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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】医療用ドローンシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20221117BHJP
   A61B 1/313 20060101ALI20221117BHJP
   G02B 23/24 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A61B1/00 655
A61B1/313
G02B23/24 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018143985
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020018492
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】512283070
【氏名又は名称】中島 清一
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 清一
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079490(WO,A1)
【文献】特開2017-188067(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020671(WO,A1)
【文献】特開2017-105222(JP,A)
【文献】特開2013-193510(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0079037(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0000054(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00- 1/32
G02B 23/24-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術に使用される医療機器を保持する保持部と、プロペラの回転によって推力を発生する推力発生部とを有するドローンと、
前記推力発生部によって発生する推力の大きさ及び方向を調整することにより、前記ドローンの位置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ドローンの位置を変化させて前記保持部により保持された前記医療機器の位置を前記手術において所定の位置に制御可能である
ことを特徴とする、医療用ドローンシステム。
【請求項2】
前記制御部による前記ドローンの位置制御が、
前記保持部による前記医療機器の保持位置が外乱に依らず維持されるように、前記ドローンの位置が制御される、静止モードを含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療用ドローンシステム。
【請求項3】
一時的に前記静止モードを無効にする無効スイッチをさらに備え、
前記静止モードにおいて、前記無効スイッチがONされた状態で、前記ドローンの位置が変更され、変更後に前記無効スイッチがOFFされた場合には、
前記ドローンの位置が、前記無効スイッチがOFFされた位置に維持されるように制御されることを特徴とする、請求項2に記載の医療用ドローンシステム。
【請求項4】
前記医療機器は撮影機能を有し、
前記制御部による前記ドローンの位置制御が、
前記医療機器による撮影領域が所定の撮影対象に追従して移動することで該撮影対象が常に撮影されるように、前記ドローンの位置が制御される、追従モードを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の医療用ドローンシステム。
【請求項5】
前記ドローンを駆動するための電力を供給する電力供給部をさらに備え、
前記電力供給部と前記ドローンとは、別体で構成されたことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の医療用ドローンシステム。
【請求項6】
前記推力発生部により発生される推力を外部から補助する推力補助手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の医療用ドローンシステム。
【請求項7】
前記医療機器は腹腔鏡であり、
前記腹腔鏡はトロッカーを介して患者体内に挿入され、
前記ドローンの位置を検出する位置検出手段をさらに備え、
前記位置検出手段は、前記トロッカーまたは患者の体を基準として、前記ドローンの位置を検出することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の医療用ドローンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療機器の位置制御を行う装置及びシステムに関し、より具体的にはドローンを用いて医療機器の位置制御をする装置及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療行為中には様々な機器の位置制御が必要となる。例えば腹腔鏡手術では、術者の助手(スコピスト)が腹腔鏡を保持し、患者の腹腔内に挿入して撮影することで術野をモニタに表示させる。術者はモニタを見ながら自ら保持した処置具等を移動させて手術を行う。その際、スコピストは術者が求める視野を先読みしながら腹腔鏡を移動させて適切な術野の画像を表示させる必要がある。さらに、必要に応じて近景・遠景を使い分けるなどの操作が必要な場合もある。
【0003】
しかしながら、術者が求める視野を常に表示させることは、必ずしも容易ではない。特にスコピストが初心者である場合などには、手ぶれや天地の逆転が生じることもあり、術者による手術の妨げになる状況も少なくない。さらに、近年ではスコピスト役の医師が不足していることも大きな問題となっている。
【0004】
これに対し、腹腔鏡をマウントして所定の方向を向くように固定する機器である「スコープホルダー」が使用される場合がある。このスコープホルダーを使用した場合には、手振れの心配もなくスコピストが不要となることから、人手が不足しがちな小規模病院等ではその効果が発揮されている。しかしながら、スコープホルダーのセットアップが煩雑であることに加え、手術の進行に応じて腹腔鏡の固定方向を調整する作業が必要であるため、術者に新たな負担を強いる場合があった。さらには、スコープホルダーのアーム類が大きなスペースを占有してしまい、術者の手術中の動きを妨げる場合があった。
【0005】
上述したとおり、医療現場においては、医療機器の位置制御に関し、術者の意図に沿う位置制御が可能で、セットアップが容易で、且つ術者の手術中の動きを妨げないシステムが求められていた。
【0006】
図10はスコープホルダーを用いて腹腔内を観察する際の一般的なシステムを表している。このシステムにおいては、腹腔内を観察するには腹腔鏡901を用いて、体内の画像をディスプレイ装置973に表示して確認する。具体的には、まず患者の体表面に小径の穴を設けてそこから体内にトロッカー961を挿入し、当該トロッカー961を介して腹腔鏡901の光学視管911を体腔内に挿入する。光学視管911には観察光学系と照明光学系(不図示)が備えられており、当該観察光学系により観察対象の画像を取得し、撮像素子を備えたカメラヘッド912及びビデオプロセッサ972を通してディスプレイ装置973に表示する。
【0007】
そして、腹腔鏡901は、スコープホルダー921により位置決めされている。このスコープホルダー921は、手術室の床または手術用ベッド等に固定され、一以上の関節部922を有しており、術者または補助者がこの関節部922の角度を変更し、適宜固定することで腹腔鏡901の位置及び姿勢を決めることが可能となっている。また、このスコープホルダー921の関節部922の角度は手動で変更、固定されるものの他、電動で変更、固定されるものも存在する。先述のように、スコープホルダー921の関節部922の角度を手動で変更、固定する場合には、術者または補助者の作業が非常に煩雑になっていた。一方、電動で変更、固定するものにおいては、スコープホルダー921自体が大型化し、術者や補助者の動きが妨げられる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-112704号公報
【文献】特開2002-014287号公報
【文献】特開2004-298458号公報
【文献】特開2018-000015号公報
【文献】特開2018-027719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、手術室における各医療機器の位置制御の効率化または省スペース化を可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明においては、ドローンを用いて医療機器の位置を制御することとした。より詳細には、本発明は、手術に使用される医療機器を保持する保持部と、推力を発生する推力発生部とを有するドローンと、
前記推力発生部によって発生する推力の大きさ及び方向を調整することにより、前記ドローンの位置を制御する制御部と、
を備え、
前記保持部により保持された前記医療機器の位置を前記手術において所定の位置に制御可能としたことを特徴とする、医療用ドローンシステムである。
【0011】
本発明によれば、前記ドローンの位置を適切に制御することで、前記保持部により保持された医療機器の位置を手術において必要な位置に制御することができる。これにより、スコープホルダーを使用した場合のような、医療機器の移動毎の煩雑なセットアップ作業を省略することができる。また、スコープホルダーのような、医療機器と手術用ベッドや手術室の床とを連結固定する大型の装置を省略することができ、医療システムの省スペース化を実現することができる。
【0012】
また、本発明においては、前記制御部による前記ドローンの位置制御が、
前記保持部による前記医療機器の保持位置が外乱に依らず維持されるように、前記ドローンの位置が制御される、静止モードを含むようにしてもよい。
【0013】
これによれば、手術等の医療行為中に術者、補助者等の使用者(以下、単に使用者ともいう)や物がドローンに衝突することにより、医療機器の位置が一時的に元の位置からずれたとしても、自動的に所定の位置に復帰するようにドローンを制御することができ、予期せぬ外乱によって医療機器の位置がずれたままになってしまうことを防止できる。その結果、使用者がドローンに外乱を与えてしまうことを過度に忌避する必要がなくなり、医療行為に集中することが可能となる。
【0014】
また、本発明においては、一時的に前記静止モードを無効にする無効スイッチをさらに備え、
前記静止モードにおいて、前記無効スイッチがONされた状態で、前記ドローンの位置が変更され、変更後に前記無効スイッチがOFFされた場合には、
前記ドローンの位置が、前記無効スイッチがOFFされた位置に維持されるように制御されるようにしてもよい。
【0015】
ここで、手術などの医療行為中においては、頻繁に医療機器の位置を変更する必要が生
じる。この場合には、一旦、静止モードを解除して、ドローンを次の位置まで飛行により移動させて、再度静止モードとすることが考えられる。しかしながら、急ぐ場合等では、使用者、特に術者が直接ドローンを把持して所望の位置まで手動で移動させ、ドローンから手を離した位置にドローンを維持させることが望まれることがある。
【0016】
これに対し、本発明においては、静止モードにおいて、無効スイッチをONにしてドローンの位置を変更し、変更後に無効スイッチをOFFした場合には、ドローンの位置が、無効スイッチがOFFされた位置に維持されるようにした。これによれば、医療行為中に、医療機器の位置を、使用者の所望の位置までより迅速に変更することができる。例えば、無効スイッチをドローン自体に設けたボタン式のスイッチにしておけば、ドローンを無効スイッチをONにしつつ把持し、所望の場所まで動かした後に手を離すといった簡単な動作で医療機器の位置を所望も位置まで変更することができる。
【0017】
また、本発明においては、前記医療機器は撮影機能を有し、
前記制御部による前記ドローンの位置制御が、
前記医療機器による撮影領域が所定の撮影対象に追従して移動することで該撮影対象が常に撮影されるように、前記ドローンの位置が制御される、追従モードを含むようにしてもよい。
【0018】
これによれば、前記医療機器の使用者は常に撮影対象を視認しつつ医療行為を続けることができ、医療行為の効率をさらに向上させることが可能となる。ここで、所定の撮影対象は、例えば医療行為に使用される処置具先端であってもよい。また、特定の臓器や患部等の施術対象であってもよい。なお、この場合には、AI(ArtificalIntelligence)により、撮影対象に応じて撮影領域が自動的に変更されるようにしてもよい。例えば処置具先端の種類に応じて、処置具先端付近を自動的に拡大(ズーム)撮影されてもよいし、自動的に俯瞰(オーバーヴュー)撮影されてもよい。
【0019】
また、本発明においては、前記ドローンを駆動するための電力を供給する電力供給部をさらに備え、
前記電力供給部と前記ドローンとは、別体で構成されるようにしてもよい。これによれば、ドローン自体をより小型化、軽量化することが可能である。なお、このように電力供給部とドローンとの別体構成は、本発明におけるドローンの移動範囲が非常に狭いという特殊性に基づいて実現可能となっている。
【0020】
また、本発明においては、前記推力発生部により発生される推力を外部から補助する推力補助手段をさらに備えるようにしてもよい。これによれば、ドローンをさらに小型化または簡略化することが可能となる。この推力補助手段は、例えばドローンを上から機械的に引張る、あるいは下から押し上げる手段であってもよい。
【0021】
より具体的には、ドローンを上から紐状の部材あるいはバネにより吊るす機構であってもよい。また、ドローンを下から弾性部材で支持する機構であってもよい。また、前記ドローンを電磁力により上から引っ張りあるいは下から押し上げる手段であってもよい。なお、このような推力補助手段による補助は、本発明におけるドローンの移動範囲が非常に狭いという特殊性に基づいて実現可能となっている。
【0022】
また、本発明においては、前記医療機器は腹腔鏡であり、
前記腹腔鏡はトロッカーを介して患者体内に挿入され、
前記ドローンの位置を検出する位置検出手段をさらに備え、
前記位置検出手段は、前記トロッカーまたは患者の体を基準として、前記ドローンの位置を検出するようにしてもよい。
【0023】
ここで、医療機器が腹腔鏡の場合には、ドローンが腹腔鏡を保持し、腹腔鏡がトロッカーを介して患者体内に挿入された状態で、腹腔鏡の位置が制御される。この状態においては、ドローンが移動した場合には、腹腔鏡がトロッカーにおける一点を中心に回転するとともに、トロッカーに対して進退運動をする。そして、この場合の腹腔鏡の位置制御の目的は、使用者が要求する、患者の体内の画像を取得することである。
【0024】
この事情を考慮した場合に、腹腔鏡の位置制御において、トロッカーまたは患者の体とドローンとの位置関係が重要となる。よって、本発明においては、位置検出手段は、トロッカーまたは患者の体を基準として、ドローンの位置を検出するようにした。これによれば、より確実に、目的に沿った腹腔鏡の位置制御を行うことができ、より精度よく、使用者が要求する、患者の体内の画像を取得することが可能となる。なお、ドローンの位置検出の基準は、より具体的には、トロッカーの挿入部(腹腔鏡の挿入穴)としてもよい。あるいは、トロッカーの何れかの部分に設けられたマークであってもよい。また、患者の体表面としてもよい。
【0025】
本発明における課題を解決するための手段は可能な限り組み合わせて使用することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、手術室における各医療機器の位置制御の効率化または省スペース化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例1における医療用ドローンシステムの概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施例1における医療用ドローンシステムの機能ブロック図を示す図である。
図3】本発明の実施例1におけるドローンの位置制御の基準について説明するための図である。
図4】本発明の実施例1における静止モードについて説明するための図である。
図5】本発明の実施例1における静止モードについて説明するための図である。
図6】本発明の実施例1における静止モードにおける位置制御ルーチンの処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施例2における追従モードについて説明するための図である。
図8】本発明の実施例3における医療用ドローンシステムの概略構成を示す図である。
図9】本発明の実施例3における医療用ドローンシステムの機能ブロック図を示す図である。
図10】従来の内視鏡システムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。以下の実施例に記載されている構成要素の構造、形状、配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0029】
<実施例1>
図1は、本発明の実施例1における医療用ドローン1(以下、単にドローン1ともいう。)を含む、医療用ドローンシステム10について説明するための図である。図1において光学視管式の腹腔鏡4は、トロッカー6を介して患者の体B内に挿入される。腹腔鏡4
は、照明光学系であるライトガイドケーブルおよび、観察光学系である対物レンズ、画像伝送用のリレーレンズ等(いずれも不図示)を内蔵する光学視管4a、光学視管4aの基端部に接続され撮像素子を有するカメラヘッド5を有している。カメラヘッド5はビデオプロセッサ7に電気的に接続されビデオプロセッサ7はディスプレイ装置8に電気的に接続されている。腹腔鏡4で撮影された画像はカメラヘッド5の撮像素子(不図示)によって電気信号に変換された後ビデオプロセッサ7に送信され、適宜画像処理された後、ディスプレイ装置8に表示される。
【0030】
図1において、ドローン1は、ドローン本体1aに推力発生部としてのプロペラ1bが複数基(図1では2基のみ図示している)固定されることにより飛行が可能となっている。また、ドローン本体1aには、保持部1cが設けられ、この保持部1cによってドローン本体1aがカメラヘッド5に固定されている。保持部1cのカメラヘッド5への固定方式はねじ固定方式、クランプ方式など特に限定はされないが、不特定の腹腔鏡4に適用可能なように、脱着可能に固定されている。また、保持部1cにはピボット部1dが設けられており、ドローン本体1aの角度と、腹腔鏡4の角度が自由に変更可能となるように結合されている。なお、保持部1cが固定される部分は腹腔鏡4においてカメラヘッド5に限られないことは当然である。
【0031】
この医療用ドローンシステム10において、ドローン1が水平方向に移動した場合には、腹腔鏡4及びトロッカー6がトロッカー6の一点(以下、基準点ともいう)を中心に回転する。また、ドローン1が垂直方向に移動した場合には、トロッカー6に対して腹腔鏡4の光学視管4aが前後にスライドする。このように、ドローン1が移動した場合には、光学視管4aの回転運動とトロッカー6に対する進退運動とにより、腹腔鏡4が追従することが可能となっている。そして、ドローン1の位置が変化して、ドローン1と腹腔鏡4との間の角度が変化しても、ピボット部1dの作動により、ドローン1の姿勢を水平に保持することが可能となっている。
【0032】
また、医療用ドローンシステム10には、ドローン1と有線無線を問わず通信が可能とされており、ドローン1の位置制御等を行う制御部としてのPC2が備えられている。PC2には入力装置としてのキーボードやマウス等の入力部2aが備えられており、ドローン1の位置制御モード(後述)を選択可能となっている。また、ドローン1の上部には、ドローン1、腹腔鏡4及びトロッカー6を上側から撮影可能なカメラ3が備えられている。このカメラ3による撮影画像はPC2に入力されドローン1及びトロッカー6の位置を測定することが可能となっている。
【0033】
図2には、医療用ドローンシステム10の機能ブロック図を示す。本実施例では、図中破線で囲まれたブロックはドローン1に備えられている。前述のように医療用ドローンシステム10には、PC2で実現されドローン1の制御を行う制御部、制御部に使用者によるコマンドが入力される入力部2a、全体の位置関係の情報を入手可能なカメラ3が設けられている。また、ドローン1には、制御部との間で信号の授受を行う通信部12、通信部12からの指令信号を受けて駆動するモータ等の駆動部11、駆動部11の駆動力により回転して推力を発生させるプロペラ1b、ドローン本体1aの位置に関する物理量を測定して通信部12を介して制御部に送信するためのセンサ13が備えられる。また、前述の駆動部11、通信部12、センサ13に電力を供給する電源部14も備えられている。なお、制御部は必ずしもPC2で実現される必要はなく、タブレット端末、携帯電話、スマートホンの他、専用に構築された回路によって実現されてもよい。
【0034】
上記のセンサ13の例としては、赤外線や超音波を発信して反射波を検出することでドローン1の高さを検出する距離センサ、ピボット部1dに備えられて腹腔鏡4の角度を検出する角度センサ、トロッカー6に備えられ、トロッカー6に対する光学視管4aの位置
を検出する位置センサ等が挙げられる。
【0035】
上記のシステムでドローン1の位置制御をするためのドローン1の水平方向の位置は、カメラ3の撮影画像をPC2において画像解析することにより取得する。ドローン1の垂直方向の位置は、センサ13としての距離センサによって患者の体Bからドローン本体1aの高さを測定することで取得してもよい。あるいは、カメラ3の撮影画像をPC2において画像解析し、撮影されるドローン1の大きさ等から推測することにより取得してもよい。なお、センサ13及びカメラ3は本実施例において位置検出手段を構成する。
【0036】
次に、図3を用いて、ドローン1の位置を検出する際の基準について説明する。図3(a)に示す方法においては、上述したように、センサ13によって患者の体Bからの高さを検知する。また、カメラ3によって撮影された画像により、トロッカー6の基準点を算出し、トロッカー6の基準点からの図3(a)における横方向(X方向)と図2における紙面に垂直方向(Z方向)の位置を検出する。
【0037】
その他、図3(b)に示すように、センサ13として距離センサの代わりに、ピボット部1dに角度センサを設けておき、また、トロッカー6にはトロッカー6と光学視管4aとの相対位置を測定できる位置センサを設けておいてもよい。この場合には、トロッカー6の基準点からピボット部1dの中心までの距離rと、光学視管4aの鉛直線に対する2方向の角度θ、φを検出することで、トロッカー6を基準とした極座標としてドローン1の位置を検知することが可能である。
【0038】
いずれにせよ、本実施例においては、ドローン1の位置をトロッカー6または患者の体Bを基準として検出することとした。腹腔鏡4によって得られる画像は、ドローン1と患者の体B及び、トロッカー6の位置との位置関係により決定されるので、より正確に、得られる画像を制御することが可能である。ここで、トロッカー6における基準点は、腹腔鏡4の挿入前の画像から取得された、トロッカー6の挿入穴の中心としてもよい。また、高さの基準は、患者の体表面としてもよい。もちろん、特にトロッカー6または患者の体Bにおける他の特定の部分を基準として定義しても構わない。
【0039】
次に、図4及び図5を用いて、ドローン1の位置制御におけるモードの例について説明する。本実施例における医療用ドローンシステム10では、使用者により、ドローン1の位置制御について入力部2aから入力することで、様々なモードを選択することが可能である。ここでは、使用者によって、「静止モード」が選択された場合について説明する。
【0040】
医療用ドローンシステム10における「静止モード」は、使用者からのモード解除の指令がない限り、ドローン1の位置を一定箇所に維持するモードである。この場合には、図4に示すように、例えば使用者や物がドローン1に接触する等の外乱によってドローン1の位置が一時的に変化したとしても、自動的に元の位置まで戻る。このモードを用いてドローン1の位置制御をすれば、意図しない外乱によって、腹腔鏡4による画像の撮影領域が一旦ずれたとしても、すぐに元の撮影領域に復帰することができ、腹腔鏡手術をより円滑に継続させることが可能である。
【0041】
次に、図5においては、この「静止モード」において、使用者がドローン1の位置を変更することで異なる画像を得たい場合の動作について説明する。ここでは、ドローン1のドローン本体1aには無効スイッチとしてのクラッチSW1eが設けられているものとする。この場合には、使用者は、クラッチSW1eをONしながら(例えば、クラッチSW1eを押すようにドローン本体1aを掴みながら)、手動でドローン1の静止位置を所望の位置まで変更し、手を離してクラッチSW1eをOFFする。そうすると、ドローン1は変更後の位置において「静止モード」を継続させる。これによれば、使用者は、腹腔鏡
4による撮影領域を変更したい場合には、簡単な動作で、所望の画像が得られるように腹腔鏡4の位置を制御することが可能である。なお、本実施例における無効スイッチは、必ずしもドローン本体1aに設けられたクラッチSW1eでなくてもよい。例えば、制御部であるPC2において無効スイッチのON、OFFを切換えても構わない。
【0042】
図6には、本実施例の静止モードにおける位置制御ルーチンの一例を示す。本ルーチンは、PC2のメモリに記憶されたプログラムであり、ドローン1の稼働中は一定間隔で実行されるルーチンである。
【0043】
本ルーチンが実行されると、S101において、静止モードが選択されているか否かが判定される。ここで、静止モードが選択されていないと判定された場合にはそのまま本ルーチンを一旦終了する。一方、静止モードが選択されていると判定された場合には、S102に進む。
【0044】
S102においては、この時点におけるドローン1の位置を検出する。S102の処理が終了するとS103に進む。S103においては、ドローン1の位置がS102で検出された位置と同一になるように、すなわち、ドローン1が静止するように位置制御がなされる。S103の処理が終了するとS104に進む。
【0045】
S104においてはクラッチSW1eがONされたか否かが判定される。ここで、クラッチSW1eがONされていないと判定された場合には、そのまま一旦、本ルーチンを終了する。一方、クラッチSW1eがONされたと判定された場合には、S105に進む。
【0046】
S105においては、さらにその時点でのドローン1の位置が検出される。S105の処理が終了するとS106に進む。
【0047】
S106においては、クラッチSW1eがOFFされたか否かが判定される。ここで、クラッチSW1eがOFFされていない、すなわち、ONされ続けていると判定された場合には、S105の処理に戻り、S105及びS106の処理が繰返し実行される。一方、クラッチSW1eがOFFされたと判定された場合には、S107に進む。S107においては、ドローン1の位置がS105で検出された位置となるように、すなわち、クラッチSW1eがOFFされた位置で静止するように位置制御がなされる。S107の処理が終了すると本ルーチンを一旦、終了する。
【0048】
以上、説明したとおり、本実施例によれば、使用者としては、従来のスコープホルダーのように、煩雑なセッティング作業を行う必要がなくなり、より簡単な動作で、腹腔鏡4の位置を制御し、所望の腹腔鏡画像を得ることができる。また、静止モードを選択することで、使用者や物がドローン1に不用意に接触したとしても、元の位置に自動的に戻すことができ、所望の腹腔鏡画像を自動的に得ることができる。これらにより腹腔鏡手術の効率を向上させることが可能である。
【0049】
また、本実施例によれば、従来のスコープホルダーのような、腹腔鏡4と手術用ベッドや手術室の床とを連結固定する大型の装置を省略することができ、省スペース化を実現することができる。なお、本発明におけるドローン1の位置の検出方法については、本実施例の方法には限定されない。例えば、ドローン1にGPS(GrobalPositioning System)を搭載して検出してもよいし、ドローン1にカメラを搭載し、
ドローン1搭載のカメラによる撮影画像を画像処理することで、トロッカー6を基準としたドローン1の位置を検出しても構わない。さらに、トロッカー6から電波や光を発信し、ドローン1で受信することで、トロッカー6を基準としたドローン1の位置を検出しても構わない。また、本実施例では、本発明が腹腔鏡に適用され、適用された腹腔鏡4が光
学視管式である例について説明したが、他の形式の腹腔鏡、例えば撮像素子が先端側に配置されカメラヘッド5が省略された所謂TIPON STICKタイプの腹腔鏡に対して
も、上記と同様の態様で適用されることが可能である。
【0050】
<実施例2>
次に、実施例2について説明する。本実施例においては、ドローン1の位置制御のモードであって、ドローン1が腹腔鏡4で撮影する撮影対象に追従して動くモードである「追従モード」について説明する。本実施例における医療用ドローンシステム10及びドローン1のハード構成については実施例1と同様であるので説明は省略する。
【0051】
本実施例においては、図7に示すように、例えば、腹腔鏡4で撮影される体内の画像に鉗子20の先端20aが映っている状態で、使用者がPC2において「追従モード」を選択する。そして、PC2上の画像上で鉗子20の先端20aをマウス等の適切なポインティングデバイスによって選択する。その際、PC2では、例えば画像上の濃度の相違に基づいてエッジ検出処理が行われ、鉗子20の先端20aが選択されたことが認識される。その後は、ドローン1は、鉗子20の先端20aが常に腹腔鏡画像の中央にくるように位置制御される。
【0052】
これによれば、使用者が最も視覚的に認識したい処置具の先端部分を選択的に常に撮影領域の中央で表示することができ、より円滑且つ効率的に腹腔鏡手術を進めることが可能である。
【0053】
なお、本実施例においては、「追従モード」を選択する際に、体内の特定の臓器や施術対象部分を選択することで、当該部分が常に撮影領域の中央に位置するようにドローン1の位置制御を行うことも可能である。
【0054】
また、本実施例においては、AI(Artifical Intelligence)
により、撮影対象に応じて撮影領域が自動的に変更されるようにしてもよい。例えば、撮影対象と撮影画像の範囲(または倍率)との関係のデータが蓄積され、撮影対象が認識された際に、蓄積データに基づいて、当該撮影対象に適した撮影領域が得られるように撮影倍率が自動的に調整される。より具体的な例としては、撮影対象が鉗子先端であることが認識された場合には、鉗子の先端付近を自動的に拡大(ズーム)撮影することが考えられる。また、例えば撮影対象が洗浄用チューブであることが認識された場合には、腹腔内の広い領域を自動的に俯瞰(オーバーヴュー)撮影することが考えられる。さらには、撮影対象が施術対象の患部と認識された場合には患部付近を自動的に拡大(ズーム)撮影することが考えられる。
【0055】
<実施例3>
次に、図8を用いて本発明の実施例3について説明する。本実施例においては、ドローン1におけるプロペラ1bの推進力を外部から補助する機構を有する例について説明する。
【0056】
図8に示すように、本実施例においては、先ず、電源部14はドローン本体1aとは別体とされており、手術室の所定の場所に設置されている。そして、電源コード14aによってドローン本体1aの各部分に電力を供給することが可能となっている。また、ドローン1は天井25から補助ワイヤ22で吊るされた状態となっている。この補助ワイヤ22は、例えば樹脂製または金属製のワイヤの途中に小さなヤング率を有するつるまきバネ22aを挿入したような構成としてもよい。
【0057】
ここで、ドローン1の移動範囲は、手術において腹腔鏡画像が必要な範囲であるので、
狭い範囲で充分である。また、ドローン1に移動が求められる高さの範囲も極狭い範囲である。よって、手術室の天井からドローン1の飛行高さまでの距離をある程度以上大きく設定することで、補助ワイヤ22による引張り力を、水平方向に比較的弱く、垂直方向上方について比較的強い略一定値とすることが可能である。
【0058】
これにより、ドローン1の駆動部11の垂直方向の推力を一定の力で補助することが可能である。その結果、プロペラ1b及び、駆動部11をより小型化、軽量化することができ、ドローン1自体を小型化、軽量化することができる。同時に、騒音も小さくすることができる。結果として、ドローン1を腹腔鏡4に取り付けた状態の装置を省スペース化することができ、手術中の使用者の行動自由度を拡大することが可能である。なお、本実施例において補助ワイヤ22は推力補助手段に相当する。
【0059】
また、本実施例においては、電源部14をドローン1とは別体に構成したために、ドローン1をさらに小型化、軽量化することが可能になっている。図9には、この場合の医療用ドローンシステム10の機能ブロック図を示す。なお、電源部14は必ずしもバッテリーとする必要はなく、外部の電気系統からコンセントを通じて電力を供給する電力供給部であってもよい。
【0060】
なお、本実施例においては、ドローン1を補助ワイヤ22で天井25から吊るす例について説明したが、ドローン1の推力の補助の方法はこれに限られない。手術室の床側から補助ワイヤで上方に押し上げる構成としてもよいし、電磁力等の非接触力により補助しても構わない。また、補助ワイヤ22と天井25との接続部がドローン1の動きとともに水平方向に移動可能に構成しても構わない。また、補助ワイヤ22は天井25とは異なるもの、例えば、無影灯(不図示)のブーム、支柱から吊るされてもよい。
【0061】
また、上記の実施例においては、医療用ドローンシステム10における構成のいずれをドローン1に搭載するかについて、図2及び図9に示した例を挙げたが、各ブロックの配分についてはこれに限られない。例えば、センサ13を床または天井などに設置することで、ドローン1をさらに小型、軽量化することが可能である。また、逆に、全ての構成をドローン1内に配置し、全体のシステムを1セット化して取り扱いをより容易にしても構わない。
【0062】
また、上記の実施例においては、本発明を腹腔鏡4に適用した医療用ドローンシステム10について説明したが、本発明の適用対象は腹腔鏡4に限られない。例えば手術用の無影灯の他、様々な光源、熱源、超音波源、カメラ、温度カメラ、マイク等にドローン1を結合して位置制御をしても構わない。本発明は、光や熱、電磁波、音波等を入射あるいは出射する機能を有する医療機器に適用することで、顕著な効果を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1・・・ドローン
1c・・・保持部
1d・・・ピボット部
1e・・・クラッチSW
2・・・PC
3・・・カメラ
4・・・腹腔鏡
5・・・カメラヘッド
6・・・トロッカー
11・・・駆動部
12・・・通信部
13・・・センサ
14・・・電源部
22・・・補助ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10