記到達変速比に到達するときの予め設定された到達変速速度と前記目標変速速度の差に基づいて前記第1加速度上下限規制値のうちから1つを選択したものを追越防止加速度規制値とし、前記目標変速速度が前記追越防止加速度規制値で前記到達変速速度となるまでの間に到達する速度到達後変速比が前記到達変速比に到達したという追越判定をしたときは、前記第1変速加速度に代えて、前記追越防止加速度規制値を前記目標変速加速度として前記目標変速比を設定する、ベルト式無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト式無段変速機において、
前記コントローラは、前記追越判定を判断したときは、前記第1変速加速度に代えて、等加速度変化をしてある時間経過したときの前記目標変速速度が前記到達変速速度になり、且つそのときの前記目標変速比が前記到達変速比になるような変速加速度である変速比調整加速度を前記目標変速加速度とする、ベルト式無段変速機。
【請求項3】
請求項2に記載のベルト式無段変速機において、
前記コントローラは、前記第1加速度上下限規制値の区間を包含する第2加速度上下限規制値を設定し、前記変速比調整加速度を前記第2加速度上下限規制値で規制する、ベルト式無段変速機。
【請求項4】
請求項2または3に記載のベルト式無段変速機において、
前記コントローラは、前記変速比調整加速度で等加速度変化したときの前記目標変速速度が前記到達変速速度になる時間である変速比調整時間と、等加速度変化をして1サンプリングタイム経過したときの前記目標変速速度が前記到達変速速度になる加速度である最終変速加速度と、等加速度変化をして2サンプリングタイム経過したときの前記目標変速比が前記到達変速比になるような加速度である次最終変速加速度を算出し、前記追越判定を判断したときは、該変速比調整時間が前記コントローラの1サンプリングタイム以下の場合は、前記最終変速加速度を前記目標変速加速度とし、該変速比調整時間が前記コントローラの1サンプリングタイムより大きく2サンプリングタイム以下の場合は、前記次最終変速加速度を前記目標変速加速度とし、それ以外の場合は前記変速比調整加速度を前記目標変速加速度とする、ベルト式無段変速機。
【請求項5】
請求項に記載のベルト式無段変速機において、
前記コントローラは、前記追越判定をON条件とし、前記変速比調整時間と前記目標変速速度が前記追越防止加速度規制値で前記到達変速比に前記到達変速速度となるまでの速度到達時間の差に基づいた加速度調整中止判定と、前記変速比調整時間に基づいた加速度調整正常終了判定の2つをOFF条件とする加速度調整判定を判定し、前記追越判定に代わり、該前記加速度調整判定に基づいて目標加速度を切り替える、ベルト式無段変速機。
【請求項6】
請求項5に記載のベルト式無段変速機において、
前記コントローラは、前記加速度調整中止判定によって前記目標変速加速度を前記第1変速加速度に切り替える時に限り、前記目標変速加速度の変化速度を規制するフィルタを備えた、ベルト式無段変速機。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載のベルト式無段変速機において、
前記コントローラは、前記第1加速度上下限規制値を、車両の加速度変化率に基づいて設定する、ベルト式無段変速機。
【請求項8】
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、両プーリに巻回されたベルトと、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに制御油圧を供給する油圧制御ユニットと、を備え、
走行状態または運転者の変速意図に基づいて到達すべき到達変速比を設定し、前記到達変速比に向けて変速するための目標変速比を演算し、実変速比と前記目標変速比との偏差に基づいて前記油圧制御ユニットを制御する、ベルト式無段変速機の制御方法であって、
前記到達変速比と現在の前記目標変速比に基づいて二階微分した暫定第1変速加速度を所定の第1加速度上下限規制値で規制した第1変速加速度を目標変速加速度とし、該目標変速加速度を積分して目標変速速度を設定し、前記到達変速比に到達するときの予め設定された到達変速速度と前記目標変速速度の差に基づいて前記第1加速度上下限規制値のうちから1つを選択したものを追越防止加速度規制値とし、前記目標変速速度が前記追越防止加速度規制値で前記到達変速速度となるまでの間に到達する速度到達後変速比が前記到達変速比に到達したという追越判定をしたときは、前記第1変速加速度に代えて、前記追越防止加速度規制値を前記目標変速加速度として前記目標変速比を設定する、ベルト式無段変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標変速比を設定し、フィードバック制御により目標変速比を達成するベルト式無段変速機およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の走行状態に基づく指標を求めると共に、その指標に基づいて駆動力源の要求回転数もしくは変速機の変速比を制御する技術が開示されている。
【0003】
ここで、運転者がアクセルペダルを一気に踏み込んで一気にダウンシフトする、もしくは、無段変速制御から予めステップ的に設定された複数のステップ変速比に変速するステップ変速制御をする車両が知られている。ベルト式無段変速機において、例えば、ステップ変速制御に切り替わり、次のステップ変速比に向けてアップシフトする急変速を実施する際、車両に生じる加速度の変化が制御されていない場合、乗り心地を確保できないおそれがあった。例えば、アップシフト中に加速度が一旦上昇する際の加速度増加率、加速度上限(以下、ツキの高さとも記載する。)、加速度上限からの減少率、変速後の加速度の4つのパラメータは、車両の乗り心地に影響を与えるからである。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、急変速する場合であっても、乗り心地を確保可能なベルト式ベルト式無段変速機を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-207465号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明のベルト式無段変速機は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、両プーリに巻回されたベルトと、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに制御油圧を供給する油圧制御ユニットと、
走行状態または運転者の変速意図に基づいて到達すべき到達変速比を設定し、前記到達変速比に向けて変速するための目標変速比を演算し、実変速比と前記目標変速比との偏差に基づいて前記油圧制御ユニットを制御するコントローラと、
を備えたベルト式無段変速機であって、
前記コントローラは、前記到達変速比と現在の前記目標変速比に基づいて二階微分した暫定第1変速加速度を所定の第1加速度上下限規制値で規制した第1変速加速度を目標変速加速度とし、該目標変速加速度を積分して目標変速速度を設定し、到達変速比に到達するときの予め設定された到達変速速度と前記目標変速速度の差に基づいて前記第1加速度上下限規制値のうちから1つを選択したものを追越防止加速度規制値とし、前記目標変速速度が前記追越防止加速度規制値で前記到達変速速度となるまでの間に到達する速度到達後変速比が前記到達変速比に到達したという追越判定をしたときは、前記第1変速加速度に代えて、前記追越防止加速度規制値を前記目標変速加速度として前記目標変速比を設定する。
【0007】
よって、変速加速度規制を行ったとしても、到達変速比付近での変速比のハンチングを抑制しつつ、所望の変速加速度で制御することができ、乗り心地を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施例のベルト式無段変速機を備えた車両のシステム図である。
図2】第1実施例の変速機コントローラ内における変速制御処理を表す制御ブロック図である。
図3】第1実施例のベルト式無段変速機の変速制御に使用されるバランス推力比マップである。
図4】乗り心地を確保するのに必要な変速時に発生する車両Gの変化特性を表す概略図である。
図5】第1実施例の目標変速比演算処理を表す制御ブロック図である。
図6】第1実施例の目標変速比演算処理を表すフローチャートである。
図7】第1実施例の目標変速比演算処理を表すフローチャートである。
図8】第2実施例の目標変速比演算処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1実施例〕
図1は第1実施例のベルト式無段変速機を備えた車両のシステム図である。第1実施例の車両は、内燃機関であるエンジン1と、ベルト式無段変速機CVTとを有し、ディファレンシャルギヤ7を介して駆動輪8に駆動力を伝達する。ベルト式無段変速機CVTは、エンジン1のクランク軸と接続された変速機入力軸2と、変速機入力軸2と一体に回転するプライマリプーリ3と、変速機出力軸6と一体に回転するセカンダリプーリ5と、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との間に巻回され動力伝達を行うベルト4と、を有する。
【0010】
プライマリプーリ3は、変速機入力軸2と一体に形成された固定シーブ3aと、変速機入力軸2の軸上を移動可能な可動シーブ3bと、を有する。可動シーブ3bには、プライマリ圧室3b1が設けられ、プライマリ圧室3b1に供給される油圧によって固定シーブ3aと可動シーブ3bとの間に押圧力を発生させ、ベルト4を狭持する。同様に、セカンダリプーリ5は、変速機出力軸6と一体に形成された固定シーブ5aと、変速機出力軸6の軸上を移動可能な可動シーブ5bと、を有する。可動シーブ5bには、セカンダリ圧室5b1が設けられ、セカンダリ圧室5b1に供給される油圧によって固定シーブ5aと可動シーブ5bとの間に押圧力を発生させ、ベルト4を挟持する。
【0011】
エンジンコントローラ10は、エンジン1の運転状態(燃料噴射量や点火タイミング等)を制御することでエンジン回転数及びエンジントルクTENG(以下、入力トルクTinとも記載する。)を制御する。また、エンジンコントローラ10内では、アクセル開度センサ21により検出されたアクセル開度信号APO及び車速センサ22により検出された車速信号VSPに基づいて、運転者の要求トルクTDを演算する要求トルク演算部10aと、変速機入力軸2に伝達される入力トルクTinを演算するエンジントルク演算部10bと、を有する。
【0012】
変速機コントローラ20内では、運転者が操作するシフトレバー25からのレンジ信号や変速信号及び走行状態に応じたプライマリ圧及びセカンダリ圧を算出し、コントロールバルブユニット30に対して制御信号を出力する。シフトレバー25には、変速比をステップ的に変更するマニュアルモードを選択するマニュアルレンジを有し、運転者がアップシフト要求やダウンシフト要求のシフトレバー操作を行うと、現在の変速比から予め設定されたマニュアル変速比に向けてステップ的に変速する。変速機コントローラ20内の詳細については後述する。
【0013】
コントロールバルブユニット30は、変速機入力軸2にチェーン駆動されるオイルポンプ9を油圧源とし、変速機コントローラ20から送信された制御信号に基づいて各油圧を調圧する。そして、プライマリ圧室3b1及びセカンダリ圧室5b1にそれぞれプライマリ圧及びセカンダリ圧を供給し、変速制御を実行する。コントロールバルブユニット30は、プライマリ圧(プライマリ圧室3b1に供給される油圧)を検出するプライマリ圧センサ31と、セカンダリ圧(セカンダリ圧室5b1に供給される油圧)を検出するセカンダリ圧センサ32と、を有する。また、プライマリプーリ3は、プライマリプーリ3の回転数を検出するプライマリ回転数センサ23を有する。セカンダリプーリ5は、セカンダリプーリ5の回転数を検出するセカンダリ回転数センサ24を有する。各センサで検出された値は、変速機コントローラ20に出力される。
【0014】
図2は第1実施例の変速機コントローラ内における変速制御処理を表す制御ブロック図である。
目標変速比演算部201では、アクセル開度信号APOと車速信号VSPに基づいて目標変速比ip_0を演算する。この目標変速比ip_0は、エンジン1が最適燃費を達成するように予め設定された変速特性に基づいて行われる。また、シフトレバー25がマニュアルモードを選択している場合には、運転者のシフト操作に応じて予め設定されたマニュアル変速比を目標変速比ip_0(図中、Ip*と記すこともある)として設定し、現在の変速比からステップ的に変速する。なお、目標変速比演算部201では、後述するJerkと車両Gの両方を所望の特性に制御可能な目標変速比を演算する。詳細については後述する。
【0015】
セカンダリ圧演算部202では、入力トルクTinに基づいてセカンダリプーリ5で必要なクランプ力を確保した目標セカンダリ圧Psec*を演算する。
バランス推力比演算部203では、プライマリ回転数センサ23により検出されたプライマリ回転数Npriとセカンダリ回転数センサ24により検出されたセカンダリ回転数Nsecとに基づいて演算された変速比ipと、要求トルクTDに基づいて設定される入力トルクTinの比であるトルク比Qtとに基づいて、予め設定されたバランス推力比マップからバランス推力比Kblを算出する。バランス推力比Kblとは、あるトルク比である変速比を達成しバランスする(その変速比を維持する)際のプライマリ推力とセカンダリ推力との比である。
【0016】
図3は、第1実施例のベルト式無段変速機の変速制御に使用されるバランス推力比マップである。このバランス推力比マップには、各変速比においてトルク比に対するバランス推力比Kbl特性が設定されている。バランス推力比演算部203は、バランス推力比マップから現在の変速比ipに対応する特性を選択し、選択された特性においてトルク比Qtに対応するバランス推力比Kblを算出する。
【0017】
バランス推力演算部204では、目標セカンダリ圧Psec*にバランス推力比Kblを乗算し、バランス推力相当油圧Pblを演算する。すなわち、セカンダリ圧Psecやプライマリ圧Ppriにプーリ受圧面積等のベルト式無段変速機CVTの諸元を乗算することでプーリ推力となる。これら諸元は固定値であり、制御対象は油圧であるため、第1実施例では、推力に代えて油圧に基づいて算出する。また、後述するセカンダリ圧補償部300により演算されたセカンダリ圧補償値Pprihにバランス推力比Kblを乗算し、セカンダリ補償油圧Pb2を演算する。そして、バランス推力相当油圧Pb1とセカンダリ補償油圧Pb2を加算する。
【0018】
変速比制御部205では、目標変速比ip_0と実変速比ipとの偏差に基づくフィードバック油圧を演算する。例えば、PI制御やPID制御によって現在のプライマリ圧Ppriに加減算する油圧(以下、フィードバック圧Pfbと記載する。)を出力する。
プライマリ圧演算部206では、バランス推力相当油圧Pblとセカンダリ補償油圧Pb2とフィードバック圧Pfbとを加算し、プライマリ圧指令値Ppri1を演算する。
プライマリ側電流換算部207では、プライマリ圧指令値Ppri1に応じたプライマリソレノイド電流指令値に換算する。
プライマリソレノイド電流制御部208では、プライマリソレノイド電流がプライマリソレノイド電流指令値となるようにサーボ制御を行う。
【0019】
セカンダリ圧積分制御部209では、目標セカンダリ圧Psec*と現在の実セカンダリ圧Psecとの偏差ΔPsecに基づく積分制御によりセカンダリ圧指令値Psec1を演算する。
セカンダリ側電流換算部210では、セカンダリ圧指令値Psec1に応じたセカンダリソレノイド電流指令値に換算する。
セカンダリソレノイド電流制御部211では、セカンダリソレノイド電流がセカンダリソレノイド電流指令値となるようにサーボ制御を行う。
プライマリソレノイド212では、プライマリ圧Psecを調圧するソレノイドバルブに通電する。プライマリソレノイド212に設けられた電流センサは、プライマリソレノイド電流制御部208に電流値を出力する。
プライマリ圧系213では、プライマリソレノイド212で調圧されたプライマリ圧Ppriを出力する。プライマリ圧Priは、プライマリ圧センサ31により検出される。
セカンダリソレノイド214では、セカンダリ圧Psecを調圧するソレノイドバルブに通電する。セカンダリソレノイド214に設けられた電流センサは、セカンダリソレノイド電流制御部211に電流値を出力する。
セカンダリ圧系215では、セカンダリソレノイド214で調圧されたセカンダリ圧Psecを出力する。セカンダリ圧Psecは、セカンダリ圧センサ32により検出される。
【0020】
セカンダリ圧補償部300では、目標セカンダリ圧Psec*と現在の実セカンダリ圧Psecとの偏差に基づいてセカンダリ補償油圧Pb2を演算し、所定の条件が成立している場合はセカンダリ補償油圧としてPb2を出力し、所定の条件が成立していない場合はセカンダリ補償油圧Pb2の出力を禁止し、代わりに0を出力する。
【0021】
(変速加速度制御処理)
ここで、キックダウン変速時やマニュアルモード変速時のように、ステップ的に急変速する場合の課題について説明する。目標変速比をステップ的に変更する際、変速機コントローラ20によって単に変速制御を実施すると、変速に伴う車両加速度(以下、車両Gと記載する。)の変化を適切にコントロールできないため、運転者に違和感を与えるおそれがあった。図4は、乗り心地を確保するのに必要な変速時に発生する車両Gの変化特性を表す概略図である。図4(a)は、アップシフト時における車両Gの変化特性、図4(b)は、キックダウンなどの急なダウンシフト時における車両Gの変化特性、図4(c)は、加速中における車両Gの変化特性を表す。
【0022】
図4に示すように、アップシフト中の車両Gには、増加率、ツキの高さ、減少率、変速後車両Gの4つのパラメータが存在し、これらを適切に制御することで、車両の乗り心地を確保できることが知られている。同様に、ダウンシフト中であれば、減少率、ダウンシフト中に減少する車両G下限(以下、ヒキの高さと記載する。)、増加率、変速後車両Gの4つのパラメータを適切に制御することが重要であり、加速中であれば、車両Gの高さと、車両Gの変化率(以下、Jerkと記載する。)を制御することが重要である。よって、これらのパラメータを実現可能な目標変速比を演算することが重要である。変速機コントローラ20は、ベルト式無段変速機CVTを目標変速比に基づいて制御し、この変速に伴って車両Gの挙動が決定されるからである。そこで、第1実施例では、目標変速比演算部201において、ステップ的に変速するときの変速後変速比を到達変速比としたとき、到達変速比に向けて変速するときの目標変速比を制御する際、目標の車両の乗り心地を実現するためのJerk上下限規制値を設定し、Jerk上下限規制値より算出した変速加速度上下限規制値で変速加速度を規制する第1上下限規制部503、及び目標変速加速度を積分して目標変速速度を設定する第1積分部510、及び目標変速速度を積分して目標変速比を設定する第2積分部511を設けて、乗り心地を確保することとした。
【0023】
ここで、発明者が鋭意検討した結果、単に変速加速度を所定の変速加速度上下限規制値(第1加速度上下限規制値)で規制した上で変速制御を行うと、目標変速比が到達変速比に到達する周辺でハンチングするという課題を見出した。
そこで、加速度演算部501を設けて、加速度上下限値以内に収まるのに十分応答が遅れるよう固有値ωと減衰率ζを設定し、入力を到達変速比ip_t、出力を目標変速比ip_0、出力の一階微分値を目標変速速度ip'_0とした2次遅れフィルタを作用させ第1暫定変速加速度ip''_t1を演算することで、変速比のハンチングを抑制した。第1暫定変速加速度ip''_t1は下記式より算出する。
ip''_t1 = ω2ip_t - ω2ip_0 - 2ζωip'_0
しかしながら、応答の遅い2次遅れフィルタを作用させると、変速比のハンチングは抑制できたとしても、到達変速比に所望の到達変速速度で到達させる際、変速加速度が2次遅れフィルタの影響で鈍ってしまい、変速加速度が所望の変速加速度規制値とならず、目標のJerkを実現することができない。
【0024】
そこで、第1実施例では、応答の早い2次遅れフィルタを作用させつつ、目標変速加速度を、所定のタイミングで、第1暫定変速加速度ip''_t1を加速度規制値で規制した暫定変速加速度ip''_tから所望の規制値に切り替えるタイミング判定器512と第3加速度選択部507を設けた。尚、第1実施例では二階微分値の算出手法として2次遅れフィルタを用いたが、2次遅れフィルタ以外を用いてもよい。
【0025】
具体的には、現在の目標変速速度をip'_0、到達変速比ip_tに到達するときの到達変速速度をip'_t、変速加速度上下限規制値2つのうちで、到達変速速度ip'_tから現在の目標変速速度ip'_0を引いた値に基づいて、正ならば変速加速度上限規制値、負ならば変速加速度下限規制値を選択したものである追越防止加速度規制値をip''_limとし、追越防止加速度規制値ip''limで等加速度変化したときに現在の目標変速速度ip'_0から到達変速速度ip'_tに到達するまでの時間である速度到達時間t_brkを下記式より演算する。
t_brk=(ip'_0-ip'_t)/ip''_lim
次に、到達変速速度ip'_tに到達した後の変速比である速度到達後変速比ip_brkを下記式より演算する。
ip_brk=ip_0+1/2(ip'_0+ip'_t)t_brk
ここで、速度到達後変速比ip_brkが到達変速比ip_tを追い越してしまう場合、言い換えると、速度到達後変速比ip_brkが到達変速比ip_tに到達したときは、変速加速度の切り替えを指示する。追い越すか否かを判定する追越判定は、下記関係式より判断する。
(ip'_0-ip'_t)*(ip_brk-ip_t)>0
上記条件を満たす場合は、追い越すと判断して目標変速加速度ip''_0を追越防止加速度規制値ip''_limとし、上記条件を満たさない場合は、まだ追い越すことはないと判定して、目標変速加速度ip''_0を第1変速加速度ip''_0とする。
これにより、加速度規制を行ったとしても、適切なタイミングで、目標変速加速度ip''_0を追越防止加速度規制値ip''_limに切り替えることができ、変速比のハンチングを抑制しつつ、変速加速度が所望の変速加速度規制値となり、目標のJerkを実現することができる。
【0026】
ここで、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値が時間変化してしまうと、等加速度変化の前提条件が崩れ、追越判定を判断してから所望の変速加速度規制値である追越防止加速度規制値ip''_limに切り替えても間に合わず、目標変速比が到達変速比を超過してしまい、車両の乗り心地が悪化してしまう。
そこで、追越判定を判断した場合は、追越防止加速度規制値ip''_limに切り替えるのではなく、目標変速比が到達変速比を超過しないような加速度である変速比調整加速度ip''_adjを演算する加速度調整部504を設け、変速比調整加速度ip''_adjに切り替えた。
【0027】
具体的には、ある時間等加速度変化したとき、現在の目標変速速度ip'_0が到達変速速度ip'_tになり、且つ現在の目標変速比ip_0が到達変速比ip_tになるような変速比調整加速度ip''_adjを下記式より演算する。
ip''_adj = (2 ip'_0 (ip'_t - ip'_0) + (ip'_t - ip'_0)2)/(2 (ip_t - ip_0) + st (ip'_t - ip'_0))
そして、追越判定の判断をした場合は、目標変速加速度ip''_0を変速比調整加速度ip''_adjとする。
これにより、加速度規制を行って到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値が時間変化したとしても、適切なタイミングで、目標変速加速度を変速比調整加速度ip''_adjに切り替えることができ、変速比のハンチングを抑制することができる。
【0028】
ここで、変速比調整加速度ip''_adjは追越防止加速度規制値ip''_limを超過する値となるため、一切の超過を許さない変速機保護等の要件を達成できなくなる。
そこで、変速比のハンチング抑制よりも優先させる要件だけで設定するmust変速加速度上下限規制値ip''_must(第2加速度上下限規制値)を新たに設け、全ての要件で設定する変速加速度上下限規制値をwant変速加速度上下限規制値ip''_want(第1加速度上下限規制値)とし、must変速加速度上下限規制値ip''_mustの区間がwant変速加速度上下限規制値ip''_wantの区間を包含するように設定する規制値演算部502と第2上下限規制部509を設け、優先度を付ける。
【0029】
具体的には、want変速加速度上下限規制値ip''_wantを用いて追越防止加速度規制値ip''_limを演算し加速度を切り替えるタイミングを決め、want変速加速度上下限規制値ip''_wantを超過してしまう変速比調整加速度ip''_adjにmust変速加速度上下限規制値ip''_mustで規制をかけるようにする。
これにより、変速比のハンチング抑制よりも優先したい変速機保護等の要件を優先させることができる。
【0030】
ここで、上記式で変速比調整加速度ip''_adjを演算すると、変速比調整加速度ip''_adjで等加速度変化したときの目標変速速度ip'_0が到達変速速度ip'_tになる時間である変速比調整時間t_adjが変速機コントローラ20のサンプリングタイムstの倍数とならないため離散化誤差が生じ、目標変速比が到達変速比を誤差分だけ超過し、微細な変速比のハンチングを生じてしまい、車両の乗り心地が悪化してしまう。
そこで、この離散化誤差が無くなるよう、変速比調整時間t_adjが小さい時は、変速比調整時間t_adjをサンプリングタイムstで量子化して演算した加速度に目標変速加速度ip''_0を切り替えるよう加速度調整部504を変更し、第1加速度選択部505と第2加速度選択部506とを設けた。
【0031】
具体的には、変速比調整時間t_adjを下記式より算出する。
t_adj = (ip'_0 - ip'_t) / ip''_adj
この変速比調整時間t_adjが1サンプリングタイムstより短いときは、ちょうど1サンプリングタイムst後に現在の目標変速速度ip'_0が到達変速速度ip'_tになる加速度である最終変速加速度ip''_lastに切り替える。最終変速加速度ip''_lastは下記式より算出する。 ip''_last = (ip'_0 - ip'_t) / st
また変速比調整時間t_adjが2サンプリングタイム2stより短いときは、ちょうど2サンプリングタイム2st後に現在の目標変速比ip_0が到達変速比ip_tになるような加速度である次最終変速加速度ip''_2nlに切り替える。次最終変速加速度ip''_2nlは下記式より算出する。
ip''_2nl=(ip_t - ip_0 - 2 st*ip'_0) / st2
これにより、加速度調整を終える直前に離散化誤差を解消でき、微細な変速比のハンチングを抑制することができる。
【0032】
ここで、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値が時間変化すると、追越判定がハンチングし、それを受けて決める目標変速加速度ip''_0の値もハンチングしてしまい、車両の乗り心地が悪化してしまう。
そこで、加速度調整を継続させることで加速度の急変を抑制するよう、加速度調整判定を新たに設け、追越判定をON条件とし、これとは別にOFF条件を、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値の時間変化によって到達変速比ip_tに到達するのが過剰に遅くなったことを判定する加速度調整中止判定と加速度調整が正常終了したことを判定する加速度調整正常終了判定に基づいて設定するよう、タイミング判定器512を変更した。
【0033】
具体的には、変速比調整時間t_adjと速度到達時間t_brkの差と閾値t_θを用いて加速度調整中止判定を下記式より判断する。
t_adj - t_brk < t_θ
また、変速比調整時間t_adjを用いて加速度調整正常終了判定を下記式より判断する。
t_adj <= 0
この加速度調整中止判定か加速度調整正常終了判定のいずれかが成立したとき、加速度調整判定のOFF条件を成立する。
これにより、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値が時間変化しても、加速度調整判定のハンチングが抑圧され、変速加速度の急変を抑圧することができる。
【0034】
ここで、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値の時間変化が大きくハンチングすると、上記加速度調整判定がハンチングし、それを受けて決める目標変速加速度ip''_0の値もハンチングしてしまい、車両の乗り心地が悪化してしまう。
そこで、加速度調整中止判定で加速度調整を終了した時に限り、変速加速度変化率を規制し、変速加速度の急変を防止するフィルタ部508を設けた。
【0035】
具体的には、変速加速度変化率を実行する加速度変化率規制判定のON条件に加速度調整中止判定を用い、これとは別に、加速度調整正常終了判定と加速度調整判定のいずれかが成立したとき、加速度変化率規制判定のOFF条件を成立させる。加速度変化率規制判定のON条件が不成立であっても、前回の制御周期において加速度変化率規制判定がONの場合、加速度変化率規制判定のOFF条件が非成立なら加速度変化率規制判定をONのままにし、加速度変化率規制判定のOFF条件が成立なら加速度変化率規制判定をOFFにする。加速度変化率規制判定がONのときは、変速加速度変化率の規制として、変化率を一定値以内となるように直接規制してもよいし、0~1の移行率を設定してもよいし、遅れフィルタによって規制してもよい。尚、第1暫定変速加速度ip''_t1から暫定変速加速度ip''_tを求めるのに、第1実施例では第1上下限規制部503の直前にフィルタ部508を配置したが、第2実施例のように第1上下限規制部503の直後に配置してもよい。
【0036】
これにより、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値の時間変化が起きなかった場合の変速比ハンチング抑圧の効果を減らすことなく、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値の時間変化によって加速度調整判定がハンチングした際の変速加速度の急変を抑圧することができる。
【0037】
以下、上記設計思想に基づいて、より具体的な制御構成を下記に説明する。
図5は、第1実施例の目標変速比演算処理を表す制御ブロック図である。
第1積分部510では、目標変速加速度ip''_0を積分して目標変速速度ip'_0を演算する。
第2積分部511では、目標変速速度ip'_0を積分して目標変速比ip_0を演算する。
加速度演算部501では、入力を到達変速比ip_t、出力を目標変速比ip_0、出力の一階微分値を目標変速速度ip'_0、所定の固有値ω、所定の減衰率ζとし、2次遅れフィルタを構成することで、出力の二階微分値である第1暫定変速加速度ip''_t1を下記式より算出する。
ip''_t1 = ω2ip_t - ω2ip_0 - 2ζωip'_0
尚、第1実施例では二階微分値の算出手法として2次遅れフィルタを用いたが、2次遅れフィルタ以外を用いてもよい。規制値演算部502では、must変速加速度上下限規制値ip''_must及びwant変速加速度上下限規制値ip''_wantを演算する。
【0038】
加速度調整部504では、以下の演算を行う。
(A)ip_tにip'_t(=0)で到達するような加速度である変速比調整加速度ip''_adjを下記式より算出する。
ip''_adj=(2ip'_0(ip'_t-ip'_0)+(ip'_t-ip'_0)2)/(2(ip_t-ip_0)+st(ip'_t-ip'_0))
(B)ip_tにip'_t(=0)で到達するまでの時間である変速比調整時間t_adjを下記式より算出する。
t_adj=(ip'_0-ip'_t)/ip''_adj
(C)ちょうど1サンプリングタイムst後に現在の目標変速速度ip'_0が到達変速速度ip'_t(=0)になる加速度である最終変速加速度ip''_lastを、下記式より算出する。
ip''_last=(ip'_0-ip'_t)/st
(D)ちょうど2サンプリングタイム2st後に現在の目標変速比ip_0が到達変速比ip_tになるような加速度である次最終変速加速度ip''_2nlを、下記式より算出する。
ip''_2nl=(ip_t-ip_0-2st*ip'_0)/st2
【0039】
第1加速度選択部505では、変速比調整時間t_adjが1サンプリングタイムstより短いか否かを判断し、短い場合は最終変速加速度ip''_lastを出力し、st以上の場合は次最終変速加速度ip''_2nlを出力する。
第2加速度選択部506では、変速比調整時間t_adjが2サンプリングタイム2stより短いか否かを判断し、短い場合は第1加速度選択部505から出力された加速度を出力し、2st以上の場合は変速比調整加速度ip''_adjを出力する。
第2上下限規制部509では、第2加速度選択部506から出力された加速度にmust規制値ip''_mustにより規制した第2暫定変速加速度ip''_t2を第3加速度選択部507に出力する。
第3加速度選択部507では、加速度調整判定フラグがOFFの場合は暫定変速加速度ip''_tを出力し、加速度調整判定フラグがONの場合は第2上下限規制部509から出力された第2暫定変速加速度ip''_t2を出力する。
【0040】
タイミング判定器512では、加速度調整判定フラグのONもしくはOFFを設定する。
現在の目標変速速度をip'_0、到達変速比ip_tに到達するときの到達変速速度をip'_t、変速加速度上下限規制値2つのうちで、到達変速速度ip'_tから現在の目標変速速度ip'_0を引いた値に基づいて、正ならば変速加速度上限規制値、負ならば変速加速度下限規制値を選択したものである追越防止加速度規制値をip''_limとし、追越防止加速度規制値ip''limで等加速度変化したときに現在の目標変速速度ip'_0から到達変速速度ip'_tに到達するまでの時間である速度到達時間t_brkを下記式より演算する。
t_brk=(ip'_0-ip'_t)/ip''_lim
次に、到達変速速度ip'_tに到達した後の変速比である速度到達後変速比ip_brkを下記式より演算する。
ip_brk=ip_0+1/2(ip'_0+ip'_t)t_brk
ここで、速度到達後変速比ip_brkと到達変速比ip_tを用いて追越判定を下記の式により判定する。
(ip'_0-ip'_t)*(ip_brk-ip_t)>0
上記関係式が成立するときは、加速度調整判定フラグをONとする。また、変速比調整時間t_adjと速度到達時間t_brkの差と閾値t_θを用いて加速度調整中止判定を下記式より判断する。
t_adj-t_brk<t_θ
また、変速比調整時間t_adjを用いて加速度調整正常終了判定を下記式より判断する。
t_adj <= 0
この加速度調整中止判定か加速度調整正常終了判定のいずれかが成立したとき、加速度調整判定フラグのOFF条件を成立させる。加速度調整判定フラグのON条件が不成立であっても、前回の制御周期において加速度調整判定フラグがONの場合、加速度調整判定フラグのOFF条件が非成立なら加速度調整判定フラグをONのままにし、加速度調整判定フラグのOFF条件が成立なら加速度調整判定フラグをOFFにする。
【0041】
フィルタ部508では、加速度変化率規制判定フラグのONもしくはOFFを設定し、加速度変化率規制判定フラグがONのときは加速度演算部501から出力された第1暫定変速加速度ip''_t1の変速加速度変化率に所定の規制をかけ、第3暫定変速加速度ip''_t3を算出する。変速加速度変化率を実行する加速度変化率規制判定フラグのON条件に加速度調整中止判定を用い、これとは別に、加速度調整正常終了判定と加速度調整判定フラグのいずれかが成立したとき、加速度変化率規制判定フラグのOFF条件を成立させる。加速度変化率規制判定フラグのON条件が不成立であっても、前回の制御周期において加速度変化率規制判定フラグがONの場合、加速度変化率規制判定フラグのOFF条件が非成立なら加速度変化率規制判定フラグをONのままにし、加速度変化率規制判定フラグのOFF条件が成立なら加速度変化率規制判定フラグをOFFにする。変速加速度変化率の規制としては、変化率を一定値以内となるように直接規制してもよいし、0~1の移行率を設定してもよいし、遅れフィルタによって規制してもよい。尚、第1実施例では、第1上下限規制部503の直前にフィルタ部508を配置したが、第2実施例のように第1上下限規制部503の直後に配置してもよい。
【0042】
第1上下限規制部503では、フィルタ部508から出力された第3暫定変速加速度ip''_t3をwant変速加速度上下限規制値ip''_wantで規制した暫定変速加速度ip''_tを演算する。
【0043】
図6図7は、第1実施例の目標変速比演算処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、到達変速比ip_tを算出する。尚、到達変速比ip_tとは、マニュアルモードでアップシフト要求もしくはダウンシフト要求がなされた場合や、キックダウンによる急激なダウンシフト等によってステップ的に設定される変速比である。
ステップS2では、到達変速速度ip'_tを算出する。第1実施例では、到達変速速度ip'_tを常時0に設定しておくが、適宜所望の値に設定しても良い。
ステップS3では、前回の制御周期における目標変速速度を積分して現在の目標変速比ip_0を算出する(第2積分部511に相当)。
ステップS4では、前回の制御周期における目標変速加速度を積分して現在の目標変速速度ip'_0を算出する(第1積分部510に相当)。
ステップS5では、到達変速比ip_tに基づいて2次遅れフィルタを作用させて第1暫定変速加速度ip''_t1を演算する。
【0044】
ステップS6では、must規制値ip''_mustを算出する。
ステップS7では、want規制値ip''_wantを算出する。
このステップS6及びS7が図5の規制値演算部502に相当する。
ステップS8では、ip_tにip'_t(=0)で到達するような加速度である変速比調整加速度ip''_adjを下記式より算出する。
ip''_adj=(2ip'_0(ip'_t-ip'_0)+(ip'_t-ip'_0)2)/(2(ip_t-ip_0)+st(ip'_t-ip'_0))
ステップS9では、ip_tにip'_t(=0)で到達するまでの時間である変速比調整時間t_adjを下記式より算出する。
t_adj=(ip'_0-ip'_t)/ip''_adj
【0045】
ステップS10では、ちょうど2サンプリングタイム2st後に現在の目標変速比ip_0が到達変速比ip_tになるような加速度である次最終変速加速度ip''_2nlを、下記式より算出する。
ip''_2nl=(ip_t-ip_0-2st*ip'_0)/st2
ステップS11では、ちょうど1サンプリングタイムst後に現在の目標変速速度ip'_0が到達変速速度ip'_t(=0)になる加速度である最終変速加速度ip''_lastを、下記式より算出する。
ip''_last=(ip'_0-ip'_t)/st
【0046】
ステップS12では、追越防止加速度規制値をip''_limを算出する。
【0047】
ステップS13では、want規制値ip''_wantにおいて到達変速速度ip'_t(=0)に調整するまでの時間である速度到達時間t_brkを下記式より算出する。
t_brk=(ip'_0-ip'_t)/(ip''_want)
ステップS14では、want規制値ip''_wantにおいて到達変速速度ip'_t(=0)に調整した
後の変速比である速度到達後変速比ip_brkを下記式より算出する。
ip_brk=ip_0+1/2*(ip'_0+ip'_t)*t_brk
【0048】
ステップS15では、加速度調整中止判定を判断し、加速度調整中止と判定した場合はステップS19に進み、それ以外の場合はステップS16に進む。
ステップS16では、加速度調整正常終了判定を行い、正常に終了した場合はステップS19に進み、それ以外の場合はステップS17に進む。
ステップS17では、速度到達後変速比ip_brkと到達変速比ip_tを用いて追越判定を下記の式により判定する。
(ip'_0-ip'_t)*(ip_brk-ip_t)>0
上記関係式が成立するときは、速度調整後変速比ip_brkが到達変速比ip_tを追い越してしまうため、加速度調整が必要と判断してステップS28に進み、それ以外の場合はステップS19に進む。
【0049】
ステップS18では、前回の制御周期において加速度調整を実施し、かつ、変速比調整時間t_adjと速度到達時間t_brkの差が閾値t_θより大きいか否かを判断し、大きい場合は、速度到達後変速比ip_brkが到達変速比ip_tを追い越したとしても、加速度調整を継続した方が、加速度の急変を抑制できると判断してステップS28に進み、それ以外はステップS19に進む。
【0050】
ステップS19では、加速度調整判定フラグをOFFとして加速度調整判定が非成立と判定する。
ステップS20では、第1暫定変速加速度ip''_t1を選択する。
ステップS21では、ステップS16で算出した加速度調整正常終了判定から判断し、正常に終了した場合はステップS24に進み、それ以外の場合はステップS22に進む。
ステップS22では、ステップS15で算出した加速度調整中止判定から、加速度調整中止判定が成立したときはステップS25に進み、それ以外の場合はステップS24に進む。
ステップS23では、前回の制御周期において加速度変化率規制判定がONか否かを判断し、ONすなわち成立している場合はステップS25に進み、OFFの場合はステップS24に進む。
【0051】
ステップS24では、加速度変化率規制判定をOFFとして非成立とする。
ステップS241では、第1暫定変速加速度ip''_t1を選択する。
ステップS25では、加速度変化率規制判定をONとして成立とする。
ステップS26では、第1暫定変速加速度ip''_t1に加速度変化率規制をかけて第3暫定変速加速度ip''_t3を算出する。
ステップS261では、第3暫定変速加速度ip''_t3を選択する。
ステップS27では、選択された加速度(ip''_t1,ip''_t3のいずれか)にwant規制値ip''_wantを用いて規制し、暫定変速加速度ip''_tを算出する。
ステップS271では、目標変速加速度ip''_0として暫定変速加速度ip''_tを選択する。
【0052】
ステップS28では、加速度調整判定フラグをONとして加速度調整判定が成立と判定する。
ステップS29では、変速比調整時間t_adjが1サンプリングタイムstより短いか否かを判断し、短い場合はステップS30に進んで最終変速加速度ip''_lastを選択する。すなわち、上述のように、加速度調整を行っても、離散系の場合、変速調整時間t_adjが1サンプリングタイムと一致していない場合、最後の1job(制御周期1つ分)で到達変速速度ip''_t(=0)にならない。そこで、変速調整時間t_adjが1サンプリングタイム以内なら、ちょうど1サンプリングタイム後に到達変速速度ip'_t(=0)に到達するように加速度を調整する。
【0053】
ステップS31では、変速比調整時間t_adjが2サンプリングタイム2stより短いか否かを判断し、短い場合はステップS33に進んで次最終変速加速度ip''_n2lを選択する。すなわち、上述のように、加速度調整を行っても、離散系の場合、到達変速比に到達変速速度で到達しようとする最後で到達変速比にならない。そこで、変速調整時間t_adjが2サンプリングタイム以内なら、ちょうど2サンプリングタイム後に到達変速比ip_tに到達するように加速度を調整する。
【0054】
ステップS32では、変速比調整加速度ip''_adjを選択する。
ステップS34では、加速度調整判定フラグをOFFとして加速度調整判定が非成立と判定する。
ステップS35では、選択された加速度(ip''_adj, ip''_2nl, ip''_lastのいずれか)にmust規制値ip''_mustを用いて目標変速加速度を規制し、第2暫定変速加速度ip''_t2を算出する。
ステップS351では、目標変速加速度ip''_0として第2暫定変速加速度ip''_t2を選択する。
【0055】
以上説明したように、第1実施例では、下記の作用効果が得られる。
(1)プライマリプーリ3と、セカンダリプーリ5と、両プーリに巻回されたベルト4と、前記プライマリプーリ3及び前記セカンダリプーリ5に制御油圧を供給するコントロールバルブユニット30(油圧制御ユニット)と、
走行状態または運転者の変速意図に基づいて到達すべき到達変速比ip_tを設定し、到達変速比ip_tに向けて変速するための目標変速比ip_0を演算し、実変速比ipと目標変速比ip_0との偏差に基づいてコントロールバルブユニット30を制御する変速機コントローラ20(コントローラ)と、
を備えたベルト式無段変速機CVTであって、
変速機コントローラ20は、到達変速比ip_tと現在の目標変速比に基づいて二階微分した暫定第1変速加速度ip''t1をwant変速加速度上下限規制値ip''_want(第1加速度上下限規制値)で規制した第1変速加速度ip''tを目標変速加速度ip''_0とし、該目標変速加速度ip''_0を積分して目標変速速度ip'_0を設定し、到達変速比ip_tに到達するときの予め設定された到達変速速度ip'_tと目標変速速度ip'_0(実施形態では0に設定)の差に基づいてwant変速加速度上下限規制値ip''_wantのうちから一つを選択したものを追越防止加速度規制値ip''_limとし、目標変速速度ip'_0が追越防止加速度規制値ip''_limで到達変速速度ip'_tとなるまでの速度到達時間t_brkを演算し、該速度到達時間t_brkの間に到達する速度到達後変速比ip_brkが到達変速比ip_tに到達したという追越判定を判断したときは、暫定変速加速度ip''tに代えて、追越防止加速度規制値ip''_limを目標変速加速度ip''_0として目標変速比ip_0を設定する。
よって、加速度規制を行ったとしても、到達変速比付近での変速比のハンチングを抑制しつつ、所望の変速加速度で制御することができ、乗り心地を向上できる。
【0056】
(2)変速機コントローラ20は、追越判定を判断したときは、第1変速加速度に代えて、等加速度変化をしてある時間経過したときの目標変速速度ip'_0が到達変速速度ip'_tになり、且つそのときの目標変速比ip_0が到達変速比ip_tになるような変速加速度である変速比調整加速度ip''_adjを目標変速加速度とする。
これにより、加速度規制を行って到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値が時間変化したとしても、適切なタイミングで、目標変速加速度を変速比調整加速度ip''_adjに切り替えることができ、変速比のハンチングを抑制できる。
【0057】
(3)変速機コントローラ20は、want変速加速度上下限規制値ip''_want(第1加速度上下限規制値)の区間を包含するmust変速加速度上下限規制値ip''_must(第2加速度上下限規制値)を設定し、変速比調整加速度ip''_adjをmust変速加速度上下限規制値ip''_mustで規制する。
これにより、変速比のハンチング抑制よりも優先したい変速機保護等の要件を優先させることができる。
【0058】
(4)変速機コントローラ20は、変速比調整加速度ip''_adjで等加速度変化したときの目標変速速度ip'_0が到達変速速度ip'_tになる時間である変速比調整時間t_adjと、等加速度変化をして1サンプリングタイムst経過したときの目標変速速度ip'_0が到達変速速度ip'_tになる加速度である最終変速加速度ip''_lastと、等加速度変化をして1サンプリングタイムst経過したときの目標変速比ip_0が到達変速比ip_tになるような加速度である次最終変速加速度ip''_2nlを算出し、追越判定を判断したときは、該変速比調整時間t_adjが変速機コントローラ20の1サンプリングタイムst以下の場合は、最終変速加速度ip''_lastを目標変速加速度ip''_0とし、該変速比調整時間t_adjが変速機コントローラ20の1サンプリングタイムstより大きく2サンプリングタイム2st以下の場合は、次最終変速加速度ip''_2nlを目標変速加速度ip''_0とし、それ以外の場合は変速比調整加速度ip''_adjを目標変速加速度ip''_0とする。
これにより、加速度調整を終える直前に離散化誤差を解消でき、微細な変速比のハンチングを抑制することができる。
【0059】
(5)変速機コントローラ20は、追越判定をON条件とし、変速比調整時間t_adjと速度到達時間t_brkの差に基づいた加速度調整中止判定と、変速比調整時間t_adjに基づいた加速度調整正常終了判定の2つをOFF条件とする加速度調整判定を判定し、追越判定に代わり、該加速度調整判定に基づいて目標加速度を切り替える。
これにより、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値が時間変化しても、加速度調整判定のハンチングが抑圧され、変速加速度の急変を抑圧することができる。
【0060】
(6)変速機コントローラ20は、加速度調整中止判定によって加速度調整を終了する時に限り、目標変速加速度ip''_0の変化速度を規制するフィルタ部508(フィルタ)を備えた。
これにより、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値の時間変化が起きなかった場合の変速比ハンチング抑圧の効果を減らすことなく、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値の時間変化によって加速度調整判定がハンチングして際の変速加速度の急変を抑圧することができる。
【0061】
(7)変速機コントローラ20は、want規制値ip''_wantを、目標とする車両Gの変化率Jerk_tに基づいて設定する。
よって、車両Gのツキの高さ・増加率・減少率・変速後の車両Gの4つをコントロールすることができ、ステップ的に変速する場合などの急変速時であっても、乗り心地を向上できる。
【0062】
[第2実施例]
次に、第2実施例について説明する。基本的な構成は、第1実施例と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。第1実施例では、加速度調整中止判定で加速度調整を終了した時に限り、変速加速度変化率を規制し、変速加速度の急変を防止するフィルタ部508を第1上下限規制部503の直前に配置した。これに対し、第2実施例では、第1上下限規制部503の直後にフィルタ部508を配置した点が異なる。
図8は、第2実施例の目標変速比演算処理のうち、第1実施例と異なる部分を表すフローチャートである。第1実施例のステップS24~S27の異なる部分のみ説明する。尚、同じステップには、同じステップ番号を付す。
【0063】
ステップS20では、第1暫定変速加速度ip''_t1を選択する。
ステップS201では、want規制値ip''_wantを用いて規制し、暫定変速加速度ip''tを算出する。
ステップS24では、加速度変化率規制判定をOFFとして非成立とする。
ステップS25では、加速度変化率規制判定をONとして成立とする。
ステップS251では、暫定変速加速度ip''_tに加速度変化率規制をかけて、第3暫定変速加速度ip''_t3を算出する。
ステップS252では、目標変速加速度ip''_0として第3暫定変速加速度ip''_t3を選択する。
【0064】
これにより、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値の時間変化が起きなかった場合の変速比ハンチング抑圧の効果を減らすことなく、到達変速比ip_tや変速加速度上下限規制値の時間変化によって加速度調整判定がハンチングして際の変速加速度の急変を抑圧することができる。
【0065】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。第1実施例では、トルクコンバータを備えていない車両について説明したが、トルクコンバータを備えていてもよい。また、動力源として内燃機関であるエンジンのみを備えた構成を例示したが、電動モータを備えたハイブリッド車両等に適用してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8