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特許7178077伴流場設計方法、伴流場設計システム、及び伴流場を考慮した船舶
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】伴流場設計方法、伴流場設計システム、及び伴流場を考慮した船舶
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/15 20200101AFI20221117BHJP
   B63B 3/00 20060101ALI20221117BHJP
   B63B 1/32 20060101ALI20221117BHJP
   B63H 5/16 20060101ALI20221117BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20221117BHJP
   G06F 113/08 20200101ALN20221117BHJP
【FI】
G06F30/15
B63B3/00 Z
B63B1/32 Z
B63H5/16 C
G06F30/20
G06F113:08
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018096661
(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2019200752
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 康雄
(72)【発明者】
【氏名】田原 裕介
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 純一
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105197179(CN,A)
【文献】中国実用新案第203268307(CN,U)
【文献】中国実用新案第203473229(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第106697179(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
B63B 3/00
B63B 1/32
B63H 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伴流場設計システムを用いた船舶の船尾に生ずる伴流場の設計方法であって、前記伴流場設計システムが、入力された船体、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに対する条件を取得し、入力された前記条件に対して前記船体、前記船尾付加物、及び前記プロペラの少なくとも一つに対する前記伴流場を、予め構築した船型と伴流場をリンクさせた船型・伴流場データベースに基づいて解析し、前記伴流場の解析結果に基づいて前記船尾付加物、及び前記プロペラの少なくとも一つに適した前記伴流場の設計を行い、前記伴流場の設計結果を出力することを特徴とする伴流場設計方法。
【請求項2】
前記伴流場設計システムにおける前記伴流場の設計は、目標とする前記伴流場に近い船型データの選定を前記船型・伴流場データベースに基づいて行い、目標とする前記伴流場が得られる船型を生成することを特徴とする請求項1に記載の伴流場設計方法。
【請求項3】
目標とする前記伴流場に近い前記船型データを複数選定し、平均化して目標とする前記伴流場が得られる前記船型を生成することを特徴とする請求項2に記載の伴流場設計方法。
【請求項4】
目標とする前記伴流場を得られる前記船型を生成した後、前記船尾付加物、及び前記プロペラの少なくとも一つの設計を行うことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の伴流場設計方法。
【請求項5】
前記伴流場設計システムにおいて、前記船型・伴流場データベースに基づいて、前記船尾付加物、及び前記プロペラの少なくとも一つに適した最適伴流場データベースを構築し、前記最適伴流場データベースを利用し前記船体の制約条件を考慮した上、前記船尾付加物、及び前記プロペラの少なくとも一つに適した前記伴流場を選定することを特徴とする請求項1に記載の伴流場設計方法。
【請求項6】
前記船体の制約条件を考慮した前記船型を生成することを特徴とする請求項5に記載の伴流場設計方法。
【請求項7】
前記伴流場設計システムにおいて、前記船体の制約条件を設定し、前記船型・伴流場データベースに基づいて前記制約条件に対する前記伴流場の統計的解析を行い、前記制約条件の下での伴流場統計データを得ることを特徴とする請求項1に記載の伴流場設計方法。
【請求項8】
前記伴流場統計データを基に、前記制約条件の下での前記船尾付加物、及び前記プロペラの少なくとも一つの最適な設計を行うことを特徴とする請求項7に記載の伴流場設計方法。
【請求項9】
前記伴流場設計システムの前記船型・伴流場データベースにおける前記伴流場は、前記船型が変わっても流れの変化の少ない節を有した流場であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の伴流場設計方法。
【請求項10】
船舶の船尾に生ずる伴流場の設計システムであって、船体、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに対する条件を入力する条件入力手段と、船型と伴流場をリンクさせたデータを記憶した船型・伴流場データベース手段と、入力した前記条件に対して前記船型・伴流場データベース手段の前記データに基づいて前記伴流場を解析する伴流場解析手段と、前記伴流場の解析結果に基づいて前記伴流場の設計を行う伴流場設計手段と、前記伴流場の設計結果を出力する伴流場出力手段とを備えたことを特徴とする伴流場設計システム。
【請求項11】
前記伴流場解析手段が、目標とする前記伴流場に近い船型データの選定を前記船型・伴流場データベース手段に基づいて行い、選定した前記船型データに従って、前記伴流場設計手段が、目標とする前記伴流場が得られる船型を生成することを特徴とする請求項10に記載の伴流場設計システム。
【請求項12】
前記伴流場設計手段における前記伴流場の設計は、目標とする前記伴流場に近い複数の前記船型データを、平均化して目標とする前記伴流場が得られる前記船型を生成することを特徴とする請求項11に記載の伴流場設計システム。
【請求項13】
前記伴流場設計手段における前記伴流場の設計は、目標とする前記伴流場が得られる前記船型を生成した後、前記船尾付加物、及び前記プロペラの少なくとも一つの設計を行うことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の伴流場設計システム。
【請求項14】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の伴流場設計方法を用いた伴流場を考慮した船舶であって、前記伴流場の前記設計結果に基づいた前記船尾付加物としてダクトを用い、前記ダクトの前記伴流場に対応する開き角を-3°以上14°以下とした条件に適した前記船体を備え、前記船体がS.S.2.0付近の船底部を、前記船型・伴流場データベースに記憶され前記伴流場の設計に用いた原型船の船体よりも肥大させ前記伴流場の改善を図った船体であることを特徴とする伴流場を考慮した船舶。
【請求項15】
記伴流場の流れの前記ダクトに対する流入角の変動幅を25°以下とした前記条件に適した前記船体であることを特徴とする請求項14に記載の伴流場を考慮した船舶。
【請求項16】
前記流入角を25°以下とする範囲は、少なくとも前記ダクトの縦方向中心線の上部交点0°から90°の範囲内としたことを特徴とする請求項15に記載の伴流場を考慮した船舶。
【請求項17】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の伴流場設計方法を用いた伴流場を考慮した船舶であって、前記伴流場の前記設計結果に基づいた前記プロペラが、前記伴流場の流れを受けるプロペラ面を有し、前記プロペラの半径の60%以上100%以下の位置で、前記プロペラ面に対する前記伴流場の流れの周方向分布の変動率を0.4以下とし得る前記条件に適した前記船体を備え、前記船体がS.S.2.0付近の船底部を、前記船型・伴流場データベースに記憶され前記伴流場の設計に用いた原型船の船体よりも肥大させ前記伴流場の改善を図った船体であることを特徴とする伴流場を考慮した船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伴流場設計方法、伴流場設計システム、及び伴流場を考慮した船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船型が誘起する船尾伴流分布(船舶の船尾に生ずる伴流場)の設計は、熟練技術者の経験則に基づく試行錯誤でのみ実施できる困難なものであったため、図24に示すように、船尾付加物とプロペラは、船体に対して従属的に設計されていた。そのため、船尾付加物とプロペラに適した船体が設計されず、船体・プロペラ・省エネ付加物の相互干渉を踏まえた全体最適化は行われていなかった。
【0003】
ところで、特許文献1には、流体に浮かぶ船舶の形状を示す設計データを生成する船舶デザインプログラムと、設計データを格子データにデータ変換する計算格子作成ツールと、条件を生成する計算条件設定プログラムと、格子データとその条件とに基づいて船舶が航行中の流体の流場を模擬的に導出する流場計算プログラムと、流場に基づいて流体が船舶に作用する流体力学的性能を導出する船舶性能評価プログラムと、流体力学的性能を表示装置に表示する可視化ツールとを具備した船舶設計装置が開示されている。
また、特許文献2には、船体まわりの二重模型流れの計算によって求めた圧力係数の変化量の船首部および船尾部における積分値より得られる船型の流場特性を示すパラメ-タと、船尾の二次流れによる抵抗増加を表すパラメ-タおよび船型の幾何形状パラメ-タを用いて、形状影響係数推定の回帰式を作成し、該推定回帰式により粘性抵抗を推定する肥大船の粘性抵抗推定法が開示されている。
また、特許文献3には、船舶の船尾部に下降流をせき止めて整流するための船尾フィンを設け、船尾フィンの存在下にてプロペラ前方の船尾ダクト設置位置における作動流場を計測又は解析し、作動流場にて最も動力削減効果が高くなる船尾ダクトを設計して設け、船尾フィン及び船尾ダクトの存在下にて舵の左右両側に設けるラダーフィン設置位置における作動流場を計測又は解析し、作動流場にて最も動力削減効果が高くなるようラダーフィンを設計して設ける船尾部構造の設計方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-9858号公報
【文献】特開2001-138981号公報
【文献】特開2006-347285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
船尾伴流の分布形状は、省エネ付加物の効果の向上、及びプロペラ効率の向上やキャビテーションの低減に深く関連するが、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を実現する手法は今まで提案されていない。
特許文献1には、他の船舶が航行中の流体の圧力と流速とを示す他の流場を模擬的に導出する流場計算プログラムが記載されているが、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を実現するものではない。
また、特許文献2には、満載状態の形状影響係数(1+K)の58隻の水槽試験での計測結果をデータベースにして、推定回帰式を作成する旨が記載されているが、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を実現するものではない。
また、特許文献3には、船尾ダクトやラダーフィンは船体に従属的に設計されるため、省エネ付加物に適した船体が設計されない。すなわち、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を実現するものではない。
【0006】
そこで本発明は、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を実現する伴流場設計方法、伴流場設計システム、及び伴流場を考慮した船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した伴流場設計方法においては、伴流場設計システムを用いた船舶の船尾に生ずる伴流場の設計方法であって、伴流場設計システムが、入力された船体、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに対する条件を取得し、入力された条件に対して船体、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに対する伴流場を、予め構築した船型と伴流場をリンクさせた船型・伴流場データベースに基づいて解析し、伴流場の解析結果に基づいて船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した伴流場の設計を行い、伴流場の設計結果を出力することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、船体(船型)と伴流場の対応付けが容易となり、船尾付加物とプロペラに適した船体を設計することができ、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化が実現する。
【0008】
請求項2記載の本発明は、伴流場設計システムにおける伴流場の設計は、目標とする伴流場に近い船型データの選定を船型・伴流場データベースに基づいて行い、目標とする伴流場が得られる船型を生成することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、簡便に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、目標とする伴流場に近い船型データを複数選定し、平均化して目標とする伴流場が得られる船型を生成することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、より効率的に、また的確に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、目標とする伴流場を得られる船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの設計を行うことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの詳細設計を行なうことが可能となり、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化をより精度よく行うことができる。
【0011】
請求項5記載の本発明は、伴流場設計システムにおいて、船型・伴流場データベースに基づいて、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した最適伴流場データベースを構築し、最適伴流場データベースを利用し船体の制約条件を考慮した上、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した伴流場を選定することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、最適伴流場データベースを利用し船体の制約条件に合わせて船尾付加物、及びプロペラの目標とする最適な伴流場を得ることができる。
【0012】
請求項6記載の本発明は、船体の制約条件を考慮した船型を生成することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、船尾付加物、及びプロペラに適した伴流場を実現する船型を船体の制約条件を考慮したうえ生成できるので、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化をより精度よく行うことができる。
【0013】
請求項7記載の本発明は、伴流場設計システムにおいて、船体の制約条件を設定し、船型・伴流場データベースに基づいて制約条件に対する伴流場の統計的解析を行い、制約条件の下での伴流場統計データを得ることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、船型情報が不明な場合や、伴流場の推定が行えない場合であっても、一定の制約条件下のどの船舶に対しても一般に最適な効果がある船尾付加物やプロペラの設計が可能となる。例えば、船体の詳細な設計情報が不明な既存船や流場解析が予算の関係で行なえない新造船等への伴流場の推定を通じた最適な船尾付加物やプロペラの設計が可能となる。
【0014】
請求項8記載の本発明は、伴流場統計データを基に、制約条件の下での船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの最適な設計を行うことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、船型情報が不明な場合や、伴流場の推定が行えない場合であっても、伴流場統計データを基に、一定の制約条件下のどの船舶に対しても一般に最適な効果がある船尾付加物やプロペラを設計することができる。
【0015】
請求項9記載の本発明は、伴流場設計システムの船型・伴流場データベースにおける伴流場は、船型が変わっても流れの変化の少ない節を有した流場であることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、節を有した流場を用いて、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を行うことができる。例えば、流れの変化の少ない節に船尾付加物、及びプロペラを臨ませて、性能の向上を図ることができる。
【0016】
請求項10記載に対応した伴流場設計システムにおいては、船舶の船尾に生ずる伴流場の設計システムであって、船体、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに対する条件を入力する条件入力手段と、船型と伴流場をリンクさせたデータを記憶した船型・伴流場データベース手段と、入力した条件に対して船型・伴流場データベース手段のデータに基づいて伴流場を解析する伴流場解析手段と、伴流場の解析結果に基づいて伴流場の設計を行う伴流場設計手段と、伴流場の設計結果を出力する伴流場出力手段とを備えたことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、船体(船型)と伴流場の対応付けが容易となり、船尾付加物とプロペラに適した船体を設計することができ、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化が実現する。
【0017】
請求項11記載の本発明は、伴流場解析手段が、目標とする伴流場に近い船型データの選定を船型・伴流場データベース手段に基づいて行い、選定した船型データに従って、伴流場設計手段が、目標とする伴流場が得られる船型を生成することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、簡便に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0018】
請求項12記載の本発明は、伴流場設計手段における伴流場の設計は、目標とする伴流場に近い複数の船型データを、平均化して目標とする伴流場が得られる船型を生成することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、より効率的に、また的確に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0019】
請求項13記載の本発明は、伴流場設計手段における伴流場の設計は、目標とする伴流場が得られる船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの設計を行うことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの詳細設計を行なうことが可能となり、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化をより精度よく行うことができる。
【0020】
請求項14記載に対応した伴流場を考慮した船舶においては、伴流場設計方法を用いた伴流場を考慮した船舶であって、伴流場の設計結果に基づいた船尾付加物としてダクトを用い、ダクトの伴流場に対応する開き角を-3°以上14°以下とした条件に適した船体を備え、船体がS.S.2.0付近の船底部を、船型・伴流場データベースに記憶され伴流場の設計に用いた原型船の船体よりも肥大させ伴流場の改善を図った船体であることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を実現した船舶を提供することができる。また、伴流場として効果の大きな開き角の範囲にダクトを臨ませることができ、ダクトによる省エネ効果をより一層高めることができる。また、船尾縦渦を強め、その中心をプロペラ軸芯と同等の高さに下げることができ、伴流場の改善が図れる。
【0021】
請求項15記載の本発明は、伴流場の流れのダクトに対する流入角の変動幅を25°以下とした条件に適した船体であることを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、伴流場を考慮してダクトによる省エネ効果をより一層高めることができる。
【0022】
請求項16記載の本発明は、流入角を25°以下とする範囲は、少なくともダクトの縦方向中心線の上部交点0°から90°の範囲内としたことを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、伴流場として効果の大きな流入角の範囲にダクトを臨ませることができ、ダクトによる省エネ効果を効率的に高めることができる
【0023】
求項17記載に対応した伴流場を考慮した船舶においては、伴流場設計方法を用いた伴流場を考慮した船舶であって、伴流場の設計結果に基づいたプロペラが、伴流場の流れを受けるプロペラ面を有し、プロペラの半径の60%以上100%以下の位置で、プロペラ面に対する伴流場の流れの周方向分布の変動率を0.4以下とし得る条件に適した船体を備え、船体がS.S.2.0付近の船底部を、船型・伴流場データベースに記憶され伴流場の設計に用いた原型船の船体よりも肥大させ伴流場の改善を図った船体であることを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、伴流場を考慮してプロペラ効率をより一層高めることができる。また、プロペラとして効果の大きい範囲の変動率を押さえられるため、効率的にプロペラ効率を高めることができる。また、船尾縦渦を強め、その中心をプロペラ軸芯と同等の高さに下げることができ、伴流場の改善が図れる。
【発明の効果】
【0024】
発明の伴流場設計方法によれば、船体(船型)と伴流場の対応付けが容易となり、船尾付加物とプロペラに適した船体を設計することができ、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化が実現する。
【0025】
また、伴流場設計システムにおける伴流場の設計は、目標とする伴流場に近い船型データの選定を船型・伴流場データベースに基づいて行い、目標とする伴流場が得られる船型を生成する場合には、簡便に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0026】
また、目標とする伴流場に近い船型データを複数選定し、平均化して目標とする伴流場が得られる船型を生成する場合には、より効率的に、また的確に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0027】
また、目標とする伴流場を得られる船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの設計を行う場合には、船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの詳細設計を行なうことが可能となり、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化をより精度よく行うことができる。
【0028】
また、伴流場設計システムにおいて、船型・伴流場データベースに基づいて、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した最適伴流場データベースを構築し、最適伴流場データベースを利用し船体の制約条件を考慮した上、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した伴流場を選定する場合には、最適伴流場データベースを利用し船体の制約条件に合わせて船尾付加物、及びプロペラの目標とする最適な伴流場を得ることができる。
【0029】
また、船体の制約条件を考慮した船型を生成する場合には、船尾付加物、及びプロペラに適した伴流場を実現する船型を船体の制約条件を考慮したうえ生成できるので、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化をより精度よく行うことができる。
【0030】
また、伴流場設計システムにおいて、船体の制約条件を設定し、船型・伴流場データベースに基づいて制約条件に対する伴流場の統計的解析を行い、制約条件の下での伴流場統計データを得る場合には、船型情報が不明な場合や、伴流場の推定が行えない場合であっても、一定の制約条件下のどの船舶に対しても一般に最適な効果がある船尾付加物やプロペラの設計が可能となる。例えば、船体の詳細な設計情報が不明な既存船や流場解析が予算の関係で行なえない新造船等への伴流場の推定を通じた最適な船尾付加物やプロペラの設計が可能となる。
【0031】
また、伴流場統計データを基に、制約条件の下での船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの最適な設計を行う場合には、船型情報が不明な場合や、伴流場の推定が行えない場合であっても、伴流場統計データを基に、一定の制約条件下のどの船舶に対しても一般に最適な効果がある船尾付加物やプロペラを設計することができる。
【0032】
また、伴流場設計システムの船型・伴流場データベースにおける伴流場は、船型が変わっても流れの変化の少ない節を有した流場である場合には、節を有した流場を用いて、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を行うことができる。例えば、流れの変化の少ない節に船尾付加物、及びプロペラを臨ませて、性能の向上を図ることができる。
【0033】
また、本発明の伴流場設計システムによれば、船体(船型)と伴流場の対応付けが容易となり、船尾付加物とプロペラに適した船体を設計することができ、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化が実現する。
【0034】
また、伴流場解析手段が、目標とする伴流場に近い船型データの選定を船型・伴流場データベース手段に基づいて行い、選定した船型データに従って、伴流場設計手段が、目標とする伴流場が得られる船型を生成する場合には、簡便に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0035】
また、伴流場設計手段における伴流場の設計は、目標とする伴流場に近い複数の船型データを、平均化して目標とする伴流場が得られる船型を生成する場合には、より効率的に、また的確に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0036】
また、伴流場設計手段における伴流場の設計は、目標とする伴流場が得られる船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの設計を行う場合には、船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの詳細設計を行なうことが可能となり、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化をより精度よく行うことができる。
【0037】
また、本発明の伴流場を考慮した船舶によれば、伴流場の設計結果に基づいた船尾付加物としてダクトを用い、ダクトの伴流場に対応する開き角を-3°以上14°以下とした条件に適した船体を備え、船体がS.S.2.0付近の船底部を、船型・伴流場データベースに記憶され伴流場の設計に用いた原型船の船体よりも肥大させ伴流場の改善を図った船体であることで、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を実現した船舶を提供することができる。また、伴流場として効果の大きな開き角の範囲にダクトを臨ませることができ、ダクトによる省エネ効果をより一層高めることができる。また、船尾縦渦を強め、その中心をプロペラ軸芯と同等の高さに下げることができ、伴流場の改善が図れる。
【0038】
また、伴流場の流れのダクトに対する流入角の変動幅を25°以下とした条件に適した船体である場合には、伴流場を考慮してダクトによる省エネ効果をより一層高めることができる。
【0039】
また、流入角を25°以下とする範囲は、少なくともダクトの縦方向中心線の上部交点0°から90°の範囲内とした場合には、伴流場として効果の大きな流入角の範囲にダクトを臨ませることができ、ダクトによる省エネ効果を効率的に高めることができる
【0040】
た、本発明の伴流場を考慮した船舶によれば、伴流場の設計結果に基づいたプロペラが、伴流場の流れを受けるプロペラ面を有し、プロペラの半径の60%以上100%以下の位置で、プロペラ面に対する伴流場の流れの周方向分布の変動率を0.4以下とし得る条件に適した船体を備え、船体がS.S.2.0付近の船底部を、船型・伴流場データベースに記憶され伴流場の設計に用いた原型船の船体よりも肥大させ伴流場の改善を図った船体であることで、伴流場を考慮してプロペラ効率をより一層高めることができる。また、プロペラとして効果の大きい範囲の変動率を押さえられるため、効率的にプロペラ効率を高めることができる。また、船尾縦渦を強め、その中心をプロペラ軸芯と同等の高さに下げることができ、伴流場の改善が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1発明の本実施形態による伴流場設計システムのブロック図
図2】同船型データベースに格納されている船型例(S.S.1.0)を示す図
図3】同船型データベースに格納されている船型例(船尾プロファイル)を示す図
図4】同伴流場データベース(プロペラ面の伴流分布)の例を示す図
図5】同2730個体の船型の全ての流場データについて軸方向の流速分布をプロペラ半径位置毎にまとめた図
図6】同2730個体の船型全ての伴流場データのダクト翼断面への流入角の分布を示す図
図7】同伴流場設計方法を示すフロー図
図8】同目標とする伴流場の設計方法を示すフロー図
図9】同設計した伴流分布を示す図
図10】同原型船と生成した船型の比較図(S.S.1.0)
図11】同原型船と生成した船型の比較図(船尾プロファイル)
図12】本発明の他の実施形態による伴流場設計方法を示すフロー図
図13】原船型を用いた水槽試験の様子を示す図
図14】生成した船型を用いた水槽試験の様子を示す図
図15】原型船の計測した伴流分布を示す図
図16】生成した船型(システム出力船型)の計測した伴流分布を示す図
図17】原船型におけるダクト翼断面への周方向流入角の分布を示す図
図18】生成した船型におけるダクト翼断面への周方向流入角の分布を示す図
図19】ダクト流入角αの説明図
図20】ダクト位置θの説明図
図21】生成した船型の省エネ効果を原船型と比較して示す図
図22】原船型の軸方向流速の流方向分布を示す図
図23】生成した船型の軸方向流速の流方向分布を示す図
図24】従来の船体、船尾付加物、及びプロペラの設計方法を示すフロー図
図25】先行研究で検討した伴流設計システムの概要図
【発明を実施するための形態】
【0042】
船尾伴流の分布形状は、省エネ付加物の効果の向上、及びプロペラ効率の向上やキャビテーションの低減に深く関連する。例えば、ダクト型の省エネ付加物の省エネ効果は、ダクト翼断面へ流入する流れの角度(流入角)の周方向分布に強い影響を受ける。
本件発明者は、まず意図する伴流分布の設計を可能とする新しい船型設計手法(伴流設計システム)を先行して研究し、一個抜き交差検証により伴流設計システムの理論的な有効性を確認した。
この研究で検討した伴流設計システムの概要を図25に示す。当該伴流設計システムは、従来の船型データベース解析例と異なり、船型を船型パラメータ(例えばCpカーブの傾斜角等)で整理せず単にIDで管理するため、その自由度及び拡張性の高さに特徴を持つ。
これにより、他船種のデータも同居することが可能で、従来と異なり過去の設計遺産をデータベースに同居させて活用することができるようになった。また、船型をIDで管理するため、船型のパラメータ化による情報の欠落を回避できる。
また、この研究で検討した伴流設計システムでは、機械学習手法の1つであるk近傍法を基礎とした手法で伴流分布と船型のデータベース(船型・流場データベース)の解析を実施する。また、当該伴流設計システムでは機械学習の問題設定を比較的シンプルな解空間に落とし込むことができるため、k近傍法よりも複雑な機械学習手法を適用する必要性が低く、簡便な手法で極めて有効なデータベースの解析が実施できることが分かった。
図25の伴流場解析について述べる。目標とする入力伴流分布のデータと船型・流場データベースの伴流データから入力伴流とデータベース上の伴流との類似度(ユークリッド距離)を下式(1)で算定する。
【数1】
式(1)で得られたユークリッド距離を評価関数として、船型・流場データベースより類似伴流3つ特定し、類似伴流を持つ3船型を特定し、3船型をユークリッド距離(d1,d2,d3)から下式(2)で算定する重み係数(αi)を用いて船型ブレンディングすることで、目標とする入力伴流分布を実現する船型形状を機械的に求める。
【数2】
【0043】
以下に、本研究で得られた本発明の実施形態による伴流場設計方法、伴流場設計システム、及び伴流場を考慮した船舶について説明する。
図1は、本実施形態による伴流場設計システムのブロック図である。
伴流場設計システムは、条件入力手段10と、船型・伴流場データベース手段20と、伴流場解析手段30と、伴流場設計手段40と、伴流場出力手段50とを備える。
【0044】
条件入力手段10は、例えばキーボードやタッチパネル、マウス等であり、ユーザーは、船体、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに対する条件を、条件入力手段10を用いて伴流場設計システムに入力する。
船型・伴流場データベース手段20には、船型と伴流場をリンク(関連付け)させたデータが記憶されている。
【0045】
本実施形態では、749総トンの一般貨物船を対象として、2730個体の船型・伴流場データベースを、船型・伴流場データベース手段20に構築した。伴流場の推定は、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所(以下、「海技研」という)が開発したRaNSソルバーNAGISAを使用し、本件発明者らが開示した「一ノ瀬康雄,田原裕介,久米健一:総トン数に制限を有する内航船の船型データベースの構築とその評価-749総トン型一般貨物船を対象としたプロトタイプの開発-,日本船舶海洋工学会論文集,第26号,pp.51-62, 2017.」(参考文献1)と同様の計算条件で、両舷180万セルの構造格子により実施した。また、乱流モデルの適用にあたっては、EASM kω、SST kω、Modified SAの複数の乱流モデルを比較検討し、参考文献1の原船型(MS No.869)の水槽試験結果との比較及び計算のロバスト性を考慮した結果、Modified SA(Cvor=20)を、船型・伴流場データベースの作成に適用する。計算格子は、参考文献1と同等の格子を採用しており、計算格子の不確かさは参考文献1に準じて本発明に妥当な不確かさレベルを有している。
船型・伴流場データベース手段20は、船型データと伴流場データを船型パラメータと伴流場データで整理せず単にIDで管理するため、その自由度及び拡張性の高さに特徴を持つ。また、データベースとしての解析に複雑な機械学習手法の適用も可能であるが、本研究で創出した簡便な手法がむしろ極めて有用であることが確認されている。
船型・伴流場データベース手段20は、船体(船型)と伴流場の対応付けが容易となるため、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化が実現できることをはじめ、既存船を含めた船体の伴流場の解析、船尾付加物やプロペラに適した流場解析のための2次的な最適流場データベースの構築など、様々に利用が可能となる。
図2は、船型データベースに格納されている船型例(S.S.1.0)を示す図、図3は、船型データベースに格納されている船型例(船尾プロファイル)を示す図である。
船型データベースは、原船型と実用上同一の排水量を持ち、図2及び図3の船型例に示すとおり、船尾フレームライン、船尾プロファイル、船尾横切面積曲線(以下Cpカーブ)の所謂肩張り、肩落ち傾向の異なる船型形状を有する2730の船型群である。なお、本船型データベースは同一の主要目を有することから、同じプロペラ直径及び設置位置のプロペラを想定している。
【0046】
図4は、伴流場データベース(プロペラ面の伴流分布)の例を示す図であり、図4(a)はID030001の船型の場合、図4(b)はID030003の船型の場合、図4(c)はID030005の船型の場合、図4(d)はID030006の場合である。図4に示すとおり、構築した船型・伴流場データベースは,特に船尾縦渦の強弱を中心に非常に変化に富むデータベースである。
図5は、2730個体の船型の全ての流場データについて軸方向の流速分布をプロペラ半径位置毎にまとめた図であり、図5(a)はR=0.7Rの場合、図5(b)はR=1.0Rの場合である。
ここで、図5の横軸は、プロペラTOP位置を0とする周方向位置であり、r=0.7Rは70%プロペラ半径位置でのグラフであることを示す。図5から2730個体の船型の軸方向の流速分布には、70°位置付近を節として変化することが分かる。この軸方向の流速分布が節をもって変動するのは、今回の船型データベースは実設計における船型変更と比較し変更範囲が大きく変化に富んでおり、また船尾縦渦の中心位置は船底からの上昇流の影響で、一般にプロペラ軸上方のみに位置することから推論すると、排水量一定の一軸スケグ船型一般に適用できる現象と推定される。
船型・伴流場データベースにおける伴流場が、船型が変わっても流れの変化の少ない節を有した流場であることにより、節を有した流場を用いて、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を行うことができる。節の存在は、2730個体の船型の全ての伴流場データについて解析した結果、判明した新しい知見であり、例えば、流れの変化の少ない節に船尾付加物、及びプロペラを臨ませて、性能の向上を図ることが期待できる。
【0047】
ダクト型の省エネ付加物の省エネ効果は、ダクト翼断面へ流入する流れの角度(流入角)の周方向分布に強い影響を受ける。そのため、船型により周方向の流入角を改善できれば、付加物の省エネ効果が改善しトータルの燃費削減に寄与する。工作上の観点から周方向で同じ開き角を持つダクトでは、適切な開き角の設定により、0°から80°位置までのダクト翼断面への流入角が一定であるほど、高い省エネ効果が得られることが分かっている。ダクト翼断面への流入角が一定に近い船型は、本実施形態の伴流場設計システムにより機械的に得られる。
図6は、2730個体の船型全ての伴流場データのダクト翼断面への流入角の分布を示す図である。図6においても20°位置付近及び 90°位置付近に節が確認できる。20°位置付近の節は前述の船尾縦渦の位置の影響により形成されるものと考えられる。一方、90°位置は流入角の評価軸が船体横流れ方向と一致するため、90°位置付近の節は排水量一定の一軸スケグ船型の直進状態の流場では強い横流れが形成されないことが要因であると考えられる。このように流入角についても節が存在することが新しい知見として得られ、例えば、流れの変化の少ない節に船尾付加物、及びプロペラを臨ませて、性能の向上を図ることが期待できる。
【0048】
従来のデータベースは、船型と最終結果である馬力や、抵抗自航要素である積分値を対象としていたが、本発明の船型・伴流場データベースは船型と積分値の中間にあり、物理的な知見を含む伴流場と船型をリンクさせた新しいデータベースである。
【0049】
伴流場解析手段30は、ユーザーが条件入力手段10を用いて入力した船体、船尾付加物、及びプロペラに関する少なくとも一つの条件に対して、船型・伴流場データベース手段20に予め構築されているデータベースに基づいて伴流場を解析する。
伴流場設計手段40は、伴流場解析手段30による伴流場の解析結果に基づいて、伴流場の設計を行う。
伴流場出力手段50は、伴流場設計手段40による伴流場の設計結果を、画面や紙等に出力する。
【0050】
また、伴流場解析手段30は、目標とする伴流場に近い船型データの選定を、船型・伴流場データベース手段20に構築されているデータベースに基づいて行う。
伴流場設計手段40は、伴流場解析手段30が選定した船型データに従って、目標とする伴流場が得られる船型を生成する。
このように、伴流場の設計は、目標とする伴流場に近い船型データの選定を船型・伴流場データベースに基づいて行い、目標とする伴流場が得られる船型を生成することによって、簡便に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0051】
また、伴流場設計手段40における伴流場の設計は、目標とする伴流場に近い複数の船型データを、平均化して目標とする伴流場が得られる船型を生成する。
このように、目標とする伴流場に近い船型データを複数選定し、平均化して目標とする伴流場が得られる船型を生成することによって、より効率的に、また的確に船尾付加物とプロペラに適した船型を設計することができる。
【0052】
また、伴流場設計手段40における伴流場の設計は、目標とする伴流場が得られる船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの設計を行う。
このように、目標とする伴流場を得られる船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの設計を行うことによって、船型を生成した後、船尾付加物、及びプロペラの詳細設計を行なうことが可能となり、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化をより精度よく行うことができる。
【0053】
目標とする伴流場が得られる船型の生成には、前述した船型ブレンディングを利用した伴流設計システムを用いることができる。この伴流設計システムは、目標とする伴流場とデータベース内の伴流場データとの類似度を「ユークリッド距離」で評価することにも特徴をもつ。伴流場は、通常360点の3速度成分で表される1080次元のデータのため、その類似度を低次元で効率的にパラメータ化することは、一般的に極めて困難である。しかし、「ユークリッド距離」によるパラメータ化は、低次元で伴流場及び船型の類似度を評価できる、極めて効率的なパラメータ化である。これにより、データベースの解析における大幅な計算コストの削減が可能となる。
さらに、選定した複数の船型を、「ユークリッド距離」の重みで船型ブレンディング(平均化)することで、船型・伴流場データベースにはない新しい船型データを作り出すことができる。これにより、単なるデータベース上のデータの取り出しではなく、希望する伴流と全く同じ伴流を誘起する船型を得ることができる。
【0054】
図7は、本実施形態による伴流場設計方法を示すフロー図である。
まず、選定した船尾付加物及びプロペラに適した目標とする伴流場の設計を行う(S1:ステップ1)。
ステップ1の後、予め構築した船型・伴流場データベースに基づいて、目標とする伴流場に近い船型データを複数選定する(S2:ステップ2)。
ステップ2の後、選定した複数の船型データを平均化(ブレンディング)して目標とする伴流場が得られる船型を生成する(S3:ステップ3)
その後、ステップ3で生成した船型の微修正を行う(S4:ステップ4)。
ステップ4の後、ステップ1で選定した船尾付加物とプロペラについて、微修正や、船体への取付角度等を決定するための設計を行う(S5:ステップ5)。
ステップ5の後、船舶に対する船体、船尾付加物、及びプロペラによる全体最適化が目標性能を満たすか否かを解析又は試験により確認する(S6:ステップ6)
ステップ6において目標性能を満たすと判断した場合は、設計した船型、船尾付加物、及びプロペラの結果を出力する(S7:ステップ7)。
一方、ステップ6において目標性能を満たさないと判断した場合は、ステップ4に戻り、船型の微修正を行う。
【0055】
図8は、目標とする伴流場の設計方法を示すフロー図である。
まず、船尾付加物及びプロペラに関するデータと、予め構築した船型・伴流場データベースに基づいて、船尾付加物、及びプロペラに適した流場の解析を行い、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した最適伴流場データベースを先ず構築する(S11:ステップ11)。
ステップ11の後、予め構築した最適伴流場データベースに船体の制約条件を適用し、船尾付加物、及びプロペラに適した目標とする伴流場を選定する(S12:ステップ12)。船体の制約条件とは、船種や、船体の長さ、幅、又は喫水といった主要目等である。
このように、船型・伴流場データベースに基づいて、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した最適伴流場データベースを構築し、最適伴流場データベースを利用し船体の制約条件を考慮した上、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した伴流場を選定することによって、最適伴流場データベースを利用し船体の制約条件に合わせて船尾付加物、及びプロペラの目標とする最適な伴流場を得ることができる。
また、船体の制約条件を考慮した船型を生成することによって、船尾付加物、及びプロペラに適した伴流場を実現する船型を船体の制約条件を考慮したうえ生成できるので、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化をより精度よく行うことができる。
【0056】
本実施形態では、ダクト翼断面への周方向流入角の改善による付加物の省エネ効果向上と、軸方向伴流の周方向の変動低減によるキャビテーション低減を目的として、目標とする伴流場を設計した。
この2つの目的を達成するため、伴流場データベースよりダクト最良流場(0°から80°位置の設計範囲において流入角の周方向変動の分散が最も小さいデータ)とキャビ最良流場(0.7Rにおいて軸方向流速の最大値と最小値の差が最も小さいデータ)の2つを選定し、この2つの伴流場をブレンディング(平均化)することにより、目標とする伴流場を設計した。図9は、設計した伴流分布を示す図である。図9において数値は船速で無次元化されており、U=1.0を船速としている。ダクト翼断面への周方向流入角を改善するために、船尾縦渦の中心がプロペラ軸芯と同等の高さとなっている。
【0057】
また、本実施形態では、設計した目標とする伴流場を入力として、目標とする伴流場が得られる船型を生成した。なお、生成した船型(システム出力船型)は、設計した伴流場と類似度(式(1)のユークリッド距離)の近い3つの船型を船型ブレンディングして新たに生成した船型・伴流場データベースにはない船型であり、原船型と生成した船型の排水量の差は0.02%である。
図10は、原型船と生成した船型の比較図(S.S.1.0)、図11は、原型船と生成した船型の比較図(船尾プロファイル)である。船尾縦渦の中心をプロペラ軸芯と同等の高さに下げるためには、船尾の剥離線を船尾側に移動させるため、船尾後方に排水量を持たせる所謂肩落ちのCpカーブの船型が生成されることを当初は予想していた。しかし、生成した船型はS.S.1.0における断面積の小さい所謂肩張りのCpカーブを持つ船型であった。
この理由は、図10及び図11に示す原型船と生成した船型の船体表面圧力分布及び限界流線から説明できる。すなわち、船体のS.S.2.0付近の船底部を肥大させ伴流場の改善を図ることで、ここに出来る負圧領域を強めることにより、強い逆圧力勾配の流線を作ることで船尾縦渦を強め、その中心をプロペラ軸芯と同等の高さに下げることができ、伴流場の改善が図れる。
なお、「S.S.□」は、垂線間長(船長)L.P.P.全体を10としたときの船尾垂線A.P.からの位置を示す。すなわち、「S.S.1.0」は、船尾垂線A.P.から垂線間長L.P.P.の10%前方の位置であり、「S.S.2.0」は、船尾垂線A.P.から垂線間長L.P.P.の20%前方の位置である。
【0058】
本実施形態の伴流場設計方法を用いた伴流場を考慮した船舶であって、伴流場の設計を行った船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つを装備した船舶とすることにより、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化を実現した船舶を提供することができる。
【0059】
図12は、本発明の他の実施形態による伴流場設計方法を示すフロー図である。
本実施形態による伴流場設計方法は、船体又は流場情報が不明な場合における最適な船尾付加物、及びプロペラの設計方法である。船尾付加物を既存の船舶にレトロフィットするときには、船型情報が分からない場合が多い。また、新造船等においても予算の制約で流場推定が行えない場合が多々ある。このような場合に本実施形態による伴流場設計方法を用いることで、船型・伴流場データベースに基づく統計解析結果から、一定の制約条件下のどの船舶に対しても一般に最適な効果がある船尾付加物やプロペラを設計することができる。
まず、船体の制約条件を決定する(S21:ステップ21)。
ステップ21の後、予め構築した船型・伴流場データベースに基づいて、決定した船体の制約条件に対する伴流場の統計解析を行い、制約条件の下での伴流場統計データを得る(S22:ステップ22)。
ステップ22の後、伴流場統計データを基に、制約条件の下での船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つの最適な設計を行う(S23:ステップ23)。
これにより、船型情報が不明な場合や、伴流場の推定が行えない場合であっても、伴流場統計データを基に、一定の制約条件下のどの船舶に対しても一般に最適な効果がある船尾付加物やプロペラを設計することができる。例えば、船体の詳細な設計情報が不明な既存船や流場解析が予算の関係で行なえない新造船等への伴流場の推定を通じた最適な船尾付加物やプロペラの設計が可能となる。
【0060】
船尾付加物としてダクトを用いる場合は、どの船舶に対しても最適な効果があるダクトは、ダクト流入角の設計範囲が5°以上20°以下の範囲とすることが好ましく、12°以上18°以下の範囲とすることがより好ましく、14°以上18°以下の範囲とすることが最も好ましい。
また、ダクトの翼の迎角は、6°から8°程度が良いため、伴流場に対応するダクトの開き角を-3°以上14°以下とすることが好ましく、4°以上12°以下とすることがより好ましく、6°以上12°以下とすることが最も好ましい。これにより、伴流場として効果の大きな開き角の範囲にダクトを臨ませることができ、ダクトによる省エネ効果をより一層高めることができる。
【0061】
以上のように、船体、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに対する伴流場を、予め構築した船型と伴流場をリンクさせた船型・伴流場データベースに基づいて解析し、船尾付加物、及びプロペラの少なくとも一つに適した伴流場の設計を行うことにより、船体(船型)と伴流場の対応付けが容易となり、船尾付加物とプロペラに適した船体を設計することができ、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化が実現する。
【実施例
【0062】
本発明による伴流設計システムの有効性を検証するため、原船型(MS No.869)と生成した船型(MS No.875)の船長6.8mの大型模型船を製作し、海技研の400m水槽において、伴流計測及び推進性能確認試験を実施した。図13は、原船型を用いた水槽試験の様子を示す図、図14は、生成した船型を用いた水槽試験の様子を示す図である。
【0063】
図15は、原型船の計測した伴流分布を示す図であり、図16は、生成した船型(システム出力船型)の計測した伴流分布を示す図である。想定通り生成した船型の船尾縦渦の中心は原型船と比較しプロペラ軸芯と同等の高さまで下がっている。
図17は、原船型におけるダクト翼断面への周方向流入角の分布を示す図、図18は、生成した船型におけるダクト翼断面への周方向流入角の分布を示す図、図19は、ダクト流入角αの説明図、図20は、ダクト位置θの説明図、図21は、生成した船型の省エネ効果を原船型と比較して示す図である。
図17及び図18には、ダクト翼断面への周方向流入角の分布をそれぞれ計算結果と比較して示している。設計目的通り、生成した船型では、原船型と比較し0°から80°位置の設計範囲において流入角の周方向変動が小さい。その結果、表1及び図21に示す通り、原型船で1.9%であったダクトの馬力削減効果(Energy savings)は、生成した船型では4.1%(表1中1.0-678/708で算定)となり、設計意図通りダクトの省エネ効果の向上が達成された。さらに、生成した船型は、ダクト非搭載の裸こく状態で、原船型より0.4%同一船速での必要馬力が大きいが、ダクトの省エネ効果の改善により、同一開き角を持つDuct 6degを搭載した状態で比較して1.9%、生成した船型の伴流分布のために設計したDuct 8degを搭載した状態で2.2%の馬力削減を確認し、設計目的としていた船型と付加物を組み合わせたトータルでの馬力削減を達成した。これらの設計結果から、本発明の有効性を確認した。
【表1】
【0064】
このように、船体が誘起するダクトへの流入角の周方向の変動を改善することができる。これにより、工作性の問題で、一般に開き角を周方向一定としているダクトでは、周方向で安定した推力が得られるため省エネ効果が高くなる。
伴流場の流れのダクトに対する流入角の変動幅は、25°以下とすることが好ましく、20°以下とすることがより好ましく、15°以下とすることが最も好ましい。これにより、伴流場を考慮してダクトによる省エネ効果をより一層高めることができる。
また、流入角を25°以下とする範囲は、少なくともダクトの縦方向中心線の上部交点0°以上90°以下の範囲内とすることが好ましく、0°以上80°以下の範囲内とすることがより好ましく、10°以上80°以下の範囲内とすることが最も好ましい。これにより、伴流場として効果の大きな流入角の範囲にダクトを臨ませることができ、ダクトによる省エネ効果を効率的に高めることができる。
【0065】
次に、キャビテーションの低減を目的とした軸方向伴流の周方向の変動低減について述べる。図22は、原船型の軸方向流速の流方向分布を示す図であり、図23は、生成した船型の軸方向流速の流方向分布を示す図である。
図22及び図23には、原船型と生成した船型の軸方向流速の流方向分布をそれぞれ計算結果と比較して示している。意図していた0.7Rにおける軸方向流速の最大値と最小値の差の最小化が計算上実現している。しかし、水槽試験結果では意図した0°から20°の流速の増加、120°付近の減速が同傾向であるものの計算の想定よりも大きく変化し、水槽試験結果では意図した結果が得られなかった。ただし、これはキャビテーション低減を目的とするプロペラ設計に適用するためには、流場データベースを構築するCFD計算を格子数等より精度の高い条件で実施する必要があること示しており、伴流場設計システムの構造的な問題ではなく、容易に解決できる。
【0066】
このように、プロペラのキャビテーションを低減することができる。キャビテーションを低減することで、騒音・振動問題が解決する。また、キャビテーションを低減することで、プロペラ展開面積比の許容範囲をより小さくすることができるため、プロペラ効率の向上に寄与する。
プロペラ面に対する伴流場の流れの周方向分布の変動率は、0.4以下に抑えることが好ましく、0.3以下に抑えることがより好ましく、0.2以下に抑えることが最も好ましい。これにより、伴流場を考慮してプロペラ効率をより一層高めることができる。
また、伴流場の流れの周方向分布の変動率を0.4以下に抑える範囲は、プロペラの半径の60%以上100%以下の位置とすることが好ましく、70%以上90%以下の位置とすることがより好ましく、70%以上80%以下とすることが最も好ましい。これにより、プロペラとして効果の大きい範囲の変動率を押さえられるため、効率的にプロペラ効率を高めることができる。
【0067】
以上のように、本発明は、意図する伴流場の設計を可能とする伴流場設計方法又は伴流場設計システムを用いて、ダクト型省エネ付加物等船尾付加物の省エネ効果向上及びキャビテーション低減に資する伴流分布を改善することができる。
船尾付加物の省エネ効果の改善により、船型と船尾付加物のトータルの馬力削減が達成される。
なお、船尾付加物には、ダクトの他、舵に設けたフィンやバルブ、プロペラの前方に設けたフィン、捩じり舵など、省エネに寄与する機器一切を含むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、船体(船型)と伴流場の対応付けが容易となり、船尾付加物とプロペラに適した船体を設計することができ、船体、船尾付加物、及びプロペラの全体最適化が実現する。
また、本発明は、職人知の見える化を実現し、従来のCFDと最適化手法を組み合わせた船型設計手法に対して、伴流場を理解しながら船型の設計を可能とするという優位性を有し、船型設計者の意思決定に役立てることができる。
【符号の説明】
【0069】
10 条件入力手段
20 船型・伴流場データベース手段
30 伴流場解析手段
40 伴流場設計手段
50 伴流場出力手段
図1
図2
図3
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図5
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