IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用横滑り防止制御装置 図1
  • 特許-車両用横滑り防止制御装置 図2
  • 特許-車両用横滑り防止制御装置 図3
  • 特許-車両用横滑り防止制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】車両用横滑り防止制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20221117BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
B60T7/12 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018231741
(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公開番号】P2020093617
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔公開場所〕 株式会社スズキ自販北海道・他116社 〔公開年月日〕 平成30年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】西澤 浩光
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-276625(JP,A)
【文献】特開2004-161197(JP,A)
【文献】特開平11-235971(JP,A)
【文献】特開2007-307930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の横滑りを防止する横滑り防止制御を実行可能に構成される車両用横滑り防止制御装置であって、
前記車両の坂道発進を補助するように前記車両を制動するヒルホールド制御を実行可能に構成されるヒルホールド制御部を備え、
前記横滑り防止制御が禁止され、かつ前記車両の変速機が第1の変速設定に定められている状態で、前記ヒルホールド制御を禁止し、かつ前記横滑り防止制御が禁止され、かつ前記車両の変速機が前記第1の変速設定とは異なる第2の変速設定に定められている状態で、前記ヒルホールド制御を許可するように構成されている車両用横滑り防止制御装置。
【請求項2】
前記変速機が前記第1の変速設定に定められている状態で、前記横滑り防止制御が禁止された場合に、前記ヒルホールド制御を禁止し、かつ前記変速機が前記第2の変速設定に定められている状態で、前記横滑り防止制御が禁止された場合に、前記ヒルホールド制御を許可するように構成されている請求項1に記載の車両用横滑り防止制御装置。
【請求項3】
前記車両が、それぞれ前記横滑り防止制御の許可及び禁止を切り換えるようにオン及びオフに切り換え可能に構成される制御スイッチを有し、
前記ヒルホールド制御の許可及び禁止がそれぞれ前記制御スイッチのオン及びオフによってもたらされるように構成されている請求項2に記載の車両用横滑り防止制御装置。
【請求項4】
前記制御スイッチが、前記制御スイッチを所定の時間以上継続的に操作している状態を維持することによってオンからオフに切り換えられるように構成されている、請求項3に記載の車両用横滑り防止制御装置。
【請求項5】
前記車両が四輪駆動にて走行可能に構成され、
前記第1の変速設定が、前記四輪駆動における複数の変速モードのうち1つとなっている、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用横滑り防止制御装置。
【請求項6】
前記車両のエンジン及び走行駆動モータの少なくとも一方におけるオン及びオフを切り換えるようにそれぞれオン及びオフに切り換え可能に構成されるイグニッションスイッチを備え、
前記ヒルホールド制御が禁止された状態であっても、前記イグニッションスイッチがオフからオンに切り換えられるまでの期間、前記イグニッションスイッチがオンに切り換えられてから所定の時間経過するまでの期間、又は前記イグニッションスイッチがオンに切り換えられてから前記車両が所定の速度に到達するまでの期間にて、前記ヒルホールド制御が許可された状態となるように構成されている請求項1~5のいずれか一項に記載の車両用横滑り防止制御装置。
【請求項7】
前記横滑り防止制御が禁止され、かつ前記ヒルホールド制御が禁止された状態で、前記横滑り防止制御を許可することによって、前記ヒルホールド制御を許可するように構成されている請求項1~6のいずれか一項に記載の車両用横滑り防止制御装置。
【請求項8】
前記横滑り防止制御が禁止され、かつ前記ヒルホールド制御が禁止された状態で、前記変速機を前記第1の変速設定から前記第2の変速設定に切り換えることによって、前記ヒルホールド制御を許可するように構成されている請求項1~7のいずれか一項に記載の車両用横滑り防止制御装置。
【請求項9】
前記車両のメーターパネル内に配置されるインフォメーションディスプレイを備え、
前記ヒルホールド制御が禁止されていることが、前記インフォメーションディスプレイに表示可能に構成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の車両用横滑り防止制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の横滑りを防止可能とする車両用横滑り防止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の多くには、車両を安定的に走行させる横滑り防止制御を実行可能とする装置(横滑り防止制御装置)が搭載されている。横滑り防止制御装置は、「ESP(登録商標)」(Electronic Stability Program)と呼ばれることもある。かかる装置は、車両を安定的に走行させるためにタイヤのスリップ、車両の横滑り等を防止可能とする種々の機能を備えており、かつこのような機能を発揮するために車両の制動力、駆動力等を調節するようになっている。例えば、横滑り防止制御は、車両の発進時及び加速時におけるタイヤの空転を防止するトラクション制御、車両をコーナリング時に安定的に走行させるスタビリティ制御等を含むことがある。
【0003】
横滑り防止制御は、悪路走行時にも車両を安定的に走行させるように実行される。しかしながら、悪路走行特有の条件下で車両の運転を楽しみたいという要望が存在する。そのため、横滑り防止制御装置は、ユーザが横滑り防止制御を実行可能とするオン状態と同制御を禁止するオフ状態とを切り換えることができるように構成されることがある。
【0004】
このような横滑り防止制御装置の一例としては、横滑り防止制御のオン状態と同制御のオフ状態とを運転者のスイッチ操作によって切り換えることができるように構成され、かつ横滑り防止抑制のオフ状態では、横滑り防止制御を禁止するように構成される横滑り防止制御装置が挙げられる。(例えば、特許文献1を参照。)
【0005】
また、自動車等の車両は、車両の坂道発進を補助するように車両を制動するヒルホールド制御を実行可能に構成されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-307930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車等の車両において、上述のようなヒルホールド制御を禁止した場合、坂道発進を適切にできなくなるおそれがある。そのため、車両は、典型的に上記横滑り防止制御装置の一例のように横滑り防止制御を禁止した場合であっても、ヒルホールド制御を実行可能とするように構成されている。しかしながら、ヒルホールド制御が実行された状態で、車両がぬかるみ、雪道等にてスタックすると、ヒルホールド制御にて実行される車両の制動によって車両がスタック状態から脱出できないおそれがある。
【0008】
このような実情を鑑みると、車両用横滑り防止制御装置において、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換え可能とすることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のような課題を解決するために、一態様に係る車両用横滑り防止制御装置は、車両の横滑りを防止する横滑り防止制御を実行可能に構成される車両用横滑り防止制御装置であって、前記車両の坂道発進を補助するように前記車両を制動するヒルホールド制御を実行可能に構成されるヒルホールド制御部を備え、前記横滑り防止制御が禁止され、かつ前記車両の変速機が第1の変速設定に定められている状態で、前記ヒルホールド制御を禁止し、かつ前記横滑り防止制御が禁止され、かつ前記車両の変速機が前記第1の変速設定とは異なる第2の変速設定に定められている状態で、前記ヒルホールド制御を許可するように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
一態様に係る車両用横滑り防止制御装置においては、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えに応じてヒルホールド制御の許可及び禁止を適切に切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る車両用横滑り防止制御装置を搭載した車両が坂道発進をしている状態を概略的に示す側面図である。
図2図2は、本実施形態に係る車両用横滑り防止制御装置を搭載した車両の構成図である。
図3図3は、本実施形態に係る車両用横滑り防止制御装置を搭載した車両の車室内におけるインストルメントパネルの運転席側部分周辺を概略的に示す斜視図である。
図4図4は、本実施形態に係る車両用横滑り防止制御装置の制御方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る車両用横滑り防止制御装置について説明する。本実施形態に係る横滑り防止制御装置を適用する車両は自動車とする。しかしながら、横滑り防止制御装置は、自動車以外の車両にも適用することもできる。特に、横滑り防止制御装置は、軌道上を走行する車両以外の車両であって、二輪駆動及び四輪駆動の少なくとも一方によって走行可能に構成される車両に適用されるとよい。
【0013】
「横滑り防止制御装置の概略」
図1及び図2に示すように、本実施形態において、車両1が横滑り防止制御装置2を有する。横滑り防止制御装置(以下、必要に応じて単に「制御装置」という)2は、車両1の横滑りを防止する横滑り防止制御を実行可能に構成される。
【0014】
制御装置2は、車両1の坂道発進を補助するように車両1を制動するヒルホールド制御を実行可能に構成されるヒルホールド制御部2aを有する。具体的には、図1に示すように、ヒルホールド制御は、車両1が坂道Pで停止した状態から坂道Pを登るように発進するときに、車両1が重力により後退することを防ぎながら車両1を発進させることを可能とすべくヒルホールド時間tの間、車両1のブレーキ3によって車両1を制動するものとなっている。ヒルホールド時間t、又はヒルホールド時間t及びブレーキ3の制動力の組み合わせは、車両1が重力により後退することを防ぎながら車両1を発進させることを可能とするように定められる。
【0015】
図2に示すように、車両1は変速機4を有する。変速機4は、車両1の状態、特に、車両1の走行状態を変化させるように複数の変速設定に変更可能に構成される。かかる制御装置2は、横滑り防止制御が禁止され、かつ変速機4が第1の変速設定に定められている状態で、ヒルホールド制御を禁止するように構成されている。制御装置2はまた、横滑り防止制御が禁止され、かつ変速機4が第2の変速設定に定められている状態で、ヒルホールド制御を許可するように構成されている。第2の変速設定は第1の変速設定とは異なる。
【0016】
さらに、制御装置2は次のように構成されるとよい。制御装置2は、変速機4が第1の変速設定に定められている状態で、横滑り防止制御が禁止された場合に、ヒルホールド制御を禁止するように構成されている。また、制御装置2は、変速機4が第2の変速設定に定められている状態で、横滑り防止制御が禁止された場合には、ヒルホールド制御を許可するように構成されている。
【0017】
図2及び図3に示すように、車両1は、それぞれ横滑り防止制御の許可及び禁止を切り換えるようにオン及びオフに切り換え可能に構成される制御スイッチ11を有する。すなわち、制御スイッチ11がオンであるときに横滑り防止制御が許可され、かつ制御スイッチ11がオフであるときに横滑り防止制御が禁止される。制御装置2においては、ヒルホールド制御の許可及び禁止がそれぞれ制御スイッチ11のオン及びオフによってもたらされるようになっている。
【0018】
かかる制御スイッチ11は、この制御スイッチ11を所定の継続操作時間u以上の間継続的に操作している状態を維持することによってオンからオフに切り換えられるように構成されている。継続操作時間uは約2sec(秒)とすることができ、より好ましくは、約3sec(秒)とすることができる。しかしながら、継続操作時間は、これに限定されない。
【0019】
車両1は、四輪駆動にて走行可能に構成されており、上記第1の変速設定は、四輪駆動における複数の変速モードのうちの1つとなっている。車両1は、そのエンジン5におけるオン及びオフを切り換えるようにそれぞれオン及びオフに切り換え可能に構成されるイグニッションスイッチ12を有する。なお、イグニッションスイッチは、車両の走行駆動モータにおけるオン及びオフを切り換えるようにそれぞれオン及びオフに切り換え可能に構成することもできる。さらに、イグニッションスイッチは、車両のエンジン及び走行駆動モータにおけるオン及びオフを切り換えるようにそれぞれオン及びオフに切り換え可能に構成することもできる。
【0020】
このような制御装置2は、次のような条件(以下、必要に応じて「ヒルホールド許可条件」という)にてヒルホールド制御を許可する。ヒルホールド許可条件について、制御装置2は、ヒルホールド制御が禁止された状態であっても、イグニッションスイッチ12がオフからオンに切り換えられるまでの期間にて、ヒルホールド制御が許可された状態となるように構成されている。
【0021】
代替的には、制御装置2は、ヒルホールド制御が禁止された状態であっても、イグニッションスイッチ12がオンに切り換えられてから所定の待機時間v経過するまでの期間にて、ヒルホールド制御が許可された状態となるように構成される。例えば、待機時間vは、約1sec以上かつ約3sec以下とすることができ、特に、待機時間vは、約2secとすることができる。しかしながら、待機時間は、これに限定されず、イグニッションスイッチ12がオンに切り換えられてから、運転車が車両の走行操作を開始し得るまでの間の時間であればよい。
【0022】
さらに代替的には、制御装置2は、ヒルホールド制御が禁止された状態であっても、イグニッションスイッチ12がオンに切り換えられてから、車両1の走行速度(車速)が所定の立ち上がり速度wに到達するまでの期間にて、ヒルホールド制御が許可された状態となるように構成される。例えば、立ち上がり速度wは、約10km/h以上かつ約30km/h以下とすることができ、特に、約20km/hとすることができる。しかしながら、立ち上がり速度は、これに限定されず、車両の徐行速度の上限値等とすることもできる。このような制御装置2を搭載する車両1は、車速を検出可能に構成される車速検出部である車速センサ6を有するとよい。しかしながら、車速検出部は、これに限定されず、車速センサ以外とすることもできる。
【0023】
別のヒルホールド許可条件について、制御装置2は、横滑り防止制御が禁止され、かつヒルホールド制御が禁止された状態で、横滑り防止制御を許可することによって、ヒルホールド制御を許可するように構成される。さらなる別のヒルホールド許可条件について、制御装置2は、横滑り防止制御が禁止され、かつヒルホールド制御が禁止された状態で、変速機4を第1の変速設定から第2の変速設定に切り換えることによって、ヒルホールド制御を許可するように構成される。
【0024】
加えて、車両1は、メーターパネル13内に配置されるインフォメーションディスプレイ14を有する。インフォメーションディスプレイ14は、液晶パネル、有機EL(Electro Luminescence)パネル、LED(Light Emitting Diode)パネル等であるとよい。かかるインフォメーションディスプレイ14は、ヒルホールド制御が禁止されていることを表示可能に構成される。
【0025】
「横滑り防止制御装置の詳細」
横滑り防止制御装置2は詳細には次のように構成されるとよい。横滑り防止制御装置2は、一例として、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、入力インターフェース、出力インターフェース等の電子部品と、かかる電子部品を配置した電気回路とを含むように構成されるとよい。そして、制御装置2は、各種制御を実行するためのプログラム等を含んでいるとよい。しかしながら、制御装置は、これに限定されない。
【0026】
図1及び図2に示すように、制御装置2は、車両1の駆動輪7の駆動力を制御するトラクション制御を実行可能に構成されるトラクション制御部2bを有する。具体的には、トラクション制御は、車両1の発進又は加速時に駆動輪7の空転を防止するように駆動輪7の駆動力を制御するものとなっている。
【0027】
制御装置2は、車両1をコーナリング時に安定的に走行させるスタビリティ制御を実行可能に構成されるスタビリティ制御部2cを有する。特に、スタビリティ制御部2cは、車両1がコーナリング時にコーナの外側に膨らむように移動すること、車両1のコーナリング時のスピン等を防止するとよい。さらに、制御装置2は、EBD(Electronic Brake force Distribution)制御、ABS(Antilock Brake System)制御、EDC(Engine Drag Control)、ブレーキアシスト制御等を可能とするように構成されるとよい。
【0028】
ここで、車両1は、二輪駆動と四輪駆動とに切り換え可能となっている。二輪駆動は、前輪駆動方式及び後輪駆動方式のいずれであってもよい。図1においては、車両1が四輪駆動になっており、かかる車両1における4つの走行輪のそれぞれが駆動輪7になっている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、車両は、二輪駆動及び四輪駆動のいずれかのみであってもよい。なお、車両1における二輪駆動と四輪駆動との切換の詳細については後述する。
【0029】
かかる制御装置2は、横滑り防止制御が禁止され、かつ変速機4が第1の変速設定に定められている状態で、上述のようにヒルホールド制御を禁止する一方で、トラクション制御及びスタビリティ制御の少なくとも一方を許可するように構成できる。制御装置2はまた、横滑り防止制御が禁止され、かつ変速機4が第2の変速設定に定められている状態で、上述のようにヒルホールド制御を許可する一方で、トラクション制御及びスタビリティ制御の少なくとも一方を禁止するように構成できる。
【0030】
変速機4における複数の変速設定は、四輪駆動の低速モード(4Lモード)と四輪駆動の高速モード(4Hモード)とを含む。四輪駆動の低速モードにおける減速比の範囲は、同高速モードにおける減速比の範囲よりも高くなっており、四輪駆動の低速モードにおける車両1の駆動力は、同高速モードにおける車両1の駆動力よりも大きくなっている。さらに、上述のように車両1が二輪駆動と四輪駆動とに切り換え可能である構成において、これらの変速設定は、四輪駆動の低速及び高速モードに加えて、二輪駆動モード(2Hモード)を含むとよい。第1の変速設定は四輪駆動の低速モードであるとよい。さらに、第2の変速設定は、四輪駆動の高速モード及び二輪駆動モードの少なくとも一方であるとよく、第2の変速設定は、四輪駆動の低速モード以外のモードであるとよい。
【0031】
なお、変速設定は、四輪駆動の3つ以上の変速モードを含むこともできる。また、変速設定は、四輪駆動の少なくとも1つの変速モードと、二輪駆動の少なくとも1つの変速モードとを含むことができる。例えば、複数の変速設定は、四輪駆動モード及び二輪駆動モードを含むようにすることもできる。この場合、第1の変速設定は四輪駆動モードであるとよい。第2の変速設定は二輪駆動モードであるとよく、第2の変速設定は四輪駆動モード以外のモードであるとよい。
【0032】
しかしながら、変速設定は、このような変速モードに限定されない。例えば、変速設定は、オートマティック車の変速レンジとすることもできる。かかる変速レンジは、パーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、ドライブレンジ(D)、2速レンジ(2レンジ)、ローレンジ(Lレンジ)等を含むこともできる。この場合、第1の変速設定はローレンジとすることができ、第2の変速設定はローレンジ以外の変速レンジとすることができる。また、第1の変速設定は2速レンジ及びローレンジとすることができ、第2の変速設定は2速レンジ及びローレンジ以外の変速レンジとすることができる。
【0033】
例えば、変速設定は、マニュアル車又はスポーツモードのオートマティック車の変速ギアとすることもできる。かかる変速ギアは、1速ギア~i速ギア(iは2以上の整数)、リバースギア(Rギア)、ニュートラルギア(Nギア)等を含むことができる。この場合、第1の変速設定は1速ギアとすることができ、第2の変速設定は1速ギア以外の変速ギアとすることができる。また、iが4以上である場合には、第1の変速設定は1速及び2速ギアであるとよく、第2の変速設定は1速及び2速ギア以外の変速ギアであるとよい。
【0034】
図3に示すように、車両1は、変速モードの切換を指示可能に構成されるトランスファーレバー15を有する。車両1は、変速レンジ又は変速ギアの切換を指示可能に構成されるシフトレバー16を有する。トランスファーレバー15及びシフトレバー16は、車室10内の運転席周辺に配置される。本実施形態において、変速設定が変速モードである場合、変速設定の切換を指示可能に構成されるレバーはトランスファーレバー15となる。しかしながら、変速設定が変速レンジ又は変速ギアである場合、変速設定の切換を指示可能に構成されるレバーはシフトレバー16となる。
【0035】
次に、図3に示すように、制御スイッチ11は車室10内の運転席周辺に配置される。制御スイッチ11はボタンとすることができる。この場合、ボタンである制御スイッチ11を所定の継続操作時間uの間継続的に押している状態を維持することによって、制御スイッチ11をオンからオフに切り換えることができる。しかしながら、制御スイッチは、ボタン以外とすることができる。例えば、制御スイッチは、ダイヤル、レバー等とすることもできる。
【0036】
図2及び図3に示すように、イグニッションスイッチ12は、車両1のエンジン5におけるオン及びオフの切換に加えて、カーオーディオ、ランプ等の電気系統のオン及びオフを切り換え可能に構成されるとよい。イグニッションスイッチ12は、エンジン5をオフにし、かつ車両1のカーオーディオ、ランプ等のアクササリ用電気系統をオフにした状態(いわゆる「OFF」状態)と、エンジン5をオフにし、かつアクササリ用電気系統をオンにした状態(いわゆる「ACC(ACCESSORY)」状態)と、エンジン5をオンにし、かつアクササリ用電気系統をオンにした状態(いわゆる「START」状態)とに切り換え可能になっている。なお、イグニッションスイッチ12は、エンジン5を起動させるためのセルモータ等の起動用電気系統をオンにした状態(いわゆる「ON」状態)にさらに切り換えることができてもよい。
【0037】
イグニッションスイッチ12は、車室10内の運転席周辺に配置される。図3においては、イグニッションスイッチ12はボタンとなっており、特に、かかるボタンはスマートエントリ(登録商標)、キーレススタート等に対応するとよい。しかしながら、イグニッションスイッチは、これに限定されない。例えば、イグニッションスイッチはキーシリンダ等とすることもできる。
【0038】
メーターパネル13は、車室10内のインストルメントパネル17に配置される。より具体的には、メーターパネル13は、ステアリングホイール18に対して車両前方に位置するインストルメントパネル17の運転席正面部分17aに配置される。図3においては、メーターパネル13は、車両幅方向に並ぶ2つの計器13a,13bを有し、インフォメーションディスプレイ14は、車両幅方向にて第1及び第2計器13a,13b間に配置されている。例えば、第1計器13a及び第2計器13bは、それぞれ、タコメータ及びスピードメータとすることができる。しかしながら、インフォメーションディスプレイは、運転者に視認可能なようにメーターパネル内に配置されていれば、これに限定されない。
【0039】
「横滑り防止制御装置の制御方法」
図4を参照して、横滑り防止制御装置2の制御方法の一例について説明する。最初に、車両1がヒルホールド制御を許可した状態にある(ステップS1)。制御スイッチ11が継続操作時間u以上の間継続的に操作している状態を維持されることによってオフになったか否かを判定する(ステップS2)。
【0040】
制御スイッチ11がオフになっていない場合(NO)、ヒルホールド制御を許可した状態を維持する(ステップS1)。制御スイッチ11がオフになった場合(YES)、変速機4が第1の変速設定に定められているか否かを判定する(ステップS3)。
【0041】
変速機4が第1の変速設定に定められていない場合、例えば、変速機4が第2の変速設定に定められている場合(NO)、ヒルホールド制御を許可した状態を維持する(ステップS1)。変速機4が第1の変速設定に定められている場合(YES)、ヒルホールド制御を禁止する(ステップS4)。次に、車両1が上述したヒルホールド許可条件にあるか否かを判定する(ステップS5)。
【0042】
車両1が上述したヒルホールド許可条件にない場合(NO)、ヒルホールド制御を禁止した状態を維持する(ステップS4)。車両1が上述したヒルホールド許可条件にある場合(NO)、ヒルホールド制御を許可する(ステップS6)。
【0043】
以上、本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、ユーザが横滑り防止制御の禁止及び許可を切り換えると共に車両1の変速機4を第1及び第2の変速設定間で切り換えることによって、ヒルホールド制御の禁止及び許可が切り換えられる。例えば、ユーザが自らの意思で横滑り防止制御を禁止すると共に車両1の変速機4を第1の変速設定に設定すれば、ヒルホールド制御を禁止できる。この場合、ユーザの意図に反して坂道P、ぬかるみ等にて車両1が制動することを防止できるので、例えば、悪路走行特有の条件下で坂道発進を含む車両1の運転を楽しみたいとするユーザの要求を満たすことができ、車両1をスタック状態から効率的に脱出させることができる。その一方で、例えば、ユーザが自らの意思で横滑り防止制御を禁止すると共に車両1の変速機4を第2の変速設定に設定すれば、ヒルホールド制御を許可できる。この場合、悪路走行特有の条件下で車両の運転を楽しみたいとする一方で、坂道発進の補助を望むユーザの要求を満たすことができる。さらに、ヒルホールド制御の禁止及び許可を切り換えるために、横滑り防止制御の禁止及び許可の切換と変速機の変速設定の切換とが必要となる。そのため、ユーザが誤ってヒルホールド制御を禁止することを防止できる。よって、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。付随的には、ヒルホールド制御の禁止及び許可を切り換えるためのみに用いられるスイッチ等の部品を別途設ける必要がないので、部品点数の増加を防止できる。
【0044】
本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、変速機4が第1の変速設定に定められている状態で、横滑り防止制御が禁止された場合に、ヒルホールド制御を禁止し、かつ変速機4が第2の変速設定に定められている状態で、横滑り防止制御が禁止された場合に、ヒルホールド制御を許可するように構成されている。
【0045】
ここで、ユーザは、横滑り防止制御が禁止された状態においても、車両1の走行状態等に応じて瞬時の判断によって変速機4の変速設定を切り換えることが多い。そのため、ヒルホールド制御の禁止及び許可を切り換えるために横滑り防止制御を禁止した後に、変速機4を第1及び第2の変速設定間で切り換えることが必要になった場合、ユーザの不用意な変速設定の切換によってユーザの意図に反してヒルホールド制御が禁止及び許可されるおそれがある。これに対して、本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、ユーザが、ヒルホールド制御を禁止するために、最初に変速機4を第1の変速設定に設定し、その後、横滑り防止制御を禁止する。そのため、ユーザの不用意な変速設定の切換によってユーザの意図に反してヒルホールド制御が禁止及び許可されることを効率的に防止できる。よって、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。
【0046】
本実施形態に係る横滑り防止制御装置2は、それぞれ横滑り防止制御の許可及び禁止を切り換えるようにオン及びオフに切り換え可能に構成される制御スイッチ11を有し、ヒルホールド制御の許可及び禁止がそれぞれ制御スイッチ11のオン及びオフによってもたらされるように構成されている。そのため、横滑り防止制御の許可及び禁止を切り換えるために制御スイッチ11を操作すれば、ヒルホールド制御の許可及び禁止を切り換えることができるので、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。
【0047】
本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、制御スイッチ11が、この制御スイッチ11を継続操作時間u以上継続的に操作している状態を維持ことによってオンからオフに切り換えられるように構成されている。そのため、ユーザが誤って制御スイッチ11に瞬間的に接触したことに起因して横滑り防止制御及びヒルホールド制御がユーザの意図に反して禁止されることを防止できる。よって、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。
【0048】
本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、車両1が四輪駆動にて走行可能に構成され、第1の変速設定が、四輪駆動における複数の変速モードのうち1つとなっている。そのため、変速機が悪路走行時に主に用いられる四輪駆動の変速設定、特に、四輪駆動の低速モードに定められている場合にヒルホールド制御を禁止できるので、悪路走行時において、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。
【0049】
本実施形態に係る横滑り防止制御装置2は、それぞれ車両1のエンジン5のオン及びオフを切り換えるようにオン及びオフに切り換え可能に構成されるイグニッションスイッチ12を有し、ヒルホールド制御が禁止された状態であっても、イグニッションスイッチ12がオフからオンに切り換えられるまでの期間、イグニッションスイッチ12がオンに切り換えられてから待機時間v経過するまでの期間、又はイグニッションスイッチ12がオンに切り換えられてから車両1の走行速度が立ち上がり速度wに到達するまでの期間にて、ヒルホールド制御が許可された状態となるように構成されている。
【0050】
そのため、イグニッションスイッチ12がオフになると、ヒルホールド制御が必ず許可される。例えば、ユーザがヒルホールド制御を禁止したことを忘れた場合であっても、イグニッションスイッチ12をオフにすることによってヒルホールド制御が許可される。従って、ユーザの不注意に起因してヒルホールド制御を禁止した状態が継続されるのを防ぐことができる。よって、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。
【0051】
本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、横滑り防止制御が禁止され、かつヒルホールド制御が禁止された状態で、横滑り防止制御を許可することによって、ヒルホールド制御を許可するように構成されている。
【0052】
ここで、ユーザが横滑り防止制御を許可する場合、ユーザは車両を安定的に走行させることを望んでいる状況が多く、さらに、ユーザが坂道発進の補助を望む状況が多い。これに対して、本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、このような状況にて横滑り防止制御の許可と一緒にヒルホールド制御を許可するので、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。
【0053】
本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、横滑り防止制御が禁止され、かつヒルホールド制御が禁止された状態で、変速機4を第1の変速設定から第2の変速設定に切り換えることによって、ヒルホールド制御を許可するように構成されている。
【0054】
ここで、ユーザが変速機4を第1の変速設定から第2の変速設定に切り換える場合、特に、ユーザが、第1の変速設定から、第1の変速設定よりも小さな駆動力をもたらす第2の変速設定に切り換える場合、ユーザは車両を安定的に走行させることを望んでいる状況が多く、さらに、ユーザが坂道発進の補助を望む状況が多い。これに対して、本実施形態に係る横滑り防止制御装置2においては、このような状況にて変速機4を第1の変速設定から第2の変速設定に切り換えることによって、ヒルホールド制御を許可するので、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。
【0055】
本実施形態に係る横滑り防止制御装置2は、車両1のメーターパネル13内に配置されるインフォメーションディスプレイ14を有し、ヒルホールド制御が禁止されていることが、インフォメーションディスプレイ14に表示可能に構成されている。そのため、ユーザは、インフォメーションディスプレイ14上で、ヒルホールド制御が禁止されていることを確実に確認できる。よって、ユーザの要求と横滑り防止制御の禁止及び許可の切り換えとに応じてヒルホールド制御の禁止及び許可を適切に切り換えることができる。付随的には、インフォメーションディスプレイ14は、液晶パネル、有機ELパネル、LEDパネル等の画像表示装置である場合には、ヒルホールド制御が禁止されていることを容易に表示することができる。さらに、ヒルホールド制御が禁止されていることを示す専用ランプを別途設ける必要がないので、部品点数の増加を防止できる。
【0056】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…車両、2…横滑り防止制御装置(制御装置)、2a…ヒルホールド制御部、4…変速機、5…エンジン、11…制御スイッチ、12…イグニッションスイッチ、13…メーターパネル、14…インフォメーションディスプレイ
図1
図2
図3
図4