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特許7177982吸湿性アクリロニトリル系繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】吸湿性アクリロニトリル系繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/18 20060101AFI20221117BHJP
   D06M 11/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
D01F6/18 Z
D06M11/00 110
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018208381
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2019085688
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2017213656
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小見山 拓三
(72)【発明者】
【氏名】水谷 健太
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224408(JP,A)
【文献】特開平01-183515(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158753(WO,A1)
【文献】特開平11-293516(JP,A)
【文献】特開平10-053519(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047344(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/010590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/18
6/38-6/40
8/08
D06M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、繊維中に0.2~4.5mmol/gのカルボキシル基および0.1~15重量%の光熱変換性を有する金属酸化物を含有し、20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする吸湿性アクリロニトリル系繊維。
【請求項2】
カルボキシル基が繊維全体にわたって均一に存在していることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
【請求項3】
カルボキシル基が繊維表層部に局在化していることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
【請求項4】
カルボキシル基の中和度が25%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
【請求項5】
金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
【請求項6】
アクリロニトリル系重合体および金属酸化物を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを特徴とする請求項2に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
【請求項7】
アクリロニトリル系重合体および金属酸化物を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を熱処理することで緻密化させた繊維または緻密化後さらに弛緩処理した繊維を加水分解することを含むことを特徴とする請求項3に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
【請求項8】
未乾燥繊維の水分率が20~250%であることを特徴とする請求項6または7に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル繊維を含有する繊維構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿性アクリロニトリル系繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の快適性に対する意識の高まりから、吸湿性機能を有する素材の開発が求められており、繊維分野においても開発が盛んに行なわれている。例えば、アクリル繊維を化学変性することにより得られる架橋アクリレート系繊維が知られている(特許文献1)。該繊維は架橋構造とカルボキシル基を含有しており、優れた吸湿性能や吸湿発熱性能を有する。しかしながら、架橋アクリレート系繊維には、以下の(i)及び(ii)に示す問題があった。
【0003】
(i)まず架橋アクリレート系繊維は、該繊維の有するヒドラジン架橋構造により、淡桃色から濃桃色を呈するため、利用分野が制限されるという欠点があった。
【0004】
かかる問題に関して特許文献2、特許文献3では、ヒドラジン系化合物による架橋処理の後に酸処理Aを行うこと、アルカリによる加水分解処理の後に酸処理Bを行うこと、をそれぞれ開示し、相当に赤みの軽減を為し得ている。
【0005】
しかし、上述したような方法で白度を改良した架橋アクリレート系繊維においても、経時、加熱、洗濯などにより、赤みが増してしまう場合がある。また、上述の方法では、製造工程が多くなり、製造コストが高いものとなってしまう。このため、依然として、用途展開が進みにくい状況となっている。
【0006】
従来の架橋アクリレート系繊維において赤みの発生する原因は、シアノ基とヒドラジンが反応することによって形成される架橋構造にある。しかし、架橋アクリレート系繊維は、親水性の高いカルボキシル基を多量に含有するため、架橋構造がなければ、水への膨潤や溶解により繊維物性を維持することが難しいと考えられている。このため、赤みの根本原因である架橋構造を取り去ることは容易なことではなく、これまでほとんど検討されてきていない。
【0007】
また、アクリロニトリルとメタクリル酸などの共重合体を用いた繊維においては、水膨潤度を抑制しつつ、吸湿性を向上させることは困難であった。
【0008】
また、(ii)架橋アクリレート系繊維の製造においては、ヒドラジンによる架橋構造を導入する工程およびカルボキシル基を導入するための加水分解工程が必要であるほか、各工程の後には、反応に用いた薬剤の残留物を除去する工程が必要である。しかも、これらのそれぞれ工程では高温、長時間が必要である。このため、該繊維の製造を連続処理で行うことは難しく、生産性の低いバッチ処理で行わざるを得ない状況である。また、吸湿による発熱であるため、吸湿量が飽和に近い状態では、発熱量が乏しくなってしまう。
【0009】
また、カルボキシル基を有するアクリル繊維という点においては、アクリル酸などのカルボキシル基を有する単量体を共重合成分とするアクリロニトリル系重合体からなるアクリル繊維が知られている。しかし、アクリル酸を多量に共重合させると紡糸が困難となるため、高い吸湿性を発現させることは難しい。また、架橋構造を有さないため、染色におけるアルカリソーピングなどのアルカリ条件下で溶出しやすくなるなど、衣料用途向けとする場合には問題となっていた。
【0010】
上述したように吸湿性を付与した架橋アクリレート系繊維は、製造工程が多く生産性が低いものであったり、あるいは吸湿性を高めることが難しいものであったりした。また、かかる繊維は、その吸湿発熱性に基づき、保温性を求められる衣料品等にも使用されるが、吸湿による発熱のみでは不十分な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平5-132858号公報
【文献】特開2010-216051号公報
【文献】特開2009-114556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、従来よりも簡便な工程で連続生産することができ、かつ高い吸湿性と高い発熱性を有する吸湿性アクリロニトリル系繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、アクリロニトリル系重合体を溶解し、金属酸化物を含有させた紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することにより、架橋処理を施さずとも実用的な繊維物性を保持しつつ、光熱変換性能も有する吸湿性アクリロニトリル系繊維が得られること、また、前記金属酸化物として酸化チタンを用いた場合には繊維の白度を向上できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1) 共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、繊維中に0.2~4.5mmol/gのカルボキシル基および0.1~15重量%の光熱変換性を有する金属酸化物を含有し、20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(2) カルボキシル基が繊維全体にわたって均一に存在していることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(3) カルボキシル基が繊維表層部に局在化していることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(4) カルボキシル基の中和度が25%以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(5) 金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(6) アクリロニトリル系重合体および金属酸化物を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを特徴とする(2)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(7) アクリロニトリル系重合体および金属酸化物を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を熱処理することで緻密化させた繊維または緻密化後さらに弛緩処理した繊維を加水分解することを含むことを特徴とする(3)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(8) 未乾燥繊維の水分率が20~250%であることを特徴とする(6)または(7)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(9) (1)~(5)のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル繊維を含有する繊維構造体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、共有結合による架橋構造を実質的に有さないものであり、製造にあたり架橋導入工程が不要なため、製造工程を大幅に減らすことができ、その結果、通常のアクリル繊維製造設備を利用した連続生産が可能であり、生産性の高いものである。また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、金属酸化物を含有するものであるため、吸湿による発熱性だけでなく、光熱変換による発熱性を併せ持つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、従来の吸湿性アクリロニトリル系繊維とは異なり、共有結合による架橋構造を実質的に有さないものである。このことにより、架橋導入工程が不要になり、その結果、製造工程を大幅に少なくすることができ、従来よりも簡便な工程で生産することができる。また、従来の架橋アクリレート系繊維の製造のようなバッチ処理に限らず、連続製造も可能である。なお、本発明において、「共有結合による架橋構造を実質的に有さない」とは、後述する<チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解度>が95%以上であることを指す。
【0017】
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、カルボキシル基を含有するものであり、その含有量としては、後述する方法により求められる値において、0.2~4.5mmol/gであり、好ましくは0.5~4.0mmol/g、より好ましくは1.0~3.5mmol/gである。また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維が芯鞘構造である場合には、好ましくは0.2~2mmol/g、より好ましくは0.5~1.0mmol/gである。カルボキシル基量が上記範囲の下限に満たない場合には、後述する吸湿性能が得られないことがあり、上限を超える場合には、繊維の親水性が高くなりすぎて、後述する水膨潤度を越えて、水に激しく膨潤したり、溶解したりして、取り扱いが困難となる。
【0018】
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、20℃、相対湿度65%雰囲気下での飽和吸湿率として5重量%以上を有するものであり、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上を有するものであることが望ましい。かかる飽和吸湿率が上記下限値に満たない場合には、各種繊維構造体に適用しても有意な吸湿性能を付与することが難しい。上限については、繊維物性を維持する観点から35重量%以下、さらには30重量%以下であることが望ましい。
【0019】
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、後述する方法により求められる水膨潤度が10倍以下であり、好ましくは8倍以下、より好ましくは5倍以下であることが望ましい。本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は上述のように共有結合による架橋構造を有していないこともあり、かかる水膨潤度が10倍を超えてしまうと、繊維が脆くなって一部が脱落したり、場合によっては溶解したりして、取り扱いが困難となる。下限については特に制限は無いが、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維が20℃、相対湿度65%雰囲気下での飽和吸湿率として5重量%以上を有する観点から、通常0.05倍以上となると思われる。
【0020】
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、繊維を構成する重合体の重量に対して、金属酸化物を0.1~15重量%、好ましくは0.2~10重量%含有するものである。繊維中に含有させる金属酸化物量が0.1重量%に満たない場合には十分な光熱変換性が得られなくなることがあり、15重量%を超える場合には繊維物性が低下し、紡績加工や実用に耐えないものとなってしまうことがある。
【0021】
上述の金属酸化物としては、光熱変換性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、Si、Ti、Zn、Al、Fe、Zr等の酸化物などの化合物であって水に不溶のものが挙げられ、これらの中から選ばれる1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、Si、Ti、Zn、Al、Zrの酸化物は、光熱変換性だけでなく、繊維の白度を向上させる効果も発現できるので好適であり、後述する白度の評価方法において50以下の高白度とすることも可能である。なかでも、酸化チタンは、白度向上効果に加え、安全性や価格の面も踏まえると特に好ましいものである。
【0022】
また、金属酸化物の粒子径としては、特に限定されないが、平均一次粒子径として1~1000nmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは50~600nmの範囲である。平均一次粒子径が下限未満の場合、繊維を製造する際に、粉塵が多量に舞ったり、凝集により紡糸ノズルが目詰まりしたりするなどの問題を生ずる可能性がある。一方、平均一次粒子径が上限を超える場合には、繊維物性を損なう恐れがある。
【0023】
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維においては、カルボキシル基が繊維全体にわたって均一に存在していることが望ましい。ここで、繊維全体にわたって均一に存在しているとは、後述する測定方法によって測定される繊維断面におけるマグネシウム元素の含有割合の変動係数CVが50%以下であることを意味する。カルボキシル基が局在化していると、その部分が吸湿・吸水によって脆化しやすくなる。カルボキシル基が繊維全体にわたって存在していることによって、吸湿・吸水しても脆化が抑制され、架橋構造を有さずとも実用に耐えうる繊維物性が得られやすくなる。このような点から上記のCV値としては好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下であることが望ましい。
【0024】
ただし、求められる物性や用途などによって、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、カルボキシル基が実質的に繊維表面のみに均一に存在している芯鞘構造を採用することができる。この場合は、芯鞘構造は、カルボキシル基を含有する重合体からなる表層部と、アクリロニトリル系重合体からなる中心部とから構成される。このように中心部とそれを包囲する表層部とからなる芯鞘構造を有することにより、中心部で硬い弾力性のある実用的な繊維物性を得ながら、カルボキシル基濃度の高い表層部で吸湿速度を有意に高めることができる。
【0025】
この芯鞘構造の繊維の横断面における表層部の占める面積は、20~80%が好ましく、30~70%がより好ましい。表層部の占める面積が少ないと、吸湿性等の機能を十分に発揮できないおそれがあり、表層部の占める面積が多いと、中心部が細くなって実用的な繊維物性が得られないおそれがある。
【0026】
カルボキシル基の状態としては、より高い吸湿性能を求める場合には、対イオンがH以外のカチオンであることが好ましい。より具体的には、対イオンがH以外のカチオンである割合、すなわち、中和度が好ましくは25%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは50%以上であることが望ましい。
【0027】
カチオンの例としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、Be、Ca、Ba等のアルカリ土類金属、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等の金属、NH、アミン等の陽イオンなどが挙げられ、複数種類の陽イオンが混在していてもよい。中でも、Li,Na,K,Mg,Ca,Zn等が好適である。
【0028】
また、上記の場合においては、酢酸、イソ吉草酸等の酸性ガス、ホルムアルデヒド等のアルデヒドに対する優れた消臭性能も発現できる。また、MgやCaのイオンであれば難燃性能が高く、AgやCuのイオンであれば抗菌性能に関して高い効果を得ることができる。
【0029】
一方、カルボキシル基の対イオンとしてHを多くすると、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系ガス等の消臭性能や抗ウイルス性能、抗アレルゲン性能を強めることができる。
【0030】
上述してきた本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法としては、アクリロニトリル系重合体を溶解し、金属酸化物を含有させた紡糸原液を、ノズルから紡出し、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解して得る方法を挙げることができる。以下に、かかる製造方法について詳述する。
【0031】
まず、原料となるアクリロニトリル系重合体は、重合組成としてアクリロニトリルを好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上含有するものである。従って、該アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単独重合体のほかに、アクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体も採用できる。共重合体における他のモノマーとしては、特に限定はないが、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン;(メタ)アクリル酸エステル;メタリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー及びその塩、アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。なお、(メタ)の表記は、該メタの語の付いたもの及び付かないものの両方を表す。
【0032】
次に、かかるアクリロニトリル系重合体および上述したような金属酸化物を用いて、湿式紡糸により繊維化を行うが、溶剤として、ロダン酸ソーダ等の無機塩を用いた場合で説明すれば以下のようになる。まず、上述のアクリロニトリル系重合体を溶剤に溶解した後に金属酸化物を添加して紡糸原液を作製する。該紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て、延伸後の未乾燥繊維(以下、ゲル状アクリロニトリル系繊維ともいう)の水分率を20~250重量%、好ましくは25~130重量%、より好ましくは30~100重量%とする。
【0033】
ここで、加水分解処理を施される原料繊維として未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維を使用した場合、前述の様にカルボキシル基を繊維全体にわたって均一に存在させることが可能となる。一方、未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維をさらに熱処理することで緻密化させた繊維や、緻密化後さらに弛緩処理した繊維を原料繊維として加水分解処理を施した場合には、カルボキシル基が繊維表層部に局在化した芯鞘構造とすることができる。
【0034】
ゲル状アクリロニトリル系繊維を原料繊維とする場合、ゲル状アクリロニトリル系繊維の水分率が20重量%未満の場合には、後述する加水分解処理において薬剤が繊維内部に浸透せず、カルボキシル基を繊維全体にわたって生成させることができなくなる場合がある。250重量%を超える場合には繊維内部に水分を多く含み、繊維強度が低くなりすぎるため、可紡性が低下し好ましくない。繊維強度の高さをより重視する場合には、25~130重量%の範囲内とするのが望ましい。また、ゲル状アクリロニトリル系繊維の水分率を上記範囲内に制御する方法は多数あるが、例えば、凝固浴温度としては-3℃~15℃、好ましくは-3℃~10℃、延伸倍率としては5~20、好ましくは7~15倍程度が望ましい。
【0035】
また、ゲル状アクリロニトリル系繊維をさらに熱処理する場合には、例えば、110℃での乾熱処理と60℃での湿熱処理を交互に行うことにより、繊維内部のボイドが消失して緻密化した繊維が得られる。又その後120℃×10分オートクレーブ処理を行うことで、ある程度繊維構造が弛緩した繊維が得られる。これら繊維を原料に用いて後述の加水分解処理を行うと繊維表層部から反応が進行して芯鞘構造のような構造をとりやすくなる。なお、反応が進行するにつれて、水膨潤度が上がりやすくなる傾向があり、得られる繊維の取り扱いが困難となる場合がある。
【0036】
ゲル状アクリロニトリル系繊維、またはさらに熱処理を施された繊維は、次に加水分解処理を施される。該処理により、ゲル状アクリロニトリル系繊維、またはさらに熱処理を施された繊維中のニトリル基が加水分解され、カルボキシル基が生成される。
【0037】
かかる加水分解処理の手段としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液、あるいは、硝酸、硫酸、塩酸等の水溶液を含浸、または浸漬した状態で加熱処理する手段が挙げられる。具体的な処理条件としては、上述したカルボキシル基量の範囲などを勘案し、処理薬剤の濃度、反応温度、反応時間等の諸条件を適宜設定すればよいが、一般的には、0.5~20重量%、好ましくは1.0~15重量%の処理薬剤を含浸、絞った後、湿熱雰囲気下で、温度100~140℃、好ましくは110~135℃で10~60分処理する条件の範囲内で設定することが工業的、繊維物性的にも好ましい。なお、湿熱雰囲気とは、飽和水蒸気または過熱水蒸気で満たされた雰囲気のことを言う。
【0038】
上述のようにして加水分解処理を施された繊維中には、加水分解処理に用いられたアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の種類に応じたアルカリ金属やアンモニウムなどのカチオンを対イオンとする塩型カルボキシル基が生成しているが、引き続き、必要に応じてカルボキシル基の対イオンを変換する処理を行ってもよい。硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩水溶液によるイオン交換処理を行えば、所望の金属イオンを対イオンとする塩型カルボキシル基とすることができる。さらに、水溶液のpHや金属塩濃度・種類を調整することで、異種の対イオンを混在させたり、その割合を調整したりすることも可能である。
【0039】
以上のようにして本発明にかかる吸湿性アクリロニトリル系繊維が得られるが、上述の各処理は既存のアクリル繊維の連続生産設備を流用することで連続的に実施することができる。また、必要に応じて、水洗や乾燥、特定の繊維長に切断するなどの処理を追加してもよい。以上、ロダン酸ソーダ等の無機塩を溶剤に用いた場合について説明してきたが、有機溶剤を用いる場合でも上記条件は同じである。ただし、溶剤の種類が異なっているので、凝固浴温度については、その溶剤に適した温度を選択して、ゲル状アクリロニトリル系繊維の水分率を上記範囲内に制御する。
【0040】
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造に際しては、紡糸原液中に金属酸化物以外の機能性材料を添加しても構わない。かかる機能性材料としては、カーボンブラック、顔料、抗菌剤、消臭剤、吸湿剤、制電剤、樹脂ビーズなどを挙げることができる。
【0041】
ここで、上述の製造方法によって得られる本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維においては未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維を加水分解処理することから、繊維表面から順次加水分解するのではなく、薬剤が繊維内奥部にも浸透し、繊維全体にわたって加水分解するものと考えられる。さらに微視的に見ると、一般にアクリロニトリル系繊維にはアクリロニトリル系重合体が配向している結晶部分と構造が乱れている非晶部分とが混在している。このため、結晶部分はその外側から加水分解されるが、非晶部分は全体的に加水分解されると考えられる。この結果、加水分解後においては、微視的には、結晶部分ではその一部が加水分解を受けないままニトリル基濃度の高い部分として残り、非晶部分はカルボキシル基濃度が高い部分になるものと考えられる。
【0042】
以上より、上述の製造方法によって得られる本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の構造は、カルボキシル基濃度が高い部分とニトリル基濃度の高い部分が繊維全体にわたって均一に存在している構造であると推測される。そして、このような構造であるがゆえに、共有結合による架橋構造を有さずとも、吸湿・吸水時の繊維物性の低下が抑制されると考えられる。また、繊維表層部が局在的に加水分解されるのではなく、繊維全体にわたって均一に加水分解されることから、表層部に存在する金属酸化物が加水分解によって脱落してしまうことも抑制され、添加した金属酸化物を無駄なく利用できるものとなる。
【0043】
さらに、本発明の繊維の光熱変換性能は従来公知の繊維に金属酸化物を含有させる場合よりも、飛躍的に高くなる。そのような報告はこれまでに無く要因は明らかではないが、上述するように本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維においては、繊維全体が比較的粗な構造であるため、光が繊維内奥部まで到達しやすくなり、内奥部に存在する金属酸化物も有効利用されて、光熱変換効果が飛躍的に上がったものと推測される。
【0044】
なお、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維が、上記のように、未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維をさらに熱処理することで緻密化させた繊維や、緻密化後さらに弛緩処理した繊維を原料繊維として採用することによって、芯鞘構造をとる場合でも、表層部でカルボキシル基が均一に存在しており、中心部は硬い弾力性のある構造であるため、共有結合による架橋構造を得ずとも、同様に繊維物性の低下が少ないと考えられる。
【0045】
一方、上述のような未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維や、該繊維をさらに熱処理することで緻密化させた繊維や、緻密化後さらに弛緩処理した繊維といった乾燥させていない繊維を用いずに、乾燥後のアクリロニトリル系繊維に加水分解処理を施した場合には、乾燥により緻密化の程度がより進んでしまっているために、薬剤が繊維内奥部にはほぼ浸透せず、繊維表層部においてより局所的な加水分解が行われることになる。このようにして得られた繊維は、繊維表層部の水への溶出等が起こり、実用に耐えないものとなる。
【0046】
上述してきた本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は単独で又は、他の素材と組み合わせることにより多くの用途で有用な繊維構造体として利用できる。該繊維構造物においては、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の含有率を好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上とすることが、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の効果を得る観点から望ましい。また、他の素材の種類としては特に制限はなく、公用されている天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維が用いられ、さらには無機繊維、ガラス繊維等も用途によっては採用し得る。具体的な例としては、綿、麻、絹、羊毛、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アクリル繊維などを挙げることができる。
【0047】
該繊維構造体の外観形態としては、糸、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等がある。該構造物内における本発明の繊維の含有形態としては、他素材との混合により、実質的に均一に分布させたもの、複数の層を有する構造の場合には、いずれかの層(単数でも複数でも良い)に集中して存在せしめたものや、夫々の層に特定比率で分布せしめたもの等がある。
【0048】
上記に例示した繊維構造体の外観形態や含有形態、該繊維構造体を構成する他の素材、および該繊維構造体と組み合わせる他の部材をいかなるものとするかは、最終製品の種類(例えば、衣料品、フィルター、カーテンやカーペット、寝具やクッション、インソールなど)に応じて要求される機能、特性、形状や、かかる機能を発現することへの本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の寄与の仕方等を勘案して適宜決定される。
【実施例
【0049】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り重量基準で示す。また、各特性の測定は以下の方法により実施した。
【0050】
<チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解度>
乾燥した試料約1gを精秤し(W1[g])、100mlの58%チオシアン酸ナトリウム水溶液を加え、80℃で1時間浸漬させた後にろ過、水洗し、乾燥する。乾燥後の試料を精秤し(W2[g])次式によって溶解度を算出する。
溶解度[%]=(1-W2/W1)×100
かかる溶解度が95%以上である場合、共有結合による架橋構造を実質的に有さないと判断する。
【0051】
<カルボキシル基量の測定>
試料を約1g秤量し、1mol/l塩酸50mlに30分浸漬後、水洗し浴比1:500で純水に15分間浸漬する。浴pHが4以上となるまで水洗した後、熱風乾燥機にて105℃で5時間乾燥させる。乾燥した試料を約0.2g精秤し(W3[g])、これに100mlの水と0.1mol/l水酸化ナトリウム15ml、塩化ナトリウム0.4gを加えて攪拌する。次いで金網を用いて試料を漉しとり、水洗する。得られたろ液(水洗液も含む)にフェノールフタレイン液を2~3滴を加え、0.1mol/l塩酸で常法に従って滴定を行い消費された塩酸量(V1[ml])を求め、次式により全カルボキシル基量を算出する。
全カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V1)/W3
【0052】
<飽和吸湿率の測定>
試料を熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W4[g])。次に該試料を20℃×65%RHの条件に調節した恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして吸湿させた試料の重量を測定する。(W5[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]=(W5-W4)/W4×100
【0053】
<水膨潤度>
試料を純水中に浸漬した後、卓上遠心脱水機で1200rpmにて5分間脱水する。脱水後の試料の重量を測定(W6[g])後、かかる試料を115℃で3時間乾燥して重量を測定(W7[g])し、次式により水膨潤度を算出する。
水膨潤度[倍]=W6/W7-1
【0054】
<中和度>
熱風乾燥機にて105℃で5時間乾燥した試料を約0.2g精秤し(W8[g])、これに100mlの水と0.1mol/l水酸化ナトリウム15ml、塩化ナトリウム0.4gを加えて攪拌する。次いで金網を用いて試料を漉しとり、水洗する。得られたろ液(水洗液も含む)にフェノールフタレイン液を2~3滴を加え、0.1mol/l塩酸で常法に従って滴定を行い消費された塩酸量(V2[ml])を求める。次式によって、試料に含まれるH型カルボキシル基量を算出し、その結果と上述の全カルボキシル基量から中和度を求める。
H型カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V2)/W8
中和度[%]=[(全カルボキシル基量-H型カルボキシル基量)/全カルボキシル基量]×100
【0055】
<酸化チタン含有量及び酸化チタン保持率>
蛍光X線分析装置で測定したサンプルのピーク強度から、繊維中に含まれる酸化チタン含有量(C1[%])を測定した。酸化チタン保持率については、該サンプルの製造工程における加水分解処理前のゲル状アクリロニトリル系繊維を乾燥させたものの酸化チタン含有量(C2[%])を前記と同じ装置で測定し、下記の式にて求めた。
酸化チタン保持率(%)=C1/C2×100
【0056】
<光熱変換性>
綿状のサンプル5gを内径2cmの円筒形の筒に入れて80℃で10分間熱プレスを行い、直径2cm厚さ5mmの測定用サンプルを作成した。25℃の室内にて該測定用サンプルを静置して温度を安定させた後、鉛直上方1mから白熱電灯(SUN CLIP DX-II(AC100V、600W)、ハクバ写真産業製)にて5分間光照射した直後のサンプルの温度(℃)をサーモグラフィーにて測定した。
【0057】
<白度>
日立製U-3000型分光光度計にて酸化アルミニウム(Al)をリファレンスとして、サンプルの595nm,553nm,453nmの反射率(X%、Y%、Z%)を測定し下記式にて白度を求めた。値が小さいほど白度が大きくなる。
白度=0.817×((X-Z)/Y)×100)-3.71
【0058】
<繊維構造内のカルボキシル基の分布状態>
繊維試料を、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸マグネシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施し、水洗、乾燥することにより、カルボキシル基の対イオンをマグネシウムとする。マグネシウム塩型とした繊維試料を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)により繊維断面の外縁から中心にかけて概ね等間隔で10点の測定点を選び、各測定点におけるマグネシウム元素の含有割合を測定する。得られた各測定点の数値から次式により変動係数CV[%]を算出する。
変動係数CV[%]=(標準偏差/平均値)×100
【0059】
<芯鞘構造の繊維の横断面における表層部の占める面積の割合>
試料繊維を、繊維重量に対して2.5%のカチオン染料(Nichilon Black G 200)および2%の酢酸を含有する染色浴に、浴比1:80となるように浸漬し、30分間煮沸処理した後に、水洗、脱水、乾燥する。得られた染色済みの繊維を、繊維軸に垂直に薄くスライスし、繊維断面を光学顕微鏡で観察する。このとき、アクリロニトリル系重合体からなる中心部は黒く染色され、カルボキシル基が多く有する表層部は染料が十分に固定されず緑色になる。繊維断面における、繊維の直径(D1)、および、緑色から黒色へ変色し始める部分を境界として黒く染色されている中心部の直径(D2)を測定し、以下の式により表層部面積割合を算出する。なお、10サンプルの表層部面積割合の平均値をもって、試料繊維の表層部面積割合とする。
表層部面積割合(%)=[{((D1)/2)π-((D2)/2)π}/((D1)/2)π]×100
【0060】
<延伸後の未乾燥繊維の水分率の測定>
延伸後の未乾燥繊維を純水中に浸漬した後、遠心脱水機(国産遠心機(株)社製TYPE H-770A)で遠心加速度1100G(Gは重力加速度を示す)にて2分間脱水する。脱水後重量を測定(W9[g]とする)後、該未乾燥繊維を120℃で15分間乾燥して重量を測定(W10[g]とする)し、次式により計算する。
延伸後の未乾燥繊維の水分率(%)=(W9-W10)/W9×100
【0061】
<実施例1>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した後、酸化チタン0.25重量部を加えた紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を2.5%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥して、実施例1の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0062】
<実施例2~4>
実施例1の処方において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、実施例2では7.5%、実施例3では10%、実施例4では20%に変更すること以外は同様にして、実施例2~4の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0063】
<実施例5>
実施例3の吸湿性アクリロニトリル系繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した。次いで、水洗、乾燥を行い、実施例5の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0064】
<実施例6>
実施例4の吸湿性アクリロニトリル系繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した。次いで、水洗、乾燥を行い、実施例6の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0065】
<実施例7>
実施例1の処方において、酸化チタンの添加量を0.05重量部に変更すること以外は同様にして、実施例7の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0066】
<実施例8>
実施例1の処方において、酸化チタンの添加量を0.05重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例8の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0067】
<実施例9>
実施例1の処方において、酸化チタンの添加量を0.5重量部に変更すること以外は同様にして、実施例9の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0068】
<実施例10>
実施例1の処方において、酸化チタンの添加量を0.5重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例10の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0069】
<実施例11>
実施例1の処方において、酸化チタンの添加量を1重量部に変更すること以外は同様にして、実施例11の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0070】
<実施例12>
実施例1の処方において、酸化チタンの添加量を1重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例12の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0071】
<実施例13>
実施例2において、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、芯鞘構造を有する実施例8の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0072】
<実施例14>
実施例13において、緻密化繊維の代わりに、該繊維に対して、さらに120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用したこと以外は同様にして、芯鞘構造を有する実施例9の吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0073】
<比較例1>
実施例4の処方において、酸化チタンを加えずに行ったこと以外は同様にして、比較例1の金属酸化物を含有しない吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0074】
<比較例2>
実施例6処方において、酸化チタンを加えずに行ったこと以外は同様にして、比較例2の金属酸化物を含有しない吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
【0075】
<比較例3>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した後、酸化チタン0.25重量部を加えた紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥して原料繊維を得た。該原料繊維を35%ヒドラジン水溶液中で100℃3時間処理し、次いで2.5%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃2時間処理した後、脱水、水洗、乾燥を行い、架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。
【0076】
<比較例4>
比較例3において水酸化ナトリウム水溶液濃度を5%にした以外は同様にして、比較例4の架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。
【0077】
<比較例5>
アクリロニトリル88%及びメタクリル酸12%からなるアクリロニトリル系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
【0078】
<比較例6>
比較例2のアクリル繊維をソーダ灰1g/l水溶液にて90℃で30分加熱処理した後、水洗、乾燥して、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
【0079】
<比較例7>
比較例6の処方において、ソーダ灰1g/l水溶液での処理温度を100℃に変更すること以外は同様にして、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
【0080】
<比較例8>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を湿熱雰囲気中で、123℃×25分間熱処理を行い、水洗、乾燥して、実施例8のアクリル繊維を得た。
【0081】
<比較例9>
比較例8の処方において、紡糸原液に0.25重量部の酸化チタンを加えた以外は同様にして、比較例9のアクリル繊維を得た。
【0082】
上述の実施例、比較例において得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、実施例1~14の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、共有結合による架橋構造を有さないものであるにもかかわらず、20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5%以上であることと水膨潤度が10倍以下であることを両立するものである。また、これらの繊維は光熱変換よる温度上昇が大きいものである。さらに、これらの繊維は金属酸化物として酸化チタンを用いていることから、白度が高いものである。
【0085】
一方、比較例1および2の繊維は、金属酸化物を含まないため、金属酸化物による光熱変換機能は得られない。また、白度についても、酸化チタンを含有する各実施例に比べて低位なものである。
【0086】
比較例3,4の従来の架橋アクリレート系繊維は、架橋構造を有しているため、飽和吸湿率と水膨潤度については良好な特性を示すものの、金属酸化物の保持率が低く、製造工程での脱落の問題が大きい。さらに前述の通り工程が煩雑で、それぞれ工程では高温、長時間が必要である。このため、該繊維の製造を連続処理で行うことは難しく、生産性の低いバッチ処理で行わざるを得ない。
【0087】
比較例5のアクリル繊維については、カルボキシル基が中和されていないため、飽和吸湿率の低いものとなった。比較例6の繊維は比較例5のアクリル繊維を中和したものであるが、飽和吸湿率の向上は不十分である一方で、水膨潤度が大きく増加した。比較例7では、中和反応条件を強めたため、飽和吸湿率は向上したが、水膨潤度が高くなりすぎて繊維がゲル化してしまった。
【0088】
比較例9のアクリル繊維は酸化チタンを含有しているため比較例8と比較して光照射後の温度が高くなっているが、本願の実施例は光照射後の温度がさらに高くなっており、本願発明においては飛躍的な光熱変換効果があることが分かる。