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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】AKR1C3選択的阻害剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20221117BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221117BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221117BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20221117BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A61K31/352 ZNA
A61K45/00
A61P35/00
A61P15/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018055182
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019167302
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】521103679
【氏名又は名称】株式会社ユニバーサルコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智史
(72)【発明者】
【氏名】松永 俊之
(72)【発明者】
【氏名】五十里 彰
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直浩
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-027897(JP,A)
【文献】特開2015-020966(JP,A)
【文献】国際公開第2017/202817(WO,A1)
【文献】米国特許第05648378(US,A)
【文献】Organic and Biomolecular Chemistry,2015年,Vol.13,pp.7487-7499
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-45/08
A61P 35/00
A61P 43/00
A61P 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式2~4のいずれかで表されるAKR1C3阻害剤又はその薬理学的に許容可能な塩を有効成分として含有する、
去勢抵抗性前立腺がんの治療又は予防に使用するための、抗がん薬。:
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
抗アンドロゲン薬と併用される、請求項1に記載の抗がん薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAKR1C3(Aldo-Keto Reductase Family 1 Member C3)阻害剤に関する。詳しくは、選択性の高いAKR1C3阻害剤及びその用途(抗がん薬、がん治療等)に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、欧米・アジア諸国で化学療法済治療の転移性去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する薬剤として、アンドロゲン合成に関与するCYP17の選択的阻害剤アビラテロン(ザイティガ(登録商標))とアンドロゲン受容体アンタゴニストエンザルタミド(イクスタンジ(登録商標)が承認され、使用されている。しかし、最近アビラテロンはグルココルチコイド合成も同時に阻害することから、グルココルチコイドの同時処方が必要となるほか、食事によるAUC変動により空腹時処方が必要であることから、臨床でも使いにくさが露見してきた。エクスタンジは高血圧や疲労、食欲不振、嘔吐といった副作用が大きいのが問題である。
【0003】
一方、AKR1C3はアンドロゲン代謝におけるCYP17の下流に位置することから、AKR1C3を標的にすればグルココルチコイドの合成を阻害することなしにアンドロゲン合成を阻害できる。また、AKR1C3はアンドロゲン合成のみならず、細胞増殖性のプロスタノイドやイソプレノイドの合成に関与することから、AKR1C3はホルモン依存性、非依存性に関わらず前立腺がん治療の有望な標的となる。これまでに多くのAKR1C3阻害剤が報告されており、nMレベルのIC50値を示す化合物も報告されているが(例えば非特許文献1を参照)、他のAKRアイソフォームに対する影響は精査されていない。尚、本発明者らの研究グループはバッカリンに選択的なAKR1C3阻害活性があることを報告するとともに(非特許文献2)、新たなAKR1C3阻害剤としてのバッカリン誘導体を見出している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-020966号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Endo S. et al. Bioorg. Med. Chem. 2014, 22, 5220-5233.
【文献】Endo S. et al. J. Nat. Prod. 2012, 75, 716-721.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AKR1C3に高次構造が類似するが、高いアンドロゲン作用を有する5α-ジヒドロアンドロステロンの不活性化に関わるAKR1C1とAKR1C2が存在する。したがって、AKR1C1とAKR1C2を阻害しないAKR1C3阻害剤の開発が望まれるが、未だ選択性と強力な阻害効果を兼ね備えたAKR1C3阻害剤に関する報告は少ない。そこで本発明の課題は、強力かつ選択的な新規AKR1C3阻害剤を提供するとともに、その応用(例えばがん治療への適用)を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これまでの研究の成果を踏まえ、クロメン骨格を有する化合物に注目し、当該化合物をリード化合物として構造の最適化を試みた。具体的には、様々な誘導体を合成し、そのAKR1C3阻害活性、選択性、抗がん薬としての有効性等を検討した。その結果、8-ヒドロキシクロメン誘導体が強力且つ選択的なAKR1C3阻害活性を示し、AKR1C3を標的とした抗がん薬又はその候補として有望であることが明らかとなった。特筆すべきは、8-ヒドロキシクロメン誘導体がARアンタゴニスト作用も示し、従来のAKR1C3阻害剤と比べて強力なPSA降下作用が期待できることである。一方、詳細な検討の結果、代表的な化合物についてin vivo(モデル動物実験)での前立腺がんに対する抗がん活性も確認され、前立腺がん(特にCRPC)に対する抗がん薬又はその候補として8-ヒドロキシクロメン誘導体が有効であることが裏付けられるとともに、既存薬との併用によって治療効果(がん細胞の増殖抑制)を増強できることや、作用メカニズム等、臨床応用する上で有益な情報も得られた。以下の発明は主として以上の成果及び考察に基づく。
[1]以下の化学式1で表されるAKR1C3阻害剤:
【化1】
但し、式中のR1は水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
[2]前記式中のR1が水素原子、フルオロ基、クロロ基、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基(但し、2位及び4位を除く)、ジフルオロ基、トリフルオロ基、トリフルオロメチル基、ジトリフルオロメチル基又はイソプロピル基である、[1]に記載のAKR1C3阻害剤。
[3]前記式中のR1が水素原子、2-フルオロ、3-フルオロ、4-フルオロ、2-クロロ、3-クロロ、4-クロロ、2-メチル、3-メチル、4-メチル、2-エチル、3-エチル、4-エチル、3-ヒドロキシ、3,4-ジフルオロ、3,4,5-トリフルオロ、2-トリフルオロメチル、3-トリフルオロメチル、4-トリフルオロメチル、2,4-ジトリフルオロメチル、2-イソプロピル又は3-イソプロピルである、[1]に記載のAKR1C3阻害剤。
[4]以下の化学式2~4のいずれかで表される、[1]に記載のAKR1C3阻害剤:
【化2】
【化3】
【化4】
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載のAKR1C3阻害剤又はその薬理学的に許容可能な塩を有効成分として含有する、抗がん薬。
[6]前立腺がん、乳がん、肝細胞がん、非小細胞肺がん又は白血病の治療又は予防に使用される、[5]に記載の抗がん薬。
[7]前立腺がんの治療又は予防に使用される、[5]に記載の抗がん薬。
[8]前立腺がんが、去勢抵抗性前立腺がんである、[7]に記載の抗がん薬。
[9]抗アンドロゲン薬と併用される、[7]又は[8]に記載の抗がん薬。
[10]がん患者に対して、[5]に記載の抗がん薬を治療上有効量投与するステップを含む、がんの治療又は予防法。
[11][1]~[4]のいずれか一項に記載のAKR1C3阻害剤を含む研究用試薬。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】前立腺がん22Rv1細胞の細胞増殖能に及ぼす影響。
図2】前立腺がん22Rv1細胞のアンドロゲンシグナルに及ぼす影響。
図3】アンドロゲン非依存性前立腺がんPC3細胞の細胞増殖に及ぼす影響。
図4】アンドロゲン受容体に対するアゴニスト活性 (A) とアンタゴニスト活性 (B) の評価。
図5】CRPC治療薬の抗増殖能に及ぼすAKR1C3阻害剤の併用効果。
図6】AKR1C3阻害剤とエンザルタミドの併用によるアポトーシス誘導効果。
図7】AKR1C3阻害剤によるアビラテロン誘導性アポトーシスの増強効果。
図8】AKR1C3阻害剤2lによるCRPC治療薬誘導性アポトーシスの増強効果。
図9】AKR1C3阻害剤2lによるin vivo抗腫瘍効果。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の局面はAKR1C3阻害剤に関する。「AKR1C3阻害剤」とは、AKR1C3の活性を阻害ないし抑制する剤である。AKR1C3は別名17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素5型とも呼ばれ、アンドロゲン合成及びプロスタグランジン(PG)代謝に重要な役割を果たす。AKR1C3は白血病細胞、ホルモン依存性がん(前立腺がん(CRPCを含む)、乳がんなど)患者のがん病変部で高発現し(Kurkela, R. Li, Y. Patrikainen, L. Pulkka, A. Soronen, P. Torn, S. J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 2005, 93, 277-283.; Byrns, M. C. Penning, T. M. Chem.-Biol. Interact. 2009, 178, 221-227.; Penning, T. M. Curr. Opin. Endocrinol. Diabetes Obes. 2010, 17, 233-239.)、ステロイド・プロスタノイド・イソプレノイド代謝を介してがん細胞増殖の促進に関与する。また、AKR1C3の発現上昇は肝細胞がんや非小細胞肺がんを含む様々ながんにおいても認められてきた(Guise, C. P. Abbattista, M. R. Singleton, R. S. Holford, S. D. Connolly, J. Dachs, G. U. Fox, S. B. Pollock, R. Harvey, J. Guilford,P. Donate, F. Wilson, W. R. Patterson, A. V. Cancer Res. 2010, 70,1573-1584.)。AKR1C3遺伝子をノックダウンすると前立腺がん細胞の増殖は阻害され、逆にAKR1C3の人為的過剰発現は前立腺がん細胞および乳がん細胞の増殖を促進する(Downs, T. M. Burton, D. W. Araiza, F. L. Hastings, R. H. Deftos, L. J. Cancer Lett. 2011, 306, 52-59.; Byrns, M. C. Duan, L. Lee, S. H. Blair, I. A. Penning, T. M. J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 2010, 118, 177-187.; Dozmorov, M. G. Azzarello, J. T. Wren, J. D. Fung, K. M. Yang, Q. Davis, J. S. Hurst, R. E. Culkin, D. J. Penning, T. M.; Lin, H. K. BMC Cancer 2010, 10, 672.)。
【0010】
AKR1C3は17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(HSD)活性を示し、前立腺や副腎で発現してアンドロゲン合成に関与するとともに、子宮や乳腺などのエストロゲン感受性組織で発現してエストロゲン合成にも関与する。従って、AKR1C3阻害剤は、アンドロゲン依存性疾患である前立腺がんに加えて、エストロゲン依存性疾患である乳がんなどにおいてもその効果を期待できる。また、AKR1C3はプロスタグランジン(PG)代謝やイソプレノイド代謝を触媒することでアンドロゲン非依存性細胞増殖に関与するほか、酸化ストレス時に生成される反応性アルデヒドを解毒代謝することでがん細胞の生存にも関与する。AKR1C3によってPGD2から生成されるPGF2αは白血病細胞の分化を抑制し、増殖を促進することが知られるため、AKR1C3は白血病の新たな標的として注目されている(Trippier et al., Future Med. Chem., 9, 1453-1456 (2017))。従って、本発明のAKR1C3阻害剤はアンドロゲン依存的/非依存的細胞増殖をともに阻害することで、多くのがん種に適応可能な抗がん薬の有効成分となる。
【0011】
ここで、AKR1C3に高次構造が類似するAKR1C1、AKR1C2及びAKR1C4が存在する。本発明のAKR1C3阻害剤はこれら構造類似酵素と比べてAKR1C3に対する特異性が高い。本明細書において「AKR1C3に対する特異性が高い」とは、AKR1C1、AKR1C2、AKR1C3及びAKR1C4の中で、選択的にAKR1C3を阻害することを意味する。これらAKR1Cサブファミリーの中でAKR1C1は20α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素活性を示し、黄体ホルモンのプロゲステロンの不活性化や脳におけるアロプレグネノロンなどの神経ステロイドの不活化やその前駆体の異化にも関与する。また、AKR1C2は3α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素活性を有し、5α-ジヒドロプロゲステロンから神経ステロイドアロプレグネノロンの生成および5α-プレグナン-17α-ol-3,20-ジオンから5α-プレグナン-3α,17α-ジオール-20-オンへの還元によってアンドロゲン生成に関与する。そのため、これらの類似酵素に対して阻害活性を示さないことは前立腺がん治療においてアンドロゲン量を制御することに加えて、これらの生理機能を阻害しないことで副作用を軽減するという観点からも重要である。IC50で比較した場合、本発明のAKR1C3阻害剤のAKR1C3に対する阻害活性は、AKR1C1又はAKR1C2に対する阻害活性の例えば100倍以上、好ましくは200倍以上、更に好ましくは300倍以上、更に更に好ましくは500倍以上、より一層好ましくは1,000倍以上である。
【0012】
本発明のAKR1C3阻害剤は以下の化学式1で表される。
【化1】
但し、式中のR1は水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。「置換基を有していても良い炭化水素基」の「炭化水素基」としては、例えばC1~C6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基などが挙げられる。本発明において「C1~C6アルキル基」とは、炭素数1乃至6個の直鎖、分枝鎖または環状アルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基を挙げることができる。
【0013】
好ましくは、式中のR1は水素原子、フルオロ基、クロロ基、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基(但し、2位及び4位を除く)、ジフルオロ基、トリフルオロ基、トリフルオロメチル基、ジトリフルオロメチル基、イソプロピル基である。尚、アルキル基の炭素数が多すぎると、立体障害による活性の低下のおそれがあるほか、2位及び4位には親水性側鎖は望ましくない。
【0014】
更に好ましくは、式中のR1は水素原子、2-フルオロ、3-フルオロ、4-フルオロ、2-クロロ、3-クロロ、4-クロロ、2-メチル、3-メチル、4-メチル、2-エチル、3-エチル、4-エチル、3-ヒドロキシ、3,4-ジフルオロ、3,4,5-トリフルオロ、2-トリフルオロメチル、3-トリフルオロメチル、4-トリフルオロメチル、2,4-ジトリフルオロメチル、2-イソプロピル又は3-イソプロピルである。
【0015】
特に好ましいAKR1C3阻害剤として、以下の3つの化合物(化学式2~4)を挙げることができる。
【化2】
【化3】
【化4】
【0016】
これらの化合物は強力にAKR1C3を阻害する上に(後述の実施例に示した実験では順に、IC50=25nM、IC50=9.1nM、IC50=21nM)、AKR1C1又はAKR1C2と比べてAKR1C3に高い選択性(IC50で比較して、順に約240倍(対AKR1C1);400倍以上(対AKR1C2)、1,100倍以上(対AKR1C1);1,100倍以上(対AKR1C2)、480倍以上(対AKR1C1);480倍以上(対AKR1C2))を示す。
【0017】
AKR1C3はがん治療の標的として重要であり、がん治療法の開発の対象となる。本発明のAKR1C3阻害剤はこのような研究・開発におけるツール(研究用試薬)としても有用である。
【0018】
上記の通り、様々ながんにおいてAKR1C3の発現上昇が認められる。また、がん細胞の増殖・成長へのAKR1C3の関与が報告されている。これらの事実に鑑みれば、AKR1C3阻害剤は、がんの治療や予防に有効である。換言すれば、抗がん薬の有効成分としてAKR1C3阻害剤が有用である。そこで本発明の第2の局面は、本発明のAKR1C3阻害剤又はその薬理学的に許容可能な塩を有効成分として含有する抗がん薬を提供する。
【0019】
本発明において用語「がん」は広義に解釈され、用語「悪性腫瘍」と互換的に使用される。また、病理学的に診断が確定される前の段階、すなわち腫瘍としての良性、悪性のどちらかが確定される前には、良性腫瘍、良性悪性境界病変、悪性腫瘍を総括的に含む場合もあり得る。一般に、がんはその発生の母体となった臓器の名、もしくは発生母組織の名で呼ばれ、主なものを列記すると、舌癌、歯肉癌、咽頭癌、上顎癌、喉頭癌、唾液腺癌、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆道癌、胆嚢癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、甲状腺癌、副腎癌、脳下垂体腫瘍、松果体腫瘍、子宮癌、卵巣癌、膣癌、膀胱癌、腎臓癌、前立腺癌、尿道癌、網膜芽細胞腫、結膜癌、神経芽腫、神経膠腫、神経膠芽細胞腫、皮膚癌、髄芽種、白血病、悪性リンパ腫、睾丸腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫などである。そして、さらに発生臓器の部位の特徴によって、上・中・下咽頭癌、上部・中部・下部食道癌、胃噴門癌、胃幽門癌、子宮頚癌、子宮体癌などと細分類されているが、これらが限定的ではなく本発明の「がん」としての記載に含まれる。
【0020】
AKR1C3はアンドロゲン代謝におけるCYP17の下流に位置する。従って、AKR1C3阻害剤によればグルココルチコイドの合成を阻害することなしにアンドロゲン合成を阻害できる。また、AKR1C3はアンドロゲン合成のみならず、細胞増殖性のプロスタノイドやイソプレノイドの合成に関与する。したがって、AKR1C3の阻害はホルモン依存性、非依存性に関わらず前立腺がん治療に有効と考えられる。本発明の抗がん薬の典型的な標的の一つは、前立腺がんであり、特にCRPCが好適な標的となる。本発明のAKR1C3阻害剤がARアンタゴニスト作用も有し、強力なPSA降下作用をも発揮し得ることは、前立腺がんの治療薬として極めて有用であることを示す。
【0021】
「抗がん薬」とは、標的の疾病ないし病態である、がんに対する治療的又は予防的効果を示す医薬のことをいう。治療的効果には、がんに特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、がんに特徴的な症状の再発発現(発症)を阻止ないし遅延することである。尚、がんに対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、抗がん薬に該当する。
【0022】
本明細書における「薬理学的に許容される塩」の例として塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等との塩(無機酸塩)や、ギ酸、酢酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸等との塩(有機酸塩)を挙げることができる。これらの塩の調製は慣用手段によって行なうことができる。尚、以上の例示は、「薬理学的に許容される塩」が限定解釈されるために用いられるべきではない。即ち、「薬理学的に許容される塩」は、広義に解釈されるべきであり、各種の塩を含む用語である。
【0023】
本発明の抗がん薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、稀釈剤、被覆剤、糖衣剤、矯味矯臭剤、乳化・可溶化・分散剤、pH調製剤、等張剤、可溶化剤、香料、着色剤、溶解補助剤、生理食塩水など)を含有させることができる。製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、注射剤、外用剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤及び座剤である。本発明の抗がん薬には、期待される治療効果(又は予防効果)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の抗がん薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.01重量%~約95重量%の範囲内で設定する。
【0024】
本発明の抗がん薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。ドラッグデリバリーシステム(DDS)を利用して標的組織特異的に有効成分が送達されるように投与してもよい。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では、適用対象はヒトである。
【0025】
後述の実施例に示す通り、本発明のAKR1C3阻害剤を既存の抗アンドロゲン薬と併用すると、その抗がん活性が増強された。この事実に基づき一態様では、本発明の抗がん薬を抗アンドロゲン薬と併用し、その治療効果の増強を図る。併用される抗アンドロゲン薬は特に限定されない。抗アンドロゲン薬の例を挙げると、ビカルタミド、フルタミド、クロルマジノン酢酸エステル、エンザルタミド、アビラテロンである。エンザルタミドとアビラテロンはCRPCに対する認可薬であり、当該医薬との併用は、CRPCに対する治療法として有効となる。
【0026】
本発明の更なる局面は、本発明の抗がん薬を使用した、がんに対する治療方法又は予防方法(以下、これら二つの方法をまとめて「治療方法等」という)が提供される。本発明の治療方法等は、上記本発明の抗がん薬を、がんを罹患する又はがんの兆候を認める患者に投与するステップを含む。投与経路は特に限定されず例えば経口、静脈内、動脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経鼻、経粘膜などを挙げることができる。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。抗がん薬の投与量は一般に、患者の症状、年齢、性別、及び体重などによって変動し得るが、当業者であれば適宜適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの設定においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【実施例
【0027】
<方法>
1. 化合物の合成
【化5】
【0028】
シアノアセトアミド 1 の一般合成法
Ar雰囲気下、シアノ酢酸 (100 mg, 1.176 mmol) のCH2Cl2 (5 mL) 溶液に室温にて、アニリン (1.176 mmol)、EDC.HCl (450 mg, 2.352 mmol)、DMAP (29 mg, 0.235 mmol) を順次加え、室温にて24時間攪拌を行った。反応終了後、溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2: 10 g, hexane : acetone = 5 : 1~1 : 1) により精製し、白色結晶 (1a-g 1), 1h 2), 1i 3), 1j-k 2), 1l 4), 1m 5), 1n-p 1), 1q 6), 1r 7), 1s 6), 1t 8), 1u 2), 1v, 1w 6), 1x 9)) を得た。
参考文献:1) Org. Biomol. Chem. 2015, 13, 7487. 2) J. Med. Chem. 2017, 60, 4626. 3) Bioorg. Med. Chem. Lett. 2009, 19, 1861. 4) Eur. J. Chem. 2012, 3, 228. 5) ChemCatChem 2016, 8, 3420. 6) J. Med. Chem. 2012, 55, 7378. 7) Commercially available: Aurora Building Blocks, A02.108.441. 8) Arch. Pharm. Res. 2003, 26, 197. 9) Commercially available: Aurora Building Blocks, A00.271.854.
【0029】
N-(2,4-Bis-trifluoromethylphenyl)-2-cyanoacetamide (1v)
収率: 51%; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 4.01 (2H, s), 7.85 (1H, d, J = 8.4 Hz), 8.08 (1H, s), 8.12 (1H, d, J = 8.4 Hz), 10.26 (1H, s)
【0030】
クロメン 2 の一般合成法
Ar雰囲気下、アミド体 (1a-x, 0.432 mmol) のEtOH (3 mL) 溶液に室温にて、2,3-ジヒドロキシベンズアルデヒド (0.432 mmol)、ピペリジン (3滴) を順次加え、室温して24時間攪拌を行った。反応終了後、析出した結晶をろ取した後、翌日まで風乾し、淡黄色結晶2a-xを得た。
【0031】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid phenylamide (2a)
収率: 82%; mp: 235-237℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 7.04-7.14 (3H, m), 7.23 (1H, dd, J = 4.0, 3.0 Hz), 7.37 (1H, t, J = 8.5 Hz), 7.67 (2H, dd, J = 7.5, 1.0 Hz), 8.50 (1H, d, J = 1.5 Hz), 9.09 (1H, s), 10.23 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 119.9, 120.1, 120.2, 120.4, 120.5, 124.5, 124.6, 129.6, 138.8, 142.5, 142.6, 144.5, 156.5, 160.3; IR (KBr): 3298, 1674, 1598, 1473 cm-1; MS (EI): m/z 280 (M+); HRMS: Calcd for C16H12N2O3 280.0848, Found 280.0847.
【0032】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (2-fluorophenyl)amide (2b)
収率: 82%; mp: 247-249℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 7.10-7.17 (3H, m), 7.22-7.27 (2H, m), 7.31-7.35 (1H, m), 8.48 (1H, td, J = 3.5, 1.5 Hz), 8.55 (1H, d, J = 1.5 Hz), 9.14 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 115.6 (d, J = 23.1 Hz), 119.8, 120.2 (d, J = 23.1 Hz), 120.7, 121.9, 124.6, 125.0 (d, J = 8.5 Hz), 125.2 (d, J = 3.6 Hz), 127.0 (d, J = 8.5 Hz), 142.5, 143.1, 144.5, 153.0 (d, J = 241.8 Hz), 156.3, 160.6; IR (KBr): 3310, 1607, 1569, 1473 cm-1; MS (EI): m/z 298 (M+); HRMS: Calcd for C16H11FN2O3 298.0754, Found 298.0754.
【0033】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3-fluorophenyl)amide (2c)
収率: 51%; mp: 225-227℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 6.96 (1H, m), 7.06-7.11 (2H, m), 7.22 (1H, dd, J = 4.5, 2.5 Hz), 7.28 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.39 (1H, q, J = 7.0 Hz), 7.74 (1H, d, J = 9.0 Hz), 8.50 (1H, s), 9.10 (1H, br), 10.22 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 107.0 (d, J = 23.1 Hz), 110.0 (d, J = 23.1 Hz), 116.0, 119.8, 120.1, 120.3, 120.6, 124.6 (d, J = 1.3 Hz), 131.1 (d, J = 10.3 Hz), 140.4 (d, J = 10.3 Hz), 142.5, 142.9, 144.5, 156.4, 160.7, 162.8 (d, J = 239.4 Hz); IR (KBr): 3305, 1609, 1579, 1473 cm-1; MS (EI): m/z 298 (M+); HRMS: Calcd for C16H11FN2O3 298.0754, Found 298.0754.
【0034】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (4-fluorophenyl)amide (2d)
収率: 65%; mp: 240-242℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 7.09-7.10 (2H, m), 7.22-7.24 (3H, m), 7.71 (1H, q, J = 5.0 Hz), 8.50 (1H, s), 9.09 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 116.1 (d, J = 23.1 Hz), 119.8, 120.2, 120.3, 120.5, 121.9 (d, J = 7.4 Hz), 124.6 (d, J = 3.6 Hz), 135.2, 142.4, 142.6, 144.5, 156.4, 158.9 (d, J = 239.0 Hz), 160.3; IR (KBr): 3298, 1674, 1511,1218 cm-1; MS (EI): m/z 298 (M+); HRMS: Calcd for C16H11FN2O3 298.0754, Found 298.0754.
【0035】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (2-chlorophenyl)amide (2e)
収率: 67%; mp: 282-283℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ; 7.08-7.13 (2H, m), 7.16 (1H, td, J = 6.5, 1.5 Hz), 7.24 (1H, dd, J = 5.0, 2.0 Hz), 7.39 (1H, td, J = 7.0, 1.0 Hz), 7.54 (1H, dd, J = 6.5, 1.5 Hz), 8.52 (1H, dd, J = 7.0, 1.0 Hz), 8.55 (1H, s), 9.13 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 119.8, 120.2, 120.4, 120.7, 122.6, 123.6, 124.6, 125.5, 128.2, 129.9, 136.0, 142.5, 143.3, 144.5, 156.0, 160.8; IR (KBr): 3305, 1684, 1471, 1224 cm-1; MS (EI): m/z 314 (M+); HRMS: Calcd for C16H11ClN2O3 314.0458, Found: 314.0459.
【0036】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3-chlorophenyl)amide (2f)
収率: 65%; mp: 252-254℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 7.07 (2H, m), 7.18 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.23 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.39 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.44 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.95 (1H, s), 8.50 (1H, s), 9.12 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 118.6, 119.6, 119.8, 120.1, 120.3, 120.6, 124.2, 124.6, 131.2, 133.9, 140.1, 142.5, 142.9, 144.5, 156.4, 160.7; IR (KBr): 3301, 1681, 1595, 1482 cm-1; MS (EI): m/z 314 (M+); HRMS: Calcd for C16H11ClN2O3 314.0458, Found: 314.0458.
【0037】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (4-chlorophenyl)amide (2g)
収率: 91%; mp: 272-273℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 7.07-7.11 (2H, m), 7.23 (1H, dd, J = 5.0, 2.5 Hz), 7.43 (1H, dd, J = 5.0, 2.0 Hz), 7.70 (1H, dd, J = 5.0, 2.0 Hz), 8.50 (1H, d, J = 1.5 Hz), 9.11 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 119.8, 120.2, 120.3, 120.6, 121.7, 124.6, 128.1, 129.5, 137.7, 142.5, 142.7, 144.5, 156.4, 160.5; IR (KBr): 3302, 1675, 1473, 1230 cm-1; MS (EI): m/z 314 (M+); HRMS: Calcd for C16H11ClN2O3 314.0458, Found: 314.0459.
【0038】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (2-methylphenyl)amide (2h)
収率: 90%; mp: 263-264℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 2.37 (3H, s), 7.08-7.16 (3H, m), 7.25-7.31 (3H, m), 8.25 (1H, d, J = 7.6 Hz), 8.52 (1H, d, J = 1.2 Hz), 9.11 (1H, s), 12.62 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 18.4, 119.4, 119.6, 120.0, 120.2, 120.8, 124.0, 124.1, 126.3, 127.8, 130.3 137.0, 141.9, 142.2, 144.0, 156.0, 159.7; IR (KBr): 3299, 1682, 1593, 1470 cm-1; MS (EI): m/z 294 (M+); HRMS: calcd for C17H14N2O3 294.1004, found 294.1008.
【0039】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3-methylphenyl)amide (2i)
収率: 89%; mp: 241-242℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 2.28 (3H, s), 6.93 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.08-7.11 (2H, m), 7.20 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.26 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.43 (1H, s), 7.52 (1H, d, J = 7.3 Hz), 8.49 (1H, d, J = 2.5 Hz), 9.09 (1H, s), 12.81 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 21.1, 116.7, 119.4, 119.7, 120.0, 124.1, 124.8, 128.9, 138.2, 138.4 142.0, 142.1, 144.0, 156.0, 159.7; IR (KBr): 3295, 1678, 1606, 1467 cm-1; MS (EI): m/z 294 (M+); HRMS: calcd for C17H14N2O3 294.1004, found 294.1001.
【0040】
8-Methoxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (4-methylphenyl)amide (2j)
収率: 89%; mp: 273-274℃; 1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ 2.36 (3H, s), 7.20 (2H, d, J = 8.1 Hz), 7.30-7.32 (3H, m), 7.63 (2H, d, J = 8.1 Hz), 9.04 (1H, s), 10.63 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 21.0, 119.9, 120.1, 120.2, 120.5, 124.6, 130.0, 133.6, 136.3, 142.4, 142.5, 143.5, 144.5, 156.5, 160.0; IR (KBr): 3292, 1674, 1564, 1472 cm-1; MS (EI): m/z 294 (M+); HRMS: calcd for C17H14N2O3 294.1004, found 294.1013.
【0041】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (2-ethylphenyl)amide (2k)
収率: 66%; mp: 209-210℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 1.13 (3H, t, J = 7.7 Hz), 2.66 (2H, q, J = 7.7 Hz), 7.04-7.07 (3H, m), 7.16-7.23 (3H, m), 8.16 (1H, d, J = 8.5 Hz), 8.47 (1H, d, J = 1.5 Hz), 9.06 (1H, s), 12.61 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 15.6, 28.2, 117.0, 118.9, 119.4, 119.6, 120.0, 120,1, 123.6, 124.1, 129.0, 138.3, 141.9, 142.0, 144.0, 144.7, 155.9, 159.7; IR (KBr): 3297, 1669, 1569, 1472 cm-1; MS (EI): m/z 308 (M+); HRMS: calcd for C18H16N2O3 308.1161, found 308.1153.
【0042】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3-ethylphenyl)amide (2l)
収率: 78%; mp: 241-242℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.14 (3H, t, J = 7.7 Hz), 2.65 (2H, q, J = 7.7 Hz), 6.99 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.11-7.12 (3H, m), 7.28 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.56 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.57 (1H, s), 8.60 (1H, br), 12.36 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 14.5, 24.6, 119.4, 119.6, 120.0, 120.1, 121.5, 124.1, 124.3, 126.3, 128.8, 134.0, 136.1, 141.9, 142.2, 144.0, 156.0, 159.8; IR (KBr): 3298, 1684, 1594, 1471 cm-1; MS (EI): m/z 308 (M+); HRMS: calcd for C18H16N2O3 308.1161, found 308.1153.
【0043】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (4-ethylphenyl)amide (2m)
収率: 81%; mp: 259-260℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 1.18 (3H, t, J = 7.9 Hz), 2.58 (2H, q, J = 7.9 Hz), 7.08-7.10 (2H, m), 7.20-7.24 (3H, m), 7.59 (2H, d, J = 8.5 Hz), 8.49 (1H, d, J = 1.7 Hz), 9.08 (1H, s), 12.78 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 15.6, 27.6, 119.4, 119.6, 120.0, 120.8, 124.1, 124.1, 128.3, 136.0, 139.5, 141.9, 144.0, 146.1, 156.0, 159.1; IR (KBr): 3296, 1669, 1599, 1473 cm-1; MS (EI): m/z 308 (M+); HRMS: calcd for C18H16N2O3 308.1161, found 308.1153.
【0044】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (2-hydroxyphenyl)amide (2n)
収率: 48%; mp: 253-255℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 6.80 (1H, td, J = 6.0, 2.0 Hz), 6.88-6.93 (2H, m), 7.21 (1H, dd, J = 4.5, 2.5 Hz), 8.37 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.48 (1H, s), 8.98 (1H, s), 9.96 (1H, br), 10.20 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 115.23, 119.5, 119.97, 120.05, 120.5, 121.0, 124.5, 124.6, 127.5, 142.0, 142.4, 142.5, 144.4, 147.7, 155.8, 160.1; IR (KBr): 3313, 1668, 1558, 1471 cm-1; MS (EI): m/z 296 (M+); HRMS: Calcd for C16H12N2O4 296.0797, Found : 296.0798.
【0045】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3-hydroxyphenyl)amide (2o)
収率: 40%; mp: 202-204℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 6.52 (1H, dd, J = 4.5, 2.5 Hz), 6.97 (1H, dd, J = 7.0, 1.0 Hz), 7.08-7.11 (2H, m), 7.14 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.22 (1H, dd, J = 4.5, 2.5 Hz), 7.28 (1H, t, J = 2.0 Hz), 8.48 (1H, s), 9.08 (1H, s), 9.50 (1H, br), 10.20 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 107.1, 110.8, 111.7, 119.9, 120.2, 120.5, 120.6, 124.6, 130.3, 139.8, 142.5, 144.5, 156.5, 158.4, 160.1; IR (KBr): 3303, 1676, 1577, 1473 cm-1; MS (EI): m/z 296 (M+); HRMS: Calcd for C16H12N2O3 296.0797, Found: 296.0799.
【0046】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (4-hydroxyphenyl)amide (2p)
収率: 46%; mp: 231-233℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 6.76 (2H, d, J = 7.8 Hz), 7.06-7.10 (2H, m), 7.19-7.23 (1H, m), 7.47 (2H, d, J = 7.8 Hz), 8.46 (1H, s), 9.03 (1H, s), 9.34 (1H, br), 12.58 (1H, br); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 116.0, 119.96, 120.03, 120.5, 120.7, 121.7, 124.6, 130.5, 142.1, 142.4, 144.5, 154.5, 156.5, 159.6; IR (KBr): 3287, 1669, 1513, 1473 cm-1; MS (EI): m/z Calcd for C16H12N2O4 296.0797, Found: 296.0796.
【0047】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3,4-difluorophenyl)amide (2q)
収率: 83%; mp: 279-281℃; 1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 7.07-7.12 (2H, m), 7.24 (1H, dd, J = 7.0, 2.5 Hz), 7.32-7.34 (1H, m), 7.44 (1H, q, J = 9.0 Hz), 7.95 (1H, ddd, J = 10.1, 7.5, 2.3 Hz), 8.50 (1H, d, J = 1.0 Hz), 9.11 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 109.3 (d, J = 22.0 Hz), 116.1, 117.2, 117.8 (d, J = 18.3 Hz), 118.6 (d, J = 15.9 Hz), 119.9 (dd, J = 33.0, 7.3 Hz), 121.2, 124.1, 125.3, 142.2, 142.5, 142.7, 143.5, 144.5, 156.4, 160.7; IR (KBr): 3301, 1679, 1517, 1473 cm-1; MS (EI): m/z 316 (M+); HRMS: calcd for C16H10F2N2O3 316.0659, found 316.0654.
【0048】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3,4,5-trifluorophenyl)amide (2r)
収率: 83%; mp: 277-279℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.08-7.12 (2H, m), 7.23 (1H, dd, J = 6.7, 2.4 Hz), 7.65 (2H, dd, J = 10.1, 6.5 Hz), 8.50 (1H, s), 9.13 (1H, s), 10.24 (1H, s), 13.12 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 104.7, 104.9, 119.7, 120.5, 120.7, 124.7, 134.8, 142.5, 143.2, 144.5, 149.8, 156.2, 161.1; IR (KBr): 3306, 1680, 1531, 1473 cm-1; MS (EI): m/z 334 (M+); HRMS: calcd for C16H9F3N2O3 334.0565, found 334.0560.
【0049】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (2-trifluoromethylphenyl)amide (2s)
収率: 64%; mp: 244-245℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.07-7.14 (2H, m), 7.25 (1H, dd, J = 6.7, 2.4 Hz), 7.38 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.72 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.76 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.21 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.55 (1H, d, J = 1.2 Hz), 9.16 (1H, s), 10.25 (1H, br), 13.10 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 119.5, 119.6, 120.1, 120.5, 120.8, 124.4, 125.2, 125.7, 126.3, 133.4, 135.5, 142.3, 143.2, 144.2, 155.7, 160.9; IR (KBr): 3294, 1677, 1589, 1469 cm-1; MS (EI): m/z 348 (M+); HRMS: calcd for C17H11F3N2O3 348.0722, found 348.0732.
【0050】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3-trifluoromethylphenyl)amide (2t)
収率: 71%; mp: 256-257℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.06-7.15 (2H, m), 7.24 (1H, dd, J = 6.1, 2.5 Hz), 7.49 (1H, d, J=8.0 Hz), 7.62 (1H, t, J=8.0 Hz), 7.79 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.22 (1H, s), 8.52 (1H, s), 9.18 (1H, s), 13.20 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 115.7, 119.3, 119.6, 119.9, 120.2, 122.7, 123.3, 124.2, 129.6, 130.0, 130.3, 139.0, 142.0, 142.5, 144.0, 155.9, 160.4; IR (KBr): 3282, 1668, 1575, 1470 cm-1; MS (EI): m/z 348 (M+); HRMS: calcd for C17H11F3N2O3 348.0722, found 348.0732.
【0051】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (4-trifluoromethylphenyl)amide (2u)
収率: 78%; mp: 271-272℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.07-7.13 (2H, m), 7.25 (1H, dd, J = 6.7, 2.4 Hz), 7.74 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.88 (2H, d, J = 8.6 Hz), 8.53 (1H, d, J = 1.8 Hz), 9.17 (1H, s), 13.24 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 119.3, 119.5, 119.6, 119.9, 120.2, 124.1, 126.3, 141.7, 142.0, 144.0, 155.9, 160.4; IR (KBr): 3335, 1687, 1579, 1474 cm-1; MS (EI): m/z 348 (M+); HRMS: calcd for C17H11F3N2O3 348.0722, found 348.0732.
【0052】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (2,4-ditrifluoromethylphenyl)amide (2v)
収率: 60%; mp: 236-237℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.10-7.15 (2H, m), 7.27 (1H, dd, J = 7.0, 2.1 Hz), 8.04 (1H, s), 8.12 (1H, d, J = 8.6 Hz), 8.59 (1H, s), 8.62 (1H, d, J = 8.6 Hz), 9.23 (1H, s), 13.61 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 118.9, 119.2, 119.6, 120.0, 120.1, 120.3, 122.0, 123.3, 124.2, 124.6, 125.0, 130.3, 139.2, 142.1, 143.5, 144.0, 155.5, 160.0; IR (KBr): 3333, 1680, 1561, 1470 cm-1; MS (EI): m/z 416(M+); HRMS: calcd for C18H10F6N2O3 416.0596, found 416.0600.
【0053】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (2-isopropylphenyl)amide (2w)
収率: 76%; mp: 235-236℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 1.38 (6H, d, J = 6.7 Hz), 3.39 (1H, sept, J = 6.7 Hz), 7.25-7.49 (4H, m), 7.51 (1H, dd, J = 8.0, 1.5 Hz), 8.24 (1H, dd, J = 8.0, 1.5 Hz), 8.69 (1H, d, J = 1.5 Hz), 9.26 (1H, s), 12.78 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 22.9, 27.5, 119.4, 119.6, 120.0, 120.2, 122.6, 124.1, 124.8, 125.3, 126.0, 135.2, 139.0, 142.0, 142.2, 144.0, 156.0, 160.0; IR (KBr): 3305, 1676, 1564, 1474 cm-1; MS (EI): m/z 322(M+); HRMS: calcd for C19H18N2O3 322.1317, found 322.1321.
【0054】
8-Hydroxy-2-imino-2H-chromene-3-carboxylic acid (3-isopropylphenyl)amide (2x)
収率: 80%; mp: 235-236℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 1.21 (6H, d, J = 6.7 Hz), 2.90 (1H, sept, J = 6.7 Hz), 7.02 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.08-7.10 (2H, m), 7.22 (1H, dd, J = 6.1, 3.1 Hz), 7.29 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.47 (1H, s), 7.55 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.49 (1H, d, J = 1.2 Hz), 9.08 (1H, s), 12.81 (1H, s); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 23.8, 33.4, 117.2, 117.5, 119.4, 119.6, 120.0, 122.1, 124.1, 129.0, 138.3, 141.9, 142.0, 144.0, 149.4, 155.9, 159.7; IR (KBr): 3296, 1667, 1569, 1470 cm-1; MS (EI): m/z 322(M+); HRMS: calcd for C19H18N2O3 322.1317, found 322.1321.
【0055】
2. AKR1C3タンパク質の調製
AKR1C3 cDNAを組み込んだpkk223-3ベクターのプラスミドによって形質転換された大腸菌JM109を50μg/mLアンピシリンを含むLB培養液中に懸濁して37℃で一晩培養した。その大腸菌を1 LのLB培養液に植菌し、600 nmにおける濁度が0.4 - 0.6になるまで37℃で培養した後、isopropyl-β-D-galactopyranoside (IPTG) を終濃度が1 mMになるように添加し、37℃にてさらに8時間培養した。リコンビナント酵素の発現を誘導した大腸菌は、遠心分離 (5,000 x g、15分間、4℃) により集菌し、0.5 mM EDTAと5 mM 2-mercaptoethanol (2-ME) を含む10 mM Tris-HCl (pH 8.0) に懸濁した。この懸濁液を氷冷下超音波処理(150 W、5分間)した後、遠心分離 (12,000 x g、15分間、4℃) し、その上清を大腸菌粗抽出液とした。粗抽出液を0.15 M NaCl、20 % グリセロールを添加したbuffer A (10 mM Tris-HCl、0.5 mM EDTA、5 mM 2-ME; pH 8.0) で平衡化したSephadex G-100カラムを用いてゲル濾過を行った。溶出した酵素画分をYM-10限外濾過膜を用いて濃縮後、buffer Aに対して透析し、buffer Aで平衡化したQ-Sepharose カラムに添加した。未吸着タンパク質をbuffer Aで洗浄後、吸着した酵素を0 - 0.2 M NaClまでグラジエントにより溶出した。酵素活性画分をYM-10限外濾過膜を用いて濃縮後、buffer Aで平衡化したRed A-Sepharoseカラムに添加した。Buffer Aでカラムを洗浄後、酵素画分を0.5 mM NADP+を含むbuffer Aにより溶出した。AKR1C3精製標品はsodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis (SDS-PAGE) 分析後のcoomassie brilliant blue (CBB) R250染色において、単一のバンドを示した。
【0056】
3. AKR1C1、AKR1C2、AKR1C4タンパクの調製
AKR1C1、AKR1C4はMatsuuraらの方法 [Matsuura et al., Biochem. J., 336, 429-436. (1998)]、AKR1C2はShiraishiらの方法 [Shiraishi et al., Biochem. J., 334, 399-405] に従って均一に精製した。
【0057】
4. AKR1C3阻害活性測定
AKR1Cアイソフォーム (AKR1C1、AKR1C2、AKR1C3) の脱水素酵素活性は、以下の反応系におけるNADPHの生成速度を蛍光分光学的 (Ex. 340 nm、Em. 455 nm) に測定した。標準反応系は、0.1 M リン酸カリウム緩衝液 (pH 7.4)、0.25 mM NADP+、S-(+)-1,2,3,4-tetrahydro-1-naphthol (S-tetralol) および酵素を含む全量2.0 mLとした。酵素活性1 unit (U) は、25℃において1分間に1μmolのNADPHを生成する酵素量とした。阻害剤のIC50値は、0.1 M リン酸カリウム緩衝液 (pH 7.4)、0.25 mM NADP+、S-tetralol (AKR1C1の場合は0.1 mM、他のAKR1Cアイソフォームでは1 mM) および酵素を含む全量2.0 mLの反応系にて、5点の異なる濃度の阻害剤を添加した時の阻害率から算出した。これらの阻害定数は少なくとも3回以上の測定の平均値 ± 標準偏差で表した。
【0058】
5. 細胞培養
CWR22Rv1、PC3及びSC3細胞は37℃、5% CO2条件下の炭酸ガスインキュベーター内で培養した。増殖培地として、CWR22Rv1細胞は、10% (v/v) FBS、100 U/ml penicillin-G potassium、100μg/ml streptomycin sulfate及び10 mM [4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane sulfonic acid] HEPES緩衝液 (pH 7.0) を含むRPMI1640を用いた。また、PC3及びSC3細胞の増殖培地としては、10% (v/v) FBS、100 U/ml penicillin-G potassiumおよび100μg/ml streptomycin sulfateを含むDMEM (pH 7.4) を用いた。細胞の剥離には0.25% trypsinおよび0.02% ethylenediaminetetraacetic acid (EDTA) を含むDulbecco's phosphate buffered saline (DPBS) (pH 7.4) を用いた。
【0059】
6. 細胞増殖能の測定及びアンドロゲン受容体に対するアゴニスト活性とアンタゴニスト活性の評価
増殖培地に懸濁した細胞を48-well multiplate中に3×104 cells / 300μLずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。CWR22Rv1細胞では、抗生物質と2%の活性炭処理済血清 (charcoal stripped fetal bovine serum; CS-FBS) を含み、フェノールレッド不含のRPMI培地に交換して、PC3細胞では、抗生物質と2% FBSを含む培地に交換して2時間培養後、培地中に試料を添加してさらに24時間培養した後、24および72時間後の生細胞数を細胞生存率の測定に従って測定した。各処理時間後のMTTの吸光度を、ヒトリンパ腫由来U937細胞を用いて標準化し、生細胞数を算出した。また、アンドロゲン受容体に対するアゴニスト活性とアンタゴニスト活性の評価には野生型アンドロゲン受容体を発現するSC-3細胞を用いた。増殖培地に懸濁したSC-3細胞を3.5mm dishに4×104 cells / 2mLずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% CS-FBSを含み、フェノールレッド不含のRPMI培地に交換して、2時間培養後、培地中に各種濃度の試料を添加してさらに24時間培養した後、生細胞数を細胞生存率の測定に従って測定した。
【0060】
7. PSA mRNA発現量の測定
細胞からTRIzol試薬とRNAlater試薬を用いてtotal RNAを単離した。一本鎖complementary DNA (cDNA) はReverTra Ace qPCR RT Master Mix (Toyobo) を用いて調製した。調製したcDNA (5μg) を鋳型とし、PSAの特異的プライマー (Forward primer: 5’-CCTCCTGAAGAATCGATTCCT-3’(配列番号1)とreverse primer: 5’-GAGGTCCACACACTGAAGTT-3’ (配列番号2)) を用いてTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (Toyobo) を用いてquantitative PCR (qPCR) を行った。内標準物質として、ヒトβ-actinのcDNAを増幅しqPCRにはTakara Thermal Cycler Dice Real-Time PCR Systemを用いた。
【0061】
8. テストステロン量の測定
増殖培地に懸濁した細胞を96-well multiplate中に3×104 cells/200μLずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% CS-FBSを含み、フェノールレッド不含の培地に交換して2時間培養後、培地中に試料を添加して、さらに24時間培養し、培地を回収した。Testosterone EIA kit (Cayman) を用いて、培地中のtestosterone量を測定した。
【0062】
9. 核内AR量の測定
処理した細胞をDPBSで2回洗浄後、セルスクレイパーを用いて細胞を剥離した。回収した細胞を遠心分離 (1,500 ×g、3分間) し、上清を除去した後、buffer A [1 M HEPES (pH 7.9)、1 M KCl、0.5 M EDTA、1 M dithiothreitol (DTT)、100 mM phenylmethylsulfonyl fluoride (PMSF)] 300μlで懸濁し、氷冷下で15分間、静置した。次に、10% NP-40を加え、遠心分離 (500 ×g、3分間) を行った。上清を除去した後、buffer A 600μlで懸濁し、遠心分離 (500 ×g、1分間) を行った。上清を除去した後、buffer B [1 M HEPES (pH 7.9)、5 M NaCl、0.5 M EDTA、1 M DTT、100 mM PMSF] 80μlで懸濁し、氷冷下で15分間、静置した。次に、懸濁液を遠心分離 (15,000 ×g、15分間) し、上清を除去した後、8 M Urea、10 mM Tris (hydroxymethyl) aminomethane、50 mM Na2H2PO4を含むUrea bufferで懸濁したものを核抽出液とした。抗アンドロゲン受容体 (AR) 抗体を用いたウエスタンブロットにて核内AR量を測定した。
【0063】
10. DNA断片化
細胞をDPBSで3回洗浄後、セルスクレイパーを用いて細胞を剥離した。回収した細胞は、細胞溶解buffer [1 M Tris-HCl (pH 7.4)、0.5 M EDTA (pH 8.0)、10% Triton X-100] 100μLに溶解し、DNA断片を抽出した。4℃にて10分間静置後、遠心して得られた上清に10 mg/ml TE buffer [1M Tris-HCl (pH 7.4)、0.5 M EDTA (pH 8.0)] に溶解したRNase A 溶液2μLを加え、37℃で60分間インキュベートした。次に、10 mg/ml proteinase K 溶液2μLを加え、50℃、30分間インキュベートした後、5 M NaClとイソプロバノールをそれぞれ5μLと120μL加え、-30℃で一晩置いた。遠心分離して、単離したDNAをTEバッファー20μLに溶解し、2% アガロースゲルで電気泳動後、エチジウムブロマイド染色し、UV照射下にて検出した。
【0064】
11. アポトーシス関連因子のウエスタンブロット
処理した細胞をDPBSで3回洗浄後、セルスクレイパーを用いて細胞を剥離した。回収した細胞は、Urea bufferで懸濁してソニケーションにより細胞膜を破壊した。細胞破砕液を遠心分離 (15,000 ×g、15分間、4℃) し、その上清を細胞抽出液とした。cleaved PARPとβ-actinは 12.5%ポリアクリルアミドゲルを、Bax、Bcl-2は15%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分離後、ゲル上のタンパク質を電気的にPVDF膜に転写した。PVDF膜は、BSA又はスキムミルクを用いてブロッキング後、Bcl-2、Bax、Cleaved PARP、ヒトβ-actinに対する一次抗体とhorseradish peroxidase標識二次抗体と順次反応させた。抗体反応性タンパク質はECL enhanced chemiluminescence detection kit (GE healthcare) を用いた化学発光法により検出した。
【0065】
12. 蛍光免疫染色
増殖培地に懸濁した細胞を24-well multiplate中に7.5×104 cells/500μLずつ播種し、37℃、5% CO2条件下で一晩培養した。培地を除去後、DPBSで細胞を2回洗浄した。4% paraformaldehyde phosphate buffer solution 300μLを加え、10分間固定し、0.1% Triton X-100、100 mM glycineを含むDPBS 300μLを加え、10分間静置した。0.1 % Tween 20、1% BSAを含むDPBS 300μLを加え、1時間ブロッキングし、DPBSで2回洗浄後、DPBSに300 : 1 に希釈した一次抗体 (抗Caspase-3抗体) 液中に、4℃で一晩インキュベートした。PBSで2回洗浄後、DPBSに500 : 1 で希釈したAlexa Fluoro-488標識したウサギ二次抗体液中に、室温で1時間遮光してインキュベートした。PBSで2回洗浄後、余分な水分を除去し、スライドグラス上にマウント剤 (DAPI fluoromount-G) を用いてカバーグラスを固定した。蛍光免疫染色した細胞を、共焦点レーザー顕微鏡LSM700 (Carl Zeiss) にセットし、蛍光観察を行った。倒立型蛍光顕微鏡の100倍油浸対物レンズを用いて、画像を取り込んだ。
【0066】
13. in vivo抗腫瘍活性評価
6週齢Balb/c nu/nuマウスの皮下に5×105個のCWR22Rv1細胞を移植し、ランダムにコントロールとしてDMSOを投与した群 (n=15) と100 mg/kgの化合物2lを投与した群 (n=10) を用意し、週に2回腹腔内投与した。週に一回体重および腫瘍径 (長径、短径) を計測し、腫瘍体積は近似値として(長径)2×短径/2の式で算出した。
【0067】
<結果>
1. クロメン誘導体を基にした新規AKR1C3阻害剤の創製研究
予備的に見出したAKR1C3阻害活性を有するクロメン骨格を有する化合物をリード化合物とし、構造最適化研究を行った。8位の水産基がAKR1C3阻害活性に必須であることが明らかとなったため24種の8-ヒドロキシクロメン誘導体を合成し、AKR1C3阻害活性を評価した (表1)。4位にフルオロ基を有する2dと同様に無置換体である2aに加えて、ベンゼン環にフルオロ基、クロル基、メチル基、エチル基を導入した誘導体2b-mはいずれも強力なAKR1C3阻害活性を有し、中でも4位にメチル基を有する2jはIC50値が9.1 nMと最も強力な阻害活性を示した。フルオロ基の数を2つあるいは3つに増やした誘導体2qと2rの阻害活性は2dよりも若干低下した。ベンゼン環のメチル基をフルオロメチル基に置換しても2s-vの阻害効果はほとんど変わらなかった。また2jより炭素鎖を一つ伸ばした誘導体2wと2xの阻害活性は低下した。一方、3位に水酸基を有する2oが強い阻害活性を示したのに対して、2位及び4位に水酸基を有する2nと2pはほとんどAKR1C3を阻害しなかった。
【表1】
【0068】
次に、これら8-ヒドロキシクロメン誘導体の阻害活性がAKR1C3に特異的か否かを検討すべく、AKR1C3と高い構造類似性を示すAKR1Cサブファミリー酵素AKR1C1、AKR1C2、AKR1C4に対する2c-f、2jと2lの阻害活性を評価した (表2)。これら酵素は8-ヒドロキシクロメン誘導体によってほとんど阻害されなかった。そのため、これら8-ヒドロキシクロメン誘導体は強力なAKR1C3阻害活性を示すだけでなく、高い選択性も兼ね備えていることが分かった。
【表2】
表2. ヒトAKR1Cサブファミリー酵素間での阻害選択性
【0069】
強力かつ選択的なAKR1C3阻害活性を示した2d、2jと2lの前立腺がん細胞増殖効果について、AKR1C3を高発現するCWR22Rv1細胞株を用いて種々検討を行った。
【0070】
2. 新規AKR1C3阻害剤の前立腺がん治療薬としての有効性評価
精製酵素を用いた検討において強力なAKR1C3阻害活性を示した2d、2jと2lの前立腺がん細胞増殖抑制効果について、AKR1C3が高発現するCWR22Rv1細胞を用いて種々検討を行った。アンドロゲンの供給源をプレグネノロン(pregnenolone)またはアンドロステンジオン(androstenedione)に限定するため、培地には2% CS-FBSを含むフェノールレッド不含のRPMI1640を用いた。まず、CWR22Rv1細胞に細胞増殖を誘導するpregnenolone濃度の最適化を行った。Pregnenoloneは濃度依存的に細胞の生細胞数を増加させ、その効果は20 nMで最も高かった (図1A)。そこで、この後の検討には、最も細胞増殖の誘導が認められた20 nM pregnenoloneを使用した。Pregnenolone誘導性細胞増殖は、ARアンタゴニストであるフルタミド(flutamide)とエンザルタミド(enzalutamide)やCYP17A1阻害剤であるアビラテロン(abiraterone)と同様に、AKR1C3阻害剤2d、2jと2lによって抑制された (図1B)。これらAKR1C3阻害剤による増殖抑制効果はabirateroneほどではないが、flutamideとenzalutamideに匹敵した。
【0071】
新規AKR1C3阻害剤によるアンドロゲン依存性の細胞増殖抑制機構を明らかにするため、細胞内のテストステロン量を測定した。AKR1C3阻害剤の効果を明確にするため、テストステロン(testosterone)とandrostenedioneの還元代謝を触媒する5α還元酵素 (SRD5A1、2) の阻害剤フィナステリド(finasteride)存在下、2d、2jと2lを添加したところ、finasteride単独添加群と比較して、テストステロンの生成量は有意に減少した (図2A)。AKR1C3の還元代謝産物であるtestosteroneはSRD5A1、2により細胞内で還元代謝されて、5α-DHTになる。ARはリガンド結合ドメインでheat shock protein (HSP) 90と結合した状態で細胞質に存在し、5α-DHTと結合することによってHSP90を遊離し、二量体を形成し、核内に移行する。その後、ARはDNA上のプロモーター領域に存在するアンドロゲン応答配列 (androgen receptor element; ARE) に結合し、PSAやTMPRSS2などの標的遺伝子の転写を促進することで、細胞増殖を亢進させる。そこで、ARの核内移行に及ぼす2d、2jと2lの影響をウエスタンブロットを用いて検討したところ、androstenedione添加によって顕著に増加した核内のAR発現量は、2d、2jと2lの添加によって減少した (図2B)。
【0072】
2dと2jはARの核内移行を抑制したため、ARの標的遺伝子であるPSA mRNAの発現に及ぼす2d、2jと2lの影響をreal-time PCR法を用いて検討した。その結果、pregnenolone処理によって増加したPSAのmRNA発現量は、2d、2jと2lの添加によってabiraterone程強力ではないが、flutamideやenzalutamideと同程度に低下した (図2C)。
【0073】
ARを発現していない前立腺がんPC3細胞を用いて、2d、2jと2l添加によるアンドロゲン非依存性の細胞増殖への影響を種々検討した。AKR1C3はアンドロゲン合成に加えて、プロスタグランジン(prostaglandin) F (PGF) 受容体のリガンドであるPGFや9α,11β-PGF2の生合成を介したmitogen-activated protein kinase (MAPK) 経路やホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(phosphatidylinositol-3 kinase) (PI3K) 経路の活性化によってがん細胞の増殖に関与することが報告されている。そこで、AKR1C3を内因的に発現するPC3細胞を用いて、2d、2jと2lが細胞増殖に及ぼす影響を検討した。その結果、2d、2jと2l添加後24時間での影響は小さかったものの、72時間後では、DMSOを添加したコントロール細胞と比較して、有意な生細胞数の減少が確認された (図3)。
【0074】
ARの主要なリガンドであるtestosteroneと5α-DHTはAKR1C3による17位の還元によって合成される。そのため、ARとAKR1C3のリガンド結合部位は類似することが想定される。これまでにAKR1C3とARの両方を阻害する化合物は報告されておらず、アンドロゲン合成経路を複数の作用点で阻害することができれば画期的なことである。そこで、野生型ARを発現する乳がんSC-3細胞を用いて、各種8-ヒドロキシクロメン誘導体のARアゴニスト活性とアンタゴニスト活性を評価した。SC-3細胞に10μMの各種8-ヒドロキシクロメン誘導体あるいは1 nM 5α-DHTを処理し、24時間後の生細胞数を測定することでアゴニスト活性を評価した。その結果、DMSOを添加したコントロール群と比較して、5α-DHTの添加時に生細胞数は有意に増加したが、4種の誘導体 (2f, 2g, 2q, 2r) 添加時にわずかに生細胞数の減少が確認されたのみで、その他12種の誘導体 (2a-e, 2j-p) 添加時に生細胞数への影響は認められなかった。したがって、今回開発した8-ヒドロキシクロメン誘導体はARアゴニスト活性作用を示さないことが明らかとなった (図4A)。次に、1 nM DHT共存下、各種濃度のARアンタゴニストであるヒドロキシフルタミド(hydroxyflutamide) (HF) あるいは各種8-ヒドロキシクロメン誘導体で前処理したSC-3細胞の24時間後の生細胞数を測定し、DHT単独処理群の生細胞数を基準とし、IC50値を算出することでARアンタゴニスト活性を評価した。その結果、8種類の誘導体 (2b-e, 2j-m) のIC50値はHFのIC50値と比較して、阻害活性は10倍程度低かったものの、ARアンタゴニスト作用を示した (図4B)。
【0075】
CWR22Rv1細胞を用いて、AKR1C3阻害剤2d、2jと2lと既存の治療薬との併用効果を検討した。その結果、pregnenolone誘導性細胞増殖は、5μM 2d、2jと2l、flutamide、abiraterone、enzalutamide処理によって有意に抑制された。また、flutamide、abiraterone、enzalutamideのいずれの治療薬を用いた場合においても、2d、2jと2lの併用処理は、単独処理と比較して、有意に細胞増殖を抑制したことから、既存の治療薬とAKR1C3阻害剤の併用で抗がん活性の増強が可能であることが示された (図5)。
【0076】
一般に抗がん剤による抗腫瘍効果にアポトーシス性細胞死が関与することが知られる。そこで、enzalutamideと2dと2jの併用によるアポトーシスへの影響を検討した (図6)。Enzalutamideと2dと2jの併用処理は、単独処理と比較して、アポトーシスに特徴的な現象であるDNAの断片化を亢進した (図6A)。また、2dと2jの併用処理によって、PARPの分解、Bax発現量の増加、Bcl-2発現量の減少、活性型カスパーゼ(caspase)-3の増加も認められた (図6B,C)。さらに、CWR22Rv1細胞の生存率は、enzalutamide単独処理時と比較して、2dと2jの併用により有意に低下した (図6D)。
【0077】
同様の検討を作用機序の異なるCRPC治療薬abirateroneを用いて行った (図7)。Enzalutamideの場合と同様に、abirateroneと2dと2jの併用処理によって、DNA断片化、PARPの分解、Bax発現量の増加、Bcl-2発現量の減少、活性型caspase-3の増加は、いずれも単独処理時よりも亢進し、細胞生存率も有意に低下した。
【0078】
さらに、2lによる両CRPC阻害剤誘導性アポトーシス増強効果を検証した (図8)。併用処理によって、DNA断片化、PARPの分解、活性型caspase-3の増加は、いずれも単独処理時よりも亢進し、細胞生存率も有意に低下した。
【0079】
今回検討した3種の化合物のうち、2jはCAS番号のみ登録された文献未記載の化合物である。一方、2lはこれまでに未発表の新規化合物であった。そこで、新規化合物である2lについてin vivo抗腫瘍効果を検討した (図9)。6週齢Balb/c nu/nuマウスの皮下に5×105個のCWR22Rv1細胞を移植し、ランダムにコントロールとしてDMSOを投与した群 (n=15) と100 mg/kgの2lと投与した群 (n=10) を用意し、週に2回腹腔内投与した。週に一回体重および腫瘍径 (長径、短径) を計測し、腫瘍体積は近似値として、(長径)2×短径/2の式で算出した。2lと投与した群では、顕著な腫瘍サイズの抑制効果が示された。
【0080】
<考察>
強力且つ選択的なAKR1C3阻害活性を示す複数の8-ヒドロキシクロメン誘導体が見出された。即ち、有用性の高い新規AKR1C3阻害剤の開発に成功した。新規AKR1C3阻害剤は前立腺がん細胞の増殖を抑制した。また、代表的な化合物を用いた実験によって、in vivoでの抗腫瘍効果も確認された。重要なことの一つは、新規AKR1C3阻害剤は、ARを発現していない前立腺がん細胞に対しても細胞増殖抑制活性を示し、CRPCの治療への適用も期待されるものであった。
【0081】
一方、新規AKR1C3阻害剤はARアンタゴニスト作用も示した(ARアゴニスト活性作用は示さない)。このような特性を持つ化合物の報告はない。新規AKR1C3阻害剤によれば複数の作用点(AKR1C3とAR)でアンドロゲン合成経路を阻害でき、また、強力なPSA降下作用を期待できる。
【0082】
既存薬と新規AKR1C3阻害剤の併用によって抗がん活性の増強が認められた。この事実は、新規AKR1C3阻害剤が既存薬と異なる作用機序に基づき治療効果を発揮することを裏付けるとともに、既存薬との併用による、治療効果の高い治療戦略が可能になることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0083】
世界保健機構の報告によると、全世界で新たながん患者は毎年1400万人以上増え、年間760万人が死亡している。中でもホルモン依存性がんである前立腺がんの日本における罹患率は欧米の10%程度と低いが、食の欧米化などに伴い増加している。これらホルモン依存性がんの治療にはホルモン療法が有効であるが、先天的に若しくは治療の過程でホルモン感受性が消失した去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)についてはホルモン療法は全く効果がなく、新規抗がん剤の開発が必要である。本発明のAKR1C3阻害剤は化学合成も容易であり、大量生産にも適する。本発明のAKR1C3阻害剤をがん治療に応用すれば、患者の治療機会の向上、ひいては国民医療費の削減に寄与できる。本発明のAKR1C3阻害剤には特にCRPC治療薬への利用・応用が期待される。
【0084】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリーテキスト】
【0085】
配列番号1:人工配列の説明:フォワードプライマー
配列番号2:人工配列の説明:リバースプライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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