(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】積層希土類磁石の製造方法及び積層希土類磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20221117BHJP
H01F 1/053 20060101ALI20221117BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20221117BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20221117BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20221117BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20221117BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221117BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221117BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221117BHJP
C22C 19/07 20060101ALN20221117BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/053 160
B22F3/16
B22F3/00 F
B28B1/30
B29C64/165
B33Y80/00
B33Y10/00
C22C38/00 303D
C22C19/07 E
(21)【出願番号】P 2020189238
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000176833
【氏名又は名称】三菱製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515315646
【氏名又は名称】株式会社e-Gle
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】曽田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】福田 好純
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩
(72)【発明者】
【氏名】川口 正樹
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532761(JP,A)
【文献】特表2002-528375(JP,A)
【文献】特開2020-045554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0154713(US,A1)
【文献】特開2019-081918(JP,A)
【文献】特開2015-133416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
B28B 1/00- 1/54
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00-67/08
B29C 67/24-69/02
B29C 73/00-73/34
B29D 1/00-29/10
B29D 33/00
B29D 99/00
B33Y 10/00-99/00
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層希土類磁石の製造方法であって、
希土類金属を含む材料の粉末が満たされた粉末床の表面の所定の部分に第1結合剤を噴射し、前記材料の粉末の一部を前記第1結合剤で固化した前記材料の粉末が堆積した材料層を形成する工程と、
絶縁体の粉末と第2結合剤との混合物を噴射して前記粉末床の表面の少なくとも一部を覆うように前記混合物を堆積して、前記絶縁体の粉末が堆積した絶縁体層を形成する工程と
を含む、結合剤噴射法の3Dプリンターを用いた付加製造により
前記材料層と
前記絶縁体層とを交互に積層して積層体を形成する工程と、
前記積層体に磁場を印加して配向する工程と、
前記配向した積層体を焼結して焼結体を形成する工程と
を含
み、
前記積層体を形成する工程において、前記絶縁体層を形成する工程は、前記粉末床の深さ方向に延びる前記積層体において、前記材料層及び前記絶縁体層をそれぞれ前記第1結合剤及び前記第2結合剤で固化してなる側面を形成し、
前記積層体において、前記材料層を構成する材料の粉末は、外周から所定の厚さまでが前記第1結合剤で固化され、上下が前記第2結合剤で固化された前記絶縁体層で覆われた方法。
【請求項2】
前記粉末床を満たす前記材料の粉末は、前記材料の粉末が有機結合剤で結合されて所定の粒径に形成された請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の方法によって製造された積層希土類磁石であって、
希土類磁石層と、
絶縁体層と
を含み、前記希土類磁石層と前記絶縁体層とは交互に積層された積層体を形成し、前記積層体は一体の焼結体を構成する積層希土類磁石。
【請求項4】
前記希土類磁石層は、希土類金属としてセリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、テルビウム及びジスプロシウムの少なくとも一つの種類を含む請求項
3に記載の積層希土類磁石。
【請求項5】
前記希土類磁石層は、ホウ素、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウムの少なくとも一つの種類をさらに含む請求項
4に記載の積層希土類磁石。
【請求項6】
前記絶縁体層は、金属酸化物及び金属窒化物の少なくとも一つの種類を含む請求項3から5のいずれか一項に記載の積層希土類磁石。
【請求項7】
前記金属酸化物は、アルミナ及びシリカの少なくとも一つの種類を含む請求項
6に記載の積層希土類磁石。
【請求項8】
前記絶縁体層は、希土類金属を含む請求項
6又は
7に記載の積層希土類磁石。
【請求項9】
前記希土類金属は、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、テルビウム及びジスプロシウムの少なくとも一つの種類を含む請求項
8に記載の積層希土類磁石。
【請求項10】
前記希土類磁石層と前記絶縁体層との間に挟まれたジスプロシウム層をさらに含む請求項
3から
9のいずれか一項に記載の積層希土類磁石。
【請求項11】
V字、U字又は楕円体の形状に形成された請求項
3から
10のいずれか一項に記載の積層希土類磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層希土類磁石の製造方法及び積層希土類磁石に関し、詳しくは付加製造により積層して製造するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ネオジム磁石をはじめとする希土類磁石が提供されている。希土類磁石は、強い磁力を有し、IT機器、産業用モーター、自動車など様々な用途で使用されている。希土類磁石は、高周波領域で使用されるときには、渦電流の発生を抑制して磁石の特性を維持するために、磁石の薄板が絶縁体を挟んで積層された積層希土類磁石として提供されることがある。
【0003】
積層希土類磁石は、プレスした材料の粉末に磁場を印加して配向した後に焼結して希土類磁石のブロックを作製し、磁石のブロックを切断及び切削して所定の形状の薄板とし、薄板を絶縁体層となる接着剤で張り合わせて積層体を形成することにより製造されている。また、所定の形状の薄板を成型するように仕切り板で区切った型に希土類磁石の材料の粉末を満たし、磁場を印加して配向し、型を取り外した材料の粉末を仕切り板とともに焼結し、焼結時に密度を高めて形成された磁石の薄板を貼り合わせて積層希土類磁石を形成する技術も開示されている(特許文献1を参照)。型の仕切り板を絶縁体で形成し、型を外した材料の粉末を仕切り板とともに焼結することにより、磁石と絶縁体とが積層された焼結体を形成する技術も開示されている(特許文献2を参照)。
【0004】
一方、3Dプリンターを用いて材料を結合及び積層して造形する付加製造(additive manufacturing:AM)の技術が提供されている。例えば、結合剤噴射(binder jetting、バインダージェット)法の3Dプリンターは、粉末床に液状の結合剤を噴射して粉末を選択的に接合して積層することにより3次元物体を造形することができる(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-19521号公報
【文献】国際公開第2015/012412号
【文献】特表2002-528375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、積層希土類磁石を製造するためには、焼結した希土類磁石を所定の形状の薄板に切断及び切削する整形の工程を要し、これらの工程で希土類磁石の材料の一部は切粉として失われていた。また、磁石の薄板を薄くすることは難しく、積層希土類磁石を構成する希土類磁石層の薄さには限界があり、例えば2mmが限界であった。前述した薄板を成型するように仕切り板で区切った型を使用する技術、仕切り板を絶縁体で形成する技術によっても、同様に磁石の薄板を薄くすることは難しかった。
【0007】
この発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、工数を低減するとともに、材料を有効に利用し、希土類磁石層をさらに薄くすることができるような積層希土類磁石の製造方法及び積層希土類磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、この出願に係る積層希土類磁石の製造方法は、付加製造により希土類金属を含む材料の粉末を堆積した材料層と絶縁体の粉末を堆積した絶縁体層とを交互に積層して積層体を形成する工程と、積層体に磁場を印加して配向する工程と、前記配向した積層体を焼結して焼結体を形成する工程とを含むものである。
【0009】
積層体を形成する工程は、結合剤噴射法の3Dプリンターを用い、材料の粉末が満たされた粉末床の表面の所定の部分に第1結合剤を噴射し、材料の粉末の一部を第1結合剤で固化した材料の粉末層を形成する工程と、絶縁体の粉末と第2結合剤との混合物を噴射して粉末床の表面の少なくとも一部を覆うように混合物を堆積して、絶縁体層を形成する工程とを含んでもよい。
【0010】
材料層を形成する工程と、絶縁体層を形成する工程は、粉末床の深さ方向に延びる積層体において、材料層及び絶縁体層をそれぞれ第1結合剤及び第2結合剤で固化してなる側面を形成してもよい。積層体において、材料層を構成する材料の粉末は、外周から所定の厚さまでが第1結合剤で固化され、上下が第2結合剤で固化された絶縁体層で覆われてもよい。粉末床を満たす材料の粉末は、材料の粉末が有機結合剤で結合されて所定の粒径に形成されてもよい。
【0011】
この出願に係る積層希土類磁石は、前記方法によって製造され、希土類磁石層と、絶縁体層とを含み、希土類磁石層と絶縁体層とは交互に積層された積層体を形成し、積層体は一体の焼結体を構成するものである。
【0012】
希土類磁石層は、希土類金属としてセリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、テルビウム及びジスプロシウムの少なくとも一つの種類を含んでもよい。希土類磁石層は、ホウ素、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウムの少なくとも一つの種類をさらに含んでもよい。
【0013】
絶縁体層は、金属酸化物及び金属窒化物の少なくとも一つの種類を含んでもよい。金属酸化物は、アルミナ及びシリカの少なくとも一つの種類を含んでもよい。絶縁体層はさらに、希土類金属を含んでもよい。希土類金属は、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、テルビウム及びジスプロシウムの少なくとも一つの種類を含んでもよい。
【0014】
希土類磁石層と絶縁体層との間に挟まれたジスプロシウム層をさらに含んでもよい。V字、U字又は楕円体の形状に形成されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、切断及び切削の工程が不要になるため工数が低減され、これらの工程で希土類磁石の材料を切粉として失うことがないため材料を有効に利用することができる。また、積層希土類磁石の希土類磁石層の厚みをさらに薄くすることができ、例えば2mmよりも薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】積層希土類磁石の製造方法の一連の工程を示すフローチャートである。
【
図2】3Dプリンターの粉末床内に形成した積層体を示す断面図である。
【
図3】第1結合剤により固化された材料の粉末を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施の形態に係る積層希土類磁石の製造方法及び積層希土類磁石について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、希土類磁石としてNd2Fe14Bの組成を有するネオジム磁石を想定しているが、これに限らず、例えばサマリウムコバルト磁石など他の種類の希土類磁石にも適用することができる。また、本実施の形態の積層希土類磁石の製造方法は、付加製造(AM)技術の内で結合剤噴射法により3Dプリンターを使用して積層体を形成することを想定しているが、3Dプリンターを用いる付加製造技術であれば結合剤噴射に限らず、材料噴射、材料押出、シート積層などの他の方式を適用してもよい。
【0018】
図1は、本実施の形態の製造方法の一連の工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施の形態の積層希土類磁石は、ステップS1の付加製造、ステップS2の配向、ステップS3の焼結、ステップS4の仕上加工の工程によって製造される。以下、これらの製造の工程について順に説明する。
【0019】
ステップS1の付加製造の工程について、
図2から
図4を用いて説明する。
図2は、3Dプリンターの粉末床内に形成した積層体を示す断面図である。
図2においては、積層体10の構造や製造方法を説明するために形状等を簡略化して示しているが、後述するように、積層体10は完成品の積層希土類磁石と同様の形状に造形される。
図4及び
図5(a)に示す積層体10についても同様である。
【0020】
本実施の形態において、積層体10は、結合剤噴射法によって3Dプリンターの粉末床101内で造形されている。3Dプリンターにおいて、上下に可動な底板102と底板を囲む側壁103とによって形成された容器104に、希土類金属を含む材料の粉末100が収容されて粉末床101が構成されている。粉末床101を構成する材料の粉末100は、容器104の上縁まで満たされ、表面は平坦にならされている。
【0021】
底板102は、初めに容器104の上縁近くに位置し、造形する対象物が所定の高さの層を単位として粉末床101内で材料の粉末100から作製されるように、段階的に下降する。粉末床101は、底板102の下降にしたがって下降するが、その都度、材料の粉末100が容器104の上縁に達するように補充され、粉末床101の表面は平坦になるようにならされる。
【0022】
材料の粉末100は、Nd2Fe14Bの組成を有するネオジム磁石を作製するために、希土類金属のネオジムと、さらに鉄及びホウ素を含んでいる。なお、これに限らず、材料の粉末100は、サマリウムコバルト磁石など他の種類の希土類磁石を作製するために、希土類金属としてセリウム、プラセオジム、サマリウム、テルビウム及びジスプロシウムの少なくとも一つの種類を含むものであってもよいし、ホウ素、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウムの少なくとも一つの種類をさらに含むものであってもよい。材料の粉末100は、数μm、例えば2~3μmの粒径であってもよい。材料の粉末100は、流動性を確保するため、有機結合剤であるポリビニルアルコール(PVA)バインダーのような樹脂バインダーを用いて例えば50~60μmの球状粒子に造粒してもよい。
【0023】
ステップS1の付加製造は、材料の粉末100を堆積して積層体10の材料層11を形成する工程と、絶縁体の粉末を堆積して積層体10の絶縁体層12を形成する工程とを有している。材料層11を形成する工程は、粉末床101の直上に設けられた図示しないノズルから液状の第1結合剤を粉末床101の表面に向けて噴射して粉末床101に浸透させ、所定の断面形状の輪郭を有する側面10aを形成するように、粉末床101を構成する材料の粉末100を外周から所定の厚さまで結合して固化して材料層を形成する。
【0024】
本明細書中で、固化とは、所望の対象物を造形するために、粉末を結合剤で互いに結合して固定し、固体状に形成することをいうものとする。材料層11の厚さt1は、1~2mmであってもよい。材料層11において材料の粉末100を固化する外周からの厚さt3は、例えば0.5mmであってもよい。
【0025】
第1結合剤に用いる樹脂は、ノズルから射出させるため粘性が低く、粉末床101を形成する材料の粉末100に素早く浸透するものである。また、第1結合剤を噴射した材料の粉末100が素早く固化して積層体10の材料層11を形成できるように、接着強度が高く、かつ自身の強度として剛性が高いものである。
【0026】
図3は、材料層11において第1結合剤によって固化された部分を示す拡大断面図である。材料層11を構成する材料の粉末100内には、第1結合剤が浸透して固化された所定の粒径の粒体110が密に形成され、材料の粉末100が固化されていることが見られる。
【0027】
再び
図2を参照すると、絶縁体層12を形成する工程は、粉末床101の直上に設けられた図示しないノズルから絶縁体の粉末と第2結合剤との液状の混合物を粉末床の表面に向けて噴射して粉末床101の表面に堆積させ、粉末床101の表面に所定の厚さで絶縁体の粉末と第2結合剤との混合物で形成された絶縁体層12を形成する。絶縁体層12の厚さt2は、20~40μmであってもよい。絶縁体層12は、材料層11とともに積層体10の共通した所定の断面形状の輪郭を有する側面10aを形成するように、材料層11の外周に連続するように外周を形成する。
【0028】
第2結合剤に用いる樹脂は、絶縁体の粉末との混合物をノズルから射出させることができ、粉末床101を形成する材料の粉末100に混合物が浸透することなく堆積することができるような粘度を有している。また、絶縁体の粉末との混合物が素早く固化して積層体10の絶縁体層12を形成するように、接着強度が高く、かつ自身の強度として剛性が高いものである。
【0029】
絶縁体の粉末は、金属酸化物、金属窒化物などであってもよい。金属酸化物は、シリカ、アルミナなどであってもよい。絶縁体の粉末は、マイカのような薄片構造であってもよい。また、絶縁体の粉末は、焼結時に磁石表面に浸潤させることで磁石の特性を向上させるように、希土類金属を含んでもよい。希土類金属は、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、テルビウム及びジスプロシウムの少なくとも一つの種類であってもよい。絶縁体の粉末は、数μmの粒径であってもよく、例えば2~3μの粒径であってもよい。
【0030】
積層体10を形成する工程は3Dプリンターの粉末床101において、材料の粉末100を堆積して材料層11を形成する工程と、絶縁体の材料を堆積して絶縁体層12を形成する工程とを交互に繰り返し、それぞれ所定の厚さを有する材料層11と絶縁体層12とを積層して積層体10を形成する。この工程において、積層体10が積層する方向に延びる共通の側面10aが形成される。側面10aの径Dは、方位によって異なってもよく、例えば6.3~51.5mmであってもよい。
【0031】
また、積層体10の下端及び上端は絶縁体層12によって形成される。材料層11の上下は、それぞれ絶縁体層12によって覆われる。また、材料層11において、積層体10の側面10aから所定の厚さは、第1結合剤によって固化されている。したがって、材料層11内にある固化されていない材料の粉末100は、固化された絶縁体層12及び側面10aによって囲まれ、材料層11内に閉じ込められている。
【0032】
図4は、積層体10を示す外観図である。
図4では、積層体10の構造が見やすいように、積層体を構成する材料層11と絶縁体層12との内で、絶縁体層12を透明にして示した。
図5(a)においても同様である。
図4の積層体10は、
図2に示した3Dプリンターの粉末床101から造形した積層体10を取り出して横倒ししたものである。
【0033】
積層体10は、材料の粉末100で形成された材料層11と絶縁体層12の粉末で形成された絶縁体層12とが、交互に積層されて構成されている。また、積層体10には、材料層11と絶縁体層12に共通の側面10aが形成されている。側面10aは、所定の断面形状の輪郭に基づいて形成されている。積層体10を粉末床101から取り出すと、粉末床101を構成する材料の粉末100を収容していた容器104には積層体10の造形に使用されなかった材料の粉末100が残されるが、残された材料の粉末100は回収して再使用することができる。
【0034】
次に、
図1に示したステップS2の配向、ステップS3の焼結、ステップS4の焼結の工程について説明する。
図5は、配向及び焼結の工程を示す図である。前述したように、
図5(a)の積層体10は、積層体10の構造及び製造工程を説明するために形状等を簡略化している。実際の積層体10は、完成品の積層希土類磁石と同様の形状に造形される。
【0035】
図5(a)に示すように、積層体10を図示しない電磁石の対向する磁極の間に設置し、積層体10にパルス磁場又は静磁場を印加して積層体10の材料層11を配向させる。材料層11において、側面10aから所定の厚さの部分は第1結合剤により固化されているが、固化された部分に囲まれた範囲には、固定されていない材料の粉末100が収容され、この材料の粉末100は印加された外部磁場Hに従って配向される。
【0036】
図5(b)に示すように、配向された積層体10は、電気炉105に格納され、ヒーター106によって加熱されて焼結体20とされる。焼結する温度は、約1000℃であってもよい。積層体10における材料層11の材料の粉末100を固化した第1結合剤と、絶縁体層12において絶縁体の粉末とともに混合体となり堆積された第2結合剤とは、いずれも焼結前に分解して昇華される。
【0037】
図5(c)に示す焼結体20は、完成品の積層希土類磁石となる。焼結体20の希土類磁石層21及び絶縁体層22は、それぞれ積層体10の材料層11及び絶縁体層12が焼結されたものである。焼結体20は、焼結前の積層体10が焼結により密度が向上したため積層体10よりもサイズが多少縮小しているが、積層体10とほぼ同様の形状を有している。図中には、磁化Mの方向も示されている。
【0038】
焼結体20は、完成品の積層希土類磁石の形状を有しているため、切断又は切削など整形の工程を必要としない。焼結体20のサイズは、図中の高さhが6.3mm、幅wが51.5m、長さlが42mmであってもよい。これら高さh又は幅wは、
図2及び
図4に示した積層体10の径Dに相当してもよい。さらに、ステップS4の仕上加工として、必要であれば各面に仕上げの加工を施してもよい。
【0039】
このように本実施の形態の製造方法によって作製された積層希土類磁石は、希土類磁石層21と絶縁体層22とが交互に積層された積層体を形成し、この積層体が一体として焼結体を構成している。希土類磁石層21は、Nd2Fe14Bの組成を有するネオジム磁石で構成されるが、SmCo5又はSm2(Co,Fe,Cu,Zr)17のようなサマリウム磁石、あるいはセリウム、プラセオジム、テルビウム又はジスプロシウムを含む磁石で構成されてもよい。本実施の形態の積層希土類磁石において、希土類磁石層21の厚みを1~2mmのように薄くできるので、高周波領域においても渦電流の発生を抑制して良好な特性を確保することができる。
【0040】
上述のように、本実施の形態では、付加製造(AM)技術によって材料層11と絶縁体層12とを交互に積層した積層体10を作製した。本実施の形態では、結合剤噴射法による3Dプリンターにより完成品の積層希土類磁石と同様の形状の積層体10を作成することができる。このため、積層体10を焼結することにより直ちに完成品の積層希土類磁石の焼結体が得られる。仕上げ加工は、必要な場合に行えばよい。
【0041】
本実施の形態では、積層体10の焼結により完成品の積層希土類磁石が得られるため、積層希土類磁石を形成するために磁石のブロックが所望の形状になるように切断及び切削のような整形をしたり貼り合わせしたりする必要がない。したがって、切断や切削のような整形工程や貼り合わせの工程が必要なくなり、工数が低減される。また、整形工程が必要ないため、整形工程で発生していた切粉が発生することがなく、希土類磁石の材料を有効に利用することができる。
【0042】
本実施の形態では、結合剤噴射法による3Dプリンターを用い、積層体10の材料層11及び絶縁体層12は、それぞれ結合剤を噴射して固化することにより堆積させて作成している。このため、材料層11及び絶縁体層12の厚さは、いずれも薄くすることができる。例えば、材料層11の厚さを1~2mm、絶縁体層12の厚さを20~40μmにすることができる。このように作製された積層体10を焼結して得られた積層希土類磁石の焼結体20においても、材料層11に対応する希土類磁石層21、絶縁体層12に対応する絶縁体層22のいずれも同様の厚さが得られる。このため、高周波領域においても、渦電流の発生を抑制して積層希土類磁石の性能を確保することができる。
【0043】
本実施の形態では、結合剤噴射法の3Dプリンターの粉末床101において、積層体10の作製に使用されなかった材料の粉末100は、容器104から回収されて再利用することができる。このため、希土類磁石の材料を有効に利用することができる。
【0044】
なお、本実施の形態の積層希土類磁石においては、希土類磁石層21と絶縁体層12とが直接に積層されていたが、これらの間にジスプロシウム層を挟んで積層してもよい。この場合には、材料層11と絶縁体層12との間にジスプロシウム層を挟むように堆積させた積層体10を焼結することにより積層希土類磁石を作製することができる。このようにジスプロシウム層を挟むことにより、積層希土類磁石の耐熱性を向上させることができる。
【0045】
また、本実施の形態の積層希土類磁石は、電動機における界磁の永久磁石として使用するときに磁場効率を向上させるために、付加製造により特定の形状に形成することができる。例えば、U字、V字、楕円体の形状に形成してもよい。
【0046】
以下では、本実施の形態と比較するため、本実施の形態とは異なる積層希土類磁石の製造方法を比較例として示す。
【0047】
〔比較例1〕
図6から
図8は、比較例1の積層希土類磁石の製造方法の工程を示す図である。比較例1においては、
図6(a)に示すように、希土類磁石の材料の粉末31を成型するプレスのダイ41及びパンチ42は、コイル45が巻回された対向する電磁石の磁極43の間に設置されている。材料の粉末31は、ダイ41及びパンチ42によって成形されると同時に、磁極43から印加された磁場Hによって配向される。
【0048】
図6(b)に示すように、成形及び配向された材料の粉末は、電気炉47でヒーター48により加熱されて焼結され、ブロック磁石32とされる。
図6(c)に示すように、ブロック磁石32はブレード49で切断されて小型ブロック磁石34とされる。図中には、磁化Mの方向が示されている。以下でも同様である。
図7(a)に示すような小型ブロック磁石34は、
図7(b)及び
図7(c)に示すように、それぞれが切削加工されてモーターを用途とするモーター磁石35の形状にされる。
【0049】
図8(a)に示すモーター磁石35は、厚さ2mmの薄板磁石37に切断加工され、さらに21枚の薄板磁石37が接着剤で貼り合わせられる。薄板磁石37の厚さ2mmは、薄板磁石37を薄くする限界である。これによって、薄板磁石37と固化した接着剤による絶縁体層38とが積層してなる完成品の積層希土類磁石39が得られる。積層希土類磁石39のサイズは、図中の高さhが6.3mm、幅wが51.5mm、長さlが42mmでもよい。
【0050】
〔比較例2〕
図9から
図11は、比較例2の積層希土類磁石の製造方法の工程を示す図である。比較例2は、特許文献1に開示された製造方法に相当する。
【0051】
図9(a)に示すように、型61のキャビティ62に所定間隔で仕切り板63を嵌め込む。仕切り板63は、高熱に耐えられるようにセラミックスなどで形成されていてもよい。キャビティ62は、完成品のモーター磁石と同様の形状に形成されている。
図9(b)に示すように、仕切り板63を嵌め込んだ型61のキャビティ62に希土類磁石の材料の粉末51を充填する。
図9(c)に示すように、キャビティ62に充填した材料の粉末51に型61の上蓋を嵌め、電磁石64に発生させた磁場Hを材料の粉末51に印加して配向する。
【0052】
図10(a)に示すように、配向した材料の粉末51を囲む型61を取り外し、
図10(b)に示すように、材料の粉末51と仕切り板63とから構成された積層体52を取り出す。取り外した型61は、再利用される。
図10(c)に示すように、電気炉65でヒーター66により積層体52を焼結する。
【0053】
積層体52を構成する材料の粉末51の薄板は、焼結により密度が向上し、サイズが縮小した焼結体による薄板磁石53になる。薄板磁石53は、厚さが2mmであってもよい。厚さ2mmは、薄板磁石53を薄くする限界である。焼結した積層体52から、仕切り板63を取り外し、薄板磁石53を得る。取り外した仕切り板63は、再利用される。
【0054】
図11(a)に示す薄板磁石53を接着剤で貼り合わせると、
図11(b)に示すように、薄板磁石53と固化した接着剤による絶縁体層55が積層した完成品の積層希土類磁石56が得られる。積層希土類磁石56のサイズは、図中の高さhが6.3mm、幅wが51.5mm、長さlが42mmであってもよい。
【0055】
比較例2と比較例1とを対比すると、材料の粉末51を積層体52に形成して焼結時に密度を向上させているため、プレスの工程を必要としない。また、材料の粉末51を型61に充填するときに完成品のモーター磁石の形状に形成しているため、磁石のブロックをモーター磁石の形状に切断及び切削などにより整形する工程を必要としない。
【0056】
〔比較例3〕
図12及び
図13は、比較例3の積層希土類磁石の製造方法の工程を示す図である。比較例3は、特許文献2に開示された製造方法に相当する。
【0057】
図12(a)に示すように、型81のキャビティ82に所定間隔で絶縁体の仕切り板83を嵌め込む。仕切り板83は、完成品の積層希土類磁石において絶縁体層を構成するものである。キャビティ82は、完成品のモーター磁石と同様の形状に形成されている。
図12(b)に示すように、仕切り板83を嵌め込んだ型81のキャビティ82に希土類磁石の材料の粉末71を充填する。
図12(c)に示すように、キャビティ82に充填した材料の粉末71に型81の上蓋を嵌め、電磁石84に発生させた磁場Hを材料の粉末71に印加して配向する。
【0058】
図13(a)に示すように、配向した材料の粉末71を囲む型81を取り外し、
図13(b)に示すように、材料の粉末71と仕切り板83とが積層して構成された積層体72を取り出す。取り外した型81は、再利用する。そして、
図13(c)に示すように、電気炉85でヒーター86により積層体72を焼結して焼結体73とする。
【0059】
焼結体73において、積層体72における材料の粉末71の薄板及び仕切り板83は、焼結によりそれぞれ希土類磁石層74及び絶縁体層75となる。希土類磁石層74は、厚さが2mmであってもよい。厚さ2mmは、希土類磁石層74を薄くする限界である。この焼結体73は、希土類磁石層74と絶縁体層75が積層されてなり、完成品の積層希土類磁石76となる。積層希土類磁石76のサイズは、図中の高さhが6.3mm、幅wが51.5mm、長さlが42mmであってもよい。
【0060】
比較例3と比較例1とを対比すると、材料の粉末71を積層体72に形成して焼結時に密度を向上させているため、プレスの工程を必要としない。また、材料の粉末71を型81に充填するときに完成品のモーター磁石の形状に形成しているため、磁石ブロックをモーター磁石の形状に整形するための切断及び切削などの工程を必要としない。さらに、仕切り板83を焼結により積層希土類磁石76の絶縁体層75に形成しているため、薄板磁石を接着する工程を必要としない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
この発明は、IT機器、産業用モーター、自動車などの用途に使用する積層希土類磁石の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 積層体
11 材料層
12 絶縁体層
20 焼結体
21 希土類磁石層
22 絶縁体層
100 材料の粉末
101 粉末床
102 底板
103 側壁
104 容器