(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテル化合物、潤滑剤および磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
C07C 43/225 20060101AFI20221116BHJP
C10M 105/54 20060101ALI20221116BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20221116BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20221116BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20221116BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221116BHJP
【FI】
C07C43/225 C CSP
C10M105/54
G11B5/725
G11B5/84 Z
C10N40:18
C10N30:00 Z
(21)【出願番号】P 2021525959
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2020019683
(87)【国際公開番号】W WO2020250627
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019107981
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】清水 豪
(72)【発明者】
【氏名】木村 彰憲
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/087615(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154403(WO,A1)
【文献】特開2013-163667(JP,A)
【文献】特開平2-62551(JP,A)
【文献】特開平9-35252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 43/225
C10M 105/54
G11B 5/725
G11B 5/84
C10N 40/18
C10N 30/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、パーフルオロポリエーテル化合物:
R
1-OCH
2CH(OH)CH
2OCH
2-R
2-R
3・・・(1)
式(1)中、R
1は、C
10H
7-で表されるナフチル基またはC
6H
5-OC
6H
4-で表されるフェノキシフェニル基であり、
R
2は-(CF
2)
x(CF(CF
3))
yO(CF
2O)
z(CF
2CF
2O)
l(CF
2CF
2CF
2O)
m(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
n(CF(CF
3)CF
2O)
o(CF(CF
3))
y(CF
2)
x-であり、xは0~3の実数であり、yは0~1の実数であり、z、l、m、n、oは、それぞれ0~15の実数であり、ただし、x、yのいずれか一方は1以上の実数であり、かつ、z、l、m、n、oの少なくともいずれか1つは1以上の実数であり、
R
3は-CH
2OCH
2CH(OH)CH
2O-C
10H
7で表されるナフチル基を有する炭化水素基、-CH
2OCH
2CH(OH)CH
2O-C
6H
4-OC
6H
5で表されるフェノキシフェニル基を有する炭化水素基、-CH
2OCH
2CH(OH)CH
2O-C
6H
4-OMeで表されるメトキシフェニル基を持つ炭化水素基、または-CH
2O(CH
2CH(OH)CH
2O)
tHもしくは-(CF
2)
uCF
3であり、ここでtは0~5の実数であり、uは0~3の実数である。
【請求項2】
請求項1に記載のパーフルオロポリエーテル化合物を含む、潤滑剤。
【請求項3】
記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層された磁気ディスクであって、
前記潤滑層は、請求項2に記載の潤滑剤を含む、磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーフルオロポリエーテル化合物、潤滑剤および磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクにおいては、基板上に形成された記録層の上に、記録層に記録された情報を保護するための保護層が形成され、当該保護層の上にさらに潤滑層が設けられた構成が主流である。
【0003】
磁気ディスクの記録密度を増大させるためには、ディスク表面に塗布される潤滑層をより薄膜化することが求められる。
【0004】
磁気ディスク用表面潤滑剤に関する従来技術として、例えば特許文献1~4に記載の技術が知られている。特許文献1~4には種々のパーフルオロポリエーテル化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2009/066784号
【文献】特開2013-163667号公報
【文献】特開2009-266360号公報
【文献】国際公開第2015/087615号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
潤滑層を薄膜化すると、表面エネルギーの高いディスク表面の炭素保護膜(上述の保護層)が一部露出し、シロキサンなどの異物が付着し得る。上記異物の付着は、ヘッドの低浮上化を妨げる要因となるため、薄膜においても被覆性が良く、シロキサンが炭素保護膜に付着しにくい潤滑剤が求められる。
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、炭素保護膜、すなわち炭素材料表面を十分に被覆することによってシロキサンの吸着を防ぐという観点から、未だ改善の余地があった。
【0008】
本発明の一態様は、磁気ディスク、特に炭素保護膜に対する高い吸着性および被覆性を有する潤滑剤を実現できる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ナフチル基またはフェノキシフェニル基といった多環芳香族置換基を有する化合物が、吸着性に優れ、且つ、良好なシロキサン耐性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の態様を含む。
<1>下記式(1)で表される、パーフルオロポリエーテル化合物:
R1-OCH2CH(OH)CH2OCH2-R2-R3・・・(1)
式(1)中、R1は、C10H7-で表されるナフチル基またはC6H5-OC6H4-で表されるフェノキシフェニル基であり、
R2は-(CF2)x(CF(CF3))yO(CF2O)z(CF2CF2O)l(CF2CF2CF2O)m(CF2CF2CF2CF2O)n(CF(CF3)CF2O)o(CF(CF3))y(CF2)x-であり、xは0~3の実数であり、yは0~1の実数であり、z、l、m、n、oは、それぞれ0~15の実数であり、ただし、x、yのいずれか一方は1以上の実数であり、かつ、z、l、m、n、oの少なくともいずれか1つが1以上の実数であり、
R3は-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C10H7で表されるナフチル基を有する炭化水素基、-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C6H4-OC6H5で表されるフェノキシフェニル基を有する炭化水素基、-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C6H4-OMeで表されるメトキシフェニル基を持つ炭化水素基、または-CH2O(CH2CH(OH)CH2O)tHもしくは-(CF2)uCF3であり、ここでtは0~5の実数であり、uは0~3の実数である。
<2><1>に記載のパーフルオロポリエーテル化合物を含む、潤滑剤。
<3>記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層された磁気ディスクであって、
前記潤滑層は、<2>に記載の潤滑剤を含む、磁気ディスク。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、磁気ディスク、特に炭素保護膜に対する高い吸着性および被覆性を有する潤滑剤を実現できる化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0013】
〔1.パーフルオロポリエーテル化合物〕
本発明の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル化合物は、下記式(1)で表される構造を有する。
R1-OCH2CH(OH)CH2OCH2-R2-R3・・・(1)
式(1)中、R1は、C10H7-で表されるナフチル基またはC6H5-OC6H4-で表されるフェノキシフェニル基であり、
R2は-(CF2)x(CF(CF3))yO(CF2O)z(CF2CF2O)l(CF2CF2CF2O)m(CF2CF2CF2CF2O)n(CF(CF3)CF2O)o(CF(CF3))y(CF2)x-であり、xは0~3の実数であり、yは0~1の実数であり、z、l、m、n、oは、それぞれ0~15の実数であり、ただし、x、yのいずれか一方は1以上の実数であり、かつ、z、l、m、n、oの少なくともいずれか1つが1以上の実数であり、
R3は-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C10H7で表されるナフチル基を有する炭化水素基、-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C6H4-OC6H5で表されるフェノキシフェニル基を有する炭化水素基、-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C6H4-OMeで表されるメトキシフェニル基を持つ炭化水素基、または-CH2O(CH2CH(OH)CH2O)tHもしくは-(CF2)uCF3であり、ここでtは0~5の実数であり、uは0~3の実数である。
【0014】
本発明者らはシロキサンを呼び込みにくい潤滑剤を開発するため、様々な置換基をもつモデル化合物のシミュレーションおよび少量試作を行った。その結果、本発明者らは、ナフチル基またはフェノキシフェニル基といった多環芳香族置換基を有する化合物が、吸着性に優れ、且つ、良好なシロキサン耐性を示すことを見出した。そこで、本発明者らはこれらの置換基を導入した潤滑剤を合成し、種々の検討を加え、その最適化を行い、吸着性に優れ、且つ、シロキサン耐性が良好である条件を見出した。当該潤滑剤は、磁気ディスクを効率的に被覆する膜を形成するがゆえに、良好なシロキサン耐性を示す。
【0015】
本明細書中、「吸着性に優れる」潤滑剤かどうかは、実施例に記載の吸着性評価を行うことにより、評価することができる。本明細書中、「被覆性に優れる」潤滑剤かどうかは、実施例に記載のシロキサン耐性の評価を行うことにより、評価することができる。シロキサン耐性の評価は、磁気ディスクの製造工程においてコンタミネーションし得る代表的な不純物であるシロキサンが炭素保護層にどれだけ付着しやすいかを評価する。
【0016】
本発明の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル化合物は、前記式(1)で表されるものであれば特に限定されるものではなく、上述したR1~R3の任意の組み合わせを含むものである。
【0017】
R2としては、例えば、デムナム骨格:-CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2-、フォンブリン骨格:-CF2O-(CF2O)z(CF2CF2O)lCF2-、C2骨格:-CF2O-(CF2CF2O)lCF2-、C4骨格:-CF2CF2CF2O-(CF2CF2CF2CF2O)nCF2CF2CF2-、クライトックス骨格:CF(CF3)O-(CF(CF3)CF2O)oCF(CF3)-が挙げられる。前記骨格中、z、l、m、n、oは1~15の実数である。なお、フォンブリン骨格においてCF2OとCF2CF2Oとはランダムに繰り返され得る。
【0018】
R3としては、例えば、-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C10H7で表されるナフチル基を有する炭化水素基、-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C6H4-OC6H5で表されるフェノキシフェニル基を有する炭化水素基、-CH2OCH2CH(OH)CH2O-C6H4-OMeで表されるメトキシフェニル基を有する炭化水素基、-CH2OCH2CH(OH)CH2OHで表されるジヒドロキシプロポキシ基を有する炭化水素基、-CF3で表されるトリフルオロメチル基が挙げられる。R3は、好ましくは、ナフチル基を有する炭化水素基、フェノキシフェニル基を有する炭化水素基、ジヒドロキシプロポキシ基を有する炭化水素基である。
【0019】
〔2.パーフルオロポリエーテル化合物の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル化合物の製造方法は、特に限定されるものではない。前記パーフルオロポリエーテル化合物は、例えば、末端にヒドロキシ基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)と、エポキシ基を有するナフタレン誘導体(A)またはフェノキシベンゼン誘導体(B)とを反応させることにより得られる。
【0020】
例えば、デムナム骨格を有するパーフルオロポリエーテル化合物を得る場合は、末端にヒドロキシ基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)として、HOCH2-CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)vCF2CF2-CH2OHで示される化合物を例示できる。この直鎖フルオロポリエーテルの数平均分子量は好ましくは500~4000、より好ましくは800~2000である。ここで数平均分子量は日本電子製JNM-ECX400による19F-NMRによって測定された値である。NMRの測定において、試料(直鎖フルオロポリエーテル)を溶媒へは希釈せず、試料そのものを測定に使用する。ケミカルシフトの基準は、フルオロポリエーテルの骨格構造の一部である既知のピークをもって代用する。vは、1~15の実数であり、好ましくは3~12の実数である。vが3~12の実数の場合、分子鎖がより平坦となるため好ましい。
【0021】
なお、デムナム骨格以外の骨格を有するパーフルオロポリエーテル化合物を得る場合は、所望の骨格を有し、且つ、末端にヒドロキシ基を有する直鎖フルオロポリエーテルを同様に用いることができる。
【0022】
また、上記直鎖フルオロポリエーテル(a)は、両末端にヒドロキシ基を有していてもよく、一方の末端にヒドロキシ基を有し、もう一方の末端に上述のR3に例示されるトリフルオロメチル基等を有していてもよい。
【0023】
上記直鎖フルオロポリエーテル(a)は、分子量分布を有する化合物であり、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(PD)として、好ましくは1.0~1.5であり、より好ましくは1.0~1.3であり、さらに好ましくは1.0~1.1である。なお、当該分子量分布は、東ソー製HPLC-8220GPCを用いて、ポリマーラボラトリー製のカラム(PLgel Mixed E)、溶離液としてはHCFC系代替フロン、基準物質としては無官能のパーフルオロポリエーテルを使用して得られる特性値である。
【0024】
エポキシ基を有するナフタレン誘導体(A)またはフェノキシベンゼン誘導体(B)の合成方法は特に限定されない。例えば、ヒドロキシ基を有するナフタレン化合物またはフェノキシベンゼン化合物と、エポキシ基を有するハロゲン化アルカンとをt-ブトキシナトリウム、t-ブトキシカリウムなどのアルカリ化合物存在下で加熱撹拌する。反応温度は好ましくは10~90℃、より好ましくは60~80℃である。反応時間は好ましくは2~20時間、より好ましくは10~18時間である。エポキシ基を有するハロゲン化アルカンの使用量は、ヒドロキシ基を有するナフタレン化合物またはフェノキシベンゼン化合物に対して20~30当量であることが好ましい。アルカリ化合物の使用量は、ヒドロキシ基を有するナフタレン化合物またはフェノキシベンゼン化合物に対して1.0~2.0当量であることが好ましい。その後、得られた反応産物を、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、(A)または(B)を得る。
【0025】
ヒドロキシ基を有するナフタレン化合物としてはC10H7-OH、ヒドロキシ基を有するフェノキシベンゼン化合物としてはC6H5-OC6H4-OHなどを挙げることができる。
【0026】
エポキシ基を有するハロゲン化アルカンとしてはAY(Aは炭素数1~5のアルキル、Yは塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンを示す)で表される化合物を例示できる。具体的にはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどを挙げることができる。
【0027】
本発明の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル化合物は、具体的には以下の方法により合成され得る。まず、末端にヒドロキシ基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)と、(A)または(B)とを触媒の存在下で反応させる。反応温度は20~90℃、好ましくは60~80℃である。反応時間は、5~20時間、好ましくは10~18時間である。上記(a)に対して、(A)または(B)を0.3~3.0当量、触媒を0.05~0.5当量使用することが好ましい。触媒としてt-ブトキシナトリウム、t-ブトキシカリウムなどのアルカリ化合物を用いることができる。上記反応は溶剤中で行ってもよい。溶剤としてt-ブチルアルコール、トルエン、キシレンなどを用いることができる。その後、得られた反応産物を例えば水洗、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製する。これにより上述の式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物が得られる。
【0028】
〔3.潤滑剤〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、上述の本発明の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル化合物を含む。上述のパーフルオロポリエーテル化合物は、単独で潤滑剤として用いることもできる。また、上記潤滑剤はその性能を損なわない範囲でパーフルオロポリエーテル化合物とその他の成分とを任意の比率で混合して用いることもできる。
【0029】
前記その他の成分としては、Fomblin(登録商標) Zdol(Solvay Solexis製)、Ztetraol(Solvay Solexis製)、Demnum(登録商標)(ダイキン工業製)、Krytox(登録商標)(Dupont製)等の公知の磁気ディスク用潤滑剤、PHOSFAROL A20H(MORESCO PHOSFAROL A20H)(MORESCO製)、MORESCO PHOSFAROL D-4OH(MORESCO製)等が挙げられる。
【0030】
当該潤滑剤は、磁気ディスクの摺動特性を向上させるための記録媒体用潤滑剤として用いられ得る。また、当該潤滑剤は、磁気ディスク以外にも磁気テープ等の記録媒体とヘッドとの間に摺動が伴う他の記録装置における記録媒体用潤滑剤としても用いられ得る。さらに、当該潤滑剤は、記録装置に限らず、摺動を伴う部分を有する機器の潤滑剤としても用いられ得る。
【0031】
〔4.磁気ディスク〕
本発明の一実施形態に係る磁気ディスク1は、
図1に示されるように、非磁性基板8の上に配置された記録層4、保護膜層(保護層)3および潤滑層2を含む。前記潤滑層2は、上述の潤滑剤を含んでいる。
【0032】
また別の実施形態においては、磁気ディスクは、
図2に示される磁気ディスク1のように、記録層4の下に配置される下層5、下層5の下に配置される1層以上の軟磁性下層6、および1層以上の軟磁性下層6の下に配置される接着層7を含むことができる。これらの層のすべては、一実施形態においては、非磁性基板8の上に形成することができる。
【0033】
潤滑層2以外の磁気ディスク1の各層は、磁気ディスクの個別の層に好適であると当該技術分野において知られている材料を含むことができる。例えば、記録層4の材料としては、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素にクロム、白金、タンタル等を加えた合金、またはその酸化物が挙げられる。また、保護層3の材料としては、カーボン、Si3N4、SiC、SiO2等が挙げられる。非磁性基板8の材料としては、アルミニウム合金、ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0034】
〔5.磁気ディスクの製造方法〕
本発明の一態様に係る磁気ディスクの製造方法は、記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に本発明の一実施形態に係る潤滑剤を積層して潤滑層を形成する工程を含んでいる。
【0035】
記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に前記潤滑剤を積層して潤滑層を形成する方法としては、特に限定されるものではない。保護層の露出表面に潤滑剤を積層する方法としては、前記潤滑剤を溶剤に希釈した後、積層する方法が好ましい。溶剤としては、例えば3M製PF-5060、PF-5080、HFE-7100、HFE-7200、DuPont製Vertrel-XF(登録商標)等が挙げられる。前記溶剤で希釈した後の潤滑剤の濃度は、0.001重量%~1重量%が好ましく、0.005重量%~0.5重量%がより好ましく、0.01重量%~0.1重量%がさらに好ましい。前記溶剤で希釈した後の潤滑剤の濃度が、0.01重量%~0.1重量%であれば、潤滑剤の粘度を十分に小さくすることができ、潤滑層の厚さを調節しやすい。
【0036】
上記潤滑層を形成する方法としては、記録層と保護層とをこの順に形成し、前記潤滑剤を前記保護層の露出表面に積層した後、紫外線照射または熱処理を行ってもよい。
【0037】
紫外線照射または熱照射を行うことで、潤滑層と保護層の露出表面との間に、より強固な結合を形成し、加熱による潤滑剤の蒸発を防ぐことができる。紫外線照射を行う場合には、潤滑層および保護層の深部に影響を与えず、露出表面を活性化させるために、185nmまたは254nmの波長を主波長とする紫外線を用いることが好ましい。熱処理を行う場合の温度は、60~170℃であることが好ましく、80~170℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における吸着性評価およびシロキサン耐性評価を、以下の方法により行った。
【0039】
〔吸着性評価〕
後述の潤滑剤(0.15g)を、それぞれDuPont製Vertrel-XF(150g)(登録商標)に溶解させ、1時間撹拌することにより、潤滑剤溶液を調製した。その後、得られた潤滑剤溶液にAldrich製Graphite powder <20μm(1.0g)を加え、さらに1時間撹拌した。メンブレンフィルターで潤滑剤溶液のろ過を行い、残渣を室温で15時間乾燥させることにより、潤滑剤が吸着したグラファイトを得た。このグラファイトを用いて熱重量分析装置(EXTER製、TG/DTA)による熱重量測定を行った。上記グラファイトを、窒素雰囲気下、昇温速度2℃/分で550℃まで加熱し、グラファイトの質量に対して吸着した潤滑剤の質量の比率を測定した。
【0040】
〔シロキサン耐性の評価〕
任意の量の後述の潤滑剤が吸着したグラファイト(0.1g)をシャーレに秤量した。潤滑剤が吸着したグラファイトの入ったシャーレおよび東京化成製オクタメチルシクロテトラシロキサン(0.5g、以下本明細書においてD4と称する)を入れたバイアルを一つの容器に入れ、密封した。当該容器を室温(25℃)で24時間放置することにより、潤滑剤が吸着したグラファイトをD4に曝露させた。その後、容器からシャーレを取り出し、メタノール(2.2g)を加えることにより、グラファイトに付着したD4を抽出した。D4を抽出したメタノールをメンブレンフィルターでろ過した後、得られたろ液をガスクロマトグラフィー(HEWLETT PACKARD製、品番HP6890)で分析することにより、グラファイトに付着したD4の量を測定した。
【0041】
なお、グラファイトに吸着した潤滑剤の量を上述の吸着性評価と同様にして測定した。
【0042】
〔実施例1〕
下記式で表される化合物1を以下のように合成した。
C10H7-O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2O-CH2CH(OH)CH2OH
なお、化合物1は、式(1)のR1がナフチル基、R2がデムナム骨格、R3がジヒドロキシプロポキシ基を有する炭化水素基である化合物に相当する。
【0043】
まず、フラスコに2-ナフトール12.0g、およびエピクロロヒドリン193.0gを入れ、70℃に加熱した。そこへ、t-ブチルアルコール80.0gで溶解させたt-ブトキシカリウム10.3gを滴下した後、18時間加熱撹拌した。反応系を室温に戻してから得られた反応産物を水洗し、次いでMPLCで精製することにより、2-[(2-naphthalenyloxy)methyl]-oxiraneを12.6g得た。
【0044】
この化合物を7.8g、HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHで表されるパーフルオロポリエーテル(数平均分子量1194)40.2g、t-ブチルアルコール30.4g、およびカリウムt-ブトキシド0.7gをフラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、70℃で16時間撹拌した。その後、得られた反応産物を中和し、次いで水洗し、さらにシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製することにより、化合物1を14.0g得た。NMRを用いて行った化合物1の同定結果を以下に示す。
【0045】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2CF2Oを-129.7ppmとする。)
δ=-129.7ppm、-129.6ppm〔12F、-OCF2CF2CF2O-〕δ=-123.9ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-86.3ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-84.4ppm〔24F、-OCF2CF2CF2O-〕
19F-NMRの結果、化合物1は、m=6.1であることがわかった。
【0046】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.1~4.5ppm〔17H、HO-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-、C10H7-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-〕
δ=6.5~7.6ppm〔7H、C10H7-〕
得られた化合物1を実施例1の潤滑剤として用いた。
【0047】
〔実施例2〕
下記式で表される化合物2を以下のように合成した。
C6H5-O-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2O-CH2CH(OH)CH2OH
なお、化合物2は、式(1)のR1がフェノキシフェニル基、R2がデムナム骨格、R3がジヒドロキシプロポキシ基を有する炭化水素基である化合物に相当する。
【0048】
フラスコに4-フェノキシフェノール40.8g、およびエピクロロヒドリン412.5gをいれ、70℃に加熱した。そこへ、t-ブチルアルコール200.5gで溶解させたt-ブトキシカリウム27.0gを滴下した後、18時間加熱撹拌した。反応系を室温に戻してから得られた反応産物を水洗し、MPLCで精製することにより、2-[(4-phenoxyphenoxy)methyl]-oxiraneを30.2g得た。
【0049】
この化合物を9.4g、HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHで表されるパーフルオロポリエーテル(数平均分子量1194)40.2g、t-ブチルアルコール25.2g、およびカリウムt-ブトキシド0.7gをフラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、70℃で16時間撹拌した。その後、得られた反応産物を中和し、次いで水洗し、さらにシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製することにより、化合物2を15.2g得た。NMRを用いて行った化合物2の同定結果を以下に示す。
【0050】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2CF2Oを-129.7ppmとする。)
δ=-129.7ppm、-129.6ppm〔12F、-OCF2CF2CF2O-〕δ=-123.9ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-86.3ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-84.4ppm〔25F、-OCF2CF2CF2O-〕
19F-NMRの結果、化合物2は、m=6.3であることがわかった。
【0051】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.1~4.5ppm〔17H、HO-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-、C6H5-O-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-〕
δ=6.4~7.4ppm〔9H、C6H5-O-C6H4-O-〕
得られた化合物2を実施例2の潤滑剤として用いた。
【0052】
〔実施例3〕
下記式で表される化合物3を以下のように合成した。
C10H7-O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CF3
なお、化合物3は、式(1)のR1がナフチル基、R2がデムナム骨格、R3がトリフルオロメチル基である化合物に相当する。
【0053】
HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHの代わりにHO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CF3を用いたこと以外は実施例1と同様にして化合物3を22.7g得た。NMRを用いて行った化合物3の同定結果を以下に示す。
【0054】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2CF2Oを-129.7ppmとする。)
δ=-130.7ppm〔2F、CF3CF2CF2O-〕
δ=-129.7ppm、-129.6ppm〔11F、-OCF2CF2CF2O-〕δ=-123.9ppm〔2F、-CH2CF2CF2O-〕
δ=-86.5ppm〔2F、-CH2CF2CF2O-〕
δ=-84.3~-83.6ppm〔22F、-OCF2CF2CF2O-〕
δ=-85.0ppm〔2F、CF3CF2CF2O-〕
δ=-82.9ppm〔3F、CF3CF2CF2O-〕
19F-NMRの結果、化合物3は、m=5.5であることがわかった。
【0055】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.0~4.4ppm〔8H、C10H7O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-〕
δ=6.5~7.6ppm〔7H、C10H7O-〕
得られた化合物3を実施例3の潤滑剤として用いた。
【0056】
〔実施例4〕
下記式で表される化合物4を以下のように合成した。
C6H5-O-C6H4-O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CF3
なお、化合物4は、式(1)のR1がフェノキシフェニル基、R2がデムナム骨格、R3がトリフルオロメチル基である化合物に相当する。
【0057】
HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHの代わりにHO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CF3を用いたこと以外は実施例2と同様に化合物4を24.2g得た。NMRを用いて行った化合物4の同定結果を以下に示す。
【0058】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2CF2Oを-129.7ppmとする。)
δ=-130.7ppm〔2F、CF3CF2CF2O-〕
δ=-129.7ppm、-129.6ppm〔11F、-OCF2CF2CF2O-〕δ=-123.9ppm〔2F、-CH2CF2CF2O-〕
δ=-86.5ppm〔2F、-CH2CF2CF2O-〕
δ=-84.3~-83.6ppm〔22F、-OCF2CF2CF2O-〕
δ=-85.0ppm〔2F、CF3CF2CF2O-〕
δ=-82.9ppm〔3F、CF3CF2CF2O-〕
19F-NMRの結果、化合物4は、m=5.5であることがわかった。
【0059】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.0~4.4ppm〔8H、C6H5-O-C6H4O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-〕
δ=6.4~7.3ppm〔9H、C6H5-O-C6H4O-〕
得られた化合物4を実施例4の潤滑剤として用いた。
【0060】
〔実施例5〕
下記式で表される化合物5を以下のように合成した。
C6H5-O-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2O-(CF2CF2O)lCF2CH2O-CH2CH(OH)CH2OH
なお、化合物5は、式(1)のR1がフェノキシフェニル基、R2がC2骨格、R3がジヒドロキシプロポキシ基を有する炭化水素基である化合物に相当する。
【0061】
HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHの代わりにHO-CH2CF2O-(CF2CF2O)lCF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OH(数平均分子量1092)を用いたこと以外は実施例2と同様に化合物5を13.3g得た。NMRを用いて行った化合物5の同定結果を以下に示す。
【0062】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2Oを-90.7ppmとする。)
δ=-90.7ppm〔28F、-CF2CF2O-〕
δ=-79.8ppm〔4F、-CH2CF2O-〕
19F-NMRの結果、化合物5は、l=7.0であることがわかった。
【0063】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.1~4.5ppm〔17H、HO-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2O-、C6H5-O-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2O-〕
δ=6.4~7.3ppm〔9H、C6H5-O-C6H4-O-〕
得られた化合物5を実施例5の潤滑剤として用いた。
【0064】
〔実施例6〕
下記式で表される化合物6を以下のように合成した。
C6H5-O-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2O-(CF2O)z(CF2CF2O)lCF2CH2O-CH2CH(OH)CH2OH
なお、化合物6は、式(1)のR1がフェノキシフェニル基、R2がフォンブリン骨格、R3がジヒドロキシプロポキシ基を有する炭化水素基である化合物に相当する。
【0065】
HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHの代わりにHO-CH2CF2O-(CF2O)z(CF2CF2O)lCF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OH(数平均分子量1378)を用いたこと以外は実施例2と同様に化合物6を16.2g得た。NMRを用いて行った化合物6の同定結果を以下に示す。
【0066】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中の-OCF2OCF2CF2OCF2-を-90.7ppmとする。)
δ=-52.1、-53.7、-55.4ppm〔12F、-OCF2O-〕
δ=-89.1、-90.7ppm〔24F、-OCF2CF2O-〕
δ=-77.9、-80.0ppm〔4F、-OCF2CH2O-〕
19F-NMRの結果、化合物6は、l=6.1、z=6.4であることがわかった。
【0067】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.2~4.4ppm〔17H、HO-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2O-、C6H5-O-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2O-〕
δ=6.4~7.4ppm〔9H、C6H5-O-C6H4-O-〕
得られた化合物6を実施例6の潤滑剤として用いた。
【0068】
〔実施例7〕
下記式で表される化合物7を以下のように合成した。
C10H7-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2O-CH2CH(OH)CH2O-C10H7
なお、化合物7は、式(1)のR1がナフチル基、R2がデムナム骨格、R3がナフチル基を有する炭化水素基である化合物に相当する。
【0069】
HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHの代わりにHO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2OH(数平均分子量1122)を用いたこと以外は実施例1と同様に化合物7を20.2g得た。NMRを用いて行った化合物7の同定結果を以下に示す。
【0070】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2CF2Oを-129.7ppmとする。)
δ=-129.7ppm、-129.6ppm〔12F、-OCF2CF2CF2O-〕δ=-123.9ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-86.3ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-84.4ppm〔25F、-OCF2CF2CF2O-〕
19F-NMRの結果、化合物7は、m=6.3であることがわかった。
【0071】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.1~4.5ppm〔16H、C10H7-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-〕
δ=6.5~7.6ppm〔14H、C10H7-〕
得られた化合物7を実施例7の潤滑剤として用いた。
【0072】
〔実施例8〕
下記式で表される化合物8を以下のように合成した。
C6H5O-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2O-CH2CH(OH)CH2O-C6H4-OC6H5
なお、化合物8は、式(1)のR1がフェノキシフェニル基、R2がデムナム骨格、R3がフェノキシフェニル基を有する炭化水素基である化合物に相当する。
【0073】
HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHの代わりにHO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2OH(数平均分子量1122)を用いたこと以外は実施例2と同様に化合物8を22.8g得た。NMRを用いて行った化合物8の同定結果を以下に示す。
【0074】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2CF2Oを-129.7ppmとする。)
δ=-129.7ppm、-129.6ppm〔12F、-OCF2CF2CF2O-〕δ=-123.9ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-86.3ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-84.4ppm〔25F、-OCF2CF2CF2O-〕
19F-NMRの結果、化合物8は、m=6.3であることがわかった。
【0075】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.1~4.5ppm〔16H、C6H5-O-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-〕
δ=6.4~7.4ppm〔18H、C6H5-O-C6H4-O-〕
得られた化合物8を実施例8の潤滑剤として用いた。
【0076】
〔実施例9〕
下記式で表される化合物9を以下のように合成した。
C10H7O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2CF2O-(CF2CF2CF2CF2O)nCF2CF2CF2CH2O-CH2CH(OH)CH2-OC10H7
なお、化合物9は、式(1)のR1がナフチル基、R2がC4骨格、R3がナフチル基を有する炭化水素基である化合物に相当する。
【0077】
HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2OHの代わりにHO-CH2CF2CF2CF2O-(CF2CF2CF2CF2O)nCF2CF2CF2CH2OH(数平均分子量1183)を用いたこと以外は実施例1と同様に化合物9を20.5g得た。NMRを用いて行った化合物9の同定結果を以下に示す。
【0078】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2CF2CF2Oを-126.2ppmとする。)
δ=-127.3ppm〔4F、-OCF2CF2CF2CH2O-〕
δ=-126.2ppm〔15F、-OCF2CF2CF2CF2O-〕
δ=-120.5ppm〔4F、-OCF2CF2CF2CH2O-〕
δ=-83.8ppm〔4F、-OCF2CF2CF2CF2O-、-OCF2CF2CF2CH2O-〕
19F-NMRの結果、化合物9は、n=3.7であることがわかった。
【0079】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.1~4.5ppm〔16H、C10H7O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-〕
δ=6.4~7.6ppm〔14H、C10H7O-〕
得られた化合物9を実施例9の潤滑剤として用いた。
【0080】
〔実施例10〕
下記式で表される化合物10を以下のように合成した。
C10H7O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2O-CH2CH(OH)CH2-OC6H4-OC6H5
なお、化合物10は、式(1)のR1がナフチル基、R2がデムナム骨格、R3がフェノキシフェニル基を有する炭化水素基である化合物に相当する。
【0081】
実施例1で合成した2-[(2-naphthalenyloxy)methyl]-oxiraneを17.5g、HO-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2-OHで表されるパーフルオロポリエーテル(数平均分子量1122)98.0g、t-ブチルアルコール220g、およびカリウムt-ブトキシド2.0gをフラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、70℃で16時間撹拌した。その後、得られた反応産物を中和し、次いで水洗し、さらにシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製することにより、片方の末端にのみナフチル基を有するパーフルオロポリエーテルを43.1g得た。このパーフルオロポリエーテル40g、2-[(4-phenoxyphenoxy)methyl]-oxirane5.5g、t-ブチルアルコール293g、およびカリウムt-ブトキシド0.3gをフラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、70℃で16時間撹拌した。その後、得られた反応産物を中和し、次いで水洗し、さらにシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製することにより、化合物10を32.5g得た。NMRを用いて行った化合物10の同定結果を以下に示す。
【0082】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2CF2Oを-129.7ppmとする。)
δ=-129.7ppm、-129.6ppm〔12F、-OCF2CF2CF2O-〕δ=-123.9ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-86.3ppm〔4F、-OCH2CF2CF2O-〕
δ=-84.4ppm〔24F、-OCF2CF2CF2O-〕
19F-NMRの結果、化合物10は、m=6.1であることがわかった。
【0083】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.1~4.5ppm〔16H、C10H7-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-、C6H5O-C6H4O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-〕
δ=6.4~7.6ppm〔7H、C10H7-、C6H5O-C6H4O-〕
得られた化合物10を実施例10の潤滑剤として用いた。
【0084】
〔比較例1〕
比較例1の潤滑剤として、下記のようにデムナム骨格を有し、一方の末端にメトキシフェニル基を有し、もう一方の末端にジヒドロキシプロポキシ基を有する化合物11を使用した。
MeO-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2OCH2CH(OH)CH2OH
ここでm=7.2である。
【0085】
〔比較例2〕
比較例2の潤滑剤として、下記のようにデムナム骨格を有し、両末端にメトキシフェニル基を有する化合物12を使用した。
MeO-C6H4-OCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2OCH2CH(OH)CH2O-C6H4-OMe
ここでm=7.5である。
【0086】
〔比較例3〕
比較例3の潤滑剤として、下記のようにデムナム骨格を有し、両末端にジヒドロキシプロポキシ基を有する化合物13を使用した。
HOCH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)mCF2CF2CH2OCH2CH(OH)CH2OH
ここでm=6.1である。
【0087】
〔吸着性評価およびシロキサン耐性評価の結果〕
DuPont製Vertrel-XF(150g)(登録商標)溶液中の潤滑剤の濃度が0.1重量%である場合のグラファイトに吸着した潤滑剤量の測定結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1より、実施例1~10は比較例1~3に比べてより多くの潤滑剤を吸着することがわかった。すなわち、本発明の一実施形態に係る化合物は炭素材料との親和性に優れることがわかった。
【0090】
次に、グラファイトに付着したD4量およびグラファイトに吸着した潤滑剤量を表2に示す。
【0091】
【0092】
表2より、実施例1~10は、比較例1~3に比べてグラファイトに付着したD4量が少なかった。すなわち、実施例1~10は、シロキサンなどの不純物が炭素保護膜に付着しにくいことがわかった。したがって、ナフチル基やフェノキシフェニル基を有する本発明の一実施形態に係る潤滑剤は従来の潤滑剤よりもシロキサン耐性に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の一態様のパーフルオロポリエーテル化合物は、磁気ディスク用の潤滑剤として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 磁気ディスク
2 潤滑層
3 保護膜層(保護層)
4 記録層
5 下層
6 軟磁性下層
7 接着層
8 非磁性基板