(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】温度推定装置、温度推定方法
(51)【国際特許分類】
G01K 3/10 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
G01K3/10
(21)【出願番号】P 2021528789
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025621
(87)【国際公開番号】W WO2020261492
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000250317
【氏名又は名称】理化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】万木 則和
(72)【発明者】
【氏名】布施 智久
(72)【発明者】
【氏名】向 恵一
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-117416(JP,A)
【文献】特開2007-332905(JP,A)
【文献】特開2010-146059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定点の温度から、推定点の温度を算出する温度推定部を備え、
前記温度推定部が、前記測定点の温度の移動平均に基づく第1の数式と、今回算出した前記測定点の温度の移動平均と前回算出した前記測定点の温度の移動平均との差分に基づく第2の数式と、を組合せた温度推定モデルに基づき前記推定点の温度を算出することを特徴と
し、
前記温度推定モデルが、事前に設定された数の前記第1の数式と、前記第2の数式の多段組み合わせにより構成されており、
前記温度推定モデルが、ある段における前記第1の数式又は前記第2の数式の出力が、次の段の前記第1の数式又は前記第2の数式の入力となるように構成されており、
前記事前に設定された数は3以上である、温度推定装置。
【請求項2】
前記第1の数式が前記測定点の温度の移動平均と、サンプリング周期と、に基づき、
前記第2の数式が今回算出した前記測定点の温度の移動平均と前回算出した前記測定点の温度の移動平均と、前記サンプリング周期と、に基づくことを特徴とする請求項1に記載の温度推定装置。
【請求項3】
測定点の温度を測定する測定ステップと、
温度推定部が前記測定点の温度から推定点の温度を算出する温度推定ステップと、を備え、
前記温度推定部が、前記測定点の温度の移動平均に基づく第1の数式と、今回算出した前記測定点の温度の移動平均と前回算出した前記測定点の温度の移動平均との差分に基づく第2の数式と、を組合せた温度推定モデルに基づき前記推定点の温度を算出することを特徴と
し、
前記温度推定モデルが、事前に設定された数の前記第1の数式と、前記第2の数式の多段組み合わせにより構成されており、
前記温度推定モデルが、ある段における前記第1の数式又は前記第2の数式の出力が、次の段の前記第1の数式又は前記第2の数式の入力となるように構成されており、
前記事前に設定された数は3以上である、温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測定点の温度から推定点の温度を推定する温度推定装置、温度推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形等における温度制御において、センサの温度(測定点)からセンサ内部や周辺箇所(推定点)の温度を推定したいという要望がある。温度推定の方法については、従来から熱伝導シミュレーションによる温度推定が行われている。しかし、シミュレーションの実施には時間・計算量ともにかかることが多く、簡易に計算が可能な方法が望まれていた。特許文献1及び2には温度推定手法が開示されている。
【0003】
特許文献1にはルジャンドル多項式を使用し、材料内部の温度を推定する手法が開示されている。特許文献2には温度測定点と推定対象との間の熱伝達モデルに基づき推定対象の温度を推定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-69079号公報
【文献】特開2007-192661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、開示されたいずれの手法も、コンピュータでの使用を想定した熱伝導シミュレーションのための手法である。そのため、温度を推定するために専用の構成が必要となるため、計算的、機器的コストに課題がある。高速に計算を行うことが可能なCPUや、専用の回路等の構成を温度制御装置に組み込むことはコストの面から難しい場合も多く、マイコン程度の処理能力にて実行可能な温度推定手法が望まれている。
【0006】
本発明は上記の点に鑑み、精度が高く、計算量が少ない温度推定手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(構成1)
測定点の温度から、推定点の温度を算出する温度推定部を備え、
前記温度推定部が、前記測定点の温度の移動平均に基づく第1の数式と、今回算出した前記測定点の温度の移動平均と前回算出した前記測定点の温度の移動平均との差分に基づく第2の数式と、を組合せた温度推定モデルに基づき前記推定点の温度を算出することを特徴とする温度推定装置。
【0008】
(構成2)
前記第1の数式が前記測定点の温度の移動平均と、サンプリング周期と、に基づき、
前記第2の数式が今回算出した前記測定点の温度の移動平均と前回算出した前記測定点の温度の移動平均と、前記サンプリング周期と、に基づくことを特徴とする構成1に記載の温度推定装置。
【0009】
(構成3)
測定点の温度を測定する測定ステップと、
温度推定部が、前記測定点の温度から推定点の温度を算出する温度推定ステップと、を備え、
前記温度推定部が前記測定点の温度の移動平均に基づく第1の数式と、今回算出した前記測定点の温度の移動平均と前回算出した前記測定点の温度の移動平均との差分に基づく第2の数式と、を組合せた温度推定モデルに基づき前記推定点の温度を算出することを特徴とする温度推定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の温度推定装置によれば、計算量が少なく、精度の高い温度推定手法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る実施形態の温度推定装置を示す概略構成図である。
【
図2】本発明に係る実施形態の温度推定モデル生成の一例を示す図である。
【
図3】本発明に係る実施形態の温度推定結果を示す図である。
【
図4】本発明に係る実施形態の動作を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態について、添付の図面にしたがって説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0013】
<実施形態1>
図1はこの発明の実施形態による温度調節計の本発明に関する部分を示す概略構成図である。
温度推定装置100は、測温センサ(不図示)からの入力に基づき温度推定対象の推定温度を出力する装置であり、後述する温度推定モデルが格納された温度推定部110を備える。本実施形態においては温度推定装置100及び温度推定部110はマイコンにより構成されている。そのため、種々の機器に組み込むことが可能である。
【0014】
以下、本実施形態における温度推定モデルについて説明する。
本実施形態においては、熱伝導における高次遅れと無駄時間を考慮した、第1の数式(以下数式Aとする)と第2の数式(以下数式B)との組み合わせにより生成した温度推定モデルを用いて推定対象の温度を推定する。
【0015】
本実施形態においては、数式Aに以下の式を用いる。
【数1】
式中、Nは移動平均を算出するためのパラメータであり、nはサンプル番号である。また、数式Aの演算結果Ta
nは、入力値T
nの修正移動平均値である。
【0016】
本実施形態においては、数式Bに以下の式を用いる。
【数2】
式中、αは比例係数である。また、演算結果Tb
nは、入力値T
n及び入力値の修正移動平均値であるTa
nとTa
n-1の差分である。
【0017】
(数式の組み合わせの説明)
本実施形態における温度推定モデルは、上記の数式Aで始まり、数式Aと数式Bの組み合わせで構成される。
例えば、数式の組み合わせの最小単位(A1-B2)にはじまり、数式(A1-A2-B3-A4)、数式(A1-B2-A3-A4-A5)、数式(A1-B2-A3-A4-A5-B6-A7-A8-A9-A10)などがあり、組み合わせ最後の数式の演算結果を温度推定モデルによる温度推定値Te’nとする。
なお、AやBの後の数字は、推定モデル中の数式の組み合わせの段数(順番)を示しており、温度の推定精度とモデル生成工程を行う外部PC等の機器が許容する計算量などに応じて、段数の上限を事前に設定するものとする。
本実施形態においては、温度推定モデルの数式の合計段数の上限を6としている。
【0018】
(温度推定モデル導出方法の説明)
図2上段は、本実施形態で温度推定モデルを導出する際に用いたデータを示しており、実際に測定して得られた温度測定値Ts
n及び温度推定点における実際の温度値Te
nである。また、サンプルnの範囲は0から30である。
本実施形態においては、数式の組み合わせの最小単位(A1-B2)を発端に、段数6を上限とする全ての数式について、それぞれの組み合わせごとに、パラメータαを0から500の範囲で変化させ、更にNを0から500の範囲で変化させながら、推定点の実際の温度値Te
nと温度推定モデルによる温度推定値Te’
nの最小自乗誤差が小さくなる数式の組み合わせと、その時のパラメータα及びNを探索する。
【0019】
(温度推定モデル導出結果)
以下の数3に、本実施形態で求めた温度推定モデルの例を示す。数式の組み合わせは(A1-B2-A3-A4-A5-A6)、パラメータはα2=10.4、N1=18.0、N3=N4=N5=N6=2.6である。
【数3】
この温度推定モデルの唯一の入力値は温度測定値Ts
nであり、温度推定モデルによる演算結果が温度推定値Te’
nである。
図2の下段のグラフは、上記温度推定モデルによる演算結果Te’
nと温度推定点における実際の温度値Te
nを、サンプルnが0から30の範囲で重ね合わせたグラフであり、良く一致していることが分かる。
なお、ここでは計算簡略化のためN3~N5についてはN3と同様の値を入力している。このように、温度推定モデルの後段のNの値については、他と同様の値を用いても良好な結果が得られることがあり、パラメータを簡略化することができる。
【0020】
図3は本実施形態における推定モデルに、測定点の温度Ts
nを入力したことにより算出した演算結果Te’
nと温度推定点における実際の温度値Te
nを重ね合わせたグラフである。温度推定モデル算出のためのデータ範囲(サンプルnが0から30)以外でも、精度良く推定点の温度が推定されていることがわかる。
【0021】
なお、温度推定モデルの数式A、Bについてはセンサ入力のサンプリング周期を考慮して以下のように変形することもできる。このように変形すると、測定点の温度計測のサンプリング周期を変更した場合でも、パラメータNとαについては同一の値を用いることができる。
【数4】
式中Sは、サンプリング周期[秒]である。
【0022】
なお、本実施形態の温度推定手法は、熱源の種類や、センサの材質、その他制御系を構成する材質等が変化した場合は、別の温度推定モデルに切り替えるか、作成しなおす必要がある。
【0023】
<動作>
次に、
図4を参照しつつ、本実施形態の温度推定装置100の本発明に関する処理動作について説明する。
【0024】
まず、S400にて温度推定のための事前準備としてモデル生成工程を行う。なお、S400についてはPC等の外部機器(不図示)にて計算を行う。
外部機器においてモデルに使用する数式の段数の上限値が入力され、更に、実際に測定して得られた温度測定値Tsn及び温度推定点における実際の温度値Tenが入力される。そして上記の通り、全ての数式の組み合わせ及びパラメータの範囲について温度推定演算を実施し、最も推定結果がよくなる組み合わせ及びパラメータが算出される。そして、算出された推定モデルを温度推定部110に格納される。これにより推定点の温度が推定可能となる。さらに、別の位置にある推定点の温度を推定したいとなった場合は、S400の動作を推定点毎に行う。
【0025】
次に、推定処理を開始し、ステップS410において、ユーザにより入力装置(不図示)等により入力温度データが温度推定部110に入力されると、ステップS420おいて、所定の温度推定モデルによる演算が実施され推定点の温度が算出され表示部(不図示)等に出力される。以降、推定処理を終了するまで任意のタイミングにて推定点の温度を推定することが可能である。なお初回の演算、即ちn=0における各数式の演算結果は下記の通り、温度測定値Ts0で初期化を行うこととする。
【0026】
【0027】
<効果>
以上のように、本実施形態の温度推定装置100によれば、平易な四則演算のみで記述されたモデルによって推定点の温度を推定することが可能となるため、少ない計算量にて推定点の温度を推定することができる。
また、温度推定モデルの数式ABを上記の数4のようにすることで、サンプリング周期を変更した場合にも温度推定モデルのパラメータを変更することなく温度推定が可能となる。
【0028】
<その他の構成>
本実施形態においては、推定点は1つであるものとして説明したが、複数の推定点の温度を推定可能に構成されていてもよい。その場合は、温度推定装置100は推定点毎に複数の推定モデルを備えるように構成されていてもよい。
【0029】
また、本実施形態における温度推定部110における推定モデルの段数については、外部機器等において事前に入力されるように構成されていたが、所望する温度推定の精度に基づき段数が設定されるように構成されていてもよい。また、温度推定部110における温度推定の際には、推定モデルの段数に応じて計算量が変化する。そのため、温度推定部110の有する演算能力に応じて段数が設定されるように構成されていてもよい。
【0030】
また、本実施形態においては、任意の点(センサとの位置関係等により、本実施形態の数式ABにてモデル化が可能な範囲において)の温度を推定するように構成されている。例えば、温度推定部110において、あらかじめ温度センサ内部の配線接続部の温度を推定できるように構成されていれば、センサ先端からの熱伝導による配線溶接部の断線やケーブル被覆の溶融等の監視にも適用できる。
【0031】
なお、本実施形態においては、温度推定部110において用いる数式Aについて上記の通り、修正移動平均を用いるように構成されているがこれに限られるものではなく、移動平均であれば、単純移動平均、加重移動平均、指数移動平均、三角移動平均、正弦移動平均、累積移動平均などを用いるように構成されていてもよい。
【0032】
なお、上記各実施形態における各構成は、それぞれ専用回路等でハード的に構成されるものであってもよいし、マイコン等の汎用的な回路やPC上でソフトウェア的に実現されるものであってもよい。
また、上記数式A、Bのパラメータα及びNを変化させる範囲はセンサの設置環境や材質によっても変わるため、本実施形態のように0から500に限られるものではない。よって、分解能を荒くしておおよその値を求めた後に、さらに細かい分解能で解を求めても良い。
また、Tsn及びTenについては、実際の温度データの代わりに、熱解析シミュレーションなどにより求めた値を用いてもよい。
また、TenとTe’nの一致が確認できる方法であれば、最小自乗誤差を用いる方法でなくてもよい。
また、本実施形態においてはPC等の外部機器にて推定モデルを生成するように構成されていたが、温度推定装置100の処理能力が十分確保できる場合は温度推定装置100において推定モデルの生成を実施するように構成されていてもよい。
【0033】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の構成及び動作については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、当業者が理解しうる様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
100…温度推定装置
110…温度推定部