(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/00 20060101AFI20221116BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
G02C7/00
G02C7/02
(21)【出願番号】P 2022033290
(22)【出願日】2022-03-04
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2021150385
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】祁 華
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0131567(US,A1)
【文献】国際公開第2021/132079(WO,A1)
【文献】特開2020-045567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/00
G02C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近視進行抑制効果又は遠視軽減効果を奏する眼鏡レンズであって、
アイポイントを含む領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させ
て、装用者の処方屈折力を実現する中心側クリア領域と、
前記中心側クリア領域を包囲する環状のファンクショナル領域であって、
物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させて、装用者の処方屈折力を実現するベース領域と、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させる一方、装用者の瞳孔内に入射させた光束を網膜上に収束させない網膜上非収束領域
と、を有するファンクショナル領域と、
眼鏡レンズの外縁側にて前記ファンクショナル領域を包囲する環状の領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させ
て、装用者の処方屈折力を実現する外側クリア領域と、
を備え、
平面視において、眼鏡レンズ全体における前記網膜上非収束領域の面積に対する、前記ファンクショナル領域内に設けられた前記網膜上非収束領域の面積は80%以上であり、
平面視において、眼鏡レンズ全体の面積に対する、前記ファンクショナル領域内に設けられた前記網膜上非収束領域の面積は20%以下であり、
平面視において、前記ファンクショナル領域内での前記網膜上非収束領域に対し、前記外側クリア領域側において他の網膜上非収束領域を含まずに外接可能な半径r1[mm](r1は1.50以上且つ2.50以下の範囲のいずれか一つの値)の全ての円の集合体を前記外側クリア領域の形状としたとき、前記ファンクショナル領域は、アイポイントを中心とし且つ直径が15.00~20.12mmのいずれか一つの値である円内に収まり、
平面視において、前記ファンクショナル領域内での前記網膜上非収束領域に対し、前記中心側クリア領域側において他の網膜上非収束領域を含まずに外接可能な半径r2[mm](r2は1.50以上且つ2.50以下の範囲のいずれか一つの値)の全ての円の集合体を前記中心側クリア領域の形状としたとき、前記中心側クリア領域は、アイポイントを中心とし且つ直径が4.00mm以上且つ13.00mm未満のいずれか一つの値である円を包含する大きさであり、且つ、該直径の一つの値よりも大きな値であって4.00mm超え且つ13.00mm以下の別の一つの値である円内に収まる大きさである、眼鏡レンズ。
【請求項2】
平面視において、眼鏡レンズ全体の面積に対する、前記ファンクショナル領域内に設けられた前記網膜上非収束領域の面積は10%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記ファンクショナル領域では、前記装用者の瞳孔内に入射させた光束の30%以上は網膜上に収束させない、請求項
1又は2に記載の眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近視等の屈折異常の進行を抑制する眼鏡レンズとして、レンズ上に複数の処方屈折力よりプラスの屈折力を持つ島状領域が形成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この構成の眼鏡レンズによれば、物体側の面から入射し眼球側の面から出射する光束のうち、デフォーカス領域以外を通過した光束では装用者の網膜上に焦点を結ぶが、デフォーカス領域の部分を通過した光束は網膜上よりも手前の位置で焦点を結ぶようになっており、これにより近視の進行が抑制されることになる。
【0004】
特許文献1の
図1では、レンズの幾何中心及びその近傍において上記島状領域が設けられない場合が例示されている。
【0005】
特許文献2、3には近視の屈折異常の進行を抑制すべく、眼鏡レンズの幾何中心及びその近傍よりも外縁側に所定の構造を設けた眼鏡レンズが開示されている。特許文献2、3に記載の眼鏡レンズでは、平面視において、幾何中心及びその近傍では、近視進行抑制効果を奏する構造は設けられていない(特許文献2の
図1、特許文献3の
図5A)。
【0006】
特許文献4には、物体側の面から入射した光束を眼球側の面から出射させて、眼球の網膜上における位置Aに収束させるベース部分と、透過する光束にプラス又はマイナス方向のデフォーカスを与え、ベース部分を透過する光とは異なる位置に収束させる作用を有するデフォーカス領域とを備える眼鏡レンズが記載されている。
【0007】
特許文献4の段落0102には、眼鏡レンズの基材凸部を凹部に変更することにより遠視軽減機能を奏することが記載されている。特許文献4に記載の眼鏡レンズの一例(特許文献4の
図5)では、平面視において、幾何中心及びその近傍では、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果を奏する構造は設けられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国出願公開第2017/0131567号
【文献】国際公開公報WO2019/166657号
【文献】米国特許第10884264号
【文献】国際公開公報WO2020/045567号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
レンズ中心において上記近視進行抑制構造(一例として特許文献1に記載の島状領域)が設けられない場合、当然ながら、該島状領域が設けられない領域を通過して装用者の瞳孔内に入射する光束では、上記近視進行抑制効果が得られないと考えられる。その代わりに、クリア領域では処方度数が実現されるため、良好な視認性が得られる。
【0010】
本明細書では、近視進行抑制又は遠視軽減構造が設けられない領域のことをクリア領域ともいう。クリア領域については後掲する。
【0011】
平面視にて、上記島状領域のみならず、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果を奏する構成(例えば特許文献2~4に記載の眼鏡レンズのように、眼鏡レンズの表面に何らかの凹状領域及び/又は凸状領域を形成又は眼鏡レンズの内部に屈折率の異なる部材を埋め込む構成等、本明細書では「網膜上非収束領域」)を有する領域のことをファンクショナル領域ともいう。ファンクショナル領域については後掲する。
【0012】
クリア領域とファンクショナル領域とを備えた従来の眼鏡レンズでは、当然ながら、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果を奏することに着目していた。その一方、ファンクショナル領域は、クリア領域に比べて良好な視認性が得られない。ファンクショナル領域は周辺視野の像形成に寄与する。
【0013】
仮に、装用者が子供であった場合、子供が屋外で活動する際、頻繁に周辺視野に注意を向ける。つまり、従来の該眼鏡レンズの装用者が子供であった場合、屋外活動の際、良好な視認性が得られにくいことを意味する。これは、装用者(特に子供)の日常生活の質(QOL)の低下につながることを意味する。
【0014】
本発明の一態様は、クリア領域とファンクショナル領域とを備えた眼鏡レンズを装用する際、周辺視野でも良好な視認性を得やすくする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、
アイポイントを含む領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させる中心側クリア領域と、
前記中心側クリア領域を包囲する環状のファンクショナル領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させる一方、装用者の瞳孔内に入射させた光束を網膜上に収束させない網膜上非収束領域を有するファンクショナル領域と、
眼鏡レンズの外縁側にて前記ファンクショナル領域を包囲する環状の領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させる外側クリア領域と、
を備え、
平面視において、前記ファンクショナル領域は、アイポイントを中心とし且つ直径が15.00~25.00mmのいずれか一つの値である円内に収まる、眼鏡レンズである。
【0016】
本発明の第2の態様は、
アイポイントを含む領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させる中心側クリア領域と、
前記中心側クリア領域を包囲する環状のファンクショナル領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させる一方、装用者の瞳孔内に入射させた光束を網膜上に収束させない網膜上非収束領域を有するファンクショナル領域と、
眼鏡レンズの外縁側にて前記ファンクショナル領域を包囲する環状の領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させる外側クリア領域と、
を備え、
眼球の回旋角10~20度のいずれか一つの値以下の範囲であって、装用者の網膜上のデフォーカス敏感領域に対して光束が入射する位置に前記ファンクショナル領域が設けられ、
前記一つの値を超える回旋角の範囲に対して光束が入射する位置に前記外側クリア領域が設けられ、
前記網膜上非収束領域は、眼鏡レンズ全体のうち前記ファンクショナル領域内に集中的に設けられた、眼鏡レンズである。
【0017】
本発明の第3の態様は、
平面視において、眼鏡レンズ全体における前記網膜上非収束領域の面積に対する、前記ファンクショナル領域内に設けられた前記網膜上非収束領域の面積は80%以上である、第1又は第2の態様に記載の眼鏡レンズである。
【0018】
本発明の第4の態様は、
平面視において、眼鏡レンズ全体の面積に対する、前記ファンクショナル領域内に設けられた前記網膜上非収束領域の面積は20%以下である、第1~第3のいずれか一つの態様に記載の眼鏡レンズである。
【0019】
本発明の第5の態様は、
前記ファンクショナル領域では、前記装用者の瞳孔内に入射させた光束の30%以上は網膜上に収束させない、第1~第4のいずれか一つの態様に記載の眼鏡レンズである。
【0020】
本発明の第6の態様は、
平面視において、前記ファンクショナル領域内での前記網膜上非収束領域に対して前記外側クリア領域側で他の該網膜上非収束領域を含まずに外接可能な半径r1[mm](r1は1.50以上且つ2.50以下の範囲のいずれか一つの値)の全ての円の集合体を前記外側クリア領域の形状としたとき、前記ファンクショナル領域は、アイポイントを中心とし且つ直径が15.00~25.00mmのいずれか一つの値である円内に収まる、第1~第5のいずれか一つの態様に記載の眼鏡レンズである。
【0021】
本発明の第7の態様は、
平面視において、前記ファンクショナル領域内での前記網膜上非収束領域に対して前記中心側クリア領域側で他の該網膜上非収束領域を含まずに外接可能な半径r2[mm](r2は1.50以上且つ2.50以下の範囲のいずれか一つの値)の全ての円の集合体を前記中心側クリア領域の形状としたとき、前記中心側クリア領域は、アイポイントを中心とし且つ直径が4.00~13.00mmのいずれか一つの値である円を包含する大きさであり、且つ、該範囲内の別の一つの値である円内に収まる大きさである、第1~第6のいずれか一つの態様に記載の眼鏡レンズである。
【0022】
本発明の第8の態様は、
平面視において、眼鏡レンズ全体における前記網膜上非収束領域の面積に対する、前記ファンクショナル領域内に設けられた前記網膜上非収束領域の面積は80%以上であり、
平面視において、眼鏡レンズ全体の面積に対する、前記ファンクショナル領域内に設けられた前記網膜上非収束領域の面積は20%以下であり、
前記ファンクショナル領域では、前記装用者の瞳孔内に入射させた光束の30%以上は網膜上に収束させず、
平面視において、前記ファンクショナル領域内での前記網膜上非収束領域に対して前記外側クリア領域側で他の該網膜上非収束領域を含まずに外接可能な半径r1[mm](r1は1.50以上且つ2.50以下の範囲のいずれか一つの値)の全ての円の集合体を前記外側クリア領域の形状としたとき、前記ファンクショナル領域は、アイポイントを中心とし且つ直径が15.00~25.00mmのいずれか一つの値である円内に収まり、
平面視において、前記ファンクショナル領域内での前記網膜上非収束領域に対して前記中心側クリア領域側で他の該網膜上非収束領域を含まずに外接可能な半径r2[mm](r2は1.50以上且つ2.50以下の範囲のいずれか一つの値)の全ての円の集合体を前記中心側クリア領域の形状としたとき、前記中心側クリア領域は、アイポイントを中心とし且つ直径が4.00~13.00mmのいずれか一つの値である円を包含する大きさであり、且つ、該範囲内の別の一つの値である円内に収まる大きさである、第1~第7のいずれか一つの態様に記載の眼鏡レンズである。
【0023】
上記の態様に対して組み合わせ可能な本発明の他の態様は以下の通りである。
【0024】
本発明の一態様の中心側クリア領域(及びファンクショナル領域内のベース領域、更には外側クリア領域)は、いわゆる単焦点レンズとしての機能を奏する。
【0025】
前記集合体を、集合体の包絡線と読み替えてもよい。
【0026】
平面視において、眼鏡レンズ全体における網膜上非収束領域の面積に対する、ファンクショナル領域内に設けられた網膜上非収束領域の面積(面積比)は、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の順に好ましい。
【0027】
中心側クリア領域の大きさ及び形状には限定は無く、形状は円形状、矩形状、楕円状等でも構わない。中心側クリア領域の大きさの下限の一つの目安としては、アイポイントを中心とした直径4.00mmの円を包含可能な大きさであってもよい。中心側クリア領域2の大きさの上限の一つの目安としては、アイポイントを中心とした直径13.00mmの円内に収まる大きさであればよい。
【0028】
一つの目安として、ファンクショナル領域では、装用者の瞳孔内に入射させた光束の30%以上(或いは40%以上、50%以上、60%以上)は網膜上に収束させないと定義してもよい。上限は例えば70%としてもよい。
【0029】
なお、ファンクショナル領域において、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果を奏する構成である網膜上非収束領域(凸状領域、埋め込み構造)の平面視での面積が、ファンクショナル領域全体の20%以上かつ80%以下と規定してもよい。網膜上非収束領域は、ファンクショナル領域の外縁に向けて疎となるように配置しても構わない。
【0030】
平面視において、眼鏡レンズ全体の面積に対する、ファンクショナル領域内に設けられた網膜上非収束領域の面積は20%以下(或いは15%以下、10%以下)であるのが好ましい。下限としては、5%以上が挙げられる。
【0031】
但し、周辺視野でも良好な視認性を得やすくすることを考慮すると、眼鏡レンズの外縁とファンクショナル領域との間には、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果をもたらすことを意図した構成(例:デフォーカス領域、凸状領域及び/又は凹状領域、埋め込み構造等)が設けられていないのが好ましい。つまり、眼鏡レンズの外縁とファンクショナル領域との間全体が外側クリア領域であるのが好ましい。
【0032】
右眼用レンズと左眼用レンズの各々に本発明の一態様を適用した眼鏡レンズ対にも本発明の技術的思想が反映されている。
【0033】
所定のフレーム形状に基づいて眼鏡レンズの周縁近傍をカットし、フレームに嵌め入れた眼鏡にも本発明の技術的思想が反映されている。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様によれば、クリア領域とファンクショナル領域とを備えた眼鏡レンズを装用する際、周辺視野でも良好な視認性を得やすくする技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの中心側クリア領域を通過する光束とファンクショナル領域を通過する光束とが、デフォーカス敏感領域に入射する様子を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの<具体例1>の概略平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの<具体例2>の概略平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの<具体例3>の概略平面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの<具体例4>の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について述べる。以下における図面に基づく説明は例示であって、本発明は例示された態様に限定されるものではない。
【0037】
本明細書で挙げる眼鏡レンズは、物体側の面と眼球側の面とを有する。「物体側の面」とは、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面であり、「眼球側の面」とは、その反対、すなわち眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。この関係は、眼鏡レンズの基礎となるレンズ基材においても当てはまる。つまり、レンズ基材も物体側の面と眼球側の面とを有する。
【0038】
本明細書では、眼鏡レンズを装用した状態での水平方向をX方向、天地(上下)方向をY方向、眼鏡レンズの厚さ方向であってX方向及びY方向に垂直な方向をZ方向とする。Z方向は眼鏡レンズの光軸方向でもある。原点はレンズ中心とする。なお、レンズ中心は、眼鏡レンズの光学中心または幾何中心を指す。本明細書では光学中心と幾何中心とが略一致する場合を例示する。
装用者に向かって右方を+X方向、左方を-X方向、上方を+Y方向、下方を-Y方向、物体側方向を+Z方向、その逆方向(奥側方向)を-Z方向とする。本明細書において、「平面視」とは+Z方向から-Z方向へと見たときの状態を指す。
本願各図では右眼用レンズを平面視した場合を例示しており、該右眼用レンズを装用した時の鼻側方向を+X方向、耳側方向を-X方向としている。
なお、眼球側の最表面のみにファンクショナル領域が設けられる場合は、-Z方向から+Z方向へと見たときの状態を平面視としても差し支えない。以降、眼鏡レンズにおけるアイポイント及び幾何中心等のような「位置」を論ずる際は、特記無い限り平面視での位置のことを指す。
【0039】
本明細書において「~」は所定の値以上且つ所定の値以下を指す。
【0040】
<眼鏡レンズ>
本発明の一態様に係る眼鏡レンズは中心側クリア領域とファンクショナル領域とを備える。
【0041】
中心側クリア領域は、幾何光学的な観点において装用者の処方屈折力を実現可能な平滑表面形状を有する部分であって、例えば可視光線波長域で透明の部分である。中心側クリア領域は、特許文献1の第1の屈折領域に対応する部分であり、特許文献4の
図5に記載の眼鏡レンズのレンズ中心及びその近傍に設けられたベース領域としてもよい。また、中心側クリア領域は、レンズ中心及び/又はアイポイントを含む領域であって、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させる領域である。
【0042】
本発明の一態様の中心側クリア領域により処方度数(球面度数、乱視度数、乱視軸等)が実現できる。この球面度数は、正面視した時(物体との距離は無限遠~1m程度)に矯正されるべき度数(例えば遠用度数であり、以降、遠用度数を例示)であってもよいし、中間視(1m~40cm)又は近方視(40cm~10cm)したときに矯正されるべき度数であってもよい。
【0043】
また、中心側クリア領域には、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果をもたらすことを意図した構成(例:デフォーカス領域、凸状領域及び/又は凹状領域、埋め込み構造等)は設けられていない。
【0044】
本発明の一態様の中心側クリア領域(及びファンクショナル領域内のベース領域、更には外側クリア領域)は、いわゆる単焦点レンズとしての機能を奏する。
【0045】
ちなみに、装用者情報の処方データは、眼鏡レンズのレンズ袋に記載されている。つまり、レンズ袋があれば、装用者情報の処方データに基づいた眼鏡レンズの物としての特定が可能である。そして、眼鏡レンズはレンズ袋とセットになっていることが通常である。そのため、レンズ袋が付属した眼鏡レンズも本発明の技術的思想が反映されているし、レンズ袋と眼鏡レンズとのセットについても同様である。
【0046】
「アイポイント(EP)」は、例えば、眼鏡レンズを装用した際に、真正面に向いたときに視線が通る位置であり、以降、この例を挙げる。アイポイントは、装用者に近い物体を装用者が視認したときに(いわば近見時の)視線が通る位置即ち近見アイポイントであってもよい。本発明の一態様においては、フレームへの枠入れ加工前の眼鏡レンズの幾何中心はアイポイントと一致し、且つ、プリズム参照点とも一致し、且つ、レンズ中心とも一致する場合を例示する。以降、本発明の一態様の眼鏡レンズとして、フレームへの枠入れ加工前の眼鏡レンズを例示するが、本発明はこの態様に限定されない。
【0047】
アイポイントは、レンズ製造業者が発行するリマークチャート(Remark chart)又はセントレーションチャート(Centration chart)を参照することにより、位置の特定は可能となる。
【0048】
ファンクショナル領域は、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させる一方、装用者の瞳孔内に入射させた光束の少なくとも一部は網膜上に収束させない領域である。ファンクショナル領域は、平面視において、中心側クリア領域と隣接し且つ中心側クリア領域を包囲する環状の領域である。
【0049】
環状のファンクショナル領域全体において中心側クリア領域と異なる眼鏡レンズの表面形状(例えばすりガラスのような不透明化の加工が成されたもの)や内部埋め込み構造を有するとは限らない。例えば、特許文献1の第2の屈折領域のように凸状領域が島状に設けられる一方で、処方度数を実現する第1の屈折領域(中心側クリア領域と同機能を奏するベース領域)が凸状領域の周囲に設けられる場合、ベース領域と凸状領域とを含む環状の領域をファンクショナル領域とみなしてもよい。
【0050】
また、ファンクショナル領域に関しては、特許文献2の
図1に示すように、円環状に数珠つなぎに凸状領域を形成して径方向にその数珠つなぎの円環を複数配置すると共に凸状領域が形成されない領域はベース領域とした眼鏡レンズにおいて、最小径の数珠つなぎの円環と最大径の数珠繋ぎとの円環との間の領域をファンクショナル領域と設定してもよい。
【0051】
また、ファンクショナル領域に関しては、特許文献3の
図3Bに示すように、眼鏡レンズの内部に屈折率の異なる部材を埋め込んだときに最もアイポイントに近い部分と最もアイポイントEPから遠い部分との間の環状の領域をファンクショナル領域と設定してもよい。
【0052】
装用者の瞳孔内に入射させた光束を網膜上に収束させない領域のことを網膜上非収束領域とも呼ぶ。ファンクショナル領域のうちベース領域以外の領域が網膜上非収束領域である。
【0053】
本発明の一態様は、眼鏡レンズの外縁側にてファンクショナル領域と隣接し且つファンクショナル領域を包囲する環状の外側クリア領域を備える。外側クリア領域は、物体側の面から入射した光束を、眼球側の面から出射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、網膜上に収束させる。つまり、ファンクショナル領域は、外側クリア領域と中心側クリア領域との間に存在する環状の領域となる。
【0054】
(本発明に至るまでの知見)
図1は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズ1の中心側クリア領域2を通過する光束とファンクショナル領域3を通過する光束とが、デフォーカス敏感領域に入射する様子を示す概略側面図である。
【0055】
特許文献4に開示されたデフォーカス領域により、網膜(Retina)上に、デフォーカス刺激が与えられる。この原理を利用して、特許文献4に開示された眼鏡レンズでは、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果がもたらされている。
【0056】
網膜上のデフォーカス刺激が有効な範囲は限られる。一説によれば、該範囲は黄斑部範囲(Eccentricity angle = 9.2 degrees)ともいう(
図1(a)における網膜上のZ軸及びその周囲の太線部分)。ファンクショナル領域3は、網膜上のデフォーカス刺激が有効な範囲をカバーし、眼球回旋を考慮すると、ある程度の回旋角をカバーする大きさが必要となる(
図1(b))。
【0057】
本発明の課題の欄にて述べたように、従来の該眼鏡レンズ1の装用者が子供であった場合、屋外活動の際、周辺視野において良好な視認性が得られにくいことを意味する。これは、装用者(特に子供)の日常生活の質(QOL)の低下につながることを意味する。
【0058】
上記日常生活の質を向上させるためには、外側クリア領域4を大きく設計し、その分、ファンクショナル領域3を小さく設計することが考えられる。但し、ファンクショナル領域3を小さく設計すると、当然ながら、得られる近視進行抑制効果又は遠視軽減効果は少なくなる恐れがある。
【0059】
網膜へのデフォーカス刺激に対して敏感に反応し、眼球成長に影響を及ぼす敏感な領域が、網膜上の黄斑部付近にある。この範囲をデフォーカス敏感領域とする。その一方、デフォーカス敏感領域の外側は、デフォーカス刺激に対してあまり反応しないという知見が得られた。
【0060】
本発明者はこの点に着目し、
図1に示すように、デフォーカス敏感領域にさえ、ファンクショナル領域3を通過した光束が入射すれば、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果が得られることを本発明者は知見した。言い方を変えると、デフォーカス敏感領域以外に入射する光束は、ベース領域3bを通過する光束であってもよいことを本発明者は知見した。
【0061】
この知見に基づき、本発明者は、ファンクショナル領域3の外縁側に外側クリア領域4を設けつつ、該外側クリア領域4をできるだけアイポイントEPに寄せて配置することを知見した。それに加え、網膜上非収束領域3aは、眼鏡レンズ1全体のうちファンクショナル領域3内に集中的に設けるという構成を想到した。
【0062】
(知見に関する構成)
本明細書において「デフォーカス敏感領域」とは、眼球の視角(Eccentricity angle)5~15度のいずれか一つの値以下の範囲であって、装用者の網膜上の黄斑部周辺範囲である。
【0063】
眼球回旋の最大角度を設定し、回旋した状態でも「網膜上デフォーカス敏感領域」をカバーするファンクショナル領域3が眼鏡レンズ1上に設けられる。そして、上記一つの値を超える回旋角の範囲に対して光束が入射する位置に外側クリア領域4が設けられる。
【0064】
眼球回旋の最大角度を10~20度のいずれか一つの値に設定し、デフォーカス敏感領域の最大の視角(Eccentricity angle)を5~15度のいずれか一つの値に設定すれば、眼鏡レンズ1を平面視した時の寸法に概ね対応させた一具体例が以下の態様である。
「本発明の一態様においては、平面視において、ファンクショナル領域3は、アイポイントEPを中心とし且つ直径が15.00~25.00mmのいずれか一つの値である円内に収まる。」
【0065】
つまり、後掲の<具体例1>~<具体例4>に係る
図2~
図5に示すように、ファンクショナル領域3は、最大でも、アイポイントEPを中心とし且つ直径25.00mmの円に内包される。ファンクショナル領域3の外接円の直径が15.00~25.00mmのいずれか一つの値と言い換えてもよい。そして、ファンクショナル領域3の外縁側に、外側クリア領域4が配置される。
【0066】
本発明の一態様によれば、クリア領域とファンクショナル領域3とを備えた眼鏡レンズ1を装用する際、周辺視野に注意を向けた場合でも、ファンクショナル領域3におけるアイポイントEPからの距離は従来よりも大きくないうえ、ファンクショナル領域3の外縁側に、外側クリア領域4が配置される。その結果、周辺視野に注意を向けた場合でも良好な視認性を得やすくなる。
【0067】
<眼鏡レンズ1の好適例及び変形例>
本発明の一態様における眼鏡レンズ1の好適例及び変形例について、以下に述べる。
【0068】
平面視において、眼鏡レンズ1全体における網膜上非収束領域3aの面積に対する、ファンクショナル領域3内に設けられた網膜上非収束領域3aの面積(面積比)は80%以上であるのが好ましい。本規定は、「網膜上非収束領域3aは、眼鏡レンズ1全体のうちファンクショナル領域3内に集中的に設けるという構成」の一具体例でもある。該面積比は、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の順に好ましい。
【0069】
ファンクショナル領域3の外縁側(即ち外側クリア領域4におけるファンクショナル領域3側の形状であり且つ両者の境界)の形状の定義は以下の態様が好ましい。
【0070】
平面視において、ファンクショナル領域3内での網膜上非収束領域3aに対して外側クリア領域4側で他の該網膜上非収束領域3aを含まずに外接可能な半径r1[mm](r1は1.5以上且つ2.50以下の範囲のいずれか一つの値)の全ての円(いずれも同じ半径)の集合体の包絡線EL1をファンクショナル領域3と外側クリア領域4との境界線としてもよい(ファンクショナル領域3の外縁側の定義)。r1×2(及び後掲のr2×2)の値は瞳孔径を想定していることから、本明細書では、これらの円の各々のことをクリア瞳孔円ともいう。以降、包絡線を例示するが、クリア瞳孔円の集合体の包絡線ではなく「クリア瞳孔円の集合体」を外側クリア領域4の形状としてもよい。つまり、外側クリア領域4は、アイポイントEPを含み且つクリア瞳孔円の集合体により構成されてもよい。そして、眼鏡レンズ1において、中心側クリア領域2と外側クリア領域4以外の領域をファンクショナル領域3と定義してもよい。
【0071】
ファンクショナル領域3は、上述の通り、アイポイントEPを中心とし且つ直径が15.00~25.00mmのいずれか一つの値である円内に収まるのが好ましい。繰り返しになるが、この構成を採用する場合、周辺視野においても、ファンクショナル領域3におけるアイポイントEPからの距離は従来よりも大きくないうえ、ファンクショナル領域3の外縁側に、外側クリア領域4が配置される。その結果、周辺視野で良好な視認性を得やすくなる。
【0072】
ファンクショナル領域3の中心側の形状(即ち中心側クリア領域2の形状)の定義は以下の態様が好ましい。
【0073】
平面視において、前記ファンクショナル領域3内での前記網膜上非収束領域3aに対して前記中心側クリア領域2側で他の該網膜上非収束領域3aを含まずに外接可能な半径r2[mm](r2は1.50以上且つ2.50以下の範囲のいずれか一つの値)の全ての円(いずれも同じ半径)の集合体の包絡線EL2を前記ファンクショナル領域3と前記中心側クリア領域2との境界線としたとき、前記中心側クリア領域2は、アイポイントEPを中心とし且つ直径が4.00~13.00mmのいずれか一つの値である円を包含する大きさであり、且つ、該範囲内(直径が4.00~13.00mm)の別の一つの値である円内に収まる大きさであるのが好ましい(ファンクショナル領域3の中心側の定義)。クリア瞳孔円の集合体の包絡線ではなく「クリア瞳孔円の集合体」を中心側クリア領域2の形状としてもよい。つまり、中心側クリア領域2は、アイポイントEPを含み且つクリア瞳孔円の集合体により構成されてもよい。寸法の一例としては、中心側クリア領域2の内接円も外接円も直径が4.00~13.00mmという範囲内に収まる。中心側クリア領域2は、その程度の大きさであるのがよい。
【0074】
中心側クリア領域2の大きさ及び形状には限定は無く、形状は円形状、矩形状、楕円状等でも構わない。中心側クリア領域2の大きさの下限の一つの目安としては、アイポイントEPを中心とした直径4.00mmの円を包含可能な大きさであってもよい。中心側クリア領域2の大きさの上限の一つの目安としては、アイポイントEPを中心とした直径13.00mmの円内に収まる大きさであればよい。
【0075】
上段落に記載の構成を採用すれば、正面視の際に、十分に良好な視認性が得られる。
【0076】
環状のファンクショナル領域3は、本例では、特許文献1に示されるように中心側クリア領域2又は外側クリア領域4と同形状のベース領域3bの上に複数の凸状領域3a(つまり網膜上非収束領域3a)で構成される。その一方、本発明はこの態様に限定されない。例えばすりガラスのような不透明化の加工が成されたものや、内部に埋め込み構造を有するものを含む環状の領域をファンクショナル領域3とみなしてもよい。
【0077】
一つの目安として、ファンクショナル領域3では、装用者の瞳孔内に入射させた光束の30%以上(或いは40%以上、50%以上、60%以上)は網膜上に収束させないと定義してもよい。該%の値が大きければ近視進行抑制効果又は遠視軽減効果も大きくなると期待される一方、視認性は低下する。該%の値は、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果と視認性との兼ね合いで適宜決定すればよい。上限は例えば70%としてもよい。
【0078】
なお、ファンクショナル領域3において、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果を奏する構成である網膜上非収束領域3a(凸状領域3a、埋め込み構造)の平面視での面積が、ファンクショナル領域3全体の20%以上かつ80%以下と規定してもよい。網膜上非収束領域3aは、ファンクショナル領域3の外縁に向けて疎となるように配置しても構わない。
【0079】
平面視において、眼鏡レンズ1全体の面積に対する、ファンクショナル領域3内に設けられた網膜上非収束領域3aの面積は20%以下(或いは15%以下、10%以下)であるのが好ましい。下限としては、5%以上が挙げられる。
【0080】
ファンクショナル領域3の形状には限定は無く、平面視で環状であってもよい。その環は内側(即ち中心側クリア領域2とファンクショナル領域3との境界)及び/又は外側(即ち外側クリア領域4とファンクショナル領域3との境界)において円形状、矩形状、楕円状等又はその組み合わせでも構わない。
【0081】
本発明の一態様の眼鏡レンズ1はフレームへの枠入れ後の眼鏡レンズ1であってもよく、該眼鏡レンズ1におけるファンクショナル領域3の一部が眼鏡レンズ1の外縁と接し、ファンクショナル領域3の他の部分は外側クリア領域4と接してもよい。また、外側クリア領域4の更に外縁側に網膜上非収束領域3aを設けることは妨げない。
【0082】
但し、周辺視野でも良好な視認性を得やすくすることを考慮すると、眼鏡レンズ1の外縁とファンクショナル領域3との間には、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果をもたらすことを意図した構成(例:デフォーカス領域、凸状領域3a及び/又は凹状領域、埋め込み構造等)が設けられていないのが好ましい。つまり、眼鏡レンズ1の外縁とファンクショナル領域3との間全体が外側クリア領域4であるのが好ましい。
【0083】
本発明の特徴的な一態様は、網膜上非収束領域3aが、眼鏡レンズ1全体のうちファンクショナル領域3内に集中的に設けられることである。言い方を変えると、ファンクショナル領域3の外縁側の外側クリア領域4(好適にはファンクショナル領域3の外縁と眼鏡レンズ1の外縁との間)には網膜上非収束領域3aは設けられないのが好ましい。
【0084】
<眼鏡レンズ1の一具体例>
のデフォーカス領域の配置の態様は、特に限定されるものではなく、例えば、デフォーカス領域の外部からの視認性、デフォーカス領域によるデザイン性付与、デフォーカス領域による屈折力調整等の観点から決定できる。なお、デフォーカス領域は網膜上非収束領域の一例であり、網膜上には光束を収束させない一方で網膜の手前側(+Z方向側)に光束を収束させる。
【0085】
眼鏡レンズ1の中心側クリア領域2の周囲に配置されたファンクショナル領域3において、周方向及び径方向に等間隔に、略円形状のデフォーカス領域が島状に(すなわち、互いに隣接することなく離間した状態で)配置されてもよい。デフォーカス領域の平面視での配置の一例としては、各凸状領域3aの中心が正三角形の頂点となるよう各々独立して離散配置(ハニカム構造の頂点に各デフォーカス領域の中心が配置:六方配置)する例が挙げられる。この場合、デフォーカス領域同士の間隔は1.0~2.0mmであってもよい。また、デフォーカス領域(ひいては網膜上非収束領域)の個数は10~200であってもよい。
【0086】
ファンクショナル領域3において、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果を奏する構成(網膜上非収束領域)の一例がデフォーカス領域である。
【0087】
デフォーカス領域とは、幾何光学的な観点においてその領域の中の少なくとも一部がベース領域3bによる集光位置には集光させない領域である。デフォーカス領域とは、特許文献1の微小凸部に該当する部分である。本発明の一態様に係る眼鏡レンズ1は、特許文献1に記載の眼鏡レンズと同様、近視進行抑制レンズである。特許文献1の微小凸部と同様、本発明の一態様に係る複数のデフォーカス領域は、眼鏡レンズ1の物体側の面及び眼球側の面の少なくともいずれかに形成されればよい。本明細書においては、眼鏡レンズ1の物体側の面のみに複数のデフォーカス領域を設けた場合を主に例示する。以降、特記無い限り、デフォーカス領域は、レンズ外部に向かって突出する曲面形状である場合を例示する。
【0088】
複数のデフォーカス領域(ファンクショナル領域内の全デフォーカス領域)のうち半分以上の個数は平面視にて同じ周期で配置されるのが好ましい。同じ周期であるパターンの一例としては平面視にて正三角形配置(デフォーカス領域の中心が正三角形ネットの頂点に配置)が挙げられる。好適には80%以上、より好適には90%以上、更に好適には95%以上である。以降、「ファンクショナル領域内の全デフォーカス領域の半分以上の数(又は80%以上の数)」の好適例は、上記と同様に好適な順に80%以上、90%以上、95%以上とし、繰り返しの記載を省略する。
【0089】
デフォーカス領域は球面形状、非球面形状、トーリック面形状又はそれらが混在した形状(例えば各デフォーカス領域の中心箇所が球面形状、中心箇所の外側の周辺箇所が非球面形状)であってもよい。デフォーカス領域(或いは凸状領域3a)の平面視の半径の1/3~2/3の部分に中心箇所と周辺箇所との境界を設けても構わない。但し、デフォーカス領域(或いは凸状領域3a)の少なくとも中心箇所は、レンズ外部に向かって突出する凸の曲面形状であるのが好ましい。また、複数のデフォーカス領域(ファンクショナル領域内の全デフォーカス領域)のうち半分以上の個数は平面視にて同じ周期で配置されるのが好ましいことに伴い、デフォーカス領域は球面であるのが好ましい。
【0090】
各々のデフォーカス領域は、例えば、以下のように構成される。デフォーカス領域の平面視での直径は、0.6~2.0mm程度が好適である。それぞれ表面の面積では0.50~3.14mm2程度であってもよい。凸状領域3aの曲率半径は、50~250mm、好ましくは86mm程度の球面状である。
【0091】
各デフォーカス領域におけるデフォーカスパワーの具体的な数値に限定は無いが、例えば、眼鏡レンズ1上のデフォーカス領域がもたらすデフォーカスパワーの最小値は0.50~4.50Dの範囲内、最大値は3.00~10.00Dの範囲内であるのが好ましい。最大値と最小値の差は1.00~5.00Dの範囲内であるのが好ましい。
【0092】
「デフォーカスパワー」は、各デフォーカス領域の屈折力と、各デフォーカス領域以外の部分の屈折力との差を指す。別の言い方をすると、「デフォーカスパワー」とは、デフォーカス領域の所定箇所の最小屈折力と最大屈折力の平均値からベース部分の屈折力を差し引いた差分である。本明細書においては、デフォーカス領域が凸状領域3aである場合を例示している。
【0093】
本明細書における「屈折力」は、屈折力が最小となる方向の屈折力と、屈折力が最大となる方向(該方向に対して垂直方向)の屈折力との平均値である平均屈折力を指す。
【0094】
レンズ基材は、例えば、チオウレタン、アリル、アクリル、エピチオ等の熱硬化性樹脂材料によって形成されている。なお、レンズ基材を構成する樹脂材料としては、所望の屈折度が得られる他の樹脂材料を選択してもよい。また、樹脂材料ではなく、無機ガラス製のレンズ基材としてもよい。
【0095】
ハードコート膜は、例えば、熱可塑性樹脂又はUV硬化性樹脂を用いて形成されている。ハードコート膜は、ハードコート液にレンズ基材を浸漬させる方法や、スピンコート等を使用することにより、形成することができる。このようなハードコート膜の被覆によって、眼鏡レンズ1の耐久性向上が図れるようになる。
【0096】
反射防止膜は、例えば、ZrO2、MgF2、Al2O3等の反射防止剤を真空蒸着により成膜することにより、形成されている。このような反射防止膜の被覆によって、眼鏡レンズ1を透した像の視認性向上が図れるようになる。
【0097】
上述したように、レンズ基材の物体側の面には、複数のデフォーカス領域が形成されている。従って、その面をハードコート膜及び反射防止膜によって被覆すると、レンズ基材におけるデフォーカス領域に倣って、ハードコート膜及び反射防止膜によっても複数のデフォーカス領域が形成されることになる。
【0098】
眼鏡レンズ1の製造にあたっては、まず、レンズ基材を、注型重合等の公知の成形法により成形する。例えば、複数の凹部が備わった成形面を有する成形型を用い、注型重合による成形を行うことにより、少なくとも一方の表面にデフォーカス領域を有するレンズ基材が得られる。
そして、レンズ基材を得たら、次いで、そのレンズ基材の表面に、ハードコート膜を成膜する。ハードコート膜は、ハードコート液にレンズ基材を浸漬させる方法や、スピンコート等を使用することにより、形成することができる。
ハードコート膜を成膜したら、更に、そのハードコート膜の表面に、反射防止膜を成膜する。反射防止膜は、該膜のための原料を真空蒸着により成膜することにより、形成することができる。
このような手順の製造方法により、物体側に向けて突出する複数のデフォーカス領域を物体側の面に有する眼鏡レンズ1が得られる。
【0099】
以上の工程を経て形成される被膜の膜厚は、例えば0.1~100μm(好ましくは0.5~5.0μm、更に好ましくは1.0~3.0μm)の範囲としてもよい。ただし、被膜の膜厚は、被膜に求められる機能に応じて決定されるものであり、例示した範囲に限定されるものではない。
【0100】
被膜の上には、更に一層以上の被膜を形成することもできる。そのような被膜の一例としては、反射防止膜、撥水性又は親水性の防汚膜、防曇膜等の各種被膜が挙げられる。これら被膜の形成方法については、公知技術を適用できる。
【0101】
<眼鏡>
所定のフレーム形状に基づいて上記眼鏡レンズ1の周縁近傍をカットし、フレームに嵌め入れた眼鏡にも本発明の技術的思想が反映されている。フレームの種類、形状等には限定は無く、フルリム、ハーフリム、アンダーリム、リムレスであってもよい。
【0102】
以下、本発明の一態様に係る眼鏡レンズ1の具体例を示す。本発明は、以下の具体例に限定されるものではない。
【0103】
<具体例1>
図2は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズ1の<具体例1>の概略平面図である。
【0104】
以下の眼鏡レンズ1を作製した。なお、眼鏡レンズ1はレンズ基材のみからなり、レンズ基材に対する他物質による積層は行っていない。処方屈折力としてS(球面屈折力)は0.00Dとし、C(乱視屈折力)は0.00Dとした。
・レンズ基材の平面視での直径:60.00mm
・レンズ基材の種類:PC(ポリカーボネート)
・レンズ基材の屈折率:1.589
上記の内容は、各具体例に共通の内容であるため、以降は記載を省略する。
【0105】
本具体例では、本発明の一態様を適用する前だと、中心側クリア領域2の範囲を、アイポイントEPから半径3.50mmの円の領域とし、ファンクショナル領域3の範囲を、レンズ中心から半径12.50mmの円内(但し中心側クリア領域2は除く)と設定した。なお、ファンクショナル領域3よりも眼鏡レンズ1の外縁側に外側クリア領域4を設けた。眼鏡レンズ1の外縁とファンクショナル領域3との間は全て外側クリア領域4とした(以降の各具体例でも同様)。
【0106】
本具体例のファンクショナル領域3は、すりガラスのような不透明化の加工がファンクショナル領域3全体に亘って成されたものを想定している。その一方、該ファンクショナル領域3は、近視進行抑制効果又は遠視軽減効果をもたらすことを意図した構成(例:デフォーカス領域、凸状領域3a及び/又は凹状領域、埋め込み構造等)とベース領域3bとを含む環状の領域であってもよい。
【0107】
<具体例2>
図3は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズ1の<具体例2>の概略平面図である。
【0108】
本具体例では以下の構成を採用した。
・ファンクショナル領域3の構成:デフォーカス領域として凸状領域3aを離散配置。ファンクショナル領域3内において、凸状領域3a以外はベース領域3b。
・凸状領域3aの形状:球面
・凸状領域3aの屈折力:3.50D
・凸状領域3aの形成面:物体側の面
・凸状領域3aの平面視での配置:各凸状領域3aの中心が正三角形の頂点となるよう各々独立して離散配置(ハニカム構造の頂点に各凸状領域3aの中心が配置)
・凸状領域3aの平面視での形状:正円(直径1.00mm)
・各凸状領域3a間のピッチ(凸状領域3aの中心間の距離):1.50mm
・装用者の瞳孔径:4.00mmと想定
【0109】
本具体例では、本発明の一態様を適用する前だと、中心側クリア領域2の範囲を、アイポイントEPから半径3.45mmの円の領域とし、ファンクショナル領域3の範囲を、レンズ中心から半径10.00mmの円内(但し中心側クリア領域2は除く)と設定した。
【0110】
<具体例3>
図4は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズ1の<具体例3>の概略平面図である。
【0111】
本具体例では、具体例2に対して以下のように変更した。
【0112】
凸状領域3aの平面視での配置を変更した。具体的には、凸状領域3aを水平方向及び垂直方向に整列させた。各凸状領域3a間のピッチ(凸状領域3aの中心間の距離)は1.25mmとした。
【0113】
本具体例では、本発明の一態様を適用する前だと、中心側クリア領域2の範囲を、アイポイントEPから半径3.25mmの円の領域とし、ファンクショナル領域3の範囲を、レンズ中心から半径10.00mmの円内(但し中心側クリア領域2は除く)と設定した。
【0114】
<具体例4>
図5は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズ1の<具体例4>の概略平面図である。
【0115】
本具体例では、具体例2に対して以下のように変更した。
【0116】
凸状領域3aの平面視での配置を変更した。具体的には、凸状領域3aを周方向に整列させた。この整列を、径ごとに(アイポイントEPからの距離ごとに)行った。整列状況を以下の表に示す。以下の表において、リング番号とは、アイポイントEPから近い順に凸状領域3aの周方向の整列集団に付した番号であり、半径とは該リングの半径であり、凸状領域3aの数とは該リング上に配置された凸状領域3aの数である。
【表1】
【0117】
本具体例では、本発明の一態様を適用する前だと、中心側クリア領域2の範囲を、アイポイントEPから半径3.35mmの円の領域とし、ファンクショナル領域3の範囲を、レンズ中心から半径10.06mmの円内(但し中心側クリア領域2は除く)と設定した。
【0118】
本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【符号の説明】
【0119】
1・・・眼鏡レンズ
2・・・中心側クリア領域
3・・・ファンクショナル領域
3a・・・網膜上非収束領域(凸状領域)
3b・・・ベース領域
4・・・外側クリア領域
EP・・・アイポイント
GC・・・幾何中心
EL1・・・(外側クリア領域とファンクショナル領域との境界の形状となる)包絡線
EL2・・・(中心側クリア領域の形状となる)包絡線
【要約】
【課題】クリア領域とファンクショナル領域とを備えた眼鏡レンズを装用する際、周辺視野でも良好な視認性を得やすくする技術を提供する。
【解決手段】中心側クリア領域と、ファンクショナル領域と、外側クリア領域と、を備え、平面視において、ファンクショナル領域は、アイポイントを中心とし且つ直径が15.00~25.00mmのいずれか一つの値である円内に収まる、眼鏡レンズ及びその関連技術を提供する。
【選択図】
図3