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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】歯科模型仮想化方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/34 20060101AFI20221117BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A61C13/34 Z
A61C13/00 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019049254
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020150966
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2020-11-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1. 日本歯科理工学会平成30年度秋期 第72回学術講演会 講演予稿集 ウェブサイトの掲載日 平成30年9月18日 ウェブサイトのアドレス http://www.jsdmd.jp/meeting/meet list.html 2. 日本歯科理工学会平成30年度秋期 第72回学術講演会 開催日 平成30年10月 6日(土) 集会名 日本歯科理工学会 平成30年度秋期 第72回学術講演会 開催場所 北海道大学 学術交流会館(札幌市北区北8条西5丁目)
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516057060
【氏名又は名称】アリッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(72)【発明者】
【氏名】堀 直介
(72)【発明者】
【氏名】堀 美喜
(72)【発明者】
【氏名】河合 達志
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-178751(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106725920(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105662632(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102007022036(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0148814(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/34
A61C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯及び歯列形状を型取りして灰色系の色を備えた歯科模型を形成する印象採得工程と、
前記歯科模型に、光の陰影を用いて複数の平行線又は交差線からなる所定の縞模様を複数組み合わせた陰影パターンを有する格子パターン光を、所定の周期で繰り返して照射して、三次元スキャニング処理を行い、前記歯科模型に係る歯列データを形成するデジタル変換工程と、
前記歯列データに基づいて、電子的な仮想空間内で前記歯及び前記歯列形状に係る仮想模型を再現する仮想化工程とを有する歯科模型仮想化方法において、
前記歯科模型の色の明度が、明度値14から明度値45の明度帯域内に収まるように着色し、
当該歯科模型を前記三次元スキャニング処理したとき、
前記格子パターン光の前記縞模様に係る明るい部分が、前記歯科模型の表面で乱反射することを抑制し、また前記縞模様に係る暗い部分が前記歯或いは前記歯列形状による凹部に形成される影に同化することを抑制して、
前記歯科模型に対して略同一形状の前記仮想模型を再現するようにしたことを特徴とする歯科模型仮想化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科模型をデジタルデータ化して仮想模型にする歯科模型仮想化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、製品又は分解した製品を解析する処理を行って、当該製品の動作原理や製造方法、設計や構造、仕様の詳細、構成要素などを明らかにするというリバースエンジニアリングが行われている。当該リバースエンジニアリングの主な処理工程は、解析処理工程と、モデリング処理工程である。解析処理工程は、製品又は当該製品を分解した部品について、当該製品・部品の注目すべき特徴、又は共通する性質等を計測等によって抽出し、製品データを形成する工程である。モデリング処理工程は、解析処理工程で得た製品データに基づいて、当該製品データ中の些末な細部、ノイズを補正し、より簡略化した抽象的な模型(モデル)を作成する工程である。近年、解析処理工程では、3次元スキャナ(以下「3Dスキャナ」という)が頻繁に利用され、モデリング処理工程では、3次元コンピュータグラフィックス(以下「3DCG」という)或いは三次元プリンタ(以下「3Dプリンタ」という)が頻繁に利用されている。
【0003】
近年、上記のリバースエンジニアリングに係る手法は、歯科医療分野に応用されている。歯科医療分野において、解析処理工程は、まず、解析対象を患者の口腔内と見るか、或いは当該口腔内を印象材で型取りして形成する石膏模型と見るかで大別される。患者の口腔内を解析対象とする場合、解析処理工程は、口腔内を直接スキャニング可能な3Dスキャナを用いてスキャニングし、その計測結果を口腔内データとしてデジタルデータ化している。一方、石膏模型を解析対象とする場合、解析処理工程は、当該石膏模型を3Dスキャナでスキャニングし、その計測結果を歯列データとしてデジタルデータ化している。
前者の場合は、口腔内を直接スキャニングするため、口腔内形状に加えて色情報を取得することができる。しかし、口腔内の軟組織を圧迫する印象採得方法(以下「圧迫印象」という)を行うことができない。そのため、口腔内を直接スキャニングする方法は、スキャニング可能な領域が限られている。
一方、後者の場合は、圧迫印象に基づいて作成した石膏模型を使用し、歯列全体を3Dスキャナで歯列データ化することができる。そのため、矯正歯科或いは小児歯科において、歯科技工装置を製作する場合は、口腔内を印象材で型取りして石膏模型を形成してから、当該石膏模型を3Dスキャナで歯列データ化する手法が適している。
【0004】
石膏模型に係る解析処理工程に使用される3Dスキャナは、レーザ光投影法とパターン光投影法に大別される。レーザ光投影法は石膏模型にスリットレーザ光を照射して、当該スリットレーザ光の反射や位相の変位を計測して立体形状をデジタル化する方法である。また、パターン光投影法は石膏模型に所定の格子パターン光を照射して立体形状をデジタル化する方法であり、格子パターン光とは、所定の縞模様を格子状に組み合わせた複数の陰影パターンを、所定の周期で繰り返して照射する光である。
【0005】
ここで、スリットレーザ光又は格子パターン光が照射される石膏模型が基本的には白色から乳白色の石膏材を利用して造られていることから、スリットレーザ光又は格子パターン光を照射したとき、光線が模型表面で乱反射してしまうという問題があった。これに対して、特開2001-178751号に開示されている模型用石膏組成物は、石膏の基本材に遮光性向上剤及び反射調整剤を配合して、レーザ光を照射したときに模型表面で発生するハレーションと二次反射の発生を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-178751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の文献に開示されているレーザ光又はスリットレーザ光を使用するレーザ光投影法は、スキャナ装置のコストパフォーマンスに優れ、明るい場所でもスキャン可能であることから、広く使われているが、スリットレーザ光を石膏模型に照射するとき、点で照射され、それが連続して石膏模型の一部を線状に切り出してスキャニングすることから、石膏模型の解析データが凸凹になってしまい、モデリング処理を行ったとき、歯や歯列に歪が生じるおそれがある。
一方、格子パターン光を使用するパターン光投影法は、陰影を際立たせるため、暗所で使用しなければならないが、高速・高性能なスキャンが可能で滑らかな面の石膏模型解析データを得ることができる。
【0008】
しかしながら、パターン光投影法によって、石膏模型をスキャニングした場合、暗所で撮影しており、格子パターン光が届かない部分があるということと、滑らかな面状の解析データが得られる上記の特性によって、石膏模型上の歯と歯の間に形成される歯冠鼓形空隙部に対して投影された光が乱反射することで、当該歯冠鼓形空隙部の奥行きに係るデータがなめられてしまうという問題がある。その結果、モデリング処理を施したとき、たとえば、3DCGにおいては、図8に示したモデル図のように、歯冠固形空隙部が埋められて隣り合う歯と歯の境界が曖昧になり、一体化してしまった歯列の3Dモデルが形成されてしまう。このように、3Dモデルの再現率が悪いと、たとえば、矯正歯科のように、歯と歯を一本一本分割して、隣り合う歯と歯を分けて矯正する歯の位置等を細かく検討しなければならない歯科分野においては、実用性に疑義が生じるおそれがある。なお、現在、一体化してしまった歯列は、一般的な歯の形に基づいて凹部近傍の形状を演算して補正し、歯を分割するようにしている。しかしながら、元となる歯列データの再現率が悪い場合、3Dモデルを形成したとき、現実の石膏模型と仮想模型との間に歪が生じるおそれがある。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、歯冠鼓形空隙部等の凹部を有する歯冠部を細部までパターン光投影式3Dスキャナがスキャニングすることのできる歯科模型を提供するとと共に、当該歯科模型をスキャンして仮想化したとき、形成される仮想模型の再現率を向上させることのできる歯科模型仮想化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の歯科模型仮想化方法は、患者の歯及び歯列形状を型取りして灰色系の色を備えた歯科模型を形成する印象採得工程と、
前記歯科模型に、光の陰影を用いて複数の平行線又は交差線からなる所定の縞模様を複数組み合わせた陰影パターンを有する格子パターン光を、所定の周期で繰り返して照射して、三次元スキャニング処理を行い、前記歯科模型に係る歯列データを形成するデジタル変換工程と、
前記歯列データに基づいて、電子的な仮想空間内で前記歯及び前記歯列形状に係る仮想模型を再現する仮想化工程とを有する歯科模型仮想化方法において、
前記歯科模型の色の明度が、明度値14から明度値45の明度帯域内に収まるように着色し、
当該歯科模型を前記三次元スキャニング処理したとき、
前記格子パターン光の前記縞模様に係る明るい部分が、前記歯科模型の表面で乱反射することを抑制し、また前記縞模様に係る暗い部分が前記歯或いは前記歯列形状による凹部に形成される影に同化することを抑制して、
前記歯科模型に対して略同一形状の前記仮想模型を再現するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る歯科模型仮想化方法によれば、患者の歯及び歯列形状を型取りして形成する灰色系の色で彩色された歯科模型の色の明度を、明度値14から明度値45の明度帯域内に収まるようにして、当該歯科模型に対して格子パターン光を照射したとき、当該格子パターン光の縞模様に係る明るい部分が、歯科模型の表面で乱反射することを抑制するようにした。
これによって、歯科模型の隅々まで格子パターン光を届かせることができ、また歯科模型のハレーションを抑えることができるので、歯冠固形空隙等の凹部を細部までスキャンして精密な歯列データを得ることができる。そのため、当該歯科模型をパターン光投影式3Dスキャナでスキャンし、適宜補正を加えて仮想化したとき、歯科模型に対して、形成される仮想模型の再現率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施例に係る歯科模型の構成の概略を示す斜視図である。
図2】第1実施例に係る歯科模型仮想化方法の構成の概略を示す説明図である。
図3】第1実施例に係る歯科模型の歯冠鼓形空隙部の特徴をモデル化した理想空隙模型の構成の概略を示す斜視図である。
図4】第1実施例に係る歯科模型の歯冠鼓形空隙部の特徴をモデル化した理想空隙模型の構成の概略を示す展開図である。
図5】第1実施例に係る歯科模型に関する理想空隙模型を配置した理想下顎模型の構成の概略を示す斜視図である。
図6】第1実施例に係る歯科模型に関する再現率測定実験において、各理想空隙模型の明度を示すグラフ図である。
図7】第1実施例に係る歯科模型に関する再現率測定実験において、仮想空隙模型の空隙部正面から角隅部までの距離の変化を示すグラフ図である。
図8】第1実施例に係る歯科模型仮想化方法において、理想空隙模型を仮想化した仮想空隙模型の構成の概略を示す斜視図である。
図9】従来の歯科模型に係る白色石膏で作製した理想空隙模型を仮想化した仮想空隙模型の構成の概略を示す斜視図である。
【実施例1】
【0013】
本発明に係る歯科模型の実施例を、添付した図面にしたがって説明する。図1は、本実施例に係る歯科模型の構成の概略を示す斜視図である。
【0014】
歯科模型10は、粉末状の石膏基本材を水で練和し、患者の歯及び歯列形状を型取りして形成した型に流し込んで形成されている。
本実施例では、石膏基本材は、商品名ニュージプストーン(サンエス社製)が使用されている。当該石膏基本材の色調は白色であって、混水比は0.24である。そして、練和する水は、黒色のポスターカラー(サクラクレバス社製)が溶かれて着色されている。当該ポスターカラーを溶かす量を調整することによって、石膏基本材を染色し、当該石膏基本材によって形成される歯科模型10の色を調整することができる。
なお、本実施例に係る歯科模型10は、石膏からなるがこれに限定されるものではなく、熱可塑性、紫外線硬化性を備えた合成樹脂、或いは焼結可能な金属粉末等、歯に類似する硬組織模型を形成可能な材料であって、色彩を調整可能な材質を使用しても良い。本実施例において石膏基本材を用いるのは、現在の歯科分野において歯科模型を形成するに際して最も利用されている材料であるからである。
【0015】
歯科模型10の色は、所定の表色系によって表現される色空間内において、特に明度が所定の帯域内に収まるように形成されている。
ここで、表色系とは、物体の色や光源の色を、色相、彩度、明度の三要素によって表すようにしたものである。表色系内の色は、数値や記号で表現することができる。そして、当該表色系内の三要素を軸として立体的に色を表現する仮想的な空間を色空間という。たとえば、表色系は、XYZ(Yxy)表色系が知られており、色空間は、L*a*b*(エルスター・エースター・ビースター)色空間が知られている。
本実施例における明度値とは、L*a*b*色空間上では、L*軸の値をいい、XYZ(Yxy)表色系では、反射値Yが明度値L*に相当すると定義されている。
一方、L*a*b*色空間上では、色相と彩度に係る色の方向を、a*軸、b*軸によって形成される平面上の所定の座標で表現している。a*軸は中心から正方向は赤に、また負方向へは緑へ変化し、b*軸は中心から正方向へは黄色に、また負方向へは青色に変化するように定義されている。これらの色の変化は、数値が大きくなるに従って色あざやかになり、中心になるに従ってくすんだ色になる。
L*a*b*色空間上で表される明度は、L*軸に沿って明度値0を示す黒から明度値100を示す白へ連続的に変化すると定義されている。当該変化を語句によって表現した場合、明度値が小さい順に、黒、極めて暗い灰色、暗い灰色、暗くくすんだ灰色、くすんだ灰色、薄くくすんだ灰色、薄い灰色、極めて薄い灰色、白と表現されることが多い。
【0016】
歯科模型10の明度は、明度値が所定の明度帯域に収まるように着色形成されており、当該明度帯域は、明度値10から明度値70の範囲が好ましい。特に明度値20から明度値50の場合、後述する3Dスキャニング処理において、良好な歯列データを得ることができる。
明度値が10以下の場合、歯科模型10の色は黒又は極めて暗い灰色となる。この場合、後述するように歯科模型10に対して格子パターン光を照射したとき、歯冠鼓形空隙部11に生じる影と格子パターン光の縞模様を成す陰線の色が同化して、当該歯冠鼓形空隙部11の奥行きを再現することが出来なくなるおそれがある。
ここで、歯冠鼓形空隙部11とは、図1に示す歯科模型10のたとえばAで囲んだ部位のように、口腔内に露出している一の歯冠部12aと隣り合う他の歯冠部12bとが接する面の前後に形成される隙間のことをいう。歯冠鼓形空隙部11は、歯冠部12aと歯冠部12bが接している部位が一番狭く、前面側又は後面側に向って広くなっており、これを上から見たとき、略鼓形状となっている。図3は、前面側の歯冠鼓形空隙部11を理想的な形状に整えた実験用の模型であって、これを理想空隙模型20と称し、後述する実験で使用した。
【0017】
一方、明度値が70以上の場合、歯科模型10の色は極めて薄い灰色又は白となる。この場合、歯科模型10に対して格子パターン光を照射したとき、歯科模型10にハレーションが生じ、特に歯冠鼓形空隙部11は、互いに隣り合う歯冠部12aと歯冠部12aの表面に発生する乱反射によってスキャン画像が白飛びして、歯間の境界があいまいになるおそれがある。
したがって、歯科模型10の色を、明度値が10から70の範囲を示す所定の明度帯域内に収まるように着色形成することによって、格子パターン光の陰線で同化することなく、またハレーションによって白飛びしないスキャン画像を得ることができ、良好な歯列データを得ることができる。
【0018】
また、本実施例において、歯科模型10は、白色の石膏基本材を黒色の色水で練和して灰色系に着色しているがこれに限定されるものでは無く、歯科模型10の表面に上記灰色系の塗料を塗布しても良い。
歯科模型10表面の塗装方法とは、たとえば、所定明度値の粉末又は液体塗料を薄く吹き付け塗装する方法、或いは当該塗料を蒸着させて塗装する方法、又は所定明度値の液体塗料を貯留した水槽に歯科模型10を浸漬させて塗装する方法等が知られている。なお、当然ながら、これらの塗装方法は、歯冠鼓形空隙部11或いは歯冠部12a表面の細かな溝を塗料で埋めてしまったり、凝固した塗料で歯冠部12a形状が変化してしまうといった悪影響が出ないように処理することが求められる。
【0019】
本実施例に係る歯科模型10によれば、石膏からなる歯科模型10を所定の明度帯域、明度値が10から70の範囲内に含まれるように、染色した石膏基本材で形成するようにした。これによって、3Dスキャニング処理を行ったとき、スキャン画像上で細部再現性の高い歯科模型10を提供することができる。
また、歯科模型10の色は暗い灰色、若しくはくすんだ灰色が好ましいがこれに限定されず、上記のL*a*b*色空間上において、本実施例に係る明度帯域内であれば、a*軸に沿った赤色又は緑色、又はb*軸に沿った黄色又は青色、又はそれら各色を混ぜた色で着色するようにしても良い。
【0020】
本実施例では、上記の構成を有する歯科模型10を、次に説明するように仮想化する。図2は、本実施例に係る歯科模型を用いた歯科模型仮想化方法の流れを説明する説明図である。
【0021】
図2に示すように、本実施例に係る歯科模型仮想化方法は、印象採得工程105と、デジタル変換工程110と、仮想化工程115を有している。
【0022】
ステップ100は、歯科模型10を仮想化する処理を開始する工程である。開始後は、ステップ105の印象採得工程へ移行する。
印象採得工程105は、患者の歯及び歯列形状を型取りして歯科模型10を形成する処理を行う工程である。型取りに使用される印象材は一般的にシリコン或いはアルジネートが用いられている。当該印象材を患者の歯に被せて歯及び歯列形状の雌型が形成される。当該雌型に、粉末状の石膏基本材を水で練和した石膏溶液を流し込んで固め、乾燥させて雌型から外すと歯科模型10が形成される。
【0023】
石膏基本材を練和する水は、黒色の顔料又は染料で着色されている。本実施例においては、顔料の一種であるポスターカラーを溶かして着色している。この着色された水で石膏基本材を練和することによって、石膏基本材は所定の色調に染色されている。溶かすポスターカラーの量は、石膏基本材を乾燥させて歯科模型10を形成したとき、暗い灰色からくすんだ灰色を呈するように調整されている。当該歯科模型10は、測色計を用いて明度(L*)を測定したとき、明度値が10から70の範囲に収まるように形成されている。
印象採得工程105で形成した歯科模型10は、次のデジタル変換工程110で使用される。
【0024】
デジタル変換工程は、歯科模型10に格子パターン光を所定の周期で繰り返して照射して、3Dスキャニング処理を行う解析工程150と、当該解析工程で得られたスキャン画像に基づいて歯科模型10に係る歯列データを形成する処理を行うデータ形成工程155とを有する。
解析工程150は、着色形成された歯科模型10を暗所に設置して、3Dスキャナ装置で全周囲スキャンして行われる。3Dスキャナ装置は、格子パターン光を当該歯科模型に対して投影し、歯科模型表面に形成された陰影を撮影するパターン光投影式3Dスキャナ装置である。
【0025】
ここで、パターン光投影式3Dスキャナ装置とは、所定の格子パターン光をスキャン対象に照射して立体形状に映し出された陰影を撮影することによって、立体形状の凹凸を明確にしたデータを形成してデジタル化する3Dスキャナ装置である。3Dスキャナ装置は、光源とレンズとの間に複数のスリットを備えたスクリーンが配置され、又は光源上に当該スクリーンが映写されている。当該スリット状スクリーンによって、光源から出射された光は、光の陰影を有する格子パターン光に形成される。
格子パターン光は、上記のスリット状スクリーンによって形成される複数の平行線又は交差線からなる所定の縞模様を有している。格子パターン光は、当該縞模様を複数組み合わせた複数の陰影パターンを有している。ここでは、スリットの隙間から出射された光線を陽線とし、スリットによって遮られた結果、投影対象に堕ちた光の当たらない線状の陰の部分を陰線とする。格子パターン光は、複数の陰影パターンを所定の周期で繰り返して投影対象に照射される光である。
【0026】
格子パターン光が、歯科模型10に照射されたとき、当該歯科模型10表面には、陽線と陰線からなる縞模様が投影される。このとき、歯科模型10の凹凸に沿って、縞模様は歪む。これによって、歯科模型10表面には、あたかも地図上の等高線のような歪を備えた線が生じる。当該格子パターン光の陰影パターンを周期的に変え、さらに所定の周期で複数回歯科模型に照射して、陰影の変化をCCD又はCMOS受光素子を有するデジタルカメラで撮影して、少なくとも一枚、好ましくは二枚以上の陰影画像が形成される。当該陰影画像上では、格子パターン光の出射位置と、デジタルカメラの受光素子との位置に基づいて三角測定を行うことができる。少なくとも一枚、好ましくは二枚以上の陰影画像について三角測定を行い、これらを重ね合わせることによって、歯科模型10の凹凸に係る立体データ151が形成され、当該立体データ151に基づくスキャン画像152が形成される。
【0027】
データ形成工程155は、解析工程150で形成した立体データ151を適宜補正して歯列データを形成し、立体データに基づくスキャン画像を、歯列データに基づく3DCAD図面に変換するモデリング処理200を行うように形成されている。
モデリング処理200は、ポリゴン処理205、表面補正処理210、3DCAD変換処理215からなる。
ポリゴン処理205は、立体データ151を適宜補正してポリゴンデータ206を形成し、立体データ151に基づくスキャン画像152を、ポリゴンデータ206に基づくポリゴン画像207に変換する処理を行うように形成されている。
ポリゴン(Polygon)とは、多辺形・多角形という意味であって、仮想空間内で立体形状を表現するとき、複数の頂点を立体形状の表面に設け、一の頂点と互いに隣り合う他の頂点を線分で結んでなる多角形状のポリゴン図形で表現する手法である。ポリゴンは上記のように多角形という意味ではあるが、実際には計算処理の容易さ、面や辺のねじれが生じないことから、曲面を複数の三角形で分割して当該曲面を表現している。このとき、ポリゴンを大きく、すなわち三角形を大きくして曲面を近似すると、角張った不自然な立体形状が仮想空間内で表現される。この不自然さを解消するため、より多くの微細なポリゴン、すなわち微細な三角形で曲面を近似することによって、滑らかで精細な立体形状を表現することができる。
ここで、スキャン画像152に係る立体データ151は、解析工程150において三角測定された歯科模型10の表面座標を示す複数の点からなる点群データであって、立体データ151に基づくスキャン画像152は、細かな点によって表される点描画である。当該点描画に、複数個の微細なポリゴン三角形が連接してなる網目状のメッシュを重ね合わせ、当該三角形の頂点と重なり合う立体データ内の座標点をピックアップすることによって、立体データ151を補正したポリゴンデータ206が形成され、当該ポリゴンデータ206に基づくポリゴン画像207が形成される。
【0028】
表面補正処理210は、ポリゴンデータ206を適宜補正してメッシュデータ211を形成し、ポリゴンデータ206に基づくポリゴン画像207を、メッシュデータ211に基づくサーフェス画像212に変換する処理を行うように形成されている。
メッシュデータ211は、ポリゴンデータ206の欠損部を穴埋め補正すると共に、当該ポリゴンデータ206によって形成される三角平面パネルを曲面に補正して形成されるデータである。これによって、角張ったポリゴン画像207は、滑らかな曲面を備えたサーフェス画像212に変換される。
【0029】
ここで、解析工程150で3Dスキャナで歯科模型10をスキャニングした場合に格子パターン光が歯科模型10へ投影されたとき、歯冠鼓形空隙部11に生じた影が、スキャン画像152上に残っていたり、又は、格子パターン光の陽線が歯冠部12a,12bの表面で乱反射することによって、受光素子上でハレーションが発生して、スキャン画像152が白飛びした場合、歯科模型152では影や白飛び部分は未測定部分として空白データ化される。立体データ151が得られずに空白データ化した箇所は、座標点の欠損部として処理される。そして、当該欠損部を含んだ立体データ151に対して、ポリゴン処理205に係るメッシュを重ねる補正を行ったとき、立体データ151の欠損部は、ポリゴンデータ206においてもまた、立体データ151に係る座標点に対応するポリゴンデータ206の頂点座標の欠損部として処理される。
そして、当該欠損部は、たとえば、ポリゴン三角形を大きく形成したり、又は欠損した頂点座標を周囲の座標から推定してポリゴン三角形を埋めたりするといった補正を行って、立体データ151の欠損部に係る欠損座標点を穴埋めするように、ポリゴンデータ206の頂点座標が決定される。
これによって、ポリゴンデータ206が補正され、さらに、平面のポリゴン三角形に曲面補正をかけたメッシュデータ211が形成される。そして、当該メッシュデータ211に基づいて、複雑で精緻な微小曲面で構成されたサーフェス画像212が形成される。
【0030】
3DCAD変換処理215は、メッシュデータ211を歯列データ216に適宜補正し、メッシュデータ211に基づくサーフェス画像212を、歯列データ216に基づく3DCAD図面217に変換する処理を行うように形成されている。
メッシュデータ211は、微細な曲面を形成するデータであるため、計算処理に大きな負担がかかってしまうおそれがある。そこで、所定の3DCAD/CAMソフトウェアによって、メッシュデータ211に含まれている網目座標点がふるいにかけられ、当該メッシュデータ211から必要な座標点のみを抽出した歯列データ216が形成される。
これによって、サーフェス画像212に含まれている微小曲面を平均化して面数を削減し、滑らかにする補正を行うことができ、歯列データ216に基づく3DCAD図面217を形成することができる。当該3DCAD図面は、当初のスキャン画像152に係る立体データ151よりもデータ量が小さい歯列データ216からなるので、計算処理の負担も小さく、次の仮想化工程115を容易に行うことができる。
【0031】
ここで、図1に示す歯科模型10は、明度(L*)を示す明度値が10から70を呈し、いわゆる暗い灰色からくすんだ灰色の範囲内の色を備えている。歯科模型10に対して3Dスキャナ装置から格子パターン光を投影したとき、歯冠部12a,12bの歯表面の僅かな凹凸、又は歯冠鼓形空隙部11には、凹凸を明瞭にする影が生じる。一方、パターン光投影式3Dスキャナは、格子パターン光の陽線と陰線からなる縞模様を明瞭に表すために、暗所に設置される。
【0032】
歯科模型10の明度値を10以下、すなわち黒色から極めて暗い灰色にすると、歯冠鼓形空隙部11、又は歯冠部12a,12bの歯表面の凹凸によって形成された影の色及び、暗所内において際立たせられた陽線の色が、歯科模型10自体の色と同化してしまうおそれがある。
これによって、パターン光投影式3Dスキャナは歯科模型10をスキャン対象として認識することが出来ず、エラーと処理される場合がある。歯科模型10全体がエラー処理された場合は、スキャン画像152を得ることができない。一方、一部エラー処理された場合、スキャン画像152上で座標点は、立体データ151上で欠損部となり、ひいてはポリゴンデータ206上で頂点座標の欠損部となる。このとき、ポリゴンデータ206をメッシュデータ211に補正する表面補正処理を行うと、当該欠損部が穴埋めされたメッシュデータ211が形成されるおそれがある。
さらに、3DCAD変換処理215によって、当該メッシュデータ211は歯列データ216に変換補正されて、サーフェス面を削減する補正が行われる。これによって、立体データ151に対して、歯列データ216は、欠損部が必要以上に埋められ、平均化されたデータとなり、再現率の低い3DCAD図面217が形成される原因となる。
さらに、明度値を10近傍にして、パターン光投影式3Dスキャナは歯科模型10をスキャン対象として認識することが出来た場合には、歯冠鼓形空隙部11等の立体データ151上で欠損部とはならず、極めて良好な歯列データ216を得ることができる。
【0033】
一方、明度値を70以上にすると、歯科模型10に対して格子パターン光を投影したとき、歯冠部12a,12bの歯表面の凹凸又は歯冠鼓形空隙部11で格子パターン光の陽線が乱反射するおそれがある。当該乱反射によって、デジタルカメラの受光素子上ではハレーションが発生し、スキャン画像152は、いわゆる白飛びした画像となる。スキャン画像152の白飛びは、つまり、立体データ151の欠損部である。立体データ151上の欠損部は、引き続いてポリゴンデータ206の欠損部となり、さらにはメッシュデータ211に補正したとき、当該欠損部の穴埋め補正によって、現物とは大きく異なるデータに補正されるおそれがある。これを3DCAD図面217に変換すると、元の立体データ151に対して、欠損部が必要以上に埋められ、平均化された歯列データ216が形成される。これは、たとえば、図9に示すように、再現率の低い3DCAD図面が形成される原因となる。
【0034】
歯科模型10を明度値10から明度値70の範囲を備えた明度帯域に収めた色で着色することによって、歯冠鼓形空隙部11又は歯冠部12a,12bの歯表面の凹凸に係る影と、歯科模型10及び周辺の環境色、格子パターン光の陰線の色との同化を防ぎ、また、格子パターン光の陽線が歯冠鼓形空隙部11又は歯冠部12a、12bの歯表面で乱反射することを抑えて、スキャン画像152のハレーションを防ぐことができる。
これによって、歯科模型10は、3Dスキャナによって正確に三角測定されて、より正確で緻密な立体データ151を得ることができる。当該立体データ151は欠損部を小さくすることができるので、当該立体データ151、ポリゴンデータ206、メッシュデータ211と度重なる補正を経て、歯列データ216を形成した場合であっても、歯冠鼓形空隙部11又は歯冠部12a,12bの歯表面の凹凸を明瞭に再現した再現率の高い3DCAD画像217を形成することができる。
【0035】
仮想化工程115は、デジタル変換工程110で得られた歯列データ216に基づく3DCAD図面217を、電子的な仮想空間内で展開して、歯及び歯列形状に係る仮想模型を再現する処理を行う工程である。
デジタル変換された歯科模型10は、3DCAD変換処理215によって、歯列データ216に基づく3DCAD図面217に変換されている。モデリング処理200によって、サーフェスモデル化された3DCAD図面217は、所定の3DCGソフトウェアによって、仮想空間内に展開される。このとき、当該3DCGソフトウェアは、仮想空間内に展開投影する3DCAD図面217の像に対して、視点の位置や、光源の数や位置、種類、物体の形状や頂点の座標、材質を考慮して陰面消去や陰影付けなどを行うレンダリング処理を行って、仮想模型を形成する。これによって、歯科模型10は、仮想空間内で仮想模型として再現される。このとき、着色された歯科模型10であっても、仮想空間内では現実的な色の歯として再現することができるので、より現実的に歯を俯瞰することができる。
【0036】
形成された仮想模型は、たとえば、矯正歯科治療で利用される。矯正歯科治療は、歯が不揃いであったり、上下顎の歯並びが悪いために互いに綺麗に噛み合わない状態である不正咬合を、上下の歯がきちんと噛み合うように、きれいな歯並びに矯正する歯科治療である。矯正歯科治療では、矯正装置を通じて、歯や顎の骨に負荷をかけてゆっくりと動かし、歯並びと噛み合わせを治療している。このとき、歯を動かす方向、距離を検討するために仮想模型を利用することができる。
仮想化工程115の処理が終了したとき、ステップ120へ移行して歯科模型10を仮想模型に変換する仮想化処理は終了する。
【0037】
本実施例に係る歯科模型仮想化方法によれば、歯科模型をスキャンして得られた立体データに、所定の補正を施して形成した歯列データは、隣り合う互いの歯と歯が一体化せず、容易に分割することができる。これによって、たとえば上記の矯正歯科治療で、歯並びの矯正具合を検討するとき、歯一本一本を細かく分割調整することができ、より一層綺麗な歯並びを仮想空間内で再現することができる。
なお、本実施例に係る歯科模型仮想化方法による歯科模型の仮想模型は、矯正歯科治療の利用に限定されるものではなく、たとえば、補綴治療或いは義歯製作又はこれらに類するより一般的な歯科治療分野にも広く応用することができる。
【0038】
以上の説明を踏まえ、本実施例に係る歯科模型を仮想化したとき、仮想空間内で展開される仮想模型の再現率を測定する実験を行った。以下、添付した図表にしたがって説明する。
【0039】
本実験は、図3に示す実験模型を用いて行う。当該実験模型は、前面側の歯冠鼓形空隙部11を理想的な形状に模した模型であって、以下、理想空隙模型20と称する。
理想空隙模型20は、図4に示すように、角柱の一部を弧状に切り欠いて形成されている。理想空隙模型20は正面視略三角形状に切り欠かれており、歯科模型10の歯冠鼓形空隙部11が略三角形状の空隙部21として再現されている。当該空隙部21の角隅部22a,22b,22cは、平面視又は右側面視したとき、角柱正面から5mmの奥行きで切り欠かれている。また、空隙部21の左右には、歯冠部12a,12bに対応する半長楕球状の理想歯冠部23,23が配設されている。
理想空隙模型20は、図5に示すように、下顎部を理想的な形状に模した理想下顎部25の所定の位置に複数個設置されている。理想下顎部25は、平面視略馬蹄形状の台座からなり、幅径65mm、長径60mmの大きさに形成されている。
図5に示すように、理想空隙模型20は、理想下顎部25の前歯部に相当する位置、左右犬歯部に相当する位置、左右大臼歯部に相当する位置に配置されている。
したがって、本実験は、理想空隙模型20の空隙部21を3Dスキャニングしたとき、如何に当該空隙部21の形状を保ち、さらに、角隅部22a,22b,22cの5mmの奥行きが再現されるかによって、理想空隙模型20を仮想化したときに得られる仮想空隙模型30の再現率を測定するものである。
【0040】
理想空隙模型20は、色調が白色の石膏基本材(SSS社製、商品名ニュージプストーン、混水比0.24)を、所定量の黒色のポスターカラー(サクラクレパス社製)を溶かした水で練和して、シリコン製の雌型に流し込んで硬化させた石膏製である。溶かしこむポスターカラーの量によって11段階の水溶液を作成し、比較対象の水と共に、後述する実験条件を設けた。
【0041】
理想空隙模型20は上記のようにポスターカラーによって着色されており、極めて暗い灰色から暗い灰色、くすんだ灰色を経て石膏基本材本来の白色まで12段階に明度が分けられている。明度の測定は、CHROMA METER CR-400(コニカミノルタ社製)を用いて、XYZ(Yxy)表色系に準拠して測定した。
図6に示した明度は、当該XYZ表色系のYxy測定値の反射率Yであって、当該反射率Yは、L*a*b*色空間における明度L*に相当する。反射率Yの測定は3回行い、当該反射率Yの平均値が表1及び図6に示した明度となっている。
【0042】
以上の実験条件を以下に示す。
実験1)水溶液A:ポスターカラー100gを1000mlの水に均一に溶かした。
実験2)水溶液B:水溶液Aを1/2に希釈した。
実験3)水溶液C:水溶液Bを1/2に希釈した。
実験4)水溶液D:水溶液Cを1/2に希釈した。
実験5)水溶液E:水溶液Dを1/2に希釈した。
実験6)水溶液F:水溶液Eを1/2に希釈した。
実験7)水溶液G:水溶液Fを1/2に希釈した。
実験8)水溶液H:水溶液Gを1/2に希釈した。
実験9)水溶液I:水溶液Hを1/2に希釈した。
実験10)水溶液J:水溶液Iを1/2に希釈した。
実験11)水溶液K:水溶液Jを1/2に希釈した。
実験12)水溶液W:無色透明な水である。
上記実験条件における、黒色ポスターカラーの水溶液濃度を、表1に示す。また、表1及び図6には、各理想空隙模型20の明度も示す。
【0043】
【表1】
【0044】
理想空隙模型20は、3Dスキャナ装置でスキャンされて立体データ151が計測され、当該立体データ151に係るスキャン画像152が形成される。本実験で、3Dスキャナ装置は、白色光の格子パターン光を出射するMAESTRO 3D Dental Scanner(AGE Solutions S.r.l.社製)を使用した。
そして、スキャンされた明度の異なる各理想空隙模型20に係る立体データ151のうち、当該理想空隙模型20の空隙部21の正面から角隅部22a,22b,22cまでの距離に係るデータをピックアップして平均化した。当該距離の平均を表2及び図7に示す。当該距離と、理想空隙模型20の空隙部21正面から角隅部22a,22b,22cまでの距離である5mmとを比較して、再現率を求めることができる。
再現率が低い場合は、理想空隙模型20を仮想化して得られる仮想空隙模型30の細部再現性が低いことを示し、また再現率が高い場合は、理想空隙模型20を仮想化して得られる仮想空隙模型30の細部再現性が高いことを示す。各実験の結果と再現率を下記の表2に示し、距離の変化を図7に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
上記の実験結果によれば、水溶液Aを用いた明度8.25の理想空隙模型20に係る実験1は再現率が93.46%であるのに対して、水溶液Bを用いた明度13.90の理想空隙模型20に係る実験2は再現率が95.34%である。
また、水溶液Hを用いた明度68.77の理想空隙模型20に係る実験8は再現率が94.22%であるのに対して、水溶液Iを用いた明度71.81の理想空隙模型20に係る実験9は再現率が93.06%である。さらに、実験10~実験12は、再現率が82.42%~70.02%と次第に悪化している。
したがって、図7に示すように、理想空隙模型20の明度は明るすぎても、また暗すぎても再現率が落ちることを確認することができる。図7に基づくと、再現率が良好なのは明度が約10~約70の範囲内であって、特に95%以上の再現率を呈した明度14~45の範囲内では、理想空隙模型20の空隙部21の角隅部22a,22b,22c先端まで明瞭に再現することができる。このうち、実験4の理想空隙模型20を仮想化したものが、図8に示す仮想空隙模型30であって、水で練和した従来の石膏模型に係る実験12の理想空隙模型20を仮想化したものが、図9に示す仮想空隙模型35である。
【0047】
図8に示した仮想空隙模型30は、空隙部21に対応する仮想空隙部31の形状が明瞭に残され、略三角形状となっている。また、理想空隙模型20の角隅部22a,22b,22cと対応する角隅部32a,32b,32cも明瞭に再現されている。さらには、理想歯冠部23,23と対応する仮想歯冠部33,33は、表面の凹凸も滑らかに再現されている。
一方、図9に示した仮想空隙模型35は、空隙部21に対応する仮想空隙部36の形状が崩れてしまっている。そして、仮想空隙部36の奥行きもなめられて平坦に補正され、歯冠鼓形空隙部形状が再現できていない。さらに、理想空隙模型20の角隅部22a,22b,22cと対応する角隅部37a,37b,37cは、その位置が明瞭でなかったり、ズレてしまっている。加えて、理想歯冠部23,23と対応する仮想歯冠部38,38は、表面に細かな凹凸が発生しており、再現率が高いとは言えない。
【0048】
本実施例に係る歯科模型及び当該歯科模型を用いた歯科模型仮想化方法によれば、歯科模型10に所定の明度帯域に収まるよう暗色系、いわゆる暗い灰色からくすんだ灰色で着色した。これによって、格子パターン光を投影するパターン投影式3Dスキャナによって、歯科模型10に係る立体形状を精密に捉えることができ、スキャン画像152に係る立体データ151のデータ欠損部を抑制することができる。これによって、歯科模型10を仮想化して仮想模型を形成したとき、歯科模型10の歯冠部12a,12bの細かな凹部、さらに歯冠鼓形空隙部11のような複雑な形状の凹部であっても細かく再現することができ、明瞭な3DCGを形成することができる。そのため、たとえば、矯正歯科のように一本一本動かすような場合に、特殊な補正を施すことなく歯を分割して移動させることができる。これによって、より精緻で綺麗な歯並びを検討し、矯正後のイメージを捉えやすくすることができる。
【符号の説明】
【0049】
10…歯科模型、11…歯冠鼓形空隙部、12a,12b…歯冠部、
20…理想空隙模型、21…空隙部、22a,22b,22c…空隙部の角隅部、23…理想歯冠部、
25…理想下顎部、
30,35…仮想空隙模型、31,36…仮想空隙部、32a,32b,32c,37a,37b,37c…仮想空隙部の角隅部、33,38…仮想歯冠部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9