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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/40 20060101AFI20221116BHJP
   B63B 1/08 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B63B1/40 Z
B63B1/08 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022021815
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2022-03-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川淵 信
(72)【発明者】
【氏名】窪田 雅也
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】ナカムラ,Twitter [online],2021年03月03日,[令和4年6月16日検索],インターネット<URL:https://twitter.com/T_AH19/status/1366967092310761472>
【文献】“30FFMのネームシップ 新型護衛艦「もがみ」進水!”,世界の艦船,通巻第947集,日本,株式会社海人社,2021年03月25日,p.10-11
【文献】“FFMのネームシップ 新型護衛艦「もがみ」公試開始!”,世界の艦船,通巻第963集,日本,株式会社海人社,2021年11月25日,p.21-23
【文献】“FFM1番艦 新型護衛艦「もがみ」就役!”,世界の艦船,通巻第975集,日本,株式会社海人社,2022年05月25日,p.1-5
【文献】Xavier Vavasseur,Twitter [online],2021年03月03日,[令和4年6月16日検索],インターネット<URL:https://twitter.com/xaviervav/status/1367014284509794304>
【文献】Cumming D., Pallard, R., Thornhill E., Hally, D. and Dervin M.,“Overview of Hydrodynamic Research Effort to Derive a New Stern Design for the HALIFAX Class Frigates”,8th Canadian Marine Hydromechanics and Structures Conference,2007年10月,p.1-8
【文献】平川嘉昭,平山次清,高山武彦,“高速航行中母船船尾からの搭載艇降下揚収新システムの開発研究 ―実験水槽における実証実験―”,日本船舶海洋工学会論文集,日本,公益社団法人日本船舶海洋工学会,2010年,第11号,p.61-71,DOI: 10.2534/jjasnaoe.11.61,ISSN 1881-1760(online),1880-3717(print)
【文献】Lt. CDR. Mario DE BIASE, Lt. Vincenzo BASILE, Simone MANCINI,“Stern Flap Solution to Contain the Speed Performance Loss Due to the Ship Weight Grouth: An Application on the “De La Penne” Destroyer Class”,Proceedings of the 12th Symposium on High Speed Marine Vehicles,NL,IOS Press BV,2020年,p.13-20,DOI: 10.3233/PMST200022,ISBN 978-1-64368-124-5(online), 978-1-64368-125-2(print)
【文献】Domicic S. Cusanelli,“Stern Flaps - A Chronicle of Success at Sea (1989-2002)”,SNAME Innovations in Marine Transportation, Pacific Grove, Calif.,米国,SNAME,2002年05月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/40, 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底、前記船底の船尾側の端部から立ち上がる船尾端面、前記船尾端面に形成された船尾開口部を有する船体と、
前記船尾端面に前記船尾開口部を避けるように船幅方向に離間して一対が設けられているフラップと、
前記船底の船尾側の端部に、船幅方向で一対の前記フラップの間に設けられたウェッジと、
を備え
前記ウェッジの船幅方向外側の端部は、各前記フラップの船幅方向内側の端部と船幅方向の位置が重なり、
前記ウェッジは、前記船底に滑らかに接続されるウェッジ下面を有し、
前記ウェッジ下面は、船尾側に向かうにしたがい下方に位置するように傾斜した平面状の第一下面と、前記第一下面の船幅方向外側に一対設けられ、前記第一下面の船幅方向外側の側端と前記船底とを滑らかに接続するとともに、船幅方向外側に向かうにしたがい進行方向の寸法が小さくなる三角形状の第二下面と、を有する、
船舶。
【請求項2】
前記フラップは、前記船底から連なるように船尾側に延びるフラップ下面を有し、
前記フラップ下面は、前記船尾端面の下端以下の領域に延在している請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
計画速力のフルード数Fnが0.20以上0.50以下である請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
前記フラップは、前記船底から連なるように船尾側に延びて船尾側に向かうにしたがい下方に位置するように傾斜するフラップ下面を有し、
前記フラップ下面は、前記船尾端面の下端以下の領域に延在し、
前記ウェッジ下面は、前記船底から船尾側に向かうにしたがい下方に位置するように傾斜し、
垂線間長が50m以上300m以下、かつ計画速力のフルード数が0.20以上0.50以下であり、
前記フラップの下端高さが満載喫水線の高さに対し80%以上120%以下に設定され、
前記フラップの進行方向の長さが前記垂線間長の0.1%以上5%以下に設定され、
船幅方向から見て、前記船底の船幅方向中間部を通り進行方向に延びる船底中心線と前記フラップ下面との頂角は、前記船底中心線と前記ウェッジ下面との頂角以下に設定されている、
請求項1に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
調査船、練習船、ケーブル敷設船等、痩せ型で航海速力が速い船舶では、航海速力領域で航行する際に船尾の流速が速くなる。この際、船尾での負圧が大きくなり、船尾の沈下量が大きくなる。このため、船体抵抗の観点から考えると、船尾が肥大化した状態となり、船体全体の抵抗が急激に増加することになる。このような傾向は、フルード数が例えば0.3以上となる高速船では、特に顕著である。
【0003】
航海速力領域で航行する際の船体抵抗低減に有効な船尾形状として、例えば特許文献1には、既存のトランサムスターン型の船尾端に、三角形断面の付加部材が設けられた構造が開示されている。付加部材は、船尾端から進行方向後側に突出し、後方に向かうにしがい下方に位置するように傾斜している。付加部材は、船尾で流場を変化させることで波崩れの抑制や造波の抑制を図り、船体の造波抵抗を低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3490392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、船尾側の端部から調査観測機器、水中航走体、小型艇、漁網等を降下・揚収するための開口部が設けられた船舶には、降下・揚収時に調査観測機器等と干渉するため、開口部の下方に特許文献1に記載の上記付加部材を設置することができない。このため、船尾側の端部から調査観測機器等を降下・揚収するための開口部が設けられた船舶の場合、船体の造波抵抗を十分に低減させることができないという点で課題が残されていた。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、船尾側の端部から調査観測機器、水中航走体、小型艇、漁網等を降下・揚収する機能を備えつつ、船体の造波抵抗を低減させることができる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、船舶は、船底、前記船底の船尾側の端部から立ち上がる船尾端面、前記船尾端面に形成された船尾開口部を有する船体と、前記船尾端面に前記船尾開口部を避けるように船幅方向に離間して一対が設けられているフラップと、前記船底の船尾側の端部に、船幅方向で一対の前記フラップの間に設けられたウェッジと、を備え、前記ウェッジの船幅方向外側の端部は、各前記フラップの船幅方向内側の端部と船幅方向の位置が重なり、前記ウェッジは、前記船底に滑らかに接続されるウェッジ下面を有し、前記ウェッジ下面は、船尾側に向かうにしたがい下方に位置するように傾斜した平面状の第一下面と、前記第一下面の船幅方向外側に一対設けられ、前記第一下面の船幅方向外側の側端と前記船底とを滑らかに接続するとともに、船幅方向外側に向かうにしたがい進行方向の寸法が小さくなる三角形状の第二下面と、を有する
【発明の効果】
【0008】
本開示の船舶によれば、船尾側の端部から調査観測機器、水中航走体、小型艇、漁網等を降下・揚収する機能を備えつつ、船体の造波抵抗を低減させることができる船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る船舶の側面図である。
図2】本開示の実施形態に係る船舶の船尾側の構造を示す下方斜視図である。
図3】本開示の実施形態に係る船尾形状を示す側面図である。
図4】本開示の実施形態に係る船尾形状を示す平面図である。
図5】本開示の実施形態に係る船尾形状を示す正面図である。
図6】本開示の実施形態に係る船尾形状を示す上方斜視図である。
図7】フルード数に対する剰余抵抗の変化を示す図である。
図8】本開示の変形例に係る船尾形状を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る船舶について図面を参照して説明する。本実施形態では、船舶として、調査船、練習船、ケーブル敷設船等、痩せ型で航海速力の速い船舶を一例にして説明する。
【0011】
(船舶)
図1に示すように、船舶1は、トランサムスターン構造の船舶1であり、進行方向D1に細長い形状に形成されている。
以下では、船舶1の進行方向D1前側を「船首側」と称し、進行方向D1後側を「船尾側」と称する場合がある。また、船舶1の進行方向D1と直交する方向、かつ、水平面に沿う方向を船幅方向D2と称する場合がある。
【0012】
船舶1は、排水量型の船舶である。図1図2に示すように、船舶1は、船体2と、センタースケグ30と、プロペラ31と、舵34と、船尾扉40と、船尾付加物50と、を備える。
【0013】
(船体)
船体2は、浮力を発生させて水面に浮かぶ構造体である。船体2は、舷側3と、船底4と、上甲板5と、船尾端6と、を有する。
舷側3は、船幅方向D2に対向して一対設けられている。船底4は、一対の舷側3の下側部分を接続している。船底4の船尾側の端部は、側面視で、船尾側に向かうにしたがい上方に位置するように僅かに傾斜している。上甲板5は、一対の舷側3の上部に亘って設けられている。上甲板5には、船橋等、不図示の上部構造が設置される。船尾端6は、一対の舷側3の船尾側の端部に亘って設けられている。
これら舷側3、船底4、上甲板5、及び船尾端6により、船体2は箱型に形成されている。
【0014】
(センタースケグ)
船底4には、センタースケグ30と、プロペラ31と、が設けられている。
センタースケグ30は、板状に形成されている。センタースケグ30は、船底4の船幅方向D2中間部を通り進行方向D1に沿って延びる船底中心線Cに沿って配置されている。センタースケグ30は、船体2の船尾側寄りに設けられている。
【0015】
(プロペラ)
プロペラ31は、センタースケグ30よりも船尾側、かつ、船尾端6よりも進行方向D1前側に設けられている。プロペラ31は、船底中心線Cを挟んで船幅方向D2に対向するように2基設けられている。各プロペラ31は、プロペラ軸36を介して船底4に接続されている。プロペラ軸36は、プロペラ31の前端から進行方向D1に延びて、船底4内部に貫通している。プロペラ軸36の前端部は、船底4内に設けられた不図示の原動機に接続されている。プロペラ軸36の後端部は、シャフトブラケット37によって回転自在に支持されている。シャフトブラケット37は、ストラット32と、筒状支持部33と、を有する。ストラット32は、船底4から下方に延出している。筒状支持部33は、進行方向D1に延びる筒状に形成されている。筒状支持部33には、プロペラ軸36が挿通されている。筒状支持部33は、プロペラ軸36を回転自在に支持している。プロペラ31は、シャフトブラケット37の後方で、プロペラ軸36の後端部に接続されている。プロペラ31は、船底4内の図示しない原動機の駆動力によって、プロペラ軸36と一体に回転駆動する。プロペラ31の回転によって、船舶1に推進力が生じる。
なお、船舶1は、センタースケグ30と2基のプロペラ31の代わりに、1軸船尾と1基のプロペラ31を有していてもよい。
【0016】
(舵)
舵34は、センタースケグ30よりも船尾側、かつ、船尾端6よりも進行方向D1前側に設けられている。舵34は、船底中心線Cを挟んで船幅方向D2に対向するように一対設けられている。各舵34は、船底中心線Cを基準として船幅方向D2で同じ側に位置するプロペラ31と比較して、船幅方向D2外側に設けられている。より具体的には、舵34は、対応するプロペラ31の回転中心線の延長線上より船幅方向D2外側に設置されている。舵34は、舵柱35を介して船底4に装着されている。舵柱35は、船底4から下方に突出している。舵柱35の下端には、舵34の上端の前部が接続されている。舵34は、舵柱35回りに角度変更可能とされている。
【0017】
以下、満載喫水線WLと船舶1の船首1aとの交点を通り、上下方向に延びる垂線を前部垂線F.P.と称し、舵柱35の中心軸を通り上下方向に延びる垂線を後部垂線A.P.と称する。また、前部垂線F.P.と後部垂線A.P.との間の進行方向D1の距離を垂線間長Lppと称する。また、前部垂線F.P.と、船舶1の船尾後端部(本実施形態では後述するフラップ51)と満載喫水線WLとの交点を通り上下方向に延びる垂線と、の距離を水線長Lwlと称する。
【0018】
(収容部)
図3に示すように、船体2の船尾側の内部には、収容部20が設けられている。以下、図3から図6では、プロペラ31と、舵34の図示が省略されている。
収容部20には、例えば小型艇SBが揚収される。収容部20は、例えば小型艇SBを収容するためのドックとして活用される。なお、収容部20には、小型艇SBの他、例えば調査観測機器、水中航走体、漁網等が収容されていてもよい。収容部20は、下部にスロープ21を有する。スロープ21は、側面視で、船尾側に向かうにしたがい下方に位置するように傾斜している。スロープ21は、小型船SBを船体2内に案内する、いわゆるランプとして機能する。
【0019】
図2から図6に示すように、船尾端6は、角型に形成された、いわゆるトランサムスターン型の船尾端6である。以下では、船尾端6のうち、進行方向D1後側の端面を船尾端面7と称する場合がある。
【0020】
(船尾端面)
船尾端面7は、船底4の船尾側の端部から立ち上がるように形成されている。船尾端面7は、下方に向かうにしたがい船首側に位置するように、鉛直面に対して僅かに傾斜している。船尾端面7には、船尾開口部10が形成されている。
【0021】
(船尾開口部)
船尾開口部10は、船尾側に向けて開口している。船尾開口部10は、収容部20と外部空間とを連通させる。船尾開口部10は、上部開口部11と、下部開口部12と、を有する。上部開口部11は、正面視で長方形状に形成されている。上部開口部11の上端は、船幅方向D2に延びている。下部開口部12は、上部開口部11の下端に接続され、上部開口部11の下端から船尾端面7の下端まで延在している。下部開口部12は、正面視で、下方に向かうにしたがい幅狭となる台形状に形成されている。下部開口部12の下端は、スロープ21の船尾側の端部と接続されている。
以下では、下部開口部12の船幅方向D2に対向する側端を、下部側端12aと称する場合がある。
また船尾開口部10には、船尾扉40が設けられている。
【0022】
(船尾扉)
船尾扉40は、船尾開口部10を開閉可能とする。船尾扉40は、船尾開口部10の上端に上端回りに回動可能に取り付けられている。このため、船尾扉40は、船尾開口部10を閉塞する閉塞位置P1と、船尾開口部10を開放する開放位置P2と、との間で回動可能となっている。船尾扉40は、閉塞位置P1では船尾開口部10内に位置している。船尾扉40の後面は、閉塞位置P1では船尾端面7と略面一となる。船尾扉40は、閉塞位置P1で収容部20に波が浸入することを防止する。船尾扉40は、開放位置P2では船尾開口部10の上端に接続しつつ、船尾開口部10よりも船尾側に位置している。
【0023】
(船尾付加物)
船舶1の船尾側の端部には、船尾付加物50が設けられている。船尾付加物50は、フラップ51と、ウェッジ52と、有する。
【0024】
(フラップ)
フラップ51は、船尾端面7に設けられている。フラップ51は、船尾開口部10を避けるように船幅方向D2に離間して一対が設けられている。一対のフラップ51は、同形状に形成されている。
【0025】
フラップ51は、船尾端面7から船尾側に突出している。フラップ51は、船幅方向D2に延びている。フラップ51の船幅方向D2内側の端部は、船尾開口部10と船幅方向D2の位置が重なるように設けられている。フラップ51は、側面視で、船尾側に向かうにしがたい、上下方向の高さが小さくなるような、断面三角形状に形成されている。フラップ51は、フラップ上面53と、フラップ下面54と、を有する。
【0026】
(フラップ上面)
フラップ上面53は、船尾側に向かうにしたがい、下方に位置するように傾斜している。フラップ上面53は、第一上面53aと、第二上面53bと、を有する。
第一上面53aは、フラップ上面53のうち、船尾開口部10と船幅方向D2の位置が重なる部分である。第一上面53aは、船尾開口部10の下部側端12aに沿うように平面状に形成されている。
第二上面53bは、第一上面53aに接続され、第一上面53aから船幅方向D2外側に延在している。第二上面53bは、船幅方向D2外側に向かうにしたがい、下方に位置するように曲面状に形成されている。
【0027】
(フラップ下面)
フラップ下面54は、船底4から連なるように船尾側に延びている。フラップ下面54は、船尾端面7の下端以下の領域に延在している。本実施形態では、フラップ下面54は、船尾側に向かうにしたがい、下方に位置するように平面状に形成されている。
【0028】
上述したフラップ51のうち、第二上面53bを有する部分は、船幅方向D2内側に向かうにしたがい、上下方向の厚さが大きくなるように形成されている。
【0029】
ここで、フラップ51について、フラップ51の下端から上端までの上下方向の高さをH1とし、フラップ51の下端から満載喫水線WLまでの上下方向の高さH2とする。また、フラップ51の進行方向D1の長さをL1とする。
本実施形態の船舶1では、計画速力のフルード数Fnが0.20以上0.50以下である。
特に、船舶1が排水量型の船舶であり、かつ、垂線間長Lppが50m以上300m以下、計画速力のフルード数Fnが0.20以上0.50以下である場合、フラップ51の下端高さH1が満載喫水線WLの高さH2に対し80%以上120%以下に設定され、フラップ51の進行方向D1の長さL1が垂線間長Lppの0.1%以上5%以下に設定されていることが望ましい。
【0030】
(ウェッジ)
ウェッジ52は、船底4の船尾側の端部に設けられている。ウェッジ52は、船尾端面7よりも船尾側に突出しないように設けられている。ウェッジ52は、船底4から下方に延出している。ウェッジ52は、船幅方向D2で一対のフラップ51の間に設けられている。ウェッジ52は、船幅方向D2に延びている。ウェッジ52の船幅方向D2外側の端部は、各フラップ51の船幅方向D2内側の端部と船幅方向D2の位置が重なるように設けられている。すなわち、ウェッジ52の船幅方向D2外側の端部は、各フラップ51の船幅方向D2内側の端部とオーバーラップしている。ウェッジ52は、船底中心線Cに対して対称な形状に形成されている。ウェッジ52は、側面視で、船首側に向かうにしがたい上下方向の高さが小さくなるような、断面三角形状に形成されている。ウェッジ52は、ウェッジ後面55と、ウェッジ下面56と、を有する。
【0031】
(ウェッジ後面)
ウェッジ後面55は、船尾端面7に沿うように形成されている。ウェッジ後面55は、側面視で、下方に向かうにしたがい船首側に位置するように、鉛直面に対して僅かに傾斜している。ウェッジ後面55は、正面視で下方に向かうにしたがい幅狭となる台形状に形成されている。
【0032】
(ウェッジ下面)
ウェッジ下面56は、船底4に滑らかに接続されている。ウェッジ下面56は、第一下面56aと、第二下面56bと、を有する。
第一下面56aは、ウェッジ下面56のうち一対のフラップ51よりも船幅方向D2内側に位置する部分である。第一下面56aは、側面視で、船底4から船尾側に延び、船尾側に向かうにしたがい下方に位置するように平面状に形成されている。第一下面56aは、船底4とウェッジ後面55の下端とを接続している。
【0033】
第二下面56bは、第一下面56aの船幅方向D2外側に一対設けられている。第二下面56bは、第一下面56aの船幅方向D2外側の側端から、さらに船幅方向D2外側に向けて延在している。第二下面56bは、第一下面56aの船幅方向D2外側の側端と、船底4とを滑らかに接続している。第二下面56bの船尾側の後端は、ウェッジ後面55の船幅方向D2外側の側端に接続されている。第二下面56bは、船幅方向D2外側に向かうにしたがい、船底4に接近するように平面状に形成されている。また、第二下面56bは、平面視で、船幅方向D2外側に向かうにしたがい、進行方向D1の寸法が小さくなるように三角形状に形成されている。
【0034】
(作用効果)
本実施形態の船舶1は、下記作用効果を奏する。
本実施形態では、船舶1は、船尾端面7に船尾開口部10を避けるように船幅方向D2に離間した一対のフラップ51を備える。
【0035】
本実施形態によれば、船舶1は、船尾開口部10を通じて、船尾側の端部から調査観測機器、水中航走体、小型艇SB、漁網等を降下・揚収することができる。さらに、船舶1は、フラップ51と調査観測機器等とを干渉させることなく、フラップ51によって船尾周りの造波を抑制することができる。これにより、船尾の造波抵抗を低減し、燃費性能を向上させることができる。さらに、燃費性能の向上によって、運搬コストを低減することができる。
【0036】
本実施形態では、フラップ51は、船底4から連なるように船尾側に延びるフラップ下面54を有する。フラップ下面54は、船尾端面7の下端以下の領域に延在している。
【0037】
本実施形態によれば、船舶1は、フラップ51によって船尾周りの造波をさらに抑制することができる。これにより、船尾の造波抵抗をさらに低減し、燃費性能をより一層向上させることができる。
【0038】
本実施形態では、船底4の船尾側の端部に、船幅方向D2で一対のフラップ51の間に設けられたウェッジ52を備える。
【0039】
本実施形態によれば、船舶1は、フラップ51とウェッジ52によって船尾周りの造波をさらに抑制することができる。これにより、船尾の造波抵抗をさらに低減し、燃費性能をより一層向上させることができる。
【0040】
本実施形態では、ウェッジ52の船幅方向D2外側の端部は、各フラップ51の船幅方向D2内側の端部と船幅方向D2の位置が重なる。
【0041】
本実施形態によれば、フラップ51とウェッジ52との間を通る流れを抑制することができる。これにより、船尾の造波抵抗をさらに低減し、燃費性能をより一層向上させることができる。
また、フラップ51とウェッジ52とを併用することにより、ウェッジ52のみを船底4の船幅方向D2の全体に亘って設ける場合と比較して、水線長Lwlをフラップ51の長さ分長くすることができる。これにより、船尾の造波抵抗をさらに低減し、燃費性能をより一層向上させることができる。
【0042】
本実施形態では、ウェッジ52は、船底4に滑らかに接続されるウェッジ下面56を有する。
【0043】
本実施形態によれば、ウェッジ52の船幅方向D2の端部で発生する流れの剥離を抑制することができる。これにより、船尾の造波抵抗をさらに低減し、燃費性能をより一層向上させることができる。
【0044】
本実施形態では、船舶1の計画速力のフルード数Fnが0.20以上0.50以下である。
【0045】
本実施形態によれば、フラップ51及びウェッジ52等の船尾付加物50によって生じる、船尾周りの造波を抑制する効果をより一層良好に発揮することができる。
【0046】
特に、フラップ51及びウェッジ52による造波抵抗低減効果は、例えば、船舶1が排水量型の船舶であり、かつ、垂線間長Lppが50m以上300m以下、計画速力のフルード数Fnが0.20以上0.50以下であり、かつ、船舶1がセンタースケグ30と2基のプロペラ31を有する、又は、船舶1が1軸船尾と1基のプロペラ31を備える場合に、最も有効に発揮される。さらに、フラップ51の下端高さH1が満載喫水線WLの高さH2に対し80%以上120%以下に設定され、フラップ51の進行方向D1の長さL1が垂線間長Lppの0.1%以上5%以下に設定されていると、フラップ51及びウェッジ52による造波抵抗低減効果は、より良好に発揮される。
船底4の船底中心線C(図2参照)とフラップ下面54の前端との角度である頂角は、船底4の船底中心線Cとウェッジ下面56の前端との角度である頂角以下に設定する場合に造波抵抗低減効果は、より良好に発揮される。さらに、船底4の船底中心線Cとフラップ下面54の前端との角度である頂角が0度以上30度以下、かつ、船底4の船底中心線Cとウェッジ下面56の前端との角度である頂角が0度以上40度以下の場合に、造波抵抗低減効果は、最も有効に発揮される。
【0047】
本実施形態では、船舶1は、船尾開口部10を開閉する船尾扉40を備える。
【0048】
本実施形態によれば、例えば航走中に船尾側から追い波を受ける場合、船尾扉40を閉塞位置P1に配置することにより、波浪中に生じる得る抵抗増加を低減することができる。これにより、船尾の造波抵抗をさらに抑制することができる。
【0049】
本実施形態では、フラップ51のうち、第二上面53bを有する部分は、船幅方向D2内側に向かうにしたがい、上下方向の厚さが大きくなるように形成されている。
【0050】
本実施形態によれば、船尾周りの造波にフラップ51が十分耐えうる程度に、フラップ51の強度を確保することができる。
【0051】
次に、上述した本実施形態に係る船尾付加物50の効果を水槽試験により確認した結果について、図7を参照して説明する。図7の横軸は、フルード数Fnを示し、縦軸は、剰余抵抗係数Crを示す。ここで、剰余抵抗係数Crは、剰余抵抗の大きさを示す係数であり、剰余抵抗には、粘性圧力抵抗と造波抵抗とが含まれる。
図中の実線は、比較例(船尾付加物50を備えない船舶1)の水槽試験結果であり、破線は本実施形態に係る船尾付加物50を備えた船舶1の水槽試験結果である。
図7には、0.1以上0.5以下の領域のフルード数Fnに対する剰余抵抗係数Crの推移が試験結果として図示されている。図7に示す各試験結果では、剰余抵抗係数Crは、0.004以上0.024以下の領域で推移している。
【0052】
図7に示すように、本実施形態に係る船尾付加物50を備える船舶1の剰余抵抗係数Crのフルード数Fn対する推移は、比較例の剰余抵抗係数Crと実質的に同じ形状を有する一方で、フルード数Fnが0.20よりも大きい領域において剰余抵抗係数Crが低いことが容易に理解できる。特に、フルード数Fnが0.30前後の領域で剰余抵抗係数Crの低減率が大きい。フルード数Fnが0.30の場合、比較例から7%だけ剰余抵抗係数Crが低減している。
【0053】
上述したように、本実施形態に係る船尾付加物50を船尾に配置することにより、造波抵抗を低減することができる。すなわち、本実施形態に係る船尾付加物50を備えた船舶1によれば、剰余抵抗のうち主に造波抵抗を抑制し、燃費性能の向上を図ることができる。この船尾付加物50による造波抵抗低減効果が、剰余抵抗係数Crの低減として図7に示す試験結果に表れている。よって、船尾付加物50による造波抵抗の抑制は、フルード数Fnが0.30前後の領域で特に良好に発揮される、といえる。
【0054】
続いて、図8を参照して、変形例について説明する。
図8に示す変形例のように、ウェッジ52の船幅方向D2外側の両端部は、各フラップ51と船幅方向D2の位置が重なっていなくてもよい。本変形例では、ウェッジ52の船幅方向D2外側の両端部は、船底4に略垂直に交差する平面状に形成されている。
【0055】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
なお、上記実施形態では、船舶1は、排水量型の船舶であるとしたが、これに限るものではない。船舶1は、滑走型の船舶であってもよい。
【0056】
なお、上記実施形態では、船尾開口部10の下部開口部12の下端は、船尾端面7の下端まで延在しているとしたが、これに限るものではない。下部開口部12の下端は、船尾端面7の下端よりも上方に位置してもよく、ウェッジ52にかかる位置まで延在していてもよい。下部開口部12の下端がウェッジ52にかかる位置まで延在している場合は、下部開口部12の範囲が船尾端面7の下端以上である場合と比較して、小型艇SB等を揚収し易い。
【0057】
なお、上記実施形態では、船尾開口部10に船尾扉40が設けられている場合について説明したが、これに限るものではない。船尾開口部10には、船尾扉40が設けられていなくてもよい。この場合、船舶1は例えば漁船や調査船であり、スロープ21は船尾開口部10の下端と上甲板5の上面と接続している。このような船舶1では、スロープ21及び船尾開口部10を通じて漁網や調査観測機器等を降下・揚収することができる。
【0058】
なお、上記実施形態では、フラップ下面54は、船尾側に向かうにしたがい、下方に位置するように傾斜しているとしたが、これに限られない。フラップ下面54は、水平面に沿うように設けられていてもよい。
【0059】
なお、上記実施形態では、舵34は、対応するプロペラ31の回転中心線の延長線上より船幅方向D2外側に設置されているとしたが、これに限るものではない。舵34は、プロペラ31の回転中心線の延長線上に設定されていてもよい。
【0060】
<付記>
各実施形態に記載の船舶1は、例えば以下のように把握される。
【0061】
(1)第1の態様に係る船舶1は、船底4、前記船底4の船尾側の端部から立ち上がる船尾端面7、前記船尾端面7に形成された船尾開口部10を有する船体2と、前記船尾端面7に前記船尾開口部10を避けるように船幅方向D2に離間して一対が設けられているフラップ51と、を備える。
【0062】
本態様によれば、船舶1は、船尾開口部10を通じて、船尾側の端部から調査観測機器、水中航走体、小型艇SB、漁網等を降下・揚収することができる。さらに、船舶1は、フラップ51と調査観測機器等とを干渉させることなく、フラップ51によって船尾周りの造波を抑制することができる。
【0063】
(2)第2の態様の船舶1は、(1)の船舶1であって、前記フラップ51は、前記船底4から連なるように船尾側に延びるフラップ下面54を有し、前記フラップ下面54は、前記船尾端面7の下端以下の領域に延在していてもよい。
【0064】
本態様によれば、船舶1は、フラップ51によって船尾周りの造波をさらに抑制することができる。
【0065】
(3)第3の態様の船舶1は、(1)または(2)の船舶1であって、前記船底4の船尾側の端部に、船幅方向D2で一対の前記フラップ51の間に設けられたウェッジ52を備えてもよい。
【0066】
本態様によれば、船舶1は、フラップ51とウェッジ52によって船尾周りの造波をさらに抑制することができる。
【0067】
(4)第4の態様の船舶1は、(3)の船舶1であって、前記ウェッジ52の船幅方向D2外側の端部は、各前記フラップ51の船幅方向D2内側の端部と船幅方向D2の位置が重なってもよい。
【0068】
本態様によれば、フラップ51とウェッジ52との間を通る流れを抑制することができる。
【0069】
(5)第5の態様の船舶1は、(3)または(4)の船舶1であって、前記ウェッジ52は、前記船底4に滑らかに接続されるウェッジ下面56を有してもよい。
【0070】
本態様によれば、ウェッジ52の船幅方向D2の端部で発生する流れの剥離を抑制することができる。
【0071】
(6)第6の態様の船舶1は、(1)から(5)のいずれかの船舶1であって、計画速力のフルード数Fnが0.20以上0.50以下であってもよい。
【0072】
本態様によれば、船尾周りの造波を抑制する効果をより一層良好に発揮することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…船舶 1a…船首 2…船体 3…舷側 4…船底 5…上甲板 6…船尾端 7…船尾端面 10…船尾開口部 11…上部開口部 12…下部開口部 12a…下部側端 20…収容部 21…スロープ 30…センタースケグ 31…プロペラ 32…ストラット 33…筒状支持部 34…舵 35…舵柱 36…プロペラ軸 37…シャフトブラケット 40…船尾扉 50…船尾付加物 51…フラップ 52…ウェッジ 53…フラップ上面 53a…第一上面 53b…第二上面 54…フラップ下面 55…ウェッジ後面 56…ウェッジ下面 56a…第一下面 56b…第二下面 A.P.…後部垂線 C…船底中心線 Cr…剰余抵抗係数 D1…進行方向 D2…船幅方向 F.P.…全部垂線 Fn…フルード数 Lpp…垂線間長 Lwl…水線長 P1…閉塞位置 P2…開放位置 SB…小型艇 WL…満載喫水線 H1…(フラップの)高さ H2…(フラップの下端から満載喫水線までの)高さ L1…(フラップの進行方向の)長さ
【要約】
【課題】船尾側の端部から調査観測機器、水中航走体、小型艇、漁網等を降下・揚収する機能を備えつつ、船体の造波抵抗を低減させることができる船舶を提供する。
【解決手段】船舶は、船底、前記船底の船尾側の端部から立ち上がる船尾端面、前記船尾端面に形成された船尾開口部を有する船体と、前記船尾端面に前記船尾開口部を避けるように船幅方向に離間して一対が設けられているフラップと、を備える。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8