(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】音響滴下除去装置及び音響滴下除去方法
(51)【国際特許分類】
F26B 9/00 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
F26B9/00 C
(21)【出願番号】P 2019033203
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000223182
【氏名又は名称】TOA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107847
【氏名又は名称】大槻 聡
(72)【発明者】
【氏名】福山 和男
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 智
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 香織
(72)【発明者】
【氏名】東園 雄太
(72)【発明者】
【氏名】今門 徳郎
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-048484(JP,A)
【文献】特開平04-203784(JP,A)
【文献】特開2002-316114(JP,A)
【文献】特開平01-315372(JP,A)
【文献】特開2004-317066(JP,A)
【文献】特開2012-057842(JP,A)
【文献】特許第3163239(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2004/0124230(US,A1)
【文献】特表2017-522535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に液体が付着した対象物に対向するスピーカと、
前記スピーカから前記対象物の共振周波数を含む周波数範囲をスイープするスイープ音を放射するための第1スピーカ駆動手段と、
不連続波としての
衝撃波を前記スピーカから放射するための第2スピーカ駆動手段とを備え、
前記対象物に対し前記スイープ音及び前記衝撃波を順次に放射し、
前記対象物から前記液体を液滴として離脱させることを特徴とする音響滴下除去装置。
【請求項2】
前記スピーカは、前記スイープ音の放射後に前記衝撃波を放射することを特徴とする請求項1に記載の音響滴下除去装置。
【請求項3】
前記スピーカは、前記スイープ音の放射前にさらに前記衝撃波を放射することを特徴とする請求項2に記載の音響滴下除去装置。
【請求項4】
前記衝撃波の放射は、前記スイープ音の放射されない所定の休止期間を隔てて行われる2以上の前記衝撃波の放射からなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の音響滴下除去装置。
【請求項5】
前記周波数範囲の下限値が100Hz以下であることを特徴とする請求項1に記載の音響滴下除去装置。
【請求項6】
前記周波数範囲は、少なくとも20Hz~90Hzの周波数を含むことを特徴とする請求項5に記載の音響滴下除去装置。
【請求項7】
前記衝撃波の振幅は、前記スイープ音の振幅よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の音響滴下除去装置。
【請求項8】
前記対象物は、電着塗装後の洗浄工程において洗浄液が付着した自動車の車体であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の音響滴下除去装置。
【請求項9】
表面に液体が付着した対象物に対し、前記対象物の共振周波数を含む周波数範囲をスイープするスイープ音を放射するステップと、
前記対象物に対し、
不連続波としての衝撃波を放射し、前記対象物から前記液体を液滴として離脱させるステップとを備えることを特徴とする音響滴下除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響滴下除去装置及び音響滴下除去方法に係り、更に詳しくは、対象物の表面に付着する水などの液体の少なくとも一部を除去する音響滴下除去装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の表面に付着した液体を除去しようとする場合、エアブロー、加熱乾燥、遠心脱水などが考えられる。しかしながら、エアブローの場合、対象物の狭い溝などに溜まった液体を容易に除去することができず、複雑な形状を有する物には適さないという問題がある。加熱乾燥の場合、対象物を劣化させるおそれがあるとともに、液体除去に時間がかかるという問題がある。遠心脱水する場合、対象物を高速回転させる必要があるため、適用対象が限られるとともに、装置が大型化するという問題がある。
【0003】
また、超音波振動を利用して液体を除去する方法が従来から知られている(例えば、特許文献1~3)。液体に超音波振動を与えると、表面波が発生し、液体が滴下し易くなる。特許文献1~3には、自動車のバックミラーに振動器を取り付け、バックミラーを超音波帯域で振動させることにより水滴を除去することが記載されている。このような従来技術では、対象物に振動器を取り付ける必要がある。また、超音波振動により液体が対象物の表面上を移動しても、平坦な鉛直面又は傾斜面でなければ、滴下させて除去することは難しい。例えば、液溜まりが生じるような複雑な形状を有する対象物の場合、液体を滴下させて分離することはできないという問題があった。
【0004】
例えば、電着塗装による自動車の塗装工程では、車体に余分な塗料や洗浄液が付着している状態で焼付処理を行うと塗装品質が低下する。このため、焼付処理前に塗料や洗浄液を十分に除去しておく必要がある。このような液体除去処理は、例えば、エアブローによって行われているが、車体の形状は複雑であり、例えば、鋼板の継ぎ合わせ部のような溝部、多数の凹部、袋部などがあり、液溜まりが生じ易く、十分に除去することができないという問題があった。
【0005】
また、超音波振動を利用して余分な電着塗料を除去する方法が従来から知られている(特許文献4)。この特許文献では、超音波発信器から超音波を放射し、非接触で振動させていると考えられるが(
図2)、このような方法では、液体を十分に振動させることができず、ごく狭い領域における局所的効果しか得られないと考えられる。また、高価な振動子が必要であり、コストを増大させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-238149号公報
【文献】実開昭63-069646号公報
【文献】実開平03-094359号公報
【文献】特開平05-093299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、対象物に付着する液体を滴下除去する音響滴下除去装置を提供することを目的とする。特に、複雑な形状を有する対象物に付着した液体を滴下除去する音響滴下除去装置を提供することを目的とする。また、対象物に接触することなく、対象物に付着した液体を滴下除去する音響滴下除去装置を提供することを目的とする。さらに、このような音響滴下除去装置に適用可能な音響滴下除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の実施態様による音響滴下除去装置は、表面に液体が付着した対象物に対向するスピーカと、前記スピーカから前記対象物の共振周波数を含む周波数範囲をスイープするスイープ音を放射するための第1スピーカ駆動手段と、衝撃波を前記スピーカから放射するための第2スピーカ駆動手段とを備え、前記対象物から前記液体を液滴として離脱させるように構成される。
【0009】
可聴帯域内に1又は2以上の共振周波数を有する対象物に対し、このような共振周波数の少なくとも一つを含む周波数範囲をスイープするスイープ音を放射すれば、当該対象物を共振させることができる。共振により対象物を振動させると、当該対象物に付着した液体が対象物の表面上を移動して液滴化し、あるいは、より大きな液滴に成長する。また、液体が付着する対象物に衝撃波を放射すれば、当該液体を対象物から離脱させることができる。従って、液体が付着する対象物に対し、スイープ音及び衝撃波を放射することにより、当該液体の少なくとも一部を対象物から除去することができる。
【0010】
本発明の第2の実施態様による音響滴下除去装置は、上記構成に加えて、前記スピーカが前記スイープ音の放射後に前記衝撃波を放射するように構成される。
【0011】
このような構成を採用することにより、スイープ音の放射により液体を液滴化し、あるいは、液滴を成長させ、その後に衝撃波を放射することにより、当該液滴を対象物から離脱させることができる。従って、対象物に付着する液体を液滴として離脱させ、滴下除去することができる。
【0012】
本発明の第3の実施態様による音響滴下除去装置は、上記構成に加えて、前記スピーカが前記スイープ音の放射前にさらに前記衝撃波を放射するように構成される。
【0013】
このような構成を採用することにより、例えば、対象物に液滴が付着している場合や、液溜まりが形成されている場合などに、スイープ音の放射前に衝撃波を放射し、スイープ音の放射時に対象物に付着している液滴の量を減少させることができる。このため、スイープ音を放射しても液滴化されずに残る液体を減少させることができる。
【0014】
本発明の第4の実施態様による音響滴下除去装置は、上記構成に加えて、前記衝撃波の放射が、前記スイープ音の放射されない所定の休止期間を隔てて行われる2以上の前記衝撃波の放射からなる。
【0015】
このような構成を採用することにより、衝撃波の放射により離脱させることが可能な液滴をより多く離脱させることができる。従って、液滴の除去をより効果的に行うことができる。
【0016】
本発明の第5の実施態様による音響滴下除去装置は、上記構成に加えて、前記周波数範囲の下限値が100Hz以下となるように構成される。
【0017】
本発明の第6の実施態様による音響滴下除去装置は、上記構成に加えて、前記周波数範囲が、少なくとも20Hz~90Hzの周波数を含むように構成される。
【0018】
本発明の第7の実施態様による音響滴下除去装置は、上記構成に加えて、前記衝撃波の振幅が、前記スイープ音の振幅よりも大きくなるように構成される。
【0019】
本発明の第8の実施態様による音響滴下除去装置は、上記構成に加えて、前記対象物が、電着塗装後の洗浄工程において洗浄液が付着した自動車の車体である。
【0020】
本発明の第9の実施態様による音響滴下除去方法は、表面に液体が付着した対象物に対し、前記対象物の共振周波数を含む周波数範囲をスイープするスイープ音を放射するステップと、前記対象物に対し、衝撃波を放射し、前記対象物から前記液体を液滴として離脱させるステップとを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、対象物に付着する液体を離脱させ、滴下除去する音響滴下除去装置を提供することができる。特に、複雑な形状を有する対象物に付着した液体を滴下除去することができる。また、対象物に接触することなく、対象物に付着した液体を滴下除去することができる。さらに、このような音響滴下除去装置に適用可能な音響滴下除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態による音響滴下除去方法の一例を示した概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態による音響滴下除去方法の原理を模式的に示した図である。
【
図3】本実施の形態において用いられる振動波Wの一例を示した図である。
【
図6】2以上の振動波Wが繰り返し放射される動作の一例を示した図である。
【
図7】本発明の実施の形態による音響滴下除去装置3の一構成例を示したブロック図である。
【
図8】
図7の音響滴下除去装置3の動作の一例を示したフローチャートである。
【
図9】本発明を自動車製造における車体塗装の工程に適用する場合の一例を示した図である。
【
図10】本発明を自動車製造における車体塗装の工程に適用する場合の一例を示した図である。
【
図11】本発明を車体塗装の工程に適用する場合の他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、本明細書における滴下除去とは、対象物に付着する液体を液滴として対象物から離脱させた後、自由落下させることにより除去することを意味する。この滴下除去には、対象物の表面に付着する液滴の分離除去だけでなく、対象物の表面上に液膜を形成し、隙間に入り込み、あるいは、液溜まりを形成する液体を液滴化して分離除去することも含まれる。また、付着する液体を減少させることができればよく、付着する液体を完全に除去するものでなくてもよい。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態による音響滴下除去方法の一例を示した概略図であり、液体が付着する対象物10と、振動波Wを放射する音響装置12と、滴下除去される液滴Dとが示されている。音響装置12が生成する振動波Wは、対象物10に向けて放射され、振動波Wを受けた対象物10が振動することにより、対象物10の表面に付着する液体が液滴Dとなって滴下除去される。
【0025】
対象物10は、表面に液体が付着する構造物であり、例えば、電着塗装後に洗浄処理され、表面に洗浄液が付着している自動車の車体である。音響装置12は、空気を振動させる振動波Wを生成し、自由空間に放出する装置であり、例えば、可聴帯域(20Hz~20kHz)の成分を含む音響波を出力するスピーカである。音響装置12は、対象物10に対向して配置され、対象物10に向けて振動波Wを放射することができる。
【0026】
振動波Wが対象物10を振動させると、対象物10の表面に付着する液体Lは、液滴Dとして対象物10から周辺空間に放出され、重力により自由落下する。従って、振動波Wを用いることにより対象物10を非接触で振動させ、液滴Dを対象物10から離脱させることにより、液体Lを滴下除去することができる。つまり、対象物10の液切りを行うことができる。
【0027】
図2の(a)~(c)は、本発明の実施の形態による音響滴下除去方法の原理を模式的に示した図である。
図2(a)には、振動波Wを放射する前の様子が示されている。対象物10の表面が平坦であり、かつ、液体Lの粘性が低い場合、液体の表面張力の影響により、対象物10の表面に付着した液体Lは、厚さが略均一の液膜を形成する。
【0028】
図2(b)には、音響装置12から第1振動波W1を放射することにより、液体Lが液滴化する様子が示されている。第1振動波W1を放射することにより、対象物10を振動させることができる。特に、第1振動波W1が対象物10の共振波であれば、つまり、第1振動波W1の周波数が対象物10の共振周波数と略一致していれば、対象物10を共振させ、効率的に振動させることができる。第1振動波W1により対象物10が振動すれば、液体Lは、対象物10の表面上を移動し、液膜が波打つように変形して膜厚が不均一化し、液膜に凹凸が発生する。その結果、対象物10の表面上に液滴Dが形成される。
【0029】
このとき、液体Lには、対象物10の振動力と、表面張力と、重力とが作用していると考えられる。液体Lは、これらの力が作用して、対象物10の表面上において形状を変化させ、液滴化すると考えられる。ただし、振動力は、表面張力を凌駕するものではなく、対象物10の表面から液滴Dを離脱させることはない。このため、第1振動波W1の放射を中止し、対象物10の振動がなくなれば、表面張力の影響により、液膜の厚さは、徐々に均一化し、
図2(a)の状態に戻る。
【0030】
図2(c)は、音響装置12から対象物10へ第2振動波W2を放射し、液滴Dが対象物10から離脱する様子が示されている。第2振動波W2が衝撃波であれば、対象物10の表面に付着した液滴Dが離脱される。衝撃波は、不連続波であり、大きな圧力差を有する圧力界面を形成し、対象物10の表面に大きな加速度を与えることができる。このとき、液滴Dが所定の大きさ以上に成長していれば、慣性の法則により、対象物10の表面から離脱される。つまり、衝撃波によって、液滴Dの表面張力を凌駕する大きな力が対象物10の表面に加えられ、液滴Dが対象物10から離脱される。液滴Dは、衝撃波の到来方向に向けて、対象物10の表面から飛び出すように離脱されるため、例えば、表面の法線方向から第2振動波W2が到来すれば、液滴Dが法線方向へ離脱される。このようにして自由空間に飛び出した液滴Dは、その後、重力により自由落下する。つまり、対象物10に付着する液体が滴下除去される。
【0031】
図3は、本実施の形態において用いられる振動波Wの一例を示した図であり、時間経過を横軸、振幅を縦軸として振動波Wの波形が示されている。
図4~
図6についても同様である。振動波Wは、第1振動波W1としてのスイープ音20と、第2振動波W2としての衝撃波22とにより構成される。
【0032】
スイープ音20は、所定の周波数範囲をスイープする可聴音である。スイープ(周波数掃引)とは、時間経過に応じて周波数が変化する動作であり、スイープ音20は、所定の周波数範囲(スイープ範囲)をスキャンするように周波数が順に変化する振動波であり、振幅が略一定で、位相が連続する複数周期の正弦波で構成される。スイープ範囲は、可聴帯域内の任意の範囲として予め定められる。図中のスイープ音20は、周波数が単調増加する波形であるが、単調減少する波形であってもよい。また、単調増加と単調減少を交互に繰り返し、スイープ範囲内を1又は2回以上繰り返して往復する波形であってもよいことは言うまでもない。
【0033】
衝撃波22は、不連続波であり、例えば、ドンという低い打撃音として知覚される振動波である。衝撃波22は、スイープ音20よりも短くかつ低い可聴音として生成され、スイープ音20よりも大きな振幅を有する。
【0034】
衝撃波22は、スイープ音20の放射後に放射される。スイープ音20と衝撃波22の間には、僅かな休止期間が設けられる。ただし、スイープ音20と、衝撃波22の間に休止期間を設けず、スイープ音20に対し位相が連続しない不連続波として、衝撃波22を生成することもできる。
【0035】
対象物10の共振周波数がスイープ範囲に含まれていれば、スイープ音20により、対象物10を共振させることができる。対象物10が複数の共振周波数を有する場合、全ての共振周波数が、スイープ範囲に含まれていることが望ましいが、そのうち少なくとも一つの共振周波数が、スイープ範囲に含まれていればよい。つまり、スイープ範囲を適切に定めることにより、スイープ音20により、対象物10を共振させ、対象物10に付着した液体を液滴化することができる。スイープ音20により所定の大きさに成長した液滴は、その後に放射される衝撃波22により、対象物10から離脱され、滴下除去される。
【0036】
対象物10は、中空部又は開口部などを有する構造物からなり、容易に振動させることができる。つまり、対象物10は、例えば金属ブロックのような剛体に近い物体以外の物体からなる。このような構造物は、通常10~100Hzの範囲内に共振周波数を有する。このため、例えば、10~100Hzをスイープ範囲にすることにより、ほとんどの対象物10を共振させることができる。つまり、スイープ範囲の下限値は100Hz以下であることが望ましい。例えば、スイープ範囲として20~90Hzの範囲を用いることができる。スイープ範囲は、少なくとも20~90Hzの周波数を含む範囲であることが望ましい。
【0037】
従来の方法では、超音波帯域の振動波を用いて水を共振させている。このため、例えば、対象物10の表面に液膜を形成し、広い面積で分布する液体を効率的に液滴化することが難しく、また、振動波の発生装置が高価になる。これに対し、可聴音を用いて対象物10を共振させれば、このような液体を効率的に液滴化することができ、また、安価に実現することができる。
【0038】
図4は、振動波Wの他の例を示した図である。
図4の波形は、第1振動波W1としてのスイープ音20と、第2振動波W2としてのポスト衝撃波22及びプレ衝撃波24とにより構成される。
図4の波形を
図3と比較すれば、プレ衝撃波24を有する点のみが異なり、スイープ音20及びポスト衝撃波22は、
図3の場合と同一である。
【0039】
プレ衝撃波24は、ポスト衝撃波22と同一の衝撃波である。ポスト衝撃波22が、スイープ音20よりも後に放射される衝撃波であるのに対し、プレ衝撃波24は、スイープ音20よりも前に放射される衝撃波であり、スイープ音20は、時間軸上において、プレ衝撃波24、ポスト衝撃波22間に挟まれている。スイープ音20とプレ衝撃波24の間には、僅かな休止期間を設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0040】
スイープ音20を放射することなく衝撃波を放射するだけで、対象物10に付着する液体の一部を滴下除去することができる場合がある。例えば、対象物10の表面に所定の大きさの液滴が存在する場合、衝撃波24を放射することにより、直ちに滴下除去することができる。また、対象物10の液溜まり内に保持されている液体も、衝撃波24を放射することにより滴下除去することができる場合がある。
【0041】
このため、衝撃波24をプレ放射することにより、スイープ音20を放射する前に、対象物10に付着する液体を予め減少させることができ、衝撃波24のプレ放射がない場合に比べて、対象物10に付着する液体をより効率的に滴下除去することができる。
【0042】
図5は、振動波Wの他の例を示した図である。
図5(a)には、2以上のポスト衝撃波22a,22bを繰り返し放射する波形が示されている。さらに、
図5(b)には、2以上のプレ衝撃波24a,24bを繰り返し放射する波形が示されている。
【0043】
図5(a)の振動波Wは、スイープ音20と、2つのポスト衝撃波22a,22bとにより構成される。2以上のポスト衝撃波22a,22bを繰り返し放射するために、隣接するポスト衝撃波22a,22bの間には、僅かな休止期間が設ける。ただし、休止期間を設けず、隣接するポスト衝撃波22a,22bの位相を大きく異ならせることにより、先のポスト衝撃波22aに連続しない不連続波として、後のポスト衝撃波22bを生成することもできる。スイープ音20の放射後に、2以上のポスト衝撃波22a,22bを繰り返し放射することにより、ポスト衝撃波22aにより離脱させた液滴が再付着した場合でも、ポスト衝撃波22bにより再び離脱させることができ、より多くの液体を滴下除去することができる。
【0044】
図5(b)の振動波Wは、2つのプレ衝撃波24a,24bと、スイープ音20と、2つのポスト衝撃波22a,22bとにより構成される。2以上のプレ衝撃波24a,24bを繰り返し放射するために、隣接するプレ衝撃波24a,24bの間には、僅かな休止期間が設ける。ただし、休止期間を設けず、隣接するプレ衝撃波24a,24bの位相を大きく異ならせることにより、先のプレ衝撃波24aに連続しない不連続波として、後のプレ衝撃波24bを生成することもできる。スイープ音20の放射前に、2以上のプレ衝撃波24a,24bを繰り返し放射することにより、プレ衝撃波24aにより離脱させた液滴が再付着した場合でも、プレ衝撃波24bにより再び離脱させることができ、より多くの液体を滴下除去することができる。
【0045】
図6は、2以上の振動波Wが繰り返し放射される動作の一例を示した図である。
図6では、2以上の放射期間Trが、休止期間Tsを挟んで繰り返されている。放射期間Trには、
図5(b)の振動波Wが放射される。つまり、プレ衝撃波24、スイープ音20及びポスト衝撃波22で構成される振動波Wを1クールとし、時間軸上において複数クールの放射が繰り返される。
【0046】
2以上の振動波Wを繰り返し放射することにより、対象物10からより多くの液体を滴下除去することができる。対象物10からより多くの液体を滴下除去するために、スイープ音20の放射時間を長くした場合、周辺環境に対する影響が大きくなる。例えば、天井や壁から埃が発生し易くなる。これに対し、2以上の振動波Wを繰り返し放射した場合には、このような現象を抑制しつつ、対象物10からより多くの液体を滴下除去することができる。例えば、放射時間Tr及び休止時間Tsは、それぞれ約2.5秒とすることができる。
【0047】
図7は、本発明の実施の形態による音響滴下除去装置3の一構成例を示したブロック図である。音響滴下除去装置3は、スイープ音及び衝撃波からなる振動波Wを放射する音響装置であり、動作制御部30、スイープ駆動部31、衝撃駆動部32、アンプ33及びスピーカ34により構成される。
【0048】
動作制御部30は、スイープ駆動部31及び衝撃駆動部32の動作を制御する制御手段である。ユーザの開始操作又は他の制御装置からの開始信号の入力に基づいて、スイープ駆動部31及び衝撃駆動部32に対し、動作命令を出力する。これらの動作命令は、
図3~
図6に示した振動波Wを放射するように、所定のタイミングで出力される。
【0049】
スイープ駆動部31は、動作制御部30からの動作命令に基づいて、スイープ音に相当するスイープ音信号を電気信号として生成する。衝撃駆動部32は、動作制御部30からの動作命令に基づいて、衝撃波に相当する衝撃波信号を電気信号として生成する。
【0050】
アンプ33は、スイープ音信号及び衝撃波信号を増幅してスピーカへ出力する音響装置である。スピーカ34は、アンプ33から出力される増幅信号を音響信号に変換して自由空間に放射する。スピーカ34は、指向性を有するものが用いられ、対象物10に対向して配置される。また、スピーカ34は、エンクロージャーを備え、低音の音圧を増幅させることが望ましい。例えば、バスレフ型のエンクロージャーを備え、ヘルムホルツ共鳴によって低音の音圧を増幅して放射することが望ましい。
【0051】
図示した音響滴下除去装置3は、1つのスピーカ34を備えているが、2以上のスピーカ34を備え、各スピーカ34を駆動するように構成することもできる。この場合、複数のスピーカ34は、同一の振動波Wを同時に放射するように駆動してもよいし、互いに異なる振動波を放射し、あるいは、同一の振動波を異なるタイミングで放射するように駆動することもできる。
【0052】
図8のステップS101~S105は、
図7の音響滴下除去装置3の動作の一例を示したフローチャートである。このフローチャートは、ユーザ操作又は信号入力により開始される。
【0053】
まず、プレ衝撃波24が放射される(ステップS101)。動作制御部30により衝撃駆動部32への動作命令が生成され、この動作命令に基づいて衝撃駆動部32が衝撃波信号を生成し、スピーカから衝撃波24が放出される。2以上のプレ衝撃波24a,24bを放射する場合には、この動作が繰り返される。
【0054】
次に、スイープ音20が放射される(ステップS102)。動作制御部30によりスイープ駆動部31への動作命令が生成され、この動作命令に基づいてスイープ駆動部31がスイープ音信号を生成し、スピーカからスイープ音20が放出される。
【0055】
次に、ポスト衝撃波22が放射される(ステップS103)。動作制御部30により衝撃駆動部32への動作命令が生成され、この動作命令に基づいて衝撃駆動部32が衝撃波信号を生成し、スピーカから衝撃波22が放出される。2以上のポスト衝撃波22a,22bを放射する場合には、この動作が繰り返される。
【0056】
その後、出力を休止させる(ステップS104)。ステップS101~S103により、あらかじめ定められた振動波Wが放出された後、予め定められた休止期間Tsだけ出力を休止する。2以上の振動波Wを繰り返し出力する場合には、上記ステップS101~104の動作が繰り返され(ステップS105)、所定数の振動波Wを出力した後に処理を終了する。
【0057】
図9及び
図10は、本発明による音響滴下除去装置3を自動車製造における車体塗装の工程に適用する場合の一例を示した図である。
【0058】
一般に、自動車の車体塗装工程では、電着塗装が行われている。電着塗装は、車体を電着槽内の電着塗料に浸漬させ、電気的に皮膜を形成する塗装方法である。電着槽から取り出された車体は、純水などの洗浄液を用いて洗浄され、余分な塗料を洗い落とした後、乾燥炉内において熱風に晒され、塗装皮膜の焼付処理が行われる。
【0059】
車体に余分な塗料や洗浄液が付着している場合、焼付処理に伴って塗料及び洗浄液が流出し、そのまま熱硬化すれば塗膜に凹凸が生じて塗装品質が低下する。このため、焼付処理前に塗料や洗浄液を十分に除去する液切り処理が必要になる。このような液切り処理に音響滴下除去装置3を用いることができる。
【0060】
搬送キャリア41は、車体40を搬送する搬送手段であり、搬送ガイド42に沿って移動することができる。洗浄槽において洗浄された車体40は、搬送キャリア41によって焼付炉へ搬送される。
図9及び
図10は、洗浄槽、焼付炉の間にスピーカ34a~34cが設置された様子が示されており、車体は、図中の矢印が示す方向に移動する。
【0061】
スピーカ34a~34cは、音響滴下除去装置3を構成するスピーカであり、スイープ音及び衝撃波を放射することができる。スピーカ34a~34cは、車体の進行方向とは交差する方向に向けて配置される。具体的には、スピーカ34aは、車体の上面に対向して配置され、スピーカ34b,34cは、車体の側面に対向して配置されている。このような構成を採用することにより、車体に付着した洗浄液を滴下除去することができる。まったく同様にして、洗浄液だけでなく、車体に付着した余分な塗料も滴下除去することができる。
【0062】
図11は、本発明による音響滴下除去装置3を車体塗装の工程に適用する場合の他の例を示した図である。
図11の構成を
図10と比較すれば、スピーカ34b,34cに対し、スピーカ34aが搬送経路の異なる配置されている点で異なる。
図10では、スピーカ34a~34cが、いずれも搬送方向に垂直な同一面内に配置されているが、スピーカ34a~34cは、搬送方向の異なる位置に配置することができる。
【0063】
図11では、スピーカ34aが、スピーカ34b,34cよりも搬送方向の上流側に配置されている。スピーカ34b,34cは、搬送方向の同じ位置に配置される例を示したが、異なる位置に配置してもよい。
【0064】
各スピーカ34a~34cは、車体40と対向するタイミングで振動波Wを放射する。振動波Wの放射タイミングは、例えば、センサー(不図示)による車体検出信号に基づいて動作制御部30が動作命令を生成することにより制御する。
【0065】
上流側に配置された天井用のスピーカ34aは、側面用のスピーカ34b,34cよりも、先に車体と対向し、先に振動波Wが放出される。このため、天井に付着する洗浄液が、側面に付着する洗浄液よりも先に滴下除去される。このため、天井に対する振動波の放射時に、天井から離脱できずに側面に流れ落ち、あるいは、滴下中に側面に再付着した液滴についても、側面に対する振動波の放射によって滴下除去することができる。したがって、車体に付着する洗浄液をより効果的に滴下除去することができる。
【0066】
2以上のスピーカ34a~34cを用いて、同一の対象物10に付着した液体を滴下除去する場合、より上方に配置され、対象物10のより上側部分と対向するスピーカ34aから先に振動波Wを放射し、その後、より下側に配置され、対象物10のより下側部分と対向するスピーカ34b,34cからも振動波Wを放射することにより、より効果的に滴下除去を行うことができる。
【0067】
上記実施の形態では、対象物10が、洗浄液の付着した自動車の車体である場合の例について説明したが、本発明を適用することができる対象物10の種類や大きさは、自動車の車体に限定されない。例えば、飛行機や眼鏡を対象物100とすることもできる。また、屋根や壁に液体が付着した建造物を対象物10とすることもできる。
【符号の説明】
【0068】
10 対象物
12 音響装置
20 スイープ音
22 衝撃波
22,22a,22b 衝撃波(ポスト衝撃波)
24,24a,24b 衝撃波(プレ衝撃波)
3 音響滴下除去装置
30 動作制御部
31 スイープ駆動部
32 衝撃駆動部
33 アンプ
34,34a~34c スピーカ
40 車体
41 搬送キャリア
42 搬送ガイド
D 液滴
L 液体
Tr 放射期間
Ts 休止期間
W 振動波
W1 第1振動波
W2 第2振動波