(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】熱成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 51/42 20060101AFI20221117BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20221117BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B29C51/42
B29C51/12
B29C51/10
(21)【出願番号】P 2022095898
(22)【出願日】2022-06-14
【審査請求日】2022-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
(72)【発明者】
【氏名】高井 章伍
(72)【発明者】
【氏名】松谷 章吾
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-21149(JP,B1)
【文献】特開平10-193449(JP,A)
【文献】特開昭62-256631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/42
B29C 51/12
B29C 51/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を用いて樹脂シートを成形する熱成形装置において、
前記樹脂シートに
間接的に接触して加熱する熱板に、前記樹脂シートとの当接
する面
側に開口する複数設けられた小径の吸気孔を有し、前記当接
する面
側には布部材が貼り付けられ、
前記吸気孔から空気を吸引するための吸気機構及び前記吸気孔の吸引力を調整するための圧力調整機構と、を備え、
前記吸気孔から空気を吸引することで前記樹脂シートを前記熱板の前記当接
する面
側に吸着・保持すること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記樹脂シートの投入位置に、前記樹脂シートに
間接的に接触して下面より加熱する熱盤を備え、該熱盤の上面で前記投入位置には前記布部材が貼り付けられていること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の熱成形装置において、
前記熱板にて吸着された樹脂シートを、下面より加熱装置を用いて加熱すること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項4】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記熱板を昇降及び横行させる移動機構を備えること、
を特徴とする熱成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートを搬送するにあたって吸着搬送可能な機構を備える熱成形装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱成形装置を用いた樹脂シートの成形では、従来、シートの一部をクランプして搬送する方法が一般的に用いられてきた。この場合、樹脂シートの一部はクランプをする為の場所として用意され、熱成形された後に成形品をトリミングする必要がある。トリミングされた後、成形品とその残材がスクラップとして回収される。
【0003】
特許文献1には、熱成形装置及び熱成形方法に関する技術が開示されている。特許文献1の熱成形装置は、シート搬送機構、成形機構、輻射加熱機構を備えており、シートの両端をクランプ搬送機構によってクランプして長尺シートを引き出しながら搬送する構成となっている。シートは成形機構によって成形された後に、成形品取出機構にて製品とスクラップに切り分けられる。なお、所定の長さでシートをカットして取り出す方式でも類似の方法で搬送可能であると紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術を用いる場合、上述した通りシートを成形した後にトリミングを行うことでスクラップと製品を切り分ける必要がある。こうした手法は、三次元形状に成形された製品に対しては適用が困難である。そのため、シートをクランプせずに搬送するニーズがあり、これに対応する手法が模索されている。
【0006】
そこで、樹脂シートをクランプせずに搬送することのできる熱成形装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による熱成形装置は、以下のような特徴を有する。
【0008】
(1)金型を用いて樹脂シートを成形する熱成形装置において、
前記樹脂シートに間接的に接触して加熱する熱板に、前記樹脂シートとの当接する面側に開口する複数設けられた小径の吸気孔を有し、前記当接する面側には布部材が貼り付けられ、
前記吸気孔から空気を吸引するための吸気機構及び前記吸気孔の吸引力を調整するための圧力調整機構と、を備え、
前記吸気孔から空気を吸引することで前記樹脂シートを前記熱板の前記当接する面側に吸着・保持すること、
を特徴とする。
【0009】
上記(1)に記載の態様により、熱板を用いて樹脂シートの吸着及び保持を行うことが可能となる。熱板と樹脂シートは例えば不織布シートの様な布部材を介して接しており、布部材がない状態で熱板を用いて樹脂シートを必要な温度まで加熱すると、熱板の模様、例えば吸着を行う為の吸気孔の形が樹脂シートの表面に転写されてしまうが、布部材を介して接することで樹脂シートの表面に模様が転写されることを防ぎながら熱板によって樹脂シートを保持することが可能である。
【0010】
そして、カットした樹脂シートをクランプせずに保持して加熱し、金型で成形する手法を採るために、予め定形にカットした樹脂シートを成形に用いることが可能となる。また、吸気口から空気を吸引する吸気機構は圧力調整機構を備えていて、吸気口からの吸気量をコントロールすることが可能である。この圧力調整も樹脂シートの表面に吸気孔の模様が転写してしまうことを防ぐことに貢献している。このため、成形後にトリミングを必要とせず成形品を製造することが可能となる。
【0011】
(2)(1)に記載の熱成形装置において、
前記樹脂シートの投入位置に、前記樹脂シートに間接的に接触して下面より加熱する熱盤を備え、該熱盤の上面で前記投入位置には前記布部材が貼り付けられていること、
が好ましい。
【0012】
上記(2)に記載の態様により、下面より加熱する熱盤を備えているために、上面より加熱する熱板と合わせて、熱伝導にて上下から加熱することが可能である。このため、効率的に樹脂シートの昇温をすることが可能となる。
【0013】
(3)(1)又は(2)に記載の熱成形装置において、
前記上側熱板にて吸着された樹脂シートを、下面より加熱装置を用いて加熱すること、
が好ましい。
【0014】
上記(3)に記載の態様により、樹脂シートを効率的に加熱することが可能となる。これは、上側熱板及び下側熱盤だけでは樹脂シートの加熱を十分行うことができないことがあるため、別途、加熱装置を用意して樹脂シートを加熱することで、より効率的に樹脂シートの昇温をすることが可能となる。
【0015】
(4)(1)に記載の熱成形装置において、
前記熱板を昇降及び横行させる移動機構を備えること、
が好ましい。
【0016】
上記(4)に記載の態様により、熱板を用いて樹脂シートの吸着及び搬送を実現することが可能となる。また、クランプせずに樹脂シートの搬送が可能であるため、予め定型にカットした樹脂シートを成形に用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態の、成形装置の投入位置にて樹脂シートが投入される様子を示す断面図である。
【
図2】本実施形態の、投入位置で熱板が熱板によって吸着される様子を示す断面図である。
【
図3】本実施形態の、投入位置で加熱装置を用いて樹脂シートを加熱する様子を示す断面図である。
【
図4】本実施形態の、成形位置に樹脂シートを搬送した様子を示す断面図である。
【
図5】本実施形態の、成形位置で上型と下型を用いて樹脂シートを成形する様子を示す断面図である。
【
図6】本実施形態の、成形位置で上型を上昇させて成形品を脱型する様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明に係る本実施形態の熱成形装置10の概略について説明をする。
図1は、本実施形態の熱成形装置10の投入位置St1にて樹脂シートSが投入される様子を示す断面図である。
図2は、投入位置St1で熱板100aが熱板100aによって吸着される様子を示す断面図である。
図3は、投入位置St1で加熱装置150を用いて樹脂シートSを加熱する様子を示す断面図である。
【0019】
図4は、成形位置St2に樹脂シートSを搬送した様子を示す断面図である。
図5は、成形位置St2で上型120aと下型120bを用いて樹脂シートSを成形する様子を示す断面図である。
図6は、成形位置St2で上型120aを上昇させて成形品Pを脱型する様子を示す断面図である。
【0020】
熱成形装置10は、図示しない投入位置St1から樹脂シートSが投入され、成形位置St2にて金型120(上型120a、下型120b)を用いて樹脂シートSを成形して、成形品Pを製造する構成となっている。成形に用いる樹脂シートSは厚み5mm程度の透明素材(例えば、ポリカーボネート)を用いること想定しているが、これに限定されるものではない。ただし、薄手のシートよりも厚手のシートの方がよりスクラップレス成形の要望が高い傾向にある。
【0021】
投入位置St1には、熱盤100bが配置される。熱盤100bの上面には布部材N1が貼り付けられ、樹脂シートSはその上に投入される。熱盤100bは樹脂シートSを加熱する目的で所定の温度に加熱されており、投入された樹脂シートSは熱盤100bから布部材N1を介して熱が伝達される。
【0022】
布部材N1は、ネルと呼ばれる高密度に織った生地の表面を起毛して毛羽立たせた布で、型当たりを和らげる効果を有する材料である。熱板100aは、樹脂シートSと間接的に当接することで樹脂シートSを接触加熱する機能を備えており、樹脂シートSと当接する面側に開口する複数の吸気孔101を有していて、熱盤100bの上部に配置される。なお、布部材N1には成形品の傷防止に用いる不織布シートなどを用いることを妨げない。
【0023】
吸気孔101は図示しない配管が接続されて真空ポンプやブロアなどの吸気機構に接続されている。開口される吸気孔101は、等間隔に配置されても良いが、樹脂シートSの重量や特性に合わせて変化させることを妨げない。吸気機構には、吸引能力を調整するための制御機能を備え配管に接続されている。この配管に接続される真空用の圧力調整弁を用い、吸気孔101から所定の力で吸気ができるように圧力の調整を行っている。必要な吸気量は樹脂シートSの重量などを勘案して適宜設定される。
【0024】
また、熱板100aの樹脂シートSとの当接する側の下面102には、布部材N1が貼り付けられている。したがって、吸気孔101は布部材N1の下に隠れた状態となっている。また、熱板100aには昇降及び横行を可能とする図示しない移載機構が設けられている。昇降に関しては空圧シリンダやモータなどを用いた駆動機構、横行に関しては台形ネジなどを用いた駆動機構が考えられるが、必要に応じて適宜選択されるべきである。
【0025】
加熱装置150は、赤外線を用いて樹脂シートSを輻射加熱する機能を備えていて、熱板100aに樹脂シートSが保持された状態で、樹脂シートSの下面から加熱することで、樹脂シートSを所定の温度まで昇温させる。加熱装置150には図示しない駆動機構が供えられており、熱板100aが持ち上げられた状態で熱板100aの下部に移動し、加熱後には退避する。
【0026】
金型120は上型120aと下型120bよりなり、上型120aと下型120bによって樹脂シートSをプレスし、固化温度まで冷却する。
【0027】
次に、樹脂成型装置の成形手順について、
図1乃至
図6を用いて説明をする。
【0028】
樹脂シートSは、
図1に示すように投入位置St1に配置された熱盤100bの上に投入される。熱盤100bの上部より熱板100aを近接され、
図2に示すように熱盤100bと熱板100aとで樹脂シートSを挟んだ状態で、樹脂シートSの加熱を行う。そして、熱板100aの吸気孔101より吸気することで、樹脂シートSを吸着する。
【0029】
次に、
図3に示すように樹脂シートSを熱板100aで持ち上げた状態で、加熱装置150を用いて樹脂シートSの温度を所定の温度まで上昇させる。次に、
図4に示すように熱板100aによって樹脂シートSを成形位置St2に吸着搬送して、下型120bの上に移動させる。そして吸気孔101からの吸気を止めて樹脂シートSを下型120bの上に配置し、
図5に示すように上型120aを降下させて型締めする。
【0030】
そして、
図6に示すように、樹脂シートSが成形されて成形品Pとなり固化温度まで冷却された状態で、上型120aを上昇させることで型を開いて成形品Pの取り出しを行う。
【0031】
本実施形態の熱成形装置10は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0032】
まず、樹脂シートSのスクラップレス成形をすることが可能になる。これは、金型120(上型120a、下型120b)を用いて樹脂シートSを成形する熱成形装置10において、樹脂シートSに接触して加熱する熱板100aに、樹脂シートSとの当接する側の下面102に開口する複数設けられた小径の吸気孔101を有し、下面102には布部材に相当する布部材N1が貼り付けられ、吸気孔101から空気を吸引するための吸気機構及び吸気孔101の吸引力を調整するための圧力調整機構と、を備え、吸気孔101から空気を吸引することで樹脂シートSを熱板100aの下面102側に吸着して保持・搬送するからである。
【0033】
すなわち、下面102に布部材N1を設けてあることで、吸着搬送している際に樹脂シートSに吸気孔101の跡を付けずに搬送可能である。樹脂シートSは、熱板100a及び熱盤100bによって直接加熱され、更に加熱装置150によって加熱されることで軟化している状態で保持し搬送される。この際に、下面102に樹脂シートSが直接触れている場合、樹脂シートSが軟化しているために吸気孔101の跡が付いてしまう可能性があるが、布部材N1を介して吸着していることでそのようなリスクを低減することが可能である。
【0034】
また、樹脂シートSを熱板100aによって吸着搬送できることで、樹脂シートSを予め所定の大きさにカットし、成形することができるために、成形後の成形品Pのトリミングが不要となる。この結果、トリミングレス成形を行うことで、材料のロスを少なくすることが可能となり、環境に配慮した製品作りを実現できる。また、成形後の成形品Pが三次元形状に成形されている場合には、トリミングを行うことが困難になることから、トリミングレス成形を実現できることで成形品Pの加工精度を向上させかつ低コスト化を図ることが出来る。
【0035】
また、樹脂シートSの投入位置St1に、樹脂シートSに接触して下面より加熱する熱盤100bを備え、熱盤100bの上面で投入位置St1には布部材N1が貼り付けられている構成となっているため、加熱した樹脂シートSの表面を熱盤100bによって傷つくことを防止することができる。
【0036】
以上、本発明に係る熱成形装置10に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、本実施形態では、樹脂シートSに透明な素材を用いるとしているが、不透明な素材であっても適用が可能である。
【0037】
また、その厚みは5mmとしているが、これに限定されるものではない。ただし、熱板100aを用いて吸着搬送する関係で樹脂シートSの重量が増えると搬送が難しくなる。このため、熱板100aに設ける吸気孔101の数や孔径を適宜変更することが望ましい。また、本実施形態では加熱装置150を用いているが、これを用いずに熱板100aと熱盤100bとで樹脂シートSを挟み込んだ状態(
図2の状態)で加熱を完了する構成としても良い。
【0038】
また、本実施形態では、熱成形装置10における樹脂シートSの搬送は、熱板100aに昇降及び横行を可能とする移載機構が設けられているが、熱板100aは固定とし、樹脂シートSを供給する移載機能を備えた供給搬送機構を設けたり、下型120bに移載機構を設けたりすることを妨げない。
【0039】
具体的には、樹脂シートSを供給する供給搬送機構を備えて樹脂シートSを熱板100aに近接させ、駆動機構を備えていない熱板100aによって吸着・保持した状態で樹脂シートSを加熱し、駆動機構を備える下型120bを熱板100aに近接させて樹脂シートSを受け取り、その後、成形をする方式が考えられる。
【0040】
また、樹脂シートSの初期投入位置を、昇降及び横行を可能とする移載機構が設けられた下型120bの上部とし、下型120bの上にセットされた樹脂シートSを、定位置にある熱板100aに吸着・保持させ、その状態で樹脂シートSを加熱し、下型120bを熱板100aに近接させて樹脂シートSを受け取り、その後、成形をする方式が考えられる。何れの場合であっても、熱板100aにて樹脂シートSを吸着・保持して加熱するという点は同じである。このように熱板110aを固定として、昇降や横行をさせる機構を別に備えることで、熱板110aに対して行う配管のレイアウトなどの自由度が上げられるメリットがある。
【符号の説明】
【0041】
S 樹脂シート
N1 布部材
10 熱成形装置
100a 熱板
100b 熱盤
101 吸気孔
【要約】
【課題】樹脂シートをクランプせずに搬送することのできる熱成形装置を提供する。
【解決手段】金型120(上型120a、下型120b)を用いて樹脂シートSを成形する熱成形装置10において、樹脂シートSに接触して加熱する熱板100aと、熱板100aを昇降及び横行させる移動機構と、を備え、熱板100aには、樹脂シートSとの当接面102に開口する複数設けられた小径の吸気孔101を有し、当接面102には布部材N1が貼り付けられ、吸気孔101から空気を吸引することで樹脂シートSを熱板100aの当接面102に吸着して搬送するからである。
【選択図】
図1