(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】監視用湿度計測システムおよび監視用湿度計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/10 20060101AFI20221117BHJP
G01D 5/353 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01N19/10 A
G01D5/353 B
(21)【出願番号】P 2019159253
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390013815
【氏名又は名称】学校法人金井学園
(73)【特許権者】
【識別番号】303021609
【氏名又は名称】ニューブレクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】中道 正紀
(72)【発明者】
【氏名】中尾 一成
(72)【発明者】
【氏名】岸田 欣増
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/061718(WO,A1)
【文献】特開平04-027853(JP,A)
【文献】特開平01-210891(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212559(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0086443(US,A1)
【文献】国際公開第2011/111178(WO,A1)
【文献】特開平09-089714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/10
G01D 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光ファイバと、この第1の光ファイバを覆うように設けられた湿度検知層と、を有する湿度計測用光ファイバ、
湿度以外の環境変数を計測するため、前記湿度計測用光ファイバに並設された第2の光ファイバを有する参照用光ファイバ、
前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバと各別に接続された複数の信号チャンネル、レーザ光源を有し、前記レーザ光源から各光ファイバに入射されたレーザ光の後方散乱光からブリルアン周波数シフトおよびレイリー周波数シフトを演算して求めるとともに、前記ブリルアン周波数シフトと湿度との関係を示す比例定数、および単位湿度変化量当たりの前記レイリー周波数シフトの変化量である変化係数を記憶する光信号処理装置、
を備え、
前記レーザ光源から前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバにレーザ光を入射して、各々求めた初期のブリルアン周波数シフトの差に、前記比例定数を乗じて得た初期湿度値と、
初期に得た、前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバに入射して求めた前記レイリー周波数シフトの差を、初期から所定時間経過後に得た、前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバに入射して求めた前記レイリー周波数シフトの差から、差し引いた値に、前記変化係数の逆数を乗じて得た湿度変化値と、
の和から、前記湿度計測用光ファイバの所定位置での湿度を求めることを特徴とする監視用湿度計測システム。
【請求項2】
前記参照用光ファイバは、温度を検知するための温度計測用光ファイバであることを特徴とする請求項1に記載の監視用湿度計測システム。
【請求項3】
前記湿度検知層は、吸水性高分子材料である適性PVA材が薄膜コーティングされたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の監視用湿度計測システム。
【請求項4】
撚り線状に構成された中実線あるいは管が、複数、中心軸部分に設けられた中心部構造体を有し、
前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバは、ともに、外周部分が鉄あるいはステンレス製の複数の撚り線で環状に構成された撚り線保護層により覆われており、かつ、前記中心部構造体を覆う環状体を構成する一要素であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の監視用湿度計測システム。
【請求項5】
温度と湿度の双方を計測するための光ファイバと、湿度を検知するため、前記光ファイバの軸方向に間欠的に環状に設けられた湿度検知層と、を有する湿度計測用光ファイバ、
前記湿度計測用光ファイバと接続される信号チャンネル、レーザ光源を有し、前記レーザ光源からレーザ光を出射するとともに、前記光ファイバに入射したレーザ光の後方散乱光からブリルアン周波数シフトおよびレイリー周波数シフトを演算して求めるとともに、前記ブリルアン周波数シフトと湿度との関係を示す比例定数、および単位湿度変化量当たりの前記レイリー周波数シフトの変化量である変化係数を記憶する光信号処理装置、
を備え、
前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を前記湿度計測用光ファイバに入射して求めた前記湿度検知層が設けられた前記光ファイバの軸方向位置での初期のブリルアン周波数シフトと前記湿度検知層が設けられていない前記光ファイバの軸方向位置での初期のブリルアン周波数シフトとの差に、前記比例定数を乗じて得た初期湿度値と、
初期に得た、前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を前記湿度計測用光ファイバに入射して求めた前記湿度検知層が設けられた前記光ファイバの軸方向位置でのレイリー周波数シフトと前記湿度検知層が設けられていない前記光ファイバの軸方向位置でのレイリー周波数シフトとの差を、初期から所定時間経過後に得た、前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を前記湿度計測用光ファイバに入射して求めた前記湿度検知層が設けられた前記光ファイバの軸方向位置でのレイリー周波数シフトと前記湿度検知層が設けられていない前記光ファイバの軸方向位置でのレイリー周波数シフトとの差から、差し引いた値に、前記変化係数の逆数を乗じて得た湿度変化値と、
の和から、前記湿度計測用光ファイバの所定位置での湿度を求めることを特徴とする監視用湿度計測システム。
【請求項6】
前記湿度検知層は、吸水性高分子材料であるPVA材のNH-18が薄膜コーティングされたものであることを特徴とする請求項5に記載の監視用湿度計測システム。
【請求項7】
第1の光ファイバと、この第1の光ファイバを覆うように設けられた湿度検知層と、を有する湿度計測用光ファイバ、
湿度以外の環境変数を計測するため、前記湿度計測用光ファイバに並設された第2の光ファイバを有する参照用光ファイバ、
前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバと各別に接続された複数の信号チャンネル、レーザ光源を有し、前記レーザ光源から各光ファイバに入射されたレーザ光の後方散乱光からブリルアン周波数シフトおよびレイリー周波数シフトを演算して求めるとともに、前記ブリルアン周波数シフトと湿度との関係を示す比例定数、および単位湿度変化量当たりの前記レイリー周波数シフトの変化量である変化係数を記憶する光信号処理装置、
を備えた監視用湿度計測システムを用いて、
前記ブリルアン周波数シフトと前記比例定数とから求めた初期湿度値と、
前記レイリー周波数シフトのデータである、基準となる湿度でのデータである参照用データと、目的とする湿度でのデータであるターゲットデータとを計測し、前記ターゲットデータと前記参照用データとの差から求めたレイリー周波数シフト変化量および前記変化係数から得た湿度変化値と、
を基に、現時点での湿度の値を前記初期湿度値と前記湿度変化値の和として求めることを特徴とする監視用湿度計測方法。
【請求項8】
温度と湿度の双方を計測するための光ファイバと、湿度を検知するため、前記光ファイバの軸方向に間欠的に環状に設けられた湿度検知層と、を有する湿度計測用光ファイバ、
前記湿度計測用光ファイバと接続される信号チャンネル、レーザ光源を有し、前記レーザ光源からレーザ光を出射するとともに、前記光ファイバに入射した前記レーザ光の後方散乱光からブリルアン周波数シフトおよびレイリー周波数シフトを演算して求めるとともに、前記ブリルアン周波数シフトと湿度との関係を示す比例定数、および単位湿度変化量当たりの前記レイリー周波数シフトの変化量である変化係数を記憶する光信号処理装置、
を備えた監視用湿度計測システムを用いて、
前記ブリルアン周波数シフトと前記比例定数とから求めた初期湿度値と、
前記レイリー周波数シフトのデータである、基準となる湿度でのデータである参照用データと、目的とする湿度でのデータであるターゲットデータとを計測し、前記ターゲットデータと前記参照用データとの差から求めたレイリー周波数シフト変化量および前記変化係数から得た湿度変化値と、
を基に、現時点での湿度の値を前記初期湿度値と前記湿度変化値の和として求めることを特徴とする監視用湿度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、監視用湿度計測システムおよび監視用湿度計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場あるいは果樹園などの土壌中の環境変数、例えば、温度、湿度、窒素濃度、リン濃度、あるいはカリウム濃度などは、農作物の栽培において重要な指標となっている。また、国の指針においては精密農業の推進が求められており、分布的かつリアルタイムで数10km範囲にデータを計測するための手法が必要となっている。なお、農業のニーズを考えた場合、その技術手段は、10年程度の長寿命、比較的簡単な実装方法、十分な機械強度、農機作業にも対応出来る柔軟性、破損時の修繕性、土中埋設後の浸水、動物による噛み付き、あるいは虫害への対応、配置案変更の柔軟性などが要求されている。
【0003】
従来の電気センサでは、湿度値、pH値などを計測する技術がある。しかしながら、計測器からセンサまでの距離が短いこと、電源が必要なこと、電線の発熱が環境変数に影響することなど、問題点が多々あり、農場において大規模設置は難しい。
また、光ファイバのセンシング機能を利用した研究も報告されているが、FBG(Fiber Bragg Grating)技術、あるいはFP(Fabry-Perot)技術を適用した点センサ、あるいは吸湿物体(PMMA(polymethyl methacrylate)、あるいは珪藻土)を反応体として光ファイバを貼りつける手法が主である。これらの手法は一点または多点計測での手法であり、数10kmの範囲を分布的に把握するには不向きである。
また、分布型湿度検出装置と称する出願も公開されているが、湿度検出のために使用される物質が吸湿発熱性物質であり、発熱による影響が無視できない(例えば特許文献1参照)。
【0004】
さらに、光ファイバのセンシング機能を利用した別の研究例としては、ディスク状のポリマーに光ファイバを巻き付けて湿度計測を実施した研究(例えば非特許文献1参照)、および、石英系光ファイバと構造が異なるPMMA系POF(Polymer Optical Fiber)光ファイバで湿度計測を実施した研究(例えば非特許文献2、3参照)があるが、前者は、ポリマーが固形物であることから、飽和状態となるまでに4~10時間必要となり30分程度以下のリアルタイム計測が難しく、また分布計測には不向きであるという問題がある。また、後者は、飽和状態までの計測時間が長く、全領域が湿度変化の影響を受けるため、同時に影響を受ける温度変化量との分離が難しいという問題がある。
【0005】
以上のように、数10km範囲の土地において、環境変数の分布的計測が可能であり、かつ比較的簡単な敷設、およびメンテナンスを実現するシステムは実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-27853号公報
【文献】国際公開2010/061718号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sylvain Texier,et.al,“Advances in subsurface water-content measurement with a distributed Brillouin scattering fibre-optic sensor“,Proceedings of SPIE Vol.5855,2005,pp.555-558.
【文献】Philipp Lenke, et.al, ”Distributed humidity sensing based on Rayleigh scattering in polymer optical fibers”, Proceedings of SPIE Vol.7653, 76533X-1-76533X-4, 2010.
【文献】Sascha Liehr, et.al,“Distributed Humidity Sensing in PMMA Optical Fibers at 500nm and 650nm Wavelengths”, Sensors 2017,17,738, doi:10.3390.
【文献】川島和子ら、「温室メロン栽培における点滴灌水の自動制御方式の相違が灌水パターンと生育、果実品質に及ぼす影響」、愛知農総試研報35:65-71、2003年、pp.65-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記のような課題を解決するため、農業用データ(湿度・土中水分・栄養分等)を計測するためには、光ファイバで計測出来る「温度」および「ひずみ」と、農業用データを結びつける技術が必要となる。また、光ファイバによる計測では、「温度」と「ひずみ」の周波数シフトが同時に発生するために、目的に応じてデータの分離が必要となる。
【0009】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、光ファイバを使った湿度計測を可能とし、この湿度計測において温度変化による影響が無いようにするとともに、光ファイバを使った計測での周波数シフト変化の時間短縮を行なうことにより、所定範囲の土地においてリアルタイム性のある湿度の分布的計測が可能な装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示される監視用湿度計測システムは、
第1の光ファイバと、この第1の光ファイバを覆うように設けられた湿度検知層と、を有する湿度計測用光ファイバ、
湿度以外の環境変数を計測するため、前記湿度計測用光ファイバに並設された第2の光ファイバを有する参照用光ファイバ、
前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバと各別に接続された複数の信号チャンネル、レーザ光源を有し、前記レーザ光源から各光ファイバに入射されたレーザ光の後方散乱光からブリルアン周波数シフトおよびレイリー周波数シフトを演算して求めるとともに、前記ブリルアン周波数シフトと湿度との関係を示す比例定数、および単位湿度変化量当たりの前記レイリー周波数シフトの変化量である変化係数を記憶する光信号処理装置、
を備え、
前記レーザ光源から前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバにレーザ光を入射して、各々求めた初期のブリルアン周波数シフトの差に、前記比例定数を乗じて得た初期湿度値と、
初期に得た、前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバに入射して求めた前記レイリー周波数シフトの差を、初期から所定時間経過後に得た、前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を前記湿度計測用光ファイバおよび前記参照用光ファイバに入射して求めた前記レイリー周波数シフトの差から、差し引いた値に、前記変化係数の逆数を乗じて得た湿度変化値と、
の和から、前記湿度計測用光ファイバの所定位置での湿度を求めることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示される環境変数の分布監視用光ケーブルによれば、光ファイバを使った湿度計測を可能とし、この湿度計測において温度変化による影響が無いようにするとともに、光ファイバを使った計測での周波数シフト変化の時間短縮を行なうことにより、所定範囲の土地においてリアルタイム性のある湿度の分布的計測が可能な装置及び方法を提供することができるという顕著な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に用いる光ファイバの構成を示す概念モデル図である。
【
図2】実施の形態1に用いる湿度センサ用光ファイバの検討に用いた供試PVA材の特性を比較した表図である。
【
図3】供試PVA材のレイリー散乱光の周波数シフトの測定結果を示した図である。
【
図4】供試PVA材のうち、NH-18材がコーティングされている光ファイバの反応時間を説明するための図である。
【
図5】実施の形態1による湿度計測用光ファイバの基本構造を説明するためのモデル図である。
【
図6】実施の形態1による湿度計測用光ケーブルの湿度センシング部の構造を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1による湿度計測用光ケーブルの全体構造を示す斜視図である。
【
図8】実施の形態1による参照用の温度計測用光ファイバの周波数シフト特性を示す図である。
【
図9】PVA材である溶液濃度7.5%のNH-18材を光ファイバに薄膜コーティングしたときの、湿度変化量に対する初期周波数シフト変化量の実測値を表した図である。
【
図10】実施の形態1による湿度計測用光ケーブルを用いてリアルタイム計測する場合のフローチャートを示す図である。
【
図11】実施の形態1の監視用湿度計測システムの一例を示す図である。
【
図12】
図11の計測システムを使って、現場で湿度計測する場合のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願の実施の形態について図を用いて説明する。
実施の形態1.
[概念モデル]
まず、実施の形態1の監視用湿度計測システムに用いる光ファイバについて、
図1に示す概念モデルにより、以下説明する。農業用データ(湿度・栄養分等)を計測するため、光ファイバで計測できる「温度」あるいは「ひずみ」と農業用データとが関係付けられる必要がある。通常、光ファイバを用いた計測では、「温度」と「ひずみ」による周波数シフトが同時に光ファイバに発生するため、これらによる影響を分離することが必要となる(例えば、特許文献2参照)。一方、農業用データの1つである湿度は、上述の背景技術で述べたように、光ファイバによって計測可能なことが示されている。
【0014】
そこで、本実施の形態1では、農業用データの1つである湿度を分布計測することを前提として、吸水性高分子材料を光ファイバに薄膜コーティング(厚み約5~7μm)して用いることで湿度の影響により、光ファイバに発生するひずみを利用して、光ファイバによって、湿度の分布を精度よく計測することを検討した。
【0015】
すなわち、上記のように、計測時に通常、光ファイバに発生する、温度による周波数シフトの影響を除去しつつ、湿度により発生する光ファイバの周波数シフトのみを計測することができないかについて検討した。この基本的な概念を
図1により説明する。
【0016】
図1は本実施の形態1に用いる光ファイバの構成を示す概念モデル図である。
図1において、光ファイバ素線100は、間欠的に、吸水性高分子材料200で薄膜コーティングされている。この図に示した吸水性高分子材料200で薄膜コーティングされた光ファイバ素線100を湿度の影響を受ける環境下に設置した場合を考えると、例えば、矢印A1で示した部分では、光ファイバ素線100は吸水性高分子材料200で薄膜コーティングされているため、この部分では、湿度と温度の、両方の影響を受ける。
【0017】
すなわち、吸水性高分子材料200は水分を吸収して膨張するため、光ファイバ素線100はその影響を受け、また、温度による影響も同時に受けるため、これら両者の変化による周波数シフトが光ファイバ素線100に発生する。一方、矢印A2で示した部分では、光ファイバ素線100は吸水性高分子材料で薄膜コーティングされていないため、湿度変化による影響は受けず、温度変化による影響のみを受ける。なお、吸水性高分子材料200の代表例としては、ポリビニールアルコール(以下PVA(polyvinyl alcohol)と略記する)が挙げられる。
【0018】
よって、湿度変化による影響だけを考えるには、矢印A3で示すように、矢印A1で示した部分で計測した周波数シフトデータから、矢印A2で示した部分で計測した周波数シフトデータを差し引けばよい。なお、上記のように吸水性高分子材料200を5~7μmの厚みで薄膜状にコーティングしたのは、短時間での周波数シフト変化の計測を可能とするためである。
【0019】
厳密に言えば、光ファイバの軸方向の同一場所における、湿度と温度の両方により発生する周波数シフトから温度だけにより発生する周波数シフトを差し引くべきではあるが、軸方向の温度変化は急激ではないと想定されるため、誤差は小さいと考えられる。これについては、実施の形態1の光ファイバの構成を示す図の説明とともに、後ほど詳しく説明する。
【0020】
[実験による湿度測定]
まず、湿度計測に適した吸水性高分子材料を決定するための実験を行った。この実験の内容とその結果について、以下図を用いて説明する。ここでは、吸水性高分子材料としてPVAを用いた。その詳細について、以下説明する。
【0021】
材料の決定においては、親水性、光ファイバへのコーティングが可能であること、均一な膜厚でコーティングができること、をポイントとして、
図2に示す、粘度の異なる3種類のPVAを供試PVA材として選択し、これらの溶液濃度もパラメータとして変化させた計12種類のPVA材について、周波数シフト変化を測定した。この測定では、一定温度(20℃)の条件下で、湿度を7%(一定)から70%(一定)までステップ的に変化させた場合における、経過時間に対する光ファイバのレイリー周波数シフト(光ファイバの反応時間とも呼ぶ)、最大周波数シフトに至るまでに要する飽和時間などを調べた。そして、これらの測定結果から、湿度センサとして適正なものを決定することとした。この際、経年変化に対する特性変化、すなわち特性劣化がないかについても確認した。
【0022】
ここで、KH、NH、NLはメーカ型番(選択したPVA材のメーカは三菱ケミカル株式会社)を示し、
図2に示すように、KH-20、NH-18、NL-5の順に粘度が小さくなる。また、各PVA材の溶液濃度(水溶液濃度)については、この値が大きいほど、粘度も大きくなる。
【0023】
なお、
図2で、溶液濃度4に区分された欄において、数値の後に(古)と表現したものは、表に示した数値の条件で、今回の実験の約半年前に同じ方法でコーティングした材料であることを示す。このPVA材を使った試料の特性を測定することにより、経年劣化の有無についてチェックすることが目的である。
【0024】
次に、供試PVA材で薄膜コーティングした光ファイバを用いて、湿度測定試験を行った。この試験は、ある一定の湿度環境から目的となる湿度環境までステップ的に湿度を変化させたときの、光ファイバの周波数シフトの値の変化を調べることによって行った。
【0025】
湿度環境の設定には、飽和塩法(塩化ナトリウム、塩化リチウムなどの材料を飽和状態まで水に溶かして密封容器に入れておくと、溶かした材料と空間温度の条件によって恒湿度環境が作れる手法)を使用し、飽和塩法容器を恒温恒湿器内に設置して、その飽和塩法容器の蓋を開放することによって、ステップ的な湿度環境の変化を生じさせることによって実施した。なお、計測環境の温湿度測定には、デジタル出力方式のヴァイサラ(VAISALA。登録商標)温湿度計(型番は、本体:MI70、プローブ:HMP77)を使用した。
【0026】
試験開始時の供試PVA材の水分吸着量を一定にするため、試験前において、湿度が安定した環境に光ファイバを9時間以上保存しておき、状態安定化後、計測試験開始前に湿度約7%環境で安定した光ファイバの状態をリファレンスデータとして計測しておく。
【0027】
計測試験開始時は、温度20℃で湿度70%一定に制御された恒温恒湿器の中に、光ファイバを設置して、ステップ的な湿度環境の変化を生じさせる。この湿度環境変化に関する試験は、コーティングされた供試PVA材の水分吸着が飽和し周波数シフト変化が止まる、すなわち、周波数シフト変化が飽和するまで約5時間計測した。また、測定においては、供試品のレイリー周波数シフト計測を行うためのデータの取得間隔は、1回あたり約4分間の周期となるように設定した。なお供試された光ファイバは1本の長さが約1mで、その内、約50cmの範囲にPVA材がコーティングされている。
【0028】
次に、
図2に示した3種類の供試サンプルを用いて計測した結果について、
図3を用いて説明する。
図3は、上記3種類の供試サンプル材を1本の光ファイバ素線上の異なる位置にコーティングした場合の測定結果を曲線で示したものである。この図の横軸は、この光ファイバの所定の基準位置からの距離をm単位で示しており、縦軸は、供試サンプル材の湿度変化によるレイリー周波数シフト(以下単に周波数シフトと呼ぶ)の所定の基準値からの変化量を示している。また、この図では相対湿度を6.49%から70.34%にステップ的に変化させた場合の、各供試サンプル材の周波数シフトを示している。また、上記所定の基準値として、「束取り」部分の値を用いている。なお、「束取り」とは、温度変化を確認するための光ファイバ素線部分の呼び名であり、
図3の左端部分に実際に用いられた基準値となるデータを示している。さらに、
図3において、数字付きの各両矢印区間の左半分が、上記PVA材がコーティングされている約50cmの範囲に該当する。以下、上記3種類の供試サンプル材ごとの測定結果について詳しく説明する。
【0029】
(1)「KH-20」の場合
「10.0%」のサンプルでは、最大シフト量が-16.44[GHz]と大きい。しかし、塗りむらが酷く、波形の形が整っていない。「5.0%」サンプルでは、最大シフト量が-3.92[GHz]と少ない。波形の形は整っているが、50cmのコーティング長さ中、20cm程度にしか、ひずみの反応が生じていない。
「2.5%」のサンプルでは、最大シフト量が-0.84[GHz]と非常に少ない。「10.0%(古)」は、今回作成した同種同溶液濃度のものと比べ、最大シフト量は-11.04[GHz]と少ない。誤差が5.4[GHz]もあり、劣化が著しい。
(2)「NH-18」の場合
「10.0%」のサンプルでは、最大シフト量が-9.68[GHz]と大きい。波形も整っている。「9.0%」では、最大シフト量が-12.24[GHz]と大きい。「10.0%」よりも溶液濃度[%]が低いにも関わらず、シフト量はこちらの方が大きかった。波形が階段状になっている所があり、塗りむらが多少見られる。「7.5%」では、最大シフト量が-7.52[GHz]と大きい。波形も整っている。「7.5%(古)」は、今回作成した同種同濃度のものと比べ、最大シフト量は-6.64[GHz]と少ない。しかし、誤差が0.88[GHz]しかなく、劣化は微小と考えられる。
(3)「NL-05」の場合
「15.0%」は、シフト量が-9.56[GHz]と大きく、波形も整っている。「10.0%」は、シフトの山が二つあるが、これは高分子材料をコーティングした時に誤って光ファイバの素線の部分にも高分子材料を付着したからであると想定される。データとしては意図してコーティングした左側の部分を採用した。シフト量は、-7.44[GHz]と大きい。「7.5%」は、シフト量が-2.28[GHz]と小さいが、塗りむらがほとんど見られなかった。「10.0%(古)」はシフト量が-6.20[GHz]あり、同種同溶液濃度のものとの誤差が1.24[GHz]だけあり、劣化は少ないと考えられる。
【0030】
以上で説明した飽和塩法では、湿度の値を基に周波数シフトを求めているが、実際の測定においては、逆に、計測した周波数シフトから湿度の値を求めている。
【0031】
なお、コーティング膜の塗理の均一性については目視によって判断した。結果としては、「NH-18 7.5%」、「NH-18 7.5%(古)」、「NL-05 7.5%」、「NL-05 10.0%(古)」の4つのケースが良好であった。
【0032】
次に、上記で説明した中で一番特性の優れていると判断した「NH-18」材を例にして、反応時間(以下、経過時間とも呼ぶ)、あるいは飽和時間との関係について、次に説明する(
図4参照)。図において、横軸は、経過時間を時間(h)と分(m)の単位で示しており、縦軸はレイリー周波数シフト(以下、単に周波数シフトとも呼ぶ)をGHzの単位で示している。また図中の曲線は、4種類の溶液濃度の「NH-18」材でコーティングした光ファイバの経過時間に対する周波数シフトを示しており、「NH-18」がコーティングされている光ファイバの反応時間を表しているとも言える。この図より、一番溶液濃度の大きい10.0%は飽和時間が156分と長く、反応は鈍い。二番目に溶液濃度の高い9.0%も飽和時間が124分と長い。三番目に溶液濃度の高い7.5%は飽和時間が36分と短く、敏感である。古7.5%は飽和時間が24分であった。後者の2種類の溶液濃度7.5%試料の結果から材料の劣化は少ないものと考えられる。
【0033】
以上を総合的に判断して、湿度センサとして最適と思われるPVA材を決定した。ここで、湿度センサとして使うために重視した要素は、「周波数シフト量が大きいこと」「塗りむらが無いこと」「飽和時間が短いこと」、および「劣化がないこと」の4つである。これらの要素が揃っているものを優先して判断した。結論としては、「NH-18」の「7.5%」が全ての条件を満たす材料であることが判明した。この材料を以降、適性PVA材と呼ぶ。
【0034】
[光ファイバおよび光ケーブルの構造]
そこで、以上の要求を満足すると判断したPVA材をコーティングした、実際に使用する光ファイバの構造について図を用いて、以下説明する。例えば、ガラス製の光ファイバに上記で説明した湿度センサ用の吸湿性PVA材を薄膜コーティングし、PVA材が湿気を吸収した場合に、このガラス製の光ファイバに生ずるひずみにより、分布的に湿度を計測するものである。
【0035】
図5に、このような湿度計測に用いる湿度計測用光ファイバ5の基本構成の一例を示す。湿度計測用光ファイバ5は、図に示すように、中心軸部分に配置されている光ファイバ1、この光ファイバ1を保護するため、光ファイバ1を覆う被覆層2、この被覆層2の外周を覆うように設けられた湿度検知層3、そして、上記光ファイバ1、被覆層2、湿度検知層3を覆って、これらを保護する保護層4から構成され、その外周径(上記湿度計測用光ファイバ5の外周径)は、例えば、0.35mm未満に設定されている。
【0036】
次に、この湿度計測用光ファイバ5を備えた、実際の測定に使用される湿度計測用光ケーブルの構成について図を用いて説明する。
図6(a)、
図6(b)は、上記湿度計測用光ファイバ5を実際の現場で使用する際の基本となる部分の構造である、湿度計測用光ケーブルの湿度センシング部の構造を示す構造図であり、
図6(a)は、その斜視図、
図6(b)は、この光ケーブルの軸に直交する断面の断面図である。これら
図6(a)、
図6(b)に示すように、湿度計測用光ファイバ5の外周部分には、鉄あるいはステンレスでこの湿度計測用光ファイバ5を覆った、撚り線構造の撚り線保護層6が設けられ、湿度計測用光ファイバ5を保護している。
【0037】
図6(b)の断面図において、撚り線保護層を構成する各線の外径は0.4mm、で、外周の大きさL1は、例えば1.2mmである。この撚り線は湿度計測用光ファイバ5全体の曲げ性および強度性を確保する。また、左上の矢印は、外周部分から水蒸気、あるいは水分が、上記湿度計測用光ケーブル基本構造の部分の内部に侵入することを模式的に示したものであり、撚り線の隙間から湿度・水分が入ることで、湿度検知層が反応することができる。
【0038】
次に、上記湿度計測用光ケーブル基本構造を含む、湿度計測用光ケーブルの全体構造について図を用いて説明する。
図7は、湿度計測用光ケーブル8の全体構造を示す斜視図である。上記の湿度計測用光ファイバ5は撚り線保護層6と一体で、湿度計測用光ケーブルの外周部(
図7の上側)に螺旋状に巻かれて配置され、下側には、参照用光ファイバ7(ここでは、温度計測用光ファイバ)が、これを保護する撚り線保護層6と一体で、同様の形態で配置されている。また、湿度計測用光ケーブルの中心軸部分には、撚り線構造の複数の中実線、あるいは必要に応じ、内部に通信用のケーブル、あるいは電力供給用のケーブルが設けられる、螺旋状の複数の管(パイプ)が設けられる中心部構造体9が設けられ、ケーブル全体の強度を確保している。また、電力供給用のケーブルに通電することで、高湿度時に撚り線に溜まった水分を蒸発させる機能を併せ持つ。
【0039】
なお、上記参照用の温度計測用光ファイバの実測による特性を
図8に示す。
図8において、横軸は温度(単位:℃)、縦軸はレイリー周波数シフト(単位:GHz)を示す。この図の矢印に示したように、温度が低温側から高温側に変化する場合、および高温側から低温側に変化するいずれの場合も、レイリー周波数シフトの値は変わらず、いわゆるヒステリシスのない特性であることが判る。
【0040】
[リアルタイム湿度計測]
ところで、時々刻々と変化する湿度値をリアルタイム計測することは、先に説明した周波数シフトの飽和によって湿度の値を決定する方法では難しい。そこで、初期のシフト変化量(例えば、湿度変化後3分以内のデータ)を利用した湿度のリアルタイム計測法について、図を用いて以下説明する。
図9は、PVA材のNH-18を溶液濃度7.5%の条件で光ファイバに薄膜コーティングしたときの、初期、すなわち測定開始から1分間の、湿度変化に対する周波数シフトの変化量の実測値を区間ごとに比較して表した図である。この図に示すように、B区間では湿度の値によらず、湿度変化と周波数シフト変化との間にリニアな関係があることが判る。なお、B区間は、A区間、C区間と比較して適切にPVA材のコーティングがなされたと考えられる区間である。逆にいえば、光ファイバ素線へのコーティングの仕方が適切な値を得るためには、重要であることを示している。
【0041】
ステップS1:初期湿度値RH
0の計測(ブリルアン計測)
初期湿度の計測においては、レイリー計測法でなくブリルアン計測法を採用する。この理由は、ブリルアン計測法により湿度の絶対量の計測が可能となるからである(他方、湿度の変化量の計測には、より高精度(距離分解能が2cm)で測定できるレイリー計測法を用いる)。
そこで、初期湿度を求めるため、まず、ブリルアン計測によって、湿度計測箇所における時間t=0(ゼロ)でのブリルアン周波数シフトν(0
、B
S,T)(以下、湿度計測箇所データν(0
、B
S,T)と略記する)、および、温度計測箇所における時間t=0(ゼロ)でのブリルアン周波数シフト(以下、温度計測箇所データν(0
、B
T)と略記する)を測定する。
また、冒頭、
図1を用いて説明したように、湿度計測箇所データには、「温度」と(吸水性高分子材料が水分を吸収して膨張したことにより光ファイバに発生する)「ひずみ」の双方による周波数シフトが発生しているため、式(1)で湿度計測箇所の「ひずみ」のみの周波数シフト量を算出する。なお、式(1)のかっこ内の最初の数字ゼロは、上記の数字ゼロと同様、全て、初期である時間t=0(ゼロ)時点での値であることを示す。
ν(0
、B
S)=ν(0
、B
S,T)-ν(0
、B
T) (1)
最後に、ブリルアン計測における「湿度」と「ひずみ」との間に成立する比例定数K
Aを用いて、初期湿度値RH
0を式(2)により算出する。
RH
0=K
A*ν(0
、B
S) (2)
【0042】
なお、上記の各式は周波数シフトの飽和値で計算するため、長時間での湿度変化が少ない環境下で計測を実施する必要がある。また、本計測のみでも、時間経過後の湿度値は計算できるが、湿度の飽和を待つ必要があるため、リアルタイム計測が難しいという問題がある。先に示した
図4から、溶液濃度の低いPVAコーティング材を用いた場合には、約30分で湿度の値が飽和しており、比較的短時間で飽和していることが分かる。しかし、前述のように農業環境のリアルタイム計測への適用は、この程度の飽和時間が前提であれば、実用化は厳しい。例えば、温室メロン生産において検討されている養液土耕法では、土壌pF値を測定するpFセンサは数秒で測定可能なものが使用されている(非特許文献4参照)。そこで以下に示すレイリー計測を使った湿度計測の手法をさらに組み合わせる。
【0043】
ステップS2:参照用データν(0、RS,T)、ν(0、RT)の計測(レイリー計測)
ステップS1と同様に、参照用の湿度計測箇所における時間t=0(ゼロ)でのレイリー周波数シフトν(0、RS,T)(以下、湿度計測箇所データν(0、RS,T)と称する。時間0が時間tの場合も同様)、および温度計測箇所における時間t=0(ゼロ)でのレイリー周波数シフトν(0、RT)(以下、温度計測箇所データν(0、RT)と称する。時間0が時間tの場合も同様)を計測し、次式(3)で、参照用の湿度計測箇所の「ひずみ」のみの周波数シフト量を算出する。
ν(0、RS)=ν(0、RS,T)-ν(0、RT) (3)
【0044】
ステップS3:ターゲットデータν(t、RS,T)、ν(t、RT)の計測(レイリー計測)
次に、ターゲット(湿度値を求めたい時間)となる湿度計測箇所データν(t、RS,T)、温度計測箇所データν(t、RT)を計測し、式(4)で湿度計測箇所の「ひずみ」のみの周波数シフト量を算出する。
ν(t、RS)=ν(t、RS,T)-ν(t、RT) (4)
【0045】
ステップS4:レイリー計測の周波数シフト変化量を算出
式(3)と式(4)に示した参照用データν(0、RS)、ターゲットデータν(t、RS)を用いて、次に示す式(5)でレイリー計測による周波数シフト変化量を算出する。
Δν(t、RS)=ν(t、RS)-ν(0、RS) (5)
【0046】
ステップS5:現在の湿度値RH
tの算出
先の湿度計測実験において、湿度変化量とレイリー計測初期シフト量(計測時間約90秒)との間にリニアな関係が見られた(
図9参照)。また、この程度の短時間でも大きなシフト変化量が計測できることが分かった。これらのデータから湿度が1%変化した場合の周波数シフトの変化量である変化係数K
Bを次の式(6)によって求めることができる。
K
B=Δν(t
、R
S)/ΔRH
t=Δν/ΔRH≒-5.9×10
-2 (6)
【0047】
この変化係数KB、およびステップS1で求めたRH0、ステップS4で求めたΔν(t、RS)を用いて、次の式(7)によって、現時点での湿度の値RHtが計算できる。
RHt =Δν(t、RS)/KB+RH0 (7)
ここで、Δν(t、RS)/KBは、初期から現時点までの湿度変化量に等しい(次の式(8)参照)。
Δν(t、RS)/KB=ΔRHt (8)
【0048】
その後、ステップS2~ステップS5を繰り返すことによって、湿度の値のリアルタイム計測が可能となる(
図10)。ここで、第n+1回目の繰り返し時には、第n回目のデータを参照用データとして使用する。そして、繰り返し求めた値の差(第n+1回目の値と第n回目の値の差の絶対値を第n回目の値で割った値)が所定値未満(例えば0.001未満)になれば、その値を求めるリアルタイム計測法で求めた湿度値とする。
【0049】
次に、以上の結果を前提にして、湿度をリアルタイムで計測できる計測システムについて
図11、
図12を基に説明する。
図11は、今回提案する圃場あるいは果樹園などで使用する環境変数の1つである湿度の計測ができる計測システムの一例である。また、
図12は、現場において、この計測システムを使って、湿度の計測する場合のフローチャート図である。
【0050】
この計測システムについて、まず環境変数が湿度である場合において、
図11を用いて説明する。
図11において、環境変数である湿度を計測すべき対象となる農場を取り囲むように、監視用ケーブルである湿度計測用光ケーブル8(図中、破線の曲線で示した)を敷設する。この図では、測定対象となる農場の上側と右側に第1の湿度計測用光ケーブル8a(以下、単に、湿度計測用光ケーブル8aとも呼ぶ)が敷設され、対象となる農場の下側から左側には、第2の湿度計測用光ケーブル8b(以下、単に、湿度計測用光ケーブル8bとも呼ぶ)が敷設されている。これらの湿度計測用光ケーブル8a、8bは、それぞれ、光ファイバ接続点11a、11bで、光信号処理装置20に各湿度計測用光ケーブルからの信号を入力する光通信ケーブル10a、10bに、それぞれ接続されている。ここで、光信号処理装置20は、湿度計測用光ケーブル8a、8bで検出された信号を基に、ブリルアン散乱による周波数シフト信号、およびレイリー散乱による周波数シフト信号を処理し演算するとともに、上記比例定数および変化係数を記憶する装置であり、湿度計測信号から温度による影響を除いた周波数シフト量を求めるため、2台のインテロゲーター装置I21、およびインテロゲーター装置II22と接続され、ブリルアン散乱およびレイリー散乱の2方式での計測ができ、かつ、記憶した上記比例定数および変化係数を利用して、リアルタイム信号計測が可能な監視用湿度計測システム30を構成している。なお、上記光信号処理装置20はレーザ光源を有しており、このレーザ光源から出射したレーザ光を光ファイバに入射した場合に、当該光ファイバで生ずる後方散乱光から上記ブリルアン散乱による周波数シフト、およびレイリー散乱による周波数シフトを演算して求める機能を有する。
【0051】
ここで、管理可能な農場の範囲を広げるため、上記湿度計測用光ケーブルの敷設箇所は必要最小限の範囲にとどめ、計測データの伝送には、上記湿度計測用光ケーブル8を使用する。なお、上記湿度計測用光ケーブル8aは、光通信ケーブル10aの設置箇所に沿って敷設されている他、光通信ケーブル10aと途中で分岐した光通信ケーブル10cの設置箇所に沿っても敷設されている(これらの光通信ケーブルを総称して光通信ケーブル10と呼ぶ)。また、上記インテロゲーター装置21、22は、サブナノメーター以下の高い波長分解能を持つ分光器(分光器は信号分析のコアエンジンの役割)を搭載し、高速かつ高い波長分解能でのリアルタイム光ファイバセンシングを可能にするものである。
【0052】
そして、この計測システムを用いて、求められた周波数シフト量を先の
図10で示したステップ順に演算処理して、対象となる農場の湿度計測用光ケーブルの敷設位置に対応した湿度の値を求めることができる。
【0053】
この計測システムを用いる場合の実際の現場での作業手順について、
図12によりさらに詳しく説明する。まず、ステップS11では、監視対象の範囲あるいは地域を策定し、湿度計測用光ケーブル、通信用ケーブルの配置ルートを検討する。これらが決定したら、次に、ステップS12では、監視に用いる湿度計測用光ケーブルの構成内容を決定する。次に、ステップS13では、湿度計測用光ケーブルの設置工事を行う。この際、湿度計測用光ケーブルで得た信号は、光通信ケーブルを利用して信号処理装置に接続する。次に、ステップS14では、ブリルアン散乱を利用して上記ステップS1で説明した初期値を計測し、計測した信号を保存する。また、湿度計測用光ケーブルの設置箇所の地図も保存する。次に、ステップS15では、所定時間での温度、ひずみなどを計測する。次に、ステップS16では、ステップS14とステップS15で得たデータを比較し、解析する。次に、ステップS17では、ステップS16の解析結果で得た比較結果Dを基に、このDが図中に示した関係を満足しているか否かを判定する。満足している場合には、次に、ステップS18で所定の環境変数の分布データを求めて、現場での作業手順を終了する。満足していない場合には、計測間隔等のスケジュールを決定した後、ステップS15に戻り、再度、ステップS15の内容を実施し、次のステップS16の内容を再度、実施した後、ステップS17の判定を繰り返す動作において、繰り返し求めたDの値の関係(第n+1回目のDの値と第n回目のDの値の差の絶対値を第n回目のDの値で割った値)が所定値未満(例えば0.001未満)になるまで繰り返す。
【0054】
ここで、上記の湿度計測用光ケーブル8a、8bの敷設位置に対応した各測定点での湿度の値から、これらの各点を互いに結んでできる直線の交点(内分点)での湿度の値を求めることにより、近似的に求めた農場全体での湿度の値とすることも可能である。すなわち、対象となる農場を取り囲むように湿度計測用光ケーブルを敷設することにより、対象とする農場全体の湿度分布を求めることができる。また、上記のような光ファイバを使ったシステムを使用することで、電源等の光ケーブル以外の設備がない場合でも、数10km範囲の土地において、目的とする環境変数の分布監視をすることが可能となる。
【0055】
なお、本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0056】
1 光ファイバ、2 被覆層、3 湿度検知層、4 保護層、5 湿度計測用光ファイバ、6 撚り線保護層、7 参照用光ファイバ、8 湿度計測用光ケーブル、8a 第1の湿度計測用光ケーブル、8b 第2の湿度計測用光ケーブル、9 中心部構造体、10、10a、10b 光通信ケーブル、11a、11b 光ファイバ接続点、20 光信号処理装置、21 インテロゲーター装置I、22 インテロゲーター装置II、30 監視用湿度計測システム、100 光ファイバ素線、200 吸水性高分子材料