(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】波形データのデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/00 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
G01B21/00 R
(21)【出願番号】P 2021062936
(22)【出願日】2021-04-01
(62)【分割の表示】P 2016202862の分割
【原出願日】2016-10-14
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】500519987
【氏名又は名称】株式会社ジェイアール総研情報システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
(72)【発明者】
【氏名】森 忠夫
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-051674(JP,A)
【文献】特開2008-148466(JP,A)
【文献】特開2016-002105(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110021(WO,A1)
【文献】特開2015-210788(JP,A)
【文献】特開2015-169452(JP,A)
【文献】電子情報通信学会「知識ベース」,1群 5編 4章,日本,一般社団法人 電子情報通信学会,2011年03月04日,[令和4年4月13日検索]、インターネット <URL:https://www.ieice-hbkb.org/files/ad_base/view_pdf.html?p=/files/01/01gun_05hen_04m.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軌道検測区間を測定して得られた少なくとも高低変位・左、高低変位・右、通り変位・左、通り変位・右、軌間変位、水準変位、平面性変位の軌道検測データ及び列車動揺の加速度データ並びにレール凹凸データを含む鉄道に関連する波形データにおける取得時期又は取得時間の異なる少なくとも2つの波形データのデータ処理方法であって、
前記少なくとも2つの波形データのうち一方の基準データと、他方の修正対象データ間の位置補正を行う位置補正工程と、
一定長さの区間ごとに前記基準データ及び前記修正対象データの相互相関係数が最大となる位置ずれ量を算定し、当該位置ずれ量をもとに前記修正対象データのデータ個数が前記基準データのデータ個数と同一となるようにリサンプリングを行う詳細位置補正工程を備え、
前記相互相関係数は、両波形データ間の相互相関関数を算出する前記区間の前記基準データと前記修正対象データの標準偏差の積で除し、正規化した値(-1,1)の範囲を取り得る値であ
り、
前記詳細位置補正工程は、位置ずれ量の判定において前記相互相関係数の探索を所定の区間ごとに総当たりで最大となる位相を探索することを特徴とするデータ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ処理方法において、
前記相互相関関数は、以下の数式から算出されることを特徴とするデータ処理方法。
【数1】
【請求項3】
請求項1に記載のデータ処理方法において、
前記相互相関関数は、以下の数式から算出されることを特徴とするデータ処理方法。
【数2】
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデータ処理方法において、
前記位置補正工程は、予め地上に敷設されたデータデポやATS地上子による地点検知信号の補助信号又は測定データに含まれる平面曲線に起因する定常トレンド成分を用いた位置補正を行う予備位置補正工程を含むことを特徴とするデータ処理方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のデータ処理方法において、
前記詳細位置補正工程は、前記修正対象データの複数の検測項目の任意の一項目について位置補正を行い、同時に取得された他の項目について当該位置補正された情報を適用されることで、位置補正情報の同期を行うことを特徴とするデータ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形データの急進箇所抽出処理方法及び急進箇所抽出処理システムに関し、軌道検測データ等の波形データ間の微小な位置ずれを自動的に補正してこの位置ずれを解消することが可能な位置補正手段を有し、この位置補正された軌道検測データ等の波形データを用いて、過去に取得された波形データと比較して軌道変位が急進した箇所を自動で抽出することができる急進箇所抽出処理方法及び急進箇所抽出処理システムに関し、特に、営業車両に搭載可能な軌道検測装置によって一日に数回程度の高頻度で取得された軌道検測データ等の急進箇所抽出処理方法及び急進箇所抽出処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道の軌道の保守管理を目的として、定期的に専用の軌道検測車両等を用いて軌道検測データ等の波形データを取得し、当該波形データに含まれる著大値を検出して、軌道に鉄道車両の走行安全を脅かすような不整や鉄道車両の乗り心地を低下させるような不整が生じていないかの確認を行い、その著大値と管理値の照査によって、軌道整備の実施を検討している。また、在来線の場合は年に数回程度の頻度で新幹線の場合は月に数回程度の頻度で軌道検測を行って波形データの取得が行われていたところ、近年では営業車両に搭載可能な軌道検測装置によって一日に数回程度の高頻度で軌道検測を行って波形データの取得を行うことが可能となってきている。
【0003】
このような軌道検測データ等の波形データから軌道変位等の急進箇所を抽出する手段としては、波形データのロット標準偏差の増減から判定する方法が一般的に採用されている。これは、専用の軌道検測車や軌道検測装置を取り付けた営業車両の車輪に滑走や空転が生じると、取得時期又は取得時間の異なる複数の波形の間に微小な位置ずれが生じ、波形レベルでの差分を求めても有意なデータとはならないためである。
【0004】
また、これらの微小な位置ずれの対策として、地上に予め敷設されたデータデポ(RFIDの一種)やATS地上子等の地点検知信号を用いて地上の絶対位置との対応付けを行うことで通常の軌道整備を検討するにあたっては、位置照合誤差の問題が少なくなるように処理を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したように特許文献1による測定位置照合方法によると、地上に予め敷設されたデータデポ(RFIDの一種)やATS地上子等の地上の絶対位置の対応付けをするための地点検知信号を送信する地上子間等の敷設距離が長い区間では、車輪の滑走や空転によって距離計測に誤差が生じる可能性がある。また、上述した測定位置照合方法によって位置補正を行った場合、地点検知信号の検出区間ごとに軌道検測データのサンプリング間隔を微小に変化させて概略的に位置波形補正を行っており、大局的には複数の軌道検測データの位置があっているように見えるが、軌道検測データ間での差分から波形レベルでの軌道変位進みを算定し、軌道変位急進箇所を判定するには、この微小なサンプリング間隔の差が影響して適切な処理を行うことができないという問題があった。
【0007】
また、複数の軌道検測データ間の位置補正が行われ、波形レベルでの軌道変位進み算定
が可能となった場合であっても、軌道変位進みの他、軌道整備箇所や軌道検測装置の光飛びなどの異常値が生じた場合についても同様に波形が変化したと判定されることから、これらの軌道変位進みではない箇所を除外することで高精度に軌道変位急進箇所の判定を行いたいという要望もあった。
【0008】
さらに、上述したように近年では高頻度な軌道検測データの取得が可能となってきたために、取得される波形データが膨大となってきているため、取得された軌道検測データの全てを確認することが非常に負担となっており、軌道整備の正確性を担保する観点からもこれらの軌道検測データを自動処理することが望まれていた。
【0009】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、軌道検測データ間の位置ずれを自動で補正し、波形レベルでの軌道変位進み算定を可能とすると共に、軌道変位進みの箇所のみを抽出することができる波形データの急進箇所抽出処理方法及び急進箇所抽出処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るデータ処理方法は、所定の軌道検測区間を測定して得られた少なくとも高低変位・左、高低変位・右、通り変位・左、通り変位・右、軌間変位、水準変位、平面性変位の軌道検測データ及び列車動揺の加速度データ並びにレール凹凸データを含む鉄道に関連する波形データにおける取得時期又は取得時間の異なる少なくとも2つの波形データのデータ処理方法であって、前記少なくとも2つの波形データのうち一方の基準データと、他方の修正対象データ間の位置補正を行う位置補正工程と、一定長さの区間ごとに前記基準データ及び前記修正対象データの相互相関係数が最大となる位置ずれ量を算定し、当該位置ずれ量をもとに前記修正対象データのデータ個数が前記基準データのデータ個数と同一となるようにリサンプリングを行う詳細位置補正工程を備え、前記相互相関係数は、両波形データ間の相互相関関数を算出する前記区間の前記基準データと前記修正対象データの標準偏差の積で除し、正規化した値(-1,1)の範囲を取り得る値であり、前記詳細位置補正工程は、位置ずれ量の判定において前記相互相関係数の探索を所定の区間ごとに総当たりで最大となる位相を探索することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るデータ処理方法において、前記相互相関関数は、以下の数式から算出されると好適である。
【数1】
【0012】
また、本発明に係るデータ処理方法において、前記相互相関関数は、以下の数式から算出されると好適である。
【数2】
【0013】
また、本発明に係るデータ処理方法において、前記位置補正工程は、予め地上に敷設されたデータデポやATS地上子による地点検知信号の補助信号又は測定データに含まれる平面曲線に起因する定常トレンド成分を用いた位置補正を行う予備位置補正工程を含むと好適である。
【0014】
本発明に係るデータ処理方法において、前記詳細位置補正工程は、前記修正対象データの複数の検測項目の任意の一項目について位置補正を行い、同時に取得された他の項目について当該位置補正された情報を適用されることで、位置補正情報の同期を行うと好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る急進箇所抽出処理方法及び急進箇所抽出処理システムは、取得時期又は取得時間の異なる少なくとも2つの波形データ間の位置補正を行うので、波形データレベルでの差分演算を行うことができると共に、差分演算によって得られた差分データから抽出された特徴変化箇所について、波形データの標準偏差等から急進か異常かの判別を行うため、これらのデータの自動処理を容易に行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る急進箇所抽出処理方法及び急進箇所抽出処理システムは、検測データ間の位置補正及びそのデータを用いた軌道変位の急進箇所の抽出を全て自動で行うことができるので、急激な軌道変位進み、又は軌道変位進みに伴う列車動揺およびこれに伴う輸送弊害の発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る急進箇所抽出処理システムの概要図。
【
図2】本実施形態に係る急進箇所抽出処理方法のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本実施形態に係る急進箇所抽出処理システムの概要図であり、
図2は、本実施形態に係る急進箇所抽出処理方法のフロー図であり、
図3は、波形データの検測項目の概要図であり、
図4は、位置補正工程の概要を説明するための図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る急進箇所抽出処理システム1は、営業車両又は専用の軌道検測車両に設置された軌道検測装置2によって取得された軌道検測データを処理する処理装置3と、処理装置3の処理結果を出力する出力装置4とを備えている。
【0021】
軌道検測装置2は、営業車両又は専用の軌道検測車両に取り付けて軌道上を走行させる
ことで、軌道の形状を連続的に検測することができる装置であり、具体的には軌道の高低変位・左、高低変位・右、通り変位・左、通り変位・右、軌間変位、水準変位、平面性変位及びその他の測定項目を測定することができる。なお、軌道検測装置2の詳細は、従来周知の軌道検測装置2を用いることができるので、詳細な説明は省略するが、複数の変位センサを備え、正矢法や偏心矢法等に代表される差分法、あるいは慣性正矢法又は慣性矢法等を用いて検測すると好適である。また、軌道検測装置2は、手押し式の簡易な軌道検測装置を用いることも可能であると共に、前記測定項目以外にもレール凹凸や列車動揺といった項目を連続的に測定できる装置についても含まれる。
【0022】
処理装置3は、処理プログラム(急進箇所抽出処理方法)を実行するCPU(Central Processing Unit)と、処理プログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、CPUの処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを備えている。
【0023】
出力装置4は、例えば、液晶表示装置、有機EL(Electoro-Luminescence)表示装置のような画像表示装置、又は、インクジェットプリント方式又はレーザプリント方式の印刷装置を備えると好適である。
【0024】
次に、本実施形態に係る急進箇所抽出処理システム1の動作について説明を行う。
図2に示すように、軌道検測装置2で検測された波形データを処理装置3に入力する(S101)。波形データは、
図3に示すように、高低変位・左、高低変位・右、通り変位・左、通り変位・右、軌間変位、水準変位、平面性変位のデータを少なくとも含む。また、これらの波形データを出力するための変位センサの中間データや、同時に取得された列車動揺の加速度データなど、鉄道に関連する波形データを含んでも良い。
【0025】
処理装置3に入力された波形データは、位置補正工程(S102)によって取得時期又は取得時間の異なる少なくとも2つの軌道検測データ間の位置補正を行う。位置補正工程(S102)は、予備位置補正工程(S103)と詳細位置補正工程(S104)とを備えている。
【0026】
予備位置補正工程(S103)は、従来の手法と同様に、地上に予め敷設された地上子等の地点検知信号を基準として互いに位置補正を行う。具体的には、波形データと同時に取得された地上子等の地点検知信号を用いて、地上の絶対位置との照合を行うことによって予備的な位置補正を行う。なお、何らかの事情により、地上子等の地点検知信号を取得できていない場合には、取得された波形データに含まれる水準変位や通り変位などの平面曲線に起因する定常トレンド成分が含まれている検測データを用いて位置照合を行うことにより予備の位置補正を代替することも可能である。その際、平面曲線に起因する定常トレンド成分をトリガーとして従来手法による予備の位置補正を行っても構わないし、パターンマッチング手法を用いても構わない。
【0027】
詳細位置補正工程(S104)は、波形データについて予め設定した取得時期又は取得時間の古い波形データである基準データをもとに取得時期又は取得時間の新しい波形データである修正対象データと基準データの両データ間の任意のロットにおけるパターンマッチングを行うことで波形データの位置ずれを修正している。パターンマッチングには、相互相関法を用いると好適である。具体的には、
図4(a)に示すように、例えば,25cm間隔で1km間の軌道検測を行えば、この一定区間内に含まれる波形データの本来のデータ個数は1000m/0.25m=4000個となる。
【0028】
ここで、
図4(b)に示すように、ある時期又は時間に検測された波形データ(検測1)を、基準データとして定義すると、この基準データは、軌道検測装置2の車輪の空転や滑走等によって一定区間内に含まれるデータ個数が、4000個とならない場合がある。この場合、
図4(c)に示すように、この一定区間内に含まれる基準データの個数を4000個となるようにリサンプリングして基準データとして定義しても良いし、そのまま用いても構わない。
【0029】
次に、位置補正の対象となる波形データ(修正対象データ、検測2)と基準データ(検測1)間のパターンマッチングを行う。パターンマッチングには、以下の数式3或いは数式4を用いて、両波形データ間の相互相関関数を算出する。数式3は、偏推定量、数式4は不偏推定量である。また、以下の数式で表されるように、これらの相互相関関数を算出する区間の基準データと修正対象データの標準偏差の積で除し、正規化した値、(-1,1)の範囲内を取り得る値が相互相関係数である。
【0030】
【0031】
【0032】
さらに、数式5及び数式6のいずれかの数式を用いて、基準データに対して、修正対象データの位置ずれ量τを変化させながら、相互相関係数が最大となる位置ずれ量を算出する。
【0033】
【0034】
【0035】
この位置ずれ量の算出に際しては、x(n)を基準データとした場合は、基準データに対して修正対象データy(n)に位相遅れがある場合の計算式となる。一方で、逆にy(n)を基準データ、x(n)を修正対象データとして算出した場合は、修正対象データx(n)に対して基準データとしたy(n)に位相進みがある場合の計算式となる。本実施形態では、位相遅れと位相進みの両方を算出して、相互相関係数が最大となる位置ずれ量を算出している。
【0036】
なお、相互相関法とは、基準となる波形データのパターンに対し、詳細な位置補正を行う対象となる波形データについて、それと類似するデータパターンを検知し、位置を補正する際に上述した数式5あるいは数式6による相互相関係数が最大となる位置ずれ量τを位置補正量として算出するものである。
【0037】
さらに、数式4は、数式3に比べて位置ずれ量τが大きくなる、あるいはデータ個数Nが小さくなるにしたがって、推定量の分散が大きくなることから、数式3を用いるほうが好ましいと考えられるが、本実施形態においては、いずれの数式を用いても構わない。
【0038】
本実施形態に係る急進箇所抽出処理システム1の場合、例えば基準データ(検測1)x(n)及び修正対象データ(検測2)y(n)が与えられた時に、一定データ区間ごとに相互相関係数を算出し、基準データに対する修正対象データの相互相関係数が最大となる位置ずれ量τを検知し、区間の始点位置を修正する。その際の、区間長は、通常の軌道検測データの場合は、100m程度を標準として、数十から数百m程度の範囲内で設定すると好適である。また、その際の波形データは、当該波形に含まれる波長特性等を勘案し、適切に設定することができる。
【0039】
次に、
図4(b)及び(c)に示すように、相互相関係数が最大となる位置ずれ量をもとに位相を合わせたのち、一定データ区間ごとに修正対象データ(検測2)のデータ個数が基準データ(検測1)のデータ個数と同一となるようにリサンプリングを行う。例えば、修正対象データ(検測2)は、軌道検測装置2の車輪に滑走や空転が生じたことにより、一定区間内に含まれるデータ個数が4050個となっており、
図4(d)に示すように、これを基準データのデータ個数と一致させるようにリサンプリングを行う。なお、一定区間内に含まれる修正対象データのデータ個数が基準データのデータ個数よりも少ない場合も同様にリサンプリングを行う。
【0040】
また、詳細位置補正工程(S104)では、
図3に示すように、例えば、修正対象データが含まれる波形データのうち、高低変位・左についてリサンプリングを行い、その他の項目については、高低変位・左の位置情報を適用することで、全ての項目についてサンプリング間隔が同期されている。
【0041】
次に、差分データ演算工程(S105)で互いに位置が合わされたデータを波形レベルで差分を算出する。このとき、位置補正工程(S102)によって波形データ間の位置ずれが解消され、サンプリング間隔も同じになっているので、波形レベルの差分を求めても有意なデータを得ることができる。
【0042】
その後、急進箇所抽出工程(S106)で、波形レベルの差分が所定の閾値を超えた箇所を特徴点変化箇所として抽出する。この閾値を超えた特徴点変化箇所は、波形データが急進している場合に加え、軌道整備を行った箇所や軌道検測装置2の光飛びなどの異常値も含まれるため、差分を求めるそれぞれの波形データについて、所定のロットで標準偏差等を算定する。この標準偏差等を比較して所定の割合以上増加していれば、軌道変位が急進していると判定し、それ以外の場合は検測異常又は軌道整備と判定する。なお、所定のロットとは、該相互相関係数を算定するための一定区間をそのまま適用しても構わないし、閾値を超えた特徴点変化箇所を中心として新たに数十m程度の一定区間を設定しても構わない。
【0043】
この判定結果は、出力装置4に出力され、軌道の急進の有無を確認することが可能となる。
【0044】
このように、本実施形態に係る急進箇所抽出処理システム1は、波形レベルで差分を求めることができるので、高頻度で検測された波形データを波形レベルでの差分を行い、抽出された特徴変化箇所について、波形データの標準偏差等から急進か異常かの判別を行うため、これらのデータの自動処理を容易に行うことができる。
【0045】
また、高頻度検測データの位置補正及びそのデータを用いた軌道変位の急進箇所の抽出を全て自動で行うことができるので、急激な軌道変位進み、又は軌道変位進みに伴う列車動揺、およびこれに伴う輸送弊害の発生を未然に防止することができる。
【0046】
なお、本実施形態に係る急進箇所抽出処理システムでは、詳細位置補正工程では、高低変位・左についてリサンプリングを行った場合について説明を行ったが、通り変位やその他の検測項目についてリサンプリングを行ったのち、他の項目へ位置情報の同期を行っても構わない。さらに、本実施形態に係る急進箇所抽出処理システムでは、軌道変位の急進箇所を抽出する場合について説明を行ったが、検測の対象は軌道変位に限られず、例えば、レール凹凸、列車動揺、輪重・横圧、軸箱加速度等の連続測定データにも適用可能である。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0047】
1 急進箇所抽出処理システム
2 軌道検測装置
3 処理装置
4 出力装置
S101 波形データ
S102 位置補正工程
S103 予備位置補正工程
S104 詳細位置補正工程
S105 差分データ演算工程
S106 急進箇所抽出処理工程