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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20221117BHJP
   C01B 32/192 20170101ALI20221117BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20221117BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221117BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/192
C01B32/194
H01M4/88 K
H01M4/90 X
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018227592
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020090409
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】向井 紳
(72)【発明者】
【氏名】荻野 勲
(72)【発明者】
【氏名】岩村 振一郎
(72)【発明者】
【氏名】一家 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145435(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105570(WO,A1)
【文献】Yuchen XIN et al.,Preparation and electrochemical characterization of nitrogen doped graphene by microwave as supporting materials for fuel cell catalysts,Electrochimica Acta,2012年,Vol.60,p.354-358
【文献】Junghoon 1YANG et al.,Rapid and controllable synthesis of nitrogen doped reduced graphene oxide using microwave-assisted hydrothermal reaction for high power-density supercapacitors,Carbon,2014年07月,Vol.73,Page.106-113
【文献】Il To KIM et al.,Synthesis of nitrogen-doped graphene via simple microwave-hydrothermal process,Materials Letters,2013年10月01日,Vol.108,Page.33-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
C01B 32/192
C01B 32/194
H01M 4/88
H01M 4/90
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を300秒以上照射する工程を含むことを特徴とする低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、窒素ドープ酸化黒鉛、窒素ドープカーボンナノファイバー、及び、窒素ドープカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記照射工程は、アンモニア及び/又はアミンの分圧が3×10Pa以上の雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項4】
ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を300秒以上照射する工程を含むことを特徴とする含窒素炭素材料の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法に関する。より詳しくは、酸素還元触媒等の触媒や半導体等として好適に用いることができる低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法、及び、含窒素炭素材料の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の正極反応に用いられる酸素還元触媒等の触媒として、現在、高価で希少な白金が用いられている。一方、白金を代替する酸素還元触媒等の触媒として、安価で豊富な炭素材料に窒素原子を導入した窒素ドープカーボン(窒素ドープ炭素材料)が、酸素還元反応(ORR)に対する触媒活性を示すこと等から期待され、種々の研究開発が行われている。
【0003】
例えば、窒素ドープ炭素材料において、炭素との結合を3つもつグラファイト型窒素ではなく、炭素との結合を2つもつピリジン型窒素が、酸素還元反応の触媒活性点を形成するのに寄与することが報告されている(例えば、非特許文献1、2)。
また異なるドープ温度で、アンモニアとともに酸化グラフェンを水熱処理して窒素ドープグラフェンを合成したが、ピリジン型窒素とドープ温度との間の明確な関連性は示されなかったことが報告されている(例えば、非特許文献3)。
【0004】
ところで、液パルスインジェクション(LPI)法で得られるカーボンナノファイバーや、かさ高い還元型酸化グラフェン(rGO)にマイクロ波を照射すると効率的に放電が起き、これによって高結晶化や欠陥密度の低下が進行することが報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献4)。その他、還元型酸化グラフェンにマイクロ波を照射する方法が報告されている(例えば、非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-145435号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「ピリジン型窒素が炭素触媒の活性点を形成する~レアメタル白金に代わる燃料電池触媒開発への大きな発見~」、筑波大学プレスリリース、平成28年1月22日
【文献】Donghui Guo et al., Science 351, 361-365 (2016)
【文献】Jun-ho Song et al., RCS adv., 2017, 7, 20738-20741
【文献】Ogino, I. et al., J. Energy. Chem. 27 (2018) 1468-1474
【文献】D. Voiry et al., Science 10.1126/science.aah3398 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでのところ、窒素ドープ炭素材料の触媒特性は白金に及んでおらず、高価で希少な白金を代替する酸素還元触媒等の触媒等として好適に用いることができる材料が求められていた。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、酸素還元触媒等の触媒等として好適に用いることができる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、窒素ドープ炭素材料等の含窒素炭素材料に着目し、酸素還元反応の触媒活性を向上する方法について種々検討したところ、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を照射すると、ピリジン型窒素の含有量を特異的に充分に維持し、表面積の変化を充分に抑制しながら、含窒素炭素材料を充分に低欠陥化することができ、このようにして得られた低欠陥化含窒素炭素材料が酸素還元反応活性に優れ、酸素還元触媒等の触媒等として有用であることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を照射する工程を含むことを特徴とする低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法である。
本発明はまた、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を照射する工程を含むことを特徴とする含窒素炭素材料の改質方法である。
以下に本発明を詳述する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法により、ピリジン型窒素の含有量を充分に維持し、表面積の変化を充分に抑制しながら、充分に低欠陥化された低欠陥化含窒素炭素材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法の一例を示す概略図である。
図2】実施例及び比較例において、マイクロ波照射時の雰囲気中のNH濃度(分圧)と、得られた低欠陥化含窒素炭素材料のBET比表面積との関係を示すグラフである。
図3】実施例及び比較例において得られた低欠陥化含窒素炭素材料、並びに、原料の含窒素炭素材料を光電子分光(XPS)法により測定した結果を示すグラフである。
図4】実施例及び比較例において、マイクロ波照射時の雰囲気中のNH濃度(分圧)と、得られた低欠陥化含窒素炭素材料の、すべての窒素の含有量、ピリジン型窒素の含有量、及び、グラファイト型窒素の含有量との関係を示すグラフである。
図5】実施例及び比較例において得られた低欠陥化含窒素炭素材料、並びに、原料の含窒素炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図6】実施例及び比較例において得られた低欠陥化含窒素炭素材料、原料の含窒素炭素材料、並びに、炭素担持白金触媒それぞれの、回転電極による酸素還元反応活性を評価した結果を示すグラフである。
図7】実施例及び比較例において得られた低欠陥化含窒素炭素材料、並びに、原料の含窒素炭素材料を、FE-SEMを用いて撮影した写真である。
図8】実施例及び比較例において得られた低欠陥化含窒素炭素材料、並びに、原料の含窒素炭素材料の、CO-TPDカーブを示すグラフである。
図9】実施例において得られた低欠陥化含窒素炭素材料の、マイクロ波照射時間と酸素還元反応活性との関係を示すグラフである。
図10】実施例において得られた低欠陥化含窒素炭素材料の、Koutecky-Levichプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0014】
<低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法>
本発明の低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法は、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を照射する工程を含む。
なお、本明細書中、低欠陥化とは、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比(I/I)が減少することを言う。欠陥が少ない方が電子がよく流れるようになり、触媒性能等がより優れるものとなる。本発明の製造方法により含窒素炭素材料の低欠陥化が進む原理は不明であるが、プラズマが発生して高エネルギー化し、黒鉛化が進んでいる可能性がある。Gバンドのピーク、Dバンドのピークについては、後述する。
【0015】
上記アンモニアは、気体状でそのまま用いてもよいし、水溶液(アンモニア水)としたうえで雰囲気中に噴霧する等して用いてもよいが、気体状の単体としてそのまま用いることが好ましい。
上記アミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。アミン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記アミンも、気体状でそのまま用いてもよいし、水溶液として用いてもよいが、中でも、常温で気体のものが好ましく、例えば、メチルアミン、エチルアミン等の第一級アミン;ジメチルアミン等の第二級アミン;トリメチルアミン等の第三級アミン等が好ましい。
【0016】
上記照射工程は、アンモニア及び/又はアミンの分圧が3×10Pa以上の雰囲気下で行われることが好ましい。これにより、得られる低欠陥化含窒素炭素材料の酸化還元活性を顕著に優れたものとすることができる。該アンモニア及び/又はアミンの分圧は、4×10Pa以上であることがより好ましく、5×10Pa以上であることが更に好ましい。アンモニア及び/又はアミンの分圧は、その上限は特に限定されないが、通常は1×10Pa以下である。
また上記雰囲気中の全圧に対する、アンモニア及び/又はアミンの分圧の比が0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.5以上であることが更に好ましい。なお、該分圧の比は、その上限は特に限定されず、1以下であればよい。
なお、上記アンモニア及び/又はアミンの分圧は、アンモニアとアミンとを併用する場合は、アンモニアとアミンの合計の分圧である。
【0017】
上記照射工程における雰囲気は、アンモニア及び/又はアミン以外の成分としては、例えば酸素等の活性ガス、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスとすることができる。中でも、不活性ガスが好ましい。
なお、上記照射工程は、例えばマイクロ波照射装置内に石英管等の試験管を配置し、試験管に原料である含窒素炭素材料を入れて行うことができる。
【0018】
本発明の製造方法において、上記照射工程で照射されるマイクロ波は、波長が100μm~1mの範囲内の電磁波である。
上記マイクロ波の周波数は、例えば300MHz~300GHzの範囲内であることが好ましく、500MHz~50GHzの範囲内であることがより好ましく、900MHz~25GHzの範囲内であることが更に好ましい。
【0019】
上記マイクロ波の照射温度は、例えば-50℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましい。また、該照射温度は、1000℃以下であることが好ましく、500℃以下であることがより好ましい。
なお、該照射温度は、マイクロ波の照射を行う際のアンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気の温度であり、マイクロ波の照射開始時の温度が上記温度であることが好ましい。
上記マイクロ波の照射時間は、例えば10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましく、60秒以上であることが更に好ましく、酸素還元活性を向上する観点からは、180秒以上であることが一層好ましく、240秒以上であることが特に好ましい。該照射時間は、120分以下であることが好ましく、90分以下であることがより好ましく、60分以下であることが更に好ましい。
【0020】
本発明に係る含窒素炭素材料がラマンスペクトルにおいて有するGバンドのピークは、炭素原子で構成される連続した6員環構造に由来する、ラマンシフト1550~1620cm-1のピークである。
なお、Dバンドのピークは、構造の乱れと欠陥に由来する、ラマンシフト1270~1450cm-1のピークである。
【0021】
本明細書中、所定のラマンシフトの範囲のピークとは、ベースラインに対して当該ラマンシフトの範囲内にピークトップが明確に観測されるものであればよい。例えば、Gバンドであれば1550~1620cm-1の範囲内に明確なピークトップが存在するということである。なお、ピークトップは1550~1620cm-1の範囲内に無いがピークのショルダーがその範囲内にかかっているというだけでは、ラマンシフト1550~1620cm-1のピークとは言わない。
なお、本明細書中、ラマンスペクトルは、実施例に記載の方法で測定されるものである。
【0022】
本発明の製造方法において、上記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有するものであればよいが、炭素材料に窒素原子をドープして得られた窒素ドープ炭素材料であることが好ましく、例えば窒素ドープ酸化黒鉛、窒素ドープカーボンナノファイバー、及び、窒素ドープカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、窒素ドープ酸化黒鉛が更に好ましく、窒素ドープ還元型酸化黒鉛が一層好ましい。
【0023】
上記窒素ドープ酸化黒鉛は、酸化黒鉛に窒素原子をドープして得られるものであり、上述したように、酸化黒鉛に窒素原子をドープする際に酸化黒鉛が還元されて得られる窒素ドープ還元型酸化黒鉛であることが好ましい。
また上記窒素ドープ酸化黒鉛は、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、窒素量が1原子%以上であることが好ましく、1.5原子%以上であることがより好ましい。また、該窒素量が20原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であることがより好ましい。
また上記窒素ドープ酸化黒鉛は、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、酸素量が20原子%以下であることが好ましく、19原子%以下であることがより好ましく、18原子%以下であることが更に好ましく、17原子%以下であることが特に好ましい。
【0024】
上記窒素ドープ酸化黒鉛は、更に、硫黄含有基等の官能基を有していてもよいが、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、炭素、水素、酸素、及び、窒素以外の元素量が3原子%以下であることが好ましく、1原子%以下であることがより好ましく、窒素ドープ酸化黒鉛が炭素、水素、酸素、及び、窒素のみを構成元素とするものであることが更に好ましい。
上記窒素量、酸素量、炭素、水素、酸素、及び、窒素以外の元素量、全元素の総和は、実施例に記載のXPS測定により測定することができる。
【0025】
なお、酸化黒鉛は、Hummers法における酸化方法を採用した、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程を含む方法等により適宜得ることができる。
【0026】
上記窒素ドープ酸化黒鉛は、その積層数は特に限定されないが、例えば炭素原子1層のみからなるシートであるか、又は、2層~100層積層した構造を有するものが好ましい。このような積層数のものを窒素ドープ酸化グラフェンとも言う。中でも、積層数が20層以下であることがより好ましい。
【0027】
上記窒素ドープカーボンナノファイバーは、カーボンナノファイバーに窒素原子をドープして得られる構造をもつものである。カーボンナノファイバーは、炭素原子が構成する六角網目構造が直線状(ファイバー状)に連なった構造を有するものである。
窒素ドープカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブに窒素原子をドープした構造をもつものである。カーボンナノチューブは、炭素原子が構成する六角網目構造が円筒状(チューブ状)に連なった構造を有するものであり、単層カーボンナノチューブであってもよく、多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0028】
上記含窒素炭素材料は、マイクロ波を照射される際に、その他の成分との混合物であってもよいが、混合物中、含窒素炭素材料の含有割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましく、実質的に含窒素炭素材料からなるものであることが特に好ましい。
【0029】
炭素材料に窒素原子をドープすることは、炭素材料にアンモニア水を添加して水熱処理を行ったり、炭素材料をアンモニア含有ガス流通下で焼成したり、これらの方法の組み合わせ(例えば、炭素材料を水熱処理後、焼成する等)により行うことができる。窒素原子をドープする炭素材料としては、例えば酸化黒鉛が好ましい。なお、上述したように、酸化黒鉛は、窒素原子をドープする際に還元されて窒素ドープ還元型酸化黒鉛となっていてもよい。
また、窒素原子をドープする炭素材料として酸化黒鉛を用いた場合には、窒素原子をドープした後に、更に還元を進行させるために、窒素等の不活性ガス流通下で焼成しても良い。
上記水熱処理の温度は、例えば80~250℃とすることができる。該温度は、140~220℃であることが好ましい。また、上記水熱処理の時間は、例えば1~60時間とすることが好ましく、2~18時間とすることがより好ましい。
上記焼成の温度は、例えば200~1000℃とすることができる。該焼成の温度は、300~800℃であることが好ましい。また、上記焼成の時間は、例えば10分~10時間とすることが好ましく、30分~5時間とすることがより好ましい。
【0030】
なお、照射工程後は、得られた低欠陥化含窒素炭素材料の酸洗や水洗、乾燥等を適宜行うことができる。
【0031】
本発明の製造方法により得られた低欠陥化含窒素炭素材料は、BET比表面積SBETが250m/g以上であることが好ましく、300m/g以上であることがより好ましく、350m/g以上であることが更に好ましい。該BET比表面積SBETは、その上限値は特に限定されないが、通常は1000m/g以下である。
上記BET比表面積SBETは、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0032】
本発明の製造方法により得られた低欠陥化含窒素炭素材料は、水素電極(RHE)に対する電位0.5Vでの電流密度の絶対値が0.01mA/cm以上であることが好ましく、0.02mA/cm以上であることがより好ましく、0.05mA/cm以上であることが更に好ましく、0.07mA/cm以上であることが特に好ましい。該電流密度の絶対値は、その上限値は特に限定されないが、通常は1mA/cm以下である。
上記電流密度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0033】
本発明の製造方法により得られた低欠陥化含窒素炭素材料は、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比(I/I)が1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることが更に好ましい。該ピーク強度の比(I/I)の絶対値は、その下限値は特に限定されず、0であってもよい。
また本発明の製造方法により、低欠陥化含窒素炭素材料の上記ピーク強度の比(I/I)が原料の含窒素炭素材料のI/Iと比べて0.2以上減少することが好ましく、0.3以上減少することがより好ましく、0.4以上減少することが更に好ましい。I/Iの減少量は、その上限値は特に限定されないが、通常2以下である。
上記ピーク強度の比(I/I)は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0034】
本発明の製造方法により得られた低欠陥化含窒素炭素材料は、触媒回転頻度(TOF)が0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.03以上であることが更に好ましい。該TOFは、その上限値は特に限定されないが、通常は1以下である。
上記TOFは、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0035】
本発明の製造方法により得られた低欠陥化含窒素炭素材料は、ピリジン型窒素含有量を充分に維持しながら、表面積の変化を充分に抑制し、充分に低欠陥化されたものであるため、酸素還元反応活性に優れ、酸素還元触媒等の触媒、半導体等として有用である。
【0036】
<含窒素炭素材料の改質方法>
本発明はまた、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を照射する工程を含むことを特徴とする含窒素炭素材料の改質方法である。
本発明の改質方法により、含窒素炭素材料のピリジン型窒素含有量を充分に維持し、表面積の変化を充分に抑制しながら、含窒素炭素材料を充分に低欠陥化することができ、酸素還元触媒等の触媒、半導体等として好適なものとなる。
なお、本発明の改質方法における照射工程の好ましい形態は、上述した本発明の製造方法における照射工程の好ましい形態と同様である。
【実施例
【0037】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0038】
下記実施例及び比較例においては、次のようにして分析し、評価を行った。
<BET比表面積SBETの測定方法>
自動比表面積計(BELSORP-miniII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、吸着ガスとして窒素を用いてBET比表面積を測定した。各試料は、吸着測定前に窒素気流下で250℃、4時間前処理を行った。
<X線光電子分光法>
X線源Mg-Kα、パスエネルギー10eVの条件下で行った。
<低欠陥化の進行度合いの評価>
Cancado, L. G. et al., App. Phys. Lett. 88.16 (2006) 163106-163106に記載の方法に沿って、試料の低欠陥化の進行度合いをラマン分光測定により評価した。
【0039】
<酸素還元反応に対する触媒活性及び触媒回転頻度(TOF)の測定>
酸素を常温で飽和するまで溶解した0.5M HSO水溶液中で回転ディスク電極を用いてLSV(リニアスイープボルタンメトリー)測定により評価した。乾燥させた触媒2.5mgを量り取り、これに5重量%ナフィオン溶液、エタノール、蒸留水を適量加え触媒インクを調製した。触媒インクをマイクロピペットにより適量吸い取り、回転ディスク電極装置のガラス状炭素部分(直径5mm)に塗布し、乾燥させることで作用電極を作製した(電極には0.016mgの触媒が塗布された。)。電極を回転速度1700rpmで回転し、電位を1mVs-1の掃引速度で掃引して、そのときの電流を電位の関数として記録した。TOFは以下の式(1)を用いて算出した。
【0040】
【数1】
【0041】
|jORR|:0.5V vs.RHEでの電流密度[A・cm-2(電極面積)]
e:電気素量(1.602×10-19C)
BET:触媒のBET表面積[cm・g-1
atom:炭素原子密度(3.82×1015atoms・cm-2
cat:電極上の触媒密度(8.153×10-5g・cm-2(電極面積))
ρpyr:ピリジン型窒素の割合
【0042】
<二酸化炭素昇温脱離法(CO-TPD)>
以下のようにして行った。
(試料量)15-20mg
(前処理)Heガス30ml・min-1流通下で300℃まで20℃・min-1で昇温し1時間保持した。その後、反応器を室温まで冷却した。
(測定)室温でCOガス6ml・min-1を約10分流通させた後、He/Ar混合ガス(Ar:3ml・min-1、He:27ml・min-1)で約20分パージした。300℃まで15分で昇温した後、15分保持した。試料から脱離したCO(m/z=44)を四重極質量分析システム(BELMass、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。検量線はNaHCOを用いて作成した(使用したデータは500K(223℃)までである。)。
【0043】
<Koutecky-Levich(KL)プロット>
異なる回転速度(400rpm、900rpm、1700rpm、2500rpm)でLSV測定を行った(LSV測定方法は上述したLSV測定方法に同じ)。電子数の算出には次式(2)、(3)のKoutecky-Levich式を用いた。各回転速度でのi-1を回転の角速度ω-1/2(回転数fと角速度ωの関係は、ω=2πf/60)に対してプロットすると、直線が得られ、勾配(β-1)から反応電子数nを求めた。値の算出に用いたファラデー定数F、酸素の拡散係数D、0.5M硫酸溶液の動粘度ν、酸素のバルク濃度
【数2】
はそれぞれ96485Cmol-1、1.36×10-5cm-1、1.00×10-2cm-1、1.2×10-6mol・cm-3である。
【0044】
【数3】
【0045】
<FE-SEM>
電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM、JSM-6500F、JEOL Japan Inc.)
(観察)試料は試料台に貼ったカーボンテープに固定し、加速電圧15.0kV、5000倍で観察した。
【0046】
(調製例1〔酸化グラフェン(Nz5F-GO)水分散体の調製〕)
酸化グラフェン水分散体を以下の工程で合成した。反応容器にあらかじめ黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製Z-5F)1.00質量部、硫酸(和光純薬工業株式会社製)28.75質量部を入れ、30℃に調整しながら過マンガン酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)3.00質量部を入れた。投入後、35℃に昇温し2時間反応(熟成)させて生成物のスラリー(酸化黒鉛含有スラリー)を得た。次に、75.58質量部のイオン交換水が入った別の容器にイオン交換水を撹拌しながらスラリー20.00質量部を加え、30%過酸化水素水(和光純薬工業株式会社製)1.08質量部を更に加えて反応停止させた。得られた反応液(スラリー)は静置沈降により、上澄みの除去とイオン交換水による再分散を繰り返し精製した。精製後、流通型分散装置により剥離操作を行い、遠心分離処理した後に上澄みを除去することにより酸化グラフェン(Nz5F-GO)水分散体を調製した。得られた酸化グラフェン(Nz5F-GO)水分散体における酸化グラフェンの濃度は2.8質量%であった。
【0047】
(実施例1~4、比較例1)
調製例1で得た酸化グラフェン(Nz5F-GO)水分散体に25%アンモニア水溶液を添加し、180℃で12時間、水熱処理した。得られた窒素ドープ還元型酸化グラフェン1を窒素流通下、1000℃で3時間熱処理することで窒素ドープ還元型酸化グラフェン2(NrGO。以下、マイクロ波未照射試料とも言う)を得た。NrGOを石英管に入れ、NH流通下(NHの分圧:1.0×10Pa)、ArとNHの混合気体流通下(ArとNHの全圧に対するNHの分圧:0.75、0.5、0.25;NHの分圧:7.6×10Pa、5.1×10Pa、2.5×10Pa)、又は、Ar流通下で設定出力700Wのマイクロ波を2分間照射し、低欠陥化含窒素炭素材料(NrGO-(NH組成))を得た。製造例の概略図を図1に示す。
【0048】
NrGOに対しマイクロ波を2分間照射した結果、照射を止めるまでAr流通下では激しい放電が観察され、NH流通下やArとNHの混合気体流通下では赤熱が観察された。
【0049】
(BET比表面積の算出〔窒素吸脱着測定〕)
図2は、実施例及び比較例において、マイクロ波照射時の雰囲気中のNH濃度(分圧)と、得られた低欠陥化含窒素炭素材料のBET比表面積との関係を示すグラフである。なお、マイクロ波未照射のNrGOのBET比表面積SBETは、378m/gである。通常、マイクロ波を照射すると表面積が減少するところ、ArとNHの混合気体流通下でマイクロ波を照射して得られた試料や、NH流通下でマイクロ波を照射した試料では、Ar流通下でマイクロ波を照射した試料と比べて、表面積の変化が充分に抑えられている。なお、図2中、「NH concentration」は、ArとNHの混合気体の全圧に対する、NHの分圧の比を意味する。図4、下記表1においても同様である。
【0050】
(窒素ドープ状態の分析〔光電子分光法〕)
図3は、実施例及び比較例において得られた低欠陥化含窒素炭素材料、並びに、原料の含窒素炭素材料を光電子分光(XPS)法により測定した結果を示すグラフである。
図4は、実施例及び比較例において、マイクロ波照射時の雰囲気中のNH濃度(分圧)と、得られた低欠陥化含窒素炭素材料の、すべての窒素の含有量、ピリジン型窒素の含有量、及び、グラファイト型窒素の含有量との関係を示すグラフである。なお、マイクロ波未照射のrGOのすべての窒素の含有量、ピリジン型窒素の含有量、グラファイト型窒素の含有量は、それぞれ、2.49%、1.46%、1.03%である。ArとNHの混合気体流通下でマイクロ波を照射して得られた試料や、NH流通下でマイクロ波を照射した試料では、Ar流通下でマイクロ波を照射した試料と比べて、グラファイト型窒素の含有量については明確な傾向が見られないものの、ピリジン型窒素の含有量については特異的に充分に維持されることが分かった。
【0051】
(ラマンスペクトルによる低欠陥化進行度の確認)
マイクロ波未照射試料(NrGO。図5中、「未照射」と記載)、Ar流通下でマイクロ波を照射した試料(NrGO-0)、ArとNHの混合気体流通下(ArとNHの全圧に対するNHの分圧:0.25、0.5、0.75)でマイクロ波を照射して得られた試料(NrGO-0.25、NrGO-0.5、NrGO-0.75)、NH流通下でマイクロ波を照射した試料(NrGO-1,0)のラマンスペクトル、DバンドとGバンドの強度比(I/I)を図5に示す。どの試料も1340cm-1付近にグラファイト構造の乱れに起因するDバンド、1570cm-1付近に炭素原子の六角格子内振動に起因するGバンドが観察された。I/Iを算出したところ、マイクロ波未照射試料のI/I1.22に対して、Ar流通下でマイクロ波を照射して得られた試料(NrGO-0)はI/Iが0.65;ArとNHの混合気体流通下でマイクロ波を照射して得られた試料(NrGO-0.25、NrGO-0.5、NrGO-0.75)は、それぞれ、I/Iが0.74、0.55、0.74;NH流通下でマイクロ波を照射した場合(NrGO-1.0)はI/Iが0.79と減少したことから、Ar、NHどちらの雰囲気中においてもマイクロ波照射により試料の低欠陥化が進行したことが分かった。
【0052】
(回転電極による酸素還元反応活性評価)
各試料のORR測定結果を図6に示す。Ar流通下でマイクロ波を照射して得られた試料(NrGO-0)は、マイクロ波未照射試料(NrGO。図6中、「未照射」と記載)に比べて過電圧が増加したが、NH流通下やArとNHの混合気体流通下でマイクロ波照射した試料は過電圧が減少した。特に、ArとNHの全圧に対するNHの分圧が0.5以上でマイクロ波を照射して得られた試料(NrGO-1.0、NrGO-0.75、NrGO-0.5)は、過電圧が大幅に減少した。
このようにNH流通下やArとNHの混合気体流通下で含窒素炭素材料にマイクロ波照射して得られた試料は、酸素還元に必要な活性化エネルギーを充分に下げることができると考えられる。
下記表1に、図2で示したBET比表面積SBET図6で示した0.5Vでの電流密度の絶対値|jORR|、触媒回転頻度(TOF)を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
以上の結果から、NH存在下でのマイクロ波処理により窒素ドープ炭素材料のORR活性が向上したことが確認された。
【0055】
図7は、実施例1及び比較例1において得られた低欠陥化含窒素炭素材料(それぞれ、NrGO-1.0、NrGO-0)、及び、原料の含窒素炭素材料(NrGO)を、FE-SEMを用いて撮影した写真である。
このデータは、本発明の含窒素炭素材料がマイクロ波照射後も多孔質モルフォロジーを有していることを示しており、これにより電解液や反応物質が容易に拡散できることが示唆される。
【0056】
(塩基性評価〔二酸化炭素昇温脱離測定CO-TPD〕)
図8は、実施例1及び比較例1において得られた低欠陥化含窒素炭素材料(それぞれ、NrGO-1.0、NrGO-0)、並びに、原料の含窒素炭素材料(NrGO)の、CO-TPDカーブを示すグラフである。
図8の結果から、NrGO-1.0(NrGO NH100%)の方がNrGO-0(NrGO NH0%)やNrGO(マイクロ波未照射試料)よりも、より高温側でCOの脱離量が多くなっているため、NH流通下でマイクロ波を照射した試料の塩基強度がより向上することが示唆されている。
【0057】
(実施例1、5~7)
図9は、実施例1、5~7において得られた低欠陥化含窒素炭素材料の、マイクロ波照射時間と酸素還元反応活性との関係を示すグラフである。LSV測定に供された試料はそれぞれ図9に示されるようにマイクロ波照射時間が異なる(実施例1:120秒、実施例5:300秒、実施例6:900秒、実施例7:1800秒)。なお、いずれの試料もNH流通下(100%NH雰囲気下)でマイクロ波を照射されたものである。図中、secは秒を意味する。
図9の結果から、NH流通下では、照射時間を延ばすことでORR活性が向上することが分かる。
【0058】
(ORR活性評価)
図10は、実施例7において得られた低欠陥化含窒素炭素材料(NH流通下、マイクロ波を1800秒照射して得られた低欠陥化含窒素炭素材料)の、Koutecky-Levichプロットを示すグラフである。上述したように勾配(β-1)から反応電子数nを求めたところ、nは3.9であった。また、0.1VでのH選択率:X(H)は4.4%であった。
上記結果から、4電子反応が支配的であることが分かった。
【符号の説明】
【0059】
1:窒素ドープ還元型酸化グラフェン
2:窒素ドープ還元型酸化グラフェン(窒素ドープ還元型酸化グラフェン1よりも還元がより進行したもの。NrGO又はマイクロ波未照射試料とも言う。)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10