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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/54 20060101AFI20221116BHJP
   B60G 13/08 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
F16F9/54
B60G13/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022534920
(86)(22)【出願日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 JP2021017342
(87)【国際公開番号】W WO2022009511
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2020116054
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】安藤 積磨
(72)【発明者】
【氏名】木水 智大
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-295569(JP,A)
【文献】特開2009-216129(JP,A)
【文献】特開平11-280825(JP,A)
【文献】特開平11-190380(JP,A)
【文献】特開平4-321807(JP,A)
【文献】実開平2-126908(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/54
B60G 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウターシェルと、前記アウターシェル内に移動自在に挿入されるロッドとを有する緩衝器本体と、
前記アウターシェルの下端側の外周に溶接によって取付けられるナックルブラケットとを備え、
前記ナックルブラケットは、正面側に割を有して断面C型の筒状であって前記アウターシェルの外周を抱持する抱持部と、前記抱持部の周方向両端から径方向の外側へ向けて互いに平行して延びて車両におけるナックルに連結可能な一対の取付部と、各前記取付部の上端を互いに接近する方向へ折り曲げて形成されて前記アウターシェルの外周を前記抱持部とともに抱持する補強部と、各前記補強部の上端と前記抱持部の上端とで形成されて前記アウターシェルの外周に沿って溶接されるC型面とを有し、
前記C型面の周方向一端から離間した位置から前記抱持部の背部の上方を通り周方向他端までの範囲内で前記C型面と前記アウターシェルとを溶接して形成されるC形状の溶接部を備えた
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
記溶接部は、前記C型面の周方向一端から離間した位置から前記抱持部の背部の上方を通り周方向他端から離間した位置までの範囲内で前記C型面と前記アウターシェルとを溶接して形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
記溶接部は、前記ナックルブラケットを前記取付部と正対する正面側から見て、前記C型面の前記取付部の一方の延長線との交点を始点とし、前記取付部の他方の延長線との交点を終点として形成される
ことを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記C型面と前記アウターシェルとの隙間は、前記C型面の周方向一端から離間した位置から前記抱持部の背部の上方を通り周方向他端から離間した位置までの範囲よりも前記C型面の周方向両端で広くなる
ことを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記溶接部は、前記C型面の周方向一端から5mm以上10mm以下で離間した位置から前記抱持部の背部の上方を通り周方向他端から5mm以上10mm以下で離間した位置までの範囲内で前記C型面と前記アウターシェルとを溶接して形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、アウターシェルと、アウターシェル内に移動自在に挿入されるロッドとを備え、たとえば、車両におけるサスペンションに組み込まれて使用され、アウターシェルに対してピストンロッドが軸方向に移動する伸縮時に減衰力を発揮して車体と車輪の振動を抑制する。
【0003】
このようにサスペンションに組み込まれる緩衝器は、たとえば、ストラット式サスペンションに利用される場合、アウターシェルの下端に車両の車輪を保持するナックルを取り付けるためのナックルブラケットが溶接によって取り付けられる。
【0004】
ナックルブラケットは、たとえば、アウターシェルの外周を抱持する断面C型であって筒状の抱持部と、抱持部の周方向両端から径方向の外側へ向けて互いに平行して延びてナックルに連結可能な一対の取付部と、各前記取付部の上端を互いに接近する方向へ折り曲げて形成される補強部とを備えたものがある。
【0005】
ナックルブラケットは、上端とともに下端がアウターシェルの下端外周に溶接されてアウターシェルに一体化されるが、緩衝器が車輪から受ける荷重を支持するため、アウターシェルとナックルブラケットとを強固に接合する必要がある。
【0006】
そこで、従来の緩衝器におけるナックルブラケットでは、たとえば、JP2002-372090A或いはJP2009-216129Aに開示されているように、補強部の上端面と抱持部の上端面とを面一となるように成型して、補強部の上端面と抱持部の上端面とを溶接面としてアウターシェルの外周に溶接されている(たとえば、特許文献1,2参照)。
【0007】
このように構成された緩衝器では、ナックルブラケットでは、溶接面が面一となっているため、アウターシェルとの溶接時に溶融した溶加材が溶接面に溜まりやすくなって、溶接不良が生じず十分な強度を備えた緩衝器の製造が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-372090号公報
【文献】特開2009-216129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように構成された緩衝器は、アウターシェルとナックルブラケットとが強固に接合されるため、車両への使用について現状は特に問題がない。
【0010】
ところが、車両重量は、主に、自動車安全基準の強化に伴うフレーム構造等の見直し、予防安全装置の搭載、快適性向上のための搭載機器の増大によって、増加の一途を辿っている。よって、ストラット式サスペンションに利用される緩衝器は、増々重くなる車両重量を支持しなければならず、より高荷重に耐えうるようにアウターシェルとナックルブラケットとの接合強度のより一層の向上が要望されることが予想される。
【0011】
ここで、アウターシェルとナックルブラケットを溶接する際には、アウターシェルと前述の溶接面との間に隙間を生じさせないように取付部同士を接近させるようにクランプしつつ溶接が行われる。しかしながら、補強部は前述のように折り曲げて成型されるのでスプリングバックによって形状が戻って溶接面の周方向の両端とアウターシェルの外周との間に隙間が生じてしまう場合がある。
【0012】
このように、溶接面とアウターシェルの間に広い隙間が生じると、当該隙間の部分ではナックルブラケットとアウターシェルとの被溶接材料が十分に溶加材と融合せず溶加材の割合が多いビードを含んだ溶接部が形成されてしまう場合がある。
【0013】
このような溶接部は、十分に被溶接材料が融合した溶接部よりも脆く、接合強度が低くなるため、高い荷重を繰り返し与える振動試験を行うと緩衝器に要望されるであろう回数に満たずに溶接部に亀裂が生じてしまう場合がある。
【0014】
そこで、本発明は、アウターシェルとナックルブラケットの接合強度を高めて高荷重の繰り返し入力に対する耐性を向上できる緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記した課題を解決するために、本発明の緩衝器は、アウターシェルと、アウターシェル内に移動自在に挿入されるロッドとを有する緩衝器本体と、アウターシェルの下端側の外周に溶接によって取付けられるナックルブラケットとを備え、ナックルブラケットは、正面側に割を有して断面C型の筒状であってアウターシェルの外周を抱持する抱持部と、抱持部の周方向両端から径方向の外側へ向けて互いに平行して延びて車両におけるナックルに連結可能な一対の取付部と、各取付部の上端を互いに接近する方向へ折り曲げて形成されてアウターシェルの外周を抱持部とともに抱持する補強部と、各補強部の上端と抱持部の上端とで形成されて前記アウターシェルの外周に沿って溶接されるC型面とを有し、C型面の周方向一端から離間した位置から抱持部の背部の上方を通り周方向他端までの範囲内でC型面とアウターシェルとを溶接して形成されるC形状の溶接部を備えている。
【0016】
このように構成された緩衝器によれば、アウターシェルとの間に隙間が生じやすい補強部の先端部分に相当するナックルブラケットのC型面の周方向一端を外して溶接されるので、ナックルブラケットとアウターシェルとの溶接部における接合強度が向上し、高荷重の繰り返し入力に対する耐性をもつ溶接部を形成できる。
【0017】
さらに、緩衝器における溶接部は、C型面の周方向一端から離間した位置から抱持部の背部の上方を通り周方向他端から離間した位置までの範囲内でC型面とアウターシェルとを溶接して形成されてもよい。このように構成された緩衝器によれば、アウターシェルとの間に隙間が生じやすい補強部の先端部分に相当するナックルブラケットのC型面の周方向の両端を外して溶接されるので、ナックルブラケットとアウターシェルとの溶接部における接合強度がより一層向上し、より高い荷重の繰り返し入力に対する耐性をもつ溶接部を形成できる。
【0018】
また、緩衝器における溶接部は、ナックルブラケットを取付部と正対する正面から見て、C型面の一方の取付部の延長線との交点を始点とし、他方の取付部の延長線との交点を終点として形成されてもよい。このように構成された緩衝器によれば、補強部の変形しづらい箇所を避けて溶接部を形成できるので確実に全体が高強度の溶接部を得られるとともに、ナックルブラケットとアウターシェルの溶接範囲を予め設定できるので溶接作業も容易となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の緩衝器によれば、アウターシェルとナックルブラケットの接合強度を高めて高荷重の繰り返し入力に対する耐性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、一実施の形態における緩衝器の側面図である。
図2図2は、一実施の形態における緩衝器のナックルブラケットの正面図である。
図3図3は、一実施の形態における緩衝器のナックルブラケットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1および図2に示すように、緩衝器Dは、アウターシェル2と、アウターシェル2内に移動自在に挿入されるロッド3とを有する緩衝器本体1と、アウターシェル2の下端側の外周に溶接によって取付けられるナックルブラケット4とを備えており、ナックルブラケット4を利用して図示しない車両の車輪を支持するナックルに連結されて車両の車体と車輪との間に介装される。
【0022】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。緩衝器本体1は、筒状のアウターシェル2と、アウターシェル2内に移動自在に挿入されるロッド3とを有して、ロッド3がアウターシェル2に対して軸方向に相対移動する伸縮作動時にロッド3のアウターシェル2に対する相対移動を妨げる減衰力を発生して、車両の車体と車輪の振動を減衰させる。
【0023】
緩衝器本体1は、たとえば、下端が閉塞される筒状のアウターシェル2と、アウターシェル2内に収容される図示しないシリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるロッド3と、ロッド3に連結されるとともにシリンダ内に挿入されてシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダとアウターシェルとの間に形成されるリザーバと、シリンダの下端に設けられて圧側室とリザーバとを仕切るバルブケースとを備えている。そして、伸側室と圧側室には、作動油等の液体が充填され、リザーバには、液体と気体とが充填されている。なお、緩衝器Dに使用される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体でもよい。
【0024】
また、ピストンには、伸側室と圧側室とを連通する通路と、圧側室とリザーバとを連通する通路には、それぞれ減衰バルブが設けられている。このように構成された緩衝器本体1は、伸縮作動時にピストンによって伸側室と圧側室とが拡縮されて液体が通路を介して移動し、この液体の流れに前記減衰バルブが抵抗を与えて減衰力を発生する。
【0025】
なお、アウターシェル2の中間の外周には、図示しない懸架ばねの下端を支承する下方懸架ばね受12が装着されている。図外の懸架ばねは、ロッド3の先端に取り付けられる上方懸架ばね受と前記した下方懸架ばね受12との間に介装されており、緩衝器Dを車体と車輪との間に介装すると車体を弾性支持する。
【0026】
ナックルブラケット4は、一枚金属の母材を折り曲げ成型して構成されている。ナックルブラケット4は、アウターシェル2の外周を抱持する断面C型であって筒状の抱持部5と、抱持部5の周方向両端から径方向の外側へ向けて互いに平行して延びて図示しない車両におけるナックルに連結可能な一対の取付部6,7と、各取付部6,7の上端を互いに接近する方向へ折り曲げて形成されてアウターシェル2の外周を抱持部5とともに抱持する補強部8,9と、各補強部8,9の上端と抱持部5の上端とで形成されてアウターシェル2の外周に沿って溶接されるC型面10とを備えている。
【0027】
抱持部5は、図1および図2に示すように、正面側に割りを備えた断面C型の筒状であって、正面から見て背部の中央に矩形の切欠5aを備えている。この切欠5aは、ナックルブラケット4の軽量化のために設けられており、設けなくともよい。
【0028】
また、取付部6,7は、抱持部5の周方向の両端から互いに対向して平行に抱持部5の径方向外側へ向けて延びていて、図示しないナックルの取付部に設けられた2つの孔に対向可能な位置にそれぞれ2つずつボルト挿入孔6a,7aを備えている。そして、取付部6,7の間に図外のナックルの取付部を挿入し、ボルト挿入孔6a,7aに挿入されるナックルの取付部を貫通する図示しないボルトとナットによって、取付部6,7と前記ナックルの取付部をボルト締結して、このナックルブラケット4をナックルに取付できるようになっている。取付部6,7の下端は、外方へ折り曲げられてフランジ部6b,7bが設けられ、取付部6,7の強度向上が図られている。
【0029】
さらに、取付部6,7の上端は、曲げ加工によって互いに接近する方向である内側に折り曲げられて補強部8,9が形成されている。また、補強部8,9は、図1および図2に示すように、取付部6,7の上端を抱持部5側へ、つまり、ナックルブラケット4の内方へ向けて窄ませるように曲げ成型されることで、補強部8,9の上端と抱持部5の上端とが面一となって1つの面を形成して、アウターシェル2の外周を抱持部5とともに抱持している。このように、補強部8,9の上端と抱持部5の上端とは、ともに前述したように面一となっていてアウターシェル2の外周に沿った1つのC形状の面、つまり、C型面10を形成している。
【0030】
ナックルブラケット4は、上端と下端とがアウターシェル2の外周に溶接によって接合され、アウターシェル2に固定される。ナックルブラケット4の下端は、抱持部5の下端の全体が周方向にアウターシェル2の下端外周にアーク溶接によって溶接される。
【0031】
ナックルブラケット4の上端側については、アウターシェル2の外周とC型面10とがアーク溶接されてC形状の溶接部11が形成される。図3に示すように、溶接部11は、被溶接材料と溶加材とが溶融して形成されており、C型面10の周方向一端から離間した位置から抱持部5の背部の上方を通り周方向他端から離間した位置までの範囲で形成されている。つまり、溶接部11は、C型面の周方向の両端には形成されず、C型面10が当該両端を残した全部にアウターシェル2に溶接されている。
【0032】
具体的には、本実施の形態の緩衝器Dでは、アウターシェル2の外径を50mmとして、ナックルブラケット4の板厚を3mmとして、溶接部11は、C型面10の周方向の一端から5mm以上10mm以下で離間した位置を始点とし、抱持部5の背部の上端を通って、C型面10の周方向の他端から5mm以上10mm以下で離間した位置を終点として形成されている。
【0033】
ナックルブラケット4をアウターシェル2に溶接する際、取付部6,7を互いに引き寄せるようにクランプして、ナックルブラケット4のC型面10をアウターシェル2の外周に密着させようとするが、ナックルブラケット4の強度を向上するために設けられた補強部8,9が変形しづらい。したがって、補強部8,9の上端の先端部、つまり、取付部6,7をクランプしてもC型面10の周方向の両端部とアウターシェル2との間に隙間が生じてしまう場合がある。
【0034】
ナックルブラケット4のC型面10とアウターシェル2の外周との間の隙間があっても、ナックルブラケット4のC型面10とアウターシェル2の外周との間の隙間が十分に狭い場合には、溶接時に被溶接材料であるナックルブラケット4とアウターシェル2とが溶加材と融合したビードを形成できるのであるが、取付部6,7をクランプしても変形しづらいC型面10の周方向の両端では隙間が広く被溶接部材と溶加材とが融合したビードを形成できない。
【0035】
よって、従来の緩衝器のように、C型面10の全部をアウターシェル2の外周に溶接する場合に、C型面10の周方向の両端部とアウターシェル2の外周との間に広い隙間が生じてしまっていると、溶接部のC型面10の周方向の両端部に対応する部分では被溶接材料と溶加材とが融合した強度の高いビードを形成できない。つまり、従来の緩衝器のように、C型面10の全部を溶接すると、溶接部のC型面10の周方向の両端部に対応する部分が脆弱なビードで形成されるため、ナックルブラケット4とアウターシェル2との溶接部において十分な接合強度が得られない。
【0036】
これに対して、本実施の形態の緩衝器Dでは、C型面10の全部が溶接されるのではなく、アウターシェル2との間に隙間が生じやすい補強部8,9の先端部分に相当するナックルブラケット4のC型面10の周方向両端を外して、C型面10の周方向の一端から離間した位置から抱持部5の背部の上方を通ってC型面10の周方向の他端から離間した位置までの範囲に溶接部11が形成されている。このように溶接部11が形成されると、溶接部11は、十分にナックルブラケット4とアウターシェル2との被溶接材料と溶加材とが融合した強度の高いビードのみで形成される。よって、本実施の緩衝器Dの溶接部11の溶接長さは、ナックルブラケットの上端の全部を溶接する従来の緩衝器の溶接部の溶接長さより短くなるものの、溶接部11におけるナックルブラケット4とアウターシェル2との接合強度が向上し、溶接部11は、高荷重の繰り返し入力に対し、従来の緩衝器の溶接部より高い耐性を得るようになる。
【0037】
このように、本実施の形態の緩衝器Dは、アウターシェル2と、アウターシェル2内に移動自在に挿入されるロッド3とを有する緩衝器本体1と、アウターシェル2の下端側の外周に溶接によって取付けられるナックルブラケット4とを備え、ナックルブラケット4は、正面側に割を有して断面C型の筒状であってアウターシェル2の外周を抱持する抱持部5と、抱持部5の周方向両端から径方向の外側へ向けて互いに平行して延びて車両におけるナックルに連結可能な一対の取付部6,7と、各取付部6,7の上端を互いに接近する方向へ折り曲げて形成されてアウターシェル2の外周を抱持部5とともに抱持する補強部8,9と、各補強部8,9の上端と抱持部5の上端とで形成されてアウターシェル2の外周に沿って溶接されるC型面とを有し、C型面10の周方向一端から離間した位置から抱持部5の背部の上方を通り周方向他端から離間した位置までの範囲内でC型面10とアウターシェル2とを溶接して形成されるC形状の溶接部11を備えている。
【0038】
このように構成された緩衝器Dによれば、アウターシェル2との間に隙間が生じやすい補強部8,9の先端部分に相当するナックルブラケット4のC型面10の周方向両端を外して溶接されるので、ナックルブラケット4とアウターシェル2との接合強度が向上し、高荷重の繰り返し入力に対する耐性を向上できる。取付部6,7の上端を互いに接近する方向ヘ向けて折り曲げ成型して形成される補強部8,9を備えるナックルブラケット4を備えた緩衝器Dであれば、前述の範囲で溶接部11を形成すれば高荷重の繰り返し入力に対する耐性を向上できるようになる。
【0039】
ナックルブラケット4のC型面10の周方向の一端側とアウターシェル2の外周との間の隙間の間隔が広い部分では、脆弱なビードが形成されてしまう。前述したように、ナックルブラケット4が取付部6,7の上端を折り曲げ成型して設けた補強部8,9を備えているため、C型面10とアウターシェル2との間の隙間は、C型面10の周方向両端が広くなる傾向にある。
【0040】
よって、ナックルブラケット4のC型面10をアウターシェル2の外周へ溶接する際に、溶接部11の始点と終点をC型面10の周方向の両端からどの程度離間させるかについては、以下のようにすればよい。C型面10の周方向の一端側にてC型面10とアウターシェル2の外周との間の隙間が強度の高いビードの形成が可能な程度に狭くなる箇所をビードが形成される始点とし、C型面10の周方向の他端側にてC型面10とアウターシェル2の外周との間の隙間が強度の高いビードの形成が不能となる箇所の直前をビードが形成される終点とすればよい。そうすると、溶接部11の溶接長さを最長としつつも、脆弱な部分を持たない溶接部11の形成が可能となる。本実施の形態ではナックルブラケット4のC型面10の周方向両端からそれぞれ5mm以上10mm以下の範囲に溶接部11の始点と終点を設定しており、溶接部11において高荷重の繰り返し入力に対し、従来の緩衝器に要求されるよりも高い耐性を持つ良好な接合強度が得られる。このように、ナックルブラケット4の寸法誤差や材料のスプリングバックなどを加味して、予め脆弱なビードが形成されてしまうことがない程度の隙間となる位置を見極めて、C型面10の周方向の一端と溶接部11の始点との離間距離およびC型面10の周方向の他端と溶接部11の終点との離間距離を予め設定することで製造の度に隙間間隔を計測する手間が省ける。なお、C型面10の周方向の一端と溶接部11の始点との離間距離およびC型面10の周方向の他端と溶接部11の終点との離間距離は、本実施の形態の緩衝器Dでは、同じ長さに設定されているが、ナックルブラケット4の完成品が正面から見て左右均等ではない場合には異なる長さに設定されてもよい。
【0041】
また、図2に示すように、溶接部11は、ナックルブラケット4を取付部6,7と正対する正面から見て、C型面10の一方の取付部6の内側面6cの延長線E1との交点を始点とし、他方の取付部7の内側面7cの延長線E2との交点を終点として形成されるとよい。前述したとおり、ナックルブラケット4をアウターシェル2の外周へ溶接しようとして、取付部6,7をクランプしても取付部6,7の上端を折り曲げ成型して得られる補強部8,9が変形しづらいために、C型面10の周方向両端とアウターシェル2の外周との間に広い隙間が生じる。補強部8,9は、図2中で取付部6,7の内側面6c,7cの延長線E1,E2の内側の範囲が特に強度が強く変形しづらいため、この箇所を避けて溶接して溶接部11を形成すると、確実に全体が高強度の溶接部11を得られる。また、取付部6,7の内側面6c,7cの位置は、ナックルブラケット4の設計値から得られるので、ナックルブラケット4とアウターシェル2の溶接範囲を予め設定できるので溶接作業も容易となる。
【0042】
なお、前述したところでは、溶接部11は、ナックルブラケット4のC型面10の周方向の両端を外して、C型面10の周方向の一端から離間した位置から抱持部5の背部の上方を通ってC型面10の周方向の他端から離間した位置までの範囲で形成されている。しかしながら、溶接部11がC型面10の周方向の一端から離間した位置から抱持部5の背部の上方を通ってC型面10の周方向の他端まで形成されても、C型面10の一端側で溶接強度の向上が見込めるので、溶接部11は、C型面10の周方向の一端から離間した位置から抱持部5の背部の上方を通ってC型面10の周方向の他端まで形成されてよい。したがって、溶接部11は、C型面10の周方向の一端から離間した位置から始まって抱持部5の背部の上方を通ってC型面10の周方向の他端から離間した位置までの範囲内で形成されていれば、従来の緩衝器の溶接部における溶接強度よりも高い溶接強度と高い耐性を得られる。
【0043】
ただし、溶接強度をより一層向上させるとともにより高い荷重の繰り返し入力に対する耐性をもつ溶接部11を得るには、C型面10の周方向の一端から離間した位置から抱持部5の背部の上方を通ってC型面10の周方向の他端から離間した位置までの範囲内で溶接部11を形成する方がよい。
【0044】
また、溶接部11は、C型面10の周方向の一端から離間した位置から始まって抱持部5の背部の上方を通ってC型面10の周方向の他端までの範囲内であれば、切れ目なく連続して形成されるのではなく、前記範囲内の複数個所に分割されて形成されていてもよい。このように溶接部11を複数に分割して形成してもよいことは、C型面10の周方向の一端から離間した位置から抱持部5の背部の上方を通ってC型面10の周方向の他端から離間した位置までの範囲内に溶接部11を形成する場合も同様である。
【0045】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1・・・緩衝器本体、2・・・アウターシェル、3・・・ロッド、4・・・ナックルブラケット、5・・・抱持部、6,7・・・取付部、6c,7c・・・取付部の内側面、8,9・・・補強部、10・・・C型面、11・・・溶接部、E1,E2・・・延長線、D・・・緩衝器
図1
図2
図3